説明

光触媒機能を有する多機能材の製造方法

【課題】 脱臭機能、抗(殺)菌機能、防汚機能等に優れかつ、光触媒層の保
持力が大幅に向上し、剥離等が生じにくい多機能材の製造方法を提供する。
【解決手段】 基材表面にバインダー層を形成する工程と、バインダー層上に
平均粒径が0.3μm未満の光触媒粒子と前記光触媒の粒径の4/5以下の酸化
スズ、酸化亜鉛、酸化ビスマスのいずれかの粒子との混合物からなる層を形成す
る工程と、焼成する工程とを具備することを特徴とする光触媒機能を有する多機
能材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脱臭機能、抗(殺)菌機能、防汚機能等の機能を発揮する多機能材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線を照射することで、悪臭成分等の有機化合物に対して酸素分子の吸着或いは脱着を起こさせ、分解(酸化)を促進する機能を発揮する物質として、TiO2、V2O5、ZnO、WO3等が知られており、特に結晶型がアナターゼ型のTiO2粒子は光触媒としての効果が高いので、従来から壁材、タイル、ガラス(鏡)、循環濾過装置或いは衛生陶器等の表面に光触媒層を形成する提案がなされている。
【0003】
上記の光触媒層を形成する方法として、従来から以下のような方法が行われている。 プラスチック、セラミック、樹脂等の基材表面に、CVD法、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法等によって直接TiO2粒子等からなる光触媒層を形成する方法。 光触媒粒子をバインダーに混練してスプレー・コーティング法等によって基材表面に塗布したり、ディップ・コーティング法により浸漬塗布した後に、熱処理する方法。 (例えば、特許文献1参照。)
【特許文献1】特開平5−201747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CVD法、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法等を用いる場合には、設備が大規模になり、また歩留りも悪いため製造コストが高くなる。
【0005】
一方、TiO2粒子等の光触媒粒子が光触媒としての効果を発揮するには、光触媒粒子に紫外線が照射されることと、光触媒粒子が悪臭ガス等の分解対象物質に接触することが必要であるが、特開平5−201747号公報のように光触媒粒子をバインダーに混練して基材に塗布していたのでは、多くの光触媒粒子がバインダー層中に埋もれ、紫外線が届かなかったり、悪臭ガス等に接触しないことになり、充分な触媒機能を発揮することができない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく本発明では以下に示す手段を施した。
【0007】
基材表面にバインダー層を介して光触媒層が保持された光触媒機能を有する多機能材において、前記光触媒層の上層部は外気と接するようにバインダー層から露出され、また前記光触媒層の下層部はその一部がバインダー層内に埋設されているようにした。このような構成とすることにより、光触媒層の上層部は露出しているので、触媒機能を充分に発揮でき、また光触媒層の下層部はその一部がバインダー層内に埋設されているので光触媒粒子が基材から剥離しにくくなる。
【0008】
ここで、基材としては、タイル、衛生陶器、ガラス等のセラミック、樹脂、金属、木材またはその複合物等のいずれでもよい。
【0009】
また、光触媒粒子としては、TiO2、ZnO、SrTiO3、Fe2O3、CdS、CdSe、WO3、FeTiO3、GaP、GaAs、RuO2、MoS3、LaRhO3、CdFeO3、Bi2O3、MoS2、In2O3、CdO、SnO2等が挙げられ、これらのうちのいずれを用いてもよい。尚、TiO2、SrTiO3、Fe2O3、CdS、WO3、MoS3、Bi2O3、MoS2、In2O3、CdO等は等価電子帯のレドックス・ポテンシャルの絶対値が伝導帯のレドックス・ポテンシャルの絶対値よりも大きいため酸化力のほうが還元力よりも大きく、有機化合物の分解による防臭作用、防汚作用あるいは抗菌作用に優れている。また原料コストの面ではTiO2、Fe2O3、ZnOが有利である。
【0010】
また、前記バインダー層は、例えば釉薬、無機ガラス、熱可塑性樹脂、半田等の熱可塑性材料にて構成する。このようにバインダー層を熱可塑性材料にて構成することで、バインダー層上にスプレーコティング法等の簡便且つ安価な方法によって光触媒を常温で塗布でき、また加熱処理のみで、基材、バインダー層及び光触媒を強固に結合でき、製造コスト上有利となる。
【0011】
また、本発明に係る光触媒機能を有する多機能材は、光触媒粒子からなる光触媒層を熱可塑性材料からなるシート状バインダー層の上に積層またはその一部を埋設して構成される。このようなシート状の多機能材を、既存のタイル、衛生陶器、建材等の上に貼着後加熱すれば、既存のタイル等に後から防臭性、防汚性、抗菌性、抗カビ性等の機能を付加することができる。
【0012】
前記光触媒層を構成する光触媒粒子の平均粒径は、比表面積を大きくして光触媒活性を高めるため、0.3μm未満とするのが好ましい。
【0013】
また、光触媒層の耐摩耗性を高めるため、光触媒層のうちバインダー層から露出する部分を構成する光触媒粒子は互いに結合されていることが好ましい。
【0014】
前記光触媒層の厚さは0.1μm〜0.9μmであることが好ましい。0.1μm未満では局所的に光触媒粒子がバインダー層内に埋め込まれて、多機能材表面上触媒活性を発揮できない部分が生じ、その部分に菌が滞留するようになるので、特に抗菌性が悪化する。また0.9μmを越えると、厚みのバラつきが大きくなり、サンプルに染みが付着した際に汚れが落ちにくくなる。ここで、光触媒層の厚さとは、最表面からバインダー層の下層に埋め込まれている部分までを含
み、それぞれの凹凸を均した厚みである。
【0015】
ここで、光触媒層の厚さを変化させることで意匠的な効果も得られる。即ち、厚さを0.2μm以上0.4μm未満にすれば、光触媒層膜厚部に対する光の干渉作用により虹彩色模様を付することができ、また、外観上基材の地の色、模様若しくはそれらの結合のみにしたければ、上記光の干渉作用を生じる部分を除外した0.1μm以上0.2μm未満もしくは0.4μm以上1μm未満に光触媒層膜厚部を作製すればよい。斯かる手法は、タイル、洗面台、浴槽、大・小便器、流し台、調理台等広範な範囲に応用可能である。
【0016】
光触媒層のうちバインダー層から露出する部分を構成する光触媒粒子を互いに結合させる方法としては、例えば、光触媒粒子の間隙にその間隙よりも粒径の小さな粒子を充填する。光触媒粒子のみで互いに結合する場合には、光触媒粒子同士の吸着または焼結によるしかない。しかしながら光触媒粒子相互の焼結作用を利用する場合はかなり高温で焼結しなければならず、一方吸着による場合には光触媒粒子の比表面積をよほど大きくし且つ充填性をよくしなければ結合性は充分にならず、光触媒粒子の活性点吸着分だけ消費する等、充分な触媒活性と耐摩耗性を有する多機能材を製造するには方法が制限されることになる。また、光触媒粒子の結合を強化するために、光触媒粒子の間隙よりも大きな粒子を用いると、充分な結合力を得られないのみならず、多機能材表面に露出する光触媒粒子を部分的に覆ってしまうことになり、多機能材表面上触媒活性を発揮できない部分が生じ、その部分に菌が滞留することになるので、抗菌性が著しく悪化する。尚、ここでいう光触媒粒子間の間隙とは、図3(a)に示すような、光触媒粒子3b,3b間のネック部、図3(b)に示すような、光触媒粒子3b,3b間の気孔の双方を指す。したがって、ここでいう光触媒粒子の間隙よりも粒径の小さな粒子3cとは、光触媒粒子間のネック部、光触媒粒子間の気孔のいずれの間隙よりも小さな粒子をいう。
