光誘起による固定化
本発明は、タンパク質でのチオール基の形成を照射により誘起し、タンパク質を担体にカップリングすることにより、ジスルフィド架橋を有するタンパク質を担体にカップリングする方法を含む。タンパク質内でのチオール基の形成は、ジスルフィド架橋に密接に空間的に隣接する位置にある芳香族アミノ酸残基の電子励起の後に、ジスルフィド架橋が切断されることの結果である。光誘起カップリングの本方法は、担体上のタンパク質の配向された固定化を容易にする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担体上にタンパク質を架橋または固定化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子は、受動的に疎水性相互作用またはイオン相互作用のいずれかを通して、あるいは活性化した表面官能基への共有結合によって、担体または固体の表面の上に固定化することができる。固相化学および生物学スクリーニングのための固定化の有する大きな重要性に応えて、この技術の分析的な使用は広く探究されている。この技術は、バイオテクノロジーの多くの様々な領域で、例えば、診断、バイオセンサー、アフィニティクロマトグラフィー、およびELISAアッセイでの分子の固定化などの広い応用が見いだされている。固定化技術の有する価値は、DNAマイクロアレイの最近の発達によって証明されており、そこでは多数のオリゴヌクレオチドまたはcDNAサンプルが、空間的に処理可能な方法で固体の表面上に固定化される。これらのアレイは、生きている生体における遺伝子発現の全体的な分析を容易にすることによって遺伝子の研究に革命を起こした。類似のアプローチがタンパク質分析のために開発され、そこでは1ピコグラムぐらいの少量のタンパク質が、後になされる分析のためにマイクロアレイの上の各点に結合されている必要がある。後に、マイクロアレイに結合されたタンパク質は、機能的または構造的な特性のためにアッセイすることができ、従来は未知であったスケールおよび速度でスクリーニングを容易にしている。固体の表面に結合した生体分子(biomolecule)は、混合物中に存在している他の未結合の分子を捕獲するためにさらに使うことができる。
【0003】
この技術の開発は、制御された方法での固体の表面上に生体分子を固定化するという目標を持ち、結合部分の最小の表面移行およびその元来の構造および機能の完全な維持を伴い、近年の集中的な研究の主題であった(Veilleux J(1996)IVD Technology,March p.26-31)。最も単純なタイプのタンパク質固定化では、一般にタンパク質と表面との高い固有の結合親和力を利用する。例えば、タンパク質は、ファンデルワールス相互作用および水素結合相互作用を含む多数の弱い接触を介して疎水性基質に物理的に吸着する。この方法の利点は、結合することでタンパク質の改質が避けられるということである。他方、この方法で結合したタンパク質は、固体支持体上で不均一に分布し、および/または不活性となる。というのは、例えば、タンパク質が集合することにより、後になされるいずれの機能アッセイにおいても活性部位/結合領域の立体的妨害を起こし得るからである。
【0004】
固定化の別の方法は、固体の表面にタンパク質を結合させるためにいくつかの強い共有結合を使用することに依存するものである(Wilson D.S.,Nock S.,2001,Current Opinion in Chemical Biology 6:81-85)。例としては、ストレプトアビジンで覆われた支持体上へのビオチン化タンパク質の固定化、およびNi2+−キレート支持体へのポリヒスチジン配列を含むヒスチジンタグタンパク質の固定化が挙げられる。適切な表面に結合するために使うことができるタンパク質の表面上の他の官能基としては、シッフ塩基を介したアルデヒドとアミンの反応、ペプチド結合を形成するためのグルタルアルデヒド(gluteraldehyde)によるアミン表面へのアミン基の架橋、カルボジイミドとタンパク質および支持体表面上に存在するカルボン酸基との架橋、2つのチオール基の間のジスルフィド架橋形成に基づく架橋、およびチオール基と金表面との間のチオール−Au結合の形成が含まれる。
【0005】
アミンカップリングは、固定化化学で広く使われる方法である。N−ヒドロキシスクシニミドエステルは、水中でN−ヒドロキシスクシニミド(NHS)とN−エチル−N’−(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)とが反応し、後に自発的にタンパク質上でアミン基と反応して共有結合を形成する反応を介してカルボキシメチルデキストランマトリックスのカルボキシル基のフラクションから形成される(Johnsson B.,et al.,1991,Anal Biochem 198:268-77)。固定化の後に、支持体上の未反応のN−ヒドロキシスクシニミドエステルを、結合したタンパク質のないブロック領域に対し、1Mのエタノールアミン塩酸塩で非活性化させる。この方法は根気のいる作業である。というのは、化学固定化法の各ステップにおいて使われる試薬は、次のステップを始める前に通常除去される必要があるからである。
【0006】
ジスルフィド架橋を介する生体分子の固定化のための方法は、Veilleux J(1996)、上記により述べられている。タンパク質サンプルを、2−メルカプトエタノールまたはトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩のような穏やかな還元剤により処理し、システイン残基の間のジスルフィド結合を還元し、後に、マレイミドで被覆された支持体表面に結合させる。他のタンパク質上の第1アミン基は、2−イミノチオラン塩酸塩(Traut試薬)で修飾し、新たなスルフヒドリル基を導入することができ、その後、マレイミド表面に固定化される。ジスルフィド架橋を介しての金基質の上のタンパク質の固定化は、ポプラ由来のクプレドキシン(cupredoxin)タンパク質プラストシアニンに対して示される(Andolfi,L.et al.2002,Arch.Biochem.Biophys.399:81-88)。このタンパク質は、ジスルフィド架橋を欠くので、表面の露出した残基Ile21およびGlu25が共にCysにより置換された。挿入されたシステインの間のジスルフィド架橋形成は、精製された変異種プラストシアニンの3D結晶構造から確認された。細菌中の細胞内で発現される変異種プラストシアニンは、挿入されたシステインが還元されるような細胞質での還元環境に晒され、その結果、金基質上への単離されたタンパク質の直接の吸着を媒介することができる。したがって、タンパク質のチオール基結合特性は、タンパク質の表面上のシステイン残基のインビボまたはインビトロの化学的還元に依存している。
【0007】
タンパク質へのチオール基結合特性を設計するための別のアプローチは、4つの不可欠なシスチンを有するリボヌクレアーゼ(RNase)Aについて記述されている(Sweeney,R.Y.et al.2000 Anal Biochem.286:312-314)。この場合、単一のシステイン残基は、RNase AのN末端の近くで表面ループに位置しているAla19により置換された。発現されたRNase内のシステインは、2−ニトロ−5−チオ安息香酸と混合されたジスルフィドとして保護される。次になされる過剰のジチオスレイトールによる脱保護の後に、RNaseは、酵素活性の欠損なしに、架橋されたアガロース樹脂に付けられたヨードアセチル基とカップリングされる。また、固定化のためのタンパク質の調製は、保護剤および脱保護剤の両方に晒されることを必要とし、そのことはタンパク質の本来の構造および/または機能に悪影響を与えかねない。
【0008】
FAD依存酵素の電極上へのカップリングのための方法は、米国特許第6,350,368号に記載されている。それによって、アポ酵素は、結合部分に共有結合し、化学会合(例えば、チオール基を介して)または電極(例えば、金)の表面への付着を可能とする機能化FADと複合化(complexed)される。固定化されたFAD酵素複合体は、さらに電子メディエーター基により機能化され、検体または光学シグナルを変形するための電気化学システムに使うことができる。
【0009】
光によって誘起される固定化技法もまた探究され、炭素を含む支持体に光化学的に結合するためのキノン化合物を使用することを導いている(欧州特許EP0820483)。活性化は、UVから可視光までの範囲でイオン化しない電磁気放射能による照射の後に起こる。マスクを使って、次に起こる生体分子の付着に対する支持体のある特定の領域を活性化させることができる。照明を当てた後、光化学的に活性な化合物アントラキノンは、フリーラジカルとして反応し、ポリマー表面との安定したエーテル結合を形成する。アントラキノンは自然の生体分子で見いだされないので、適切なリガンドが生体分子に導入されなければならない。タンパク質の場合は、この追加のサンプル調製ステップは、キノンへの熱化学的なカップリングを必要とし、部位特異的ではないこともあり得る。
【0010】
光誘起の固定化技術のさらなる開発は、米国特許第5,412,087号および米国特許第6406844号で開示され、それは基質に結合したリンカーを調製するための方法を記載している。リンカー分子の末端には、光除去が可能な保護基(例えば、ニトロ芳香族化合物)で保護された反応性官能基が備えられる。露光の後、保護基は失われ、リンカーは、アミノ末端またはカルボキシ末端においてアミノ酸のようなモノマーと反応することができる。さらに、モノマー自体が、同様の光除去が可能な保護基を担い、後に続く反応サイクルの間に光により置換されることもあり得る。この方法は、固相合成へ特に応用できるが、支持体へのタンパク質の配向した結合を容易にはしない。
【0011】
酵素を固定化するための熱化学機能置換基および光化学機能置換基を有する二官能性試薬は、米国特許第3,959,078号で開示されている。光媒介活性化および酵素へのアジド基の共有結合カップリングを可能とするアリールアジドの誘導体が記載されており、固体支持体と熱化学的に反応する置換基について記載されている。この手順により固定化された酵素分子の配向は、制御されない。
【0012】
ヘテロ二官能性湿潤剤N−[m−[3−(トリフルオロメチル)ジアジリン−3−イル]フェニル]−4−マレイミドブチラミン(butyramine)を使って、配向した光依存の固体支持体上のタンパク質の共有結合固定化の方法は、WO91 16425の中で、およびCollioud A et al.(1993)Bioconjugate Chem.4:528-536)により記載されている。この架橋剤のアリールジアジリン機能は、光依存でカルベン媒介である、内部支持体またはタンパク質、炭水化物および核酸のような生体分子のいずれかへの共有結合を容易にする。架橋剤のマレイミド機能は、システインチオールの熱化学的改変によってチオール化された表面への結合を可能にする。タンパク質へのこの架橋剤の配向した結合は、マレイミド機能(maleimide function)とタンパク質表面上で露出したチオール基との間の熱化学的相互作用により得られる。しかしながら、この処理は、標的タンパク質の構造および活性を改変し得る。とはいえ、カルベン機能を介したタンパク質への架橋剤の光誘起による共有結合カップリングは、標的タンパク質の制御された配向を提供しないという欠点を有する。
【0013】
記述された固定化方法の大部分について、1つ以上の熱化学ステップ/化学ステップを使用することは、それらのいくつかが結合したタンパク質の構造および/または機能に有害な影響を与える可能性が高い危険な化学物質を時折り伴うのが、一般的である。その利用可能な方法は、しばしば侵入性であり、それによって外部の基が官能基の役を務めるためにタンパク質に導入される。そのことは、その生物活性および基質特異性を下げるだけでなく、タンパク質変性を引き起こす。
【0014】
タンパク質カップリングおよび固定化の当分野では、カップリングの方法を改良する必要がある。その改良においては、カップリングまたは固定化された成分の構造特性および機能特性は維持され、カップリングの配向は制御され得る。
【発明の開示】
【0015】
本発明は、安定した結合(共有結合またはチオール−Au結合)を介して担体上にタンパク質またはペプチドをカップリング方法であって、カップリングされたタンパク質またはペプチドの本来の構造特性および機能特性を維持し、1以上の化学的ステップを使用することを回避する方法を提供する。これは、高価であって時間がかかり、結合したタンパクの構造/機能に有害であり得るいくつかの化学反応を一般的に伴う、タンパク質固定化のための従来のカップリング方法と対照をなす。さらに、本発明の方法に従ってカップリングされたタンパク質またはペプチドの配向は制御され、その結果、例えば酵素特性のような機能特性が維持され得る。相対的に、大多数の公知のタンパク質カップリング方法は、生物活性の低下および検出限界の上昇という重大なリスクを伴い、担体上に固定化するタンパク質をランダムな配向へと導く。本発明は、タンパク質およびペプチドの固有の特性を利用する。それによって、これらの芳香族アミノ酸により吸収される光の長期の照射の後に、芳香族アミノ酸残基に密接して近くに位置しているタンパク質またはペプチド内のジスルフィド架橋が切断する。後に、タンパク質またはペプチド内で光誘起されたジスルフィド架橋の切断により作り出されたチオール基は、担体にタンパク質またはペプチドを固定化するために使われる。
【0016】
本発明の最初の態様によれば、担体上にジスルフィド架橋を有するタンパク質またはペプチドをカップリングする方法であって、チオール基を形成するタンパク質またはペプチドに照射するステップと、照射されたタンパク質またはペプチドをチオール基に結合可能な担体と共にインキュベーションするステップとを含む、方法が提供される。本発明によるカップリングは、タンパク質またはペプチドをチオール基に結合可能な担体と共にインキュベーションするステップと、担体の存在下でタンパク質またはペプチドに照射してタンパク質またはペプチドにチオール基を形成し、それにより担体上のチオールリガンド結合基へのカップリングを得るステップにより、さらに可能である。カップリングまたは固定化のこの方法によれば、照射は1以上の芳香族アミノ酸を励起させる波長の光を含む。タンパク質内の照射された芳香族アミノ酸は、トリプトファン、チロシンおよびフェニルアラニンを含み得る。またあるいは、芳香族アミノ酸はトリプトファンである。本発明のさらなる態様によれば、照射は、295nm、254nmまたは275nmの近くの波長を含む。本発明のさらなる態様によれば、照射されたタンパク質またはペプチドは、ペプチド、タンパク質または他の任意の生体分子を含む担体とカップリングされる。あるいは、支持体へのカップリングが固定化され得る場合、照射されたタンパク質またはペプチドは、金を含む支持体とカップリングするか、チオール結合基で誘導体化(derivatise)されるか、またはチオール基もしくはジスルフィド架橋を有する。必要であれば、担体または支持体は、スペーサーを含む。本発明のさらなる態様によれば、担体にタンパク質またはペプチドをカップリングする開示された方法に従って生成されたところのカップリングされたタンパク質またはペプチドを含む担体または支持体が提供される。本発明のさらなる態様によれば、担体にタンパク質またはペプチドをカップリングする開示された方法に従ってカップリングされるタンパク質またはペプチドとしては、酵素、転写因子、タンパク質ドメイン、抗原、抗体または結合タンパク質、並びに他のタンパク質または他のペプチドが挙げられる。本発明のさらなる態様によれば、担体にタンパク質またはペプチドをカップリングする開示された方法に従ってカップリングされる担体としては、薬剤が挙げられる。本発明のさらなる態様によれば、担体にタンパク質またはペプチドをカップリングする開示された方法に従って生成されたところのカップリングされるタンパク質を含む担体または支持体は、生体機能アッセイのために、または生体機能アッセイを提供するキットとして使用される。生体機能アッセイのためのこの使用には、バイオセンサー、クロマトグラフィー、免疫検出、酵素アッセイ、ヌクレオチド結合検出、タンパク質−タンパク質相互作用、タンパク質修飾、担体標的化またはタンパク質標的化が含まれる。
【0017】
本発明のさらなる態様では、照射によって切断可能なジスルフィド架橋を有するタンパク質またはペプチドを識別するための方法が提供される。
【0018】
[定義]
本明細書で用いられる用語「UV光」、「照射」、「UV照明(illumination)」、または「UV照射」は、ある範囲の波長のUV光もしくは単一の波長のUV光または多光子励起のためのIR/可視光であり、特に芳香族アミノ酸または芳香族アミノ酸に似た他の芳香族系を励起させるものである。好ましくはおよそ295nm、275nmまたは254nmの波長、より好ましくはトリプトファン、チロシンまたはフェニルアラニンを励起させる波長、最も好ましくはトリプトファンを励起させる295nmの波長である。
【0019】
本明細書で用いられる用語「タンパク質」は、ポリペプチド、タンパク質および抗体のフラグメント、または他の任意のアミノ酸ベースの物質を含む。さらに、用語「タンパク質」は、酵素、抗体、抗原、転写因子、結合タンパク質(例、DNA結合タンパク質)、またはタンパク質ドメインを含む。
【0020】
本明細書で用いられる用語「空間的隣接」は、3次元において近接な位置にある基が空間的に隣接であると考えられるような、組成物内の2つの化学基の間の物理的距離に関する。照射後に芳香族アミノ酸が励起エネルギーを吸収する場合、芳香族残基に空間的隣接であるタンパク質内のジスルフィド架橋は、クエンチャーとして機能し得る。トリプトファン残基と空間的隣接であり、クエンチャーの役を務め得るジスルフィド架橋の半分のシスティンの間の物理的距離は、1〜10Åの範囲であり得るが、それに限定はされない。
【0021】
本明細書で用いられる用語「担体」は、可溶性の化合物もしくはポリマーまたは不溶性の化合物もしくはポリマーであり得、その化合物もしくはポリマーは、照射で誘起されるチオール基にカップリングできる反応性のSH結合またはSS結合のようなチオール結合リガンドを含む。用語「担体」はまた、例えば、他のタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドのような他の生体分子であり得る。さらに用語「担体」には、金支持体またはチオール結合リガンドを有する誘導体化された支持体のような、照射により誘起されたチオール基にカップリングすることができる物質を含む支持体が含まれると理解されるべきである。
【0022】
本明細書で用いられる用語「支持体」は、電子チップ、スライド、ウエハース、粒子、樹脂、ウエル、チューブまたは薄膜のような任意の支持体材料であり得る。これらには、以下のものを含む任意の材料が含まれるが、限定はされない。ポリマー(例、トパーズ(Topaz)、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリエーテルイミド(polyethermides)、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリメチルメタクリレート[PMMA]、ポリ(フッ化ビニリデン)[PVDF]);シリコーン;ダイヤモンド;ガラス(例、石英およびシリカ);ケイ素(例、シリコンウエハース);金属;薄膜(例、ナイロン薄膜、ニトロセルロースフィルター);ゲル、アガロースまたはセルロースのような多孔性の物質;セラミック等。さらに、支持体には、介入しているスペーサーの有無にかかわらずチオール基の結合を容易にする支持体の誘導体の全ての形態が含まれる。
【0023】
本明細書で用いられる用語「スペーサー」には、タンパク質と担体との間にリンクを提供する目的、または支持体の表面の上方へ固定化されたタンパク質を持ち上げる目的を有する化合物の鎖が含まれる。
【0024】
本明細書で用いられる用語「薬剤」には、ヒトまたは他の動物において病気の診断、治療、緩和、処置または防止で使用されるように意図された物品、およびヒトまたは他の動物の身体の構造または任意の機能に効果があるように意図された物品(食物以外)、ならびに上記で特定した任意の物品の成分として使用されるように意図された物品が含まれる。
【0025】
本明細書で用いられる用語「生体機能アッセイ」には、バイオセンサー、免疫検出、酵素アッセイ、ヌクレオチド結合検出、クロマトグラフィー、タンパク質−タンパク質相互作用、タンパク質修飾、担体標的化またはタンパク質標的化が含まれる。
【0026】
本明細書で用いられる用語「バイオセンサー」には、アミノ酸(例えば、システイン)、タンパク質、抗体、核酸、微生物または細胞のような生物または生物由来の感知性要素を組み込んでいる分析的なデバイスが含まれる。その感知性要素は、生理化学的変換器内で一体化されるか、または生理化学的変換器と密に結び付けられる。バイオセンサーの一般的な目的は、単一の検体または検体に関係あるグループに比例している不連続または連続のいずれかのデジタル電子シグナルを発生させることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、照射により誘起されるタンパク質の構造変化に関し、それらの光分解を遅らせると考えられているタンパク質の固有の特性を利用する。タンパク質がUV照射にさらされる場合、いくつかのジスルフィド架橋は切断し、活性化チオールが形成される。ジスルフィド架橋は、折りたたまれたタンパク質の構造の核において、およびその表面の上/近くで一般に見いだされるが、芳香族アミノ酸に密に近接した位置にあるジスルフィド架橋が、UV誘起により切断する可能性が最もある。タンパク質のUV暴露の間に、芳香族アミノ酸残基の側鎖によって吸収されたエネルギーは、クエンチャーとして機能する隣接のジスルフィド架橋に移される(Neves-Petersen MT.,et al.,2002,Protein Science 11:588-600)。しかしながら、ジスルフィド架橋に移されたエネルギーの流れ、およびサンプルの光励起により形成されたラジカル/イオンのような中間化学種の形成が起こり得ることは、ジスルフィド架橋の切断を引き起こすのに最終的に役立つ。
【0028】
タンパク質中で密接な空間的隣接にあるトリプトファンを有するジスルフィド架橋が存在することは、本来頻繁に起こり、光誘起によるジスルフィド架橋の切断が広範囲にわたる現象であることを示している(Petersen MTN.,et al.,1999,Protein Engineering 12:535-548;Neves-Petersen MT et al.,2002,Protein Science 11:588-600;Vanhooren A et al.2002,Biochemistry 10;41(36):11035-11043)。
【0029】
担体上のタンパク質の配向した固定化のためのこの照射誘起現象の利用は、本発明の基礎となるものである。菌類Fusarium solani pisi由来のクチナーゼは、担体上での光誘起ジスルフィド架橋還元のプロセスおよびそれらの固定化を例証するために提供されるいくつかのモデルタンパク質の1つである。しかしながら、本発明の応用は、決してモデルタンパク質に限定されない。クチナーゼは、クチンを分解可能な脂肪分解酵素であり、植物の葉の表面で見いだされる不溶性の脂質ポリエステルマトリックスである。クチナーゼは、工業的に重要な酵素であり、脂肪の除去のために洗剤に組み込むことが提案されている。クチナーゼは、タンパク質の単一のトリプトファン残基に密接に近接している2つのジスルフィド架橋(1つは活性部位の近くに、1つはタンパク質の反対極の末端にある)を有する。活性部位の近くに位置しているジスルフィド架橋の化学的還元は、酵素を不活性なものとする(Soliday CL,et al.,1983,Biochem Biophys Res Commun 114:1017-22)。
【0030】
その本来の構造において、F.solani pisiクチナーゼの1つのトリプトファン残基は、隣接したジスルフィド架橋が存在するためにかなりクエンチされる。クチナーゼへの長期の選択的な295nmでの照射の後に、単一のTrp残基の蛍光の発光量は、隣接するジスルフィド架橋の切断に伴い、同時に増加する。クチナーゼでのTrp残基の増加した発光量は、ジスルフィド架橋の損失および励起状態でTrp残基をクエンチする能力を反映する。
【0031】
ジスルフィド架橋は、励起状態の芳香族残基の優れたクエンチャーであることが知られている。密に空間的近接である任意の芳香族残基は、隣接するジスルフィド架橋の光誘起切断を起こすことができる。それゆえ、タンパク質中で見いだされる3つの芳香族アミノ酸(トリプトファン、チロシンおよびフェニルアラニン)は、光誘起のジスルフィド架橋の切断の可能性がある全ての媒介物である。240nmから300nmまで拡張した波長の範囲の光による照射で全ての芳香族残基が励起するが、個別の芳香族残基は、異なった吸光最大値(表1;中性のpHにおいて得られたデータ)を有する。
