説明

光触媒ユニット及びその使用方法

【課題】吸着型汚水浄化に用いられる光触媒ユニットであって、平板状光触媒担持多孔体を用い、各種汚水を効果的に浄化処理し得ると共に、太陽光を効率よく利用してその浄化性能を回復することにより、繰り返し使用可能な光触媒ユニットを提供する。
【解決手段】平板状光触媒担持多孔体が、地面に対して、少なくとも40〜90度の角度になるように自在に可変することができ、前記範囲内の角度で立てた当該平板状光触媒担持多孔体中の上端部に、被浄化液を供給して当該平板状光触媒担持多孔体に流して汚物を吸着させ、次いでこの塗膜に太陽光を照射して、吸着した汚物を分解する操作を繰り返し行う光触媒ユニットであって、前記分解処理から吸着処理への切り換え時期を決定するために、紫外線によって退色する色素を用いたインジケーターを当該平板状光触媒担持多孔体の支持架台に取付けた光触媒ユニットである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒ユニット及びその使用方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、吸着型汚水浄化に用いられる光触媒ユニットであって、平板状光触媒担持多孔体を用い、各種汚水、例えば農薬廃液や養液栽培における廃液などを効果的に浄化処理し得ると共に、太陽光を効率的に利用してその浄化性能を回復することにより、繰り返し使用可能な光触媒ユニット、およびその使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒材料(以下、単に光触媒と称することがある。)は、そのバンドギャップ以上のエネルギーの光を照射すると、励起されて伝導帯に電子が生じ、かつ価電子帯に正孔が生じる。そして、生成した電子は表面酸素を還元してスーパーオキサイドアニオン(・O2-)を生成させると共に、正孔は表面水酸基を酸化して水酸ラジカル(・OH)を生成し、これらの反応性活性酸素種が強い酸化分解機能を発揮し、光触媒の表面に付着している有機物質を高効率で分解することが知られている。
【0003】
このような光触媒の機能を応用して、例えば脱臭、防汚、抗菌、殺菌、さらには廃水中や廃ガス中の環境汚染上の問題となっている各種物質の分解・除去などが検討されている。
【0004】
光触媒の用途の一つとして、前述したように廃水中の環境汚染上の問題となっている各種物質を分解・除去処理することが試みられており、例えば光透過性を有する耐熱性繊維からなる織布の耐熱性繊維自体に酸化チタンの被膜を形成してなる光触媒を用い、液中の有害物質を処理する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、酸化チタン光触媒を用い、太陽光を利用して、水稲種子消毒後の廃液を処理する技術(例えば、特許文献2参照)や、有機質培地を用いた培養液循環式養液栽培における廃液の処理技術(例えば、特許文献2、3参照)などが提案されている。
【0005】
しかしながら、このような光触媒反応を利用した、水溶液中に残存する有機物の効率的な分解は一般に困難である。光触媒体に被処理汚水を接触させ、そこに紫外光を照射すれば分解反応は生じるが、この場合、分解反応を決定付ける因子は、光触媒反応ではなく、分解すべき物質の光触媒体への輸送過程と吸着過程にあることが多い。
【0006】
そこで、迅速に浄化できる汚水浄化方法として、吸着現象を利用することが種々試みられており、中には浄化速度について十分に満足できる効果が実現されている技術もあるが、この技術においては、浄化ユニットは原則として使い捨てであり、経済面や廃棄面などで問題がある。
【0007】
このような問題を解決するために、本発明者らは、吸着剤を含む平板状光触媒担持多孔体を備えた浄化ユニットを、地面に対して10°以上の角度に傾けた状態で太陽光が当たるように設置し、この上端部に被処理汚水を供給し、特定の流速で該光触媒担持多孔体内を通過させたのち、その下部端面から回収する吸着型汚水浄化方法を提案した(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
このような太陽光を利用した光触媒反応により、前記浄化ユニットは繰り返し使用が可能である。この浄化ユニットを繰り返し使用するためには、本発明者らの研究によれば、積算光量70mW/cm以上の照射がなされる必要があることが分かった。
【0009】
しかし、太陽光を利用して70mW/cmの積算光量を得ようとした場合、二つの課題が挙げられる。一つは太陽光中のエネルギー密度の低さであり、もう一つは太陽光のエネルギーの不安定さである。光量を最も得やすい角度は一般に地面に対し45°〜60°であるのに対し、ユニットの地面との角度θと浄化速度の関係は以下の式1のように表され、角度θが90°の場合に最も速い処理速度を達成することができるため、従来の装置ではユニットの傾きはその中間の80°前後にして、紫外光量と再生速度の両立を行っていた。その結果、太陽光中のエネルギーを必ずしも効率良く使うことができなかった。
【0010】
最大処理速度V=V90(1−cosθ) (1)
(V90:ユニットを90°に立てたときの最大処理速度)
【0011】
また、太陽光中の紫外光量は地域や天候、立地条件の影響により、変動する。例えば、神奈川県西部において2005年4月20日〜5月23日の期間の任意5日間で得られた積算紫外光量の平均は102mW/cm・hrであったのに対し、2006年の同時期の平均は44mW/cmであった。このような場合、ユニットが再生に必要な紫外光量を十分得ることができているのかを知る方法が困難であるため、再生不良の状態で浄化作業を行ってしまい、浄化対象となる汚染物の環境中への排出を引き起こすことがあった。
【0012】
一方、光触媒を担持した光触媒担持体に被分解物を吸着させる吸着工程と、吸着した被分解物を光照射により分解する分解工程とを含む光触媒担持体の使用方法であって、前記光触媒担持体の呈色に応じて、前記吸着工程と前記分解工程との切り換え又はバランス調整を行う光触媒担持体の使用方法が開示されている(例えば、特許文献5参照)。
