説明

光導波路及び光軸調整方法

【課題】目視により容易に光軸調整を行うことができる光導波路及び光軸調整方法を提供する。
【解決手段】光導波路において、光を伝搬する導波路1と、前記導波路1の基板水平方向の側方のうち少なくとも一方に配置される光を伝搬するスラブ導波路4と、前記スラブ導波路4内に該スラブ導波路4の端面からそれぞれ異なる距離で2列以上形成され基板垂直方向に光の光路を変換する光路変換手段を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路及び光軸調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の光ネットワークを形成している光部品は多種多様におよぶ。その中でも、光導波路は、高度な光の処理を行うために重要な位置を占めている。
光導波路に外部から光を導入する、又は、光導波路の内部から光を取り出す方法としては、主として、直接部品同士を突き合わせ光結合を得る方法と、レンズを介して光結合を得る方法とがある。
【0003】
直接部品同士を突き合わせ光結合を得る方法には、光導波路と光ファイバーという2つの部材を、その他の部品を介さず直接突き合わせるような場合が相当する。例えば、石英系平面光波回路と光ファイバーとの結合は、多くの場合、突き合わせにより実施されている。また、石英系平面光波回路と石英系平面光波回路との突き合わせも実施されている。さらに言うと、半導体レーザを石英系平面光波回路に搭載したハイブリット部品があるが、これらも突き合わせに相当する。
【0004】
しかし、2つの光部品の突き合わせにより光結合を得る場合、両者の突き合わせ箇所でモードフィールドが近くない場合は、結合損失が大きくなってしまう。そこで、このような場合にはレンズを介して光結合を得る。特に、半導体からなる光導波路の場合、半導体材料の屈折率が高く、シングルモード伝搬する導波路のコアのサイズは小さくなるため、直接突き合わせによる光結合を実施しようとすると、位置トレランスが著しく狭いなどの問題があり、このような場合にはレンズを介して光結合を得ることが多い。
【0005】
図6は、従来の光ファイバーと導波路の突き合わせの場合の光軸調整方法を示した図である。
ここで、図6(a)は光軸調整前の状態を示した図、図6(b)は光軸調整後の状態を示した図である。また、x,y,z軸方向は、図6中に示すように規定するものとする。
【0006】
なお、図6中では光ファイバー10としてレンズと光ファイバーとを合わせた構成となっている先球ファイバーを用いた場合を例に説明しているが、平坦なクリーブ端面の光ファイバーを用いた場合であっても光軸調整方法は変わらないため、先球ファイバーを用いた場合を例として従来の光軸調整方法の説明を行うこととする。
【0007】
また、光ファイバー10と光導波路11の光軸調整方法には、光ファイバー10側を動かして光軸調整する場合と、光導波路11側を動かして光軸調整する場合とがあるが、相対的には同じであるため、ここでは、光ファイバー10側を動かす場合について説明を行うこととする。
【0008】
はじめに、x軸方向の光軸調整方法であるが、顕微鏡を用いて導波路の端面を上方より観測し、図6(a)に示すような像を得る。この状態では、光ファイバー10のコア10aの位置と、導波路11のコア11aの位置を目視で確認することができるので、光ファイバー10のコア10aと導波路11のコア11aとがおおよそ一直線になるように光ファイバー10をx軸方向に動かす。なお、この時点では導波路に光が導かれているかわからなくてもよい。
【0009】
次に、z軸方向の光軸調整方法であるが、x軸方向の光軸調整方法と同様に、光ファイバー10の端部と光導波路11の端面との距離が適切な距離となるように光ファイバー10をz軸方向に動かす。ここで、光ファイバー10の端部と光導波路11の端面との距離は、先球ファイバーを用いた場合は、先球ファイバーのフォーカス距離であり、クリーブ端面の光ファイバーを用いた場合は、およそ3〜5μm程度である。
【0010】
最後に、y軸方向の光軸調整方法であるが、これは、光導波路11のコア11a内に伝搬している光の光強度をモニターし、光強度が最大となるようにy軸方向に光ファイバー10を動かして光軸調整を行う。光導波路11のコア11a内に伝搬している光強度をモニターする場合、同一の光導波路11のコア11aの逆側の端面より出射する光を光パワーメーターに導きモニターする方法や、光導波路11自体が半導体でできている場合には、光電効果により発生する電流をモニターする方法等がある。
