説明

内燃機関のシリンダブロック

【課題】 シリンダライナを充分に冷却できるようにしつつ、シリンダヘッドとシリンダブロックを締結するヘッドボルトの締結力によるシリンダライナ変形を抑制する。
【解決手段】 シリンダブロック外壁15とこれと一体のシリンダライナ14との間に、シリンダヘッド載置面5が開口するウォータジャケット16を形成し、該ウォータジャケット16には、シリンダブロック1のシリンダヘッド載置面5から反シリンダヘッド側へ一定距離隔てた位置に、前記シリンダライナ14とシリンダブロック外壁15を一体に連結する中間リブ17を部分的に形成してある。シリンダブロック外壁15に形成されるシリンダヘッド締結用のヘッドボルト穴25の内周面には、前記中間リブ17のシリンダヘッド側の端縁よりも反シリンダヘッド側の位置から開始するねじ部30が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関シリンダブロックに関し、特に、セミオープンデッキ型のシリンダブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関において、水冷方式でかつドライライナーのシリンダブロックの代表的なものとしては、ウォータジャケットの形態の相違により、クローズドデッキ型シリンダブロックと、オープンデッキ型シリンダブロックと、セミオープンデッキ型シリンダブロックがある。
【0003】
クローズドデッキ型シリンダブロックは、シリンダライナとシリンダブロック外壁の間に形成されたウォータジャケットのシリンダヘッド側の端部を、シリンダブロックに一体成形されたデッキ部で覆った構造となっている。クローズドデッキ型シリンダブロックによると、比較的高い剛性を得ることはできるが、シリンダライナのシリンダヘッド側の端部近傍にウォータジャケットが存在しないことにより、冷却水によるシリンダライナのシリンダヘッド側の端部近傍の冷却が充分に行えない。
【0004】
オープンデッキ型シリンダブロックは、シリンダライナとシリンダブロック外壁との間に形成されたウォータジャケットのシリンダヘッド載置面が開口しており、この開口面を、ガスケットを介してシリンダヘッドにより閉塞した構造となっている。オープンデッキ型シリンダブロックによると、シリンダライナのシリンダヘッド側の端部の冷却は充分に行えるが、シリンダブロックのシリンダヘッド側の上端の剛性が低くなることは避けられない。
【0005】
セミオープンデッキ型シリンダブロックは、たとえば図4にその一例を示しており(特許文献1参照)、前記オープンデッキ型のように、シリンダブロック外壁101とシリンダライナ102の間に形成されたウォータジャケット103のシリンダヘッド載置面(上端面)105は開口しているが、ウォータジャケット103内には、シリンダライナ102とシリンダブロック外壁101を一体的に連結する中間リブ110が形成されている。これによりシリンダライナ102のシリンダヘッド側の端部の冷却性能と耐久性を確保している。シリンダブロック1のシリンダヘッド載置面105には、ガスケットを介してシリンダヘッド115が載置されており、シリンダヘッド115のボルト挿通孔116に挿通したヘッドボルト117を、シリンダブロック外壁101に形成したヘッドボルト穴112に螺着することにより、シリンダヘッド115をシリンダブロック101に締結している。
【特許文献1】特開平7−4304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図4に示すセミオープンデッキ型シリンダブロックにおいて、シリンダブロック外壁101に形成されたヘッドボルト穴112の内周面にはねじ部113が形成されているが、該ねじ部113は、シリンダヘッド載置面105の近傍位置H2から開始している。図4のヘッドボルト穴112の構造によると、ヘッドボルト117を締め付けた時、その締付力は中間リブ110にはほとんど伝わらず、中間リブ110よりシリンダヘッド側のウォータジャケット部分(オープン溝部)103aに伝わる。そのため、シリンダライナ102のシリンダヘッド側の端部近傍に変形が生じやすく、ピストンの摺動に影響を及ぼし、それによって潤滑油消費量増加及び機械損失の増大を招く。
【0007】
また、ヘッドボルト117の締付力が、ボルト配置箇所と非配置箇所の間で面圧分布が不均一になっており、面圧の低い箇所では、ガスのシール性能が低下する。一方、シール性能を充分に保つためは、ヘッドボルト117の径を大きくすることになるが、ヘッドボルト穴112のねじ部113の周囲の肉厚が増加し、シリンダブロックの大型化は避けられない。
【0008】
