説明

光電変換装置

【課題】高波長領域の光電変換効率を、より幅広い波長領域において向上させた光電変換装置を提供する。
【解決手段】少なくともp型半導体層41と光電変換層42とn型半導体層43とを含む光電変換装置1であって、前記光電変換層42はシリコンまたはシリコン化合物からなり反転オパール構造を備え周期的屈折率変化とフォトニックバンドギャップとを有し、前記反転オパール構造の空孔内にはシリコンまたはシリコン化合物とは異なる半導体粒子を備え、該半導体粒子は1200〜1800nmの波長領域に少なくとも極大吸収波長を有する、光電変換装置1とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池に代表される光電変換装置は、光電変換作用により電子及び正孔(以下キャリアと略)を対生成させる光電変換層と、光電変換層内に拡散電位を生じさせ対生成したキャリアを収集する導電型層からなり、光電変換層は二つの異なる導電型を示す導電型層にサンドイッチされた構造が一般的である。
【0003】
導電型層は光電変換に直接寄与しない不活性な層であり、導電型層にドープされた不純物によって吸収される光は発電に寄与しない損失となる。さらに、導電型層の導電率が低いと直列抵抗が大きくなり薄膜光電変換装置の光電変換特性を低下させる。したがって、導電型層は、十分な拡散電位を生じさせ得る範囲内であれば、できるだけ小さな厚さを有し、つまり、なるべく透明であって、かつ導電率が高い事が好ましい。
【0004】
他方、光電変換層は光吸収を大きくし対生成を増大させ光電流を大きくするためには厚い方が好ましいが、キャリアの移動度に対して厚すぎると対生成したキャリアの収集が不十分となる。更に光電変換層が厚いと材料コストも増加するため、コストの観点からもなるべく薄い方がよい。よって、光電変換層は十分な対生成を生じさせ得る範囲内であれば、できるだけ小さな厚さを有することが好ましく、したがって光電変換効率向上のためには、入射光の有効利用が重要である。
【0005】
入射光を有効利用する方法として、反射防止膜を用いる方法がある。反射防止膜は光の入射側にある光電変換装置の表面に形成され、屈折率の差によって生じる光の反射を低減し、光電変換装置内に入射する光を増加させる役目を持つ。
【0006】
また、入射光を有効利用するために、光電変換層の表面が微小な凹凸構造を有することもある。微小な凹凸構造により、入射光が光電変換層内部で散乱され光路長が伸び、光を閉じ込めることができる。この光閉じ込め効果により、より多くのキャリアの対生成が可能となる。
【0007】
更に入射光を有効利用する方法として、光入射側と反対側(以下裏面側と略)の導電型層に隣接させて高反射率裏面電極を有する構造がある。高反射率裏面電極により裏面側に光が脱出するのを防ぎ、反射光が再度光電変換層内に入射されるため、光閉じ込めの効果により、より多くのキャリアの対生成が可能となる。
【0008】
これらのように、入射光を制御し有効利用することで高い変換効率を有する様々な構造の光電変換装置が開発され実用化されている。
【0009】
一方、近年、光を自由自在に制御する新しい方法であるフォトニック結晶の研究開発が急速に進められている。フォトニック結晶とは「光の波長程度の長さの周期的屈折率変化をもった物質」と定義でき、フォトニック結晶では光と粒子場との相互作用により光を局在化させ、長時間留め置くことが可能となり、光の制御性が飛躍的に高くなる。このような特性を利用した光導波路や偏光フィルター、面発光レーザーなどの様々なデバイスが研究または実用化されている。またフォトニック結晶の構造や材料によっては、フォトニック結晶中に特定の波長(エネルギー)帯の光の存在を完全に禁ずることが可能となり、このような波長帯をフォトニックバンドギャップと呼び、特に全方向からの入射光に対してフォトニックバンドギャップを持つ場合を完全フォトニックバンドギャップという。
【0010】
フォトニック結晶の光電変換装置への応用に関しても検討が行われている。