説明

光学用積層ポリエステルフィルム

【課題】 帯電防止性、ごみ等の付着防止、寸法安定性向上のためのアニール処理や加工工程中に受ける熱履歴によるカールが少なく、作業性に優れ、ハードコート層との接着性に優れ、かつ紫外線に対しても高い耐久性を持った有用な光学用フィルムを提供する。
【解決手段】 紫外線線吸収剤を含有するポリエステルフィルムの両面に塗布層を有し、少なくとも一方の塗布層中に帯電防止剤を含有し、フィルムヘーズが2.0%以下であり、150℃で30分処理後のフィルム縦方向および横方向の熱収縮率値がいずれも1.5〜0.5%の範囲であり、かつ縦方向と横方向との熱収縮率値の差が0.5%以下であることを特徴とする光学用積層ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用積層ポリエステルフィルムに関し、詳しくは、耐候性、帯電防止性を有し、ハードコート層を設けた後のアニール処理や加工時の熱履歴によるカールが少なく、ゴミ等の付着による汚れ防止、傷つき防止、作業性、生産性、ハードコート層との密着性、さらには屋外使用での耐久性に優れた光学用積層ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸ポリエステルフィルムは、透明性、寸法安定性、機械的特性、耐熱性、電気的特性、耐薬品性などに優れ、包装材料、電気絶縁材料、金属蒸着材料、製版材料、磁気記録材料、表示材料、転写材料、窓貼り材料などを始めとして多くの用途で使用されている。
【0003】
特に最近では、透明タッチパネル用、液晶表示装置に用いられるプリズムシート用のベースフィルムや、ブラウン管、LCD、PDP等の、いわゆるフラットディスプレイの前面パネルガラス表面貼り付け用に、帯電防止、反射防止、電磁波シールド等の機能層を設けた保護フィルムのベースフィルム用などの各種光学用途に広く用いられている。しかしながら、ポリエステルフィルムは傷が付きやすいため、外観や光学的特性が損なわれやすいという欠点があり、表面への傷入り防止のため、ハードコート層を設けて使われるのが一般的である。
【0004】
しかしながら、ハードコートフィルムは、帯電防止性が劣り、帯電による埃や塵等の付着が後加工での光学欠点の原因物となり、歩留まりを下げる原因となっている。また、最近需要の増えている携帯情報端末や携帯電話、携帯ゲーム機などの携帯できるディスプレイ表示機においては、軽量小型化と高機能化を両立するために導電回路の精密化が著しく、回路形成工程における寸法安定性についても厳しい要求となっている。
【0005】
従来、回路形成工程における寸法安定性の向上策としては、基盤となるポリエステルフィルムをアニール処理等により低熱収縮化する手法(特許文献1)が用いられてきた。しかしながら、近年、ハードコート層の表面硬度向上の要求に伴い、ハードコート層自体が加熱収縮率の大きいタイプの樹脂組成に変わってきており、基盤となるポリエステルフィルムを低熱収縮率化するだけでは、寸法安定性が維持されなくなってきた。
【0006】
そのため、最近では、基盤となるポリエステルフィルムを単独にアニール処理するだけではなく、ハードコート層塗工後、回路形成工程前か、あるいは形成工程中にアニール処理による寸法安定性の向上が図られる場合が多くなっている。この場合、熱処理条件によっては、活性エネルギー線硬化樹脂層と基盤となるポリエステルフィルムの熱収縮率の違いから生じるカールのため、作業性、生産性の低下が生じる場合があり、問題となっている。
【0007】
また、PDA、携帯電話、携帯ゲーム機などは屋外で使用する機会が増えており、直接太陽光線に曝される時間が増えている。太陽光線は熱可塑性樹脂フィルムを劣化させる紫外線を含んでおり、長時間太陽光線に曝されると該フィルムの劣化が起こり、視認性や積層体の密着性に問題を生じたり、フィルム基材自身が黄変したりする問題が生ずる。
【0008】
【特許文献1】特開平3−104623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、帯電防止性、ごみ等の付着防止、寸法安定性向上のためのアニール処理や加工工程中に受ける熱履歴によるカールが少なく、作業性に優れ、ハードコート層との接着性に優れ、かつ紫外線に対しても高い耐久性を持った有用な光学用フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記実情に鑑み鋭意検討を重ねた結果、特定構成のポリエステルフィルムによれば上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、紫外線線吸収剤を含有するポリエステルフィルムの両面に塗布層を有し、少なくとも一方の塗布層中に帯電防止剤を含有し、フィルムヘーズが2.0%以下であり、150℃で30分処理後のフィルム縦方向および横方向の熱収縮率値がいずれも1.5〜0.5%の範囲であり、かつ縦方向と横方向との熱収縮率値の差が0.5%以下であることを特徴とする光学用積層ポリエステルフィルムに存する。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の光学用積層ポリエステルフィルムは、3層以上の多層フィルムであることが好ましい。本発明にいう光学用積層ポリエステルフィルムとは、押出口金から溶融押し出される、いわゆる押出法により、押し出されたポリエステルフィルムであって、必要に応じ、縦方向および横方向の二軸方向に配向させたフィルムである。