【0032】
【表1】
【0033】
芳香族アミノ酸残基の励起スペクトルは部分的に重複するだけなので、単一または狭い波長範囲におけるタンパク質照射は、異なった度合に個別の残基を励起させる。295nmにおける照射は、タンパク質中で選択的にトリプトファン残基を励起させるために使うことができる。280nmにおける照射は、チロシンおよびトリプトファン残基の両方を励起させ、それから共に光誘起のジスルフィド架橋の切断を起こすことができる。照射が多光子励起によって行われる場合、例えば、二光子励起が実行される場合は、サンプルには、単一の光子の実験で使った光子の2分の1のエネルギー(2倍の波長)の光子(光)が照射される。例えば、トリプトファンの電子励起は、295nmの紫外光または約690nmの波長における2光子により達成される。さらに、励起したチロシン残基は、順にジスルフィド架橋の切断を起こすことができる蛍光共鳴エネルギー転送と呼ばれるメカニズムにより、隣接するトリプトファン残基の励起をもたらすことができる。
【0034】
選択された波長における所与のタンパク質内でのジスルフィド結合の切断が、タンパク質の3D構造での各ジスルフィド架橋の場所および隣接するアミノ酸から予測され得ることは当業者には明白である。芳香族アミノ酸残基の近くに空間的に配置されるジスルフィド架橋は、UV光に対し最も不安定である可能性が高い。密に空間的に近接している空間的三つ組Trp Cys−Cysを含むタンパク質のサブセットの3D構造を、いずれのアミノ酸が当該三つ組のトリプトファン残基の直接の近傍に位置しているかについて明らかにするために調べられた。この分析により、クチナーゼの三つ組周辺のアミノ酸隣接組成と同様の組成を有するタンパク質が同定され、それは、どのタンパク質がUV照明により壊れた三つ組のジスルフィド結合を有するか予測するために使うことができる。タンパク質内での空間的TrpSS三つ組の周辺のアミノ酸組成の特徴は、それがUV誘起の切断の可能性があるかどうか予測するために使われるかもしれないが、次の通りである。1)芳香族アミノ酸残基は、ジスルフィド結合の10Å以内に位置する。2)芳香族のTrpの側鎖の発光双極子(emitting dipole)の平面間の角度が、ジスルフィド架橋の吸光双極子(absorbing dipole)と直角であるTrp−SS三つ組は、励起状態のTrpとジスルフィド架橋との間の励起エネルギーを交換することが見込めない。3)クチナーゼ、リゾチーム(lysosyme)、リパーゼ、プラスミノーゲン、キモシンおよびα−ラクトアルブミン(および免疫アルブミン−下記参照)について証明されたように、一般のタンパク質内でのアミノ酸の出現の平均頻度と異なっているアミノ酸残基の特定のサブセットが、タンパク質のUV切断されたTrpS−S三つ組から半径8Å以内に見いだされる。アミノ酸のこの特定のサブセットでは、アミドアミノ酸残基(Asn、Gln)は平均を超える出現率であり(over-represented)、大部分の場合、短鎖の脂肪族残基(Gly、Ala、Val)および/または長鎖の脂肪族残基(Leu、Ile)の出現もまた平均を超える率である。
【0035】
8Åマップを12Åマップおよび15Åマップと比較して、いかにマップの輪郭が薄れていくかが観察され得る。サブセットのアミノ酸の組成は、平均的なタンパク質の組成に近づいていく。3つのマップの全てでなされる観察は、ほとんど全ての三つ組において、荷電アミノ酸(His、Lys、Arg)(Asp、Glu)およびプロリン残基のグループが平均未満の出現率(under-representation)ということである。
【0036】
免疫グロブリンのTrp−SS三つ組の近接の8Å半径以内に位置するアミノ酸残基においては、ヒドロキシルを含むアミノ酸が平均を超えて出現する(over-representation)。多くのIgG TrpS−S三つ組において、芳香族の残基もまた、平均を超える出現率である。多くの免疫グロブリン(TrpSS空間的三つ組の周りのそのアミノ酸組成がクチナーゼ三つ組(IGG1三つ組Aグループの免疫グロブリン部分)と非常に似ている)において、1つのまたは両方のアミドアミノ酸(Asn、Gln)および脂肪族残基の出現はまた、平均を超える率である。これらの免疫グロブリンでは、我々はまた、荷電アミノ酸(His、Lys、Arg)(Asp、Glu)およびプロリン残基のグループの平均未満の出現率も観察している。全体的に、これらのパラメータは、タンパク質内のいずれのジスルフィド架橋がチオール基とカップリングできる担体と光誘起カップリングできるかを識別するために使うことができる。
【0037】
このようなタンパク質の1つが、ヤギα−ラクトアルブミンである。ヤギα−ラクトアルブミンの三つ組のトリプトファン残基の周りの8Åの球の内側に位置しているアミノ酸残基は、クチナーゼのそれに非常に類似している。さらに、ヤギα−ラクトアルブミンのUV励起の際に、トリプトファン残基に隣接しているそれらのジスルフィド架橋が切断され、遊離チオール基が形成されることが最近示された(Vanhooren A et al.,2002,上記)。所与のタンパク質中の推定上のジスルフィド架橋のUV安定性を、同種のタンパク質の3D構造が知られていて、所与のタンパク質の3D構造の相同モデリングのために使うことができるのであれば、単にその1次構造、すなわちアミノ酸配列に基づいて予測することもまた可能である。
【0038】
組換えDNA技術の公知の方法を使い、アミノ酸置換体をタンパク質配列の中に導入し、さらなる光切断ジスルフィド架橋を作り出すことができることもまた明白である。このような置換体は、内在のジスルフィド架橋または組換えを用いて設計されたジスルフィド架橋の密に空間的隣接物として、タンパク質内にトリプトファン残基または他の芳香族アミノ酸残基を導入することができる。または、ジスルフィド架橋は、内在の芳香族残基と密に空間的近接している状態で導入され得る。あるいは、芳香族およびジスルフィド架橋の両方が、互いと密に空間的近接している状態で導入され得る。タンパク質内でのトリプトファン残基の選択的な励起を可能とするので、295nmの光による照射が好ましい。それは、単一または限定された数のジスルフィド結合の切断を順に導き得る。一連の波長においてタンパク質への照射に適した、ジスルフィド結合切断の光誘起に適した種々の光源としては、RTC PTI分光計のような研究レベルの分光計からの75−Wキセノンアーク灯、重水素ランプ、高圧水銀ランプが挙げられるが、これらに限定されない。光源をモノクロメーターにつなぐことによって、単一の波長における照射を得ることができる。単一および多数の光子励起の光源としては、高い最大出力のパルスレーザーまたはCWレーザーが挙げられる。
【0039】
新しいチオール基は、光誘起のジスルフィド結合切断の後にタンパク質内で形成される。それらの新たな出現は、5,5'−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)[DTNB]ベースアッセイにより測定することができる。295nmで照射されたクチナーゼの場合には、照明を当てられた1つのタンパク質につき1つのチオール基が形成されることが、平均して検出された。天然クチナーゼには遊離チオールがなく、単一のトリプトファン残基に隣接しているジスルフィドの切断のみが、溶媒が接近可能なチオール(本方法により検出することができる)を生じさせる。接近可能なタンパク質上に形成された光誘起チオール基は、任意のチオール結合リガンドまたは担体上の遊離チオール基と結合する。
【0040】
担体へのカップリングについての本方法は、ジスルフィドに結合する種々のタイプのオリゴマーまたはポリマーを構築するために使うことができる。所与のタンパク質、ペプチドまたは他の生体分子内の光誘起チオール基は、ペプチドまたはタンパク質を含む担体にカップリングすることができる。カップリング反応でのタンパク質および担体分子の濃度が十分に高い場合、隣接する分子の間のSSベースの架橋が起きる。光誘起されたタンパク質はSS架橋を含むが、近い空間的隣接物としての芳香族残基を有することは不可欠ではない。なぜなら、反応への芳香族の寄与は、カップリング反応に添加される芳香族残基またはそれに似た化合物によって供給され得るからである。
【0041】
担体への光誘起チオールのカップリングの本方法を、薬剤のような他のタイプの担体分子に有効に応用し、それらの効果的な送達を容易にすることができる。例えば、薬剤へのジスルフィド架橋を有する水溶性分子(ペプチドまたはタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない)の光誘起チオールカップリングは、非水溶性、難水溶性または疎水性の薬剤の可溶化または送達を助けることができる。さらに、薬剤とカップリングした分子は、薬剤をその生理的環境から保護し、それゆえインビボでのその安定性を改善するのに役立ち得る。この特定の特徴は、この技術をタンパク質のような不安定な薬剤の送達に対して魅力あるものにする。分子カップリング薬剤の局所送達により、処置する部位に移植することにより、患者の全身が薬剤に晒されることが減らされる。担体結合プロドラッグは、一般的に、改善された生理化学特性または薬物速度論的(pharmacokinetic)特性を作り出し、加水分解切断によって通常インビボで容易に除去することができる一時的担体基と所与の活性物質との一時的な結合を含むプロドラッグと定義される。本発明では、薬剤を分子に結合しているジスルフィド結合の光媒介切断により、患者に導入された分子カップリング形体から活性薬剤を制御して放出することを達成することができる。このことは、患者への薬剤送達の頻度を最小にし、光制御の投薬を提供するであろう。我々はまた、薬剤放出が必要な身体の領域に照明を当てることにより、薬剤送達のプロセスを最適化することもできる。これらの特徴は、特に慢性の適応症のために使われる薬剤について、(ある特定のタンパク質または代謝物の欠乏のために)頻繁な注射を必要とする患者の薬剤服用順守を改善するであろう。制御された薬剤の放出は、赤外線の透過範囲内で、経皮薬物送達の場合に(二光子励起を介して)赤外線によって誘起することができるであろう。一方、UV光(または三光子励起による赤外線)のより大きい透過力は、患者内部のもっと深いところでの薬剤の放出を容易にするであろう。また、光ファイバーを使用することにより、例えば、癌患者/腫瘍患者の処置のようなPDT(光力学治療)における身体の様々な深部への光の送達が可能となる。溶媒に晒されたジスルフィド架橋は、還元環境の中で破壊されるので、薬剤とカップリングした担体が細胞の細胞質空間のような還元環境に入った場合に、薬剤はまた放出され得る。
【0042】
光誘起のチオールカップリングの本方法は、支持体の上にタンパク質を固定化するためにもまた使うことができる。支持体とカップリングする間に形成される最も通常タイプの結合は、自己組織化層が形成されるジスルフィド結合および硫黄−金属結合(主に硫黄−金)である。両方のタイプの結合は安定しているので、固定化後の広範囲な洗浄でタンパク質は追い出されない。タンパク質濃度またはUV照射の強度および持続時間を変えること、および表面上で依然活性化しているチオール基をL−システイン(2−(2−ピリジニルジチオ(pyridinyidithio))エタンアミン塩酸塩(PDEA))のような試薬またはチオール−脂質二層体でブロックすることによって、支持体上のタンパク質の密度は制御され得る(Hong Q.et al.,2001,Biochemical Society Transactions 29(4):587-582)。したがって、均一に分布した固定化タンパク質を有する支持体はブロックされ、非特異性結合を妨げる。本発明によれば、固定化の方法に化学的ステップを全く含まない。というのは、UV照射によって形成されたチオール活性化タンパク質は、支持体上で自発的に自己組織化するからである。記述されたチオールおよびジスルフィド交換反応は、支持体に分子を結合させるのに効果的および迅速な方法である。本発明特有の長所は、タンパク質内での遊離チオールの化学的発生に関連するいくつかの欠点の回避である。実施例10で示されるように、あるタンパク質(例えば、クチナーゼ)は、遊離チオールを生成するために使われる還元剤(DTTまたはβ−メルカプトエタノール)により活性化されない。チオール基を含む還元剤を使って、タンパク質内で化学的に遊離チオールを発生させる場合、それは、その間にジスルフィド結合が再生する固定化がなされ得る前に、除去されなければならない。2−カルボキシエチルホスフィンのようなチオール基を欠く別の還元剤は、それらが他の基と反応するという欠点を有する。ジスルフィド結合を切断するために還元剤を使うことは、還元剤が、その化学的安定性および還元活性に関してpHに依存するというさらなる欠点を有する。
【0043】
支持体の上のタンパク質の固定化はまた、同じく空間的にも制御され得る。現代のレーザー技術は、1マイクロメーター以下の尺度での焦点スポットを可能とする。SS架橋を含む特定のタンパク質または標的分子が、チオール結合支持体でインキュベートされる場合、光誘起のチオール基形成およびカップリングの起こる場所は、照明の焦点に限定され得るであろう。溶液の粘度は、スポットの大きさを越えて照明の当てられた分子を分散し得る拡散プロセスを最小にするために制御されるべきである。このアプローチは、支持体の表面上に、同一であると確認できる様々な分子を非常に密に詰め込むことを可能にするであろう。したがって、本発明の方法は、マイクロアレイを分子で満たすために使うことができるであろう。
【0044】
本発明のさらなる態様では、固定化タンパク質の配向は、一定のおよび再現可能な方法で制御され得る。タンパク質内でのトリプトファン残基の長期の選択的励起は、励起エネルギーが移動するそれらのジスルフィド架橋の切断をもたらすだけである。遊離チオール基を形成するこれらの光切断可能なジスルフィド架橋の配置は、3次元モデル、核磁気共鳴(NMR)またはX線回折結晶学分析から知られるタンパク質の構造から予測され得る。ただ1つのチオール基だけがタンパク質内のトリプトファン残基への照射によって誘起される場合には、クチナーゼの場合と同様に、支持体上のタンパク質の固定化がこのチオール基を介して排他的に起こるであろう。還元剤の使用のようなジスルフィド架橋の切断およびチオール基形成の別の方法と比較して、本発明の光誘起法は、その位置が正確に予測される1つまたは少数のみの接近可能なチオール基を形成している目標のジスルフィド架橋の切断をもたらす。したがって、後に固定化されるタンパク質は、単一のまたは非常に限られた数の配向を有する。クチナーゼが固定化のためのただ一つのチオール基だけを有するので、それは活性部位から遠いが、基質の接近しやすさは固定化によって制限されないであろう。タンパク質の活性部位から遠い、表面に接近可能なチオール基を介した固定化は、クチナーゼおよびリゾチームの場合のように、タンパク質の配置または構造的な特性を変える可能性はあまり高くない。言い換えれば、本発明の固定化方法は、固定化するタンパク質の本来の状態を維持するのに役立つ。タンパク質上でなされる全ての機能アッセイ/構造アッセイは、本発明の方法に従って同一の配向で固定化されるが、タンパク質の同一の集団に由来するデータを生成するであろう。固定化タンパク質の構造的および機能的同一性、およびそれらの本来の状態の維持は、酵素特性、結合特性または他のいかなる生物特性のためのタンパク質のスクリーニングまたはアッセイにとって、第一に重要である。そのことは、本発明の多くの貴重な特長の1つを提供する。抗菌特性を有するリゾチームのようなタンパク質の場合には、微生物の成長と感染を妨ぐために、当該のタンパク質を表面(例えば、食物、皮膚、パッケージ)の上に固定化することが可能であることは有用である。
【0045】
本発明のさらなる態様では、支持体上にタンパク質を固定化している結合は、溶液の中にタンパク質を解放して、切断することができる。これは、チオール−金属結合と同様、両方のジスルフィド架橋に対して可能である。例えば、UV照射により、タンパク質と支持体との間のジスルフィド架橋は、芳香族アミノ酸が空間的隣接物であるタンパク質上のジスルフィド結合を切断させるのと同じ方法で、切断することができる。芳香族アミノ酸は、固定化タンパク質それ自体の上に位置しているか、または支持体表面に塗布されたトリプトファンのような芳香族アミノ酸の溶液の形状で供給することができる。ジスルフィド結合(SS)は、それ自体、約254nmの光によって切断されることが知られている。あるいは、タンパク質と支持体との間のジスルフィド架橋は、(ジチオトレイトール)DTTまたは当業者に公知の他の還元剤で切断することができる。固定化結合の切断の後に、必要であれば、解放されたタンパク質を精製し、さらなる実験で使うことができる。
【0046】
本発明のさらなる態様は、O2プラズマ処理またはPiranha(それによって、タンパク質を含む金表面のトップ層を除去する)により、チオール−Au結合を介して固定されたタンパク質を除去することによって、金表面を再生することである。
【実施例】
【0047】
[実施例1:UV照明によるクチナーゼ中の遊離チオール基の形成]
UV照明に続くタンパク質中のジスルフィド架橋の切断を、Fusarium solani pisiから単離されたリパーゼ/エステラーゼ特性により、クチナーゼを使って調べた。
【0048】
[クチナーゼの安定状態蛍光発光強度]
連続照明の安定状態蛍光発光強度を追跡するために、クチナーゼ調製物を以下の条件で295nmのUV照明に供した。石英マクロキュベット(1センチ径)の中で、時間(0時間、1時間、2時間、3時間、4時間および5時間)を増やして行き、3mLのクチナーゼの2μMストック溶液に295nmの照明を連続的に当てた。295nmにおける光励起を、RTC 2000 PTI分光計により与えられたモノクロメーターにつながれたキセノンアークランプによって供給した。そのキュベットをサーモスタット制御キュベットに取り付け、25℃の一定温度を維持した。クチナーゼサンプルを、磁石を使った700rpmでの連続攪拌により、均一な溶液として維持した。励起スリットおよび発光スリットを6nmに設定した。350nmにおけるクチナーゼの蛍光強度を、5時間の照明を当てている間を通して連続的にモニターした。295nmの照明を当てた際の350nmにおける2μMクチナーゼ溶液の時間依存性蛍光発光強度を図1に示す。蛍光強度は、最初の7200秒にわたって非常に急激に増加し、蛍光発生が安定したと考えられる安定期が後に続いた。
【0049】
[UV照明後のクチナーゼ中の遊離チオールの検出]
UV照明に当てた後のクチナーゼ中の遊離チオール基の濃度を以下のように測定した。クチナーゼ上のチオール基を、図2に示すようにチオール基と5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)[DTNB]との反応に基づく分光光度計アッセイにより、あるいはEllman試薬(Ellman GG,.1959 Arch.Biochem.Biophys.82:70-77;Hu ML.,1994,Meth.Enzymology 233:380-385)により検出および定量した。石英マクロキュベット(1センチ径)の中で、20mLのTrisHCI pH8.5中の3mLの17.3μMクチナーゼ溶液に、上記のようにRTC 2000 PTI分光計を使って様々な時間の間で295nmの照明を当てた。350nmにおけるサンプルの時間依存性蛍光発光強度を測定した。全てのスリットを2nmのバンド幅に設定した。295nmの照明の前または後に、過剰のDTNB(無水メタノール中の100μLの8.5mM濃度のDTNBストック溶液)を900μLのクチナーゼ溶液に添加した。メタノール中のDTNBのストック溶液は、4℃で2週間まで安定している(Hu ML.,1994,上記)。その2つの成分を混合した直後に、放出されたNTBイオンの吸光度(ニトロチオベンゾエートイオン、ε412nm=13600M-1cm-1)をUV/可視ファルマシア(Pharmacia)分光光度計により412nmにおいて測定し、20分後および24分後に25℃において再び測定した。遊離チオール濃度は、412nmおける吸光度に比例する。読み取りは、20分から24分の間で安定していた。各データポイントは、24分後の3回の測定の平均であった。コントロールサンプルは、900μLの照射されていないクチナーゼ(20mMのTrisHCI pH8.5中の17.3μMのクチナーゼ溶液)と混ぜられた、無水メタノール中の100μLの8.5mM濃度のDTNBストック溶液を含んだ。照明を当てたクチナーゼサンプルの濃度を上げて、照明時に形成された遊離チオール基の量が、DTNB法の検出限界より上にあることを確かめた。
【0050】
遊離チオール基は、クチナーゼの照明を当てていないコントロールサンプル内で、DTNBを使って検出されなかった。このことは、天然クチナーゼ中の遊離チオール基の欠如と合致している。というのは、酵素内の全ての4つのシステイン残基がジスルフィド架橋に関与するからである。照明を当てた間に、クチナーゼサンプル内で形成したチオールの量を、蛍光強度増加(F/Fo)の関数として測定した。図3は、UV励起時のクチナーゼの295nmにおけるTrp蛍光発光強度の時間依存の増加と蛍光強度増加(F/Fo)の様々な比において検出される遊離チオール基の増加濃度との間の相関関係を示している。
【0051】
これらの結果は、トリプトファン(Trp)の最初の蛍光発光強度が、近くの原形のままのジスルフィド架橋の存在により非常にクエンチされ、クチナーゼ内の単一の内在するTrpの蛍光発光強度が、295nmにおける照明をクチナーゼに当てた際に近くのジスルフィド架橋が切断されたためであるという実用的モデルを支持している。
【0052】
[実施例2:照射によって引き起こされる天然クチナーゼ内のジスルフィド架橋の切断は、空間的隣接物としてのTrp残基の存在に依存している。]
照射により誘起されたジスルフィド架橋の切断において、クチナーゼ内でのトリプトファン残基の役割を証明するために、天然タンパク質のTrp蛍光発光強度を、全てのジスルフィド架橋が化学的に切断させられた還元クチナーゼのTrp蛍光発光強度と比較した。全てのジスルフィドの還元を容易にするために、クチナーゼタンパク質を熱によって部分的に変性させた。照射の後、天然クチナーゼおよび変性クチナーゼの蛍光発光強度を使って、Trp残基が、ジスルフィド架橋へのTrpからの励起エネルギーの転送のために、ジスルフィド架橋の空間的隣接物であることが重要であることを証明した。
【0053】
[DTTによる天然クチナーゼの還元]
天然クチナーゼにおいては、折り畳まれたタンパク質内部のジスルフィド架橋は、溶媒に接近できず、それらは直接DTTによって還元することができない。しかしながら、クチナーゼをその変性温度を超える温度でpH8.5の緩衝液で加熱する場合、次に続く変性プロセスは、タンパク質のジスルフィド架橋へのDTTの接近を容易にする。タンパク質の沈殿を避けるために、熱変性ステップをクチナーゼの希釈溶液で行なった。クチナーゼの熱変性のために選択された緩衝液(20mMのTris−HCl 8.5)は、温度変化および体積変化との関係で最小のpHドリフトを示す。さらに、Tris−HClは、イオン化の最小のエンタルピーを有する。クチナーゼ溶液の濃度を、280nmにおけるクチナーゼの減衰係数(13500M-1cm-)を使って、溶液のOD 280nmから推測した。
【0054】
DTTによるクチナーゼジスルフィド結合の還元を、以下のように行なった。20mMのTrisHCl pH8.5中で懸濁された1μMクチナーゼの内の650μLのサンプルを25℃から70℃まで加熱し、過剰のDTT(TrisHCI pH8.5中の3.7M濃度のDTTの内の8.5μL)をそれに添加し、50mMのDTTの最終的濃度を得た。
【0055】
[天然クチナーゼまたは還元クチナーゼの蛍光発光強度測定]
295nmでの励起における1μMのクチナーゼサンプルの発光スペクトルを、2nmのバンド幅に設定されたスリットでRTC 2000 PTI分光計により、以下の条件の下に測定した。(A)DTTなしで25℃においてインキュベートされたクチナーゼ、(B)DTTなしで70℃においてインキュベートされたクチナーゼ、(C)70℃に加熱して25℃まで冷やした後に、DTTなしで25℃においてインキュベートされたクチナーゼ、(D)70℃に加熱し、DTTを添加して25℃まで冷やした後に、DTTありで25℃においてインキュベートされたクチナーゼ。スペクトルは、ラマン寄与(contribution)のために修正された。
【0056】