【0011】
また、別の方法として、光導波路11内に上方へ光の光路を変換する構造を設け、伝搬してきた光を上方に跳ね上げて、上方より目視により明るくなる点を探すことにより光導波路11のコア11a内に伝搬している光強度を見ることができる。ここで、導波路光導波路11内に上方へ光の光路を変換する構造はいろいろあるが、光導波路11内に凹部を設けただけでも散乱により光を上方に取り出すことができる。
【0012】
また、エッチングなどにより導波路内にミラーを形成して上方に光を取り出す方法や、他にも光導波路11内にグレーティングを形成することにより上方に光を取り出す方法がある。しかし、従来の目視による光軸調整方法では、光導波路11のコア11a内に光を導いた状態となってはじめて機能し、光軸調整初期に光導波路11のコア11a内を全く光が伝搬していない時には機能しない。
【0013】
また、この状態では、粗く光軸調整しただけであるため、光導波路11のコア11a内に伝搬している光の光強度をモニターしながら、x,y,z軸方向に精密な光軸調整し、最大の光強度が得られる点で光軸調整を終了する。なお、精密な講軸調整は、x,y,z軸方向に動作可能なステージに光ファイバー10を設置し、光導波路11のコア11a内に伝搬している光の光強度をモニターし、光強度が最大となった位置で停止するように、コンピュターを用いて自動で精密な光軸調整を行うこともできる。したがって、光を光導波路11のコア11a内に導くまでが最も困難であり、一度光導波路11のコア11a内に光が導入でき、光導波路11のコア11a内に伝搬している光の光強度をモニターできるようになりさえすれば、精密な光軸調整はさほど難しくはない。
【0014】
しかし、上述した従来の光軸調整方法においては、x,y,z軸方向のうち、x,z軸方向については光導波路11のコア11a内に伝搬している光強度をモニターすることなく目視でおおよその位置に光ファイバー10を動かすことができ、少なくともy軸方向についてのみ光導波路11のコア11a内を伝搬している光の光強度をモニターして光導波路11のコア11a内に光を導入すればよいので、簡便な方法ではある。
【0015】
図7は、従来のレンズを介して導波路に光結合を得る光軸調整方法を示した図である。
ここで、図7(a)は光軸調整前の状態を示した図、図7(b)は光軸調整後の状態を示した図である。なお、基板水平方向であるx軸方向、基板垂直方向であるy軸方向及び導波路内を伝搬する光の伝搬方向であるz軸方向は、図7中に示すように規定するものとする。また、図7中、破線は光の行路を示しているが、実際には目視することはできない。
【0016】
レンズを介して導波路に光結合を得る場合、用いるレンズのフォーカス距離にもよるが、多くの場合、顕微鏡を用いて光導波路11の端面を上方より観測しても、レンズと光導波路11の端面を同じ視野内にとらえることができない。また、フォーカス点f(図7中、ビームウエストの位置)は、基本的には分からない。
【0017】
このため、図7(a)に示した状態から図7(b)に示した状態になるまで光導波路11内に伝搬している光の光強度をモニターしながら適当にレンズを動かし、光導波路11に光が導入される点をひたすら探すしかない。一度光導波路11のコア11a内に光を導くことができれば、自動光軸調整等を用いることもできるが、光導波路11のコア11a内に光を導入するまでの作業は、かなり熟練の技を要する作業となる。
【0018】
つまり、上述した従来の光ファイバー10と光導波路11の突き合わせの場合の光軸調整の場合には、3軸のうち2軸は目視で大まかな光軸調整を行うことができていたが、従来のレンズを介して光導波路11に光結合を得る光軸調整方法の場合には、目視で光軸調整を行うことが全くできないのである。よって、レンズを介した光軸調整は、目視で光軸調整することがきる光ファイバー10等の位置合わせよりも光軸調整に多くの時間を要する。これにより、スループットが低下することが課題となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】S.M.Csutak、外2名、“CMOS‐Compatible Planar Silicon Waveguide‐Grating‐Coupler Photodetectors Fabricated on Silicon‐on‐Insulator (SOI) Substrates”、IEEE JOURNAL OF QUANTUM ELECTRONICS、VOL.38、NO.5、2002年5月、p.477−480
