内燃機関のピストン
【課題】信頼性や耐久性を低下させることなくピストンの重心を可変にすることによりスラップ音を好適に抑制することができる内燃機関のピストンを提供する。
【解決手段】スラスト側のピストン内部に設けられるオイル室2と、オイル室内にオイルを導入する導入路3と、オイル室内のオイルを排出する排出路4と、導入路3を開閉する入口弁30と、排出路4を開閉する出口弁40と、を備え、入口弁30及び出口弁40はともに弁体302、402及び該弁体を付勢するばね303、403を含み、それぞれの弁体の振幅がそれぞれの閾値以上の場合に該弁体が導入路3又は排出路4を開放する位置を通過するよう構成され、入口弁30の弁体302の振幅は、中回転数域で閾値以上となり、高回転数域で閾値より小さくなり、出口弁40の弁体402の振幅は、中回転数域で閾値より小さくなり、高回転数域で閾値以上となるように、設定されている。
【解決手段】スラスト側のピストン内部に設けられるオイル室2と、オイル室内にオイルを導入する導入路3と、オイル室内のオイルを排出する排出路4と、導入路3を開閉する入口弁30と、排出路4を開閉する出口弁40と、を備え、入口弁30及び出口弁40はともに弁体302、402及び該弁体を付勢するばね303、403を含み、それぞれの弁体の振幅がそれぞれの閾値以上の場合に該弁体が導入路3又は排出路4を開放する位置を通過するよう構成され、入口弁30の弁体302の振幅は、中回転数域で閾値以上となり、高回転数域で閾値より小さくなり、出口弁40の弁体402の振幅は、中回転数域で閾値より小さくなり、高回転数域で閾値以上となるように、設定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの駆動によって発生する騒音の一つにスラップ音がある。このスラップ音は、ピストンがシリンダ内を往復運動するときに該ピストンのスカート部がシリンダライナの壁面に衝突することによって発生する。
【0003】
例えば、内燃機関の高回転数運転時の圧縮行程上死点直前において、ピストン本体がシリンダライナに押しつけられる力(側圧)の向きがスラスト側から反スラスト側へ変化する際の衝突の衝撃によりスラップ音が発生する。
【0004】
ここで、スラスト側とは、圧縮上死点直後の膨張行程に爆発力によってコンロッドが揺動することにより押しつけられる側である。スラスト側と反対方向を反スラスト側という。
【0005】
従来、スラップ音を低減するため種々のピストンが開発されてきた。例えば、特許文献1には、ピストン本体のスカート部のスラスト側のみに外環部材を嵌合し、ピストン本体の重心をピストン本体の中心線よりもスラスト側にオフセットさせた構造のピストンが記載されている。
【0006】
特許文献1に記載されたピストンは、外環部材とスカート部との間にダンパー用オイルが導入される隙間が形成され、この隙間に導入されるオイルによる油圧緩衝作用により、ピストンがスラスト側へ衝突する際の衝撃を緩和することを図っている。
【0007】
また、ピストン本体の重心がピストン本体の中心線よりもスラスト側にオフセットされることにより、圧縮行程における側圧の向きが常に反スラスト側になり、側圧の向きが上死点直前に一時的にスラスト側に変化することに起因するスラップ音を抑制することを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−078129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のピストンの外環部材は、ピストン本体に対して相対移動自在に支持された可動部材である。このような可動部材に十分な剛性を持たせることは困難である。内燃機関の運転中はピストンには非常に大きな加速度がかかるため、十分な剛性を有しない部材をピストンが備えていることは、ピストンの信頼性や耐久性を低下させる要因となる。
【0010】
また、特許文献1に記載のピストンでは、ダンパー用オイルは、オイルギャラリーからクランクシャフト、コンロッド及びピストンピンに形成された油路を経由して供給される構造となっているが、内燃機関の始動時のようにオイルの供給が十分でない場合には、スカート部と外環部材との隙間が十分な量のオイルで満たされず空隙を生じ、これが騒音の原因となる可能性もある。
【0011】
本発明はこの点に鑑みてなされたものであり、信頼性や耐久性を低下させることなくピストンの重心を可変にすることによりスラップ音を好適に抑制することを可能にする内燃機関のピストンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するための本発明は、
内燃機関のピストンであって、
スラスト側及び反スラスト側の少なくとも一方のピストン内部に設けられ、オイルの導入及び排出が可能な空間であるオイル室と、
前記オイル室内のオイル量が前記内燃機関の回転数に応じた所定の目標値となるように、前記オイル室へのオイル導入量及び前記オイル室からのオイル排出量の少なくとも一方が前記内燃機関の回転数又はそれに対応するパラメータに応じて調節されるように構成されるオイル量調節機構と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明のピストンでは、オイル室はピストン内部に設けられるので、オイル室を区画するために可動部材を必要としない。従って、ピストンにオイル室を設けることによるピストンの信頼性及び耐久性の低下を抑制できる。
【0014】
このオイル室内のオイル量を調節することにより、ピストンの重心位置を変化させることができる。ピストンの重心位置はスラップ音の発生に影響し、その影響の仕方は内燃機関の回転数に依存する。例えば、ピストンの重心位置が同じであっても、低回転数ではスラップ音が小さく、高回転数ではスラップ音が大きい、ということがあり得る。
【0015】
上記構成における「所定の目標値」とは、例えばスラップ音を所定の許容レベルに抑えることが可能なピストン重心位置を実現するためのオイル室内のオイル量として定めることができる。
【0016】
本発明のピストンによれば、オイル室内のオイル量が内燃機関の回転数に応じた所定の目標値になるように、オイル量調節機構により、内燃機関の回転数又はそれに対応するパラメータに応じてオイル室に対するオイル導入量及び/又はオイル排出量が調節されるので、内燃機関の回転数に応じて、スラップ音を軽減するために最適なピストン重心位置になるように重心位置が調節されるピストンを実現できる。
【0017】
本発明において、前記オイル量調節機構は、前記内燃機関の回転数が所定の回転数領域内の回転数である場合に前記ピストンの重心が前記ピストンの中心線よりスラスト側の位置になるように、前記オイル導入量及び/又は前記オイル排出量の調節が行われるよう設定されている構成とすることができる。
【0018】
「所定の回転数領域」は、ピストンの重心をピストンの中心線よりスラスト側の位置にした場合に、ピストンの重心がピストンの中心線の位置の場合と比較して、内燃機関のシリンダブロックの振動強度の平均値が小さくなるような回転数領域であり、典型的には、内燃機関の回転数領域を低回転数領域、中回転数領域、高回転数領域に分けた場合の中回転数領域である。
【0019】
上記構成では、オイル室のオイル量の目標値を、所定の回転数領域においてピストンの重心がスラスト側になるように設定する。オイル室がスラスト側に設けられている場合には、所定の回転数領域においてオイル室のオイル量が増加するようにオイル量の目標値を設定する。
【0020】
オイル室がスラスト側及び反スラスト側に設けられている場合には、所定の回転数領域においてスラスト側のオイル室のオイル量が反スラスト側のオイル室のオイル量より多くなるように目標値を設定する。
【0021】
上記構成では、オイル室のオイル量がこのような目標値となるように、オイル導入量及び/又はオイル排出量の調節が行われるように、オイル量調節機構が設定される。
【0022】
オイル量調節機構がこのように設定されていることにより、所定の回転数領域においてピストンの重心がスラスト側になるので、所定の回転数領域におけるスラップ音の軽減が可能になる。一方、高回転数側の領域においては、ピストンの重心の位置のスラスト側への移動が不要に行われることを抑制できる。
【0023】
このように、上記構成によれば、内燃機関の回転数に応じてオイル室に対するオイル導入量及び/又はオイル排出量の調節が行われるので、スラップ音を軽減するために最適なピストン重心位置になるように内燃機関の回転数に応じて重心位置が調節されるピストンを実現できる。
【0024】
本発明において、
前記オイル室はスラスト側のピストン内部に設けられ、
オイル供給手段から供給されるオイルを前記オイル室内に導入するオイル導入路と、
前記オイル室内のオイルをオイル室外に排出するオイル排出路と、
を備え、
前記オイル量調節機構は、
前記オイル導入路を開閉する入口弁と、前記オイル排出路を開閉する出口弁と、を有し、
前記入口弁及び前記出口弁は、ともに弁体及び該弁体を付勢するばねを含み、弁体の振動の振幅がそれぞれの閾値以上の場合に弁体が前記オイル導入路又は前記オイル排出路を開放する位置を通過するよう構成され、
前記入口弁は、前記所定の回転数領域内のある回転数で弁体の振幅が極大となるとともに、前記所定の回転数領域内の回転数で弁体の振幅が閾値以上となり、それより高回転数側の回転数で弁体の振幅が閾値より小さくなり、
前記出口弁は、前記所定の回転数領域内の回転数で弁体の振幅が閾値より小さくなり、それより高回転数側の回転数で弁体の振幅が閾値以上となるように、
設定されていてもよい。
【0025】
オイル量調節機構はピストンに備わるので、内燃機関の運転中はピストンとともに運動する。内燃機関の運転中、入口弁及び出口弁の弁体は、ばねの付勢力とピストン運動の慣性力を受けて所定の空間内で振動する。ピストン運動の周波数は内燃機関の回転数に対応する。
【0026】
運転中の内燃機関の回転数に対応する周波数が弁体の共振周波数に近いほど弁体の振幅は大きくなり、共振周波数から離れるほど弁体の振幅は小さくなる。上記構成では、入口弁の弁体の共振周波数が、所定の回転数領域内のある回転数に対応する周波数となるように設定される。
【0027】
入口弁及び出口弁は、弁体の位置に応じてオイル導入路やオイル排出路を開放又は閉鎖するよう構成される。弁体の振幅が小さい場合、空間内で弁体が通過する範囲は狭く、弁体の振幅が大きい場合、空間内で弁体が通過する範囲は広くなる。
【0028】
振幅が大きい場合に弁体が通過可能な範囲内に含まれ、且つ、振幅が小さい場合に弁体が通過可能な範囲内に含まれない、所定の位置でのみオイル導入路やオイル排出路が開放されるように、入口弁や出口弁を構成することにより、弁体の振幅に応じてオイル導入路やオイル排出路が開閉されるようにできる。
【0029】
上記の構成では、所定の回転数領域では入口弁が開弁し且つ出口弁が閉弁するので、オイル室内のオイル量は増加する。従って、所定の回転数領域においてピストンの重心がスラスト側に移動する。一方、所定の回転数領域より高回転数側の回転数では入口弁が閉弁し且つ出口弁が開弁するので、オイル室内のオイル量は減少する。従って、高回転数領域においてピストンの重心がピストンの中心線側に移動する。
【0030】
このように、上記構成によれば、内燃機関の回転数に応じて入口弁及び出口弁の開閉が行われるので、スラップ音を軽減するために最適なピストン重心位置になるように内燃機関の回転数に応じて重心位置が調節されるピストンを実現できる。
【0031】
本発明において、
前記オイル室はスラスト側のピストン内部に設けられ、
オイル供給手段から供給されるオイルを前記オイル室内に導入するオイル導入路と、
前記オイル室内のオイルをオイル室外に排出するオイル排出路と、
を備え、
前記オイル排出路からオイル室外に排出されるオイル量は前記オイル導入路によりオイル室内に導入されるオイル量より多く、
前記オイル量調節機構は、
前記オイル排出路を開閉する出口弁を有し、
前記出口弁は、弁体及び該弁体を付勢するばねを含み、弁体の振幅が閾値以上の場合に弁体が前記オイル排出路を開放する位置を通過するよう構成され、
前記出口弁は、前記所定の回転数領域内の回転数における前記ピストンの運動による慣性力が前記弁体にかかった場合に前記弁体の振幅が閾値より小さくなり、それより高回転数側の回転数における前記ピストンの運動による慣性力が前記弁体にかかった場合に前記弁体の振幅が閾値以上となるように、
設定されていてもよい。
【0032】
オイル量調節機構はピストンに備わるので、内燃機関の運転中はピストンとともに運動する。内燃機関の運転中、出口弁の弁体は、ばねの付勢力とピストンの運動による慣性力を受けて所定の空間内で振動する。ピストンの運動による慣性力が大きいほど弁体の振幅は大きくなる。ピストンの運動による慣性力は、内燃機関の回転数が高いほど大きくなる。
【0033】
出口弁は、弁体の位置に応じてオイル排出路を開放又は閉鎖するよう構成される。弁体の振幅が小さい場合、空間内で弁体が通過する範囲は狭く、弁体の振幅が大きい場合、空間内で弁体が通過する範囲は広くなる。
【0034】
オイル排出路が開放される位置或いは閉鎖される所定の位置が、振幅が大きい場合に弁体が通過可能な範囲内に含まれ、且つ、振幅が小さい場合に弁体が通過可能な範囲内に含まれないように出口弁を構成することにより、弁体の振幅に応じてオイル排出路が開閉されるようにできる。すなわち、ピストンの運動による慣性力に応じて、オイル排出路が開閉されるように出口弁を構成することができる。
【0035】
上記の構成では、オイル導入路は常に開放されている。そのため、所定の回転数領域において出口弁が閉弁した場合、オイル室内のオイル量は増加する。従って、所定の回転数
領域においてピストンの重心がスラスト側に移動する。
【0036】
一方、上記の構成では、オイル排出路によるオイル排出量がオイル導入路によるオイル導入量より多い。そのため、所定の回転数領域より高回転数側の回転数において出口弁が開弁した場合、オイル室内のオイル量は時間経過とともにゼロに近付く。従って、高回転数領域においてピストンの重心がピストンの中心線側に移動する。
【0037】
このように、上記構成によれば、内燃機関の回転に伴うピストン運動の慣性力に応じて出口弁の開閉が行われるので、スラップ音を軽減するために最適なピストン重心位置になるように内燃機関の回転数に応じて重心位置が調節されるピストンを実現できる。
【0038】
本発明において、
前記オイル室はスラスト側のピストン内部に設けられ、
オイル供給手段から供給されるオイルを前記オイル室内に導入するオイル導入路と、
前記オイル室内のオイルをオイル室外に排出するオイル排出路と、
を備え、
前記オイル量調節機構は、
前記オイル導入路を開閉する入口弁と、前記オイル排出路を開閉する出口弁と、を有し、
前記入口弁及び前記出口弁は、ともに弁体及び該弁体を付勢するばねを含み、ばねの付勢力及び該付勢力と逆向きにかかる油圧との釣り合いによって定まる弁体の位置によって前記オイル導入路又は前記オイル排出路を開放又は閉鎖するよう構成され、
前記入口弁は、前記所定の回転数領域内の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記オイル導入路を開放する位置となり、それより高回転数側の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記オイル導入路を閉鎖する位置となり、
