光送信装置
【課題】複数の光変調部に与えられる駆動信号間の遅延ずれを確実に補償できる低コストの光送信装置を提供する。
【解決手段】光送信装置は、被覆付き偏波保持光ファイバコードを介して直列に接続された複数の光変調部と、各光変調部に対応した駆動部と、各駆動部に入力される変調信号に可変の遅延量を与えることで、各光変調部に与えられる駆動信号間のタイミングを調整する遅延量可変部と、を備え、上記被覆付き偏波保持光ファイバコードとして、光信号の伝搬速度の熱依存係数が0.007ps/℃/m以下のものを適用する。
【解決手段】光送信装置は、被覆付き偏波保持光ファイバコードを介して直列に接続された複数の光変調部と、各光変調部に対応した駆動部と、各駆動部に入力される変調信号に可変の遅延量を与えることで、各光変調部に与えられる駆動信号間のタイミングを調整する遅延量可変部と、を備え、上記被覆付き偏波保持光ファイバコードとして、光信号の伝搬速度の熱依存係数が0.007ps/℃/m以下のものを適用する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の変調部を備えた光送信装置に関し、特に、温度変動による駆動信号間の遅延ずれを補償可能な光送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代の40Gbit/s光伝送システム導入の要求が高まっており、しかも10Gbit/sシステムと同等の伝送距離や周波数利用効率が求められている。その実現手段として、従来10Gbit/s以下のシステムで適用されてきたNRZ(Non Return to Zero)変調方式に比べて、光信号対雑音比(OSNR)耐力、非線形性耐力に優れた変調方式である、RZ−DPSK(Differential Phase Shift Keying)変調またはCSRZ−DPSK変調の研究開発が活発になっている(例えば、非特許文献1、2参照)。更には、上述の変調方式に加えて、狭スペクトル(高周波数利用効率)の特長を持ったRZ−DQPSK(Differential Quadrature Phase-Shift Keying)変調またはCSRZ−DQPSK変調といった位相変調方式の研究開発も活発になっている。
【0003】
図22は、43Gbit/sのRZ−DPSKまたはCSRZ−DPSK変調方式を採用した光送信装置および光受信装置の構成例を示す図である。また、図23は、RZ−DPSKまたはCSRZ−DPSK変調された光信号を送受信する場合の光強度および光位相の状態を示す図である。
図22において、光送信装置110は、43Gbit/sのRZ−DPSKまたはCSRZ−DPSK変調方式の光信号を送信するものであり、例えば、送信データ処理部111、CW(Continuous Wave)光源112、位相変調器113およびRZパルス化用強度変調器114を備えている。
【0004】
具体的に、送信データ処理部111は、入力されるデータについてフレーム化するフレーマとしての機能、および誤り訂正符号を付与するFEC(Forward Error Correction)エンコーダとしての機能を備えるとともに、1ビット前の符号と現在の符号との差情報が反映された符号化処理を行なうDPSKプリコーダとしての機能を備えている。
位相変調器113は、CW光源112からの連続光を、送信データ処理部111からの符号化データに従って位相変調し、光強度は一定であるが2値の光位相に情報が乗った光信号、即ちDPSK変調された光信号を出力する(図23の下段参照)。
【0005】
RZパルス化用強度変調器114は、位相変調器113からの光信号をRZパルス化するものである(図23の上段参照)。特に、データのビットレートと同一の周波数(43GHz)で、かつ、消光電圧(Vπ)の1倍の振幅を有するクロック駆動信号を用いてRZパルス化された光信号をRZ−DPSK信号といい、また、データのビットレートの半分の周波数(21.5GHz)で、かつ、消光電圧(Vπ)の2倍の振幅を有するクロック駆動信号を用いてRZパルス化された光信号をCSRZ−DPSK信号という。
【0006】
また、光受信装置130は、光送信装置110に伝送路120および光中継器121を介して接続され、光中継伝送された光送信装置110からの(CS)RZ−DPSK信号についての受信信号処理を行なうものであり、例えば、遅延干渉計131、光電変換部132、再生回路133および受信データ処理部134を備えている。
具体的に、遅延干渉計131は、例えばマッハツェンダ干渉計により構成され、伝送路120を通じて伝送されてきた(CS)RZ−DPSK信号について1ビット時間(図22の構成例では23.3ps)の遅延成分と0radの位相制御がなされた成分とを干渉(遅延干渉)させて、その干渉結果を2つの出力としている。なお、上記のマッハツェンダ干渉計は、一方の分岐導波路が他方の分岐導波路よりも1ビット時間に相当する伝搬長だけ長くなるように形成されているとともに、他方の分岐導波路を伝搬する光信号を位相制御するための電極が形成されている。
【0007】
光電変換部132は、遅延干渉計131からの各出力をそれぞれ受光することにより差動光電変換検出(balanced detection)を行なうデュアルピンフォトダイオードにより構成される。なお、光電変換部132で検出された受信信号についてはアンプにより適宜増幅される。
再生回路133は、光電変換部132において差動光電変換検出された受信信号から、データ信号およびクロック信号を抽出するものである。
【0008】
受信データ処理部134は、再生回路で抽出されたデータ信号およびクロック信号を基に、誤り訂正等の信号処理を行うものである。
図24は、43Gbit/sのRZ−DQPSKまたはCSRZ−DQPSK変調方式を採用した光送信装置および光受信装置の構成例を示す図である。また、図25は、RZ−DQPSKまたはCSRZ−DQPSK変調された光信号を送受信する場合の光強度および光位相の状態を示す図である。なお、RZ−DQPSKまたはCSRZ−DQPSK変調方式に対応した光送受信装置の構成については、例えば特許文献1に詳しく説明されているため、ここではその概略を説明することにする。
【0009】
図24において、光送信装置210は、例えば、送信データ処理部211、1:2分離部(DEMUX)212、CW光源213、π/2移相器214、2つの位相変調器215A,215B、およびRZパルス化用強度変調器216を備えている。
具体的に、送信データ処理部211は、図22に示した送信データ処理部111と同様に、フレーマおよびFECエンコーダとしての機能を備えるとともに、1ビット前の符号と現在の符号との差情報が反映された符号化処理を行なうDQPSKプリコーダとしての機能を備えている。
【0010】
1:2分離部212は、送信データ処理部211からの43Gbit/sの符号化データを、21.5Gbit/sの2系列の符号化データ♯1,♯2に分離するものである。
CW光源213は、連続光を出力するものであり、該出力された連続光は2つに分離されて、一方の光が位相変調器215Aに入力され、他方の光がπ/2移相器214を介して位相変調器215Bに入力される。
【0011】
位相変調器215Aは、CW光源213からの連続光を1:2分離部212で分離した一方の系列の符号化データ♯1で変調して、2値の光位相(0radまたはπrad)に情報が乗った光信号を出力する。また、位相変調器215Bは、π/2移相器214においてCW光源213からの連続光をπ/2だけ位相シフトした光が入力され、この入力光を1:2分離部212で分離した他方の系列の符号化データ♯2で変調して、2値の光位相(π/2radまたは3π/2rad)に情報が乗った光信号を出力する。上記各位相変調器215A,215Bで変調された光は合波された後に後段のRZパルス化用強度変調器216に出力される。つまり、各位相変調器215A,215Bからの変調光が合波されることにより、光強度は一定であるが4値の光位相に情報が乗った光信号(図25の下段参照)、即ちDQPSK変調された光信号がRZパルス化用強度変調器216に送られる。
【0012】
RZパルス化用強度変調器216は、図22に示したRZパルス化用強度変調器114と同様に、位相変調器215A,215BからのDQPSK変調された光信号をRZパルス化するものである。特に、データ#1,#2のビットレートと同一の周波数(21.5GHz)かつ消光電圧(Vπ)の1倍の振幅のクロック駆動信号を用いてRZパルス化された光信号をRZ−DQPSK信号といい、また、データ#1,#2のビットレートの半分の周波数(10.75GHz)かつ消光電圧(Vπ)の2倍の振幅のクロック駆動信号を用いてRZパルス化された光信号をCSRZ−DQPSK信号という。
【0013】
また、光受信装置230は、光送信装置210に伝送路220および光中継器221を介して接続され、光中継伝送された光送信装置210からの(CS)RZ−DQPSK信号についての受信信号処理を行なうものであり、例えば、受信した光信号を2分岐する分岐部231を備えるとともに、分岐された各光信号が伝搬する光信号経路上には、それぞれ、遅延干渉計232A,232B、光電変換部233A,233B、再生回路234A,234Bを備えている。更に、各再生回路234A,234Bで再生されたデータ信号を多重する2:1多重部(MUX)235および受信データ処理部236を備えている。
【0014】
具体的に、各遅延干渉計232A,232Bには、伝送路220および光中継器221を通じて伝送されてきた(CS)RZ−DQPSK信号を分岐部231で2分岐した光信号がそれぞれ入力される。遅延干渉計232Aは、1ビット時間(図24の構成例では46.5ps)の遅延成分とπ/4radの位相制御がなされた成分とを干渉(遅延干渉)させて、その干渉結果を2つの出力としている。また、遅延干渉計232Bは、1ビット時間の遅延成分と−π/4radの位相制御がなされた成分(遅延干渉計232Aの同成分とは位相がπ/2radずれている)とを干渉(遅延干渉)させて、その干渉結果を2つの出力としている。ここでは、上記の各遅延干渉計232A,232Bがそれぞれマッハツェンダ干渉計により構成され、各々のマッハツェンダ干渉計は、一方の分岐導波路が他方の分岐導波路よりも1ビット時間に相当する伝搬長だけ長くなるように形成されているとともに、他方の分岐導波路を伝搬する光信号を位相制御するための電極が形成されている。
【0015】
各光電変換部233A,233Bは、各遅延干渉計232A,232Bからの各々の出力を受光することで差動光電変換検出を行なうデュアルピンフォトダイオードによりそれぞれ構成される。なお、各光電変換部233A,233Bで検出された受信信号についてはアンプにより適宜増幅される。
再生回路234Aは、光電変換部233Aにおいて差動光電変換検出された受信信号から、クロック信号およびデータ信号についての同相(In-phase)成分Iを再生するものである。また、再生回路234Bは、光電変換部233Bにおいて差動光電変換検出された受信信号から、クロック信号およびデータ信号についての直交(Quadrature-phase)成分Qを再生するものである。
【0016】
2:1多重部235は、各再生回路234A,234Bからの同相成分Iおよび直交成分Qが入力されて、それらをDQPSK変調前の43Gbit/sデータ信号に変換する。
受信データ処理部236は、2:1多重部235からのデータ信号を基に、誤り訂正等の信号処理を行うものである。
【0017】
ところで、上述したような(CS)RZ−DPSK変調方式および(CS)RZ−DQPSK変調方式の光送信装置は、いずれも複数の光変調器が直列に配置された構成になる。このような複数の光変調器を用いた変調方式においては、複数の光変調器の間で生じる光信号遅延量の変動が信号劣化を引き起こす恐れがあり問題となる。このような問題点は、複数の光変調器を用いる変調方式において40Gbit/s等の高いビットレートの伝送を行う場合に共通するものであり、上述した(CS)RZ−DPSK変調方式および(CS)RZ−DQPSK変調方式の他にも、RZ(Return-to-zero)変調方式(例えば、非特許文献3参照)や、CS−RZ(Carrier-suppressed Return-to-zero)変調方式(例えば、非特許文献4参照)、OTDM(Optical time domain multiplexing)変調方式(例えば、非特許文献5参照)などの変調方式においても、複数の光変調器間で生じる光信号遅延量の変動が信号劣化を引き起こす可能性がある。
【0018】
上記のような問題点に対処した従来の技術としては、例えば図26に示すように、CW光源311と出力端子との間に順に接続された位相変調器312および強度変調器313に印加される各クロック信号の位相をミキサ314で比較し、その位相比較結果に基づいて、両クロック信号間の位相関係が一定値となるように、自動遅延補償回路(ADC)315が移相器316の移相量を制御する構成が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特表2004−516743号公報
【特許文献2】特開2002−353896号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】T. Hoshida et al., “Optimal 40 Gb/s Modulation Formats for Spectrally Efficient Long-Haul DWDM Systems”, Journal of Lightwave Technology, Vol.20, No.12, pp.1989-1996, Dec. 2002
【非特許文献2】O. Vassilieva et al., “Non-Linear Tolerant and Spectrally Efficient 86Gbit/s RZ-DQPSK Format for a System Upgrade”, OFC 2003, ThE7, 2003.
【非特許文献3】A. Sano et al., “Performance Evaluation of Prechirped RZ and CS-RZ Formats in High-Speed Transmission Systems With Dispersion Management”, Journal of Lightwave Technology, Vol. 19, No. 12, pp.1864-1871, DECEMBER 2001
【非特許文献4】Y. Miyamoto et al., “1.2 Tbit/s (30×42.7 Gbit/s ETDM optical channel) WDM transmission over 376 km with 125 km spacing using forward error correction and carrier-suppressed RZ format”, Optical Fiber Communication Conference 2000 (OFC 2000), Pd26, 2000.
