光学素子及びそれを用いた光ピックアップ装置
【課題】 光を反射及び/又は透過させる光学部材において、円偏光に変換された光が反射又は透過した後も円偏光を保持するようにする。
【解決手段】 反射ミラー4の基体40に、入射光のP偏光成分とS偏光成分との位相差と、反射光のP偏光成分とS偏光成分との位相差との差を絶対値で180°±10°に調整する反射膜41を形成する。
【解決手段】 反射ミラー4の基体40に、入射光のP偏光成分とS偏光成分との位相差と、反射光のP偏光成分とS偏光成分との位相差との差を絶対値で180°±10°に調整する反射膜41を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学素子及びそれを用いた光ピックアップ装置に関し、より詳細には位相差調整機能を有する光学素子及びそれを用いた光ピックアップ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CD(コンパクト・ディスク)やDVD(デジタル・バーサタイル・ディスク)などの光記録媒体に情報を書込・読出するために光ピックアップ装置が広く用いられている。この光ピックアップ装置では、光源から出射したP偏光又はS偏光の光を1/4波長板で円偏光とした後、反射ミラーなどによって進行方向を変えて、対物レンズで集光させて光記録媒体に当射させ、反射した円偏光を前記1/4波長板でS偏光又はP偏光とした後、光検出器で光信号を検出する。
【0003】
2つの光源を用いる場合には、それぞれの光源からの光路をダイクロイックプリズムで合成した後、光源からの直線偏光を1/4波長板で円偏光に変換することが、特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2001−297472号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の光ピックアップ装置では、円偏光に変換された光は偏向プリズムDPで反射されているが、反射時にP偏光成分とS偏光成分との位相差がズレて、反射光が楕円偏光となることがある。楕円偏光は1/4波長板を透過しても直線偏光にはならないため、検出器への信号強度が低下したり、光源への戻り光が発生し、レーザ発振が不安定になるという問題が生じる。また、反射のみならず、光学素子を透過する場合にも、一般的にP偏光成分とS偏光成分との間に位相差が発生する。このため、円偏光に変換された光を反射あるいは透過させる光学素子には、反射率や透過率といった分光特性を満足していることのみならず、位相差がズレないようにすることも要求される。
【0005】
ところで、光源の短波長化が近年進行し、現在DVD用に主として用いられている波長600nm台のレーザビームよりも波長の短い、波長400nm台のいわゆるブルーレーザが実用化されつつある。このため、波長700nm台(CD用)、波長600nm台(DVD用)、波長400nm台(例えばBD(Blu-ray Disk)用あるいはHD DVD用)の3つの光源を搭載した光ピックアップ装置の開発が現在進められている。
【0006】
しかし、光学素子の基体に形成する光学薄膜の設計において、このような3つの波長帯域の光に対応して、反射率や透過率といった分光特性を満足し、同時に反射や透過によって位相差がズレないものを得ようとすると、拘束条件が多すぎて良好な薄膜構成を設計することは困難であった。このため、分光特性および位相差特性の一方を優先し他方を犠牲にして薄膜設計が行われていた。
【0007】
本発明はこのような従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは光を反射及び/又は透過させる光学部材において、分光特性および位相差特性の両方を満足させることにある。
【0008】
また本発明の目的は、光記録媒体で反射された光が、強度が低下することなく検出器へ入射し、また光源への戻り光が発生することのない光ピックアップ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記目的を達成すべく鋭意検討した結果、円偏光が反射又は透過した後も円偏光を維持するようにするには、反射又は透過によるP偏光成分とS偏光成分との位相差のズレをゼロにするのではなく、積極的に180°にずらせばよい、すなわち円偏光の回転方向を逆にすればよい、という一見簡単でありながらこれまで何人も試みられていなかった着想に基づき本発明をなすに至った。すなわち、本発明に係る、光を反射する光学素子は、反射波長帯域の光における入射の際のP偏光成分とS偏光成分との位相差と、反射後のP偏光成分とS偏光成分との位相差との差を絶対値で180°±10°に調整する薄膜が、基体に形成されていることを特徴とする。なお、±10°は実使用上問題の生じない範囲である。
【0010】
また本発明に係る、光を反射および透過する光学素子は、反射波長帯域の光の入射の際のP偏光成分とS偏光成分との位相差と、反射後のP偏光成分とS偏光成分との位相差との差を絶対値で180°±10°に調整する薄膜が形成されていることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記薄膜が、透過波長帯域の光の入射の際のP偏光成分とS偏光成分との位相差と、透過後のP偏光成分とS偏光成分との位相差との差を絶対値で0°±10°に調整するものであってもよい。
【0012】
反射波長帯域の光としては、407±10nm、660±15nm、787±15nmの少なくとも1つであるのがよい。
【0013】
また光を反射および透過する光学素子の場合には、反射波長帯域の光が407±10nmで、前記透過波長帯域の光が660±15nm及び787±15nmの少なくとも一方であってもよく、あるいは前記反射波長帯域の光が787±15nmで、前記透過波長帯域の光が407±10nm及び660±15nmの少なくとも一方であってもよい。
【0014】
光学素子に入射する反射波長帯域の光としては円偏光が好適である。
【0015】
また本発明の光ピックアップ装置は、光源からの光を所定方向に反射する反射ミラーを備え、この反射ミラーとして前記記載の光学素子を用いることを特徴とする。
【0016】
ここで前記光源と反射ミラーとの間に1/4波長板を配置し、この1/4波長板によって直線偏光が円偏光に変換するのが好ましい。
【0017】
また本発明の光ピックアップ装置は、波長の異なる光を出射する2以上の光源と、光を合成又は分離する波長選択フィルタと、光を記録媒体上に集光させる対物レンズと、前記記録媒体からの反射光を検出する検出手段とを備え、前記波長選択フィルタとして、前記記載の光学素子を用いることを特徴とする。
【0018】
ここで前記光源と波長選択フィルタとの間に1/4波長板を配置し、この1/4波長板によって直線偏光が円偏光に変換するのが好ましい。
【0019】
前記光ピックアップ装置に用いる光源の光の波長は、407±10nm、660±15nm、787±15nmの少なくとも1つであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る、光を少なくとも反射する光学素子では、反射波長帯域の光の入射の際のP偏光成分とS偏光成分との位相差と、反射後のP偏光成分とS偏光成分との位相差との差を絶対値で180°±10°に調整する薄膜を基体に形成したので、円偏光に変換された光を効果的に反射させると同時に、反射後も円偏光を維持させることができる。