前記出口弁は、前記所定の回転数領域内の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記オイル排出路を閉鎖する位置となり、それより高回転数側の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記オイル排出路を開放する位置となるように、
設定されていても良い。
【0039】
内燃機関の運転中、入口弁及び出口弁の弁体は、ばねの付勢力と油圧を受けて所定の空間内を移動する。弁体に作用する油圧は、内燃機関の回転に連動するオイルポンプにより供給され、弁体には、内燃機関の回転数に応じた大きさの油圧が作用する。
【0040】
運転中の内燃機関の回転数が低い場合、弁体に作用する油圧は小さく、ばねによる付勢力が優勢となる。運転中の内燃機関の回転数が高い場合、弁体に作用する油圧は大きく、油圧が優勢となる。従って、内燃機関の回転数に伴う油圧に応じて弁体の位置が変化する。
【0041】
入口弁及び出口弁は、弁体の位置に応じてオイル導入路又はオイル排出路を開放又は閉鎖するよう構成されるので、内燃機関の回転に伴う油圧に応じてオイル導入路又はオイル排出路が開閉されるようにできる。
【0042】
上記の構成では、所定の回転数領域では入口弁が開弁し且つ出口弁が閉弁するので、オイル室内のオイル量は増加する。従って、所定の回転数領域においてピストンの重心がスラスト側に移動する。
【0043】
一方、所定の回転数領域より高回転数側の回転数では入口弁が閉弁し且つ出口弁が開弁
するので、オイル室内のオイル量は減少する。従って、高回転数領域においてピストンの重心がピストンの中心線側に移動する。
【0044】
このように、上記構成によれば、内燃機関の回転に伴う油圧に応じて入口弁及び出口弁の開閉が行われるので、スラップ音を軽減するために最適なピストン重心位置になるように内燃機関の回転数に応じて重心位置が調節されるピストンを実現できる。
【0045】
前記オイル室は、スラスト側のピストン内部に設けられる第1オイル室と、反スラスト側のピストン内部に設けられる第2オイル室と、を有し、
前記内燃機関の油圧系統と前記第1オイル室とを連通する第1油路と、前記油圧系統と前記第2オイル室とを連通する第2油路と、を備え、
前記オイル量調節機構は、
前記第1油路を開閉する第1開閉弁と、前記第2油路を開閉する第2開閉弁と、を有し、
前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁は、ともに弁体及び該弁体を付勢するばねを含み、ばねの付勢力及び該付勢力と逆向きにかかる油圧との釣り合いによって定まる弁体の位置によって前記第1油路又は第2油路を開放又は閉鎖するよう構成され、
前記第1開閉弁は、前記所定の回転数領域内の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記第1油路を開放する位置となり、それより高回転数側の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記第1油路を開放する位置となり、
前記第2開閉弁は、前記所定の回転数領域内の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記第2油路を閉鎖する位置となり、それより高回転数側の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記第2油路を開放する位置となるように、
設定されていてもよい。
【0046】
内燃機関の運転中、第1開閉弁及び第2開閉弁の弁体は、ばねの付勢力と油圧を受けて所定の空間内を移動する。弁体に作用する油圧は、内燃機関の回転に連動するオイルポンプにより供給され、弁体には、内燃機関の回転数に応じた大きさの油圧が作用する。
【0047】
運転中の内燃機関の回転数が低い場合、弁体に作用する油圧は小さく、ばねによる付勢力が優勢となる。運転中の内燃機関の回転数が高い場合、弁体に作用する油圧は大きく、油圧が優勢となる。従って、内燃機関の回転数に伴う油圧に応じて弁体の位置が変化する。
【0048】
第1開閉弁及び第2開閉弁は、弁体の位置に応じて第1油路又は第2油路を開放又は閉鎖するよう構成されるので、内燃機関の回転に伴う油圧に応じて第1油路又は第2油路が開閉されるようにできる。
【0049】
上記の構成では、所定の回転数領域では第1開閉弁は開弁し、第2開閉弁は閉弁するので、スラスト側のオイル室内のオイル量のみが増加する。従って、所定の回転数領域においてピストンの重心がスラスト側に移動する。
【0050】
一方、所定の回転数領域より高回転数側の回転数では第1開閉弁及び第2開閉弁の両方が開弁するので、スラスト側及び反スラスト側の両方のオイル室のオイル量が増加する。従って、高回転数領域においてピストンの重心がピストンの中心線側に移動する。
【0051】
このように、上記構成によれば、内燃機関の回転に伴う油圧に応じて第1開閉弁及び第2開閉弁の開閉が行われるので、スラップ音を軽減するために最適なピストン重心位置になるように内燃機関の回転数に応じて重心位置が調節されるピストンを実現できる。
【0052】
本発明にかかる上述の各構成において、オイル室は、ピストンの特にスカート部の内部に設けることができる。また、オイル室は、スラスト側のピストン内部に設けることができる。オイル室は、反スラスト側のピストン内部に設けることもできる。
【0053】
或いは、オイル室は、スラスト側のピストン内部及び反スラスト側のピストン内部の両方に設けることもできる。スラスト側のピストン内部及び反スラスト側のピストン内部の両方にオイル室を設ける場合、オイル量調節機構はオイル室毎に設けても良い。
【0054】
この場合、等回転数条件で2つのオイル室のオイル量が同じになるように各オイル量調節機構を設定することにより、ピストンの重心位置がピストン中心線の位置になるようにすることができる。
【0055】
或いは、等回転数条件で2つのオイル室のオイル量に差が出るように各オイル量調節機構を設定することにより、ピストン重心位置をピストン中心線からスラスト側又は反スラスト側に移動させることができる。
【0056】
オイル室へのオイルの供給手段は、例えば、内燃機関の油圧系統からクランクシャフト、コンロッド、ピストンピン、ピンボス、スカートなどに設けられる油路を介してオイル室に連通する通路を設ける構成とすることができる。
【0057】
或いは、ピストンの背面にオイルをはねかけるオイルジェットから噴射されるオイルの一部がオイル室に導入される構成とすることができる。
【0058】
また、ピストンリングより下方且つオイル室より上方のピストン表面に開口部を設け、開口部とオイル室とを連通する通路を設け、ピストンリングが掻き落としたオイルがオイル導入路を介してオイル室に流入する構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0059】
本発明によれば、信頼性や耐久性を低下させることなくピストンの重心を可変にすることによりスラップ音を好適に抑制することを可能にする内燃機関のピストンが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例1に係る内燃機関のピストンの断面図である。
【図2】実施例1における入口弁及び出口弁の弁体の振幅と内燃機関の回転数との関係を示す図である。図2(A)は、内燃機関の運転中における内燃機関の回転数と入口弁の弁体の振幅との関係を示す図である。図2(B)は、内燃機関の運転中における出口弁の弁体の振幅と内燃機関の回転数との関係を示す図である。
【図3】実施例1における入口弁及び出口弁の弁体の挙動と内燃機関の回転数との関係を示す図である。
【図4】内燃機関の回転数が中回転数領域内にある場合におけるシリンダブロックの振動強度の頻度分布の一例を示す図である。
【図5】実施例2に係る内燃機関のピストンの断面図である。
【図6】実施例2における出口弁の挙動と内燃機関の回転数との関係を示す図である。
【図7】実施例3に係る内燃機関のピストンの断面図である。
【図8】実施例3に係る内燃機関のピストンのスカート部及びピンボスのピストン中心線に垂直な面による断面を示す図である。
【図9】実施例3における入口弁及び出口弁の弁体の挙動と内燃機関の回転数との関係を示す図である。
【図10】実施例4に係る内燃機関のピストンのスカート部及びピンボスのピストン中心線に垂直な面による断面を示す図である。
【図11】実施例4におけるスラスト側のオイル量調節機構及び反スラスト側のオイル量調節機構の挙動と内燃機関の回転数との関係を示す図である。
【図12】実施例5に係る内燃機関のピストンの断面図である。
【図13】実施例の変形例に係る内燃機関のピストンの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは、発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0062】
(実施例1)
図1は、本発明の第1の実施例に係る内燃機関のピストンの断面図である。図1にはピストンのスラスト側半分のみを示している。ピストン1はスカート部102及びピンボス103を有する。スカート部102の内部にはオイルを溜めることができる空間であるオイル室2が設けられている。
【0063】
オイル室2内にはオイル導入路3によってオイルが導入される。また、オイル室2内のオイルはオイル排出路4によってオイル室2の外に排出される。オイル室2には、通路201及び202が接続され、オイル室2内外を連通している。通路201及び202における空気やオイルの流量は、オイル導入路3やオイル排出路4と比較して十分小さい。
【0064】
オイル導入路3は、油路304、シリンダ部301及び油路305により構成される。油路304はピストン背面部101に設けられる開口部に接続し、油路305はオイル室2に接続し、シリンダ部301が油路304と油路305とを連通する。
【0065】
油路304は、ピストン背面部101に冷却用のオイルを噴射するオイルジェット13の噴射ノズルに対向して設けられている。内燃機関の運転中、オイルジェット13から噴射されるオイルが油路304にかかり、オイル導入路3にオイルが供給される。本実施例では、オイルジェット13が本発明における「オイル供給手段」として機能している。
【0066】
シリンダ部301内部には、ばね303及び弁体302が設けられ、入口弁30を構成している。弁体302はばね303によって付勢され、シリンダ部301内部を摺動する。弁体302の位置によってオイル導入路3が開放又は閉鎖される。
【0067】
弁体302にばね303の付勢力のみがかかる場合の平衡状態では、弁体302は図1に示すような油路305を閉鎖する位置に静止し、オイル導入路3が閉鎖される。内燃機関の運転中、ピストン1の運動による慣性力が弁体302にかかると、弁体302はシリンダ部301内部で振動する。
【0068】
弁体302の振幅が所定の閾値A1以上になった場合に、弁体302は油路305を閉鎖しない位置を通過するように構成されている。弁体302が油路305を閉鎖しない位置にある場合、オイル導入路3が開放される。
【0069】
この場合、油路304から流入したオイルは、シリンダ部301及び油路305を流通してオイル室2内に導入される。このように、入口弁30によって、オイル導入路3を介してオイル室2内に導入されるオイル量が調節される。
【0070】
オイル排出路4は、油路404、シリンダ部401及び油路405により構成される。油路405はスカート部102のピンボス103側の壁面に設けられる開口部に接続し、油路404はオイル室2に接続し、シリンダ部401が油路404と油路405とを連通する。
【0071】
シリンダ部401内部には、ばね403及び弁体402が設けられ、出口弁40を構成している。弁体402はばね403によって付勢され、シリンダ部401内部を摺動する。弁体402の位置によってオイル排出路4が開放又は閉鎖される。
【0072】
弁体402にばね403の付勢力のみがかかる場合の平衡状態では、弁体402は図1に示すような油路404を閉鎖する位置に静止し、オイル排出路4が閉鎖される。内燃機関の運転中、ピストン1の運動による慣性力が弁体402にかかると、弁体402はシリンダ部401内部で振動する。
【0073】
弁体402の振幅が所定の閾値A2以上になった場合に、弁体402は油路404を閉鎖しない位置を通過するように構成されている。弁体402が油路404を閉鎖しない位置にある場合、オイル排出路4が開放される。
【0074】
この場合、オイル室2から油路404に流出したオイルは、シリンダ部401及び油路405を流通してオイル室2外に排出される。このように、出口弁40によって、オイル排出路4を介してオイル室2外に排出されるオイル量が調節される。
【0075】
図2は、本実施例における入口弁30及び出口弁40の弁体の振幅と内燃機関の回転数との関係を示す図である。図2(A)は、内燃機関の運転中における内燃機関の回転数と入口弁30の弁体302の振幅との関係を示す図である。図2(B)は、内燃機関の運転中における出口弁40の弁体402の振幅と内燃機関の回転数との関係を示す図である。
【0076】
本実施例では、入口弁30の弁体302の質量とばね303によって決まる弁体302の共振周波数を、内燃機関の所定の回転数NE0に相当する周波数に設定する。本実施例では所定の回転数NE0を3000rpmとする。
【0077】
これにより、内燃機関の運転中の入口弁30の弁体302の振幅は、図2(A)に示すように、回転数がNE0のときに極大となり、回転数がNE0より低い領域では回転数が高くなるほど大きくなり、回転数がNE0より高い領域では回転数が高くなるほど小さくなる傾向を示す。
【0078】
更に、本実施例では、内燃機関の運転中、回転数が所定の回転数NE0を含む所定の回転数領域内にある場合に、入口弁30の弁体302の振幅が閾値A1以上になり、回転数が所定の回転数領域より低回転数側の領域(以下、低回転数領域という)及び高回転数側の領域(以下、高回転数領域という)内にある場合に、入口弁の弁体302の振幅が閾値A1より小さくなるように設定する。本実施例では、所定の回転数領域の下限値NE1を2500rpm、上限値NE2を3500rpmとする。
【0079】
これにより、内燃機関の回転数が低回転数領域(NE1以下の領域、本実施例では2500rpm以下の領域)内にある場合には、入口弁30はオイル導入路3を閉鎖する。また、内燃機関の回転数が所定の回転数領域(NE1以上NE2以下の領域、本実施例では2500rpm以上3500rpm以下の領域)内にある場合には、入口弁30はオイル導入路3を開放する。また、内燃機関の回転数が高回転数領域(NE2以上の領域、本実施例では3500rpm以上の領域)内にある場合には、入口弁30はオイル導入路3を閉鎖する。
【0080】
一方、出口弁40の弁体402の質量とばね403によって決まる弁体402の共振周波数を、共振周波数に対応する回転数が内燃機関の運転可能な回転数域より十分高くなるように設定する。これにより、内燃機関の運転中の出口弁40の弁体402の振幅は、図2(B)に示すように、全回転数域において回転数が高くなるほど大きくなる傾向を示す。
