説明

光硬化性液状組成物、立体形状物及びこれらの製造方法

【課題】セラミック粉体等とバインダー組成物との混合物中に占めるセラミッ
ク充填率を増加させても、良好な流動性と光硬化性を示し、光積層造形法により所望の立体形状物を容易に造形できる光硬化性液状組成物を提供する。
【解決手段】下記(A),(B),(C),(D)成分を含有し、溶剤を含まない、光学的立体造形法によるセラミック成型用光硬化性液状組成物1。
(A)エチレン性不飽和モノマー1〜20重量%
(B)光重合開始剤0.01〜10重量%
(C)極性基を有する櫛形有機ポリマー0.4〜5重量%
(D)無機系微粒子75〜95重量%
この光硬化性液状組成物1の硬化物6からなる立体形状物を焼成すると、セラミック焼成体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック成型用として有用な光硬化性液状組成物に関する。さらに詳しくは、セラミック粉体が良好に分散され、光造形の際の硬化性に優れた光硬化性液状組成物、この光硬化性液状組成物の硬化物からなる立体形状物及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムやシリカ等の金属粉体を、液状樹脂組成物からなるバインダー中に分散し、これを公知の積層造形法により硬化させて所望の立体形状を形成した後に、焼成し、複雑な形状を有する立体形状を製造する技術は、公知である。
このような積層造形法としては、ノズルから樹脂混合物を吐出し、熱硬化させる方法や、光積層造形法を利用する方法が知られており、後者は、微細な形状を成形し易い等の利点を有することから、その利用が積極的に検討されている。
ここで、公知の光積層造形法としては、光硬化性樹脂液の薄層液面に光線を照射して所望パターンの断面硬化層を形成し、次に、この硬化層の上に光硬化性樹脂液を1層分供給して、断面硬化層をさらに形成し、この操作を繰り返すことによって、断面硬化層が積層一体化した造形希望形状の立体モデルを造形する方法が代表的である(例えば、非特許文献1参照。)。
また、熱可塑性樹脂からなるバインダーにセラミック粉体等を混入したコンパウンドを、三次元的に移動する微細ノズルから吐出し、堆積、熱凝固させて三次元立体形状物を造形する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
さらに、セラミック粉体を光硬化性バインダーに分散させたスラリーを、公知の光積層造形法により光硬化させて、立体形状物を造形する方法が知られている(例えば、特許文献2及び特許文献3参照。)。
【0003】
【非特許文献1】ポール・エフ・ジェイコブス(Paul F. Jacobs)著、「高速3次元成形の基礎」、第1版、日経BP出版センター、1993年12月10日、p.379−406
【特許文献1】特開2000−144205号公報
【特許文献2】特開平6−329460号公報
【特許文献3】特開平8−91940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの技術は、積層造形法が熱硬化性樹脂を用いるために、複雑な形状の立体形状物を造形することが困難であったり、光積層造形法を用いる方法ではあっても、セラミック粉体等に対して、溶媒やバインダー組成物を大量に混和しなければならないために、十分な強度を有するセラミック焼成体を製造することが困難である等の欠点があった。
【0005】
本発明者らは、セラミック粉体等とバインダー組成物との混合物中に占めるセラミック充填率を増加させても、良好な流動性と光硬化性を示し、その結果、光積層造形法により、所望の立体形状物を容易に造形でき、かつ、セラミック焼成可能な光硬化性液状組成物の開発を目的として検討した結果、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様によれば、(A)エチレン性不飽和モノマーを1〜20重量%、(B)光重合開始剤を0.01〜10重量%、(C)極性基を有する櫛形有機ポリマーを0.4〜5重量%、(D)無機系微粒子75〜95重量%を含有する光硬化性液状組成物が提供される。
【0007】
本発明の第二の態様によれば、予め(C)成分と(D)成分とを混合し、その後これに(A)成分と(D)成分を混合することを含む上記の光硬化性液状組成物の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の第三の態様によれば、上記の光硬化性液状組成物に光を照射して、組成物の硬化物を形成し、この硬化物の上に、組成物を再度供給し、光を照射して、組成物の硬化物をさらに形成し、これを繰り返すことにより、硬化物を積層一体化して、立体形状物を造形する、立体形状物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光硬化性液状組成物は、セラミック粉体等とバインダー組成物との混合物中に占めるセラミック充填率を増加させても、良好な流動性と光硬化性を示し、その結果、光積層造形法により所望の立体形状物を容易に造形でき、かつ、セラミック焼成が可能であるという効果を奏する。このため、本発明の光硬化性液状組成物は、光積層造形法によるセラミック焼成体の製造に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の光硬化性液状組成物について説明する。