【0013】
本発明において、ポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られる。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレ−ト(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレ−ト(PEN)等が例示される。
【0014】
また、本発明で用いるポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。共重合ポリエステルの場合は、30モル%以下の第三成分を含有した共重合体である。共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、および、オキシカルボン酸(例えば、P−オキシ安息香酸など)の一種または、二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種または二種以上が挙げられる。
【0015】
本発明のフィルムは、フィルムヘーズが2.0%以下、好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。本発明のフィルムは、その優れた透明性を有するために光学用途に広く用いられるが、フィルムヘーズが2.0%を超える場合は、光学用として不適切となってしまう。
【0016】
本発明のフィルムは、紫外線吸収剤を、フィルムを構成するポリエステル全体に対して通常0.20〜10.0重量%、好ましくは0.30〜1.8重量%の範囲で含有するものである。紫外線吸収剤が0.10重量%未満の場合は、紫外線によりポリエステルフィルムが劣化することがあり、10.0重量%を超える量の紫外線吸収剤を含有させた場合、表面に紫外線吸収剤がブリードアウトし、接着性低下等、表面機能性の悪化を招くおそれがある。
【0017】
本発明のフィルムは、波長380nmの光線透過率が通常5.0%以下、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.0%以下である。波長380nmの光線透過率が5.0%より大きくなると、ポリエステルフィルムを透過する紫外線によって、電子インキ層や各機能シート同士を貼り合せている粘着剤層が劣化するのを防ぐのに十分とは言えない場合がある。
【0018】
用いる紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、1,3,5−トリアジン系化合物、ベンゾオキサジノン系化合物等を挙げることができ、これら1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、色調を考慮した場合、黄色味が付きにくいベンゾオキサジノン系化合物が好適に用いられる。紫外線吸収剤として用いるベンゾオキサジン系化合物の例としては、2,2−(1,4−フェニレン)ビス[4H−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン]が挙げられる。
【0019】
本発明のフィルムの全フィルム厚みは、通常50〜300μm以上、好ましくは75〜250μmである。全フィルム厚みが50μm未満の場合、フィルムの腰が弱いため、枚葉状に打ち抜き後、1枚毎に実施される最終検査やディスプレイへの貼り付け時の作業性が悪くなる傾向があり、300μmより厚いとその剛性のため作業性が悪化することがある。
【0020】
本発明のフィルムは、ハードコート層の耐久密着性の向上のためにも、フィルム表面へのオリゴマー析出量が15.0mg/m以下であることが好ましい。
【0021】
熱処理によるフィルム表面へのオリゴマー析出量を上記の範囲とするため、オリゴマーの含有量の少ないポリエステルを用いる方法が挙げられる。また、共押出しによる積層フィルムの場合は、最外層にオリゴマー含有量の少ないポリエステルを用いることで、熱処理後のフィルム表面へのオリゴマー析出量を上記の範囲に抑えることができる。具体的にはポリエステルフィルムに含まれるオリゴマー量を5000ppm以下、さらには4000ppm、特に3000ppm以下とすることにより、加熱された際にフィルム表面に析出するオリゴマーを防ぐことができる。
【0022】
ポリマー中のオリゴマーは、製膜での溶融工程などにより増加することが知られており、その増加量は、ポリマー中の含水率、溶融時の温度や滞留時間などに強く影響を受け、約100〜5000ppm程度増加すると考えられる。
【0023】
上記したフィルムに含まれるオリゴマー量とするためには、溶融工程での増加を考慮し、ポリエステル原料中のオリゴマー量としては、4000ppm以下、さらには3000ppm以下、特に2500ppm以下が好ましい。
【0024】
ポリエステル中のオリゴマー量を低減する方法としては、従来公知の固相重合を用いることができる。
【0025】
積層構造のフィルムの場合、最外層厚みは、片側のみの厚みで、通常3μm以上であり、総厚の1/4以下であることが好ましい。かかる厚みが3μm未満では、加工中の熱履歴等により、内層に含有しているオリゴマー(環状三量体)がフィルム表面に析出し、生産ラインの汚染やフィルムヘーズが悪化する場合があり、総厚の1/4の厚さより厚いとフィルムの巻き取り性向上のため最外層フィルム中に配合している滑剤粒子起因のヘーズ値(特に内部ヘーズ値)が高くなり、フィルムの透明性が悪化する傾向がある。
【0026】
