説明

光電場増強デバイスの製造方法

【課題】ラマン散乱光を高い感度で検出し得る光電場増強デバイスを容易、かつ低コストに製造する。
【解決手段】基板11上に第1の金属または金属酸化物から成る薄膜20を形成し、この基板11上に形成された薄膜20を水熱反応させることにより、第1の金属または金属酸化物の水酸化物からなる微細凹凸構造層22を形成し、その後、微細凹凸構造層22の表面に、第2の金属から成る金属微細凹凸構造層24を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局在プラズモンを誘起しうる微細な金属凹凸構造を備えた光電場増強デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属表面における局在プラズモン共鳴現象による電場増強効果を利用したセンサデバイスやラマン分光用デバイス等の電場増強デバイスが知られている。ラマン分光法は、物質に単波長光を照射して得られる散乱光を分光して、ラマン散乱光のスペクトル(ラマンスペクトル)を得る方法であり、物質の同定等に利用されている。
【0003】
ラマン分光法には、微弱なラマン散乱光を増強するために、表面増強ラマン(SERS: Surface Enhanced Raman Scattering)と呼ばれる、局在プラズモン共鳴によって増強された光電場を利用したラマン分光法がある(非特許文献1参照)。これは、金属体、特に表面にナノオーダの凹凸を有する金属体に物質を接触させた状態で光を照射すると、局在プラズモン共鳴による光電場増強が生じ、金属体表面に接触された試料のラマン散乱光強度が増強されるという原理を利用するものである。被検体を担持する担体(基板)として、表面に金属凹凸構造を備えた基板を用いることにより表面増強ラマン分光法を実施することができる。
【0004】
表面に金属微細凹凸構造を備えた基板としては、Si基板の表面に凹凸を設け、その凹凸面に金属膜を形成した基板が主に用いられている(特許文献1から3参照)。
【0005】
また、Al基板の表面を陽極酸化して一部を金属酸化物層(Al)とし、陽極酸化の過程で金属酸化物層内部に自然形成され、金属酸化物層の表面において開口した複数の微細孔内に、金属が充填された基板も提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006−514286号公報
【特許文献2】特許第4347801号公報
【特許文献3】特開2006−145230号公報
【特許文献4】特開2005−172569号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Optics Express Vol.17, No.21 18556
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光リソグラフィーおよびエッチングを用いて、微細凹凸構造を形成している特許文献1〜3や、陽極酸化を用いている特許文献4では、微細凹凸構造作製や金属凹凸構造作製方法が複雑かつ大面積化が困難なため、単位面積当たりの基板コストが高くなると考えられる。また、複数の凹凸から成る液体容器などの複雑な基板に対し、上述のような金属凹凸構造を作製することは非常に困難であった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、任意の形状の基板に、比較的大面積に、低コストで光電場増強デバイスを作製する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の光電場増強デバイスの作製方法は、基板上に第1の金属または金属酸化物から成る薄膜を形成する薄膜形成工程と、
前記基板上に形成された薄膜を水熱反応させることにより、前記第1の金属または前記金属酸化物の水酸化物からなる微細凹凸構造層を形成する微細凹凸構造層作製工程と、
該微細凹凸構造層の表面に、第2の金属から成る金属微細凹凸構造層を形成する金属層作製工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
