説明

光電変換装置およびその製造方法

【課題】微小凹部を形成することにより、光電変換効率および安定性を向上させた、光電変換装置および光電変換装置の製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス基板2と、ガラス基板2の主表面の少なくとも一部を覆い、基板側とは反対側の表面に凹凸形状を有する透明導電膜3とを備えている。また、透明導電膜3の凹凸形状の少なくとも一部を覆い、第1導電型を有するp層5と、p層5を覆うi層6とを備えている。凹凸形状は、最大高さが50nm以上1200nm以下である凸部を有している。凸部は、表面に、局部山頂の間隔が2nm以上25nm以下である微小凹部を有している。p層5は、微小凹部の底部上に形成された部分の層厚がこの底部上以外に形成された部分の層厚より大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜太陽電池においては、基板上に透光性導電材料からなる透明導電膜が形成され、透明導電膜上に、p型、i型、n型の半導体層が順次積層されている。薄膜太陽電池の発電効率を向上させるため、基板表面などに凹凸形状を形成した薄膜太陽電池を開示した先行文献として、特許文献1,2がある。
【0003】
特許文献1に記載された太陽電池用基板においては、平均段差3μm以上の凹凸状のガラス基板の表面に、それよりも小さな平均段差0.5μm以下、望ましくは0.2μm程度の凹凸を形成することにより、光の散乱効果を増大させている。特許文献2に記載された多接合型薄膜太陽電池においては、透明導電膜の表面に直径200〜2000μm、深さ50〜1200nmの穴を設け、その穴の表面に高低差10〜300nm程度(平均120nm)、間隔100〜900nm程度の凹凸を形成することにより、光閉込効果を向上させている。
【0004】
また、凹凸形状を有する基板上にp型半導体層を均一に形成できないことによる光起電力装置の開放電圧の低下の問題を開示した先行文献として非特許文献1および特許文献3がある。
【0005】
さらに、透明導電膜とp型半導体層とのオーミック特性を向上させる目的、または、透明導電膜上にp型半導体層を形成する際の透明導電膜の還元劣化を低減する目的で、透明導電膜に水素プラズマなどのプラズマ処理を施す薄膜太陽電池の製造方法を開示した先行文献として、特許文献4から8および非特許文献2がある。
【0006】
特許文献4から7および非特許文献2に記載された薄膜太陽電池の製造方法においては、透明導電膜に水素プラズマ処理を施している。特許文献8に記載された光起電力素子の製造方法においては、希ガスプラズマ処理を施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−70294号公報
【特許文献2】特開2002−280590号公報
【特許文献3】特開平4−324685号公報
【特許文献4】特開平6−92689号公報
【特許文献5】特開2008−283075号公報
【特許文献6】特開昭63−215081号公報
【特許文献7】特開昭64−61959号公報
【特許文献8】特開2001−339079号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S.Tsuge, .et,al., Technical Digest of the International PVSEC-5, Kyoto, Japan, 1990, p.261-264
【非特許文献2】Y.Ashida, .et.al., Technical Digest of the International PVSEC-5, Kyoto, Japan, 1990, p.367-370
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1および2に記載された薄膜太陽電池においては、凹凸形状の表面に小さな凹凸を設けることにより光路長を伸長させている。しかし、光電変換効率のさらなる向上の余地がある。
【0010】
特許文献4から8に記載された薄膜太陽電池の製造方法においては、プラズマ処理を施すことにより透明導電膜の表面の改質を行なっているが、プラズマ処理により微小凹部を形成することは開示も示唆もされていない。
【0011】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、微小凹部を形成することにより、光電変換効率および安定性を向上させた、光電変換装置および光電変換装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に基づく光電変換装置は、基板と、基板の主表面の少なくとも一部を覆い、基板側とは反対側の表面に凹凸形状を有する透明導電膜とを備えている。また、光電変換装置は、透明導電膜の凹凸形状の少なくとも一部を覆い、第1導電型を有する第1導電型半導体層と、第1導電型半導体層を覆う光吸収層とを備えている。凹凸形状は、最大高さが50nm以上1200nm以下である凸部を有している。凸部は、表面に、局部山頂の間隔が2nm以上25nm以下である微小凹部を有している。第1導電型半導体層は、微小凹部の底部上に形成された部分の層厚がこの底部上以外に形成された部分の層厚より大きい。
【発明の効果】
【0013】
微小凹部を形成することにより、光電変換装置の光電変換効率および安定性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る光電変換装置の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】同実施形態に係る光電変換装置の断面の一部をTEMで撮影した画像である。
【図3】図2の画像を、閾値を50%として各画素の輝度値を2値化した画像である。
【図4】図3の画像を模式化した図である。
【図5】同実施形態に係る透明導電膜の凸部とp層とi層との境界部付近をTEMで撮影した画像である。
【図6】図5の画像を、閾値を50%として各画素の輝度値を2値化した画像である。
【図7】図6の画像を模式的に示す図である。
【図8】図6の画像を転がり円うねり測定に準じて解析した状態を示す図である。
【図9】微小凹部と転がり円とを示す模式図である。
【図10】微小凹部の最大深さを説明する図である。
【図11】p層とi層との界面の最大深さを説明する図である。
【図12】p層の膜厚を説明する図である。
【図13】同実施形態の光電変換装置用基板、微小凹部を設けていない光電変換装置用基板および強い水素プラズマ処理を施した光電変換装置用基板の分光透過率と分光反射率とを示すグラフである。
【図14】(A)は、微小凹部を設けていない光電変換装置内における光の伝播状態を模式的に示す断面図であり、(B)は、本実施形態の光電変換装置内における光の伝搬状態を模式的に示す断面図である。
【図15】水素含有プラズマ処理強度によるTCO基板の特性値の変化を示すグラフである。
