説明

内燃機関のオイル希釈率判定装置

【課題】この発明は、内燃機関のオイル希釈率判定装置に関し、バイオディーゼル燃料と軽油とを単独で或いは一緒に燃焼室へと導いて運転される内燃機関において、オイル中のバイオディーゼル燃料によるオイル希釈率を正確に判定することを目的とする。
【解決手段】バイオディーゼル燃料と軽油とを単独で或いは一緒に燃焼室24へと導いて運転されるディーゼルエンジン10を備える。オイルパン28内のオイル中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサ30を備える。酸素濃度センサ30により検出されるオイル中の酸素濃度に基づいて、バイオディーゼル燃料によるオイルの希釈率を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関のオイル希釈率判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、アルコール燃料に代表される単一低沸点成分燃料と当該単一低沸点成分燃料とは性状の異なる少なくとも1種類の燃料とを用いて運転される多種燃料内燃機関が開示されている。この特許文献1には、オイルパン内の潤滑油におけるアルコール濃度をアルコール濃度センサを用いて検出することにより、アルコール燃料による潤滑油の希釈率を検出する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−202472号公報
【特許文献2】特開2008−286033号公報
【特許文献3】実開平4−123316号公報
【特許文献4】実開平2−26712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、バイオディーゼル燃料と軽油との混合燃料を使用する内燃機関が知られている。軽油に対してバイオディーゼル燃料が混合された燃料によるオイル希釈が発生した場合、オイル温度が上昇すると、軽油中の軽質分が揮発することによりオイル中の燃料に含まれる軽油量は減少する。しかしながら、バイオディーゼル燃料は軽油よりも重質な成分で構成されているので、内燃機関におけるオイル最高温度(130℃程度)での運転中であっても、バイオディーゼル燃料分が揮発せずにオイル中に残留して累積していく。このため、このバイオディーゼル燃料によるオイル希釈がオイルの品質低下に与える影響は、軽油と比較して大きいといえる。従って、バイオディーゼル燃料によるオイル希釈率を正確に検出できることが必要とされる。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、バイオディーゼル燃料と軽油とを単独で或いは一緒に燃焼室へと導いて運転される内燃機関において、オイル中のバイオディーゼル燃料によるオイル希釈率を正確に判定することのできる内燃機関のオイル希釈率判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、内燃機関のオイル希釈率判定装置であって、
バイオディーゼル燃料と軽油とを単独で或いは一緒に燃焼室へと導いて運転される内燃機関のオイル希釈率判定装置であって、
前記内燃機関の内部を流通するオイル中の酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段と、
前記酸素濃度検出手段により検出されるオイル中の酸素濃度に基づいて、前記バイオディーゼル燃料によるオイルの希釈率を判定するオイル希釈率判定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記オイル希釈率判定手段は、前記酸素濃度検出手段により検出されるオイル中の酸素濃度が所定の判定値以上である場合に、前記バイオディーゼル燃料によるオイルの前記希釈率が許容希釈範囲から外れたと判定することを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、第2の発明において、
前記オイル希釈率判定手段によってオイルの前記希釈率が前記許容希釈範囲から外れたと判定された場合に、その状況の発生を警報する警報手段を更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
内燃機関内部を流通するオイルには、ブローバイガス等から燃料が混入し、混入した燃料によってオイルの希釈が生ずる。軽油には、酸素が含まれていないのに対し、バイオディーゼル燃料には、所定割合の酸素が含まれている。第1の発明によれば、オイル中の酸素濃度に基づいて、バイオディーゼル燃料によるオイルの希釈率を判定することにより、バイオディーゼル燃料(バイオ100%)のオイルへの混入割合(つまり、オイルの希釈率)を正確に割り出して判定できるようになる。
【0010】
第2の発明によれば、オイルの品質低下に影響の大きなバイオディーゼル燃料のみの混入(希釈)を利用して、現在のオイルの希釈状態が許容希釈範囲内であるか否かを正確に判断することができる。
【0011】
第3の発明によれば、バイオディーゼル燃料によるオイルの希釈率が許容希釈範囲から外れたと判定された場合に、その状況の発生を運転者に知らせて、オイルの交換等の対処を促すことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。図1に示すシステムは、自動車に搭載されるディーゼルエンジン10を備えている。ディーゼルエンジン10の燃料は、燃料タンク12に貯留されている。燃料タンク12には、軽油100%の燃料、或いは、軽油とバイオディーゼル燃料との混合燃料が給油されるものとする。