本発明のフィルムのポリエステル層中には、易滑性の付与および各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を配合することが好ましい。配合する粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の粒子が挙げられる。また、特公昭59−5216号公報、特開昭59−217755号公報等に記載されている耐熱性有機粒子を用いてもよい。この他の耐熱性有機粒子の例として、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等が挙げられる。さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0027】
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0028】
ポリエステルフィルム中に配合する粒子の平均粒径としては、特に限定されるものではないが、通常0.02μm〜3μm、好ましくは0.02μm〜2.5μm、さらに好ましくは0.02μm〜2μmの範囲である。平均粒径が0.02μm未満の粒子を用いた場合には、充分な易滑性の付与ができないため、フィルム製造工程における巻き特性が劣る傾向がある。また、平均粒径が3μmを超える場合には、フィルム表面の粗面化の度合いが大きくなりすぎてフィルムがヘージーとなる場合がある。
【0029】
さらにポリエステル層中の粒子含有量は、通常0.001〜5重量%、好ましくは0.005〜3重量%の範囲である。粒子含有量が0.001重量%未満の場合には、フィルムの易滑性が不十分な場合があり、一方、5重量%を超えて添加する場合にはフィルムの透明性が不十分な場合がある。
【0030】
本発明において、ポリエステルに粒子を配合する方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用し得る。例えば、ポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後重縮合反応開始前の段階でエチレングリコール等に分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めてもよい。また、ベント付き混練押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行われる。
【0031】
以下、本発明のフィルムの製造方法に関して具体的に説明するが、本発明の要旨を満足する限り、本発明は以下の例示に特に限定されるものではない。
【0032】
公知の手法により乾燥したポリエステルチップを溶融押出装置に供給し、それぞれのポリマーの融点以上である温度に加熱し溶融する。次いで、溶融したポリマーをダイから押出し、回転冷却ドラム上でガラス転移温度以下の温度になるように急冷固化し、実質的に非晶状態の未配向シートを得る。この場合、シートの平面性を向上させるため、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、本発明においては静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。
【0033】
本発明においては、このようにして得られたシートを2軸方向に延伸してフィルム化する。延伸条件について具体的に述べると、前記未延伸シートを好ましくは縦方向に70〜145℃で2〜6倍に延伸し、縦1軸延伸フィルムとした後、横方向に90〜160℃で2〜6倍延伸を行い、150〜240℃で1〜600秒間熱処理を行うことが好ましい。さらにこの際、熱処理の最高温度ゾーンおよび/または熱処理出口のクーリングゾーンにおいて、縦方向および/または横方向に0.1〜20%弛緩する方法が好ましい。また、必要に応じて再縦延伸、再横延伸を付加することも可能である。
【0034】
本発明のポリエステルフィルムは、表面硬度の向上のため、ハードコート層を設けて用いられる。この場合、ポリエステルフィルムは、一般的に不活性であることから接着性に乏しく、かかるハードコート層との接着性を向上させるために、接着性向上のための塗布層をあらかじめ設けることが必要である。
【0035】
かかる塗布層を形成する方法としては、テンター入口前(配向結晶化完了前)にコートしてテンター内で乾燥する、いわゆるインラインコート法が好ましい。
ハードコート層との接着性向上のための塗布層としては、接着性を向上させるものであれば特に限定されるものではないが、特開2003−201357号公報に記載されているようなバインダー樹脂と架橋剤との組み合わせが好ましい。
【0036】
本発明において、滑り性、固着性などをさらに改良するため、塗布層中に無機系粒子や有機系粒子を含有させることが好ましい。塗布剤中における粒子の配合量は、通常0.5〜10重量%、好ましくは1〜5重量%である。かかる配合量が0.5重量%未満では、耐ブロッキング性が不十分となる場合があり、10重量%を超えると、フィルムの透明性を阻害し、画像の鮮明度が落ちる傾向がある。
【0037】
無機粒子としては、二酸化ケイ素、アルミナ、酸化ジルコニウム、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化バリウム、カーボンブラック、硫化モリブデン、酸化アンチモン等が挙げられる。これらの中では、二酸化ケイ素が安価でかつ粒子径が多種あるので利用しやすい。