本発明は、セミオープンデッキ型シリンダブロックを有する内燃機関において、シリンダライナのシリンダヘッド側の端部の冷却性能を維持しつつ、シリンダブロックの剛性を充分に確保し、シリンダライナの変形を防止し、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間のシール性能を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、シリンダブロック外壁とこれと一体のシリンダライナとの間に、シリンダヘッド載置面が開口するウォータジャケットを形成し、該ウォータジャケットには、前記シリンダヘッド載置面から反シリンダヘッド側へ一定距離隔てた位置に、前記シリンダライナとシリンダブロック外壁を一体に連結する中間リブを形成してあるセミオープンデッキ型シリンダブロックを有する内燃機関において、シリンダブロック外壁に形成されるシリンダヘッド締結用のヘッドボルト穴の内周面には、前記中間リブのシリンダヘッド側の端縁よりも反シリンダヘッド側の位置から開始するねじ部が形成されていることを特徴としている。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のセミオープンデッキ型シリンダブロックを有する内燃機関において、前記ねじ部の開始位置は、前記中間リブのシリンダ長さ方向の範囲内としている。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のセミオープンデッキ型シリンダブロックを有する内燃機関において、前記中間リブからシリンダヘッド載置面に至るウォータジャケット部分のシリンダ中心線方向長さは、上死点におけるピストンのリング溝が位置しうる長さとなっている。
【発明の効果】
【0012】
(1)ヘッドボルト穴のねじ部の開始位置が、中間リブのシリンダヘッド側の端縁よりも反シリンダヘッド側に形成されているので、ヘッドボルト締付時には、剛性の高い中間リブ全体でシリンダライナを締め付けることができ、これによりヘッドボルトの締付力をシリンダライナの円周部に均等に伝えることができ、シリンダライナの変形を抑制できる。シリンダライナの変形が抑制できてシリンダライナの形状を真円化できれば、潤滑油の消費量が少なくなり、また、ピストンの焼き付きを無くすことが出来る。
【0013】
(2)図4の従来構造に比べ、ヘッドボルトの締付力がシリンダブロックのシリンダヘッド載置面まで均一に伝わるので、面圧の円周方向のばらつきを抑制でき、シール性が向上する。これにより、面圧の一番低い箇所に合わせる必要のあるボルト締結力を小さくすることができる。
【0014】
(3)ねじ部の開始位置を、中間リブのシリンダ長さ方向の範囲内としていると、前記のようにシリンダライナの変形の抑制及びシール性を確保しつつ、ヘッドボルト穴の長さ(深さ)を必要最小限程度に収めることができ、重量の増加及びシリンダブロックの大型化を抑制できる。
【0015】
(4)中間リブからシリンダヘッド載置面までのウォータジャケット部分のシリンダ中心線方向の長さを、上死点位置におけるピストンのリング溝が位置しうる長さに形成してあると、高温になりやすいシリンダライナのシリンダヘッド側の端部を効率良く冷却することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1〜図3は本発明に係るセミオープンデッキ型シリンダブロックを有する3気筒ディーゼル機関を示している。ディーゼル機関の縦断面図を示す図1において、クランク軸2は水平姿勢に配置され、シリンダ中心線O1は垂直姿勢となっている。シリンダブロック1はクランク軸2を収納するクランクケース部3を一体に有すると共に、クランクケース部3の下面にオイルパン4が締結されている。シリンダブロック1のシリンダヘッド載置面(上端面)5には、ガスケット6を介してシリンダヘッド7が載置されており、シリンダヘッド7のボルト挿通孔24に挿通した複数本のヘッドボルト10を、シリンダブロック1に形成されたヘッドボルト穴25に螺着することにより、シリンダヘッド7をシリンダブロック1に締結している。シリンダヘッド7の上端面には弁腕ケース8が締着されている。
【0017】
シリンダブロック1には、ピストン12が嵌合するシリンダライナ14が一体に形成されており、シリンダライナ14とシリンダブロック外壁15の間にはウォータジャケット16が形成されている。該ウォータジャケット16はシリンダライナ14を取り囲み、下端はシリンダブロック1の下壁により閉塞されているが、上端、すなわちシリンダヘッド載置面5は開口しており、かつ、シリンダヘッド載置面5よりも一定距離を置いた下方位置に、シリンダブロック外壁15とシリンダライナ14を部分的に連結する中間リブ(中間棚)17が形成されている。すなわち、ウォータジャケット16はセミオープンデッキ型となっており、該中間リブ17よりもシリンダヘッド側のウォータジャケット部分16aを、「オープン溝部」と称して、以下、説明する。
【0018】
シリンダブロック外壁15には、前記ヘッドボルト穴25の他に、カム軸20を収納するカム室21及び該カム室21から上方に延びるプッシュロッド挿通孔22等が形成されている。
【0019】
図2はシリンダブロック1の平面図である。3気筒ディーゼル機関であるので、3つのシリンダライナ14がシリンダブロック1と一体に形成されており、シリンダブロック外壁15に形成される前記ヘッドボルト穴25は、クランク軸芯O方向両端部の左右両側部位と、シリンダライナ14同士の連結部分の左右両側部位と、各シリンダ中心線O1を通りクランク軸芯Oと直交する方向(左右方向)の両側部位に配置されており、いずれのヘッドボルト穴25にも、内周面にねじ部30(一部だけ符号を表示)が形成されている。前記中間リブ17には上下方向に貫通して冷却水をウォータジャケット16とオープン溝部16a(図3)の間で流通する連通孔が部分的に形成されており、したがって、図2では、前記中間リブ17の形成範囲を明確にするために、中間リブ17部分にクロスハッチングを施している。