4つの発光スペクトルを図4に示す。25℃においてインキュベートされたクチナーゼの発光スペクトル(A)は、70℃から25℃まで冷やした後のクチナーゼの発光スペクトル(C)と同一であり、pH8.5におけるクチナーゼの熱変性が可逆プロセスであることを証明している。このことは、変性状態でのクチナーゼの発光スペクトル(B)と比較することができる。DTTの存在下で70℃に加熱した後の25℃におけるクチナーゼのTrp蛍光発光強度(D)は、(A)におけるようにDTTなしの天然クチナーゼより大きかった。実施例1で示されるように、これらのスペクトルは、クチナーゼのTrp蛍光発光強度の増加(295nmにおける励起時)とそのジスルフィド架橋の還元との間の相関関係を確証するのに役立つ。
【0057】
サンプル(A)および(C)についての連続スペクトルを得る過程において、295nmにおけるクチナーゼのTrp残基の連続励起の際、実施例1に示されるように蛍光発光が増加するのが観察された。サンプル(A)および(C)の蛍光が同様に増加することは、再生時に天然クチナーゼの3D構造で観察されるTrpとジスルフィド架橋との間が密に近接にあることと一致している。この蛍光発光の増加は、295nmにおけるクチナーゼのTrp残基の連続励起の際、サンプル(B)または(D)では観察されなかった。これらのデータは、クチナーゼの中でTrp残基とジスルフィド架橋との間が密接に近接していることが光誘起メカニズムに必要であり、タンパク質が70℃でpH8.5において変性されるときに、この近接している状態が失われるという結論を支持している。これは、Trpと溶媒分子との間に衝突減衰(collisional quenching)を起こす高い温度に起因して、より低い発光量の産出が見込まれるにもかかわらず、70℃におけるクチナーゼのTrp蛍光発光量が25℃における場合より高かったことの最も可能性のある理由である。
【0058】
[実施例3:タンパク質での光誘起ジスルフィド架橋の切断の特異性]
Fusarium solani pisiのクチナーゼ遺伝子を、単一のトリプトファン残基が非蛍光性のアミノ酸であるアラニン(W69A)に置換された変異体クチナーゼポリペプチドをエンコードするように、変異させている。天然クチナーゼと比較して、変異体中には光誘起可能なジスルフィド架橋の切断が欠如していることは、下記のことを証明し、さらにジスルフィド架橋と密接な空間的近接にある芳香族アミノ酸(例えば、trp)のための必要条件を確証する。変異体クチナーゼ(W69A)は、組換えにより発現された。50mLのTris−HCI(pH7.0)中の2μMの変異体タンパク質溶液または天然タンパク質溶液の内の3mLをキュベットに移し、700rpmのマグネティック攪拌を行ないながら、サーモスタットで25℃とした。モノクロメーターに繋いだRTC 2000 PTI分光計からの75Wキセノンランプを使って296nmの照明を当てた。励起スリットおよび発光スリットは、それぞれ10nmおよび2nmとした。図5に示されたpH7における水溶液中での芳香族アミノ酸の吸光スペクトル(A)および発光スペクトル(F)からわかるように、トリプトファンは、296nmの波長における光によって励起させられる唯一の芳香族残基である。変異体クチナーゼ溶液または天然クチナーゼ溶液(1mL)を、296nmの照明を当てる前または後に、分子内でクエンチされたプローブBODIPY FL L-シスチン(図6)と共に、20μMの最終濃度で、暗所に20分間25℃においてインキュベートした。BODIPY FL L-シスチンを含む各クチナーゼサンプルを480nm(BODIPY Fl Lシスチンの励起波長)において励起させた。それぞれ4nmおよび2nmに設定された励起スリットおよび発光スリットを用いて、500nmと620nmの間の発光スペクトルを記録した。照明を当てている間にクチナーゼサンプルで発生した任意のチオール基を、(2つのbodipy基を含む)プローブBodipy FL L-シスチンのSS基と反応させ、この分子の破壊を生じさせ、2つのbodipy基の間の距離を結果として増加させた。このことは、順に各bodipy基の蛍光発光強度を増加させる。図7で見られるように、天然クチナーゼ(B)と比較して、変異体クチナーゼ(A)へ照明を当てることは、Bodipy蛍光を増加させず、変異体内にチオール基の形成がないことを示している。このことは、296nmの照明を当てる際に、W69A変異近くの変異体クチナーゼ内のジスルフィド架橋が、密に空間的近接におけるTrp残基がないために損なわれないままでいることを証明する。
【0059】
UV照明を当てた後に天然クチナーゼ内で切断されたジスルフィド架橋の同一性は、さらなる研究によって確かめられた。天然クチナーゼは、2つのジスルフィド架橋を有することが知られている。そのうちの1つは、活性部位の近くに位置し、それが完全な状態であることは、酵素活性に不可欠である。活性部位から離れている第2のものは、Trp残基に近い。UV照明を当てた後に、天然クチナーゼはその酵素活性を維持することが見出されているので、表面に位置するジスルフィド架橋のみが切断されることは明らかである。Prompers et al.1999,FEBS Lett.456:409-16.によるNMRデータおよび質量分析データは、UV照明を当てることにより切断されたSS架橋がTrp残基に近いものであることもまた示している。UV照射後の天然クチナーゼ内でのDTNB検出可能なチオール基の形成は、ジスルフィド架橋の切断を定量化する新たな手段を提供する。UV照明を当てた後では、1個のクチナーゼ分子につき1個のみのチオール基が検出された。このことは、2番目のチオール基が溶媒に接近できない場合に、表面近くに位置するジスルフィド結合が切断されることと一致している。第2のジスルフィド結合のシステイン残基の少なくとも一つは、溶媒を使用し得るが、切断を検出しなかった。
【0060】
[実施例4:光誘起Trp−SS三つ組を有するタンパク質の予測]
選択された(trp)残基のインドール環内の炭素原子または窒素原子が、ジスルフィド架橋のS原子から5Å未満以内に位置する、ジスルフィド架橋および芳香族残基を含むタンパク質は、構造生物情報学のための研究協力(Research Collaboration for Structural Bioinformatics(RCSB))のタンパク質データバンク(Bergman et al.2000,Nucleic Acids Research,28:235-242)において同定された。NMRまたはX線結晶構造のいずれかが利用可能なタンパク質のみが考慮されている。原子と三つ組との間の距離は、www.expasy.org.spdbvにおける分子視覚化プログラムDeep View/Swiss-Pdb Viewer(Guex,N and Peitsch,M.C.,1997,Electrophoresis 18:2714-2723)を用いて測定した。選択されたタンパク質を、90%未満の配列同一性を有し、様々な酵素クラス[ECナンバーおよび分類]の各々に属しているタンパク質の分類されたリストと一致させた。この分析の目的のために、trp−SS三つ組がリガンドに位置しているそれらのタンパク質(ヒドロラーゼ)は考慮されなかった。さらに、分子ダイマー、トリマーなどまたは単位細胞内の分子の繰り返しのために、PDBエントリーで1回以上発生している三つ組は、ただ1度考慮されただけであった。
【0061】
Trp−SS三つ組は、クチナーゼが一員であるヒドロラーゼ酵素の間では、一般的なものであることが判明した。これらのタンパク質の各々において同定されるTrp−SS三つ組から8Å、12Åおよび15Åの半径以内に位置するアミノ酸残基を(球形の領域の中心が、ジスルフィド結合と最も近くに位置しているトリプトファンのインドール環である)、それらの特性に従って計算してグループ分けした。Gly、Ala、Val(短鎖の脂肪族);Leu、Ile(長鎖の脂肪族);Pro;Ser、Thr(ヒドロキシルを含む);Cys、Met(硫黄を含む);Asn、Gln(アミド);Asp、Glu(酸性);His、Lys、Arg(塩基性);Phe、Tyr、Trp(芳香族)。一般に、タンパク質中のアミノ酸の各グループの出現の平均頻度は、Mathews,Christopher K.および van Holde,K.E.(「Biochemistry」2nd Edition,The Benjamin/Cummings Publishing Company,Inc.,1996,ISBN:0-8053-3931-0)によって決定された。その頻度は、23.4%(Gly、Ala、Val);12.1%(Leu、Ile);4.6%(Pro);13.1(Ser、Thr);4.5(Cys、Met);8.3%(Asn、Gln);11.7%(Asp、Glu);13.8%(His、Lys、Arg)および8.1%(Phe、Tyr、Trp)である。
【0062】
各残基の出現を数え、残基の特性に従ったグループに整理した。芳香族残基の数から1つのトリプトファンを引いて、各範囲の残基リストからの硫黄を含む残基で出現する数から2つのシステインを引くことによって、三つ組残基からの寄与を除去した。後に、各グループに対するサブセット、f(サブセット)、における出現の頻度を以下のように計算した。
式2.1 f(サブセット)=グループ内の残基の数/サブセットの全体の残基の数
【0063】
f(サブセット)を使って、一般にタンパク質内で出現する頻度で、サブセット中に出現する頻度を割ったものとして分別スコアを計算した(表2.1参照)。
式2.2 スコア=f(サブセット)/f(タンパク質)
したがって、「スコア」>1は、残基/グループが平均を超える出現率であることを意味する。「スコア」<1は、残基/グループが平均未満の出現率であることを意味する。
【0064】
各三つ組についての表の欄に整理された残基の各グループについてのスコアにより、その三つ組とクチナーゼ(W69、S31、S109)の内の1つとの類似性をデータ分析ツールパック(Data Analysis Tool Pack)の相関ツールを使って計算した。このオペレーションは、クチナーゼの三つ組と三つ組(n)との間の類似性の指標として相互関係係数を割り出した。
【0065】
相関係数は以下のように計算される。
式2.3
【数1】
式中、t[cut]およびt[n]は、クチナーゼの三つ組および三つ組みnをそれぞれ示しており、三つ組の標準偏差を考慮している。
【0066】
相関係数を使って、クチナーゼとそれらの類似性に関して三つ組を分類した。結果の図式的表現を、予想より少なく出現する残基のグループを表す1未満のスコアおよび予想通りおよび予想される頻度より多く出現する残基のグループを表す1以上のスコアについてのスコアの輪郭プロットとして作成した。
【0067】
特に、8Åの半径以内で、アミノ酸残基の特定のサブセットを同定した。それは、一般に、タンパク質内のアミノ酸の出現の平均頻度から、特に残基(Phe、Tyr、Trp)(Asp、Glu)(Asn、Gln)およびプロリンの存在率に関して、明らかに区別されるものである(図9)。したがって、アミド残基(Asn、Gln)は平均を超える出現率であり、多くの場合、短鎖の脂肪族残基(Gly、Ala、Val)および/または長鎖の脂肪族(Leu、Ile)の出現率もまた平均を超える。ほとんど全ての三つ組において、荷電アミノ酸残基(His、Lys、Arg)(Asp、Glu)およびプロリン残基のグループは、平均未満の出現率である。
【0068】
三つ組の8Å半径以内で見られるアミノ酸の特定のサブセットの保存は、12Åおよび15Åにおいてはほとんど見られない。免疫グロブリン内のtrp−SS三つ組の近傍の8Å半径以内に位置するアミノ酸残基の分析は、ヒドロキシルを含むアミノ酸が平均より多く出現すること、および多くのIgG Trp S−S三つ組で芳香族の残基もまた平均を超える出現率であることを明らかにした。1つのまたは両方のアミドアミノ酸(Asn、Gln)および脂肪族残基の出現はまた、TrpSS空間的三つ組周りのそのアミノ酸組成がクチナーゼ三つ組(IGG1三つ組Aグループの免疫グロブリン部分)と非常に似ている多くの免疫グロブリンで、平均を超える率である。これらの免疫グロブリンでは、我々はまた、荷電アミノ酸(His、Lys、Arg)(Asp、Glu)およびプロリン残基のグループの平均未満の出現率も観察している(図11および図12)。芳香族Trp側鎖の発光双極子の面の間の角度が、ジスルフィド架橋の吸光双極子の面と直角をなすそれらのTrp−SS三つ組は、励起状態Trpとジスルフィド架橋との間に励起エネルギーを交換する可能性が小さい。
【0069】
Trp−SS三つ組、およびクチナーゼのTrp−SS三つ組の8Å半径以内で見いだされたものに類似しているアミノ酸残基のサブセットの両方を含んだ、このタンパク質のグループのいくつかのメンバーの光誘起特性を実験した。変異体クチナーゼについて実施例3で記載したように、分子間でクエンチされたプローブBODIPY FL L-シスチン(図6)を使って光誘起ジスルフィド架橋の切断について各タンパク質をアッセイした。以下のタンパク質は、図8AからFに示したように、光誘起のTrp−SS三つ組を含むことを全て呈示した。ニワトリ卵白リゾチーム(lysosyme)、Rhizopus niveusトリグリセリドリパーゼ、ヒトプラスミノーゲン、ヒト胎盤アルカリホスファターゼ、キモシンBおよびヒト免疫グロブリン。
【0070】
タンパク質α−ラクトアルブミンは4つのジスルフィド架橋を有するが、そのうちの2つ、すなわちCys6−Cys120およびCys73−Cys91はUV照明で切断される(Vanhooren et al.(2002)Biochemistry,41(36):11035-11043)。α−ラクトアルブミン内のCys73−Cys91およびCys28−Cys11の両方が、トリプトファンのインドール環に最も近い原子の4Å以内に位置している硫黄原子を少なくとも1つ有するが、前者のみが光誘起切断される可能性がある。三つ組Trp118−Cys28−Cys111とは対照的に、三つ組Trp60−Cys73−Cys9は、8Åの球形領域の中に位置しており、そのアミノ酸組成は、特に(Phe、Tyr、Trp)(Asp、Glu)(Asn、Gln)およびプロリン残基の存在量に関して、クチナーゼ三つ組のアミノ酸組成と類似している(図10)。
【0071】
[実施例5:光誘起クチナーゼカップリング]
いくつかの他のタンパク質と同様、照射に反応して起こるFusarium solani pisi由来のモデルタンパク質クチナーゼの遊離SH基の形成は、実施例1、2および3で示されてきた。その結果、クチナーゼの反応性チオール基は、溶媒に接近可能な遊離チオール基または溶媒に接近可能なジスルフィド架橋のいずれかを有する溶液中の担体分子にカップリングすることができる。溶液中での担体分子にカップリングされた光誘起クチナーゼの方法は、図2と6に示されるように、295nmの光の照射によって誘起されたクチナーゼの遊離チオール基を、DTNBおよびBODIPY Fl L−シスチンのジスルフィド基へカップリングさせることに例証される。タンパク質(リゾチーム、リパーゼ、プラスミノーゲン、アルカリホスファターゼ、キモシン、免疫グロブリン)の各々とBODIPY Fl L−シスチンとの間の光誘起カップリングもまた実施例3(図8)で証明される。
【0072】
カップリング反応は次のように行われた。実施例1および2で記述したように、20mMのTrisHCI(pH8.5)中の17.3μMクチナーゼ溶液の3mLに、RTC 2000 PTI分光計を使って、様々な時間の間で石英マクロキュベット(1cm径)の中において295nmの光の照明を当てた。295nmの照明の前または後に、過剰のDTNB(無水メタノール中の100μLの8.5mMのDTNBストック溶液)を900μLのクチナーゼ溶液に添加した。その2つの成分を混合した直後に、放出されたNTBイオンの吸光度(ニトロチオベンゾエートイオン、ε412nm=13600M-1cm-1)をUV/可視ファルマシア(Pharmacia)分光光度計により412nmにおいて測定し、反応時間20分後および24分後に25℃において再び測定した。DTNBとのカップリング反応は、結果として化学量論量のNTBイオンを生じさせる。したがって、カップリングされたクチナーゼの濃度は、412nmにおける吸光度に比例している。無水メタノール中の8.5mMのDTNBストック溶液100μlを含むコントロールサンプルは、900μLの照射されていないクチナーゼ(20mMのTris−HCI(pH8.5)中の17.3μMクチナーゼ溶液)と混合した。
【0073】
[実施例6:光誘起タンパク質固定化]
タンパク質(例えば、Fusarium solani pisi由来のクチナーゼ)の中に形成される遊離反応性チオール基を使って、照明(実施例1、2と3に示されるように)に対応して、そのタンパク質をチオール反応性支持体または担体分子に結合させる。支持体または担体は、金、チオール基で誘導体化される金、またはSH基で誘導体化された石英表面、またはSH基で誘導体化されたポリマー支持体もしくは担体分子であるかどうかに関わらない。固定化されたタンパク質は、それらの機能特性(例えば、酵素特性)を保つことが示される。
【0074】
ポリマー支持体を、N−ヒドロキシスクシニミドエステルにカルボキシメチル基を修飾するNHS/EDCで最初に活性化することによって、SH基で誘導体化する。その後、0.1Mのホウ酸塩緩衝液(pH8.0)中のシステアミンでインキュベートし、続いて0.1Mのホウ酸塩緩衝液(pH8.0)中のDTTまたはDTE(ジチオエリトリトール)でインキュベートすることにより、チオール基を支持体上に導入する。その支持体を、固定化の前に0.1Mのホウ酸塩緩衝液(pH8.0)で洗い流す。
【0075】
タンパク質もまた、SH基で誘導体化して、石英支持体に結合させる。その後、多くのタンパク質が例示されるように、下記の方法を使って、内部全反射蛍光発光(TIRF:Total Internal Refection Fluorescence)分光法により、固定化をモニターする。
【0076】
[ステップ1:TIRF分光法のための石英スライドの表面の調製]
石英スライド(12cm2)をクロモ硫酸(Merck 1.02499/Z624399)に70〜75℃において1時間浸漬することにより洗浄し、その後室温において水ですすいだ。OH基の数を増やすために、そのスライドを、脱イオン水中の5w/v%カリウム過硫酸(99%のK2S2O8、Acros Organics 20201-000)に99〜100℃において1時間浸漬することにより、水酸化させた。水酸化されたスライドを脱イオン水ですすぎ、迅速に乾燥した。
【0077】
その後、その水酸化スライドに、m−キシレン(99+%、Acros Organics 1808600100)中の0.03%v/vの3−メルカプトプロピル−トリメトキシシラン(Merck 63800)の内の150μLを塗布することにより、SH−活性化スライドを調製した。キシレン溶媒を完全にスライドから蒸発させ、その後、純粋なキシレン、エタノールおよび脱イオン水でその表面を連続的に洗い流し、最終的に乾燥させて、均一で光学的に完ぺきなシランコーティングを得た。
【0078】
[ステップ2:TIRF分光法による石英スライド上のタンパク質固定化]
SH活性化スライドまたはコントロールの水酸化スライドを、グリセロールと共に石英プリズムの上に乗せ、10μmのポリウレタンガスケットを有するフローチャンバーを取り付けた。75Wキセノンアーク光源で供給される分光蛍光光度計につながれたTIRF装置内で組み立てた。0.25mL-1の流速でフローチャンバーを洗い流すことにより、または下記の溶液でインキュベーションすることにより、タンパク質固定化を行なった。
a)スライドの水和のために、25mMのTris−HCL、pH8.5(緩衝液A)で5〜10分間。
b)緩衝液A中の0.5〜2.0μMのタンパク質溶液で25℃、10〜20分間。
c)緩衝液Aで10分間。
d)2v/v%のHelmanex II(Hellma GmbH & Co KH、ドイツ)のような非イオン性洗浄剤で5分間。
e)緩衝液A。
【0079】
280nmまたは296nmにおける連続的なUV照明、制限されたUV照明(10分間の光、または1秒間の光/分)に当てるか、または無照明(コントロール)の条件下で、タンパク質固定化を行ない、330nmにおける蛍光発光によりモニターした。固定化タンパク質活性を測定する前に、スライドをエタノールおよび水ですすいだ。
【0080】
上の手順を改変したものでは、タンパク質サンプル(例えば、2μMのクチナーゼ溶液)をUV照射する。続いて、インキュベーションおよび/またはサンプルで洗い流すことの後に、緩衝液Aおよび必要であれば未結合のタンパク質を除去するための洗浄剤でパージすることにより、SH誘導体化石英スライドグラス上に固定化する。
【0081】
[ステップ3:固定化された活性の酵素活性]
固定化手順の後に、蛍光発生酵素基質を石英スライドに塗布し、反応生成物を蛍光分光法によって検出した。
【0082】
[A.クチナーゼのUV誘起固定化]
図13に示されるように、連続照明または制限された照明の下でのSH活性化石英スライドおよび水酸化石英スライド上のクチナーゼの固定化を、330nmにおける蛍光発光を検出することによって、モニターした。フローチャンバーを洗い流し(A−B)、2.0μMのクチナーゼ溶液でインキュベートし(B−C)、緩衝液Aで濯がれ(C−D)、洗浄剤および緩衝液Aで濯がれる(E)。石英スライドと強固に結合していないクチナーゼを緩衝液および洗浄剤で洗い流している間に除去した。クチナーゼ固定化の相対的な効率は、蛍光発光強度から推論して、制限された照明より連続照明の下で方が大きく、SH活性化された石英表面(図14A)および照明(図14B)に依存していた。制限された照明の下での固定化は、タンパク質の光漂白の危険を減らすために使うことができる。光誘起のジスルフィド架橋の切断を示さない変異体クチナーゼ(W69A)は、同じ条件下で、SH活性化石英スライドに固定化されなかった(図14B)。
【0083】
石英スライド上に固定化されたクチナーゼの酵素活性を、蛍光性の4−メチルウンベリフェロンの放出と共に蛍光性でない基質の4−メチルウンベリフェリルブチレートのエステル結合切断を測定することにより、以下の手順に従って検出した。
a)25mMのTris−HCl、pH8.0中の10μMの4−メチルウンベリフェリルブチレート基質の内の25〜100μLを石英スライドの表面上に堆積させた。
b)スライドを室温で30分間インキュベートした。
c)UVの励起(365nm)の際のスライドの蛍光発光強度(450nm)をデジタルカメラでモニターした。(あるいは、反応混合物をマイクロタイタープレートウエルに移し、UV/可視光分光光度計によって蛍光発光をモニターすることができる。)
【0084】
基質4−メチルウンベリフェリルブチレートをDMSOに溶かし、アッセイ緩衝液に添加された25.2mMのストック溶液が得られる。
【0085】
活性化クチナーゼ酵素を、水酸化石英スライド(図15)ではなく、SH活性化石英スライド上で検出した。そのことは、さらにSH活性化石英支持体へのクチナーゼの光誘起カップリングがチオール基を介するものであるという観察を確証する。
【0086】
[B.リゾチームおよびキモシンのUV誘起固定化]
2μMのリゾチーム溶液またはキモシン溶液の固定化の石英スライド上への固定化を行ない、クチナーゼについて上述されるように、TIRF分光法によりモニターした。リゾチーム固定化は、光で活性化し、石英スライドのSH活性化に依存していることが示された(図16Bに対する図16A)。連続照明が10分に制限された場合、リゾチーム固定化のカップリング効率は増進することが判明した。キモシン固定化もまた、光で活性化し、SH−石英表面へのカップリングに依存していることが判明した(図16C)。
【0087】
リゾチーム活性の検出:リゾチーム特異性基質(EnzCheck Lysozyme、22013、Molecular probes社)を使ったことおよび蛍光発光シグナルが分光分析的に記録されたということを除いて、クチナーゼ活性の検出のために使われた手順に従って、石英スライド上に固定化されたリゾチーム活性を検出した。125μLの50μg/mL基質(0.1Mホスフェート/0.1M NaCl、pH7.5中)を石英スライドに滴下した。室温(20〜25℃)における30分間のインキュベーションの後、100μLの溶液を黒いマルチプレートの中のウエルに移した(96ウエル、Nunc 267742)。蛍光マルチプレートリーダー(SpectraMax Gemini XS)において、サンプルを495nmで励起させ、525nmにおける蛍光発光強度(FEI)を記録した。濃度および手順は、Molecular probes社製のEnzCheckリゾチーム活性アッセイキット22013に従ったプロトコルに基づいた。
【0088】
リゾチーム活性分析は、コントロール(暗部におけるSH活性化スライドまたはUVを伴う水酸化スライドの上での固定化/吸光を含む)と比較して、UV照明によりSH活性化スライド上でより大きい活性を示した。
【0089】