【0021】
ここで光学素子が光を反射すると共に透過するものである場合、前記薄膜によって、透過波長帯域の光が入射する際のP偏光成分とS偏光成分との位相差と、透過後のP偏光成分とS偏光成分との位相差との差を絶対値で0°±10°に調整することによって、透過光についても位相差を発生させないようにできる。
【0022】
また本発明に係る光ピックアップ装置では、光源からの光を所定方向に反射する反射ミラーを備え、この反射ミラーとして前記記載の光学素子を用いるので、光記録媒体で反射された光が、強度低下することなく検出器へ入射する。また光源への戻り光が発生しないのでレーザ発振が安定して行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
まず、本発明に係る、光を反射する光学素子及びこれを用いた光ピックアップ装置について説明する。図1は、本発明の光学素子である反射ミラーとそれを用いた光ピックアップ装置の概略構成図である。
【0024】
図1の光ピックアップ装置は、波長407nmのBD用光源11と波長660nmのDVD用光源12、偏光ビームスプリッタ2と、1/4波長板3と、反射ミラー4と、ピックアップレンズ5、フォトダイオード(検出手段)6とを備えている。偏光ビームスプリッタ2は、光源11,12からの光を透過し、光ディスクDからの戻り光を反射する機能を有する。また反射ミラー4の基体40には、後述する反射膜41が形成されている。なお、反射ミラー4は、三角柱のプリズム傾斜面に反射膜を有し、プリズム内に入射した光を反射するものであってももちろん構わない。また、波長407nmの光源11をここではBD用光源として用いているが、光源11はBD用に限定されるものではない。
【0025】
光源11又は12から出射したレーザ光は、偏光ビームスプリッタ2を透過し、1/4波長板3でP偏光から円偏光に変換された後、反射ミラー4の反射膜41で反射されてピックアップレンズ5に入射する。このとき、反射膜41による反射によってP偏光成分とS偏光成分との位相差の差が180°になる。これにより、回転方向は逆になるが円偏光は維持され楕円偏光となることはない。そして、ピックアップレンズ5によって、回転する光ディスクDの信号記録面に光が集光されて、光スポットを形成する。一方、光ディスクDからの反射光(戻り光)は、往路と逆の光路を辿る。すなわち、戻り光は、ピックアップレンズ5を通って反射ミラー4で反射する。このときも往路の場合と同様に、反射膜41による反射によってP偏光成分とS偏光成分との位相差との差が180°になり、円偏光の回転方向が逆となる。結局、反射膜41により反射した光は、反射膜41によって往復で360°の位相差を与えられるので、往復光路で偏光状態は変化しない。そして、1/4波長板3によって円偏光からS偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ2に入射する。この偏光ビームスプリッタ2は、P偏光は透過するがS偏光は反射するので、戻り光は反射されてフォトダイオード6に導かれ、信号の検出が行われる。
【0026】
なお、この実施形態では、光源11又は12から出射したレーザ光はP偏光であるが、S偏光であってももちろん構わない。光源11,12から出射した光がS偏光の場合、1/4波長板3によってS偏光は円偏光に変換される。そして、戻り光は1/4波長板3を再び通過することによって円偏光からP偏光に変換されることになる。このため、光源とフォトダイオードとの位置を入れ替えればよい。
【0027】
ここで、反射前のP偏光成分とS偏光成分との位相差と、反射後のP偏光成分とS偏光成分との位相差との差を180°にする反射膜41の具体的構成は、従来公知の膜構成設計ソフトを用いて算出すればよい。本発明で使用できる反射膜41としては例えば次のような構成が例示される。そしてこの反射膜41の反射特性および反射位相差を図2及び図3に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
図2から明らかなように、波長407nm(BD用光源)、波長660nm(DVD用光源)における、P偏光成分およびS偏光成分の反射率はともに100%に近い値を示した。また、図3から明らかなように、波長407nm(BD用光源)、波長660nm(DVD用光源)における反射前後の位相差の差は180°であった。したがって、前記構成の反射膜41を基体40に形成した反射ミラー4によれば、波長407nm(BD用光源)、波長660nm(DVD用光源)の光はほぼ100%反射され、且つ反射前後の位相差は180°に調整される、つまり円偏光の光は回転方向が逆の円偏光の光となって反射されることがわかる。
【0030】
他方、比較のために、同じ膜構成設計ソフトを用いて、パラメータである位相差を180°とする入力する代わりに0°と入力して算出した反射膜の構成例を表2に示す。そしてこの反射膜の反射特性および反射位相差を図4及び図5に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
図4から明らかなように、波長407nm(BD用光源)におけるP偏光成分の反射率は90%程度で、S偏光成分の反射率は93%程度であった。一方、波長660nm(DVD用光源)におけるP偏光成分の反射率は50%程度で、S偏光成分の反射率は100%近くであった。実使用上要求される反射率は通常95%以上であるから、この膜構成の薄膜を反射膜として実使用することはできない。また図5から明らかなように、波長407nm(BD用光源)における反射前後の位相差の差は、目標設定が0°であったにも拘わらず40°近くもあった。また、波長660nm(DVD用光源)における反射前後の位相差は0°であったが、波長660nmの前後で反射位相差が急激に変動しているので、品質安定性に欠けるものであった。
【0033】
次に、光を反射及び透過する光学素子とこれを用いた光ピックアップ装置について説明する。図6は、本発明の光学素子である波長選択フィルタとそれを用いた光ピックアップ装置の概略構成図である。
【0034】
図6の光ピックアップ装置は、3つの光源(BD用光源(波長407nm)11、DVD用光源(波長660nm)12、CD用光源(波長787nm)13)と、偏光ビームスプリッタ2a,2bと、1/4波長板3a,3bと、波長選択フィルタ(光学素子)7と、ピックアップレンズ3と、フォトダイオード(検出手段)6a,6bを備えている。偏光ビームスプリッタ2a,2bは、前記と同様に、P偏光及びS偏光の一方を透過し、他方を反射する機能を有し、光源から光を透過し、光ディスクDからの戻り光を反射する役割を果たす。波長選択フィルタ7には、光を選択的に反射及び透過する波長選択膜(薄膜)71が基板70に形成されている。この波長選択膜71の構成については後述する。なお、波長選択フィルタ7は、三角柱のプリズム傾斜面に波長選択膜を形成し、これをもう一つの三角柱のプリズムと傾斜面同士が対向するように接合してキューブ状としたものであってももちろん構わない。
【0035】