特許文献1には、「少なくとも一つ以上の光電変換ユニットを有する光電変換装置に関して、高い短絡電流密度を得ることが可能で、十分な変換効率が得られる構造を提供すること」を課題として、その解決手段として、「少なくとも1つ以上の光電変換層を有する光電変換装置であって、前記光電変換層が周期的屈折率変化を有することを特徴とする光電変換装置」によって解決することや、「前記光電変換層がフォトニックバンドギャップを有することを特徴とする光電変換装置」で解決することや、また、「前記光電変換層が反転オパール構造を有することを特徴とする光電変換装置」で解決することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−124230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1による発明によって、フォトニック結晶を光電変換層に用いることにより、該光電変換層内に入射光を強く閉じ込めることが可能となり、更に、光電変換層内で対生成したキャリアが再結合する際の発光波長に相当するエネルギー帯にフォトニックバンドギャップを設定することにより、再結合が抑制され、キャリアの拡散長が増大し、これらの効果により高い変換効率の光電変換装置を得られることが示されている。
【0013】
しかしながら、特許文献1は、全ての光波長領域である一定の効果が見られるが、特に高波長領域の光電変換効率は、十分と言いがたく、より幅広い波長領域において、優れた光電変換効率が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では、ある特定波長、特に高波長領域に光吸収領域を有する半導体粒子をフォトニック結晶中に固定化して、光電変換層に用いることにより、従来技術では不十分であった波長領域の変換効率の高い光電変換装置を得ることを見出した。
【0015】
本発明の第1は、少なくともp型半導体層と光電変換層とn型半導体層とを含む光電変換装置であって、
前記光電変換層はシリコンまたはシリコン化合物からなり反転オパール構造を備え周期的屈折率変化とフォトニックバンドギャップとを有し、
前記反転オパール構造の空孔内にはシリコンまたはシリコン化合物とは異なる半導体粒子を備え、該半導体粒子は1200〜1800nmの波長領域に少なくとも極大吸収波長を有する、光電変換装置、である。
【0016】
本発明は、また、前記半導体粒子が硫化鉛からなる、前記の光電変換装置、である。
本発明は、また、前記半導体粒子がゲルマニウムからなる、前記の光電変換装置、である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の構成によって、従来技術で不十分であった高波長領域の光電変換効率を、より幅広い波長領域において、向上させることができる。
【0018】
効果発現のメカニズムの詳細は不明であるが、効果発現のメカニズムの一つは、「光電変換装置の光電変換層に、ある特定波長の半導体粒子を固定化したフォトニック結晶性の材料を用いることにより、フォトニックバンドギャップ効果を利用して、キャリアの再結合を抑制し、光群速度低下によって、光電変換効率を向上させるのに加え、母体となる材料の光電変換のみならず、半導体粒子の吸収波長領域の光捕集、光電変換を可能にし、更なる光電変換効率の向上を可能にする、と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施の形態による光電変換装置を概略的に示す断面図。
【図2】第2の実施の形態による光電変換装置を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明では、ある特定波長、特に高波長領域に光吸収領域を有する半導体粒子をフォトニック結晶中に固定化して、光電変換層に用いることにより、従来技術では不十分であった波長領域の変換効率の高い光電変換装置を得ることを見出した。
【0021】
本発明の第1は、少なくともp型半導体層と光電変換層とn型半導体層とを含む光電変換装置であって、
前記光電変換層はシリコンまたはシリコン化合物からなり反転オパール構造を備え周期的屈折率変化とフォトニックバンドギャップとを有し、
前記反転オパール構造の空孔内にはシリコンまたはシリコン化合物とは異なる半導体粒子を備え、該半導体粒子は1200〜1800nmの波長領域に少なくとも極大吸収波長を有する、光電変換装置、である。
【0022】
反転オパール構造を形成するシリコンまたはシリコン化合物と、反転オパール構造の空孔内に存在するシリコンまたはシリコン化合物とは異なる半導体粒子とは、直接接していることが、光電変換特性の観点から、好ましい。
【0023】
本発明は、また、前記半導体粒子が硫化鉛からなる、前記の光電変換装置、である。
【0024】
本発明は、また、前記半導体粒子がゲルマニウムからなる、前記の光電変換装置、である。
【0025】
本発明は、また、前記光電変換層の周期的屈折率変化が、長距離秩序と短距離秩序の両方を有するあるいはどちらかのみを有することを特徴とする、光電変換装置、である。
【0026】