前記金属層作製工程において、前記金属微細凹凸構造層として前記微細凹凸構造とは形状が異なる凹凸構造を表面に有する金属層を形成することが好ましい。
【0012】
第2の金属としては、金(Au),銀(Ag),銅(Cu),アルミニウム(Al)、プラチナ(Pt)またはこれらを主成分とする合金であることが好ましい。特には、AuあるいはAgが好ましい。
【0013】
前記金属層作製工程は、前記微細凹凸構造層の表面に、第2の金属からなる金属層を形成する方法として、金属蒸着法を用いた金属蒸着工程とすることができる。
【0014】
蒸着法で、第2の金属として金を用いた場合、蒸着膜厚を30nm以上とすることが望ましい。
【0015】
蒸着法で、第2の金属として銀を用いた場合、蒸着膜厚を150nm以下とすることが、望ましい。
【0016】
前記金属層作製工程の後に、前記第2の金属からなる金属微細構造層上に該第2の金属とは異なる第3の金属および誘電体のいずれか一方を積層する積層工程を含んでもよい。
【0017】
また、前記金属層作製工程を、前記微細凹凸構造層の表面に前記第2の金属からなる金属微粒子を分散させる、金属微粒子分散工程としてもよい。
【0018】
前記金属微粒子としては、直径100nm以下のものを用いることが好ましい。
【0019】
前記第1の金属としてアルミニウム(Al)、前記金属酸化物としてアルミナ(Al)を用いることができる。
【0020】
前記水酸化物がバイヤーマイトおよびベーマイトの少なくとも一方からなることが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の光電場増強デバイスの製造方法は、基板上に第1の金属または金属酸化物を形成する薄膜形成工程と、基板上に形成された薄膜を水熱反応させることにより前記第1の金属または前記金属酸化物の水酸化物からなる微細凹凸構造層を形成工程と、微細凹凸構造層の表面に、第2の金属から成る金属微細凹凸構造層を形成する金属層作製工程との簡単な工程で、数十ナノメートルサイズの金属微細凹凸構造を表面に備えた光電場増強デバイスを得ることができる。
【0022】
このような非常に簡素な工程により光電場増強デバイスを得ることができるので、従来のデバイスと比較して製造コストを大幅に抑えることができる。
また、それぞれの工程が、比較的大面積の基板や任意の形状を有する基板にも適応可能であり、大面積かつ任意形状の光電場増強デバイスが作製可能となる。
【0023】
本発明の製造方法により得られた光電場増強デバイスは、表面の金属微細凹凸に光が照射されると、金属から成る微細凹凸構造表面に局在プラズモンを効果的に誘起することができ、この局在プラズモンによる光電場増強効果を生じさせることができる。また、この光電場増強デバイス上に被検体を配置して、該被検体が配置された領域に光が照射されることにより被検体から生じる光は光電場増強効果により増強されたものとなり、高感度に光を検出することが可能となる。表面増強ラマン基板としても好適に用いることができ、ラマン信号を効果的に増強させることができ、高感度化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】光電場増強基板の作製方法を示す各工程における断面図
【図2A】光電場増強デバイスの第1の実施形態に係る光電場増強基板1を示す斜視図
【図2B】図2Aに示した光電場増強基板1の側面の一部IIBの拡大図
【図3】ベーマイト層表面のSEM画像
【図4A】金蒸着層(30nm厚)表面のSEM画像
【図4B】金蒸着層(60nm厚)表面のSEM画像
【図4C】金蒸着層(90nm厚)表面のSEM画像
【図4D】金蒸着層(150nm厚)表面のSEM画像
【図4E】金蒸着層(250nm厚)表面のSEM画像
【図4F】金蒸着層(400nm厚)表面のSEM画像
【図5A】銀蒸着膜(30nm厚)表面のSEM画像
【図5B】銀蒸着膜(60nm厚)表面のSEM画像
【図5C】銀蒸着膜(90nm厚)表面のSEM画像
【図5D】銀蒸着膜(150nm厚)表面のSEM画像
【図5E】銀蒸着膜(250nm厚)表面のSEM画像
【図5F】銀蒸着膜(400nm厚)表面のSEM画像
【図6】金蒸着膜(60nm厚)サンプルについて得られたラマンスペクトル分布を示すグラフ