EnzCheckプロテアーゼキットE6639(Molecular Probes社)により、10mMのTris pH7.8(キットに含まれる緩衝液)中の10μg/mLの基質濃度を使って、キモシン活性の検出を行なった。室温(20〜25℃)における30分間のインキュベーションの後、100μLの溶液を黒いマルチプレートの中のウエルに移した(96ウエル、Nunc 267742)。蛍光マルチプレートリーダー(SpectraMax Gemini XS)において、サンプルを589nmで励起させ、625nmにおける蛍光発光強度(FEI)を記録した。濃度および手順は、Molecular probes社製のEnzCheckプロテアーゼ活性アッセイキットE6639に従ったプロトコルに基づいた
【0090】
[C.免疫グロブリンのUV誘起固定化]
パパインによる免疫グロブリンIgG複合体のタンパク質分解消化は、各々が2つのポリペプチドを含む2つのF(ab)フラグメントを生成する。IgG免疫グロブリンのFabフラグメントのドメインの得られる3D構造は、それらの全てがTrp/Cys−Cys三つ組を多く有することを示す。Fabフラグメントの得られる3D構造は、CH、VH、CLおよびVLドメインに存在しているドメイン内のジスルフィド架橋が、溶媒に接近できないことを示す。Fabフラグメントの塩基における保存領域を繋げる追加のドメイン間のジスルフィド架橋は存在し、抗原結合部位から遠く離れて位置している。このジスルフィド架橋は、溶媒に接近可能であって、Trp残基近くに位置している。
【0091】
F(ab)フラグメントのジスルフィド架橋、例えば、Trp196の10〜11Å以内にある1CBVマウスIgG1F(ab)のC末端ドメイン間ジスルフィド架橋(Cys136−Cys214)のUV誘起切断により、SH誘導体化支持体上のF(ab)フラグメントの配向した固定化を得ることができる。Fabフラグメントの一方の末端に位置している抗原結合部位は、固定化の部位から離れており、したがって抗原認識への有用性を維持している。
【0092】
以下の手順は、F(ab)フラグメントの精製、それらのUV誘起固定化および支持体とカップリングした機能的に活性なF(ab)フラグメントの検出を例証する。
a)Aybay et al.2003,Immunology Letters 85:231-235の手法に従って、パパイン(Sigma P4762)でマウスIgG1(Sigma M7894)を消化する。Pierce Biotechnology(イリノイ、アメリカ合衆国)により供給されるImmunoPure F(ab)キットを用いて、F(ab)フラグメントを精製してもよい。
b)上述したように、280nmから296nmまで波長のUV照明の助けにより、TIRF装置のフローセル中のSH活性化石英スライド上で、25mMのTris−HCl(pH8.0)中の1〜10μMのF(ab)フラグメント溶液を固定化する。内在する芳香族アミノ酸の近くにないタンパク質のドメイン間またはドメイン内のジスルフィド架橋の光誘起切断を容易にするために、芳香族アミノ酸を固定化緩衝液に含めることができる。そのことはまた、免疫グロブリンF(ab)フラグメントの固定化に有効に使用することもできる。暗部および水酸化支持体上でのコントロール固定化アッセイを行うことによって、カップリングの特異性をテストする。296nmにおける励起時の330nmの蛍光発光により、スライド上で固定化されたF(ab)の測定が可能となる。
c)Tris−HCl pH8.0で100倍に希釈された、抗マウスIgG F(ab)特異性フルオレセインイソチオシアネート抱合体(Sigma F2653)をフローセルの中に導入することによって、ステップb)で固定化されたF(ab)フラグメントの抗原結合活性を決定する。25℃における10〜30分のインキュベーションの後、緩衝液Aでフローセルを洗い流すことにより、未結合の抱合体を除去する。石英スライドに結合した抱合体の495nmにおける励起時の蛍光発光強度を525nmにおいて検出する。
【0093】
[D.グルコースオキシダーゼのUV誘起による固定化]
グルコースオキシダーゼを使って、液体(例えば、ヒトの血液)中のβ−D−グルコースを定量する。グルコースオキシダーゼは、Trp133から7から9Åに位置する溶媒に接近可能なtrp−SS三つ組(Cys164−Cys206)を含む。このジスルフィド架橋の光誘起切断は、担体とのカップリングに適したチオール基を作りだす。ジスルフィド架橋が活性部位から遠くに位置するので、その切断および続いて起こる支持体への発生したチオールのカップリングは、グルコースオキシダーゼの酵素活性を害さない。石英スライド上での2μMグルコースオキシダーゼ溶液の固定化を行ない、クチナーゼについて上述されるように、TIRF分光法によりモニターする。
【0094】
[実施例7:空間的に制御されたタンパク質固定化]
1〜2μm2の領域に空間的に限定して、クチナーゼ分子をSH活性化石英スライド上で固定化した。25mMのTris−HCl(pH8.5)中の5μMのクチナーゼ溶液の液滴を、室温においてSH活性化石英スライド上に滴下した。その液滴に296nmのレーザー光の照明を当てた。その場合、レーザープローブの先端を液滴の中に沈め、活性化石英表面の1〜2mm上に位置させて行なった。実施例6Aで与えられるクチナーゼアッセイを用いて、空間的に限定された領域において、固定化されたクチナーゼ活性をスライド表面上で検出した。
【0095】
[実施例8:UV光による可逆のタンパク質固定化]
UV光を用いて、光誘起固定化によりチオール反応性表面と結合しているタンパク質(例えば、クチナーゼ酵素)ジスルフィドを解放する。トリプトファン残基およびジスルフィド架橋が溶液中に存在している場合、トリプトファンへの照射により、光誘起メカニズムによりジスルフィド架橋が切断される。以下のステップに従って、UV光照射により固定化クチナーゼを解放する。
1.TIRF装置に固定化クチナーゼを含むスライドを置いて、350nmにおける蛍光発光によりスライド上に吸着されたタンパク質濃度をモニターする。
2.20μMのトリプトファン、または芳香族アミノ酸残基もしくは芳香族残基に似ている化合物を含む20mMのTris−HCl pH8.5緩衝液の連続的な流れにより、スライドをパージする。
3.5時間、295nmの光でスライドを照射する。
4.20mM Tris−HCl pH8.5緩衝液でスライドをパージする。
5.タンパク質溶離の後で、連続的に350nmにおけるスライドの蛍光を測定する。
【0096】
[実施例9:還元剤による可逆の固定化]
クチナーゼ酵素、光誘起による固定化によってチオール反応性表面と結合したジスルフィドをジスルフィド結合の化学還元により解放する。その後、タンパク質を還元剤のない20mMのTris−HCl pH8.5緩衝液中で透析し、タンパク質本来の構造を取り戻す。固定化クチナーゼを次のステップに従って還元剤によって解放する。
1.TIRF装置に固定化クチナーゼを含むスライドを置いて、350nmにおける蛍光発光によりスライド上に吸着されたタンパク質濃度をモニターする。
2.緩衝液(50mMのDTTを含む20mMのTris−HCl pH8.5)の連続的な流れにより、30分間、1時間または最高5時間までスライドをパージする。
3.20mMのTris−HCl pH8.5緩衝液でスライドをパージする。
4.タンパク質溶離の後で、連続的に350nmにおけるスライドの蛍光を測定する。
【0097】
[実施例10:タンパク質機能および安定性への光照射または還元剤の影響]
[A.クチナーゼ酵素活性への光照射の影響]
296nmの照明を当てられたタンパク質サンプル(クチナーゼ)は、暗所または標準的な(人工の)実験室ライトに置かれたタンパク質サンプルと比較して、少なくとも約3時間まで照明を当てた場合には、活性の減少を示さなかった(図17A)。
【0098】
クチナーゼ(25mMのTris pH8.5中の1μM)にPTI蛍光分光計(励起スリットを6nmにセットし、発光スリットを1/2nmに設定した)において照明を当てた。3mLのサンプルを石英キュベットに入れ、296nm(発光を330nmにおいて記録した)における連続照明の間に連続的に攪拌した(500rpm、7×2mmマグネットスティック)。照明を当てている時間を通して、5μLのサンプルを即座に行う(5〜10分の内)活性測定のために集めた。コントロールサンプルを人工光源(ネオンランプ)の下に実験室ベンチの上に置き、参照としてサンプルを暗所に置いた。
【0099】
3つのサンプル全ての活性を(重複して)評価した。コントロール目的のために、緩衝液の中の純粋な基質を同様に分析した。100μLの基質溶液(25mMのTris pH8.0中の10μMの4−メチルウンベリフェリルブチレート、Fluka 19362)を黒いマルチプレート(96ウエル、Nunc 267742)の中の8個のウエルにピペットで取った。蛍光発光マルチプレートリーダー(SpectraMax Gemini XS)において、サンプルを365nmで励起させ、450nmにおける生成物の蛍光発光強度(FI)を最初の8〜10分の間の各秒分ごとに記録した。蛍光の一時的な増加(分ごとのΔFI)を、タンパク質活性の測定として用いた(最初の10分の間、蛍光発光強度が反応時間と線形の関係で増加した。r2>0.98)。報告した活性は、UV照明下のサンプルの活性または人工光でのコントロールサンプルの活性を暗所に置かれた参照サンプルの活性によって割ったものの間の比である。活性を25℃+/−0.1℃において評価した。クチナーゼ活性へのDTTの影響。
【0100】
[B.クチナーゼ酵素活性への還元剤の影響]
30μMのクチナーゼを5.1mMのDTTで様々な時間の間インキュベートした。DTTの存在下でトリブチリンに対する時間依存性のクチナーゼ活性に従う実験の結果を図17Bに示す。DTTがない場合のクチナーゼは、26時間を越えても比活性を維持している。DTTの存在下での5.1mMのDTTに対する30μMのクチナーゼの比において、クチナーゼ比活性は、45分のインキュベーションの間に最初の活性の41%に減少した。4時間のインキュベーションの後には、比活性は最初の活性の21%であった。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】295nmの照明を当てる時間の関数として、350nmにおけるクチナーゼ蛍光発光強度を示す。
【図2】タンパク質のSH基と5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)のSS基との間のカップリング反応、およびニトロチオベンゾエート(NTB)の化学量論的放出を示す。
【図3】295nm(実線)の照明を当てた時間の関数として、350nmにおけるクチナーゼのTrp蛍光発光(F)強度の増加[F/Fo](実線)、および蛍光発光放射の増加[F/Fo]の特定の比に伴うクチナーゼサンプル内で新たに形成された遊離チオール基の濃度(白丸)を示す。
【図4】(A)DTTなしで25℃において[黒丸];(B)DTTなしで70℃において[黒の実線];(C)70℃に加熱し、25℃に冷却にした後に、DTTなしで25℃において[白丸];(D)70℃に加熱し、DTTを添加し、25℃に冷却にした後に、DTTありで25℃において[グレーの実線]、インキュベーションする間の295nmの光による励起時の1μMのクチナーゼ溶液の蛍光発光スペクトルを示す。
【図5】pH7.0における水溶液中での芳香族アミノ酸残基のスペクトル特性を示す。
【図6】遊離SH基の存在下でそのSS結合が壊れてBodipy基の蛍光をもたらす、分子内でクエンチされたプローブBodipy FL−L−シスチンの構造を示す。
【図7】Bodipy FL−L−シスチンとの反応による、296nmにおけるUV照明の前および後でのタンパク質サンプル内での遊離SH基の検出を示す。変異体クチナーゼ(W69A)(A);天然クチナーゼ(B)タンパク質サンプルのBodipy基の蛍光発光スペクトルは、照明なしでBodipyプローブなし();照明なしでBodipyプローブあり(●)および照明ありでbodipy処理あり(○)、で示される。
【図8】Bodipy FL−L−シスチンとの反応により、296nmにおけるUV照明の前および後でのタンパク質サンプル内での遊離SH基の検出を示す。ニワトリ卵白(hen white)リゾチーム(A);Rhizopus niveusトリグリセリドリパーゼ(B);ヒトプラスミノーゲン(C);ヒト胎盤アルカリホスファターゼ(D);キモシン(E);ヒト免疫グロブリン(F)タンパク質サンプルのBodipy基の蛍光発光スペクトルは、照明なしでBodipyプローブなし;照明なしでBodipyプローブあり、および照明ありでbodipy処理あり、で示される。
【図9】8Å半径以内の種々の空間TrpS−S三つ組隣接範囲の輪郭プロットを示す。種々の三つ組はx軸に沿ってプロットされ、クチナーゼ三つ組とそれらの類似性に従って並べられ(1cex;No.1にランク)、残基の種々のグループはy軸に沿ってプロットされる。スコアが>1であることは、残基/グループが平均を超える出現率であることを意味する。他方、スコアが<1であることは、残基/グループが平均未満の出現率であることを意味する。
【図10】8Å半径以内の種々の空間TrpS−S三つ組隣接範囲の輪郭プロットを示す。種々の三つ組はx軸に沿ってプロットされ、クチナーゼ三つ組とそれらの類似性に従って並べられ(1cex;No.1にランク)、残基の種々のグループはy軸に沿ってプロットされる。スコアが>1であることは、残基/グループが平均を超える出現率であることを意味する。他方、スコアが<1であることは、残基/グループが平均未満の出現率であることを意味する。α−ラクトアルブミン内の2つのTrpS−S三つ組が分析に含められる。ここで、Trp60−Cys73−Cys91はUV照射で切断可能であるが、Trp118−Cys28−Cys111は切断可能でないことが見出される。
【図11】免疫グロブリン中に存在するIGG1三つ組Aで同定された、8Å半径以内の種々の空間TrpS−S三つ組隣接範囲の輪郭プロットを示す。種々の三つ組はx軸に沿ってプロットされ、クチナーゼ三つ組とそれらの類似性に従って並べられ(1cex;No.1にランク)、残基の種々のグループはy軸に沿ってプロットされる。スコアが>1であることは、残基/グループが平均を超える出現率であることを意味する。他方、スコアが<1であることは、残基/グループが平均未満の出現率であることを意味する。
【図12】免疫グロブリン中に存在するIGG1三つ組Bで同定された、8Å半径以内の種々の空間TrpS−S三つ組隣接範囲の輪郭プロットを示す。種々の三つ組はx軸に沿ってプロットされ、クチナーゼ三つ組とそれらの類似性に従って並べられ(1cex;No.1にランク)、残基の種々のグループはy軸に沿ってプロットされる。スコアが>1であることは、残基/グループが平均を超える出現率であることを意味する。他方、スコアが<1であることは、残基/グループが平均未満の出現率であることを意味する。
【図13】296nmにおける連続照明または限定された照明の下でのSH活性化石英スライド上でのクチナーゼ固定化の間にTIRFフローセルで検出された296nmにおける励起の際の330nmにおける蛍光発光の経時変化を示す。フローチャンバーは、ステップAで2.0μMのクチナーゼ溶液で洗い流される。ステップBで2.0μMのクチナーゼ溶液でインキュベートされる。ステップC/Dで緩衝液Aによって濯がれる。ステップEで洗浄剤および緩衝液Aによって濯がれる。
【図14】A:連続照明または限定された照明の下でSH活性化石英スライドまたは水酸化石英スライド上で固定された天然クチナーゼの最終の蛍光発光強度(330nm、296nmにおける励起時)を示す。B:連続照明の下でまたは暗所においてSH活性化石英スライド上で固定された天然クチナーゼおよび変異体クチナーゼ(W69A)の最終の蛍光発光強度(330nm、296nmにおける励起時)を示す。
【図15】UV照明によりSH活性化石英スライドまたは水酸化石英スライドのいずれかの上で固定されたクチナーゼによって加水分解された4−メチルウンベリフェリルブチレートの蛍光発光強度(450nm、365nmにおける励起時)を示す。
【図16】10分間の連続照明(A)、または296nmにおける連続照明(C)の下で、および暗所(B)において、SH活性化石英スライドまたは水酸化上石英スライドでの(A)リゾチーム固定化、(B)リゾチーム(lysosyme)固定化、および(C)キモシン固定化の間にTIRFフローセルで検出された296nmにおける励起の際の330nmにおける蛍光発光の経時変化を示す。 図16A、BおよびCでは、フローチャンバーを、ステップ(a/A)ではタンパク質(リゾチームまたはキモシン)で10分間(最初の6.66分間は洗い流し/フロー)インキュベートする。ステップ(b/B)では緩衝液で10分間(最初の6.66分間は洗い流し/フロー)洗浄する。ステップ(c/C)ではHelmanex(2% pH10〜11)で4〜5分間(最初の3.33分間は洗い流し/フロー)洗浄する。ステップ(d/D)では残りの読み取りのため緩衝液で洗浄する(最初の3.33分間はフロー)。
【図17】A:(暗所に置かれたサンプルと比較して)クチナーゼサンプルの相対的な活性を296nmにおける照明または実験室の光に置かれる照明の関数として示す。B:5.1mMのDTTの存在下で(●、●)またはDTTなしで(○)、クチナーゼサンプルの相対的な活性を示す。DTTなしのサンプルに対する300分におけるデータポイントは、1600分において測定した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、担体上にタンパク質を架橋または固定化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子は、受動的に疎水性相互作用またはイオン相互作用のいずれかを通して、あるいは活性化した表面官能基への共有結合によって、担体または固体の表面の上に固定化することができる。固相化学および生物学スクリーニングのための固定化の有する大きな重要性に応えて、この技術の分析的な使用は広く探究されている。この技術は、バイオテクノロジーの多くの様々な領域で、例えば、診断、バイオセンサー、アフィニティクロマトグラフィー、およびELISAアッセイでの分子の固定化などの広い応用が見いだされている。固定化技術の有する価値は、DNAマイクロアレイの最近の発達によって証明されており、そこでは多数のオリゴヌクレオチドまたはcDNAサンプルが、空間的に処理可能な方法で固体の表面上に固定化される。これらのアレイは、生きている生体における遺伝子発現の全体的な分析を容易にすることによって遺伝子の研究に革命を起こした。類似のアプローチがタンパク質分析のために開発され、そこでは1ピコグラムぐらいの少量のタンパク質が、後になされる分析のためにマイクロアレイの上の各点に結合されている必要がある。後に、マイクロアレイに結合されたタンパク質は、機能的または構造的な特性のためにアッセイすることができ、従来は未知であったスケールおよび速度でスクリーニングを容易にしている。固体の表面に結合した生体分子(biomolecule)は、混合物中に存在している他の未結合の分子を捕獲するためにさらに使うことができる。
【0003】
この技術の開発は、制御された方法での固体の表面上に生体分子を固定化するという目標を持ち、結合部分の最小の表面移行およびその元来の構造および機能の完全な維持を伴い、近年の集中的な研究の主題であった(Veilleux J(1996)IVD Technology,March p.26-31)。最も単純なタイプのタンパク質固定化では、一般にタンパク質と表面との高い固有の結合親和力を利用する。例えば、タンパク質は、ファンデルワールス相互作用および水素結合相互作用を含む多数の弱い接触を介して疎水性基質に物理的に吸着する。この方法の利点は、結合することでタンパク質の改質が避けられるということである。他方、この方法で結合したタンパク質は、固体支持体上で不均一に分布し、および/または不活性となる。というのは、例えば、タンパク質が集合することにより、後になされるいずれの機能アッセイにおいても活性部位/結合領域の立体的妨害を起こし得るからである。
【0004】
固定化の別の方法は、固体の表面にタンパク質を結合させるためにいくつかの強い共有結合を使用することに依存するものである(Wilson D.S.,Nock S.,2001,Current Opinion in Chemical Biology 6:81-85)。例としては、ストレプトアビジンで覆われた支持体上へのビオチン化タンパク質の固定化、およびNi2+−キレート支持体へのポリヒスチジン配列を含むヒスチジンタグタンパク質の固定化が挙げられる。適切な表面に結合するために使うことができるタンパク質の表面上の他の官能基としては、シッフ塩基を介したアルデヒドとアミンの反応、ペプチド結合を形成するためのグルタルアルデヒド(gluteraldehyde)によるアミン表面へのアミン基の架橋、カルボジイミドとタンパク質および支持体表面上に存在するカルボン酸基との架橋、2つのチオール基の間のジスルフィド架橋形成に基づく架橋、およびチオール基と金表面との間のチオール−Au結合の形成が含まれる。
【0005】
アミンカップリングは、固定化化学で広く使われる方法である。N−ヒドロキシスクシニミドエステルは、水中でN−ヒドロキシスクシニミド(NHS)とN−エチル−N’−(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)とが反応し、後に自発的にタンパク質上でアミン基と反応して共有結合を形成する反応を介してカルボキシメチルデキストランマトリックスのカルボキシル基のフラクションから形成される(Johnsson B.,et al.,1991,Anal Biochem 198:268-77)。固定化の後に、支持体上の未反応のN−ヒドロキシスクシニミドエステルを、結合したタンパク質のないブロック領域に対し、1Mのエタノールアミン塩酸塩で非活性化させる。この方法は根気のいる作業である。というのは、化学固定化法の各ステップにおいて使われる試薬は、次のステップを始める前に通常除去される必要があるからである。
【0006】
ジスルフィド架橋を介する生体分子の固定化のための方法は、Veilleux J(1996)、上記により述べられている。タンパク質サンプルを、2−メルカプトエタノールまたはトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩のような穏やかな還元剤により処理し、システイン残基の間のジスルフィド結合を還元し、後に、マレイミドで被覆された支持体表面に結合させる。他のタンパク質上の第1アミン基は、2−イミノチオラン塩酸塩(Traut試薬)で修飾し、新たなスルフヒドリル基を導入することができ、その後、マレイミド表面に固定化される。ジスルフィド架橋を介しての金基質の上のタンパク質の固定化は、ポプラ由来のクプレドキシン(cupredoxin)タンパク質プラストシアニンに対して示される(Andolfi,L.et al.2002,Arch.Biochem.Biophys.399:81-88)。このタンパク質は、ジスルフィド架橋を欠くので、表面の露出した残基Ile21およびGlu25が共にCysにより置換された。挿入されたシステインの間のジスルフィド架橋形成は、精製された変異種プラストシアニンの3D結晶構造から確認された。細菌中の細胞内で発現される変異種プラストシアニンは、挿入されたシステインが還元されるような細胞質での還元環境に晒され、その結果、金基質上への単離されたタンパク質の直接の吸着を媒介することができる。したがって、タンパク質のチオール基結合特性は、タンパク質の表面上のシステイン残基のインビボまたはインビトロの化学的還元に依存している。
【0007】
タンパク質へのチオール基結合特性を設計するための別のアプローチは、4つの不可欠なシスチンを有するリボヌクレアーゼ(RNase)Aについて記述されている(Sweeney,R.Y.et al.2000 Anal Biochem.286:312-314)。この場合、単一のシステイン残基は、RNase AのN末端の近くで表面ループに位置しているAla19により置換された。発現されたRNase内のシステインは、2−ニトロ−5−チオ安息香酸と混合されたジスルフィドとして保護される。次になされる過剰のジチオスレイトールによる脱保護の後に、RNaseは、酵素活性の欠損なしに、架橋されたアガロース樹脂に付けられたヨードアセチル基とカップリングされる。また、固定化のためのタンパク質の調製は、保護剤および脱保護剤の両方に晒されることを必要とし、そのことはタンパク質の本来の構造および/または機能に悪影響を与えかねない。
【0008】