【非特許文献5】G. Ishikawa et al., “80-Gb/s (2x40-Gb/s) Transmission experiments over 667-km Dispersion-shifted fiber using Ti:LiNbO3OTDM modulation and demultiplexer”, ECOC'96 ThC3.3, 1996.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、上記のような従来の技術は、複数の変調器に印加される駆動信号を直接モニタして相対的な位相関係(遅延差)を検出し、その検出結果を基にフィードバック制御を行う方式であり、電気レベルでの遅延ずれを補償することはできるものの、光レベルでの遅延ずれを補償することができないという課題がある。光レベルでの遅延ずれとしては、例えば図27に示すように、光変調器412,413の間を接続する偏波保持光ファイバ(PMF;Polarization maintaining fiber)414の光伝播遅延量が温度によって変化することが問題になる。図28は、ファイバ被覆としてポリエステルエラストマーを用いたPMFについて、温度変化(基準温度:25℃)に対する遅延量を測定した結果の一例である。なお、光の波長は1550nmとしている。図28の測定結果より、温度上昇によって遅延量が増大することが分かる。
【0022】
図29は、様々な種類のPMFおよびPMF付きLN変調器で生じる遅延の温度依存性を測定した結果をまとめたものである。図29より、PMFの被覆の種類に依存して、PMFでの遅延変動量が変化することが分かる。具体的には、被覆径900μmのポリエステルエラストマーを用いたPMFに比べて、被覆径400μmの紫外線硬化型樹脂(UV)を用いたPMFの遅延変動量は小さくなる。また、PMF単体に比べて、PMF付きLN変調器での遅延変動量が大きくなり、LN変調器自体での遅延量も温度依存性を持っている。この原因としては、例えば、導波路基板と光ファイバの固定部分の熱膨張や、導波路長の熱膨張等が考えられる。
【0023】
次の表1は、光ファイバ芯線および被覆材料の熱膨張係数と、その値から換算される温度変動時の光遅延差をまとめたものである。
【0024】
【表1】
上記の表1より、石英(光ファイバ芯線)の熱膨張係数は非常に小さく、光ファイバ芯線自体の温度変動で生じる光遅延差の値は、前述の図29に示した測定結果に比べて非常に小さい。一方、ファイバ被覆材料の熱膨張係数は大きく、被覆材料の温度変動で生じる光遅延差の値は、前述の図29に示した測定結果に比べて大きい。よって、熱膨張したファイバ被覆がファイバ芯線を引き伸ばすことで、結果的に中間的な遅延差が光信号に与えられる結果になると考えられる。
【0025】
図30および図31は、43Gbit/sのCSRZ−DPSK変調方式のシステムについて、送信側の各光変調器の駆動信号(データ/クロック)間の位相ずれトレランスおよび受信信号波形を測定した結果の一例である。また、図32および図33は、43Gbit/sのRZ−DQPSK変調方式のシステムについて、送信側の各光変調器の駆動信号(データ/クロック)間の位相ずれトレランスおよび受信信号波形を測定した結果の一例である。
【0026】
位相ずれトレランスは、許容Qペナルティを0.3dBとした場合、CSRZ−DPSK変調方式(図30)では±2psとなり、RZ−DQPSK変調方式(図32)では±5psとなっていて、いずれの変調方式においても厳しい値となる。このため、前述の図28で示したようなPMFの温度変化による遅延ずれが発生すると、上記トレランスに比べて温度変化による遅延ずれが無視できない値となり、信号劣化を生じることが分かる(図31および図33)。
【0027】
また、上述したような複数の光変調器間を接続するPMFにおける遅延量の温度変動のみならず、電子回路や電気信号伝送路(例えば、電気同軸ケーブル等)における遅延量の温度変動も信号劣化を生じさせる原因となる。
すなわち、電子回路に用いられる能動デバイスおよび受動デバイスは、その特性が温度により変化し、これらを用いた増幅器においてバイアス電流やバイアス電圧が変動することで、遅延時間が温度により変化する。図34は、電子集積回路(クロック分配ICやロジックIC等を含む)で発生する遅延量変動の温度依存性を測定した一例である。この一例の場合、温度の上昇に伴って遅延時間が増加する特性を示している。
【0028】
また、電気信号を伝送する経路の遅延時間は、その経路の実効比誘電率の平方根と光速の比、および経路の長さから算出されるが、経路の長さや実効比誘電率が温度により変化するため、経路の遅延時間も温度により変化する。具体的に、経路の実効比誘電率は、経路に用いられる誘電体の誘電率と形状により決定され、誘電率は一般的に知られているように温度に対して変化し、また、経路の形状そのものも温度による変化が生じる。このため、電気信号を伝送する経路の遅延時間は温度依存性を有する。図35は、高周波同軸ケーブルにおける遅延時間の温度変動を測定した一例である。
【0029】
さらに、上述したようなPMFや電子回路、電気信号伝送路の有する遅延量の温度依存性のみならず、複数の光変調器間を接続するPMFの長さが各光変調器の実装配置やスプライス処理によって変わるために、各々の駆動信号間で遅延ずれが発生するという課題もある。このような課題は、各光変調器に印加される駆動信号間の遅延ずれを直接モニタしてフィードバック制御を行う従来の技術では解決することが困難である。
【0030】
加えて、従来の技術では、遅延ずれのモニタのために高価な高速デバイスが必要となるため、光送信装置の高コスト化を招いてしまうという欠点もある。
本発明は上記の点に着目してなされたもので、複数の光変調部に対する駆動信号間の温度変動による遅延ずれを確実に補償できる低コストの光送信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記の目的を達成するため本発明の一態様は、光を変調する複数の光変調部と、入力される変調信号に従って前記光変調部を駆動する駆動信号を出力する複数の駆動部と、前記複数の駆動部にそれぞれ入力される変調信号のうちの少なくとも1つの変調信号に対して可変の遅延量を与えることにより、前記複数の光変調部にそれぞれ与えられる駆動信号間の相対的なタイミングを調整する遅延量可変部と、を備えた光送信装置であって、前記複数の光変調部が被覆付き偏波保持光ファイバコードを介して直列に接続され、前記被覆付き偏波保持光ファイバコードは、光信号の伝搬速度の熱依存係数が0.007ps/℃/m以下であることを特徴とする。
【0032】
上記のような光送信装置では、複数の駆動部において変調信号に従って生成された駆動信号が対応する光変調部に出力され、各々の光変調部において光変調が行われる。このとき、複数の光変調部の間を接続する被覆付き偏波保持光ファイバコードとして、光信号の伝搬速度の熱依存係数が0.007ps/℃/m以下のものが適用されることにより、該偏波保持光ファイバコードの温度変化による遅延量のばらつきが小さくなって各光変調部に対しての適切なタイミングで駆動信号が与えられるようになるため、駆動信号間の遅延ずれによる信号劣化を防ぐことができるようになる。
【発明の効果】
【0033】
上記のように本発明によれば、複数の光変調器を用いる変調方式において40Gbit/s等の高いビットレートの光信号を送信する場合でも、装置内の温度変化に影響されることなく、高品質の光信号を安定して送信できる低コストの光送信装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に関連する光送信装置の第1構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に関連する光送信装置の第2構成を示すブロック図である。
【図3】本発明に関連する光送信装置の第3構成を示すブロック図である。
【図4】本発明に関連する光送信装置の第4構成を示すブロック図である。
【図5】本発明に関連する光送信装置の第5構成を示すブロック図である。
【図6】本発明に関連する光送信装置の第1の具体例を示すブロック図である。
【図7】上記具体例における遅延量可変部の回路構成を示す図である。
【図8】上記具体例における遅延量可変部の他の回路構成を示す図である。
【図9】上記具体例における遅延量可変部の別の回路構成を示す図である。
【図10】遅延量制御部で用いる関係式の係数の一例を示す図である。
【図11】被覆外径900μmのPMFについての遅延ずれ量の測定結果を示す図である。
【図12】被覆外径400μmのPMFについての遅延ずれ量の測定結果を示す図である。
【図13】遅延量制御部で用いる関係式の係数を波長の関数とする場合の適用方法を説明する図である。
【図14】遅延量制御部で折れ線近似式を用いた場合の遅延ずれ量の測定結果を示す図である。
【図15】1.55μm零分散PMFを用いたときの波長間の遅延差を示す図である。
【図16】本発明に関連する光送信装置の第2の具体例を示すブロック図である。
【図17】本発明に関連する光送信装置の第3の具体例を示すブロック図である。
【図18】本発明に関連する光送信装置の第4の具体例を示すブロック図である。
【図19】本発明に関連する光送信装置の第5の具体例を示すブロック図である。
【図20】本発明に関連する光送信装置の第6の具体例を示すブロック図である。
【図21】上記第1〜6の具体例に関連した応用を説明するための図である。
【図22】(CS)RZ−DPSK変調方式を採用したシステムの構成例を示す図である。
【図23】図22のシステムにおける光強度および光位相の状態を示す図である。
【図24】(CS)RZ−DQPSK変調方式を採用したシステムの構成例を示す図である。
【図25】図24のシステムにおける光強度および光位相の状態を示す図である。
【図26】複数の光変調器間の遅延ずれに対処した従来の光送信装置の構成を示す図である。
【図27】従来の光送信装置における課題を説明する図である。
【図28】PMFにおける遅延量の温度依存性を示す図である。
【図29】種類の異なるPMFにおける遅延量の温度依存性を示す図である。
【図30】CSRZ−DPSK変調方式の従来システムにおけるデータ/クロック間の位相ずれトレランスの測定結果を示す図である。
【図31】CSRZ−DPSK変調方式の従来システムにおける信号波形を示す図である。
【図32】RZ−DQPSK変調方式の従来システムにおけるデータ/クロック間の位相ずれトレランスの測定結果を示す図である。
【図33】RZ−DQPSK変調方式の従来システムにおける信号波形を示す図である。
【図34】電子集積回路における遅延量の温度依存性の測定結果を示す図である。
【図35】高周波同軸ケーブルにおける遅延時間の温度依存性の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら説明する。なお、全図を通して同一の符号は同一または相当部分を示すものとする。
図1は、本発明に関連する光送信装置の第1構成を示すブロック図である。
図1において、本光送信装置は、上述した(CS)RZ−DPSK変調方式や(CS)RZ変調方式のように、CW光源11と出力ポートOUTの間に、複数(ここではN個とする)の光変調部121〜12Nを直列に配置する場合に本発明を適用した一例である。
【0036】
各光変調部121〜12Nは、ここでは位相変調器や強度変調器などの個々に独立した光変調器が用いられ、各々の入出力ポートが光ファイバ131〜13N−1を介して直列に接続されている。各光変調部121〜12Nには、各々に対応する駆動部141〜14Nが設けられており、各駆動部141〜14Nから出力される駆動信号D1〜DNによって各光変調部121〜12Nが変調駆動される。
【0037】
各駆動部141〜14Nは、所要のビットレートのデータやそれに対応したクロックなどの変調信号M1〜MNが遅延量可変部151〜15Nを介してそれぞれ入力され、変調信号M1〜MNを基に生成した駆動信号D1〜DNを各光変調部121〜12Nに出力する。
各遅延量可変部151〜15Nは、各駆動部141〜14Nに入力される変調信号M1〜MNに対して可変の遅延量を与える。各遅延量可変部151〜15Nにおける遅延量は、温度モニタ部161〜16N−1から出力される温度モニタ信号T1〜TN−1に基づいて遅延量制御部17で生成される各制御信号C1〜CNに従って制御される。
【0038】
温度モニタ部161〜16N−1は、ここでは各光変調部121〜12Nの間を接続する光ファイバ131〜13N−1の近傍または接触位置に設けられ、光ファイバ131〜13N−1の温度をモニタする。
遅延量制御部17は、各温度モニタ部161〜16N−1からの温度モニタ信号T1〜TN−1を基に、各光変調部121〜12Nに与えられる駆動信号D1〜DN間の遅延差が温度の変化に関わらす一定となるように、各遅延量可変部151〜15Nにおける遅延量の補正値を演算し、その演算結果を示す制御信号C1〜CNを出力する。
【0039】
上記のような構成の光送信装置では、CW光源11から出力される連続光が各光変調部121〜12Nで順に変調されて出力ポートOUTより外部に出力される。このとき、光変調部121〜12Nの間を接続する光ファイバ131〜13N−1に温度変化が生じると、上述の図28および図29に例示した偏波保持光ファイバ(PMF)の場合のように、各光ファイバ131〜13N−1を伝搬する光信号の遅延量が変化してしまい、各光変調部121〜12Nに与えられる駆動信号D1〜DN間の遅延差を最適化しないと、遅延ずれによる信号劣化を招くことになる(図30および図32参照)。
【0040】
上記のような光ファイバ131〜13N−1における遅延量の温度変動に応じた信号劣化を防ぐため、第1構成では、各光ファイバ131〜13N−1に対応させて温度モニタ部161〜16N−1が設けられ、各光ファイバ131〜13N−1の温度がモニタされる。そして、各温度モニタ部161〜16N−1から出力される温度モニタ信号T1〜TN−1が遅延量制御部17に与えられ、該温度モニタ信号T1〜TN−1を基に各遅延量可変部151〜15Nにおける遅延量の補正値が演算されて、遅延ずれの温度補償が行われる。
【0041】
この遅延量制御部17での遅延量の補正値の演算は、例えば、各光ファイバ131〜13N−1の遅延量の温度特性データを利用して、各温度モニタ部161〜16N−1でモニタされた光ファイバの温度に対応する遅延量を求め、該遅延量の温度変動によって生じる駆動信号間の遅延差を補償するのに必要となる遅延量の補正値を各遅延量可変部151〜15Nについて算出することによって行われる。また、各光ファイバ131〜13N−1の遅延量の温度特性データを利用する代わりに、駆動信号間の遅延差を温度の関数として表した関係式を用いて、各温度モニタ部161〜16N−1でモニタされた光ファイバの温度に対応した遅延差を算出することも可能である。なお、遅延量制御部17における演算処理の具体例について後で詳しく説明することにする。
【0042】
上記のようにして各光ファイバ131〜13N−1の温度に対応した遅延量の補正値が各遅延量可変部151〜15Nについて演算されると、その演算結果を示す制御信号C1〜CNが遅延量制御部17から各遅延量可変部151〜15Nに出力され、各遅延量可変部151〜15Nにおける遅延量が制御信号C1〜CNに従って制御される。これにより、各駆動部141〜14Nから各光変調部121〜12Nに出力される駆動信号D1〜DN間の遅延差が温度変化に関係なく一定に制御されるようになり、光ファイバ131〜13N−1における遅延量の温度依存性に起因した信号劣化を防ぐことが可能になる。また、本光送信装置では、駆動信号D1〜DNのタイミング制御が温度のモニタ結果に基づいて行われるため、上述した従来技術のように高価な高速デバイスを用いて駆動信号を直接モニタする必要がなく、低コストの光送信装置を実現することができる。
【0043】
なお、上記の第1構成では、複数の光変調部のすべてに対応させて遅延量可変部を設けるようにしたが、遅延ずれの温度補償は各光変調部に与えられる駆動信号の相対的なタイミングを最適化すればよいので、例えば、図1において駆動部141から出力される駆動信号D1を基準にして他の駆動信号D1〜DN間の遅延差を最適化するようにすれば、遅延量可変部151は省略することが可能である。