【図16】混合プラズマ処理においてTCO基板の微小凹部以外の部分における化学反応を模式的に説明する図である。
【図17】混合プラズマ処理においてTCO基板の微小凹部における化学反応を模式的に説明する図である。
【図18】(A)は、仮定の光電変換装置におけるp層とi層との界面を示す模式図であり、(B)は、従来の光電変換装置におけるp層とi層との界面を示す模式図であり、(C)は、本実施形態の光電変換装置におけるp層とi層との界面を示す模式図である。
【図19】TCO基板の微小凹部以外の部分における化学反応を模式的に説明する図である。
【図20】TCO基板の微小凹部における化学反応を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る光電変換装置および光電変換装置の製造方法の一実施形態について図面を参照して説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰返さない。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る光電変換装置の構成を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る光電変換装置1においては、基板であるガラス基板2の上面にSnO2(酸化錫)を主成分とする透明導電膜3が凹凸形状を有するように形成されている。
【0017】
本実施形態においては、基板としてガラス基板を用いたが、光電変換装置1において変換される光を透過する基板であればよく、スーパーストレート型の太陽電池に用いることができるものが好ましい。スーパーストレート型の太陽電池とは、基板側から光が入射される太陽電池のことである。ガラス基板2と透明導電膜3とから、光電変換装置用基板4が構成されている。
【0018】
本発明の光電変換装置用基板4は、ガラス基板2のような板状の基板と透明導電膜3との間にさらに別の層が形成されたものであってもよい。たとえば、酸化シリコン膜のような、ガラス基板2に含まれるアルカリ金属不純物の透明導電膜3への拡散を抑制する層が形成されていてもよい。
【0019】
また、本実施形態の光電変換装置用基板4においては、ガラス基板2の一主面の大部分が透明導電膜3で覆われているが、主面の一部に透明導電膜3に覆われていない部分があってもよい。このような基板は、たとえば、ガラス基板2を額縁状のトレーに収納してからスパッタリング法などを用いて透明導電膜3を堆積することにより得られる。この場合、トレーの陰になった主面周縁部には透明導電膜3が堆積しない。
【0020】
透明導電膜3の上面にp型の第1導電型半導体層である、a−SiC:H:Bからなるp層5が形成されている。p層5は、a−Si:H:Bで構成されていてもよい。
【0021】
p層5の上面に実質的にi型の半導体層である、実質的にa−Si:Hからなるi層6が形成されている。ここで「実質的にi型」とは、真にi型のもののみならず、弱いp型、あるいは弱いn型のものをも意味する。以下、「実質的にi型」を単に「i型」と称することがある。界面特性の向上の観点から、i層6の導電型層側の界面近傍にはいわゆるバッファー層を設けることが好ましい。バッファー層としては、たとえば、p層5としてa−SiC:H:Bを用いた場合には、このp層5との界面側ではシリコンと炭素の組成比が高く、i層6との界面側へ向かって炭素の組成比が小さくなるような層を用いることができる。
【0022】
i層6の上面にn型の第2導電型半導体層である、a−Si:H:Pからなるn層7が形成されている。p層5、i層6およびn層7から光電変換層8が構成されている。光電変換層8は、結晶質および非晶質の少なくともいずれかからなる層のpin接合により形成されている。ここで「結晶質」とは、いわゆる微結晶、すなわち、結晶粒と非晶質成分との混在したものをも意味する。
【0023】
また、本実施形態の光電変換装置は、ガラス基板2の一主面の大部分が半導体層で覆われているが、主面の一部に半導体層に覆われていない部分があってもよい。このような基板は、たとえば、光電変換装置用基板を額縁状のトレーに収納してからプラズマCVD法などを用いて半導体層を堆積することで得られる。この場合、トレーの陰になった主面周縁部には半導体層が堆積しない。
【0024】
本発明の光電変換装置は、複数の光電変換層を積層した形態であってもよい。複数の光電変換層は、それぞれ有する実質的にi型の半導体層のバンドギャップが互いに異なるものであることが、光電変換効率の向上の観点から好ましい。具体的には、たとえば、水素化非晶質シリコンのi型半導体層と水素化微結晶シリコンのi型半導体層とを組み合わせることが好ましい。あるいは、シリコンと水素、炭素、ゲルマニウムなどの他の元素との組成比を変えてもよい。
【0025】
具体的には、第1の光電変換層のi層がa−Si:H(水素化非晶質シリコン)を主成分とし、第2の光電変換層のi層がμc−Si:H(水素化微結晶シリコン)を主成分とし、光電変換装置用基板、第1の光電変換層、第2の光電変換層の積層構造を有する、いわゆるタンデム構造の光電変換装置とすることが好ましい。
【0026】
また、3つの光電変換層を有する光電変換装置であってもよい。この場合、第1/第2/第3の光電変換層のそれぞれのi層が、a−Si:H/a−Si:H/μc−Si:H、a−Si:H/a−SiGe:H/μc−Si:H、a−Si:H/a−Si:H/μc−SiGe:H、a−Si:H/a−SiGe:H/μc−SiGe:H、a−Si/μc−Si/μc−Siなどのいわゆるトリプル構造であってもよい。さらには、光電変換層を4つ以上積層した構造でもよい。
【0027】
複数の光電変換層を積層した場合、隣接する光電変換層の間に透光性導電層を有していても良い。透光性導電層としては、たとえば、ZnO、SiOxなどの透明導電性酸化膜を用いることができる。
【0028】
n層7の上面に、ZnO(酸化亜鉛)を主成分とする裏面透明導電膜(不図示)と、銀を主成分とする裏面電極層9が形成されている。本実施形態においては、裏面電極層9を銀で形成したが、導電性を有する材料であればよく、材料は銀に限られない。
【0029】
本実施形態の光電変換装置は、ガラス基板2の一主面の大部分が裏面電極層で覆われているが、主面の一部に裏面電極層に覆われていない部分があってもよい。このような基板は、たとえば、光電変換装置用基板を額縁状のトレーに収納してからスパッタリング法を用いて裏面電極層を堆積することで得られる。この場合、トレーの陰になった主面周縁部には裏面電極層が堆積しない。
【0030】
図2は、本実施形態に係る光電変換装置の断面の一部をTEM(Transmission Electron Microscope)で撮影した画像である。図2においては、光電変換装置用基板基板4と光電変換層8との境界部付近を撮影している。
【0031】