FAD依存酵素の電極上へのカップリングのための方法は、米国特許第6,350,368号に記載されている。それによって、アポ酵素は、結合部分に共有結合し、化学会合(例えば、チオール基を介して)または電極(例えば、金)の表面への付着を可能とする機能化FADと複合化(complexed)される。固定化されたFAD酵素複合体は、さらに電子メディエーター基により機能化され、検体または光学シグナルを変形するための電気化学システムに使うことができる。
【0009】
光によって誘起される固定化技法もまた探究され、炭素を含む支持体に光化学的に結合するためのキノン化合物を使用することを導いている(欧州特許EP0820483)。活性化は、UVから可視光までの範囲でイオン化しない電磁気放射能による照射の後に起こる。マスクを使って、次に起こる生体分子の付着に対する支持体のある特定の領域を活性化させることができる。照明を当てた後、光化学的に活性な化合物アントラキノンは、フリーラジカルとして反応し、ポリマー表面との安定したエーテル結合を形成する。アントラキノンは自然の生体分子で見いだされないので、適切なリガンドが生体分子に導入されなければならない。タンパク質の場合は、この追加のサンプル調製ステップは、キノンへの熱化学的なカップリングを必要とし、部位特異的ではないこともあり得る。
【0010】
光誘起の固定化技術のさらなる開発は、米国特許第5,412,087号および米国特許第6406844号で開示され、それは基質に結合したリンカーを調製するための方法を記載している。リンカー分子の末端には、光除去が可能な保護基(例えば、ニトロ芳香族化合物)で保護された反応性官能基が備えられる。露光の後、保護基は失われ、リンカーは、アミノ末端またはカルボキシ末端においてアミノ酸のようなモノマーと反応することができる。さらに、モノマー自体が、同様の光除去が可能な保護基を担い、後に続く反応サイクルの間に光により置換されることもあり得る。この方法は、固相合成へ特に応用できるが、支持体へのタンパク質の配向した結合を容易にはしない。
【0011】
酵素を固定化するための熱化学機能置換基および光化学機能置換基を有する二官能性試薬は、米国特許第3,959,078号で開示されている。光媒介活性化および酵素へのアジド基の共有結合カップリングを可能とするアリールアジドの誘導体が記載されており、固体支持体と熱化学的に反応する置換基について記載されている。この手順により固定化された酵素分子の配向は、制御されない。
【0012】
ヘテロ二官能性湿潤剤N−[m−[3−(トリフルオロメチル)ジアジリン−3−イル]フェニル]−4−マレイミドブチラミン(butyramine)を使って、配向した光依存の固体支持体上のタンパク質の共有結合固定化の方法は、WO91 16425の中で、およびCollioud A et al.(1993)Bioconjugate Chem.4:528-536)により記載されている。この架橋剤のアリールジアジリン機能は、光依存でカルベン媒介である、内部支持体またはタンパク質、炭水化物および核酸のような生体分子のいずれかへの共有結合を容易にする。架橋剤のマレイミド機能は、システインチオールの熱化学的改変によってチオール化された表面への結合を可能にする。タンパク質へのこの架橋剤の配向した結合は、マレイミド機能(maleimide function)とタンパク質表面上で露出したチオール基との間の熱化学的相互作用により得られる。しかしながら、この処理は、標的タンパク質の構造および活性を改変し得る。とはいえ、カルベン機能を介したタンパク質への架橋剤の光誘起による共有結合カップリングは、標的タンパク質の制御された配向を提供しないという欠点を有する。
【0013】
記述された固定化方法の大部分について、1つ以上の熱化学ステップ/化学ステップを使用することは、それらのいくつかが結合したタンパク質の構造および/または機能に有害な影響を与える可能性が高い危険な化学物質を時折り伴うのが、一般的である。その利用可能な方法は、しばしば侵入性であり、それによって外部の基が官能基の役を務めるためにタンパク質に導入される。そのことは、その生物活性および基質特異性を下げるだけでなく、タンパク質変性を引き起こす。
【0014】
タンパク質カップリングおよび固定化の当分野では、カップリングの方法を改良する必要がある。その改良においては、カップリングまたは固定化された成分の構造特性および機能特性は維持され、カップリングの配向は制御され得る。
【発明の開示】
【0015】
本発明は、安定した結合(共有結合またはチオール−Au結合)を介して担体上にタンパク質またはペプチドをカップリング方法であって、カップリングされたタンパク質またはペプチドの本来の構造特性および機能特性を維持し、1以上の化学的ステップを使用することを回避する方法を提供する。これは、高価であって時間がかかり、結合したタンパクの構造/機能に有害であり得るいくつかの化学反応を一般的に伴う、タンパク質固定化のための従来のカップリング方法と対照をなす。さらに、本発明の方法に従ってカップリングされたタンパク質またはペプチドの配向は制御され、その結果、例えば酵素特性のような機能特性が維持され得る。相対的に、大多数の公知のタンパク質カップリング方法は、生物活性の低下および検出限界の上昇という重大なリスクを伴い、担体上に固定化するタンパク質をランダムな配向へと導く。本発明は、タンパク質およびペプチドの固有の特性を利用する。それによって、これらの芳香族アミノ酸により吸収される光の長期の照射の後に、芳香族アミノ酸残基に密接して近くに位置しているタンパク質またはペプチド内のジスルフィド架橋が切断する。後に、タンパク質またはペプチド内で光誘起されたジスルフィド架橋の切断により作り出されたチオール基は、担体にタンパク質またはペプチドを固定化するために使われる。
【0016】
本発明の最初の態様によれば、担体上にジスルフィド架橋を有するタンパク質またはペプチドをカップリングする方法であって、チオール基を形成するタンパク質またはペプチドに照射するステップと、照射されたタンパク質またはペプチドをチオール基に結合可能な担体と共にインキュベーションするステップとを含む、方法が提供される。本発明によるカップリングは、タンパク質またはペプチドをチオール基に結合可能な担体と共にインキュベーションするステップと、担体の存在下でタンパク質またはペプチドに照射してタンパク質またはペプチドにチオール基を形成し、それにより担体上のチオールリガンド結合基へのカップリングを得るステップにより、さらに可能である。カップリングまたは固定化のこの方法によれば、照射は1以上の芳香族アミノ酸を励起させる波長の光を含む。タンパク質内の照射された芳香族アミノ酸は、トリプトファン、チロシンおよびフェニルアラニンを含み得る。またあるいは、芳香族アミノ酸はトリプトファンである。本発明のさらなる態様によれば、照射は、295nm、254nmまたは275nmの近くの波長を含む。本発明のさらなる態様によれば、照射されたタンパク質またはペプチドは、ペプチド、タンパク質または他の任意の生体分子を含む担体とカップリングされる。あるいは、支持体へのカップリングが固定化され得る場合、照射されたタンパク質またはペプチドは、金を含む支持体とカップリングするか、チオール結合基で誘導体化(derivatise)されるか、またはチオール基もしくはジスルフィド架橋を有する。必要であれば、担体または支持体は、スペーサーを含む。本発明のさらなる態様によれば、担体にタンパク質またはペプチドをカップリングする開示された方法に従って生成されたところのカップリングされたタンパク質またはペプチドを含む担体または支持体が提供される。本発明のさらなる態様によれば、担体にタンパク質またはペプチドをカップリングする開示された方法に従ってカップリングされるタンパク質またはペプチドとしては、酵素、転写因子、タンパク質ドメイン、抗原、抗体または結合タンパク質、並びに他のタンパク質または他のペプチドが挙げられる。本発明のさらなる態様によれば、担体にタンパク質またはペプチドをカップリングする開示された方法に従ってカップリングされる担体としては、薬剤が挙げられる。本発明のさらなる態様によれば、担体にタンパク質またはペプチドをカップリングする開示された方法に従って生成されたところのカップリングされるタンパク質を含む担体または支持体は、生体機能アッセイのために、または生体機能アッセイを提供するキットとして使用される。生体機能アッセイのためのこの使用には、バイオセンサー、クロマトグラフィー、免疫検出、酵素アッセイ、ヌクレオチド結合検出、タンパク質−タンパク質相互作用、タンパク質修飾、担体標的化またはタンパク質標的化が含まれる。
【0017】
本発明のさらなる態様では、照射によって切断可能なジスルフィド架橋を有するタンパク質またはペプチドを識別するための方法が提供される。
【0018】
[定義]
本明細書で用いられる用語「UV光」、「照射」、「UV照明(illumination)」、または「UV照射」は、ある範囲の波長のUV光もしくは単一の波長のUV光または多光子励起のためのIR/可視光であり、特に芳香族アミノ酸または芳香族アミノ酸に似た他の芳香族系を励起させるものである。好ましくはおよそ295nm、275nmまたは254nmの波長、より好ましくはトリプトファン、チロシンまたはフェニルアラニンを励起させる波長、最も好ましくはトリプトファンを励起させる295nmの波長である。
【0019】
本明細書で用いられる用語「タンパク質」は、ポリペプチド、タンパク質および抗体のフラグメント、または他の任意のアミノ酸ベースの物質を含む。さらに、用語「タンパク質」は、酵素、抗体、抗原、転写因子、結合タンパク質(例、DNA結合タンパク質)、またはタンパク質ドメインを含む。
【0020】
本明細書で用いられる用語「空間的隣接」は、3次元において近接な位置にある基が空間的に隣接であると考えられるような、組成物内の2つの化学基の間の物理的距離に関する。照射後に芳香族アミノ酸が励起エネルギーを吸収する場合、芳香族残基に空間的隣接であるタンパク質内のジスルフィド架橋は、クエンチャーとして機能し得る。トリプトファン残基と空間的隣接であり、クエンチャーの役を務め得るジスルフィド架橋の半分のシスティンの間の物理的距離は、1〜10Åの範囲であり得るが、それに限定はされない。
【0021】
本明細書で用いられる用語「担体」は、可溶性の化合物もしくはポリマーまたは不溶性の化合物もしくはポリマーであり得、その化合物もしくはポリマーは、照射で誘起されるチオール基にカップリングできる反応性のSH結合またはSS結合のようなチオール結合リガンドを含む。用語「担体」はまた、例えば、他のタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドのような他の生体分子であり得る。さらに用語「担体」には、金支持体またはチオール結合リガンドを有する誘導体化された支持体のような、照射により誘起されたチオール基にカップリングすることができる物質を含む支持体が含まれると理解されるべきである。
【0022】
本明細書で用いられる用語「支持体」は、電子チップ、スライド、ウエハース、粒子、樹脂、ウエル、チューブまたは薄膜のような任意の支持体材料であり得る。これらには、以下のものを含む任意の材料が含まれるが、限定はされない。ポリマー(例、トパーズ(Topaz)、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリエーテルイミド(polyethermides)、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリメチルメタクリレート[PMMA]、ポリ(フッ化ビニリデン)[PVDF]);シリコーン;ダイヤモンド;ガラス(例、石英およびシリカ);ケイ素(例、シリコンウエハース);金属;薄膜(例、ナイロン薄膜、ニトロセルロースフィルター);ゲル、アガロースまたはセルロースのような多孔性の物質;セラミック等。さらに、支持体には、介入しているスペーサーの有無にかかわらずチオール基の結合を容易にする支持体の誘導体の全ての形態が含まれる。
【0023】
本明細書で用いられる用語「スペーサー」には、タンパク質と担体との間にリンクを提供する目的、または支持体の表面の上方へ固定化されたタンパク質を持ち上げる目的を有する化合物の鎖が含まれる。
【0024】
本明細書で用いられる用語「薬剤」には、ヒトまたは他の動物において病気の診断、治療、緩和、処置または防止で使用されるように意図された物品、およびヒトまたは他の動物の身体の構造または任意の機能に効果があるように意図された物品(食物以外)、ならびに上記で特定した任意の物品の成分として使用されるように意図された物品が含まれる。
【0025】
本明細書で用いられる用語「生体機能アッセイ」には、バイオセンサー、免疫検出、酵素アッセイ、ヌクレオチド結合検出、クロマトグラフィー、タンパク質−タンパク質相互作用、タンパク質修飾、担体標的化またはタンパク質標的化が含まれる。
【0026】
本明細書で用いられる用語「バイオセンサー」には、アミノ酸(例えば、システイン)、タンパク質、抗体、核酸、微生物または細胞のような生物または生物由来の感知性要素を組み込んでいる分析的なデバイスが含まれる。その感知性要素は、生理化学的変換器内で一体化されるか、または生理化学的変換器と密に結び付けられる。バイオセンサーの一般的な目的は、単一の検体または検体に関係あるグループに比例している不連続または連続のいずれかのデジタル電子シグナルを発生させることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、照射により誘起されるタンパク質の構造変化に関し、それらの光分解を遅らせると考えられているタンパク質の固有の特性を利用する。タンパク質がUV照射にさらされる場合、いくつかのジスルフィド架橋は切断し、活性化チオールが形成される。ジスルフィド架橋は、折りたたまれたタンパク質の構造の核において、およびその表面の上/近くで一般に見いだされるが、芳香族アミノ酸に密に近接した位置にあるジスルフィド架橋が、UV誘起により切断する可能性が最もある。タンパク質のUV暴露の間に、芳香族アミノ酸残基の側鎖によって吸収されたエネルギーは、クエンチャーとして機能する隣接のジスルフィド架橋に移される(Neves-Petersen MT.,et al.,2002,Protein Science 11:588-600)。しかしながら、ジスルフィド架橋に移されたエネルギーの流れ、およびサンプルの光励起により形成されたラジカル/イオンのような中間化学種の形成が起こり得ることは、ジスルフィド架橋の切断を引き起こすのに最終的に役立つ。
【0028】
タンパク質中で密接な空間的隣接にあるトリプトファンを有するジスルフィド架橋が存在することは、本来頻繁に起こり、光誘起によるジスルフィド架橋の切断が広範囲にわたる現象であることを示している(Petersen MTN.,et al.,1999,Protein Engineering 12:535-548;Neves-Petersen MT et al.,2002,Protein Science 11:588-600;Vanhooren A et al.2002,Biochemistry 10;41(36):11035-11043)。
【0029】
担体上のタンパク質の配向した固定化のためのこの照射誘起現象の利用は、本発明の基礎となるものである。菌類Fusarium solani pisi由来のクチナーゼは、担体上での光誘起ジスルフィド架橋還元のプロセスおよびそれらの固定化を例証するために提供されるいくつかのモデルタンパク質の1つである。しかしながら、本発明の応用は、決してモデルタンパク質に限定されない。クチナーゼは、クチンを分解可能な脂肪分解酵素であり、植物の葉の表面で見いだされる不溶性の脂質ポリエステルマトリックスである。クチナーゼは、工業的に重要な酵素であり、脂肪の除去のために洗剤に組み込むことが提案されている。クチナーゼは、タンパク質の単一のトリプトファン残基に密接に近接している2つのジスルフィド架橋(1つは活性部位の近くに、1つはタンパク質の反対極の末端にある)を有する。活性部位の近くに位置しているジスルフィド架橋の化学的還元は、酵素を不活性なものとする(Soliday CL,et al.,1983,Biochem Biophys Res Commun 114:1017-22)。
【0030】
その本来の構造において、F.solani pisiクチナーゼの1つのトリプトファン残基は、隣接したジスルフィド架橋が存在するためにかなりクエンチされる。クチナーゼへの長期の選択的な295nmでの照射の後に、単一のTrp残基の蛍光の発光量は、隣接するジスルフィド架橋の切断に伴い、同時に増加する。クチナーゼでのTrp残基の増加した発光量は、ジスルフィド架橋の損失および励起状態でTrp残基をクエンチする能力を反映する。
【0031】
ジスルフィド架橋は、励起状態の芳香族残基の優れたクエンチャーであることが知られている。密に空間的近接である任意の芳香族残基は、隣接するジスルフィド架橋の光誘起切断を起こすことができる。それゆえ、タンパク質中で見いだされる3つの芳香族アミノ酸(トリプトファン、チロシンおよびフェニルアラニン)は、光誘起のジスルフィド架橋の切断の可能性がある全ての媒介物である。240nmから300nmまで拡張した波長の範囲の光による照射で全ての芳香族残基が励起するが、個別の芳香族残基は、異なった吸光最大値(表1;中性のpHにおいて得られたデータ)を有する。
【0032】
【表1】
【0033】
芳香族アミノ酸残基の励起スペクトルは部分的に重複するだけなので、単一または狭い波長範囲におけるタンパク質照射は、異なった度合に個別の残基を励起させる。295nmにおける照射は、タンパク質中で選択的にトリプトファン残基を励起させるために使うことができる。280nmにおける照射は、チロシンおよびトリプトファン残基の両方を励起させ、それから共に光誘起のジスルフィド架橋の切断を起こすことができる。照射が多光子励起によって行われる場合、例えば、二光子励起が実行される場合は、サンプルには、単一の光子の実験で使った光子の2分の1のエネルギー(2倍の波長)の光子(光)が照射される。例えば、トリプトファンの電子励起は、295nmの紫外光または約690nmの波長における2光子により達成される。さらに、励起したチロシン残基は、順にジスルフィド架橋の切断を起こすことができる蛍光共鳴エネルギー転送と呼ばれるメカニズムにより、隣接するトリプトファン残基の励起をもたらすことができる。
【0034】
選択された波長における所与のタンパク質内でのジスルフィド結合の切断が、タンパク質の3D構造での各ジスルフィド架橋の場所および隣接するアミノ酸から予測され得ることは当業者には明白である。芳香族アミノ酸残基の近くに空間的に配置されるジスルフィド架橋は、UV光に対し最も不安定である可能性が高い。密に空間的に近接している空間的三つ組Trp Cys−Cysを含むタンパク質のサブセットの3D構造を、いずれのアミノ酸が当該三つ組のトリプトファン残基の直接の近傍に位置しているかについて明らかにするために調べられた。この分析により、クチナーゼの三つ組周辺のアミノ酸隣接組成と同様の組成を有するタンパク質が同定され、それは、どのタンパク質がUV照明により壊れた三つ組のジスルフィド結合を有するか予測するために使うことができる。タンパク質内での空間的TrpSS三つ組の周辺のアミノ酸組成の特徴は、それがUV誘起の切断の可能性があるかどうか予測するために使われるかもしれないが、次の通りである。1)芳香族アミノ酸残基は、ジスルフィド結合の10Å以内に位置する。2)芳香族のTrpの側鎖の発光双極子(emitting dipole)の平面間の角度が、ジスルフィド架橋の吸光双極子(absorbing dipole)と直角であるTrp−SS三つ組は、励起状態のTrpとジスルフィド架橋との間の励起エネルギーを交換することが見込めない。3)クチナーゼ、リゾチーム(lysosyme)、リパーゼ、プラスミノーゲン、キモシンおよびα−ラクトアルブミン(および免疫アルブミン−下記参照)について証明されたように、一般のタンパク質内でのアミノ酸の出現の平均頻度と異なっているアミノ酸残基の特定のサブセットが、タンパク質のUV切断されたTrpS−S三つ組から半径8Å以内に見いだされる。アミノ酸のこの特定のサブセットでは、アミドアミノ酸残基(Asn、Gln)は平均を超える出現率であり(over-represented)、大部分の場合、短鎖の脂肪族残基(Gly、Ala、Val)および/または長鎖の脂肪族残基(Leu、Ile)の出現もまた平均を超える率である。
【0035】
8Åマップを12Åマップおよび15Åマップと比較して、いかにマップの輪郭が薄れていくかが観察され得る。サブセットのアミノ酸の組成は、平均的なタンパク質の組成に近づいていく。3つのマップの全てでなされる観察は、ほとんど全ての三つ組において、荷電アミノ酸(His、Lys、Arg)(Asp、Glu)およびプロリン残基のグループが平均未満の出現率(under-representation)ということである。
【0036】
免疫グロブリンのTrp−SS三つ組の近接の8Å半径以内に位置するアミノ酸残基においては、ヒドロキシルを含むアミノ酸が平均を超えて出現する(over-representation)。多くのIgG TrpS−S三つ組において、芳香族の残基もまた、平均を超える出現率である。多くの免疫グロブリン(TrpSS空間的三つ組の周りのそのアミノ酸組成がクチナーゼ三つ組(IGG1三つ組Aグループの免疫グロブリン部分)と非常に似ている)において、1つのまたは両方のアミドアミノ酸(Asn、Gln)および脂肪族残基の出現はまた、平均を超える率である。これらの免疫グロブリンでは、我々はまた、荷電アミノ酸(His、Lys、Arg)(Asp、Glu)およびプロリン残基のグループの平均未満の出現率も観察している。全体的に、これらのパラメータは、タンパク質内のいずれのジスルフィド架橋がチオール基とカップリングできる担体と光誘起カップリングできるかを識別するために使うことができる。
【0037】
このようなタンパク質の1つが、ヤギα−ラクトアルブミンである。ヤギα−ラクトアルブミンの三つ組のトリプトファン残基の周りの8Åの球の内側に位置しているアミノ酸残基は、クチナーゼのそれに非常に類似している。さらに、ヤギα−ラクトアルブミンのUV励起の際に、トリプトファン残基に隣接しているそれらのジスルフィド架橋が切断され、遊離チオール基が形成されることが最近示された(Vanhooren A et al.,2002,上記)。所与のタンパク質中の推定上のジスルフィド架橋のUV安定性を、同種のタンパク質の3D構造が知られていて、所与のタンパク質の3D構造の相同モデリングのために使うことができるのであれば、単にその1次構造、すなわちアミノ酸配列に基づいて予測することもまた可能である。
【0038】
組換えDNA技術の公知の方法を使い、アミノ酸置換体をタンパク質配列の中に導入し、さらなる光切断ジスルフィド架橋を作り出すことができることもまた明白である。このような置換体は、内在のジスルフィド架橋または組換えを用いて設計されたジスルフィド架橋の密に空間的隣接物として、タンパク質内にトリプトファン残基または他の芳香族アミノ酸残基を導入することができる。または、ジスルフィド架橋は、内在の芳香族残基と密に空間的近接している状態で導入され得る。あるいは、芳香族およびジスルフィド架橋の両方が、互いと密に空間的近接している状態で導入され得る。タンパク質内でのトリプトファン残基の選択的な励起を可能とするので、295nmの光による照射が好ましい。それは、単一または限定された数のジスルフィド結合の切断を順に導き得る。一連の波長においてタンパク質への照射に適した、ジスルフィド結合切断の光誘起に適した種々の光源としては、RTC PTI分光計のような研究レベルの分光計からの75−Wキセノンアーク灯、重水素ランプ、高圧水銀ランプが挙げられるが、これらに限定されない。光源をモノクロメーターにつなぐことによって、単一の波長における照射を得ることができる。単一および多数の光子励起の光源としては、高い最大出力のパルスレーザーまたはCWレーザーが挙げられる。
【0039】
新しいチオール基は、光誘起のジスルフィド結合切断の後にタンパク質内で形成される。それらの新たな出現は、5,5'−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)[DTNB]ベースアッセイにより測定することができる。295nmで照射されたクチナーゼの場合には、照明を当てられた1つのタンパク質につき1つのチオール基が形成されることが、平均して検出された。天然クチナーゼには遊離チオールがなく、単一のトリプトファン残基に隣接しているジスルフィドの切断のみが、溶媒が接近可能なチオール(本方法により検出することができる)を生じさせる。接近可能なタンパク質上に形成された光誘起チオール基は、任意のチオール結合リガンドまたは担体上の遊離チオール基と結合する。
【0040】
