説明

共重合ポリエステルペレットの製造方法と製造装置

【課題】 水分率の低い非晶性の共重合ポリエステルペレットを操業性よく製造することができる共重合ポリエステルペレットの製造方法と、この製造方法で使用するのに好適な製造装置を提供する。
【解決手段】 主たるジカルボン酸成分がテレフタル酸、主たるジオール成分がエチレングリコールであり、共重合成分としてイソフタル酸を5〜50モル%含有する共重合ポリエステルからなる溶融ポリマーをストランド9状に押し出し、冷却、固化した後、切断してペレット11を製造する。その際、溶融ポリマーを温度が30℃以下の冷却水中にストランド9状に押し出し、冷却した後に切断し、連続的に50〜100℃の温水中で1〜60秒間熱処理し、熱処理後のペレット11の水分率を500ppm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分率が低く、熱接着性を有する共重合ポリエステルペレットの製造方法と製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維、特にポリエチレンテレフタレート等のポリエステル繊維は、その優れた寸法安定性、耐候性、機械的特性、耐久性、さらにはリサイクル性等から、衣料、産業資材として不可欠のものとなっており、様々な分野において、ポリエステル繊維が多く使用されている。
【0003】
近年、自動車用内装材において、繊維を接着して形成した不織構造物が提案されており、さらにこれを補強する目的で不織構造物同士を接着させて用いることがある。このように不織構造物同士を接着させる際には、不織構造物と不織布構造物の間に熱接着性を有するポリマーの繊維からなる不織布を介在させ、熱処理を施すことにより両不織構造物を接着させる。このような接着性を有する不織布としては、不織構造物が主としてポリエステル系繊維からなるため、リサイクルの観点よりポリエステル系重合体からなるものが好適である。
【0004】
そして、このような接着性を有する不織布に用いる共重合ポリエステルとしては、例えば、イソフタル酸を共重合した非晶性のポリエステルが主に用いられている。
この共重合ポリエステルは、一般的に通常のポリエステルと同様に、重縮合反応装置で所定の重合度まで重縮合反応した後、重縮合反応缶から溶融ポリマーをストランド状に押し出し、冷却水で冷却、固化した後、切断してペレットを製造する。
【0005】
この際、脱水機等を通過させるため、ペレット中の水分率をある程度、低減させることはできるが、一般に平衡水分率の2000〜3000ppm程度である。
しかし、水分率が2000〜3000ppm程度のペレットを用いて繊維化する場合、製糸工程の前工程の乾燥工程で、ペレットの水分率を製糸工程で加水分解しないように
ppm程度に下げる必要があり、一般的には、加熱媒体に水蒸気等を用いたジャケット加熱式の減圧乾燥機を用いて、加熱・減圧乾燥を実施する。
【0006】
しかし、この共重合ポリエステルは非晶性であるため、ポリマーの水分除去に必要な100℃程度の温度に昇温すると、ペレット同士が融着やブロッキングを起こすおそれがある。この問題を解決するために、一般的には低温で長時間の熱処理を施しているが、乾燥工程の生産サイクルが極端に長くなるという問題がある。
【0007】
また、前述したように、あるいは例えば特許文献1に記載のように、ペレットは、溶融ポリマーをストランド状に押し出し、冷却水で冷却、固化した後、切断して得るため、ペレットの製造装置(ペレタイザー)には熱処理装置がなく、冷却した後のペレットを連続して熱処理することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−138533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の問題を解決し、水分率が低く、製糸工程の前工程である乾燥工程に要する時間を短縮できる非晶性の共重合ポリエステルペレットを、操業性よく製造することができる共重合ポリエステルペレットの製造方法と製造装置を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、次の構成を要旨とするものである。
(1)主たるジカルボン酸成分がテレフタル酸、主たるジオール成分がエチレングリコールであり、共重合成分としてイソフタル酸を5〜50モル%含有する共重合ポリエステルからなる溶融ポリマーをストランド状に押し出し、冷却、固化した後、切断してペレットを製造するに際し、溶融ポリマーを温度が30℃以下の冷却水中にストランド状に押し出し、冷却した後に切断し、連続的に50〜100℃の温水中で1〜60秒間熱処理し、熱処理後のペレット水分率を500ppm以下とすることを特徴とする共重合ポリエステルペレットの製造方法。
(2)重縮合缶から吐出されるストランドを冷却水で冷しながらペレットに切断して冷却するためのペレタイザーと、ペレタイザーで冷却されたペレットを温水で熱処理するための熱処理装置と、熱処理されたペレットの水分率を調整するための脱水機とを具備することを特徴とする共重合ポリエステルペレットの製造装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の共重合ポリエステルペレットの製造方法によれば、水分率が低い非晶性の共重合ポリエステルのペレットを、カッター刃への接着による切断不能や、ペレット同士の融着、連ペレット発生等の問題を生じることなく、操業性よく安定的に得ることができる。そして、本発明で得られるペレットは水分率が極めて低いため、製糸工程の前工程である乾燥工程に要する時間が短くなり、乾燥工程で受ける熱履歴が少なく、共重合ポリエステルの熱分解が抑制されるばかりか、生産サイクルを短くすることが可能となる。
