説明

光量子状態制御素子

【課題】高効率で、素子サイズが小さく高密度集積が可能で安価に大量生産でき、形成の制御性に優れ、電子デバイスとの融合性に優れた光量子状態制御素子を提供する。
【解決手段】光量子状態制御素子は、光伝播方向と垂直な断面が矩形である光導入用の第一コア31と、第一コア31と間隙を隔てて配置された光干渉共鳴部を構成する第二コア33と、第二コア33と間隙を隔てて配置された光干渉共鳴部を構成する第三コア34と、第三コア34と間隙を隔てて配置され、光伝播方向と垂直な断面が矩形である、第三コア34からの光導出用の第四コア32と、第一コア31、第二コア33、第三コア34および第四コア32を覆うクラッドとを備える。第二コア33と第三コア34とは、共鳴波長に対してウィスパーリングギャラリーモード条件を満たし、かつ円の直径が異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信用デバイス、量子情報処理用デバイスに関するものであり、高屈折率差を利用し、ウィスパーリングギャラリーモード条件を満たす量子干渉、共鳴構造を作製して光の量子状態制御を可能とする光量子状態制御素子を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
現在の光通信用素子、量子情報処理素子がもつ課題の一つに小型化、高集積化がある。小型化、高集積化を実現する一つの方法が、高屈折率差を用いた光導波、光閉じ込め素子である。この方法では、シリコンを使うことで、ガラスを使った場合に比べ、1/1000程度に小型化でき、それに応じた小型化、高集積化が可能である。さらに、シリコンを使うことで安価で大量の素子を提供できる。
【0003】
球構造や円筒状構造を有した共振器構造を有する微小共振器は、そのQ値が大きく(1010程度)、モード体積が小さな(数十μm3)光源や、量子情報処理機能素子であるスローライト(slow light)光発生源として期待されている。従来、この微小共振器部分は、光ファイバーを利用したシリカガラス(非特許文献1参照)や、発光源を含んだ有機ポリマー球(非特許文献2参照)から作製されている。
【0004】
【非特許文献1】Y.Yamamoto and R.E.Slusher,「OPTICAL PROCESSES IN MICROCAVITIES」,Physics Today,June,1993,p.66-73
【非特許文献2】五神真氏,「光と物質の潜在力を引き出す〜ナノテクと光技術をつなぐサイエンス〜」,Janan Nanonet Bulletin,第62号,2004.4.13
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、微小共振器は、Q値が大きく、モード体積が小さい光源として期待されているものの、実用化されていない。その理由としては、以下のような問題点があったためである。まず、シリカガラスによる微小球は屈折率差が小さく小型化に不向きであり、またレーザーアブレーションによる微小球の作製という作製方法が大量生産に適していないという問題点があった。また、有機ポリマーから作製された微小球は、シリコンや化合物半導体で構成されている現在の電子回路の作製プロセスに比べて形成の制御性に劣り、また同一基板上に有機ポリマー系の微小球と無機系半導体素子の両者を形成することが困難なので、従来のシリコンや化合物半導体を中心とした光通信用デバイスや今後の量子情報処理デバイスと融合させることが難しいという問題点があった。
【0006】
また、量子情報通信においては、単一光子状態やスクイーズト状態という光の量子状態を保存再生するというような光の量子状態の制御が必要である。例えば光の量子状態の保存再生を制御するためには、スクイーズト光のような非古典光を用いて電磁誘起透明化現象を制御して発生させる必要がある。
【0007】
干渉共鳴部分にシリコンを使用すれば、コアとクラッドとの間に高い屈折率差をつくることが可能となり、小型化、高集積化、さらに大量生産や低コスト化といった生産性の向上が可能になる考えられる。