波長407nmのBD用光源11から出射したレーザ光は、偏光ビームスプリッタ2aを透過し、1/4波長板3aでP偏光から円偏光に変換された後、波長選択フィルタ7で反射されてピックアップレンズ5に入射する。このとき、波長選択フィルタ7に形成されている波長選択膜71による反射によって、円偏光に変換された光のP偏光成分とS偏光成分との位相差の差が180°となる。これにより、回転方向は逆になるが円偏光は維持され楕円偏光となることはない。そして、ピックアップレンズ5によって、回転する光ディスクDの信号記録面に光が集光されて、光スポットを形成する。一方、光ディスクDからの戻り光は、往路と逆の光路を辿り、ピックアップレンズ5を通って波長選択フィルタ7で反射する。このときも往路の場合と同様に、波長選択膜71による反射によって円偏光の位相差が180°となり、円偏光の回転方向が逆となる。結局、波長選択膜71により反射した光は、波長選択膜71によって往復で360°の位相差を与えられるので、往復光路で偏光状態は変化しない。そして、1/4波長板3aによって円偏光からS偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ2aに入射する。この偏光ビームスプリッタ2aは、P偏光は透過するがS偏光は反射するので、戻り光は反射されてフォトダイオード6aに導かれ、信号の検出が行われる。
【0036】
一方、波長660nmのDVD用光源12又は波長787nmのCD用光源13から出射したレーザ光は、偏光ビームスプリッタ2bを透過し、1/4波長板3bでP偏光から円偏光に変換される。そして、波長選択フィルタ7を透過してピックアップレンズ5に入射する。波長選択フィルタ7に形成されている波長選択膜71を透過することによる、円偏光に変換された光のP偏光成分とS偏光成分との位相差の差はここでは0°となる。これにより、円偏光の光はそのままの状態で透過する。そして、ピックアップレンズ5によって、回転する光ディスクDの信号記録面に光が集光されて、光スポットを形成する。一方、光ディスクDからの戻り光は、ピックアップレンズ5を通って波長選択フィルタ7を再び透過する。このときも往路の場合と同様に、波長選択膜71を透過することによる円偏光の位相差の差が0°となり、円偏光の光はそのまま透過する。そして、1/4波長板3bによって円偏光からS偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ2bに入射する。この偏光ビームスプリッタ2bは、P偏光は透過するがS偏光は反射するので、戻り光は反射されてフォトダイオード6bに導かれ、信号の検出が行われる。
【0037】
波長選択フィルタ7の基体70に形成する波長選択膜71の具体的構成は、従来公知の膜構成設計ソフトを用いて算出すればよい。この実施形態で使用可能な波長選択膜71としては例えば次のような構成が例示される。この波長選択膜71の反射・透過特性を図7および図8に、そして反射・透過位相差を図9及び図10にそれぞれ示す。
【0038】
【表3】
【0039】
図7及び図8から明らかなように、この波長選択膜71では、波長407nm(BD用光源)における、P偏光成分およびS偏光成分の反射率はほぼ100%で、透過率は0%であった。一方、波長660nm(DVD用光源)及び波長787nm(CD用光源)におけるP偏光成分およびS偏光成分の反射率は10%未満で、透過率は90%以上であった。これにより、この波長選択膜71が波長407nmの光を反射し、波長660nmと787nmの光を透過することがわかる。
【0040】
次に、この波長選択膜71の位相差特性については、図9から明らかなように、波長407nm(BD用光源)における反射前後の位相差の差は180°であった。また図10から明らかなように、波長660nm(DVD用光源)と波長787nm(CD用光源)における透過前後の位相差の差は0°(360°)であった。
【0041】
なお、この実施形態では、波長選択フィルタ7の基体70に形成する波長選択膜71として、透過前後の位相差の差を0°とするものを用いたが、透過前後の位相差の差を180°とするものを用いてももちろん構わない。
【0042】
他方、比較のために、同じ膜構成設計ソフトを用いて、パラメータである反射による位相差の差を180°とする入力する代わりに0°と入力して算出した波長選択膜71の構成例を表3に示す。そして、この波長選択膜71の反射・透過特性を図11および図12に、そして反射・透過位相差を図13及び図14にそれぞれ示す。
【0043】
【表4】
【0044】
図11及び図12から明らかなように、この波長選択膜71では、波長407nm(BD用光源)における、P偏光成分およびS偏光成分の反射率は90%以上で、透過率は5%未満であった。一方、波長660nm(DVD用光源)及び波長787nm(CD用光源)におけるP偏光成分およびS偏光成分の反射率は10%未満で、透過率は90%以上であった。ただし、波長660nm及び波長787nmの近傍で反射率・透過率ともに変動が大きく、品質安定性に問題があった。
【0045】
この波長選択膜71の位相差特性については、図13から明らかなように、波長407nm(BD用光源)における反射前後の位相差の差は−20°(340°)と、目標値の0°にはならなかった。また図14から明らかなように、波長660nm(DVD用光源)及び波長787nm(CD用光源)における透過前後の位相差の差は10°未満であった。前記の3つの波長のうち波長407nm(BD用光源)の光源の出力が最も弱いため、この波長の反射前後の位相差の差を0°近傍にすることが実用上必要である。したがって、この点においてこの構成の波長選択膜は実使用に適さないものであった。
【0046】
3つの光源(波長407nm(BD用光源)、波長660nm(DVD用光源)、波長787nm(CD用光源))を用いた光ピックアップ装置の他の実施形態を図15に示す。この図の光ピックアップ装置が図6の装置と異なる点は、波長選択フィルタ7によって反射又は透過される波長が異なる点である。すなわち、この図の光ピックアップ装置では、波長選択フィルタ7が波長787nmの光を反射し、波長407nmと波長660nmの光を透過する。装置の基本構成は図6と同じであるのでここではその説明を省略し、波長選択フィルタの基体に形成する波長選択膜71の構成について以下説明する。
【0047】
波長選択フィルタ7の基体70に形成する波長選択膜71の具体的構成は、波長787nmの光を反射し、波長407nmと波長660nmの光を透過し、反射位相差が180°、透過位相差が0°となるように、従来公知の膜構成設計ソフトを用いて算出すればよい。算出された波長選択膜例を表5に示す。そして、この波長選択膜71の反射・透過特性を図16および図17に、そして反射・透過位相差を図18及び図19にそれぞれ示す。
【0048】
【表5】
なお、La2O3とAl2O3の混合比は1:1.2である。
【0049】
図16及び図17から明らかなように、この波長選択膜71では、波長787nm(CD用光源)における、P偏光成分の反射率は90%程度、S偏光成分の反射率は98%程度で、透過率はP偏光成分が12%程度で、S偏光成分が5%程度であった。一方、波長407nm(BD用光源)及び波長660nm(DVD用光源)におけるP偏光成分およびS偏光成分の反射率はほぼ0%で、透過率は95%以上であった。これにより、この波長選択膜71は、波長787nmの光の反射が若干低くく、透過が若干高いものの、実使用に大きな問題はなく、波長787nmの光を反射し、波長407nmの光と660nmの光とを透過することがわかる。
