説明

光硬化性樹脂組成物およびその硬化膜を有する積層体の製造方法

【課題】耐擦傷性、外観に優れた硬化膜の形成に有用な光硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重合性化合物(A)100部、式(1)又は(2)の化合物(B)0.1-10部、及び、式(3)又は(4)の化合物(C)0.1-10部を含む光硬化性樹脂組成物;及びその硬化膜の形成工程を含む積層体の製造方法[R1-R9,R11-R13,R16= H, C1-8アルキル,アリール,C1-8アルコキシル、R10= C1-8アルコキシル、R14-R15= C1-8アルキル,アリール,ベンゾイル]。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐擦傷性および外観に優れた硬化膜の形成に有用な光硬化性樹脂組成物、およびこの組成物を光硬化させて形成した硬化膜を有する積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂等の合成樹脂は、透明性、耐衝撃性、電気絶縁性等の特性を有するので、工業用資材、建築用資材等として広く使用されている。しかし、合成樹脂からなる成形品は表面硬度が低いので、引掻き等による傷が発生し易い。そこで、多官能性単量体を硬化して形成した硬化膜により、合成樹脂成形品を被覆する技術がある。
【0003】
硬化膜を有する積層体の製造法の一つとして、注型重合用の型内に予め硬化膜を形成し、その型内に基材原料を流し込んで重合させることにより、硬化膜が基材表面に一体化した樹脂成形品(積層体)を得る方法が知られている。更に、このような方法において製造工程を簡略化しかつ製造時間を短縮する目的で、空気中での光重合により硬化膜を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、この方法では、塗膜の表層部分が酸素による重合阻害を受けるので、硬化膜中の未反応物と基材原料とが混合し、積層体が白濁して外観が悪化する傾向がある。そこで、塗膜の表層の硬化性を向上させるために、例えば、光重合開始剤の添加量を増やす、光照射エネルギーを増大させる等の対策が考えられる。しかし、前者の対策では、塗膜中に存在する開始剤により光が吸収されて膜の深部まで光が到達できず、深部硬化性が低下し、目的とする表面硬度が得られない傾向にある。一方、後者の対策では、光照射時間を長くする必要があり、生産性が悪化する。
【0005】
また、窒素原子を有する光開始剤を使用することにより、表層硬化性を向上させる方法も知られている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、この方法では、膜が黄変し易く、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂等の合成樹脂の利点である透明性が損なわれる傾向にある。
【特許文献1】特開2000−108147号公報
【非特許文献1】「UV硬化における硬化不良・阻害要因とその対策 モノマー・オリゴマー、開始剤・樹脂の選定・配合技術」、高橋一弘 著、技術情報協会 発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、耐擦傷性および外観に優れた硬化膜の形成に有用な光硬化性樹脂組成物、および耐擦傷性および外観に優れた硬化膜を有する積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重合性化合物(A)100質量部に対して、下記一般式(1)または(2)で表される化合物(B)0.1質量部〜10質量部、および、下記一般式(3)または(4)で表される化合物(C)0.1〜10質量部を含んでなる光硬化性樹脂組成物である。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R1、R2およびR3は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、または炭素数1〜8のヒドロキシル基を有してもよいアルコキシル基を示す。)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R4、R5、R6、R7、R8およびR9は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、または炭素数1〜8のヒドロキシル基を有してもよいアルコキシル基を示す。)
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、R10は炭素数1〜8のヒドロキシル基を有してもよいアルコキシル基を示し、R11、R12およびR13は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、または炭素数1〜8のヒドロキシル基を有してもよいアルコキシル基を示す。)
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、R14およびR15は炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、または置換基を有してもよいベンゾイル基を示し、R16は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、または炭素数1〜8のヒドロキシル基を有してもよいアルコキシル基を示す。)。