【0044】
また、複数の光変調部の間を接続する各光ファイバ131〜13N−1について温度モニタ部161〜16N−1をそれぞれ配置する構成例を示したが、温度モニタ部は必ずしもすべての光ファイバに対応させて設ける必要はなく、光送信装置内の温度分布等を考慮して適宜な位置に温度モニタ部を配置するようにしてもよい。
【0045】
次に、本発明に関連する光送信装置の第2構成について説明する。
図2は、上記光送信装置の第2構成を示すブロック図である。
図2において、本光送信装置は、上述した(CS)RZ−DQPSK変調方式のように、CW光源21と出力ポートOUTの間に、多値光位相変調器およびパルス化用光変調器を直列に配置するとともに、多値光位相変調器の内部には複数(N個)の位相変調部221〜22Nを並列に配置して、各位相変調部221〜22Nで位相変調した光を合波し2N値位相変調された光信号を送信する場合に本発明を適用した一例である。各位相変調部221〜22Nには、各々に対応する駆動部241〜24Nが設けられており、各駆動部241〜24Nから出力される駆動信号D1〜DNによって各位相変調部221〜22Nが駆動される。なお、各位相変調部222〜22Nで位相変調された光信号は、各々の位相が各位相シフト部232〜23Nでそれぞれシフトされた後に、位相変調部221で位相変調された光信号と合波される。
【0046】
各駆動部241〜24Nは、前述した第1構成の駆動部141〜14Nと同様に、変調信号M1〜MNが遅延量可変部251〜25Nを介してそれぞれ入力され、変調信号M1〜MNを基に生成した駆動信号D1〜DNを各位相変調部221〜22Nに出力する。
各遅延量可変部251〜25Nは、各駆動部241〜24Nに入力される変調信号M1〜MNに対して可変の遅延量を与える。各遅延量可変部251〜25Nにおける遅延量は、温度モニタ部261〜26Nから出力される温度モニタ信号T1〜TNに基づいて遅延量制御部27で生成される各制御信号C1〜CNに従って制御される。なお、多値光位相変調器の後段に接続されるパルス化用光変調器についても、変調電極28に印加される駆動信号DN+1を出力する駆動部24N+1、および該駆動部24N+1に入力される変調信号MN+1に可変の遅延量を与える遅延量可変部25N+1が設けられている。
【0047】
温度モニタ部261〜26Nは、ここでは駆動部241〜24Nおよび遅延量可変部251〜25Nを含む電子回路部の近傍にそれぞれ配置され、電子回路部の温度をモニタする。
遅延量制御部27は、各温度モニタ部261〜26Nからの温度モニタ信号T1〜TNを基に、各位相変調部221〜22Nおよびパルス化用光変調器の変調電極28に与えられる駆動信号D1〜DN+1間の遅延差が温度の変化に関わらす一定となるように、各遅延量可変部251〜25N+1における遅延量の補正値を演算し、その演算結果を示す制御信号C1〜CN+1を出力する。
【0048】
上記のような構成の光送信装置では、CW光源21から出力される連続光が多値光位相変調器に入力されてN分岐された後に、各位相変調部221〜22Nでそれぞれ位相変調される。各位相変調部221〜22Nから出力される光信号は、位相変調部222〜22Nからの光信号については各位相シフト部232〜23Nで位相がシフトされた後に、それぞれが合波されて、2N値位相変調された光信号がパルス化用光変調器に送られる。パルス化用光変調器では、2N値位相変調された光信号を強度変調することでパルス化された光信号が生成されて出力ポートOUTより外部に出力される。
【0049】
上記の多値光位相変調器における変調動作の際、駆動部241〜24Nおよび遅延量可変部251〜25Nを含む電子回路部に温度変化が生じると、上述したように駆動部241〜24Nおよび遅延量可変部251〜25Nを構成する各電子回路に用いられる能動デバイスや受動デバイスの特性、或いは、該電子回路に接続された電気信号伝送路の遅延量が変化してしまい、各位相変調部221〜22Nに与えられる駆動信号D1〜DN間の遅延差を最適化しないと、遅延ずれによる信号劣化を招くことになる。そこで、第2構成では、各位相変調部221〜22Nに対応した電子回路部の近傍に温度モニタ部261〜26Nが設けられ、各電子回路部の温度がモニタされる。そして、各温度モニタ部261〜26Nから出力される温度モニタ信号T1〜TNが遅延量制御部27に与えられ、前述した第1構成の場合と同様にして、温度モニタ信号T1〜TNを基に各遅延量可変部251〜25Nにおける遅延量の補正値が演算されて、遅延ずれの温度補償が行われる。これにより、各駆動部241〜24Nから各位相変調部221〜22Nに出力される駆動信号D1〜DN間の遅延差が温度変化に関係なく一定に制御されるようになり、各位相変調部221〜22Nに対応した電子回路部の温度特性に起因した信号劣化を防ぐことが可能になる。このような構成は従来技術のように高価な高速デバイスを必要としないため、光送信装置の低コスト化を図ることができる。
【0050】
なお、ここではパルス化用光変調器側の遅延量可変部25N+1における遅延量についても温度モニタ信号T1〜TNを基に遅延量制御部27で補正値の演算が行われるものとする。また、多値光位相変調器とパルス化用光変調器の間が光ファイバで接続されている場合には、上述した第1構成の場合と同様にして、該光ファイバの温度変化に応じた遅延ずれの補償を行うようにするのが望ましい。
【0051】
また、上記の第2構成についても、上述した第1構成の場合と同様に、複数の位相変調部のすべてに対応させて遅延量可変部を設ける必要はなく、例えば図2において駆動部241から出力される駆動信号D1を基準にして他の駆動信号D1〜DN間の遅延差を最適化するようにすれば、遅延量可変部251は省略することが可能である。さらに、多値光位相変調された光信号をパルス化せずに出力する変調方式にも対応可能であり、その場合にはパルス化用光変調器は省略される。
【0052】
加えて、各位相変調部221〜22Nに対応した電子回路部について温度モニタ部261〜26Nをそれぞれ配置する構成例を示したが、温度モニタ部は必ずしもすべての電子回路部に対応させて設ける必要はなく、光送信装置内の温度分布等を考慮して適宜な位置に温度モニタ部を配置するようにしてもよい。
【0053】
次に、本発明に関連する光送信装置の第3構成について説明する。
図3は、上記光送信装置の第3構成を示すブロック図である。
図3において、本光送信装置は、複数(n個)の光変調部321〜32Nを並列に配置し、各光変調部321〜32Nにおいて強度変調を行い、該強度変調された光信号を合波して光時分割多重(OTDM)変調を行う場合に本発明を適用した一例である。各光変調部321〜32Nに対しては、CW光源31からの連続光を光分岐器38でN分岐した光がそれぞれ入力され、各々から出力される強度変調された光信号は各光ファイバ331〜33Nを介して光合波器39に送られ、光合波器39で合波されて出力ポートOUTより外部に出力される。各光変調部321〜32Nには、各々に対応する駆動部341〜34Nが設けられており、各駆動部341〜34Nから出力される駆動信号D1〜DNによって各光変調部321〜32Nが駆動される。
【0054】
各駆動部341〜34Nは、前述した第1構成の駆動部141〜14Nと同様に、変調信号M1〜MNが遅延量可変部351〜35Nを介してそれぞれ入力され、変調信号M1〜MNを基に生成した駆動信号D1〜DNを各光変調部321〜32Nに出力する。
各遅延量可変部351〜35Nは、各駆動部341〜34Nに入力される変調信号M1〜MNに対して可変の遅延量を与える。各遅延量可変部351〜35Nにおける遅延量は、温度モニタ部361〜36Nから出力される温度モニタ信号T1〜TNに基づいて遅延量制御部37で生成される各制御信号C1〜CNに従って制御される。
【0055】
温度モニタ部361〜36Nは、ここでは各光変調部321〜32Nと光合波器39との間を接続する各々の光ファイバ331〜33Nの近傍または接触位置に設けられ、各光ファイバ331〜33Nの温度をモニタする。
遅延量制御部37は、各温度モニタ部361〜36Nからの温度モニタ信号T1〜TNを基に、各光変調部321〜32Nに与えられる駆動信号D1〜DN間の遅延差が温度の変化に関わらす一定となるように、各遅延量可変部351〜35Nにおける遅延量の補正値を演算し、その演算結果を示す制御信号C1〜CNを出力する。
【0056】
上記のような構成の光送信装置では、CW光源31から出力される連続光が光分岐器38でN分岐された後に、各光変調部321〜32Nにおいてそれぞれ時分割で強度変調される。各光変調部321〜32Nから出力される光信号は、対応する光ファイバ331〜33Nをそれぞれ伝搬して光合波器39で合波され、時分割多重された光信号が出力ポートOUTより外部に出力される。
【0057】
このとき、各光変調部321〜32Nからの出力光が伝搬する光ファイバ331〜33Nに温度変化が生じると、各光ファイバ331〜33N−1を伝搬する光信号の遅延量が変化してしまい、各光変調部121〜12Nに与えられる駆動信号D1〜DN間の遅延差を最適化しないと、各光信号が正しいタイミングで合波されなくなり時分割多重光の劣化を招くことになる。そこで、第3構成では、各光ファイバ331〜33Nに対応させて温度モニタ部361〜36Nが設けられ、各光ファイバ331〜33Nの温度がモニタされる。そして、各温度モニタ部361〜36Nから出力される温度モニタ信号T1〜TNが遅延量制御部37に与えられ、上述した第1構成の場合と同様にして、温度モニタ信号T1〜TNを基に各遅延量可変部351〜35Nにおける遅延量の補正値が演算されて、遅延ずれの温度補償が行われる。これにより、各駆動部341〜34Nから各光変調部321〜32Nに出力される駆動信号D1〜DNのタイミングが温度変化に関係なく一定に制御されるようになり、光ファイバ331〜33Nにおける遅延量の温度依存性に起因した時分割多重光の劣化を防ぐことが可能になる。このような構成は従来技術のように高価な高速デバイスを必要としないため、光送信装置の低コスト化を図ることができる。
【0058】
なお、上記の第3構成についても、上述した第1構成の場合と同様に、複数の光変調部のすべてに対応させて遅延量可変部を設ける必要はなく、例えば図3において駆動部341から出力される駆動信号D1を基準にして他の駆動信号D1〜DN間の遅延差を最適化するようにすれば、遅延量可変部351は省略することが可能である。また、温度モニタ部は必ずしもすべての光ファイバに対応させて設ける必要はなく、光送信装置内の温度分布等を考慮して適宜な位置に配置するようにしても構わない。
【0059】
次に、本発明に関連する光送信装置の第4構成について説明する。
図4は、上記光送信装置の第4構成を示すブロック図である。
図4において、本光送信装置は、両側駆動変調器を用いる場合に本発明を適用した一例である。両側駆動変調器は、例えば、NRZ変調や(CS)RZ変調において、マッハツェンダ干渉計の各分岐導波路421,422上に形成された変調電極431,432に対して正転および反転の信号を印加してプッシュプル駆動することにより、ビット内波長変動(チャーピング)を零にした変調信号を生成することができる。このような両側駆動変調器は、分岐導波路421および変調電極431からなる光変調部と、分岐導波路422および変調電極432からなる光変調部とが並列に接続されていると見なすことができ、各変調電極431,432に与えられる駆動信号の温度変化による遅延ずれを補償するのに本発明の適用が有効である。
【0060】
具体的には、各変調電極431,432に対応した駆動部441,442について、入力される変調信号M1,M2に可変の遅延量を与える遅延量可変部451,452を設ける。なお、遅延量可変部451,452のいずれか一方は省略することも可能である。また、駆動部441,442および遅延量可変部451,452を含む電子回路部の近傍に温度モニタ部461,462を配置し、各電子回路部の温度をモニタする。そして、各温度モニタ部461,462から出力される温度モニタ信号T1,T2に基づいて、各遅延量可変部451,452における遅延量の補正値を遅延量制御部47で演算し、温度変化による遅延ずれの補償を行う。これにより、各変調電極431,432に与えられる駆動信号D1,D2間の位相関係を温度変化に関係なく最適化することが可能になる。
【0061】
次に、本発明に関連する光送信装置の第5構成について説明する。上述した第1構成では、個々に独立した複数の光変調部(光変調器)を光ファイバを用いて直列に接続する場合について説明した。第5構成では、これと同じ機能を持つ複数の光変調部を1つの導波路基板上に一括して形成した集積化光変調器を用いた場合について説明する。
【0062】
図5は、上記光送信装置の第5構成を示すブロック図である。
図5において、本光送信装置は、CW光源51と出力ポートOUTの間に導波路基板52が設けられ、該導波路基板52上には直列に配置された複数(N個)の光変調部521〜52Nが形成されている。ここでは各光変調部521〜52Nの間は導波路によって接続されることになるため、第1構成の場合のような各光変調部間を接続する光ファイバの温度変化による遅延ずれは生じない。一方、各光変調部521〜52Nに対応させて設けられた各駆動部541〜54Nおよび各遅延量可変部551〜55Nを含む電子回路部については、上述した第2構成の場合と同様に、電子回路部に用いられる能動デバイスや受動デバイスの特性、或いは、電気信号伝送路の遅延量が温度に依存して変化し、各光変調部521〜52Nに与えられる駆動信号D1〜DNに遅延ずれが生じる可能性がある。このため、ここでは各電子回路部の近傍に温度モニタ部561〜56Nが配置され、電子回路部の温度がモニタされる。遅延量制御部57は、各温度モニタ部561〜56Nから出力される温度モニタ信号T1〜TNを基に各遅延量可変部551〜55Nにおける遅延量の補正値を演算し、遅延ずれの温度補償を行う。これにより、各駆動部541〜54Nから各光変調部521〜52Nに出力される駆動信号D1〜DN間の遅延差が温度変化に関係なく一定に制御されるようになり、各光変調部521〜52Nに対応した電子回路部の温度特性に起因した信号劣化を防ぐことが可能になる。
【0063】
なお、上述した第1、3構成の場合には電子回路部の温度特性に起因した遅延ずれについて特に考慮しなかったが、上記第5構成の場合と同様にして第1、3構成についても電子回路の近傍に温度モニタ部を設けることは、温度補償の精度向上を図るのに有効である。また、上記の第5構成では、第1構成について集積化光変調器を用いた一例を示したが、上述した第2、3構成についても複数の光変調部を1つの導波路基板上に一括して形成した集積化光変調器を適用することが可能である。
【0064】
次に、上述した第1〜5構成についての具体例を説明する。なお、以下では複数の光変調器を直列に配置するようにした第1構成に対応する具体例を中心に説明を行うことにするが、他の構成についても同様の具体例を適用することが可能である。
【0065】
図6は、本発明に関連する光送信装置の第1の具体例を示すブロック図である。
図6に示す具体例では、CW光源61と出力ポートOUTの間に、データ信号DATAに従って駆動される位相変調器621と、クロック信号CLKに従って駆動される(CS)RZパルス化用強度変調器622とが、偏波保持光ファイバ(PMF)63を介して直列に接続され、伝搬する光信号の遅延量が温度に依存して変化するPMF63の近傍または接触位置に設けられた熱電対等の温度センサ(TS)661により、PMF63の温度が常時モニタされる構成となっている。
【0066】
位相変調器621は、例えば、マッハツェンダ干渉計の各分岐導波路上に形成された1組の変調電極を有し、各変調電極に対して各駆動部(DRV)6411,6412から出力される駆動信号が印加される。各駆動部6411,6412には、例えば43Gbit/sや21.5Gbit/s等のデータ信号DATAが遅延量可変部(φ)6511,6512を介して入力される。また、RZパルス化用強度変調器622も、上記の位相変調器621と同様に、マッハツェンダ干渉計の各分岐導波路上に形成された1組の変調電極を有し、各変調電極に対して各駆動部6421,6422から出力される駆動信号が印加される。各駆動部6421,6422には、例えば43GHzや21.5GHz、10.75GHz等のクロック信号CLKが遅延量可変部6521,6522を介して入力される。
