説明

光学薄膜の成膜装置及びその制御方法

【課題】 光学薄膜を成膜する際のパーティクルを抑えることが可能な光学薄膜の成膜装置及びその装置の制御方法を提供する。
【解決手段】 真空チャンバの内周面に、その周面に基材を保持することが可能な回転ドラムを備え、前記回転ドラムの周方向に、防着板により区割された金属ターゲットをスパッタリングするための成膜領域と、スパッタリングされた金属薄膜を酸化するための酸化領域とを備え、前記各領域に基材を通過させ、前記基材上に光学薄膜を成膜するための装置であって、前記防着板に温度制御手段を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ターゲットのスパッタリングと、スパッタリングされた金属薄膜の酸化とを繰り返して基材上に光学薄膜を成膜するための成膜装置とその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転ドラムに保持された基材上に金属薄膜を成膜し、これを酸素プラズマで酸化して酸化膜とし、それを交互に繰り返して金属酸化膜を形成する方法は、高品位な光学薄膜を形成する方法として実用化されている(例えば、特許文献1)。
この光学薄膜は、光学フィルターとして使用され、最近では、高性能・多機能化の要求が高まっているため、膜特性に対する要求が厳しいものとなってきている。その中で、パーティクル、ピンホール等が原因により発生する、膜中のコンタミや欠陥は大きな問題となっており、生産において歩留まりを低下させる主原因となっている。
ところで、特許文献1に開示される装置の場合、通常、スパッタされた材料が飛散することを避けるために、成膜領域を区割するようにして、ターゲットの両側方から回転ドラム側方向に防着板を立設するようにしている。
しかしながら、防着板と回転ドラムとの間を通過した酸素が金属スパッタ粒子と反応して、剥離しやすい酸化物質(絶縁物)となって防着板に付着し、チャージアップにより剥離することにより、パーティクルが発生するという問題があった。
このパーティクルを抑制するために、防着板にAlを溶射して、酸化物質の剥離を低減する方法が考えられるが、プラズマ放電の時間に応じてパーティクルの発生量は増加するために十分な抑制効果が得られなかった。
【0003】
【特許文献1】特開2005−206875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、光学薄膜を成膜する際のパーティクルを抑えることが可能な光学薄膜の成膜装置及びその装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく、本発明者等は鋭意検討の結果、以下の解決手段を見いだした。
即ち、本発明の光学薄膜の成膜装置は、請求項1に記載の通り、真空チャンバの内周面に、その周面に基材を保持することが可能な回転ドラムを備え、前記回転ドラムの周方向に、防着板により区割された金属ターゲットをスパッタリングするための成膜領域と、スパッタリングされた金属薄膜を酸化するための酸化領域とを備え、前記各領域に基材を通過させ、前記基材上に光学薄膜を成膜するための装置であって、前記防着板に温度制御手段を設けたことを特徴とする。
また、請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の光学薄膜の成膜装置において、前記金属ターゲットと前記基材とが対向する際の互いの間隔が120mm〜300mmとなるようにしたことを特徴とする。
また、本発明の光学薄膜の成膜装置の制御方法は、請求項3に記載の通り、真空チャンバの内周面に、その周面に基材を保持することが可能な回転ドラムを備え、前記回転ドラムの周方向に、防着板により区割された金属ターゲットをスパッタリングするための成膜領域と、前記金属薄膜を酸化するための酸化領域とを備え、前記各領域に基材を通過させ、前記基材上に光学薄膜を成膜するための装置の制御方法であって、前記金属ターゲットをスパッタリングする際に、前記防着板の温度を100℃から400℃の範囲に調整することを特徴とする。
また、請求項4に記載の本発明は、請求項3に記載の光学薄膜の成膜装置の制御方法において、前記金属ターゲットと前記基材とが対向する際の互いの間隔が120mm〜300mmとなるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、成膜により発生するパーティクルレベルを著しく低減させることができる。これによりコンタミ、膜欠陥の少ない高品位の金属酸化膜の成膜を実現させることができ、生産における歩留まりの向上へもつながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
