説明

光学部品およびその光学部品の製造方法

【課題】 軽量で設計自由度も高い光学部品の製造方法を提供すること。
【解決手段】 耐熱性のプラスチックを射出成形することによって基材を形成する基材成形工程と、 その基材に対して透明皮膜を形成する蒸着工程とを含む。前記の基材成形工程においては、射出成形のための金型を、前記の蒸着工程における雰囲気温度よりも高く設定し、 前記の蒸着工程は、二酸化珪素と酸化チタンまたは酸化チタン系複合材の二層膜とを多層として光学膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂製の光学部品たるダイクロイックフィルタまたはダイクロイックミラー、特に耐熱性に優れ、設計の自由度、加工精度にも優れたダイクロイックフィルタまたはダイクロイックミラーを備えた光学部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光を透過させる基材としてのガラスに対して、所定の波長の光を反射させて透過させないために設ける薄膜のことをダイクロイックフィルタという。なお、反射させた光を使うこともあり、その場合にはダイクロイックミラーと呼ばれる。
例えば、白色光を通過させたとき、波長600〜780nmの光だけが通過する薄膜を設けると、赤い光だけが透過する。この場合の薄膜たるフィルタは、白色光を透過させた時に赤く見えるダイクロイックフィルタとなる。
【0003】
ダイクロイックフィルタやダイクロイックミラーは、光学部品として広く使われている。例えば、特許文献1に記載されるような技術である。
【0004】
【特許文献1】特開2001−116921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ダイクロイックミラーおよびダイクロイックフィルタは、平滑な光学ガラス面上に構成されていた。そのため、ガラスという素材の性質上、設計の自由度に制限があり、精密な加工精度が要求されると高価になる、軽量化が困難である、といった欠点があった。
すなわち、ダイクロイックミラーおよびダイクロイックフィルタは、平滑な光学ガラス面上に構成されていた。そのため、ガラスという素材の性質上、設計の自由度に制限があり、精密な加工精度が要求されると高価になる、軽量化が困難である、といった欠点があった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、基材に透明なプラスチックを使用することにより、取り扱い・組込み性も良好な光学面をもった製品を提供する。すなわち、軽量で設計自由度も高い光学製品の製造技術を提供することにある。
請求項1に記載の発明の目的は、軽量で設計自由度も高い光学製品(ダイクロイックミラーおよびダイクロイックフィルタなど)を提供することである。
請求項2から請求項4に記載の発明の目的は、軽量で設計自由度も高い光学製品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(請求項1)
請求項1記載の発明は、 耐熱性のプラスチックによる基材と、 その基材に対する物理的蒸着によって固定された透明皮膜とを備え、 その透明皮膜は、二酸化珪素と酸化チタンまたは酸化チタン系複合材の二層膜とを多層とした光学膜として形成したことを特徴とする光学部品に係る。
【0008】
(用語説明)
「基材」の材質は、透過度が高く、耐熱性に優れたプラスチック材料(PC、PET、PEN、COPなど)を用いる。製膜される膜の総数よって、輻射熱に耐えうるプラスチック基材の選定が必要となる。
「物理蒸着」とは、PVD(Physical Vapor Deposition)法ともいう。物質の表面に薄膜を形成する蒸着法のひとつであり、気相中で物質の表面に物理的手法により目的とする物質の薄膜を堆積する。主なPVD皮膜としては、TiN(窒化チタン)、TiC(チタンカーバイト)、TiAlN(窒化チタンアルミ)、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)などがある。
【0009】
「光学膜」は、二酸化珪素(SiO)と酸化チタンまたは酸化チタン系複合材(たとえば五酸化タンタルTa−TiO)の二層膜とを十回以上反復させて製膜することによって製造する。各薄膜の厚さは、100nm前後であり、70〜150nm程度が好ましい。試作および実験によれば、27回(27層)の反復による製膜にて、必要な性能を得ることが出来た。
【0010】
(作用)
