説明

免震建物

【課題】免震装置に作用する引抜力を緩和できながら、免震装置の固定部構造の簡単化と、免震装置の取付作業効率の向上を図る。
【解決手段】積層ゴム1aと、その上下に一体的に設けられたフランジ1bとを備えた免震装置1を、上部構造部B2と下部構造部B1との間に介在させてあり、免震装置1に上下方向の引張力が作用した時に自らの撓み変形によって引張力を緩和する引張力緩和部材Gが、上部構造部B2と下部構造部B1との少なくとも一方と免震装置1とにわたって取り付けてある免震建物において、上部構造部B2と下部構造部B1との少なくとも一方と、引張力緩和部材Gとが係合することによって双方の横方向への相対移動に抵抗を与える構造に形成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、高層建築のようにアスペクト比の大きい免震建物において、外力の作用で建物に横揺れが発生するに伴って、免震装置への鉛直荷重が一時的に引抜力となって作用するような場合があるが、その際の過大な引抜力を緩和して免震装置への負担を軽減する為に引張力緩和部材が設けられている免震建物に関し、更に詳しくは、積層ゴムと、その上下に一体的に設けられたフランジとを備えた免震装置を、上部構造部と下部構造部との間に介在させてあり、前記免震装置に上下方向の引張力が作用した時に自らの撓み変形によって前記引張力を緩和する引張力緩和部材が、前記上部構造部と前記下部構造部との少なくとも一方と前記免震装置とにわたって取り付けてある免震建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の免震建物としては、図6、図7に示すように、免震装置1を、鋼製のウイングプレート(引張力緩和部材に相当)20を介して基礎部(下部構造部に相当)B1に固定してあるものがあった(例えば、特許文献1参照)。
そして、前記ウイングプレート20は、その複数枚を、免震装置1の下側フランジ1bに対して放射線状に配置され、内縁側を前記下側フランジ1bに、外縁側を前記基礎部B1にそれぞれ多数のボルト21を使用して固定してあり、免震装置1に作用する引抜力を、前記ウイングプレート20の撓み変形によって緩和するものであった。
【0003】
【特許文献1】特開2006−226387号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の免震建物によれば、前記引張力緩和部材は、上下に撓み易いことが必須条件であり、その為に、厚みの薄いウイングプレートを使用しているが、免震装置による本来の横揺れに対する免震作用を発揮する為には、撓み易いウイングプレートで免震装置を取り付けていることは充分な支持力を確保する上で必ずしも好ましくはなく、この問題を解消するために、多数枚のウイングプレートを免震装置の周りに設け、しかも、充分な本数のボルトを使用して下側フランジとウイングプレート、及び、ウイングプレートと基礎とを連結固定する必要があった。
その結果、免震装置の固定部構造が複雑化し易く、且つ、多数のボルトを必要とするから、取付手間が掛かり、取付作業効率が低くなり易い問題点があった。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、免震装置に作用する引抜力を緩和できながら、免震装置の固定部構造の簡単化と、免震装置の取り付けの効率化を図り易い免震建物を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、積層ゴムと、その上下に一体的に設けられたフランジとを備えた免震装置を、上部構造部と下部構造部との間に介在させてあり、前記免震装置に上下方向の引張力が作用した時に自らの撓み変形によって前記引張力を緩和する引張力緩和部材が、前記上部構造部と前記下部構造部との少なくとも一方と前記免震装置とにわたって取り付けてある免震建物において、前記上部構造部と前記下部構造部との少なくとも一方と、前記引張力緩和部材とが、係合することによって双方の横方向への相対移動に抵抗を与える構造に形成してあるところにある。
【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、前記引張力緩和部材を設けてあることで、免震装置に作用する引抜力を緩和できるという効果を叶えながら、上部構造部(又は下部構造部)と前記引張力緩和部材との係合構造によって、双方の横方向への相対移動に抵抗を与えることが可能となるから、免震装置本来の横揺れに対する抗力をこの係合構造によって確保することができる。
従って、引張力緩和部材の取り付けは、免震装置への引抜力が作用した際に上下方向での支持力を確保できる程度に実施しておくだけでよくなり、横方向の支持力は、上述の係合構造によってその大半を確保することが可能となる。
その結果、免震装置の固定部構造を従来に比べて簡単化することが可能となり、且つ、簡単な作業で取り付けることができるようになるから、免震装置の取付作業効率が向上する。
そして、免震装置の固定に、従来のように多数のボルトを使用しなくても実施できるようになることから、材料コストの低減や、取付作業コストの低減によって経済性の向上を図ることが可能となる。