【0013】
しかしながら、この技術においては、光触媒担持体そのものの色調の変化を検知するものであり、該色調の変化が明瞭でないため、光センサを使用しなければならない上、色調の変化をもたらすために、光触媒粒子をシート表面に多く露出させたり、支持基材の材質も、透明又は白色に近い樹脂やセラミックを選択する必要があり、支持基材の材質が制限されるのを免れないなどの欠点がある。
【0014】
【特許文献1】特開平7−96202号公報
【特許文献2】特開2004−82095号公報
【特許文献3】特開平9−327246号公報
【特許文献4】特開2006−136875号公報
【特許文献5】特開2002−282653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような事情のもとで、吸着型汚水浄化に用いられる光触媒ユニットであって、光触媒材料と吸着剤を含む塗膜を有する平板状光触媒担持多孔体を用い、各種汚水を効果的に浄化処理し得ると共に、太陽光を効率よく利用してその浄化性能を回復することにより、繰り返し使用可能な光触媒ユニット、およびその使用方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、光触媒ユニットを構成する平板状光触媒担持多孔体を、地面に対して、特定の範囲の角度になるように自在に調整し得るようにすると共に、当該平板状光触媒担持多孔体中の光触媒材料と太陽光による吸着した汚物の分解処理から、吸着処理へ切り換える時期を決定するために、特定のインジケーターを取付けた光触媒ユニットにより、また、前記インジケーターが所定の色調に退色した時点で、分解処理から吸着処理へ切り換えることにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0017】
すなわち、本発明は、
(1)太陽光が当たる側の表面に、光触媒材料と吸着剤を含む塗膜を有する平板状光触媒担持多孔体を備え、かつ当該平板状光触媒担持多孔体が、地面に対して、少なくとも40〜90度の範囲の角度になるように、傾斜度を自在に調整することができ、前記範囲内の角度で立てた当該平板状光触媒担持多孔体の上端部に、被浄化液を幅方向に設けられた複数の滴下口から供給して当該平板状光触媒担持多孔体内に流して汚物を吸着処理し、次いでこの塗膜に太陽光を照射して、吸着した汚物を光触媒材料により分解処理する操作を繰り返し行う光触媒ユニットであって、前記分解処理から吸着処理への切り換え時期を決定するために、太陽光中の紫外線によって退色する色素を用いたインジケーターを、前記分解処理開始時に、当該平板状光触媒担持多孔体またはその支持架台に取付けたことを特徴とする光触媒ユニット、
(2)インジケーターが、紫外線で退色する色素を担持した耐水紙を、耐候性基材にて挟み込んだものである上記(1)項に記載の光触媒ユニット、
(3)紫外線で退色する色素が、1−(2−ピリジルアゾ)−2−ナフトールおよび/または1−(フェニルアゾ)−2−ナフトールである上記(1)または(2)項に記載の光触媒ユニット、
(4)インジケーターと共に、色見本を取付けた上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の光触媒ユニット、
(5)平板状光触媒担持多孔体の上端部に、被浄化液を複数の滴下口から供給して当該平板状光触媒担持多孔体内に流して汚物を吸着処理するに際し、地面に対し、80度以上の角度になるように調整する上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の光触媒ユニット、
(6)塗膜に太陽光を照射して、吸着した汚物を光触媒材料により分解処理するに際し、南方向に向けると共に、地面に対し、45〜60度の角度になるように調整する上記(1)〜(5)項のいずれか1項に記載の光触媒ユニット、
(7)被浄化液を供給する複数の滴下口が、2〜10cmの間隔で設けられている上記(1)〜(6)項のいずれか1項に記載の光触媒ユニット、
(8)平板状光触媒担持多孔体における担持体が、無機多孔体からなるものである上記(1)〜(7)項のいずれか1項に記載の光触媒ユニット、
(9)無機多孔体が、ガラス繊維からなる不織布である上記(8)項に記載の光触媒ユニット、
(10)塗膜が無機接着成分を含む上記(1)〜(9)項のいずれか1項に記載の光触媒ユニット、
(11)吸着剤が活性炭である上記(1)〜(10)項のいずれか1項に記載の光触媒ユニット、および
(12)上記(1)〜(11)項のいずれか1項に記載の光触媒ユニットの使用方法であって、インジケーターが所定の色調に退色した時点で、分解処理から吸着処理へ切り換えることを特徴とする光触媒ユニットの使用方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、吸着型汚水浄化に用いられる光触媒ユニットであって、光触媒材料と吸着剤を含む塗膜を有する平板状光触媒担持多孔体を用い、各種汚水を効果的に浄化処理し得ると共に、太陽光を効率的に利用してその浄化性能を回復することにより、繰り返し使用可能な光触媒ユニット、およびその使用方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の光触媒ユニットにおいては、太陽光が当たる側の表面に、光触媒材料と吸着剤を含む塗膜を有する平板状光触媒担持多孔体を備え、かつ当該平板状光触媒担持多孔体が、地面に対して、少なくとも40〜90度の範囲の角度になるように、傾斜度を自在に調整することができ、前記範囲内の角度で立てた当該平板状光触媒担持多孔体の上端部に、被浄化液を幅方向に設けられた複数の滴下口から供給して当該平板状光触媒担持多孔体内に流して汚物を吸着処理し、次いでこの塗膜に太陽光を照射して、吸着した汚物を光触媒材料により分解処理する操作が繰り返し行われる。
【0020】
まず、本発明の光触媒ユニットを構成する平板状光触媒担持多孔体(以下、単に平板状光触媒体と称することがある。)について説明する。