【0050】
この波長選択膜71の位相差特性については、図18から明らかなように、波長787nm(CD用光源)における反射前後の位相差の差は180°であった。また図19から明らかなように、波長407nm(BD用光源)と波長660nm(DVD用光源)における透過前後の位相差の差は0°(360°)であった。
【0051】
なお、この実施形態では、波長選択フィルタ7の基体70に形成する波長選択膜71として、透過前後の位相差の差を0°とするものを用いたが、透過前後の位相差の差を180°とするものを用いてももちろん構わない。
【0052】
比較のために、同じ膜構成設計ソフトを用いて、パラメータである反射による位相差の差を180°とする入力する代わりに0°と入力して算出した波長選択膜71の構成例を表6に示す。そして、この波長選択膜71の反射・透過特性を図20および図21に、そして反射・透過位相差を図22及び図23にそれぞれ示す。
【0053】
【表6】
なお、La2O3とAl2O3の混合比は1:1.2である。
【0054】
図20及び図21から明らかなように、この波長選択膜71では、波長787nm(CD用光源)における、P偏光成分の反射率は80%程度で、S偏光成分の反射率は90%程度であった。また、P偏光成分の透過率は20%程度で、S偏光成分の透過率は10%程度であった。一方、波長407nm(BD用光源)および波長660nm(DVD用光源)におけるP偏光成分およびS偏光成分の反射率は10%以下であった。またP偏光成分およびS偏光成分の透過率は90%程度であった。ただし、波長660nmの近傍では反射率・透過率ともに変動が大きく、品質安定性に問題があった。
【0055】
この波長選択膜71の位相差特性については、図22から明らかなように、波長787nm(CD用光源)における反射前後の位相差の差は0°となったが、787nmの前後で位相差の差が急激に変化しており、品質安定性に欠けるものであった。また図23から明らかなように、波長407nm(BD用光源)における透過前後の位相差の差は10°未満であったが、660nm(DVD用光源)における透過前後の位相差の差は−30°(330°)と目標値の0°にはならなかった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る反射ミラー及びそれを用いた光ピックアップ装置の一例を示す概説図である。
【図2】表1の反射膜の反射特性を示すグラフである。
【図3】表1の反射膜の反射位相差を示すグラフである。
【図4】表2の反射膜の反射特性を示すグラフである。
【図5】表2の反射膜の反射位相差を示すグラフである。
【図6】本発明に係る波長選択フィルタ及びそれを用いた光ピックアップ装置の一例を示す概説図である。
【図7】表3の波長選択膜の反射特性を示すグラフである。
【図8】表3の波長選択膜の透過特性を示すグラフである。
【図9】表3の波長選択膜の反射位相差を示すグラフである。
【図10】表3の波長選択膜の透過位相差を示すグラフである。
【図11】表4の波長選択膜の反射特性を示すグラフである。
【図12】表4の波長選択膜の透過特性を示すグラフである。
【図13】表4の波長選択膜の反射位相差を示すグラフである。
【図14】表4の波長選択膜の透過位相差を示すグラフである。
【図15】本発明に係る波長選択フィルタ及びそれを用いた光ピックアップ装置の他の例を示す概説図である。
【図16】表5の波長選択膜の反射特性を示すグラフである。
【図17】表5の波長選択膜の透過特性を示すグラフである。
【図18】表5の波長選択膜の反射位相差を示すグラフである。
【図19】表5の波長選択膜の透過位相差を示すグラフである。
【図20】表6の波長選択膜の反射特性を示すグラフである。
【図21】表6の波長選択膜の透過特性を示すグラフである。
【図22】表6の波長選択膜の反射位相差を示すグラフである。
【図23】表6の波長選択膜の透過位相差を示すグラフである。
【符号の説明】
【0057】
2,2a,2b 偏光ビームスプリッタ
3,3a,3b 1/4波長板
4 反射ミラー(光学素子)
5 ピックアップレンズ
6a,6b フォトダイオード(検出手段)
7 波長選択フィルタ(光学素子)
D 光ディスク
11 BD用光源(波長407nm)
12 DVD用光源(660nm)
13 CD用光源(波長787nm)
40 基体
41 反射膜
70 基体
71 波長選択膜
【技術分野】
【0001】
本発明は光学素子及びそれを用いた光ピックアップ装置に関し、より詳細には位相差調整機能を有する光学素子及びそれを用いた光ピックアップ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CD(コンパクト・ディスク)やDVD(デジタル・バーサタイル・ディスク)などの光記録媒体に情報を書込・読出するために光ピックアップ装置が広く用いられている。この光ピックアップ装置では、光源から出射したP偏光又はS偏光の光を1/4波長板で円偏光とした後、反射ミラーなどによって進行方向を変えて、対物レンズで集光させて光記録媒体に当射させ、反射した円偏光を前記1/4波長板でS偏光又はP偏光とした後、光検出器で光信号を検出する。
【0003】
2つの光源を用いる場合には、それぞれの光源からの光路をダイクロイックプリズムで合成した後、光源からの直線偏光を1/4波長板で円偏光に変換することが、特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2001−297472号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の光ピックアップ装置では、円偏光に変換された光は偏向プリズムDPで反射されているが、反射時にP偏光成分とS偏光成分との位相差がズレて、反射光が楕円偏光となることがある。楕円偏光は1/4波長板を透過しても直線偏光にはならないため、検出器への信号強度が低下したり、光源への戻り光が発生し、レーザ発振が不安定になるという問題が生じる。また、反射のみならず、光学素子を透過する場合にも、一般的にP偏光成分とS偏光成分との間に位相差が発生する。このため、円偏光に変換された光を反射あるいは透過させる光学素子には、反射率や透過率といった分光特性を満足していることのみならず、位相差がズレないようにすることも要求される。
【0005】
ところで、光源の短波長化が近年進行し、現在DVD用に主として用いられている波長600nm台のレーザビームよりも波長の短い、波長400nm台のいわゆるブルーレーザが実用化されつつある。このため、波長700nm台(CD用)、波長600nm台(DVD用)、波長400nm台(例えばBD(Blu-ray Disk)用あるいはHD DVD用)の3つの光源を搭載した光ピックアップ装置の開発が現在進められている。
【0006】
しかし、光学素子の基体に形成する光学薄膜の設計において、このような3つの波長帯域の光に対応して、反射率や透過率といった分光特性を満足し、同時に反射や透過によって位相差がズレないものを得ようとすると、拘束条件が多すぎて良好な薄膜構成を設計することは困難であった。このため、分光特性および位相差特性の一方を優先し他方を犠牲にして薄膜設計が行われていた。