更には、引張力緩和部材は、上下の撓みを確保できる程度の最小限のもので構成することが可能となるから、従来のように、複数枚のウイングプレートを免震装置の周りに並べて設置するのに比べて省スペース化を図ることが可能となる。
【0008】
本発明の第2の特徴構成は、前記引張力緩和部材は、門型となる複数の鉄骨部材で構成してあり、門型の脚部が、対応する前記構造部に固着してあり、門型の梁部の中間部に前記免震装置が取り付けてあり、対応する前記構造部は、前記引張力緩和部材の門型内空に係合する凸型形状に形成してあるところにある。
【0009】
本発明の第2の特徴構成によれば、本発明の第1の特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、複数の鉄骨部材を門型に構成するだけで引張緩和部材を構成することができるから、簡単に、部材調達ができやすく、且つ、形状が簡単であるから形成し易い。そして、同様のことが、引張緩和部材と係合する構造部の形成に関してもいえ、免震装置設置部分の形成効率の向上を図ることが可能となる。
また、門型に引張緩和部材を形成するにあたり、門型の梁部は、引抜力の作用に伴って上下に撓み易い材質の部材を使用し、門型の脚部は、横揺れ時に強力に免震装置を指示できる材質の部材を使用する等の部材の組み合わせも簡単に行うことが可能となり、より機能の向上を図ることが可能となる。
【0010】
本発明の第3の特徴構成は、前記引張緩和部材は、前記免震装置に対する引張力の作用に伴う撓み変形が、弾性域となるように部材設計してあるところにある。
【0011】
本発明の第3の特徴構成によれば、本発明の第1又は2の特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、例えば、地震等が発生して引張力が引張緩和部材に作用しても、その際の変形は弾性域内におさまり、前記引張緩和部材を取り替える等の手間が無くなり、引き続く余震が発生しても安全を維持することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。尚、図面において従来例と同一の符号で表示した部分は、同一又は相当の部分を示している。
【0013】
図1は、本発明の免震建物の一実施形態である高層建物Bを示すもので、高層建物Bは、基礎部(下部構造部の一例)B1の上に、免震層Mを介して建物部(上部構造部の一例)B2を設けて構成されている。
そして、地震の横揺れに対しては、前記免震層Mによって横方向の振動を緩和することで、建物部B2に大きな地震力が作用しないように構成されている。
また、建物が縦長であることから、横揺れに伴って、建物部B2の下端部には、幅方向での一端部と他端部とに上下方向の偶力が作用することが想定される。この上下方向の偶力は、建物の横揺れの方向が替わるのに連れて作用方向が上下反転し、例えば、建物部の下端部での幅方向一端部に押圧力が作用すれば、他端部には引抜力が作用し、他端部に押圧力が作用すれば、一端部に引抜力が作用することとなる。
そして、免震層Mは、鉛直方向での押圧力に対する耐力に比べて引張力に対する耐力は低いことから、当該高層建物Bには、免震層Mに上下方向の引張力が作用した時に自らの撓み変形によって前記引張力を緩和する引張力緩和部材Gが設けてあり、免震層Mの保護が図られている。
【0014】
前記免震層Mは、図2に示すように、前記建物部B2の複数の柱位置の下方にそれぞれ設置された免震装置1によって構成されている。尚、免震装置1の下方側には、前記基礎部B1の杭が配置されており、当該免震装置1を介して建物部B2の荷重を基礎部B1で支持している。
各免震装置1は、例えば、複数の金属製薄板とゴム製薄板とを交互に積層させて一体化してある積層ゴム1aと、その積層ゴム1aの上下端面部にそれぞれ一体的に設けられた金属製固定板(フランジに相当)1bとを備えて構成された所謂「積層ゴム型」のもので、平面形状は、円形に形成してある。
そして、前記金属製固定板1bを、前記建物部B2、及び、基礎部B1にそれぞれボルト固定によって取り付けられている。
尚、上側の金属製固定板1bは、直接に建物部B2に固定されているのに対して、下側の金属製固定板1bは、基礎部B1上に取り付けられた前記引張力緩和部材Gを介して基礎部B1に固定されている。
【0015】
前記基礎部B1の免震装置1を取り付ける部分は、図2、図3に示すように、免震装置1の外径よりも大きな辺寸法の矩形の台座状部2として基礎部B1と一体的に形成されている。
【0016】
前記引張力緩和部材Gは、例えば、H形鋼等の鉄骨部材を組み合わせて一体に形成してあり、前記台座状部2の周部に外嵌する形状に構成してある。
具体的には、図3に示すように、「井」の字形状に形成された梁部G1と、その梁部G1の各端部から下方に延びる脚部G2とを備えて構成されており、前記脚部G2を前記基礎部B1にボルト固定してある。引張力緩和部材Gの基礎部B1へのボルト固定は、基礎部B1の前記台座状部2の側面部2aと、台座状部2周りに広がる基礎平面部3とにそれぞれ設置されたアンカーによって実施されている(図2参照)。
一方、前記梁部G1上には、前記免震装置1の下側の金属製固定板1bがボルトによって固定してある。
基礎部B1に外嵌させた状態の引張力緩和部材Gは、図2に示すように、台座状部2の正面視(又は側面視)において、門型形状を成し、脚部G2が基礎部B1に固定されていることから、免震装置1に引抜力が作用すると、引張力緩和部材Gの門型形状が撓み変形することで免震装置1に作用する引張力を緩和することができる(図4参照)。