担体へのカップリングについての本方法は、ジスルフィドに結合する種々のタイプのオリゴマーまたはポリマーを構築するために使うことができる。所与のタンパク質、ペプチドまたは他の生体分子内の光誘起チオール基は、ペプチドまたはタンパク質を含む担体にカップリングすることができる。カップリング反応でのタンパク質および担体分子の濃度が十分に高い場合、隣接する分子の間のSSベースの架橋が起きる。光誘起されたタンパク質はSS架橋を含むが、近い空間的隣接物としての芳香族残基を有することは不可欠ではない。なぜなら、反応への芳香族の寄与は、カップリング反応に添加される芳香族残基またはそれに似た化合物によって供給され得るからである。
【0041】
担体への光誘起チオールのカップリングの本方法を、薬剤のような他のタイプの担体分子に有効に応用し、それらの効果的な送達を容易にすることができる。例えば、薬剤へのジスルフィド架橋を有する水溶性分子(ペプチドまたはタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない)の光誘起チオールカップリングは、非水溶性、難水溶性または疎水性の薬剤の可溶化または送達を助けることができる。さらに、薬剤とカップリングした分子は、薬剤をその生理的環境から保護し、それゆえインビボでのその安定性を改善するのに役立ち得る。この特定の特徴は、この技術をタンパク質のような不安定な薬剤の送達に対して魅力あるものにする。分子カップリング薬剤の局所送達により、処置する部位に移植することにより、患者の全身が薬剤に晒されることが減らされる。担体結合プロドラッグは、一般的に、改善された生理化学特性または薬物速度論的(pharmacokinetic)特性を作り出し、加水分解切断によって通常インビボで容易に除去することができる一時的担体基と所与の活性物質との一時的な結合を含むプロドラッグと定義される。本発明では、薬剤を分子に結合しているジスルフィド結合の光媒介切断により、患者に導入された分子カップリング形体から活性薬剤を制御して放出することを達成することができる。このことは、患者への薬剤送達の頻度を最小にし、光制御の投薬を提供するであろう。我々はまた、薬剤放出が必要な身体の領域に照明を当てることにより、薬剤送達のプロセスを最適化することもできる。これらの特徴は、特に慢性の適応症のために使われる薬剤について、(ある特定のタンパク質または代謝物の欠乏のために)頻繁な注射を必要とする患者の薬剤服用順守を改善するであろう。制御された薬剤の放出は、赤外線の透過範囲内で、経皮薬物送達の場合に(二光子励起を介して)赤外線によって誘起することができるであろう。一方、UV光(または三光子励起による赤外線)のより大きい透過力は、患者内部のもっと深いところでの薬剤の放出を容易にするであろう。また、光ファイバーを使用することにより、例えば、癌患者/腫瘍患者の処置のようなPDT(光力学治療)における身体の様々な深部への光の送達が可能となる。溶媒に晒されたジスルフィド架橋は、還元環境の中で破壊されるので、薬剤とカップリングした担体が細胞の細胞質空間のような還元環境に入った場合に、薬剤はまた放出され得る。
【0042】
光誘起のチオールカップリングの本方法は、支持体の上にタンパク質を固定化するためにもまた使うことができる。支持体とカップリングする間に形成される最も通常タイプの結合は、自己組織化層が形成されるジスルフィド結合および硫黄−金属結合(主に硫黄−金)である。両方のタイプの結合は安定しているので、固定化後の広範囲な洗浄でタンパク質は追い出されない。タンパク質濃度またはUV照射の強度および持続時間を変えること、および表面上で依然活性化しているチオール基をL−システイン(2−(2−ピリジニルジチオ(pyridinyidithio))エタンアミン塩酸塩(PDEA))のような試薬またはチオール−脂質二層体でブロックすることによって、支持体上のタンパク質の密度は制御され得る(Hong Q.et al.,2001,Biochemical Society Transactions 29(4):587-582)。したがって、均一に分布した固定化タンパク質を有する支持体はブロックされ、非特異性結合を妨げる。本発明によれば、固定化の方法に化学的ステップを全く含まない。というのは、UV照射によって形成されたチオール活性化タンパク質は、支持体上で自発的に自己組織化するからである。記述されたチオールおよびジスルフィド交換反応は、支持体に分子を結合させるのに効果的および迅速な方法である。本発明特有の長所は、タンパク質内での遊離チオールの化学的発生に関連するいくつかの欠点の回避である。実施例10で示されるように、あるタンパク質(例えば、クチナーゼ)は、遊離チオールを生成するために使われる還元剤(DTTまたはβ−メルカプトエタノール)により活性化されない。チオール基を含む還元剤を使って、タンパク質内で化学的に遊離チオールを発生させる場合、それは、その間にジスルフィド結合が再生する固定化がなされ得る前に、除去されなければならない。2−カルボキシエチルホスフィンのようなチオール基を欠く別の還元剤は、それらが他の基と反応するという欠点を有する。ジスルフィド結合を切断するために還元剤を使うことは、還元剤が、その化学的安定性および還元活性に関してpHに依存するというさらなる欠点を有する。
【0043】
支持体の上のタンパク質の固定化はまた、同じく空間的にも制御され得る。現代のレーザー技術は、1マイクロメーター以下の尺度での焦点スポットを可能とする。SS架橋を含む特定のタンパク質または標的分子が、チオール結合支持体でインキュベートされる場合、光誘起のチオール基形成およびカップリングの起こる場所は、照明の焦点に限定され得るであろう。溶液の粘度は、スポットの大きさを越えて照明の当てられた分子を分散し得る拡散プロセスを最小にするために制御されるべきである。このアプローチは、支持体の表面上に、同一であると確認できる様々な分子を非常に密に詰め込むことを可能にするであろう。したがって、本発明の方法は、マイクロアレイを分子で満たすために使うことができるであろう。
【0044】
本発明のさらなる態様では、固定化タンパク質の配向は、一定のおよび再現可能な方法で制御され得る。タンパク質内でのトリプトファン残基の長期の選択的励起は、励起エネルギーが移動するそれらのジスルフィド架橋の切断をもたらすだけである。遊離チオール基を形成するこれらの光切断可能なジスルフィド架橋の配置は、3次元モデル、核磁気共鳴(NMR)またはX線回折結晶学分析から知られるタンパク質の構造から予測され得る。ただ1つのチオール基だけがタンパク質内のトリプトファン残基への照射によって誘起される場合には、クチナーゼの場合と同様に、支持体上のタンパク質の固定化がこのチオール基を介して排他的に起こるであろう。還元剤の使用のようなジスルフィド架橋の切断およびチオール基形成の別の方法と比較して、本発明の光誘起法は、その位置が正確に予測される1つまたは少数のみの接近可能なチオール基を形成している目標のジスルフィド架橋の切断をもたらす。したがって、後に固定化されるタンパク質は、単一のまたは非常に限られた数の配向を有する。クチナーゼが固定化のためのただ一つのチオール基だけを有するので、それは活性部位から遠いが、基質の接近しやすさは固定化によって制限されないであろう。タンパク質の活性部位から遠い、表面に接近可能なチオール基を介した固定化は、クチナーゼおよびリゾチームの場合のように、タンパク質の配置または構造的な特性を変える可能性はあまり高くない。言い換えれば、本発明の固定化方法は、固定化するタンパク質の本来の状態を維持するのに役立つ。タンパク質上でなされる全ての機能アッセイ/構造アッセイは、本発明の方法に従って同一の配向で固定化されるが、タンパク質の同一の集団に由来するデータを生成するであろう。固定化タンパク質の構造的および機能的同一性、およびそれらの本来の状態の維持は、酵素特性、結合特性または他のいかなる生物特性のためのタンパク質のスクリーニングまたはアッセイにとって、第一に重要である。そのことは、本発明の多くの貴重な特長の1つを提供する。抗菌特性を有するリゾチームのようなタンパク質の場合には、微生物の成長と感染を妨ぐために、当該のタンパク質を表面(例えば、食物、皮膚、パッケージ)の上に固定化することが可能であることは有用である。
【0045】
本発明のさらなる態様では、支持体上にタンパク質を固定化している結合は、溶液の中にタンパク質を解放して、切断することができる。これは、チオール−金属結合と同様、両方のジスルフィド架橋に対して可能である。例えば、UV照射により、タンパク質と支持体との間のジスルフィド架橋は、芳香族アミノ酸が空間的隣接物であるタンパク質上のジスルフィド結合を切断させるのと同じ方法で、切断することができる。芳香族アミノ酸は、固定化タンパク質それ自体の上に位置しているか、または支持体表面に塗布されたトリプトファンのような芳香族アミノ酸の溶液の形状で供給することができる。ジスルフィド結合(SS)は、それ自体、約254nmの光によって切断されることが知られている。あるいは、タンパク質と支持体との間のジスルフィド架橋は、(ジチオトレイトール)DTTまたは当業者に公知の他の還元剤で切断することができる。固定化結合の切断の後に、必要であれば、解放されたタンパク質を精製し、さらなる実験で使うことができる。
【0046】
本発明のさらなる態様は、O2プラズマ処理またはPiranha(それによって、タンパク質を含む金表面のトップ層を除去する)により、チオール−Au結合を介して固定されたタンパク質を除去することによって、金表面を再生することである。
【実施例】
【0047】
[実施例1:UV照明によるクチナーゼ中の遊離チオール基の形成]
UV照明に続くタンパク質中のジスルフィド架橋の切断を、Fusarium solani pisiから単離されたリパーゼ/エステラーゼ特性により、クチナーゼを使って調べた。
【0048】
[クチナーゼの安定状態蛍光発光強度]
連続照明の安定状態蛍光発光強度を追跡するために、クチナーゼ調製物を以下の条件で295nmのUV照明に供した。石英マクロキュベット(1センチ径)の中で、時間(0時間、1時間、2時間、3時間、4時間および5時間)を増やして行き、3mLのクチナーゼの2μMストック溶液に295nmの照明を連続的に当てた。295nmにおける光励起を、RTC 2000 PTI分光計により与えられたモノクロメーターにつながれたキセノンアークランプによって供給した。そのキュベットをサーモスタット制御キュベットに取り付け、25℃の一定温度を維持した。クチナーゼサンプルを、磁石を使った700rpmでの連続攪拌により、均一な溶液として維持した。励起スリットおよび発光スリットを6nmに設定した。350nmにおけるクチナーゼの蛍光強度を、5時間の照明を当てている間を通して連続的にモニターした。295nmの照明を当てた際の350nmにおける2μMクチナーゼ溶液の時間依存性蛍光発光強度を図1に示す。蛍光強度は、最初の7200秒にわたって非常に急激に増加し、蛍光発生が安定したと考えられる安定期が後に続いた。
【0049】
[UV照明後のクチナーゼ中の遊離チオールの検出]
UV照明に当てた後のクチナーゼ中の遊離チオール基の濃度を以下のように測定した。クチナーゼ上のチオール基を、図2に示すようにチオール基と5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)[DTNB]との反応に基づく分光光度計アッセイにより、あるいはEllman試薬(Ellman GG,.1959 Arch.Biochem.Biophys.82:70-77;Hu ML.,1994,Meth.Enzymology 233:380-385)により検出および定量した。石英マクロキュベット(1センチ径)の中で、20mLのTrisHCI pH8.5中の3mLの17.3μMクチナーゼ溶液に、上記のようにRTC 2000 PTI分光計を使って様々な時間の間で295nmの照明を当てた。350nmにおけるサンプルの時間依存性蛍光発光強度を測定した。全てのスリットを2nmのバンド幅に設定した。295nmの照明の前または後に、過剰のDTNB(無水メタノール中の100μLの8.5mM濃度のDTNBストック溶液)を900μLのクチナーゼ溶液に添加した。メタノール中のDTNBのストック溶液は、4℃で2週間まで安定している(Hu ML.,1994,上記)。その2つの成分を混合した直後に、放出されたNTBイオンの吸光度(ニトロチオベンゾエートイオン、ε412nm=13600M-1cm-1)をUV/可視ファルマシア(Pharmacia)分光光度計により412nmにおいて測定し、20分後および24分後に25℃において再び測定した。遊離チオール濃度は、412nmおける吸光度に比例する。読み取りは、20分から24分の間で安定していた。各データポイントは、24分後の3回の測定の平均であった。コントロールサンプルは、900μLの照射されていないクチナーゼ(20mMのTrisHCI pH8.5中の17.3μMのクチナーゼ溶液)と混ぜられた、無水メタノール中の100μLの8.5mM濃度のDTNBストック溶液を含んだ。照明を当てたクチナーゼサンプルの濃度を上げて、照明時に形成された遊離チオール基の量が、DTNB法の検出限界より上にあることを確かめた。
【0050】
遊離チオール基は、クチナーゼの照明を当てていないコントロールサンプル内で、DTNBを使って検出されなかった。このことは、天然クチナーゼ中の遊離チオール基の欠如と合致している。というのは、酵素内の全ての4つのシステイン残基がジスルフィド架橋に関与するからである。照明を当てた間に、クチナーゼサンプル内で形成したチオールの量を、蛍光強度増加(F/Fo)の関数として測定した。図3は、UV励起時のクチナーゼの295nmにおけるTrp蛍光発光強度の時間依存の増加と蛍光強度増加(F/Fo)の様々な比において検出される遊離チオール基の増加濃度との間の相関関係を示している。
【0051】
これらの結果は、トリプトファン(Trp)の最初の蛍光発光強度が、近くの原形のままのジスルフィド架橋の存在により非常にクエンチされ、クチナーゼ内の単一の内在するTrpの蛍光発光強度が、295nmにおける照明をクチナーゼに当てた際に近くのジスルフィド架橋が切断されたためであるという実用的モデルを支持している。
【0052】
[実施例2:照射によって引き起こされる天然クチナーゼ内のジスルフィド架橋の切断は、空間的隣接物としてのTrp残基の存在に依存している。]
照射により誘起されたジスルフィド架橋の切断において、クチナーゼ内でのトリプトファン残基の役割を証明するために、天然タンパク質のTrp蛍光発光強度を、全てのジスルフィド架橋が化学的に切断させられた還元クチナーゼのTrp蛍光発光強度と比較した。全てのジスルフィドの還元を容易にするために、クチナーゼタンパク質を熱によって部分的に変性させた。照射の後、天然クチナーゼおよび変性クチナーゼの蛍光発光強度を使って、Trp残基が、ジスルフィド架橋へのTrpからの励起エネルギーの転送のために、ジスルフィド架橋の空間的隣接物であることが重要であることを証明した。
【0053】
[DTTによる天然クチナーゼの還元]
天然クチナーゼにおいては、折り畳まれたタンパク質内部のジスルフィド架橋は、溶媒に接近できず、それらは直接DTTによって還元することができない。しかしながら、クチナーゼをその変性温度を超える温度でpH8.5の緩衝液で加熱する場合、次に続く変性プロセスは、タンパク質のジスルフィド架橋へのDTTの接近を容易にする。タンパク質の沈殿を避けるために、熱変性ステップをクチナーゼの希釈溶液で行なった。クチナーゼの熱変性のために選択された緩衝液(20mMのTris−HCl 8.5)は、温度変化および体積変化との関係で最小のpHドリフトを示す。さらに、Tris−HClは、イオン化の最小のエンタルピーを有する。クチナーゼ溶液の濃度を、280nmにおけるクチナーゼの減衰係数(13500M-1cm-)を使って、溶液のOD 280nmから推測した。
【0054】
DTTによるクチナーゼジスルフィド結合の還元を、以下のように行なった。20mMのTrisHCl pH8.5中で懸濁された1μMクチナーゼの内の650μLのサンプルを25℃から70℃まで加熱し、過剰のDTT(TrisHCI pH8.5中の3.7M濃度のDTTの内の8.5μL)をそれに添加し、50mMのDTTの最終的濃度を得た。
【0055】
[天然クチナーゼまたは還元クチナーゼの蛍光発光強度測定]
295nmでの励起における1μMのクチナーゼサンプルの発光スペクトルを、2nmのバンド幅に設定されたスリットでRTC 2000 PTI分光計により、以下の条件の下に測定した。(A)DTTなしで25℃においてインキュベートされたクチナーゼ、(B)DTTなしで70℃においてインキュベートされたクチナーゼ、(C)70℃に加熱して25℃まで冷やした後に、DTTなしで25℃においてインキュベートされたクチナーゼ、(D)70℃に加熱し、DTTを添加して25℃まで冷やした後に、DTTありで25℃においてインキュベートされたクチナーゼ。スペクトルは、ラマン寄与(contribution)のために修正された。
【0056】
4つの発光スペクトルを図4に示す。25℃においてインキュベートされたクチナーゼの発光スペクトル(A)は、70℃から25℃まで冷やした後のクチナーゼの発光スペクトル(C)と同一であり、pH8.5におけるクチナーゼの熱変性が可逆プロセスであることを証明している。このことは、変性状態でのクチナーゼの発光スペクトル(B)と比較することができる。DTTの存在下で70℃に加熱した後の25℃におけるクチナーゼのTrp蛍光発光強度(D)は、(A)におけるようにDTTなしの天然クチナーゼより大きかった。実施例1で示されるように、これらのスペクトルは、クチナーゼのTrp蛍光発光強度の増加(295nmにおける励起時)とそのジスルフィド架橋の還元との間の相関関係を確証するのに役立つ。
【0057】
サンプル(A)および(C)についての連続スペクトルを得る過程において、295nmにおけるクチナーゼのTrp残基の連続励起の際、実施例1に示されるように蛍光発光が増加するのが観察された。サンプル(A)および(C)の蛍光が同様に増加することは、再生時に天然クチナーゼの3D構造で観察されるTrpとジスルフィド架橋との間が密に近接にあることと一致している。この蛍光発光の増加は、295nmにおけるクチナーゼのTrp残基の連続励起の際、サンプル(B)または(D)では観察されなかった。これらのデータは、クチナーゼの中でTrp残基とジスルフィド架橋との間が密接に近接していることが光誘起メカニズムに必要であり、タンパク質が70℃でpH8.5において変性されるときに、この近接している状態が失われるという結論を支持している。これは、Trpと溶媒分子との間に衝突減衰(collisional quenching)を起こす高い温度に起因して、より低い発光量の産出が見込まれるにもかかわらず、70℃におけるクチナーゼのTrp蛍光発光量が25℃における場合より高かったことの最も可能性のある理由である。
【0058】
[実施例3:タンパク質での光誘起ジスルフィド架橋の切断の特異性]
Fusarium solani pisiのクチナーゼ遺伝子を、単一のトリプトファン残基が非蛍光性のアミノ酸であるアラニン(W69A)に置換された変異体クチナーゼポリペプチドをエンコードするように、変異させている。天然クチナーゼと比較して、変異体中には光誘起可能なジスルフィド架橋の切断が欠如していることは、下記のことを証明し、さらにジスルフィド架橋と密接な空間的近接にある芳香族アミノ酸(例えば、trp)のための必要条件を確証する。変異体クチナーゼ(W69A)は、組換えにより発現された。50mLのTris−HCI(pH7.0)中の2μMの変異体タンパク質溶液または天然タンパク質溶液の内の3mLをキュベットに移し、700rpmのマグネティック攪拌を行ないながら、サーモスタットで25℃とした。モノクロメーターに繋いだRTC 2000 PTI分光計からの75Wキセノンランプを使って296nmの照明を当てた。励起スリットおよび発光スリットは、それぞれ10nmおよび2nmとした。図5に示されたpH7における水溶液中での芳香族アミノ酸の吸光スペクトル(A)および発光スペクトル(F)からわかるように、トリプトファンは、296nmの波長における光によって励起させられる唯一の芳香族残基である。変異体クチナーゼ溶液または天然クチナーゼ溶液(1mL)を、296nmの照明を当てる前または後に、分子内でクエンチされたプローブBODIPY FL L-シスチン(図6)と共に、20μMの最終濃度で、暗所に20分間25℃においてインキュベートした。BODIPY FL L-シスチンを含む各クチナーゼサンプルを480nm(BODIPY Fl Lシスチンの励起波長)において励起させた。それぞれ4nmおよび2nmに設定された励起スリットおよび発光スリットを用いて、500nmと620nmの間の発光スペクトルを記録した。照明を当てている間にクチナーゼサンプルで発生した任意のチオール基を、(2つのbodipy基を含む)プローブBodipy FL L-シスチンのSS基と反応させ、この分子の破壊を生じさせ、2つのbodipy基の間の距離を結果として増加させた。このことは、順に各bodipy基の蛍光発光強度を増加させる。図7で見られるように、天然クチナーゼ(B)と比較して、変異体クチナーゼ(A)へ照明を当てることは、Bodipy蛍光を増加させず、変異体内にチオール基の形成がないことを示している。このことは、296nmの照明を当てる際に、W69A変異近くの変異体クチナーゼ内のジスルフィド架橋が、密に空間的近接におけるTrp残基がないために損なわれないままでいることを証明する。
【0059】
UV照明を当てた後に天然クチナーゼ内で切断されたジスルフィド架橋の同一性は、さらなる研究によって確かめられた。天然クチナーゼは、2つのジスルフィド架橋を有することが知られている。そのうちの1つは、活性部位の近くに位置し、それが完全な状態であることは、酵素活性に不可欠である。活性部位から離れている第2のものは、Trp残基に近い。UV照明を当てた後に、天然クチナーゼはその酵素活性を維持することが見出されているので、表面に位置するジスルフィド架橋のみが切断されることは明らかである。Prompers et al.1999,FEBS Lett.456:409-16.によるNMRデータおよび質量分析データは、UV照明を当てることにより切断されたSS架橋がTrp残基に近いものであることもまた示している。UV照射後の天然クチナーゼ内でのDTNB検出可能なチオール基の形成は、ジスルフィド架橋の切断を定量化する新たな手段を提供する。UV照明を当てた後では、1個のクチナーゼ分子につき1個のみのチオール基が検出された。このことは、2番目のチオール基が溶媒に接近できない場合に、表面近くに位置するジスルフィド結合が切断されることと一致している。第2のジスルフィド結合のシステイン残基の少なくとも一つは、溶媒を使用し得るが、切断を検出しなかった。
【0060】
[実施例4:光誘起Trp−SS三つ組を有するタンパク質の予測]
選択された(trp)残基のインドール環内の炭素原子または窒素原子が、ジスルフィド架橋のS原子から5Å未満以内に位置する、ジスルフィド架橋および芳香族残基を含むタンパク質は、構造生物情報学のための研究協力(Research Collaboration for Structural Bioinformatics(RCSB))のタンパク質データバンク(Bergman et al.2000,Nucleic Acids Research,28:235-242)において同定された。NMRまたはX線結晶構造のいずれかが利用可能なタンパク質のみが考慮されている。原子と三つ組との間の距離は、www.expasy.org.spdbvにおける分子視覚化プログラムDeep View/Swiss-Pdb Viewer(Guex,N and Peitsch,M.C.,1997,Electrophoresis 18:2714-2723)を用いて測定した。選択されたタンパク質を、90%未満の配列同一性を有し、様々な酵素クラス[ECナンバーおよび分類]の各々に属しているタンパク質の分類されたリストと一致させた。この分析の目的のために、trp−SS三つ組がリガンドに位置しているそれらのタンパク質(ヒドロラーゼ)は考慮されなかった。さらに、分子ダイマー、トリマーなどまたは単位細胞内の分子の繰り返しのために、PDBエントリーで1回以上発生している三つ組は、ただ1度考慮されただけであった。
【0061】
Trp−SS三つ組は、クチナーゼが一員であるヒドロラーゼ酵素の間では、一般的なものであることが判明した。これらのタンパク質の各々において同定されるTrp−SS三つ組から8Å、12Åおよび15Åの半径以内に位置するアミノ酸残基を(球形の領域の中心が、ジスルフィド結合と最も近くに位置しているトリプトファンのインドール環である)、それらの特性に従って計算してグループ分けした。Gly、Ala、Val(短鎖の脂肪族);Leu、Ile(長鎖の脂肪族);Pro;Ser、Thr(ヒドロキシルを含む);Cys、Met(硫黄を含む);Asn、Gln(アミド);Asp、Glu(酸性);His、Lys、Arg(塩基性);Phe、Tyr、Trp(芳香族)。一般に、タンパク質中のアミノ酸の各グループの出現の平均頻度は、Mathews,Christopher K.および van Holde,K.E.(「Biochemistry」2nd Edition,The Benjamin/Cummings Publishing Company,Inc.,1996,ISBN:0-8053-3931-0)によって決定された。その頻度は、23.4%(Gly、Ala、Val);12.1%(Leu、Ile);4.6%(Pro);13.1(Ser、Thr);4.5(Cys、Met);8.3%(Asn、Gln);11.7%(Asp、Glu);13.8%(His、Lys、Arg)および8.1%(Phe、Tyr、Trp)である。
