説明

光学装置、光記録ヘッド及び光記録装置

【課題】光伝搬素子に対する光の入射角度の変動による光結合効率の低下を緩和させ、効率良く結合させることが容易にできる光学装置を提供する。
【解決手段】光を伝搬する導波路と、光を該導波路に光結合する第1の回折格子とを備えた光伝搬素子を有する光学装置において、前記第1の回折格子に入射する光の光束を広げ発散状態とする発散手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学装置、光記録ヘッド及び光記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は情報記録媒体の高密度化が求められ、様々な方式の記録方法が提案されている。熱アシスト磁気記録方法もそのうちの1つである。高密度化するために1個1個の磁区の大きさを小さくする必要があるが、データを安定して保存するために保磁力の大きい材料を使う。このような記録媒体では書き込むときに強い磁界を発生させる必要があるが、小さくなった磁区に対応する小さなヘッドでは限界がある。
【0003】
そこで、記録時に局所的に加熱して磁気軟化を生じさせ、保磁力が小さくなった状態で記録し、その後に加熱を止めて自然冷却することにより、記録した磁気ビットの安定性を保証する方式が提案されている。この方式は熱アシスト磁気記録方式と呼ばれている。
【0004】
熱アシスト磁気記録方式では、記録媒体の加熱を瞬間的に行うことが望ましい。また、加熱する機構と記録媒体とが接触することは許されない。このため、加熱は光の吸収を利用して行われるのが一般的であり、加熱に光を用いる方法は光アシスト式と呼ばれている。光アシスト式で高密度記録を行う場合、使用光の波長以下の微小な光スポットを必要とする。
【0005】
そのため、入射光の波長以下の大きさの光学的開口から発生する近接場光(近視野光とも称する。)を利用する光ヘッドが利用されている。上記のような微小な光スポットを用いる光記録ヘッドとして以下が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
光記録ヘッドは、書き込み磁極とこの書き込み磁極に隣接したコア層とクラッド層を有する導波路を備えている。コア層には、該コア層内に光を導入する回折格子が設けられ、この回折格子に対して、例えば平行光としたレーザ光を所定の入射角で照射すると、レーザ光は効率よくコア層に結合される。コア層に結合された光は、コア層の先端部の近傍に位置する焦点に収束し、先端部から放射される光により記録媒体が照射され加熱され、書き込み磁極により書き込みが行われる。
【特許文献1】米国特許第6944112号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されている光記録ヘッドにおいて、回折格子を備える導波路(光伝搬素子と称する。)の該回折格子に光を入射させ、コア層に効率良く結合させるためには、回折格子への入射角度許容範囲は、例えば±0.1°程度といった高精度が要求される。このように入射角度許容範囲が狭く高精度が要求されるため、組み立て時に要求される組み立て誤差範囲はさらに狭く、組み立てが容易にできない。
【0008】
また、光記録ヘッドは、記録媒体面に対して微妙に上下動するため、光記録ヘッドと別に設けられた光源からの光が光記録ヘッドの導波路に設けられている回折格子に入射する入射角度が変動する。入射角度が変動すると、光源からの光が回折格子によってコア層に十分に結合できない場合が生じ、記録媒体に対し十分な光を照射できなくなり、安定した記録等ができなくなる。
【0009】
また、回折格子により導波路に結合された光は、導波路が備えている放物面形状の反射面で反射されて焦点に集光され、この焦点近傍に設けられたプラズモンアンテナにより、微小な光スポット(近接場光)を発生させることができる。しかし、上記の上下動方向と垂直な左右方向(記録媒体面に対して平行方向)に、光源からの光の回折格子への入射角度がずれると、導波路を伝搬する光の集光位置が変化し、正確にプラズモンアンテナを照射することができなくなる。このため、記録媒体に十分な光を放射できなくなり、安定した記録等ができなくなる。このため、回折格子に入射する光は、上下方向と共に左右方向の入射角度を高精度に設定にすることが求められる。