【0038】
有機粒子としては、炭素−炭素二重結合を一分子中に2個以上含有する化合物(例えばジビニルベンゼン)により架橋構造を達成したポリスチレンまたはポリアクリレートポリメタクリレートが挙げられる。
【0039】
上記の無機粒子および有機粒子は表面処理されていてもよい。表面処理剤としては、例えば、界面活性剤、分散剤としての高分子、シランカップリング剤、チタンカップリング剤などが挙げられる。塗布層中の粒子の含有量は、透明性を阻害しない適切な添加量として10重量%以下が好ましく、さらには5重量%以下が好ましい。
【0040】
また、塗布層は、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料、顔料などを含有していてもよい。
【0041】
塗布剤は、水を主たる媒体とする限りにおいて、水への分散を改良する目的または造膜性能を改良する目的で少量の有機溶剤を含有していてもよい。有機溶剤は、水に溶解する範囲で使用することが必要である。有機溶剤としては、n−ブチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール等の脂肪族または脂環族アルコール類、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類、n−ブチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール誘導体、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸アミル等のエステル類、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、N−メチルピロリドン等のアミド類が挙げられる。これらの有機溶剤は、必要に応じて二種以上を併用してもよい。
【0042】
また、必要に応じ、フィルムの製造後にオフラインコートで各種のコートを行ってもよい。このようなコートは片面、両面のいずれでもよい。コーティングの材料としては、オフラインコーティングの場合は水系および/または溶媒系のいずれでもよいが、インラインコーティングの場合は、水系または水分散系が好ましい。
【0043】
また、本発明のポリエステルフィルムを光学用として用いる場合、表面硬度向上のために設けたハードコート層に他の機能性を付与する目的で、帯電防止剤、着色剤、導電材料等を加えてもよく、さらにその上に、外光の映り込みや静電気による電撃、ゴミ付着防止、さらには電磁波シールドを目的とした機能性多層薄膜を形成してもよい。
【0044】
塗布層は、ポリエステルフィルムの両面に形成するが、一方の塗布層には、帯電防止剤を含有する塗布層を形成する。通常、帯電防止剤を含有する塗布層上にハードコート層を設ける。
【0045】
帯電防止剤を含有する塗布層を構成する成分としては、4級アンモニウム塩基を有する化合物やポリビニルアルコールが好ましく用いられる。4級アンモニウム塩基を有する化合物とは、分子中の主鎖や側鎖に、4級アンモニウム塩基を含む構成要素を持つものを指す。そのような構成要素としては例えば、ピロリジウム環、アルキルアミンの4級化物、さらにこれらをアクリル酸やメタクリル酸と共重合したもの、N−アルキルアミノアクリルアミドの4級化物、ビニルベンジルトリメチルアンモニウム塩、2−ヒドロキシ3−メタクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウム塩等を挙げることができる。さらに、これらを組み合わせて、あるいは他の樹脂と共重合させても構わない。また、これらの4級アンモニウム塩の対イオンとなるアニオンとしては例えば、ハロゲン、アルキルサルフェート、アルキルスルホネート、硝酸等のイオンが挙げられる。
【0046】
また、本発明においては、4級アンモニウム塩基を有する化合物は高分子化合物であることが望ましい。分子量が低すぎる場合は、塗布層中から容易に除去されて経時的に性能の低下を引き起こしたり、塗布層がべたついたりするおそれがある。また、分子量が低いと耐熱安定性に劣る場合がある。このような不具合を生じないためには、4級アンモニウム塩基を有する化合物の数平均分子量が、通常は1000以上、さらには2000以上、特に5000以上であることが望ましい。また一方で、かかる化合物は分子量が高すぎる場合は、塗布液の粘度が高くなりすぎる等の不具合を生じる場合がある。そのような不具合を生じないためには、数平均分子量が500000以下であることが好ましい。
【0047】
本発明で用いるポリビニルアルコールは、通常の重合反応によって合成することができ、水溶性であることが好ましい。
【0048】
ポリビニルアルコールの重合度は、特に限定されるものではないが、通常100以上、好ましくは300〜40000のものが用いられる。重合度が100以下の場合、塗布層の耐水性が低下する傾向がある。ポリビニルアルコールのけん化度は、特に限定されるものではないが、通常70モル%以上、好ましくは80モル%以上、99.9モル%以下であるポリ酢酸ビニルけん化物が実用上用いられる。
【0049】