しかしながら、発光効率の低さ、加えて間接遷移型半導体であることに起因し、光により直接励起ができないことから齎される制御性の悪さ、ということからフォトニクス領域においてシリコンを素子応用することはこれまで多々問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、第一に高効率であり、第二に素子サイズが小さく高密度集積が可能でかつ安価に大量生産することができ、第三に形成の制御性に優れ、第四に従来の電子デバイスとの融合性に優れた光量子状態制御素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光量子状態制御素子は、光伝播方向と垂直な断面が矩形である光導入用の第一コアと、この第一コアと間隙を隔てて配置された、平面視円形の光干渉共鳴部を構成する第二コアと、この第二コアと間隙を隔てて配置された、平面視円形の光干渉共鳴部を構成する第三コアと、前記第二コアまたは第三コアと間隙を隔てて配置され、光伝播方向と垂直な断面が矩形である、前記第二コアまたは第三コアからの光導出用の第四コアと、前記第一コア、第二コア、第三コアおよび第四コアを覆う、前記第一コア、第二コア、第三コアおよび第四コアよりも屈折率が小さい材料からなるクラッドとを備え、前記第二コアと第三コアとは、光の同一の共鳴波長に対してウィスパーリングギャラリーモード条件を満たし、かつ円の直径が異なることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の光量子状態制御素子の1構成例において、前記第一コアと第四コアとは、伝搬させたい光の波長において前記クラッドとの境界条件を満たす断面寸法を有することを特徴とするものである。
また、本発明の光量子状態制御素子の1構成例において、前記第一コアと第二コアとの間隙、前記第二コアと第三コアとの間隙、および前記第二コアまたは第三コアと第四コアとの間隙の幅は、前記共鳴波長に依存することを特徴とするものである。
また、本発明の光量子状態制御素子の1構成例において、前記第一コアと第四コアとは、前記第一コアの出力端と前記第四コアの入力端とが接続されるように一体成形され、前記第四コアは、前記第二コアと間隙を隔てて配置されることを特徴とするものである。
また、本発明の光量子状態制御素子の1構成例において、前記第二コアは、前記第三コアを内包することを特徴とするものである。
また、本発明の光量子状態制御素子の1構成例は、前記第二コアと第三コアの組が複数設けられ、組ごとに前記共鳴波長が異なることを特徴とする
また、本発明の光量子状態制御素子の1構成例において、前記第一コア、第二コア、第三コアおよび第四コアの材料はシリコンであり、前記クラッドの材料は、空気、酸化シリコン、酸窒化シリコン、窒化シリコン、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂のいずれかである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高屈折率差導波路の特徴を利用して干渉共鳴構造を実現したので、高効率で小型化が可能な干渉共鳴構造を実現することができる。また、本発明では、電磁誘起透明化現象を実現することができると共に、光の質を変える操作や制御しやすい光に変えることが可能になる。また、本発明では、シリコンをコアに用いることで、安価に大量生産を実現することができ、また有機ポリマー系の微小球を作製する場合に比べて形成の制御性を向上させることができる。さらに、本発明では、シリコンをコアに用いることで、同一基板上に光量子状態制御素子と半導体素子とを形成することが可能になるので、従来のシリコンや化合物半導体を中心とした光通信用デバイスや今後の量子情報処理デバイスと融合させることが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係る光量子状態制御素子の平面図である。
本実施の形態の光量子状態制御素子は、光入力用導波路21と、光伝播部である第一コア31と、光干渉共鳴部である第二コア33と、同じく光干渉共鳴部である第三コア34と、光伝播部である第四コア32と、出力用導波路22とから構成されている。光入力用導波路21と第一コア31と第二コア33と第三コア34と第四コア32と出力用導波路22とは、同一の材料、例えばシリコンによって成形されている。シリコンの屈折率は3.478である。
【0013】
図2は図1の第一コア31のA−A線断面図である。光入力用導波路21と第一コア31と第二コア33と第三コア34と第四コア32と出力用導波路22とは、シリコンより屈折率の低い例えば酸化シリコンからなるアンダークラッド51上に形成されている。酸化シリコンの屈折率は、1.444である。また、光入力用導波路21と第一コア31と第二コア33と第三コア34と第四コア32と出力用導波路22とは、シリコンより屈折率の低いオーバークラッドによって覆われている。本実施の形態では、シリコンより屈折率の低い空気をオーバークラッドとして用いている。したがって、図2では、オーバークラッドを示していない。空気の屈折率は、1.000である。なお、アンダークラッド51は、図示しないシリコン等の基板上に形成されている。
【0014】
