説明

光導波路素子

【課題】 光導波路素子の特徴を維持しながら光路を直角に曲げられる光導波路素子を提供する。
【解決手段】 この光導波路素子は、表面に光導波路2を有する光導波路基板1と、光導波路の入力側または出力側端部の光導波路基板端面3が基板表面に対し45度の角度を有するように基板の厚み方向内側に向い傾斜して傾斜面を形成しかつ鏡面研磨された傾斜面に設けられた反射膜4と、傾斜面近傍の基板表面に直接若しくは接着剤A5を介し設けられた厚さ5μm〜200μmの接合層6と、接合層に接着剤B7を介して取り付けられ基板表面に対し中心線が90度の角度を有するように設けられた光ファイバー10とで主要部が構成され、光導波路の入力側または出力側が光ファイバーの出射側または入射側端面に対して反射膜を介し90度屈曲して結合するようになっていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信および光計測の分野において使用される光導波路素子の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信および光計測の分野において導波路型の光制御用素子が活発に開発され、また一部実用に供されている。光制御用素子とは、強度、位相、偏光、進行方向等光波の特性を変える機能を有する素子を指す。
【0003】
導波路型の光制御用素子(以下、光導波路素子あるいは単に光素子と略称する)は、バルク光学系を利用した素子と比較して、小型、堅牢、同一素子ないし異種素子を同一基板上に集積し易い、素子の入力・出力端における光ファイバーとの結合が簡易、また、光路を通じて光波が空気中を通過する箇所が無いため湿気による結露の問題がない等という特徴を持つ。さらに、電気光学効果ないし熱光学効果を利用した光導波路素子では、電場や温度差が効率的に印加できるため駆動電力が少なくてすむという特徴も併せ持つ。
【0004】
ところで、光導波路素子は、通常、金属ないしプラスチックの素子筐体に収納され、光の入出力用ファイバーが光導波路基板の両端に接続されており、両者が素子筐体に力学的に保持されている。通常、光素子の入力および出力光ファイバーを導波路基板の端面に直接有機接着剤等で接合されて使用される。この接合様式はバットジョイント方式とも呼ばれる。また、電気的に駆動される素子であれば、素子筐体に、これらに加えて給電のための端子が付随する。
【0005】
多くの応用において、光素子は他の複数の光部品および電気部品と組み合わせて使用され、これら一群の光部品が適当な単位で区切られてひとつの装置に収納される。装置内への収納の観点からも、光素子には光ファイバーをも含めたコンパクト性が求められる。すなわち、光素子を収納すべき装置の中での光素子のために要するスペースは、上記素子筐体の寸法のみで決まるものではなく、ファイバーの取り回し易さもコンパクト性を左右する重要な要素である。しかし、光ファイバーでは曲げによる光伝播損失の増大があり、具体的には石英を素材とする単一モード光ファイバーは曲げれば光損失が急激に増大し、曲率半径約40mm以下で曲げれば実用上採用が困難となる程度に損失が増大する。
【0006】
より具体的に説明すると、上から見て矩形の装置筐体に光導波路素子を収納する場合に、素子の長手方向にファイバーが伸びているため、装置筐体の隅に収納することができないという問題がある。このような場合、入出射ファイバーの少なくとも一方は、素子の長手方向と直角に接続されていれば好都合である。
【0007】
従来の光素子においては、導波路の進行方向と同一方向に光ファイバーが配置される構造となっている。通常、導波路の進行方向に沿って光導波路素子の素子筐体は長い。
【0008】
上述したように光ファイバーは曲率半径約40mm以上で曲げることが求められるため、光ファイバーも含めて収納するための実効的な占有体積が大きくなるという実用上の問題点があった。また、光損失増大の問題に加えて、光導波路基板端面から近距離で曲げればファイバーの力学的な劣化が起こり易く、これまた実用上望ましくない。
【0009】
このような技術的背景から、光導波路を延長した方向にファイバーを接合する従来の方式に代えて、光導波路素子において光の進行方向と直角に入出射光ファイバーを接合するという手法が開発されている。