【0010】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、光伝搬素子に対する光の入射角度の変動による光結合効率の低下を緩和させ、効率良く結合させることが容易にできる光学装置、光記録ヘッド及び光記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題は、以下の構成により解決される。
【0012】
1. 光を伝搬する導波路と、光を該導波路に光結合する第1の回折格子とを備えた光伝搬素子を有する光学装置において、
前記第1の回折格子に入射する光の光束を広げ発散状態とする発散手段を有することを特徴とする光学装置。
【0013】
2. 前記光伝搬素子は、前記導波路を伝搬する光を集光する反射面を該導波路に有し、
前記発散手段は、格子の形状が、矩形形状、又は、ブレーズ形状である第2の回折格子であることを特徴とする1に記載の光学装置。
【0014】
3. 前記第1の回折格子の格子方向に対する前記第2の回折格子の格子方向は、略平行である、又は、略直交であるの何れかであることを特徴とする2に記載の光学装置。
【0015】
4. 前記第2の回折格子の格子角部の曲率半径をRaとし、前記第1の回折格子の格子角部の曲率半径をRbとすると、
Ra < Rb
であることを特徴とする3に記載の光学装置。
【0016】
5. 前記第1の回折格子の格子方向に対する前記第2の回折格子の格子方向は、略平行及び略直交していることを特徴とする2に記載の光学装置。
【0017】
6. 前記第2の回折格子の格子角部の曲率半径をRaとし、前記第1の回折格子の格子角部の曲率半径をRbとすると、
Ra < Rb
であることを特徴とする5に記載の光学装置。
【0018】
7. 前記第2の回折格子は、1つのプリズム形状部材の1つの面に形成されていることを特徴とする3又は4に記載の光学装置。
【0019】
8. 前記第2の回折格子は、互いに略直交する格子をそれぞれ有する2つの回折格子からなり、前記2つの回折格子は、2つのプリズム形状部材それぞれにおける1つの面に形成されていることを特徴とする5又は6に記載の光学装置。
【0020】
9. 前記第2の回折格子は、互いに略直交する格子をそれぞれ有する2つの回折格子からなり、前記2つの回折格子は、1つのプリズム形状部材における2つの面それぞれに形成されていることを特徴とする5又は6に記載の光学装置。
【0021】
10. 前記第2の回折格子は、互いに略直交する格子が重畳された1つの回折格子であり、
前記1つの回折格子は、1つのプリズム形状部材の1つの面に形成されていることを特徴とする5又は6に記載の光学装置。
【0022】
11. 1乃至10の何れか一項に記載の光学装置を備え、
前記光学装置が有する前記光伝搬素子に結合される光は、前記導波路により伝搬され、記録媒体に向かって射出されることを特徴とする光記録ヘッド。
【0023】
12. 前記導波路の光射出面に近接場光を生じるプラズモンアンテナが設けられていることを特徴とする11に記載の光記録ヘッド。
【0024】
13.11又は12に記載の光記録ヘッドと、
前記光伝搬素子に結合される光を発する光源と、
前記記録媒体と、
を有することを特徴とする光記録装置。
【発明の効果】
【0025】
本発明の光学装置、光記録ヘッド及び光記録装置によれば、光伝搬素子に対する光の入射角度の変動による光結合効率の低下を緩和させ、効率良く結合させることが容易にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、回折格子と導波路とを備える光伝搬素子を備え、該光伝搬素子に光源からの光を効率良く導入する光学装置に関するものであって、例えば光磁気記録媒体又は光記録媒体に記録を行う光記録ヘッドに使用できる。
【0027】
以下、本発明を図示の実施の形態である光記録ヘッドに磁気記録部を有する光アシスト式磁気記録ヘッドとそれを備えた光記録装置に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限られない。尚、各実施の形態の相互で同一の部分や相当する部分には同一の符号を付して重複の説明を適宜省略する。
【0028】
図1に光アシスト式磁気記録ヘッドを搭載した光記録装置(例えばハードディスク装置)の概略構成例を示す。この光記録装置100は、以下(1)〜(6)を筐体1の中に備えている。