【0016】
さらに、本発明は、上記光硬化性樹脂組成物を光硬化させて硬化膜を形成する工程を含む、硬化膜を有する積層体の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光硬化性樹脂組成物においては、光重合開始剤として特定の2種類の化合物を特定の組成比で併用するので、耐擦傷性および外観に優れた硬化膜を良好に形成できる。さらに、この光硬化性樹脂組成物を光硬化させて硬化膜を形成することにより、上述の優れた特性の硬化膜を有する積層体を簡易かつ良好に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において、重合性化合物(A)は、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物なので、いわゆる架橋反応性化合物である。重合性化合物(A)において、各(メタ)アクリロイルオキシ基を結合する残基は、代表的には炭化水素またはその誘導体である。また、その分子内にはエーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合等を含むことができる。なお、(メタ)アクリロイルオキシとは、アクリロイルオキシおよび/またはメタクリロイルオキシを意味する。
【0019】
重合性化合物(A)の主な例としては、1モルの多価アルコールと2モル以上の(メタ)アクリル酸またはその誘導体とから得られるエステル化物、多価アルコールと多価カルボン酸またはその無水物と(メタ)アクリル酸またはその誘導体とから得られる線状のエステル化物等が挙げられる。
【0020】
1モルの多価アルコールと2モル以上の(メタ)アクリル酸またはその誘導体とから得られるエステル化物の具体例としては、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタグリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
多価アルコールと多価カルボン酸またはその無水物と(メタ)アクリル酸またはその誘導体とから得られる線状のエステル化物において、多価アルコールと多価カルボン酸またはその無水物と(メタ)アクリル酸の好ましい組合わせとしては、例えば、マロン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0022】
重合性化合物(A)のその他の例としては、トリメチロールプロパントルイレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートの3量化により得られるポリイソシアネート1モル当たり、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、1,2,3−プロパントリオール−1,3−ジ(メタ)アクリレート、3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の活性水素を有するアクリル系モノマー3モル以上を反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレート;トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート等のポリ[(メタ)アクリロイルオキシエチレン]イソシアヌレート;エポキシポリ(メタ)アクリレート;ウレタンポリ(メタ)アクリレート;などが挙げられる。
【0023】
重合性化合物(A)は、必要に応じて2種類以上を併用することもできる。
【0024】
本発明において、一般式(1)または(2)で表される化合物(B)の具体例としては、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(商品名IRGACURE2959、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(商品名IRGACURE184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(商品名IRGACURE127、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(商品名DAROCURE1173、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)が挙げられる。特に、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンが好ましい。
【0025】
化合物(B)の添加量は、重合性化合物(A)100質量部に対し、0.1〜10質量部である。0.1質量部以上であると十分な表層面硬化性が得られ、かつ積層体の外観が良好になる傾向がある。10質量部以下であると、塗膜の着色が発生せず深部硬化性が良好になる傾向がある。化合物(B)の添加量は、さらに2〜4質量部が好ましい。
【0026】
本発明において一般式(3)または(4)で表される化合物(C)の具体例としては、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニル−フォスフィンオキサイド(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)、ベンゾインエチルエーテル(精工化学(株)社製)、ベンゾインイソプロピルエーテル(精工化学(株)社製)、ベンゾインブチルエーテル(精工化学(株)社製)が挙げられる。中でも、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニル−フォスフィンオキサイドが特に好ましい。