【0007】
本発明はこのような従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは光を反射及び/又は透過させる光学部材において、分光特性および位相差特性の両方を満足させることにある。
【0008】
また本発明の目的は、光記録媒体で反射された光が、強度が低下することなく検出器へ入射し、また光源への戻り光が発生することのない光ピックアップ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記目的を達成すべく鋭意検討した結果、円偏光が反射又は透過した後も円偏光を維持するようにするには、反射又は透過によるP偏光成分とS偏光成分との位相差のズレをゼロにするのではなく、積極的に180°にずらせばよい、すなわち円偏光の回転方向を逆にすればよい、という一見簡単でありながらこれまで何人も試みられていなかった着想に基づき本発明をなすに至った。すなわち、本発明に係る、光を反射する光学素子は、反射波長帯域の光における入射の際のP偏光成分とS偏光成分との位相差と、反射後のP偏光成分とS偏光成分との位相差との差を絶対値で180°±10°に調整する薄膜が、基体に形成されていることを特徴とする。なお、±10°は実使用上問題の生じない範囲である。
【0010】
また本発明に係る、光を反射および透過する光学素子は、反射波長帯域の光の入射の際のP偏光成分とS偏光成分との位相差と、反射後のP偏光成分とS偏光成分との位相差との差を絶対値で180°±10°に調整する薄膜が形成されていることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記薄膜が、透過波長帯域の光の入射の際のP偏光成分とS偏光成分との位相差と、透過後のP偏光成分とS偏光成分との位相差との差を絶対値で0°±10°に調整するものであってもよい。
【0012】
反射波長帯域の光としては、407±10nm、660±15nm、787±15nmの少なくとも1つであるのがよい。
【0013】
また光を反射および透過する光学素子の場合には、反射波長帯域の光が407±10nmで、前記透過波長帯域の光が660±15nm及び787±15nmの少なくとも一方であってもよく、あるいは前記反射波長帯域の光が787±15nmで、前記透過波長帯域の光が407±10nm及び660±15nmの少なくとも一方であってもよい。
【0014】
光学素子に入射する反射波長帯域の光としては円偏光が好適である。
【0015】
また本発明の光ピックアップ装置は、光源からの光を所定方向に反射する反射ミラーを備え、この反射ミラーとして前記記載の光学素子を用いることを特徴とする。
【0016】
ここで前記光源と反射ミラーとの間に1/4波長板を配置し、この1/4波長板によって直線偏光が円偏光に変換するのが好ましい。
【0017】
また本発明の光ピックアップ装置は、波長の異なる光を出射する2以上の光源と、光を合成又は分離する波長選択フィルタと、光を記録媒体上に集光させる対物レンズと、前記記録媒体からの反射光を検出する検出手段とを備え、前記波長選択フィルタとして、前記記載の光学素子を用いることを特徴とする。
【0018】
ここで前記光源と波長選択フィルタとの間に1/4波長板を配置し、この1/4波長板によって直線偏光が円偏光に変換するのが好ましい。
【0019】
前記光ピックアップ装置に用いる光源の光の波長は、407±10nm、660±15nm、787±15nmの少なくとも1つであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る、光を少なくとも反射する光学素子では、反射波長帯域の光の入射の際のP偏光成分とS偏光成分との位相差と、反射後のP偏光成分とS偏光成分との位相差との差を絶対値で180°±10°に調整する薄膜を基体に形成したので、円偏光に変換された光を効果的に反射させると同時に、反射後も円偏光を維持させることができる。
【0021】
ここで光学素子が光を反射すると共に透過するものである場合、前記薄膜によって、透過波長帯域の光が入射する際のP偏光成分とS偏光成分との位相差と、透過後のP偏光成分とS偏光成分との位相差との差を絶対値で0°±10°に調整することによって、透過光についても位相差を発生させないようにできる。
【0022】
また本発明に係る光ピックアップ装置では、光源からの光を所定方向に反射する反射ミラーを備え、この反射ミラーとして前記記載の光学素子を用いるので、光記録媒体で反射された光が、強度低下することなく検出器へ入射する。また光源への戻り光が発生しないのでレーザ発振が安定して行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
まず、本発明に係る、光を反射する光学素子及びこれを用いた光ピックアップ装置について説明する。図1は、本発明の光学素子である反射ミラーとそれを用いた光ピックアップ装置の概略構成図である。
【0024】
図1の光ピックアップ装置は、波長407nmのBD用光源11と波長660nmのDVD用光源12、偏光ビームスプリッタ2と、1/4波長板3と、反射ミラー4と、ピックアップレンズ5、フォトダイオード(検出手段)6とを備えている。偏光ビームスプリッタ2は、光源11,12からの光を透過し、光ディスクDからの戻り光を反射する機能を有する。また反射ミラー4の基体40には、後述する反射膜41が形成されている。なお、反射ミラー4は、三角柱のプリズム傾斜面に反射膜を有し、プリズム内に入射した光を反射するものであってももちろん構わない。また、波長407nmの光源11をここではBD用光源として用いているが、光源11はBD用に限定されるものではない。
【0025】
光源11又は12から出射したレーザ光は、偏光ビームスプリッタ2を透過し、1/4波長板3でP偏光から円偏光に変換された後、反射ミラー4の反射膜41で反射されてピックアップレンズ5に入射する。このとき、反射膜41による反射によってP偏光成分とS偏光成分との位相差の差が180°になる。これにより、回転方向は逆になるが円偏光は維持され楕円偏光となることはない。そして、ピックアップレンズ5によって、回転する光ディスクDの信号記録面に光が集光されて、光スポットを形成する。一方、光ディスクDからの反射光(戻り光)は、往路と逆の光路を辿る。すなわち、戻り光は、ピックアップレンズ5を通って反射ミラー4で反射する。このときも往路の場合と同様に、反射膜41による反射によってP偏光成分とS偏光成分との位相差との差が180°になり、円偏光の回転方向が逆となる。結局、反射膜41により反射した光は、反射膜41によって往復で360°の位相差を与えられるので、往復光路で偏光状態は変化しない。そして、1/4波長板3によって円偏光からS偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ2に入射する。この偏光ビームスプリッタ2は、P偏光は透過するがS偏光は反射するので、戻り光は反射されてフォトダイオード6に導かれ、信号の検出が行われる。
【0026】