図1は、本発明の成膜装置の概略構成を示すもので、真空チャンバ1の略中央部には、基材支持手段2を備えた回転ドラム3が配置され、その回転方向に順に、第1成膜領域4、酸化領域5及び第2成膜領域6が配置される。
スパッタリングを行う第1成膜領域4は、2台の電極からなるスパッタカソード7と、前記スパッタカソード7の回転ドラム3側に配置されたTa等から構成される細長片形状のターゲット8と、前記スパッタカソード7に交流電圧を印加するためのAC電源9と、Arガス等を導入するためのArガス導入系10から構成される。同様にスパッタリングを行う第2成膜領域6は、2台の電極からなるスパッタカソード11と、Si等から構成されるターゲット12と、前記スパッタカソード11に交流電圧を印加するためのAC電源13と、第2成膜領域4においてArガス等を導入するためのガス導入系14から構成される。尚、各成膜領域4,6のターゲット8,12の両側方には回転ドラム2側に向けて防着板15,16を立設している。また、酸化領域5は、酸化プラズマ源17と、Ar及びOガス導入系18を備えている。
【0008】
上記防着板15,16には、図示しないが、シースヒーターやランプヒーター等の温度調整手段を備えている。これにより、少なくとも、スパッタリングによる成膜過程において、防着板15,16を100℃〜400℃に温度調整を行う。
【0009】
上記装置により、基材19を回転ドラム3の基材支持手段2に固定し、第1成膜領域4において、スパッタリングにより単原子層程度の金属膜を成膜し、酸化領域5により該金属膜の酸化を行い、更にその上に、第2成膜領域6において、同様に単原子層程度の金属膜を成膜し、酸化領域5により該金属膜の酸化を行い、交互に金属酸化膜を積層して光学薄膜を得る。
本発明では、前記スパッタリングにより単原子層程度の金属膜を成膜する際に、防着板15,16を100℃〜400℃の範囲に、その温度を調整する。これにより、プラズマ発生時に、防着板15,16が急激に温度上昇することがないため、防着板15,16と、これに付着した酸化物質との熱膨張係数の差に起因する酸化物質の剥離を抑えることが可能となる。
また、ターゲット8,12と基材19とが対向する際の互いの間隔が120mm〜300mmとすることが好ましい。理由は明らかではないが、この範囲内であれば、防着板15,16の温度制御を行う際に、パーティクルの発生をより抑えることができることがわかっているためである。
【0010】
尚、本発明における金属膜の成膜は、スパッタリングによるものであれば特に制限はなく、ECRスパッタ方式、ターゲットの裏面に磁石を配置してスパッタを行うマグネトロンスパッタ方式、DC電源を使用するのがDCマグネトロンスパッタ方式、RF電源を使用するのがRFマグネトロンスパッタ方式等を採用することができる。
【0011】
前記金属ターゲット8,12としては、Si、Ti、Ta、Nb、Al、Mg、Sb、Zr、Zn、Sn、Caから選択された少なくとも1種の元素を含有するものを使用することができる。
また、上記ターゲット8,12の寸法は、特に制限するものではないが、例えば、短手方向は120mm〜145mmとすることができ、長手方向の長さは600〜900mmとすることができる。また、その形状は、矩形状、或いは、楕円形状等があるが、楕円形状の場合は、幅が短い方を短手方向とし、長い方を長手方向とする。
【実施例】
【0012】
次に、本発明の実施例について比較例とともに説明する。
(実施例1)
図1に示す構造の成膜装置を使用して、第1成膜領域4において、短手方向の長さ145mm、長手方向の長さ640mmの矩形状のSiOターゲット8を、真空チャンバ内を0.15Paとして、7.0kWでスパッタリングを行い、直径15mm、厚さ1mmのガラス製基材19に500ÅのSiO膜を成膜した。
尚、成膜期間中は、防着板15の温度を280℃となるように調整を行った。また、ターゲット8と基材19とが対向する際の間隔を200mmとした。
【0013】
(比較例1)
防着板15の温度調整を行わなかった以外は、実施例1と同様に成膜を行った。
【0014】
(実施例2)