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上述したように、レンズを介して光導波路11に光結合を得る場合、光導波路11のコア11a内に光を導入し、光導波路11のコア11a内を伝搬している光の光強度をモニターできるまで時間がかかり、これにより、スループットが低下してしまうという課題があった。
【0021】
以上のことから、本発明は、目視により容易に光軸調整を行うことができる光導波路及び光軸調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の課題を解決するための第1の発明に係る光導波路は、
光を伝搬する導波路と、
前記導波路の基板水平方向の側方のうち少なくとも一方に配置される光を伝搬するスラブ導波路と、
前記スラブ導波路内に該スラブ導波路の端面からそれぞれ異なる距離で2列以上形成され基板垂直方向に光の光路を変換する光路変換手段と
を備える
ことを特徴とする。
【0023】
上記の課題を解決するための第2の発明に係る光軸調整方法は、
光を伝搬する導波路と、
前記導波路の基板水平方向の側方のうち少なくとも一方に配置される光を伝搬するスラブ導波路と、
前記スラブ導波路内に該スラブ導波路の端面からそれぞれ異なる距離で2列以上形成され基板垂直方向に光の光路を変換する光路変換手段と
を備える光導波路において、
前記導波路の端面の側方にレンズを配置し、
前記光路変換手段により光路を変換された光を基板垂直方向より観測しながら、前記レンズを基板垂直方向に移動させることにより該レンズのフォーカス点を基板垂直方向に移動させ、前記光路変換手段により光路を変換された光の光強度が最も強くなる位置で前記レンズの移動を停止する
ことを特徴とする。
【0024】
上記の課題を解決するための第3の発明に係る光軸調整方法は、第2の発明に係る光軸調整方法において、
さらに、前記レンズを前記導波路内を伝搬する光の伝搬方向に移動させることにより該レンズのフォーカス点を前記導波路内を伝搬する光の伝搬方向に移動させながら、前記光路変換手段により光路を変換された光を基板垂直方向より観測し、前記光路変換手段の明るくなる個数が最も少なくなる位置で前記レンズの移動を停止する
ことを特徴とする。
【0025】
上記の課題を解決するための第4の発明に係る光軸調整方法は、第2の発明に係る光軸調整方法において、
さらに、前記レンズを前記導波路内を伝搬する光の伝搬方向に移動させることにより該レンズのフォーカス点を前記導波路内を伝搬する光の伝搬方向に移動させながら、前記光路変換手段により光路を変換された光を基板垂直方向より観測し、前記導波路端面から数えて1列目の前記光路変換手段の明るくなる個数と、前記導波路端面から数えて2列目以降の前記光路変換手段の明るくなる個数との比が最大となる位置で前記レンズの移動を停止する
ことを特徴とする。
【0026】
上記の課題を解決するための第5の発明に係る光軸調整方法は、第3の発明又は第4発明に係る光軸調整方法において、
さらに、前記レンズを基板水平方向に移動させることにより該レンズのフォーカス点を基板水平方向に移動させながら、前記光路変換手段により光路を変換された光を基板垂直方向より観測し、前記光路変換手段の明るくなる個数が最も少なくなる位置で前記レンズの移動を停止する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、目視により容易に光軸調整を行うことができる光導波路及び光軸調整方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施例に係る光導波路及び光軸調整方法を示した図である。
【図2】本発明の第2の実施例に係る光導波路及び光軸調整方法を示した図である。
【図3】本発明の第3の実施例に係る光導波路及び光軸調整方法を示した図である。
【図4】本発明の第1の実施例に係る光導波路及び光軸調整方法における光導波路の上方へ光の光路を変換する種々の構造を示した図である。
【図5】本発明の第1の実施例に係る光導波路及び光軸調整方法における円形のマイクロミラー構造を形成する方法を示した図である。
【図6】従来の光ファイバーと導波路の突き合わせの場合の光軸調整方法を示した図である。
【図7】従来のレンズを介して導波路に光結合を得る光軸調整方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る光導波路及び光軸調整方法を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0030】