【0010】
この内の一つの方法は、光導波路基板平面上で光路を90度に曲げる方法である(特許文献1参照)。具体的には、図9に示すように光導波路基板a上にマッハツェンダー(MZ)干渉計型の変調器を形成し、基板aの入射側に1枚のハーフミラーbおよび1枚のフルミラーcを構成して、MZ干渉計アーム部d、eとは直交する方向に入射させる方法である。尚、図9中、符号fは全反射膜を示している。
【0011】
上記マッハツェンダー(MZ)の光素子においてその全長で支配的なのはMZアーム部であり、また、通常のY−分岐を用いたMZ干渉計、すなわち入射側で1×2分岐させ、出射側で2×1合波するタイプでは分岐角を大きくすれば光損失が増大し、高々1度程度にしか取れない。この1×2分岐および2×1合波の部分が光素子のひいては素子筐体の長手方向の寸法を大きくする要因となる。そして、図9に示された光導波路素子では上記Y−分岐の短所が無いため光素子を大幅に小型化でき、また、入射ないし出射ファイバーのどちらか一方は素子の横手方向に出ているためラック収納に適している。
【特許文献1】特開2000−81596号公報
【非特許文献1】T. Kawazoe et al., J. Lightwave Technol. Vol. 10 , pp. 51-56, “Fabrication of Integrated-Optic Polarization Controller Using Z-Propagating Ti-LiNbO3Waveguides”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、図9に示された光導波路基板平面上で光路を90度に曲げる方法は以下のような問題点を有している。
【0013】
まず、入射用ファイバーと出射用ファイバーが90度をなしており、一方は素子の長手方向に沿って光導波路と接合され、他方は長手方向と直角をなす素子側面に接合される。従って、光素子の互いに平行でない2つの面を鏡面研磨する必要が生ずるため、製造時における工程が増えるという問題点がある。
【0014】
また、通常の光導波路素子の作製では、光回路の形成はウエーファー単位で行われ、リソグラフィー工程、蒸着工程、金属の拡散工程等を経て1枚のウエーファー例えば4インチ基板に数十個の素子が一度に作製される。しかし、特許文献1に開示された上記方法では光素子毎に基板上にミラーを嵌め込む工程が必要で、かつ、光導波路の途中にミラーないしハーフミラーを挿入する方法は確立されていないため量産性に難がある。
【0015】
尚、光ファイバーを光導波路基板と直角な方向に配置させる方法として、光導波路基板からの出射光を光路に対し光導波路基板平面と45度の角度をなす反射鏡により90度進行方向を変える方法も知られている。この場合、光導波路から空間に出射する際に光ビームは回折を受けるため、ファイバーに効率よく入射させるためにはビームをレンズにより集光させる必要がある。
【0016】
しかし、レンズを使う方法では部品点数が多くなるのみでなく、組み立て工程上、レンズおよびファイバーの相対的位置合わせに多大の労苦を要する。
【0017】
更にこの方式では、光が空間を伝播するため、光素子の筐体を気密封止しない限り結露によるレンズや導波路端面の光学的劣化が問題となる。
【0018】
光路に空気が無ければ、レンズのような素子表面での結露の問題は無い。光導波路素子の重要な特徴は、素子を収納する筐体を気密封止しなくても光路上に空気が無いことである。従って、光導波路素子の特徴を維持しながら光路を直角に曲げる方法が求められる。
【0019】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは光導波路素子の特徴を維持しながら光路を直角若しくは略直角に曲げられる光導波路素子を提供し、併せて反射戻り光が抑制される光導波路素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
すなわち、請求項1に係る発明は、
光導波路素子を前提とし、
