説明

光情報記録媒体の製造方法

【課題】高い熱伝導率を有する金属膜中に透明誘電体粒子を分散させた優れた放熱特性と高い透過率を有する半透過反射膜を、安定かつ高い作業効率で成膜可能な光情報記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】半透過反射膜25aを構成する金属膜40と同一材料の金属ターゲット40aの成膜粒子生成部位45に、透明誘電体粒子42と同一材料の複数の透明誘電体チップ42aとを配設したターゲット44をスパッタリング装置に用いることで、金属膜40中に透明誘電体粒子42が分散した優れた放熱特性と高い透過率を有する半透過反射膜25aを、作業効率良く安定して成膜することができる。また、金属ターゲット40aの成膜粒子生成部位45に配設する透明誘電体チップ42aが占める面積の割合を変化させることで、半透過反射膜25aの透過率の制御を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ光を利用して情報信号の記録もしくは再生を行うための情報記録層を複数有する光情報記録媒体の製造方法に関し、特に情報記録層を構成する半透過反射膜に、高い熱伝導率を有する金属膜中に当該金属と非固溶な透明誘電体粒子を分散させてなる複合膜を用いた光情報記録媒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、コンパクトディスク(CD)、デジタルヴァーサイタルディスク(DVD)に代表される光情報記録媒体は、記録容量、ランダムアクセス性、可搬性、価格等の面から産業用から民生用まで広く普及している。これら光情報記録媒体には再生専用型、書き換え可能型、1回だけ記録が可能な追記型に大きく分けられ、この内、書き換え型光情報記録媒体にはCD−RW、DVD−RW等のように相変化型の記録膜を有するものが知られている。このような書き換え型の光情報記録媒体は、照射されるレーザ光を吸収しそのレーザ光のパワーに応じて光学特性の異なる非晶質相か結晶相かのいずれかの相をとる記録膜を用いて情報信号の記録が行われたり、照射されるレーザ光の反射光の強度が非晶質相と結晶相とで異なることを利用して記録された情報信号の再生が行われるものである。尚、相変化型の記録膜は再度所定の強度のレーザ光を照射することで可逆的に相転移させることができるため、何度でも情報信号の書き換えが可能となる。
【0003】
近年、情報のデジタル化に伴い情報記録媒体に記録される情報量は年々増加傾向にあり、光情報記録媒体に対しても更なる高容量化と記録再生の高速化が要求されている。光情報記録媒体の高容量化の手法の1つとしては情報信号が記録される情報記録層を複数積層するというものがあり、例えば光情報記録媒体の片面側からレーザ光を照射して複数の情報記録層に対し記録再生を行なうことができる片面入射型多層光情報記録媒体の検討がなされている。
【0004】
また、光情報記録媒体の記録再生の高速化に対しては、情報記録層を構成する記録膜等の改善や、照射レーザ光の高出力化の検討がなされている。尚、光情報記録媒体が高速記録再生に対応するためには、通常速度の記録再生時よりも高出力の記録再生レーザ光の照射が必要となり、仮に同一構成の光情報記録媒体に通常速度の2倍の速度で記録を行うためには、通常速度で使用される記録レーザ光のほぼ2倍の出力が必要となる。
【0005】
ここで、従来の片面入射型多層光情報記録媒体の例として、2層の情報記録層を有する相変化型の光情報記録媒体の模式断面図を図5に示す。図5に示す光情報記録媒体は、第1基板20aと第2基板20bとの間に中間層30を挟んで第1情報記録層L0、第2情報記録層L1を有している。そして、レーザ光の入射方向から見て手前側の第1情報記録層L0は、レーザ光の入射方向から順に、第1誘電体膜22、第1記録膜23、第2誘電体膜24、半透過反射膜25で構成されており、また、レーザ光の入射方向から見て奥側の第2情報記録層L1は、レーザ光の入射方向から順に、第3誘電体膜26、第2記録膜27、第4誘電体膜28、反射膜29で構成されている。
【0006】