【図7】銀蒸着膜(60nm厚)サンプルについて得られたラマンスペクトル分布を示すグラフ
【図8】金蒸着膜サンプルについて得られたラマン信号強度の膜厚依存性を示すグラフ
【図9】銀蒸着膜サンプルについて得られたラマン信号強度の膜厚依存性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の光電場増強デバイスの製造方法の実施形態について説明する。
【0026】
図1は、本発明の光電場増強デバイスの一実施形態に係る光電場増強基板の製造工程を示すものであり、各工程毎の断面図である。
【0027】
まず、板状の透明基板11を用意し、透明基板11をアセトンおよびメタノールで洗浄する。その後、薄膜形成工程として、透明基板11の表面にスパッタ法により第1の金属としてアルミニウム20を数十nm程度成膜する。
【0028】
その後、微細凹凸構造層作製工程として、沸騰させた純水の中に、アルミニウム20付き透明基板11を浸水させ、数分(5分程度)後に取り出す。この煮沸処理(水熱反応)により、アルミニウム20は透明化し、微細凹凸構造を構成するバイヤーマイト層もしくはベーマイト層からなる透明な微細凹凸構造層22となる。
【0029】
次に、金属層作製工程として、この微細凹凸構造層22上に第2の金属を蒸着する。
【0030】
以上の処理により、微細凹凸構造層22上に金属微細凹凸構造24が生成されてなる光電場増強基板1を作製することができる。
【0031】
上記においては基板として板状の基板を用いるものとしたが、任意の形状の基板であっても適応可能である。
【0032】
微細凹凸構造層作製工程において水熱反応させる第1の金属としてはアルミニウムが挙げられるが、これに代えてアルミナ(Al(OH))のような金属酸化物を用いてもよい。アルミニウムおよびアルミナは、水熱反応させることにより、バイヤーマイト(Al[OH]3)またはベーマイト(AlOOH)のいずれか、または両方からなる、複雑な三角錐構造を有する微細凹凸構造を基板上に形成することができる(図3参照)。
なお、第1の金属としては、アルミニウムの他、チタン(Ti)など、同様に水熱反応により微細凹凸構造を形成する金属を用いることができる。
【0033】
また、第1の金属あるいは金属酸化物を基板11に成膜する方法は、スパッタ法に限らず、加熱蒸着法やゾルゲル法を用いてもよい。
水熱反応としては、煮沸処理に限らず、第1の金属が成膜された基板を高温の水蒸気に曝して第1の金属を高温の水蒸気と反応させる処理を行ってもよい。
【0034】
金属微細凹凸構造層24を構成する第2の金属は、励起光の照射を受けて局在プラズモンを生じうる金属であればよいが、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、プラチナ(Pt)、またはこれらを主成分とする合金である。特には、AuあるいはAgが好ましい。
【0035】
図2Aは、上記の製造工程により得られる光電場増強基板1の斜視図であり、図2Bは、図2Aに示した光電場増強基板1の側面の一部IIBの拡大図である。
【0036】
図2Aおよび図2Bに示すように、光電場増強基板1は、基板11と、基板11上に設けられた、表面に微細凹凸構造23を備えた微細凹凸構造層22と、その微細凹凸構造23の表面に形成された金属微細凹凸構造層(金属層)24とからなり、金属微細凹凸構造層24の表面の微細凹凸構造25に照射された光(以下において、励起光とする。)により、局在プラズモン共鳴が誘起され、この局在プラズモン共鳴により金属微細凹凸構造層24の表面に増強された光電場を生じさせるものである。
【0037】
バイヤーマイト層またはベーマイト層などの金属または金属酸化物の水酸化物からなる微細凹凸構造層22は、透明であり、図2Bに示すように、大きさ(頂角の大きさ)や向きはさまざまであるが概ね鋸歯状の断面を有している。上記製造方法によれば、平均ピッチおよび深さが概ね励起光の波長以下の微細凹凸構造23を有する微細凹凸構造層22を得ることができる。なおここで、微細凹凸構造23において、ピッチは凹部を隔てた最隣接凸部の頂点同士の距離であり、深さは凸部頂点から隣接する凹部の底部までの距離である。
【0038】