【0021】
[平板状光触媒担持多孔体]
当該平板状光触媒担持多孔体においては、担持体として、無機多孔体が好ましく用いられる。該無機多孔体は、蒸留水の保水率が500〜3000質量%になるような空隙を有するものが好適である。この保水率が上記の範囲にあれば、汚水と接触する表面積が十分に大きく、また被浄化液が無機多孔体内部を通過しやすい上、紫外光が該無機多孔体の内部に十分に行き届く。より好ましい保水率は500〜1500質量%である。
【0022】
また、蒸留水の吸上げ高さ(毛細管力)が12mm以上であることが好ましい。この吸上げ高さが12mm以上であれば、被浄化液が光触媒体の内部に容易に浸透する。該吸上げ高さは50mm以上であることがより好ましい。該吸上げ高さの上限に特に制限はないが、通常200mm程度である。
【0023】
このような無機多孔体を構成する材料としては、立体的な網目構造を有する多孔質セラミックス、無機繊維からなる織布や不織布の中から、適宜選択することができるが、経済的な観点から、ガラス繊維からなる織布や不織布が好適である。このガラス繊維からなる織布や不織布としては、汎用な方法で織られたシリカガラス長繊維織布や、ニードルパンチ法で作製されたシリカガラス短繊維交絡不織布などを例示することができる。
【0024】
なお、シリカガラス不織布の保水率は、シリカガラス不織布を蒸留水に10分間浸漬した後、静かに引き上げてさらに10分間吊した状態で放置したときの、シリカガラス不織布の元の質量に対する質量増加量の割合を計算することにより求められる。また、吸上げ高さは、幅3cmの短冊状に裁断したシリカガラス不織布の下方2cmを蒸留水に浸漬させ、10分間保持したときの、シリカガラス不織布に吸い上げられた水面高さを吸上げ高さとする。
【0025】
当該平板状光触媒体においては、前記無機多孔体の表面に、光触媒材料と吸着剤および場合により無機接着成分を含む塗膜(光触媒層)が設けられる。該塗膜中の光触媒材料の体積分率は、吸着剤の吸着特性によっても異なるが、一般的に10〜50%の範囲にあることが好ましい。この体積分率が上記範囲にあれば、良好な光触媒活性を有すると共に、被浄化液中の被処理物質が光触媒材料の近傍に存在する吸着剤に捕捉されやすい。該体積分率は、より好ましくは10〜30%の範囲である。
【0026】
また、光触媒材料の担持量は、光触媒活性および経済性のバランスなどの面から、吸着剤の量に関係なく、8〜20g/mの範囲が好ましく、特に10〜15g/mの範囲が好ましい。
【0027】
さらに、吸着剤の担持量は、汚水成分の捕捉性能および経済性のバランスなどの面から、一般に塗膜中に体積分率で50〜90%含まれることが好ましいが、10g×吸着剤の比重/4.0〜135g×吸着剤の比重/4.0の範囲にあればよい。例えば、比重1.8のシリカ吸着剤の場合であれば4.5〜61g/mの範囲にあればよく、比重3.7のアルミナ吸着剤の場合であれば9.2〜125g/mの範囲にあればよく、比重0.8の活性炭吸着剤であれば2.0〜27.0g/mの範囲にあればよいと見積もることができる。
【0028】
さらに、当該平板状光触媒体の表面濡れ性は、平滑面、例えばスライドガラスなどの表面に設けられた前記塗膜の水接触角で60°以下が好ましい。この水接触角が60°以下であれば、当該平板状光触媒体の内部まで汚水が浸透しやすい。
【0029】
当該平板状光触媒体の厚さは、12mm未満であることが好ましい。この厚さが12mm未満であれば、紫外光が光触媒体の深部まで到達しやすい。また、最低厚さは、無機多孔体の構造にもよるが、365nmの光の透過率が20%以下の厚さであればよい。
【0030】
当該光触媒体における塗膜(光触媒層)を構成する光触媒材料としては、例えばアナターゼ型酸化チタンおよび/またはブルッカイト型酸化チタンなどを用いることができるが、平均粒径が1.0〜100nmのアナターゼ型酸化チタンの微粒子状物が好ましく、特に平均粒径1.0〜50nmのものが好ましい。上記平均粒子径は、レーザー光を利用した散乱法によって測定することができる。
【0031】
また、前記酸化チタン粒子の内部および/またはその表面に、第二成分として、V、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Ag、PtおよびAuの中から選ばれる少なくとも1種の金属および/または金属化合物を含有させると、一層高い光触媒機能を有するため好ましい。前記の金属化合物としては、例えば、金属の酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、さらには金属イオンなどが挙げられる。第二成分の含有量はその物質の種類に応じて適宜選定される。
【0032】
このアナターゼ型酸化チタン粒子は、従来公知の方法によって製造することができるが、塗工液中に均質に分散させるために酸化チタンゾルの形態で用いるのが有利である。該酸化チタンゾルを製造するには、例えば粉末状のアナターゼ型酸化チタンを酸やアルカリの存在下で解こうさせてもよいし、粉砕によって粒子径を制御してもよい。また、硫酸チタンや塩化チタンを熱分解あるいは中和分解して得られる含水酸化チタンを物理的、化学的な方法で結晶子径、粒子径の制御を行ってもよい。さらにゾル液中での分散安定性を付与するために、分散安定剤を使用することができる。
【0033】
また、当該光触媒体における塗膜(光触媒層)を構成する吸着剤としては、例えばコロイダルシリカ、アルミナ、ジルコニア、非晶質チタニア、水酸化マグネシウム、活性炭などを用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
さらに、当該光触媒体における塗膜(光触媒層)を構成する所望成分の無機接着成分としては、例えばシリカバインダー、アルミナバインダー、アモルファス型チタニアバインダーなどを用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中でアモルファス型チタニアバインダーが、耐水性に優れることから好ましい。