なお、この実施形態では、光源11又は12から出射したレーザ光はP偏光であるが、S偏光であってももちろん構わない。光源11,12から出射した光がS偏光の場合、1/4波長板3によってS偏光は円偏光に変換される。そして、戻り光は1/4波長板3を再び通過することによって円偏光からP偏光に変換されることになる。このため、光源とフォトダイオードとの位置を入れ替えればよい。
【0027】
ここで、反射前のP偏光成分とS偏光成分との位相差と、反射後のP偏光成分とS偏光成分との位相差との差を180°にする反射膜41の具体的構成は、従来公知の膜構成設計ソフトを用いて算出すればよい。本発明で使用できる反射膜41としては例えば次のような構成が例示される。そしてこの反射膜41の反射特性および反射位相差を図2及び図3に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
図2から明らかなように、波長407nm(BD用光源)、波長660nm(DVD用光源)における、P偏光成分およびS偏光成分の反射率はともに100%に近い値を示した。また、図3から明らかなように、波長407nm(BD用光源)、波長660nm(DVD用光源)における反射前後の位相差の差は180°であった。したがって、前記構成の反射膜41を基体40に形成した反射ミラー4によれば、波長407nm(BD用光源)、波長660nm(DVD用光源)の光はほぼ100%反射され、且つ反射前後の位相差は180°に調整される、つまり円偏光の光は回転方向が逆の円偏光の光となって反射されることがわかる。
【0030】
他方、比較のために、同じ膜構成設計ソフトを用いて、パラメータである位相差を180°とする入力する代わりに0°と入力して算出した反射膜の構成例を表2に示す。そしてこの反射膜の反射特性および反射位相差を図4及び図5に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
図4から明らかなように、波長407nm(BD用光源)におけるP偏光成分の反射率は90%程度で、S偏光成分の反射率は93%程度であった。一方、波長660nm(DVD用光源)におけるP偏光成分の反射率は50%程度で、S偏光成分の反射率は100%近くであった。実使用上要求される反射率は通常95%以上であるから、この膜構成の薄膜を反射膜として実使用することはできない。また図5から明らかなように、波長407nm(BD用光源)における反射前後の位相差の差は、目標設定が0°であったにも拘わらず40°近くもあった。また、波長660nm(DVD用光源)における反射前後の位相差は0°であったが、波長660nmの前後で反射位相差が急激に変動しているので、品質安定性に欠けるものであった。
【0033】
次に、光を反射及び透過する光学素子とこれを用いた光ピックアップ装置について説明する。図6は、本発明の光学素子である波長選択フィルタとそれを用いた光ピックアップ装置の概略構成図である。
【0034】
図6の光ピックアップ装置は、3つの光源(BD用光源(波長407nm)11、DVD用光源(波長660nm)12、CD用光源(波長787nm)13)と、偏光ビームスプリッタ2a,2bと、1/4波長板3a,3bと、波長選択フィルタ(光学素子)7と、ピックアップレンズ3と、フォトダイオード(検出手段)6a,6bを備えている。偏光ビームスプリッタ2a,2bは、前記と同様に、P偏光及びS偏光の一方を透過し、他方を反射する機能を有し、光源から光を透過し、光ディスクDからの戻り光を反射する役割を果たす。波長選択フィルタ7には、光を選択的に反射及び透過する波長選択膜(薄膜)71が基板70に形成されている。この波長選択膜71の構成については後述する。なお、波長選択フィルタ7は、三角柱のプリズム傾斜面に波長選択膜を形成し、これをもう一つの三角柱のプリズムと傾斜面同士が対向するように接合してキューブ状としたものであってももちろん構わない。
【0035】
波長407nmのBD用光源11から出射したレーザ光は、偏光ビームスプリッタ2aを透過し、1/4波長板3aでP偏光から円偏光に変換された後、波長選択フィルタ7で反射されてピックアップレンズ5に入射する。このとき、波長選択フィルタ7に形成されている波長選択膜71による反射によって、円偏光に変換された光のP偏光成分とS偏光成分との位相差の差が180°となる。これにより、回転方向は逆になるが円偏光は維持され楕円偏光となることはない。そして、ピックアップレンズ5によって、回転する光ディスクDの信号記録面に光が集光されて、光スポットを形成する。一方、光ディスクDからの戻り光は、往路と逆の光路を辿り、ピックアップレンズ5を通って波長選択フィルタ7で反射する。このときも往路の場合と同様に、波長選択膜71による反射によって円偏光の位相差が180°となり、円偏光の回転方向が逆となる。結局、波長選択膜71により反射した光は、波長選択膜71によって往復で360°の位相差を与えられるので、往復光路で偏光状態は変化しない。そして、1/4波長板3aによって円偏光からS偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ2aに入射する。この偏光ビームスプリッタ2aは、P偏光は透過するがS偏光は反射するので、戻り光は反射されてフォトダイオード6aに導かれ、信号の検出が行われる。
【0036】
一方、波長660nmのDVD用光源12又は波長787nmのCD用光源13から出射したレーザ光は、偏光ビームスプリッタ2bを透過し、1/4波長板3bでP偏光から円偏光に変換される。そして、波長選択フィルタ7を透過してピックアップレンズ5に入射する。波長選択フィルタ7に形成されている波長選択膜71を透過することによる、円偏光に変換された光のP偏光成分とS偏光成分との位相差の差はここでは0°となる。これにより、円偏光の光はそのままの状態で透過する。そして、ピックアップレンズ5によって、回転する光ディスクDの信号記録面に光が集光されて、光スポットを形成する。一方、光ディスクDからの戻り光は、ピックアップレンズ5を通って波長選択フィルタ7を再び透過する。このときも往路の場合と同様に、波長選択膜71を透過することによる円偏光の位相差の差が0°となり、円偏光の光はそのまま透過する。そして、1/4波長板3bによって円偏光からS偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ2bに入射する。この偏光ビームスプリッタ2bは、P偏光は透過するがS偏光は反射するので、戻り光は反射されてフォトダイオード6bに導かれ、信号の検出が行われる。
【0037】
波長選択フィルタ7の基体70に形成する波長選択膜71の具体的構成は、従来公知の膜構成設計ソフトを用いて算出すればよい。この実施形態で使用可能な波長選択膜71としては例えば次のような構成が例示される。この波長選択膜71の反射・透過特性を図7および図8に、そして反射・透過位相差を図9及び図10にそれぞれ示す。
【0038】
【表3】
【0039】
図7及び図8から明らかなように、この波長選択膜71では、波長407nm(BD用光源)における、P偏光成分およびS偏光成分の反射率はほぼ100%で、透過率は0%であった。一方、波長660nm(DVD用光源)及び波長787nm(CD用光源)におけるP偏光成分およびS偏光成分の反射率は10%未満で、透過率は90%以上であった。これにより、この波長選択膜71が波長407nmの光を反射し、波長660nmと787nmの光を透過することがわかる。