【0062】
各残基の出現を数え、残基の特性に従ったグループに整理した。芳香族残基の数から1つのトリプトファンを引いて、各範囲の残基リストからの硫黄を含む残基で出現する数から2つのシステインを引くことによって、三つ組残基からの寄与を除去した。後に、各グループに対するサブセット、f(サブセット)、における出現の頻度を以下のように計算した。
式2.1 f(サブセット)=グループ内の残基の数/サブセットの全体の残基の数
【0063】
f(サブセット)を使って、一般にタンパク質内で出現する頻度で、サブセット中に出現する頻度を割ったものとして分別スコアを計算した(表2.1参照)。
式2.2 スコア=f(サブセット)/f(タンパク質)
したがって、「スコア」>1は、残基/グループが平均を超える出現率であることを意味する。「スコア」<1は、残基/グループが平均未満の出現率であることを意味する。
【0064】
各三つ組についての表の欄に整理された残基の各グループについてのスコアにより、その三つ組とクチナーゼ(W69、S31、S109)の内の1つとの類似性をデータ分析ツールパック(Data Analysis Tool Pack)の相関ツールを使って計算した。このオペレーションは、クチナーゼの三つ組と三つ組(n)との間の類似性の指標として相互関係係数を割り出した。
【0065】
相関係数は以下のように計算される。
式2.3
【数1】
式中、t[cut]およびt[n]は、クチナーゼの三つ組および三つ組みnをそれぞれ示しており、三つ組の標準偏差を考慮している。
【0066】
相関係数を使って、クチナーゼとそれらの類似性に関して三つ組を分類した。結果の図式的表現を、予想より少なく出現する残基のグループを表す1未満のスコアおよび予想通りおよび予想される頻度より多く出現する残基のグループを表す1以上のスコアについてのスコアの輪郭プロットとして作成した。
【0067】
特に、8Åの半径以内で、アミノ酸残基の特定のサブセットを同定した。それは、一般に、タンパク質内のアミノ酸の出現の平均頻度から、特に残基(Phe、Tyr、Trp)(Asp、Glu)(Asn、Gln)およびプロリンの存在率に関して、明らかに区別されるものである(図9)。したがって、アミド残基(Asn、Gln)は平均を超える出現率であり、多くの場合、短鎖の脂肪族残基(Gly、Ala、Val)および/または長鎖の脂肪族(Leu、Ile)の出現率もまた平均を超える。ほとんど全ての三つ組において、荷電アミノ酸残基(His、Lys、Arg)(Asp、Glu)およびプロリン残基のグループは、平均未満の出現率である。
【0068】
三つ組の8Å半径以内で見られるアミノ酸の特定のサブセットの保存は、12Åおよび15Åにおいてはほとんど見られない。免疫グロブリン内のtrp−SS三つ組の近傍の8Å半径以内に位置するアミノ酸残基の分析は、ヒドロキシルを含むアミノ酸が平均より多く出現すること、および多くのIgG Trp S−S三つ組で芳香族の残基もまた平均を超える出現率であることを明らかにした。1つのまたは両方のアミドアミノ酸(Asn、Gln)および脂肪族残基の出現はまた、TrpSS空間的三つ組周りのそのアミノ酸組成がクチナーゼ三つ組(IGG1三つ組Aグループの免疫グロブリン部分)と非常に似ている多くの免疫グロブリンで、平均を超える率である。これらの免疫グロブリンでは、我々はまた、荷電アミノ酸(His、Lys、Arg)(Asp、Glu)およびプロリン残基のグループの平均未満の出現率も観察している(図11および図12)。芳香族Trp側鎖の発光双極子の面の間の角度が、ジスルフィド架橋の吸光双極子の面と直角をなすそれらのTrp−SS三つ組は、励起状態Trpとジスルフィド架橋との間に励起エネルギーを交換する可能性が小さい。
【0069】
Trp−SS三つ組、およびクチナーゼのTrp−SS三つ組の8Å半径以内で見いだされたものに類似しているアミノ酸残基のサブセットの両方を含んだ、このタンパク質のグループのいくつかのメンバーの光誘起特性を実験した。変異体クチナーゼについて実施例3で記載したように、分子間でクエンチされたプローブBODIPY FL L-シスチン(図6)を使って光誘起ジスルフィド架橋の切断について各タンパク質をアッセイした。以下のタンパク質は、図8AからFに示したように、光誘起のTrp−SS三つ組を含むことを全て呈示した。ニワトリ卵白リゾチーム(lysosyme)、Rhizopus niveusトリグリセリドリパーゼ、ヒトプラスミノーゲン、ヒト胎盤アルカリホスファターゼ、キモシンBおよびヒト免疫グロブリン。
【0070】
タンパク質α−ラクトアルブミンは4つのジスルフィド架橋を有するが、そのうちの2つ、すなわちCys6−Cys120およびCys73−Cys91はUV照明で切断される(Vanhooren et al.(2002)Biochemistry,41(36):11035-11043)。α−ラクトアルブミン内のCys73−Cys91およびCys28−Cys11の両方が、トリプトファンのインドール環に最も近い原子の4Å以内に位置している硫黄原子を少なくとも1つ有するが、前者のみが光誘起切断される可能性がある。三つ組Trp118−Cys28−Cys111とは対照的に、三つ組Trp60−Cys73−Cys9は、8Åの球形領域の中に位置しており、そのアミノ酸組成は、特に(Phe、Tyr、Trp)(Asp、Glu)(Asn、Gln)およびプロリン残基の存在量に関して、クチナーゼ三つ組のアミノ酸組成と類似している(図10)。
【0071】
[実施例5:光誘起クチナーゼカップリング]
いくつかの他のタンパク質と同様、照射に反応して起こるFusarium solani pisi由来のモデルタンパク質クチナーゼの遊離SH基の形成は、実施例1、2および3で示されてきた。その結果、クチナーゼの反応性チオール基は、溶媒に接近可能な遊離チオール基または溶媒に接近可能なジスルフィド架橋のいずれかを有する溶液中の担体分子にカップリングすることができる。溶液中での担体分子にカップリングされた光誘起クチナーゼの方法は、図2と6に示されるように、295nmの光の照射によって誘起されたクチナーゼの遊離チオール基を、DTNBおよびBODIPY Fl L−シスチンのジスルフィド基へカップリングさせることに例証される。タンパク質(リゾチーム、リパーゼ、プラスミノーゲン、アルカリホスファターゼ、キモシン、免疫グロブリン)の各々とBODIPY Fl L−シスチンとの間の光誘起カップリングもまた実施例3(図8)で証明される。
【0072】
カップリング反応は次のように行われた。実施例1および2で記述したように、20mMのTrisHCI(pH8.5)中の17.3μMクチナーゼ溶液の3mLに、RTC 2000 PTI分光計を使って、様々な時間の間で石英マクロキュベット(1cm径)の中において295nmの光の照明を当てた。295nmの照明の前または後に、過剰のDTNB(無水メタノール中の100μLの8.5mMのDTNBストック溶液)を900μLのクチナーゼ溶液に添加した。その2つの成分を混合した直後に、放出されたNTBイオンの吸光度(ニトロチオベンゾエートイオン、ε412nm=13600M-1cm-1)をUV/可視ファルマシア(Pharmacia)分光光度計により412nmにおいて測定し、反応時間20分後および24分後に25℃において再び測定した。DTNBとのカップリング反応は、結果として化学量論量のNTBイオンを生じさせる。したがって、カップリングされたクチナーゼの濃度は、412nmにおける吸光度に比例している。無水メタノール中の8.5mMのDTNBストック溶液100μlを含むコントロールサンプルは、900μLの照射されていないクチナーゼ(20mMのTris−HCI(pH8.5)中の17.3μMクチナーゼ溶液)と混合した。
【0073】
[実施例6:光誘起タンパク質固定化]
タンパク質(例えば、Fusarium solani pisi由来のクチナーゼ)の中に形成される遊離反応性チオール基を使って、照明(実施例1、2と3に示されるように)に対応して、そのタンパク質をチオール反応性支持体または担体分子に結合させる。支持体または担体は、金、チオール基で誘導体化される金、またはSH基で誘導体化された石英表面、またはSH基で誘導体化されたポリマー支持体もしくは担体分子であるかどうかに関わらない。固定化されたタンパク質は、それらの機能特性(例えば、酵素特性)を保つことが示される。
【0074】
ポリマー支持体を、N−ヒドロキシスクシニミドエステルにカルボキシメチル基を修飾するNHS/EDCで最初に活性化することによって、SH基で誘導体化する。その後、0.1Mのホウ酸塩緩衝液(pH8.0)中のシステアミンでインキュベートし、続いて0.1Mのホウ酸塩緩衝液(pH8.0)中のDTTまたはDTE(ジチオエリトリトール)でインキュベートすることにより、チオール基を支持体上に導入する。その支持体を、固定化の前に0.1Mのホウ酸塩緩衝液(pH8.0)で洗い流す。
【0075】
タンパク質もまた、SH基で誘導体化して、石英支持体に結合させる。その後、多くのタンパク質が例示されるように、下記の方法を使って、内部全反射蛍光発光(TIRF:Total Internal Refection Fluorescence)分光法により、固定化をモニターする。
【0076】
[ステップ1:TIRF分光法のための石英スライドの表面の調製]
石英スライド(12cm2)をクロモ硫酸(Merck 1.02499/Z624399)に70〜75℃において1時間浸漬することにより洗浄し、その後室温において水ですすいだ。OH基の数を増やすために、そのスライドを、脱イオン水中の5w/v%カリウム過硫酸(99%のK2S2O8、Acros Organics 20201-000)に99〜100℃において1時間浸漬することにより、水酸化させた。水酸化されたスライドを脱イオン水ですすぎ、迅速に乾燥した。
【0077】
その後、その水酸化スライドに、m−キシレン(99+%、Acros Organics 1808600100)中の0.03%v/vの3−メルカプトプロピル−トリメトキシシラン(Merck 63800)の内の150μLを塗布することにより、SH−活性化スライドを調製した。キシレン溶媒を完全にスライドから蒸発させ、その後、純粋なキシレン、エタノールおよび脱イオン水でその表面を連続的に洗い流し、最終的に乾燥させて、均一で光学的に完ぺきなシランコーティングを得た。
【0078】
[ステップ2:TIRF分光法による石英スライド上のタンパク質固定化]
SH活性化スライドまたはコントロールの水酸化スライドを、グリセロールと共に石英プリズムの上に乗せ、10μmのポリウレタンガスケットを有するフローチャンバーを取り付けた。75Wキセノンアーク光源で供給される分光蛍光光度計につながれたTIRF装置内で組み立てた。0.25mL-1の流速でフローチャンバーを洗い流すことにより、または下記の溶液でインキュベーションすることにより、タンパク質固定化を行なった。
a)スライドの水和のために、25mMのTris−HCL、pH8.5(緩衝液A)で5〜10分間。
b)緩衝液A中の0.5〜2.0μMのタンパク質溶液で25℃、10〜20分間。
c)緩衝液Aで10分間。
d)2v/v%のHelmanex II(Hellma GmbH & Co KH、ドイツ)のような非イオン性洗浄剤で5分間。
e)緩衝液A。
【0079】
280nmまたは296nmにおける連続的なUV照明、制限されたUV照明(10分間の光、または1秒間の光/分)に当てるか、または無照明(コントロール)の条件下で、タンパク質固定化を行ない、330nmにおける蛍光発光によりモニターした。固定化タンパク質活性を測定する前に、スライドをエタノールおよび水ですすいだ。
【0080】
上の手順を改変したものでは、タンパク質サンプル(例えば、2μMのクチナーゼ溶液)をUV照射する。続いて、インキュベーションおよび/またはサンプルで洗い流すことの後に、緩衝液Aおよび必要であれば未結合のタンパク質を除去するための洗浄剤でパージすることにより、SH誘導体化石英スライドグラス上に固定化する。
【0081】
[ステップ3:固定化された活性の酵素活性]
固定化手順の後に、蛍光発生酵素基質を石英スライドに塗布し、反応生成物を蛍光分光法によって検出した。
【0082】
[A.クチナーゼのUV誘起固定化]
図13に示されるように、連続照明または制限された照明の下でのSH活性化石英スライドおよび水酸化石英スライド上のクチナーゼの固定化を、330nmにおける蛍光発光を検出することによって、モニターした。フローチャンバーを洗い流し(A−B)、2.0μMのクチナーゼ溶液でインキュベートし(B−C)、緩衝液Aで濯がれ(C−D)、洗浄剤および緩衝液Aで濯がれる(E)。石英スライドと強固に結合していないクチナーゼを緩衝液および洗浄剤で洗い流している間に除去した。クチナーゼ固定化の相対的な効率は、蛍光発光強度から推論して、制限された照明より連続照明の下で方が大きく、SH活性化された石英表面(図14A)および照明(図14B)に依存していた。制限された照明の下での固定化は、タンパク質の光漂白の危険を減らすために使うことができる。光誘起のジスルフィド架橋の切断を示さない変異体クチナーゼ(W69A)は、同じ条件下で、SH活性化石英スライドに固定化されなかった(図14B)。
【0083】
石英スライド上に固定化されたクチナーゼの酵素活性を、蛍光性の4−メチルウンベリフェロンの放出と共に蛍光性でない基質の4−メチルウンベリフェリルブチレートのエステル結合切断を測定することにより、以下の手順に従って検出した。
a)25mMのTris−HCl、pH8.0中の10μMの4−メチルウンベリフェリルブチレート基質の内の25〜100μLを石英スライドの表面上に堆積させた。
b)スライドを室温で30分間インキュベートした。
c)UVの励起(365nm)の際のスライドの蛍光発光強度(450nm)をデジタルカメラでモニターした。(あるいは、反応混合物をマイクロタイタープレートウエルに移し、UV/可視光分光光度計によって蛍光発光をモニターすることができる。)
【0084】
基質4−メチルウンベリフェリルブチレートをDMSOに溶かし、アッセイ緩衝液に添加された25.2mMのストック溶液が得られる。
【0085】
活性化クチナーゼ酵素を、水酸化石英スライド(図15)ではなく、SH活性化石英スライド上で検出した。そのことは、さらにSH活性化石英支持体へのクチナーゼの光誘起カップリングがチオール基を介するものであるという観察を確証する。
【0086】
[B.リゾチームおよびキモシンのUV誘起固定化]
2μMのリゾチーム溶液またはキモシン溶液の固定化の石英スライド上への固定化を行ない、クチナーゼについて上述されるように、TIRF分光法によりモニターした。リゾチーム固定化は、光で活性化し、石英スライドのSH活性化に依存していることが示された(図16Bに対する図16A)。連続照明が10分に制限された場合、リゾチーム固定化のカップリング効率は増進することが判明した。キモシン固定化もまた、光で活性化し、SH−石英表面へのカップリングに依存していることが判明した(図16C)。
【0087】
リゾチーム活性の検出:リゾチーム特異性基質(EnzCheck Lysozyme、22013、Molecular probes社)を使ったことおよび蛍光発光シグナルが分光分析的に記録されたということを除いて、クチナーゼ活性の検出のために使われた手順に従って、石英スライド上に固定化されたリゾチーム活性を検出した。125μLの50μg/mL基質(0.1Mホスフェート/0.1M NaCl、pH7.5中)を石英スライドに滴下した。室温(20〜25℃)における30分間のインキュベーションの後、100μLの溶液を黒いマルチプレートの中のウエルに移した(96ウエル、Nunc 267742)。蛍光マルチプレートリーダー(SpectraMax Gemini XS)において、サンプルを495nmで励起させ、525nmにおける蛍光発光強度(FEI)を記録した。濃度および手順は、Molecular probes社製のEnzCheckリゾチーム活性アッセイキット22013に従ったプロトコルに基づいた。
【0088】
リゾチーム活性分析は、コントロール(暗部におけるSH活性化スライドまたはUVを伴う水酸化スライドの上での固定化/吸光を含む)と比較して、UV照明によりSH活性化スライド上でより大きい活性を示した。
【0089】
EnzCheckプロテアーゼキットE6639(Molecular Probes社)により、10mMのTris pH7.8(キットに含まれる緩衝液)中の10μg/mLの基質濃度を使って、キモシン活性の検出を行なった。室温(20〜25℃)における30分間のインキュベーションの後、100μLの溶液を黒いマルチプレートの中のウエルに移した(96ウエル、Nunc 267742)。蛍光マルチプレートリーダー(SpectraMax Gemini XS)において、サンプルを589nmで励起させ、625nmにおける蛍光発光強度(FEI)を記録した。濃度および手順は、Molecular probes社製のEnzCheckプロテアーゼ活性アッセイキットE6639に従ったプロトコルに基づいた
【0090】
[C.免疫グロブリンのUV誘起固定化]
パパインによる免疫グロブリンIgG複合体のタンパク質分解消化は、各々が2つのポリペプチドを含む2つのF(ab)フラグメントを生成する。IgG免疫グロブリンのFabフラグメントのドメインの得られる3D構造は、それらの全てがTrp/Cys−Cys三つ組を多く有することを示す。Fabフラグメントの得られる3D構造は、CH、VH、CLおよびVLドメインに存在しているドメイン内のジスルフィド架橋が、溶媒に接近できないことを示す。Fabフラグメントの塩基における保存領域を繋げる追加のドメイン間のジスルフィド架橋は存在し、抗原結合部位から遠く離れて位置している。このジスルフィド架橋は、溶媒に接近可能であって、Trp残基近くに位置している。
【0091】
F(ab)フラグメントのジスルフィド架橋、例えば、Trp196の10〜11Å以内にある1CBVマウスIgG1F(ab)のC末端ドメイン間ジスルフィド架橋(Cys136−Cys214)のUV誘起切断により、SH誘導体化支持体上のF(ab)フラグメントの配向した固定化を得ることができる。Fabフラグメントの一方の末端に位置している抗原結合部位は、固定化の部位から離れており、したがって抗原認識への有用性を維持している。
【0092】
以下の手順は、F(ab)フラグメントの精製、それらのUV誘起固定化および支持体とカップリングした機能的に活性なF(ab)フラグメントの検出を例証する。
a)Aybay et al.2003,Immunology Letters 85:231-235の手法に従って、パパイン(Sigma P4762)でマウスIgG1(Sigma M7894)を消化する。Pierce Biotechnology(イリノイ、アメリカ合衆国)により供給されるImmunoPure F(ab)キットを用いて、F(ab)フラグメントを精製してもよい。
b)上述したように、280nmから296nmまで波長のUV照明の助けにより、TIRF装置のフローセル中のSH活性化石英スライド上で、25mMのTris−HCl(pH8.0)中の1〜10μMのF(ab)フラグメント溶液を固定化する。内在する芳香族アミノ酸の近くにないタンパク質のドメイン間またはドメイン内のジスルフィド架橋の光誘起切断を容易にするために、芳香族アミノ酸を固定化緩衝液に含めることができる。そのことはまた、免疫グロブリンF(ab)フラグメントの固定化に有効に使用することもできる。暗部および水酸化支持体上でのコントロール固定化アッセイを行うことによって、カップリングの特異性をテストする。296nmにおける励起時の330nmの蛍光発光により、スライド上で固定化されたF(ab)の測定が可能となる。
c)Tris−HCl pH8.0で100倍に希釈された、抗マウスIgG F(ab)特異性フルオレセインイソチオシアネート抱合体(Sigma F2653)をフローセルの中に導入することによって、ステップb)で固定化されたF(ab)フラグメントの抗原結合活性を決定する。25℃における10〜30分のインキュベーションの後、緩衝液Aでフローセルを洗い流すことにより、未結合の抱合体を除去する。石英スライドに結合した抱合体の495nmにおける励起時の蛍光発光強度を525nmにおいて検出する。
【0093】
[D.グルコースオキシダーゼのUV誘起による固定化]
グルコースオキシダーゼを使って、液体(例えば、ヒトの血液)中のβ−D−グルコースを定量する。グルコースオキシダーゼは、Trp133から7から9Åに位置する溶媒に接近可能なtrp−SS三つ組(Cys164−Cys206)を含む。このジスルフィド架橋の光誘起切断は、担体とのカップリングに適したチオール基を作りだす。ジスルフィド架橋が活性部位から遠くに位置するので、その切断および続いて起こる支持体への発生したチオールのカップリングは、グルコースオキシダーゼの酵素活性を害さない。石英スライド上での2μMグルコースオキシダーゼ溶液の固定化を行ない、クチナーゼについて上述されるように、TIRF分光法によりモニターする。
【0094】
[実施例7:空間的に制御されたタンパク質固定化]
1〜2μm2の領域に空間的に限定して、クチナーゼ分子をSH活性化石英スライド上で固定化した。25mMのTris−HCl(pH8.5)中の5μMのクチナーゼ溶液の液滴を、室温においてSH活性化石英スライド上に滴下した。その液滴に296nmのレーザー光の照明を当てた。その場合、レーザープローブの先端を液滴の中に沈め、活性化石英表面の1〜2mm上に位置させて行なった。実施例6Aで与えられるクチナーゼアッセイを用いて、空間的に限定された領域において、固定化されたクチナーゼ活性をスライド表面上で検出した。
【0095】
[実施例8:UV光による可逆のタンパク質固定化]
UV光を用いて、光誘起固定化によりチオール反応性表面と結合しているタンパク質(例えば、クチナーゼ酵素)ジスルフィドを解放する。トリプトファン残基およびジスルフィド架橋が溶液中に存在している場合、トリプトファンへの照射により、光誘起メカニズムによりジスルフィド架橋が切断される。以下のステップに従って、UV光照射により固定化クチナーゼを解放する。
1.TIRF装置に固定化クチナーゼを含むスライドを置いて、350nmにおける蛍光発光によりスライド上に吸着されたタンパク質濃度をモニターする。
2.20μMのトリプトファン、または芳香族アミノ酸残基もしくは芳香族残基に似ている化合物を含む20mMのTris−HCl pH8.5緩衝液の連続的な流れにより、スライドをパージする。
3.5時間、295nmの光でスライドを照射する。
4.20mM Tris−HCl pH8.5緩衝液でスライドをパージする。
5.タンパク質溶離の後で、連続的に350nmにおけるスライドの蛍光を測定する。
【0096】
[実施例9:還元剤による可逆の固定化]
クチナーゼ酵素、光誘起による固定化によってチオール反応性表面と結合したジスルフィドをジスルフィド結合の化学還元により解放する。その後、タンパク質を還元剤のない20mMのTris−HCl pH8.5緩衝液中で透析し、タンパク質本来の構造を取り戻す。固定化クチナーゼを次のステップに従って還元剤によって解放する。
1.TIRF装置に固定化クチナーゼを含むスライドを置いて、350nmにおける蛍光発光によりスライド上に吸着されたタンパク質濃度をモニターする。
2.緩衝液(50mMのDTTを含む20mMのTris−HCl pH8.5)の連続的な流れにより、30分間、1時間または最高5時間までスライドをパージする。
3.20mMのTris−HCl pH8.5緩衝液でスライドをパージする。
4.タンパク質溶離の後で、連続的に350nmにおけるスライドの蛍光を測定する。
【0097】
[実施例10:タンパク質機能および安定性への光照射または還元剤の影響]
[A.クチナーゼ酵素活性への光照射の影響]
296nmの照明を当てられたタンパク質サンプル(クチナーゼ)は、暗所または標準的な(人工の)実験室ライトに置かれたタンパク質サンプルと比較して、少なくとも約3時間まで照明を当てた場合には、活性の減少を示さなかった(図17A)。
【0098】
