説明

内接歯車オイルポンプ

【課題】回転伝達部材が装着されたシャフトに種々の外力がかかっても傾斜状態とならず、軸受部の偏摩耗を防止し、部品寿命を長くし、耐久性の良好な内接歯車オイルポンプとすること。
【解決手段】カバー部2と、軸受部と、ボディ部1と、ポンプ室、吸入ポート3、吐出ポート4を有するポンプハウジングAと、回転自在に片持支持されたシャフト8と、回転伝達車6と、回転駆動部7とが備えられた内接歯車オイルポンプにおいて、回転伝達車は、カバー部側よりもボディ部1側に近接する位置に配置され、軸受部12はシャフトの中間に配置され、シャフトの他端側に前記接触圧力によって生じる曲げモーメントに対して、シャフトの一端側に反対方向の曲げモーメントが発生するように、吸入ポートと吐出ポートとが前記接触圧力の方向に沿ってポンプハウジングに配置されること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ内部のロータ及びポンプ外部の歯車,ベルト車等の回転伝達部材が装着されたシャフトに種々の外力がかかっても傾斜状態とならず、シャフトの軸受部に生じる偏摩耗を防止し、部品寿命を長くし、耐久性の良好な内接歯車オイルポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
オイルポンプは、内接歯車機構を具備したものが多く、ポンプハウジングから外部にシャフトの一部が露出し、その軸端に歯車又はベルト車等の回転伝達車が装着されている。そして、回転伝達車とは別の歯車又はベルト機構等によって、回転伝達車に回転が伝達されると共に、回転伝達車によって、ポンプハウジング内部のロータがシャフトより回転が伝達されて回転動作を行うものである。このようなオイルポンプとして特許文献1が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭63−141885号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では片持ち支持タイプの内接ギヤ形オイルポンプが開示されたものである。特許文献1の説明において、本発明の説明と区別するために符号には括弧を付しておく。特許文献1では、ポンプハウジング(20)と、該ポンプハウジング(20)に固定された蓋部材(21)から構成されたものである。ポンプハウジング(20)と蓋部材(21)の間にはギヤ室(22)が形成され、外歯のドライブギヤ(23)(いわゆるインナーロータ)、内歯のドリブンギヤ(24)(いわゆるアウターロータ)が収納されている。
【0005】
ポンプハウジング(20)には、支持穴(25)が形成され、該支持穴(25)にはメタル部材(28)が取り付けられ、回転シャフト(26)が回転自在に軸支されている。回転シャフト(26)の一端にはプーリ(27)(以下、回転駆動部材と称する)が取り付けられ、この回転駆動部材は動力伝達部材(タイミングベルト等)によって回転駆動する。第1図左側より、回転駆動部材、ポンプハウジング(20)、ギヤ室(22)、蓋部材(21)という配置になっている。
【0006】
回転シャフト(26)の他端にはドライブギヤ(23)が回転シャフト(26)の回転方向に回り止めされて取り付けられている。第1図に記載されているように、ポンプハウジング(20)と蓋部材(21)各々に、同じ面積且つ同じ形状の吸入ポート(30)及び吐出ポート(31)が形成されている。これらにより、ポンプハウジング(20)側と蓋部材(21)側の軸方向両方から同じ力が加わり、ロータ側面にかかる吸入圧と吐出圧はそれぞれ相殺され、ロータ径方向にのみドライブギヤ(23)の歯とドリブンギヤ(24)の歯の間の空間である歯間空間内の吸入圧と吐出圧が加わることになる。
【0007】
回転駆動部材には、ベルトが巻き掛けされることにより、ベルトテンションFBがかかっている。そして、吐出ポート(31)は、回転駆動部材による回転シャフト(26)のベルトテンションFBがかかる方向とは逆方向となる位置に形成されている(第2図参照)。すなわち、回転シャフト(26)にかかるベルトテンションFBを下向きとした場合、吐出ポート(31)は、回転シャフト(26)に対して上方側に形成されている。吐出ポート(31)が上方側に形成されるため、吸入ポート(30)は、回転シャフト(26)に対し下方側に形成されている。
【0008】