表面に光導波路を有する光導波路基板と、上記光導波路の入力側および/または出力側端部の光導波路基板端面が基板表面に対し40度から50度の角度を有するように基板の厚み方向内側に向い傾斜して傾斜面を形成しかつ鏡面研磨された上記傾斜面に設けられた反射膜と、上記傾斜面近傍の基板表面に直接若しくは接着剤を介し設けられた厚さ5μm〜200μmの接合層と、この接合層に接着剤を介して取り付けられかつ基板表面に対しその中心線が80度から100度の角度を有するように設けられた光ファイバーとでその主要部が構成され、光導波路の入力側および/または出力側が光ファイバーの出射側および/または入射側端面に対して上記反射膜を介し80度から100度屈曲して結合するようになっていることを特徴とする。
【0021】
また、請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る光導波路素子を前提とし、
接着剤を介して上記接合層に取り付けられる光ファイバーの端面が、この光ファイバーの中心線と垂直に交わる垂直面に対し1度から10度ずれるように斜めカットされた構造になっていることを特徴とする。
【0022】
次に、請求項3に係る発明は、
請求項1または2に記載の発明に係る光導波路素子を前提とし、
上記接合層が、光導波路基板上に塗布したポリシランを加熱して形成した酸化ケイ素若しくはゾルゲル法にて形成した酸化ケイ素により構成されていることを特徴とし、
請求項4に係る発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の発明に係る光導波路素子を前提とし、
上記反射膜が、Au/Ti、Au/Cr、Al/Ti、Al/Cr、Ni/Ti、Ni/CrおよびAu/Moから選択される金属2層膜により構成されていることを特徴とし、
請求項5に係る発明は、
請求項1〜4のいずれかに記載の発明に係る光導波路素子を前提とし、
上記光導波路基板が、ニオブ酸リチウム(LiNbO)若しくはタンタル酸リチウム(LiTaO)により構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る光導波路素子よれば、
光導波路の入力側および/または出力側が、光ファイバーの出射側および/または入射側端面に対し80度から100度屈曲して結合するようになっているため、光伝播損失を起こすことなく光導波路素子が収容される装置筺体内における占有スペースを低減できる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態に係る光導波路素子を示している。
【0026】
図1中、符号1は光導波路基板、符号2は基板表面に作製した光導波路を示している。上記光導波路2の入出射端面近傍には接着剤A5を介して接合層6、また、接合層6の上部には接着剤B7を介してファイバーアレーの一部を構成する光ファイバー(ファイバー芯線)10が配置された構造となっている。
【0027】
上記ファイバーアレーは、図1に示すようにファイバーアレー下部ガラス板8,ファイバーアレー上部ガラス板9,および、光ファイバー(ファイバー芯線)10により構成されている。尚、ファイバーアレーとは、通常、複数本のファイバー芯線を一定間隔で配列させて複数本の光導波路を備えた光導波路基板との結合を容易にする光学部品であるが、ここではファイバー芯線一本を保持した構造体もファイバーアレーと呼ぶことにする。ファイバー芯線一本のみのファイバーアレーも、光導波路基板との接合において接着面積を十分に確保すること、また、光導波路とファイバー芯線を一直線状に接合されることを保障するという重要な機能を持つ。
【0028】
次に、基板表面の端面近傍を覆う上記接合層6の役割を述べる。光波の進行方向を光導波路基板1平面の法線方向に正確に曲げるため、光導波路基板1端面を光導波路基板1平面に対し40度から50度好ましくは45度の角度をなすように光導波路基板1端面を鏡面研磨して基板の厚み方向内側に向かうように傾斜させるが、研磨した面のエッジ部分は少なからず湾曲して研磨され、いわゆる業界用語でフチダレが生じる。光導波路2は光導波路基板1の表面から深さ10μm程度の極めて浅い領域に位置するため、上記フチダレが生じると導波光の反射角は正確に80度から100度好ましくは90度にならず、その結果として光が高効率で光ファイバーに導入されない。そこで、研磨前に光導波路2が形成された光導波路基板1と接合層6とを接着剤A5によって予め接着する。その後、40度から50度好ましくは45度の角度で光導波路基板1における端面3の研磨を行うことにより、接合層6の上面のエッジ部分がフチダレするのみで、光導波路2と接着剤A5の界面、および、接着剤A5と接合層6の界面は平坦に研磨される。このため、光導波路2の端面は精度よく40度から50度好ましくは45度で研磨され、反射角は正確に80度から100度好ましくは90度となる。