クチナーゼ(25mMのTris pH8.5中の1μM)にPTI蛍光分光計(励起スリットを6nmにセットし、発光スリットを1/2nmに設定した)において照明を当てた。3mLのサンプルを石英キュベットに入れ、296nm(発光を330nmにおいて記録した)における連続照明の間に連続的に攪拌した(500rpm、7×2mmマグネットスティック)。照明を当てている時間を通して、5μLのサンプルを即座に行う(5〜10分の内)活性測定のために集めた。コントロールサンプルを人工光源(ネオンランプ)の下に実験室ベンチの上に置き、参照としてサンプルを暗所に置いた。
【0099】
3つのサンプル全ての活性を(重複して)評価した。コントロール目的のために、緩衝液の中の純粋な基質を同様に分析した。100μLの基質溶液(25mMのTris pH8.0中の10μMの4−メチルウンベリフェリルブチレート、Fluka 19362)を黒いマルチプレート(96ウエル、Nunc 267742)の中の8個のウエルにピペットで取った。蛍光発光マルチプレートリーダー(SpectraMax Gemini XS)において、サンプルを365nmで励起させ、450nmにおける生成物の蛍光発光強度(FI)を最初の8〜10分の間の各秒分ごとに記録した。蛍光の一時的な増加(分ごとのΔFI)を、タンパク質活性の測定として用いた(最初の10分の間、蛍光発光強度が反応時間と線形の関係で増加した。r2>0.98)。報告した活性は、UV照明下のサンプルの活性または人工光でのコントロールサンプルの活性を暗所に置かれた参照サンプルの活性によって割ったものの間の比である。活性を25℃+/−0.1℃において評価した。クチナーゼ活性へのDTTの影響。
【0100】
[B.クチナーゼ酵素活性への還元剤の影響]
30μMのクチナーゼを5.1mMのDTTで様々な時間の間インキュベートした。DTTの存在下でトリブチリンに対する時間依存性のクチナーゼ活性に従う実験の結果を図17Bに示す。DTTがない場合のクチナーゼは、26時間を越えても比活性を維持している。DTTの存在下での5.1mMのDTTに対する30μMのクチナーゼの比において、クチナーゼ比活性は、45分のインキュベーションの間に最初の活性の41%に減少した。4時間のインキュベーションの後には、比活性は最初の活性の21%であった。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】295nmの照明を当てる時間の関数として、350nmにおけるクチナーゼ蛍光発光強度を示す。
【図2】タンパク質のSH基と5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)のSS基との間のカップリング反応、およびニトロチオベンゾエート(NTB)の化学量論的放出を示す。
【図3】295nm(実線)の照明を当てた時間の関数として、350nmにおけるクチナーゼのTrp蛍光発光(F)強度の増加[F/Fo](実線)、および蛍光発光放射の増加[F/Fo]の特定の比に伴うクチナーゼサンプル内で新たに形成された遊離チオール基の濃度(白丸)を示す。
【図4】(A)DTTなしで25℃において[黒丸];(B)DTTなしで70℃において[黒の実線];(C)70℃に加熱し、25℃に冷却にした後に、DTTなしで25℃において[白丸];(D)70℃に加熱し、DTTを添加し、25℃に冷却にした後に、DTTありで25℃において[グレーの実線]、インキュベーションする間の295nmの光による励起時の1μMのクチナーゼ溶液の蛍光発光スペクトルを示す。
【図5】pH7.0における水溶液中での芳香族アミノ酸残基のスペクトル特性を示す。
【図6】遊離SH基の存在下でそのSS結合が壊れてBodipy基の蛍光をもたらす、分子内でクエンチされたプローブBodipy FL−L−シスチンの構造を示す。
【図7】Bodipy FL−L−シスチンとの反応による、296nmにおけるUV照明の前および後でのタンパク質サンプル内での遊離SH基の検出を示す。変異体クチナーゼ(W69A)(A);天然クチナーゼ(B)タンパク質サンプルのBodipy基の蛍光発光スペクトルは、照明なしでBodipyプローブなし();照明なしでBodipyプローブあり(●)および照明ありでbodipy処理あり(○)、で示される。
【図8】Bodipy FL−L−シスチンとの反応により、296nmにおけるUV照明の前および後でのタンパク質サンプル内での遊離SH基の検出を示す。ニワトリ卵白(hen white)リゾチーム(A);Rhizopus niveusトリグリセリドリパーゼ(B);ヒトプラスミノーゲン(C);ヒト胎盤アルカリホスファターゼ(D);キモシン(E);ヒト免疫グロブリン(F)タンパク質サンプルのBodipy基の蛍光発光スペクトルは、照明なしでBodipyプローブなし;照明なしでBodipyプローブあり、および照明ありでbodipy処理あり、で示される。
【図9】8Å半径以内の種々の空間TrpS−S三つ組隣接範囲の輪郭プロットを示す。種々の三つ組はx軸に沿ってプロットされ、クチナーゼ三つ組とそれらの類似性に従って並べられ(1cex;No.1にランク)、残基の種々のグループはy軸に沿ってプロットされる。スコアが>1であることは、残基/グループが平均を超える出現率であることを意味する。他方、スコアが<1であることは、残基/グループが平均未満の出現率であることを意味する。
【図10】8Å半径以内の種々の空間TrpS−S三つ組隣接範囲の輪郭プロットを示す。種々の三つ組はx軸に沿ってプロットされ、クチナーゼ三つ組とそれらの類似性に従って並べられ(1cex;No.1にランク)、残基の種々のグループはy軸に沿ってプロットされる。スコアが>1であることは、残基/グループが平均を超える出現率であることを意味する。他方、スコアが<1であることは、残基/グループが平均未満の出現率であることを意味する。α−ラクトアルブミン内の2つのTrpS−S三つ組が分析に含められる。ここで、Trp60−Cys73−Cys91はUV照射で切断可能であるが、Trp118−Cys28−Cys111は切断可能でないことが見出される。
【図11】免疫グロブリン中に存在するIGG1三つ組Aで同定された、8Å半径以内の種々の空間TrpS−S三つ組隣接範囲の輪郭プロットを示す。種々の三つ組はx軸に沿ってプロットされ、クチナーゼ三つ組とそれらの類似性に従って並べられ(1cex;No.1にランク)、残基の種々のグループはy軸に沿ってプロットされる。スコアが>1であることは、残基/グループが平均を超える出現率であることを意味する。他方、スコアが<1であることは、残基/グループが平均未満の出現率であることを意味する。
【図12】免疫グロブリン中に存在するIGG1三つ組Bで同定された、8Å半径以内の種々の空間TrpS−S三つ組隣接範囲の輪郭プロットを示す。種々の三つ組はx軸に沿ってプロットされ、クチナーゼ三つ組とそれらの類似性に従って並べられ(1cex;No.1にランク)、残基の種々のグループはy軸に沿ってプロットされる。スコアが>1であることは、残基/グループが平均を超える出現率であることを意味する。他方、スコアが<1であることは、残基/グループが平均未満の出現率であることを意味する。
【図13】296nmにおける連続照明または限定された照明の下でのSH活性化石英スライド上でのクチナーゼ固定化の間にTIRFフローセルで検出された296nmにおける励起の際の330nmにおける蛍光発光の経時変化を示す。フローチャンバーは、ステップAで2.0μMのクチナーゼ溶液で洗い流される。ステップBで2.0μMのクチナーゼ溶液でインキュベートされる。ステップC/Dで緩衝液Aによって濯がれる。ステップEで洗浄剤および緩衝液Aによって濯がれる。
【図14】A:連続照明または限定された照明の下でSH活性化石英スライドまたは水酸化石英スライド上で固定された天然クチナーゼの最終の蛍光発光強度(330nm、296nmにおける励起時)を示す。B:連続照明の下でまたは暗所においてSH活性化石英スライド上で固定された天然クチナーゼおよび変異体クチナーゼ(W69A)の最終の蛍光発光強度(330nm、296nmにおける励起時)を示す。
【図15】UV照明によりSH活性化石英スライドまたは水酸化石英スライドのいずれかの上で固定されたクチナーゼによって加水分解された4−メチルウンベリフェリルブチレートの蛍光発光強度(450nm、365nmにおける励起時)を示す。
【図16】10分間の連続照明(A)、または296nmにおける連続照明(C)の下で、および暗所(B)において、SH活性化石英スライドまたは水酸化上石英スライドでの(A)リゾチーム固定化、(B)リゾチーム(lysosyme)固定化、および(C)キモシン固定化の間にTIRFフローセルで検出された296nmにおける励起の際の330nmにおける蛍光発光の経時変化を示す。 図16A、BおよびCでは、フローチャンバーを、ステップ(a/A)ではタンパク質(リゾチームまたはキモシン)で10分間(最初の6.66分間は洗い流し/フロー)インキュベートする。ステップ(b/B)では緩衝液で10分間(最初の6.66分間は洗い流し/フロー)洗浄する。ステップ(c/C)ではHelmanex(2% pH10〜11)で4〜5分間(最初の3.33分間は洗い流し/フロー)洗浄する。ステップ(d/D)では残りの読み取りのため緩衝液で洗浄する(最初の3.33分間はフロー)。
【図17】A:(暗所に置かれたサンプルと比較して)クチナーゼサンプルの相対的な活性を296nmにおける照明または実験室の光に置かれる照明の関数として示す。B:5.1mMのDTTの存在下で(●、●)またはDTTなしで(○)、クチナーゼサンプルの相対的な活性を示す。DTTなしのサンプルに対する300分におけるデータポイントは、1600分において測定した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジスルフィド架橋を有するタンパク質またはペプチドを担体にカップリングする方法であって、
a)前記タンパク質またはペプチドに照射し、ジスルフィド架橋の切断によって前記タンパク質またはペプチドにチオール基を形成するステップ、および
b)照射された前記タンパク質またはペプチドを、チオール基と結合可能な担体とインキュベーションして、カップリングを得るステップ、
または
a)前記タンパク質またはペプチドを、チオール基と結合可能な担体とインキュベーションするステップ、および
b)前記担体の存在下で前記タンパク質またはペプチドに照射し、ジスルフィド架橋の切断によって前記タンパク質またはペプチドにチオール基を形成して、カップリングを得るステップ、
を含む方法。
【請求項2】
前記照射するステップが、1以上の芳香族アミノ酸を励起させる波長の光を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記芳香族アミノ酸が、トリプトファン、チロシンおよびフェニルアラニンを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記照射が、約295nm、275nmまたは254nmの波長の光を含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記芳香族アミノ酸がトリプトファンである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記波長が約295nmである、請求項2、3または5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記タンパク質またはペプチドが、遊離芳香族アミノ酸の存在下で照射される、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記担体が、ペプチド、タンパク質または生体分子を含む、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記担体が支持体である、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記カップリングが、前記支持体上での固定化である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記固定化が空間的に制御されている、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記支持体が金を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記支持体が、チオール基と結合可能な誘導体化支持体である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記支持体が、チオール基またはジスルフィド架橋を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記支持体がスペーサーを有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から15のいずれかに記載の方法によりカップリングされた1以上のタンパク質またはペプチドを有する担体。
【請求項17】
前記担体が支持体である、請求項16に記載の担体。
【請求項18】
前記支持体が、電子チップ、スライド、ウエハー、樹脂、ウエル、チューブ、マイクロアレイおよび薄膜からなる群より選択される、請求項17に記載の担体。
【請求項19】
前記支持体が、トパーズ、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリエーテルミド(polyethermide)、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリメチルメタクリレート、ポリ(フッ化ビニリデン)、シリコーン、ダイヤモンド、石英およびシリカ、ケイ素、金属、ナイロン、ニトロセルロース、アガロース、セルロースおよびセラミックからなる群より選択される材料を含む、請求項18に記載の担体。
【請求項20】
前記1以上のタンパク質またはペプチドが、酵素、転写因子、タンパク質ドメイン、結合タンパク質、抗原および免疫グロブリンからなる群より選択される、請求項16から19のいずれかに記載の担体。
【請求項21】
前記免疫グロブリンが、F(ab)フラグメントである、請求項20に記載の担体。
【請求項22】
前記酵素が、クチナーゼ、キモシン、グルコースオキシダーゼ、リパーゼ、リゾチーム、アルカリホスファターゼおよびプラスミノーゲンからなる群より選択される、請求項20に記載の担体。
【請求項23】
前記担体が薬剤を含む、請求項16に記載の担体。
【請求項24】
生体機能反応のための請求項16から22のいずれかに記載の担体の使用。
【請求項25】
前記生体機能反応が、バイオセンサー、クロマトグラフィー、免疫検出、酵素アッセイ、ヌクレオチド結合検出、タンパク質−タンパク質相互作用、タンパク質修飾、担体標的化またはタンパク質標的化からなる群より選択される、請求項24に記載の担体の使用。
【請求項26】
バイオセンサーまたはタンパク質/ペプチドマイクロアレイの生産ための請求項1から15のいずれかに記載の方法の使用。
【請求項27】
診察用キットまたはバイオセンサーキットにおいて使用するための請求項16から23のいずれかに記載の担体の使用。
【請求項28】
照射によって切断可能なジスルフィド架橋を有するタンパク質またはペプチドを予測する方法であって、
a)ジスルフィド架橋を有するタンパク質またはペプチドを同定および選択するステップと、
b)(a)で選択されたタンパク質またはペプチドであって、前記ジスルフィド架橋から10Å以内に芳香族アミノ酸残基をさらに有するタンパク質またはペプチドを同定および選択するステップと、
c)(b)で選択されたタンパク質またはペプチドであって、前記芳香族アミノ酸の側鎖の双極子の面が、前記ジスルフィド架橋の面と直角ではないタンパク質またはペプチドを同定および選択するステップと
を含む方法。
【請求項29】
(b)または(c)で選択したタンパク質またはペプチドであって、前記芳香族アミノ酸残基のインドール環から8Å半径以内に位置しているアミノ酸残基において、少なくとも1回折り込まれることにより、アミドアミノ酸残基(Asn、Gln)ならびに短鎖の脂肪族アミノ酸残基(Gly、Ala、Val)および/または長鎖の脂肪族アミノ酸残基(Leu、Ile)が平均を超える出現率であり、少なくとも1回折り込まれることにより、荷電アミノ酸(His、Lys、Arg)(Asp、Glu)およびプロリン残基が平均未満の出現率であるタンパク質またはペプチドを同定および選択するステップを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項1】
ジスルフィド架橋を有するタンパク質またはペプチドを担体にカップリングする方法であって、
a)前記タンパク質またはペプチドに照射し、ジスルフィド架橋の切断によって前記タンパク質またはペプチドにチオール基を形成するステップ、および
b)照射された前記タンパク質またはペプチドを、チオール基と結合可能な担体とインキュベーションして、カップリングを得るステップ、
または
a)前記タンパク質またはペプチドを、チオール基と結合可能な担体とインキュベーションするステップ、および
b)前記担体の存在下で前記タンパク質またはペプチドに照射し、ジスルフィド架橋の切断によって前記タンパク質またはペプチドにチオール基を形成して、カップリングを得るステップ、
を含む方法。
【請求項2】
前記照射するステップが、1以上の芳香族アミノ酸を励起させる波長の光を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記芳香族アミノ酸が、トリプトファン、チロシンおよびフェニルアラニンを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記照射が、約295nm、275nmまたは254nmの波長の光を含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記芳香族アミノ酸がトリプトファンである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記波長が約295nmである、請求項2、3または5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記タンパク質またはペプチドが、遊離芳香族アミノ酸の存在下で照射される、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記担体が、ペプチド、タンパク質または生体分子を含む、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記担体が支持体である、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記カップリングが、前記支持体上での固定化である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記固定化が空間的に制御されている、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記支持体が金を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記支持体が、チオール基と結合可能な誘導体化支持体である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記支持体が、チオール基またはジスルフィド架橋を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記支持体がスペーサーを有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から15のいずれかに記載の方法によりカップリングされた1以上のタンパク質またはペプチドを有する担体。
【請求項17】
前記担体が支持体である、請求項16に記載の担体。
【請求項18】
前記支持体が、電子チップ、スライド、ウエハー、樹脂、ウエル、チューブ、マイクロアレイおよび薄膜からなる群より選択される、請求項17に記載の担体。
【請求項19】
前記支持体が、トパーズ、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリエーテルミド(polyethermide)、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリメチルメタクリレート、ポリ(フッ化ビニリデン)、シリコーン、ダイヤモンド、石英およびシリカ、ケイ素、金属、ナイロン、ニトロセルロース、アガロース、セルロースおよびセラミックからなる群より選択される材料を含む、請求項18に記載の担体。
【請求項20】
前記1以上のタンパク質またはペプチドが、酵素、転写因子、タンパク質ドメイン、結合タンパク質、抗原および免疫グロブリンからなる群より選択される、請求項16から19のいずれかに記載の担体。
【請求項21】
前記免疫グロブリンが、F(ab)フラグメントである、請求項20に記載の担体。
【請求項22】
前記酵素が、クチナーゼ、キモシン、グルコースオキシダーゼ、リパーゼ、リゾチーム、アルカリホスファターゼおよびプラスミノーゲンからなる群より選択される、請求項20に記載の担体。
【請求項23】
前記担体が薬剤を含む、請求項16に記載の担体。
【請求項24】
生体機能反応のための請求項16から22のいずれかに記載の担体の使用。
【請求項25】
前記生体機能反応が、バイオセンサー、クロマトグラフィー、免疫検出、酵素アッセイ、ヌクレオチド結合検出、タンパク質−タンパク質相互作用、タンパク質修飾、担体標的化またはタンパク質標的化からなる群より選択される、請求項24に記載の担体の使用。
【請求項26】
バイオセンサーまたはタンパク質/ペプチドマイクロアレイの生産ための請求項1から15のいずれかに記載の方法の使用。
【請求項27】
診察用キットまたはバイオセンサーキットにおいて使用するための請求項16から23のいずれかに記載の担体の使用。
【請求項28】
照射によって切断可能なジスルフィド架橋を有するタンパク質またはペプチドを予測する方法であって、
a)ジスルフィド架橋を有するタンパク質またはペプチドを同定および選択するステップと、
b)(a)で選択されたタンパク質またはペプチドであって、前記ジスルフィド架橋から10Å以内に芳香族アミノ酸残基をさらに有するタンパク質またはペプチドを同定および選択するステップと、
c)(b)で選択されたタンパク質またはペプチドであって、前記芳香族アミノ酸の側鎖の双極子の面が、前記ジスルフィド架橋の面と直角ではないタンパク質またはペプチドを同定および選択するステップと
を含む方法。
【請求項29】
(b)または(c)で選択したタンパク質またはペプチドであって、前記芳香族アミノ酸残基のインドール環から8Å半径以内に位置しているアミノ酸残基において、少なくとも1回折り込まれることにより、アミドアミノ酸残基(Asn、Gln)ならびに短鎖の脂肪族アミノ酸残基(Gly、Ala、Val)および/または長鎖の脂肪族アミノ酸残基(Leu、Ile)が平均を超える出現率であり、少なくとも1回折り込まれることにより、荷電アミノ酸(His、Lys、Arg)(Asp、Glu)およびプロリン残基が平均未満の出現率であるタンパク質またはペプチドを同定および選択するステップを含む、請求項28に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図8F】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図8F】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図17】
【公表番号】特表2006−515677(P2006−515677A)
【公表日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500512(P2006−500512)
【出願日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【国際出願番号】PCT/DK2004/000047
【国際公開番号】WO2004/065928
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(505278207)バイオナノフォトニクス・アクティーゼルスカブ (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【国際出願番号】PCT/DK2004/000047
【国際公開番号】WO2004/065928
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(505278207)バイオナノフォトニクス・アクティーゼルスカブ (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]