【0027】
化合物(C)の添加量は、重合性化合物(A)100質量部に対し、0.1〜10質量部である。0.1質量部以上であると、光硬化性樹脂組成物の深部硬化性が向上し、十分な表面硬度を有する積層体が得られる。10質量部以下であると硬化後の被膜の着色が発生しない傾向がある。化合物(C)の添加量は、さらに0.5〜2質量部が好ましい。また、化合物(B)および化合物(C)の添加量の合計は、重合性化合物(A)100質量部に対し、2.5〜6質量部であることが好ましい。
【0028】
本発明において、化合物(B)および化合物(C)と共に、その他の光重合開始剤を併用してもよい。それを併用する場合、化合物(B)、化合物(C)およびその他の光重合開始剤の添加量の合計は、重合性化合物(A)100質量部に対し、0.2〜20質量部であることが好ましい。
【0029】
併用可能な光重合開始剤の具体例としては、ベンゾイン、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4'−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;等が挙げられる。
【0030】
本発明の光硬化性樹脂組成物には、目的に応じて従来から知られる種々の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、界面活性剤、レベリング剤、染料、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、難燃剤、可塑剤等が挙げられる。その添加量は、得られる硬化膜の物性が損なわれない範囲内で適宜選択できるが、重合性化合物(A)100質量部当たり10質量部以下であることが好ましい。
【0031】
本発明の積層体の製造方法は、以上説明した光硬化性樹脂組成物を光硬化させて硬化膜を形成する工程を含む方法である。例えば、流延法、ローラーコート法、バーコート法、噴霧コート法、エアーナイフコート法、ディッピング法等の塗布法で、光硬化性樹脂組成物を基材表面上に直接塗布し、この塗布膜に光照射して硬化させることにより基材上に硬化膜を形成する方法がある。
【0032】
また例えば、注型重合用の型を構成する為の少なくとも一つの鋳型材の表面上に、上記塗布法等により光硬化性樹脂組成物を塗布し、この塗布膜に光照射して硬化させることにより型材上に硬化膜を形成し、この型材を用いて硬化膜が内側となるように注型重合用の型を組み立て、この型内に基材の原料を注入して注型重合を行い、重合完了後、基材表面に硬化膜が一体化した積層体を取り出す方法がある。
【0033】
本発明においては、特に後者の方法が好ましい。この方法に使用する鋳型の材質は特に制限されない。例えば、ステンレス鋼、ガラス板等が好ましい。これら鋳型の表面は鏡面でも、微細な凹凸を有していても良い。この注型重合は連続的に行うこともできる。例えば、所定の間隔をもって走行する一対のステンレス製エンドレスベルトの対向面と、エンドレスベルトの走行に追随して走行する、二本のガスケットから形成される鋳型内に基材樹脂を形成する重合性原料を注入し、連続的に重合硬化させて重合体をエンドレスベルトから剥離して取り出す、いわゆる連続キャスト法を用いることができる。この場合は、光硬化性樹脂組成物をエンドレスベルトの表面に塗布し光硬化させればよい。この方法は生産性の点で優れている。
【0034】
図1は、上述の塗布法のうちの一つであるエアーナイフコート法を示す模式図である。この図に示す例においては、一定方向に走行するステンレス板3の上に、光硬化性樹脂組成物1を滴下し(図中の斜線部分が滴下位置)、その滴下位置よりも下流側に設けたエアーノズル2からエアーを吹き付けることにより均一な塗布面を得ることができる。
【0035】
本発明において基材の材質は特に限定されないが、本発明は樹脂基材に対して特に有用である。基材を構成する樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、スチレン樹脂等が挙げられる。
【0036】
積層体における硬化膜の厚みは、0.5μm〜100μmが好ましい。この厚みが0.5μm以上であると耐擦傷性が良好になる傾向があり、100μm以下であると積層体の切断時に硬化膜の欠け等が発生せず良好な切断面になり、クラック等も発生しない。硬化膜の厚みは、さらに1μm〜50μmであることが好ましい。
【0037】
硬化膜を有する積層体には、必要に応じて、硬化膜の上に更に反射防止膜が設けられていていてもよい。また、硬化膜とは反対側の面に、硬化膜、反射防止膜、接着膜等の機能性薄膜が設けられていてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例により制限されるものではない。なお、実施例および比較例中で使用する略号(または商品名)と評価方法を以下に記載する。また、質量部を「部」と略して記載する。
【0039】
「APO」:2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)