【0017】
また、光触媒粒子の間隙に充填される小さな粒子としては、基本的には材質は制限されないが、吸着力に優れたものがよい。吸着能が極端に弱い材質では光触媒粒子同士を互いに結合せしめるという目的を達成できず、また、吸着能が極端に強い材質では間隙に挿入されるよりも、光触媒粒子表面の活性点を覆ってしまう確率が大きくなってしまうからである。この点からみて、光触媒粒子の間隙に充填される粒子の材質として好ましいのは、Sn、Ti、Ag、Cu、Zn、Fe、Pt、Co、Pd、Ni等の金属または酸化物であり、従来から吸着担体として使用されているゼオライト、活性炭、粘土等は好ましくない。上記の金属または酸化物のうち、適度な吸着能を有する点で好ましいのは酸化スズであり、またAg、Cu等の金属または酸化物は、光触媒粒子同士を互いに結合せしめる以外に独自に抗菌性、防臭性を有するので、この機能を活用する用途における特に光の照射のないときの光触媒の作用を補助する機能を合わせ持つ点で好ましい。
【0018】
また、前記光触媒粒子の間隙に充填される粒子の平均粒径は、光触媒粒子の平均粒径の4/5以下であることが好ましい。光触媒粒子の間隙を埋める粒子は、現行の製造方法では光触媒粒子同士の間隙のみでなく、光触媒粒子上にもある程度付着してしまう。そして間隙を埋める粒子の粒径が光触媒粒子の平均粒径の4/5を越えると、光触媒粒子の間隙よりも光触媒粒子表面に付着する確率の方が高くなり、光触媒粒子同士の結合強度が低下する。また間隙を埋める粒子が光触媒粒子よりも大きいと、光触媒粒子を部分的に覆ってしまうことになり、多機能材表面上触媒活性を発揮できない部分が生じ、その部分に菌が滞留し得るようになるので、特に抗菌性が著しく悪化してしまうおそれもある。
【0019】
また、前記光触媒粒子の間隙に充填される粒子の平均粒径は、0.008μm未満であることが、比表面積を大きくし、適度の吸着力が得られるので好ましい

【0020】
また、前記光触媒粒子の間隙に充填される粒子の光触媒粒子に対する量は、モル比で10%以上60%以下であることが好ましい。光触媒粒子同士の焼結が生じない温度領域で熱処理して基材にバインダーを介して光触媒層を固定する場合、間隙を埋める粒子の量が少なすぎると、光触媒粒子同士が強固に結合せず、一方間隙を埋める粒子の量が多すぎると、光触媒粒子を覆う粒子の量が多くなり、多機能材表面上触媒活性を発揮できない部分が生じ、その部分に菌が滞留し得るようになるので、特に抗菌性が著しく悪化するので上記範囲が好ましい。
【0021】
また、前記光触媒粒子の間隙に充填される粒子を構成する物質として、その蒸気圧が光触媒粒子を構成する物質の蒸気圧よりも高いものを選定し、光触媒粒子の間隙に充填される粒子を光触媒粒子間のネック部に凝集せしめることが好ましい。これは、より強固な光触媒粒子同士の結合を得、光触媒層の剥離強度を高めるためには、充填させるだけでなく焼結させる方がよいからである。また、間隙を埋める粒子にこのような蒸気圧の高い物質を選べば、焼結助剤としても機能し、焼結温度を低下させることもできる。このような蒸気圧の高い物質としては、酸化スズ、酸化ビスマス、酸化亜鉛等があるが、安全性の点で酸化スズが好ましい。
【0022】
また、前記光触媒粒子の間隙に充填される粒子を含む層の厚さは、0.1μm以上あることが好ましい。この層の厚さが0.1μm未満では局所的に光触媒粒子(及び製造方法によっては間隙を埋める粒子)がバインダー層内に埋め込まれて多機能材表面上触媒活性を発揮できない部分が生じ、その部分に菌が滞留し得るようになるので、特に抗菌性が著しく悪化してしまう。ここで、光触媒粒子の間隙に充填される粒子を含む層の厚さとは最表面からバインダーの下層に埋め込まれている部分までを含み、それぞれの凹凸を均した厚みである。
【0023】
ここで、光触媒層の厚さを変化させることで意匠的な効果も得られる。即ち、厚さを0.2μm以上0.4μm未満にすれば、光触媒層膜厚部に対する光の干渉作用により虹彩色模様を付することができる。また間隙を埋める粒子による着色がなければ、外観上基材の地の色、模様若しくはそれらの結合のみにしたければ、上記光の干渉作用を生じる部分を除外した0.1μm以上0.2μm未満もしくは0.4μm以上1μm未満に光触媒層膜厚部を作製すればよい。斯かる手法は、タイル、洗面台、浴槽、大・小便器、流し台、調理台等広範な範囲に応用可能である。
【0024】
また、前記光触媒層の最下層を構成する光触媒粒子のバインダー層への埋設深さは、粒径の1/2以上で、かつ光触媒粒子と間隙を埋める粒子を含む層の厚さ未満だけバインダー層内に埋設されていることが好ましい。光触媒粒子がバインダー層内に粒径の1/2以上埋設されることにより、光触媒粒子層の最下層とバインダー層は強固に結合し、また光触媒粒子と間隙を埋める粒子を含む層の厚さ以上埋設されてしまうと、光触媒粒子が最表面に露出しない部分が生じ、その部分が多機能材表面上触媒活性を発揮できないために、その部分に菌が滞留し得るようになるので、特に抗菌性が著しく悪化してしまう。
【0025】
また、前記基材は、公園やデパートにある水循環方式の人工的な滝や噴水の敷石として用いられるタイル、石材として利用することができる。このような用途に光触媒機能を有する多機能材を利用することにより、循環に伴って人工照明や自然光の紫外線を含む光を利用して水中に堆積する有機系の汚物を分解できる。また、細菌、カビ等の繁殖や藻の発生、それに伴うどぶ水臭を防ぐことができ、より清潔な環境を作り出すことができる。
【0026】
また、本発明に係る光触媒機能を有する多機能材は、病院内における細菌の感染防止器材として利用されるが、その他有機物を分解できるので抗カビ、抗ウイルス器材として利用できる。
【0027】
また、本発明に係る光触媒機能を有する多機能材の製造方法は、セラミック、樹脂或いは金属製等の基材上に熱可塑性材料からなるバインダー層を形成し、次いで、このバインダー層の上に光触媒粒子からなる光触媒層を形成し、この後、前記バインダー層を軟化させて光触媒層の下層の一部をバインダー層に埋設し、次いで固化する。ここで、バインダー層の粘性が高すぎるとバインダー層と光触媒粒子が充分に結合せず、逆に粘性が低すぎるとバインダー層内に光触媒粒子が埋まってしまい、それが局所的に生じると菌が滞留するようになるので抗菌性が著しく悪化してしまうので、これらを考慮してバインダー層の軟化の度合いを決定する。
【0028】
また、本発明に係る光触媒機能を有する多機能材の別の製造方法は、熱可塑性材料からなるシート状バインダー層の上に光触媒粒子からなる光触媒層を形成し、このシート状バインダー層をセラミック、樹脂或いは金属製等の基材上に載置または貼着し、この後、前記バインダー層をを軟化させて光触媒層の下層の一部をバインダー層に埋設し、次いで固化する。この方法によれば、既存のタイル、衛生陶器、建材等に後から防臭性、防汚性、抗菌性、抗カビ性等の機能を付加す
ることができる。
【0029】
また、本発明に係る光触媒機能を有する多機能材の別の製造方法は、光触媒粒子の間隙にこの間隙よりも粒径の小さな粒子が充填され、光触媒粒子同士が互いに結合された光触媒機能を有する多機能材を製造する方法であって、この方法は、セラミック、樹脂或いは金属製等の基材上に熱可塑性材料からなるバインダー層を形成し、次いで、このバインダー層の上に光触媒粒子と前記粒径の小さな粒子をゾルまたは前駆体の状態で混合した混合物を塗布して光触媒層を形成し、この後、前記バインダー層を軟化させて光触媒層の下層の一部をバインダー層に埋設し、次いで固化する。この方法によれば、簡便であるとともに、予め間隙を埋める粒子と光触媒粒子をゾルまたは前駆体の状態で混合した混合物を塗布して光触媒層を形成するので、光触媒粒子と間隙を埋める粒子の混合比率を制御するのに便利である。
【0030】