【0067】
各遅延量可変部6511〜6522は、例えば、遅延量可変回路と、該遅延量調整回路の損失を補償するための増幅回路とから構成される。具体的な回路構成としては、例えば図7に示すように、増幅回路が内蔵された機能回路65A,65Bを遅延量可変回路65Cの前後に接続した構成を適用することができる。前段の機能回路65Aには、電圧制御発振器(VCO)やクロック分配IC、ロジックIC等が使用され、後段の機能回路65Bには、クロック分配ICやロジックIC等が使用される。また、例えば図8に示すように、前段および後段の機能回路65A,65Bの間に複数の遅延量可変回路65Cを直列に接続し、各遅延量可変回路65Cの出力端に増幅回路65Dをそれぞれ配置した構成を適用してもよい。さらに、例えば図9に示すように90度ハイブリッド回路を利用した構成を適用することも可能である。
【0068】
上記のような各遅延量可変部6511〜6522における遅延量は、温度センサ661からの温度モニタ信号T1を基に遅延量制御部(CONT)67から出力される制御信号C11〜C22に従ってそれぞれ制御され、PMF63における遅延量の温度依存性に起因した遅延ずれの補償が行われる。なお、遅延量制御部67による遅延量の制御は、位相変調器621側の遅延量可変部6511,6512、およびRZパルス化用強度変調器622側の遅延量可変部6521,6522の少なくとも一方について行われれば、遅延ずれの温度補償が可能である。
【0069】
ここで、遅延量制御部67における演算処理の具体例について詳しく説明する。
温度センサ661によってモニタされた温度がt℃であるとき、データ信号DATAおよびクロック信号CLK間の遅延差は、例えば、次の式(1)に示す1次関数の関係式に従って算出することができる。
Delay(CLK)−Delay(DATA)
=ΔD25℃+Slope×(t−25) …式(1)
ただし、Delay(CLK)[ps]はクロック信号の遅延量、Delay(DATA)[ps]はデータ信号の遅延量、ΔD25℃[ps]は25℃におけるデータ信号およびクロック信号間の遅延差(0次の定数項)、Slope[ps/℃]は温度tに対するデータ信号およびクロック信号間の遅延差の傾き(1次の係数)を示している。
【0070】
具体的に、図6に示したPMF63として例えば被覆外径が400μmの偏波保持光ファイバを用いたときに、上記の式(1)を適用してデータ信号およびクロック信号間の遅延差を求める場合を想定すると、0次の定数項ΔD25℃および1次の係数Slopeの最適値は、例えば図10に示すような値になる。なお、図10より、ΔD25℃およびSlopeは波長によって異なることが分かる。これは主にPMFの波長分散のために生じるものである。そこで、式(1)におけるΔD25℃およびSlopeの決め方としては、ΔD25℃およびSlopeを波長に関わらす固定する(例えば、1550nmでの値)か、または、ΔD25℃およびSlopeを波長の関数にするのがよい。前者を適用する場合、波長による遅延ずれは許容することになり、後者を適用する場合には、高精度な補償を行うことが可能になる。
【0071】
図11および図12は、温度に対する遅延ずれ量を測定した結果の一例である。図11の測定結果は、ポリエステルエラストマーを用いた被覆の外径が900μmのPMFについて、(0)遅延ずれの温度補償なしの場合、(1)ΔD25℃およびSlopeを波長に関わらす固定として遅延ずれの温度補償を行った場合、(2)ΔD25℃およびSlopeを波長の関数として遅延ずれの温度補償を行った場合、をそれぞれ示している。また、図12の測定結果は、紫外線硬化型樹脂(UV)を用いた被覆の外径が400μmのPMFについての同様の結果を示している。各図より、ΔD25℃およびSlopeを波長の関数として遅延ずれの温度補償を行うことにより、遅延ずれ量をより小さくできることが分かる。
【0072】
実際に、ΔD25℃およびSlopeを波長の関数とする場合の適用方法に関しては、例えば、製品製造時に波長が決まり、その波長に応じた遅延量を与えることが考えられる。また例えば、図13に示すようなシステムにおいて、システム立ち上げ時(故障修理後の再立ち上げ時を含む)および波長切替時に、システム全体の制御系から波長情報を取得して波長可変光源61’の波長を設定するとともに、その波長に応じた遅延量を与えることも考えられる。
【0073】
また、温度に対するデータ信号およびクロック信号間の遅延差は、例えば、次の式(2)に示す温度の多項式に従って算出することも可能であり、これを適用すれば遅延ずれの温度補償の精度を更に高めることができる。
【0074】
【数1】
上記の式(2)において、ai[ps/℃]は温度tに対するデータ信号およびクロック信号間の遅延差のi次の傾きを示している。
さらに、温度に対するデータ信号およびクロック信号間の遅延差は、上記の式(1)や式(2)の他にも、例えば、温度tに対する折れ線近似を用いて算出することが可能である。図14は、折れ線近似を用いた場合に温度に対する遅延ずれ量を測定した結果の一例である。折れ線は、例えば、多数の光ファイバの温度対遅延量の分布特性から、各温度での遅延変動の最大値と最小値の中心、または平均値をとるように決めることができる。図14の(2)に示したように、折れ線近似を用いた場合に遅延ずれ量が低減されることが分かる。
【0075】
なお、前述の図11に示したポリエステルエラストマーを用いた被覆の外径が900μmのPMFの場合の測定結果と、前述の図12に示した紫外線硬化型樹脂を用いた被覆の外径が400μmのPMFの場合の測定結果とを比較すると、被覆外径の小さいPMFを用いた場合の方が、遅延量の絶対値および温度変化による遅延量のばらつきが小さくなることが分かる。これは、被覆の径が小さい光ファイバの方が、被覆が熱膨張を起こした際にファイバ芯線を引き伸ばす力が小さいためと考えられる。よって、光送信装置に適用する光ファイバの被覆の種類(材質、径)に注目し、遅延量の温度変動が小さい光ファイバを選択的に使用することでより効果的に遅延ずれの温度補償を行うことが可能になる。特に、上記のような紫外線硬化型樹脂を用いた被覆の外径が400μmのPMFを使用する場合、図12の(0)に示したように、温度のモニタ結果に基づいた補償を行わなくても遅延ずれが比較的小さなレベルに抑えられるため、遅延ずれ量の許容範囲によっては、図6の構成例における各遅延量可変部6511〜6522、温度センサ661および遅延量制御部67を省略することも可能になる。そこで、本発明による光送信装置の一実施形態は、遅延ずれの温度補償が不要になる可能性のある被覆付き偏波保持光ファイバコードを使用して各光変調部間を接続する。このような被覆付き偏波保持光ファイバコードとしては、光信号の伝搬速度の熱依存係数が0.007ps/℃/m以下であることが条件となる。具体的には、紫外線硬化型樹脂を被覆材とする偏波保持光ファイバであること、または、被覆外径が400μm以下の偏波保持光ファイバであること、などが条件となる。
【0076】
また、先に図10を参照して説明したように、主にPMFの波長分散に起因して、式(1)におけるΔD25℃およびSlopeが波長によって異なるという課題があり、ΔD25℃およびSlopeの決め方としての2通りの方法を例示したが、このような課題に対しては、例えば、信号波長帯の1.55μmで波長分散が零となるPMFを選択する方法も有効である。すなわち、図15に示すように、通常用いられる1.3μm零分散PMFの遅延特性は、1.3μmを最小点とする2次関数の形状を持ち、1.55μmの信号波長帯での遅延量の波長間の差は大きくなる。これに対して、1.55μm零分散PMFの遅延特性は、2次関数の最小点が信号波長帯にあるために、遅延量の波長間の差が小さく抑えられる。したがって、1.55μm付近を信号波長帯とする場合に、複数の光変調器間を接続するPMFとして1.55μm零分散PMFを適用することは、上記のような波長分散に起因した課題の解消に有効となる。
【0077】
次に、第2の具体例について説明する。
図16は、本発明に関連する光送信装置の第2の具体例を示すブロック図である。
図16に示す具体例では、前述した第1の具体例(図6)について、位相変調器621および(CS)RZパルス化用強度変調器622にそれぞれ用いられている導波路基板と偏波保持光ファイバ63との固定部分の熱膨張や、各変調器621,622における導波路長の熱膨張等により、各々の変調器自体が発生する遅延差の温度変動を補償するために、温度センサ6611,6612が追加されている。温度センサ6611は、位相変調器621の温度変動が生じ易い部分の近傍または接触位置に、例えば熱電対等が設けられ、位相変調器621の温度を常時モニタし、その結果を示す温度モニタ信号T11を遅延量制御部67に出力する。また、温度センサ6612も、(CS)RZパルス化用強度変調器622の温度変動が生じ易い部分の近傍または接触位置に、例えば熱電対等が設けられ、(CS)RZパルス化用強度変調器622の温度を常時モニタし、その結果を示す温度モニタ信号T12を遅延量制御部67に出力する。
【0078】
遅延量制御部67では、各温度センサ661,6611,6612から出力される温度モニタ信号T1,T11,T12を基に、前述したような関係式や折れ線近似を用いて、データ信号およびクロック信号間の遅延差が求められる。なお、温度モニタ信号T11,T12を基に各変調器単体における遅延ずれの温度変動を求める場合、前述したような関係式の係数を調整することによって、PMFの場合と同様にして演算を行うことが可能である。そして、各温度モニタ信号T1,T11,T12に対応した遅延差が求められると、それらを合算した値に応じて各遅延量可変部6411〜6422における遅延量の補正値が算出され、その結果を示す制御信号C11〜C22が各遅延量可変部6411〜6422に出力される。これにより、遅延ずれの温度補償がPMF63だけでなく各変調器621,622における遅延量の温度依存性をも考慮して行われるようになり、より高い精度の温度補償が可能になる。
【0079】
次に、第3の具体例について説明する。
図17は、本発明に関連する光送信装置の第3の具体例を示すブロック図である。
図17に示す具体例では、前述した第1の具体例(図6)について、各駆動部6411〜6422をそれぞれ構成する電子回路で発生する遅延差の温度変動を補償するために、各駆動部6411〜6422に対応した温度センサ6611〜6622が追加されている。各温度センサ6611〜6622は、ここでは各駆動部6411〜6422を構成する電子回路内に設けられていて、各々の電子回路の温度を常時モニタし、その結果を示す温度モニタ信号T11〜T22を遅延量制御部67にそれぞれ出力する。各温度センサ6611〜6622の具体的な構成としては、例えば、Texas Instrument社製の製品名「TMP123」(URL:http://focus.ti.com/lit/ds/symlink/tmp123.pdf)などの温度センサICを使用することが可能である。
【0080】
遅延量制御部67では、各温度センサ661,6611〜6622から出力される温度モニタ信号T1,T11〜T22を基に、前述したような関係式や折れ線近似式を用いて、データ信号およびクロック信号間の遅延差が求められる。なお、温度モニタ信号T11〜T22を基に各駆動部を構成する電子回路における遅延量の温度変動を求める場合も、前述したような関係式の係数を調整することによって、PMFの場合と同様にして演算を行うことが可能である。そして、各温度モニタ信号T1,T11〜T22に対応した遅延差が求められると、それらを合算した値に応じて各遅延量可変部6411〜6422における遅延量の補正値が算出され、その結果を示す制御信号C11〜C22が各遅延量可変部6411〜6422に出力される。これにより、遅延ずれの温度補償がPMF63だけでなく各駆動部6411〜6422における遅延量の温度依存性をも考慮して行われるようになり、より高い精度の温度補償が可能になる。
【0081】
次に、第4の具体例について説明する。
図18は、本発明に関連する光送信装置の第4の具体例を示すブロック図である。
図18に示す具体例では、前述した第3の具体例(図17)について、シリアライザ(SER)68が追加されている。このシリアライザ68は、本光送信装置に入力される低速インターフェース信号を多重化して、例えば43Gbit/sや21.5Gbit/s等のデータ信号DATAと、43GHzや21.5GHz、10.75GHz等のクロック信号CLKとを生成する。このシリアライザ68を構成する電子回路においても、出力するデータ信号DATAおよびクロック信号CLK間の遅延差が温度に依存して変化する。このため、シリアライザ68の温度を常時モニタする温度センサ663が、シリアライザ68を構成する電子回路内に設けられていて、該温度センサ663から遅延量制御部67に温度モニタ信号T3が出力される。遅延量制御部67では、各温度センサ661,6611〜6622,663から出力される温度モニタ信号T1,T11〜T22,T3を基に、前述した第3の具体的な構成例の場合と同様にして、各遅延量可変部6411〜6422における遅延量の補正値が算出され、遅延ずれの温度補償が行われる。
【0082】
次に、第5の具体例について説明する。
図19は、本発明に関連する光送信装置の第5の具体例を示すブロック図である。
図19に示す構成は、前述した第4の具体例(図18)を変形した一例であって、ここでは、位相変調器621の各変調電極に与えられる駆動信号が共通の駆動部641で生成され、該駆動部641と各変調電極との間をそれぞれ接続する電気同軸ケーブルの近傍に温度センサ6610が配置されている。また、(CS)RZパルス化用強度変調器622の各変調電極に与えられる駆動信号も共通の駆動部642で生成され、該駆動部642と各変調電極との間をそれぞれ接続する電気同軸ケーブルの近傍にも温度センサ6620が配置されている。さらに、シリアライザ68は、例えば43Gbit/sのデータ信号DATAおよび反転データ信号/DATAを、遅延量可変部6511,6512を介して駆動部641に出力すると共に、21.5GHzのクロック信号CLKを分岐部69に出力する。分岐部69は、シリアライザ68からのクロック信号CLKを2つに分岐し、一方のクロック信号CLKを遅延量可変部6513および周波数ダブラ70を介して駆動部641に送り、他方のクロック信号CLKを遅延量可変部652を介して駆動部642に送る。さらに、シリアライザ68の出力側に接続された電気同軸ケーブルの近傍には温度センサ6631が配置され、分岐部69および駆動部642の間を接続する電気同軸ケーブルの近傍には温度センサ6632が配置されている。
【0083】
このような構成では、伝搬する電気信号の遅延量が温度に依存して変化する電気同軸ケーブルの温度が各温度センサ6610,6620,6631,6632によって常時モニタされ、該各温度センサ6610,6620,6631,6632から出力される温度モニタ信号T10,T20,T31,T32が遅延量制御部67に送られて、各遅延量可変部6511,6512,6513,662における遅延量の制御が行われるようになる。これにより、PMF63だけでなく各電気同軸ケーブルにおける遅延量の温度変動も考慮した高い精度の温度補償を行うことが可能になる。
【0084】
次に、第6の具体例について説明する。
図20は、本発明に関連する光送信装置の第6の具体例を示すブロック図である。