以下において本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお本願の各図において、厚さや長さなどの寸法関係については図面の明瞭化と簡略化のため適宜変更されており、実際の寸法関係を表してはいない。また、各図において、同一の参照符号は同一部分または相当部分を表している。
【0027】
(第1の実施の形態)
まず、本発明の第1の実施の形態による光電変換装置1の各構成要素について図1を参照し説明する。なお、図1の構造を特にスーパーストレート構造という。
【0028】
透明絶縁基板2としては、例えば、ガラス板や透明樹脂フィルムなどを用いることができる。ガラス板としては、大面積な板が安価に入手可能で透明性、絶縁性が高い、SiO、NaO及びCaOを主成分とする両主面が平滑なソーダライム板ガラスを用いることができる。この透明絶縁基板の一方の主面に透明導電膜3、及び各光電変換ユニット等が積層され、他方の主面側から入射された太陽光等の光が光電変換される。
【0029】
透明導電膜3はITO、SnOあるいは酸化亜鉛(以下ZnOと略)等の導電性金属酸化物から成ることが好ましく、CVD、スパッタ、蒸着等の方法を用いて形成されることが好ましい。透明導電膜3はその表面に微細な凹凸を有することにより、入射光の散乱を増大させる効果を有することも出来る。
【0030】
光電変換ユニット4は光電変換層であるi型半導体層42を備えており、透明導電膜3側からp型半導体層41、i型半導体層42及びn型半導体層43を順次積層した構造を有する。p型半導体層41及びn型半導体層43はCVD、スパッタ、蒸着、溶液成長あるいは塗布法等により形成することができる。
【0031】
これら光電変換ユニット4を構成するp型半導体層41は、例えば、シリコン、シリコンカーバイド、シリコン酸化物、シリコン窒化物またはシリコンゲルマニウム等のシリコン合金に、ボロンやアルミニウム等のp導電型決定不純物原子をドープすることにより形成することができる。また、これらシリコン合金以外でも、Cu(InGa)Seなどの化合物半導体や銅フタロシアニンなどの有機半導体を用いることも出来る。n型半導体43は、シリコン、シリコンカーバイド、シリコン酸化物、シリコン窒化物またはシリコンゲルマニウム等のシリコン合金に、燐や窒素等のn導電型決定不純物原子をドープすることにより形成することができる。また、これらシリコン合金以外でも、p型半導体層41と同様化合物半導体や有機半導体を用いることもできる。
【0032】
本発明の特徴である、光電変換層であるi型半導体層42は、周期的屈折率変化を有しており、高屈折率媒質としては、例えばIV族半導体材料、化合物半導体材料または有機半導体材料で形成することができる。IV族半導体材料としては、シリコンやゲルマニウムあるいはグラファイトやダイヤモンドなどの炭素系材料などが挙げられ、いずれも非晶質及び結晶質共に用いることができる。なお、ここで使用する用語「結晶質」は、多結晶及び微結晶を包含する。また、用語「結晶質」及び「微結晶」は、部分的に非晶質を含むものをも意味するものとする。化合物半導体材料としてはシリコンカーバイドやシリコンゲルマニウムなどのIV族化合物半導体材料や、ガリウム砒素、ガリウム燐、ガリウムナイトライド、酸化亜鉛、酸化チタンあるいはCu(InGa)Seなどが挙げられ、やはりいずれも非晶質及び結晶質共に用いることができる。有機半導体材料としては銅フタロシアニン、ペリレン色素、メチレンブルーあるいはペンタセンなどを用いることができる。またこれら高屈折率媒質は、光電変換機能を十分に備えていれば、微量の導電型決定不純物を含む弱p型もしくは弱n型の半導体材料も用いられ得る。低屈折率媒質としては、シリコン酸化物や有機材料、あるいは空孔でも可能である。
【0033】
i型半導体層42の周期的屈折率変化は、高屈折率媒質及び低屈折率媒質の個々の薄膜を、リソグラフィーとドライエッチングで加工し、それらを交互に張り合わせることで形成することができる。また別の方法として、微小鋳型を用いる方法がある。微小鋳型を用いる方法とは、シリカや樹脂などからなる微小球体を溶液中で沈殿、配列させることで面心立法構造を形成し、この面心立法構造の上に高屈折率媒質を形成させる方法である。高屈折率媒質は面心立法構造の隙間に形成され、格子点は低屈折率媒質、格子点以外の隙間は高屈折率媒質という周期的屈折率分布構造が得られる。またこの微小鋳型を除去して空孔とすることも可能であり、このような構造を特に反転オパール構造という。更に反転オパール構造の空孔に他の媒質を形成することもできる。
【0034】