図5に示すような情報記録層を複数有する片面入射型多層光情報記録媒体においては、奥側の第2情報記録層L1に記録再生を行うレーザ光は、レーザ光入射側から見て手前側の第1情報記録層L0を必ず透過する必要がある。しかしながら、第2情報記録層L1に照射されるレーザ光は第1情報記録層L0を透過する際、ある程度反射、吸収されてしまうため、予め第1情報記録層L0が反射、吸収する分だけ強い出力でこのレーザ光の照射を行う必要がある。このとき、第1情報記録層L0の反射、吸収が大きい、即ち透過率が低いと、照射するレーザ光の出力を更に高出力としなければならず、電力の消費量が大きくなる他、レーザ発生機構や光情報記録媒体自体への負荷も大きくなるので好ましくない。従って、第1情報記録層L0は高い透過率を有することが望ましく、特に、高出力のレーザ光が必要な高速記録再生に対応するためには、より高い透過率を有する第1情報記録層L0を形成することが重要となる。
【0007】
尚、現在のレーザ出力システムの性能面から考えると、例えば情報記録層が2層の片面入射型のDVDを想定した場合、第2情報記録層L1に良好な記録再生を行えるようなレーザ光の出力を得るためには、通常速度の記録再生時では第1情報記録層L0の透過率は40%以上あれば良いが、2倍速、4倍速等の高速記録再生に対応するためには少なくとも50%以上の透過率が必要となる。
【0008】
第1情報記録層L0の透過率を向上させるためには、第1情報記録層L0を構成している半透過反射膜25の膜厚を薄くすることが有効であると一般に知られている。しかし、半透過反射膜25にはレーザ光を反射する機能とともに第1記録膜23に生じる熱を放熱する機能を有しており、半透過反射膜25の膜厚を単純に薄くした場合この放熱特性が悪化するため、第1情報記録層L0が十分な記録再生特性を確保することが困難となる。よって、半透過反射膜25の膜厚を単純に薄くするという手法のみでは、第1情報記録層L0が良好な記録再生特性を維持しつつ、透過率を向上させることは困難である。従って、半透過反射膜25の組成や構造を検討して、半透過反射膜25の放熱特性を損なうことなく透過率の向上を図る様々な試みがなされている。
【0009】
その試みの一つとして、下記[特許文献1]には、単体元素膜中に微細な化合物が分散されて構成されている半透過反射膜(特許文献1における光半透過膜)を有する情報記録媒体に関する発明が開示されており、[特許文献1]の実施例において、アルミニウム膜中に微細な酸化珪素粒子が分散されて構成されている半透過反射膜が記載されている。[特許文献1]に開示されている発明によれば、アルミニウム膜により半透過反射膜の密着性を向上させるとともに放熱特性を維持し、光透過性の高い酸化珪素粒子を半透過反射膜中に分散させることで、第1情報記録層L0に高い透過率を持たせている。
【0010】
【特許文献1】特開平10−188352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
[特許文献1]に開示されている発明では、アルミニウム膜中に微細な酸化珪素粒子が分散されてなる半透過反射膜の成膜を、図6に示すスパッタリング装置11を用いて次のように行っている。
【0012】
先ず、スパッタリング装置11の成膜室13の下部に配置された陽極となるバックプレート15上に半透過反射膜が形成される基板2を取り付ける。次に、チャンバー12の上部に設けられた排気口14から、チャンバー12の内部の気体を十分に排気し低圧状態とする。そして、基板2上へアルミニウム膜を成膜する時には、ガス供給口19から20sccmのArガスを成膜室13内に導入しつつ、アルミニウムターゲット17側のシャッター18を開き、成膜室13の上部に陰極として配置されたアルミニウムターゲット17をスパッタすることで、基板2上にアルミニウム膜を成膜する。また、アルミニウム膜中へ酸化珪素粒子を形成する時には、ガス供給口19から15sccmのArガスに3sccmの酸素ガスを混入した混合ガスを成膜室13内に導入しつつ、アルミニウムターゲット17側のシャッター18を閉じると共に珪素ターゲット16側のシャッター18を開き、成膜室13の上部に陰極として配置された珪素ターゲット16をスパッタすることで、アルミニウム膜中へ酸化珪素粒子を形成する。そしてこのアルミニウム膜の成膜と酸化珪素粒子の形成を交互に10回程度繰り返すことで、アルミニウム膜中に微細な酸化珪素粒子が分散された半透過反射膜を成膜する。
【0013】