また、本発明に係る光触媒機能を有する多機能材の別の製造方法は、光触媒粒子の間隙にこの間隙よりも粒径の小さな粒子が充填され、光触媒粒子同士が互いに結合された光触媒機能を有する多機能材を製造する方法であって、この方法は、熱可塑性材料からなるシート状バインダー層の上に、光触媒粒子と前記粒径の小さな粒子をゾルまたは前駆体の状態で混合した混合物を塗布して光触媒層を形成し、この光触媒層を形成したシート状バインダー層をセラミック、樹脂或いは金属製等の基材上に載置または貼着し、この後、前記バインダー層を軟化させて光触媒層の下層の一部をバインダー層に埋設し、次いで固化する。
【0031】
また、本発明に係る光触媒機能を有する多機能材の別の製造方法は、光触媒粒子の間隙にこの間隙よりも粒径の小さな粒子が充填され、光触媒粒子同士が互いに結合された光触媒機能を有する多機能材を製造する方法であって、この方法は、セラミック、樹脂或いは金属製等の基材上に熱可塑性材料からなるバインダー層を形成し、次いで、このバインダー層の上に光触媒粒子からなる光触媒層を形成し、この後、前記バインダー層を軟化させて光触媒層の下層の一部をバインダー層に埋設し、次いでバインダー層を固化せしめ、更に光触媒層に前記粒径の小さな粒子を含む溶液を塗布し、熱処理することで前記粒径の小さな粒子を光触媒粒子に固定化する。この方法は間隙を埋める粒子が酸化物である場合に比較的簡便に実施し得る方法であり、且つ比較的多孔質の光触媒層を作成した場合に間隙を埋める粒子を多量に付着させることができる。
【0032】
また、本発明に係る光触媒機能を有する多機能材の別の製造方法は、光触媒粒子の間隙にこの間隙よりも粒径の小さな粒子が充填され、光触媒粒子同士が互いに結合された光触媒機能を有する多機能材を製造する方法であって、この方法は、熱可塑性材料からなるシート状バインダー層の上に光触媒粒子からなる光触媒層を形成し、次いでこの光触媒層を形成したシート状バインダー層をセラミック、樹脂或いは金属製等の基材上に載置または貼着し、この後、前記バインダー層を軟化させて光触媒層の下層の一部をバインダー層に埋設し、次いでバインダー層を固化せしめ、更に光触媒層に前記粒径の小さな粒子を含む溶液を塗布し、熱処理することで前記粒径の小さな粒子を光触媒粒子に固定化する。
【0033】
また、本発明に係る光触媒機能を有する多機能材の別の製造方法は、光触媒粒子の間隙にこの間隙よりも粒径の小さな金属粒子が充填され、光触媒粒子同士が互いに結合された光触媒機能を有する多機能材を製造する方法であって、この方法は、セラミック、樹脂或いは金属製等の基材上に熱可塑性材料からなるバインダー層を形成し、次いで、このバインダー層の上に光触媒粒子からなる光触媒層を形成し、この後、前記バインダー層を軟化させて光触媒層の下層の一部をバインダー層に埋設し、次いでバインダー層を固化せしめ、更に光触媒層に前記粒径の小さな金属粒子のイオンを含む溶液を塗布し、この後紫外線を含む光を照射して金属イオンを還元して光触媒粒子に固定化することを特徴とする光触媒機能を有する多機能材の製造方法。この方法は、間隙を埋める粒子が金属である場合に比較的簡便に実施し得る方法であり、また金属の固定を極めて短時間(数分)で行うことができる。また、紫外線照射に用いるランプは、紫外線ランプ、BLBランプ、キセノン水銀灯、蛍光灯のいずれでもよい。
【0034】
また、本発明に係る光触媒機能を有する多機能材の別の製造方法は、光触媒粒子の間隙にこの間隙よりも粒径の小さな金属粒子が充填され、光触媒粒子同士が互いに結合された光触媒機能を有する多機能材を製造する方法であって、この方法は、熱可塑性材料からなるシート状バインダー層の上に光触媒粒子からなる光触媒層を形成し、次いでこの光触媒層を形成したシート状バインダー層をセラミック、樹脂或いは金属製等の基材上に載置または貼着し、この後、前記バインダー層を軟化させて光触媒層の下層の一部をバインダー層に埋設し、次いでバインダー層を固化せしめ、更に光触媒層に前記粒径の小さな金属粒子のイオンを含む溶液を塗布し、この後紫外線を含む光を照射して金属イオンを還元して光触媒粒子に固定化する。
【0035】
また、本発明に係る光触媒機能を有する多機能材の別の製造方法は、光触媒粒子の間隙にこの間隙よりも粒径の小さな金属粒子が充填され、光触媒粒子同士が互いに結合された光触媒機能を有する多機能材を製造する方法であって、この方法は、セラミック、樹脂或いは金属製等の基材上に熱可塑性材料からなるバインダー層を形成し、次いで、このバインダー層の上に光触媒粒子からなる光触媒層を形成し、この光触媒層に前記粒径の小さな金属粒子のイオンを含む溶液を塗布し、この後紫外線を含む光を照射して金属イオンを還元して光触媒粒子に固定化し、更に前記バインダー層を軟化させて光触媒層の下層の一部をバインダー層に埋設し、次いでバインダー層を固化せしめる。この方法によれば加熱処理工程を一回で済ますことができるので生産性が向上する。
【0036】
また、本発明に係る光触媒機能を有する多機能材の別の製造方法は、光触媒粒子の間隙にこの間隙よりも粒径の小さな金属粒子が充填され、光触媒粒子同士が互いに結合された光触媒機能を有する多機能材を製造する方法であって、この方法は、熱可塑性材料からなるシート状バインダー層の上に光触媒粒子からなる光触媒層を形成し、この光触媒層に前記粒径の小さな金属粒子のイオンを含む溶液を塗布し、この後紫外線を含む光を照射して金属イオンを還元して光触媒粒子に固定化し、更に光触媒層を形成したシート状バインダー層をセラミック、樹脂或いは金属製等の基材上に載置または貼着し、この後、前記バインダー層を軟化させて光触媒層の下層の一部をバインダー層に埋設し、次いでバインダー層を固化せしめる。
【0037】
前記光触媒粒子をZnOとし、この光触媒粒子の間隙に充填される金属粒子をAgまたはAg2Oとすることが可能である。ここで、AgまたはAg2O粒子は、光触媒であるZnO粒子同士の結合を強化するだけでなく、ZnOの光触媒効果を増進し、且つ自ら抗菌、防臭の効果も有する。またZnOを光触媒として選択することにより、Agイオンによる着色を解消することができ、基材の地の色、模様もしくはそれらの結合による意匠的効果を向上することができる。
【0038】
また、前記光触媒粒子の間隙に充填される金属のイオンとの間で不溶性で無色または白色の塩を形成する塩類を含む溶液を、光触媒層に接触しせしめ、この後紫外線を含む光を照射するようにしてもよい。このようにすることで、ZnOとAgまたはAg2Oの組合せによらなくても、間隙を埋める粒子によるによる着色を解消することができ、基材の地の色。模様もしくはそれらの結合による意匠的効果を向上することができる。
【0039】
また、前記光触媒粒子をTiO2とし、バインダー層を軟化せしめるための熱処理温度を800℃以上1000℃以下としてもよい。800℃以上ではTiO2粒子同士の間に初期焼結によるネック部が生成するため、TiO2粒子同士の結合強度が向上するが、1000℃を越えると、中期焼結過程に移行し、TiO2の固相焼結に伴う光触媒層の体積収縮が顕著になるためクラックが生じやすくなる。
【0040】
また、前記光触媒粒子をTiO2とし、この光触媒粒子の間隙に充填される金属粒子をAgとし、この金属のイオンとの間で不溶性で無色または白色の塩を形成する塩類を含む溶液をKI、KCl、FeCl3等のハロゲン化物水溶液としてもよい。Agはハロゲン化アルカリとの間にAgI、AgCl等の不溶性で無色または白色の塩を形成するので、基材の地の色、模様若しくはそれらの結合による意匠的な向上を図ることができる。
【0041】
また、前記バインダー層は基材の軟化温度よりも低い軟化温度を有するものを選定し、このバインダー層の軟化温度よりも20℃を越え320℃未満の範囲、好ましくは40℃以上300℃以下の範囲で且つ基材の軟化温度よりも低い雰囲気温度で加熱処理する。バインダー層の軟化温度よりも20℃高い温度よりも加熱処理温度が低いと、バインダー層の粘性が高すぎるためバインダー層と光触媒粒子が充分に結合せず、逆にバインダー層の軟化温度よりも320℃高い温度よりも加熱処理温度が高いと、バインダー層の粘性が低すぎバインダー層内に光触媒粒子が埋まってしまい、それが局所的に生じると、そこに菌が滞留する結果、抗菌性が落ちることになることによる。