図3は、図2の画像を、閾値を50%として各画素の輝度値を2値化した画像である。ここで2値化とは、画像中の各画素のそれぞれについて、画素の輝度値が閾値以上の場合を白、閾値未満の場合を黒にする処理である。白の輝度値が255、黒の輝度値が0で表わされる場合、閾値を50%にすると、輝度値128以上の画素は白に、輝度値128未満の画素は黒に変換される。なお、閾値は、透明導電膜3と光電変換層8との界面で白い領域と黒い領域とが分かれるように適宜選択することができる。
【0032】
図4は、図3の画像を模式化した図である。図4に示すように、ガラス基板2の上面に形成された透明導電膜3には、複数の凸部10が形成されている。ここで、ガラス基板2の主表面に平行に1000nmの長さを基準長さ(LA)とする。この基準長さ(LA)の範囲内において、複数の凸部10なす山と谷のうち、最も高い山と最も低い谷との高さ方向の距離を最大高さ(Hmax)とする。
【0033】
図3の場合、1000nmの基準長さ(LA)の範囲内では4つの凸部10が観察される。4つの凸部10のうち左から2番目の山が最も高く、右から2番目の谷が最も低い。図3の場合は、凸部10の最大高さは100nmである。
【0034】
なお、図2の画像中には、透明導電膜3とガラス基板2との界面は観察されていない。したがって、基準長さ(LA)の方向を決めるためには、まず、TEM観察中に、ガラス基板2の主表面と透明導電膜3との界面が観察できる程度の低倍率において、画像の水平方向をこの界面と平行になるようにする。その後、図2のように凸部10の最大高さが観察可能な程度にまで倍率を上げ、基準長さ(LA)の方向を画像の水平方向に対して平行にとる。
【0035】
この凸部10は、光電変換層8の光吸収特性に適した光の散乱または反射状態を生じさせることできる大きさであることが好ましい。たとえば、太陽光スペクトルの中心の波長450nmから650nm程度の中波長のみならず、たとえば、700nmから1200nm程度の長波長に対しても十分な光散乱効果を生じさせることができるものが好ましい。これらのことから、凸部10の最大高さは、50nm以上1200nm以下であることが好ましい。
【0036】
図5は、本実施形態に係る透明導電膜の凸部とp層とi層との境界部付近をTEMで撮影した画像である。図6は、図5の画像を、閾値を50%として各画素の輝度値を2値化した画像である。図7は、図6の画像を模式的に示す図である。
【0037】
図7に示すように、透明導電膜3の凸部10の表面には、複数の微小凹部11が形成されている。また、p層5と、p層5側の界面近傍にバッファー層を有するi層6との間の界面12が、透明導電膜3の表面に略平行になだらかな線状に延びている。
【0038】
以下、本発明に係る微小凹部、微小凹部の線密度および微小凹部の最大深さの定義について説明する。
【0039】
図8は、図6の画像を転がり円うねり測定に準じて解析した状態を示す図である。図8に示す、透明導電膜3の凸部10の表面を表している線(白部分と黒部分との境界線)を、以後、測定断面線と称す。
【0040】
測定断面線に倣って直径25nmの転がり円13(rolling circle)が転がるときの転がり円13の中心14の軌跡を、転がり円うねり測定線(rolling circle traced profile)と称す。本実施形態においては、基準長さ(Lw)を80nmとした。基準長さにおいて計測した転がり円うねり測定線を一次関数(直線)を用いて最小二乗法により転がり円うねり測定線の平均線を算出した。以下、転がり円うねり測定線の平均線を測定平均線と称す。
【0041】
なお、上記の転がり円うねり測定は、JIS規格(JIS B0610:’01)の測定条件と比較して、転がり円の半径と基準長さとの比が2倍になっている。
【0042】
図9は、微小凹部と転がり円とを示す模式図である。図9に示すように、転がり円13と微小凹部11とは少なくとも2点で接している。この接点のうち最も間隔が離れた2つの接点を局部山頂15A,15Bと称す。
【0043】
測定平均線と平行な線のうち、微小凹部11の最底部を通過する線を基底線(L2)と称す。測定平均線と平行で局部山頂15Aを通過する線と、測定平均線と平行で局部山頂15Bを通過する線とのうち、基底線(L2)からの距離が離れた方の線を頂上線(L1)と称す。
【0044】
微小凹部11とは、微小凹部11の深さである、基底線(L2)と頂上線(L1)との間の距離が1nm以上であり、かつ、微小凹部11の幅である、2つの局部山頂15A,15B同士の間の距離が2nm以上である凹部のことをいう。よって、この条件を満たさない凹部は、微小凹部11ではない。
【0045】
図8においては、基準長さ(Lw)とした80nmの範囲において、上記の条件を満たす微小凹部11と接している転がり円13Aを実線で示し、条件を満たさない凹部と接している転がり円13Bを破線で示している。
【0046】
微小凹部11の線密度とは、基準長さ80nmの範囲内で単位長さ(1nm)当たりに存在する微小凹部11の数をいう。よって、図8に示すように、基準長さ(Lw)とした80nmの範囲に転がり円13Aが7つある場合、微小凹部11の線密度は、7/80=0.0875nm-1となる。
【0047】
図10は、微小凹部の最大深さを説明する図である。図10に示すように、微小凹部11の最大深さ(Dmax)とは、基準長さ80nmの範囲内で測定平均線に平行で測定断面線と接する2本の直線(L4,L5)同士の間の距離をいう。図8に示す微小凹部11の最大深さは4nmであった。
【0048】
図11は、p層とi層との界面の最大深さを説明する図である。図11に示すように、p層5とi層6との界面はなだらかにわずかに波打っている。p層5とi層6との界面の最大深さ(Bmax)とは、測定断面において、測定平均線に平行でp層5とi層6との界面12と接する2本の直線(L6,L7)同士の間の距離をいう。微小凹部11の最大深さ(Dmax)を計測した領域に対応する領域において、微小凹部11の最大深さ(Dmax)と同様の方法により、p層5とi層6との界面の最大深さ(Bmax)を計測した。
【0049】
図12は、p層の膜厚を説明する図である。図12に示すように、p層5の膜厚とは、測定平均線に平行な直線(L8)に対して直交する方向における膜厚を言う。微小凹部11の底部26上の膜厚は、図12に示す長さTとなる。
【0050】
以下、本実施形態の光電変換装置1の製造方法および作用について説明する。
ガラス基板2の上面に常圧CVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いてSnO2を積層し、50nm以上1200nm以下の最大高さを有する凸部10を備えた透明導電膜3を形成する。この凸部10を有する透明導電膜3が形成された基板を、以下、TCO(Transparent Conductive Oxide)基板と称す。本実施形態においては、透明導電膜3の材料としてSnO2を用いたが、In23、ZnOおよびITO(Indium Tin Oxide)などの透明導電性材料を用いてもよい。
【0051】