しかしながら上記のような成膜方法では、アルミニウム膜の成膜と酸化珪素粒子の形成を行う度に、成膜室13内のガスを入れ替えなければならず、著しく作業効率が悪い。また、頻繁にガスの切り替えを行うため成膜条件が不安定となり、安定した成膜が困難であるなどの課題があり更なる改善が望まれる。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高い熱伝導率を有する金属膜中に透明誘電体粒子を分散させた優れた放熱特性と高い透過率を有する半透過反射膜を、安定かつ高い作業効率で成膜することが可能な光情報記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、基板と、情報を記録する情報記録層と、該情報記録層に向けて照射されたレーザ光の一部を透過し残りを反射する半透過反射膜25aとを備えた光情報記録媒体の製造方法において、
前記基板上に前記半透過反射膜25aをスパッタ法により成膜するスパッタ工程を有し、
該スパッタ工程は、金属からなるターゲット44の表面におけるスパッタ領域に、前記金属に非固溶な誘電体を配設してスパッタし、成膜する前記半透過反射膜25aを、前記誘電体からなる誘電体粒子が分散された膜とすることを特徴とする光情報記録媒体の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
【0016】
また、前記半透過反射膜25aにおける前記誘電体粒子の体積の比率を、前記スパッタ領域において前記誘電体が占める面積の比率で制御することを特徴とする上記の光情報記録媒体の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
【0017】
更にまた、前記金属をAg(銀)単体またはその合金とし、前記誘電体をSiO(二酸化珪素)とすることを特徴とする上記の光情報記録媒体の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る光情報記録媒体の製造方法は、上記のような構成のため、
金属膜中に透明誘電体粒子を分散させた優れた放熱特性と高い透過率を有する半透過反射膜を、安定かつ高い作業効率で成膜することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係る光情報記録媒体の製造方法の実施の形態について図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る光情報記録媒体の製造方法の概略を説明する図である。図2は本発明に係る半透過反射膜の模式拡大図である。図3は本発明に係る半透過反射膜の成膜に用いるターゲットを示す図である。図4は本発明に係る半透過反射膜の成膜に用いるスパッタリング装置の例を示す図である。
【0020】
図1は光情報記録媒体の製造方法の概略を説明する図である。尚、図1においては2層の情報記録層を有する相変化型の光情報記録媒体を例に用いている。
【0021】
先ず、基板作製工程において、図1(A)に示すように、片面に案内溝等が同心円状又は螺旋状に凹凸パターンとして形成された光透過性を有する第1基板20a及び、第2基板20bを、合成樹脂を材料とする場合には主に射出成形によって、セラミックを材料とする場合には主にフォトポリマー法によって作製する。第1基板20a及び、第2基板20bの材料としては、合成樹脂では、ポリカーボネート、ポリメチル・メタクリレート、ポリスチレン、ポリカーボネート・ポリスチレン共重合体、ポリビニルクロライド、脂環式ポリオレフィン、ポリメチルペンテン等の各種熱可塑性樹脂や熱硬化樹脂、紫外線硬化樹脂及び可視光硬化樹脂を含む各種放射線硬化樹脂等を用いることができ、中でも特に成形が容易であることからポリカーボネートを用いることが好ましい。また、セラミックスを材料とする場合には、ソーダライムガラス、ソーダアルミノ珪酸ガラス、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス等を用いることができる。
【0022】
次に、成膜工程において、図1(B)に示すように、スパッタリング装置を用いて第1基板20a上に第1情報記録層L0を形成する。尚、第1情報記録層L0は第1基板20aから順に、第1誘電体膜22、第1記録膜23、第2誘電体膜24、半透過反射膜25で構成されている(図5参照)。このうち半透過反射膜25に関する成膜方法は後に詳しく説明する。また、同様に第2基板20b上に第2情報記録層L1を形成する。尚、第2情報記録層L1は第2基板20bから順に、反射膜29、第4誘電体膜28、第2記録膜27、第3誘電体膜26で構成されている(図5参照)。