図2に示すように、第一コア31は、光伝播方向(図1左右方向)と垂直な断面が矩形であり、厚さTが0.2μm、幅Wが0.25μmのシリコンからなる。この第一コア31の断面寸法は、第一コア31を伝播させたい光の伝播について第一コア31と第一コア31を覆うクラッドとを含む領域におけるマックスウェルの方程式を解き、さらにその解の中から第一コア31を伝播させたい解すなわち光の伝播モードを選択し、その光の伝播モードが満たさなければならない第一コア31と第一コア31を覆うクラッドとを含む領域におけるマックスウェルの方程式の解の境界条件から決定すればよい。
【0015】
図3は図1の第二コア33のB−B線断面図である。図3に示すように、第二コア33は、断面が矩形で且つ平面視円形の形状、すなわち円筒形をしている。第二コア33は、厚さTが第一コア31と同じ0.2μm、直径Dが10μmのシリコンからなる。この第二コア33の断面寸法は、第二コア33を伝播させたい光の伝播について第二コア33と第二コア33を覆うクラッドとを含む領域におけるマックスウェルの方程式を解き、さらにその解の中から第二コア33を伝播させたい解すなわち光の伝播モードを選択し、その光の伝播モードが満たさなければならない第二コア33と第二コア33を覆うクラッドとを含む領域におけるマックスウェルの方程式の解の境界条件から決定すればよい。
【0016】
第三コア34は、第二コア33と同様に、円筒形をしている。第三コア34は、厚さTが第一コア31と同じ0.2μm、直径Dが5μmのシリコンからなる。この第三コア34の断面寸法は、第三コア34を伝播させたい光の伝播について第三コア34と第三コア34を覆うクラッドとを含む領域におけるマックスウェルの方程式を解き、さらにその解の中から第三コア34を伝播させたい解すなわち光の伝播モードを選択し、その光の伝播モードが満たさなければならない第三コア34と第三コア34を覆うクラッドとを含む領域におけるマックスウェルの方程式の解の境界条件から決定すればよい。
【0017】
第四コア32は、第一コア31と同様に、光伝播方向(図1左右方向)と垂直な断面が矩形であり、厚さTが0.2μm、幅Wが0.25μmのシリコンからなる。この第四コア32の断面寸法は、第四コア32を伝播させたい光の伝播について第四コア32と第四コア32を覆うクラッドとを含む領域におけるマックスウェルの方程式を解き、さらにその解の中から第四コア32を伝播させたい解すなわち光の伝播モードを選択し、その光の伝播モードが満たさなければならない第四コア32と第四コア32を覆うクラッドとを含む領域におけるマックスウェルの方程式の解の境界条件から決定すればよい。
【0018】
光入力用導波路21と出力用導波路22とは、光伝播方向と垂直な断面が矩形のシリコンからなる。光入力用導波路21の断面寸法は、光入力用導波路21を伝播させたい光の伝播について光入力用導波路21と光入力用導波路21を覆うクラッドとを含む領域におけるマックスウェルの方程式を解き、さらにその解の中から光入力用導波路21を伝播させたい解すなわち光の伝播モードを選択し、その光の伝播モードが満たさなければならない光入力用導波路21と光入力用導波路21を覆うクラッドとを含む領域におけるマックスウェルの方程式の解の境界条件から決定すれば良い。
【0019】
同様に、出力用導波路22の断面寸法は、出力用導波路22を伝播させたい光の伝播について出力用導波路22と出力用導波路22を覆うクラッドとを含む領域におけるマックスウェルの方程式を解き、さらにその解の中から出力用導波路22を伝播させたい解すなわち光の伝播モードを選択し、その光の伝播モードが満たさなければならない出力用導波路22と出力用導波路22を覆うクラッドとを含む領域におけるマックスウェルの方程式の解の境界条件から決定すれば良い。出力用導波路22の断面寸法は、シングルモード条件を満たす寸法であればよい。第三コア34から出力用導波路22に出射する光の波長が1.5μm程度である場合、出力用導波路22の断面積は概ね0.1μm2以下である。
【0020】
第一コア31と第二コア33との間には間隙35が存在し、第二コア33と第三コア34との間には間隙36が存在し、第三コア34と第四コア32との間には間隙37が存在する。これらの間隙35〜37は、図示しないオーバークラッド(ここでは空気)で満たされることになる。第一コア31と第二コア33との距離(間隙35の幅)、第二コア33と第三コア34との距離(間隙36の幅)、および第三コア34と第四コア32との距離(間隙37の幅)は、後述する電磁誘起透明化現象による共鳴波長を選択することで決定すればよく、概ね共鳴波長程度である。
【0021】
以上のような光量子状態制御素子において、光は、光入力用導波路21から第一コア31および間隙35を通って第二コア33に導入され、さらに間隙36を通って第三コア34に導入される。