吐出ポート(31)の吐出圧がドライブギヤ(23)とドリブンギヤ(24)の歯間空間に加わることにより、ドライブギヤ(23)の径方向には回転シャフト(26)の傾き方向(ベルトテンションFBの方向)と同じ方向の押圧力FPが加わる(第3図参照)。逆にドリブンギヤ(24)の径方向には回転シャフト(26)の傾き方向FBと逆方向の押圧力が加わる。換言すれば、第3図の吐出ポート(31)においてプラスの圧力が発生することで、ドライブギヤ(23)には第3図に示されているように下向きの押圧力FPがかかり、ドリブンギヤ(24)には第3図で見ると上向きの押圧力がかかることになる。
【0009】
そして、下方に移動しようとするドライブギヤ(23)に対し、ドリブンギヤ(24)は上に移動しようとするので、ロータにはその径方向に加わる力が相互に打ち消し合い、押圧力FPによる回転シャフト(26)の傾き抑制効果は実際には僅かなものとなり、回転シャフト(26)の傾きを水平状態に維持することは、困難である。よって、支持穴(25)に取り付けられたメタル部材(28)の一部に荷重が集中し、偏摩耗が生じる。本発明の目的(解決しようとする技術的課題)は、極めて簡単な構成にて、ロータと回転伝達車とを装着したシャフトの軸受に対する偏荷重を抑制して、軸受の偏摩耗を防止し、ひいては、耐久性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、カバー部と軸受部が形成されたボディ部とからなり且つポンプ室と吸入ポートと吐出ポートを有するポンプハウジングと、前記軸受部のみで回転自在に片持支持されたシャフトと、該シャフトの一端に固定され、前記ポンプ室内に回転自在に配置されたインナーロータと、該インナーロータの外周側に配置され、前記ポンプ室内に配置されたアウターロータと、前記シャフトの他端に回転伝達車と該回転伝達車に対して接触圧力を有しつつ回転を伝達する回転駆動部とが備えられた内接歯車オイルポンプにおいて、前記回転伝達車は、前記カバー部側よりも前記ボディ部側に近接する位置に配置され、前記軸受部は前記シャフトの中間に配置され、該シャフトの他端側に前記接触圧力によって生じる曲げモーメントに対して、前記シャフトの一端側に反対方向の曲げモーメントが発生するように、前記吸入ポートと前記吐出ポートとが前記接触圧力の方向に沿って前記ポンプハウジングに配置されてなる内接歯車オイルポンプとしたことにより、上記課題を解決した。
【0011】
請求項2の発明を、請求項1において、前記軸受部の軸芯を基準中心として、前記接触圧力の圧力方向と同一方向で且つ前記軸芯を通過する線上に跨るように前記吐出ポートが配置され、前記接触圧力の圧力方向と逆方向で且つ前記軸芯を通過する線上に跨るように前記吸入ポートが配置され、前記カバー部には前記吸入ポート及び前記吐出ポートが形成され、前記カバー部には前記吸入ポートに連通する吸入流路と、前記吐出ポートに連通する吐出流路とが形成されてなる内接歯車オイルポンプとしたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明では、回転伝達車は回転駆動部から適正な接触圧力をうけているが、この接触圧力によって曲げモーメントM1が作用する。これに対して、ポンプハウジング内のインナーロータ側に反対方向の曲げモーメントが発生するように、前記吸入ポートと前記吐出ポートとを前記接触圧力の方向に沿って前記ポンプハウジングに配置したものである。この二つの曲げモーメントは互いにシャフトを反対方向に傾けようとするものであり、互いに傾き方向の動作を打ち消し合うように作用するので、シャフトの傾きが抑制される。ポンプハウジングの軸受部で軸方向に沿った水平状態を維持し軸受部に対する偏摩耗を防止し、部品寿命を長くすることができる。
【0013】
このように、軸受部が偏摩耗しないので、メタル軸受が不要になり、部品点数削減及び組み付け工数削減につながる。さらに前記回転伝達車が前記回転駆動部から離れないので、適正な回転を維持できる。またロータの傾きも抑制されるため、ロータの偏摩耗を防止し、回転負荷の軽減につながる。さらに、シャフトの軸受部に対する負荷が低減されるため、軸受部の軸方向長さを短くすることが可能となり、ポンプハウジングをコンパクトにすることができる。また、軸受部(摺動部)が短くできるため、シャフトの回転摺動ロスが減り、ポンプ効率が向上する。
【0014】