本発明の光硬化性液状組成物は、(A)エチレン性不飽和モノマー、(B)光重合開始剤、(C)極性基を有する櫛形有機ポリマー、(D)無機系微粒子を含有することが必要である。
【0011】
(A)エチレン性不飽和モノマー(以下、(A)成分)は、エチレン性不飽和結合(C=C)を分子中に有する化合物であり、(メタ)アクリル系モノマーを含む概念である。(A)成分としては、1分子中に1個のエチレン性不飽和結合を有する単官能性モノマー、及び1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有する多官能性モノマーが挙げられる。
【0012】
(A)成分は、アクリル系モノマーとメタクリル系モノマーの混合物であることが、本組成物の硬化物を焼結する際に、クラッキングを減少させる上で好ましい。混合物の割合は、(A)成分全体を100重量%としたとき、アクリル系モノマーが50〜99.9重量%で、メタクリル系モノマーが0.1〜50重量%であることが好ましく、アクリル系モノマーが70〜99重量%で、メタクリル系モノマーが1〜30重量%であることがより好ましい。メタクリル系モノマーの量が50重量%を超えると、レーザー光に対する感度が低下し、硬化不良を生じることがある。
【0013】
また、(A)成分の少なくとも一部が、リン含有(メタ)アクリレート系モノマーであることが好ましい。リン含有(メタ)アクリレート系モノマーの併用によって、立体形状物の強度を上げることが出来る。
リン含有(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、トリアクリロイルオキシエチルホスフェート等が挙げられる。このうち、好ましくは、トリアクリロイルオキシエチルホスフェートである。
【0014】
(A)成分として好適に使用できる単官能性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、7−アミノ−3,7−ジメチルオクチル(メタ)アクリレート、イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、イソボルニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エチルジエチレングリコール(メタ)アクリレート、t−オクチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエン(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、テトラクロロフェニル(メタ)アクリレート、2−テトラクロロフェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、テトラブロモフェニル(メタ)アクリレート、2−テトラブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−トリクロロフェノキシエチル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、2−トリブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ビニルカプロラクタム、N−ビニルピロリドン、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ペンタクロロフェニル(メタ)アクリレート、ペンタブロモフェニル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、メチルトリエチレンジグリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、及び下記一般式(1)〜(3)で表される化合物を例示することができる。
【0015】
【化1】

【0016】
式中、Rは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、Rは、炭素数2〜6、好ましくは2〜4のアルキレン基を示し、Rは、水素原子又は炭素数1〜12、好ましくは1〜9のアルキル基を示し、Rは、炭素数2〜8、好ましくは2〜5のアルキレン基を示す。rは、0〜12、好ましくは1〜8の整数であり、qは、1〜8、好ましくは1〜4の整数である。
【0017】
これらの単官能性モノマーのうち、イソボルニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、イソボルニル(メタ)アクリレート、ビニルカプロラクタム、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0018】
