説明

免震システムのロッキング防止装置

【課題】簡単且つ安価な構成にてシリンダ連結体に備える複数のロッキング抑制シリンダと連結ロッドとの位置調整が容易にでき且つ連結ロッドへの急激な移動負荷に対しては抵抗してロッキングを防止できるようにする。
【解決手段】免震対象物下部の複合体のシリンダ加圧室とアキュムレータとに接続した複数のロッキング抑制シリンダ15のピストン16を連結ロッド17で連結して免震対象物周縁に配置したシリンダ連結体26と、シリンダ連結体の端部同士を接続して一方の連結ロッドの移動負荷を他方の連結ロッドに伝える移動同期装置とを有するロッキング防止装置41と、免震対象物の下部に複数配置した3次元免震装置とからなる免震システムのロッキング防止装置41であって、シリンダ連結体26の各ロッキング抑制シリンダ15のピストン16に、ピストン16の両側の液室A,Bを連通する小口51を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡単且つ安価な構成にてシリンダ連結体に備える複数のロッキング抑制シリンダと連結ロッドとの位置調整が容易にでき且つ連結ロッドへの急激な移動負荷に対しては抵抗してロッキングを防止できるようにした免震システムのロッキング防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ビル或いは原子炉発電設備等のような大重量の免震対象物を免震する装置としては、荷重支持シリンダの液圧室を空気アキュムレータに接続した構成の液圧免震装置(3次元免震装置)が提案されており、この種の液圧免震装置としては特許文献1に示すものがある。
【0003】
図6は、特許文献1に開示された液圧免震装置を示しており、基礎1上に、薄いゴム2aと薄い鋼板2bを積層して横方向(水平方向)の免震を行うようにした積層ゴム2を固定し、該積層ゴム2の上部に荷重支持シリンダ3を積み重ねて固定した複合体39を構成している。該複合体39の荷重支持シリンダ3は、免震を行う免震対象物4の底面に下方に突出するよう固定した例えば略球形のスイベル5に上端が嵌合したピストン6を有しており、該ピストン6を包囲するシリンダ7の内部底面と前記ピストン6の下端との間にはシリンダ加圧室8が形成されており、該シリンダ加圧室8をアキュムレータ10に接続することによって液圧免震装置Mを構成している。図中13はピストン6とシリンダ7のシール材である。
【0004】
前記シリンダ加圧室8には油等の作動液が供給してあり、また、アキュムレータ10には可撓区画壁11によりガス室が形成してあり、前記シリンダ加圧室8の作動液が作動液配管9によりアキュムレータに導かれてガス室12内部の空気等のガスを圧縮するようになっている。前記アキュムレータ10は、図6に示す如く固定部材14によって免震対象物4側に固定する場合と、図示しないが固定部材によって基礎1側に固定する場合とがある。前記スイベル5は、地震によって基礎1が免震対象物4に対して横方向に相対移動した際の複合体39の傾きを吸収するためのものであるが、このようなスイベル5は備えられていないものや、他の方式にて液圧免震装置Mの傾きを吸収するようにしたものもある。
【0005】
前記液圧免震装置Mは、図7に示すように免震対象物4の下部に多数規則的に配置しており、免震対象物4の重量は各液圧免震装置Mのスイベル5及びピストン6を介してシリンダ加圧室8の作動液に伝えられ、更に、シリンダ7から積層ゴム2を介して基礎1に伝えられる。前記免震対象物4の重量により加圧されたシリンダ加圧室8内の作動液は作動液配管9によりアキュムレータ10に伝えられ、可撓区画壁11を介してガス室12の空気を圧縮することにより、前記免震対象物4を一定の高さに保持するようになっている。
【0006】
地震の発生によって基礎1が縦方向に振動した場合には、基礎1と共に積層ゴム2とシリンダ7がピストン6に対して上下動し、シリンダ加圧室8の間隔が減少する動き(基礎1が上昇)のときにはシリンダ加圧室8の作動液がアキュムレータ10に供給され、また、シリンダ加圧室8の間隔が増加する動き(基礎1が下降)のときにはアキュムレータ10の作動液がシリンダ加圧室8に供給されるように作用し、この時、作動液配管9の流動抵抗によって振動の衝撃が減衰され、且つアキュムレータ10のガス室12の空気の圧縮弾性によって免震対象物4は軟らかく支持される。従って、アキュムレータ10に接続された荷重支持シリンダ3は、基礎1の縦方向の振動の緩衝のみに有効に作用する。