このアモルファス型チタニアバインダーは、チタンアルコキシドの加水分解・縮合によって製造することができる。
【0035】
前記チタンアルコキシドとしては、アルコキシル基の炭素数が1〜4のチタンテトラアルコキシドが好ましく用いられる。このチタンテトラアルコキシドにおいては、4つのアルコキシル基は、たがいに同一でも異なっていてもよいが、入手の容易さなどの点から、同一のものが好ましく用いられる。該チタンテトラアルコキシドの例としては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラ−n−プロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ−n−ブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトラ−sec−ブトキシドおよびチタンテトラ−tert−ブトキシドなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
前記チタンアルコキシドを加水分解・縮合させてアモルファス型チタニアバインダーを形成させるが、この加水分解・縮合反応は、適当な有機溶剤中において、例えばチタンテトラアルコキシドに対して、好ましくは0.5〜4倍モル、より好ましくは1〜3倍モルの水を用い、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸の存在下、通常0〜70℃、好ましくは20〜50℃の範囲の温度において行うことができる。
このようにして、耐水性に優れるアモルファス型チタニアバインダーが得られる。
【0037】
本発明において、平板状光触媒担持多孔体を作製するには、まず、光触媒塗工液を調製する。この光触媒塗工液の調製は、適当な溶媒中に、前記光触媒材料と吸着剤と場合により無機接着成分とを分散させることにより、行うことができる。
【0038】
このようにして得られた光触媒塗工液を、前記無機多孔体の少なくとも太陽光が当たる側の表面に塗工し、塗膜(光触媒層)を設けることにより、厚さ12mm未満の平板状光触媒担持多孔体(光触媒体)を作製することができる。
光触媒塗工液の塗工方法については特に制限はないが、例えば浸漬法などを用いることができる。
【0039】
本発明においては、厚さ12mm未満の平板状光触媒担持多孔体は、当該光触媒担持多孔体の太陽光が当たる側とは反対面に、無機繊維または有機繊維からなる強度98N/cm以上の織布を積層し、2層構造として用いることができる。このように2層構造にすることにより、汚水の浄化効率を保持したまま、光触媒担持多孔体の強度を飛躍的に向上させることができる。
本発明においては、このようにして得られた平板状光触媒担持多孔体の上端部に幅方向に複数の被浄化液滴下口を設ける。
【0040】
このようにして得られた平板状光触媒担持多孔体のサイズについては、被浄化液の処理量にもよるが、通常長さ30〜200cm、幅5〜120cm程度、好ましくは長さ30〜120cm、幅20〜90cmである。これより大きなサイズのものが必要になる場合は、前記のサイズ内に収まる大きさの平板状光触媒担持多孔体を複数枚使用すれば良い。
【0041】
[被浄化液中の汚物の吸着処理]
本発明においては、前記の平板状光触媒担持多孔体を地面に対して、80度以上の角度になるように調整することが好ましい。当該平板状光触媒体の地面に対する角度が80度以上であれば、充分な浄化速度を確保することができる。そして、当該光触媒体の上端部に設けられた複数の滴下口から、所定の流速で所定量の被浄化液を滴下し、当該光触媒体に染み込ませる。染み込んだ汚水は自重によって当該光触媒体の内部を通過し、浄化処理された汚水は、当該光触媒体の下部端面から排水される。
【0042】
本発明においては、当該平板状光触媒体の上端部に、幅方向に複数の被浄化液滴下口を設けることにより、当該平板状光触媒体に対して、満遍なく被浄化液を染み込ませることができる。
【0043】
被浄化液の滴下速度は、例えば滴下口の上流部に設けたバルブで流量を調節する方法、孔の空いた送水管に送水元から流量を制御して送水する方法、圧力や流量を制御してミクロ孔が無数にある多孔質チューブから被浄化液をしみださせる方法などによって、コントロールすることができ、また、このような方法により、被浄化液を、光触媒担持多孔体の上端部幅方向全体に亘って一定の流量で供給することが可能となる。滴下口の上流部に設けたバルブで流量を調節する方法や、孔の空いた送水管に送水元から流量を制御して送水する方法を用いる場合、各滴下口の間隔は2〜10cmであることが好ましく、汚水の横方向に広がる毛細管力および汚水の溢出を考慮して2〜5cmであることがより好ましい。
【0044】
本発明の光触媒ユニットにおいては、吸着剤および/または無機接着成分として、等電点のpHが9以上である固体塩基性を有するものを用いることにより、酸性の汚水成分を選択的に除去することができるし、界面活性剤で乳化された疎水性の汚水成分を選択的に除去することができる。
【0045】
また、吸着剤および/または無機接着成分として、等電点のpHが3以下である固体酸性を有するものを用いることにより、塩基性の汚水成分を選択的に除去することができる。
【0046】
固体塩基性吸着剤としては、アルミナ、水酸化マグネシウムなどが挙げられ、固体塩基性無機接着成分としては、アルミナバインダーなどが挙げられる。一方、固体酸性吸着剤としては、コロイダルシリカなどが挙げられ、固体酸性無機接着成分としては、シリカバインダーなどが挙げられる。
【0047】
固体塩基性吸着剤としてアルミナを用いる場合、平均粒径が100nm以下で結晶形態がベーマイト状のものを用いることが好ましく、無機多孔体の表面に設けられた塗膜中の吸着剤の体積分率を25〜45%にすることが好ましい。
【0048】