このようにi型半導体層42が周期的屈折率変化を有することで、フォトニックバンドが形成される。特に反転オパール構造の場合は完全フォトニックバンドギャップが形成され、例えばシリコンと空孔からなる反転オパール構造の場合、格子定数/波長〜0.8付近で完全フォトニックバンドギャップが形成される。上記完全フォトニックバンドキャップは、キャリアの再結合を抑制するために、半導体粒子の特定波長領域をカバーできるように設定することが好ましい。
【0035】
フォトニック結晶は並進対称性を有した構造、すなわち短距離秩序と長距離秩序の両方を兼ね備えた構造である。短距離秩序とは短い距離で規則性を有し、長距離秩序とは長い距離にわたって規則性を有することである。しかし、これらどちらかの秩序を有していればフォトニックバンドギャップが存在することが可能である。短距離秩序のみを有する場合を非晶質フォトニック結晶といい、また長距離秩序のみをもつ場合をフォトニック準結晶という。i型半導体層42は非晶質フォトニック結晶あるいはフォトニック準結晶も用いることができる。
【0036】
本発明では、上記i型半導体層42に、特定波長の半導体粒子を固定化する。
【0037】
上記i型半導体層42に半導体粒子を固定化することにより、バンドギャップ中に、階層的な中間バンドギャップを導入することでき、より低エネルギー(高波長領域)の光の捕集、光電変換が可能となる。
【0038】
使用する半導体粒子は、上記i型半導体層42の種類によって選択することができ、特に限定されるものではないが、高波長側の太陽光を捕集するという観点では、ゲルマニウム(Ge)、硫化鉛(PbS)、セレン化カドニウム(CdSe)、セレン化鉛(PbSe)が好ましい例として挙げられる。
【0039】
粒子の大きさ(粒径)についても、特に制限はないが、量子ドット効果を利用するために、100nm以下が好ましく、さらに好ましくは、50nmであり、さらに好ましくは、1〜30nmである。
【0040】
特に半導体粒子として硫化鉛を用いる場合は、0.4〜0.8eV付近に中間バンドギャップを形成させるという観点から、粒径は、5〜10nmであることが好ましい。
【0041】
反転オパール構造の空孔内に半導体粒子を固定化する方法としては、主に2種類有る。反転オパール構造を作製した後に半導体粒子を固定化するか、または、予めシリカ粒子に半導体粒子を固定化してからシリカを抜くことによって反転オパール構造の中に半導体粒子を固定化するか、である。
【0042】
なお、公知な方法で、半導体粒子を反転オパール構造の空孔内に固定化するにしても、固定化された半導体粒子は酸化を受けるおそれが有るため、酸化を受けないようにすることが、求められており、課題となっている。
【0043】
半導体粒子の合成法としては、特に限定されずに、公知の方法を好適に使用することができる。物理的方法としては、具体的に例えば、ガス中蒸発法、スパッタリング法、金属蒸気合成法が上げられ、化学的方法としては、液相では、コロイド法、気相では、有機金属化合物の熱分解法、金属塩化物、酸化物、含水酸化物の還元法が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。以下、本発明で用いることができる半導体粒子の合成方法を簡単に説明するが、これらに限ったものではない。
【0044】
ガス中蒸発法は、不活性ガス中で金属を蒸発させ、ガスとの衝突より冷却、凝縮させて粒子を合成する方法である。蒸発源としては、特に限定されないが、誘導加熱、抵抗加熱があり、高融点物質には、レーザー加熱、アーク加熱、電子ビーム加熱等がある。また、ハイブリットプラズマ法もあり、プラズマガンと高周波誘導加熱とを組み合わせ、高温プラズマを発生させて、原料粉を導入、帰化させる方法である。同手法により得られる半導体粒子の上記i型半導体層42のへ固定化は、特に限定されるものではなく、直接付着させることにより固定化してもよいが、溶剤などに分散、塗布した後、加熱するなどの後工程でも、固定化することができる。 スパッタ法は、上記蒸発源のかわりにスパッタ現象を利用する方法である。上記同様に、上記i型半導体層42のへ固定化は、特に限定されないが、一般的には、直接付着させるのがよい。
【0045】
金属蒸気合成法は、真空下で金属を加熱し、蒸発した金属原子を有機溶剤とともに基板上に共蒸着させて粒子を得る方法である。基板に、上記i型半導体層42を用いることにより、効果的に半導体粒子を固定化することができる。
【0046】
コロイド法は、金属塩もしくは有機金属化合物を溶媒中で還元することにより、金属粒子を得る方法である。粒径が揃っているなどが特徴であるが、還元剤を除去が困難となる場合がある。同合成法により得られた半導体粒子は、溶液状態でi型半導体層42に塗布し、加熱、乾燥させることにより固定化することが可能である。