【0020】
[シリンダブロックとシリンダヘッドとの締結構造]
図3は、シリンダブロック1とシリンダヘッド7との締結構造を示す図1の矢印III部分の拡大図であり、ウォータジャケット16のオープン溝部16aのシリンダ中心線O1方向の長さは、上死点位置におけるピストン12の3つのリング31が収まりうる長さに設定されている。シリンダブロック外壁15に形成されたヘッドボルト穴25は、前記中間リブ17の下端よりもさらに下方に延びており、ヘッドボルト穴25の内周に形成されためじ部30の開始位置(上端位置)H1は、中間リブ17の上端17aよりも下方(反シリンダヘッド側)に形成されている。該実施の形態では、中間リブ17の上下方向範囲内にねじ部30の開始位置H1が形成されている。なお、ねじ部30の長さは、ヘッドボルト10の外径の1.5〜2.0倍程度に設定されている。また、ヘッドボルト10に形成するおねじ部は、ヘッドボルト10の全長に亘って形成してあっても差し支えないが、少なくとも前記ヘッドボルト10の先端側部分に、ヘッドボルト穴25のねじ部(めねじ部)30に概ね対応する長さ程度に形成してあればよい。
【0021】
(作用)
図3において、シリンダヘッド載置面5にガスケット6を介してシリンダヘッド7を載置し、ボルト挿通孔24に挿通したヘッドボルト10をヘッドボルト穴25のねじ部30に締め付けると、ねじ部30に上方へ引きつけるボルト締付力が作用し、その反力として、ガスケット6がシリンダブロック1を下方へ押す方向の負荷として発生する。ところが、ウォータジャケット16には中間リブ17が形成してあり、しかも前記ねじ部30は中間リブ17の上端17aよりも下方位置H1から開始するように形成してあるので、シリンダライナ14へは、中間リブ17全体を介してボルト締付力が伝わり、これによりシリンダライナ14の変形を抑制でき、シリンダライナ14の真円性を確保できることにより、潤滑油消費量の増大及び機械損失を低減できる。また、シリンダライナ14の円周部の全体に均一に締付力を伝達でき、面圧分布を均一化できるので、径の小さいヘッドボルト10によっても、シール性を確保することができる。
【0022】
[その他の実施の形態]
(1)単気筒又は3気筒以外の複数気筒の内燃機関にも適用可能である。
(2)ヘッドボルト穴25に形成するねじ部30の開始位置は、中間リブ17の下端よりもさらに下方に形成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を適用したセミオープンデッキ型シリンダブロックを有するディーゼル機関の縦断面図である。
【図2】図1のシリンダブロックの平面図である。
【図3】図1の矢印III部分の拡大図である。
【図4】従来例の縦断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 シリンダブロック
5 シリンダヘッド載置面
7 シリンダヘッド
10 ヘッドボルト
12 ピストン
16 ウォータジャケット
16a オープン溝部(ウォータジャケット部分)
17 中間リブ
24 ヘッドボルト挿通孔
25 ヘッドボルト穴
30 ねじ部
31 リング溝
H1 ねじ部の開始位置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロック外壁とこれと一体のシリンダライナとの間に、シリンダヘッド載置面が開口するウォータジャケットを形成し、該ウォータジャケットには、前記シリンダヘッド載置面から反シリンダヘッド側へ一定距離隔てた位置に、前記シリンダライナとシリンダブロック外壁を一体に連結する中間リブを形成してある内燃機関のシリンダブロックにおいて、
シリンダブロック外壁に形成されるシリンダヘッド締結用のヘッドボルト穴の内周面には、前記中間リブのシリンダヘッド側の端縁よりも反シリンダヘッド側の位置から開始するねじ部が形成されていることを特徴とする内燃機関のシリンダブロック。
【請求項2】
前記ねじ部の開始位置は、前記中間リブのシリンダ中心線方向長さの範囲内であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関のシリンダブロック。
【請求項3】
前記中間リブからシリンダヘッド載置面に至るウォータジャケット部分のシリンダ中心線方向長さは、上死点におけるピストンのリング溝が位置しうる長さとなっていることを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関のシリンダブロック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−2590(P2006−2590A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177149(P2004−177149)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】