「BAPO」:ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニル−フォスフィンオキサイド(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)
「BEE」:ベンゾインエチルエーテル(精工化学(株)社製)
「DAROCURE1173」:2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)
「IRGACURE 184」:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)
「IRGACURE907」:2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)
「IRGACURE369」:2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)
「DAROCUR EDB」:エチル−4−ジメチルアミノベンゾエート(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)
「DAROCUR EHA」:2−エチルヘキシル−4−ジメチルアミノベンゾエート(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)
「IRGACURE127」:2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)
「バイキュアー55」:メチルフェニルグリオキシレート(アクゾ・ノーベル(株)社製)
「U6HA」:ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体からなるトリイソシアネート1モルに対し3モルの3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレートを反応して得られるウレタン化合物(新中村化学工業(株)社製)
「C6DA」:1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業(株)社製)
「M305」:ペンタエリスリトールトリアクリレート(東亜合成(株)社製)。
【0040】
(1)深部硬化性評価:
深部硬化性は、擦傷試験の前後におけるヘーズの変化(擦傷ヘーズ)に基づいて評価した。即ち、#000のスチールウールを装着した直径25.4mmの円形パッドをサンプルの硬化膜側表面上に置き、9.8Nの荷重下で、20mmの距離を100回往復擦傷し、擦傷前と擦傷後のヘーズ値の差を下式(I)より求め、以下の基準で評価した。
[擦傷ヘーズ(%)]=[擦傷後のヘーズ(%)]−[擦傷前のヘーズ(%)](I)
「◎」:擦傷ヘーズが0.1%未満。
「○」:擦傷ヘーズが0.1%以上0.16%未満。
「△」:擦傷ヘーズが0.16%〜0.26%。
「×」:擦傷ヘーズが0.26%を超える。
【0041】
(2)表層硬化性評価:
表層硬化性は、出力120W/cm2の高圧水銀灯下17cmの位置を、塗布膜面を上にして2.5m/分のスピードで通過させた後の表面硬化状態および得られた積層体の外観を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
「◎」:全面が固化しており、爪で引っかいても傷がつかず、得られた積層体は白濁しなかった。
「○」:表面がべとつくものの、全面が固化しており、得られた積層体は白濁しなかった。
「△」:エッジ部が未硬化であり、同箇所に液体の状態が存在し、得られた積層体の同個所に白濁が生じた。
「×」:全面未硬化であり、全面に液体の状態が存在し、得られた積層体全面に白濁が生じた。
【0042】
(3)黄色度測定(YI):
黄色度は、JIS K 7103に準拠して測定した。
【0043】
[実施例1]
重合性化合物(A)として、U6HAを30部、C6DAを60部、M305を10部、化合物(B)として、DAROCURE1173を3部、化合物(C)としてBAPOを0.5部混合し、光硬化性樹脂組成物を調製した。
【0044】
この光硬化性樹脂組成物を、図1に示したエアーナイフコート法に従い、一定方向に走行するステンレス(SUS304)板3の上に滴下し、エアーノズル2からエアーを吹き付けることにより、厚さ15μmの均一な塗膜を得た。ここで、塗工温度は25℃、塗工液(光硬化性樹脂組成物1)の25℃における粘度は60mPa・s、ステンレス板3の走行速度は2.0m/分、エアーノズル2のエア風量は1m3/minとした。また、エアーノズル2としては、スリットクリアランス0.15mmのスリット型エアノズルを用い、ステンレス板3の表面から10mm上に離れた高さで、ステンレス板3の走行方向に対して下向きよりも上流側に5°傾けてなるよう配置した。
【0045】
次いで、出力120W/cm2の高圧水銀灯下17cmの位置を、光硬化性樹脂組成物の塗布面を上にして2.5m/分のスピードで1度通過させ光硬化させた。硬化膜の硬化状態は良好であり、全面が固化して液状の部分は存在しなかった。
【0046】
以上のようにして片面に硬化膜を形成したステンレス板を2枚用意し、硬化膜面が内側になるように対向させ、周囲を軟質ポリ塩化ビニル製のガスケットで封じ、注型重合用の型を作製した。この型内に、メタクリル酸メチル重合体(重量平均分子量240000)20質量%とメタクリル酸メチル80質量%とからなるシラップ100部と、重合開始剤であるt−ヘキシルパーオキシピバレート0.22部とからなる基材樹脂原料を注入し、対向するステンレス板の間隔を2.5mmに調整し、82℃の水浴中で30分、次いで130℃の空気炉で30分重合した。重合完了後、冷却し、ステンレス板を剥離することにより、両面に硬化膜を有する厚さ2mmのアクリル樹脂積層体を得た。