【0047】
また、溶液中だけでなく、気相中で、金属塩、金属酸化物、金属含水酸化物を水素気流下で還元することにより、半導体粒子を合成することも可能である。同合成法により得られた半導体粒子は、上記同様に、i型半導体層42に直接付着させることにより固定化してもよいし、溶媒中に一旦分散させた後、塗布、加熱することにより固定化してもよい。
【0048】
また、上記半導体粒子は、シリカなどの酸化物上にも容易に固定化することができる。すなわち、予めシリカ粒子に半導体粒子を固定したシリカ粒子を用いて、上記反転オパール構造を作製すれば、半導体粒子を有するi型半導体層42を得ることもできる。
【0049】
金属電極膜を含む裏面電極膜5は電極としての機能を有するだけでなく、透明絶縁基板2から光電変換ユニット4に入射し裏面電極膜5に到着した光を反射して光電変換ユニット4内に再入射させる反射層としての機能も有している。裏面電極膜5は透明反射層51と金属電極膜である裏面反射層52とから成る。透明反射層51にはZnO、ITO等の金属酸化物が用いられ、裏面反射層52にはAg、Al等の金属単体、またはそれらの合金が好ましく用いられる。裏面電極膜5の形成においては、スパッタ、蒸着等の方法が好ましく用いられる。
【0050】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態による光電変換装置1の各構成要素について図2を参照し説明する。なお、図2の構造を特にサブストレート構造という。
【0051】
基体6としては、例えば、ステンレスなどの金属板や樹脂製の板やフィルムなどを用いることができる。またガラス板も用いることができる。この基体の一方の主面に裏面電極膜5、及び各光電変換ユニット4等が積層される。
【0052】
金属電極膜を含む裏面電極膜5はスーパーストレート構造の場合と同様、電極としての機能を有するだけでなく、透明導電膜3から光電変換ユニット4に入射し裏面電極膜5に到着した光を反射して光電変換ユニット4内に再入射させる反射層としての機能も有している。裏面電極膜5は透明反射層51と金属電極膜である裏面反射層52とから成り、材料及び形成方法ともに前記の第1の態様(スーパーストレート構造)の場合と同様である。
【0053】
光電変換ユニット4は裏面電極膜5側からn型半導体層43、i型半導体層42及びp型半導体層41を順次積層した構造を有する。n型半導体層43、i型半導体層42及びp型半導体層41の材料および形成方法も前記の第1の態様(スーパーストレート構造)の場合と同様である。
【0054】
半導体粒子の材料および形成方法は、前記の第1の態様(スーパーストレート構造)と、同様である。
【0055】
透明導電膜3も材料及び形成方法ともに前記の第1の態様(スーパーストレート構造)の場合と同様であり、その表面に微細な凹凸を有することにより、入射光の散乱を増大させる効果を有することも出来る。
【0056】
収集電極7は、Al、Ag、Au、Cu、Pt、Cr、Ti等から選択された少なくとも1以上の金属またはこれらの合金の層を含む櫛型状の金属電極としてスパッタ法または真空蒸着法によって形成され、これによって図2に示されたようなサブストレート構造の光電変換装置1が完成する。 (本発明の効果。特に、複数の構成の相乗効果について)
本発明の効果について、説明する。本発明の構成によって、従来技術で不十分であった高波長領域の光電変換効率を、より幅広い波長領域において、向上させることができる。
【0057】
効果発現のメカニズムの詳細は不明であるが、効果発現のメカニズムの一つは、「光電変換装置の光電変換層に、ある特定波長の半導体粒子を固定化したフォトニック結晶性の材料を用いることにより、フォトニックバンドギャップ効果を利用して、キャリアの再結合を抑制し、光群速度低下によって、光電変換効率を向上させるのに加え、母体となる材料の光電変換のみならず、半導体粒子の吸収波長領域の光捕集、光電変換を可能にし、更なる光電変換効率の向上を可能にする、と考えられる。
【0058】
本発明においては、「光電変換層はシリコンまたはシリコン化合物からなり反転オパール構造を備え周期的屈折率変化とフォトニックバンドギャップとを有し、」の構成と、「前記反転オパール構造の空孔内にはシリコンまたはシリコン化合物とは異なる半導体粒子を備え、該半導体粒子は1200〜1800nmの波長領域に少なくとも極大吸収波長を有する」の構成との、相乗効果によって、当業者が想到しえない顕著な効果を発現する。
【0059】