請求項2の発明では、シャフトの傾き方向にかかる荷重が抑制され、軸受部に対する偏摩耗を防止することができる。またカバー部側に吸入ポートに連通する吸入流路及び吐出ポートに連通する吐出流路が形成されることで、ボディ側に流路を形成することがなく、ボディ部側の構造を簡単にすることができ、ボディ部側を省スペースにでき、ひいてはポンプハウジングも小型化することができる。特にポンプハウジングの軸方向において小型化が図れ、且つ吸入流路や吐出流路が回転伝達車を避けるように曲がる配置とならないので、エネルギーロスが発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(A)は本発明の縦断側面図、(B)は(A)のYa−Ya矢視図、(C)は(A)のYb−Yb矢視図である。
【図2】(A)はポンプハウジング及びインナーロータ,アウターロータの縦断側面図、(B)は(A)の(ア)部拡大図、(C)は(A)の(イ)部拡大図である。
【図3】(A)は本発明において回転伝達車及びシャフトに曲げモーメントが生じた作用を示す略示図、(B)は反対方向の曲げモーメントが相殺する状態を示す略示図、(C)は(B)の(ウ)部拡大図、(D)は(B)の(エ)部拡大図である。
【図4】(A)は本発明の回転伝達車と回転駆動部とをベルト機構とした実施形態の縦断側面図、(B)は(A)のYc−Yc矢視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本発明には、複数の実施形態が存在し、その第1実施形態から説明する。ポンプハウジングAは、図1(A),図2等に示すように、ボディ部1とカバー部2とから構成されたものである。前記ボディ部1側には、内部にポンプ室11が形成されており、該ポンプ室11に、インナーロータ51及びアウターロータ52が収納配置される〔図1(A)参照〕。前記ポンプ室11は、円形状の底面部11aと、円筒状の内壁面部11bから構成され、前記アウターロータ52が前記内壁面部11b内に周方向に回転自在となるように収められる。カバー部2は、略プレート形状のものであり、前記ボディ部1のポンプ室11の開口部を密閉状に覆う役目をなすものである。
【0017】
さらに、ポンプハウジングAには、吸入ポート3、吐出ポート4が形成されている。〔図1(A)、図2参照〕。吸入ポート3及び吐出ポート4は、前記カバー部2に形成される。前記吸入ポート3には吸入流路33の開口部33aが形成され、前記吸入ポート3と前記吸入流路33とが連通される。同様に、前記吐出ポート4には吐出流路43の開口部43aが形成され、前記吐出ポート4と前記吐出流路43とが連通される。
【0018】
前記ボディ部1には、軸受部12が形成されている、該軸受部12は、前記ポンプ室11の底面部11aの中心近傍に形成されるものであり、ボディ部1の内方と外方とを貫通する軸孔として形成される。軸受部12には後述するシャフト8が回転自在に軸支される。そして前記軸受部12における直径中心の位置を軸芯8kとし、これを基準中心Kとする。該基準中心Kは、前記カバー部2側にも存在し、カバー部2とボディ部1とを接合した状態で、ボディ部1とカバー部2との両基準中心K,Kの位置は一致するものである。
【0019】
前記カバー部2において、基準中心Kに対して前記吸入ポート3及び前記吐出ポート4は略上下対称形状となるように形成されることもある〔図1(C)参照〕。前記吸入ポート3及び前記吐出ポート4は、前記基準中心Kを囲むようにして略円弧状又は三日月形状に形成されている。前記吸入ポート3には、周方向に始端部31と終端部32が存在し、同様に前記吐出ポート4にも周方向に始端部41と終端部42が存在する〔図1(C〉参照〕。
【0020】
インナーロータ51の回転方向は、回転伝達車6側より見たときに前記基準中心Kを中心として時計回りとする。したがって、インナーロータ51は吸入ポート3の始端部31と終端部32及び吐出ポー卜4の始端部41と終端部42において、時計回り方向に沿って、吸入ポート3では始端部31、終端部32の順に回転し、吐出ポート4でも同様に始端部41、終端部42の順に回転する。この場合には,アウターロータ52の回転方向も時計回りの方向となる。
【0021】
説明の便宜上理解しやすくするために、前記回転伝達車6にかかる接触圧力Fの圧力方向と同一方向で、前記基準中心Kを通過する線を示す仮想の線を前記カバー部2に設定する。この仮想の線を仮想線Lと称する。さらに、該仮想線Lに対して前記基準中心Kの位置で直交する境界線Qを設定する〔図1(C)参照〕。前記カバー部2のカバー内壁面21は、前記境界線Qによって、近接領域S1と離間領域S2との2つの領域に分離される〔図1(C)、図2参照〕。