【0014】
燃料タンク12内の燃料は、燃料パイプ14を通ってディーゼルエンジン10側へ移送される。燃料パイプ14の途中には、燃料ポンプ16が設置されている。燃料ポンプ16によって加圧された高圧の燃料は、コモンレール18内に貯留され、このコモンレール18から、各気筒の燃料噴射弁20へ分配される。
【0015】
また、ディーゼルエンジン10の筒内には、ピストン22が配置されている。ピストン22を間に介する燃焼室24の反対側には、クランク室26が形成されている。クランク室26の下部には、ディーゼルエンジン10の各部を潤滑するオイルを溜めるためのオイルパン28が取り付けられている。
【0016】
オイルパン28には、当該オイルパン28内のオイル中の酸素濃度を検出するための酸素濃度センサ30が設置されている。このような酸素濃度センサ30の具体的なセンシング方式は特に限定されるものではないが、例えば、オイル中の光透過率を検出する光透過率センサやオイルの誘電率を検出する誘電率センサ等を用いることができる。
【0017】
また、ディーゼルエンジン10が搭載される車両のインストルメントパネル32には、本実施形態においてバイオディーゼル燃料によるオイルの希釈率が許容希釈範囲から外れたと判定された場合に、その状況の発生やオイル交換の必要性などを運転者に知らせるための表示部(警告灯)34が組み込まれている。
【0018】
本実施形態のシステムは、更に、ECU(Electronic Control Unit)40を更に備えている。ECU40には、酸素濃度センサ30とともに、ディーゼルエンジン10の運転状態を検出するための各種のセンサが接続されている。また、ECU40には、燃料ポンプ16および燃料噴射弁20とともに、ディーゼルエンジン10の運転状態を制御するための各種のアクチュエータが接続されている。更に、ECU40には、表示部34が接続されている。
【0019】
以上説明したように、本実施形態のシステムでは、軽油とともにバイオディーゼル燃料の使用が想定されている。軽油に対してそのようなバイオディーゼル燃料が混合された燃料によるオイル希釈が発生した場合、オイル温度が上昇すると、軽油中の軽質分が揮発することによりオイル中の燃料に含まれる軽油量は減少する。しかしながら、バイオディーゼル燃料は軽油よりも重質な成分(炭素数Cが16以上の成分)のみで構成されているので、ディーゼルエンジン10におけるオイル最高温度(130℃程度)での運転中であっても、バイオディーゼル燃料分が揮発せずにオイル中に残留して累積していく。
【0020】
また、バイオディーゼル燃料は、軽油に比べて、経時的に酸化劣化し易いという性質を有している。酸化劣化は、酸素があり、かつ高温な状態で促進される。このため、バイオディーゼル燃料が高温のオイル中に混入すると、バイオディーゼル燃料が高温場かつ酸素場に曝された状態となるので、容易に酸化劣化してしまう。また、オイル中のバイオディーゼル燃料の酸化は、オイルの酸化促進にも作用する。
【0021】
以上より、オイルの品質低下に対してバイオディーゼル燃料によるオイル希釈が与える影響は、軽油と比較して非常に大きいといえる。従って、バイオディーゼル燃料によるオイル希釈率を正確に検出できることが必要とされる。
【0022】
そこで、本実施形態では、オイルパン28内のオイル中の酸素濃度を、酸素濃度センサ30を用いて検出するようにした。そして、検出されたオイル中の酸素濃度に基づいて、バイオディーゼル燃料によるオイルの希釈率を判定するようにした。具体的には、検出されたオイル中の酸素濃度が、バイオディーゼル燃料中の所定酸素濃度とオイル希釈率の所定の限界値とから得られた判定値以上である場合に、バイオディーゼル燃料によるオイルの希釈率が許容希釈範囲から外れたと判定するようにした。
【0023】
更に、本実施形態では、上記判定によってバイオディーゼル燃料によるオイルの希釈率が許容希釈範囲から外れたと判定された場合には、表示部34を用いて、運転者に対してオイル交換等の対処が必要であることを警報するようにした。
【0024】
図2は、上記の機能を実現するために、ECU40が実行するルーチンのフローチャートである。
図2に示すルーチンでは、先ず、酸素濃度センサ30を用いてオイル中の酸素濃度が検出される(ステップ100)。
【0025】
次に、上記ステップ100において検出されたオイル中の酸素濃度が閾値(上記所定の判定値)以上であるか否かが判別される(ステップ102)。本ステップ102の判定値は、例えば、次のように設定することができる。すなわち、バイオディーゼル燃料の一例として、菜種メチルエステル(RME:Rapeseed Methyl Esther)の場合には、RME100%の燃料中の酸素濃度は、約11%である。従って、オイル希釈率の所定の限界値を例えば20%とすると、許容されるオイル希釈率という観点での酸素濃度の限界値(つまり、本ステップ102の判定値)は、(0.2×0.11)×100=2.2%として算出することができる。
【0026】