因みに、前記引張力緩和部材Gそのものは、例えば、低降伏点鋼等の材料によって形成してあり、前記免震装置1よりも鉛直剛性が低くなるように構成してある。
尚、免震装置1から下方へ伝わる建物部B2の荷重は、前記引張力緩和部材Gから基礎部B1に伝わることに加えて、図2に示すように、免震装置1の下側の金属製固定板1bの下面が、前記台座状部2上面に形成された凸部2bに接当して、その接当面からも直接に伝わる。
従って、免震層Mに作用する鉛直力と変位との関係は、図5に示す通りで、本実施形態の免震建物の場合(図中の実線)は、例えば、免震装置1を基礎部B1と建物部B2とに直接に固定してある場合(図中の破線)に比べて免震層Mに作用する引張力を著しく低下させることが可能となる。
ここで、免震層全体の上下引張方向の鉛直剛性:Kは、免震装置の上下引張方向の鉛直剛性:Kvと、引張力緩和部材の鉛直剛性:Kbとから次の式によって求めることができ、当該実施形態においては、K<Kvとなるように設定されている。
K=Kv・Kb/(Kv+Kb)
【0017】
また、基礎部B1と、引張力緩和部材Gとは、台座状部2と脚部G2との係合効果、及び、凸部2bと梁部G1との係合効果によって、横方向の振動に関しては免震装置1を基礎部B1に対して確実に支持することが可能となる(図4参照)。
【0018】
本実施形態の免震高層建物によれば、免震装置によって横方向の地震力が建物部B2に伝わり難くできながら、引張緩和部材Gによって横揺れに伴う免震層Mへの引張力を低減することができ、更には、免震装置の取付部分の構造の簡単化、及び、省スペース化を共に叶えることができるようになる。
【0019】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0020】
〈1〉 当該免震建物は、先の実施形態で説明した基礎部B1の上に免震層Mが形成されている構造に限るものではなく、例えば、中間層に免震層Mが形成されているものであってもよい。
〈2〉 前記引張緩和部材は、先の実施形態で説明した材質や形状に限るものではなく、例えば、梁部G1の平面形状が「井」の字のようなもの以外にも、三角形形状に鉄骨部材を組み付けたものであってもよい。
そして、前記引張緩和部材は、前記免震装置に対する引張力の作用に伴う撓み変形が、弾性域となるように部材設計してあってもよい。
〈3〉 前記引張緩和部材は、先の実施形態で説明したように、下部構造部B1と免震装置1とにわたって取り付けてあるものに限るものではなく、例えば、上部構造部B2と免震装置1とにわたって取り付けてあったり、又は、下部構造部B1と免震装置1、及び、上部構造部B2と免震装置1との何れの間にも設けてあってもよく、要するに、上部構造部B2と下部構造部B1との少なくとも一方と免震装置1とにわたって取り付けてあればよい。
【0021】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】免震建物を示す一部切欠き正面図
【図2】免震層の要部を示す正面視断面図
【図3】免震層の要部を示す平面図
【図4】引張力緩和部材の変形状況を示す正面視模式図
【図5】鉛直力と変位の関係を示す説明図
【図6】従来の免震層を示す要部正面図
【図7】従来の免震層を示す要部平面図
【符号の説明】
【0023】
1 免震装置
1a 積層ゴム
1b 金属製固定板(フランジに相当)
B1 基礎部(下部構造部の一例)
B2 建物部(上部構造部の一例)
G 引張力緩和部材
G1 梁部
G2 脚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層ゴムと、その上下に一体的に設けられたフランジとを備えた免震装置を、上部構造部と下部構造部との間に介在させてあり、前記免震装置に上下方向の引張力が作用した時に自らの撓み変形によって前記引張力を緩和する引張力緩和部材が、前記上部構造部と前記下部構造部との少なくとも一方と前記免震装置とにわたって取り付けてある免震建物であって、
前記上部構造部と前記下部構造部との少なくとも一方と、前記引張力緩和部材とが、係合することによって双方の横方向への相対移動に抵抗を与える構造に形成してある免震建物。
【請求項2】
前記引張力緩和部材は、門型となる複数の鉄骨部材で構成してあり、門型の脚部が、対応する前記構造部に固着してあり、門型の梁部の中間部に前記免震装置が取り付けてあり、対応する前記構造部は、前記引張力緩和部材の門型内空に係合する凸型形状に形成してある請求項1に記載の免震建物。
【請求項3】
前記引張緩和部材は、前記免震装置に対する引張力の作用に伴う撓み変形が、弾性域となるように部材設計してある請求項1又は2に記載の免震建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−121042(P2009−121042A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293270(P2007−293270)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】