【0022】
前記近接領域S1とは、前記接触圧力Fによって生じた曲げモーメントM1に抵抗する曲げモーメントM2が前記インナーロータ51に作用するときに、該インナーロータ51におけるカバー部2のカバー内壁面21に対向する側面51bが前記カバー内壁面21に近寄る方向に圧力付勢される側の領域である〔図2(A),(C),図3(A),(B),(D)参照〕。また、前記離間領域S2とは、前記接触圧力Fによって生じた曲げモーメントM1に抵抗する曲げモーメントM2が前記インナーロータ51に作用するときに、核インナーロータ51のカバー部2側の側面51bが、前記カバー内壁面21から離れる方向に圧力付勢される側の領域である〔図2(A),(B),図3(A),(B),(C)参照〕。前記吸入ポート3は前記基準中心Kを中心として見たときに、前記接触圧力Fの圧力方向と逆方向で且つ前記基準中心Kを通過する仮想線L上を跨るようにして配置される。
【0023】
ここで、「前記接触圧力Fの圧力方向と逆方向」とは、図1(C)において前記境界線Qの位置よりも下方の領域のことであり、すなわち前記近接領域S1である。また、前記吐出ポート4は、前記基準中心Kを中心として見たときに、前記接触圧力Fの圧力方向と同一方向で且つ前記基準中心Kを通過する仮想線L上を跨るようにして配置される。ここで、「前記接触圧力Fの圧力方向と同一方向」とは、図1(C)において前記境界線Qの位置よりも上方の領域のことであり、すなわち前記離間領域S2である。
【0024】
さらに前記吸入ポート3及び前記吐出ポート4がそれぞれ前記仮想線L上を跨るとは、前記吸入ポート3と前記吐出ポート4の長手方向の略中央箇所が前記仮想線Lに交わる状態のことである。なお、前記吸入ポート3と前記吐出ポート4の長手方向の略中央箇所とは、吸入ポート3と吐出ポート4の端部(始端部31、終端部32、始端部41、終端部42)を除く部分が含まれるものである。
【0025】
前記インナーロータ51は、具体的にはトロコイド形の歯形を有するものである。インナーロータ51には、複数の外歯が形成され、前記アウターロータ52には複数の内歯が形成され、外歯と内歯とが噛み合いつつインナーロータ51が回転することによってアウターロータ52が回転する。そして、吸入ポート終端部32と吐出ポート始端部41の間の搬送間仕切部61〔図1(C)参照〕においては、外歯と内歯とが閉鎖された空間すなわち、歯間空間Jを構成して、吸入ポート3から吐出ポート4へオイルを搬送する。吐出ポート4終端部42と吸入ポート3始端部31の間の非搬送間仕切部62においては、外歯と内歯とが噛合い接触しつつインナーロータ51とアウターロータ52とが回転する。
【0026】
まず、インナーロータ51の外歯と、アウターロータ52の内歯とを適正な状態で噛み合わせ、その状態で、インナーロータ51とアウターロータ52とがポンプ室11に収納配置される。前記インナーロータ51には中心に軸孔が形成されている。また、シャフト8が前記軸受部12に挿入され、その軸方向端部が前記インナーロータ51の軸孔に挿通且つ固定されるものである。インナーロータ51の軸孔と、シャフト8の軸端部との固定手段としては、キーによる固定及び圧入手段による固定が存在するが、最も適正なものが選択されればよい。
【0027】
前記ボディ部1のポンプ室11にインナーロータ51とアウターロータ52とが収納された状態で、ボディ部1にカバー部2が接合され、ボルト・ナット等の固着具にて固着される。前記シャフト8は、ポンプハウジングAの外部に前記軸受部12の位置から突出して露出した状態となる。シャフト8の外部の突出した部分の軸端部には回転伝達車6が装着されている〔図1(A)参照〕。該回転伝達車6は、さらに、回転駆動部7によって、回転すると共にシャフト8が回転し、ポンプ室11のインナーロータ51とアウターロータ52とを回転させる。
【0028】
前記シャフト8と前記回転伝達車6とは固着手段により固定されるものであり、その固着手段としては、キー又は圧入手段等によるものである。回転伝達車6と回転駆動部7とは、歯車機構による構成であり、回転伝達車6は従動ギアであり、回転駆動部7は駆動ギアである〔図1(B)参照〕。駆動ギアとして使用される回転駆動部7は、エンジンやモータ等の動力源から動力を受ける。また、前記回転伝達車6と回転駆動部7は、ベルト車構造とすることもある(図4参照)。この場合には、前記回転伝達車6がプーリ等のベルト車として使用される。また回転駆動部7はVベルト等である。さらに回転伝達車6と回転駆動部7とは、チェーン駆動とすることもあり、この場合には前記回転伝達車6はいわゆるスプロケットであり、回転駆動部7はチェーンである。