【0040】
次に、この波長選択膜71の位相差特性については、図9から明らかなように、波長407nm(BD用光源)における反射前後の位相差の差は180°であった。また図10から明らかなように、波長660nm(DVD用光源)と波長787nm(CD用光源)における透過前後の位相差の差は0°(360°)であった。
【0041】
なお、この実施形態では、波長選択フィルタ7の基体70に形成する波長選択膜71として、透過前後の位相差の差を0°とするものを用いたが、透過前後の位相差の差を180°とするものを用いてももちろん構わない。
【0042】
他方、比較のために、同じ膜構成設計ソフトを用いて、パラメータである反射による位相差の差を180°とする入力する代わりに0°と入力して算出した波長選択膜71の構成例を表3に示す。そして、この波長選択膜71の反射・透過特性を図11および図12に、そして反射・透過位相差を図13及び図14にそれぞれ示す。
【0043】
【表4】
【0044】
図11及び図12から明らかなように、この波長選択膜71では、波長407nm(BD用光源)における、P偏光成分およびS偏光成分の反射率は90%以上で、透過率は5%未満であった。一方、波長660nm(DVD用光源)及び波長787nm(CD用光源)におけるP偏光成分およびS偏光成分の反射率は10%未満で、透過率は90%以上であった。ただし、波長660nm及び波長787nmの近傍で反射率・透過率ともに変動が大きく、品質安定性に問題があった。
【0045】
この波長選択膜71の位相差特性については、図13から明らかなように、波長407nm(BD用光源)における反射前後の位相差の差は−20°(340°)と、目標値の0°にはならなかった。また図14から明らかなように、波長660nm(DVD用光源)及び波長787nm(CD用光源)における透過前後の位相差の差は10°未満であった。前記の3つの波長のうち波長407nm(BD用光源)の光源の出力が最も弱いため、この波長の反射前後の位相差の差を0°近傍にすることが実用上必要である。したがって、この点においてこの構成の波長選択膜は実使用に適さないものであった。
【0046】
3つの光源(波長407nm(BD用光源)、波長660nm(DVD用光源)、波長787nm(CD用光源))を用いた光ピックアップ装置の他の実施形態を図15に示す。この図の光ピックアップ装置が図6の装置と異なる点は、波長選択フィルタ7によって反射又は透過される波長が異なる点である。すなわち、この図の光ピックアップ装置では、波長選択フィルタ7が波長787nmの光を反射し、波長407nmと波長660nmの光を透過する。装置の基本構成は図6と同じであるのでここではその説明を省略し、波長選択フィルタの基体に形成する波長選択膜71の構成について以下説明する。
【0047】
波長選択フィルタ7の基体70に形成する波長選択膜71の具体的構成は、波長787nmの光を反射し、波長407nmと波長660nmの光を透過し、反射位相差が180°、透過位相差が0°となるように、従来公知の膜構成設計ソフトを用いて算出すればよい。算出された波長選択膜例を表5に示す。そして、この波長選択膜71の反射・透過特性を図16および図17に、そして反射・透過位相差を図18及び図19にそれぞれ示す。
【0048】
【表5】
なお、La2O3とAl2O3の混合比は1:1.2である。
【0049】
図16及び図17から明らかなように、この波長選択膜71では、波長787nm(CD用光源)における、P偏光成分の反射率は90%程度、S偏光成分の反射率は98%程度で、透過率はP偏光成分が12%程度で、S偏光成分が5%程度であった。一方、波長407nm(BD用光源)及び波長660nm(DVD用光源)におけるP偏光成分およびS偏光成分の反射率はほぼ0%で、透過率は95%以上であった。これにより、この波長選択膜71は、波長787nmの光の反射が若干低くく、透過が若干高いものの、実使用に大きな問題はなく、波長787nmの光を反射し、波長407nmの光と660nmの光とを透過することがわかる。
【0050】
この波長選択膜71の位相差特性については、図18から明らかなように、波長787nm(CD用光源)における反射前後の位相差の差は180°であった。また図19から明らかなように、波長407nm(BD用光源)と波長660nm(DVD用光源)における透過前後の位相差の差は0°(360°)であった。
【0051】
なお、この実施形態では、波長選択フィルタ7の基体70に形成する波長選択膜71として、透過前後の位相差の差を0°とするものを用いたが、透過前後の位相差の差を180°とするものを用いてももちろん構わない。
【0052】
比較のために、同じ膜構成設計ソフトを用いて、パラメータである反射による位相差の差を180°とする入力する代わりに0°と入力して算出した波長選択膜71の構成例を表6に示す。そして、この波長選択膜71の反射・透過特性を図20および図21に、そして反射・透過位相差を図22及び図23にそれぞれ示す。
【0053】
【表6】
なお、La2O3とAl2O3の混合比は1:1.2である。
【0054】
図20及び図21から明らかなように、この波長選択膜71では、波長787nm(CD用光源)における、P偏光成分の反射率は80%程度で、S偏光成分の反射率は90%程度であった。また、P偏光成分の透過率は20%程度で、S偏光成分の透過率は10%程度であった。一方、波長407nm(BD用光源)および波長660nm(DVD用光源)におけるP偏光成分およびS偏光成分の反射率は10%以下であった。またP偏光成分およびS偏光成分の透過率は90%程度であった。ただし、波長660nmの近傍では反射率・透過率ともに変動が大きく、品質安定性に問題があった。
【0055】
この波長選択膜71の位相差特性については、図22から明らかなように、波長787nm(CD用光源)における反射前後の位相差の差は0°となったが、787nmの前後で位相差の差が急激に変化しており、品質安定性に欠けるものであった。また図23から明らかなように、波長407nm(BD用光源)における透過前後の位相差の差は10°未満であったが、660nm(DVD用光源)における透過前後の位相差の差は−30°(330°)と目標値の0°にはならなかった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る反射ミラー及びそれを用いた光ピックアップ装置の一例を示す概説図である。
【図2】表1の反射膜の反射特性を示すグラフである。
【図3】表1の反射膜の反射位相差を示すグラフである。
【図4】表2の反射膜の反射特性を示すグラフである。
【図5】表2の反射膜の反射位相差を示すグラフである。
【図6】本発明に係る波長選択フィルタ及びそれを用いた光ピックアップ装置の一例を示す概説図である。
【図7】表3の波長選択膜の反射特性を示すグラフである。
【図8】表3の波長選択膜の透過特性を示すグラフである。
【図9】表3の波長選択膜の反射位相差を示すグラフである。
【図10】表3の波長選択膜の透過位相差を示すグラフである。
【図11】表4の波長選択膜の反射特性を示すグラフである。
【図12】表4の波長選択膜の透過特性を示すグラフである。
【図13】表4の波長選択膜の反射位相差を示すグラフである。