第二コア33に導入された光は、第二コア33と第二コア33を覆う第二コア33よりも屈折率が小さい材料からなるクラッドとの界面に全反射することでウィスパーリングギャラリーモードを形成する。したがって、第二コア33での光は、共振するウィスパーリングギャラリーモード条件を満たすモードの光だけが残る。
【0022】
同様に、第三コア34に導入された光は、第三コア34と第三コア34を覆う第三コア34よりも屈折率が小さい材料からなるクラッドとの界面に全反射することでウィスパーリングギャラリーモードを形成する。したがって、第三コア34での光は、共振するウィスパーリングギャラリーモード条件を満たすモードの光だけが残る。
この第三コア34に閉じ込められた光は、間隙37および第四コア32を通って出力用導波路22より出射する。
【0023】
ウィスパーリングギャラリーモードを使い、その干渉共鳴現象により電磁誘起透明化現象を起こすための構造や電磁誘起透明化現象を満たす条件はいくつか考えられるが、例えば、与えられたある波長において、ウィスパーリングギャラリーモード条件を満たすための直径Dを第二コア33と第三コア34で異なるように設定すると、ウィスパーリングギャラリーモード条件を満たす与えられた波長での電磁誘起透明化現象が起こる(文献「K.Totsuka,N.Kobayashi and M.Tomita,“Slow Light in Coupled-Resonator-Induced Transparency”,Physical Review Letters,98,213904,2007」参照)。
【0024】
以下、所望の波長の光に対して第二コア33の光干渉共鳴部でウィスパーリングギャラリーモード条件を満たすための第二コア33のサイズについて説明する。
第二コア33のサイズは、マクスウェル(Maxwell)の方程式を楕円柱座標系で展開したマチュー(Mathieu)および変形マチューの微分方程式である以下の波動方程式を周期的境界条件で解くことで求められる。つまり、マクスウェルの方程式の解がウィスパーリングギャラリーモードである。
【0025】
【数1】

【0026】
楕円柱状共振器を座標系を円柱座標系(η、φ、z)にとってマックスウェルの方程式を考える。この楕円柱状共振器における電磁場のz成分をEZ(η、φ)=H(η)Ψ(φ)ととり、変数分離してマックスウェルの方程式をH(η)とΨ(φ)の一変数の方程式に書き換えた方程式がそれぞれ式(2)、式(1)である。これらの連立微分方程式の解がウィスパーリングギャラリーモードである。ε1、ε2は、それぞれ円柱状共振器内部の比誘電率、円柱状共振器を覆うクラッドの比誘電率であり、q1、q2は、それぞれ円柱状共振器内部、円柱状共振器を覆うクラッドで与えられる定数である。pは、光の伝播解(伝播モード)のモードを表す指数に相当し、Ψ(φ)が2πの周期を持つという境界条件で決定される。ωは光の周波数、μ0は真空中の透磁率、ε0は真空中の誘電率、cは光速である。式(1)、式(2)において、共鳴波長を決め、特定のモードを選択すれば、第二コア33の半径を決定することができる。第三コア34についても同様にしてサイズを決定することができる。
【0027】
光入力用導波路21から導入された白色光は、第二コア33による共鳴波長の光だけ第二コア33に閉じ込められる。第三コア34がなければ、ある波長だけが第二コア33に吸収され閉じ込められるだけであるが、第二コア33と同じ共鳴波長をもち半径の異なる第三コア34を設けることで、第二コア33に残った光は、第三コア34に吸収され第三コア34で閉じ込められる。同時に、第二コア33と第三コア34での干渉効果により、第二コア33と第三コア34を透過する伝播モードが生じる。この干渉共鳴のモードが生じることで、透過できなかった光入力用導波路21および第二コア33を透過して第三コア34および出力用導波路22に光が透過するような電磁誘起透明化現象が起こる。
【0028】
以上のような構成により、屈折率差1.9で直径10μmの第二コア33および屈折率差1.9で直径5μmの第三コア34においてウィスパーギャラリーモード条件を満たすことで、波長1.5μmの光は、第二コア33内および第三コア34内に閉じ込められ、そのQ値は1010程度となる。
【0029】
本実施の形態では、高屈折率差導波路の特徴を利用して干渉共鳴構造を実現したので、コアとクラッドとの高屈折率差を利用して光をより長く、より強く閉じ込めておくことが可能であり、高効率で小型化が可能な干渉共鳴構造を実現することができる。