(1)記録用のディスク(記録媒体)2
(2)支軸6を支点として矢印Aの方向(トラッキング方向)に回転可能に設けられたアーム5に支持されたサスペンション4
(3)アーム5に取り付けられたトラッキング用アクチュエータ7
(4)サスペンション4の先端に取り付けられた光アシスト式磁気記録ヘッド(以下、光記録ヘッド3と称する。)
(5)ディスク2を矢印Bの方向に回転させるモータ(図示しない)
(6)トラッキング用アクチュエータ6、モータ及びディスク2に記録するために書き込み情報に応じて照射する光、磁界の発生等の光記録ヘッド3の制御を行う制御部8
こうした光記録装置100は、光記録ヘッド3がディスク2上で浮上しながら相対的に移動しうるように構成されている。
【0029】
図2は、光記録ヘッド3の一例の記録書き込み周辺部を側面から概念的に示している。光記録ヘッド3は、ディスク2に対する情報記録に光を利用する光記録ヘッドであって、スライダ30、光伝搬素子20、磁気記録部40等を備えている。光伝搬素子20は、導波路型ソリッド・イマージョン・ミラー(PSIM;Planar Solid Immersion Mirror)とも称され、以降で説明する。
【0030】
スライダ30は、磁気記録媒体であるディスク2の上を浮上しながらディスク2に対して相対的に移動するため、スライダ30のディスク2と対向する面には、浮上特性向上のためのABS面32(Air Bearing Surface:空気ベアリング面)を有している。
【0031】
光源50は、例えばレーザ素子、光ファイバ射出端部等と、例えば複数枚のレンズを備えた光学系とを組み合わせたものが挙げられ、略平行光を射出する。
【0032】
光源50から略平行光として射出される光52は、本発明に係わる発散手段の一例であるプリズム51A(図5参照)で光束が広げられ、また偏向され、所定の入射角で光伝搬素子20が備えている第1の回折格子である回折格子20aに入射する。プリズム51Aは、光源50と光伝搬素子20の間に配置されている。
【0033】
プリズム51Aは、光源50から射出された光52を光伝搬素子20の回折格子20aに効率よく結合する所定の入射角で入射できる方向に、光52を偏向するとともに、プリズム51Aに入射した光52をその光束が広がるように発散させた光52aとして射出する。プリズム51Aに関しては、後で説明する。
【0034】
プリズム51Aで偏向され、射出された光52aは、光伝搬素子20の回折格子20aに入射し、光伝搬素子20に結合する。光伝搬素子20に結合した光は、下端面24に進み、加熱のための放射光60としてディスク2に向かって放射される。尚、図2では、下端面24の光を放射する位置又はその近傍に設けている後述のプラズモンアンテナ24dを省略している。
【0035】
光源50を固定する位置は、図2のように光記録ヘッドに近く光路を短くできるサスペンション4としているが、アーム5に固定してもよく、光源50の発熱、質量、固定による応力等を考慮して適宜配置すればよい。
【0036】
放射光60が微小な光スポットとしてディスク2に照射されると、ディスク2の照射された部分の温度が一時的に上昇してディスク2の保磁力が低下する。その保磁力の低下した状態の照射された部分に対して、磁気記録部40により磁気情報が書き込まれる。また、磁気記録部40の退出側又は光伝搬素子20の流入側にディスク2に書き込まれた磁気記録情報を読み出す磁気再生部41を設けてもよい。
【0037】
光伝搬素子20に関して説明する。光伝搬素子20の正面図を図3、図3の軸Cにおける断面図を図4にそれぞれ模式的に示す。光伝搬素子20は、導波路を構成するコア層21とクラッド層22を有し、コア層21には、光52aが入射する回折格子20aが形成されている。図3においては、光52aは、光スポットとして示している。導波路は、屈折率が異なる物質による複数層で構成することができ、コア層21の屈折率は、クラッド層22の屈折率より大きい。この屈折率差により導波路が構成され、コア層21内の光はコア層21内部に閉じ込められ、効率よく矢印25の方向に進み、下端面24に到達する。
【0038】
コア層21は、Ta、TiO、ZnSe等で形成され、厚みは約20nmから500nmの範囲としてよく、またクラッド層22は、SiO、空気、Al等で形成され、厚みは約200nmから2000nmの範囲としてよい。