【0081】
更に、本実施例では、内燃機関の運転中、回転数が高回転数領域内にある場合に、出口弁40の弁体402の振幅が閾値A2以上になり、回転数が低回転数領域又は所定の回転数領域内にある場合に、出口弁40の弁体402の振幅が閾値A2より小さくなるように設定する。
【0082】
これにより、内燃機関の回転数が低回転数領域又は所定の回転数領域内にある場合には、出口弁40はオイル排出路4を閉鎖する。また、内燃機関の回転数が高回転数領域内にある場合には、出口弁40はオイル排出路4を開放する。
【0083】
図3は、本実施例における入口弁30及び出口弁40の弁体の挙動と内燃機関の回転数との関係を示す図である。
【0084】
図3(A1)及び(B1)はそれぞれ、内燃機関の回転数が低回転数領域内にある場合(2500rpm以下の場合)の入口弁30の弁体302及び出口弁40の弁体402の挙動を示す。
【0085】
低回転数領域では、弁体302の振幅は閾値A1より小さく、弁体302は油路305を開放する位置を通過しないので、オイル導入路3は閉鎖される。また、弁体402の振幅は閾値A2より小さく、弁体402は油路404を開放する位置を通過しないので、オイル排出路4は閉鎖される。
【0086】
この場合、オイルジェット13から噴射されたオイルはオイル室2内に流入しない。また、オイル室2内のオイルはオイル室2外に排出されない。従って、通路202を介して少量のオイルの流出はあるものの、オイル室2内のオイル量はほとんど変化しない。
【0087】
図3(A2)及び(B2)はそれぞれ、内燃機関の回転数が所定の回転数領域内にある場合(2500rpm以上3500rpm以下の場合)の入口弁30の弁体302及び出口弁40の弁体402の挙動を示す。
【0088】
所定の回転数領域では、弁体302の振幅は閾値A1以上であり、弁体302は油路305を開放する位置を通過するので、オイル導入路3が開放される期間が存在する。一方、弁体402の振幅は閾値A2より小さく、弁体402は油路404を開放する位置を通過しないので、オイル排出路4は閉鎖される。
【0089】
この場合、オイルジェット13から噴射されたオイルはオイル室2内に流入する。一方、オイル室2内のオイルはオイル室2外に排出されない。従って、通路202を介して少量のオイルの流出はあるものの、オイル室2内のオイル量は増加し、オイル室2内にオイルが溜まる。
【0090】
図3(A3)及び(B3)はそれぞれ、内燃機関の回転数が高回転数領域内にある場合(3500rpm以上の場合)の入口弁30の弁体302及び出口弁40の弁体402の挙動を示す。
【0091】
高回転数領域では、弁体302の振幅は閾値A1より小さく、弁体302は油路305を開放する位置を通過しないので、オイル導入路3は閉鎖される。一方、弁体402の振幅は閾値A2以上であり、弁体402は油路404を開放する位置を通過するので、オイル排出路4が開放される期間が存在する。
【0092】
この場合、オイルジェット13から噴射されたオイルはオイル室2内に流入しない。一方、オイル室2内のオイルはオイル室2外に排出される。従って、オイル室2内のオイル量は減少し、時間経過とともにオイル室2内のオイル量はゼロに近付く。
【0093】
内燃機関の回転数に応じて上記のような挙動を示すように設定された入口弁30及び出口弁40が、本発明における「オイル量調節機構」として機能している。
【0094】
入口弁30のばね303及び出口弁40のばね403の弾性力を大きくすることによって、図3(A1)及び(B1)に示す状態(入口弁30の弁体302が油路305を閉鎖し、出口弁40の弁体402が油路404を閉鎖した状態)と、図3(A2)及び(B2)に示す状態(入口弁30が油路305と油路304が連通し、出口弁40の弁体402が油路404を閉鎖した状態)と、の境界となる回転数を高くすることができる。すなわち、ピストン1の重心位置がスラスト側になる境界となる回転数を高くすることができる。
【0095】
逆に、入口弁30のばね303及び出口弁40のばね403の弾性力を小さくすることによって、ピストン1の重心位置がスラスト側になる境界となる回転数を低くすることができる。
【0096】
入口弁30のばね303及び出口弁40のばね403の弾性力を大きくすることによって、図3(A2)及び(B2)に示す状態と、図3(A3)及び(B3)に示す状態(入口弁30の弁体302が油路305を閉鎖し、出口弁40が油路404と油路405を連通する状態)と、の境界となる回転数を高くすることができる。すなわち、ピストン1の重心位置がスラスト側から中心線側に移動する境界となる回転数を高くすることができる。
【0097】
逆に、入口弁30のばね303及び出口弁40のばね403の弾性力を小さくすることによって、ピストン1の重心位置がスラスト側から中心線側に移動する境界となる回転数を低くすることができる。
【0098】
図4は、内燃機関の回転数が所定回転数領域(2500rpm以上3500rpm以下)内にある場合におけるシリンダブロックの振動強度の頻度分布の一例を示す図である。図4には、ピストン1の重心がピストン1の中心線の位置にある場合の頻度分布(A)と、ピストン1の重心をピストン1の中心線よりスラスト側に移動させた場合の頻度分布(B)と、の2通りを示している。
【0099】
図4に示されるように、内燃機関の回転数が所定回転数領域内にある場合には、ピストン1の重心位置をスラスト側に移動させた方が、シリンダブロックの振動強度の平均値が小さくなる。すなわち、スラップ音が軽減される。
【0100】
これに対し、図示しないが、内燃機関の回転数が低回転数領域内(2500rpm以下)にある場合は、ピストン1の重心位置のスラスト側への移動はスラップ音に関して大きな影響はない。また、内燃機関の回転数が高回転数領域内(3500rpm以上)にある場合は、ピストン1の重心位置がスラスト側へ移動しているとスラップ音が大きくなる背反がある。
【0101】
なお、ピストン1の重心位置をスラスト側へ移動させることがスラップ音の軽減に有効である回転数領域は、内燃機関の大きさや形状などの構造によって異なる。本実施例は、この回転数領域が2500rpmから3500rpmであるような内燃機関に使用するピストンに本発明を適用した場合の例である。
【0102】
弁体302の共振周波数、所定の回転数領域の下限値NE1、上限値NE2などの定数は、ピストン1の重心位置のスラスト側への移動がスラップ音の軽減に有効である回転数領域に基づいて、内燃機関毎に決められるべき定数である。
【0103】
本実施例に係るピストン1は、内燃機関の回転数に応じて入口弁30及び出口弁40が上述したように開閉することにより、所定の回転数領域ではオイル室2内にオイルが溜まってピストン1の重心位置がピストン1の中心線よりスラスト側に移動する。
【0104】
一方、高回転数領域ではオイル室2内にオイルが溜まらないのでピストン1の重心位置はピストン1の中心線側(反スラスト側)の位置になる。
【0105】
本実施例のピストン1では、スカート部102の内部にオイル室2が区画されるので、信頼性や耐久性の低下を抑制しつつ、スラップ音を好適に軽減することが可能になる。
【0106】
本実施例では、内燃機関の回転数に応じて、ピストン1の重心位置がスラップ音を軽減するために最適な位置となるように、オイル室2内のオイル量の目標値が定められている。
【0107】
所定の回転数領域(2500rpmから3500rpm)における目標値は、所定の回転数領域におけるスラップ音を所定の目標レベルに軽減することが可能になるピストン重心位置を実現することができるオイル量である。
【0108】
高回転数領域(3500rpm以上)における目標値は、ゼロである。
【0109】
低回転数領域(2500rpm以下)における目標値は、ピストン1の重心位置に対する感度が低いため、特に設定しない。
【0110】
本実施例では、入口弁30及び出口弁40が上述したような設定で構成されることにより、オイル室2内のオイル量が、このように内燃機関の回転数に応じた目標値となるように、内燃機関の回転数に応じてオイル室2に対するオイル導入量及びオイル排出量が調節されるピストンを構成している。
【0111】
(実施例2)
図5は、本発明の第2の実施例に係る内燃機関のピストンの断面図である。実施例1と同等の構成要素には同じ名称及び符号を付して説明を省略する。以下、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0112】
オイル室21内にはオイル導入路31によってオイルが導入される。また、オイル室21内のオイルはオイル排出路4によってオイル室21の外に排出される。
【0113】
オイル導入路31は、ピストンリング14より下方のピストン表面に設けられる開口部とオイル室21とを連通する通路である。ピストンリング14がシリンダライナから掻き落としたオイルがオイル導入路31に流入することにより、オイル室21内にオイルが導入される。
【0114】
オイル導入路31には実施例1の入口弁30のような開閉機構は設けられない。すなわち、オイル導入路31は常時開放であり、内燃機関の運転中、全回転数領域においてオイル室21内にオイルが導入される。
【0115】
オイル排出路4は実施例1と同様の構成であるが、出口弁40がオイル排出路4を開放した場合にオイル室21から排出されるオイル量が、オイル導入路31からオイル室21内に導入されるオイル量よりも多くなるように、油路404及び油路405の径がオイル導入路31の径より十分大きく構成されている。つまり、出口弁40がオイル排出路4を開放する回転数条件では、オイル室21内のオイル量は減少し、時間経過と共にゼロに近付くように設定されている。
【0116】
出口弁40の弁体402は、内燃機関の運転中、ばね403の付勢力及びピストン1の上下運動による慣性力を受けてシリンダ部401内部で振動する。
【0117】
弁体402の振幅が所定の閾値A2以上の場合に、弁体402は油路404を開放する位置を通過可能であり、弁体402の振幅が閾値A2より小さい場合、弁体402は油路404を開放する位置を通過せず、油路404は常に閉鎖される。
【0118】
弁体402の質量及びばね403は、内燃機関が所定の回転数NE2(本実施例では3500rpm)以上の回転数で運転している場合の慣性力が弁体402にかかった場合に、弁体402の振幅が閾値A2以上となるように設定されている。
【0119】
これにより、内燃機関の回転数が低回転数領域(本実施例では2500rpm以下)又は所定の回転数領域(本実施例では2500rpmから3500rpm)内にある場合には、出口弁40はオイル排出路4を閉鎖する。
【0120】
また、内燃機関の回転数が高回転数領域(本実施例では3500rpm)内にある場合には、出口弁40はオイル排出路4を開放する。
【0121】
図6は、本実施例における出口弁40の挙動と内燃機関の回転数との関係を示す図である。
【0122】
図6(A)は、内燃機関の回転数が低回転数領域又は所定の回転数領域内にある場合(3500rpm以下の場合)の出口弁40の弁体402の挙動を示す。
【0123】
低回転数領域又は所定の回転数領域では、弁体402の振幅は閾値A2より小さく、弁体402は油路404を開放する位置を通過しないので、オイル排出路4は閉鎖される。この場合、オイル室21内にはオイル導入路31から流入するオイルが溜まっていくので、オイル室21内のオイル量は増加する。
【0124】
図6(B)は、内燃機関の回転数が高回転数領域内にある場合(3500rpm以上の場合)の出口弁40の弁体402の挙動を示す。
【0125】
高回転数領域では、弁体402の振幅は閾値A2以上であり、弁体402が油路404を開放する位置を通過する期間が存在するので、オイル排出路4は開放される。この場合、上述したようにオイル排出路4によるオイル排出量がオイル導入路31によるオイル導入量より多いため、オイル室21内のオイル量は減少し、ゼロに近付く。
【0126】
内燃機関の回転数に応じた慣性力に応じて上記のような挙動を示すように設定された出
口弁40が、本発明における「オイル量調節機構」として機能している。
【0127】
出口弁40のばね403の弾性を大きくすることによって、弁体402が油路404を開放する位置を通過可能な振幅で振動し始める回転数を高くすることができる。すなわち、ピストン1の重心位置がスラスト側から中心線側に移動する境界となる回転数を高くすることができる。
【0128】
逆に、出口弁40のばね403の弾性を小さくすることによって、弁体402が油路404を開放する位置を通過可能な振幅で振動し始める回転数を低くすることができる。すなわち、ピストン1の重心位置がスラスト側から中心線側に移動する境界となる回転数を低くすることができる。
【0129】
また、出口弁40の弁体402の大きさや、油路404をシリンダ部401に接続する位置や、油路404や油路405の径などを変更することによって、ピストン1の重心位置がスラスト側から中心線側に移動する境界となる回転数を変更することができる。
【0130】
実施例1で説明したように、この境界となる回転数は、ピストン1の重心位置のスラスト側への移動がスラップ音の軽減に有効である回転数領域に基づいて、内燃機関毎に決められるべき定数であり、本実施例において境界となる回転数を3500rpmに設定したのは説明のための一例である。
【0131】
すなわち、ピストン1の重心位置のスラスト側への移動がスラップ音の軽減に有効である回転数領域が2500rpm以上3500rpm以下であるような内燃機関及びピストンに本発明を適用した場合の例である。
【0132】
本実施例に係るピストン1は、内燃機関の回転数に応じた慣性力に応じて出口弁40が上述したように開閉することにより、低回転数領域及び所定の回転数領域ではオイル室21内にオイルが溜まってピストン1の重心位置がピストン1の中心線よりスラスト側に移動する。
【0133】
一方、高回転数領域ではオイル室21内にオイルが溜まらないのでピストン1の重心位置はピストン1の中心線側(ピストンピン側)の位置になる。本実施例のピストン1では、スカート部102の内部にオイル室21が区画されるので、信頼性や耐久性の低下を抑制しつつ、スラップ音を好適に軽減することが可能になる。
【0134】
本実施例では、内燃機関の回転数に応じて、ピストン1の重心位置がスラップ音を軽減するために最適な位置となるように、オイル室21内のオイル量の目標値が定められている。
【0135】
低回転数領域及び所定の回転数領域(3500rpm以下)における目標値は、所定の回転数領域におけるスラップ音を所定の目標レベルに軽減することができるピストン重心位置を実現するオイル量である。
【0136】
高回転数領域(3500rpm以上)における目標値は、ゼロである。
【0137】
本実施例では、オイル導入路31及びオイル排出路4が上述したような設定で構成されることにより、オイル室21内のオイル量が内燃機関の回転数に応じた目標値となるように、内燃機関の運転にともなってかかる慣性力に応じてオイル室21に対するオイル導入量及びオイル排出量が調節されるピストンを構成している。
【0138】
(実施例3)
図7は、本発明の第3の実施例に係る内燃機関のピストンの断面図である。実施例1と同等の構成要素には同じ名称及び符号を付して説明を省略する。以下、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0139】
