説明

光走査装置

【課題】基板を振動させた際にミラー部を支持する梁部の位置が変わらずに必要な振幅が得られる光走査装置を提供する。
【解決手段】基板1の梁部3が接続された一対の基板舌部8に当該梁部3の接続部近傍であって基板長手方向の軸線Mに対して軸対称となる位置に基板舌部8の剛性を低下させる基板剛性低下部9が各々形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源より照射された光ビームを揺動するミラー部で反射して走査を行う光走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光源より照射されたレーザー光等の光ビームを走査する光走査装置は、バーコードリーダ、レーザープリンタ、ヘッドマウントディスプレー等の光学機器、あるいは赤外線カメラ等撮像装置の光取り入れ装置として用いられている。
【0003】
例えば、図7(a)(b)において、支持部材51とクランプ部材57とで片持ち状にクランプされて支持された基板52(例えばステンレス基板やシリコン基板など)の自由端側に一対の基板舌部53aが両側に設けられ、該基板舌部53a間に形成された開口部53b内に梁部54により両側が連結されたミラー部55が設けられている。ミラー部55は鏡面仕上げされているか、反射膜が形成されているか、或いは基板にミラーが貼付けられている。
【0004】
また、基板52に圧電体、磁歪体、または永久磁石のいずれかによる薄膜よりなる振動源56を設け、例えば圧電体の場合、図示しない駆動源より正電圧を印加すると延びが発生し、負電圧を印加すると縮みが発生するため、基板52に撓みが発生する。この基板52の上下方向の撓みに対して梁部54にねじれ振動が発生してミラー部55が揺動する。
【0005】
このミラー部55と梁部54との共振周波数付近で駆動周波数を維持して、振動するミラー部55によりレーザー光を反射することで光走査する。これによって、MEMS(Micro Electro Mechanical System)を用いて製造された微小ミラーを揺動させる光走査装置より製造コストがかからず、小型の振動源56でミラー部55に大きな振動を発生させるようになっている。梁部54には変形時に応力集中が起こり易いため、スリットを形成して応力集中を緩和することが行なわれている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−109905号公報
【特許文献2】特開2007−268374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した片持ち支持された基板52の自由端に設けられる一対の基板舌部53aは均等な幅で設計されるため、振動源56を作動したときに基板52が振動する自由端で基板舌部53aに形成される節の位置がコントロールし難い。節の位置が梁部54と一致せずに上下へずれると光走査装置の組み付け誤差とあいまって必要な走査精度が得られない。また、一対の基板舌部53aにおいて基板振動方向への剛性が高いため、光走査に必要な振幅が得られ難い。
よって、梁部54の位置と節の位置が一致するように片持ち支持される基板52のクランプ位置の調整を試行錯誤しながら行なう必要がある。
【0008】
本発明は、基板を振動させた際にミラー部を支持する梁部の位置が変わらずに必要な振幅が得られる光走査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
長手方向の一方側を片持ち状に支持された基板の他端側に形成された開口部内に両側を梁部により支持されたミラー部が形成され、前記基板上に設けられた振動源を作動させて当該基板を撓ませることにより前記梁部を揺動軸として前記ミラー部を揺動させながら照射光を反射することで走査する光走査装置であって、前記基板の梁部が接続された一対の基板舌部に当該梁部の接続部近傍であって基板長手方向の軸線に対して軸対称となる位置に前記基板舌部の剛性を低下させる基板剛性低下部が各々形成されていることを特徴とする。
【0010】