図20に示す構成は、前述した第1〜3の具体例を変形した一例であって、各変調器621,622の間を接続するPMF63の近傍に位置する電子回路基板71上に、温度センサIC66を設けるようにしたものである。電子回路基板71は、各駆動部6411〜6422、各遅延量可変部6511〜6522および遅延量制御部67をそれぞれ搭載した共通の基板である。電子回路基板71上に温度センサIC66を実装するのは、PMF63に熱電対等を取り付ける場合よりも作業が容易であり、電子回路基板71上のPMF63近傍に位置する部分に温度センサIC66を設けておくことで、PMF63の温度を比較的簡単にモニタすることができる。また、電子回路基板71上の温度分布にばらつきが小さければ、駆動部6411〜6422等を構成する電子回路の温度も温度センサIC66によってモニタすることができる。したがって、上記のような構成を適用することにより、遅延ずれの温度補償が可能な光送信装置をさらに低コストで提供することが可能になる。
【0085】
なお、上述した第1〜6の具体例については、例えば図21に示すように、各変調器621,622の間を接続するPMF63の長さ(設計値をL1とする)が、スプライス作業や実装配置の変更などにより、設計値とは異なる長さL2(図21の一例ではL2<L1)ことがある。具体的には、スプライスミスやスプライスの長さ精度のばらつき、光変調器の配置の変更、PMFの取り巻き位置の変更などが原因となって、上記のような状況が発生する。このようなPMF63の長さが設計値L1から変わってしまった場合でも、本光送信装置の構成では、PMFの実際の長さL2に応じて遅延量可変部における遅延量を制御する(典型例としては、L2/L1倍の遅延差をデータ信号およびクロック信号間に与える)ことにより、上記のようなPMF63の長さの変更によるデータ信号およびクロック信号間の遅延ずれを容易に補償することが可能である。
【符号の説明】
【0086】
11,21,31,41,51,61…CW光源
12,32,52…光変調部
13,33…光ファイバ
14,24,34,44,54,64…駆動部
15,25,35,45,55,65…遅延量可変部
16,26,36,46,56…温度モニタ部
17,27,37,47,57,67…遅延量制御部
22…位相変調部
23…位相シフト部
28,43…変調電極
38…光分岐器
39…光合波器
42…分岐導波路
621…位相変調器
622…(CS)RZパルス化用強度変調器
63…偏波保持光ファイバ
66…温度センサ
68…シリアライザ
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の変調部を備えた光送信装置に関し、特に、温度変動による駆動信号間の遅延ずれを補償可能な光送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代の40Gbit/s光伝送システム導入の要求が高まっており、しかも10Gbit/sシステムと同等の伝送距離や周波数利用効率が求められている。その実現手段として、従来10Gbit/s以下のシステムで適用されてきたNRZ(Non Return to Zero)変調方式に比べて、光信号対雑音比(OSNR)耐力、非線形性耐力に優れた変調方式である、RZ−DPSK(Differential Phase Shift Keying)変調またはCSRZ−DPSK変調の研究開発が活発になっている(例えば、非特許文献1、2参照)。更には、上述の変調方式に加えて、狭スペクトル(高周波数利用効率)の特長を持ったRZ−DQPSK(Differential Quadrature Phase-Shift Keying)変調またはCSRZ−DQPSK変調といった位相変調方式の研究開発も活発になっている。
【0003】
図22は、43Gbit/sのRZ−DPSKまたはCSRZ−DPSK変調方式を採用した光送信装置および光受信装置の構成例を示す図である。また、図23は、RZ−DPSKまたはCSRZ−DPSK変調された光信号を送受信する場合の光強度および光位相の状態を示す図である。
図22において、光送信装置110は、43Gbit/sのRZ−DPSKまたはCSRZ−DPSK変調方式の光信号を送信するものであり、例えば、送信データ処理部111、CW(Continuous Wave)光源112、位相変調器113およびRZパルス化用強度変調器114を備えている。
【0004】
具体的に、送信データ処理部111は、入力されるデータについてフレーム化するフレーマとしての機能、および誤り訂正符号を付与するFEC(Forward Error Correction)エンコーダとしての機能を備えるとともに、1ビット前の符号と現在の符号との差情報が反映された符号化処理を行なうDPSKプリコーダとしての機能を備えている。
位相変調器113は、CW光源112からの連続光を、送信データ処理部111からの符号化データに従って位相変調し、光強度は一定であるが2値の光位相に情報が乗った光信号、即ちDPSK変調された光信号を出力する(図23の下段参照)。
【0005】
RZパルス化用強度変調器114は、位相変調器113からの光信号をRZパルス化するものである(図23の上段参照)。特に、データのビットレートと同一の周波数(43GHz)で、かつ、消光電圧(Vπ)の1倍の振幅を有するクロック駆動信号を用いてRZパルス化された光信号をRZ−DPSK信号といい、また、データのビットレートの半分の周波数(21.5GHz)で、かつ、消光電圧(Vπ)の2倍の振幅を有するクロック駆動信号を用いてRZパルス化された光信号をCSRZ−DPSK信号という。
【0006】
また、光受信装置130は、光送信装置110に伝送路120および光中継器121を介して接続され、光中継伝送された光送信装置110からの(CS)RZ−DPSK信号についての受信信号処理を行なうものであり、例えば、遅延干渉計131、光電変換部132、再生回路133および受信データ処理部134を備えている。
具体的に、遅延干渉計131は、例えばマッハツェンダ干渉計により構成され、伝送路120を通じて伝送されてきた(CS)RZ−DPSK信号について1ビット時間(図22の構成例では23.3ps)の遅延成分と0radの位相制御がなされた成分とを干渉(遅延干渉)させて、その干渉結果を2つの出力としている。なお、上記のマッハツェンダ干渉計は、一方の分岐導波路が他方の分岐導波路よりも1ビット時間に相当する伝搬長だけ長くなるように形成されているとともに、他方の分岐導波路を伝搬する光信号を位相制御するための電極が形成されている。
【0007】
光電変換部132は、遅延干渉計131からの各出力をそれぞれ受光することにより差動光電変換検出(balanced detection)を行なうデュアルピンフォトダイオードにより構成される。なお、光電変換部132で検出された受信信号についてはアンプにより適宜増幅される。
再生回路133は、光電変換部132において差動光電変換検出された受信信号から、データ信号およびクロック信号を抽出するものである。
【0008】
受信データ処理部134は、再生回路で抽出されたデータ信号およびクロック信号を基に、誤り訂正等の信号処理を行うものである。
図24は、43Gbit/sのRZ−DQPSKまたはCSRZ−DQPSK変調方式を採用した光送信装置および光受信装置の構成例を示す図である。また、図25は、RZ−DQPSKまたはCSRZ−DQPSK変調された光信号を送受信する場合の光強度および光位相の状態を示す図である。なお、RZ−DQPSKまたはCSRZ−DQPSK変調方式に対応した光送受信装置の構成については、例えば特許文献1に詳しく説明されているため、ここではその概略を説明することにする。
【0009】
図24において、光送信装置210は、例えば、送信データ処理部211、1:2分離部(DEMUX)212、CW光源213、π/2移相器214、2つの位相変調器215A,215B、およびRZパルス化用強度変調器216を備えている。
具体的に、送信データ処理部211は、図22に示した送信データ処理部111と同様に、フレーマおよびFECエンコーダとしての機能を備えるとともに、1ビット前の符号と現在の符号との差情報が反映された符号化処理を行なうDQPSKプリコーダとしての機能を備えている。
【0010】
1:2分離部212は、送信データ処理部211からの43Gbit/sの符号化データを、21.5Gbit/sの2系列の符号化データ♯1,♯2に分離するものである。
CW光源213は、連続光を出力するものであり、該出力された連続光は2つに分離されて、一方の光が位相変調器215Aに入力され、他方の光がπ/2移相器214を介して位相変調器215Bに入力される。
【0011】
位相変調器215Aは、CW光源213からの連続光を1:2分離部212で分離した一方の系列の符号化データ♯1で変調して、2値の光位相(0radまたはπrad)に情報が乗った光信号を出力する。また、位相変調器215Bは、π/2移相器214においてCW光源213からの連続光をπ/2だけ位相シフトした光が入力され、この入力光を1:2分離部212で分離した他方の系列の符号化データ♯2で変調して、2値の光位相(π/2radまたは3π/2rad)に情報が乗った光信号を出力する。上記各位相変調器215A,215Bで変調された光は合波された後に後段のRZパルス化用強度変調器216に出力される。つまり、各位相変調器215A,215Bからの変調光が合波されることにより、光強度は一定であるが4値の光位相に情報が乗った光信号(図25の下段参照)、即ちDQPSK変調された光信号がRZパルス化用強度変調器216に送られる。
【0012】
RZパルス化用強度変調器216は、図22に示したRZパルス化用強度変調器114と同様に、位相変調器215A,215BからのDQPSK変調された光信号をRZパルス化するものである。特に、データ#1,#2のビットレートと同一の周波数(21.5GHz)かつ消光電圧(Vπ)の1倍の振幅のクロック駆動信号を用いてRZパルス化された光信号をRZ−DQPSK信号といい、また、データ#1,#2のビットレートの半分の周波数(10.75GHz)かつ消光電圧(Vπ)の2倍の振幅のクロック駆動信号を用いてRZパルス化された光信号をCSRZ−DQPSK信号という。
【0013】
また、光受信装置230は、光送信装置210に伝送路220および光中継器221を介して接続され、光中継伝送された光送信装置210からの(CS)RZ−DQPSK信号についての受信信号処理を行なうものであり、例えば、受信した光信号を2分岐する分岐部231を備えるとともに、分岐された各光信号が伝搬する光信号経路上には、それぞれ、遅延干渉計232A,232B、光電変換部233A,233B、再生回路234A,234Bを備えている。更に、各再生回路234A,234Bで再生されたデータ信号を多重する2:1多重部(MUX)235および受信データ処理部236を備えている。
【0014】
具体的に、各遅延干渉計232A,232Bには、伝送路220および光中継器221を通じて伝送されてきた(CS)RZ−DQPSK信号を分岐部231で2分岐した光信号がそれぞれ入力される。遅延干渉計232Aは、1ビット時間(図24の構成例では46.5ps)の遅延成分とπ/4radの位相制御がなされた成分とを干渉(遅延干渉)させて、その干渉結果を2つの出力としている。また、遅延干渉計232Bは、1ビット時間の遅延成分と−π/4radの位相制御がなされた成分(遅延干渉計232Aの同成分とは位相がπ/2radずれている)とを干渉(遅延干渉)させて、その干渉結果を2つの出力としている。ここでは、上記の各遅延干渉計232A,232Bがそれぞれマッハツェンダ干渉計により構成され、各々のマッハツェンダ干渉計は、一方の分岐導波路が他方の分岐導波路よりも1ビット時間に相当する伝搬長だけ長くなるように形成されているとともに、他方の分岐導波路を伝搬する光信号を位相制御するための電極が形成されている。
【0015】
各光電変換部233A,233Bは、各遅延干渉計232A,232Bからの各々の出力を受光することで差動光電変換検出を行なうデュアルピンフォトダイオードによりそれぞれ構成される。なお、各光電変換部233A,233Bで検出された受信信号についてはアンプにより適宜増幅される。
再生回路234Aは、光電変換部233Aにおいて差動光電変換検出された受信信号から、クロック信号およびデータ信号についての同相(In-phase)成分Iを再生するものである。また、再生回路234Bは、光電変換部233Bにおいて差動光電変換検出された受信信号から、クロック信号およびデータ信号についての直交(Quadrature-phase)成分Qを再生するものである。
【0016】
2:1多重部235は、各再生回路234A,234Bからの同相成分Iおよび直交成分Qが入力されて、それらをDQPSK変調前の43Gbit/sデータ信号に変換する。
受信データ処理部236は、2:1多重部235からのデータ信号を基に、誤り訂正等の信号処理を行うものである。
【0017】
ところで、上述したような(CS)RZ−DPSK変調方式および(CS)RZ−DQPSK変調方式の光送信装置は、いずれも複数の光変調器が直列に配置された構成になる。このような複数の光変調器を用いた変調方式においては、複数の光変調器の間で生じる光信号遅延量の変動が信号劣化を引き起こす恐れがあり問題となる。このような問題点は、複数の光変調器を用いる変調方式において40Gbit/s等の高いビットレートの伝送を行う場合に共通するものであり、上述した(CS)RZ−DPSK変調方式および(CS)RZ−DQPSK変調方式の他にも、RZ(Return-to-zero)変調方式(例えば、非特許文献3参照)や、CS−RZ(Carrier-suppressed Return-to-zero)変調方式(例えば、非特許文献4参照)、OTDM(Optical time domain multiplexing)変調方式(例えば、非特許文献5参照)などの変調方式においても、複数の光変調器間で生じる光信号遅延量の変動が信号劣化を引き起こす可能性がある。
【0018】
上記のような問題点に対処した従来の技術としては、例えば図26に示すように、CW光源311と出力端子との間に順に接続された位相変調器312および強度変調器313に印加される各クロック信号の位相をミキサ314で比較し、その位相比較結果に基づいて、両クロック信号間の位相関係が一定値となるように、自動遅延補償回路(ADC)315が移相器316の移相量を制御する構成が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特表2004−516743号公報
【特許文献2】特開2002−353896号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】T. Hoshida et al., “Optimal 40 Gb/s Modulation Formats for Spectrally Efficient Long-Haul DWDM Systems”, Journal of Lightwave Technology, Vol.20, No.12, pp.1989-1996, Dec. 2002
【非特許文献2】O. Vassilieva et al., “Non-Linear Tolerant and Spectrally Efficient 86Gbit/s RZ-DQPSK Format for a System Upgrade”, OFC 2003, ThE7, 2003.
【非特許文献3】A. Sano et al., “Performance Evaluation of Prechirped RZ and CS-RZ Formats in High-Speed Transmission Systems With Dispersion Management”, Journal of Lightwave Technology, Vol. 19, No. 12, pp.1864-1871, DECEMBER 2001
【非特許文献4】Y. Miyamoto et al., “1.2 Tbit/s (30×42.7 Gbit/s ETDM optical channel) WDM transmission over 376 km with 125 km spacing using forward error correction and carrier-suppressed RZ format”, Optical Fiber Communication Conference 2000 (OFC 2000), Pd26, 2000.