【0039】
コア層21は、回折格子20aにより結合された光を焦点Fに集光するため、焦点Fに向かって反射するように形成された、外周面の輪郭形状が放物線である側面26、27を備えている。図3において、放物線の左右対称の中心軸を軸C(準線(図示しない)に垂直で焦点Fを通る線)で示し、放物線の焦点を焦点Fとして示している。側面26、27には、例えば金、銀、アルミニウム等の反射物質を設けて、光反射損失をより少なくする助けとしてもよい。
【0040】
また、導波路のコア層21の下端面24は、放物線の先端が切断されたような平面形状をしている。焦点Fから放射される光は急に広がるため、下端面24の形状を平面とすることにより、ディスク2に焦点Fをより近くに配置することができるので好ましく、また、下端面24に焦点Fを形成してもよい。
【0041】
コア層21の焦点F又はその近傍に、近接場光発生用のプラズモンアンテナ24dを配置してもよい。プラズモンアンテナ24dの具体例を図16に示す。
【0042】
図16において、(a)は三角形の平板状金属薄膜(材料例:アルミニウム、金、銀等)からなるプラズモンアンテナ24d、(b)はボウタイ型の平板状金属薄膜(材料例:アルミニウム、金、銀等)からなるプラズモンアンテナ24dであり、何れも曲率半径20nm以下の頂点Pを有するアンテナからなっている。また、(c)は開口を有する平板状金属薄膜(材料例:アルミニウム、金、銀等)からなるプラズモンアンテナ24dであり、曲率半径20nm以下の頂点Pを有するアンテナからなっている。
【0043】
これらのプラズモンアンテナ24dに光が作用すると、その頂点P近辺に近接場光が発生して、非常に小さいスポットサイズの光を用いた記録又は再生を行うことが可能となる。つまり、コア層21の焦点F又はその近傍にプラズモンアンテナ24dを設けることにより局所プラズモンを発生させれば、焦点に形成された光スポットのサイズをより小さくすることができ、高密度記録に有利となる。尚、焦点Fにプラズモンアンテナ24dの頂点Pが位置することが好ましい。
【0044】
光伝搬素子20の回折格子20aは、コア層21に設けてある側面26、27の形状である放物線の準線に対して平行な複数の溝により構成されている。図4に示すように、回折格子20aに対して、y−z面内で所定の入射角θvでプリズム51Aから射出される光52aを入射させることにより、光を効率よくコア層21に結合することができる。
【0045】
回折格子20aに入射する光52aの入射角θvに対する角度誤差Δθvとして±0.1°程度以上の角度ずれが生じると光結合効率が低下し、コア層21に結合される光が実用上問題となる程度まで低下する。
【0046】
光源50から発せられる光52は、プリズム51Aに入射し、偏向されて回折格子20aに向かって射出される。プリズム51Aの光学断面を図5に示す。プリズム51Aに入射する光52は、面S1より入射し、反射面である面S2で反射され、回折格子(第2の回折格子)が設けてある面S3で回折され、面S4(S2)から射出される。面S4から射出する光52a(図5に示す光52aの実線矢印)は、光伝搬素子20の回折格子20aに所定の入射角度θvで入射する入射光でもある。
【0047】
光52の光軸、面S2による反射光軸、面S3による回折光軸は同一の偏向面(y−z面)内であり、回折格子20aへの入射光軸も同一偏向面内とする。この場合、偏向面と回折格子20aの溝の方向とは直交関係となり、回折格子20aの格子方向と面S3の回折格子の格子方向とは、同方向(略平行関係)となる。
【0048】
プリズム51Aの面S3に設けている回折格子(第2の回折格子)に関して説明する。図6(a)のように、回折格子の溝が理想的な正弦波形状で、この回折格子に光52の様な平面波(平行光)が入射する際、回折格子からの射出光は完全に一方向に射出される。図6(a)に示す正弦波形状のフーリエ変換により波数ベクトルkを求めると、図6(b)に示すようにデルタ関数になり、プリズム51Aに入射する光52は、単に回折光として方向を変えて射出される。例えば、図5において実線矢印で示す光52aがこれに該当する。
【0049】