【0042】
また、光触媒粒子をバインダー層上に塗布する工程の前工程として分散工程を備える場合には、この分散工程における光触媒粒子となるべきゾルまたは前駆体を溶液中に分散させるための分散剤には、バインダー層を軟化せしめるための熱処理温度より低温で気化する成分のみを使用するが好ましい。従来技術において、320℃未満で防臭性がなかったのは、分散工程においてTiO2粒子表面に付着した分散剤が充分に気化、蒸発せずに残留していたために、TiO2粒子表面が
基材最表面に充分に露出されず、光触媒機能が不充分になったためである。尚、低温で気化する分散剤としては、分子量が1万以下である有機分散剤、リン酸系分散剤が好ましい。
【0043】
更に、光触媒粒子の比重をδt、前記バインダー層の比重をδbとした場合、0≦δt−δb≦3.0であることをが好ましい。比重差が小さすぎると、バインダー層に光触媒粒子が充分に埋設されずバインダー層と光触媒粒子が充分に結合せず、比重差が大きすぎると、バインダー層内に光触媒粒子が埋まってしまい、それが局所的に生じると、底に菌が滞留して抗菌性が低下するためである。尚、この方法の応用手法として、δt−δb>3.0にしなければならない場合でも、バインダー層と光触媒粒子との間に0≦δt−δb≦3.0である第2のバインダー層を介在せしめればよい。またδt−δb<0のときには、加熱処理時に加圧すれば比重差δt−δbを増すのと同様の効果がある。したがって、HIP処理、ホットプレス処理により、0≦δt−δb≦3.0のときと同様の効果が得られる。
【0044】
(作用)
光触媒層を構成する光触媒粒子のうちバインダー層側の下層を構成する光触媒粒子はその一部がバインダー層内に埋まった状態で保持され、光触媒層のうち外気に接する表層を構成する光触媒粒子は実質的にその表面が外部に露出した状態で粒子同士が互いに結合しているので、光触媒効果を充分に発揮することになる

【発明の効果】
【0045】
以上の説明から明らかなように本発明によれば、基材の軟化温度よりも低い材料からなるバインダ層を介して光触媒粒子を固定するようにし、特に光触媒層の表層部を構成する光触媒粒子はバインダ層に埋もれないようにしたので、光触媒粒子は実質的にその表面が外部に露出した状態となり、光触媒効果を充分に発揮することができる。また、光触媒粒子のうち光触媒層の下層を構成する粒子はその一部がバインダ層内に埋設されるので、光触媒層の保持力が大幅に向上し、剥離等が生じにくくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下に本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。ここで、図1は本発明に係る光触媒機能を有する多機能材の製造方法を説明した図、図2は図1(d)の要部拡大図であり、本発明にあっては先ず同図(a)に示すように、基材1を用意する。基材1としてはセラミック、樹脂、金属、ガラス或いは木材等が考えられる。
【0047】
そして、同図(b)に示すように基材1の表面にバインダー層2を形成する。バインダー層2としてはその軟化温度が基材1の軟化温度よりも低い材料からなるものを選定する。一例を挙げれば、前記基材1がタイル、ホーローまたは陶磁器である場合には、バインダー層2としては釉薬層または印刷層をそのまま利用することができる。
【0048】
次いで、同図(c)に示すようにバインダー層2の上にTiO2粒子等の光触媒粒子からなる光触媒層3を形成する。この時、光触媒層3は後の焼成の際にバインダー層2から落ちない程度の結合力でもってバインダー層2に載っていればよい。
【0049】
あるいは、基材1の表面にバインダー層2を形成する前に同図(b’)に示すようにバインダー層2上に光触媒層3を形成しておき、このバインダー層2を基材1上に載置するようにしてもよい。
【0050】
この後、バインダー層2の軟化温度よりも20℃を越え320℃未満の範囲で高く且つ基材1の軟化温度よりも低い雰囲気温度で加熱処理することで、同図(d)及び図2に示すように、光触媒層3のうち前記バインダー層側の下層を構成する光触媒粒子3aは溶融したバインダー層にその一部が沈降しバインダー層が凝固することで当該一部がバインダー層内に埋まり、強固に保持される。また、光触媒層3のうち外気に接する表層を構成する光触媒粒子3bは相互間の分子間力や焼成による焼結によって図3(a)に示すようにその一部は結合し、また他の部分では図3(b)に示すように離れている。即ち、実質的に表層において光触媒粒子3bの表面は外部に露出している。
【0051】
ここで、加熱処理温度をバインダー層2の軟化温度よりも20℃を越え320℃未満の範囲で高くしたのは、20℃未満であると、バインダー層の軟化に時間がかかり且つ光触媒粒子3aの保持が充分になされず、一方320℃を越えると、バインダー層の急激な溶融により光触媒粒子のバインダー層内への埋まりや凹凸面の発生、更には切れやピンホールが発生することにより、望ましくは40℃以上300℃以下とする。
【0052】
また、光触媒粒子の比重をδt、バインダー層2の比重をδbとした場合、0≦δt−δb≦3.0好ましくは0.5≦δt−δb≦2.0の関係になるようにする。これは、光触媒粒子とバインダー層との比重差があまり小さいとバインダー層を溶融させた場合に光触媒粒子のバインダー層内での垂直方向の移動速度が遅くなり焼成後に光触媒粒子が剥離しやすくなり、光触媒粒子とバインダー層との比重差が大きすぎると光触媒粒子の垂直方向の移動速度が増し、殆どの光触媒粒子がバインダー層中に埋ってしまうそれがあるからである。また、バインダー層2から露出する部分を構成する光触媒粒子の間隙、具体的には図3(a)に示す光触媒粒子3bのネック部、或いは図3(b)に示す光触媒粒子3bの間に、当該間隙よりも粒径の小さな粒子3c(Sn、Ti、Ag、Cu、Zn、Fe、Pt、Co、Pd、Ni等の金属または酸化物等)を光触媒粒子3b同士を結合するために充填してもよい。
【実施例】
【0053】
以下に具体的な実施例を挙げる。
(実施例1)150角の陶磁器タイル基材の表面に、SiO2−Al2O3−Na/K2Oフリットからなるバインダー層をスプレー・コーティング法により形成し乾燥した後、15%のTiO2ゾル水溶液をスプレー・コーティング法により塗布し、膜厚が0.8μmのTiO2層を形成し、次いで、バインダー層とTiO2層が積層された基材をローラーハースキルンにて雰囲気温度を実施例毎に異ならせて加熱焼成した後、冷却固化して多機能材を得た。ここでTiO2ゾル水溶液とは、例えばTiClをオートクレーブ中100〜200℃の範囲の水熱条件下で加水分解して得られた結晶子径0.007〜0.2μm程度のアナターゼ型TiO2をゾル状態で硝酸、塩酸等の酸性水溶液またはアンモニア等の塩基性水溶液中に、数%〜数十%分散させたもので、分散性を向上させるために表面処理剤としてトリエタノールアミン及びトリメチロールアミンの有機酸塩、ペンタエリトリット、トリメチロールプロパン等を0.5%以下の範囲で添加したものである。尚、TiO2ゾルの粒径はSEM観察の画像処理により、結晶子径は粉末X線回析の積分幅からけいさんした。また、塗布方法はスプレー・コーティング法で行ったが、ディップ・コーティング法、スピン・コーティング法でも同様な結果が得られると予想される。得られた多機能材について抗菌性及び耐摩耗性についての評価を行った。抗菌性については大腸菌(Escherichia coli W3110株)に対する殺菌効果を試験した。予め、70%エタノールで殺菌した多機能材の最表面に菌液0.15ml(1〜5×104CFU)を滴下し、ガラス板(10×10cm)に載せて基材最表面に密着させ、試料とした。 白色灯(3500ルクス)を30分間照射した後、照射した試料と遮光条件下に維持した試料の菌液を滅菌ガーゼで拭いて生理食塩水10mlに回収し、菌の生存率を求め、評価の指標とした。耐摩耗性についてはプラスチック消しゴムを用いた摺動摩耗を行い、外観の変化を比較し評価した。以下の(表1)に基材として陶磁器タイル、バインダーにSiO2−Al2O3−Na/K2Oフリットを用いた時の焼成温度の変化に伴う抗菌性、耐摩耗性の変化を示す。