また、本実施形態においては、常圧CVD法を用いてテキスチャー構造を有する透明導電膜3を形成したが、真空蒸着法、EB蒸着法、スパッタリング法、減圧CVD法、ゾルゲル法および電析法などを用いてもよい。
【0052】
次に、TCO基板を容量結合型平行平板高周波プラズマ反応室内において水素含有プラズマ処理する。この水素含有プラズマ処理は、TCO表面に到達する主な還元反応種が水素ラジカルであるように行なう。この水素ラジカルを反応種とするエッチングの結果、透明導電膜3の凸部10の表面に微小凹部11が形成される。エッチングが表面層の全体に亘って均一に行なわれずに微小凹部11が形成される理由は、TCO基板の表面に存在する欠陥におけるエッチング速度が他の部分におけるエッチング速度より大きいためと考えられる。
【0053】
本実施形態においては、プラズマ反応室内に導入するガス種として、水素ガスのみを用いたため製造設備を簡潔にすることができた。プラズマ反応室内に導入するH2の流量は、70SLMとした。ただし、プラズマ反応室内に導入するガス種として、窒素、アルゴン、キセノンなどのガスと水素ガスとの混合ガスを用いてもよい。本発明における「水素含有プラズマ」とは、主な反応種が水素ラジカルであるようなプラズマであれば、水素ガスのみを用いたものに限られず、このような混合ガスを用いたものをも意味する。
【0054】
本実施形態においては、プラズマ反応室内の圧力は600Paとした。プラズマ反応室内の圧力を高圧にするほど水素ラジカルの密度が増加するため、TCO基板の表面に形成される微小凹部11の最大深さが深くなる。一方、プラズマ反応室内の圧力を低圧にするほどTCO基板の表面が受けるイオンダメージが大きくなるため、TCO基板の表面に形成される微小凹部11の線密度が大きくなる。そのため、微小凹部11の深さを深くしつつ、微小凹部11の線密度を大きくするため、プラズマ反応室内の圧力は100Pa以上1500Pa以下であることが好ましい。
【0055】
本実施形態においては、プラズマ反応室内に投入する電力密度は、40mW/cm2とした。水素プラズマ処理時の電力密度が大きいほど、プラズマ反応室内に発生する水素ラジカルの密度が高くなる。よって、大きな電力密度を投入して水素プラズマ処理することにより、TCO基板の表面に形成される微小凹部11の最大深さが深くなり、微小凹部11の線密度は大きくなる。
【0056】
ただし、電力密度が大きすぎると、TCO基板において透明導電膜3を構成するSnO2の還元量が著しく多くなり、透明導電膜3の表面にSnが析出して透明導電膜3の透過率が低下する。このようにTCO基板の透過率が低くなると、光電変換装置1における発電効率の低下を招くため、電力密度を過度に大きくしないことが必要である。よって、プラズマ反応室内に投入する電力密度は、10mW/cm2以上200mW/cm2以下であることが好ましい。
【0057】
プラズマ反応室内においての処理時間は15秒とした。処理時間が長いほど、TCO基板の表面に形成される微小凹部11の最大深さが深くなり、微小凹部11の線密度は大きくなる。
【0058】
ただし、処理時間が長すぎると、TCO基板において透明導電膜3を構成するSnO2の還元量が著しく多くなり、透明導電膜3の表面近傍にSnが析出して透明導電膜3の透過率が低下する。このようにTCO基板の透過率が低くなると、光電変換装置1における発電効率の低下を招くため、処理時間を過度に長くしないことが必要である。よって、プラズマ反応室内において処理する時間は、5秒以上200秒以下であることが好ましい。
【0059】
水素含有プラズマ処理においてパルスプラズマを用いる場合には、On時間とOff時間のデューティ比を変化させて実効的な処理時間を制御するようにしてもよい。パルス状にON/OFFする周波数は、プラズマ励起周波数(5MHz〜80MHz)に対して十分低い周波数(100Hz〜10kHz)が望ましい。デューティ比は、0.05〜0.5とすることができる。デューティ比を小さく、投入電力を大きくすることで、処理の進行速度を制御しつつ、処理による基板へのイオンダメージを大きくすることができる。
【0060】
水素含有プラズマ処理における処理強度は、処理工程において基板がプラズマから受け取る総エネルギーに比例すると考えられる。基板がプラズマから受け取る総エネルギーは、プラズマ投入電力密度、処理時間、パルスデューティ比のそれぞれに比例する。単位面積当たりの総エネルギー(=電力密度(mW/cm2)×処理時間(sec)×デューティ比)は、20mJ/cm2〜300mJ/cm2であることが好ましい。
【0061】
本実施形態においては、水素含有プラズマ処理の際の基板温度は190℃とした。処理時の基板温度が高いほど、TCO基板の凸部10の表面における欠陥部分とそれ以外の部分における還元反応速度の差が小さくなる。そのため、TCO基板の凸部10の表面の全域にわたってエッチングが発生するため、TCO基板の表面に形成される微小凹部11の最大深さが浅くなり、微小凹部11の線密度は小さくなる。よって、水素含有プラズマ処理時の基板温度は、室温(20℃)以上200℃以下であることが好ましい。
【0062】
好ましくは、上記の水素含有プラズマ処理を施す前に、TCO基板の表面に欠陥を導入する処理を行なう。この欠陥とは、水素含有プラズマ処理により微小凹部11となる欠陥をいう。たとえば、水素含有プラズマ処理工程の条件より有意に強い電力密度を投入した状態において、極めて短時間の間、TCO基板をプラズマ処理する。この処理を施すことにより、イオンダメージが原因と考えられる欠陥が、TCO基板の表面に導入される。電力密度が大きいほど発生する欠陥の線密度も増加し、後工程の水素含有プラズマ処理により発生する微小凹部11の線密度を大きくすることができる。
【0063】
上記の欠陥導入工程においてプラズマを用いる場合、プラズマ電位を大きくするほど、TCO基板の表面から深い位置までイオンダメージが及ぶ。そのため、深い欠陥が発生し、後工程の水素含有プラズマ処理により発生する微小凹部11の最大深さが深くなる。プラズマ電位を大きくするためには、たとえば、1パルスのOn時間が1m秒以下である短時間パルスプラズマを用いる、プラズマの発生のために投入する電力密度を大きくする、プラズマ発生用ガスとして、などの手法を用いることができる。また、アルゴン、キセノンなどの原子量が比較的大きなガス種を用いることができる。
【0064】
欠陥導入工程として、プラズマの発生のために投入する電力密度を大きくして水素含有プラズマ処理を行なう場合、欠陥導入工程の終了後、プラズマを切らずに電力密度を低下させることにより、水素含有プラズマ処理工程に移行することができる。よって、製造時間の短縮化および製造装置の簡略化の両方を図ることができる。
【0065】
図13は、本実施形態の光電変換装置用基板、微小凹部を設けていない光電変換装置用基板および強い水素プラズマ処理を施した光電変換装置用基板の分光透過率と分光反射率とを示すグラフである。図13においては、縦軸に分光透過率および分光反射率、横軸に入射光の波長を示している。本実施形態の光電変換装置用基板4のデータを実線、微小凹部11を設けていない光電変換装置用基板のデータを点線、強い水素プラズマ処理を施した光電変換装置用基板のデータを一点差線で示している。