水中で活性ラジカルはおよそ数ミクロン移動するため、光触媒材料と吸着剤は数ミクロン以下の範囲で均一に分散させることが望ましいが、アルミナの場合、二次凝集が懸念されるため、その二次凝集体のサイズが数ミクロン以下になるようにするには、その一次粒径の平均を100nm以下にするのがよい。平均粒径の下限は特に限定されないが、10nm以下は技術的にも経済的にも困難である。アルミナの平均粒径は、30〜90nmであることがより好ましい。
【0049】
また、例えば環境ホルモンの一つであると言われているフタル酸ジエチルの濃度を0.1ppm以下まで浄化する場合、無機多孔体の表面に設けられた塗膜中の吸着剤の体積分率が25%未満であると、除去成分であるフタル酸ジエチルを吸着するアルミナ量が少ないため、試料中のフタル酸ジエチルの濃度を求める濃度以下にすることができない。また、無機多孔体の表面に設けられた塗膜中の吸着剤の体積分率が45%を超えると吸着剤が塗膜から脱落する現象が見られるため好ましくない。無機多孔体の表面に設けられた塗膜中の吸着剤の体積分率は、35〜43%であることがより好ましい。
【0050】
さらに、平板状光触媒体として、その塗膜が平滑面、例えばスライドガラスなどの表面に設けられた場合の水接触角が40〜60°であるものを用いることにより、疎水性の汚水成分を選択的に分解・除去することができる。
【0051】
疎水性の汚水成分を含む汚水を浄化する場合、吸着剤として活性炭を用いることができる。従来、活性炭としては、細孔径をできるだけ小さくして表面積を大きくしたものが用いられていたが、本発明においては、従来とは逆に、細孔径が大きめであって、かつ塗液中で沈殿を生じない程度の平均粒径を有するものが好適に用いられる。上述したように、活性ラジカルは水中で数ミクロン移動するので、光触媒材料と吸着剤は塗工液中で数ミクロン以下の範囲で均一に分散させることが望ましい。活性炭の場合、そのサイズは既に数ミクロンであるため、塗工液中の活性炭はほぼ単分散の状態でなくてはならないが、単分散性を確保するためには粒子の濡れ性を厳密に制御することが肝要であり、細孔径のサイズは大きな制限を受ける。上記活性炭としては、10nm以上の細孔径を有する細孔の容積の和の割合が全細孔容積の19%以上であり、((10nm以上の細孔径を有する細孔の容積の和/全細孔容積)×100が19%以上であり)、平均粒径が10μm以下であるものが挙げられる。上記活性炭を用いることにより、疎水性の汚水成分を含む排水の、細孔への濡れ性が大きく向上するとともに、光触媒塗工液における活性炭の分散性も向上する。活性炭の分散性が大きく改善されるため、光触媒担持多孔体における光触媒活性を阻害しにくく、また塗膜(光触媒層)中の活性炭の体積分率が75%までは、光触媒による汚水成分の完全分解性を維持することができる。10nm以上の細孔径を有する細孔の容積の和の割合は、全細孔容積の19%以上であることがより好ましく、25%以上であることがさらに好ましい。上記活性炭において、10nm以上の細孔径を有する細孔の容積の和の、全細孔容積に対する比率は、その上限が50%であることが好ましい。これは細孔径が大きなものの比率が高くなると水中での濡れ性には寄与するが、表面積が小さくなり活性炭が本来の吸着能を失ってしまうためである。また、平均粒径に特に下限は無いが1μm以下は技術的も経済的にも困難である。
【0052】
また、無機多孔体の表面に設けられた塗膜中の活性炭の体積分率は40〜75%であることが好ましい。活性対の含有割合を上記範囲とすることによって、例えば、浄化容量の最低値が25L/mである装置を用いて、疎水性の汚水成分の一つであるイプコナゾールを含む農薬廃液を浄化する場合に、イプコナゾールを濃度1.0ppm以下まで浄化することが可能となる。上記活性炭の体積分率が40%未満では、除去成分を吸着する活性炭量が少なく求める分解対象物濃度以下にならない場合があり、また、75%を超えると活性炭の絶対量が多くなり紫外線遮蔽効果等から光触媒活性による分解が完全に進行せず再利用が不可能となってしまう場合がある。
【0053】
塗膜の接触角は、用いる吸着剤や無機接着成分の種類によって変化する。したがって、平滑面に設けられた塗膜の水接触角を40〜60°に制御するには、塗工液の調製の際に、吸着剤として疎水性コロイダルシリカを、無機接着成分としてチタニアバインダーを用いるのがよい。その混合比率は、吸着剤や接着成分の種類によって変化するため、調製した塗工液を用いて、例えばスライドガラス上に製膜し、水接触角を確認すればよい。
【0054】
本発明においては、このようにして被浄化液中の汚物を吸着処理した光触媒ユニットは、その平板状光触媒担持多孔体における塗膜(光触媒層)に太陽光を照射して、吸着した汚物を光触媒材料により分解する。
【0055】
[光触媒材料による吸着汚物の分解処理]
本発明の光触媒ユニットにおいては、まず、被浄化液中の汚物を吸着剤により吸着処理したのち、太陽光の照射と光触媒材料により、吸着された汚物を分解処理する。したがって、物質の輸送・吸着速度を考慮する必要がなく、分解速度は、単純に紫外光量に依存する。
【0056】
そこで、本発明者らは、汚染物の分解の光量依存性を調べた結果、本発明の光触媒ユニットの場合、分解速度はR=3.86×10−4×I0.851(ただし、R:反応速度定数、I:紫外線光量)の関係を満たし、光量の0.85乗に比例することが分かった。
【0057】
一方、太陽光に含まれる紫外光量は、時間帯や方角、地面に対する角度によっても大きく異なり、その角度については45〜60度の角度範囲が、最も強い紫外線を得ることができることも分かった。
【0058】
また、方角については南向きが紫外線量を最も大きく受けやすく、紫外光量の方角依存性は概ね以下の通りである。
北:東:南:西=25:70:100:70
【0059】
このことから太陽光に含まれる紫外線を効率よく利用するためには、なるべく北向きへの設置は避け、地面に対する角度は45〜60度にするのが良い。実際に、南向きに設置した角度45度あるいは角度80度の条件で、汚染されたユニットの再生挙動を調べた結果、分解速度に1.4倍の差が生じた。これは上記の考察と良く一致する。
【0060】