なお、基板11としてガラスなどの透明基板を用い、バイヤーマイト層またはベーマイト層などの透明な微細凹凸構造層22を備えるものとすれば、基板の表裏いずれから励起光を入射させても金属層24表面に光増強場を生じさせることができ、また、ラマン信号光などの信号光を基板の表裏いずれからでも検出することができる。ここで、透明とは、照射される光、および該光により被検体から生じる光に対し、透過率が50%以上であることをいうものとする。なお、これらの光に対して、透過率は75%以上、さらには90%以上であることが好ましい。
【0039】
金属微細凹凸構造層24は、微細凹凸構造層22の表面に沿って形成されてその微細凹凸構造23とほぼ同様の微細凹凸構造を有するものであってもよいが、図2Bに示すように、微細凹凸構造層22の微細凹凸構造23とは、異なる凹凸形状を有する微細凹凸構造25を表面に有するものであってもよい。
【0040】
上記製造方法において、金属の蒸着膜厚を薄くすると、微細凹凸構造層22の微細凹凸構造23とほぼ同様の微細凹凸構造を有するものとなり、金属の蒸着膜厚を厚くすると、金属微細凹凸構造層24は、図2Bに示すように隣接凸部間の間隔がその隣接凸部間に対応する微細凹凸構造23の隣接凸部間の間隔よりも小さい微細凹凸構造を有するものとなる。金属微細凹凸構造層24は、微細凹凸構造層22の微細凹凸構造23に沿って単に金属を膜状に形成した場合よりも凸部24aが丸みを帯び、隣接凸部間の距離が小さくなっている。
【0041】
金属微細凹凸構造層24の微細凹凸構造25に、図2Bに示すように、凸部25aとそれに隣接する凸部25bとの間隔Wmが、これらの凸部25a、25bに対応する基板の微細凹凸構造23の凸部23aと凸部23bとの間隔Wbよりも小さくなっている部分があることが好ましい。ここで、間隔Wmは、隣接する凸部25aと凸部25bのうち低い方の凸部25bの頂点から両凸部25a、25b間の凹部の最も深い部分25cまでの深さDmの半分の深さDm/2の位置での凸部25a、25b間の距離である。また、同様に間隔Wbは、隣接する凸部23aと凸部23bのうち低い方の凸部23bの頂点から両凸部23a、23b間の凹部の最も深い部分23cまでの深さDbの半分の深さDb/2の位置での凸部23a、23b間の距離である。
【0042】
金属微細凹凸構造層24の微細凹凸構造25は、その凹凸の凸部の基板に垂直な方向の長さおよび基板に水平な方向の長さの少なくとも一方が励起光の波長より短いものとなる程度の微細な凹凸構造であり、金属微細凹凸構造層24の表面に局在プラズモンを生じうるものであればよい。
【0043】
また、金属微細凹凸構造層24の凸部は金属が凝集してなる粒子状であることが望ましい。粒状の凸部は、アスペクト比(基板に垂直方向の長さ/基板に水平方向の長さ)が0.5以上であることが特に好ましい。粒状であれば表面積が大きくなることから、金属表面に付着する被検体数を増加させることができ、検出光の増加に繋がる。
【0044】
なお、金属微細凹凸構造層24の微細凹凸構造25の凸部頂点から隣接する凹部の底部までの平均深さが200nm以下、凹部を隔てた最隣接凸部の頂点同士の平均ピッチが200nm以下であることが好ましい。
【0045】
微細凹凸構造層22上に上述の製造方法のように蒸着により金属微細凹凸構造層24を形成する場合、平面基板上に金属を蒸着した場合に金では400nm以下、銀では90nm以下の厚みとなるような蒸着量で蒸着することにより、効率よく増強された光電場を生じさせる金属微細凹凸構造を得ることができる。
【0046】
なお、形成された金属微細凹凸構造層における微細凹凸構造の全ての隣接凸部間が、対応する基板の微細凹凸構造の隣接凸部間の間隔よりも小さいものである必要はない。一方で、対応する基板の微細凹凸構造の隣接凸部間の間隔よりも小さい金属微細凹凸構造層の隣接凸部間が多いほど、光電場増強の効果は顕著なものとなる。
特に、金属微細凹凸構造25の隣接凸部同士が間隔が20nm以下で近接している場合、光の照射によりこの凸部間の隙間においてホットスポットと呼ばれる非常に強い光電場増強場が生成されるため、隣接凸部間の距離が20nm以下の箇所が多数存在することが好ましい。
【0047】