【0007】
また、地震の発生によって基礎1が横方向に振動した場合には、その動きに応じて積層ゴム2が横方向に撓んで変形し、これにより、免震対象物4は横方向に免震される。基礎1が横方向に移動すると荷重支持シリンダ3に対して積層ゴム2が横方向にずれて変形するために複合体39が傾く力を受けることになるが、この傾きに対しては、ピストン6がスイベル5を中心に回転して折れ曲がることにより無理な力が発生するのを防止している。従って、上記したように、シリンダ加圧室8をアキュムレータ10に接続した荷重支持シリンダ3と積層ゴム2とからなる液圧免震装置Mによれば3次元免震が可能となる。
【0008】
一方、図6に示したような液圧免震装置Mを図7に示すように免震対象物4の下部に多数配置した構成としても、図11に示す如く重心が高い位置にある免震対象物4を免震する場合には、地震によって免震対象物4がロッキング(前後或いは左右方向等への揺動)を起こすことが考えられ、ロッキングが生じた際には、免震対象物4の下部中心に配置した液圧免震装置Mに比して外周部に配置した液圧免震装置Mのシリンダ7がピストン6に対してより大きなストロークで上下に作動することになる。
【0009】
しかし、このように大きなストロークで上下に作動することが許容でき、しかも免震対象物4を柔らかく支持できる液圧免震装置Mの設計は非常に困難であり、装置構成も非常に大型になってしまうという問題がある。
【0010】
この問題を解決するために、前記特許文献1では、図7〜図10に示す如く、免震対象物4の下部に前記したように複数の液圧免震装置Mを配置した上で、免震対象物4の周縁下部にロッキング防止装置41を備えて免震システムを構成している。
【0011】
前記ロッキング防止装置41は、図7に示す如く、両ロッド型の複数のロッキング抑制シリンダ15のピストン16を連結ロッド17で直線状に連結した構成のシリンダ連結体26を、免震対象物4の周縁下部に沿って配置しており、免震対象物4が矩形の場合には周縁の各4辺に沿って配置している。
【0012】
更に、前記免震対象物4の周縁下部には、図8に示す如く、積層ゴム2と荷重支持シリンダ3とを一体に積み重ねた構成の複合体39を、前記シリンダ連結体26を挟むように2列に配置している。尚、図8に示す複合体39は、基礎1上に積層ゴム2を固定する一方、荷重支持シリンダ3のシリンダ7を免震対象物4の下面に固定し、前記荷重支持シリンダ3のピストン6に嵌合したスイベル5を有する固定部材5aを前記積層ゴム2に固定した場合を示している。図中40はピストン6の外周に設けられた摺動部材である。
【0013】
シリンダ連結体26を挟むように2列に配置した複合体39は、例えば図7に示すように4個1組のブロック19(19a,19b,19c,19d)に区画し、各ブロック19における各荷重支持シリンダ3のシリンダ加圧室8に接続した作動液配管9を、図10に示す如く1つの集合配管20に集合して、対応するロッキング抑制シリンダ15(15a,15b,15c,15d)の一側の液室Aに接続している。この時、前記作動液配管9は、図7に示す如く、外周部に配置するシリンダ連結体26に沿って回転する方向において各ロッキング抑制シリンダ15のピストン16の同じ側(例えば回転方向前側)の液室Aに夫々接続している。
【0014】
更に、各ロッキング抑制シリンダ15a,15b,15c,15dの他側の液室Bには、図9に示すように、内部に可撓区画壁11を有して液室Bの作動液によってガス室12内部の空気等のガスを圧縮するようにしたアキュムレータ25を接続している。又、図示例では、上記アキュムレータ25のガス室12には、連絡管28を介して補助アキュムレータ29が接続してあり、前記連絡管28には流路断面積を設定できるようにした絞り30が設けられている。尚、上記補助アキュムレータ29は備えなくてもよい。
【0015】