【0029】
回転伝達車6と回転駆動部7とは、前述した種々の構成であっても、回転伝達車6が回転駆動部7から、接触する際に圧力を受けることになる。すなわち、従動ギアとした回転伝達車6に対して、駆動ギアとした回転駆動部7は、適正な接触圧力Fを有して良好な噛合状態で回転を伝達する構成となる。また、ベルト車構造とした場合には、プーリ等とした回転伝達車6がVベルト等とした回転駆動部7から適正な張力としての接触圧力Fを受けることになる。チェーン機構とした場合でも、略同様にスプロケットとした回転伝達車6が、チェーンとした回転駆動部7から適正な張力としての接触圧力Fを受ける。
【0030】
以上述べたように、前記回転伝達車6は、前記回転駆動部7によって適正な接触圧力Fを必ず受けるものであり、該接触圧力Fによって前記回転伝達車6とシャフト8とからなる構成部材に対して曲げモーメントM1を生じさせる〔図3(A)参照〕。この曲げモーメントM1によって、前記接触圧力Fの圧力方向に回転伝達車6とシャフト8とを傾けようとする荷重が作用する。具体的には、前記シャフト8は、ポンプハウジングAの軸受部12によって軸支されたものであり、軸受部12を曲げモーメントM1における中心として傾けようとするものである。
【0031】
この曲げモーメントM1によって、回転伝達車6及びシャフト8の位置が変位するものではないが、前記シャフト8には常時、曲げモーメントM1による外力によって、シャフト8は傾きを生じさせるように付勢され、該シャフト8が軸支されている軸受部12に偏荷重が作用することになる〔図3(A)参照〕。このように適正な接触圧力Fでありながら、偏荷重も生じさせる曲げモーメントM1を打ち消すための曲げモーメントM2について以下に説明する。
【0032】
カバー部2には、前述したように、吸入ポート3及び吐出ポート4が設けられ、前記吸入ポート3に連通する吸入流路33及び前記吐出ポート4に連通する吐出流路43が設けられる。すなわち、インナーロータ51の側面にかかる圧力は、前記吸入ポート3及び前記吐出ポート4を設けたカバー部2側のインナーロータ51の側面51bに作用する。
【0033】
前記カバー部2において、前記近接領域S1では吸入ポート3が形成され、前記離間領域S2では、吐出ポート4が形成されている。前記近接領域S1において吸入ポート3の負圧の流体による引付力p1,p1…が、ポンプハウジングAのポンプ室11内に収納されたインナーロータ51のカバー部2側の側面51bに作用し、インナーロータ51のカバー部2側の側面51bは、カバー部2のカバー内壁面部21に近接する方向に引き付けられるように付勢される。
【0034】
また前記離間領域S2において吐出ポート4の正圧の流体による押圧力p2,p2…が、ポンプハウジングAのポンプ室11内に収納されたインナーロータ51のカバー部2側の側面51bに作用し、インナーロータ51のカバー部2側の側面51bは、カバー部2のカバー内壁面部21に離間する方向に圧力付勢される。すなわち、吸入ポート3側の流体の負圧による引付カp1,p1…と、吐出ポート4側の流体の正圧による押圧力p2,p2…とが、前記吸入ポート3及び前記吐出ポート4を介してインナーロータ51のカバー部2側の側面51bの直径方向の両端箇所に作用するものである〔図3(B)、(C)、(D)参照〕。
【0035】
引付力p1,p1…及び押圧力p2,p2…は共に分布荷重であり、力の方向が相互に反対である。そして流体の負圧による引付カp1,p1…と、流体の正圧による押圧力p2,p2…によって、前記ポンプ室11内においてインナーロータ51を軸方向に対して傾斜させようと付勢する。そしてインナーロータ51にはシャフト8と共に曲げモーメントM2が生じるものである。
【0036】
引付力p1,p1,…及び押圧力p2,p2,…によって、インナーロータ51に固定された前記シャフト8にはその軸方向に対して傾斜させようとする曲げモーメントM2を生じさせることになる〔図3(B)参照〕。この曲げモーメントM2は、前記接触圧力Fによって生じた曲げモーメントM1の傾き方向に対して反対方向に傾かせようとするものである。すなわち、曲げモーメントM1と曲げモーメントM2とは、相互に傾かせようとする力を打ち消しあうものであり、すなわち、両曲げモーメントM1,M2によって、シャフト8の中立な状態を維持することができる。よって、前記シャフト8は、前記ポンプハウジングAの軸受部12に軸方向に沿って略均一な状態で支持されることができる。