以下、本発明に係る光導波路及び光軸調整方法の第1の実施例について説明する。
本実施例に係る光導波路及び光軸調整方法においては、光を導波する導波路と、導波路の基板水平方向の側方のうち少なくとも一方に配置される光を導波するスラブ導波路と、スラブ導波路内にこのスラブ導波路の端面からそれぞれ異なる距離で2列以上形成され基板垂直方向に光の光路を変換する光路変換手段とを備える光導波路において、導波路の端面の側方にレンズを配置し、光路変換手段により光路を変換された光を基板垂直方向より観測しながら、レンズを基板垂直方向に移動させることによりこのレンズのフォーカス点を基板垂直方向に移動させ、光路変換手段により光路を変換された光の光強度が最も強くなる位置でレンズの移動を停止することを特徴とする。
【0031】
図1は、本発明の第1の実施例に係る光導波路及び光軸調整方法を示した図である。
ここで、図1(a)は光軸調整を実施する前の状態を示した図、図1(b)は光軸調整を実施した後の状態を示した図である。なお、基板水平方向であるx軸方向、基板垂直方向であるy軸方向及び導波路内を伝搬する光の伝搬方向であるz軸方向は、図1中に示すように規定するものとする。また、図1中、破線は光の行路を示しているが、実際には目視することはできない。
【0032】
また、図1(a)においては、光軸調整を実施する前のフォーカス点fは、z軸方向における導波路1の端面よりもレンズ寄り、導波路1よりも上方に存在する場合について示しているが、z軸方向における導波路1の端面よりも導波路1の内部側にあっても、また、導波路1よりも下方に存在する場合であっても、光軸調整の手順は同様である。
【0033】
図1(a)に示すように、本実施例に係る光導波路は、光を導波する導波路1のコア2と、導波路1のコア2の側方に配置される導波路1のクラッド3と、導波路1のx軸方向の側方に配置され導波路1のy軸方向における高さと同じの高さのスラブ導波路4とを備えている。なお、本実施例においては、スラブ導波路4は導波路1のx軸方向の両方の側方に配置しているが、スラブ導波路4は導波路1のx軸方向の少なくとも一方の側方に配置することとしてもよい。
【0034】
スラブ導波路4には、スラブ導波路4のz軸方向の端面から1μm離れた箇所に1辺が2μmの四角の凹部であるピットが2μmピッチでx軸方向に列状に多数配置されている。本実施例においては、このピットを前列ピット5と呼ぶこととする。この前列ピット5は、スラブ導波路4の上方、すなわち、光導波路の上方へ光の光路を変更する構造として機能する。
【0035】
また、スラブ導波路4には、スラブ導波路4のz軸方向の端面から50μm離れた箇所に、前列ピット5が配置されたx軸方向における位置とずらした状態で、同じく1辺が2μmの四角の凹部であるピットがx軸方向に2μmピッチでx軸方向に列状に多数配置されている。本実施例においては、このピットを後列ピット6と呼ぶこととする。この後列ピット6は、光導波路の上方へ光の光路を変更する構造として機能する。
【0036】
本実施例においては、前列ピット5及び後列ピット6として、四角の形状の凹部を配置したが、光導波路の上方から光を観測できさえすればよいため、丸や三角やその他の形状の凹部であってもよく、形状はサイズを含め任意に設定することができる。また、本実施例においては、前列ピット5及び後列ピット6を配置するピッチは等間隔としたが、ランダムの間隔に配置することも可能である。
【0037】
また、本実施例においては、光導波路を形成する際に、同時に前列ピット5及び後列ピット6をエッチングにより形成した。このため、前列ピット5及び後列ピット6は垂直性のよい形状となっている。なお、本実施例に係る光導波路は、断面構造において斜面を有する構造であっても、斜面が光が入射されてくる端面側を向いており、ミラーとして動作する構造であればよい。
【0038】
また、本実施例においては、光導波路には、InGaAPからなるコア2をInP基板上に形成した埋め込み型導波路を用いた。また、本実施例においては、コア2の幅は2μmとし、コア2の厚さは0.4μmとし、前列ピット5及び後列ピット6の深さはコア2の厚さよりも十分に深くなるようにした。
【0039】
また、本実施例においては、波長が1.55μmの光源を使用し、光導波路の上方から光導波路の上方へ光の光路を変更する構造である前列ピット5及び後列ピット6を近赤外まで感度のあるカメラにて撮影し、撮影した画像を確認しながら光軸調整を行った。
【0040】
