説明

光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法

【課題】レーザー光により情報の記録、再生、記録および再生、さらに消去を行う光記録媒体の保護膜を形成するための異常放電発生の少ないスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】導電性酸化亜鉛粉末または酸化亜鉛粉末:10〜30モル%、酸化ガリウム粉末:1〜15モル%、酸化インジウム粉末:1〜15モル%、表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末:1〜5モル%を含有し、残部:硫化亜鉛粉末となるように配合し混合して得られた混合粉末をホットプレスすることを特徴とする光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザー光により情報の記録、再生、記録および再生、並びに消去を行う光記録媒体の保護膜を形成するための異常放電発生の少ないスパッタリングターゲット(以下、ターゲットと云う)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、上記の光ディスクなどの光記録媒体を構成する保護膜(下部保護膜および上部保護膜を含む。以下、同じ)はスパッタリングにより形成することが知られており、例えば、特許文献1には、二酸化珪素(SiO2):4〜20モル%、酸化亜鉛(ZnO):20〜35モル%を含有し、さらに必要に応じて、Al23、Ga23、TiO2、MgO、およびNb2のうちの1種または2種以上:0.5〜5モル%を含有し、残部が硫化亜鉛(ZnS)からなるからなる成分組成の光記録媒体保護層形成用ターゲットが記載されており、この光記録媒体保護層形成用ターゲットはSiO2粉末、ZnO粉末、Al23粉末、Ga23粉末、TiO2粉末、MgO粉末およびNb2粉末を前記組成となるように配合し混合したのち、ホットプレスすることにより製造することは知られている。
【0003】
さらに特許文献2には、硫化亜鉛を主成分とし、さらに酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛から選択した1種以上の導電性酸化物:1〜50ルモル%、さらに酸化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化ジルコニウム、酸化ゲルマニウム、酸化アンチモン、酸化ニオブから選択した1種以上の酸化物を導電性酸化物に対して質量換算で0.01〜20モル%含有し、さらに酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化燐、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の内の1種以上を二酸化珪素に対する質量比で0.1モル%以上含有する二酸化珪素を主成分としたガラス形成酸化物:1〜30モル%含有したターゲットが記載されている。ここで二酸化珪素をガラス形成酸化物として添加する理由は、二酸化珪素を単独で添加すると異常放電の起点となり易いが、二酸化珪素をガラス形成酸化物として含有させると異常放電がなくなるからであるとされている。
【特許文献1】特開2001−98361号公報
【特許文献2】特開2003−242684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の光記録媒体の高速記録化に伴い、光記録媒体の反射膜として熱伝導率が高くかつ反射率が高い特性を必要とすることから、Ag膜が使用されてきている。しかし、Agは硫黄による酸化(硫化)により変色しやすく、そのために反射率が低下しやすい特性を有しており、ZnSを主成分とする保護膜がAg反射膜に接して形成されている光記録媒体は高温高湿環境下に置かれるとAg反射膜は硫黄により腐食され、Ag反射膜の反射率が低下する。かかるAg反射膜の硫化による変色とそれに伴う反射率の低下を防止すべく反射膜を耐硫化性に優れた各種Ag合金膜からなる反射膜が提案されているが、十分に満足できるものではなかった。
【0005】
さらに、従来の二酸化珪素を主成分としたガラス形成酸化物粉末を添加した混合粉末をホットプレスしてターゲットを作製すると、二酸化珪素を主成分としたガラス形成酸化物粉末は軟化し易いから、特に密度を高める目的で高温高圧でホットプレスすると、ガラス形成酸化物は軟化してターゲットの断面組織において扁平状に変形し、スパッタ中にターゲットに割れが発生したり、異常放電を発生したりする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは上述の観点から高温高湿環境下に置かれてもAgまたはAg合金からなる反射膜が硫化して反射率が低下するのを防止すべく、さらにスパッタ中にターゲットの割れが発生したり異常放電が発生したりすることのない光記録媒体保護膜形成用のターゲットを得るべく研究を行った。その結果、
(イ)前記硫化に伴うAgまたはAg合金反射膜の反射率の低下は、スパッタ中にZnSが一部乖離して硫黄(S)が遊離することが原因であり、こうした遊離したSによる硫化を防止するには、硫化亜鉛粉末に対して、酸化亜鉛粉末:10〜30モル%と、酸化ガリウム粉末:1〜15モル%、酸化インジウム粉末:1〜15モル%および二酸化珪素粉末:1〜5モル%を共に添加し混合して得られた混合粉末をホットプレスすることにより作製したターゲットを用いて形成した保護膜が有効であること、