(A)成分として好適に使用できる多官能性モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジイルジメチレンジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド(以下「EO」という。)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド(以下「PO」という。)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの両末端(メタ)アクリル酸付加物、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、PO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、EO変性水添ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、PO変性水添ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、フェノールノボラックポリグリシジルエーテルの(メタ)アクリレート、トリアクリロイルオキシエチルホスフェート等を例示することができる。
【0019】
これらの多官能性モノマーのうち、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリアクリロイルオキシエチルホスフェート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0020】
上記の単官能性モノマーの市販品としては、例えば、ACMO(以上、興人製)、アロニックスM−101、M−102、M−111、M−113、M−117、M−152、TO−1210(以上、東亞合成(株)製)、IBXA(以上、共栄社化学製)、KAYARAD TC−110S、R−564、R−128H(以上、日本化薬(株)製)、ビスコート160、ビスコート192、ビスコート220、ビスコート320、ビスコート2311HP、ビスコート2000、ビスコート2100、ビスコート2150、ビスコート8F、ビスコート17F(以上、大阪有機化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0021】
また、多官能性モノマーの市販品としては、例えば、SA1002(以上、三菱化学(株)製)、ビスコート195、ビスコート230、ビスコート260、ビスコート215、ビスコート310、ビスコート214HP、ビスコート295、ビスコート300、ビスコート360、ビスコートGPT、ビスコート400、ビスコート700、ビスコート540、ビスコート3000、ビスコート3700、ビスコート3PA(以上、大阪有機化学工業(株)製)、カヤラッドR−526、HDDA、NPGDA、TPGDA、MANDA、R−551、R−712、R−604、R−684、PET−30、GPO−303、TMPTA、THE−330、DPHA、DPHA−2H、DPHA−2C、DPHA−2I、D−310、D−330、DPCA−20、DPCA−30、DPCA−60、DPCA−120、DN−0075、DN−2475、T−1420、T−2020、T−2040、TPA−320、TPA−330、RP−1040、RP−2040、R−011、R−300、R−205(以上、日本化薬(株)製)、アロニックスM−210、M−220、M−233、M−240、M−215、M−305、M−309、M−310、M−315、M−325、M−400、M−6200、M−6400(以上、東亞合成(株)製)、ライトアクリレートBP−4EA、BP−4PA、BP−2EA、BP−2PA、DCP−A(以上、共栄社化学(株)製)、ニューフロンティアBPE−4、BR−42M、GX−8345(以上、第一工業製薬(株)製)、ASF−400(以上、新日鐵化学(株)製)、リポキシSP−1506、SP−1507、SP−1509、VR−77、SP−4010、SP−4060(以上、昭和高分子(株)製)、NKエステルA−BPE−4(以上、新中村化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0022】
(A)成分の含有割合は、通常、1〜20重量%であり、好ましくは5〜18重量%、更に好ましくは10〜17重量%である。(A)成分の含有割合が1重量%以上であれば、後述する(D)無機系微粒子(以下、(D)成分)が、均一に本組成物中に分散される。また、20重量%以下であれば、本組成物における(D)成分の含有割合が増大し、焼成後の立体形状物の体積収縮を低減できる。
一方、(A)成分の含有割合が過小である場合には、粘度が増大し、本組成物は、十分な流動性が得られない。また、この含有割合が過大である場合には、(D)成分の含有割合が減少し、立体形状物の強度が低下したり、立体形状物を脱脂、焼成する際に、ひび割れ等の欠損を生じたりする。
【0023】