本請求項に記載された光学部品は、基材を耐熱性のあるプラスチックにて形成しているので、熱を発生する光源を用いる製品に、例えばダイクロイックフィルタやダイクロイックミラーとして用いることが出来る。
従来はガラス製であったダイクロイックフィルタやダイクロイックミラーをプラスチック製としたので、軽量化を達成することが出来る。また、プラスチック製であるのでガラスよりも破損しにくく、形状を含めた設計の自由度が高いので、製品の小型化にも寄与する。
【0011】
(請求項2)
請求項2に記載の発明は、 耐熱性のプラスチックを射出成形することによって基材を形成する基材成形工程と、 その基材に対して透明皮膜を形成する蒸着工程とを含むことによって光学部品を製造する方法に係る。
すなわち、前記の基材成形工程においては、射出成形のための金型を、前記の蒸着工程における雰囲気温度よりも高く設定し、 前記の蒸着工程は、二酸化珪素と酸化チタンまたは酸化チタン系複合材の二層膜とを多層として光学膜を形成することとしたことを特徴とする。
【0012】
(用語説明)
「蒸着工程における雰囲気温度」は、基材の熱変形温度が上限となる。例えば基材にCOPを採用した場合には、熱変形温度が摂氏120度となるので、製膜を実施する蒸着機の内部の雰囲気温度は摂氏120度を超えないように設定する必要がある。
基材の射出成形においては、ここで設定された温度よりも、射出成形のための金型を加熱しておいてから射出成形を行うこととなる。
【0013】
(作用)
射出成形によって加工された光学部品であるため、形状の自由度が大きく、取付け部たるボスや穴も事前に構成することができる。
例えば、光学面を平面、曲面、非球面、自由曲面などを設計することが可能である。また、熱による基材自体の変形や、それに伴う光学膜の損傷の恐れが小さい。したがって、光源から熱が発生するような部材においても使用できる場合が広がる。
またプラスチック素材がガラスに比べて軽量で且つ耐熱性にも優れているため、当該光学部品を組み込んだ最終製品の軽量化につながる。ガラスを用いた光学部品に比べて外力に強く、安全性も高くなる。
【0014】
(請求項3)
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の光学部品の製造方法を限定したものであり、
前記の蒸着工程においては、高真空状態における比較的長い時間排気することとしたことを特徴とする。
【0015】
(用語説明)
ここにいう「高真空状態」とは、10−1〜10−5Paをいう。
排気時間につき、「比較的長い時間」とは、ガラスなどの無機材料に比べて成型時にガスを内部に取り込んでいる恐れが高いために長い時間を要する、という趣旨である。例えば、30〜90分程度である。長いほどよいが、製造時間、製造コストの短縮のためには、前述の時間が好ましい。
【0016】
(請求項4)
請求項4に記載の発明は、請求項2または請求項3のいずれかに記載の光学部品の製造方法を限定したものであり、
前記の基材成形工程にて形成された基材に対して、前記の蒸着工程の前に、歪み及び/または残留応力を除去するアニール工程を含むこととしたを特徴とする。
【0017】
(用語説明)
ここにいう「アニール工程」とは、歪み及び/または残留応力を除去したい材料について、高温下でさらす工程である。
その最高温度は、基材が変形しない温度以下であり、保持時間は数時間から1日程度である。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の発明によれば、軽量で設計自由度も高い光学部品を提供することができた。
請求項2から請求項4に発明によれば、軽量で設計自由度も高い光学部品の製造方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、図1および図2を参照して、本発明を適用したダイクロイックフィルタの製造手順を説明する。600nm〜700nm(赤色)の波長を反射し、それ以外の波長を透過するダイクロイックフィルタを例にあげる。
【0020】
(射出成形)
耐熱性のプラスチックであるCOPを射出成形することによって基材を形成する。射出成形のための金型は、予め摂氏100〜110度くらいに加熱しておき、その後成形を行う。
成形後は、アニール工程によって、歪み及び/または残留応力を十分に除去する。
【0021】
(蒸着工程)
次に、その基材に対して蒸着工程によって透明皮膜を形成する。この蒸着は、PVD(Physical Vapor Deposition)法である。