(ロ)この場合、原料粉末の二酸化珪素粉末として表面に疎水性を付与した二酸化珪素粉末を原料粉末として使用し、酸化亜鉛粉末:10〜30モル%と、酸化ガリウム粉末:1〜15モル%、酸化インジウム粉末:1〜15モル%および表面に疎水性を付与した二酸化珪素粉末:1〜5モル%を含有し、残部が硫化亜鉛粉末となるように配合し、通常の方法で混合した混合粉末をホットプレスして得られたターゲットはスパッタリングに際して異常放電の発生が少なくなる、
(ハ)特に、酸化ガリウム粉末は混合中に凝集して粗大化しやすく、この凝集して粗大化した酸化ガリウム粉末を含む混合粉末を用いて作製したターゲットを用いてスパッタリングを行うと異常放電が発生することがあり、この混合中に発生する酸化ガリウム粉末の粗大化を阻止するには、まず、酸化ガリウム粉末と表面に疎水性を付与した二酸化珪素粉末を混合して酸化ガリウム粉末が凝集することのない酸化ガリウム−二酸化珪素混合粉末を作製し、この酸化ガリウム−二酸化珪素混合粉末に前記酸化亜鉛粉末、酸化インジウム粉末および硫化亜鉛粉末を添加し混合して得られた混合粉末は酸化ガリウム粉末が凝集して粗大化することがないことから、この混合粉末をホットプレスすることにより得られたターゲットは、異常放電の発生が極めて少なくなること、
(ニ)前記表面に疎水性を付与した二酸化珪素粉末は高温火炎加水分解法で製造することによって、一層均一な粒径の表面に疎水性を付与した粉末を製造することができるため、この高温火炎加水分解法で製造した二酸化珪素粉末を用いることによりターゲットの結晶粒径を均一にすることができ、さらに異常放電の発生が少なくなること、などの知見を得たのである。
【0007】
この発明は、かかる知見に基づいて成されたものであって、

(1)酸化亜鉛粉末:10〜30モル%、酸化ガリウム粉末:1〜15モル%、酸化インジウム粉末:1〜15モル%、表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末:1〜5モル%を含有し、残部:硫化亜鉛粉末となるように配合し混合して得られた混合粉末をホットプレスする光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法、
(2)前記混合粉末は、まず、前記酸化ガリウム粉末と前記表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末を混合して得られた酸化ガリウム−二酸化珪素混合粉末を作製し、この酸化ガリウム−二酸化珪素混合粉末に前記酸化亜鉛粉末、酸化インジウム粉末および硫化亜鉛粉末を添加し混合して得られる混合粉末である前記(1)記載の光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法、に特徴を有するものである。
【0008】

本発明者らはさらに研究を行った結果、前記(1)記載の光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲットにさらに酸化アルミニウムを0.5〜5モル%含有させることによりターゲット自体の導電性をさらに高め、特に直流スパッタに際して異常放電の抑制効果をさらに発揮すること、この酸化アルミニウムは酸化亜鉛に固溶した導電性酸化物の状態でターゲットに含まれることが一層好ましいこと、などの知見が得られたのである。
この発明は、かかる知見に基づいてなされたものであって、
(3)酸化アルミニウムを0.5〜5モル%を含有する導電性酸化亜鉛粉末:10〜30モル%、酸化ガリウム粉末:1〜15モル%、酸化インジウム粉末:1〜15モル%、表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末:1〜5モル%、酸化アルミニウム粉末:0.05〜2モル%を含有し、残部:硫化亜鉛粉末となるように配合し混合して得られた混合粉末をホットプレスする光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法、
(4)前記混合粉末は、前記酸化ガリウム粉末と前記表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末を混合して得られた酸化ガリウム−二酸化珪素混合粉末を作製し、この酸化ガリウム−二酸化珪素混合粉末に前記導電性酸化亜鉛粉末、酸化インジウム粉末および硫化亜鉛粉末を添加し混合する前記(3)記載の光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法、に特徴を有するものである。
【0009】