図1(a)に示すように、y軸方向の光軸調整が大きくずれていると、光は光導波路の上方へ出てこない。そこで、y軸方向にフォーカス点fを動かし、フォーカス点fがy軸方向におけるスラブ導波路4の端面の位置に近くなってくると、スラブ導波路4内に徐々に光が結合するようになり、z軸方向におけるスラブ導波路4の端面より入射する光の広がり角に応じて、図1(b)に示すように、光の広がり角内の前列ピット5及び後列ピット6が明るくなる。
【0041】
そして、y軸方向におけるコア2の位置とフォーカス点fの位置とが一致したとき、スラブ導波路4内に伝搬する光の光強度が最も強くなり、前列ピット5及び後列ピット6より観測される光の光強度も最も強くなる。
【0042】
ところで、前列ピット5は、スラブ導波路4内のz軸方向におけるスラブ導波路4の端面近くに配置してあるため、y軸方向におけるコア2の位置とフォーカス点fの位置とが一致しない場合にも明るくなることがあり、y軸方向におけるコア2の位置とフォーカス点fの位置とが一致したかどうかわからない場合がある。
【0043】
しかし、後列ピット6は、スラブ導波路4内のz軸方向におけるスラブ導波路4の端面から遠くに配置してあるため、スラブ導波路4内に光が伝搬されていない場合には明るくなりにくい。このため、迷光により前列ピット5が明るくなってしまい、y軸方向におけるコア2の位置とフォーカス点fの位置とが一致しているかどうか判別しにくくなるのを防ぐため、ピットは2列以上配置することとする。
【0044】
さらに、本実施例においては、後列ピット6は、スラブ導波路4内のz軸方向におけるスラブ導波路4の端面から50μmのところに配置したが、例えば100μmのところに配置してもよく、z軸方向におけるスラブ導波路4の端面からの距離が遠い場合は、スラブ導波路4内を光が伝搬していなければ、後列ピット6へ光は到達しないため、y軸方向におけるコア2の位置とフォーカス点fの位置とが一致しているかどうか判別しやすくすることができる。
【0045】
また、本実施例においては、光導波路の上方へ光の光路を変換する構造として、ピットに当って散乱した光を光導波路の上方から観測する構造を用いたが、この他にも、マイクロミラーやグレーティング等を用いて光導波路の上方へ光の光路を変換する構造を形成した場合であっても、本実施例に係るピットと同様の作用が得られることを確認している。
【0046】
ここで、四角の凹部で形成したピット以外の光導波路の上方へ光の光路を変換する種々の構造について説明する。
図4は、本発明の第1の実施例に係る光導波路及び光軸調整方法における光導波路の上方へ光の光路を変換する種々の構造を示した図である。
ここで、図4(a)は四角の凹部で形成したピットを示した図、図4(b)は円形のマイクロミラー構造を示した図、図4(c)は斜め方向からのドライエッチングを利用して形成したマイクロミラー構造を示した図、図4(d)はグレーティングを利用したグレーティング構造を示した図である。
【0047】
はじめに、マイクロミラー構造は、数々の構造が既に知られており、どのような構造であっても実現は可能であるが、光軸調整の精度を上げるにはより小型なものが好ましい。
図5は、本発明の第1の実施例に係る光導波路及び光軸調整方法における円形のマイクロミラー構造を形成する方法を示した図である。
ここで、図5(a)は穴が形成されたマスクが施されたスラブ導波路、図5(b)はウェットエッチングを施した穴が形成されたマスクが施されたスラブ導波路を示した図である。
【0048】
図5(a)に示すように、スラブ導波路4に穴が形成されたマスク7を施した上で、図5(b)に示すように、ウェットエッチングにより、マスク7に形成された穴8よりスラブ導波路4に曲面9をエッチングする。そして、曲面9をマイクロミラーとして利用する。その他にも、図4(c)に示すように、斜め方向からのドライエッチングを利用して形成したマイクロミラー構造などが考えられる。なお、図4(c)には、スラブ導波路4の垂直方向から角度θ°傾斜したマイクロミラー構造の例を示している。
【0049】
次に、グレーティング構造であるが、四角の凹部で形成したピットの替わりに、一まとまりのグレーティング構造を配置することにより同様に光軸調整を行うことが可能である。導波路上のグレーティング構造は、光導波路の上面から光を出し入れするための構造として古くから知られている。
【0050】
例えば、上記非特許文献1に開示される1次元のグレーティングが考えられ、光導波路の材料によって、グレーティング構造のピッチや深さ等の設計が適宜必要ではあるが、簡便な構造で光を光導波路の上面に出すことができる。