さらに帯電防止剤を含有する塗布層中には、必要に応じて、上記以外の水溶性または水分散性のバインダー樹脂の1種もしくは2種以上を併用することができる。かかるバインダー樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂、ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アミド樹脂等が挙げられる。これらは、それぞれの骨格構造が共重合等により実質的に複合構造を有していてもよい。複合構造を持つバインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂グラフトポリエステル、アクリル樹脂グラフトポリウレタン、ビニル樹脂グラフトポリエステル、ビニル樹脂グラフトポリウレタン等が挙げられる。
【0050】
さらに必要に応じて、架橋反応性化合物を含んでいてもよい。架橋反応性化合物は、主に塗布層構成成分中に含まれる官能基と架橋反応することで、塗布層の凝集性、表面硬度、耐擦傷性、耐溶剤性、耐水性を改良することができ好ましい。
【0051】
帯電防止剤を含有する塗布層は、界面活性剤、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、有機粒子、無機粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料、顔料等の添加剤を含有していてもよい。これらの添加剤は単独で用いてもよいが、必要に応じて二種以上を併用してもよい。
【0052】
塗布層構成成分中に占める、4級アンモニウム塩基を有する化合物の比率は、通常10〜99重量%、好ましくは20重量%〜95重量%である。比率がこれらの範囲より高すぎたり低すぎたりした場合は、所望の帯電防止性能、オリゴマー析出防止性能が得られない場合がある。
【0053】
本発明において用いる塗布液は、取扱い上、作業環境上、水溶液または水分散液であることが望ましいが、水を主たる媒体としており、本発明の要旨を越えない範囲であれば、有機溶剤を含有していてもよい。
【0054】
塗布液の固形分濃度には特に制限はないが、通常0.3〜65重量%、好ましくは0.5〜30重量%、さらに好ましくは1〜20重量%である。濃度がこれらの範囲より高すぎる場合も低すぎる場合も、機能を十分に発現するために必要な厚さの塗布層を設けることが困難となることがある。
【0055】
塗布層の厚さは乾燥厚さで、通常0.003〜1.5μm、好ましくは0.01〜0.5μm、さらに好ましくは0.01〜0.3μmである。塗布層の厚さが0.003μm未満の場合は十分な性能が得られない恐れがあり、1.5μmを超えるとフィルム同士のブロッキングが起こりやすくなる。
【0056】
塗布剤の塗布方法としては、例えば、原崎勇次著、槙書店、1979年発行、「コーティング方式」に示されるような、リバースロールコーター、グラビアコーター、ロッドコーター、エアドクターコーターまたはこれら以外の塗布装置を使用することができる。
【0057】
また、本発明のポリエステルフィルムには、本発明の効果を損なわない範囲であれば、他の熱可塑性樹脂、例えばポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等を混合することができる。また、紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、蛍光増白剤、潤滑剤、遮光剤、マット化剤、および染料、顔料などの着色剤等を配合してもよい。また、必要に応じ、フィルムの滑り性や耐摩耗性を改良する目的などのために、ポリエステルに対し、不活性な無機または有機の微粒子などを配合することもできる。
【0058】
本発明の光学用ポリエステルフィルムにおいて、塗布層を有する二軸延伸ポリエステルフィルムは、150℃で30分の縦方向、横方向の熱収縮率値が共に1.5〜0.5%で、かつ縦、横方向の熱収縮率値の差が0.5%以下でなければならない。熱収縮率が1.5%より大きい場合は、ハードコート層を設けた後のアニール処理で、ポリエステルフィルム面に10mmより大きなカールを生じ、熱収縮率値が0.5%未満の場合は、ハードコート層面へ10mmより大きなカールが生じる。また、縦、横方向の熱収縮率差が0.5%以上になると上記の熱収縮率値の範囲内においても、10mmより大きなカールが生じる。縦方向、横方向の熱収縮率は、好ましくは1.3〜0.9%であり、縦、横方向の熱収縮率値の差は、好ましくは0.3%以内である。
【0059】
本発明の光学用ポリエステルフィルムは、二軸延伸ポリエステルフィルムの塗布層上にハードコート層を形成して用いられる。
【0060】
本発明において、ハードコート層の硬化成分としては、不飽和ポリエステル樹脂系、アクリル系、付加重合系、チオール・アクリルのハイブリッド系、カチオン重合系、カチオン重合とラジカル重合のハイブリッド系などを使用することができる。これらの中では、硬化性、耐擦傷性、表面硬度、可撓性および耐久性などの観点でアクリル系の硬化成分が好ましい。
【0061】
上記のアクリル系硬化成分は、ハードコート層重合成分としてのアクリルオリゴマーと反応性希釈剤とを含有する。そして、必要に応じ、光重合開始剤、光増感剤、改質剤を含有する。
【0062】
アクリルオリゴマーとしては、代表的には、アクリル系樹脂骨格に反応性のアクリロイル基またはメタアクリロイル基が結合されたオリゴマーが挙げられる。その他のアクリルオリゴマーとしては、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、ポリブタジエン(メタ)アクリレート等が挙げられる。さらに、メラミン、イソシアヌール酸、環状ホスファゼン等の剛直な骨格にアクリロイル基またはメタアクリロイル基が結合したオリゴマーが挙げられる。
【0063】