【0029】
上記接合層6にはもう一つの役割がある。上記端面3での導波光の効率的な反射を実現するため金属反射膜4を装着する。この反射膜4を蒸着法等で形成する際、接合層6の存在により滑らかな蒸着膜の形成が可能となる。
【0030】
以上に述べた役割から、接合層6が具備すべき特性は、光素子を適用する波長領域、すなわち光ファイバー通信においては1.30μm帯および1.55μm帯において高い透明性を備えること、および、光導波路基板1に近い硬さを有することである。硬度が異なればフチダレを十分に防止することができないからである。
【0031】
また、上記接着剤A5は、光導波路基板1に接合層6を接着させるために使用し、接着剤B7は、接合層6にファイバーアレーを接着させるために使用する。接着剤A5と接着剤B7は同一物質であってもよい。これらが具備すべき特性は、透明性が高いことと十分な接着強度を有することである。両者の厚さは3μm以下、望ましくは1μm以下である。これが厚過ぎると、研磨により端面3を形成する際の接着剤層と基板との間で研磨量が大きく異なってしまい、湾曲した研磨面になり易くなる場合があるからである。
【0032】
また、上記接合層6の厚さは、5μm以上200μm以下である。光導波路からの出射光は回折による広がりを示すため、上記厚さの制限はビーム径の広がりを抑制するためである。これが200μmを超える厚さであると、光導波路基板2から直角若しくは略直角に曲がった光が回折による広がりを受け、光ファイバー(ファイバー芯線)10との結合効率が著しく低下してしまう。例えば、上記接合層6の厚さを仮に1mm程度とした場合、光ファイバー(ファイバー芯線)10に集光させるためには、レンズを用いて回折によって広がった光を集光させる必要が生じ、本発明方式の利点が損なわれてしまう。
【0033】
このような条件から、上記接合層6は光導波路基板1と同一材料とするか、あるいは光導波路基板1をLN(ニオブ酸リチウム)若しくはLT(タンタル酸リチウム)とした場合、ガラス(酸化ケイ素:SiO)とすることも可能である。取り扱いの観点から厚さ20μmのガラスないしLN、LT膜を接着することは実際上困難であるため、厚さ300μmから500μm程度のガラス板ないしLN、LT膜を接着した後、研摩によって厚さ20μmまで薄くする方法が挙げられる。
【0034】
また、図1に示す構造とは別に、ゾルゲル法あるいはポリシランと有機物の混合物(液状)を熱処理することによって、均一でしかも正確な厚さの酸化ケイ素から成る接合層6を形成する方法も挙げられる。これらの方法により得られる光導波路素子の構造を図2に示す。この場合、端面近傍に塗布領域を限定するため、マスキング法を用いる。また、均一でしかも正確な厚さの接合層を形成するため例えばスピンコートによる塗布法が挙げられる。
【0035】
上記ゾルゲル法ないしポリシラン塗布による接合層6の形成方法では、接合層6自体が光導波路基板1との密着性を受け持つため、図2に示すように接着剤層A5が不要となる。更に、スピンコート法による塗布を行なえば、スピナー条件の管理によって塗布厚さを精密に制御でき、また、その表面も十分な平滑性を持ち、所望の厚さを得るための研磨は不要となる。その他の部分については図1に示した光導波路素子と同一である。
【0036】
ところで、図1および図2に示された光導波路素子において接着剤B7層から導波光が光ファイバー(ファイバー芯線)10に入射するとき、屈折率の異なる2つの物質間における界面の反射が問題となる。反射戻り光は通信系の雑音をもたらすため抑制する必要がある。この反射戻り光を防止ないし抑制するには、光ファイバー(ファイバー芯線)10への入射角を90度からずらせばよい。