上記実施形態において、第2の金属は一層のみとしているが2種類以上の金属を積層させてもよい。また、第2の金属上に誘電体を積層してもよい。このように、2種類以上の金属を積層させたり、第2の金属上に誘電体を積層することにより、干渉効果や酸化防止効果を持たせることができる。すなわち、光学干渉による効果により、層構造の厚みが光のある位相と合致した場合、層構造に光が閉じ込められ、さらなる光電場増強効果を生じさせることができる。また、例えば、第2の金属として銀層を設け、その上に金層を積層することにより、銀の酸化を抑制することができる。
なお、第2の金属からなる金属微細凹凸構造層上に誘電体を積層する場合、誘電体の膜厚は50nm以下とすることが望ましい。例えば、金属微細構造層上にSiOを10nm積層する。
【0048】
金属微細構造層の形成方法として、上記実施形態においては蒸着法を用いて、微細凹凸構造層の表面に金属を蒸着させる方法を説明したが、金属微細構造層の作製工程として、微細凹凸構造層の表面に第2の金属からなる微粒子を分散配置させることにより金属微細凹凸構造層を形成するようにしてもよい。
第2の金属からなる微粒子としては直径が100nm以下であることが、高い光電場増強効果を得ることができ好ましい。
【0049】
金属微粒子を分散させて固定させる方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
1)金属微粒子を有機溶媒に分散させコロイド溶液をベーマイト基板にキャストし乾燥させる。
2)ベーマイト基板上にポリカチオンやカチオン性分子膜を吸着させ、その上に静電気相互作用によって金属微粒子を分散、固定する。
3)ベーマイト基板表面をチオール誘導体で修飾し、金属―イオウ間の自発的な結合形成を利用して金属微粒子を固定させる。
4)金属微粒子が負に帯電していることを利用して、電気泳動法によりベーマイト基板上に金属微粒子を集積する。
以上のような方法により、金属微粒子が微細凹凸構造層上に分散固定されてなる金属微細凹凸構造を得ることができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の光電場増強デバイスの実施形態である光電場増強基板1の具体的な作製例および測定用サンプルを用いてラマン分光測定を行った結果を説明する。
【0051】
「光電場増強基板の作製方法」
基板11として、ガラス基板(BK−7;コーニング社製Eagle2000)を用いた。
アセトン5分、メタノール5分の超音波洗浄(45kHz)を行った後、ガラス基板11にスパッタ装置(キャノンアネルバ社製)を用いてアルミニウム20を25nm厚成膜した。なお、表面形状測定器(TENCOR社製)を用いて、アルミニウム厚みを測定し、厚みは25nm(±10%)であることを確認した。
【0052】
その後、ウォーターバス(西精機株式会社)の中に純水を用意して、沸騰させた。
その沸騰水の中にアルミニウム20付きガラス基板11を浸水させて、5分間経過後に取り出した。この際、アルミニウム20付きガラス基板11を沸騰水に浸水させて1−2分程度でアルミニウムが透明化したことを確認した。この透明化は煮沸処理により、アルミニウム20がバイヤーマイトもしくはベーマイトとからなる微細凹凸構造層22となったためである。
【0053】
この透明な微細凹凸構造層22の表面を、SEM(日立製S4100)にて観察した結果を図3に示す。図3中に白く観察されるのが凸部、灰色に観察されるのが凹部である。凹凸のパターンは不規則であるが、全面に一様に形成されており、微細凹凸構造の面内均一性は高い。図3に示すベーマイト層表面の写真から、凹凸構造は、多数の峰状の凸部から構成されていることが分かる。なお、このベーマイト層の凹凸構造断面は図2Bに模式的に示しているように鋸歯状である。
【0054】
最後に、透明な微細凹凸構造層22の表面にAuをEB(Electric Beam)蒸着により30nm分成膜して、金属微細凹凸構造層24を形成したサンプルを作製した。なお、同様にして透明な微細凹凸構造層22の表面にAuを60、90、150、250、400nm分それぞれ蒸着したサンプル、およびAgを30、60、90、150、250、400nm分それぞれ蒸着したサンプルを作製した。ここでの蒸着膜厚は、サンプルとは別途同じガラス基板を厚み計測用に用意して、厚み計測用のガラス基板の表面の一部をテープでマスクし、サンプル用の基板と同時に蒸着室に配置して蒸着を行い、蒸着後に厚み計測用のガラス基板からテープは剥がし、テープを剥がした金属が蒸着されていない表面から蒸着された金属表面までの厚みを測定したものである。