図1は、晴天時における紫外光量の角度依存性を示すグラフであり(平成17年11月4日、岐阜市、南向き)、図2は、角度による分解速度の違いを示すグラフである。なお、図2において、実曝露日数とは、汚物を吸着処理したユニットを南向きに設置した日数のことである。
【0061】
なお、図1の紫外光量の角度依存性は、晴天であった2005年11月14日の12時と14時に周囲に光を遮る物が無い屋外において、紫外線照度計『UVR−2』((株)トプコン)を用い、受光部を任意の角度に傾けて、その時の照度を読み取って測定した。
【0062】
また、図2の角度による分解速度の違いは次のようにして測定した。
屋外の周囲に光を遮る物がない場所に設置した種子消毒廃液を処理したユニットを収納した架台の角度を45度にして、日当たりの良い南向きの面に設置した。
【0063】
同様に処理を行った別のユニットについて、ユニットを収納した架台の角度を80度にして、同様に日当たりの良い南向きの面に設置した。
【0064】
設置から0、1、2日経過後に、それぞれのユニット内のマットを同じ高さの部位を5×5cmサイズに切り取り、この中に含まれる農薬をメタノールで抽出し、高速液体クロマトグラフィー法にて定量した。
【0065】
定量した農薬濃度と抽出に用いたメタノールの量からマット内に残存していた農薬量残存量を計算し、屋外設置0日のものとの差を分解量と定め、屋外設置日数を横軸に分解量を縦軸にとり、各プロットを直線近似して、その傾きから分解速度の差を求めた。
【0066】
本発明においては、浄化工程と分解工程において、それぞれの工程に相応しい角度にユニットを調整できる、角度調整型のユニット収納架台を用いることが好ましい。
【0067】
架台の構造については角度調整できるユニット収納架台であれば特に構造上の制約はないが、例えばユニットの中央付近の高い位置に回転軸がある構造が好ましい構造の一つとして挙げられる。これによって、装置の省スペース化と角度調整の省力化を図ることができる。
【0068】
本発明の特徴は、このようにして角度調整された光触媒ユニットが、吸着汚物を分解処理して、再生するのに必要な紫外光量を充分に得ることができているのかを知るためのインジケーター、すなわち、前記分解処理から吸着処理へ切り換える時期を決定するためのインジケーターを、当該平板状光触媒担持多孔体またはその支持架台に取付けることにある。
【0069】
[インジケーター]
本発明の光触媒ユニットに用いるインジケーターには、太陽光線中の紫外線によって退色する色素が用いられる。このインジケーターは、熱や水、湿気などで退色を引き起こさないものであることが好ましい。
本発明者らは、太陽光による退色が比較的速いとされる下記の式
【0070】
【化1】

【0071】
で表されるOil Orange R、Oil Red B、Oil Red、PANの4種のアゾ系色素について、次に示すように検討を行った。
【0072】
すなわち、アセトンに溶解させた各色素を耐水紙に含浸させ、BLB(ブラックライトブルー)灯による紫外光や蛍光灯による可視光に曝し、その色素の分解による、色素担持紙の退色速度をそれぞれの色素のλmaxにおける吸光度の変化で追跡した。次に太陽光に含まれる可視光量と紫外光量の光量比率を計算しながら、これらの基礎データを元に平均的な太陽光下で退色に必要な日数を予測した。本発明の光触媒ユニットが再生に必要な紫外光量を得るためには、少なくとも3日以上必要となるため、Oil Red、Oil Red Bについては退色が早すぎ、インジケーターとしては不適であることが分かった。一方、Oil Orange R、1−(2−ピリジルアゾ)−2−ナフトール(PAN)については、想定している再生期間と退色速度のバランスが良く、求めるインジケーターにふさわしい色素であることが分かった。
【0073】
図3は、色素による退色に必要な日数の違いを示すグラフである。なお、横軸の初期absとは退色前の色素担持紙のλmaxにおける吸光度のことであり、縦軸の退色に必要な日数とは色素担持紙のλmaxにおける吸光度(abs)が0.1以下になるまでに要した日数である。
【0074】
この図3は、 Oil Orange R、Oil Red B、Oil Red、PANの4種のアゾ系色素についての検討結果である。
【0075】
すなわち、アセトンに溶解させた各色素を耐水紙に含浸させ、BLB(ブラックライトブルー)灯による紫外光や蛍光灯による可視光に曝し、その色素の分解による、色素担持紙の退色速度をそれぞれの色素のλmaxにおける吸光度の変化で追跡した。次に太陽光に含まれる可視光量と紫外光量の光量比率を計算しながら、これらの基礎データを元に平均的な太陽光下で退色に必要な日数を予測した。
【0076】
吸光度の測定は紫外可視分光光度計『UV−2100』((株)島津製作所)を用い、積分球を用いた反射スペクトル測定により行った。
【0077】
インジケーターの色素としては、Oil Orange R[1−(フェニルアゾ)−2−ナフトール]および/またはPANが適しているが、本発明で用いるインジケーターは、熱や水、湿気などで退色を引き起こさず、紫外線で退色する色素が特に好ましく、前記Oil Orange RおよびPANが、この条件を満たすかどうかを調べたところ、両方共雨によって退色し、Oil Orange Rについては熱によっても退色することが分かった。
【0078】
したがって、インジケーターの形態としては、特にPANを担持した耐水紙を、耐候性のある基材にて挟み込み、雨に濡れることを防いだものが好ましい。
【0079】
太陽光によるPAN担持紙の退色を70mW/cmの光量を得られた時に高い視認性を得るためには、その退色の度合いをより大きくする必要がある。そこで、初期のPAN担持量を変化させ、任意の時間における退色の大きさを調べた。その結果、インジケーターが受けた光量と退色の度合いは、PANの担持量と相関があることが分かり、その関係は以下の式2によって表される。
【0080】
D=0.0019V+0.5051 (2)
(ただし、D:退色最大となる初期ABS(吸光度)、V:積算紫外光量(mW/cm