【非特許文献5】G. Ishikawa et al., “80-Gb/s (2x40-Gb/s) Transmission experiments over 667-km Dispersion-shifted fiber using Ti:LiNbO3OTDM modulation and demultiplexer”, ECOC'96 ThC3.3, 1996.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、上記のような従来の技術は、複数の変調器に印加される駆動信号を直接モニタして相対的な位相関係(遅延差)を検出し、その検出結果を基にフィードバック制御を行う方式であり、電気レベルでの遅延ずれを補償することはできるものの、光レベルでの遅延ずれを補償することができないという課題がある。光レベルでの遅延ずれとしては、例えば図27に示すように、光変調器412,413の間を接続する偏波保持光ファイバ(PMF;Polarization maintaining fiber)414の光伝播遅延量が温度によって変化することが問題になる。図28は、ファイバ被覆としてポリエステルエラストマーを用いたPMFについて、温度変化(基準温度:25℃)に対する遅延量を測定した結果の一例である。なお、光の波長は1550nmとしている。図28の測定結果より、温度上昇によって遅延量が増大することが分かる。
【0022】
図29は、様々な種類のPMFおよびPMF付きLN変調器で生じる遅延の温度依存性を測定した結果をまとめたものである。図29より、PMFの被覆の種類に依存して、PMFでの遅延変動量が変化することが分かる。具体的には、被覆径900μmのポリエステルエラストマーを用いたPMFに比べて、被覆径400μmの紫外線硬化型樹脂(UV)を用いたPMFの遅延変動量は小さくなる。また、PMF単体に比べて、PMF付きLN変調器での遅延変動量が大きくなり、LN変調器自体での遅延量も温度依存性を持っている。この原因としては、例えば、導波路基板と光ファイバの固定部分の熱膨張や、導波路長の熱膨張等が考えられる。
【0023】
次の表1は、光ファイバ芯線および被覆材料の熱膨張係数と、その値から換算される温度変動時の光遅延差をまとめたものである。
【0024】
【表1】
上記の表1より、石英(光ファイバ芯線)の熱膨張係数は非常に小さく、光ファイバ芯線自体の温度変動で生じる光遅延差の値は、前述の図29に示した測定結果に比べて非常に小さい。一方、ファイバ被覆材料の熱膨張係数は大きく、被覆材料の温度変動で生じる光遅延差の値は、前述の図29に示した測定結果に比べて大きい。よって、熱膨張したファイバ被覆がファイバ芯線を引き伸ばすことで、結果的に中間的な遅延差が光信号に与えられる結果になると考えられる。
【0025】
図30および図31は、43Gbit/sのCSRZ−DPSK変調方式のシステムについて、送信側の各光変調器の駆動信号(データ/クロック)間の位相ずれトレランスおよび受信信号波形を測定した結果の一例である。また、図32および図33は、43Gbit/sのRZ−DQPSK変調方式のシステムについて、送信側の各光変調器の駆動信号(データ/クロック)間の位相ずれトレランスおよび受信信号波形を測定した結果の一例である。
【0026】
位相ずれトレランスは、許容Qペナルティを0.3dBとした場合、CSRZ−DPSK変調方式(図30)では±2psとなり、RZ−DQPSK変調方式(図32)では±5psとなっていて、いずれの変調方式においても厳しい値となる。このため、前述の図28で示したようなPMFの温度変化による遅延ずれが発生すると、上記トレランスに比べて温度変化による遅延ずれが無視できない値となり、信号劣化を生じることが分かる(図31および図33)。
【0027】
また、上述したような複数の光変調器間を接続するPMFにおける遅延量の温度変動のみならず、電子回路や電気信号伝送路(例えば、電気同軸ケーブル等)における遅延量の温度変動も信号劣化を生じさせる原因となる。
すなわち、電子回路に用いられる能動デバイスおよび受動デバイスは、その特性が温度により変化し、これらを用いた増幅器においてバイアス電流やバイアス電圧が変動することで、遅延時間が温度により変化する。図34は、電子集積回路(クロック分配ICやロジックIC等を含む)で発生する遅延量変動の温度依存性を測定した一例である。この一例の場合、温度の上昇に伴って遅延時間が増加する特性を示している。
【0028】
また、電気信号を伝送する経路の遅延時間は、その経路の実効比誘電率の平方根と光速の比、および経路の長さから算出されるが、経路の長さや実効比誘電率が温度により変化するため、経路の遅延時間も温度により変化する。具体的に、経路の実効比誘電率は、経路に用いられる誘電体の誘電率と形状により決定され、誘電率は一般的に知られているように温度に対して変化し、また、経路の形状そのものも温度による変化が生じる。このため、電気信号を伝送する経路の遅延時間は温度依存性を有する。図35は、高周波同軸ケーブルにおける遅延時間の温度変動を測定した一例である。
【0029】
さらに、上述したようなPMFや電子回路、電気信号伝送路の有する遅延量の温度依存性のみならず、複数の光変調器間を接続するPMFの長さが各光変調器の実装配置やスプライス処理によって変わるために、各々の駆動信号間で遅延ずれが発生するという課題もある。このような課題は、各光変調器に印加される駆動信号間の遅延ずれを直接モニタしてフィードバック制御を行う従来の技術では解決することが困難である。
【0030】
加えて、従来の技術では、遅延ずれのモニタのために高価な高速デバイスが必要となるため、光送信装置の高コスト化を招いてしまうという欠点もある。
本発明は上記の点に着目してなされたもので、複数の光変調部に対する駆動信号間の温度変動による遅延ずれを確実に補償できる低コストの光送信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記の目的を達成するため本発明の一態様は、光を変調する複数の光変調部と、入力される変調信号に従って前記光変調部を駆動する駆動信号を出力する複数の駆動部と、前記複数の駆動部にそれぞれ入力される変調信号のうちの少なくとも1つの変調信号に対して可変の遅延量を与えることにより、前記複数の光変調部にそれぞれ与えられる駆動信号間の相対的なタイミングを調整する遅延量可変部と、を備えた光送信装置であって、前記複数の光変調部が被覆付き偏波保持光ファイバコードを介して直列に接続され、前記被覆付き偏波保持光ファイバコードは、光信号の伝搬速度の熱依存係数が0.007ps/℃/m以下であることを特徴とする。
【0032】
上記のような光送信装置では、複数の駆動部において変調信号に従って生成された駆動信号が対応する光変調部に出力され、各々の光変調部において光変調が行われる。このとき、複数の光変調部の間を接続する被覆付き偏波保持光ファイバコードとして、光信号の伝搬速度の熱依存係数が0.007ps/℃/m以下のものが適用されることにより、該偏波保持光ファイバコードの温度変化による遅延量のばらつきが小さくなって各光変調部に対しての適切なタイミングで駆動信号が与えられるようになるため、駆動信号間の遅延ずれによる信号劣化を防ぐことができるようになる。
【発明の効果】
【0033】
上記のように本発明によれば、複数の光変調器を用いる変調方式において40Gbit/s等の高いビットレートの光信号を送信する場合でも、装置内の温度変化に影響されることなく、高品質の光信号を安定して送信できる低コストの光送信装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に関連する光送信装置の第1構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に関連する光送信装置の第2構成を示すブロック図である。
【図3】本発明に関連する光送信装置の第3構成を示すブロック図である。
【図4】本発明に関連する光送信装置の第4構成を示すブロック図である。
【図5】本発明に関連する光送信装置の第5構成を示すブロック図である。
【図6】本発明に関連する光送信装置の第1の具体例を示すブロック図である。
【図7】上記具体例における遅延量可変部の回路構成を示す図である。
【図8】上記具体例における遅延量可変部の他の回路構成を示す図である。
【図9】上記具体例における遅延量可変部の別の回路構成を示す図である。
【図10】遅延量制御部で用いる関係式の係数の一例を示す図である。
【図11】被覆外径900μmのPMFについての遅延ずれ量の測定結果を示す図である。
【図12】被覆外径400μmのPMFについての遅延ずれ量の測定結果を示す図である。
【図13】遅延量制御部で用いる関係式の係数を波長の関数とする場合の適用方法を説明する図である。
【図14】遅延量制御部で折れ線近似式を用いた場合の遅延ずれ量の測定結果を示す図である。
【図15】1.55μm零分散PMFを用いたときの波長間の遅延差を示す図である。
【図16】本発明に関連する光送信装置の第2の具体例を示すブロック図である。
【図17】本発明に関連する光送信装置の第3の具体例を示すブロック図である。
【図18】本発明に関連する光送信装置の第4の具体例を示すブロック図である。
【図19】本発明に関連する光送信装置の第5の具体例を示すブロック図である。
【図20】本発明に関連する光送信装置の第6の具体例を示すブロック図である。
【図21】上記第1〜6の具体例に関連した応用を説明するための図である。
【図22】(CS)RZ−DPSK変調方式を採用したシステムの構成例を示す図である。
【図23】図22のシステムにおける光強度および光位相の状態を示す図である。
【図24】(CS)RZ−DQPSK変調方式を採用したシステムの構成例を示す図である。
【図25】図24のシステムにおける光強度および光位相の状態を示す図である。
【図26】複数の光変調器間の遅延ずれに対処した従来の光送信装置の構成を示す図である。
【図27】従来の光送信装置における課題を説明する図である。
【図28】PMFにおける遅延量の温度依存性を示す図である。
【図29】種類の異なるPMFにおける遅延量の温度依存性を示す図である。
【図30】CSRZ−DPSK変調方式の従来システムにおけるデータ/クロック間の位相ずれトレランスの測定結果を示す図である。
【図31】CSRZ−DPSK変調方式の従来システムにおける信号波形を示す図である。
【図32】RZ−DQPSK変調方式の従来システムにおけるデータ/クロック間の位相ずれトレランスの測定結果を示す図である。
【図33】RZ−DQPSK変調方式の従来システムにおける信号波形を示す図である。
【図34】電子集積回路における遅延量の温度依存性の測定結果を示す図である。
【図35】高周波同軸ケーブルにおける遅延時間の温度依存性の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら説明する。なお、全図を通して同一の符号は同一または相当部分を示すものとする。
図1は、本発明に関連する光送信装置の第1構成を示すブロック図である。
図1において、本光送信装置は、上述した(CS)RZ−DPSK変調方式や(CS)RZ変調方式のように、CW光源11と出力ポートOUTの間に、複数(ここではN個とする)の光変調部121〜12Nを直列に配置する場合に本発明を適用した一例である。
【0036】
各光変調部121〜12Nは、ここでは位相変調器や強度変調器などの個々に独立した光変調器が用いられ、各々の入出力ポートが光ファイバ131〜13N−1を介して直列に接続されている。各光変調部121〜12Nには、各々に対応する駆動部141〜14Nが設けられており、各駆動部141〜14Nから出力される駆動信号D1〜DNによって各光変調部121〜12Nが変調駆動される。
【0037】
各駆動部141〜14Nは、所要のビットレートのデータやそれに対応したクロックなどの変調信号M1〜MNが遅延量可変部151〜15Nを介してそれぞれ入力され、変調信号M1〜MNを基に生成した駆動信号D1〜DNを各光変調部121〜12Nに出力する。
各遅延量可変部151〜15Nは、各駆動部141〜14Nに入力される変調信号M1〜MNに対して可変の遅延量を与える。各遅延量可変部151〜15Nにおける遅延量は、温度モニタ部161〜16N−1から出力される温度モニタ信号T1〜TN−1に基づいて遅延量制御部17で生成される各制御信号C1〜CNに従って制御される。
【0038】
温度モニタ部161〜16N−1は、ここでは各光変調部121〜12Nの間を接続する光ファイバ131〜13N−1の近傍または接触位置に設けられ、光ファイバ131〜13N−1の温度をモニタする。
遅延量制御部17は、各温度モニタ部161〜16N−1からの温度モニタ信号T1〜TN−1を基に、各光変調部121〜12Nに与えられる駆動信号D1〜DN間の遅延差が温度の変化に関わらす一定となるように、各遅延量可変部151〜15Nにおける遅延量の補正値を演算し、その演算結果を示す制御信号C1〜CNを出力する。
【0039】
上記のような構成の光送信装置では、CW光源11から出力される連続光が各光変調部121〜12Nで順に変調されて出力ポートOUTより外部に出力される。このとき、光変調部121〜12Nの間を接続する光ファイバ131〜13N−1に温度変化が生じると、上述の図28および図29に例示した偏波保持光ファイバ(PMF)の場合のように、各光ファイバ131〜13N−1を伝搬する光信号の遅延量が変化してしまい、各光変調部121〜12Nに与えられる駆動信号D1〜DN間の遅延差を最適化しないと、遅延ずれによる信号劣化を招くことになる(図30および図32参照)。
【0040】
上記のような光ファイバ131〜13N−1における遅延量の温度変動に応じた信号劣化を防ぐため、第1構成では、各光ファイバ131〜13N−1に対応させて温度モニタ部161〜16N−1が設けられ、各光ファイバ131〜13N−1の温度がモニタされる。そして、各温度モニタ部161〜16N−1から出力される温度モニタ信号T1〜TN−1が遅延量制御部17に与えられ、該温度モニタ信号T1〜TN−1を基に各遅延量可変部151〜15Nにおける遅延量の補正値が演算されて、遅延ずれの温度補償が行われる。
【0041】
この遅延量制御部17での遅延量の補正値の演算は、例えば、各光ファイバ131〜13N−1の遅延量の温度特性データを利用して、各温度モニタ部161〜16N−1でモニタされた光ファイバの温度に対応する遅延量を求め、該遅延量の温度変動によって生じる駆動信号間の遅延差を補償するのに必要となる遅延量の補正値を各遅延量可変部151〜15Nについて算出することによって行われる。また、各光ファイバ131〜13N−1の遅延量の温度特性データを利用する代わりに、駆動信号間の遅延差を温度の関数として表した関係式を用いて、各温度モニタ部161〜16N−1でモニタされた光ファイバの温度に対応した遅延差を算出することも可能である。なお、遅延量制御部17における演算処理の具体例について後で詳しく説明することにする。
【0042】
上記のようにして各光ファイバ131〜13N−1の温度に対応した遅延量の補正値が各遅延量可変部151〜15Nについて演算されると、その演算結果を示す制御信号C1〜CNが遅延量制御部17から各遅延量可変部151〜15Nに出力され、各遅延量可変部151〜15Nにおける遅延量が制御信号C1〜CNに従って制御される。これにより、各駆動部141〜14Nから各光変調部121〜12Nに出力される駆動信号D1〜DN間の遅延差が温度変化に関係なく一定に制御されるようになり、光ファイバ131〜13N−1における遅延量の温度依存性に起因した信号劣化を防ぐことが可能になる。また、本光送信装置では、駆動信号D1〜DNのタイミング制御が温度のモニタ結果に基づいて行われるため、上述した従来技術のように高価な高速デバイスを用いて駆動信号を直接モニタする必要がなく、低コストの光送信装置を実現することができる。
【0043】
なお、上記の第1構成では、複数の光変調部のすべてに対応させて遅延量可変部を設けるようにしたが、遅延ずれの温度補償は各光変調部に与えられる駆動信号の相対的なタイミングを最適化すればよいので、例えば、図1において駆動部141から出力される駆動信号D1を基準にして他の駆動信号D1〜DN間の遅延差を最適化するようにすれば、遅延量可変部151は省略することが可能である。
【0044】
また、複数の光変調部の間を接続する各光ファイバ131〜13N−1について温度モニタ部161〜16N−1をそれぞれ配置する構成例を示したが、温度モニタ部は必ずしもすべての光ファイバに対応させて設ける必要はなく、光送信装置内の温度分布等を考慮して適宜な位置に温度モニタ部を配置するようにしてもよい。
【0045】
次に、本発明に関連する光送信装置の第2構成について説明する。
図2は、上記光送信装置の第2構成を示すブロック図である。
図2において、本光送信装置は、上述した(CS)RZ−DQPSK変調方式のように、CW光源21と出力ポートOUTの間に、多値光位相変調器およびパルス化用光変調器を直列に配置するとともに、多値光位相変調器の内部には複数(N個)の位相変調部221〜22Nを並列に配置して、各位相変調部221〜22Nで位相変調した光を合波し2N値位相変調された光信号を送信する場合に本発明を適用した一例である。各位相変調部221〜22Nには、各々に対応する駆動部241〜24Nが設けられており、各駆動部241〜24Nから出力される駆動信号D1〜DNによって各位相変調部221〜22Nが駆動される。なお、各位相変調部222〜22Nで位相変調された光信号は、各々の位相が各位相シフト部232〜23Nでそれぞれシフトされた後に、位相変調部221で位相変調された光信号と合波される。
【0046】
各駆動部241〜24Nは、前述した第1構成の駆動部141〜14Nと同様に、変調信号M1〜MNが遅延量可変部251〜25Nを介してそれぞれ入力され、変調信号M1〜MNを基に生成した駆動信号D1〜DNを各位相変調部221〜22Nに出力する。