更に、前記液室Aに連通している集合配管20の夫々には、図10に示す如く、液圧装置21から所定圧力の作動液がマニホールド22及び液圧配管23を介して供給されて免震対象物4の傾きなどに対する設定・調整が行えるようになっている。尚、液圧配管23は各ロッキング抑制シリンダ15a,15b,15c,15dの一側の液室Aに直接接続されていてもよい。また、前記各ロッキング抑制シリンダ15a,15b,15c,15dの他側の液室Bには、前記液圧装置21からの一定圧力の作動液がマニホールド22及び液圧配管24を介して供給されている。
【0016】
前記シリンダ連結体26により免震対象物4のロッキングを防止するためには、免震対象物4のコーナ部に位置するシリンダ連結体26の端部間に、一方の連結ロッド17の押し引きの動きを90゜方向を変えて他方の連結ロッド17に押し引きとして伝える(免震対象物4の周縁に沿って配置した各連結ロッド17が平面的に同方向に回転するように移動させる)ための移動同期装置(角つなぎ機構)を備える必要がある。
【0017】
このために、図7では、免震対象物4のコーナ部における連結ロッド17の互いの端部に接続シリンダ31,32を取り付け、該接続シリンダ31,32の間を配管33,34で接続した移動同期装置18を構成しており、1つの連結ロッド17が一方向に押されると、この動きが前記移動同期装置18により90゜向きが変えられて他方の連結ロッド17が一方向に押されるようになっている。
【0018】
前記移動同期装置18で接続されたシリンダ連結体26は、免震対象物4の周縁に沿って無端状に構成されていてもよく、又は1箇所が切断された一筆書き状に構成されていてもよい。
【0019】
図7に示したように、免震対象物4の下部に多数の液圧免震装置Mを配置すると共に、免震対象物4の周縁下部にロッキング防止装置41を配置した免震システムによれば、免震対象物4は液圧免震装置Mにより3次元免震されると共に、ロッキング防止装置41によってロッキングが防止される。
【0020】
地震によって免震対象物4がロッキングを起こそうとした場合には、例えば図7の左辺の荷重支持シリンダ3のピストン6(図8)は上昇し、前記左辺と平行な図示しない右辺の荷重支持シリンダ3のピストン6は下降するように移動しようとする。この時、ピストン6が上昇しようとする側(図7の左側)では荷重支持シリンダ3のシリンダ加圧室8の作動液圧が高められて作動液配管9によりロッキング抑制シリンダ15の一方の液室Aに作動液が供給されて連結ロッド17を図7の矢印方向に移動させる力が働く。この力は移動同期装置18を介して相互に伝達されている外周部の連結ロッド17全体を時計回りに動かそうとする力として作用する。逆に、前記荷重支持シリンダ3のピストン6が下降しようとする側(図示しないが図7の右側)では、前記シリンダ加圧室8は作動液配管9を介してロッキング抑制シリンダ15の一方の液室Aの作動液を吸引することになるため、外周部の連結ロッド17全体を反時計回りに動かそうとする力を発生させることとなる。このように、ロッキング防止装置41は、免震対象物4がロッキングを起こそうとしても、上昇側と下降側で拮抗する力が連結ロッド17に作用するように構成されていることにより、免震対象物4のロッキングを防止する。
【0021】
一方、免震対象物4がロッキングを伴わない上下振動を行う場合は、外周部の連結ロッド17全体が同一回転方向に動き、ロッキング抑制シリンダ15の液室Bに接続されたアキュムレータ10のガス室12内の空気を均一に加圧/減圧することになるので、空気の圧縮弾性による軟らかい支持と作動液及び空気の流体抵抗による減衰が実現される。
【特許文献1】特開2003−206988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
図7に示したように従来の免震システムにおいては、免震対象物4の下部に図6に示す構成の液圧免震装置Mを多数配置すると共に、免震対象物4の周縁下部にロッキング防止装置41を配置して、免震対象物4の3次元免震とロッキングの防止とを行うようにしているが、前記液圧免震装置Mは複雑な構成を有していて高価であり、原子炉設備等においてはこの高価な液圧免震装置Mを非常に多数設置する必要があるために、免震システム全体が非常に高価になるという問題がある。