一方、図7(a)に示すような回折格子の格子形状を矩形形状(実線で示す形状)やブレーズ形状(点線で示す形状)とする回折格子に光52の様な平面波(平行光)を入射させると、波数ベクトルkは図7(b)に示すように広がりを持つ。すなわち、平行光として入射する光52は回折され、光52aの射出方向をy−z面内で光52aを中心としてθv方向に広げることができる。具体的には、図5において、光52aを、破線矢印で示す光52a−1,光52a−2の様に射出方向をθv方向に広げることができる。
【0050】
プリズム51Aを介して光52を光伝搬素子20に入射させると、プリズム51Aは光伝搬素子20の回折格子20aに入射する光52aを広げ発散状態にする。このため、見かけ上、回折格子20aに入射する光52aのθv方向の入射角度許容範囲を緩和することができ、この結果、回折格子20aの光結合効率の低下を抑えることができる。
【0051】
回折格子20aの入射角度許容範囲Δθvは、例えば±0.1°程度といった狭い範囲であるが、プリズム51Aを介した回折格子20aの入射角度許容範囲は、光52a−1、光52a−2の角度範囲が加味された値となる。例えば、光52a−1、光52a−2の角度範囲が、光52aの光軸に対して±0.3°程度とし、プリズム51Aからの射出する光52aの光軸と回折格子20aの所定の入射角度の光軸とが一致しているとすると、プリズム51Aに対する光52の入射角度許容範囲は、±0.2°以上となって緩和することができる。
【0052】
また、光記録装置としての動作時、サスペンション4に反り等が生じ、光伝搬素子20の回折格子20aの入射角度に対するプリズム51Aの射出光である光52aの角度ずれの影響も緩和することができる。
【0053】
また、プリズム51Aを設けることにより、例えば、サスペンション4に、光源50、光伝搬素子20が設けられたスライダ30を組み付ける際、組み立て精度を緩和することができ、組み立てをより容易にすることができる。
【0054】
更に、上記のプリズム51Aが備える回折格子の格子形状に加えて、格子の角部の曲率半径Ra、光伝搬素子20の回折格子20aの格子の角部の曲率半径Rbとすると、
Rb>Ra (1)
とするのが好ましい。このようにすると、プリズム51Aの回折格子の波数ベクトルkをより広がりを持つようにすることができ、光52a−1、光52a−2の射出方向をより広げることができる。
【0055】
回折格子20aの格子方向と面S3の回折格子の格子方向とは、略平行とするのが最も好ましい。略平行とすると、面S3による回折光をベクトルとして考えた場合最も多くのベクトル成分が回折格子20aへの入射光軸の同一偏向面内となるため、回折格子20aへの結合効率を最も大きくすることができ、上述の効果が最も大きくなる。尚、略平行からずれるに従い、上述の効果が低下していく。
【0056】
プリズム51Aは、例えば、熱可塑性樹脂を材料として射出成形法やプレス成形法により形成することが出来る。熱可塑性樹脂としては、例えば、ZEONEX(登録商標)480R(日本ゼオン(株))、PMMA(ポリメチルメタクリレート、例えば、スミペックス(登録商標)MGSS、住友化学(株))、PC(ポリカーボネート、例えば、パンライト(登録商標)AD5503、帝人化成(株))等が挙げられる。また、ガラスを材料として、プレス成形法により形成することもできる。
【0057】
光伝搬素子20の回折格子20aは、例えば、SiO膜をフォトリソグラフィ及びエッチング処理により形成する場合があり、この場合、回折格子20aの格子の角部の曲率半径Rbは大きくなる傾向にある。一方、樹脂材料からなるプリズム51Aの回折格子は、成形法により形成することができ、格子の角部の曲率半径Raは、回折格子20aの格子の角部の曲率半径Rbより十分に小さくすることができ、上記の条件式(1)を容易に満たすことができる。
【0058】
プリズム51Aにおいて、形状、及び、回折格子の位置がこれに限定されるものではなく、例えば、光学断面が図8に示すような、プリズム51Bとしてもよい。プリズム51Bに入射する光52は、面S1より入射し、反射面である面S2で反射され、回折格子(第2の回折格子)が設けてある面S3で回折され、射出される。
【0059】
面S3から射出する光52a(図8に示す光52aの実線矢印)は、光伝搬素子20の回折格子20aに所定の入射角度θvで入射する入射光である。回折格子の格子形状や、格子の角部の曲率半径をプリズム51Aに関して説明した内容と同様とすることにより、光52aの射出方向を光52a−1、光52a−2で示すようにθv方向に広げ発散状態とすることができ、プリズム51Aの場合と同様の効果を得ることができる。