【0055】
各サンプル表面のSEM画像を、Au蒸着により作製したサンプルについては図4A〜図4Fに、Ag蒸着により作製したサンプルについては図5A〜図5Fに示す。
【0056】
Au蒸着の場合、図4A〜図4Fに示されるように、蒸着厚みが増していくと、凸部が凝集、粒状化し、バイヤーマイトまたはベーマイト層表面の微細凹凸構造25とは異なる粒状形状の金属微細凹凸構造が形成される。このような金属の粒状形状に光が照射された場合、粒状間に「ホットスポット」と呼ばれる非常に強い光電場が生成されるため、光電場増強基板として好ましい。膜厚が厚くなるにつれて粒状が大きくなるが、図4Fに示すように膜厚400nmにおいても粒状形状は維持されている。
【0057】
Agの場合、図5A〜図5Cに示されるように、厚み30〜90nmにおいて、厚みが大きくなるにつれて銀が徐々に凝集し、徐々に大きな島状の構造になっており、銀膜層が徐々に平坦化していると考えられる。また、図5D〜図5Fに示されるように、厚み150〜400nmにおいては、金よりも大きな粒状構造となっている。
【0058】
(ラマン散乱光の測定)
上記方法で作製した光電場増強基板の各サンプル上にそれぞれ被検体としてエタノールにローダミン6Gを溶かした溶液100μMを滴下し、乾燥させた測定サンプルを用い、ラマン散乱光を測定した。
【0059】
ラマン散乱光は、顕微ラマン分光装置(HR800)を用いて検出した。励起光としては、ピーク波長785nmのレーザ光を用い、倍率20倍で観測した。対物レンズ直後のレーザパワーは0.5mWであった。また、照射時間は10秒とした。
【0060】
図6、図7は、それぞれ顕微ラマン分光装置により検出されたラマンシフトスペクトル分布を示すグラフである。図6は、膜厚60nmのAuを蒸着したサンプルについて、図7は膜厚60nmのAgを蒸着したサンプルについてのラマンシフトスペクトル分布を示す。
【0061】
図6、7に示す、本発明の光電場増強基板の作製方法を用いて作製したサンプルでは、非常に大きなラマン信号を得ることができた。なお、蒸着膜厚の薄いサンプル(30nm、60nm)では、第2の金属として銀を用いた方が金を用いた場合より大きなラマン信号を得ることができた。
【0062】
図8は、Au蒸着を行った各サンプルのそれぞれについて取得したラマンシフトスペクトル分布を用い、ホワイトノイズ除去後の1360cm-1のピーク強度を金膜厚を横軸としてプロットしたグラフである。
【0063】
図8に示すように、金膜厚が30〜90nmにおいては、膜厚と共に信号強度が増加していることが分かる。これは、図4A〜図4CのSEM画像から明らかなように膜厚増加に伴い、金膜の凸部が粒状構造となり、凸部間の距離が小さくなることによりホットスポットが多数発生することから、信号強度が増加するものと考えられる。一方、図8に示すように、金膜厚が150〜400nmにおいては、信号強度が膜厚30〜90nmと比較して低下している。これは、粒子サイズが大きくなっていることや粒子同士が接触し導通してしまうことにより、光電場増強度が劣化したためと考えられる。膜厚90nmで強度ピークとなっているが、膜厚150〜400nmにおいても十分に光電場増強効果を得ることはでき、増強ラマン信号は得られている。
【0064】
図9は、Ag蒸着を行った各サンプルのそれぞれについて取得したラマンシフトスペクトル分布を用い、ホワイトノイズ除去後の1360cm-1のピーク強度を銀膜厚を横軸としてプロットしたグラフである。
【0065】
銀の場合は、膜厚が150nm以上になると、急激に信号強度が減少し、ほとんど信号が得られていないことが分かる。これは、金の場合と同様に、粒子サイズが大きくなっていることや粒子同士が接触し導通してしまうことにより、光電場増強度が劣化したためと考えられる。さらに銀の場合は、膜厚が薄い時点で銀層が徐々に平坦化し、平坦化してきた銀層上にさらに積層されたために、銀層が導通し安く、光電場増強度が大幅に劣化したためと考えられる。