【0023】
更に、前記ロッキング防止装置41のシリンダ連結体26に多数備えられるロッキング抑制シリンダ15は、免震対象物4の設置時には、図10に示すように、液圧装置21の作動液をマニホールド22から液圧配管23を介して液室Aに供給すると共に、液圧配管24を介して液室Bに供給してロッキング抑制シリンダ15と連結ロッド17の位置調整を行う必要がある。即ち、液室Aに作動液配管9で接続された複合体39の荷重支持シリンダ3におけるシリンダ加圧室8(図8)の液圧と、アキュムレータ25の液圧とがバランスした状態でピストン16の位置がロッキング抑制シリンダ15の略中央の所定位置になるように、ロッキング抑制シリンダ15と連結ロッド17の位置を調整する。
【0024】
この時、ロッキングの発生時に前記シリンダ加圧室8の液圧を確実にアキュムレータ25に伝えてロッキング防止を行うには、前記各ロッキング抑制シリンダ15の液室Aと液室Bの液圧が同一圧となるように予め調整しておく必要があるが、この圧力調整を多数のロッキング抑制シリンダ15に対して行うのは非常に大変な作業である。
【0025】
また、免震対象物4の重量の偏りのために免震対象物4が傾く場合があり、この場合には、液圧免震装置Mの圧力を調整して免震対象物4が水平になるように調節しているが、この傾きの調整時に前記ロッキング抑制シリンダ15が抵抗とならないように、各ロッキング抑制シリンダ15の液室Aと液室Bの圧力を開放する必要があるが、この圧力の開放も非常に大変な作業である。
【0026】
本発明は、かかる従来装置のもつ問題点を解決すべくなしたもので、簡単且つ安価な構成にてシリンダ連結体に備える複数のロッキング抑制シリンダと連結ロッドとの位置調整が容易にでき且つ連結ロッドへの急激な移動負荷に対しては抵抗してロッキングを防止できるようにした免震システムのロッキング防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
請求項1の発明は、免震対象物の下部に設けた複合体のシリンダ加圧室とアキュムレータとに接続した複数のロッキング抑制シリンダのピストンを連結ロッドにより連結して免震対象物の周縁に沿って配置したシリンダ連結体と、該シリンダ連結体の端部同士を接続して一方の連結ロッドの移動負荷を他方の連結ロッドに伝える移動同期装置とを有するロッキング防止装置と、
免震対象物の下部に複数配置した3次元免震装置と
からなる免震システムの前記ロッキング防止装置であって、
前記シリンダ連結体における各ロッキング抑制シリンダに、ピストンの両側の液室を流量を制限して連通し得る制限連通手段を備えたことを特徴とする免震システムのロッキング防止装置、に係るものである。
【0028】
請求項2の発明は、前記3次元免震装置が、空気バネ免震装置であることを特徴とする請求項1に記載の免震システムのロッキング防止装置、に係るものである。
【0029】
請求項3の発明は、前記制限連通手段が、前記ピストンの両側の液室を連通するようにピストンに備えた小口であることを特徴とする請求項1又は2に記載の免震システムのロッキング防止装置、に係るものである。
【0030】
請求項4の発明は、前記制限連通手段が、前記ピストンの両側の液室を連通するようにピストンに備えた小口と、前記ピストンの両側の液室の液が自由に移動できるように連通する連通管と、該連通管に備えて液の移動を遮断できる開閉弁とからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の免震システムのロッキング防止装置、に係るものである。
【0031】
請求項5の発明は、前記制限連通手段が、前記ピストンの両側の液室の液が自由に移動できるように連通する連通管と、該連通管に備えて液の遮断と流量調節が可能な調整弁とからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の免震システムのロッキング防止装置、に係るものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明の免震システムのロッキング防止装置によれば、免震対象物の周縁下部の内側には複数の空気バネ免震装置を配置し、免震対象物の周縁には複合体とアキュムレータに接続されたシリンダ連結体と、該シリンダ連結体のロッド端部間を連結する移動同期装置とを備えたロッキング防止装置を配置したので、免震対象物の3次元免震とロッキングの防止とを同時に効果的に行うことができ、この時、前記空気バネ免震装置は従来の液圧免震装置に比して構成が簡略で安価であるために、多数の空気バネ免震装置を設置する必要がある特に原子炉設備のような大重量の免震対象物を支持する免震システムのロッキング防止装置においては、免震システムのロッキング防止装置の全体価格を従来に比して大幅に低減できる効果がある。