【0054】
【表1】

【0055】
ここで、バインダーとして用いたSiO2−Al2O3−Na/K2Oフリットの比重は2.4、塗布した時の膜厚は200μm、軟化温度は680℃であった。また(表1)において得られたTiO2はNo.1〜3についてはアナターゼ型であり、比重は3.9、No.4,5についてはルチル型であり、比重は4.2であった。
【0056】
(表1)において、No.1は焼成温度がバインダーの軟化温度よりも20℃しか高くなく、バインダーの粘性が充分に低くならなかったために、光触媒層の最下層を構成するアナターゼ型TiO2粒子がバインダー層中に充分埋設されず、そのため耐摩耗性試験において5〜10回の摺動で傷が入り、剥離してしまった。また抗菌性に関しては光触媒活性に優れるアナターゼ型であること、および300℃以上ではTiO2ゾルのTGーDTA観察上有機成分はほぼ分解、気化しており、TiO2表面に付着した表面処理剤等の分散剤は帰化していると解されるが、焼成温度が700℃でそれよりはるかに高い処理温度であることより、++という優れた値となった。
【0057】
No.3〜5は焼成温度が800℃以上1000℃以下の場合であるが、いずれも耐久性は、40回以上の摺動試験でも変化なく、極めて優れたものとなった。この原因としては、表面のTiO2粒子の初期焼成に伴うネック部の生成が考えられる。また1100℃で処理した場合は、冷却固化後ローラハースキルンより取り出した多機能材表面のTiO2層にクラックが生じていた。これはTiO2テストピースのTMA測定から判断して、TiO2粒子の顕著な体積収縮を伴う中期焼結
によるものと考えられる。
【0058】
No.4,5では抗菌性がいずれも−と悪くなった。これには2つの原因が考えられる。1つはTiO2粒子がルチル型に相転移していることであり、もう1つは焼成温度がバインダーの軟化温度よりも300℃を越えて高く、バインダーの粘性が低くなりすぎて光触媒層を構成するTiO2粒子がバインダー層中に埋設されてしまったことが考えられる。ここで、TiO2粒子がルチル型に相転移していることだけが原因だと考えることはできない。ルチル型TiO2においても、アナターゼ型TiO2には劣るものの、光触媒活性は若干あるからである。例えば多孔質アルミナ基材に直接TiO2ゾルをスプレーコートし、950℃で焼成後、冷却固化した資料の抗菌性は+であった。従って焼成温度がバインダーの軟化温度よりも300℃を越えて高く、バインダーの粘性が低くなりすぎて、光触媒層を構成するTiO2粒子がバインダー層中に埋設されてしまったことも一因をなしていると解される。
【0059】
また、試料の断面方向のEPMA等によるTiおよびSi(バインダーの主成分)の元素分析により、TiとSiの混在した層が観察され、光触媒粒子であるTiO2が埋設されていることが確認された。
【0060】
以上の実施例1、つまり少なくとも光触媒がTiO2、バインダー層がSiO2−Al2O3−Na/K2Oフリットのときには以下のことが確認された。 焼成温度がバインダーの軟化温度よりも20℃を越えて高く、300℃を越えて高くない条件で多機能材を製造した時、抗菌性も耐摩耗性もともに良好な多機能材を製作できる。その原因は前記温度範囲においてバインダーの粘性がTiO2がバインダー層中に適度に埋設され得る値に調整されるためと考えられる。 で作製した多機能材は、TiO2粒子のバインダー層への埋設が確認された。 焼成温度が800℃以上1000℃以下の場合には、いずれも耐摩耗性は、40回以上の摺動試験でも変化なく、極めて優れたものとなった。TiO2粒子間のネック部生成に伴う強固な結合によると考えられる。
【0061】
(実施例2)100×100×5のアルミナ基材(アルミナ純度96%)の表面に、SiO2−Al2O3−PbOフリットからなるバインダー層をスプレー・コーティング法により形成し乾燥した後、15%のTiO2ゾル水溶液(実施例1と同じ)をスプレー・コーティング法により塗布し、膜厚が0.8μmのTiO2層を形成し、次いで、バインダー層とTiO2層が積層された基材をローラーハースキルンにて雰囲気温度を実施例毎に異ならせて加熱焼成した後、冷却固化して多機能
材を得た。
【0062】
以下の(表2)に基材としてアルミナ、バインダーにSiO2−Al2O3−PbOフリットを用いた時の焼成温度の変化に伴う抗菌性、耐摩耗性の変化を示す。
【0063】
【表2】

【0064】
ここで、バインダーとして用いたSiO2−Al2O3−PbOフリットの軟化温度は540℃、比重は3.8、塗布した時の膜厚は150μmであった。また得られたTiO2の結晶型はすべてアナターゼ型であった。
【0065】
(表2)の耐摩耗性試験において、No.6は10回以下の摺動で傷が入り、剥離してしまったが、No.7,8は10回以上の摺動でも傷が入らず、更に、No.9,10は40回以上の摺動でも傷が入らないという良好な結果が得られた。
【0066】
No.9,10で40回以上の摺動でも傷が入らなかったのは、焼成温度が800℃以上であるため、TiO2粒子間にネックが生成し、TiO2粒子同士が強固に結合したためと考えられる。No.6で10回以下の摺動で傷が入り、剥離してしまったのは、焼成温度がバインダーの軟化温度よりも20℃しか高くなく、バインダーの粘性が充分に低くならなかったために、光触媒層の最下層を構成するアナターゼ型TiO2粒子がバインダー層中に充分埋設されなかったためと考えられる。それに対し、No.7,8で10回以上の摺動でも傷が入らなかったのは、ネック部が生成される温度には至らないものの焼成温度とバインダーの軟化温度との差が、バインダーの粘性をTiO2がバインダー層中に適度に埋設され得る値に調整されたからと考えられる。一方、(表2)の抗菌性試験において、No.6〜9は+++または++と良好な結果を得たが、No.10は+になった。これは焼成温度がバインダーの軟化温度よりも320℃も高く、バインダーの粘性が低くなりすぎて、光触媒層を構成するTiO2粒子がバインダー層中に埋設されてしまったためと考えられる。
【0067】
(実施例3)SiO2−Al2O3−BaOフリットを型内で溶融市冷却固化させた後、加工して100×100×1のガラスシートを作製し、その上に15%のTiO2ゾル水溶液(実施例1と同じ)をスプレー・コーティング法により塗布し、膜厚が0.8μmのTiO2層を形成した。その後、ガラスシートをアルミナ基材(100×100×5)に載せ、シリコニット炉で雰囲気温度を実施例毎に異ならせて加熱焼成した後、冷却固化して多機能材を得た。
【0068】
以下の(表3)に上記の多機能材の焼成温度の変化に伴う抗菌性、耐摩耗性の変化を示す。
【0069】
【表3】

【0070】
ここで、バインダーとして用いたSiO2−Al2O3−BaOフリットの軟化温度は620℃、比重は2.8、多機能材上のTiO2の結晶型はNo.11〜13はアナターゼ型、No.14はルチル型であった。
【0071】
(表3)の耐摩耗性試験において、No.11は10回以下の摺動で傷が入り、剥離してしまったが、No.12は10回以上の摺動でも傷が入らず、更に、No.13,14は40回以上の摺動でも傷が入らないという良好な結果が得られた。
【0072】