前記基板剛性低下部は、貫通孔、凹み若しくは切欠きのいずれかがプレス加工若しくはエッチング加工により形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
基板の梁部が接続された一対の基板舌部に当該梁部の接続部近傍であって基板長手方向の軸線に対して軸対称となる位置に基板舌部の剛性を低下させる基板剛性低下部が各々形成されていると、振動源を作動させて基板を振動させた際に基板剛性が低い基板剛性低下部を節として基板が振動し易くなる。
よって、梁部を節としてミラー部が揺動し易くなるため、同じ基板サイズでもミラーの振幅が拡大しかつ梁部の位置が移動し難くなるため走査範囲も安定し、基板のクランプ位置の調整作業も簡略化することができる。
【0012】
基板剛性低下部は、貫通孔、凹み若しくは切欠きのいずれかがプレス加工若しくはエッチング加工により手間や工数はかからず形成できるので、簡易な構成で光走査装置の安定した特性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】光学走査装置の平面図及び矢印A−A断面図である。
【図2】他例に係る光学走査装置の平面図及び矢印A−A断面図である。
【図3】他例に係る光学走査装置の平面図及び矢印A−A断面図である。
【図4】他例に係る光学走査装置の平面図及び矢印A−A断面図である。
【図5】他例に係る光学走査装置の平面図及び矢印A−A断面図である。
【図6】他例に係る光学走査装置の平面図及び矢印A−A断面図である。
【図7】従来の光学走査装置の平面図及び矢印A−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る光学走査装置の実施形態について図面を参照して説明する。本実施例では、レーザービームプリンタ用に用いられる光走査装置(スキャナー)を例示して説明するものとする。
【0015】
[第1実施例]
第1図1(a)(b)を参照して光走査装置の概略構成について説明する。
基板1は金属板(ステンレススチール;SUS304)若しくはシリコン基板(Si)などの矩形基板が好適に用いられる。基板1は長手方向の一方側を支持部材7とクランプ部材6に挟み込まれて片持ち状に支持されている。
【0016】
基板1の他端側(自由端側)には一対の基板舌部8が形成されている。この基板舌部8間に形成された開口部2内に両側を梁部3により支持されたミラー部4が設けられている。
【0017】
また、基板1の一端側中央部には振動源5として圧電素子(PZT;チタン酸ジルコン酸鉛)が接着等により設けられている。この振動源5を作動させて当該基板1を振動させることにより、梁部3を揺動軸としてミラー部4を揺動させながら照射光を反射することで走査するようになっている。
【0018】
図1(a)において、基板1の梁部3が接続された一対の基板舌部8には、当該梁部3の接続部近傍(梁部3の基板短手方向中心軸L上)に、基板長手方向の軸線Mに対して軸対称となる位置に角孔9(貫通孔;基板剛性低下部)が各々穿孔されている。この角孔9の孔形状は、正方形、長方形、平行四辺形、菱形などの矩形孔が形成されている。この角孔9は、基板製造工程において、プレス加工若しくはエッチング加工により形成することができる。
【0019】
かかる角孔9の存在により基板舌部8の振動方向の剛性が低下する。このため、振動源5を作動させて基板1を振動させた際に基板舌部8のうち剛性が低い角孔9の付近を節として基板1が振動し易くなる。よって、梁部3を節としてミラー部4が揺動し易くなるため、同じ基板サイズでもミラー部4の振幅が拡大しかつ梁部3の位置が移動し難くなるため走査範囲も安定し、基板1のクランプ位置の調整作業も簡略化することができる。
【0020】
[第2実施例]
次に光走査装置の他例について図2(a)(b)を参照して説明する。第1実施例と同一部材には同一番号を付して説明を援用するものとする。本実施例では、基板舌部8に対して角孔9(基板剛性低下部)が設けられる位置が異なっている。
【0021】
基板1の自由端側に設けられた一対の基板舌部8には、梁部3の接続部近傍(梁部3の基板短手方向中心軸Lより振動源5側にずれた位置)には、基板長手方向の軸線Mに対して軸対称となる位置に角孔9が各々穿孔されている。