【0023】
次に、記録媒体形成工程において、図1(C)に示すように、第1情報記録層L0が形成された第1基板20aと、第2情報記録層L1が形成された第2基板20bとを、第1情報記録層L0と第2情報記録層L1とが対向するように接着することにより、2層の情報記録層を有する光情報記録媒体が作製される。尚、第1基板20aと第2基板20bとの接着には、紫外線硬化樹脂や接着剤が塗布されたポリカーボネートのシート等が用いられ、この紫外線硬化樹脂やポリカーボネートのシートが中間層30となる。
【0024】
尚、情報記録層には必要に応じて上記の膜構成に加え、熱拡散膜、界面膜、拡散防止膜、光学調整膜、透過率向上膜などを有しても良い。
【0025】
また、図1に示した以外にも、第1基板20aの第1情報記録層L0上に、所定の凹凸パターンを有する樹脂層等を形成した後、その凹凸パターン上に第2情報記録層L1を成膜し、最後に基板等を接着することで2層の情報記録層を有する光情報記録媒体を作製しても良い。
【0026】
次に、相変化型光情報記録媒体の情報記録層を構成する各膜の機能等を説明する。
【0027】
第1誘電体膜22、第2誘電体膜24、第3誘電体膜26、第4誘電体膜28は、レーザ照射により発生する熱によって第1記録膜23、第2記録膜27や第1基板20a、第2基板20b等が変形することを防止すると共に、情報記録層の反射率及び透過率等の光学特性を調整する機能を有している。また、半透過反射膜25もしくは反射膜29が隣接している場合には第1記録膜23、第2記録膜27で発生した熱を効率よく半透過反射膜25もしくは反射膜29に伝導するなどの機能をも有している。一般的な誘電体層の材料としては、SiO、SiO、ZnO、TiO、Nb、ZrO、MgO等の酸化物、ZnS、In、TaS等の硫化物、SiC、TaC、WC、TiC等の炭化物、SiN等の窒化物等の単体もしくはこれらの混合物が挙げられ、中でも記録、消去の繰り返しによっても、記録感度、C/N比、消去率等の劣化が起こりにくいZnSとSiOとの混合膜の使用が特に好ましい。
【0028】
第1記録膜23及び、第2記録膜27は、照射されるレーザ光の出力により、結晶相と非晶質相とが可逆的に相転移する相変化材料で構成されており、その材料としてはTe、Sb等のカルコゲンを主成分としたGeSbTe、AgInSbTe、CuAlTeSb等の合金等が挙げられる。また、環境特性など各種の特性を向上させるため、前記材料にTi、In等を添加しても良い。
【0029】
反射膜29は、第2情報記録層L1に記録されている情報信号を再生する時に照射されるレーザ光をレーザ光学機器側に反射すると共に、レーザ光の照射により第2記録膜27で発生する熱を効率よく放熱し冷却を行う機能を有している。反射膜29の材料としてはAl、Au、Ag、Cu、Ti、Cr、Ni、Ta、Mo、Fe、Zn、Ga、As、Pd等の金属、又は前記金属を含む2種類以上の金属からなる合金、又は前記金属もしくは前記合金と、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物、金属フッ化物等の金属化合物とを混合したものなどが挙げられるが、中でも高い反射率及び熱伝導率を兼ね備えているAl、Au、Agもしくはその合金を用いることが好ましい。
【0030】
半透過反射膜25は、照射されるレーザ光をレーザ光学機器側に反射すると共に、レーザ光の照射により第1記録膜23で発生した熱を効率よく放熱し冷却を行う機能を有している。特に本発明では半透過反射膜25として、図2に示す、母材となる高い熱伝導率を有する金属膜40に、金属膜40を構成する金属と非固溶な透明誘電体粒子42を均一に分散させて構成される複合膜を用いる。このような複合膜で構成された半透過反射膜25aは、金属膜40の高い熱伝導率により優れた放熱特性を有しつつ、金属膜40中に分散された透明誘電体粒子42によりレーザ光の透過率が向上する。このため、半透過反射膜25aを第1情報記録層L0に用いれば、第1情報記録層L0は良好な記録特性を維持しつつ、高い透過率を得ることができる。また、金属膜40中の透明誘電体粒子42の比率を変化させることで、半透過反射膜25aの透過率を制御することが可能である。