前記表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末を酸化ガリウム粉末の表面に付着させると、酸化ガリウム粉末同士が反発しやすくなり、酸化ガリウムの凝集を防ぐことができる。二酸化珪素粉末の疎水化処理は、疎水基を有する有機珪素化合物を疎水化剤として用いるものであれば良い。一般に用いられている疎水化剤は二酸化珪素粉末表面の水酸基に何等かの形で結合してこれを封鎖し、かつ自身が疎水基を有する化合物であって、実用されているのは、疎水基を有するシランカップリング剤、シリル化剤などであり、具体的には、例えば、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルシラノール、トリメチルシランエトキシド、トリメチルシランメトキシドなどのオルガノシロキサンやオルガノポリシロキサンなどが好適に用いられる。疎水化処理の反応条件としては、通常、不活性ガス雰囲気下で60℃〜350℃の温度範囲で上記有機珪素化合物を二酸化珪素粉末に混合し10分〜4時間保持した後に乾燥し、未反応物および副生成物を除去する。不活性ガス雰囲気下で疎水化反応を行なわせることにより疎水化剤の酸化が防止される。また、二酸化珪素粉末を高温火炎加水分解法により製造することによって、一層均一微細な粒径を有する粉末を製造することが可能となる。高温火炎加水分解法とは、例えば、四塩化珪素ガスを酸素と水素の火炎中に通じ、高温下で加水分解させて二酸化珪素粉末を得る製造である。前述のように、表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末を製造するにはいろいろな方法が知られているが、この発明で使用する表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末は、高温火炎加水分解法により製造した表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末を用いることが最も好ましい。
【0010】

したがって、この発明は、

(5)前記表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末は、高温火炎加水分解法で製造された表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末である前記(1)、(2)、(3)または(4)記載の光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法、に特徴を有するものである。
【0011】

この発明の前記(1)および(2)記載の光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法で使用する原料粉末である酸化亜鉛粉末は平均粒径:1〜3μmを有し、酸化ガリウム粉末は平均粒径:1〜3μmを有し、酸化インジウム粉末は平均粒径:1〜3μmを有し、さらに硫化亜鉛粉末は平均粒径:3〜8μmを有することが好ましい。さらにこの発明の前記(3)および(4)記載の光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法で使用する原料粉末である酸化アルミニウムを0.5〜5モル%を含有する導電性酸化亜鉛粉末は平均粒径:0.2〜1μmを有することが好ましい。
【0012】

表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末は、ターゲットの組織においてその粒径が異常放電に大きく影響を及ぼし、微細であるほど異常放電の発生が少なくなる。したがって、表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末はBET値が90〜190以下の表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末を用いることが好ましい。
【0013】
この発明の光記録媒体保護膜形成用ターゲットを製造するに際して原料粉末の配合組成を上記の通りに限定した理由を説明する。
(a)酸化亜鉛粉末
酸化亜鉛は、硫化亜鉛とともにスパッタされ混合膜となると、スパッタ中にZnSの乖離から発生する遊離したSの拡散を抑制し、SとAgとの反応を抑制してAgまたはAg合金反射膜の硫化を抑制する作用を有し、さらに酸化亜鉛は真空または還元性雰囲気において容易に酸素欠損を生じ、電子を放出することにより導電性を付与する役割があり、高周波スパッタのみならず直流スパッタにも適用することを可能とし、さらにスパッタ中の成膜速度を高くすることができる作用を有するので添加するが、その含有量が10モル%未満では前記Sの拡散防止効果および導電性の付与効果がなく、一方、30モル%を越えて含有すると酸素欠損のムラが生じ、直流スパッタにおいて異常放電が生じ易くなるので好ましくない。したがって、酸化亜鉛の含有量を10〜30モル%にする必要があり、かかる酸化亜鉛含有量を有するターゲットを作製するためには混合粉末中に酸化亜鉛粉末を10〜30モル%配合させる必要がある。
【0014】
(b)酸化インジウム粉末
酸化インジウムは、酸化亜鉛とともに含有させると、スパッタ中にZnSの乖離から発生する遊離したSの拡散をより抑制し、SとAgとの反応をより抑制することによりAgまたはAg合金反射膜の硫化をより抑制するとともに、保護膜のアモルファス安定性に効果があるので添加するが、その含有量が1モル%未満では前記の効果が得られず、一方、15モル%を越えて含有すると密度ムラが生じ易くなるので好ましくない。したがって、酸化インジウムを1〜15モル%含有させる必要があり、かかる酸化インジウム含有量を有するターゲットを作製するには混合粉末中に酸化インジウム粉末を1〜15モル%含有させる必要がある。
【0015】
(c)酸化ガリウム粉末