No.13,14で40回以上の摺動でも傷が入らなかったのは、焼成温度が800℃以上であるため、TiO2粒子間にネックが生成し、TiO2粒子同士が強固に結合したためと考えられる。No.11で10回以下の摺動で傷が入り、剥離してしまったのは、焼成温度がバインダーの軟化温度よりも20℃しか高くなく、バインダーの粘性が充分に低くならなかったために、光触媒層の最下層を構成するアナターゼ型TiO2粒子がバインダー層中に充分埋設されなかったためと考えられる。それに対し、No.12で10回以上の摺動でも傷が入らなかったのは、ネック部が生成される温度には至らないものの焼成温度とバインダーの軟化温度との差が、バインダーの粘性をTiO2がバインダー層中に適度に埋設され得る値に調整されたからと考えられる。一方、(表3)の抗菌性試験において、No.11〜13は+++または++と良好な結果を得たが、No.14は−になった。これはTiO2がルチル型であることと、焼成温度がバインダーの軟化温度よりも320℃も高く、バインダーの粘性が低くなりすぎて、光触媒層を構成するTiO2粒子がバインダー層中に埋設されてしまったことの2つの原因によると考えられる。
【0073】
以上のことから、バインダーに予めTiO2粒子を塗布後、基材に貼着し焼成して多機能材を得る方法においても、基材表面にバインダーを塗布し、その後TiO2粒子を塗布して多機能材を得る方法と同様の効果が得られることが確認された。
【0074】
(実施例4)100×100×5のポリイミド系樹脂からなる基材の表面に、アクリル樹脂バインダーを塗布後、15%TiO2ゾル水溶液をスプレー・コーティング法により塗布し、膜厚が0.8μmのTiO2層を形成し、次いでバインダー層とTiO2層が積層された基材をニクロム炉にて150℃で焼成し多機能材を得た。
【0075】
以下の(表4)に上記の多機能材の焼成温度の変化に伴う抗菌性、耐摩耗性の変化を示す。
【0076】
【表4】

【0077】
尚、(表4)において、15%TiO2ゾル水溶液の調整方法は下記のように変化させた。 No.15:実施例1使用の15%TiO2ゾル水溶液をそのまま用いた。 No.16:TiCl水溶液をオートクレーブ中110〜150℃で加水分解後、生成物を硝酸にてpH0.8に調整して表面改質剤を用いずに分散させ、次いで凝集物を除去したものを用いた。この場合スプレー・コーティングは凝集体除去後直ちに行った。
【0078】
ここで、TiO2の比重は3.9、結晶型はアナターゼ、アクリル樹脂の比重は0.9、ガラス軟化点に対応する粘性になる温度は70℃である。
【0079】
耐摩耗性に関しては、No.15,16のいずれかの条件でも10回以上の摺動でも傷がはいらなかった。このことは焼成温度とバインダーの軟化温度との差の範囲が、バインダーの粘性をTiO2がバインダー層中に適度に埋設されうる値に調整しうる値であったためと考えられる。
【0080】
一方、抗菌性試験に関してはNO.15は、−になったが、NO.16は++と良好な結果を得たことで、30℃未満においても抗菌性を有する多機能材が製造可能であることを見出だした。この違いはDTA−TGにおいて、NO.15のTiO2ゾルでは200〜350℃で分解、蒸発する成分があるが、NO.16では認められないことからTiO2を覆う有機成分の有無が原因となっていると考えられる。またここではアナターゼとアクリル樹脂の比重差は3だが、この程度の差であれば光触媒層を構成するTiO2粒子がバインダー層中に埋設されることなく良好な抗菌性を有することも確認された。
【0081】
(実施例5)100×100×5のアルミナ基材の表面に、実施毎に比重の異なるフリット等からなるバインダー層をスプレー・コーティング法により成形後、乾燥後15%のTiO2ゾル水溶液をスプレー・コーティング法により膜厚0.8μmのTiO2層を形成し、次いでバインダー層とTiO2が積層された基材をローラーハースキルンにて雰囲気温度を750℃として加熱焼成後冷却固化して多機能材を得た。
【0082】
以下の(表5)に上記の多機能材の焼成温度の変化に伴う抗菌性、耐摩耗性の変化を示す。
【0083】
【表5】

【0084】
抗菌性試験に関してはNO.17〜20のいずれも+++と良好な結果を得た。いずれにおいても焼成温度がバインダーの軟化温度よりも30℃以上300℃以下の範囲で高く、焼成温度とバインダーの軟化温度との差の範囲が、バインダーの粘性をTiO2がバインダー層中に適度に埋設され得る値に調整された値であったためと考えられる。
【0085】
耐摩耗性に関しては、NO.17は、5回以下の摺動で傷が入り、剥離してしまったが、NO.18〜20は10回以上の摺動でも傷が入らなかった。その原因としては、NO.17では他と異なり、バインダーの比重の方がTiO2の比重よりも大きいため、光触媒層の最下層を構成するアナターゼ型TiO2粒子がバインダー層中に充分埋設されなっかたためと考えられる。したがって、多機能材の耐摩耗性には、TiO2とバインダーとの比重も影響し、バインダーの比重の方がTiO2の比重よりも大きいと悪化することが判明した。
【0086】
(実施例6)150角の陶器質タイル基材の表面にSiO2−Al2O3−BaOフリット(軟化温度620℃)からなるバインダー層を形成し、その上にTiO2ゾルとSnO2ゾルを混合、攪拌した水溶液をスプレー・コーティング法にて塗布後、750℃にて焼成し冷却固化して多機能材を得た。なおTiO2ゾル濃度は4〜6wt%でNH3水溶液でPH11に調整され、TiO2粒子の結晶子径は0.01μmであり、SnO2粒子の結晶子経は、0.0035μmである。
【0087】
こうして作製した多機能材についてTiO2に対するSnO2量(モル比)を種々に変化させたときの抗菌性試験および耐摩耗性試験を行った結果を以下の(表6)に示す。
【0088】
【表6】

【0089】
耐摩耗性試験についてはSnO2の量の増加に伴って向上し、10%以上の添加により、40回の摺動試験においても傷が入ることもなく、変化も生じなくなった。抗菌性試験については20%以上までの範囲ならば、無添加のときと同様に+++であり、60%までならば++で止った。それ以上加えると、基材表面のTiO2粒子を覆う確率が高くなり、抗菌性は悪化し、100%では−となった。したがってSnO2の添加量をモル比でTiO2量の10%以上60%以下、好ましくは10%以上20%以下にすれば抗菌性にも耐摩耗性にも優れた多機能材を提供できる。
【0090】
ここで耐摩耗性がSnO2の量の増加に伴い向上するのは以下に示す機構による。即ち、SnO2はTiO2よりも600℃以上の高温では蒸気圧が高いため、焼結前にあってはTiO2粒子3bの間隔は図4(a)に示すようにLOであるが、TiO2粒子3の正の曲率をもつ表面では蒸気圧が高く、負の曲率をもつ表面、つまり2つのTiO2粒子3bが当接するネック部の表面は蒸気圧が低くなる。その結果、図4(b)に示すようにネック部にはTiO2よりも蒸気圧が高いSnO2が入り込み、図4(c)に示すように凝縮し、気化−凝縮機構によって焼結が行われている。そして、気化−凝縮機構によって焼結が行われると、焼結後のTiO2粒子の間隔L2は焼結前の間隔LOと略等しいため、クラック等は発生しない。このように基材表面にバインダーを介してTiO2粒子層が保持された複合部材において、最表面に露出しTiO2粒子の間隙にSnO2粒子を充填して600℃以上で焼成すれば、クラックを発生することなく、TiO2粒子間のネック部を結合することができるので、耐摩耗特性が向上する。
【0091】
(比較例7)実施例6と同様に150角の陶器質タイル基材の表面にSiO2−Al2O3−BaOフリット(軟化温度620℃)からなるバインダー層を形成し、その上にTiO2ゾルとSiO2ゾルを混合、攪拌した水溶液をスプレー・コーティング法にて塗布後、750℃にて焼成し冷却固化して多機能材を得た。なおTiO2ゾル濃度は4〜6wt%でNH3水溶液でPH11に調整され、粒子の結晶子径は実施例6と同様に0.01μmであるが、SnO2粒子の結晶子径は0.008μmとやや大きい粒子を用いた。
【0092】
こうして作製した多機能材について抗菌性試験および耐摩耗性試験を行い、実施例6と比較した結果を以下の(表7)に示す。