700nmの粒径のシリカ粒子を用いて反転オパール構造を作製すると、1150nm付近に完全フォトニックバンドギャップが生じる。1150nmは、太陽光の波長の谷間にあたる。1150nm付近に完全フォトニックバンドギャップを形成させると、1200nm〜1400nm付近の光群速度低下を引き起こし、同波長領域において、より効果的な光閉じ込めが可能となる。
【0060】
すなわち、粒径700nmのシリカを用いて反転オパール構造を形成させると、1200nm〜1400nm付近の光郡速度低下を引き起こし、同波長において、より効率的な光閉じ込めが可能となり、光電変換効率の向上ができる。
【0061】
940nmの粒径のシリカ粒子を用いて、もう一つの太陽光の谷間である1500nm付近に完全フォトニックバンドギャップを作製し、1500〜1800nm付近に光群速度低下を誘発させ、同波長の光閉じ込め効果を向上させ、光電変換効率の向上ができる。
【0062】
例えば半導体粒子PbSは、1200〜1800nm波長領域の光電変換を可能にするために用いる。また、反転オパール構造は、前記の波長の光群速度低下を引き起こし、光閉じ込めを向上させるために用いる。つまり、2つの効果はそれぞれに違うものであるが、半導体粒子による光電変換効率の向上と、反転オパール構造に基づく効果との相乗効果が期待できる。
【0063】
特に半導体粒子として硫化鉛を用いる場合は、0.4〜0.8eV付近に中間バンドギャップを形成させるという観点から、粒径は、5〜10nmであることが好ましい。
【0064】
また、前記半導体粒子がゲルマニウムからなることも、好ましい。比較的酸化されやすいゲルマニウムからなる半導体粒子を備える場合は、本発明に、さらに酸化防止の機能を有する被覆等を施すことも、特に好ましい。
【実施例】
【0065】
以下に、本発明による光電変換装置として実施例1、2及び3を、図を参照しつつ説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り以下の記載例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
図1を参照して説明された第1の実施の形態に対応して、実施例1としてスーパーストレート構造の光電変換装置1を形成させる。白板ガラスから成る透明絶縁基板2の一主面上に、ZnOからなる透明導電膜3を熱CVD法により1.5μm形成させる。
【0067】
次に、光電変換ユニット4を形成するために、透明導電膜3が形成された透明絶縁基板2を高周波プラズマCVD装置内に導入し、所定の温度に加熱した後、この透明導電膜3の上に、反応ガスとしてシラン、水素及びジボランを導入しp型半導体層41を設定膜厚で20nm形成後、一度高周波プラズマCVD装置外に取り出し、大気に暴露する。
【0068】
次に、直径700nmのシリカからなる球体を48%の体積濃度のエチレングリコール水溶液中に分散させた溶液を作製し、該溶液にp型半導体層41まで形成された膜を浸し、空気雰囲気下80℃で乾燥させる。乾燥後、更に空気雰囲気下200℃で焼成を行い、シリカ球体からなる面心立法構造をp型半導体層41の上に10μm形成させる。
【0069】
次にシリカ球体からなる面心立法構造が形成された膜を再び高周波プラズマCVD装置内に導入し、反応ガスとしてシランおよび水素を導入し、シリカ球体の隙間にi型結晶質シリコンを形成させる。再度高周波プラズマCVD装置外に取り出し、大気に暴露し、該膜を0.5%の弗酸溶液に浸し、シリカ球体の部分を除去することで、反転オパール構造を有するi型半導体層42を形成させる。
【0070】
次に、再度高周波プラズマCVD装置内に導入し、反応ガスとして、ビステトラメチルヘプタンジオナート鉛と硫化水素、窒素の混合ガスを導入することにより、i型半導体層42上に、PbS半導体粒子を形成させる。
【0071】
更に、反応ガスとしてシラン、水素及びホスフィンを導入しn型半導体層43を設定膜厚で20nm形成することで光電変換ユニット4を形成させる。
【0072】
なお、光電変換ユニット4のp型半導体層41およびn型半導体層43の各層の設定膜厚は以下のように決定する。つまり、図1の光電変換装置1のものとは別の白板ガラス基板2上に各層をそれぞれ単層で300nm〜400nm程度形成し、それぞれを分光エリプソメトリーから膜厚を算出し、その膜厚から形成速度を一定として形成速度を算出する。また結晶質か非晶質の判断は、前記白板ガラス基板2上の単層をラマン散乱分光法により散乱強度の波数スペクトル依存性を測定し、520cm−1付近にピークを有するものを結晶質、480cm−1付近に緩やかなピークを有するものを非晶質とする。以上のようにして得られた各層の形成速度が透明導電膜3上や透明導電膜3上に形成された他の膜上に形成される場合も変化せず一定であるとして形成時間より設定膜厚を決定する。