【0066】
微小凹部を設けていない光電変換装置用基板には、水素プラズマ処理工程を施していないため、TCO基板の表面に微小凹部11が形成されていない。微小凹部を設けていない光電変換装置用基板のそれ以外の構成は、本実施形態の光電変換装置用基板4と同様である。
【0067】
強い水素プラズマ処理を施した光電変換装置のTCO基板には、水素プラズマ処理工程において、処理時間を300秒とした強い水素プラズマ処理により微小凹部11を形成している。強い水素プラズマ処理を施した光電変換装置用基板のそれ以外の構成は、本実施形態の光電変換装置用基板4と同様である。
【0068】
図13に示すように、分光透過率においては、強い水素プラズマ処理を施した光電変換装置用基板で著しく低下している。これは、上述の通り、透明導電膜3の還元量が多く、透明導電膜3の透過率が低下していることを示している。
【0069】
入射光の波長が約400nmから約700nmまでの範囲においては、本実施形態の光電変換装置用基板4は、微小凹部11を設けていない光電変換装置用基板と比較して、分光透過率および分光反射率の増減の振幅が小さくなっている。これは、本実施形態の光電変換装置用基板4は、微小凹部11を設けていない光電変換装置用基板に比較して、透明導電膜3内における光の干渉が起こりにくいためと考えられる。その理由として、微小凹部11に起因する光散乱が考えられる。
【0070】
図14(A)は、微小凹部を設けていない光電変換装置内における光の伝播状態を模式的に示す断面図であり、(B)は、本実施形態の光電変換装置内における光の伝搬状態を模式的に示す断面図である。
【0071】
図14(A)に示すように、微小凹部が形成されていない透明導電膜16に入射した光18は、透明導電膜16とp層5との界面において、一部は透過して透過光19となり、一部は反射して反射光20となる。
【0072】
図14(B)に示すように、本実施形態の透明導電膜3に入射した光18は、透明導電膜3とp層5との界面において、一部は透過して透過光21となり、一部は反射して反射光22となる。この透過光21および反射光22は、微小凹部11により広範囲の方向に分散されていると考えられる。
【0073】
そのため、本実施形態の光電変換装置用基板4は、微小凹部11が設けられていない光電変換装置用基板に比較して、波長が約400nmから約700nmまでの範囲における光の干渉が起こりにくくなっていると考えられる。
【0074】
また、図14(B)に示すように、本実施形態の光電変換装置1は、透明導電膜3と光電変換層8との界面において反射した反射光22の一部が、反射した凸部10の斜面に相対する斜面に位置している微小凹部11に伝搬すると考えられる。その一部の反射光22は、微小凹部11によりさらに分散されて、一部は透過光23として光電変換層8内に伝搬するものと考えられる。よって、光電変換層8内に入射する光量が増加し、発電に寄与する光を増加させることができると考えられる。
【0075】
ここで、幅が2nm以上25nm以下である極めて小さな微小凹部11が光を散乱させる理由の詳細は不明であるが、微小凹部11の幅が光電変換装置用基板4に入射する太陽光の波長、特に、エネルギー強度の大きな約350nm〜約1100nmの波長の10分の1以下であることから、おそらく、1つ1つの微小凹部11が入射光をレイリー散乱(Rayleigh scattering)しているのではないかと推測される。レイリー散乱は、光の波長に比べて散乱体の大きさが非常に小さい場合にのみ妥当する。光の波長が短いほど散乱の度合いが大きく、散乱体が大きいほど散乱の度合いが大きい。
【0076】
このことから、透明導電膜3の凹凸表面について考察するに、幅が2nm以上25nm以下である微小凹部11は、入射光の散乱体として機能し、入射光の波長が短いほど散乱の程度が大きくなる。よって、複数の光電変換層を有する光電変換装置において、透明導電膜3の直近に位置する第1の光電変換層内での光路長が大きくなると考えられる。なお、第1の光電変換層のi層の主成分は、たとえば、水素化非晶質シリコン、または、水素化非晶質シリコンカーボンからなる。このような短波長光がレイリー散乱を受けるとすれば、微小凹部11での反射光もまた強く散乱されると考えられる。その結果、1つの凸部10の相対する2つの斜面の一方で反射された散乱光がもう一方の斜面に再入射する確率が大きくなる。総じて、第1の光電変換層のi層膜厚が比較的薄い場合でも短波長光を十分に吸収できることになる。その結果、i層が非晶質シリコン系の材質を主成分とする場合、i層が光劣化する影響を小さくできる。
【0077】
短波長光の中でも、太陽光のエネルギー強度が比較的大きな約350nm〜約550nmの範囲は光電変換層8での吸収率を向上させるべきであることに鑑み、微小凹部11の局部山頂の間隔は25nm以下であり、20nm以下であることが特に好ましい。また、微小凹部11が多いほど光の散乱効果は高くなることと考えられるため、微小凹部11の線密度は0.05nm-1以上であることが好ましく、0.07nm-1以上であることが特に好ましい。ただし、線密度が多すぎると、1つ1つの微小凹部11の局部山頂の間隔が小さくなりすぎ、光散乱の効果が小さくなることから、線密度は0.3nm-1以下であることが好ましく、0.1nm-1以下であることが特に好ましい。微小凹部は、透明導電膜の凸部表面の実質的に全ての部分に形成されていることが好ましい。
【0078】
比較的長波長の入射光はレイリー散乱の度合いが小さく、最大高さが主に50nm以上1200nm以下である凸部10による幾何光学的あるいはミー散乱的なメカニズムに基づく光散乱が支配的になると思われる。図11において、入射光の波長約800nm以上では、本実施形態の光電変換装置用基板4と微小凹部なしの光電変換装置用基板とで分光反射率がほぼ一致していることが、長波長光のレイリー散乱の度合いが小さいであろうことを傍証していると考えられる。したがって、透明導電膜3の近傍に位置する第1の光電変換層内での光路長が相対的に小さくなると考えられる。
【0079】
そのため、上記第1の光電変換層での長波長光の吸収量はレイリー散乱による増分が小さい分だけ、上記第1の光電変換層を覆うような位置に積層されている第2の光電変換層への入射量が増加すると考えられる。なお、第2の光電変換層のi層の主成分は、たとえば、水素化非晶質シリコンゲルマニウム、水素化微結晶シリコン、または、水素化微結晶シリコンゲルマニウムからなる。その結果、第2の光電変換層のi層での光吸収量を向上できる。上記のように第1の光電変換層のi層膜厚を比較的薄くした場合、第2の光電変換層のi層での光吸収量はさらに向上できる。
【0080】