各遅延量可変部251〜25Nは、各駆動部241〜24Nに入力される変調信号M1〜MNに対して可変の遅延量を与える。各遅延量可変部251〜25Nにおける遅延量は、温度モニタ部261〜26Nから出力される温度モニタ信号T1〜TNに基づいて遅延量制御部27で生成される各制御信号C1〜CNに従って制御される。なお、多値光位相変調器の後段に接続されるパルス化用光変調器についても、変調電極28に印加される駆動信号DN+1を出力する駆動部24N+1、および該駆動部24N+1に入力される変調信号MN+1に可変の遅延量を与える遅延量可変部25N+1が設けられている。
【0047】
温度モニタ部261〜26Nは、ここでは駆動部241〜24Nおよび遅延量可変部251〜25Nを含む電子回路部の近傍にそれぞれ配置され、電子回路部の温度をモニタする。
遅延量制御部27は、各温度モニタ部261〜26Nからの温度モニタ信号T1〜TNを基に、各位相変調部221〜22Nおよびパルス化用光変調器の変調電極28に与えられる駆動信号D1〜DN+1間の遅延差が温度の変化に関わらす一定となるように、各遅延量可変部251〜25N+1における遅延量の補正値を演算し、その演算結果を示す制御信号C1〜CN+1を出力する。
【0048】
上記のような構成の光送信装置では、CW光源21から出力される連続光が多値光位相変調器に入力されてN分岐された後に、各位相変調部221〜22Nでそれぞれ位相変調される。各位相変調部221〜22Nから出力される光信号は、位相変調部222〜22Nからの光信号については各位相シフト部232〜23Nで位相がシフトされた後に、それぞれが合波されて、2N値位相変調された光信号がパルス化用光変調器に送られる。パルス化用光変調器では、2N値位相変調された光信号を強度変調することでパルス化された光信号が生成されて出力ポートOUTより外部に出力される。
【0049】
上記の多値光位相変調器における変調動作の際、駆動部241〜24Nおよび遅延量可変部251〜25Nを含む電子回路部に温度変化が生じると、上述したように駆動部241〜24Nおよび遅延量可変部251〜25Nを構成する各電子回路に用いられる能動デバイスや受動デバイスの特性、或いは、該電子回路に接続された電気信号伝送路の遅延量が変化してしまい、各位相変調部221〜22Nに与えられる駆動信号D1〜DN間の遅延差を最適化しないと、遅延ずれによる信号劣化を招くことになる。そこで、第2構成では、各位相変調部221〜22Nに対応した電子回路部の近傍に温度モニタ部261〜26Nが設けられ、各電子回路部の温度がモニタされる。そして、各温度モニタ部261〜26Nから出力される温度モニタ信号T1〜TNが遅延量制御部27に与えられ、前述した第1構成の場合と同様にして、温度モニタ信号T1〜TNを基に各遅延量可変部251〜25Nにおける遅延量の補正値が演算されて、遅延ずれの温度補償が行われる。これにより、各駆動部241〜24Nから各位相変調部221〜22Nに出力される駆動信号D1〜DN間の遅延差が温度変化に関係なく一定に制御されるようになり、各位相変調部221〜22Nに対応した電子回路部の温度特性に起因した信号劣化を防ぐことが可能になる。このような構成は従来技術のように高価な高速デバイスを必要としないため、光送信装置の低コスト化を図ることができる。
【0050】
なお、ここではパルス化用光変調器側の遅延量可変部25N+1における遅延量についても温度モニタ信号T1〜TNを基に遅延量制御部27で補正値の演算が行われるものとする。また、多値光位相変調器とパルス化用光変調器の間が光ファイバで接続されている場合には、上述した第1構成の場合と同様にして、該光ファイバの温度変化に応じた遅延ずれの補償を行うようにするのが望ましい。
【0051】
また、上記の第2構成についても、上述した第1構成の場合と同様に、複数の位相変調部のすべてに対応させて遅延量可変部を設ける必要はなく、例えば図2において駆動部241から出力される駆動信号D1を基準にして他の駆動信号D1〜DN間の遅延差を最適化するようにすれば、遅延量可変部251は省略することが可能である。さらに、多値光位相変調された光信号をパルス化せずに出力する変調方式にも対応可能であり、その場合にはパルス化用光変調器は省略される。
【0052】
加えて、各位相変調部221〜22Nに対応した電子回路部について温度モニタ部261〜26Nをそれぞれ配置する構成例を示したが、温度モニタ部は必ずしもすべての電子回路部に対応させて設ける必要はなく、光送信装置内の温度分布等を考慮して適宜な位置に温度モニタ部を配置するようにしてもよい。
【0053】
次に、本発明に関連する光送信装置の第3構成について説明する。
図3は、上記光送信装置の第3構成を示すブロック図である。
図3において、本光送信装置は、複数(n個)の光変調部321〜32Nを並列に配置し、各光変調部321〜32Nにおいて強度変調を行い、該強度変調された光信号を合波して光時分割多重(OTDM)変調を行う場合に本発明を適用した一例である。各光変調部321〜32Nに対しては、CW光源31からの連続光を光分岐器38でN分岐した光がそれぞれ入力され、各々から出力される強度変調された光信号は各光ファイバ331〜33Nを介して光合波器39に送られ、光合波器39で合波されて出力ポートOUTより外部に出力される。各光変調部321〜32Nには、各々に対応する駆動部341〜34Nが設けられており、各駆動部341〜34Nから出力される駆動信号D1〜DNによって各光変調部321〜32Nが駆動される。
【0054】
各駆動部341〜34Nは、前述した第1構成の駆動部141〜14Nと同様に、変調信号M1〜MNが遅延量可変部351〜35Nを介してそれぞれ入力され、変調信号M1〜MNを基に生成した駆動信号D1〜DNを各光変調部321〜32Nに出力する。
各遅延量可変部351〜35Nは、各駆動部341〜34Nに入力される変調信号M1〜MNに対して可変の遅延量を与える。各遅延量可変部351〜35Nにおける遅延量は、温度モニタ部361〜36Nから出力される温度モニタ信号T1〜TNに基づいて遅延量制御部37で生成される各制御信号C1〜CNに従って制御される。
【0055】
温度モニタ部361〜36Nは、ここでは各光変調部321〜32Nと光合波器39との間を接続する各々の光ファイバ331〜33Nの近傍または接触位置に設けられ、各光ファイバ331〜33Nの温度をモニタする。
遅延量制御部37は、各温度モニタ部361〜36Nからの温度モニタ信号T1〜TNを基に、各光変調部321〜32Nに与えられる駆動信号D1〜DN間の遅延差が温度の変化に関わらす一定となるように、各遅延量可変部351〜35Nにおける遅延量の補正値を演算し、その演算結果を示す制御信号C1〜CNを出力する。
【0056】
上記のような構成の光送信装置では、CW光源31から出力される連続光が光分岐器38でN分岐された後に、各光変調部321〜32Nにおいてそれぞれ時分割で強度変調される。各光変調部321〜32Nから出力される光信号は、対応する光ファイバ331〜33Nをそれぞれ伝搬して光合波器39で合波され、時分割多重された光信号が出力ポートOUTより外部に出力される。
【0057】
このとき、各光変調部321〜32Nからの出力光が伝搬する光ファイバ331〜33Nに温度変化が生じると、各光ファイバ331〜33N−1を伝搬する光信号の遅延量が変化してしまい、各光変調部121〜12Nに与えられる駆動信号D1〜DN間の遅延差を最適化しないと、各光信号が正しいタイミングで合波されなくなり時分割多重光の劣化を招くことになる。そこで、第3構成では、各光ファイバ331〜33Nに対応させて温度モニタ部361〜36Nが設けられ、各光ファイバ331〜33Nの温度がモニタされる。そして、各温度モニタ部361〜36Nから出力される温度モニタ信号T1〜TNが遅延量制御部37に与えられ、上述した第1構成の場合と同様にして、温度モニタ信号T1〜TNを基に各遅延量可変部351〜35Nにおける遅延量の補正値が演算されて、遅延ずれの温度補償が行われる。これにより、各駆動部341〜34Nから各光変調部321〜32Nに出力される駆動信号D1〜DNのタイミングが温度変化に関係なく一定に制御されるようになり、光ファイバ331〜33Nにおける遅延量の温度依存性に起因した時分割多重光の劣化を防ぐことが可能になる。このような構成は従来技術のように高価な高速デバイスを必要としないため、光送信装置の低コスト化を図ることができる。
【0058】
なお、上記の第3構成についても、上述した第1構成の場合と同様に、複数の光変調部のすべてに対応させて遅延量可変部を設ける必要はなく、例えば図3において駆動部341から出力される駆動信号D1を基準にして他の駆動信号D1〜DN間の遅延差を最適化するようにすれば、遅延量可変部351は省略することが可能である。また、温度モニタ部は必ずしもすべての光ファイバに対応させて設ける必要はなく、光送信装置内の温度分布等を考慮して適宜な位置に配置するようにしても構わない。
【0059】
次に、本発明に関連する光送信装置の第4構成について説明する。
図4は、上記光送信装置の第4構成を示すブロック図である。
図4において、本光送信装置は、両側駆動変調器を用いる場合に本発明を適用した一例である。両側駆動変調器は、例えば、NRZ変調や(CS)RZ変調において、マッハツェンダ干渉計の各分岐導波路421,422上に形成された変調電極431,432に対して正転および反転の信号を印加してプッシュプル駆動することにより、ビット内波長変動(チャーピング)を零にした変調信号を生成することができる。このような両側駆動変調器は、分岐導波路421および変調電極431からなる光変調部と、分岐導波路422および変調電極432からなる光変調部とが並列に接続されていると見なすことができ、各変調電極431,432に与えられる駆動信号の温度変化による遅延ずれを補償するのに本発明の適用が有効である。
【0060】
具体的には、各変調電極431,432に対応した駆動部441,442について、入力される変調信号M1,M2に可変の遅延量を与える遅延量可変部451,452を設ける。なお、遅延量可変部451,452のいずれか一方は省略することも可能である。また、駆動部441,442および遅延量可変部451,452を含む電子回路部の近傍に温度モニタ部461,462を配置し、各電子回路部の温度をモニタする。そして、各温度モニタ部461,462から出力される温度モニタ信号T1,T2に基づいて、各遅延量可変部451,452における遅延量の補正値を遅延量制御部47で演算し、温度変化による遅延ずれの補償を行う。これにより、各変調電極431,432に与えられる駆動信号D1,D2間の位相関係を温度変化に関係なく最適化することが可能になる。
【0061】
次に、本発明に関連する光送信装置の第5構成について説明する。上述した第1構成では、個々に独立した複数の光変調部(光変調器)を光ファイバを用いて直列に接続する場合について説明した。第5構成では、これと同じ機能を持つ複数の光変調部を1つの導波路基板上に一括して形成した集積化光変調器を用いた場合について説明する。
【0062】
図5は、上記光送信装置の第5構成を示すブロック図である。
図5において、本光送信装置は、CW光源51と出力ポートOUTの間に導波路基板52が設けられ、該導波路基板52上には直列に配置された複数(N個)の光変調部521〜52Nが形成されている。ここでは各光変調部521〜52Nの間は導波路によって接続されることになるため、第1構成の場合のような各光変調部間を接続する光ファイバの温度変化による遅延ずれは生じない。一方、各光変調部521〜52Nに対応させて設けられた各駆動部541〜54Nおよび各遅延量可変部551〜55Nを含む電子回路部については、上述した第2構成の場合と同様に、電子回路部に用いられる能動デバイスや受動デバイスの特性、或いは、電気信号伝送路の遅延量が温度に依存して変化し、各光変調部521〜52Nに与えられる駆動信号D1〜DNに遅延ずれが生じる可能性がある。このため、ここでは各電子回路部の近傍に温度モニタ部561〜56Nが配置され、電子回路部の温度がモニタされる。遅延量制御部57は、各温度モニタ部561〜56Nから出力される温度モニタ信号T1〜TNを基に各遅延量可変部551〜55Nにおける遅延量の補正値を演算し、遅延ずれの温度補償を行う。これにより、各駆動部541〜54Nから各光変調部521〜52Nに出力される駆動信号D1〜DN間の遅延差が温度変化に関係なく一定に制御されるようになり、各光変調部521〜52Nに対応した電子回路部の温度特性に起因した信号劣化を防ぐことが可能になる。
【0063】
なお、上述した第1、3構成の場合には電子回路部の温度特性に起因した遅延ずれについて特に考慮しなかったが、上記第5構成の場合と同様にして第1、3構成についても電子回路の近傍に温度モニタ部を設けることは、温度補償の精度向上を図るのに有効である。また、上記の第5構成では、第1構成について集積化光変調器を用いた一例を示したが、上述した第2、3構成についても複数の光変調部を1つの導波路基板上に一括して形成した集積化光変調器を適用することが可能である。
【0064】
次に、上述した第1〜5構成についての具体例を説明する。なお、以下では複数の光変調器を直列に配置するようにした第1構成に対応する具体例を中心に説明を行うことにするが、他の構成についても同様の具体例を適用することが可能である。
【0065】
図6は、本発明に関連する光送信装置の第1の具体例を示すブロック図である。
図6に示す具体例では、CW光源61と出力ポートOUTの間に、データ信号DATAに従って駆動される位相変調器621と、クロック信号CLKに従って駆動される(CS)RZパルス化用強度変調器622とが、偏波保持光ファイバ(PMF)63を介して直列に接続され、伝搬する光信号の遅延量が温度に依存して変化するPMF63の近傍または接触位置に設けられた熱電対等の温度センサ(TS)661により、PMF63の温度が常時モニタされる構成となっている。
【0066】
位相変調器621は、例えば、マッハツェンダ干渉計の各分岐導波路上に形成された1組の変調電極を有し、各変調電極に対して各駆動部(DRV)6411,6412から出力される駆動信号が印加される。各駆動部6411,6412には、例えば43Gbit/sや21.5Gbit/s等のデータ信号DATAが遅延量可変部(φ)6511,6512を介して入力される。また、RZパルス化用強度変調器622も、上記の位相変調器621と同様に、マッハツェンダ干渉計の各分岐導波路上に形成された1組の変調電極を有し、各変調電極に対して各駆動部6421,6422から出力される駆動信号が印加される。各駆動部6421,6422には、例えば43GHzや21.5GHz、10.75GHz等のクロック信号CLKが遅延量可変部6521,6522を介して入力される。
【0067】
各遅延量可変部6511〜6522は、例えば、遅延量可変回路と、該遅延量調整回路の損失を補償するための増幅回路とから構成される。具体的な回路構成としては、例えば図7に示すように、増幅回路が内蔵された機能回路65A,65Bを遅延量可変回路65Cの前後に接続した構成を適用することができる。前段の機能回路65Aには、電圧制御発振器(VCO)やクロック分配IC、ロジックIC等が使用され、後段の機能回路65Bには、クロック分配ICやロジックIC等が使用される。また、例えば図8に示すように、前段および後段の機能回路65A,65Bの間に複数の遅延量可変回路65Cを直列に接続し、各遅延量可変回路65Cの出力端に増幅回路65Dをそれぞれ配置した構成を適用してもよい。さらに、例えば図9に示すように90度ハイブリッド回路を利用した構成を適用することも可能である。
【0068】
上記のような各遅延量可変部6511〜6522における遅延量は、温度センサ661からの温度モニタ信号T1を基に遅延量制御部(CONT)67から出力される制御信号C11〜C22に従ってそれぞれ制御され、PMF63における遅延量の温度依存性に起因した遅延ずれの補償が行われる。なお、遅延量制御部67による遅延量の制御は、位相変調器621側の遅延量可変部6511,6512、およびRZパルス化用強度変調器622側の遅延量可変部6521,6522の少なくとも一方について行われれば、遅延ずれの温度補償が可能である。
【0069】
ここで、遅延量制御部67における演算処理の具体例について詳しく説明する。
温度センサ661によってモニタされた温度がt℃であるとき、データ信号DATAおよびクロック信号CLK間の遅延差は、例えば、次の式(1)に示す1次関数の関係式に従って算出することができる。
Delay(CLK)−Delay(DATA)
=ΔD25℃+Slope×(t−25) …式(1)
ただし、Delay(CLK)[ps]はクロック信号の遅延量、Delay(DATA)[ps]はデータ信号の遅延量、ΔD25℃[ps]は25℃におけるデータ信号およびクロック信号間の遅延差(0次の定数項)、Slope[ps/℃]は温度tに対するデータ信号およびクロック信号間の遅延差の傾き(1次の係数)を示している。
【0070】
具体的に、図6に示したPMF63として例えば被覆外径が400μmの偏波保持光ファイバを用いたときに、上記の式(1)を適用してデータ信号およびクロック信号間の遅延差を求める場合を想定すると、0次の定数項ΔD25℃および1次の係数Slopeの最適値は、例えば図10に示すような値になる。なお、図10より、ΔD25℃およびSlopeは波長によって異なることが分かる。これは主にPMFの波長分散のために生じるものである。そこで、式(1)におけるΔD25℃およびSlopeの決め方としては、ΔD25℃およびSlopeを波長に関わらす固定する(例えば、1550nmでの値)か、または、ΔD25℃およびSlopeを波長の関数にするのがよい。前者を適用する場合、波長による遅延ずれは許容することになり、後者を適用する場合には、高精度な補償を行うことが可能になる。
【0071】