【0031】
透明誘電体粒子42としては、SiO、Al、SiN等の光透過性を有する誘電体を用いることができる。また、金属膜40としてはAl、Au、Ag等の金属もしくはその合金を用いることができるが、特に、Ag、Au、Ag合金、Au合金を用いることが好ましい。Ag、Au、Ag合金、Au合金は、Alと比較して結晶粒径の小さな緻密な膜を形成することが可能であるため、光情報記録媒体の高容量化に伴い基板上の凹凸パターンであるピットもしくはグルーブ及びランド等が微細化した場合でも、それら凹凸パターンの表面はもとより側面にも十分な厚みの膜を均一に成膜することができる。また更に、結晶粒径の小さな緻密な膜が得られることで熱伝導率も向上し、凹凸パターンの微細化に際しても良好な記録特性を維持することができる。
【0032】
次に、本発明に係る光情報記録媒体の製造方法である、金属膜40と透明誘電体粒子42との複合膜からなる半透過反射膜25aの成膜方法を説明する。
【0033】
先ず、半透過反射膜25aの成膜に用いられるスパッタリング装置のターゲット44は、図3に示すような、半透過反射膜25aを構成する金属膜40と同一材料の円板状の金属ターゲット40aと、その表面上に配設された透明誘電体粒子42と同一材料の複数の透明誘電体チップ42aとで構成される。一般的にスパッタ法による成膜は、ターゲットにプラズマ放電、グロー放電等により生じたイオン等を衝突させ、この衝突により叩き出された成膜粒子が基板等の対象物に付着することで行われる。このときの成膜粒子はターゲット表面から均一に生成されるわけではなく、通常、成膜粒子の多くは、図3の点線で示されたリング状の成膜粒子生成部位45(スパッタ領域と言われる場合もある)から局所的に生成される。透明誘電体チップ42aはこの成膜粒子生成部位45に配設され、これにより、金属膜40中に効率良く透明誘電体粒子42を分散させることができる。また、金属ターゲット40aに配設される透明誘電体チップ42aの数量を変化させるなどして、成膜粒子生成部位45における透明誘電体チップ42aの占める面積の割合を変化させることで、半透過反射膜25aを構成する金属膜40と透明誘電体粒子42との体積の比率を変化させ、半透過反射膜25aの透過率を制御することができる。
【0034】
尚、上記のように成膜粒子生成部位45は通常リング状を呈するが、スパッタリング装置の構造等により円形、楕円形等となる場合には、その領域に透明誘電体チップ42aを配設する。配設する透明誘電体チップ42aは複数が好ましいが、単数としても良い。また、透明誘電体チップ42aの形状は特に限定はなく、正方形を含む多角形、円形、楕円形、その他どのような形状をとっても良く、更に、複数の形状、サイズを混在させて金属ターゲット40aに配設しても良い。
【0035】
ターゲット44は直流スパッタリング装置、高周波スパッタリング装置、マグネトロンスパッタリング装置、プラズマスパッタリング装置等を含む従来のスパッタリング装置に用いることができる。ここでは、その一例として高周波2極スパッタリング装置50を用いて、第1基板20aの第2誘電体膜24上に半透過反射膜25aを成膜する方法を図4に基づいて説明する。
【0036】
図4に示す高周波2極スパッタリング装置50の真空容器52内には、高周波電源58に接続された第1電極54と、グランドに接続された第2電極56とが第1電極54と対向して設置されている。第1電極54にはターゲット44が、第2電極56には第2誘電体膜24まで成膜された第1基板20aが取り付けられている。また、真空容器52にはガス導入管57と真空排気管59a、ガス排気管59bを有しており、真空容器52内を所定のガスで置換することができる。
【0037】
第1基板20aの第2誘電体膜24上に半透過反射膜25aを成膜する際には、先ず、真空容器52内部の気体を真空排気管59aに接続された図示しない真空ポンプにより排気し、その後、所定の流量のArガスをガス導入管57より導入する。このとき、真空容器52内部はガス排気管59bにより所定の低圧状態が維持される。次に、高周波電源58を稼動させることで、第1電極54と第2電極56との間に交流電界を生じさせる。この交流電界によりArガスは放電しプラズマを発生する。このプラズマ中のArイオンがターゲット44を構成する金属ターゲット40a及び金属ターゲット40aに配設された透明誘電体チップ42aに衝突し、金属ターゲット40aの成膜粒子と透明誘電体チップ42aの成膜粒子とを生成する。この金属ターゲット40aの成膜粒子と透明誘電体チップ42aの成膜粒子とが、図4中の矢印に示されるように第1基板20aの第2誘電体膜24上に付着し、金属膜40中に透明誘電体粒子42が分散された半透過反射膜25aが成膜される。