反応性希釈剤は、塗布剤の媒体として塗布工程での溶剤の機能を担うとともに、それ自体が多官能性または一官能性のアクリルオルゴマーと反応する基を有するため、塗膜の共重合成分となる。反応性希釈剤の具体例としては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレングリコール(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0064】
光重合開始剤としては、例えば、2,2−エトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシー2ーフェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ジベンゾイル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、p−クロロベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、ミヒラーケトン、アセトフェノン、2−クロロチオキサントン、アントラキノン、フェニルジスルフイド、2−メチル−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン等が挙げられる。
【0065】
光増感剤としては、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、2−ジメチルアミノエタノール等の3級アミン系、トリフェニルホスフィン等のアルキルホスフィン系、β−チオジグリコール等のチオエーテル系などが挙げられる。
【0066】
改質剤としては、塗布性改良剤、消泡剤、増粘剤、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、有機高分子、染料、顔料、安定剤などが挙げられる。これらは、活性エネルギー線による反応を阻害しない範囲で使用され、ハードコート層の特性を用途に応じて改良することができる。ハードコート層の組成物には、塗工時の作業性向上、塗工厚さのコントロールのため、有機溶剤を配合することができる。
【0067】
ハードコート層の形成は、硬化用樹脂組成物を前記の塗布層の表面に塗布した後に活性エネルギー線を照射して架橋硬化させることにより行う。活性エネルギー線としては、紫外線、可視光線、電子線、X線、α線、β線、γ線を使用することができる。活性エネルギー線の照射は、通常、塗布層側から行うが、フィルムとの密着性を高めるため、フィルム面側から行ってもよく、さらには、活性エネルギー線を反射し得る反射板をフィルム面側に設けてもよい。
【0068】
ハードコート層の厚さは、通常0.5〜15μm、好ましくは1〜10μmの範囲である。硬化樹脂層の厚さが0.5μm未満の場合は、表面硬度が不十分となることがあり、15μmを超える場合は、硬化樹脂層の硬化収縮が大きくなり、フィルムが硬化樹脂層側にカールすることがある。本発明において硬化樹脂層側の表面硬度は、通常H以上、好ましくは2H以上である。H未満では耐擦傷性が不十分である。
【発明の効果】
【0069】
発明のポリエステルフィルムによれば、耐候性、帯電防止性に優れ、寸法安定性向上のためのアニール処理や加工工程中に受ける熱履歴によるカールが少なく作業性に優れた有用なフィルムを提供することができ、その工業的価値は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0070】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中「部」とあるのは「重量部」を示す。また、本発明で用いた測定法は次のとおりである。
【0071】
(1)ポリエステルの極限粘度の測定
ポリエステルに非相溶な他のポリマー成分および顔料を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0072】
(2)平均粒径(d50)
(株)島津製作所社製遠心沈降式粒度分布測定装置SA−CP3型を用いてストークスの抵抗則にもとづく沈降法によって粒子の大きさを測定した。
【0073】
(3)ポリエステル中のオリゴマー(環状三量体)含有量
所定量のポリエステル原料、またはポリエステルフィルムをo−クロロフェノールに溶解した後、テトラヒドロフランで再析出して濾過し、線状ポリエチレンテレフタレートを除いた後、次いで得られた濾液を液体クロマトグラフィー(島津LC−7A)に供給してポリエステル中に含まれるオリゴマー(環状三量体)量を求め、この値を測定に用いたポリエステル量で割って、ポリエステル中に含まれるオリゴマー量(環状三量体)とする。液体クロマトグラフィーで求めるオリゴマー(環状三量体)量は、標準試料ピーク面積と測定試料ピーク面積のピーク面積比より求めた(絶対検量線法)。標準試料の作成は、あらかじめ分取したオリゴマー(環状三量体)を正確に秤量し、正確に秤量したDMF(ジメチルホルムアミド)に溶解して作成した。液体クロマトグラフの条件は下記のとおりとした。
【0074】
移動相A:アセトニトリル
移動相B:2%酢酸水溶液
カラム:三菱化学(株)製 MCI GEL ODS 1HU
カラム温度:40℃
流速:1ml/分
検出波長:254nm
【0075】
(4)積層ポリエステル層の厚み
フィルム小片をエポキシ樹脂にて固定成形した後、ミクロトームで切断し、フィルムの断面を透過型電子顕微鏡写真にて観察した。その断面のうちフィルム表面とほぼ平行に2本、明暗によって界面が観察される。その2本の界面とフィルム表面までの距離を10枚の写真から測定し、平均値を積層厚さとした。