オイル室2内にはオイル導入路5によってオイルが導入される。また、オイル室2内のオイルはオイル排出路6によってオイル室2の外に排出される。オイル室2には、オイル空気抜き通路203が接続され、オイル室2内外を連通している。
【0140】
オイル導入路5は、油路504、シリンダ部501及び油路505により構成される。油路504は内燃機関の油圧系統に接続し、油路505はオイル室2に接続し、シリンダ部501が油路504と油路505とを連通する。
【0141】
シリンダ部501内部には、ばね503及び弁体502が設けられ、入口弁50を構成している。シリンダ部501は油路504に連通しており、ばね503が弁体502を付勢する向きと逆向きの油圧が油路504内のオイルにより弁体502に作用する。弁体502はシリンダ部501の内部で摺動可能であり、油圧とばね503の付勢力との釣り合いにより弁体502の位置が定まるように構成されている。
【0142】
弁体502には油路5021が設けられ、弁体502の位置がシリンダ部501内部の所定範囲内の場合に、油路5021は油路504とシリンダ部501及び油路505を連通させる。この場合、油路504内のオイルがシリンダ部501、油路5021及び油路505を通過してオイル室2内に流入する。すなわち、この場合、入口弁50はオイル導入路5を開放している。
【0143】
弁体502の位置がシリンダ部501内部の前記所定範囲外の場合は、弁体502は油路505を閉鎖し、油路505と油路504とは連通しないので、油路504内のオイルはオイル室2内に流入しない。すなわち、この場合、入口弁50はオイル導入路5を閉鎖している。
【0144】
このように、入口弁50によって、オイル導入路5を介してオイル室2内に導入されるオイル量が調節される。
【0145】
弁体502にかかる油圧が小さい場合、ばね503の付勢力が優勢となり、弁体502の位置は図7に示す位置となる。弁体502にかかる油圧が大きくなると、ばね503の付勢力に抗して油圧により弁体502が図7の上方に押し込まれ、弁体502の位置が変化する。
【0146】
上記のように、弁体502の位置に応じてオイル導入路5は開放又は閉鎖されるので、入口弁50は、油圧に応じてオイル導入路5を開放又は閉鎖するよう構成されている。
【0147】
油路504が接続される油圧系統について図8を参照して説明する。図8はピストン1のスカート部102及びピンボス103のピストン1の中心線に垂直な面による断面を示す図である。
【0148】
図8に示すように、油路504は、ピンボス103に設けられた油路8、油路7、不図示のピストンピンに設けられる油路、不図示のコネクティングロッドに設けられる油路、不図示のクランクシャフトに設けられる油路、及び不図示のメインオイルギャラリーを介して、不図示のオイルポンプに連通する。
【0149】
これにより、オイルポンプの作動状態に応じた油圧でオイルが油路504に供給される。上述のように、油路504は、シリンダ部501、弁体502に設けられる油路5021、及び油路505を介してオイル室2と連通しており、内燃機関の油圧系統から供給されるオイルがオイル導入路5を介してオイル室2に導入されるよう構成されている。
【0150】
すなわち、本実施例では、油路7及び油路8を含む内燃機関の油圧系統が本発明における「オイル供給手段」として機能している。
【0151】
オイル排出路6は、油路604、シリンダ部601及び油路605により構成される。油路604はオイル室2に接続し、油路605はスカート部102の下面に設けられる開口部に接続し、シリンダ部601が油路604と油路605とを連通する。
【0152】
シリンダ部601の内部には、ばね603及び弁体602が設けられ、出口弁60を構成している。シリンダ部601は油路606を介して内燃機関の油圧系統に連通しており、ばね603が弁体602を付勢する向きと逆向きの油圧が油路606内のオイルにより弁体602に作用する。
【0153】
弁体602はシリンダ部601の内部で摺動可能であり、油圧とばね603の付勢力との釣り合いにより弁体602の位置が定まるように構成されている。
【0154】
シリンダ部601の内部は弁体602によって互いに連通しない2つの領域に区画されており、一方の領域が油路604と油路605とを連通し、他方の領域が油路605に連通している。従って、油路604及び油路605は油路606及び内燃機関の油圧系統とは連通しない。
【0155】
弁体602には油路6021が設けられ、弁体602の位置がシリンダ部601内部の所定範囲内の場合に、油路6021は油路604と油路605とを連通させる。この場合、オイル室2内のオイルが油路604、油路6021及び油路605を通過してオイル室2の外に流出する。すなわち、この場合、出口弁60はオイル排出路6を開放している。
【0156】
また、弁体602の位置が、図7に示すようにばね603の付勢力が油圧に勝って油路606の側に押し込まれた所定範囲内の場合も、油路604と油路605がシリンダ部601の前記一方の領域によって連通されることにより、オイル室2内のオイルが油路604、シリンダ部601及び油路605を通過してオイル室2の外に流出する。すなわち、この場合も出口弁60はオイル排出路6を開放している。
【0157】
弁体602の位置が上記の各所定範囲のいずれでもない場合は、油路604と油路605とは連通せず、オイル室2内のオイルはオイル室2の外に流出しない。すなわち、この場合、出口弁60はオイル排出路6を閉鎖している。
【0158】
このように、出口弁60によって、オイル排出路6を介してオイル室2外に排出されるオイル量が調節される。
【0159】
弁体602にかかる油圧が小さい場合、ばね603の付勢力が優勢となり、弁体602の位置は図7に示す位置となる。弁体602にかかる油圧が大きくなると、ばね603の付勢力に抗して油圧により弁体602が図7の左方に押し込まれ、弁体602の位置が変化する。
【0160】
上記のように、弁体602の位置に応じてオイル排出路6は開放又は閉鎖されるので、出口弁60は、油圧に応じてオイル排出路6を開放又は閉鎖するよう構成されている。
【0161】
油路606が接続される油圧系統について図8を参照して説明する。図8に示すように、油路606は、ピンボス103に設けられた油路10、油路9、不図示のピストンピンに設けられる油路、不図示のコネクティングロッドに設けられる油路、不図示のクランクシャフトに設けられる油路、及び不図示のメインオイルギャラリーを介して、不図示のオイルポンプに連通する。
【0162】
これにより、オイルポンプの作動状態に応じた油圧が弁体602に作用するように構成される。油路606はシリンダ部601に連通しているが、オイル室2に連通している領域(ばね603が設けられている領域)へは、弁体602の存在によって阻止されているため連通していない。従って、オイル室2には連通していない。
【0163】
図9は、本実施例における入口弁50及び出口弁60の弁体の挙動と内燃機関の回転数との関係を示す図である。
【0164】
図9(A1)及び(B1)は、内燃機関の回転数が低回転数領域内にある場合(2500rpm以下の場合)の入口弁50の弁体502及び出口弁60の弁体602の挙動を示す。
【0165】
本実施例では、入口弁50の弁体502の構造及びばね503は、内燃機関の回転数が低回転数領域内にある場合の油圧が弁体502に作用した場合における、図9(A1)に示す弁体502の位置において、油路5021が油路505と油路504とを連通せず、弁体502が油路505を閉鎖するように設定されている。
【0166】
また、出口弁60の弁体602の構造及びばね603は、内燃機関の回転数が低回転数領域内にある場合の油圧が弁体602に作用した場合における、図9(B1)に示す弁体602の位置において、シリンダ部601が油路604と油路605とを連通するように設定されている。
【0167】
従って、低回転数領域では、入口弁50がオイル導入路5を閉鎖するためオイル室2にオイルは導入されず、出口弁60がオイル排出路6を開放するためオイル室2内のオイルが排出されるので、オイル室2内のオイル量は減少し、時間経過とともにオイル室2内のオイル量はゼロに近付く。
【0168】
図9(A2)及び(B2)は、内燃機関の回転数が所定の回転数領域内にある場合(2500rpm以上3500rpm以下の場合)の入口弁50の弁体502及び出口弁60の弁体602の挙動を示す。
【0169】
本実施例では、入口弁50の弁体502の構造及びばね503は、内燃機関の回転数が所定の回転数領域内にある場合の油圧が弁体502に作用した場合における、図9(A2)に示す弁体502の位置において、油路5021が油路505と油路504とを連通するように設定されている。
【0170】
また、出口弁60の弁体602の構造及びばね603は、内燃機関の回転数が所定の回転数領域内にある場合の油圧が弁体602に作用した場合における、図9(B2)に示す弁体602の位置において、弁体602が油路604を閉鎖するように設定されている。
【0171】
従って、所定の回転数領域では、入口弁50がオイル導入路5を開放するためオイル室2にオイルが導入され、出口弁60がオイル排出路6を閉鎖するためオイル室2内のオイルは排出されないので、オイル室2内のオイル量は増加し、オイル室2にオイルが溜まっ
ていく。
【0172】
図9(A3)及び(B3)は、内燃機関の回転数が高回転数領域内にある場合(3500rpm以上の場合)の入口弁50の弁体502及び出口弁60の弁体602の挙動を示す。
【0173】
本実施例では、入口弁50の弁体502の構造及びばね503は、内燃機関の回転数が高回転数領域内にある場合の油圧が弁体502に作用した場合における、図9(A3)に示す弁体502の位置において、油路5021が油路505と油路504とを連通せず、弁体502が油路505を閉鎖するように設定されている。
【0174】
また、出口弁60の弁体602の構造及びばね603は、内燃機関の回転数が高回転数領域内にある場合の油圧が弁体602に作用した場合における、図9(B3)に示す弁体602の位置において、油路6021が油路604と油路605とを連通するように設定されている。
【0175】
従って、高回転数領域では、入口弁50がオイル導入路5を閉鎖するためオイル室2にオイルは導入されず、出口弁60がオイル排出路6を開放するためオイル室2内のオイルが排出されるので、オイル室2内のオイル量は減少し、時間経過とともにオイル室2内のオイル量はゼロに近付く。
【0176】
内燃機関の回転数に応じて上記のような挙動を示すように設定された入口弁50及び出口弁60が、本発明における「オイル量調節機構」として機能している。
【0177】
入口弁50のばね503及び出口弁60のばね603の弾性力を大きくすることによって、図9(A1)及び(B1)に示す状態(入口弁50の弁体502が油路505を閉鎖し、出口弁60のシリンダ部601が油路604と油路605を連通した状態)と、図9(A2)及び(B2)に示す状態(入口弁50の油路5021が油路505と油路504を連通し、出口弁60の弁体602が油路604を閉鎖した状態)と、の境界となる回転数を高くすることができる。すなわち、ピストン1の重心位置が中心線側からスラスト側に移動する境界となる回転数を高くすることができる。
【0178】
逆に、入口弁50のばね503及び出口弁60のばね603の弾性力を小さくすることによって、ピストン1の重心位置が中心線側からスラスト側に移動する境界となる回転数を低くすることができる。
【0179】
入口弁50のばね503及び出口弁60のばね603の弾性力を大きくすることによって、図9(A2)及び(B2)に示す状態と、図9(A3)及び(B3)に示す状態(入口弁50の弁体502が油路505を閉鎖し、出口弁60の油路6021が油路604と油路605を連通した状態)と、の境界となる回転数を高くすることができる。すなわち、ピストン1の重心位置がスラスト側から中心線側に移動する境界となる回転数を高くすることができる。
【0180】
逆に、入口弁50のばね503及び出口弁60のばね603の弾性力を小さくすることによって、ピストン1の重心位置がスラスト側から中心線側に移動する境界となる回転数を低くすることができる。
【0181】
また、入口弁50の弁体502に油路5021を設ける位置、弁体502の大きさ、出口弁60の弁体602に油路6021を設ける位置、弁体602の大きさなどの構成を変更することによっても、図9(A1)及び(B1)に示す状態と図9(A2)及び(B2
)に示す状態との境界となる回転数や、図9(A2)及び(B2)に示す状態と図9(A3)及び(B3)に示す状態との境界となる回転数を変更することができる。
【0182】
実施例1で説明したように、これらの境界となる回転数は、ピストン1の重心位置のスラスト側への移動がスラップ音の軽減に有効である回転数領域に基づいて、内燃機関毎に決められるべき定数であり、本実施例において境界となる回転数を2500rpm及び3500rpmに設定したのは説明のための一例である。
【0183】
すなわち、ピストン1の重心位置のスラスト側への移動がスラップ音の軽減に有効である回転数領域が2500rpm以上3500rpm以下であるような内燃機関及びピストンに本発明を適用した場合の例である。
【0184】
本実施例に係るピストン1は、内燃機関の回転数に応じた油圧に応じて入口弁50及び出口弁60が上述したように開閉することにより、低回転数領域及び高回転数領域ではオイル室2内にオイルが溜まらないのでピストン1の重心位置はピストン1の中心線側(ピストンピン側)の位置になる。
【0185】
一方、所定の回転数領域ではオイル室2内にオイルが溜まってピストン1の重心位置がピストン1の中心線よりスラスト側に移動する。
【0186】
本実施例のピストン1では、オイル室2はスカート部102の内部に区画されるので、信頼性や耐久性の低下を抑制しつつ、スラップ音を好適に軽減することが可能になる。
【0187】
本実施例では、内燃機関の回転数に応じて、ピストン1の重心位置がスラップ音を軽減するために最適な位置となるように、オイル室2内のオイル量の目標値が定められている。
【0188】
低回転数領域(2500rpm以下)及び高回転数領域(3500rpm以上)における目標値は、ゼロである。
【0189】
所定の回転数領域(2500rpm以上3500rpm以下)における目標値は、所定の回転数領域におけるスラップ音を所定の目標レベルに軽減することができるピストン重心位置を実現するオイル量である。
【0190】
本実施例では、オイル導入路5及びオイル排出路6が上述したような設定で構成されることにより、オイル室2内のオイル量が内燃機関の回転数に応じた目標値となるように、内燃機関の回転数に応じた油圧に応じてオイル室2に対するオイル導入量及びオイル排出量が調節されるピストンを構成している。
【0191】
(実施例4)
図10は、本発明の第4の実施例に係る内燃機関のピストンのスカート部及びピンボスの断面図である。図10はピストンの中心線に垂直な面による断面を示している。
【0192】
本実施例のピストンは、上記各実施例とは異なり、スラスト側のスカート部102及び反スラスト側のスカート部104の両方にオイル室が設けられる。図10の上側がスラスト側、下側が反スラスト側である。