【0037】
この方式を図3に図示し、詳細な角度関係を図8に示す。導波路基板とファイバーの通常の接合法、すなわち、導波路とファイバー芯線の各端面が略平行になった配置においても、導波路端面およびファイバー端面を6度〜8度程度の角度をつけて接合することによって反射を抑制できることが知られている。図3の構造はその通常の反射抑制と原理においては同様の方法である。
【0038】
以下、図1に示す光導波路素子の製法について図4〜図6を参照しながら工程を追って説明する。光導波路2の形成方法は種々の基板種について知られている。本発明は石英導波路(PLC;Planar Lightwave Circuit)、ニオブ酸リチウム(LN:LiNbO)基板上のTi拡散導波路ないしプロトン交換導波路、あるいはタンタル酸リチウム(LT:LiTaO)基板上に形成したプロトン交換導波路等に対して適用できる。基板の厚さは機械的強度の観点から500μm〜1000μm程度が通常である。
【0039】
光導波路2を形成した光導波路基板1を仮にLNとして端面に近い表面領域、例えば、端面から3mm以内の領域に接着剤A5を塗布し、接合層6としてその両面を鏡面研摩した厚さ500μmのガラス(酸化ケイ素)板を貼り付ける。この工程が終了した状態を図4に示す。
【0040】
引き続き、このガラス(酸化ケイ素)板を20μmの厚さまで研摩によって落とす。研摩による除去量を正確に把握するためには、研摩速度(単位:μm/min)を測定した上で研摩時間を正確に管理することにより達せられる。所望の厚さに成型された接合層6が出来上がった状態を図5に示す。
【0041】
次に、接合層6を形成した光導波路基板1端面3が、基板表面に対し40度から50度好ましくは45度の角度を有するように上記端面を研磨して基板の厚み方向内側に向かう傾斜面を形成する。これに続いて、端面3に金属反射膜4を蒸着法によって形成する。金属材料としてAl、Au等種々の物質が採用可能である。そして、密着強度を向上させるため、CrやTiのシード層を形成した後にAlやAu等を蒸着するとよい。具体的には、Au/Ti、Au/Cr、Al/Ti、Al/Cr、Ni/Ti、Ni/CrおよびAu/Moから選択される金属2層膜が例示される。端面3に金属反射膜4が形成された状態を図6に示す。
【0042】
この後に、ファイバーアレーの端面を光導波路基板1表面に接触させるような向きに接合層6と接合させる。このとき、導波光が効率よく光ファイバー(ファイバー芯線)10に入射するよう精密な位置合わせが必要である。光導波路2に光を入射させ、光ファイバー(ファイバー芯線)10の出射側で光出力をモニターしつつ、この出力が最大になるファイバーアレーの位置にて接着剤B7を硬化させることによって図1に示す構造の光導波路素子が得られる。
【0043】
また、ファイバーアレーと光導波路基板1との接合では精密な位置合わせが必要なため、接着剤が熱硬化型では、炉に入れあるいはドライヤーによる加熱の際に一般的に位置ズレを起こし易いため、接着剤B7は紫外線硬化型でかつ透明な接着剤が適している。これに対し、上記接合層6と光導波路基板1との接合においては、それ程の精度が要求されないため、透明であれば紫外線硬化型でも熱硬化型でも使用可能である。
【0044】
尚、本発明に係る光導波路素子は特定の基板材料や特定の機能を持った光導波路素子に限定されるものでないこと、また、基板上に複数の素子が集積されあるいは単一の素子が装荷されているかに拘わらず光導波路素子に一般的に適用できるものであることは以上の説明から明らかである。
【0045】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【実施例1】
【0046】
図7は、ニオブ酸リチウム(LN)基板上に形成した光導波路型偏波コントローラーの光回路を示す。図7において、光導波路入射端を11、出射端を14とする。
【0047】
上記光導波路型偏波コントローラーは、同一基板1上に連結された偏光変換素子12と位相シフター13から成る。図7から分かるように、偏光変換素子12においては、導波路脇に設けられた一対の金属ストリップ121、122と、導波路直上に設けられた一つの金属ストリップ123から構成され、また、位相シフター13の電極は導波路脇に設けられた一対の金属ストリップ131、132から構成される。尚、これら構造の詳細については非特許文献1に記載がある。