【0033】
更に、各ロッキング抑制シリンダに、ピストンの両側の液室を連通するようにピストンに備えた小口からなる制限連通手段を備えたので、ロッキングの発生による急激な液の流動は小口で抑えて連結ロッドへの急激な移動負荷に抵抗することでロッキングの抑制効果が発揮され、また、免震対象物の傾き調整時或いは温度変化による圧力変動によって生じるロッキング抑制シリンダと連結ロッドとの静的な相対移動に対しては、液が小口を少量ずつ流れることにより抑制効果が発揮されることなくピストンの両側の液室の圧力が同一に保持される。従って、簡単な構成にてピストンの両側の液室の液圧を同一に保持するための調整作業を省略できる効果がある。
【0034】
また、制限連通手段を、ピストンの両側の液室を連通するようにピストンに備えた小口と、前記ピストンの両側の液室の液が自由に移動できるように連通する連通管と、該連通管に備えて液の移動を遮断できる開閉弁とで構成したので、ロッキング防止を行う通常時に開閉弁を閉塞しておくと、ロッキングの発生による急激な液の流動は小口で抑えて連結ロッドへの急激な移動負荷に抵抗することでロッキングの抑制効果が発揮され、また、免震対象物の傾き調整時或いは温度変化による圧力変動によって生じるロッキング抑制シリンダと連結ロッドとの静的な相対移動に対しては、液が小口を少量ずつ流れることにより抑制効果が発揮されることなくピストンの両側の液室の液圧が同一に保持される。また、上記ロッキング抑制シリンダと連結ロッドが静的に相対移動する時に開閉弁を開けると、ピストンの両側の液室の液圧を直ちに同一にすることができる。従って、簡単な構成にてピストンの両側の液室の液圧を同一に保持するための調整作業を省略できる効果がある。
【0035】
また、制限連通手段を、ピストンの両側の液室の液が自由に移動できるように連通する連通管と、該連通管に備えて液の遮断と流量調節が可能な調整弁とで構成したので、ロッキング防止を行う通常時に調整弁の流量を小さく絞っておくと、ロッキングの発生による急激な液の流動は調整弁で抑えて連結ロッドへの急激な移動負荷に抵抗することでロッキングの抑制効果が発揮され、また、免震対象物の傾き調整時或いは温度変化による圧力変動によって生じるロッキング抑制シリンダと連結ロッドとの静的な相対移動に対しては、液が調整弁を少量ずつ流れることにより抑制効果が発揮されることなくピストンの両側の液室の液圧が同一に保持される。また、上記ロッキング抑制シリンダと連結ロッドが静的に相対移動する時に調整弁を大きく開けると、ピストンの両側の液室の液圧を直ちに同一にすることができる。従って、簡単な構成にてピストンの両側の液室の液圧を同一に保持するための調整作業を省略できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の好適な実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0037】
図1〜図5は、本発明の免震システムのロッキング防止装置の一例を示すもので、図1は本発明のロッキング防止装置を構成するシリンダ連結体の1つのロッキング抑制シリンダの一例を示す断面図、図2はロッキング抑制シリンダの他の例を示す断面図、図3はロッキング抑制シリンダの更に他の例を示す断面図、図4はロッキング防止装置と空気バネ免震装置による3次元免震装置とからなる免震システムの一例を示すコーナ部の平面図、図5は本発明の免震システムに用いる空気バネ免震装置の一例を示す切断正面図であり、図6〜図11と同一のものには同じ符号を付して詳細な説明は省略し、本発明の特徴部分についてのみ詳述する。