上記ステップ102において、オイル中の酸素濃度の検出値が上記判定値以上であると判定された場合には、オイルの希釈率が許容希釈範囲から外れたものと判定される(ステップ104)。次いで、表示部34にオイル交換を促す警告が表示される(ステップ106)。
【0027】
軽油には、酸素が含まれていないのに対し、バイオディーゼル燃料には、所定割合の酸素が含まれている。このため、図2に示すルーチンによれば、オイル中の酸素濃度を検出することにより、バイオディーゼル燃料(バイオ100%)のオイルへの混入割合(つまり、オイルの希釈率)を正確に割り出して判定できるようになる。つまり、オイル中の酸素濃度に基づく手法によれば、オイル希釈の尺度として、希釈の絶対量ではなくオイル品質への影響の大きなオイル中のバイオディーゼル燃料成分量を正確に検出することができ、これにより、バイオディーゼル燃料によるオイル希釈率を正確に判定することができる。
【0028】
そして、上記ルーチンによれば、検出されたオイル中の酸素濃度を所定の判定値と比較したオイル希釈率の判定を行っているので、オイルの品質低下に影響の大きなバイオディーゼル燃料のみの混入(希釈)を利用して、現在のオイルの希釈状態が許容希釈範囲内であるか否かを正確に判断することができる。
【0029】
また、既述したように、バイオディーゼル燃料は軽油よりも重質な成分(炭素数Cが16以上の成分)のみで構成されているので、オイルの温度にかかわらず、オイル中のバイオディーゼル燃料分が揮発することはない。このため、オイルの温度変化に伴うオイル中の酸素濃度変化は少ない。この点がバイオ燃料の1つであるバイオエタノールと大きく異なる点である。従って、上記ルーチンの手法によれば、オイルの温度状態に関係なく、バイオディーゼル燃料によるオイルの希釈率を正確に判定することができる。
【0030】
また、オイル中の酸素濃度に基づく本実施形態のオイル希釈率の判定手法によれば、使用される混合燃料におけるバイオディーゼル燃料濃度に関係なく、バイオディーゼル燃料成分(バイオ100%)のみによるオイル希釈率を判定することができる。
【0031】
更に、上記ルーチンによれば、オイル中の酸素濃度があるレベル以上となることで現在使用しているオイルの希釈率が許容希釈範囲を超えたと判定された場合に、表示部34を点灯させることにより、その状況の発生を運転者に知らせて、オイルの交換を促すことができる。これにより、ディーゼルエンジン10に問題が生ずるのを未然に防ぐことができる。
【0032】
ところで、上述した実施の形態1においては、オイルパン28に取り付けられた酸素濃度センサ30を用いてオイル中の酸素濃度を検出するようにしているが、本発明における酸素濃度検出手段の配置場所は、内燃機関の内部に設けられたオイルの流通経路中であれば、オイルパンに限定されるものではない。
【0033】
尚、上述した実施の形態1においては、ECU40が、上記ステップ100の処理を実行することにより前記第1の発明における「酸素濃度検出手段」が、上記ステップ102および104の処理を実行することにより前記第1の発明における「オイル希釈率判定手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、ECU40が上記ステップ106の処理を実行することにより前記第3の発明における「警報手段」が実現されている。
【符号の説明】
【0034】
10 ディーゼルエンジン
12 燃料タンク
14 燃料パイプ
16 燃料ポンプ
18 コモンレール
20 燃料噴射弁
22 ピストン
24 燃焼室
26 クランク室
28 オイルパン
30 酸素濃度センサ
32 インストルメントパネル
34 表示部
40 ECU(Electronic Control Unit)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオディーゼル燃料と軽油とを単独で或いは一緒に燃焼室へと導いて運転される内燃機関のオイル希釈率判定装置であって、
前記内燃機関の内部を流通するオイル中の酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段と、
前記酸素濃度検出手段により検出されるオイル中の酸素濃度に基づいて、前記バイオディーゼル燃料によるオイルの希釈率を判定するオイル希釈率判定手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関のオイル希釈率判定装置。
【請求項2】
前記オイル希釈率判定手段は、前記酸素濃度検出手段により検出されるオイル中の酸素濃度が所定の判定値以上である場合に、前記バイオディーゼル燃料によるオイルの前記希釈率が許容希釈範囲から外れたと判定することを特徴とする請求項1記載の内燃機関のオイル希釈率判定装置。
【請求項3】
前記オイル希釈率判定手段によってオイルの前記希釈率が前記許容希釈範囲から外れたと判定された場合に、その状況の発生を警報する警報手段を更に備えることを特徴とする請求項2記載の内燃機関のオイル希釈率判定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−248927(P2010−248927A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96340(P2009−96340)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】