【0048】
まず、結晶のX軸方位でカットされたニオブ酸リチウム(LN)結晶から成る光導波路基板1のZ軸方向に光を伝搬させるようにTi蒸着およびそれに続くTi拡散によって導波路基板1にチャネル型光導波路を形成した。次に、フォトグラフィー技術によってLN基板上に10μm程度のTi金属のストライプを形成した後、上記基板を1000℃付近の高温に晒すことによりTi金属を基板内部に拡散させる。この結果、深さ5μm、幅10μm程度のTiの原子分布が生じ、Ti原子濃度にほぼ比例して屈折率の上昇が引き起こされ、この屈折率の上昇領域が光導波路となる。
【0049】
次に、光導波路基板上に、感光部分が現像液に溶ける性質を有するポリシラン材料をスピンコーターで均一に塗布した。その後、フォトグラフィー技術によって光導波路の出射側端面から3mmの領域に限定してポリシラン材料を残し、これを300℃、2時間焼成した結果、上記ポリシラン材料はSiO膜に変性して接合層6が形成された。この接合層6の膜厚について触針式の段差計を用いて測定した結果、膜厚は14μmであった。
【0050】
次の工程は基板端面を45度に研磨することである。これには光導波路基板が45度に傾斜して研磨可能な専用の金属製治具を用いる。#600番の粗い砥粒を用いた主として角度形成のための研磨に続き、バフ研磨によって鏡面に仕上げた。研磨した端面を観察したところ、上記接合層6の表面付近は数μmフチダレを生じていたが、光導波路基板と接合層6の境界部分は平坦に研磨されており、光導波路部分がほぼ正確に45度の角度で研磨されていることを確認した。
【0051】
45度の角度を持つ基板端面に、電子ビーム蒸着法によってチタン金属(Ti)および金(Au)を蒸着した。両金属を合わせた膜厚は200nmであった。45度の基板端面に金属の反射膜が形成された状態を図6に示す。但し、図6は実施例1には含まれない接着剤A5の層を有しているという相違点がある。
【0052】
上記方法によって作製した光導波路素子を図2に示す。尚、光導波路の入射端には、従来の光素子と同様、光ファイバーが光導波路と一直線上に並ぶようにファイバーアレーを用いて接合している(但し、図示せず)。
【0053】
そして、図示外の入射側ファイバーから約500μWの光を入射し、出射側の光ファイバー(ファイバー芯線)10からの出力を測定することによりこの素子の挿入損失を評価した結果、挿入損失は4.6dBであった。
【0054】
尚、スピンコートによって光導波路基板上に塗布するポリシランは、溶剤の濃度、焼成する温度、時間を調整することによって、均一な膜として厚みを5μmまで薄くすることができた。
【実施例2】
【0055】
導波光がファイバーに入射するとき、屈折率の異なる2つの物質、すなわち、図1の接着剤B7と光ファイバー(ファイバー芯線)10の端面との界面において生ずる反射、および、図2の光導波路基板1における光導波路2とポリシラン材料を塗布焼成して形成した接合層6との界面で起こる反射等、屈折率が僅かに異なる層の境界で発生する反射戻り光を抑制するためには、光導波路基板1の端面3も基板1表面との角度が45度からβだけずらす必要が生じる。これに応じて、ファイバーアレーの端面とファイバー中心線の角度90度からαずれる(すなわち、光導波路基板1表面と平行に設けられるファイバー芯線10の端面がファイバー芯線10の中心線と垂直に交わる垂直面に対してαだけ傾斜する)ように研磨したものを使用する。
【0056】
より具体的にファイバーアレーと端面3の角度関係を図8に示す。
【0057】
端面3の角度を0°として、その垂線を図8で90度と示す。入射角と反射角が等しいことから、(45°+β)=(45°−β+α)より、α=2βとなる。
【0058】
通常、透過損失を犠牲にしないで反射戻り光を−40dB程度に低減するには上記αを8度にとる。このときβは4度とする必要がある。
【0059】
