説明

光電気複合ケーブル

【課題】光ファイバに側圧がかかり難い光電気複合ケーブルを提供する。
【解決手段】光ファイバ2の周囲が複数の被覆電線3で覆われ、複数の被覆電線3の周囲がシース4で覆われたことにより、被覆電線3の被覆が外力を吸収して光ファイバ2に側圧がかかり難い。被覆電線3は、導体心線5の周囲が被覆6で覆われたものである。被覆6は、導体心線5を電気的に絶縁して覆うだけでなく、光ファイバ2に側圧がかからないようにする目的があるので、柔軟なものが用いられる。被覆電線3の被覆6がシース4よりも柔軟であるのが好ましい。言い換えると、シース4は固く、被覆6は柔軟であるのが好ましい。具体的には、シース4が塩化ビニル等の固い樹脂からなるのに対して、被覆6はシース4よりも柔軟な樹脂からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの周囲に電線を配置した光電気複合ケーブルに係り、光ファイバにかかる側圧による損失増加を抑制する光電気複合ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の処理速度の高速化に伴い、電子機器間の配線の高速信号線化が進んでいる。しかし、このような状況にあっても、電子機器間においては、低速信号を送受信するための低速信号線や、電子機器に電力を供給するための電力線も依然として必要であることから、ツイストペア線に代表される高速信号線と、低速信号線や電力線とが複合された電気ケーブルが使用されてきた。
【0003】
そして、現在では、信号の高速化をさらに進めるため、高速信号線として、光ファイバからなる高速信号線を用いて、それと電線からなる低速信号線や電力線とが複合された光電気複合ケーブルが使用されるに至っている。
【0004】
このような光電気複合ケーブルの先行技術文献としては、特許文献1、2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−231072号公報
【特許文献2】特開平9−145974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような光電気複合ケーブルは、特に民生品用途などにおいては、配線を見えづらくしたり、壁に配線し易くしたりするために、細径化することが求められている。そして、光電気複合ケーブルを細径化する方法としては、従来、以下の方法が採られている。
【0007】
まず、通常よりも径の細い光ファイバを用いることにより、光電気複合ケーブルを細径化することは可能である。しかし、光ファイバの径を細くすると、光ファイバの径を細くする前と細くした後とでコアの径が同じ場合には、光ファイバの径を細くした後の方が光ファイバの径を細くする前よりもクラッドの厚みが薄くなり、それに伴い、光ファイバにかかる側圧による損失増加が生じ易くなるという問題が生じる。
【0008】
また、光電気複合ケーブルにおいて外周を覆うシースの厚みを薄くすることによっても、光電気複合ケーブルを細径化することは可能である。しかし、このようにして光電気複合ケーブルを細径化すると、シースによる側圧吸収効果が低減し、それに伴い、光ファイバにかかる側圧による損失増加が生じ易くなるという問題が生じる。
【0009】
このように、光電気複合ケーブルを細径化することと、光ファイバにかかる側圧による損失増加を抑制することは相反し、これらを同時に満たすことは非常に困難である。
【0010】
ところで、従来は、(光ファイバの周囲に電線を配置した)光電気複合ケーブルにおいて、光ファイバにかかる側圧による損失増加を抑制するために、光電気複合ケーブルにおいて外周を覆うシースの厚みを厚くしたり、光ファイバのクラッド材の厚みを厚くしたりすることが行われていた。しかし、シースの厚みを厚くした場合にも、クラッド材の厚みを厚くした場合にも、光電気複合ケーブルの外径が太くなるが、これは、上述の光電気複合ケーブルの細径化の要求に反するものであり好ましくない。
【0011】
そこで、本発明の目的は、従来とは異なる構造により、光ファイバの側圧による損失増加を抑制した光電気複合ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、光ファイバの周囲が複数の被覆電線で覆われ、該複数の被覆電線の周囲がシースで覆われたものである。
【0013】
上記光ファイバが複数であってもよい。
【0014】
上記被覆電線の被覆が上記シースよりも柔軟であってもよい。
【0015】
上記被覆電線が発泡電線であってもよい。
【0016】
上記被覆電線の本数が奇数本であってもよい。
【0017】
上記光ファイバと上記複数の被覆電線との間に抗張力繊維が充填されてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、光電気複合ケーブルにおいて、従来とは異なる構造により、光ファイバの側圧による損失増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態を示す光電気複合ケーブルの断面図である。
【図2】本発明の光電気複合ケーブルに用いる光ファイバアレイの断面図である。
【図3】光ファイバの曲げ直径対破断率特性図である。
【図4】光ファイバの曲げ直径対曲げ損失特性図である。