本発明では、(A)成分の少なくとも一部が、3官能以上、即ち、1分子中に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する多官能性モノマー、好ましくは、3官能以上の多官能(メタ)アクリレート系モノマーであることが好ましい。また、3官能以上の多官能性モノマーの含有割合は、(A)成分全体を100重量%としたとき、好ましくは10重量%以上であり、さらに好ましくは15重量%以上であり、特に好ましくは20重量%以上である。含有割合が10重量%未満であると、本組成物の光硬化性が低下すると共に、造形される立体形状物の強度が低下することがある。このような多官能性モノマーとしては、上述した多官能性モノマーのうち、3官能以上のものが挙げられる。また、好適例についても、上述した通りである。
【0024】
上記の単官能性モノマー及び多官能性モノマーは、各々一種単独で、又は二種以上組み合わせるか、あるいは単官能性モノマーの少なくとも一種と多官能性モノマーの少なくとも一種とを組み合わせて(A)成分を構成することができる。
【0025】
(B)光重合開始剤(以下、(B)成分)は、好ましくはラジカル性光重合開始剤である。ラジカル性光重合開始剤は、光等のエネルギー線を受けることにより分解し、発生するラジカルによって、ラジカル重合反応を開始させる化合物である。
【0026】
(B)成分の具体例としては、例えば、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、アントラキノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、カルバゾール、キサントン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、1,1−ジメトキシデオキシベンゾイン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、チオキサントン系化合物、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−2−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、トリフェニルアミン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリ−メチルペンチルフォスフィンオキサイド、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、フルオレノン、フルオレン、ベンズアルデヒド、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾフェノン、3−メチルアセトフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン(BTTB)、及びBTTBとキサンテン、チオキサンテン、クマリン、ケトクマリンその他の色素増感剤との組み合わせ等が挙げられる。これらのうち、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン等が特に好ましい。これらは、一種単独又は二種以上を組み合わせて、(B)成分を構成することができる。
【0027】
(B)成分の含有割合は、通常、0.01〜10重量%であり、好ましくは0.1〜8重量%である。(B)成分の含有割合が過小である場合には、本組成物のラジカル重合反応速度(硬化速度)が低くなるため、造形に時間を要したり、解像度が低下したりする。一方、(B)成分の含有割合が過大である場合には、過剰量の本成分が、本組成物の硬化特性をかえって低下させたり、立体形状物の強度を低下させたりする。
【0028】
(C)極性基を有する櫛形有機ポリマー(以下、(C)成分)は、側鎖中に極性基を有する櫛形有機ポリマーである。(C)成分は、好ましくは、側鎖にポリオキシアルキレン基を有し、主鎖にイオン性基を有する有機ポリマーであり、さらに好ましくは、側鎖中にアルキレンオキシド構造単位を有し、主鎖骨格中に無水カルボン酸構造を有する有機ポリマーである。(C)成分は分散剤であり、(D)成分を光硬化性液状組成物中に均一に分散させる。
【0029】
(C)成分の具体例としては、下記一般式(4)で表される繰り返し構造を有するポリマー等が挙げられる。
【0030】
【化2】

式中、Rは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレングリコール基からなる繰り返し構造を有する1価の有機基である。
【0031】
(C)成分の市販品としては、マリアリムAKM−0531、AAS−0851、AAB−0851、AFB−1521(以上、日本油脂(株)製)等が挙げられる。
【0032】
(C)成分の含有割合は、通常、0.4〜5重量%であり、好ましくは0.5〜5重量%である。(C)成分の含有割合が0.4重量%未満であると、(D)成分を本組成物中に均一に分散することが困難となる。一方、含有割合が5重量%より多いと、光硬化物の強度が低下する。
【0033】
(D)成分の無機系微粒子は、照射波長の光を実質的に吸収しないものであれば特に制限されない。