光導波路の形成条件と接合層の形成条件は、実施例1と全く同じとして、基板端面3を光導波路基板1表面から41度(β=4度)となるように研磨加工した上で、ファイバー芯線10の端面をファイバー芯線10の中心線と垂直に交わる垂直面に対して8度だけ傾斜させて端面研磨したファイバーアレーを互いに接合する。このとき、ファイバーからの光出力が最大となるように相互の位置を調整して接合することは実施例1と全く同様である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る光導波路素子によれば、光伝播損失を起こすことなく収容される装置筺体内における占有スペースを低減できるため導波路型の光制御素子に好適に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態に係る光導波路素子の構成説明図。
【図2】本発明の他の実施の形態に係る光導波路素子の構成説明図。
【図3】本発明の更に他の実施の形態に係る光導波路素子の構成説明図。
【図4】図1に示された実施の形態に係る光導波路素子の製造途中における工程説明図。
【図5】図1に示された実施の形態に係る光導波路素子の製造途中における工程説明図。
【図6】図1に示された実施の形態に係る光導波路素子の製造途中における工程説明図。
【図7】実施例1に係る光導波路型偏波コントローラーの光回路を示す説明図。
【図8】光ファイバー端面と光導波路基板端面の角度関係を示す説明図。
【図9】従来例に係る光導波路素子の構成説明図。
【符号の説明】
【0062】
1 光導波路基板
2 光導波路
3 基板端面
4 反射膜
5 接着剤A
6 接合層
7 接着剤B
10 光ファイバー(ファイバー芯線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に光導波路を有する光導波路基板と、上記光導波路の入力側および/または出力側端部の光導波路基板端面が基板表面に対し40度から50度の角度を有するように基板の厚み方向内側に向い傾斜して傾斜面を形成しかつ鏡面研磨された上記傾斜面に設けられた反射膜と、上記傾斜面近傍の基板表面に直接若しくは接着剤を介し設けられた厚さ5μm〜200μmの接合層と、この接合層に接着剤を介して取り付けられかつ基板表面に対しその中心線が80度から100度の角度を有するように設けられた光ファイバーとでその主要部が構成され、光導波路の入力側および/または出力側が光ファイバーの出射側および/または入射側端面に対して上記反射膜を介し80度から100度屈曲して結合するようになっていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
接着剤を介して上記接合層に取り付けられる光ファイバーの端面が、この光ファイバーの中心線と垂直に交わる垂直面に対し1度から10度ずれるように斜めカットされた構造になっていることを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項3】
上記接合層が、光導波路基板上に塗布したポリシランを加熱して形成した酸化ケイ素若しくはゾルゲル法にて形成した酸化ケイ素により構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光導波路素子。
【請求項4】
上記反射膜が、Au/Ti、Au/Cr、Al/Ti、Al/Cr、Ni/Ti、Ni/CrおよびAu/Moから選択される金属2層膜により構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光導波路素子。
【請求項5】
上記光導波路基板が、ニオブ酸リチウム(LiNbO)若しくはタンタル酸リチウム(LiTaO)により構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光導波路素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−317833(P2006−317833A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142315(P2005−142315)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】