【図5】試料に側圧を印加する試験の方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0021】
図1に示されるように、本発明に係る光電気複合ケーブル1は、光ファイバ2の周囲が複数の被覆電線3で覆われ、複数の被覆電線3の周囲がシース4で覆われたものである。
【0022】
本実施形態では、光ファイバ2が複数本設けられるが、本発明は光ファイバ2は1本でも任意の複数本でもよい。本実施形態では、4本の光ファイバ2を隙間無く平行一列に並べて一体化した光ファイバアレイが用いられる。
【0023】
光ファイバ2は、一般の光ファイバでもよいが、本実施形態では、一般の光ファイバに比べて断面積が1/4程度の外径が細い細径化光ファイバである。
【0024】
被覆電線3は、導体心線5の周囲が被覆6で覆われたものである。被覆6は、導体心線5を電気的に絶縁して覆うだけでなく、光ファイバ2に側圧がかからないようにする目的があるので、柔軟なものが用いられる。被覆電線3の被覆6がシース4よりも柔軟であるのが好ましい。言い換えると、シース4は固く、被覆6は柔軟であるのが好ましい。具体的には、シース4が塩化ビニル等の固い樹脂からなるのに対して、被覆6はシース4よりも柔軟な樹脂からなる。本実施形態では、被覆電線3は、被覆6が発泡により柔軟にされた樹脂からなる発泡電線である。
【0025】
本実施形態では、被覆電線3が細径化電線である。
【0026】
本実施形態では、被覆電線3が7本設けられるが、本発明は被覆電線3は複数本あればよく、奇数本が好ましい。その中でも特に、被覆電線3は5本、7本、9本が好ましい。
【0027】
本実施形態では、光ファイバ2と複数の被覆電線3との間にケブラー(登録商標)等の抗張力繊維7が充填される。
【0028】
図2に示されるように、光ファイバ2の周囲には、4本の光ファイバ2の直径の和の長さよりも大きい長さを長径dlとし、1本の光ファイバ2の直径よりも大きい長さを短径dsとする楕円形にUV硬化樹脂の被覆8が設けられる。光ファイバ2の直径が80μmのとき、楕円形は長径dl=0.6mm、短径ds=0.2mmであり、光ファイバ2の直径が125μmのとき、楕円形は長径dl=0.7mm、短径ds=0.2mmである。
【0029】
次に、本発明の光電気複合ケーブル1の作用効果を説明する。
【0030】
本発明の光電気複合ケーブル1は、光ファイバ2の周囲が複数の被覆電線3で覆われ、複数の被覆電線3の周囲がシース4で覆われている。光電気複合ケーブル1が踏まれるなどして狭い箇所に集中して外力が加わると、外力を受けた被覆電線3では、その外力は被覆電線3の被覆6に吸収される。このため、被覆電線3が光電気複合ケーブル1の径方向内側に陥没するような変形は免れ、光ファイバ2には、側圧がかからない。特に、被覆電線3の被覆6が発泡により柔軟に形成されていると、この効果は顕著である。
【0031】
本発明の光電気複合ケーブル1は、前述のように外力が被覆電線3の被覆6に吸収される構造であるため、光ファイバ2を覆う被覆は必要としない。特に、光ファイバアレイを用いた場合、4本の光ファイバ2が図示のように隙間無く平行一列となっている。この形状は、図示しない光ファイバ用コネクタの規格に合わせるためである。このような形状の光ファイバアレイは、本発明のように複数の被覆電線3で覆うのが好ましい。
【0032】
本発明の光電気複合ケーブル1は、被覆電線3が奇数本設けられている。全ての被覆電線3の外径が均一であり、全ての被覆電線3が同心円上に周方向等間隔で配置されるとすると、複数の被覆電線3の内側には、1本の被覆電線3による山と被覆電線3と被覆電線3の間の谷とが交互に形成される。被覆電線3が偶数本であれば、径方向には山と山が対向するが、被覆電線3が奇数本であれば、径方向には山と谷が対向する。
【0033】
光電気複合ケーブル1のシース4の外側から径方向に外力が加わって、ある1本の被覆電線3が光電気複合ケーブル1の径方向内側に陥没したとする。このとき、この被覆電線3が内側に突き出る山の反対側は、被覆電線3と被覆電線3の間の谷となる。このため、力が分散して光ファイバ2にかかる側圧が低減される。特に、被覆電線3の本数が5本〜9本のようにあまり多くないとき、山と谷による力の分散効果が大である。
【0034】
本発明の光電気複合ケーブル1は、光ファイバ2と複数の被覆電線3との間に抗張力繊維7が充填されている。抗張力繊維7は、被覆電線3からかかってくる側圧を分散する。この分散効果により、光ファイバ2には、側圧がかからない。さらに、抗張力繊維7は、光ファイバ2の引っ張り強度を増強する働きがある。
【0035】
本発明の光電気複合ケーブル1は、被覆電線3が発泡電線であることにより、被覆6の誘電率が充実な被覆を用いた場合に比して低い。このため、高速伝送に有利である。特に、被覆電線3に細径化電線を用いて光電気複合ケーブル1の細径化を図る場合、被覆電線3相互間の距離が近付いて被覆電線3間の静電容量が増加するため電気的な伝送特性に影響が及ぶ。その点、本発明は、被覆6の誘電率が低いことにより、被覆電線3間の静電容量を減少させることができる。
【0036】
本発明の光電気複合ケーブル1は、被覆電線3が発泡電線であることにより、被覆6の重量が充実な被覆を用いた場合に比して軽い。このため、光電気複合ケーブル1の軽量化に寄与する。