また、本実施の形態では、図1に示した光量子状態制御素子にパルス光を導入することで光は遅れ、所謂スローライト(slow light)を作ることができる。本実施の形態では、電磁誘起透明化現象をシリコンを使って実現することができると共に、光の質を変える操作や制御しやすい光に変えること(具体的には遅らせる)が可能になる。
【0030】
また、本実施の形態では、シリコンをコアに用いることで、安価に大量生産を実現することができ、また有機ポリマー系の微小球を作製する場合に比べて形成の制御性を向上させることができる。また、本実施の形態では、シリコンをコアに用いることで、同一基板上に光量子状態制御素子と半導体素子とを形成することが可能になるので、従来のシリコンや化合物半導体を中心とした光通信用デバイスや今後の量子情報処理デバイスと融合させることが容易になる。
【0031】
なお、本実施の形態では、光入力用導波路21と第一コア31と第二コア33と第三コア34と第四コア32と出力用導波路22とを覆うアンダークラッド51として酸化シリコンを用い、オーバークラッドとして空気を用いたが、これに限るものではなく、アンダークラッドやオーバークラッドの材料として、酸窒化シリコン、窒化シリコン、エポキシ樹脂、ポリイミドのほか、各種ポリマー等の低屈折率材料を用いてもよい。
【0032】
第二コア33と第三コア34とで共鳴する周波数は同じであってもよいし、場合によっては異なってもよい。第二コア33と第三コア34の直径は、式(1)、式(2)で説明した特定のモードで決める。基本モードであれば最小直径となり、高次モードであればマックスウェルの方程式の解の範囲で直径は大きくなる。ただし、本発明では、第二コア33と第三コア34で同じ共鳴波長としたほうが好ましい。
【0033】
第二コア33と第三コア34で共鳴波長が同じ場合、モードの違いは、共振する光の位相を反映する。例えば図1において光入力用導波路21から位相に幅のある光(もしくは、位相情報が制御された二つの光)を導入する。第二コア33と第三コア34とは、同じ波長でモードの異なる(すなわち、位相が特定の関係にある)光がウィスパーリングギャラリーモード(WGM)で共振するように設計する。すなわち、このときの半径は、そのWGMの共振条件で、入力する光の相互の位相が満足できるように設計する。こうすることで、当初位相広がりが大きかった光は、特定の二つの位相に分離され、光入力用導波路21、出力用導波路22から取り出すことができる。あるいは、当初位相制御された二つの光パルスが光入力用導波路21から導入された場合は、この二つの光パルスを光入力用導波路21、出力用導波路22から分離して取り出すことができる。こうして、位相関係が制御された光パルスの分離や取り出しを実現することができ、光の量子状態を制御することができる。
【0034】
また、入力光パルスを二つに分け、光入力用導波路21と出力用導波路22の両側から光を導入する。このとき、入力する光の位相は、かなり幅があって広い位相をもっている一本の光パルスであるとする。この場合、光入力用導波路21、出力用導波路22からそれぞれ位相が制御された二本の光パルスが出力される。この入力する光パルスの位相をとりたてて厳しく制御することなく、本実施の形態の光量子状態制御素子を通すと、位相制御された光が取り出せるということも本実施の形態の光量子状態制御素子の特徴である。
【0035】
さらに、第二コア33と第三コア34の直径が異なることから、第二コア33と第三コア34の各共振器部で閉じ込められる光パルスの遅れ時間が第二コア33と第三コア34で異なる。こうすることで、位相を制御し、群速度を遅らせた光パルスを作ることが可能となる。ただし、この遅れ時間は、第二コア33、第三コア34の直径と閉じ込めの度合い(Q値)で決まるので、任意に設定することはできない。
【0036】
また、この位相制御された光パルスが、2準位系の物質に入射した場合に系の量子状態、系のコヒーレント状態を制御できることは、既に論文などで発表されている(例えば文献「篠島他,“非共鳴光を用いた2準位系におけるポピュレーションの反転分布操作”,日本物理学会第63回年次大会講演概要集,25pRF−2,p.193,2008」)。すなわち、図1の間隙36の部位に、制御したい2準位系とみなせる物質、例えば半導体の量子ドットや分子等を置き、光入力用導波路21、出力用導波路22から位相制御され遅れ時間が決まった光パルスを入射させる。系のコヒーレント状態が制御できるような位相状態は、予め理論計算で決められており、その位相状態を満たすように第二コア33と第三コア34の直径が設計され、その直径で遅れる時間を考慮して、間隙36に配置した物質に二つのパルスが入射できるように、予め入力する光パルスのタイミングを計って入射させる。こうすることで、2準位系の物質の量子状態も制御することができる。つまり、光による量子状態制御を実現することができる。