(D)成分としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、シリカ等の酸化物、炭化ジルコニウム、炭化ケイ素等の炭化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、又はこれらの混合物等の各種セラミックスを用いることができる。通常、(D)成分としては、アルミナ、ジルコニア、シリカ、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、又はこれらの混合物等が好適に用いられる。これらのセラミックス粉末の粒径は、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下である。
【0034】
(D)成分の含有割合は、通常、75〜95重量%であり、好ましくは80〜95重量%である。(D)成分の含有割合が75重量%以上であれば、立体形状物において本成分が十分に緻密となるため、良好なセラミックスを製造できる。また、95重量%以下であれば、本組成物中に(D)成分を均一に分散することができる。
【0035】
本発明の光硬化性液状組成物には、本発明の目的及び効果を損なわない範囲において、その他の任意成分として、各種の添加剤が含有されていてもよい。かかる添加剤としては、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ポリエーテル、ポリエステル、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、石油樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、セルロース樹脂、フッ素系オリゴマー、シリコーン系オリゴマー、ポリスルフィド系オリゴマー等の(C)成分以外のポリマー及びオリゴマー;フェノチアジン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール等の重合禁止剤;重合開始助剤;レベリング剤;濡れ性改良剤;界面活性剤;可塑剤;紫外線吸収剤;シランカップリング剤;無機充填剤;顔料;染料;トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン等のアミン系化合物、チオキサントン及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、アントラセン及びその誘導体、ペリレン及びその誘導体、ベンゾフェノン、ベンゾインイソプロピルエーテル等の光増感剤(重合促進剤);ビニルエーテル類、ビニルスルフィド類、ビニルウレタン類、ウレタンアクリレート類、ビニルウレア類等の反応性希釈剤等が挙げられる。
【0036】
本発明の光硬化性液状組成物は、上記(A)〜(D)成分、及び必要に応じて上記任意成分を均一に混合することによって製造することができる。
また、予め(A)〜(C)成分を混合したベース樹脂液に、(D)成分を分散させる方法によっても製造することができる。
本発明では、このように、全成分又は多成分を一度に混合して製造しても良いが、好ましくは、予め(C)成分と(D)成分とを、例えば、溶媒(例えば、水等)中で混合した後、溶媒を除去する。次に、この混合物を、(A)成分及び(B)成分と混合する。このとき、(A)成分及び(B)成分は、別々に混合してもよく、また、一度に混合してもよい。(C)成分及び(D)成分を予め混合することにより、(D)成分をより均一に混和することが可能となり、その結果、本組成物中に存在する(D)成分の分散状態を改善することができる。
【0037】
このようにして得られる光硬化性液状組成物の粘度は、25℃において、50〜50,000mPa・sであることが好ましく、50〜10,000mPa・sであることがより好ましい。
【0038】
次に、本発明の立体形状物について説明する。本発明の立体形状物は、上記の光硬化性液状組成物の硬化物からなる。この硬化物は、光硬化性液状組成物の液面に光を照射することにより得られる。尚、液面は、リコーター等で均すことができる。このとき、光を選択的に照射すると、所望パターンの断面を有する硬化物(断面硬化層)を得ることができる。
具体的には、本発明の立体形状物は、光硬化性液状組成物に光を照射して、組成物の硬化物を形成し、この硬化物の上に、組成物を再度供給し、光を照射して、組成物の硬化物をさらに形成し、これを繰り返すことにより、硬化物を積層一体化して造形することにより製造できる。
【0039】
光硬化性液状組成物に光を選択的に照射する手段としては、特に制限されるものではなく、種々の手段を採用することができる。例えば、レーザー光、又はレンズ、ミラー等を用いて得られた収束光等を走査させながら組成物に照射する手段、所定のパターンの光透過部を有するマスクを用い、このマスクを介して非収束光を組成物に照射する手段、多数の光ファイバーを束ねてなる導光部材を用い、この導光部材における所定のパターンに対応する光ファイバーを介して光を組成物に照射する手段等を採用することができる。また、マスクを用いる手段においては、マスクとして、液晶表示装置と同様の原理により、所定のパターンに従って、光透過領域と光不透過領域とよりなるマスク像を電気光学的に形成するものを用いることもできる。