蒸着工程における雰囲気温度は、熱変形温度が摂氏120度であるCOPが基材であるので、製膜を実施する蒸着機の内部の雰囲気温度は摂氏120度を超えないように設定する。
また、高真空状態(10−1〜10−5Pa)における比較的長い時間排気する。ガラスなどの無機材料に比べて成型時にガスを内部に取り込んでいる恐れが高いためである。
【0022】
前記の透明被膜は、図1に示すように、二酸化珪素と五酸化タンタルの二層膜とを多層とする。二酸化珪素(SiO)と酸化チタン系複合材である五酸化タンタル(Ta−TiO)の二層膜とを十回以上反復させて製膜することによって製造する。最初に、二酸化珪素(SiO)の薄膜とし、次に酸化チタン系複合材である五酸化タンタル(Ta−TiO)の薄膜とし、その繰り返しの後、27層目を二酸化珪素(SiO)の薄膜とする。
各薄膜の厚さは、100nm前後であるが、最後(最外)の二酸化珪素の膜は50nm以下でも構わない。
【0023】
図2には、分光光度計にて透過・反射率を測定したデータ(別資料)を示す。600nm〜700nm(赤色)の波長を反射できるフィルタであることが分かる。
【0024】
以上のようにして作成されたダイクロイックフィルタは、以下のような特徴がある。
まず、射出成形よって加工された光学部品であるため、形状の自由度が大きい。他の部品の取付け部となるボスや固定用の孔も事前に構成することができる。
また、例えば、光学面を平面、曲面、非球面、自由曲面などを設計することが可能である。また、熱による基材自体の変形や、それに伴う光学膜の損傷の恐れが小さい。したがって、光源から熱が発生するような部材においても使用できる場合が広がる。
更に、プラスチック素材がガラスに比べて軽量で且つ耐熱性にも優れているため、当該光学部品を組み込んだ最終製品の軽量化につながる。ガラスを用いた光学部品に比べて外力に強く、耐衝撃性など安全性も高められる。
【0025】
以上、赤色の光をフィルタリングできるダイクロイックフィルタを説明したが、緑色の光をフィルタリングするためのダイクロイックフィルタ、青色の光をフィルタリングするためのダイクロイックフィルタとも、二酸化珪素と酸化チタンまたは酸化チタン系複合材の二層膜における各層の厚さや層数を異ならせることで形成可能である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本願発明は、光学部品の製造業、ダイクロイックフィルタやダイクロイックミラーなどを用いた液晶プロジェクタの製造業、液晶プロジェクタのリース、メンテナンス業などにおいて、利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態であるダイクロイックフィルタの断面図である。
【図2】本発明の実施形態であるダイクロイックフィルタの光学特性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性のプラスチックによる基材と、
その基材に対する物理的蒸着によって固定された透明皮膜とを備え、
その透明皮膜は、二酸化珪素と酸化チタンまたは酸化チタン系複合材の二層膜とを多層とした光学膜として形成したことを特徴とする光学部品。
【請求項2】
耐熱性のプラスチックを射出成形することによって基材を形成する基材成形工程と、
その基材に対して透明皮膜を形成する蒸着工程とを含むことによって光学部品を製造する方法であって、
前記の基材成形工程においては、射出成形のための金型を、前記の蒸着工程における雰囲気温度よりも高く設定し、
前記の蒸着工程は、二酸化珪素と酸化チタンまたは酸化チタン系複合材の二層膜とを多層として光学膜を形成することとした光学部品の製造方法。
【請求項3】
前記の蒸着工程においては、高真空状態における比較的長い時間排気することとしたことを特徴とする請求項2に記載の光学部品の製造方法。
【請求項4】
前記の基材成形工程にて形成された基材に対して、前記の蒸着工程の前に、歪み及び/または残留応力を除去するアニール工程を含むこととしたを特徴とする請求項2または請求項3のいずれかに記載の光学部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−268764(P2008−268764A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114759(P2007−114759)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(392034746)吉川化成株式会社 (22)
【Fターム(参考)】