【0076】
(5)ハードコートの接着性
ハードコート層形成直後、当該ハードコート層に1インチ幅に碁盤目が100個になるようクロスカットを入れ、直ちに、同一箇所について3回セロテープ(登録商標)急速剥離テストを実施し、剥離面積により評価した。判定基準は以下のとおりである。
◎:碁盤目剥離個数=0
○:1≦碁盤目剥離個数≦10
△:11≦碁盤目剥離個数≦20
×:21<碁盤目剥離個数
【0077】
(6)熱収縮率
熱風循環炉(田葉井製作所製)を使用し、150℃の雰囲気中、フィルムを無張力状態で30分間熱処理し、その前後のサンプルの長さを測定し、下記式にて計算した。
熱収縮率(%)=(L0−L1)×100/L0
(上記式中、L0は熱処理前のサンプル長さ(mm)、L1は熱処理後のサンプル長さ(mm)を意味する)
【0078】
(7)フィルムヘーズ
JIS K 7136に準じ、日本電色工業社製積分球式濁度計NDHにより濁度を測定した。
【0079】
(8)光線透過率
島津製作所社製 分光光度計UV3100により、スキャン速度を低速、サンプリングピッチを2nm、波長300〜700nm領域で連続的に光線透過率を測定し、380nm波長での光線透過率を検出した。
【0080】
(9)加熱カール量
ハードコート層塗工品を10cm角の大きさに切り出し、150℃の熱風循環式オーブンで30分間放置し熱処理を行い、30分間室温にて放置冷却後ガラス板上に置き、ガラス面からの4隅の浮き上がり量を測定し最大値をカール値とした。活性エネルギー線硬化樹脂層面側へ凹状のカールをプラス表示、ポリエステルフィルム面側へ凹状のカールをマイナス表示し、カール値の絶対値の最大値で、下記ランク付けを行った。
◎:カール量が5mm未満
○:カール量が5〜10mm
×:カール量が10mmより大きい
【0081】
(10)表面固有抵抗値
株式会社ダイアインスツルメンツ製「Hiresta−UP MCP−HT450」を使用し、23℃/50%RHの雰囲気下で試料を設置し、500Vの電圧を印加し、1分間充電後(電圧印加時間1分)、塗布層の表面抵抗(Ω)を測定した。ここで使用した電極の型は、主電極の外径16mm、対電極の内径40mmの同心円電極である。
【0082】
(11)埃付着性評価(アッシュテスト)
23℃,50%RHの測定雰囲気でポリエステルフィルムを十分調湿後、塗布層を綿布で10往復こする。これを、細かく砕いた煙草の灰の上に静かに近づけ、灰の付着状況を以下の基準で評価した。
○:フィルムを灰に接触させても付着しない
△:フィルムを灰に接触させると少し付着する
×:フィルムを灰に近づけただけで多量に付着する
【0083】
(12)耐候性
スガ試験機製紫外線ロングライフフェードメーター(FAL−3型)を使用し、63±3℃で1000時間紫外線を照射した。試験後のフィルムの外観を観察し、以下の基準で評価した。
○:劣化なし
△:やや黄変する
×:黄変劣化が目立つ
【0084】
(13)屋外使用の光学用フィルムへの適正
ヘーズ、ハードコート層塗工品の熱処理後のカールやハードコートの接着性、埃付着のし易さ、耐候性等の特性より、タッチパネルなどの光学用途への適正を、次に示す基準で判定した。
○:ヘーズ値が低く、接着性良好で、処理後のカールも少なく光学用途に適しており、耐候性も優れ、帯電による埃付着もすくなく生産性も高い
×:ヘーズ値、接着性、熱処理後のカールや帯電による埃付着等の問題があり、耐候性も劣るため光学用途に適していない
【0085】
以下の実施例および比較例で用いたポリエステルの製造方法は次のとおりである。
〈ポリエステルの製造〉
[エステル(A)の製造方法]
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩0.09重量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.04部を添加した後、三酸化アンチモン0.04部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.63に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させた。得られたポリエステル(A)の極限粘度は0.63、オリゴマー(環状三量体)の含有量は0.83重量%であった。
【0086】
[ポリエステル(B)の製造方法]
ポリエステル(A)を、あらかじめ160℃で予備結晶化させた後、温度220℃の窒素雰囲気下で固相重合し、極限粘度0.75、オリゴマー(環状三量体)含有量0.24重量%のポリエステル(B)を得た。
【0087】
[ポリエステル(C)の製造方法]
ポリエステル(A)の製造方法において、エチルアシッドフォスフェート0.04部を添加後、平均粒子径1.6μmのエチレングリコールに分散させたシリカ粒子を0.2部、三酸化アンチモン0.04部を加えて、極限粘度0.65に相当する時点で重縮合反応を停止した以外は、ポリエステル(A)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(C)を得た。得られたポリエステル(C)は、極限粘度0.65、オリゴマー(環状三量体)含有量0.82重量%であった。
【0088】
<ポリエステル(D)の製造方法>