【0093】
【表7】

【0094】
その結果、0.008μmのSnO2粒子の耐摩耗性向上の効果は、0.0035μmのSnO2粒子を用いた場合よりも弱く、TiO2粒子に対するモル比が60%以上でようやく40回の摺動試験においても傷が入ることもなく、変化も生じなくなった。抗菌性試験については0.0035μmのSnO2粒子を用いた場合と同様に、20%以上までの範囲ならば、無添加のときと同様に+++であり、60%以下ならば++で止った。それ以上加わると、基材表面のTiO2粒子を覆う確率が高くなり、抗菌性は悪化し、100%では−となった。したがって0.01μmのTiO2粒子を用いた場合には0.008μmのSnO2粒子を添加して抗菌性にも耐摩耗性にも優れた多機能材を提供するのは困難である。この原因としてはSnO2粒子の蒸気圧は粒経が大きくなると小さくなること、気化せずに残存するSnO2粒子が0.0035μmの場合はTiO2粒子間の間隙に存在し、結合強度を向上し得たのに対し、0.008μmではTiO2粒子間の間隙と比較してSnO2粒子が大きいために、SnO2粒子が間隙に入れず、むしろTiO2粒子上にくる確率が高くなっているためと考えられる。以上のことからTiO2粒子の間隙を埋めるべきSnO2粒子の大きさは、TiO2粒子径に対し、4/5未満であることが好ましい。
【0095】
(実施例8)150角の陶器質タイル基材の表面に、SnO2−Al2O3−BaOフリット(軟化温度620℃)からなるバインダー層を形成し、その上にTiO2ゾル水溶液をスプレー・コーティング法にて塗布後、750℃にて焼成し冷却固化した複合部材に、SnO2ゾル水溶液をスプレー・コーティング法にて塗布後、110℃で熱処理し多機能材を得た。このときTiO2ゾル水溶液には実施例6と同じものを用い、SnO2ゾルには0.0035μmの方を用いた。
【0096】
こうして作製した多機能材について抗菌製試験および耐摩耗性試験を行った結果を以下の(表8)に示す。
【0097】
【表8】

【0098】
耐摩耗性試験についてはSnO2の量の増加に伴って向上し、モル比20%以上の添加により、40回摺動試験においても傷が入ることもなく、変化も生じなくなった。抗菌性試験については20%以上までの範囲ならば、無添加のときと同様に+++であり、60%までならば++で止った。それ以上加わると、基材表面のTiO2粒子を覆う確率が高くなり、抗菌性は悪化し、100%では−となった。本試験ではSnO2ゾルは110℃という低温で熱処理しているので、実施例6で示した気化−凝縮機構による焼結は生じない。にもかかわらず耐摩耗性が向上したが、これはTiO2粒子よりも粒径が小さい、すなわち比表面積が大きく吸着力に優れるSnO2粒子がTiO2粒子の間隙を埋めたことにより、TiO2粒子同士の結合が強化されたためと考えられる。
【0099】
(実施例9)150角の陶器質タイル基材の表面に、SiO2−Al2O3−BaOフリット(軟化温度620℃)からなるバインダー層を形成し、その上にTiO2ゾル水溶液をスプレー・コーティング法にて塗布後、750℃にて焼成し冷却固化した複合部材に、酢酸銅水溶液を塗布し乾燥させ、その後紫外線を含む光を照射して銅イオンを還元しつつ光触媒層に固定し、多機能材を得た。ここで照射ランプには水銀灯ランプを用いた。ここで光触媒層に固定されたCu粒子の大きさは平均0.004μm程度であった。
【0100】
こうして作製した多機能材について抗菌性試験および耐摩耗性試験を行った結果を(表9)に示す。
【0101】
【表9】

【0102】
耐摩耗性試験についてはCu量の増加に伴って向上し、モル比20%以上の添加により、40回の摺動試験においても傷が入ることもなく、変化も生じなくなった。抗菌性試験については20%以上までの範囲ならば、無添加のときと同様に+++であった。Cuの場合はそれ自体抗菌力を有するので、多量添加することによる抗菌性の悪化は認められなかった。しかしおそらくCuの添加量が少量のときはTiO2粒子層による光触媒作用が支配的であり、Cuの添加量が多量のときはCuによる作用が支配的であると考えてよいだろう。Cuのみの作用に期待する場合、Cuは液体中で用いたときは徐々に溶出するので、光触媒のない場合と比較して寿命が短いと考えられる。またCuの添加量が多量になるとその分コスト高にもなる。したがってCu量をあまり多量に設定することは意味がないと思われる。この実施例によりSnO2のような酸化物だけでなく、Cuのような金属もTiO2粒子層の間隙を埋める粒子となり得ることが確認された。
【0103】
(実施例10)150角の陶器質タイル基材の表面に、SiO2−Al2O3−BaOフリット(軟化温度620℃)からなるバインダー層を形成し、その上にTiO2ゾル水溶液をスプレー・コーティング法にて塗布後、950℃にて焼成し冷却固化した複合部材に、酢酸銅水溶液を塗布し、その後紫外線を含む光を照射して銅イオンを還元しつつ光触媒層に固定し多機能材を得た。このとき照射ランプにはBLBランプを用い、数分間照射した。TiO2は熱処理の工程でアナターゼからルチルに相転移した。TiO2の膜厚はスプレー・コーティングの際に0.4μmに調整した。
【0104】
こうして作製した多機能材について抗菌性試験および耐摩耗性試験を行った。耐摩耗性試験については、無添加でもこの温度域では良好な結果を示す。Cuを添加しても無添加のときと同様に40回の摺動試験においても傷が入ることもなく、変化を生じなかった。抗菌性試験については図5に示す。無添加のときはTiO2がルチルのため+と悪い。それにCuを添加していく抗菌性が増した。そしてBLBランプ照射時のみならず、照射していない時もCu担持量が0.7μg/cm2以上になれば抗菌活性が++となり、Cu担持量が1.2μg/cm2以上になれば抗菌活性が+++となる。以上のことから抗菌性にも耐摩耗性にも優れた多機能材を提供するには、Cu担持量が0.7μg/cm2以上がよく、より好ましくは1.2μg/cm2以上がよい。
【0105】
ところでCu担持量は酢酸銅水溶液塗布後BLBランプ照射前に乾燥工程を入れると飛躍的に向上する。その関係については図6に示す。これは乾燥させた場合の方が光還元するときの金属イオン濃度が高いからと考えられる。
【0106】
またCu担持量はCu塗布量を最適にしたときに最大となる(図7、図7はCu濃度1wt%の酢酸銅の例)、この図7の場合、塗布量を0.7μg/cm2以上にするには0.2mg/cm2以上2.7mg/cm2以下に、1.2μg/cm2以上にするには0.3mg/cm2以上2.4mg/cm2以下にすればよい。
【0107】
(実施例11)150角の陶器質タイル基材の表面に、SiO2−Al2O3−BaOフリット(軟化温度680℃)からなるバインダー層を形成し、その上にTiO2ゾル水溶液をスプレー・コーティング法にて塗布後、950℃にて焼成し冷却固化した複合部材に、硝酸銀水溶液を塗布、乾燥し、その後紫外線を含む光を照射して銀イオンを還元しつつ光触媒層に固定し多機能材を得た。このとき照射ランプにはBLBランプを用い、数分間照射した。またTiO2は熱処理の工程でアナターゼからルチルに相転移した。TiO2の膜厚はスプレー・コーティングの際に0.4μmに調整した。
【0108】
こうして作製した多機能材について抗菌性試験および耐摩耗性試験を行った。耐摩耗性試験については、無添加でもこの温度域では良好な結果を示す。Agを添加しても無添加のときと同様に40回の摺動試験においても傷が入ることもなく、変化も生じなかった。
【0109】