【符号の説明】
【0066】
1 光電場増強基板(光電場増強デバイス)
11 透明基板
20 アルミニウム
22 微細凹凸構造層
23 微細凹凸構造
24 金属微細凹凸構造層(金属層)
25 金属微細凹凸構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に第1の金属または金属酸化物から成る薄膜を形成する薄膜形成工程と、
前記基板上に形成された薄膜を水熱反応させることにより、前記第1の金属または前記金属酸化物の水酸化物からなる微細凹凸構造層を形成する微細凹凸構造層作製工程と、
該微細凹凸構造層の表面に、第2の金属から成る金属微細凹凸構造層を形成する金属層作製工程とを含むことを特徴とする光電場増強デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記金属層作製工程において、前記金属微細凹凸構造層として前記微細凹凸構造とは形状が異なる凹凸構造を表面に有する金属層を形成することを特徴とする請求項1記載の光電場増強デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記第2の金属が、金、銀、銅、アルミニウムまたはプラチナであることを特徴とする請求項1または2項記載の光電場増強デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記金属層作製工程が、前記微細凹凸構造層の表面に前記第2の金属を蒸着する金属蒸着工程であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の光電場増強デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記第2の金属が金であり、蒸着膜厚が30nm以上であることを特徴とする請求項4記載の光電場増強デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記第2の金属が銀であり、蒸着膜厚が150nm以下であることを特徴とする請求項4記載の光電場増強デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記金属層作製工程の後に、前記第2の金属からなる金属微細構造層上に該第2の金属とは異なる第3の金属および誘電体のいずれか一方を積層する積層工程を含むことを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の光電場増強デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記金属層作製工程が、前記微細凹凸構造層の表面に前記第2の金属からなる金属微粒子を分散させる、金属微粒子分散工程であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の光電場増強デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記金属微粒子の直径が100nm以下であることを特徴とする請求項8記載の光電場増強デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記第1の金属がアルミニウムであり、前記金属酸化物がアルミナであることを特徴とする請求項1から9いずれか1項記載の光電場増強デバイスの製造方法。
【請求項11】
前記水酸化物がバイヤーマイトおよびベーマイトの少なくとも一方からなることを特徴とする請求項1から10いずれか1項記載の光電場増強デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【公開番号】特開2012−211839(P2012−211839A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77868(P2011−77868)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】