【0073】
さらに、透明反射層51として、スパッタ法にてZnO層51を90nm形成後、同じくスパッタ法にて金属電極膜である裏面反射層52としてAg層52を200nm形成し、金属電極膜を含む裏面電極膜5を形成させる。
【0074】
裏面電極膜5を形成後、レーザースクライブ法によりZnOからなる透明導電膜3の上に形成された膜を部分的に除去して、0.25cmのサイズに分離を行い、光電変換装置1(受光面積0.25cm)を作製する。
【0075】
上記により作製できるPbS粒子を表面に固定化した反転オパール構造を有するi型半導体層42は、1150nm付近に完全フォトニックバンドギャップが形成される。太陽光スペクトルは1150nm付近に強度の谷を有しているが、1150nm付近に完全フォトニックバンドギャップを導入することにより、1150nmの波長の光は吸収できないが、その両端の波長帯の光を非常に強くi型半導体層42内に閉じ込めることが可能となり、効率的に光を吸収することが可能となる。更に、、上記完全フォトニックバンドギャップの効果により、キャリアの再結合の抑制が可能となる。また、反転オパール構造内の表面に、PbSの粒子を固定化することにより、これまで光電変換できなかった高波長領域、特に1200〜1800nm付近の光電変換が可能となる。
【0076】
(実施例2)
塩化鉛(PbCl)をオレイルアミンに溶解させ、硫黄(S)を溶解させたオレイルアミン溶液と混合、反応させることにより、PbS粒子の分散溶液を調製する。同溶液中のPbS粒子は、合成条件によって、粒子径の制御することができる。同溶液を実施例1と同様に作製したi型半導体層42上に分散させた後、乾燥、加熱することによって、反転オパール構造内の表面に、PbS粒子を固定化する。次に、実施例1と同様に、図1を参照して説明された第1の実施の形態に対応して、スーパーストレート構造の光電変換装置1を形成させる。
【0077】
上記手法で作製した光電変換装置1は、実施例1の結果と同様に、完全フォトニックバンドギャップの効果に加え、PbS粒子の粒子径に対応した高波長領域の光電変換が可能であり、光電変換効率に優れる。
【0078】
(実施例3)
酢酸鉛を水酸化ナトリウム存在下、チオ尿素と水中で反応させると、PbS粒子が沈殿した水溶液が得られる。同溶液を攪拌、分散した状態で、実施例1と同様に作製したi型半導体層42上に塗布、乾燥、加熱することによって、PbS粒子をi型半導体層42内に固定化し、さらに、実施例1と同様に、図1の第1の実施の形態に対応して、スーパーストレート構造の光電変換装置1を形成させる。
【0079】
上記手法で作製した光電変換装置1は、実施例1の結果と同様に、完全フォトニックバンドギャップの効果に加え、PbS粒子の粒子径に対応した高波長領域の光電変換が可能であり、光電変換効率に優れる。
【0080】
(実施例4)
界面活性剤としてスルホコハク酸ジオクチルナトリウム存在下、水中で硝酸鉛と硫化ナトリウムを反応させると、PbS粒子が分散した溶液が得られる。同分散溶液を実施例1と同様に作製したi型半導体層42上に塗布、乾燥、加熱することによって、PbS粒子をi型半導体層42内に固定化し、さらに、実施例1と同様に、図1の第1の実施の形態に対応して、スーパーストレート構造の光電変換装置1を形成させる。
【0081】
上記手法で作製した光電変換装置1は、実施例1の結果と同様に、完全フォトニックバンドギャップの効果に加え、PbS粒子の粒子径に対応した高波長領域の光電変換が可能であり、光電変換効率に優れる。
【0082】
(実施例5)
粒径が700nmのシリカ粒子が分散した溶液に、酢酸鉛を溶解させた溶液を加え、溶剤を除去した後、硫化水素ガスでフローすることによって、PbS粒子が表面に固定化された粒径700nmのシリカ粒子が調製できる。同シリカ粒子を実施例1のシリカ粒子に変えて、同様に光電変換装置1を形成させる。この際、必ずしも、0.5%の弗酸溶液に浸し、シリカ球体の部分を除去する必要はない。
【0083】
上記手法で作製した光電変換装置1は、実施例1の結果と同様に、完全フォトニックバンドギャップの効果に加え、PbS粒子の粒子径に対応した高波長領域の光電変換が可能であり、光電変換効率に優れる。
【0084】
(実施例6)
実施例1と同様に作製したi型半導体層42を高周波プラズマCVDに再度投入し、反応ガスとして、ゲルマンガスを導入し、i型半導体層42上にゲルマニウム(Ge)粒子を形成させる。次に、実施例1と同様に、図1を参照して説明された第1の実施の形態に対応して、スーパーストレート構造の光電変換装置1を形成させる。