【0038】
上記のような成膜方法によれば、金属膜40の成膜時と透明誘電体粒子42の形成時とで真空容器52内部のガスを入れ替えることなく、一括して金属膜40中に透明誘電体粒子42が分散した半透過反射膜25aを成膜することができるため、作業効率が良く安定した膜を形成することができる。
【0039】
次に、成膜粒子生成部位45における透明誘電体チップ42aが占める面積の割合を変化させて半透過反射膜25aを成膜したときの半透過反射膜25aの熱伝導率及び透過率の変化を以下に示す。尚、ここでは半透過反射膜25aのみの熱伝導率及び透過率を評価するために、ガラス基板上に半透過反射膜25aのみを成膜した試料を作製し評価することとする。また、金属ターゲット40aとしてはAg合金であるAgPdCu合金を用い、透明誘電体チップ42aとしては透明誘電体であるSiOを用いた。更にまた、半透過反射膜25aの熱伝導率を測定することは技術的に困難であるため、熱伝導率とほぼ反対の挙動を示す比抵抗を測定することで半透過反射膜25の熱伝導率の挙動を推察するものとする。
【0040】
試料の作製は、先ず、5mm角のSiOの透明誘電体チップ42aをφ101.6mm(φ4インチ)の金属ターゲット40aの成膜粒子生成部位45に0枚〜48枚まで5段階に変化させて配設したターゲット44を用意する。次に、ターゲット44を高周波2極スパッタリング装置50の第1電極54に取り付ける。次に、ガラス基板を第2電極56に取り付け、このガラス基板上に高周波パワー100W、Arガス流量20sccmの条件で、AgPdCu合金の金属膜40中にSiOの透明誘電体粒子42が分散された膜厚10nmの複合膜を半透過反射膜25aとして成膜し透過率測定試料を作製する。また同様の条件で膜厚100nmの半透過反射膜25aを成膜し比抵抗測定試料を作製する。尚、ここでの流量の単位sccmとはstandard cc/minの略で1atm、0℃の条件下における流量cc/minを表している。こうして作製した透過率測定試料の波長λ=660nmの光における透過率を分光光度計を用いて測定した。また、比抵抗測定試料の抵抗値を4端子抵抗測定器(三菱化学(株)社製)を用いて測定し、半透過反射膜25aの寸法とガラス基板の抵抗値とから半透過反射膜25aの比抵抗を算出した。それらの結果を表1に示す。尚、表1においては、成膜粒子生成部位45の面積を内径φ40mm、外径φ80mmのリング形状として算出した。
【0041】
【表1】

表1より、金属ターゲット40aの成膜粒子生成部位45に配設する透明誘電体チップ42aの枚数が多くなり、成膜粒子生成部位45における透明誘電体チップ42aが占める面積の割合が高くなるに従って半透過反射膜25aの透過率は増加し、透明誘電体チップ42aを配設しないものと透明誘電体チップ42aを48枚配設したものでは約8%の透過率の向上が認められた。この透過率の向上効果は、成膜粒子生成部位45における透明誘電体チップ42aが占める面積の割合を高くすることで、半透過反射膜25a中の透過率向上効果を有する透明誘電体粒子42の比率が増加したことによるものである。
【0042】
また、半透過反射膜25aの比抵抗は、成膜粒子生成部位45における透明誘電体チップ42aが占める面積の割合が高くなるにつれ増加傾向を示すが、その増加傾向は急激なものではなく、したがって半透過反射膜25aの熱伝導率に急激な低下は生じないものと推測される。
【0043】
以上のことから、金属ターゲット40aの成膜粒子生成部位45に配設する透明誘電体チップ42aの数量を変化させるなどして、成膜粒子生成部位45における透明誘電体チップ42aが占める面積の割合を変化させることで、半透過反射膜25aを構成する金属膜40中の透明誘電体粒子42の比率を変化させ、これにより半透過反射膜25aの熱伝導率を維持しつつ、透過率の制御が可能なことがわかる。