以上において、目的とする立体形状物が微細な部分を有するもの、又は高い寸法精度が要求されるものである場合には、組成物に選択的に光を照射する手段として、スポット径の小さいレーザー光を走査する手段を採用することが好ましい。尚、容器内に組成物が収容されている場合、光の照射面(例えば、収束光の走査平面)は、組成物の液面、透光性容器の器壁との接触面の何れであってもよい。組成物の液面又は器壁との接触面を光の照射面とする場合には、容器の外部から直接又は器壁を介して光を照射することができる。
【0040】
本発明の立体形状物は、上述したように、光積層造形法等の光学的立体造形法により製造できる。光学的立体造形法においては、通常、組成物の特定部分を硬化させた後、光の照射位置(照射面)を、既硬化部分から未硬化部分に連続的に又は段階的に移動させることにより、硬化部分を積層させて所望の立体形状とする。ここで、照射位置の移動は、種々の方法によって行うことができ、例えば、光源、組成物の収容容器、組成物の既硬化部分の何れかを移動させたり、収容容器に組成物を追加供給したりする等の方法が挙げられる。
【0041】
本発明の光学的立体造形法の代表的な一例を、図を用いて説明する。
まず、図1に示すように、光硬化性液状組成物1を収容した容器2内に、昇降自在に設けられた支持ステージ3を、組成物1の液面4から微小量降下(沈降)させることにより、支持ステージ3上に、組成物1を供給して、組成物1の薄層を形成する。次いで、この薄層に対して、マスク5を介して選択的に光を照射し、組成物1の硬化物(硬化樹脂層)6を形成する。
次に、図2に示すように、支持ステージ3を微小量降下(沈降)させて、この硬化物6の上に、組成物1を供給して、組成物の薄層を再度形成する。次いで、この薄層に対して、マスク5を介して選択的に光照射し、硬化物6の上に、これと連続して一体的に積層するように新しい硬化物7をさらに形成する。そして、光照射されるパターンを変化させながら又は変化させずに、この工程を所定回数繰り返すことにより、複数の硬化物が一体的に積層されてなる立体形状物が造形される。
【0042】
このようにして得られる立体形状物は、収容容器から取り出し、その表面に残存する未反応の組成物を除去した後、必要に応じて洗浄する。ここで、洗浄剤としては、イソプロピルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類に代表されるアルコール系有機溶剤;アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン等に代表されるケトン系有機溶剤;テルペン類に代表される脂肪族系有機溶剤;低粘度の熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂が挙げられる。
これらの後処理の後、本発明の立体形状物は、焼成すると、セラミック焼成体となり得る。
【0043】
以上述べたように、本発明の光硬化性液状組成物を用いることにより、セラミック粉体等とバインダー組成物との混合物中に占めるセラミック充填率を増加させても、良好な流動性と光硬化性を示し、その結果、光積層造形法により、所望の立体形状物を容易に造形できる。本発明の立体形状物は、所望の強度を有している。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により、本発明の具体的態様を説明するが、本発明は、以下の実施例に記載の態様に限定されるものではない。
【0045】
実施例1
[光硬化性液状組成物の調製]
メトキシプロピレングリコールアクリレート51.6gと、トリメチロールプロパントリアクリレート18.8gと、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン11.4gと、日本油脂(株)製、マリアリムAKM−0531(アリルエーテルコポリマー、分散剤)18.2gとの混合物からなるバインダー樹脂を調製し、このバインダー樹脂24gに平均粒径2μmのアルミナ粒子を76g添加し、特殊機化工業(株)製、T.K.HOMO DISPERを用い、均一分散することによって、光硬化性液状組成物を調製した。この組成物の粘度は、100,000mPa・sであった。
【0046】
実施例2〜7
表1に示す組成を用いた他は、実施例1と同様にして、光硬化性液状組成物を調製した。
【0047】
実施例8
予め、平均粒径0.6μmと4μmの混合アルミナ粒子の水分散スラリー中に、攪拌しながら日本油脂(株)製、マリアリムAKM−0531を、重量比で83:1の割合で添加し、乾燥する工程を行い、この乾燥粒子83gを、メトキシプロピレングリコールアクリレート51.6gと、トリメチロールプロパントリアクリレート18.8gと、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン11.4gとの混合物からなるバインダー樹脂17gに添加した他は、実施例1と同様にして光硬化性液状組成物を調製した。
【0048】
実施例9及び比較例1〜4
表1に示す組成用いた他は、実施例1と同様にして、光硬化性液状組成物を調製した。
【0049】
[評価方法]