【0060】
これまで、図4に示すように、光52aが回折格子20aに入射する際の、y−z面内における所定の入射角θvの入射角度許容範囲について説明した。次に、図9に示すように、光52aが回折格子20aに入射する際の、y−z面から傾く(θh方向)入射角度許容範囲に関して説明する。
【0061】
図9は図3で示した光伝搬素子20を下端面24側から見た様子を示している。図9において、コア層21の焦点Fには、図示しないプラズモンアンテナが設けられており、その大きさは数百nm程度である。近接場光を効率よく発生させるには、プラズモンアンテナの位置とコア層21内を伝搬して集光する位置との位置合わせを、数十nmの精度で行うことが要求される。
【0062】
プリズム51Aから射出される光52aが、y−z面内からθh方向に傾くことによる角度ずれを角度誤差Δθhとすると、±0.1°程度以上の角度ずれが生じると焦点Fへの集光率が低下し、プラズモンアンテナによる近接場光の発生が実用上問題となる程度まで低下する。
【0063】
これに対応するためは、例えば図10に示すプリズム51Cがある。プリズム51Cにおいて、光52は、面S1から入射し、反射面である面S2で反射され、面S3から射出する。面S3から射出する光52aのθv方向は、光伝搬素子20の回折格子20aに所定の入射角度θvで入射する方向となるように面S2の傾きが定めてある。
【0064】
面S3に、プリズム51Aで説明した内容と同じ形状で、回折格子20aの格子方向と略直交方向の回折格子を設ける。これにより、上記で説明した回折格子20aへの光52aのθv方向の入射角度許容範囲の緩和と同様に、光52が面S1より入射した光52は、回折格子が設けてある面S3でθh方向に広げられて射出されるため、見かけ上、回折格子20aへの光52aのθh方向の入射角度許容範囲が緩和でき、この結果、焦点Fへの集光率の低下を抑えることができる。
【0065】
回折格子20aの格子方向と面S3の回折格子の格子方向とは、略直交とするのが好ましい。略直交とすると、面S3による回折光をベクトルとして考えた場合最も多くのベクトル成分が、回折格子20aへの所定の入射角度θvで、且つ、入射光軸の同一偏向面に対して垂直な面内となるため、焦点Fへの集光率の低下をもっと抑えることができる。尚、略直交からずれるに従い、焦点Fへの集光率の低下を抑える効果は低下していく。
【0066】
ここで、図15の概念図に示す様に、光52をθv方向に射出光を広げる例えばプリズム51Aのような素子511とθh方向に光52aを広げる例えばプリズム51Cのような素子512を組み合わせることで、見かけ上、回折格子20aへの光52aのθv方向及びθh方向の入射角度許容範囲を緩和することができる。よって、回折格子20aの光結合効率の低下を抑えることができ、また、焦点Fへの集光率の低下を抑えることができる。また、動作時の位置ずれ・角度ずれの緩和、組み立て時の組み立て精度を緩和できる。
【0067】
上記では、光52をθv方向及びθh方向の2方向に射出光を広げるため、プリズム2個を使用している例を示したが、プリズム1個で対応する例を図11、図12に示す。プリズム1個とすることにより、構成が簡単で、小型で軽量とすることができる。
【0068】
図11に示すプリズム51Dは、光52が面S1より入射し、回折格子Aが設けてある面S2で光52がθv方向に広げられ、次に回折格子Bが設けてある面S3で光52がθh方向に広げられ射出される。すなわち回折格子A、回折格子Bのそれぞれの格子は互いに直交する関係であり、回折格子Aの格子方向は、回折格子20aの格子の方向と略平行であり、回折格子Bの格子方向は、回折格子20aの格子の方向と垂直である。
【0069】
回折格子A、回折格子Bのそれぞれの回折格子は、プリズム51Aで説明した内容と同じ形状である。プリズム51Dを用いることにより、図15を用いて説明したプリズム2個を組み合わせた場合と同様の効果を得ることができる。
【0070】
また、光52をθv方向及びθh方向の2方向に広げることができる例としてプリズム51Eを図12示す。プリズム51Eにおいて、光源からの光52が面S1より入射し、面S2で反射され、回折格子が設けられた面S3から回折された光52aが射出される。