以上の考察から、本発明の光電変換装置用基板は、いわゆるスーパーストレート型の積層型光電変換装置に適用することが好適であることが理解できる。積層型光電変換装置は、基板の主面の大部分を覆うように複数の光電変換層が積層された構造を有する。光の入射側に近い方の光電変換層のi層のバンドギャップを大きくして主に短波長光を吸収させ、入射側から遠い方の光電変換層のi層のバンドギャップを小さくして主に長波長光を吸収させることで、入射光の波長の利用できる範囲を広げて光電変換効率を向上することができる。
【0081】
また、スーパーストレート型とは、ガラスのような透光性基板の一主面を覆う位置に透明導電膜を有する基板を用い、透光性基板の他の主面から光が入射するタイプを意味する。微小凹部11を有する光電変換装置用基板4を用いたスーパーストレート型の積層型光電変換装置では、短波長光を大きく散乱させて入射側から近い第1の光電変換層での吸収量を向上させ、長波長光は比較的小さく散乱させて入射側から遠い第2の光電変換層への入射量を向上させることが可能となり、光電変換効率の向上を実現できる。
【0082】
一方、微小凹部11の大きさが小さすぎると、実質的に微小凹部11がない凹凸表面と同様になり、レイリー散乱が生じなくなる。この観点から、微小凹部11の局所山頂の間隔は、5nm以上であることが好ましい。
【0083】
このように、微小凹部11を設けたことにより、光が微小凹部11で散乱して光電変換層8内に入射するため、光電変換層8内を伝搬する光の光路長が長くなる。その結果、光電変換層8における光の光電変換効率が向上し、光電変換装置1の短絡電流密度(Jsc)が増加する。
【0084】
本実施形態の光電変換装置1は、微小凹部11を設けていない光電変換装置に比較して光電変換層8とTCO基板との接着力が大きい。図14(A)に示すような微小凹部11を設けていないTCO基板17上に光電変換層8を積層した場合においては、TCO基板17の表面と光電変換層8との接着力が比較的弱い。図14(B)に示すような微小凹部11を設けたTCO基板上に光電変換層8を積層した場合には、TCO基板の表面と光電変換層8との接着力が比較的強い。
【0085】
このTCO基板の表面と光電変換層8との接着力の違いの要因として、一つ目は、TCO基板の表面と光電変換層8との接触面積の違いが考えられる。微小凹部11を形成することにより、TCO基板の表面と光電変換層8との接触面積は飛躍的に増大する。接触面積の増大により、TCO基板の表面と光電変換層8との接着力が増加すると考えられる。
【0086】
TCO基板の表面と光電変換層8との接着力の違いの要因として、2つ目は、微小凹部11の大きさの違いが考えられる。本実施形態の微小凹部11としては、局部山頂の間隔が2nm以上25nm以下である幅の狭い微小凹部11が設けられている。そのため、TCO基板の表面と光電変換層8との界面においては、幅の狭い微小凹部11の内部に光電変換層8が入り込むような状態になっている。
【0087】
このように、複雑に入組んだ界面において、TCO基板の表面と光電変換層8との間にアンカー効果が働き、TCO基板の表面と光電変換層8との間の接着力を著しく増加させていると考えられる。よって、微小凹部11の最大深さは、2nm以上であることが好ましい。また、微小凹部11が凸部10の表面に所定の割合以上で形成されていることにより、アンカー効果を安定させることができる。よって、微小凹部11の線密度は、0.05nm-1以上であることが好ましい。
【0088】
TCO基板の表面と光電変換層8との接着力の違いの要因として、3つ目は、TCO基板表面の活性度の違いが考えられる。本実施形態においては、微小凹部11を水素プラズマ処理により形成している。図14(A)に示すような、微小凹部11が形成されていないTCO基板17の表面は、化学的に比較的安定な状態にあり未結合手の数密度が相対的に小さな不活性表面である。そのため、TCO基板17と光電変換層8とは、互いに化学結合している部分が相対的に少ないと考えられる。そのため、特に1m2以上の大面積の基板では、その表面を水素含有プラズマ処理しないと光電変換層が剥離することがあった。
【0089】
水素含有プラズマ処理を施すと、TCO基板の表面において水素ラジカルがTCO基板に含まれる酸素を脱離し、TCO基板の表面に未結合手が形成されると考えられる。水素ラジカルが透明導電膜表面の欠陥を優先的にエッチングする結果として微小凹部11が形成されると推測されることに照らせば、この未結合手は、微小凹部11が形成されていない比較的滑らかな場所よりは、微小凹部11の谷となったあたりの方が相対的に多いのではないかと推測される。
【0090】
この未結合手は反応活性であるため、シリコンからなる光電変換層8を形成する際に、SiH3ラジカルなどがTCO基板の表面に形成された未結合手と強固に結合する。そのため、TCO基板と光電変換層8とは、互いに化学結合している部分が相対的に多い。その結果、TCO基板と光電変換層8との接着力が増加すると考えられる。
【0091】
図15は、水素含有プラズマ処理強度によるTCO基板の特性値の変化を示すグラフである。図15においては、縦軸に、TCO基板の透過率、および、TCO基板の表面におけるSn/Snx+の比率、横軸に水素含有プラズマ処理強度を示している。また、図15において、本実施形態の水素含有プラズマ処理条件を点線で示している。
【0092】
図15に示すように、本実施形態の水素プラズマ処理条件においては、TCO基板の表面にわずかに金属Snが析出し始める程度の水素プラズマ処理強度で水素プラズマ処理を行なっている。金属Snは、透明導電膜3を構成するSnO2が水素ラジカルによって還元されることにより析出する。
【0093】
上記のように、水素含有プラズマ処理工程において、TCO基板の表面が水素ラジカルによって還元およびエッチングされた結果、TCO基板の表面には、バルク部分と比較して還元された金属原子の濃度がわずかに高い表面層が形成される。この表面層には、微小凹部11が形成されている。
【0094】
本実施形態の変形例においては、水素含有プラズマ処理工程の後に、微量の炭素を含有する水素プラズマ処理(以下、混合プラズマと称す)を行なった。混合プラズマ中には、たとえば、CH3ラジカルのような、炭素原子を有するラジカルが存在すると考えられる。以下、CH3ラジカルを例として、混合プラズマ処理について説明する。
【0095】
図16は、混合プラズマ処理においてTCO基板の微小凹部以外の部分における化学反応を模式的に説明する図である。図17は、混合プラズマ処理においてTCO基板の微小凹部における化学反応を模式的に説明する図である。図16,17においては、水素原子24を白丸、炭素原子25を黒丸で示している。
【0096】
混合プラズマ処理の際には、図16(A)に示すように、TCO基板の微小凹部以外の部分において、CH3ラジカルおよび水素ラジカルは、TCO基板の表面に物理吸着される。その後、図16(B)に示すように、CH3ラジカルおよび水素ラジカルは、TCO基板の表面において熱拡散する。そして、図16(C)に示すように、CH3ラジカルと水素ラジカルとは、再結合によってTCO基板の表面から脱離する。