【0193】
スラスト側のスカート部102には、2つのオイル量調節機構11が設けられる。オイル量調節機構11は、スラスト側のスカート部102の内部に区画される空間であるシリンダ部1101、シリンダ部1101に連通する油路1104、シリンダ部1101内に
設けられるばね1103及び弁体1102から構成される。
【0194】
油路1104は、ピンボスに形成される油路7、不図示のピストンピンに設けられる油路、不図示のコネクティングロッドに設けられる油路、不図示のクランクシャフトに設けられる油路、及び不図示のメインオイルギャラリーを介して、不図示のオイルポンプに連通する。
【0195】
弁体1102はばね1103によって油路1104の向きに付勢され、ばね1103が弁体1102を付勢する向きと逆向きの油圧が油路1104内のオイルにより弁体1102に作用する。弁体1102はシリンダ部1101の内部で摺動可能であり、油圧とばね1103の付勢力との釣り合いにより弁体1102の位置が定まるように構成されている。
【0196】
シリンダ部1101の内部は、弁体1102によって、ばね1103が設けられる側の空間と油路1104に連通する空間とに区画される。2つの空間は弁体1102によって隔離されて互いに連通しない。
【0197】
後者の油路1104に連通する空間には、油路1104を介してオイルの導入及び排出が可能であり、その内部にオイルを溜めることが可能な空間であり、この空間が本発明における「オイル室」として機能している。弁体1102の位置によって、オイル室内に溜まることが可能なオイル量が決まる。
【0198】
弁体1102にかかる油圧が小さい場合、ばね1103の付勢力が優勢となり、弁体1102の位置は図10に示すように油路1104側に寄った位置となる。この時、シリンダ部1101内のオイル室の容積はほぼゼロになるので、オイル室内のオイル量はほぼゼロとなる。
【0199】
弁体1102にかかる油圧が大きくなると、ばね1103の付勢力に抗して弁体1102がスラスト側に押し込まれ、シリンダ部1101内のオイル室の容積が増加し、オイル室内のオイル量が増加する。
【0200】
本実施例では、内燃機関の回転数が2500rpm以上の場合の油圧がかかると、弁体1102が図10に示す最も油路1104寄りの位置よりスラスト側に移動し、オイル室内のオイル量が増加するように、ばね1103が設定されている。
【0201】
弁体1102が図10に示す最も油路1104寄りの位置にある場合、油路1104からオイル室内へオイルは流入しないので、本発明において入口弁が閉弁されたことに相当する。2500rpm以上の回転数の場合の油圧によって弁体1102が図10に示す位置よりスラスト側に移動した場合、オイル室内へオイルが流入するので、本発明において入口弁が開弁されたことに相当する。
【0202】
オイル室内にオイルが溜まっている状態において、油圧の低下により弁体1102が反スラスト側(油路1104側)へ移動した場合、オイル室内のオイルが油路1104に流出するので、本発明において出口弁が開弁されたことに相当する。
【0203】
反スラスト側のスカート部104には、2つのオイル量調節機構12が設けられる。オイル量調節機構12は、反スラスト側のスカート部104の内部に区画される空間であるシリンダ部1201、シリンダ部1201に連通する油路1204、シリンダ部1201内に設けられるばね1203及び弁体1202を含み、上記のオイル量調節機構11と同様に構成される。
【0204】
但し、本実施例では、内燃機関の回転数が3500rpm以上の場合の油圧がかかると、弁体1202を図10に示す最も油路1104寄りの位置より反スラスト側に移動し、オイル室内のオイル量が増加するように、ばね1203が設定されている。
【0205】
オイル量調節機構11のオイル室が本発明の「第1オイル室」として機能している。また、シリンダ部1101、ばね1103及び弁体1102が「第1開閉弁」として機能している。また、油路1104が「第1油路」として機能している。オイル量調節機構12のオイル室が本発明の「第2オイル室」として機能している。また、シリンダ部1201、ばね1203及び弁体1202が「第2開閉弁」として機能している。また、油路1204が「第2油路」として機能している。
【0206】
図11は、本実施例におけるオイル量調節機構11及びオイル量調節機構12の挙動と内燃機関の回転数との関係を示す図である。
【0207】
図11(A)は、内燃機関の回転数が低回転数領域内にある場合(2500rpm以下の場合)のオイル量調節機構11及びオイル量調節機構12の挙動を示す。
【0208】
上記のように、オイル量調節機構11は、低回転数領域ではばね1103の付勢力が油圧より優勢となるように設定されているため、弁体1102の位置はシリンダ部1101内の最も油路1104寄りの位置となり、オイル室内にオイルは流入しない。
【0209】
また、オイル量調節機構12も、低回転数領域ではばね1203の付勢力が油圧より優勢となるように設定されているため、弁体1202の位置はシリンダ部1201内の最も油路1204寄りの位置となり、オイル室内にオイルは流入しない。
【0210】
従って、低回転数領域では、ピストンの重心位置はピストンの中心線の位置(ピストンピンの位置)になる。
【0211】
図11(B)は、内燃機関の回転数が所定の回転数領域内にある場合(2500rpm以上3500rpm以下の場合)のオイル量調節機構11及びオイル量調節機構12の挙動を示す。
【0212】
上記のように、オイル量調節機構11は、所定の回転数領域では油圧がばね1103の付勢力より優勢となるように設定されているため、弁体1102の位置はシリンダ部1101内のスラスト側の位置に移動し、オイル室にオイルが流入する。
【0213】
一方、オイル量調節機構12は、所定の回転数領域ではばね1203の付勢力が油圧より優勢となるように設定されているため、弁体1202の位置はシリンダ部1201内の最も油路1204寄りの位置となり、オイル室内にオイルは流入しない。
【0214】
従って、所定の回転数領域では、ピストンの重心位置はピストンの中心線よりスラスト側に移動する。
【0215】
図11(C)は、内燃機関の回転数が高回転数領域内にある場合(3500rpm以上の場合)のオイル量調節機構11及びオイル量調節機構12の挙動を示す。
【0216】
上記のように、オイル量調節機構11は、高回転数領域では油圧がばね1103の付勢力より優勢となるように設定されているため、弁体1102の位置はシリンダ部1101内のスラスト側の位置に移動し、オイル室にオイルが流入する。
【0217】
一方、オイル量調節機構12は、高回転数領域では油圧がばね1203の付勢力より優勢となるように設定されているため、弁体1202の位置はシリンダ部1201内の反スラスト側の位置に移動し、オイル室にオイルが流入する。
【0218】
従って、高回転数領域では、ピストンの重心位置はピストンの中心線側の位置に移動する。
【0219】
オイル量調節機構11のばね1103の弾性力を大きくすることによって、スラスト側のオイル室にオイルが流入し始める回転数を高くすることができる。すなわち、ピストン1の重心位置をスラスト側に移動させる回転数の境界を高回転数側にすることができる。
【0220】
逆に、オイル量調節機構11のばね1103の弾性力を小さくすることによって、スラスト側のオイル室にオイルが流入し始める回転数を低くすることができる。すなわち、ピストン1の重心位置をスラスト側に移動させる回転数の境界を低回転数側にすることができる。
【0221】
オイル量調節機構12のばね1203の弾性力を大きくすることによって、反スラスト側のオイル室にオイルが流入し始める回転数を高くすることができる。すなわち、ピストン1の重心位置をピストン中心線側に移動させる回転数の境界を高回転数側にすることができる。
【0222】
逆に、オイル量調節機構12のばね1203の弾性力を小さくすることによって、反スラスト側のオイル室にオイルが流入し始める回転数を低くすることができる。すなわち、ピストン1の重心位置をピストン中心線側に移動させる回転数を低回転数側にすることができる。
【0223】
実施例1で説明したように、これらの境界となる回転数は、ピストン1の重心位置のスラスト側への移動がスラップ音の軽減に有効である回転数領域に基づいて、内燃機関毎に決められるべき定数であり、本実施例において境界となる回転数を2500rpm及び3500rpmに設定したのは説明のための一例である。
【0224】
すなわち、ピストン1の重心位置のスラスト側への移動がスラップ音の軽減に有効である回転数領域が2500rpm以上3500rpm以下であるような内燃機関及びピストンに本発明を適用した場合の例である。
【0225】
本実施例にかかるピストンは、内燃機関の回転数に応じた油圧に応じてオイル量調節機構11及びオイル量調節機構12が上述したようにオイル室内のオイル量を調節することにより、低回転数領域ではスラスト側及び反スラスト側のいずれのオイル室にもオイルが溜まらないので、ピストン1の重心位置はピストン1の中心線側(ピストンピン側)の位置になる。
【0226】
また、所定の回転数領域ではスラスト側のオイル室にのみオイルが溜まり、反スラスト側のオイル室にはオイルが溜まらないので、ピストン1の重心位置はピストン1の中心線よりスラスト側に移動する。
【0227】
また、高回転数領域ではスラスト側及び反スラスト側のいずれのオイル室にもオイルが溜まるので、ピストン1の重心位置はピストン1の中心線側の位置に移動する。本実施例のピストン1では、オイル室はスカート部102の内部に区画されるので、信頼性や耐久性の低下を抑制しつつ、スラップ音を好適に軽減することが可能になる。
【0228】
本実施例では、内燃機関の回転数に応じて、ピストン1の重心位置がスラップ音を軽減するために最適な位置となるように、オイル室内のオイル量の目標値が定められている。
【0229】
低回転数領域(2500rpm以下)における目標値は、スラスト側及び反スラスト側ともにゼロである。
【0230】
所定の回転数領域(2500rpm以上3500rpm以下)における目標値は、スラスト側が所定の回転数領域におけるスラップ音を所定の目標レベルに軽減することができるピストン重心位置を実現するオイル量であり、反スラスト側がゼロである。
【0231】
高回転数領域(3500rpm以上)における目標値は、スラスト側及び反スラスト側ともにオイル室の最大量である。
【0232】
本実施例では、オイル量調節機構11及びオイル量調節機構12が上述したような設定で構成されることにより、オイル室内のオイル量が内燃機関の回転数に応じた目標値となるように、内燃機関の回転数に応じた油圧に応じてオイル室に対するオイル導入量及びオイル排出量が調節されるピストンを構成している。
【0233】
(実施例5)
図12は、本発明の第5の実施例にかかる内燃機関のピストンの断面図である。ピストン1はスカート部102及びピンボス103を有する。スラスト側のスカート部102の内部にはオイルを溜めることができる空間であるオイル室20が設けられている。
【0234】
オイル室20には、オイル導入路32によってオイルが導入される。オイル導入路32は、ピストンリング14の下方のピストン表面に設けられた開口部322と、オイル室20の上方のピストン背面部101に設けられた開口部321と、を連通する通路であり、ピストンリング14が不図示のシリンダライナから掻き落としたオイルが開口部322からオイル導入路32に流入し、開口部321から流出してオイル室20に溜まる。
【0235】
オイル導入路32には実施例1の入口弁30のような開閉機構は設けられない。すなわち、オイル導入路32は常時開放であり、内燃機関の運転中、全回転数領域においてオイル室20内にオイルが導入される。
【0236】
オイル室20は、上部に開口部323が設けられる。開口部323は、オイル導入路32より十分大きく設けられており、圧縮行程及び排気行程においてピストン1がシリンダ内を上昇する運動に伴う慣性力によって、オイル室20内のオイルが開口部323からピストン背面部101やピンボス103の方向に排出される。すなわち、開口部323は本発明における「オイル排出路」として機能している。
【0237】
オイル室20にオイルが溜まっている場合、ピストン1の重心位置はスラスト側になる。オイル室20にオイルが溜まっていない場合、ピストン1の重心位置はピストン1の中心線側(ピストンピン側)の位置になる。
【0238】
本実施例では、低回転数領域及び所定の回転数領域(3500rpm以下)の回転数で内燃機関が運転しているときの慣性力では、オイル室20内のオイルは開口部323から排出されず、高回転数領域(3500rpm以上)の回転数で内燃機関が運転しているときの慣性力によって、オイル室20内のオイルが開口部323から排出されるように、開口部323の大きさを設定している。
【0239】
従って、内燃機関の回転数が低回転数領域及び所定の回転数領域にある場合、オイル室20にはオイルが溜まり、ピストン1の重心位置はスラスト側になる。一方、内燃機関の回転数が高回転数領域にある場合、オイル室20にはオイルが溜まらず、ピストン1の重心位置はピストン1の中心線側(ピストンピン側)になる。
【0240】
内燃機関の回転数に応じて上記のようにオイル室20内のオイル量を調節するように設定された開口部323が、本発明における「オイル量調節機構」として機能している。
【0241】
開口部323を大きくすることによって、オイル室20内のオイルが開口部323から排出される回転数を低くすることができる。逆に、開口部323を小さくすることによって、オイル室20内のオイルが開口部323から排出される回転数を高くすることができる。
【0242】
実施例1で説明したように、この境界となる回転数は、ピストン1の重心位置のスラスト側への移動がスラップ音の軽減に有効である回転数領域に基づいて、内燃機関毎に決められるべき定数であり、本実施例において境界となる回転数を3500rpmに設定したのは説明のための一例である。
【0243】
すなわち、ピストン1の重心位置のスラスト側への移動がスラップ音の軽減に有効である回転数領域が2500rpm以上3500rpm以下であるような内燃機関及びピストンに本発明を適用した場合の例である。
【0244】
本実施例に係るピストン1は、内燃機関の回転数に応じた慣性力に応じてオイル室2からのオイルの排出量が上述したように調節されることにより、低回転数領域及び所定の回転数領域ではオイル室2内にオイルが溜まってピストン1の重心位置がピストン1の中心線よりスラスト側に移動する。
【0245】
一方、高回転数領域ではオイル室2内にオイルが溜まらないのでピストン1の重心位置はピストン1の中心線側(ピストンピン側)の位置になる。本実施例のピストン1では、スカート部102の内部にオイル室2が区画されるので、信頼性や耐久性の低下を抑制しつつ、スラップ音を好適に軽減することが可能になる。
【0246】
本実施例では、内燃機関の回転数に応じて、ピストン1の重心位置がスラップ音を軽減するために最適な位置となるように、オイル室2内のオイル量の目標値が定められている。
【0247】
低回転数領域及び所定の回転数領域(3500rpm以下)における目標値は、所定の回転数領域におけるスラップ音を所定の目標レベルに軽減することができるピストン重心位置を実現するオイル量である。