【0037】
本発明による実施形態は、前記ポンプハウジングAのカバー部2側に吸入ポート3及び吐出ポート4が形成される構成にすることにより、インナーロータ51のカバー部2側の側面51bにかかる、前記吸入ポート3の負圧の流体による引付力p1,p1…と、前記吐出ポート4の正圧の流体による押圧力p2,p2…とが、前記インナーロータ51を軸方向に対して傾かせようとするものである。また、吸入ポート3と吐出ポート4をボディ部1とカバー部2の両方に形成することもある。
【0038】
この場合、ボディ部1側には少なくとも吸入ポート3と吐出ポート4のどちらか一方が形成される。またボディ部1側に形成される吸入ポート3と吐出ポート4は、カバー部2側に形成される吸入ポート3と吐出ポート4よりも適宜小さい面積とする。このようにボディ部1側とカバー部2側とで吸入ポート3及び吐出ポート4の面積に差を有することで、カバー部2側のインナーロータ51の側面51bに作用する負圧の流体による引付カp1,p1…と、正圧の流体による押圧力p2,p2…の大きさを容易に調整可能である。すなわち、インナーロータ51を軸方向に対して傾かせようとする曲げモーメントM2の大きさを容易に調整することができる。
【0039】
このようにして、前記回転伝達車6には接触圧力Fによって生じる曲げモーメントM1と、前記インナーロータ51に前記吸入ポート3の引付力p1,p1,…と前記吐出ポート4の押圧力p2,p2,…によって生じる曲げモーメントM2とが相互に打ち消し合い、シャフト8をポンプハウジングAの軸受部12に対して常時水平且つ中立の状態に維持することができる。
【符号の説明】
【0040】
A…ポンプハウジング、1…ボディ部、12…軸受部、2…カバー部、
3…吸入ポート、33…吸入流路、4…吐出ポート、43…吐出流路、
51…インナーロータ、52…アウターロータ、6…回転伝達車、
7…回転駆動部、8…シャフト、8k…軸芯、F…接触圧力、
M1,M2…曲げモーメント、K…基準中心、L…仮想線、Q…境界線、
S1…近接領域,S2…離間領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カバー部と軸受部が形成されたボディ部とからなり且つポンプ室と吸入ポートと吐出ポートを有するポンプハウジングと、前記軸受部で回転自在に片持支持されたシャフトと、該シャフトの一端に固定され、前記ポンプ室内に回転自在に配置されたインナーロータと、該インナーロータの外周側に配置され、前記ポンプ室内に配置されたアウターロータと、前記シャフトの他端に回転伝達車と該回転伝達車に対して接触圧力を有しつつ回転を伝達する回転駆動部とが備えられた内接歯車オイルポンプにおいて、前記回転伝達車は、前記カバー部側よりも前記ボディ部側に近接する位置に配置され、前記軸受部は前記シャフトの中間に配置され、該シャフトの他端側に前記接触圧力によって生じる曲げモーメントに対して、前記シャフトの一端側に反対方向の曲げモーメントが発生するように、前記吸入ポートと前記吐出ポートとが前記接触圧力の方向に沿って前記ポンプハウジングに配置されてなることを特徴とする内接歯車オイルポンプ。
【請求項2】
請求項1において、前記軸受部の軸芯を基準中心として、前記接触圧力の圧力方向と同一方向で且つ前記軸芯を通過する線上に跨るように前記吐出ポートが配置され、前記接触圧力の圧力方向と逆方向で且つ前記軸芯を通過する線上に跨るように前記吸入ポートが配置され、前記カバー部には前記吸入ポート及び前記吐出ポートが形成され、前記カバー部には前記吸入ポートに連通する吸入流路と、前記吐出ポートに連通する吐出流路とが形成されてなることを特徴とする内接歯車オイルポンプ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−132894(P2011−132894A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293185(P2009−293185)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000144810)株式会社山田製作所 (183)
【Fターム(参考)】