酸化ガリウムは酸化インジウムと同様に酸化亜鉛とともに含有させることでスパッタ中にZnSの乖離から発生する遊離したSの拡散を抑制し、SとAgとの反応を抑制することによりAgまたはAg合金反射膜の硫化を抑制し、さらに酸化亜鉛との界面にて固溶体を形成してターゲットの耐スパッタ割れ性を向上させる作用を有するので添加するが、その含有量が1モル%未満では前記のいずれの効果も発揮できず、一方、15モル%を越えて含有すると密度ムラが生じ易くなるので好ましくない。したがって、酸化ガリウムを1〜15モル%含有させる必要があり、かかる酸化ガリウム含有量を有するターゲットを作製するには混合粉末中に酸化ガリウム粉末を1〜15モル%含有させる必要がある。
【0016】
(d)表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末

二酸化珪素は、硫化亜鉛との混合膜となることにより保護膜のアモルファス安定性を向上させる作用があるので1〜5モル%含有させる必要があり、さらに二酸化酸素粉末を表面に疎水性を付与させた状態で含有させることにより原料粉末の一つである酸化ガリウム粉末が原料粉末混合中に凝集して粗大化するのを阻止する作用がある。かかる作用を十分に行わせるためには混合粉末中に表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末を1〜5モル%含有させる必要がある。
【0017】
(e)導電性酸化亜鉛粉末
酸化アルミニウムは、ターゲット自身の導電性を高め、特に直流スパッタに際して異常放電の抑制効果をさらに発揮するので必要に応じて添加するが、その含有量は0.05モル%未満では十分な異常放電抑制効果を発揮することができず、一方、2モル%を越えて含有すると、保護膜の光学特性が損なわれるようになるので好ましくない。したがって、酸化アルミニウムの含有量は0.05〜2モル%の範囲内にあることが好ましいが、酸化アルミニウムは、酸化亜鉛に固溶することにより導電性酸化物となることから、酸化アルミニウムは酸化亜鉛に固溶した導電性酸化物の状態でターゲットに含有されていることが特に直流スパッタに際して一層好ましい。かかる酸化アルミニウムは酸化亜鉛に固溶した導電性酸化亜鉛はターゲット中に10〜30モル%含有させる必要があり、かかる導電性酸化亜鉛を10〜30モル%含有するターゲットを作製するためには混合粉末中に前記導電性酸化亜鉛粉末を10〜30モル%配合させる必要がある。
【発明の効果】
【0018】
この発明の製造方法によると、スパッタ中にターゲットが割れたり異常放電が発生したりすることがないので効率的に光記録媒体保護膜を作製することができ、また得られた光記録媒体保護膜はAgまたはAg合金からなる反射膜が硫化して反射率が低下するのを防止することができる光記録媒体保護膜形成用ターゲットを提供することができ優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の態様】
【0019】
つぎに、この発明の光記録媒体保護膜形成用ターゲットを実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも平均粒径:0.2μmを有する純度:99.99質量%以上のZnS粉末、純度:99.99質量%以上のZnO粉末、純度:99.9質量%以上のGa23粉末、純度:99.9質量%以上のIn23粉末を用意し、さらに高温火炎加水分解法で製造された日本アエロジル株式会社製の表面に疎水性が付与されたBET値:110を有するSiO2粉末(型番R972)を用意した。
さらにZnOにAl23が0.5モル%、1.0モル%および5モル%固溶した平均粒径がそれぞれ0.73μm、0.70μmおよび0.65μmを有する導電性酸化亜鉛粉末を用意した。