【0085】
上記手法で作製した光電変換装置1は、実施例1の結果と同様に、完全フォトニックバンドギャップの効果に加え、Ge粒子に対応した高波長領域の光電変換が可能であり、光電変換効率に優れる。
【0086】
(実施例7)
直径700nmのシリカからなる球体に代えて、直径940nmのシリカからなる球体を用いたこと以外は実施例1と同様にして、直径940nmシリカからなる球体を用いて、実施例1と同様にして光り電変換装置1の構造を作製した。
【0087】
この結果、作製できる反転オパール構造を有するi型半導体層42は、1500nm付近に完全フォトニックバンドギャップが形成される。太陽光スペクトルは1500nm付近に強度の谷を有しているが、1500nm付近に完全フォトニックバンドギャップを導入することにより、1500nmの波長の光は吸収できないが、その両端の波長帯の光を非常に強くi型半導体層42内に閉じ込めることが可能となり、効率的に光を吸収することが可能となる。更に、上記完全フォトニックバンドギャップの効果により、キャリアの再結合の抑制が可能となる。
上記同様です。
【0088】
(実施例8)
図2を参照して説明された第2の実施の形態に対応して、実施例8としてサブストレート構造の光電変換装置1を形成させる。ステンレスから成る基体6の一主面上に、スパッタ法にて金属電極膜である裏面反射層52としてAg層52を200nm形成しさらに、透明反射層51として、スパッタ法にてZnO層51を90nm形成し、金属電極膜を含む裏面電極膜5を形成させる。
【0089】
次に、光電変換ユニット4を形成するために、裏面電極膜5が形成されたステンレスからなる基体6を高周波プラズマCVD装置内に導入し、所定の温度に加熱した後、この裏面電極膜5の上に、反応ガスとしてシラン、水素及びホスフィンを導入しn型半導体層43を設定膜厚で20nm形成後、一度高周波プラズマCVD装置外に取り出し、大気に暴露する。
【0090】
次に、実施例1と同様の方法でn型半導体層43上に結晶質シリコンからなる反転オパール構造を有するi型半導体層42を形成させる。
【0091】
次に、再度高周波プラズマCVD装置内に導入し、反応ガスとして、ビステトラメチルヘプタンジオナート鉛と硫化水素、窒素の混合ガスを導入することにより、i型半導体層42上に、PbS半導体粒子を形成させる。
【0092】
更に再度高周波プラズマCVD装置内に導入し、反応ガスとしてシラン、水素及びジボランを導入しp型半導体層41を設定膜厚で20nm形成することで光電変換ユニット4を形成させる。
【0093】
さらに、ITOからなる透明導電膜3を90nmスパッタ法により形成させる。最後に収集電極7としてAlの櫛型電極を電子ビーム蒸着法により形成することで、サブストレート構造の光電変換装置1を作製する。
【0094】
実施例8では実施例1に比べて、白板ガラスからなる透明絶縁基板2の吸収ロスが少なく、更にITOからなる透明導電膜3の高い反射防止効果により、短絡電流密度(Jsc)が大幅に向上し、結果として実施例1より高い変換効率が得られる。
【符号の説明】
【0095】
1 光電変換装置
2 透明絶縁基板
3 透明導電膜
4 薄膜光電変換ユニット
41 p型半導体層
42 i型半導体層
43 n型半導体層
5 裏面電極膜
51 透明反射層
52 裏面反射層
6 基体
7 収集電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともp型半導体層と光電変換層とn型半導体層とを含む光電変換装置であって、
前記光電変換層はシリコンまたはシリコン化合物からなり反転オパール構造を備え周期的屈折率変化とフォトニックバンドギャップとを有し、
前記反転オパール構造の空孔内にはシリコンまたはシリコン化合物とは異なる半導体粒子を備え、該半導体粒子は1200〜1800nmの波長領域に少なくとも極大吸収波長を有する、光電変換装置。
【請求項2】
前記半導体粒子が硫化鉛からなる、請求項1記載の光電変換装置。
【請求項3】
前記半導体粒子がゲルマニウムからなる、請求項1記載の光電変換装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−44572(P2011−44572A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191494(P2009−191494)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】