【0047】
得られたアクリル樹脂積層体は白濁することなく無色透明であり、擦傷ヘーズは0.08%で良好な深部硬化性を有していた。本実施例の原料組成の一部および評価結果を表1に示す。
【0048】
[実施例2]
まず、実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を調製した。この光硬化性樹脂組成物を、相対して同一方向へ同一速度で走行する幅2800mm、厚さ1mmの鏡面仕上げしたステンレス(SUS304)製エンドレスベルトの下側のベルト上へ、実施例1と同様の方法で塗布し、光硬化させた。硬化膜の硬化状態は良好であり、全面が固化して液状の部分は存在しなかった。
【0049】
以上のようにして片面に硬化膜を形成したエンドレスベルトと、他のエンドレスベルトとを用意して相対させ、その相対する面側の両端部において両エンドレスベルトと同一速度で走行する軟質ポリ塩化ビニル製ガスケットとで鋳型を構成し、2枚のエンドレスベルトの間隙をあらかじめ3.8mmの厚みになるように設定した。この型内に実施例1と同じ基材樹脂原料を一定流量で注入し、ベルトの移動と共に78℃の温水シャワーで30分間重合硬化させ、遠赤外線ヒーターで135℃の熱処理を20分間行い、送風により10分間かけて100℃に冷却し、エンドレスベルトから積層板を剥離し、片方の表面に硬化被膜を有するアクリル樹脂積層体を得た。
【0050】
得られたアクリル樹脂積層体は白濁することなく無色透明であり、擦傷ヘーズは0.09%で良好な深部硬化性を有していた。本実施例の原料組成の一部および評価結果を表1に示す。
【0051】
[実施例3〜10、比較例1〜9]
化合物(B)および化合物(C)の種類、添加量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてアクリル樹脂積層体を製造し評価した。結果を表1および表2に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
表1に示すように、実施例1〜15では、積層体の外観、耐擦傷性について良好な結果が得られた。一方、表2に示すように、比較例1〜14では積層体の外観、耐擦傷性が悪化する等の問題が生じた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明で得られる硬化膜を有する積層体は、優れた耐擦傷性と外観を有している。したがって、例えば、窓ガラス、看板、照明器具カバー、光学用部品、自動車関連部品、遮音壁などの各種用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】光硬化性樹脂組成物の塗布法の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0057】
1 光硬化性樹脂組成物
2 エアーノズル
3 ステンレス板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重合性化合物(A)100質量部に対して、下記一般式(1)または(2)で表される化合物(B)0.1質量部〜10質量部、および、下記一般式(3)または(4)で表される化合物(C)0.1〜10質量部を含んでなる光硬化性樹脂組成物。
【化1】

(式中、R1、R2およびR3は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、または炭素数1〜8のヒドロキシル基を有してもよいアルコキシル基を示す。)
【化2】

(式中、R4、R5、R6、R7、R8およびR9は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、または炭素数1〜8のヒドロキシル基を有してもよいアルコキシル基を示す。)
【化3】

(式中、R10は炭素数1〜8のヒドロキシル基を有してもよいアルコキシル基を示し、R11、R12およびR13は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、または炭素数1〜8のヒドロキシル基を有してもよいアルコキシル基を示す。)
【化4】

(式中、R14およびR15は炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、または置換基を有してもよいベンゾイル基を示し、R16は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、または炭素数1〜8のヒドロキシル基を有してもよいアルコキシル基を示す。)
【請求項2】
請求項1記載の光硬化性樹脂組成物を光硬化させて硬化膜を形成する工程を含む、硬化膜を有する積層体の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−152114(P2006−152114A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−344309(P2004−344309)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】