ポリエステル(A)をベント付き二軸押出機に供して、紫外線吸収剤として2,2−(1,4−フェニレン)ビス[4H−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン](CYTEC社製 CYASORB UV−3638 分子量 369 ベンゾオキサジン系)を10重量%濃度となるように供給して溶融混練りしてチップ化を行い、紫外線吸収剤マスターバッチポリエステル(D)を作成した。得られたポリエステル(D)の極限粘度は、0.59であった。
【0089】
(塗布剤の調整)
・水性塗布液a
(テレフタル酸/イソフタル酸/5−ソジウムスルホイソフタル酸/エチレングリコール/1,4−ブタンジオール/ジエチレングリコール=28/20/2/35/10/5モル比のポリエステル分散体)/(メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリロニトリル/N−メチロールメタアクリルアミド=45/45/5/5モル比の乳化重合体[乳化剤=アニオン系界面活性剤]/ヘキサメトキシメチルメラミン/平均粒径0.08μmのシリカゾルを固形分換算の重量組比で、47/20/30/3の割合で含有する水性塗布液
【0090】
・水性塗布液b
(主鎖にピロリジウム環を有するポリマーである第一工業製薬社製シャロールDC−303P)/(ケン化度=88モル%、重合度=500のポリビニルアルコール)/(ヘキサメトキシメラミン)/(平均粒径0.05μmのシリカゾル)を固形分換算の重量組成比で40/20/35/5の割合で含有する水性塗布液
【0091】
実施例1:
上記ポリエステル(B)、(C)をそれぞれ90%、10%の割合で混合した混合原料をA層の原料とし、ポリエステル(A)、(D)をそれぞれ94%、6%の割合で混合した原料をB層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、A層を最外層(表層)、B層を中間層として、40℃に冷却したキャスティングドラム上に、2種3層(ABA)で、厚み構成比がA:B:A=5:90:5になるように共押出し冷却固化させて無配向シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度81℃で縦方向に3.1倍延伸した後、この縦延伸フィルムの片面に、横延伸乾燥後の塗布量が0.1g/mとなるよう液濃度を調整した水性塗布剤aを、その裏面に横延伸乾燥後の塗布量が0.05g/mとなるよう液濃度を調整した水性塗布液bを塗布し、テンターに導き、横方向に120℃で3.6倍延伸し、230℃で熱処理を行った後、横方向に弛緩0%で、その後のレール幅は一定とし、巻取り40m/分の生産速度でフィルムをロール状に巻き上げ、両面に塗布層を有するヘーズ値0.9%、380nmの光線透過率が0.3%、厚さ125μm、極限粘度は0.62の積層ポリエステルフィルムを得た。次いで、得られたフィルムの塗布層上にハードコート樹脂を硬化後の厚さが3μmになるように塗布し、120W/cmのエネルギーの高圧水銀灯を使用し、照射距離150mmにて約15秒間照射し、塗工品の状態でカールが生じない条件にて本発明のポリエステルフィルムを得た。ハードコート層樹脂としては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート30部、4官能ウレタンアクリレート40部、ビスフェノールAタイプエポキシアクリレート27部および1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン3部より成る組成物を使用した。評価結果を下記表1および2に示す。
【0092】
実施例2、3、比較例1〜6、8:
実施例1において、150℃、30分処理後の加熱収縮率値が所定の値になるような熱固定温度、熱固定後の横方向の弛緩率、およびマスターロールへの巻取りまでのレール幅の変更をした以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルフィルムを得た。ただし、比較例1は、中間層(B層)の原料配合をポリエステル(A)/ポリエステル(C)/ポリエステル(D)=91/3/6、比較例8は、ポリエステル(A)を100%として所定のサンプルを得た。
【0093】
比較例7:
実施例1において、塗布液aを片面に塗工したのみのサンプルを得た。
以上、得られた結果をまとめて下記表1および2に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のフィルムは、たとえば、光学用のフィルムとして好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線線吸収剤を含有するポリエステルフィルムの両面に塗布層を有し、少なくとも一方の塗布層中に帯電防止剤を含有し、フィルムヘーズが2.0%以下であり、150℃で30分処理後のフィルム縦方向および横方向の熱収縮率値がいずれも1.5〜0.5%の範囲であり、かつ縦方向と横方向との熱収縮率値の差が0.5%以下であることを特徴とする光学用積層ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2008−246780(P2008−246780A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89508(P2007−89508)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】