【0248】
高回転数領域(3500rpm以上)における目標値は、ゼロである。
【0249】
本実施例では、オイル導入路32及び開口部323が上述したような設定で構成されることにより、オイル室2内のオイル量が内燃機関の回転数に応じた目標値となるように、内燃機関の運転にともなってかかる慣性力に応じてオイル室2からのオイル排出量が調節されるピストンを構成している。
【0250】
なお、上記各実施例において、図13に示すように、スカート部102のピンボス103側の壁面に、板状又は棒状の弾性部材901の一端を固定し、他端におもり902を固定し、おもり902がピストン1の運動方向に振動する機構を取り付けても良い。弾性部
材901及びおもり902からなるばね質量系の振幅の周波数特性を、所定の回転数NE0(本実施例では3000rpm)に相当する周波数にピークを持つように設定することにより、所定の回転数NE0に近い回転数ではピストン1の動きに追従して弾性部材901が振動し、ピストン1に大きな慣性力が加わるので、ピストン1の重心がスラスト側に移動させた場合と同様の効果がある。一方、所定の回転数NE0より十分高い回転数では、弾性部材901の振動はピストン1の動きに追従しなくなるのでピストン1の慣性力が小さくなり、ピストン1の重心を中心線側に移動させた場合と同様の効果がある。このようなばね質量系を単独にスカート部102に設けても良い。
【0251】
上述の各実施例で説明した事項を可能な限り組み合わせて本発明を実施することができる。また、上記各実施例ではスカート部を有するピストンにおいてスカート部の内部にオイル室を設ける構成を例示したが、スカート部を有しないピストンに本発明を適用する場合は、スラスト側及び/又は反スラスト側のピストン内部にオイル室を設けることにより、可動部材を用いずにオイル室を形成することができ、上述したようなオイル量調節機構を設けることによって回転数に応じたオイル量の調節を行うことができる。
【符号の説明】
【0252】
1・・・ピストン
2、20、21・・・オイル室
3、5、31、32・・・オイル導入路
4、6・・・オイル排出路
11、12・・・オイル量調節機構
30、50・・・入口弁
40、60・・・出口弁
102、104・・・スカート部
302、402、502、602、1102、1202・・・弁体
303、403、503、603、1103、1203・・・ばね
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの駆動によって発生する騒音の一つにスラップ音がある。このスラップ音は、ピストンがシリンダ内を往復運動するときに該ピストンのスカート部がシリンダライナの壁面に衝突することによって発生する。
【0003】
例えば、内燃機関の高回転数運転時の圧縮行程上死点直前において、ピストン本体がシリンダライナに押しつけられる力(側圧)の向きがスラスト側から反スラスト側へ変化する際の衝突の衝撃によりスラップ音が発生する。
【0004】
ここで、スラスト側とは、圧縮上死点直後の膨張行程に爆発力によってコンロッドが揺動することにより押しつけられる側である。スラスト側と反対方向を反スラスト側という。
【0005】
従来、スラップ音を低減するため種々のピストンが開発されてきた。例えば、特許文献1には、ピストン本体のスカート部のスラスト側のみに外環部材を嵌合し、ピストン本体の重心をピストン本体の中心線よりもスラスト側にオフセットさせた構造のピストンが記載されている。
【0006】
特許文献1に記載されたピストンは、外環部材とスカート部との間にダンパー用オイルが導入される隙間が形成され、この隙間に導入されるオイルによる油圧緩衝作用により、ピストンがスラスト側へ衝突する際の衝撃を緩和することを図っている。
【0007】
また、ピストン本体の重心がピストン本体の中心線よりもスラスト側にオフセットされることにより、圧縮行程における側圧の向きが常に反スラスト側になり、側圧の向きが上死点直前に一時的にスラスト側に変化することに起因するスラップ音を抑制することを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−078129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のピストンの外環部材は、ピストン本体に対して相対移動自在に支持された可動部材である。このような可動部材に十分な剛性を持たせることは困難である。内燃機関の運転中はピストンには非常に大きな加速度がかかるため、十分な剛性を有しない部材をピストンが備えていることは、ピストンの信頼性や耐久性を低下させる要因となる。
【0010】
また、特許文献1に記載のピストンでは、ダンパー用オイルは、オイルギャラリーからクランクシャフト、コンロッド及びピストンピンに形成された油路を経由して供給される構造となっているが、内燃機関の始動時のようにオイルの供給が十分でない場合には、スカート部と外環部材との隙間が十分な量のオイルで満たされず空隙を生じ、これが騒音の原因となる可能性もある。
【0011】
本発明はこの点に鑑みてなされたものであり、信頼性や耐久性を低下させることなくピストンの重心を可変にすることによりスラップ音を好適に抑制することを可能にする内燃機関のピストンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するための本発明は、
内燃機関のピストンであって、
スラスト側及び反スラスト側の少なくとも一方のピストン内部に設けられ、オイルの導入及び排出が可能な空間であるオイル室と、
前記オイル室内のオイル量が前記内燃機関の回転数に応じた所定の目標値となるように、前記オイル室へのオイル導入量及び前記オイル室からのオイル排出量の少なくとも一方が前記内燃機関の回転数又はそれに対応するパラメータに応じて調節されるように構成されるオイル量調節機構と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明のピストンでは、オイル室はピストン内部に設けられるので、オイル室を区画するために可動部材を必要としない。従って、ピストンにオイル室を設けることによるピストンの信頼性及び耐久性の低下を抑制できる。
【0014】
このオイル室内のオイル量を調節することにより、ピストンの重心位置を変化させることができる。ピストンの重心位置はスラップ音の発生に影響し、その影響の仕方は内燃機関の回転数に依存する。例えば、ピストンの重心位置が同じであっても、低回転数ではスラップ音が小さく、高回転数ではスラップ音が大きい、ということがあり得る。
【0015】
上記構成における「所定の目標値」とは、例えばスラップ音を所定の許容レベルに抑えることが可能なピストン重心位置を実現するためのオイル室内のオイル量として定めることができる。
【0016】
本発明のピストンによれば、オイル室内のオイル量が内燃機関の回転数に応じた所定の目標値になるように、オイル量調節機構により、内燃機関の回転数又はそれに対応するパラメータに応じてオイル室に対するオイル導入量及び/又はオイル排出量が調節されるので、内燃機関の回転数に応じて、スラップ音を軽減するために最適なピストン重心位置になるように重心位置が調節されるピストンを実現できる。
【0017】
本発明において、前記オイル量調節機構は、前記内燃機関の回転数が所定の回転数領域内の回転数である場合に前記ピストンの重心が前記ピストンの中心線よりスラスト側の位置になるように、前記オイル導入量及び/又は前記オイル排出量の調節が行われるよう設定されている構成とすることができる。
【0018】
「所定の回転数領域」は、ピストンの重心をピストンの中心線よりスラスト側の位置にした場合に、ピストンの重心がピストンの中心線の位置の場合と比較して、内燃機関のシリンダブロックの振動強度の平均値が小さくなるような回転数領域であり、典型的には、内燃機関の回転数領域を低回転数領域、中回転数領域、高回転数領域に分けた場合の中回転数領域である。
【0019】
上記構成では、オイル室のオイル量の目標値を、所定の回転数領域においてピストンの重心がスラスト側になるように設定する。オイル室がスラスト側に設けられている場合には、所定の回転数領域においてオイル室のオイル量が増加するようにオイル量の目標値を設定する。
【0020】
オイル室がスラスト側及び反スラスト側に設けられている場合には、所定の回転数領域においてスラスト側のオイル室のオイル量が反スラスト側のオイル室のオイル量より多くなるように目標値を設定する。
【0021】
上記構成では、オイル室のオイル量がこのような目標値となるように、オイル導入量及び/又はオイル排出量の調節が行われるように、オイル量調節機構が設定される。
【0022】
オイル量調節機構がこのように設定されていることにより、所定の回転数領域においてピストンの重心がスラスト側になるので、所定の回転数領域におけるスラップ音の軽減が可能になる。一方、高回転数側の領域においては、ピストンの重心の位置のスラスト側への移動が不要に行われることを抑制できる。
【0023】
このように、上記構成によれば、内燃機関の回転数に応じてオイル室に対するオイル導入量及び/又はオイル排出量の調節が行われるので、スラップ音を軽減するために最適なピストン重心位置になるように内燃機関の回転数に応じて重心位置が調節されるピストンを実現できる。
【0024】
本発明において、
前記オイル室はスラスト側のピストン内部に設けられ、
オイル供給手段から供給されるオイルを前記オイル室内に導入するオイル導入路と、
前記オイル室内のオイルをオイル室外に排出するオイル排出路と、
を備え、
前記オイル量調節機構は、
前記オイル導入路を開閉する入口弁と、前記オイル排出路を開閉する出口弁と、を有し、
前記入口弁及び前記出口弁は、ともに弁体及び該弁体を付勢するばねを含み、弁体の振動の振幅がそれぞれの閾値以上の場合に弁体が前記オイル導入路又は前記オイル排出路を開放する位置を通過するよう構成され、
前記入口弁は、前記所定の回転数領域内のある回転数で弁体の振幅が極大となるとともに、前記所定の回転数領域内の回転数で弁体の振幅が閾値以上となり、それより高回転数側の回転数で弁体の振幅が閾値より小さくなり、
前記出口弁は、前記所定の回転数領域内の回転数で弁体の振幅が閾値より小さくなり、それより高回転数側の回転数で弁体の振幅が閾値以上となるように、
設定されていてもよい。
【0025】
オイル量調節機構はピストンに備わるので、内燃機関の運転中はピストンとともに運動する。内燃機関の運転中、入口弁及び出口弁の弁体は、ばねの付勢力とピストン運動の慣性力を受けて所定の空間内で振動する。ピストン運動の周波数は内燃機関の回転数に対応する。
【0026】
運転中の内燃機関の回転数に対応する周波数が弁体の共振周波数に近いほど弁体の振幅は大きくなり、共振周波数から離れるほど弁体の振幅は小さくなる。上記構成では、入口弁の弁体の共振周波数が、所定の回転数領域内のある回転数に対応する周波数となるように設定される。
【0027】
入口弁及び出口弁は、弁体の位置に応じてオイル導入路やオイル排出路を開放又は閉鎖するよう構成される。弁体の振幅が小さい場合、空間内で弁体が通過する範囲は狭く、弁体の振幅が大きい場合、空間内で弁体が通過する範囲は広くなる。
【0028】
振幅が大きい場合に弁体が通過可能な範囲内に含まれ、且つ、振幅が小さい場合に弁体が通過可能な範囲内に含まれない、所定の位置でのみオイル導入路やオイル排出路が開放されるように、入口弁や出口弁を構成することにより、弁体の振幅に応じてオイル導入路やオイル排出路が開閉されるようにできる。
【0029】
上記の構成では、所定の回転数領域では入口弁が開弁し且つ出口弁が閉弁するので、オイル室内のオイル量は増加する。従って、所定の回転数領域においてピストンの重心がスラスト側に移動する。一方、所定の回転数領域より高回転数側の回転数では入口弁が閉弁し且つ出口弁が開弁するので、オイル室内のオイル量は減少する。従って、高回転数領域においてピストンの重心がピストンの中心線側に移動する。
【0030】
このように、上記構成によれば、内燃機関の回転数に応じて入口弁及び出口弁の開閉が行われるので、スラップ音を軽減するために最適なピストン重心位置になるように内燃機関の回転数に応じて重心位置が調節されるピストンを実現できる。
【0031】
本発明において、
前記オイル室はスラスト側のピストン内部に設けられ、
オイル供給手段から供給されるオイルを前記オイル室内に導入するオイル導入路と、
前記オイル室内のオイルをオイル室外に排出するオイル排出路と、
を備え、
前記オイル排出路からオイル室外に排出されるオイル量は前記オイル導入路によりオイル室内に導入されるオイル量より多く、
前記オイル量調節機構は、
前記オイル排出路を開閉する出口弁を有し、
前記出口弁は、弁体及び該弁体を付勢するばねを含み、弁体の振幅が閾値以上の場合に弁体が前記オイル排出路を開放する位置を通過するよう構成され、
前記出口弁は、前記所定の回転数領域内の回転数における前記ピストンの運動による慣性力が前記弁体にかかった場合に前記弁体の振幅が閾値より小さくなり、それより高回転数側の回転数における前記ピストンの運動による慣性力が前記弁体にかかった場合に前記弁体の振幅が閾値以上となるように、
設定されていてもよい。
【0032】
オイル量調節機構はピストンに備わるので、内燃機関の運転中はピストンとともに運動する。内燃機関の運転中、出口弁の弁体は、ばねの付勢力とピストンの運動による慣性力を受けて所定の空間内で振動する。ピストンの運動による慣性力が大きいほど弁体の振幅は大きくなる。ピストンの運動による慣性力は、内燃機関の回転数が高いほど大きくなる。
【0033】
出口弁は、弁体の位置に応じてオイル排出路を開放又は閉鎖するよう構成される。弁体の振幅が小さい場合、空間内で弁体が通過する範囲は狭く、弁体の振幅が大きい場合、空間内で弁体が通過する範囲は広くなる。
【0034】
オイル排出路が開放される位置或いは閉鎖される所定の位置が、振幅が大きい場合に弁体が通過可能な範囲内に含まれ、且つ、振幅が小さい場合に弁体が通過可能な範囲内に含まれないように出口弁を構成することにより、弁体の振幅に応じてオイル排出路が開閉されるようにできる。すなわち、ピストンの運動による慣性力に応じて、オイル排出路が開閉されるように出口弁を構成することができる。
【0035】
上記の構成では、オイル導入路は常に開放されている。そのため、所定の回転数領域において出口弁が閉弁した場合、オイル室内のオイル量は増加する。従って、所定の回転数
領域においてピストンの重心がスラスト側に移動する。
【0036】
一方、上記の構成では、オイル排出路によるオイル排出量がオイル導入路によるオイル導入量より多い。そのため、所定の回転数領域より高回転数側の回転数において出口弁が開弁した場合、オイル室内のオイル量は時間経過とともにゼロに近付く。従って、高回転数領域においてピストンの重心がピストンの中心線側に移動する。
【0037】
このように、上記構成によれば、内燃機関の回転に伴うピストン運動の慣性力に応じて出口弁の開閉が行われるので、スラップ音を軽減するために最適なピストン重心位置になるように内燃機関の回転数に応じて重心位置が調節されるピストンを実現できる。
【0038】
本発明において、
前記オイル室はスラスト側のピストン内部に設けられ、