【0051】
また、上記非特許文献1においては、シリコン‐オン‐インシュレーター(SOI)の光導波路の場合が開示されているが、石英、ポリマー、化合物半導体等の他の材料でも同様の構造が多く知られており、四角の凹部で形成したピットの替わりに用いることが可能である。
【0052】
なお、本実施例においては、人の目による目視により光軸調整を実施したが、カメラとコンピュターを用い画像認識技術を利用することで、自動的にy軸方向の光軸調整を実施することも可能である。
【0053】
以上のように、本実施例によれば、目視のみでy軸方向の光軸調整を行うことができる。これにより、コア2を伝搬する光の光強度のみを頼りに光軸調整する従来の方法よりも高速に光軸調整を実施することができ、スループットを向上することができる。したがって、実装コストを削減することができる。
【0054】
また、従来の光導波路の上方から目視で光軸調整を実施する方法においては、導波路1内に光導波路の上方へ光の光路を変換する構造が形成されてはいるものの、導波路1内に光が導かれてはじめて光導波路の上方へ光の光路を変換することが可能となるため、導波路1内に光が導かれていない状態では全く機能しなかった。しかし、本実施例に係る光導波路及び光軸調整方法によれば、粗い光軸調整の段階から、フォーカス点fの位置の情報を可視化することができるため、簡便な光軸調整を提供することができる。
【実施例2】
【0055】
以下、本発明に係る光導波路及び光軸調整方法の第2の実施例について説明する。
本実施例に係る光導波路及び光軸調整方法は、第1の実施例に係る光導波路及び光軸調整方法において、さらに、z軸方向、すなわち、導波路1内を伝搬する光の伝搬方向の光軸調整を実施することを特徴とする。
【0056】
図2は、本発明の第2の実施例に係る光導波路及び光軸調整方法を示した図である。
ここで、図2(a)は図1(b)の状態からフォーカス点fをやや導波路1側に動かした状態を示した図、図2(b)は図2(a)の状態からフォーカス点fをさらに導波路1側に動かした状態を示した図である。なお、基板水平方向であるx軸方向、基板垂直方向であるy軸方向及び導波路内を伝搬する光の伝搬方向であるz軸方向は、図2中に示すように規定するものとする。また、図2中、破線は光の行路を示しているが、実際には目視することはできない。
【0057】
また、本実施例においては、y軸方向の光軸調整は、第1の実施例に係る光軸調整方法、又は、従来の光軸調整方法であるコア2内を伝搬する光の光強度をモニターして光軸調整する方法により完了しているものとする。
【0058】
図2(a)に示すように、y軸方向の光軸調整が完了した状態で、フォーカス点fをz軸方向に動かすと、明るくなった前列ピット5の個数が減少する。そして、図2(b)に示すように、フォーカス点fでのビームウエストが前列ピット5よりも小さい又は同等の大きさであって、フォーカス点fが前列ピット5にちょうど合った場合、前列ピット5のうち一つだけが明るい状態となる。
【0059】
また、前列ピット5のサイズやピッチによっては、フォーカス点fが前列ピット5間に合う、すなわち、光が前列ピット5に全く当たらない場合がある。この場合、明るくなった前列ピット5はなくなるが、後列ピット6が明るい状態のままであれば、y軸方向の光軸は合っていることを確認することができる。
【0060】
なお、後列ピット6がない場合、光が前列ピット5に全く当たらないときには、y軸方向の光軸が合っていないかどうか判別することが困難となるため、y軸方向の光軸が合っていても、フォーカス点fを適当に動かしてしまうこととなる。
【0061】
これに対し、後列ピット6がある場合、後列ピット6によりy軸方向の光軸が合っていることが確認できるため、y軸方向を誤って動かすことを防ぐことができる。また、このような場合には、フォーカス点fをややx軸方向に動かして前列ピット5に光が当たるようにすることで、簡便に光軸調整をおこなうことができる。
【0062】
また、ビームウエスト又はピットのサイズによっては、前列ピット5が複数個明るくなる場合があるが、この場合でも明るい前列ピット5の個数が最少になるようにz軸方向にフォーカス点fを動かすことで光軸調整を行えばよい。
【0063】
さらに、図2(b)に示している状態よりも、前列ピット5から離れる方向にフォーカス点fが動くと、明るい前列ピット5の個数が再度増えて行くこととなる。このとき、本来、フォーカス点fを合わせたいコア2のx軸方向における端面よりも、コア2のやや内側にフォーカス点fを合わせることになる。しかし、この時点では粗い光軸調整ができれば十分であり、後程、コア2を伝搬する光の光強度をモニターして精密な光軸調整を行うことにより修正されるので問題にはない。
