説明

光強度分布補正光学系およびこの光学系を用いたバイオチップ読取装置

【課題】ビーム径の細い平行光のレーザを用いて、ビーム径を拡大し且つ強度分布を平坦にし、光利用効率を向上させた上げること。
【解決手段】ビーム径の細い平行光のレーザを用いて、ビーム径を拡大し且つ強度分布を平坦にし、光利用効率を上げることを特徴とした光強度分布補正光学系において、
少なくとも1つの前記平行光を発散光に変換する負の屈折力を持つ第1レンズ群と
前記レンズ群の後段に配置され、少なくとも1つのレンズから成る負の屈折力を持つ第2レンズ群と、前記第2レンズ群の後段に配置され、少なくとも1つのレンズから成る正の屈折力を持つ第3レンズ群と、を有し、
平行に出射される光源からの入射光を拡散させ、拡大しコリメートすると共に各レンズ群の球面収差により前記入射光の強度分布を平坦にして出射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細い平行なレーザを拡大し、均一な強度分布且つ十分な光量を得られるような光強度分布補正光学系およびこの光学系を用いたバイオチップ読取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光強度分布補正光学系の先行技術としては下記の特許文献が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−317508号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術においては次のような問題があった。
1.細い平行なレーザは発散光ではないため、ビームを拡大し、強度分布を平坦にできず、光の利用効率が悪い。
【0005】
従って本発明は、上記従来技術の問題点を解決するためになされたもので、
1.細い平行なレーザを拡散させる。
2.ビームの強度分布を平坦に近づける。
3.前記1.2において光利用効率が低下しないようにする。
ことにより、均一な強度分布且つ十分な光量を得られるような光学系を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を達成するための本発明の光学系は、請求項1においては、
ビーム径の細い平行光のレーザを用いて、ビーム径を拡大し且つ強度分布を平坦にし、光利用効率を上げることを特徴とした光強度分布補正光学系において、
少なくとも1つの前記平行光を発散光に変換する負の屈折力を持つ第1レンズ群と
前記レンズ群の後段に配置され、少なくとも1つのレンズから成る負の屈折力を持つ第2レンズ群と、
前記第2レンズ群の後段に配置され、少なくとも1つのレンズから成る正の屈折力を持つ第3レンズ群と、
を有し、
平行に出射される光源からの入射光を拡散させ、拡大しコリメートすると共に各レンズ群の球面収差により前記入射光の強度分布を平坦にして出射することを特徴とする光強度分布補正光学系。
【0007】
請求項2においては、前記第1レンズ群および前記第2レンズ群は密着していることを特徴とする請求項1に記載の光強度分布補正光学系。
【0008】
請求項3においては前記球面収差の収差量は、前記第1レンズ群の焦点距離のほぼ40%以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光強度分布補正光学系。
【0009】
請求項4においては、光源からの入射光を対物レンズによりバイオチップ面に照射するバイオチップ読取装置において、
請求項1から請求項3のいずれかに記載の光強度分布補正光学系を用いて前記入射光をコリメートすると共に、各レンズ群の球面収差により前記入射光の強度分布を平坦にして前記対物レンズに入射させることを特徴とするバイオチップ読取装置。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したことから明らかなように本発明の請求項1〜4によれば、次のような効果がある。
平行な細いビーム径のレーザを試料全体が照射できるビーム径に拡大すると共にビームの強度分布を平坦にし、更に光利用効率をあげることにより、バイオチップ読取装置に適用した場合、画像の光量分布、画面の明るさを改善した光強度分布補正光学系を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明の光強度分布補正光学系の実施形態の一例を示す要部構成図である。
【0012】
図1において、18はレーザシャッタであり、レーザ(図示省略)からの細い平行なレーザ光のオンオフを行う。19はビーム径拡大レンズで、レーザシャッタ18から所定の距離離れた箇所に配置されビーム径を放射状に拡大することにより、発散光に変換する。