オイル供給手段から供給されるオイルを前記オイル室内に導入するオイル導入路と、
前記オイル室内のオイルをオイル室外に排出するオイル排出路と、
を備え、
前記オイル量調節機構は、
前記オイル導入路を開閉する入口弁と、前記オイル排出路を開閉する出口弁と、を有し、
前記入口弁及び前記出口弁は、ともに弁体及び該弁体を付勢するばねを含み、ばねの付勢力及び該付勢力と逆向きにかかる油圧との釣り合いによって定まる弁体の位置によって前記オイル導入路又は前記オイル排出路を開放又は閉鎖するよう構成され、
前記入口弁は、前記所定の回転数領域内の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記オイル導入路を開放する位置となり、それより高回転数側の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記オイル導入路を閉鎖する位置となり、
前記出口弁は、前記所定の回転数領域内の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記オイル排出路を閉鎖する位置となり、それより高回転数側の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記オイル排出路を開放する位置となるように、
設定されていても良い。
【0039】
内燃機関の運転中、入口弁及び出口弁の弁体は、ばねの付勢力と油圧を受けて所定の空間内を移動する。弁体に作用する油圧は、内燃機関の回転に連動するオイルポンプにより供給され、弁体には、内燃機関の回転数に応じた大きさの油圧が作用する。
【0040】
運転中の内燃機関の回転数が低い場合、弁体に作用する油圧は小さく、ばねによる付勢力が優勢となる。運転中の内燃機関の回転数が高い場合、弁体に作用する油圧は大きく、油圧が優勢となる。従って、内燃機関の回転数に伴う油圧に応じて弁体の位置が変化する。
【0041】
入口弁及び出口弁は、弁体の位置に応じてオイル導入路又はオイル排出路を開放又は閉鎖するよう構成されるので、内燃機関の回転に伴う油圧に応じてオイル導入路又はオイル排出路が開閉されるようにできる。
【0042】
上記の構成では、所定の回転数領域では入口弁が開弁し且つ出口弁が閉弁するので、オイル室内のオイル量は増加する。従って、所定の回転数領域においてピストンの重心がスラスト側に移動する。
【0043】
一方、所定の回転数領域より高回転数側の回転数では入口弁が閉弁し且つ出口弁が開弁
するので、オイル室内のオイル量は減少する。従って、高回転数領域においてピストンの重心がピストンの中心線側に移動する。
【0044】
このように、上記構成によれば、内燃機関の回転に伴う油圧に応じて入口弁及び出口弁の開閉が行われるので、スラップ音を軽減するために最適なピストン重心位置になるように内燃機関の回転数に応じて重心位置が調節されるピストンを実現できる。
【0045】
前記オイル室は、スラスト側のピストン内部に設けられる第1オイル室と、反スラスト側のピストン内部に設けられる第2オイル室と、を有し、
前記内燃機関の油圧系統と前記第1オイル室とを連通する第1油路と、前記油圧系統と前記第2オイル室とを連通する第2油路と、を備え、
前記オイル量調節機構は、
前記第1油路を開閉する第1開閉弁と、前記第2油路を開閉する第2開閉弁と、を有し、
前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁は、ともに弁体及び該弁体を付勢するばねを含み、ばねの付勢力及び該付勢力と逆向きにかかる油圧との釣り合いによって定まる弁体の位置によって前記第1油路又は第2油路を開放又は閉鎖するよう構成され、
前記第1開閉弁は、前記所定の回転数領域内の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記第1油路を開放する位置となり、それより高回転数側の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記第1油路を開放する位置となり、
前記第2開閉弁は、前記所定の回転数領域内の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記第2油路を閉鎖する位置となり、それより高回転数側の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記第2油路を開放する位置となるように、
設定されていてもよい。
【0046】
内燃機関の運転中、第1開閉弁及び第2開閉弁の弁体は、ばねの付勢力と油圧を受けて所定の空間内を移動する。弁体に作用する油圧は、内燃機関の回転に連動するオイルポンプにより供給され、弁体には、内燃機関の回転数に応じた大きさの油圧が作用する。
【0047】
運転中の内燃機関の回転数が低い場合、弁体に作用する油圧は小さく、ばねによる付勢力が優勢となる。運転中の内燃機関の回転数が高い場合、弁体に作用する油圧は大きく、油圧が優勢となる。従って、内燃機関の回転数に伴う油圧に応じて弁体の位置が変化する。
【0048】
第1開閉弁及び第2開閉弁は、弁体の位置に応じて第1油路又は第2油路を開放又は閉鎖するよう構成されるので、内燃機関の回転に伴う油圧に応じて第1油路又は第2油路が開閉されるようにできる。
【0049】
上記の構成では、所定の回転数領域では第1開閉弁は開弁し、第2開閉弁は閉弁するので、スラスト側のオイル室内のオイル量のみが増加する。従って、所定の回転数領域においてピストンの重心がスラスト側に移動する。
【0050】
一方、所定の回転数領域より高回転数側の回転数では第1開閉弁及び第2開閉弁の両方が開弁するので、スラスト側及び反スラスト側の両方のオイル室のオイル量が増加する。従って、高回転数領域においてピストンの重心がピストンの中心線側に移動する。
【0051】
このように、上記構成によれば、内燃機関の回転に伴う油圧に応じて第1開閉弁及び第2開閉弁の開閉が行われるので、スラップ音を軽減するために最適なピストン重心位置になるように内燃機関の回転数に応じて重心位置が調節されるピストンを実現できる。
【0052】
本発明にかかる上述の各構成において、オイル室は、ピストンの特にスカート部の内部に設けることができる。また、オイル室は、スラスト側のピストン内部に設けることができる。オイル室は、反スラスト側のピストン内部に設けることもできる。
【0053】
或いは、オイル室は、スラスト側のピストン内部及び反スラスト側のピストン内部の両方に設けることもできる。スラスト側のピストン内部及び反スラスト側のピストン内部の両方にオイル室を設ける場合、オイル量調節機構はオイル室毎に設けても良い。
【0054】
この場合、等回転数条件で2つのオイル室のオイル量が同じになるように各オイル量調節機構を設定することにより、ピストンの重心位置がピストン中心線の位置になるようにすることができる。
【0055】
或いは、等回転数条件で2つのオイル室のオイル量に差が出るように各オイル量調節機構を設定することにより、ピストン重心位置をピストン中心線からスラスト側又は反スラスト側に移動させることができる。
【0056】
オイル室へのオイルの供給手段は、例えば、内燃機関の油圧系統からクランクシャフト、コンロッド、ピストンピン、ピンボス、スカートなどに設けられる油路を介してオイル室に連通する通路を設ける構成とすることができる。
【0057】
或いは、ピストンの背面にオイルをはねかけるオイルジェットから噴射されるオイルの一部がオイル室に導入される構成とすることができる。
【0058】
また、ピストンリングより下方且つオイル室より上方のピストン表面に開口部を設け、開口部とオイル室とを連通する通路を設け、ピストンリングが掻き落としたオイルがオイル導入路を介してオイル室に流入する構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0059】
本発明によれば、信頼性や耐久性を低下させることなくピストンの重心を可変にすることによりスラップ音を好適に抑制することを可能にする内燃機関のピストンが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例1に係る内燃機関のピストンの断面図である。
【図2】実施例1における入口弁及び出口弁の弁体の振幅と内燃機関の回転数との関係を示す図である。図2(A)は、内燃機関の運転中における内燃機関の回転数と入口弁の弁体の振幅との関係を示す図である。図2(B)は、内燃機関の運転中における出口弁の弁体の振幅と内燃機関の回転数との関係を示す図である。
【図3】実施例1における入口弁及び出口弁の弁体の挙動と内燃機関の回転数との関係を示す図である。
【図4】内燃機関の回転数が中回転数領域内にある場合におけるシリンダブロックの振動強度の頻度分布の一例を示す図である。
【図5】実施例2に係る内燃機関のピストンの断面図である。
【図6】実施例2における出口弁の挙動と内燃機関の回転数との関係を示す図である。
【図7】実施例3に係る内燃機関のピストンの断面図である。
【図8】実施例3に係る内燃機関のピストンのスカート部及びピンボスのピストン中心線に垂直な面による断面を示す図である。
【図9】実施例3における入口弁及び出口弁の弁体の挙動と内燃機関の回転数との関係を示す図である。
【図10】実施例4に係る内燃機関のピストンのスカート部及びピンボスのピストン中心線に垂直な面による断面を示す図である。
【図11】実施例4におけるスラスト側のオイル量調節機構及び反スラスト側のオイル量調節機構の挙動と内燃機関の回転数との関係を示す図である。
【図12】実施例5に係る内燃機関のピストンの断面図である。
【図13】実施例の変形例に係る内燃機関のピストンの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは、発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0062】
(実施例1)
図1は、本発明の第1の実施例に係る内燃機関のピストンの断面図である。図1にはピストンのスラスト側半分のみを示している。ピストン1はスカート部102及びピンボス103を有する。スカート部102の内部にはオイルを溜めることができる空間であるオイル室2が設けられている。
【0063】
オイル室2内にはオイル導入路3によってオイルが導入される。また、オイル室2内のオイルはオイル排出路4によってオイル室2の外に排出される。オイル室2には、通路201及び202が接続され、オイル室2内外を連通している。通路201及び202における空気やオイルの流量は、オイル導入路3やオイル排出路4と比較して十分小さい。
【0064】
オイル導入路3は、油路304、シリンダ部301及び油路305により構成される。油路304はピストン背面部101に設けられる開口部に接続し、油路305はオイル室2に接続し、シリンダ部301が油路304と油路305とを連通する。
【0065】
油路304は、ピストン背面部101に冷却用のオイルを噴射するオイルジェット13の噴射ノズルに対向して設けられている。内燃機関の運転中、オイルジェット13から噴射されるオイルが油路304にかかり、オイル導入路3にオイルが供給される。本実施例では、オイルジェット13が本発明における「オイル供給手段」として機能している。
【0066】
シリンダ部301内部には、ばね303及び弁体302が設けられ、入口弁30を構成している。弁体302はばね303によって付勢され、シリンダ部301内部を摺動する。弁体302の位置によってオイル導入路3が開放又は閉鎖される。
【0067】
弁体302にばね303の付勢力のみがかかる場合の平衡状態では、弁体302は図1に示すような油路305を閉鎖する位置に静止し、オイル導入路3が閉鎖される。内燃機関の運転中、ピストン1の運動による慣性力が弁体302にかかると、弁体302はシリンダ部301内部で振動する。
【0068】
弁体302の振幅が所定の閾値A1以上になった場合に、弁体302は油路305を閉鎖しない位置を通過するように構成されている。弁体302が油路305を閉鎖しない位置にある場合、オイル導入路3が開放される。
【0069】
この場合、油路304から流入したオイルは、シリンダ部301及び油路305を流通してオイル室2内に導入される。このように、入口弁30によって、オイル導入路3を介してオイル室2内に導入されるオイル量が調節される。
【0070】
オイル排出路4は、油路404、シリンダ部401及び油路405により構成される。油路405はスカート部102のピンボス103側の壁面に設けられる開口部に接続し、油路404はオイル室2に接続し、シリンダ部401が油路404と油路405とを連通する。
【0071】
シリンダ部401内部には、ばね403及び弁体402が設けられ、出口弁40を構成している。弁体402はばね403によって付勢され、シリンダ部401内部を摺動する。弁体402の位置によってオイル排出路4が開放又は閉鎖される。
【0072】
弁体402にばね403の付勢力のみがかかる場合の平衡状態では、弁体402は図1に示すような油路404を閉鎖する位置に静止し、オイル排出路4が閉鎖される。内燃機関の運転中、ピストン1の運動による慣性力が弁体402にかかると、弁体402はシリンダ部401内部で振動する。
【0073】
弁体402の振幅が所定の閾値A2以上になった場合に、弁体402は油路404を閉鎖しない位置を通過するように構成されている。弁体402が油路404を閉鎖しない位置にある場合、オイル排出路4が開放される。
【0074】
この場合、オイル室2から油路404に流出したオイルは、シリンダ部401及び油路405を流通してオイル室2外に排出される。このように、出口弁40によって、オイル排出路4を介してオイル室2外に排出されるオイル量が調節される。
【0075】
図2は、本実施例における入口弁30及び出口弁40の弁体の振幅と内燃機関の回転数との関係を示す図である。図2(A)は、内燃機関の運転中における内燃機関の回転数と入口弁30の弁体302の振幅との関係を示す図である。図2(B)は、内燃機関の運転中における出口弁40の弁体402の振幅と内燃機関の回転数との関係を示す図である。
【0076】
本実施例では、入口弁30の弁体302の質量とばね303によって決まる弁体302の共振周波数を、内燃機関の所定の回転数NE0に相当する周波数に設定する。本実施例では所定の回転数NE0を3000rpmとする。
【0077】
これにより、内燃機関の運転中の入口弁30の弁体302の振幅は、図2(A)に示すように、回転数がNE0のときに極大となり、回転数がNE0より低い領域では回転数が高くなるほど大きくなり、回転数がNE0より高い領域では回転数が高くなるほど小さくなる傾向を示す。
【0078】
更に、本実施例では、内燃機関の運転中、回転数が所定の回転数NE0を含む所定の回転数領域内にある場合に、入口弁30の弁体302の振幅が閾値A1以上になり、回転数が所定の回転数領域より低回転数側の領域(以下、低回転数領域という)及び高回転数側の領域(以下、高回転数領域という)内にある場合に、入口弁の弁体302の振幅が閾値A1より小さくなるように設定する。本実施例では、所定の回転数領域の下限値NE1を2500rpm、上限値NE2を3500rpmとする。
【0079】