))
【0081】
本発明で用いるインジケーターは、色の変化がより明確になるように、色素担持紙を挟む基材のうち、下地には濃色の基材を用いることが望ましく、PANを用いたイナジケーターは橙色であるため、青色、緑色、青紫色、黒色などが好ましい。また、カバーとなる基材は、透明性の高いものが好ましく、例えばアクリル樹脂板、ポリプロピレン板、ポリエチレンテレフタレート板、ポリカーボネート板などを挙げることができる。
【0082】
このようにして作製したインジケーターは、積算光量が増えるに伴い、その色が徐々に薄くなり、その変化が目視でも容易に判別可能であった。また、その退色は、天候の影響をほとんど受けることなく、積算紫外光量を再現性よく示す。
【0083】
図4は、各期間における積算紫外光量とABS(吸光度)との関係を示すグラフであり、この図から、退色は、天候の影響をほとんど受けずに積算紫外光量を再現性よく示すことが分かる。
【0084】
なお、インジケーターの作製は次のようにして行った。
アセトンにて700ppmに調製したPANをシャーレに20ml注ぎ、ここに直径55mmの分液ろ紙『No.2S 55φ』(ADVANTEC)を入れ、密封して12時間静置した。12時間後これを引き上げ、オーブンにて40℃で乾燥させた。
【0085】
これを2cm×1.5cmに裁断し、5cm×2.5cm、厚さ2mmの黒色のアクリル板『アクリライト』(三菱レイヨン(株))に貼り付け、この上に同じサイズの厚さ2mmの透明なアクリル板『アクリライト』(三菱レイヨン(株))を置きインジケーターとした。
【0086】
ABS(吸光度)の測定は、紫外可視分光光度計『V670』(日本分光(株))を用い、積分球を用いた反射スペクトル測定により行った。
積算紫外光量の測定は1時間おきに測定した太陽光中の紫外光量を積算して求めた。
【0087】
インジケーターの色の見え方は、時間帯やインジケーターの置かれた光環境の差異、観測者の感性によって異なるので、どのような条件においても誰が見ても目標とする退色レベルまで到達したことを容易に判断できるようにすることが望ましい。したがって本発明の光触媒ユニットにおいては、インジケーターと共に、該インジケーターの退色状態を再現した色見本を取付けることが好ましい。
【0088】
色素としてPANを、カバーとしてアクリル樹脂板を用いたインジケーターにおいて、積算光量70mW/cm時の退色度合いを示す色見本は、分光光学的にX、Y、Zで表すと、X=66.0〜73.0、Y=67.0〜75.0、Z=61.0〜70.0の範囲にあるものが好ましく、X=68.6〜68.8、Y=69.0〜69.1、Z=63.4〜64.6の範囲にあるものがより好ましい。
【0089】
この色見本は、退色する前の色から退色後の色への変化をグラデーション状に示したものが好ましく、例えば積算光量70mW/cm時の色見本は、X=58.0〜61.0、Y=54.0〜55.0、Z=23.0〜28.0の範囲から前述のX=66.0〜73.0、Y=67.0〜75.0、Z=61.0〜70.0の範囲へと変化するような色見本にすれば良い。
【0090】
退色した状態の色見本をインジケーターと共に並べ、インジケーターの色を色見本と比較し、色見本の色に到達した時再生が完了していると容易に判断することができる。
【0091】
図5は、インジケーターと色見本を共に配置した場合の異なる例を示す平面図であり、符号1はインジケーター、2は色見本を示す。
【0092】
本発明はまた、光触媒ユニットの使用方法をも提供する。
本発明の光触媒ユニットの使用方法においては、前述した本発明の光触媒ユニットにおいて、インジケーターが所定の色調に退色した時点で、分解工程から吸着工程を切り換える操作を行い、被浄化液の浄化処理を繰り返し行う。
【実施例】
【0093】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
(1)平板状光触媒担持多孔体の作製
光触媒酸化チタン(アナターゼ型酸化チタン、平均粒径20nm)スラリー[チタン工業(株)製、「PC−203」、固形分20質量%]11.6g、無機接着成分であるアモルファスチタニアバインダー(固形成分7.1質量%)12.3g、活性炭(フタムラ化学(株)製、「太閤活性炭SA−1000」、10nm以上の細孔径を有する細孔の容積の和の割合が全細孔容積の20%、平均粒径が10μm以下)1.1gを、エチルセルソルブと1−プロパノールと水の混合溶媒(エチルセルソルブ/1−プロパノール/水=45/45/10、質量比)中で混合して固形成分濃度1.1質量%の塗工液を調製した。
この塗工液をスライドガラス表面に塗工した際の水接触角は58°であった。
次に、無機多孔体として、ニードルパンチ法で作製した保水率1000質量%、吸上げ高さ100mm、厚さ6mm、目付700g/m(繊維径7μm)のシリカガラス不織布表面に、前記塗工液を塗工して、光触媒酸化チタン15g/mと活性炭7.1g/mを担持し、塗膜中の光触媒酸化チタンの体積分率26%、活性炭の体積分率62%の光触媒担持多孔体を作製した。
【0094】
(2)積算光量インジケーターの作製
PAN 0.49gをアセトン699.51gに溶解させ、濃度700ppmのPAN溶液を作製した。この溶液20gをガラスシャーレに注ぎ、ここにADVANTEC製分液ろ紙No.2S 55φを1枚浸漬させ、遮光して密封し、12時間静置した。12時間経過後、ろ紙を引き上げ、40℃のオーブンにて乾燥させ、積算光量インジケーターを得た。これを0.5cm×4cmに裁断し、X=68.7、Y=69.1、Z=64.0の色見本と共に厚さ2mmの黒アクリル板に貼り付け、厚さ2mmの透明アクリル板にて挟み込み、積算光量インジケーターを作製した。
【0095】
(3)汚水浄化
前記(1)で作製した平板状光触媒担持多孔体を、縦53.3cm、横30.5cmのサイズの平板状に裁断して、角度調整型架台に装着し、地面に対する角度を80度に調整した光触媒ユニットを、予め2.4Lの水で洗浄した。