【0097】
一方、TCO基板の微小凹部11においては、図17(A)に示すように、CH3ラジカルおよび水素ラジカルは、TCO基板の表面に物理吸着後、熱拡散する。次に、図17(B)に示すように、微小凹部11では未結合手が存在して反応活性が高いため、CH3ラジカルが微小凹部の未結合手と化学結合する。そして、図17(C)に示すように、微小凹部で結合したCH3基と水素ラジカルとが衝突し、TCO基板と炭素原子との結合力が強いため水素分子が脱離し、微小凹部11の近傍においては未結合手を有する炭素原子が結合した状態となる。
【0098】
なお、水素含有プラズマ処理工程と混合プラズマ処理工程とは、プラズマを点灯させたまま連続して行なうことができる。具体的には、たとえば、プラズマ反応室内に水素プラズマと反応して炭素系ラジカルを発生させる固体状炭素源を導入する。その状態で水素プラズマを点灯させることにより、水素プラズマ処理の開始時においては、ほぼ純粋な水素プラズマによる処理が施される。時間の経過とともにプラズマに含まれる炭素系ラジカルの量が増えて、混合プラズマ処理が施されることになる。ここまでの工程により、光電変換装置用基板が製造される。
【0099】
なお、欠陥導入工程および混合プラズマ処理工程は、必ずしも行なわなくてもよい。
混合プラズマ処理工程の後に、p層5をプラズマCVD装置を用いて積層する。前駆体であるSiH3ラジカルなどは、TCO基板の表面上を熱拡散した後、その一部が化学的な活性点で化学結合する。微小凹部11は未結合手が多い活性点であり、また、混合プラズマ処理を施した場合は未結合手を有する炭素原子が微小凹部11の近傍に多く存在するため、SiH3ラジカルは微小凹部11においてTCO基板と化学結合しやすい。よって、微小凹部11において、p層5とTCO基板とが強固に結合する。p層5の膜厚は、5nm以上15nm以下の範囲とすることが好ましいことに鑑み、p層5が透明導電膜3の微小凹部11を適切に被覆できるように、微小凹部11の最大高さは10nm以下であることが好ましい。
【0100】
その後、i層6およびn層7を順次、プラズマCVD装置を用いて積層することにより、光電変換層8を形成する。最後に、酸化亜鉛および銀をこの順にスパッタリング装置を用いてn層7を覆うように積層することにより、裏面電極層9を形成する。上記の工程により、本実施形態の光電変換装置1が製造される。光電変換層8および裏面電極層9の形成方法には、一般的な薄膜太陽電池などに用いられる方法を用いることができる。
【0101】
以下、本実施形態における光電変換装置1におけるp層5について説明する。図18(A)は、仮定の光電変換装置におけるp層とi層との界面を示す模式図であり、(B)は、従来の光電変換装置におけるp層とi層との界面を示す模式図であり、(C)は、本実施形態の光電変換装置におけるp層とi層との界面を示す模式図である。図18においては、p層とi層との界面に存在する欠陥を黒印で示している。この欠陥は、キャリアの再結合中心として働く界面準位を有している。
【0102】
図18(A)に示すように、仮定の光電変換装置においては、p層28とi層との界面に、TCO基板表面の微小凹部の形状が引き写されている。よって、p層28とi層との界面の面積が比較的大きく、欠陥27の数も比較的多い。
【0103】
図18(B)に示すように、従来の光電変換装置においては、微小凹部11が設けられておらず、p層29とi層との界面は、TCO基板表面の形状が引き写されている。よって、p層29とi層との界面の面積が比較的小さく、欠陥27の数は比較的少ない。
【0104】
図18(C)に示すように、本実施形態の光電変換装置においては、p層5とi層6との界面に、TCO基板表面の微小凹部の形状が引き写されていない。よって、p層5とi層6との界面の面積が比較的小さく、欠陥27の数は比較的少ない。
【0105】
本実施形態の光電変換装置1においては、微小凹部11を設けているにもかかわらず、p層5とi層6との界面に存在する欠陥27が比較的少ないため、キャリアの再結合の発生頻度が従来の光電変換装置と同等程度に抑えることができる。
【0106】
また、仮定の光電変換装置に比べて、本実施形態の光電変換装置1は、p層5に含まれるホウ素および炭素のi層6への拡散を抑制することができる。したがって、i層6が水素化シリコン系の材料から構成されている場合、不純物のi層6側への拡散に起因する光劣化の進行について、従来の光電変換装置と同等程度に抑えることができる。
【0107】
以下、本実施形態の光電変換装置1においては、p層5とi層6との界面に、TCO基板表面の微小凹部の形状が引き写されていない理由を説明する。図19は、TCO基板の微小凹部以外の部分における化学反応を模式的に説明する図である。図20は、TCO基板の微小凹部における化学反応を模式的に説明する図である。図19,20においては、水素原子24を白丸、シリコン原子28を黒丸で示している。
【0108】
TCO基板上にp層5の堆積を開始すると、TCO基板の微小凹部から離れた位置において、図19(A)に示すように、SiH3ラジカルおよび水素ラジカルは、TCO基板の表面に物理吸着される。その後、図19(B)に示すように、SiH3ラジカルおよび水素ラジカルは、TCO基板の表面において熱拡散する。そして、図19(C)に示すように、微小凹部から離れた位置においては、未結合手のような活性点の密度が低いため、SiH3ラジカルと水素ラジカルとは、再結合によってTCO基板の表面から脱離する確率が高い。
【0109】
一方、TCO基板上にp層5の堆積を開始すると、TCO基板の微小凹部11の近傍において、図20(A)に示すように、SiH3ラジカルおよび水素ラジカルは、TCO基板の表面に物理吸着後、熱拡散する。
【0110】
次に、図20(B)に示すように、微小凹部11では未結合手が存在して反応活性が高いため、SiH3ラジカルが微小凹部の未結合手と化学結合する。そして、図20(C)に示すように、微小凹部で結合したSiH3基と水素ラジカルとが衝突し、TCO基板と炭素原子との結合力が強いため水素分子が脱離し、微小凹部11の近傍においては未結合手を有するSiH2基が結合した状態となる。図20(D)に示すように、未結合手を有するSiH2基にSiH3ラジカルが化学結合することにより、微小凹部11の近傍において前駆体とTCO基板との結合とp層の堆積が進行する。
【0111】
このように、微小凹部11の近傍においては、微小凹部11から離れた位置と比べてp層5の堆積速度が速くなる。そのため、微小凹部11の底部26上に形成されたP層5の層厚は、底部26上以外に形成された部分の層厚より大きくなっている。また、p層5とi層6との界面の最大深さ(Bmax)は、微小凹部11の最大深さ(Dmax)より小さくなっている。この結果、p層5とi層6との界面は、測定断面において、なだらかな線状になっている。
【0112】
上記のように、微小凹部11の形成によるp層5とi層6との界面における欠陥を増加させないことにより、キャリアの再結合の増加による光電変換効率の低下を抑制することができる。