尚、角孔9は、梁部3の基板短手方向中心軸Lより自由端側にずれた位置に形成されていてもよい。この角孔9も、基板製造工程において、プレス加工若しくはエッチング加工により形成することができる。
上記構成によっても、基板1を振動させた際に基板舌部8のうち剛性が低い角孔9の近傍である梁部3を節として基板1が振動し易くなる。
【0022】
[第3実施例]
次に光走査装置の他例について図3(a)(b)を参照して説明する。第1実施例と同一部材には同一番号を付して説明を援用するものとする。
本実施例では、基板舌部8に対して設けられる基板剛性低下部の形状が異なっている。即ち、基板1の自由端側に設けられた一対の基板舌部8には、梁部3の接続部近傍(梁部3の基板短手方向中心軸L上)に、基板長手方向の軸線Mに対して軸対称となる位置に丸孔10(貫通孔;基板剛性低下部)が各々穿孔されている。この丸孔10も、基板製造工程において、プレス加工若しくはエッチング加工により形成することができる。尚、丸孔10に替えて楕円孔や長孔等であってもよい。
上記構成によっても、基板1を振動させた際に基板舌部8のうち剛性が低い丸孔10の近傍である梁部3を節として基板1が振動し易くなる。
【0023】
[第4実施例]
次に光走査装置の他例について図4(a)(b)を参照して説明する。第1実施例と同一部材には同一番号を付して説明を援用するものとする。
本実施例では、基板舌部8に対して設けられる基板剛性低下部の形状が異なっている。即ち、基板1の自由端側に設けられた一対の基板舌部8には、梁部3の接続部の一方側(自由端側)に隣接して基板舌部8の幅方向に切り欠かれたスリット11(切欠き;基板剛性低下部)が形成されている。スリット11は、基板舌部8に基板長手方向の軸線Mに対して軸対称となる位置に各々形成されている。このスリット11も、基板製造工程において、プレス加工若しくはエッチング加工により形成することができる。尚、スリット11は基板舌部8の対向する内側辺縁部に設けたが、基板舌部8の外側辺縁部に設けられていてもよい。
上記構成によっても、基板1を振動させた際に基板舌部8のうち剛性が低いスリット11に隣接する梁部3を節として基板1が振動し易くなる。
【0024】
[第5実施例]
次に光走査装置の他例について図5(a)(b)を参照して説明する。第1実施例と同一部材には同一番号を付して説明を援用するものとする。
本実施例では、基板舌部8に対して設けられる基板剛性低下部の配置が異なっている。即ち、基板1の自由端側に設けられた一対の基板舌部8には、梁部3の接続部の両側(振動源側及び自由端側)に各々隣接して基板舌部8の幅方向に切り欠かれたスリット11(切欠き;基板剛性低下部)が形成されている。これらのスリット11は、基板舌部8に基板長手方向の軸線Mに対して軸対称となる位置に各々形成されている。これらのスリット11も、基板製造工程において、プレス加工若しくはエッチング加工により形成することができる。尚、スリット11は基板舌部8の対向する内側辺縁部に設けたが、基板舌部8の外側辺縁部に設けられていてもよい。
上記構成によっても、基板1を振動させた際に基板舌部8のうち剛性が低いスリット11に隣接する梁部3を節として基板1が振動し易くなる。
【0025】
[第6実施例]
次に光走査装置の他例について図6(a)(b)を参照して説明する。第1実施例と同一部材には同一番号を付して説明を援用するものとする。
本実施例では、基板舌部8に対して設けられる基板剛性低下部の形状が異なっている。即ち、基板1の自由端側に設けられた一対の基板舌部8には、当該梁部3の接続部近傍(梁部3の基板短手方向中心軸L上)に、基板長手方向の軸線Mに対して軸対称となる位置に凹み12(基板剛性低下部)が各々刻設されている。この凹み12の形状は、正方形、長方形、平行四辺形、菱形などの矩形若しくは丸、楕円、長円など任意の形状に形成されうる。また、凹み12の底部は平坦状でも湾曲状でもいずれでもよい。この凹み12は、基板製造工程において、プレス加工若しくはエッチング加工により形成することができる。