また、本発明の共重合ポリエステルペレットの製造装置を使用すれば、上記の利点を有するペレットを安定して製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の共重合ポリエステルペレットの製造方法で使用する共重合ポリエステルは、テレフタル酸(以下、TPAとする)を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコール(以下、EGとする)を主成分としたジオール成分、共重合成分として、イソフタル酸(以下、IPAとする)を5〜50モル%添加した共重合ポリエステルで構成されるものである。
【0013】
なお、TPAやIPA以外の(共重合)酸成分としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等に例示される飽和脂肪族ジカルボン酸又はこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等に例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸又はこれらのエステル形成性誘導体、フタル酸、イソフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ビフェニルジカルボン酸等に例示される芳香族ジカルボン酸又はこれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
【0014】
次に、EG以外のジオール成分には、本発明の効果を損なわない範囲で、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等に例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコール等に例示される芳香族グリコールを用いることができる。
【0015】
また、上記の共重合ポリエステル中には、本発明の効果を損なわない範囲で、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤等の各種添加剤を1種類又は2種類以上添加してもよい。
【0016】
本発明では、上記した共重合ポリエステルからなる溶融ポリマーを冷却水中にストランド状に押し出し、冷却しながらペレット状に切断する必要がある。ここで使用する冷却水の温度は30℃以下、好ましくは20℃以下、より好ましくは15℃以下であることが必要である。冷却水の温度が30℃を超えるとストランドの冷却が不十分となり、カッター刃に接着して切断不能になる。
【0017】
次に、上記で得られたペレットに対して連続的に温水での熱処理を施すが、ここで使用する温水の温度は50〜100℃、特に60〜90℃が好ましい。温水の温度が50℃未満では結晶化が不十分で連ペレットの発生があり、ペレットの水分率も500ppm以下とはならない。一方、100℃を超えるとペレットの融点に近づき、ペレット同士の融着が懸念され、エネルギー的にも不利である。
【0018】
また、ペレットの熱処理時間は1〜60秒であることが必要であり、好ましくは5〜30秒である。熱処理時間が1秒未満では、ペレットに熱が伝わらないため熱処理の効果は発揮せず、60秒を超えるとペレット表面の融解が徐々に発現し、連ペレットになりやすい。
【0019】
熱処理後のペレットには、引き続いて脱水処理を施し、目的とする水分率が500ppm以下、好ましくは320ppm以下のペレットを得る。ペレットの水分率が500ppmを超えると、製糸工程の前工程である乾燥工程に要する時間が長くなり、共重合ポリエステルの熱分解が生じやすくなる。
【0020】
本発明において、得られるペレットの大きさは特に限定されるものではないが、平均粒径は0.5mm以上が好ましく、後工程での操業性等を考慮すると、0.6〜8.0mm程度の大きさがさらに好ましい。なお、平均粒径の測定は、JIS K0069記載の乾式ふるい分け試験法に準じて行うものである。
【0021】
次に、本発明の共重合ポリエステルペレットの製造装置について説明する。本発明の製造装置は、重縮合缶から吐出されるストランドを冷却水で冷しながらペレットに切断して冷却するためのペレタイザーと、ペレタイザーで冷却されたペレットを温水で熱処理するための熱処理装置と、熱処理されたペレットの水分率を調整するための脱水機とを具備するものである。
【0022】
図1は、本発明の製造装置の一実施態様を示す概略図である。図1においては、3はペレタイザー、12は熱処理装置、4は脱水機である。ペレタイザー3には、その上部に冷却水入りバルブ5が、下部に冷却水戻りバルブ6が設けてある。また、熱処理装置12の上流側に温水入りバルブ7が、下流側に脱水機4、脱水機4の下方に温水戻りバルブ8が設けてある。また、図中、1は重縮合缶、2は払出弁、9はストランド、10は冷却後のペレット、11は熱処理及び脱水後のペレットを示す。
【0023】
重縮合缶1からの溶融ポリマーは、窒素ガス等の不活性ガスで加圧され、払出弁2を開放して、任意のノズル等を介して、ストランド9の状態でペレタイザー3に供給される。ペレタイザー3には、冷却水入りバルブ5から所定の温度に調整された冷却水が供給され、回転刃等により所定の長さに切断してペレット10となる。供給された冷却水は、冷却水戻りバルブ6を経由してペレタイザー3より排出される。
【0024】
次いで、ペレット10は、熱処理装置12に供給される。熱処理装置12には、温水入りバルブ7から所定の温度の温水が供給され、温水戻りバルブ8から排出される。熱処理装置12での熱処理時間は、温水入りバルブ7の開度や供給圧力などで任意に制御可能である。