水稲種子消毒剤[クミアイ化学社製、「テクリードCフロアブル」]で消毒された米を浸種して得られた、イプコナゾール3.4ppmを含み、全有機炭素濃度が609mg/Lである種子消毒廃液4.5Lを、前記消毒ずみの光触媒ユニットに、ユニット上端部に2.5cm間隔で設けた滴下口から、圧力0.1MPaゲージ圧、200ml/minの流速で滴下して浄化を行った。浄化終了後、2.4Lの水を圧力0.1MPaゲージ圧、200ml/minの流速で、同じ滴下口から滴下し、ユニットの洗浄を行った。
【0096】
(4)繰り返し再生
(3)にて種子消毒廃液を処理したユニットを収納する架台に、前記(2)で作製した積算光量インジケーターを取付け、架台の角度を45度にして、日当たりの良い南向きの面に設置した。積算光量インジケーターの退色を色見本と比較して、色見本と同等もしくはそれ以上に薄い色になったことを目視にて確認した後、架台の角度を80度にして、再度(3)に記載の手法で種子消毒廃液の処理を行った。これを繰り返し、延べ5回廃液処理を行った。回収された浄化液及び洗浄液中のイプコナゾール濃度は、排出基準値以下であった。
表1に、各繰り返し回数における処理量とイプコナゾール濃度の関係を示す。
【0097】
【表1】

【0098】
図6は、各繰り返し回数における処理量とイプコナゾール(IPC)濃度の関係を示すプロット図である。
【0099】
なお、イプコナゾールの濃度については、逆層液クロマトグラフィー法にて分析し、該当するピーク面積から、予め作製しておいた濃度とピーク面積の関係を示す検量線に基づき、試料溶液中の濃度を求めた。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の光触媒ユニットは、吸着型汚水浄化に用いられる光触媒ユニットであって、光触媒材料と吸着剤を含む塗膜を有する平板状光触媒担持多孔体を用い、各種汚水を効果的に浄化処理し得ると共に、太陽光を効率的に利用してその浄化性能を回復することにより、繰り返し使用可能であり、各種汚水、例えば農業廃液や養液栽培における廃液などの浄化処理に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】晴天時における紫外光量の角度依存性を示すグラフである。
【図2】角度による分解速度の違いを示すグラフである。
【図3】色素による退色に必要な日数の違いを示すグラフである。
【図4】各期間における積算紫外光量とABSとの関係を示すグラフである。
【図5】インジケーターと色見本を共に配置した場合の異なる例を示す平面図である。
【図6】各繰り返し回数における処理量とイプコナゾール(IPC)濃度との関係を示すプロット図である。
【符号の説明】
【0102】
1 インジケーター
2 色見本

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも太陽光が当たる側の表面に、光触媒材料と吸着剤を含む塗膜を有する平板状光触媒担持多孔体を備え、かつ当該平板状光触媒担持多孔体が、地面に対して、少なくとも40〜90度の範囲の角度になるように、傾斜度を自在に調整することができ、前記範囲内の角度で立てた当該平板状光触媒担持多孔体の上端部に、被浄化液を幅方向に設けられた複数の滴下口から供給して当該平板状光触媒担持多孔体内に流して汚物を吸着処理し、次いでこの塗膜に太陽光を照射して、吸着した汚物を光触媒材料により分解処理する操作を繰り返し行う光触媒ユニットであって、前記分解処理から吸着処理への切り換え時期を決定するために、太陽光中の紫外線によって退色する色素を用いたインジケーターを、前記分解処理開始時に、当該平板状光触媒担持多孔体またはその支持架台に取付けたことを特徴とする光触媒ユニット。
【請求項2】
インジケーターが、紫外線で退色する色素を担持した耐水紙を、耐候性基材にて挟み込んだものである請求項1に記載の光触媒ユニット。
【請求項3】
紫外線で退色する色素が、1−(2−ピリジルアゾ)−2−ナフトールおよび/または1−(フェニルアゾ)−2−ナフトールである請求項1または2に記載の光触媒ユニット。
【請求項4】
インジケーターと共に、色見本を取付けた請求項1〜3のいずれか1項に記載の光触媒ユニット。
【請求項5】
平板状光触媒担持多孔体の上端部に、被浄化液を複数の滴下口から供給して当該平板状光触媒担持多孔体内に流して汚物を吸着処理するに際し、地面に対し、80度以上の角度になるように調整する請求項1〜4のいずれか1項に記載の光触媒ユニット。
【請求項6】
塗膜に太陽光を照射して、吸着した汚物を光触媒材料により分解処理するに際し、南方向に向けると共に、地面に対し、45〜60度の角度になるように調整する請求項1〜5のいずれか1項に記載の光触媒ユニット。
【請求項7】
被浄化液を供給する複数の滴下口が、2〜10cmの間隔で設けられている請求項1〜6のいずれか1項に記載の光触媒ユニット。
【請求項8】
平板状光触媒担持多孔体における担持体が、無機多孔体からなるものである請求項1〜7のいずれか1項に記載の光触媒ユニット。
【請求項9】
無機多孔体が、ガラス繊維からなる不織布である請求項8に記載の光触媒ユニット。
【請求項10】
塗膜が無機接着成分を含む請求項1〜9のいずれか1項に記載の光触媒ユニット。
【請求項11】
吸着剤が活性炭である請求項1〜10のいずれか1項に記載の光触媒ユニット。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の光触媒ユニットの使用方法であって、インジケーターが所定の色調に退色した時点で、分解処理から吸着処理へ切り換えることを特徴とする光触媒ユニットの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−142660(P2008−142660A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334577(P2006−334577)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】