【実施例】
【0037】
[実施例1]
ここでは、光ファイバ2の径を小さくすると破断率が低下することを確認する。
【0038】
試料#1として、直径125μmの光ファイバ単体、試料#2として、直径80μmの光ファイバ単体を用い、各試料#1,#2における曲げ直径(Bend Diameter)と破断率(Failure Probabilility)との関係を調べる。試料#1,#2とも、コア/クラッド屈折率差Δn=1.0%である。
【0039】
図3に示されるように、光ファイバ径が太い試料#1の場合、曲げ直径が5mm以上での破断率は小さいが、曲げ直径が5mmのところで破断率が急激に増加する。光ファイバ径が細い試料#2の場合、曲げ直径が4.5mm以上での破断率が小さく、曲げ直径が3.5mmのところから破断率が急激に増加する。
【0040】
これより、光ファイバ2の径を小さくすると曲げ直径が小さいときの破断率が低下することがわかる。
【0041】
[実施例2]
ここでは、コア/クラッド屈折率差を大きくすると曲げ損失が低下することを確認する。
【0042】
試料#3として、コア/クラッド屈折率差Δn=1.0%の光ファイバ単体、試料#4として、コア/クラッド屈折率差Δn=2.0%の光ファイバ単体を用い、各試料#3,#4における曲げ直径(Bend Diameter)と曲げ損失との関係を調べる。試料#3,#4とも、光ファイバ径=125μmである。なお、屈折率差を1.0%から2.0%に上げる方法としては、コアに添加するドーパントを増量する方法がある。
【0043】
図4に示されるように、コア/クラッド屈折率差が小さい試料#3よりも、コア/クラッド屈折率差が大きい試料#4のほうが同じ曲げ直径における曲げ損失が小さい。
【0044】
これより、光ファイバ2のコア/クラッド屈折率差を大きくすると曲げ損失が低下することがわかる。
【0045】
[実施例3]
ここでは、被覆6について材料と側圧損失との関係を調べる。
【0046】
試料#5として、光ファイバ単体を用いる。試料#6として、被覆6が塩化ビニル樹脂(厚さ0.2mm)の光電気複合ケーブル1、試料#7として、被覆6が電子照射架橋発泡ポリエチレン(厚さ0.2mm、発泡度70%)の光電気複合ケーブル1を用い、各試料#5〜7の側圧損失を測定する。
【0047】
なお、試料#6,#7は、光ファイバ2の本数;2本、光ファイバ2のコア径;50μm、被覆電線3の本数;7本、導体心線5の径;0.2mm、シース4の材料;塩化ビニル樹脂、シース4の厚み;0.5mm、抗張力繊維;ケブラー(登録商標)である。
【0048】
また、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリエチレン系樹脂を原材料とする発泡体のうち、架橋処理を施し、発泡させたものを架橋発泡ポリエチレンという。そして、当該架橋発泡ポリエチレンの中で、電子線を上記原材料に照射することにより、架橋処理を施したものを、電子照射架橋発泡ポリエチレンという。
【0049】
各試料#5〜7の側圧損失の測定は、図5に示すように試料を所定の半径Rの曲面を有する治具で試料に側圧を印加して行う。試料#5の側圧損失が1.0(dB)となるような側圧を試料#6,#7に印加し、試料#6,#7の側圧損失を測定する。
【0050】
【表1】

【0051】
表1に示すように、試料#6では側圧損失が0.3dB、試料#7では側圧損失が0.1dBと、側圧損失が小さくなっており、本発明の光電気複合ケーブル1では光ファイバ2に側圧がかかり難いことが分かる。
【符号の説明】
【0052】
1 光電気複合ケーブル
2 光ファイバ
3 被覆電線
4 シース
5 導体心線
6 被覆
7 抗張力繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバの周囲が複数の被覆電線で覆われ、該複数の被覆電線の周囲がシースで覆われたことを特徴とする光電気複合ケーブル。
【請求項2】
上記光ファイバが複数であることを特徴とする請求項1記載の光電気複合ケーブル。
【請求項3】
上記被覆電線の被覆が上記シースよりも柔軟であることを特徴とする請求項1又は2記載の光電気複合ケーブル。
【請求項4】
上記被覆電線が発泡電線であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の光電気複合ケーブル。
【請求項5】
上記被覆電線の本数が奇数本であることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の光電気複合ケーブル。
【請求項6】
上記光ファイバと上記複数の被覆電線との間に抗張力繊維が充填されたことを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の光電気複合ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−18544(P2011−18544A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162096(P2009−162096)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】