【0064】
なお、y軸方向の光軸調整においては、スラブ導波路4内にピットが形成されていることが望ましい。なぜならば、導波路1内にピットが形成されている場合、コア2を伝搬している光でピットが明るくなることを確認することで、はじめてy軸方向の光軸調整を行うことができるからである。しかし、z軸方向の光軸調整においては、必ずしもスラブ導波路4内にピットを形成する必要はない。また、y軸方向の光軸が合っている状態であれば、スラブ導波路4を形成せずに、凸形状で形成されるピットを同様に配列してもよい。
【0065】
また、z軸方向の光軸調整は、フォーカス点fを導波路1端面の垂直方向に移動させながら、前列ピット5及び後列ピット6により光路を変換された光を光導波路の上方より観測し、前列ピット5の明るくなる個数と、後列ピット6の明るくなる個数との比が最大となる位置で前記レンズの移動を停止するようにして行ってもよい。
【0066】
なお、ピットを3列以上形成している場合は、導波路1端面から数えて1列目のピットの明るくなる個数と、導波路1端面から数えて2列目以降のピットの明るくなる個数との比が最大となる位置で前記レンズの移動を停止するようにして行ってもよい。
【0067】
また、本実施例においては、人の目による目視により光軸調整を実施したが、カメラとコンピュターを用い画像認識技術を利用することで、自動的にz軸方向の光軸調整を実施することも可能である。
【0068】
以上のように、本実施例によれば、目視のみでz軸方向の粗い光軸調整を行うことができる。これにより、コア2を伝搬する光の光強度のみを頼りに光軸調整する従来の方法よりも高速に光軸調整を行うことができ、スループットを向上することができる。したがって、実装コストを削減することができる。
【0069】
また、ピットを2列以上形成する場合は、最前列のピットで明るいピットを失ったとしても、後列ピット6でy軸方向の光軸は合っていることを確認することができるため、誤ってy軸方向にフォーカス点fを動かしてしまうことを防ぐことができ、ピットが1列の場合よりも全体の光軸調整に要する時間を短縮することができる。
【実施例3】
【0070】
以下、本発明に係る光導波路及び光軸調整方法の第3の実施例について説明する。
本実施例に係る光導波路及び光軸調整方法は、第2の実施例につづいて、さらに、x軸方向、すなわち、基板水平方向の光軸調整を実施することを特徴とする。
【0071】
図3は、本発明の第3の実施例に係る光導波路及び光軸調整方法を示した図である。
ここで、図3(a)は図2(b)の状態を示した図、図3(b)は図3(a)の状態からフォーカス点fをさらに導波路1側に動かした状態を示した図である。なお、基板水平方向であるx軸方向、基板垂直方向であるy軸方向及び導波路内を伝搬する光の伝搬方向であるz軸方向は、図3中に示すように規定するものとする。また、図3中、破線は光の行路を示しているが、実際には目視することはできない。
【0072】
図3(a)に示すように、明るい前列ピット5の個数が最少のときにフォーカス点fをx軸方向に動かす場合、明るい前列ピット5の位置がx軸方向に動かした分順次シフトして行く。フォーカス点fが導波路1に到達すると、図3(b)に示すように、多くの光が導波路1内に導かれるため、明るい前列ピット5の個数は減少するか、又は、明るかった前列ピット5の明るさが暗くなる。
【0073】
そして、前列ピット5及び後列ピット6ともに最も暗くなった点で光軸調整を終了すれば、x軸方向の目視による光軸調整が終了する。なお、この時点において、既に導波路1内に光が導かれているので、後は、従来からある方法により精密な光軸調整を行えばよい。
【0074】
なお、y軸方向の光軸調整においては、スラブ導波路4内にピットが形成されていることが望ましい。なぜならば、導波路1内にピットが形成されている場合、コア2を伝搬している光でピットが明るくなることを確認することで、はじめてy軸方向の光軸調整を行うことができるからである。しかし、x軸方向の光軸調整においては、必ずしもスラブ導波路4内にピットを形成する必要はない。また、y軸方向の光軸が合っている状態であれば、スラブ導波路4を形成せずに、凸形状で形成されるピットを同様に配列してもよい。
【0075】