温水による熱処理と脱水機4による脱水処理が施され、水分率が500ppm以下となったペレット11は次工程に払い出される。
【0025】
本発明の共重合ポリエステルペレットの製造装置を使用すれば、カッター刃への接着による切断不能や、ペレット同士の融着、連ペレット発生等の問題を生じることなく、共重合ポリエステルペレットを操業性よく安定的に得ることができるという本発明の製造方法を容易に実施することが可能となる。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において、各種の特性値等の測定、評価は、次に示す方法で行なった。
(1)極限粘度〔η〕
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で測定した。
(2)カッターの操業性
ストランドを 時間連続してペレット化する際の操業性、すなわち、カッターの電流値上昇による自動停止回数によって次の2段階で評価した。
○:自動停止回数が0回、×:自動停止回数が1回以上又は融着により切断不良
(3)ペレットの水分率
三菱ケミカル社製水分計VA−100を使用して、共重合ポリエステルペレット3gを秤量し、温度160℃、測定時間15分で測定した。
(4)連ペレットの有無
目視にて連ペレットの有無を判断した。
【0027】
実施例1
エステル化反応缶に、TPAとEGのスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化反応率95%の反応物を得た。この反応物を重縮合反応缶1に移送し、IPAを重縮合反応缶1に投入し、温度240℃、常圧下で1時間攪拌した。次に、重縮合触媒として三酸化アンチモン、艶消し剤として二酸化チタンをそれぞれ重縮合缶1に投入した後、缶内の圧力を徐々に減じ、撹拌しながら重縮合反応を約3時間行い、極限粘度0.95の共重合ポリエステルを得た。
【0028】
重縮合缶1を窒素ガスで0.8MPaに加圧し、払出弁2を介し、直径4mmの吐出孔を20個有するノズルから押し出し、ストランド9の状態で、ペレタイザー3(オートマティック社製USG−300)を用い、冷却水入りバルブ5から、温度4℃の冷却水を供給し、ストランド9を冷却しながら所定の長さに切断してペレット10とした。次いで、熱処理装置12で、温水入りバルブ7から温度82℃の温水(熱水)を供給し、熱処理時間5秒の条件でペレット10を熱処理した後、脱水機4でペレット表面の水分等を脱水して、熱処理及び脱水後のペレット11を得た。
【0029】
実施例2〜3、比較例1〜3
IPAの共重合量やペレット化の条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてペレット11を得た。
【0030】
実施例1〜3、比較例1〜3における共重合ポリエステルの性状とペレット化条件及び評価結果を併せて表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から明らかなように、実施例1〜3では、カッターが停止することがなく操業性よく共重合ポリエステルのペレットを得ることができ、ペレットの水分率は500ppm以下で、融着等による連ペレットの発生もなかった。
一方、比較例1は、冷却水の温度が高かったため操業性が悪く、連ペレットも発生した。また、比較例2は、熱処理を施さなかったため連ペレットが多く、かつ、ペレットの水分率も高かった。さらに、比較例3は、熱処理時間が長かったため、熱処理中にペレットが融着して装置内から払い出すことができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の共重合ポリエステルペレットの製造装置の一実施態様を示す概略図である。
【符号の説明】
【0034】
1 重縮合缶
2 払出弁
3 ペレタイザー
4 脱水機
5 冷却水入りバルブ
6 冷却水戻りバルブ
7 温水入りバルブ
8 温水戻りバルブ
9 ストランド
10 ペレット
11 熱処理及び脱水後のペレット
12 熱処理装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たるジカルボン酸成分がテレフタル酸、主たるジオール成分がエチレングリコールであり、共重合成分としてイソフタル酸を5〜50モル%含有する共重合ポリエステルからなる溶融ポリマーをストランド状に押し出し、冷却、固化した後、切断してペレットを製造するに際し、溶融ポリマーを温度が30℃以下の冷却水中にストランド状に押し出し、冷却した後に切断し、連続的に50〜100℃の温水中で1〜60秒間熱処理し、熱処理後のペレット水分率を500ppm以下とすることを特徴とする共重合ポリエステルペレットの製造方法。
【請求項2】
重縮合缶から吐出されるストランドを冷却水で冷しながらペレットに切断して冷却するためのペレタイザーと、ペレタイザーで冷却されたペレットを温水で熱処理するための熱処理装置と、熱処理されたペレットの水分率を調整するための脱水機とを具備することを特徴とする共重合ポリエステルペレットの製造装置。


【図1】
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【公開番号】特開2011−1460(P2011−1460A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145463(P2009−145463)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】