抗菌性試験について図5に示す。無添加のときはTiO2がルチルのため+と悪い。それにAgを添加していくと抗菌性が増した。そしてBLBランプ照射時のみならず、照射していない時もAg担持量が0.05μg/cm2以上になれば抗菌活性が++となり、Ag担持量が0.1μg/cm2以上になれば抗菌活性が+++となる。したがって抗菌性にも耐摩耗性にも優れた多機能材を提供するには、Ag担持量が0.05μg/cm2以上がよく、より好ましくは0.1μg/cm2以上がよい。ただしAg担持量が多いと茶色から黒色に着色され、外観上見栄えが悪い。しかしAg担持量が1μg/cm2以下ならば着色はない。以上のことからAg担持量は0.05μg/cm2以上1μg/cm2以下がよく、より好ましくは0.1μg/cm2以上1μg/cm2以下がよい。
【0110】
(実施例12)150角の陶器質タイル基材の表面に、SiO2−Al2O3−BaOフリット(軟化温度680℃)からなるバインダー層を形成し、その上にTiO2ゾル水溶液をスプレー・コーティング法にて塗布後、950℃にて焼成し冷却固化した複合部材に、硝酸銀水溶液を塗布、乾燥し、その後紫外線を含む光を照射して銀イオンを還元しつつ光触媒層に固定し多機能材を得た。このとき照射ランプにはBLBランプを用い、数分間照射した。またTiO2は熱処理の工程でアナターゼからルチルに相転移した。
【0111】
こうして作製した多機能材について、TiO2の膜厚を種々の値に変化させて耐摩耗試験、抗菌性試験および耐汚染性試験を行った。耐摩耗試験については今回試験した2μm以内の範囲ではいずれも良好な結果を示し、40回の摺動試験においても傷が入ることもなく、変化も生じなかった。抗菌性試験については膜厚0.1μm以上で++、0.2μm以上で+++となる。したがってTiO2の膜厚は0.1μm以上がよく、好ましくは0.2μm以上がよい。
【0112】
(実施例13)150角の陶器質タイル基材の表面に、SiO2−Al2O3−BaOフリット(軟化温度620℃)からなるバインダー層を形成し、その上に塩化亜鉛水溶液あるいはTiO2ゾル水溶液をスプレー・コーティング法にて塗布し乾燥後、硝酸銀水溶液を塗布し、その後紫外線を含む光を照射して銀イオンを還元しつつ光触媒層に固定した。その後900℃以上1000℃以下にて焼成し冷却固化し多機能材を得た。このとき照射ランプにはBLBランプを用い、数分間照射した。またTiO2は熱処理の工程でアナターゼからルチルに相転移した。また表面の固定されたAgは熱処理に伴い、茶黒色から白色に変化したことから、焼成中に酸化銀に変化したと考えられる。ただしAgの付着固定は離散的になされており、観察により焼成前後におけるAg粒子の成長はほとんど認められなかった。
【0113】
こうして作製した多機能材について抗菌性試験および耐摩耗性試験を行った。耐摩耗性試験については、無添加でもこの温度域では良好な結果を示す。Agを添加しても無添加のときと同様に40回の摺動試験においても傷が入ることもなく、変化も生じなくなった。抗菌性試験については図5に示す。無添加のときはTiO2がルチルのため+と悪い。それにAgを添加していくと抗菌性が増した。
【0114】
(実施例14)150角の陶器質タイル基材の表面に、SiO2−Al2O3−BaOフリット(軟化温度620℃)からなるバインダー層を形成し、その上にTiO2ゾル水溶液をスプレー・コーティング法にて塗布後、900℃以上1000℃以下にて焼成し冷却固化した複合部材に、硝酸銀水溶液を塗布し、その後紫外線を含む光を照射して銀イオンを還元しつつ光触媒層に固定し、さらにその上に0.1mol/lのKI水溶液を0.1cc/cm2の割合で塗布し、更に紫外線を5秒程度照射し多機能材を得た。その際Agの担持量は2μg/cm2とした。0.1mol/lのKI水溶液を0.1cc/cm2の割合で塗布し、更に紫外線を5秒程度照射したことにより、茶黒色だった多機能材は白色に脱色され、外観上の見栄えが向上した。
【0115】
(実施例15)150角の陶器質タイル基材の表面に、SiO2−Al2O3−BaOフリット(軟化温度620℃)からなるバインダー層を形成し、その上にTiO2ゾル水溶液をスプレー・コーティング法にて塗布後、820℃にて焼成し冷却固化して得た多機能材を傾斜させて配置し、紫外線を含む光を多機能材上に照射しながら、多機能材の上に公衆浴場で採取した風呂水を循環させながら、連続的に滴下し、風呂水の変化を観察した。同様の装置を比較のため、光触媒層を設けていない基材の上にも滴下した。14日後の観察では、前記多機能材上に滴下していた風呂水は光触媒層を設けていない基材の上に滴下していた風呂水と比較して、濁り具合には特異な差が認められないものの、どぶ水臭に差が認められた。すなわち光触媒層を設けていない基材の上に滴下していた風呂水ではかなり強いどぶ水臭が認めれ、また基材上にスライム状のぬめりおよび有機系沈殿物が観察されたのに対し、前記多機能材上に滴下していた風呂水ではそのいずれもが認められなかった。以上の模擬実験により、この多機能材は公園、デパート等にある水循環方式の人工的な滝や噴水の敷石として利用できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明に係る光触媒機能を有する多機能材の製造方法を説明した図
【図2】図1(d)の要部拡大図
【図3】TiO2粒子間の拡大図
【図4】(a)〜(c)はTiO2粒子の焼結の機構を説明した図
【図5】抗菌性試験についての試験結果を示すグラフ
【図6】BLBランプ照射前に乾燥工程を入れた場合のCu担持量についての試験結果を示すグラフ
【図7】Cu担持量とCu塗布量との関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0117】
1…基材、2…バインダー層、3…光触媒層、3a…光触媒層の
うバインダー層側の下層を構成する光触媒粒子、3b…光触媒層のうち外気に接
する表層を構成する光触媒粒子、3c…光触媒粒子同士を結合するために充填さ
れた粒子。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイル基材の表面に釉薬層を形成し、該釉薬層上にTiO2粒子からなる光触媒層を形成する多機能タイルであって、
前期光触媒層は、前記TiO2粒子が互いに結合されており、
前記TiO2粒子の比重をδt、前記釉薬層の比重をδbとした時に、
0≦(δt−δb)≦3.0
の関係を満たすことを特徴とする、多機能タイル。
【請求項2】
前記TiO2粒子の平均粒子径は0.3μm以下である、請求項1に記載の多機能タイル。
【請求項3】
前記TiO2粒子は、アナターゼ型TiO2である、請求項1に記載の多機能タイル。
【請求項4】
前記δtと前記δbは、
0.5≦(δt−δb)≦2.0
の関係を満たすことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の多機能タイル。
【請求項5】
釉薬層に光触媒層を備えた光触媒機能を有する多機能タイルの製造方法であって、
(1)タイル基材の表面に釉薬層を形成する工程
(2)前記釉薬層の上にTiO2粒子からなる光触媒層を形成する工程
(3)加熱処理する工程
を備え、かつ、前記TiO2粒子の比重をδt、前記釉薬層の比重をδbとした時に、
0≦(δt−δb)≦3.0
の関係を満たすことを特徴とする、多機能タイルの製造方法。
【請求項6】
前記光触媒はTiO2である、請求項5に記載の多機能タイルの製造方法。
【請求項7】
前記TiO2は、アナターゼ型TiO2である、請求項6に記載の多機能タイルの製造方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−21994(P2006−21994A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−232541(P2005−232541)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【分割の表示】特願2001−248877(P2001−248877)の分割
【原出願日】平成6年9月22日(1994.9.22)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】