さらに、市販の合成石英からなるシリカ粉末(純度:99.9質量%、平均粒径:3μm)を用意した。
【0020】
実施例1
これら原料粉末を表1〜2に示される配合組成となるように秤量しジルコニアボールミルで3時間乾式混合した後、得られた混合粉末をホットプレス装置に充填し、雰囲気:1×10-2Torrの真空雰囲気、温度:1100℃、圧力:15MPa、保持時間:1.5時間保持の条件でホットプレスすることにより前記配合組成と同じ成分組成を有するホットプレス体を作製し、このホットプレス体を切削加工し、いずれも直径:154mm×厚さ:5mmの寸法をもったターゲットを作製することにより本発明法1〜5および比較法1〜6を実施した。
【0021】
本発明法1〜5および比較法1〜6で得られたターゲットを無酸素銅製の水冷バッキングプレートにハンダ付けした状態で、直流マグネトロンスパッタリング装置に装着し、まず装置内を真空排気装置にて1×10-6Torr以下に排気したのち、Arガスを導入して装置内雰囲気を1.5×10-3Torrのスパッタガス圧とした。また、厚さ:0.6mmのポリカーボネート基板をターゲットの間隔:70mmにて配置した。かかる状態で直流電源にてスパッタ電力:1kWを印加することにより前記ポリカーボネート基板表面に厚さ:50nmを有する光記録媒体保護膜を形成した保護膜成膜サンプルを作製した。
【0022】

この保護膜成膜サンプルの光記録媒体保護膜について、分光エリプソメーターを使用して波長:650nmにおける屈折率を測定し、この測定結果を表1に示すことにより光記録媒体保護膜の基本特性である屈折率を評価した。
【0023】
また、スパッタ中の放電の安定性を評価するために、前記光記録媒体保護膜の形成条件にて5時間連続スパッタし、旧ENI社 RPG50の装置を使用してスパッタ中の異常放電回数を測定し、その結果を表1に示した。
【0024】
次に、Nd:0.9質量モル%、Cu:1質量モル%、残部AgからなるAg合金ターゲットを用い、前記保護膜成膜サンプルの光記録媒体保護膜の上に膜厚:200nmのAg合金反射膜を成膜することにより保護膜−反射膜成膜サンプルを作製し、この保護膜−反射膜成膜サンプルを温度:80℃、湿度:85モル%の高温高湿槽に300時間保管し、ポリカーボネート基板側からAg合金反射膜の変色状態を目視にて観察し、変色がない場合を〇、一部変色がある場合を△、変色ありの場合を×として、その結果を表1に示した。
【0025】
従来例1

先に用意したZnS粉末、ZnO粉末およびGa23粉末およびシリカ粉末を使用して表2に示される割合の配合組成となるように秤量しジルコニアボールミルで3時間乾式混合した後、得られた混合粉末をホットプレス装置に充填し、以下実施例1と同じ条件で従来法を実施した。得られたターゲットを無酸素銅製の水冷バッキングプレートにハンダ付けした状態で、直流マグネトロンスパッタリング装置に装着し、まず装置内を真空排気装置にて1×10-6Torr以下に排気したのち、Arガスを導入して装置内雰囲気を1.5×10-3Torrのスパッタガス圧とした。また、厚さ:0.6mmのポリカーボネート基板をターゲットの間隔:70mmにて配置した。
かかる状態で直流電源にてスパッタ電力:1kWを印加することにより前記ポリカーボネート基板表面に厚さ:50nmを有する光記録媒体保護膜を形成した保護膜成膜サンプルを作製した。
【0026】

この保護膜成膜サンプルの光記録媒体保護膜について、分光エリプソメーターを使用して波長:650nmにおける屈折率を測定し、この測定結果を表1に示すことにより光記録媒体保護膜の基本特性である屈折率を評価した。

また、スパッタ中の放電の安定性を評価するために、前記光記録媒体保護膜の形成条件にて5時間連続スパッタし、旧ENI社 RPG50の装置を使用してスパッタ中の異常放電回数を測定し、その結果を表1に示した。
【0027】