また、z軸方向の光軸は必ずしも第2の実施例において説明した状態になくともよく、x軸方向にフォーカス点fを動かしておおよそコア2の位置にフォーカス点fを移動させて、ピットが最も暗くなった点で光がコア2内に導かれたことを確認することができるx軸方向の粗い光軸調整を行うことができる。
【0076】
なお、本実施例においては、人の目による目視により光軸調整を実施したが、カメラとコンピュターを用い画像認識技術を利用することで、自動的にx軸方向の光軸調整を実施することも可能である。
【0077】
以上のように、本実施例によれば、目視のみでx軸方向の粗い光軸調整を行うことができる。これにより、コア2を伝搬する光の光強度のみを頼りに光軸調整する従来の方法よりも高速に光軸調整を行うことができ、スループットを向上することができる。したがって、実装コストを削減することができる。
【0078】
以上説明したように、第1から第3の実施例を通して行うことにより、目視だけでレンズのフォーカス点fを導波路1に合わせることができる。また、従来の方法であるコア2内を伝搬している光の光強度をモニターして光軸調整する方法においても、本発明に係る光軸調整方法を併用することで、従来に比べ高速な光軸調整を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、例えば、光導波路及び光軸調整方法に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 導波路
2 コア
3 クラッド
4 スラブ導波路
5 前列ピット
6 後列ピット
7 マスク
8 穴
9 曲面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を伝搬する導波路と、
前記導波路の基板水平方向の側方のうち少なくとも一方に配置される光を伝搬するスラブ導波路と、
前記スラブ導波路内に該スラブ導波路の端面からそれぞれ異なる距離で2列以上形成され基板垂直方向に光の光路を変換する光路変換手段と
を備える
ことを特徴とする光導波路。
【請求項2】
光を伝搬する導波路と、
前記導波路の基板水平方向の側方のうち少なくとも一方に配置される光を伝搬するスラブ導波路と、
前記スラブ導波路内に該スラブ導波路の端面からそれぞれ異なる距離で2列以上形成され基板垂直方向に光の光路を変換する光路変換手段と
を備える光導波路において、
前記導波路の端面の側方にレンズを配置し、
前記光路変換手段により光路を変換された光を基板垂直方向より観測しながら、前記レンズを基板垂直方向に移動させることにより該レンズのフォーカス点を基板垂直方向に移動させ、前記光路変換手段により光路を変換された光の光強度が最も強くなる位置で前記レンズの移動を停止する
ことを特徴とする光軸調整方法。
【請求項3】
さらに、前記レンズを前記導波路内を伝搬する光の伝搬方向に移動させることにより該レンズのフォーカス点を前記導波路内を伝搬する光の伝搬方向に移動させながら、前記光路変換手段により光路を変換された光を基板垂直方向より観測し、前記光路変換手段の明るくなる個数が最も少なくなる位置で前記レンズの移動を停止する
ことを特徴とする請求項2に記載の光軸調整方法。
【請求項4】
さらに、前記レンズを前記導波路内を伝搬する光の伝搬方向に移動させることにより該レンズのフォーカス点を前記導波路内を伝搬する光の伝搬方向に移動させながら、前記光路変換手段により光路を変換された光を基板垂直方向より観測し、前記導波路端面から数えて1列目の前記光路変換手段の明るくなる個数と、前記導波路端面から数えて2列目以降の前記光路変換手段の明るくなる個数との比が最大となる位置で前記レンズの移動を停止する
ことを特徴とする請求項2に記載の光軸調整方法。
【請求項5】
さらに、前記レンズを基板水平方向に移動させることにより該レンズのフォーカス点を基板水平方向に移動させながら、前記光路変換手段により光路を変換された光を基板垂直方向より観測し、前記光路変換手段の明るくなる個数が最も少なくなる位置で前記レンズの移動を停止する
ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の光軸調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−59539(P2011−59539A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211227(P2009−211227)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】