【0038】
本発明の免震システムのロッキング防止装置は、図4に示す如く、免震対象物4の周縁より内側の下部に、免震対象物4を基礎1上に支持するための3次元免震装置を配置する。図4では、3次元免震装置として図5に示すような構成を有する多数の空気バネ免震装置42を規則的に配置した場合を示しているが、図6に示した液圧免震装置M或いはその他の3次元免震が可能な装置を配置するようにしても良い。
【0039】
前記空気バネ免震装置42は、図5に示す如く、積層ゴム2からなる水平免震手段43と空気ばね室44a,44bからなる垂直免震手段45とを直列に連結している。垂直免震手段45は、補助タンクとしての空気ばね室44aを備えた作動体46に嵌合して昇降する外筒47を備えており、外筒47の内部には、空気ばね室44bを画成するダイヤフラム48が備えてあり、ダイヤフラム48内に画成された空気ばね室44bは前記補助タンクとしての空気ばね室44aとオリフィス45aを介して連通している。図5中55は、空気圧配管56を介して前記空気バネ免震装置42の空気バネ室44bに接続した空気圧縮機である。
【0040】
更に、前記免震対象物4の周縁下部には、図4に示す如くロッキング防止装置41を配置する。ロッキング防止装置41は、前記図7と同様に両ロッド型の複数のロッキング抑制シリンダ15のピストン16を連結ロッド17で直線状に連結した構成を有するシリンダ連結体26を、免震対象物4の周縁(四周)下部に配置している。更に、図8の構成を有する複合体39を、前記シリンダ連結体26を挟むように2列に配置し、この複合体39を4個1組のブロック19(19a,19b,19c,19d)に区画して、各ブロック19における各荷重支持シリンダ3のシリンダ加圧室8に接続した作動液配管9を、対応するロッキング抑制シリンダ15(15a,15b,15c,15d)の一側の液室Aに接続し、また、各ロッキング抑制シリンダ15a,15b,15c,15dの他側の液室Bにアキュムレータ25を接続している。更に、免震対象物4のコーナ部において、前記各シリンダ連結体26の端部間を移動同期装置18で連結し、これによりロッキング防止装置41を構成している。
【0041】
上記したように、免震対象物4の周縁下部の内側に配置した複数の空気バネ免震装置42と、免震対象物4の周縁下部に沿って配置したロッキング防止装置41とで構成した免震システムにより、免震対象物4は3次元免震されると同時にロッキングが防止される。
【0042】
しかし、前記ロッキング防止装置41を構成するシリンダ連結体26の複数のロッキング抑制シリンダ15は、免震対象物4の設置時等における免震対象物4の傾き調整時、或いは温度変化によりロッキング抑制シリンダ15のピストン16を挟む液室A,Bの液圧が変動した場合には、前記液室A,Bを連通させてロッキング抑制シリンダ15に対する連結ロッド17の移動を許容し、また、免震対象物4のロッキング発生時には急激な液の流動を抑えて連結ロッドへの急激な移動負荷に抵抗することでロッキングの抑制効果を発揮する構成とする必要がある。
【0043】
このため、本発明では、図1〜図3に示すように、シリンダ連結体26に複数備えられる各ロッキング抑制シリンダ15に、ピストン16の両側の液室A,Bを流量を制限して連通するようにした制限連通手段50を備えている。
【0044】
図1の制限連通手段50は、前記ピストン16の両側の液室A,Bを連通するようにピストン16に小口51を形成した場合を示す。この小口51は、ロッキングの発生による急激な液の流動は抑えてロッキングの抑制効果を発揮し、免震対象物4の傾き調整時或いは温度変化による圧力変動によって生じるロッキング抑制シリンダ15と連結ロッド17の静的な相対移動に対しては液を少量ずつ流すことで抑制効果を発揮させない大きさとする。
【0045】
図2に示す制限連通手段50は、前記図1に示したピストン16に小口51を形成する構成に加えて、ロッキング抑制シリンダ15の外部に、前記ピストン16の両側の液室A,Bを、該液室A,Bの液が自由に移動できるように連通する連通管52と、該連通管52に備えて液の移動を遮断できる開閉弁53とにより構成している。尚、連通管52は、ロッキング抑制シリンダ15に接続している液圧配管23,24、及び作動液配管9、並びにアキュムレータ25に接続する配管と干渉しない位置に設けている。