図11および図12は、温度に対する遅延ずれ量を測定した結果の一例である。図11の測定結果は、ポリエステルエラストマーを用いた被覆の外径が900μmのPMFについて、(0)遅延ずれの温度補償なしの場合、(1)ΔD25℃およびSlopeを波長に関わらす固定として遅延ずれの温度補償を行った場合、(2)ΔD25℃およびSlopeを波長の関数として遅延ずれの温度補償を行った場合、をそれぞれ示している。また、図12の測定結果は、紫外線硬化型樹脂(UV)を用いた被覆の外径が400μmのPMFについての同様の結果を示している。各図より、ΔD25℃およびSlopeを波長の関数として遅延ずれの温度補償を行うことにより、遅延ずれ量をより小さくできることが分かる。
【0072】
実際に、ΔD25℃およびSlopeを波長の関数とする場合の適用方法に関しては、例えば、製品製造時に波長が決まり、その波長に応じた遅延量を与えることが考えられる。また例えば、図13に示すようなシステムにおいて、システム立ち上げ時(故障修理後の再立ち上げ時を含む)および波長切替時に、システム全体の制御系から波長情報を取得して波長可変光源61’の波長を設定するとともに、その波長に応じた遅延量を与えることも考えられる。
【0073】
また、温度に対するデータ信号およびクロック信号間の遅延差は、例えば、次の式(2)に示す温度の多項式に従って算出することも可能であり、これを適用すれば遅延ずれの温度補償の精度を更に高めることができる。
【0074】
【数1】
上記の式(2)において、ai[ps/℃]は温度tに対するデータ信号およびクロック信号間の遅延差のi次の傾きを示している。
さらに、温度に対するデータ信号およびクロック信号間の遅延差は、上記の式(1)や式(2)の他にも、例えば、温度tに対する折れ線近似を用いて算出することが可能である。図14は、折れ線近似を用いた場合に温度に対する遅延ずれ量を測定した結果の一例である。折れ線は、例えば、多数の光ファイバの温度対遅延量の分布特性から、各温度での遅延変動の最大値と最小値の中心、または平均値をとるように決めることができる。図14の(2)に示したように、折れ線近似を用いた場合に遅延ずれ量が低減されることが分かる。
【0075】
なお、前述の図11に示したポリエステルエラストマーを用いた被覆の外径が900μmのPMFの場合の測定結果と、前述の図12に示した紫外線硬化型樹脂を用いた被覆の外径が400μmのPMFの場合の測定結果とを比較すると、被覆外径の小さいPMFを用いた場合の方が、遅延量の絶対値および温度変化による遅延量のばらつきが小さくなることが分かる。これは、被覆の径が小さい光ファイバの方が、被覆が熱膨張を起こした際にファイバ芯線を引き伸ばす力が小さいためと考えられる。よって、光送信装置に適用する光ファイバの被覆の種類(材質、径)に注目し、遅延量の温度変動が小さい光ファイバを選択的に使用することでより効果的に遅延ずれの温度補償を行うことが可能になる。特に、上記のような紫外線硬化型樹脂を用いた被覆の外径が400μmのPMFを使用する場合、図12の(0)に示したように、温度のモニタ結果に基づいた補償を行わなくても遅延ずれが比較的小さなレベルに抑えられるため、遅延ずれ量の許容範囲によっては、図6の構成例における各遅延量可変部6511〜6522、温度センサ661および遅延量制御部67を省略することも可能になる。そこで、本発明による光送信装置の一実施形態は、遅延ずれの温度補償が不要になる可能性のある被覆付き偏波保持光ファイバコードを使用して各光変調部間を接続する。このような被覆付き偏波保持光ファイバコードとしては、光信号の伝搬速度の熱依存係数が0.007ps/℃/m以下であることが条件となる。具体的には、紫外線硬化型樹脂を被覆材とする偏波保持光ファイバであること、または、被覆外径が400μm以下の偏波保持光ファイバであること、などが条件となる。
【0076】
また、先に図10を参照して説明したように、主にPMFの波長分散に起因して、式(1)におけるΔD25℃およびSlopeが波長によって異なるという課題があり、ΔD25℃およびSlopeの決め方としての2通りの方法を例示したが、このような課題に対しては、例えば、信号波長帯の1.55μmで波長分散が零となるPMFを選択する方法も有効である。すなわち、図15に示すように、通常用いられる1.3μm零分散PMFの遅延特性は、1.3μmを最小点とする2次関数の形状を持ち、1.55μmの信号波長帯での遅延量の波長間の差は大きくなる。これに対して、1.55μm零分散PMFの遅延特性は、2次関数の最小点が信号波長帯にあるために、遅延量の波長間の差が小さく抑えられる。したがって、1.55μm付近を信号波長帯とする場合に、複数の光変調器間を接続するPMFとして1.55μm零分散PMFを適用することは、上記のような波長分散に起因した課題の解消に有効となる。
【0077】
次に、第2の具体例について説明する。
図16は、本発明に関連する光送信装置の第2の具体例を示すブロック図である。
図16に示す具体例では、前述した第1の具体例(図6)について、位相変調器621および(CS)RZパルス化用強度変調器622にそれぞれ用いられている導波路基板と偏波保持光ファイバ63との固定部分の熱膨張や、各変調器621,622における導波路長の熱膨張等により、各々の変調器自体が発生する遅延差の温度変動を補償するために、温度センサ6611,6612が追加されている。温度センサ6611は、位相変調器621の温度変動が生じ易い部分の近傍または接触位置に、例えば熱電対等が設けられ、位相変調器621の温度を常時モニタし、その結果を示す温度モニタ信号T11を遅延量制御部67に出力する。また、温度センサ6612も、(CS)RZパルス化用強度変調器622の温度変動が生じ易い部分の近傍または接触位置に、例えば熱電対等が設けられ、(CS)RZパルス化用強度変調器622の温度を常時モニタし、その結果を示す温度モニタ信号T12を遅延量制御部67に出力する。
【0078】
遅延量制御部67では、各温度センサ661,6611,6612から出力される温度モニタ信号T1,T11,T12を基に、前述したような関係式や折れ線近似を用いて、データ信号およびクロック信号間の遅延差が求められる。なお、温度モニタ信号T11,T12を基に各変調器単体における遅延ずれの温度変動を求める場合、前述したような関係式の係数を調整することによって、PMFの場合と同様にして演算を行うことが可能である。そして、各温度モニタ信号T1,T11,T12に対応した遅延差が求められると、それらを合算した値に応じて各遅延量可変部6411〜6422における遅延量の補正値が算出され、その結果を示す制御信号C11〜C22が各遅延量可変部6411〜6422に出力される。これにより、遅延ずれの温度補償がPMF63だけでなく各変調器621,622における遅延量の温度依存性をも考慮して行われるようになり、より高い精度の温度補償が可能になる。
【0079】
次に、第3の具体例について説明する。
図17は、本発明に関連する光送信装置の第3の具体例を示すブロック図である。
図17に示す具体例では、前述した第1の具体例(図6)について、各駆動部6411〜6422をそれぞれ構成する電子回路で発生する遅延差の温度変動を補償するために、各駆動部6411〜6422に対応した温度センサ6611〜6622が追加されている。各温度センサ6611〜6622は、ここでは各駆動部6411〜6422を構成する電子回路内に設けられていて、各々の電子回路の温度を常時モニタし、その結果を示す温度モニタ信号T11〜T22を遅延量制御部67にそれぞれ出力する。各温度センサ6611〜6622の具体的な構成としては、例えば、Texas Instrument社製の製品名「TMP123」(URL:http://focus.ti.com/lit/ds/symlink/tmp123.pdf)などの温度センサICを使用することが可能である。
【0080】
遅延量制御部67では、各温度センサ661,6611〜6622から出力される温度モニタ信号T1,T11〜T22を基に、前述したような関係式や折れ線近似式を用いて、データ信号およびクロック信号間の遅延差が求められる。なお、温度モニタ信号T11〜T22を基に各駆動部を構成する電子回路における遅延量の温度変動を求める場合も、前述したような関係式の係数を調整することによって、PMFの場合と同様にして演算を行うことが可能である。そして、各温度モニタ信号T1,T11〜T22に対応した遅延差が求められると、それらを合算した値に応じて各遅延量可変部6411〜6422における遅延量の補正値が算出され、その結果を示す制御信号C11〜C22が各遅延量可変部6411〜6422に出力される。これにより、遅延ずれの温度補償がPMF63だけでなく各駆動部6411〜6422における遅延量の温度依存性をも考慮して行われるようになり、より高い精度の温度補償が可能になる。
【0081】
次に、第4の具体例について説明する。
図18は、本発明に関連する光送信装置の第4の具体例を示すブロック図である。
図18に示す具体例では、前述した第3の具体例(図17)について、シリアライザ(SER)68が追加されている。このシリアライザ68は、本光送信装置に入力される低速インターフェース信号を多重化して、例えば43Gbit/sや21.5Gbit/s等のデータ信号DATAと、43GHzや21.5GHz、10.75GHz等のクロック信号CLKとを生成する。このシリアライザ68を構成する電子回路においても、出力するデータ信号DATAおよびクロック信号CLK間の遅延差が温度に依存して変化する。このため、シリアライザ68の温度を常時モニタする温度センサ663が、シリアライザ68を構成する電子回路内に設けられていて、該温度センサ663から遅延量制御部67に温度モニタ信号T3が出力される。遅延量制御部67では、各温度センサ661,6611〜6622,663から出力される温度モニタ信号T1,T11〜T22,T3を基に、前述した第3の具体的な構成例の場合と同様にして、各遅延量可変部6411〜6422における遅延量の補正値が算出され、遅延ずれの温度補償が行われる。
【0082】
次に、第5の具体例について説明する。
図19は、本発明に関連する光送信装置の第5の具体例を示すブロック図である。
図19に示す構成は、前述した第4の具体例(図18)を変形した一例であって、ここでは、位相変調器621の各変調電極に与えられる駆動信号が共通の駆動部641で生成され、該駆動部641と各変調電極との間をそれぞれ接続する電気同軸ケーブルの近傍に温度センサ6610が配置されている。また、(CS)RZパルス化用強度変調器622の各変調電極に与えられる駆動信号も共通の駆動部642で生成され、該駆動部642と各変調電極との間をそれぞれ接続する電気同軸ケーブルの近傍にも温度センサ6620が配置されている。さらに、シリアライザ68は、例えば43Gbit/sのデータ信号DATAおよび反転データ信号/DATAを、遅延量可変部6511,6512を介して駆動部641に出力すると共に、21.5GHzのクロック信号CLKを分岐部69に出力する。分岐部69は、シリアライザ68からのクロック信号CLKを2つに分岐し、一方のクロック信号CLKを遅延量可変部6513および周波数ダブラ70を介して駆動部641に送り、他方のクロック信号CLKを遅延量可変部652を介して駆動部642に送る。さらに、シリアライザ68の出力側に接続された電気同軸ケーブルの近傍には温度センサ6631が配置され、分岐部69および駆動部642の間を接続する電気同軸ケーブルの近傍には温度センサ6632が配置されている。
【0083】
このような構成では、伝搬する電気信号の遅延量が温度に依存して変化する電気同軸ケーブルの温度が各温度センサ6610,6620,6631,6632によって常時モニタされ、該各温度センサ6610,6620,6631,6632から出力される温度モニタ信号T10,T20,T31,T32が遅延量制御部67に送られて、各遅延量可変部6511,6512,6513,662における遅延量の制御が行われるようになる。これにより、PMF63だけでなく各電気同軸ケーブルにおける遅延量の温度変動も考慮した高い精度の温度補償を行うことが可能になる。
【0084】
次に、第6の具体例について説明する。
図20は、本発明に関連する光送信装置の第6の具体例を示すブロック図である。
図20に示す構成は、前述した第1〜3の具体例を変形した一例であって、各変調器621,622の間を接続するPMF63の近傍に位置する電子回路基板71上に、温度センサIC66を設けるようにしたものである。電子回路基板71は、各駆動部6411〜6422、各遅延量可変部6511〜6522および遅延量制御部67をそれぞれ搭載した共通の基板である。電子回路基板71上に温度センサIC66を実装するのは、PMF63に熱電対等を取り付ける場合よりも作業が容易であり、電子回路基板71上のPMF63近傍に位置する部分に温度センサIC66を設けておくことで、PMF63の温度を比較的簡単にモニタすることができる。また、電子回路基板71上の温度分布にばらつきが小さければ、駆動部6411〜6422等を構成する電子回路の温度も温度センサIC66によってモニタすることができる。したがって、上記のような構成を適用することにより、遅延ずれの温度補償が可能な光送信装置をさらに低コストで提供することが可能になる。
【0085】
なお、上述した第1〜6の具体例については、例えば図21に示すように、各変調器621,622の間を接続するPMF63の長さ(設計値をL1とする)が、スプライス作業や実装配置の変更などにより、設計値とは異なる長さL2(図21の一例ではL2<L1)ことがある。具体的には、スプライスミスやスプライスの長さ精度のばらつき、光変調器の配置の変更、PMFの取り巻き位置の変更などが原因となって、上記のような状況が発生する。このようなPMF63の長さが設計値L1から変わってしまった場合でも、本光送信装置の構成では、PMFの実際の長さL2に応じて遅延量可変部における遅延量を制御する(典型例としては、L2/L1倍の遅延差をデータ信号およびクロック信号間に与える)ことにより、上記のようなPMF63の長さの変更によるデータ信号およびクロック信号間の遅延ずれを容易に補償することが可能である。
【符号の説明】
【0086】
11,21,31,41,51,61…CW光源
12,32,52…光変調部
13,33…光ファイバ
14,24,34,44,54,64…駆動部
15,25,35,45,55,65…遅延量可変部
16,26,36,46,56…温度モニタ部
17,27,37,47,57,67…遅延量制御部
22…位相変調部
23…位相シフト部
28,43…変調電極
38…光分岐器
39…光合波器
42…分岐導波路
621…位相変調器
622…(CS)RZパルス化用強度変調器
63…偏波保持光ファイバ
66…温度センサ
68…シリアライザ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を変調する複数の光変調部と、
入力される変調信号に従って前記光変調部を駆動する駆動信号を出力する複数の駆動部と、
前記複数の駆動部にそれぞれ入力される変調信号のうちの少なくとも1つの変調信号に対して可変の遅延量を与えることにより、前記複数の光変調部にそれぞれ与えられる駆動信号間の相対的なタイミングを調整する遅延量可変部と、を備えた光送信装置であって、
前記複数の光変調部が被覆付き偏波保持光ファイバコードを介して直列に接続され、
前記被覆付き偏波保持光ファイバコードは、光信号の伝搬速度の熱依存係数が0.007ps/℃/m以下であることを特徴とする光送信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光送信装置であって、
前記被覆付き偏波保持光ファイバコードは、紫外線硬化型樹脂を被覆材とする偏波保持光ファイバであることを特徴とする光送信装置。
【請求項3】
請求項1に記載の光送信装置であって、
前記被覆付き偏波保持光ファイバコードは、被覆外径が400μm以下の偏波保持光ファイバであることを特徴とする光送信装置。
【請求項4】
請求項1に記載の光送信装置であって、
前記被覆付き偏波保持光ファイバコードは、信号波長帯で波長分散が零となる光ファイバを用いたことを特徴とする光送信装置。
【請求項1】
光を変調する複数の光変調部と、
入力される変調信号に従って前記光変調部を駆動する駆動信号を出力する複数の駆動部と、
前記複数の駆動部にそれぞれ入力される変調信号のうちの少なくとも1つの変調信号に対して可変の遅延量を与えることにより、前記複数の光変調部にそれぞれ与えられる駆動信号間の相対的なタイミングを調整する遅延量可変部と、を備えた光送信装置であって、
前記複数の光変調部が被覆付き偏波保持光ファイバコードを介して直列に接続され、
前記被覆付き偏波保持光ファイバコードは、光信号の伝搬速度の熱依存係数が0.007ps/℃/m以下であることを特徴とする光送信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光送信装置であって、
前記被覆付き偏波保持光ファイバコードは、紫外線硬化型樹脂を被覆材とする偏波保持光ファイバであることを特徴とする光送信装置。
【請求項3】
請求項1に記載の光送信装置であって、
前記被覆付き偏波保持光ファイバコードは、被覆外径が400μm以下の偏波保持光ファイバであることを特徴とする光送信装置。
【請求項4】
請求項1に記載の光送信装置であって、
前記被覆付き偏波保持光ファイバコードは、信号波長帯で波長分散が零となる光ファイバを用いたことを特徴とする光送信装置。
【図22】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【公開番号】特開2011−223619(P2011−223619A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134306(P2011−134306)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【分割の表示】特願2005−346581(P2005−346581)の分割
【原出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【分割の表示】特願2005−346581(P2005−346581)の分割
【原出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]