次に、Nd:0.9質量モル%、Cu:1質量モル%、残部AgからなるAg合金ターゲットを用い、前記保護膜成膜サンプルの光記録媒体保護膜の上に膜厚:200nmのAg合金反射膜を成膜することにより保護膜−反射膜成膜サンプルを作製し、この保護膜−反射膜成膜サンプルを温度:80℃、湿度:85モル%の高温高湿槽に300時間保管し、ポリカーボネート基板側からAg合金反射膜の変色状態を目視にて観察し、変色がない場合を〇、一部変色がある場合を△、変色ありの場合を×として、その結果を表1に示した。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示される結果から、本発明法1〜5で形成された保護膜は従来法で形成した保護膜に比べてAg合金反射膜を変色させることが少ないこと、さらに本発明法1〜5で得られたターゲットは従来法で得られたターゲットに比べてスパッタ中の異常放電回数が格段に少ないことから、本発明法1〜5で得られたターゲットは従来法で得られたターゲットに比べてパーティクル発生数が少なく、優れた保護膜を歩留良く形成することができることなどが解る。また、この発明から外れた条件の比較法1〜6で得られたターゲットは少なくとも一つの好ましくない結果が得られることが分かる。
【0030】
実施例2
先に用意したZnOにAl23が0.5モル%、1.0モル%および5モル%固溶した平均粒径:1μmを有する導電性酸化亜鉛粉末を表2に示される配合組成となるように配合し、実施例1と同様にしてジルコニアボールミルで3時間乾式混合した後、得られた混合粉末をホットプレス装置に充填し、雰囲気:1×10-2Torrの真空雰囲気、温度:1100℃、圧力:15MPa、保持時間:1.5時間保持の条件でホットプレスすることにより前記配合組成と同じ成分組成を有するホットプレス体を作製し、このホットプレス体を切削加工し、いずれも直径:154mm×厚さ:5mmの寸法をもったターゲットを作製することにより本発明法6〜7を実施し、以下、実施例1と同じ条件でポリカーボネート基板表面に形成することにより保護膜成膜サンプルを作製した。
【0031】
この保護膜成膜サンプルを用い、分光エリプソメーターを使用して波長:650nmにおける屈折率を測定し、この測定結果を表2に示すことにより光記録媒体保護膜の基本特性である屈折率を評価した。
【0032】
その保護膜成膜サンプル作製のためのスパッタリング中に発生した異常放電回数を旧ENI社 RPG50の装置を使用して測定し、その結果を表2に示した。
【0033】
次に、Nd:0.9質量モル%、Cu:1質量モル%、残部AgからなるAg合金ターゲットを用い、前記保護膜成膜サンプルの保護膜の上に膜厚:200nmのAg合金反射膜を成膜することにより保護膜−反射膜成膜サンプルを作製し、この保護膜−反射膜成膜サンプルを温度:80℃、湿度:85モル%の高温高湿槽に300時間保管し、ポリカーボネート基板側からAg合金反射膜の変色状態を目視にて観察し、変色がない場合を〇、一部変色がある場合を△、変色ありの場合を×として、その結果を表2に示した。
【0034】
【表2】

【0035】
表2に示される結果から、さらにAl23をZnOに固溶した状態で含む本発明法6〜7で作製したターゲットは、一層異常放電回数が少なくなることがわかる。
【0036】
実施例3
まず、酸化ガリウム粉末に先に用意した高温火炎加水分解法で製造された日本アエロジル株式会社製の表面に疎水性が付与されたBET値:110を有するSiO2粉末(型番R972)を混合して酸化ガリウム−二酸化珪素混合粉末を作製し、この酸化ガリウム−二酸化珪素混合粉末に、先に用意したZnO粉末、ZnS粉末、In23粉末を添加し表3に示される配合組成となるように配合し混合して混合粉末を作製し、この混合粉末を実施例1と同じ条件でホットプレスすることにより本発明法8〜12を実施し、以下、実施例1と同じ条件でポリカーボネート基板表面に形成することにより保護膜成膜サンプルを作製した。
【0037】
この保護膜成膜サンプルを用い、分光エリプソメーターを使用して波長:650nmにおける屈折率を測定し、この測定結果を表3に示すことにより光記録媒体保護膜の基本特性である屈折率を評価した。
【0038】
その保護膜成膜サンプル作製のためのスパッタリング中に発生した異常放電回数を旧ENI社 RPG50の装置を使用して測定し、その結果を表3に示した。
【0039】
次に、Nd:0.9質量モル%、Cu:1質量モル%、残部AgからなるAg合金ターゲットを用い、前記保護膜成膜サンプルの保護膜の上に膜厚:200nmのAg合金反射膜を成膜することにより保護膜−反射膜成膜サンプルを作製し、この保護膜−反射膜成膜サンプルを温度:80℃、湿度:85モル%の高温高湿槽に300時間保管し、ポリカーボネート基板側からAg合金反射膜の変色状態を目視にて観察し、変色がない場合を〇、一部変色がある場合を△、変色ありの場合を×として、その結果を表3に示した。
【0040】
【表3】