【0046】
図3に示す制限連通手段50は、前記ピストン16の両側の液室A,Bを、該液室A,Bの液が自由に移動できるように連通する連通管52と、該連通管52に備えて液の遮断と流量調節とが可能な調整弁54とにより構成している。
【0047】
以下に、上記形態例の作用を説明する。
【0048】
図4に示すように、免震対象物4の周縁下部の内側には複数の空気バネ免震装置42を配置し、免震対象物4の周縁下部には複数の複合体39と、シリンダ連結体26と、各シリンダ連結体26における免震対象物4のコーナ部の端部間を連結する移動同期装置18とからなるロッキング防止装置41を配置した免震システムによれば、安価な構成によって、空気バネ免震装置42による免震対象物4の3次元免震と、ロッキング防止装置41による免震対象物4のロッキング防止とを同時に効果的に達成することができる。
【0049】
この時、ロッキング防止装置41を構成するシリンダ連結体26の各ロッキング抑制シリンダ15に、図1の如く、ピストン16の両側の液室A,Bを連通するようにした小口51をピストン16に形成した制限連通手段50としているので、ロッキングの発生による急激な液の流動は小口51で抑えて連結ロッド17への急激な移動負荷に抵抗することでロッキングの抑制効果が発揮される。また、免震対象物4の傾き調整時或いは温度変化による圧力変動によって生じるロッキング抑制シリンダ15と連結ロッド17との静的な相対移動に対しては、液が小口51を少量ずつ流れることで抑制効果が発揮されることなくピストン16の両側の液室A,Bの圧力が同一に保持される。従って、簡単な構成にてピストン16の両側の液室A,Bの液圧を同一に保持するための調整作業を省略することができる。
【0050】
また、図2では、制限連通手段50を、ピストン16の両側の液室A,Bを連通するようにピストン16に備えた小口51と、前記ピストン16の両側の液室A,Bの液が自由に移動できるように連通する連通管52と、該連通管52に備えて液の移動を遮断できる開閉弁53とで構成しており、ロッキング防止を行う通常時には開閉弁53は閉塞しておく。図2の構成によれば、ロッキングの発生による急激な液の流動は小口51で抑えて連結ロッド17への急激な移動負荷に抵抗することでロッキングの抑制効果が発揮される。また、免震対象物4の傾き調整時或いは温度変化による圧力変動によって生じるロッキング抑制シリンダ15と連結ロッド17との静的な相対移動に対しては、液が小口51を少量ずつ流れることで抑制効果が発揮されることなくピストン16の両側の液室A,Bの液圧が同一に保持される。また、上記ロッキング抑制シリンダ15と連結ロッド17が静的に相対移動する時に開閉弁53を開けると、ピストン16の両側の液室A,Bの液圧を直ちに同一にすることができる。従って、簡単な構成にてピストン16の両側の液室A,Bの液圧を同一に保持するための調整作業を省略することができる。
【0051】
また、図3では、ピストン16の両側の液室A,Bの液が自由に移動できるように連通する連通管52と、該連通管52に備えて液の遮断と流量調節が可能な調整弁54とで制限連通手段50を構成しており、免震対象物4のロッキング防止を行う通常時は、調整弁54の開度は小さく絞っておく。図3の構成によれば、ロッキングの発生による急激な液の流動は調整弁54で抑えて連結ロッド17への急激な移動負荷に抵抗することでロッキングの抑制効果が発揮される。また、免震対象物4の傾き調整時或いは温度変化による圧力変動によって生じるロッキング抑制シリンダ15と連結ロッド17との静的な相対移動に対しては、液が調整弁54を少量ずつ流れることで抑制効果が発揮されることなくピストン16の両側の液室A,Bの液圧が同一に保持される。また、上記ロッキング抑制シリンダ15と連結ロッド17が静的に相対移動する時に調整弁54を大きく開けると、ピストン16の両側の液室A,Bの液圧を直ちに同一にすることができる。従って、簡単な構成にてピストン16の両側の液室A,Bの液圧を同一に保持するための調整作業を省略することができる。
【0052】