光硬化性液状組成物の流動性、粘度及び光硬化性、並びにその硬化物の硬さを、以下に示す条件で評価した。結果を表1に示す。
(1)流動性:ガラス板上に乗せた光硬化性液状組成物を、ステンレス製アプリケータを用いて塗り伸ばした場合の塗工性により、流動性を評価した。このとき、容易に均一塗工できた場合を「○」、ひび割れを生じた場合を「×」と判定した。
【0050】
(2)粘度:(株)東京計器製、B8H型粘度計を用いて、ずり速度2.5(1/S)、温度25℃で測定した。
【0051】
(3)光硬化性:光積層造形法(造型機として、ソニー(株)製、SCS−300P型を使用した。)により、100mW/cmのエネルギー密度のレーザー光(波長355nm、直径200μm)を速度290mm/sで1回直線的に走査して、光硬化性を評価した。このとき、硬化深度140μm以上の硬化物が得られた場合を「◎」、硬化深度140μm未満の硬化物が得られた場合を「○」、硬化物が得られなかった場合を「×」と判定した。
【0052】
(4)硬さ:ガラス板上に乗せた光硬化性液状組成物を、ステンレス製アプリケータを用いて厚さ200μmになるよう塗り伸ばし、UVコンベア(アイグラフィックス(株)製、UBX0311−00型、光源:メタルハライドランプ、照度:180mW/cm、照射光量:1J/cm、空気下硬化)により光硬化し、測定試料の硬化物を得た。硬化物のユニバーサル硬度(ISO TR14577)を、硬度計(FISCHER社製、H100VP−HCU型)を用いて測定した。このとき、測定値が、20N/mm以上の場合を「○」、20N/mm未満の場合を「×」と判定した。
【0053】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の光学的立体造形法の一例を示す図である。
【図2】本発明の光学的立体造形法の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 光硬化性液状組成物
2 容器
3 支持ステージ
4 光硬化性液状組成物の液面
5 マスク
6 硬化物(硬化樹脂層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A),(B),(C),(D)成分を含有し、溶剤を含まない、光学的立体造形法によるセラミック成型用光硬化性液状組成物。
(A)エチレン性不飽和モノマー 1〜20重量%
(B)光重合開始剤 0.01〜10重量%
(C)極性基を有する櫛形有機ポリマー 0.4〜5重量%
(D)無機系微粒子 75〜95重量%
【請求項2】
前記(A)成分が、アクリル系モノマーとメタクリル系モノマーの混合物である請求項1に記載の光学的立体造形法によるセラミック成型用光硬化性液状組成物。
【請求項3】
前記(A)成分の少なくとも一部が、3官能以上の多官能(メタ)アクリレート系モノマーである請求項1又は2に記載の光学的立体造形法によるセラミック成型用光硬化性液状組成物。
【請求項4】
前記(A)成分の少なくとも一部が、リン含有(メタ)アクリレート系モノマーである請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学的立体造形法によるセラミック成型用光硬化性液状組成物。
【請求項5】
前記(C)成分が、側鎖中にアルキレンオキシド構造単位を有し、主鎖骨格中に無水カルボン酸構造を有する有機ポリマーである請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学的立体造形法によるセラミック成型用光硬化性液状組成物。
【請求項6】
予め前記(C)成分と前記(D)成分とを混合し、その後これに前記(A)成分と前記(B)成分を混合することを含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学的立体造形法によるセラミック成型用光硬化性液状組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のセラミック成型用光硬化性液状組成物に光を照射して、前記組成物の硬化物を形成し、前記硬化物の上に、前記組成物を再度供給し、光を照射して、前記組成物の硬化物をさらに形成し、これを繰り返すことにより、前記硬化物を積層一体化して、立体形状物を造形する、光学的立体造形法による立体形状物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−291393(P2007−291393A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114261(P2007−114261)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【分割の表示】特願2002−307975(P2002−307975)の分割
【原出願日】平成14年10月23日(2002.10.23)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【出願人】(592109732)日本特殊コーティング株式会社 (23)
【Fターム(参考)】