【0113】
p層5の膜厚は、5nm以上15nm以下であることが好ましい。p層5の膜厚が5nm以上の場合、光電変換装置1の内部電界を十分大きくすることができる。p層5の膜厚が15nm以下である場合、非晶質シリコン系太陽電池のようにp層5における光吸収が発電に寄与しない光電変換装置において、p層5での光吸収による損失を低減することができる。
【0114】
なお、本実施形態の光電変換装置の構成においては、以下の構成を採用してもよい。透光性基板として、プラズマCVDプロセスに耐える耐熱性を有し、透光性を有するものが使用可能であり、ガラスおよびポリイミドなどを使用でき、たとえば、無アルカリガラスを使用してもよい。透明導電層として、ITOおよびZnOなどを使用でき、たとえば、SnO2膜を使用してもよい。
【0115】
光電変換層として、pin単接合、トップ層pin/ボトム層pinの二接合、トップ層pin/ミドル層pin/ボトム層pinの三接合、それ以上の四接合のデバイス構造を使用でき、たとえば、二接合タンデム構造を採用してもよい。
【0116】
二接合タンデム構造を採用した場合、トップ層を構成するp層(膜厚は、5nm〜30nmであることが好ましい)として、アモルファスシリコンカーバイト(a−SiC:H:B)層、アモルファスシリコン(a−Si:H:B)層およびアモルファスシリコンナイトライド(a−SiN:H:B)層、またはこれらを積層したものを使用することができる。トップ層を構成するi層(膜厚は、100nm〜400nmであることが好ましい)として、a−Si:H層を使用できる。トップ層を構成するn層(膜厚は、5nm〜40nmであることが好ましい)として、a−Si:H:P層および微結晶シリコン(μc−Si:H:P)層、または、これらを積層したものを使用できる。
【0117】
ボトム層を構成するp層(膜厚は、5nm〜30nmであることが好ましい)として、μc−Si層、微結晶シリコンナイトライド(μc−SiN:H:B)層および微結晶シリコンカーバイト(μc−SiC:H:B)層、または、これらを積層したものを使用できる。ボトム層を構成するi層(膜厚は、1000nm〜3000nmであることが好ましい)として、μc−Si:H層を使用できる。ボトム層を構成するn層(膜厚は、5nm〜40nmであることが好ましい)として、a−Si:H:P層および微結晶シリコン(μc−Si:H:P)層、または、これらを積層したものを使用できる。
【0118】
裏面電極層として、ZnO膜(膜厚は、20nm〜150nmであることが好ましい)とAg膜(膜厚は、50nm〜500nmであることが好ましい)を積層したものを使用できる。また、ZnOの代わりにITOを使用してもよい。Agの代わりにAlを使用してもよい。
【0119】
本実施形態によれば、透明導電膜を水素含有プラズマに暴露して透明導電膜に局部山頂の間隔が2nm以上25nm以下である微細な微小凹部11を設けることにより、入射光の光路長を伸長し、光電変換効率を向上することができる。さらに、光電変換装置用基板4と光電変換層8との接合強度を増加させて光電変換装置1の安定性を向上することができる。これらの効果を得るうえで、微小凹部11の線密度は、0.05nm-1以上であることが好ましい。また、微小凹部11の最大深さは、2nm以上10nm以下であることが好ましい。
【0120】
なお、今回開示した上記実施形態はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0121】
1 光電変換装置、2 ガラス基板、3,16 透明導電膜、4 光電変換装置用基板、5,28,29 p層、6 i層,7 n層、8 光電変換層、9 裏面電極層、10 凸部、11 微小凹部、12 界面、13,13A,13B 転がり円、14 転がり円中心、15A,15B 局部山頂、17 TCO基板、18 光、19,21,23 透過光、20,22 反射光、24 水素原子、25 炭素原子、26 底部、27 欠陥、28 シリコン原子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の主表面の少なくとも一部を覆い、前記基板側とは反対側の表面に凹凸形状を有する透明導電膜と、
前記透明導電膜の前記凹凸形状の少なくとも一部を覆い、第1導電型を有する第1導電型半導体層と、
前記第1導電型半導体層を覆う光吸収層と
を備え、
前記凹凸形状は、最大高さが50nm以上1200nm以下である凸部を有し、
前記凸部は、表面に、局部山頂の間隔が2nm以上25nm以下である微小凹部を有し、
前記第1導電型半導体層は、前記微小凹部の底部上に形成された部分の層厚が該底部上以外に形成された部分の層厚より大きい、光電変換装置。
【請求項2】
前記微小凹部の最大深さが、2nm以上10nm以下である、請求項1に記載の光電変換装置。
【請求項3】
前記微小凹部の線密度が0.05nm-1以上である、請求項1または2に記載の光電変換装置。
【請求項4】
前記第1導電型半導体層の層厚が、5nm以上15nm以下である、請求項1から3のいずれかに記載の光電変換装置。
【請求項5】
基板の主表面の少なくとも一部を覆うように、凸部の最大高さが50nm以上1200nm以下である凹凸形状を有する透明導電膜を形成する工程と、
前記透明導電膜を水素含有プラズマに暴露することにより前記凸部の表面に、局部山頂の間隔が2nm以上25nm以下である微小凹部を形成する工程と、
前記透明導電膜の少なくとも一部を覆うように第1導電型半導体層を形成する工程と、
前記第1導電型半導体層を覆うように光吸収層を形成する工程と
を備え、
前記第1導電型半導体層を形成する工程においては、前記第1導電型半導体層を、前記微小凹部の底部上に形成された部分の層厚が該底部上以外に形成された部分の層厚より大きくなるように形成する、光電変換装置の製造方法。
【請求項6】
前記微小凹部の最大深さが、2nm以上10nm以下となるように前記微小凹部を形成する、請求項5に記載の光電変換装置の製造方法。
【請求項7】
前記微小凹部の線密度が0.05nm-1以上となるように前記微小凹部を形成する、請求項5または6に記載の光電変換装置の製造方法。
【請求項8】
前記透明導電膜を形成する工程と前記微小凹部を形成する工程との間に、前記透明導電膜の表面に欠陥を導入する工程を備える、請求項5から7のいずれかに記載の光電変換装置の製造方法。
【請求項9】
前記微小凹部を形成する工程において、炭素を含有する水素プラズマを用いる、請求項5から8のいずれかに記載の光電変換装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−192795(P2011−192795A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57697(P2010−57697)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】