尚、本発明は上記形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明のロッキング防止装置における制限連通手段を備えたロッキング抑制シリンダの一例を示す断面図である。
【図2】他の制限連通手段を備えたロッキング抑制シリンダの断面図である。
【図3】更に他の制限連通手段を備えたロッキング抑制シリンダの断面図である。
【図4】ロッキング防止装置と空気バネ免震装置による3次元免震装置とからなる免震システムの一例を示すコーナ部の平面図である。
【図5】本発明の免震システムに用いる空気バネ免震装置の一例を示す切断正面図である。
【図6】従来の液圧免震装置の一例を示す切断側面図である。
【図7】従来の免震システムの一例を示す平面図である。
【図8】本発明にも用いられる従来の複合体の構成を示す切断側面図である。
【図9】ロッキング防止装置の一部を示す切断側面図である。
【図10】従来のロッキング防止装置の液圧系統図である。
【図11】従来の液圧免震装置を備えた免震対象物においてロッキングが生じる状態を示した側面図である。
【符号の説明】
【0054】
4 免震対象物
8 シリンダ加圧室
15,15a,15b,15c,15d ロッキング抑制シリンダ
16 ピストン
17 連結ロッド
18 移動同期装置
25 アキュムレータ
26 シリンダ連結体
39 複合体
41 ロッキング防止装置
42 空気バネ免震装置(3次元免震装置)
50 制限連通手段
51 小口
52 連通管
53 開閉弁
54 調整弁
A,B 液室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震対象物の下部に設けた複合体のシリンダ加圧室とアキュムレータとに接続した複数のロッキング抑制シリンダのピストンを連結ロッドにより連結して免震対象物の周縁に沿って配置したシリンダ連結体と、該シリンダ連結体の端部同士を接続して一方の連結ロッドの移動負荷を他方の連結ロッドに伝える移動同期装置とを有するロッキング防止装置と、
免震対象物の下部に複数配置した3次元免震装置と
からなる免震システムの前記ロッキング防止装置であって、
前記シリンダ連結体における各ロッキング抑制シリンダに、ピストンの両側の液室を流量を制限して連通し得る制限連通手段を備えたことを特徴とする免震システムのロッキング防止装置。
【請求項2】
前記3次元免震装置が、空気バネ免震装置であることを特徴とする請求項1に記載の免震システムのロッキング防止装置。
【請求項3】
前記制限連通手段が、前記ピストンの両側の液室を連通するようにピストンに備えた小口であることを特徴とする請求項1又は2に記載の免震システムのロッキング防止装置。
【請求項4】
前記制限連通手段が、前記ピストンの両側の液室を連通するようにピストンに備えた小口と、前記ピストンの両側の液室の液が自由に移動できるように連通する連通管と、該連通管に備えて液の移動を遮断できる開閉弁とからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の免震システムのロッキング防止装置。
【請求項5】
前記制限連通手段が、前記ピストンの両側の液室の液が自由に移動できるように連通する連通管と、該連通管に備えて液の遮断と流量調節が可能な調整弁とからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の免震システムのロッキング防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−342933(P2006−342933A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−171214(P2005−171214)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度、経済産業省、発電用新型炉技術確証試験(高速増殖炉技術確証試験)に関する委託業務、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【出願人】(000230940)日本原子力発電株式会社 (130)
【Fターム(参考)】