【0071】
面S3には、回折格子20aの格子の方向と略平行な格子と回折格子20aの格子の方向と垂直な格子とする、互いに直交する2つの格子が重畳された回折格子を備え、面S2で反射されて入射する光を、θv方向及びθh方向の2方向に広げることができる。2つの格子は、プリズム51Aで説明した内容と同じ形状である。プリズム51Eを用いることにより、プリズム51Dと同様の効果を得ることができる。
【0072】
プリズム51Eは、プリズム51Dと比較して、回折格子が設けられる面が1面であり、構成を一層簡便にすることができる。
【0073】
これまで、光伝搬素子20の回折格子20aに入射する光52を広げ発散状態とするために回折格子を用いる例を示したが、回折格子のようなパッシブ素子ではなくアクティブ素子を使用することもできる。
【0074】
アクティブ素子の例として、図13に示すような入射光52を1方向に可動するMEMSミラー51G(静電力や電磁力、圧電力を駆動源とした小型の可動ミラー)を用いて入射する光52をθv方向に微小角度走査して光52aとすることにより、見かけ上、回折格子20aへの光52aのθv方向の入射角度許容範囲を緩和することができる。また、図15の概念図に示す様に、走査走行が上記のθv方向のMEMSミラーとする素子511と、θh方向のMEMSミラーとする素子512の2つを組み合わせて、見かけ上、回折格子20aへの光52aのθv方向、及びθh方向の入射角度許容範囲を緩和することができる。
【0075】
アクティブ素子の他の例として図14に示す様に、光源からの光52を電気光学結晶でできたプリズム51Hに入射させる方法がある。光52は面S3で屈折して射出するが、プリズム51Hの屈折率が変わると屈折角も変化し、光52aの射出角度を走査することができる。
【0076】
上下に斜線で示した部分は電極51H−1、電極51H−2で、これら2つの電極51H−1、電極51H−2の間の電位差を変えることにより、プリズム51Hの屈折率を変えることができる。これらの電極のうち少なくとも光が透過する面S3の電極51H−2はITOなどの透明電極する必要がある。プリズム51Hを上記のMEMSミラー51G置き換えることで、MEMSミラー51Gの場合と同じ効果を得ることができる。
【0077】
以上説明してきた実施の形態は、光アシスト磁気記録ヘッド、及び光アシスト磁気記録装置に関するものであるが、該実施の形態の要部構成を、記録媒体を光記録ディスクとした光記録ヘッド、光記録装置に利用することも可能である。この場合は、スライダ30に設けた磁気記録部40、磁気再生部41は不要である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】光アシスト式磁気記録ヘッドを搭載した光記録装置の概略構成の例を示す図である。
【図2】光記録ヘッドの周辺部を側面から示す図である。
【図3】光伝搬素子の正面を示す図である。
【図4】光伝搬素子の断面を示す図である。
【図5】光束を広げ発散状態とする発散手段の一例である回折格子を備えたプリズムの光学断面を示す図である。
【図6】回折格子の溝が理想的な正弦波形状である場合の波数ベクトルkを説明する図である。
【図7】回折格子の溝が矩形形状(実線で示す形状)やブレーズ形状(点線で示す形状)である場合の波数ベクトルkを説明する図である。
【図8】光束を広げ発散状態とする発散手段の一例である回折格子を備えたプリズムの光学断面を示す図である。
【図9】光伝搬素子の底面を示す図である。
【図10】光束を広げ発散状態とする発散手段の一例である回折格子を備えたプリズムの外観を示す斜視図である。
【図11】光束を広げ発散状態とする発散手段の一例である回折格子を2面に備えたプリズムの外観を示す斜視図である。
【図12】光束を広げ発散状態とする発散手段の一例である回折格子が1面に重畳しているプリズムの外観を示す斜視図である。
【図13】光束を広げ発散状態とする発散手段の一例であるMEMSミラーを説明する図である。
【図14】光束を広げ発散状態とする発散手段の一例である電気光学結晶でできたプリズムを説明する図である。
【図15】光束を2次元に広げ発散状態とする発散手段の構成を説明する図である。