【実施例1】
【0044】
片面にトラックピッチ0.74μm、溝深さ30nmの案内溝が形成されたφ120mmのポリカーボネート製の第1基板20aが射出成型により作製された。この第1基板20aの案内溝が形成された面上に、第1誘電体膜22として厚さ66nmのZnS−SiO膜が、第1誘電体膜22上に第1記録膜23として厚さ6nmのGeSbTe膜が、第1記録膜23上に第2誘電体膜24として厚さ7nmのZnS−SiO膜が、第2誘電体膜24上に半透過反射膜25aとして厚さ9nmのAgPdCuの金属膜40中にSiOの透明誘電体粒子42が分散された複合膜が、スパッタリング装置により連続して成膜された。これにより第1基板20a上に第1情報記録層L0が形成された。尚、半透過反射膜25aの成膜時のターゲット44としては、φ101.6mmのAgPdCu製の金属ターゲット40aに、5mm角のSiO製の透明誘電体チップ42aを金属ターゲット40aの成膜粒子生成部位45に16枚配設されたものが用いられた(成膜粒子生成部位45における透明誘電体チップ42aが占める面積の割合10.6%)。また、半透過反射膜25aの成膜時のArガス流量は20sccmとした。
【0045】
次に、片面にトラックピッチ0.74μm、溝深さ28nmの案内溝が形成されたφ120mmのポリカーボネート製の第2基板20bが射出成型により作製された。この第2基板20bの案内溝が形成された面上に、反射膜29として厚さ200nmのAgPdCu膜が、反射膜29上に第4誘電体膜28として厚さ25nmのZnS−SiO膜が、第4誘電体膜28上に第2記録膜27として厚さ14nmのGeSbTe膜が、第2記録膜27上に第3誘電体膜26として厚さ85nmのZnS−SiO膜が、スパッタリング装置により連続して成膜された。これにより第2基板20b上に第2情報記録層L1が形成された。
【0046】
次に、第1情報記録層L0が形成された第1基板20aと第2情報記録層L1が形成された第2基板20bとを、第1情報記録層L0と第2情報記録層L1とが対向するようにして接着し、2層の情報記録層を有する光情報記録媒体を作製した。尚、第1基板20aと第2基板20bとの接着は、第1情報記録層L0と第2情報記録層L1との間にアクリル系の紫外線硬化樹脂を塗布し、これに紫外線を照射し硬化させることで行った。尚、硬化した紫外線硬化樹脂が中間層30となる。最後に、作製した光情報記録媒体に所定のレーザ光を照射し第1記録膜23及び、第2記録膜27に初期化処理を行った。
【実施例2】
【0047】
半透過反射膜25aの成膜時のターゲット44に配設する、5mm角のSiO製の透明誘電体チップ42aの枚数を48枚とし(成膜粒子生成部位45における透明誘電体チップ42aが占める面積の割合31.8%)、かつ半透過反射膜25aの膜厚を10nmとした以外は実施例1と同様にして光情報記録媒体を作製した。
【0048】
(比較例)
半透過反射膜の成膜時のターゲット44にSiO製の透明誘電体チップ42aを配設せずに、半透過反射膜を厚さ7nmのAgPdCu膜とした以外は実施例1と同様にして光情報記録媒体を作製した。
【0049】
実施例1、実施例2、及び比較例で作製された光情報記録媒体の第1情報記録層L0に、所定の情報信号をレーザ光の出力21mW、線速度7.6m/sの条件で記録し、記録した情報信号をレーザ光の出力1.4mWの条件で再生した。その再生信号のジッタ値をタイムインターバルアナライザを用いて測定した。尚、評価には記録再生に用いるレーザ光の波長λを635nmとし、対物レンズの開口率NAが0.6であるDVDの評価システムを用いて行った。
【0050】
また、実施例1、実施例2、及び比較例と同等の条件で第1情報記録層L0のみを形成した評価試料を作製し、その波長λ=660nmにおける透過率を、分光光度計を用いて測定することで、実施例1、実施例2、及び比較例で作製された光情報記録媒体の第1情報記録層L0の透過率を求めた。この透過率とジッタ値との結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