【0041】
表3に示される結果から、酸化ガリウム−二酸化珪素混合粉末にZnO粉末、ZnS粉末、In23粉末を添加して得られた混合粉末を使用する本発明法8〜12で作製したターゲットは、一層異常放電回数が少なくなることがわかる。
【0042】
実施例4
まず、酸化ガリウム粉末に先に用意した高温火炎加水分解法で製造された日本アエロジル株式会社製の表面に疎水性が付与されたBET値:110を有するSiO2粉末(型番R972)を混合して酸化ガリウム−二酸化珪素混合粉末を作製し、この酸化ガリウム−二酸化珪素混合粉末に、先に用意したZnOにAl23が0.5モル%、1.0モル%および5モル%固溶した平均粒径:1μmを有する導電性酸化亜鉛粉末を表4に示される配合組成となるように配合し、実施例1と同様にしてジルコニアボールミルで3時間乾式混合した後、得られた混合粉末を実施例1と同じ条件でホットプレスすることにより前記配合組成と同じ成分組成を有するホットプレス体を作製し、このホットプレス体を切削加工していずれも直径:154mm×厚さ:5mmの寸法をもったターゲットを作製することにより本発明法13〜14を実施し、以下、実施例1と同じ条件でポリカーボネート基板表面に形成することにより保護膜成膜サンプルを作製した。
【0043】
この保護膜成膜サンプルを用い、分光エリプソメーターを使用して波長:650nmにおける屈折率を測定し、この測定結果を表4に示すことにより光記録媒体保護膜の基本特性である屈折率を評価した。
【0044】
その保護膜成膜サンプル作製のためのスパッタリング中に発生した異常放電回数を旧ENI社 RPG50の装置を使用して測定し、その結果を表4に示した。
【0045】
次に、Nd:0.9質量モル%、Cu:1質量モル%、残部AgからなるAg合金ターゲットを用い、前記保護膜成膜サンプルの保護膜の上に膜厚:200nmのAg合金反射膜を成膜することにより保護膜−反射膜成膜サンプルを作製し、この保護膜−反射膜成膜サンプルを温度:80℃、湿度:85モル%の高温高湿槽に300時間保管し、ポリカーボネート基板側からAg合金反射膜の変色状態を目視にて観察し、変色がない場合を〇、一部変色がある場合を△、変色ありの場合を×として、その結果を表4に示した。
【0046】
【表4】

【0047】
表4に示される結果から、さらにAl23をZnOに固溶した状態で含む本発明法13〜14で作製したターゲットは、一層異常放電回数が少なくなることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛粉末:10〜30モル%、酸化ガリウム粉末:1〜15モル%、酸化インジウム粉末:1〜15モル%、表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末:1〜5モル%を含有し、残部:硫化亜鉛粉末となるように配合し混合して得られた混合粉末をホットプレスすることを特徴とする光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項2】
前記混合粉末は、前記酸化ガリウム粉末と前記表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末を混合して得られた酸化ガリウム−二酸化珪素混合粉末を作製し、この酸化ガリウム−二酸化珪素混合粉末に前記酸化亜鉛粉末、酸化インジウム粉末および硫化亜鉛粉末を添加し混合して得られる混合粉末であることを特徴とする請求項1記載の光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項3】
酸化アルミニウムを0.5〜5モル%を含有する導電性酸化亜鉛粉末:10〜30モル%、酸化ガリウム粉末:1〜15モル%、酸化インジウム粉末:1〜15モル%、表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末:1〜5モル%、酸化アルミニウム粉末:0.05〜2モル%を含有し、残部:硫化亜鉛粉末となるように配合し混合して得られた混合粉末をホットプレスすることを特徴とする光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項4】
前記混合粉末は、前記酸化ガリウム粉末と前記表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末を混合して得られた酸化ガリウム−二酸化珪素混合粉末を作製し、この酸化ガリウム−二酸化珪素混合粉末に前記導電性酸化亜鉛粉末、酸化インジウム粉末および硫化亜鉛粉末を添加し混合することを特徴とする請求項3記載の光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
前記表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末は、高温火炎加水分解法で製造された表面に疎水性が付与された二酸化珪素粉末であることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の光記録媒体の保護膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法。




【公開番号】特開2007−270253(P2007−270253A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97224(P2006−97224)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】