【図14】表4の波長選択膜の透過位相差を示すグラフである。
【図15】本発明に係る波長選択フィルタ及びそれを用いた光ピックアップ装置の他の例を示す概説図である。
【図16】表5の波長選択膜の反射特性を示すグラフである。
【図17】表5の波長選択膜の透過特性を示すグラフである。
【図18】表5の波長選択膜の反射位相差を示すグラフである。
【図19】表5の波長選択膜の透過位相差を示すグラフである。
【図20】表6の波長選択膜の反射特性を示すグラフである。
【図21】表6の波長選択膜の透過特性を示すグラフである。
【図22】表6の波長選択膜の反射位相差を示すグラフである。
【図23】表6の波長選択膜の透過位相差を示すグラフである。
【符号の説明】
【0057】
2,2a,2b 偏光ビームスプリッタ
3,3a,3b 1/4波長板
4 反射ミラー(光学素子)
5 ピックアップレンズ
6a,6b フォトダイオード(検出手段)
7 波長選択フィルタ(光学素子)
D 光ディスク
11 BD用光源(波長407nm)
12 DVD用光源(660nm)
13 CD用光源(波長787nm)
40 基体
41 反射膜
70 基体
71 波長選択膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を反射する光学素子であって、反射波長帯域の光における入射の際のP偏光成分とS偏光成分との位相差と、反射後のP偏光成分とS偏光成分との位相差との差を絶対値で180°±10°に調整する薄膜が、基体に形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
光を反射および透過する光学素子であって、反射波長帯域の光の入射の際のP偏光成分とS偏光成分との位相差と、反射後のP偏光成分とS偏光成分との位相差との差を絶対値で180°±10°に調整する薄膜が、基体に形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項3】
前記薄膜が、透過波長帯域の光の入射の際のP偏光成分とS偏光成分との位相差と、透過後のP偏光成分とS偏光成分との位相差との差を絶対値で0°±10°に調整する請求項2記載の光学素子。
【請求項4】
前記反射波長帯域の光が、407±10nm、660±15nm、787±15nmの少なくとも1つである請求項1〜3のいずれかに記載の光学素子。
【請求項5】
前記反射波長帯域の光が407±10nmで、前記透過波長帯域の光が660±15nm及び787±15nmの少なくとも一方である請求項2又は3に記載の光学素子。
【請求項6】
前記反射波長帯域の光が787±15nmで、前記透過波長帯域の光が407±10nm及び660±15nmの少なくとも一方である請求項2又は3に記載の光学素子。
【請求項7】
前記反射波長帯域の光が円偏光である請求項1〜6のいずれかに記載の光学素子。
【請求項8】
光源からの光を所定方向に反射する反射ミラーを備えた光ピックアップ装置において、前記反射ミラーとして請求項1記載の光学素子を用いることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項9】
前記光源と反射ミラーとの間に1/4波長板が配置されている請求項8記載の光ピックアップ装置。
【請求項10】
波長の異なる光を出射する2以上の光源と、光を合成又は分離する波長選択フィルタと、光を記録媒体上に集光させる対物レンズと、前記記録媒体からの反射光を検出する検出手段とを備えた光ピックアップ装置において、
前記波長選択フィルタとして、請求項2又は3記載の光学素子を用いることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項11】
前記の各光源と波長選択フィルタとの間に1/4波長板が配置されている請求項10記載の光ピックアップ装置。
【請求項12】
光源から出射される光の波長が、407±10nm、660±15nm、787±15nmの少なくとも1つである請求項8〜11のいずれかに記載の光ピックアップ装置。
【請求項1】
光を反射する光学素子であって、反射波長帯域の光における入射の際のP偏光成分とS偏光成分との位相差と、反射後のP偏光成分とS偏光成分との位相差との差を絶対値で180°±10°に調整する薄膜が、基体に形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
光を反射および透過する光学素子であって、反射波長帯域の光の入射の際のP偏光成分とS偏光成分との位相差と、反射後のP偏光成分とS偏光成分との位相差との差を絶対値で180°±10°に調整する薄膜が、基体に形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項3】
前記薄膜が、透過波長帯域の光の入射の際のP偏光成分とS偏光成分との位相差と、透過後のP偏光成分とS偏光成分との位相差との差を絶対値で0°±10°に調整する請求項2記載の光学素子。
【請求項4】
前記反射波長帯域の光が、407±10nm、660±15nm、787±15nmの少なくとも1つである請求項1〜3のいずれかに記載の光学素子。
【請求項5】
前記反射波長帯域の光が407±10nmで、前記透過波長帯域の光が660±15nm及び787±15nmの少なくとも一方である請求項2又は3に記載の光学素子。
【請求項6】
前記反射波長帯域の光が787±15nmで、前記透過波長帯域の光が407±10nm及び660±15nmの少なくとも一方である請求項2又は3に記載の光学素子。
【請求項7】
前記反射波長帯域の光が円偏光である請求項1〜6のいずれかに記載の光学素子。
【請求項8】
光源からの光を所定方向に反射する反射ミラーを備えた光ピックアップ装置において、前記反射ミラーとして請求項1記載の光学素子を用いることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項9】
前記光源と反射ミラーとの間に1/4波長板が配置されている請求項8記載の光ピックアップ装置。
【請求項10】
波長の異なる光を出射する2以上の光源と、光を合成又は分離する波長選択フィルタと、光を記録媒体上に集光させる対物レンズと、前記記録媒体からの反射光を検出する検出手段とを備えた光ピックアップ装置において、
前記波長選択フィルタとして、請求項2又は3記載の光学素子を用いることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項11】
前記の各光源と波長選択フィルタとの間に1/4波長板が配置されている請求項10記載の光ピックアップ装置。
【請求項12】
光源から出射される光の波長が、407±10nm、660±15nm、787±15nmの少なくとも1つである請求項8〜11のいずれかに記載の光ピックアップ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2006−155730(P2006−155730A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−343643(P2004−343643)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]