【図16】プラズモンアンテナの例を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
1 筐体
2 ディスク
3 光記録ヘッド
4 サスペンション
5 アーム
20 光伝搬素子
21 コア層
22 クラッド層
24 下端面
24d プラズモンアンテナ
26、27 側面
20a 回折格子
30 スライダ
32 ABS面
40 磁気記録部
41 磁気再生部
50 光源
51A、51B、51C、51D、51E、51H プリズム
51G MEMSミラー
60 放射光
100 光記録装置
C 軸
F 焦点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を伝搬する導波路と、光を該導波路に光結合する第1の回折格子とを備えた光伝搬素子を有する光学装置において、
前記第1の回折格子に入射する光の光束を広げ発散状態とする発散手段を有することを特徴とする光学装置。
【請求項2】
前記光伝搬素子は、前記導波路を伝搬する光を集光する反射面を該導波路に有し、
前記発散手段は、格子の形状が、矩形形状、又は、ブレーズ形状である第2の回折格子であることを特徴とする請求項1に記載の光学装置。
【請求項3】
前記第1の回折格子の格子方向に対する前記第2の回折格子の格子方向は、略平行である、又は、略直交であるの何れかであることを特徴とする請求項2に記載の光学装置。
【請求項4】
前記第2の回折格子の格子角部の曲率半径をRaとし、前記第1の回折格子の格子角部の曲率半径をRbとすると、
Ra < Rb
であることを特徴とする請求項3に記載の光学装置。
【請求項5】
前記第1の回折格子の格子方向に対する前記第2の回折格子の格子方向は、略平行及び略直交していることを特徴とする請求項2に記載の光学装置。
【請求項6】
前記第2の回折格子の格子角部の曲率半径をRaとし、前記第1の回折格子の格子角部の曲率半径をRbとすると、
Ra < Rb
であることを特徴とする請求項5に記載の光学装置。
【請求項7】
前記第2の回折格子は、1つのプリズム形状部材の1つの面に形成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の光学装置。
【請求項8】
前記第2の回折格子は、互いに略直交する格子をそれぞれ有する2つの回折格子からなり、前記2つの回折格子は、2つのプリズム形状部材それぞれにおける1つの面に形成されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の光学装置。
【請求項9】
前記第2の回折格子は、互いに略直交する格子をそれぞれ有する2つの回折格子からなり、前記2つの回折格子は、1つのプリズム形状部材における2つの面それぞれに形成されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の光学装置。
【請求項10】
前記第2の回折格子は、互いに略直交する格子が重畳された1つの回折格子であり、
前記1つの回折格子は、1つのプリズム形状部材の1つの面に形成されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の光学装置。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか一項に記載の光学装置を備え、
前記光学装置が有する前記光伝搬素子に結合される光は、前記導波路により伝搬され、記録媒体に向かって射出されることを特徴とする光記録ヘッド。
【請求項12】
前記導波路の光射出面に近接場光を生じるプラズモンアンテナが設けられていることを特徴とする請求項11に記載の光記録ヘッド。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の光記録ヘッドと、
前記光伝搬素子に結合される光を発する光源と、
前記記録媒体と、
を有することを特徴とする光記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−27184(P2010−27184A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190827(P2008−190827)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】