表2より、実施例1、実施例2の第1情報記録層L0の透過率は各々51.8%、50.8%であり、比較例の43.6%に比べ高い値をとっており、かつ高速記録再生にも対応可能な50%以上の値を有していることが分かる。また、実施例1、実施例2の第1情報記録層L0から得られる再生信号のジッタ値は各々8.1%、8.0%であり、比較例の7.8%に比べ若干増加傾向にあるが、その差は小さく記録再生特性を大幅に悪化させる程のものではない。これらのことから、金属膜40中に透明誘電体粒子42が分散した半透過反射膜25aを第1情報記録層L0に用いることで、第1情報記録層L0の記録再生特性を悪化させることなく、第1情報記録層L0の透過率を高速記録再生に対応可能なレベルにまで向上させることができることがわかる。
【0052】
以上のことから、本発明の光情報記録媒体の製造方法によれば、半透過反射膜25aを構成する金属膜40と同一材料の金属ターゲット40aの成膜粒子生成部位45に、透明誘電体粒子42と同一材料の透明誘電体チップ42aを複数配設したターゲット44をスパッタすることで、金属膜40中に透明誘電体粒子42が分散した優れた放熱特性と高い透過率を有する半透過反射膜25aを、作業効率良く安定して成膜することができる。また、金属ターゲット40aの成膜粒子生成部位45に配設する透明誘電体チップ42aの数量を変化させるなどして、成膜粒子生成部位45における透明誘電体チップ42aが占める面積の割合を変化させることで、半透過反射膜25aを構成する金属膜40中の透明誘電体粒子42の比率を変化させ、半透過反射膜25aの透過率を制御することができる。
【0053】
尚、本例においては主に情報記録層が2層である相変化型記録媒体を用いて説明を行ったが、情報記録層が2層以上の場合でも本発明は適用が可能である。また相変化型以外の書き換え型光情報記録媒体はもとより、2層以上の情報記録層を有しその少なくとも1つ以上の情報記録層が半透過反射膜を有する光情報記録媒体であれば、追記型の光情報記録媒体や再生専用型の光情報記録媒体にも適用が可能である。またこの他、本発明は本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る光情報記録媒体の製造方法の概略を説明する図である。
【図2】本発明に係る半透過反射膜の模式拡大図である。
【図3】本発明に係る半透過反射膜の成膜に用いるターゲットを示す図である。
【図4】本発明に係る半透過反射膜の成膜に用いるスパッタリング装置の例を示す図である。
【図5】従来の光情報記録媒体の模式断面図である。
【図6】従来の半透過反射膜の成膜方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0055】
20a 第1基板
25a 半透過反射膜
40 金属膜
40a 金属ターゲット
42 透明誘電体粒子
42a 透明誘電体チップ
44 ターゲット
L0 第1情報記録層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、情報を記録する情報記録層と、該情報記録層に向けて照射されたレーザ光の一部を透過し残りを反射する半透過反射膜とを備えた光情報記録媒体の製造方法において、
前記基板上に前記半透過反射膜をスパッタ法により成膜するスパッタ工程を有し、
該スパッタ工程は、金属からなるターゲットの表面におけるスパッタ領域に、前記金属に非固溶な誘電体を配設してスパッタし、成膜する前記半透過反射膜を、前記誘電体からなる誘電体粒子が分散された膜とすることを特徴とする光情報記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記半透過反射膜における前記誘電体粒子の体積の比率を、前記スパッタ領域において前記誘電体が占める面積の比率で制御することを特徴とする請求項1記載の光情報記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記金属をAg(銀)単体またはその合金とし、前記誘電体をSiO(二酸化珪素)とすることを特徴とする請求項1または請求項2記載の光情報記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−34015(P2008−34015A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205490(P2006−205490)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】