図1に示す構造の成膜装置を使用して、第1成膜領域4において、短手方向の長さ145mm、長手方向の長さ640mmの矩形状のSiターゲット8を、真空チャンバ内を0.15Paとして、7.0kWでスパッタリングを行うようにし、第2の成膜領域6において、短手方向の長さ450mm、長手方向の長さ640mmの矩形状のNbターゲット12を、真空チャンバ内を0.15Paとして、7.0kWでスパッタリングを行うようにし、幅直径15mm、厚さ1mmのガラス製基材にSiO膜とNb膜とを交互に合計35層積層した。
尚、成膜期間中は、防着板15,16の温度をそれぞれ280℃、230℃となるように調整を行った。また、ターゲット8,12と基材19とが対向する際の間隔を200mmとした。
【0015】
(比較例2)
防着板15,16の温度調整を行わなかった以外は、実施例2と同様に成膜を行った。
【0016】
図2に、実施例1及び比較例1の成膜の際に真空チャンバ内1に発生したパーティクルをパーティクルカウンタによって測定した結果(左側)と、実施例2及び比較例2で得られた光学薄膜の成膜後のパーティクル密度を測定した結果(右側)を示す。
【0017】
実施例1は、5μm以上の粒径のパーティクルの発生を殆ど抑えることができているのに対して、比較例1は、1.000個/cm程度の割合でパーティクルが生じていることがわかった。
実施例2は、5μm以上の粒径のパーティクル密度が0.010個/cm程度であるのに対して、比較例2は、5μm以上の粒径のパーティクル密度が10.000を超えた。
【0018】
上記結果から、本実施例1及び2は、成膜過程におけるパーティクルの発生を有効に防ぐことができ、得られた光学薄膜は優れた光学特性を備えることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、光学薄膜の分野をはじめとして、広く成膜の分野において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態を説明するための真空チャンバ内の断面図
【図2】(左側)実施例1及び比較例1の成膜の際に真空チャンバ内1に発生したパーティクルをパーティクルカウンタによって測定した結果を示すグラフ、(右側)実施例2及び比較例2で得られた光学薄膜の成膜後のパーティクル密度を測定した結果を示すグラフ
【符号の説明】
【0021】
1 真空チャンバ
2 基材支持手段
3 回転ドラム
4 第1の成膜領域
5 酸化領域
6 第2の成膜領域
7 スパッタカソード
8 ターゲット
9 AC電源
10 Arガス導入系
11 スパッタカソード
12 ターゲット
13 AC電源
14 Arガス導入系
15 防着板
16 防着板
17 酸化プラズマ源
18 Ar及びOガス導入系
19 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバの内周面に、その周面に基材を保持することが可能な回転ドラムを備え、前記回転ドラムの周方向に、防着板により区割された金属ターゲットをスパッタリングするための成膜領域と、スパッタリングされた金属薄膜を酸化するための酸化領域とを備え、前記各領域に基材を通過させ、前記基材上に光学薄膜を成膜するための装置であって、前記防着板に温度制御手段を備えることを特徴とする光学薄膜の成膜装置。
【請求項2】
前記金属ターゲットと前記基材とが対向する際の互いの間隔が120mm〜300mmとなるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の光学薄膜の成膜装置。
【請求項3】
真空チャンバの内周面に、その周面に基材を保持することが可能な回転ドラムを備え、前記回転ドラムの周方向に、防着板により区割された金属ターゲットをスパッタリングするための成膜領域と、前記金属薄膜を酸化するための酸化領域とを備え、前記各領域に基材を通過させ、前記基材上に光学薄膜を成膜するための装置の制御方法であって、前記金属ターゲットをスパッタリングする際に、前記防着板の温度を100℃から400℃の範囲に調整することを特徴とする光学薄膜の成膜装置の制御方法。
【請求項4】
前記金属ターゲットと前記基材とが対向する際の互いの間隔が120mm〜300mmとなるようにしたことを特徴とする請求項3に記載の光学薄膜の成膜装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−91603(P2009−91603A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261065(P2007−261065)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】