【0013】
20は強度分布補正光学系であり、拡大レンズ19から所定の距離離れた箇所に配置されている。この強度分布補正光学系20は拡大レンズで発散光とされたレーザ光のガウス分布となっている光強度分布を均一化する。均一化された光はミラー3、DM4を経て照射面へ導かれる。
【0014】
図2は本発明で用いる光強度分布補正光学系の一例を示す構成図である。なお、この光強度分布補正光学系の構成は特開平2006−317508に開示されている。
【0015】
図2に強度分布補正光学系20の詳細を示す。図において光源30は図1に示す拡大レンズ19を透過したレーザからの発散光である。第1凸レンズ31は、発散光を正の屈折力により光束を光軸側に屈折させてビーム径を絞りながら凹レンズ32に入射させる。凹レンズ32は、第1凸レンズ31の出射光を負の屈折力により光束を外側に屈折させてほぼ平行光にする。
【0016】
各レンズの球面収差は、光源から出力された際の光強度のガウス分布を平坦な光強度分布にする。なお、それぞれのレンズ群は、1枚のレンズに限らず、複数のレンズにより構成しても良い。
【0017】
このことを図3を用いて説明する。図3は、レンズの球面収差を説明する説明図である
図3(a)において、凸レンズ34では、球面収差により、その外周側に入射する光束はレンズ近くの焦点距離f1に収束し、内周に入射する光束はf1よりも遠い焦点距離f2に収束する。
【0018】
図3(b)において、凹レンズ35では、球面収差により、その外周側に入射する光束は、広がり角が大きく、内周に入射する光束は広がり角が小さい。図3(b)において焦点距離f3,f4は、平行光が入射した際の発散する光束の延長線(破線)が収束する点までの距離である。この焦点距離が、球面収差により、凹レンズ35の外周では短く(f3)、内周では遠くなる(f4)。
【0019】
図2に戻り、第1凸レンズ31では、球面収差により、光強度の高い中心部の光束は平行に近くなり、光強度の弱い周辺部の光束は中心部に集められる。
また、凹レンズ32は、第1凸レンズ31でビーム径全体が絞られるため、凹レンズ32の内側にビームが入射するので凹レンズ32の球面収差は弱くなり、ビーム全体を平行光に近くすると共に光強度分布を平坦にすることができる。
【0020】
第2凸レンズ33は、絞られたビーム径を拡大することでズーミングを可能にする。なお、実際には、第1凸レンズ31、凹レンズ32および第2凸レンズ33の球面収差を組み合わせて、より均一な光強度分布を実現している。この場合、球面収差量としては、第1凸レンズ31において、その合成焦点距離のほぼ40%以上あれば、このような効果を得ることができる。
【0021】
図4は、上述における光強度分布補正の効果を表した図である。
図4(a),(b)において、縦軸はビームの相対強度を示し、横軸はビーム径を示している。なお、この例では図2の光源30の位置にNA=0.09の光ファイバ端面からの発散光を用いた例を示している。
【0022】
図4(a)は、光強度分布補正前のビームの強度分布(ガウス分布)であって、ビームの中心に強度のピークがあり、周辺になるほど強度が減衰していく様子がわかる。
これに対して、図4(b)は、光強度分布補正後の分布であって、光強度は、ビームの中心からの距離aで急峻に減衰しているが、必要な視野2aの内部では、その分布がほぼ均一に補正されていることが分かる。
【0023】
また、光強度分布を補正した場合でも、ビーム強度のピーク(ビームの中心)と、そこからの距離aにおけるビーム強度の差で示したシェーディングSの値は、ほぼ同一といえる。
この結果からビーム強度分布は、許容できるシェーディングS以内に平坦化された状態であって、アパーチャ(視野径2a)への入射効率は、補正前ではファイバからの出射光量のおよそ22%であったものが、補正後にはおよそ58%となり、2.6倍に改善されることが確認されている。
【0024】
以上のように、球面レンズ3枚で発散光をコリメートすると共に、光強度分布を必要な視野内では平坦に補正することができる。
【0025】
図5は、本発明の光強度分布補正光学系を用いたバイオチップ読取装置における光学系の構成を示す図である。
図5に示すように、本実施形態のバイオチップ読取装置は、透明なバイオチップ100の表面110に励起光を照射する本発明の光強度分布補正光学系を用いた照明光学系200と、この照明光学系200により照射された励起光に基づく蛍光像を結像させる結像光学系300と、を備える。