【0037】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図4は本発明の第2の実施の形態に係る光量子状態制御素子の平面図である。
本実施の形態と第1の実施の形態との違いは、第四コア32および出力用導波路22の配置が異なることである。光量子状態制御素子としての動作は、第1の実施の形態と同じである。
【0038】
このように、光量子状態制御素子では、光干渉共鳴部である第三コア34と、出力部である第四コア32および出力用導波路22との位置関係を任意にとることができる。同様に、光干渉共鳴部である第二コア33と、入力部である光入力用導波路21および第一コア31との位置関係も任意にとることができる。こうして、本実施の形態では、光干渉共鳴部と入出力部との位置関係を任意にとることができるので、素子の配置に自由度が生じ、第1の実施の形態に比べて更なる小型化、高集積化を実現することができる。
【0039】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。図5は本発明の第3の実施の形態に係る光量子状態制御素子の平面図である。
本実施の形態と第1の実施の形態との違いは、第一コア31aと第四コア32aとが直前接続されていることである。第一コア31aおよび第四コア32aと第二コア33との間には間隙35aが存在する。第一コア31aおよび第四コア32aと第二コア33との距離(間隙35aの幅)の決め方は、間隙35と同じでよい。
【0040】
本実施の形態においても、光量子状態制御素子の動作は第1の実施の形態とほぼ同様である。本実施の形態では、光入力用導波路21と第一コア31aと第四コア32aと出力用導波路22とを直線状に配置するので、光量子状態制御素子を作製する作製プロセスにおける工程数を簡素化することができ、安価な素子を実現することができる。
【0041】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。図6は本発明の第4の実施の形態に係る光量子状態制御素子の平面図、図7は図6の第二コア33aおよび第三コア34aのC−C線断面図である。
本実施の形態と第3の実施の形態との違いは、第二コア33aが第三コア34aを内包していることである。つまり、第二コア33aは、内側が空洞になっており、この空洞部に第三コア34aが形成されるようになっている。
【0042】
第二コア33aの内壁と第三コア34aの外壁との間には間隙36aが存在する。第二コア33aの内壁と第三コア34aとの距離(間隙36aの幅)の決め方は、間隙36と同じでよい。
本実施の形態においても、光量子状態制御素子の動作は第1の実施の形態とほぼ同様である。
【0043】
本実施の形態では、第二コア33aが第三コア34aを内包することにより、第1〜第3の実施の形態に比べて更なる小型化、高集積化を実現することができる。
なお、本実施の形態では、第3の実施の形態と同様に第一コア31aと第四コア32aを接続して入出力部を共通にする構成としたが、第1、第2の実施の形態と同様に入出力部を分離した構成としてもよい。
【0044】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施の形態について説明する。図8は本発明の第5の実施の形態に係る光量子状態制御素子の平面図である。
本実施の形態と第3の実施の形態との違いは、第二コア33、第三コア34とは別に、第二コア41、第三コア42を配置したことである。第一コア31aおよび第四コア32aと第二コア41との間には間隙38が存在し、第二コア41と第三コア42との間には間隙39が存在する。第一コア31aおよび第四コア32aと第二コア41との距離(間隙38の幅)、第二コア41と第三コア42との距離(間隙39の幅)の決め方は、間隙35,36と同じでよい。
【0045】
第二コア41と第三コア42の共鳴波長は同じであるが、第二コア41と第三コア42の直径は異なる。また、第二コア33と第三コア34の共鳴波長に対して、第二コア41と第三コア42の共鳴波長は異なる。第二コア33、第三コア34と同様に、第二コア41と第三コア42の断面寸法は共鳴波長に依存して決定される。
【0046】