上記構成によっても、基板1を振動させた際に基板舌部8のうち剛性が低い凹み12に隣接する梁部3を節として基板1が振動し易くなる。
【0026】
尚、振動源5としては、圧電素子のほかに、圧電体、磁歪体又は永久磁石体のいずれかが基板上に膜状に直接形成されていてもよい。成膜法としては、例えばエアロゾルデポジション法(AD法)、真空蒸着法、スパッタリング法や化学的気相成長法(CVD: Chemical Vapor Deposition)、ゾル−ゲル法などの薄膜形成技術を用いて、圧電体、磁歪体又は永久磁石体のいずれかが基板上に膜状に直接形成されていると、低電圧駆動で低消費電力の光走査装置を提供できる。
【0027】
磁歪体や永久磁石体を用いる場合、外部から印加する交番磁界は、上記磁歪膜、永久磁石膜が形成された基板部近傍に設けられたコイルに交流電流を流すことで交番磁界を発生させる。尚、磁歪膜や永久磁石膜で基板に形成する場合、基板材料は非磁性材料である方が、より効率的に撓みを発生することができる。
【0028】
尚、ミラー部4は、基板1に金属板を使用する場合には鏡面仕上げされた基板1を用いると良い。金属板以外の基板や、金属板においてもより高い反射性能が要求され場合には、真空蒸着、スパッタリング、CVD(化学的気相成長法)等の薄膜形成技術により、ミラー部4へ薄膜を形成するか、或いはミラー部4へ別途ミラー用反射材料を貼付けてもよい。
【0029】
また、薄膜を形成する材料には、金(Au)、二酸化ケイ素(SiO2)、アルミニウム(Al)、あるいはフッ化マグネシウム(MgF2)から1つを選択、或いは2つ以上の材料を組み合わせ、さらに前記薄膜成形技術による同一層(=単層)、或いは2層以上の多層構成を適度な膜厚に制御することによって、反射性能を向上する薄膜が形成できる。あるいは、ミラー部4へ別途ミラー用反射材を貼付ける材料には、鏡面仕上げしたシリコン(Si)またはアルミナチタンカーバイト(Al2O3-TiC)のセラミック等へ、前記薄膜成形技術にて薄膜を形成しても良い。
【0030】
また、基板1の厚みに関しては、動作中のミラー部4の平坦性やプロジェクターデバイスなどへの応用で要求されるミラーサイズを考慮し、シリコン(Si)、ステンレススチール(SUS304等)等の、或いはさらにカーボンナノチューブを前記材料へ成長させた基板を想定すると、少なくとも10μm以上の厚みが望ましい。
【符号の説明】
【0031】
1 基板
2 開口部
3 梁部
4 ミラー部
5 振動源
6 クランプ部材
7 支持部材
8 基板舌部
9 角孔
10 丸孔
11 スリット
12 凹み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形基板の長手方向の一方側を片持ち状に支持された基板の他端側に形成された開口部内に両側を梁部により支持されたミラー部が形成され、前記基板上に設けられた振動源を作動させて当該基板を撓ませることにより前記梁部を揺動軸として前記ミラー部を揺動させながら照射光を反射することで走査する光走査装置であって、
前記基板の梁部が接続された一対の基板舌部に当該梁部の接続部近傍であって基板長手方向の軸線に対して軸対称となる位置に前記基板舌部の剛性を低下させた基板剛性低下部が各々形成されていることを特徴とする光走査装置。
【請求項2】
前記基板剛性低下部は、貫通孔、凹み若しくは切欠きのいずれかがプレス加工若しくはエッチング加工により形成されている請求項1記載の光走査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−169927(P2011−169927A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30810(P2010−30810)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度経済産業省委託研究「産業技術研究開発委託費/中小企業等製品性能評価事業/レーザープリンター用MEMS光スキャナーユニットの商品化」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】