【0026】
バイオチップ100の表面110には、複数のセルが2次元配置され、各セルに蛍光試料が注入される構造となっている。
【0027】
照明光学系200の後段にはマイクロレンズ123aが形成された透明な回転板123が備えられている。回転板123はモータ124の回転軸125に取り付けられ、モータ124の駆動力により回転される。照明光学系200からの平行光が回転板123に入射すると、各マイクロレンズ123aはそれぞれレーザ光を集光してバイオチップ100を照射する。
【0028】
モータ124により回転板123を回転させると、バイオチップ100の表面110が各マイクロレンズ123aで絞られた励起光ビームにより走査される。マイクロレンズ123aは、その各ビームがバイオチップ100の各セルを個別に走査できるような空間位置関係で回転板123上に配置されている。このような構成により、スペックルのノイズの発生を防ぐことができる。
【0029】
結像光学系300は、レンズ131と、励起光を除去し蛍光のみを選択的に透過させるバリアフィルタ132と、対物レンズ133と、を備える。励起光により励起されたバイオチップ100のセルからの蛍光は、レンズ131、バリアフィルタ132、対物レンズ133を介して受光器114に入射し、受光器114に結像を結ぶ。

【0030】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の光強度分布補正光学系の実施形態の一例を示す要部構成図である。
【図2】本発明で用いる光強度分布補正光学系の一例を示す構成図である。
【図3】レンズの球面収差を説明する説明図である。
【図4】光強度分布補正の効果を表した図である。
【図5】バイオチップ読み取り装置の要部構成図である。
【符号の説明】
【0032】
3 ミラー
4 DM(ダイクロイックミラー)
18 レーザシャッタ
19 ピーム拡大レンズ
20 光強度分布補正光学系
31 第1凸レンズ
32 凹レンズ
33 第2凸レンズ
34 凸レンズ
35 凹レンズ
100 バイオチップ
110 バイオチップの表面
114 受光器
123 回転板
123a マイクロレンズ
124 モータ
125 回転軸
131 レンズ
132 バリアフィルタ
133 対物レンズ
200 照明光学系
300 結像光学系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビーム径の細い平行光のレーザを用いて、ビーム径を拡大し且つ強度分布を平坦にし、光利用効率を上げることを特徴とした光強度分布補正光学系において、
少なくとも1つの前記平行光を発散光に変換する負の屈折力を持つ第1レンズ群と
前記レンズ群の後段に配置され、少なくとも1つのレンズから成る負の屈折力を持つ第2レンズ群と、
前記第2レンズ群の後段に配置され、少なくとも1つのレンズから成る正の屈折力を持つ第3レンズ群と、
を有し、
平行に出射される光源からの入射光を拡散させ、拡大しコリメートすると共に各レンズ群の球面収差により前記入射光の強度分布を平坦にして出射することを特徴とする光強度分布補正光学系。
【請求項2】
前記第1レンズ群および前記第2レンズ群は密着していることを特徴とする請求項1に記載の光強度分布補正光学系。
【請求項3】
前記球面収差の収差量は、前記第1レンズ群の焦点距離のほぼ40%以上であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の光強度分布補正光学系。
【請求項4】
光源からの入射光を対物レンズによりバイオチップ面に照射するバイオチップ読取装置において、
請求項1から請求項3のいずれかに記載の記載の光強度分布補正光学系を用いて前記入射光をコリメートすると共に、各レンズ群の球面収差により前記入射光の強度分布を平坦にして前記対物レンズに入射させることを特徴とするバイオチップ読取装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−32589(P2010−32589A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191811(P2008−191811)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「個別化医療の実現のための技術融合バイオ診断技術開発/染色体解析技術開発/日本人BACを用いた革新的染色体異常解析基盤技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】