本実施の形態においても、光量子状態制御素子の動作は第1の実施の形態とほぼ同様である。以上の構成により、本実施の形態では、量子状態制御する光の波長を複数とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、光通信用デバイス、量子情報処理用デバイスに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る光量子状態制御素子の平面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る光量子状態制御素子の第一コアの断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る光量子状態制御素子の第二コアの断面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る光量子状態制御素子の平面図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係る光量子状態制御素子の平面図である。
【図6】本発明の第4の実施の形態に係る光量子状態制御素子の平面図である。
【図7】本発明の第4の実施の形態に係る光量子状態制御素子の第二コアおよび第三コアの断面図である。
【図8】本発明の第5の実施の形態に係る光量子状態制御素子の平面図である。
【符号の説明】
【0049】
21…光入力用導波路、22…出力用導波路、31,31a…第一コア、32,32a…第四コア、33,41…第二コア、34,42…第三コア、35,35a,36,36a,37,38,39…間隙、51…アンダークラッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光伝播方向と垂直な断面が矩形である光導入用の第一コアと、
この第一コアと間隙を隔てて配置された、平面視円形の光干渉共鳴部を構成する第二コアと、
この第二コアと間隙を隔てて配置された、平面視円形の光干渉共鳴部を構成する第三コアと、
前記第二コアまたは第三コアと間隙を隔てて配置され、光伝播方向と垂直な断面が矩形である、前記第二コアまたは第三コアからの光導出用の第四コアと、
前記第一コア、第二コア、第三コアおよび第四コアを覆う、前記第一コア、第二コア、第三コアおよび第四コアよりも屈折率が小さい材料からなるクラッドとを備え、
前記第二コアと第三コアとは、光の同一の共鳴波長に対してウィスパーリングギャラリーモード条件を満たし、かつ円の直径が異なることを特徴とする光量子状態制御素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光量子状態制御素子において、
前記第一コアと第四コアとは、伝搬させたい光の波長において前記クラッドとの境界条件を満たす断面寸法を有することを特徴とする光量子状態制御素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光量子状態制御素子において、
前記第一コアと第二コアとの間隙、前記第二コアと第三コアとの間隙、および前記第二コアまたは第三コアと第四コアとの間隙の幅は、前記共鳴波長に依存することを特徴とする光量子状態制御素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光量子状態制御素子において、
前記第一コアと第四コアとは、前記第一コアの出力端と前記第四コアの入力端とが接続されるように一体成形され、前記第四コアは、前記第二コアと間隙を隔てて配置されることを特徴とする光量子状態制御素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光量子状態制御素子において、
前記第二コアは、前記第三コアを内包することを特徴とする光量子状態制御素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光量子状態制御素子において、
前記第二コアと第三コアの組が複数設けられ、組ごとに前記共鳴波長が異なることを特徴とする光量子状態制御素子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光量子状態制御素子において、
前記第一コア、第二コア、第三コアおよび第四コアの材料はシリコンであり、前記クラッドの材料は、空気、酸化シリコン、酸窒化シリコン、窒化シリコン、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂のいずれかであることを特徴とする光量子状態制御素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−258181(P2009−258181A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104024(P2008−104024)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】