これにより、内燃機関の回転数が低回転数領域(NE1以下の領域、本実施例では2500rpm以下の領域)内にある場合には、入口弁30はオイル導入路3を閉鎖する。また、内燃機関の回転数が所定の回転数領域(NE1以上NE2以下の領域、本実施例では2500rpm以上3500rpm以下の領域)内にある場合には、入口弁30はオイル導入路3を開放する。また、内燃機関の回転数が高回転数領域(NE2以上の領域、本実施例では3500rpm以上の領域)内にある場合には、入口弁30はオイル導入路3を閉鎖する。
【0080】
一方、出口弁40の弁体402の質量とばね403によって決まる弁体402の共振周波数を、共振周波数に対応する回転数が内燃機関の運転可能な回転数域より十分高くなるように設定する。これにより、内燃機関の運転中の出口弁40の弁体402の振幅は、図2(B)に示すように、全回転数域において回転数が高くなるほど大きくなる傾向を示す。
【0081】
更に、本実施例では、内燃機関の運転中、回転数が高回転数領域内にある場合に、出口弁40の弁体402の振幅が閾値A2以上になり、回転数が低回転数領域又は所定の回転数領域内にある場合に、出口弁40の弁体402の振幅が閾値A2より小さくなるように設定する。
【0082】
これにより、内燃機関の回転数が低回転数領域又は所定の回転数領域内にある場合には、出口弁40はオイル排出路4を閉鎖する。また、内燃機関の回転数が高回転数領域内にある場合には、出口弁40はオイル排出路4を開放する。
【0083】
図3は、本実施例における入口弁30及び出口弁40の弁体の挙動と内燃機関の回転数との関係を示す図である。
【0084】
図3(A1)及び(B1)はそれぞれ、内燃機関の回転数が低回転数領域内にある場合(2500rpm以下の場合)の入口弁30の弁体302及び出口弁40の弁体402の挙動を示す。
【0085】
低回転数領域では、弁体302の振幅は閾値A1より小さく、弁体302は油路305を開放する位置を通過しないので、オイル導入路3は閉鎖される。また、弁体402の振幅は閾値A2より小さく、弁体402は油路404を開放する位置を通過しないので、オイル排出路4は閉鎖される。
【0086】
この場合、オイルジェット13から噴射されたオイルはオイル室2内に流入しない。また、オイル室2内のオイルはオイル室2外に排出されない。従って、通路202を介して少量のオイルの流出はあるものの、オイル室2内のオイル量はほとんど変化しない。
【0087】
図3(A2)及び(B2)はそれぞれ、内燃機関の回転数が所定の回転数領域内にある場合(2500rpm以上3500rpm以下の場合)の入口弁30の弁体302及び出口弁40の弁体402の挙動を示す。
【0088】
所定の回転数領域では、弁体302の振幅は閾値A1以上であり、弁体302は油路305を開放する位置を通過するので、オイル導入路3が開放される期間が存在する。一方、弁体402の振幅は閾値A2より小さく、弁体402は油路404を開放する位置を通過しないので、オイル排出路4は閉鎖される。
【0089】
この場合、オイルジェット13から噴射されたオイルはオイル室2内に流入する。一方、オイル室2内のオイルはオイル室2外に排出されない。従って、通路202を介して少量のオイルの流出はあるものの、オイル室2内のオイル量は増加し、オイル室2内にオイルが溜まる。
【0090】
図3(A3)及び(B3)はそれぞれ、内燃機関の回転数が高回転数領域内にある場合(3500rpm以上の場合)の入口弁30の弁体302及び出口弁40の弁体402の挙動を示す。
【0091】
高回転数領域では、弁体302の振幅は閾値A1より小さく、弁体302は油路305を開放する位置を通過しないので、オイル導入路3は閉鎖される。一方、弁体402の振幅は閾値A2以上であり、弁体402は油路404を開放する位置を通過するので、オイル排出路4が開放される期間が存在する。
【0092】
この場合、オイルジェット13から噴射されたオイルはオイル室2内に流入しない。一方、オイル室2内のオイルはオイル室2外に排出される。従って、オイル室2内のオイル量は減少し、時間経過とともにオイル室2内のオイル量はゼロに近付く。
【0093】
内燃機関の回転数に応じて上記のような挙動を示すように設定された入口弁30及び出口弁40が、本発明における「オイル量調節機構」として機能している。
【0094】
入口弁30のばね303及び出口弁40のばね403の弾性力を大きくすることによって、図3(A1)及び(B1)に示す状態(入口弁30の弁体302が油路305を閉鎖し、出口弁40の弁体402が油路404を閉鎖した状態)と、図3(A2)及び(B2)に示す状態(入口弁30が油路305と油路304が連通し、出口弁40の弁体402が油路404を閉鎖した状態)と、の境界となる回転数を高くすることができる。すなわち、ピストン1の重心位置がスラスト側になる境界となる回転数を高くすることができる。
【0095】
逆に、入口弁30のばね303及び出口弁40のばね403の弾性力を小さくすることによって、ピストン1の重心位置がスラスト側になる境界となる回転数を低くすることができる。
【0096】
入口弁30のばね303及び出口弁40のばね403の弾性力を大きくすることによって、図3(A2)及び(B2)に示す状態と、図3(A3)及び(B3)に示す状態(入口弁30の弁体302が油路305を閉鎖し、出口弁40が油路404と油路405を連通する状態)と、の境界となる回転数を高くすることができる。すなわち、ピストン1の重心位置がスラスト側から中心線側に移動する境界となる回転数を高くすることができる。
【0097】
逆に、入口弁30のばね303及び出口弁40のばね403の弾性力を小さくすることによって、ピストン1の重心位置がスラスト側から中心線側に移動する境界となる回転数を低くすることができる。
【0098】
図4は、内燃機関の回転数が所定回転数領域(2500rpm以上3500rpm以下)内にある場合におけるシリンダブロックの振動強度の頻度分布の一例を示す図である。図4には、ピストン1の重心がピストン1の中心線の位置にある場合の頻度分布(A)と、ピストン1の重心をピストン1の中心線よりスラスト側に移動させた場合の頻度分布(B)と、の2通りを示している。
【0099】
図4に示されるように、内燃機関の回転数が所定回転数領域内にある場合には、ピストン1の重心位置をスラスト側に移動させた方が、シリンダブロックの振動強度の平均値が小さくなる。すなわち、スラップ音が軽減される。
【0100】
これに対し、図示しないが、内燃機関の回転数が低回転数領域内(2500rpm以下)にある場合は、ピストン1の重心位置のスラスト側への移動はスラップ音に関して大きな影響はない。また、内燃機関の回転数が高回転数領域内(3500rpm以上)にある場合は、ピストン1の重心位置がスラスト側へ移動しているとスラップ音が大きくなる背反がある。
【0101】
なお、ピストン1の重心位置をスラスト側へ移動させることがスラップ音の軽減に有効である回転数領域は、内燃機関の大きさや形状などの構造によって異なる。本実施例は、この回転数領域が2500rpmから3500rpmであるような内燃機関に使用するピストンに本発明を適用した場合の例である。
【0102】
弁体302の共振周波数、所定の回転数領域の下限値NE1、上限値NE2などの定数は、ピストン1の重心位置のスラスト側への移動がスラップ音の軽減に有効である回転数領域に基づいて、内燃機関毎に決められるべき定数である。
【0103】
本実施例に係るピストン1は、内燃機関の回転数に応じて入口弁30及び出口弁40が上述したように開閉することにより、所定の回転数領域ではオイル室2内にオイルが溜まってピストン1の重心位置がピストン1の中心線よりスラスト側に移動する。
【0104】
一方、高回転数領域ではオイル室2内にオイルが溜まらないのでピストン1の重心位置はピストン1の中心線側(反スラスト側)の位置になる。
【0105】
本実施例のピストン1では、スカート部102の内部にオイル室2が区画されるので、信頼性や耐久性の低下を抑制しつつ、スラップ音を好適に軽減することが可能になる。
【0106】
本実施例では、内燃機関の回転数に応じて、ピストン1の重心位置がスラップ音を軽減するために最適な位置となるように、オイル室2内のオイル量の目標値が定められている。
【0107】
所定の回転数領域(2500rpmから3500rpm)における目標値は、所定の回転数領域におけるスラップ音を所定の目標レベルに軽減することが可能になるピストン重心位置を実現することができるオイル量である。
【0108】
高回転数領域(3500rpm以上)における目標値は、ゼロである。
【0109】
低回転数領域(2500rpm以下)における目標値は、ピストン1の重心位置に対する感度が低いため、特に設定しない。
【0110】
本実施例では、入口弁30及び出口弁40が上述したような設定で構成されることにより、オイル室2内のオイル量が、このように内燃機関の回転数に応じた目標値となるように、内燃機関の回転数に応じてオイル室2に対するオイル導入量及びオイル排出量が調節されるピストンを構成している。
【0111】
(実施例2)
図5は、本発明の第2の実施例に係る内燃機関のピストンの断面図である。実施例1と同等の構成要素には同じ名称及び符号を付して説明を省略する。以下、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0112】
オイル室21内にはオイル導入路31によってオイルが導入される。また、オイル室21内のオイルはオイル排出路4によってオイル室21の外に排出される。
【0113】
オイル導入路31は、ピストンリング14より下方のピストン表面に設けられる開口部とオイル室21とを連通する通路である。ピストンリング14がシリンダライナから掻き落としたオイルがオイル導入路31に流入することにより、オイル室21内にオイルが導入される。
【0114】
オイル導入路31には実施例1の入口弁30のような開閉機構は設けられない。すなわち、オイル導入路31は常時開放であり、内燃機関の運転中、全回転数領域においてオイル室21内にオイルが導入される。
【0115】
オイル排出路4は実施例1と同様の構成であるが、出口弁40がオイル排出路4を開放した場合にオイル室21から排出されるオイル量が、オイル導入路31からオイル室21内に導入されるオイル量よりも多くなるように、油路404及び油路405の径がオイル導入路31の径より十分大きく構成されている。つまり、出口弁40がオイル排出路4を開放する回転数条件では、オイル室21内のオイル量は減少し、時間経過と共にゼロに近付くように設定されている。
【0116】
出口弁40の弁体402は、内燃機関の運転中、ばね403の付勢力及びピストン1の上下運動による慣性力を受けてシリンダ部401内部で振動する。
【0117】
弁体402の振幅が所定の閾値A2以上の場合に、弁体402は油路404を開放する位置を通過可能であり、弁体402の振幅が閾値A2より小さい場合、弁体402は油路404を開放する位置を通過せず、油路404は常に閉鎖される。
【0118】
弁体402の質量及びばね403は、内燃機関が所定の回転数NE2(本実施例では3500rpm)以上の回転数で運転している場合の慣性力が弁体402にかかった場合に、弁体402の振幅が閾値A2以上となるように設定されている。
【0119】
これにより、内燃機関の回転数が低回転数領域(本実施例では2500rpm以下)又は所定の回転数領域(本実施例では2500rpmから3500rpm)内にある場合には、出口弁40はオイル排出路4を閉鎖する。
【0120】
また、内燃機関の回転数が高回転数領域(本実施例では3500rpm)内にある場合には、出口弁40はオイル排出路4を開放する。
【0121】
図6は、本実施例における出口弁40の挙動と内燃機関の回転数との関係を示す図である。
【0122】
図6(A)は、内燃機関の回転数が低回転数領域又は所定の回転数領域内にある場合(3500rpm以下の場合)の出口弁40の弁体402の挙動を示す。
【0123】
低回転数領域又は所定の回転数領域では、弁体402の振幅は閾値A2より小さく、弁体402は油路404を開放する位置を通過しないので、オイル排出路4は閉鎖される。この場合、オイル室21内にはオイル導入路31から流入するオイルが溜まっていくので、オイル室21内のオイル量は増加する。
【0124】
図6(B)は、内燃機関の回転数が高回転数領域内にある場合(3500rpm以上の場合)の出口弁40の弁体402の挙動を示す。
【0125】
高回転数領域では、弁体402の振幅は閾値A2以上であり、弁体402が油路404を開放する位置を通過する期間が存在するので、オイル排出路4は開放される。この場合、上述したようにオイル排出路4によるオイル排出量がオイル導入路31によるオイル導入量より多いため、オイル室21内のオイル量は減少し、ゼロに近付く。
【0126】
内燃機関の回転数に応じた慣性力に応じて上記のような挙動を示すように設定された出
口弁40が、本発明における「オイル量調節機構」として機能している。
【0127】
出口弁40のばね403の弾性を大きくすることによって、弁体402が油路404を開放する位置を通過可能な振幅で振動し始める回転数を高くすることができる。すなわち、ピストン1の重心位置がスラスト側から中心線側に移動する境界となる回転数を高くすることができる。
【0128】
逆に、出口弁40のばね403の弾性を小さくすることによって、弁体402が油路404を開放する位置を通過可能な振幅で振動し始める回転数を低くすることができる。すなわち、ピストン1の重心位置がスラスト側から中心線側に移動する境界となる回転数を低くすることができる。
【0129】
また、出口弁40の弁体402の大きさや、油路404をシリンダ部401に接続する位置や、油路404や油路405の径などを変更することによって、ピストン1の重心位置がスラスト側から中心線側に移動する境界となる回転数を変更することができる。
【0130】
実施例1で説明したように、この境界となる回転数は、ピストン1の重心位置のスラスト側への移動がスラップ音の軽減に有効である回転数領域に基づいて、内燃機関毎に決められるべき定数であり、本実施例において境界となる回転数を3500rpmに設定したのは説明のための一例である。
【0131】
すなわち、ピストン1の重心位置のスラスト側への移動がスラップ音の軽減に有効である回転数領域が2500rpm以上3500rpm以下であるような内燃機関及びピストンに本発明を適用した場合の例である。
【0132】
本実施例に係るピストン1は、内燃機関の回転数に応じた慣性力に応じて出口弁40が上述したように開閉することにより、低回転数領域及び所定の回転数領域ではオイル室21内にオイルが溜まってピストン1の重心位置がピストン1の中心線よりスラスト側に移動する。
【0133】
一方、高回転数領域ではオイル室21内にオイルが溜まらないのでピストン1の重心位置はピストン1の中心線側(ピストンピン側)の位置になる。本実施例のピストン1では、スカート部102の内部にオイル室21が区画されるので、信頼性や耐久性の低下を抑制しつつ、スラップ音を好適に軽減することが可能になる。
【0134】
本実施例では、内燃機関の回転数に応じて、ピストン1の重心位置がスラップ音を軽減するために最適な位置となるように、オイル室21内のオイル量の目標値が定められている。
【0135】
低回転数領域及び所定の回転数領域(3500rpm以下)における目標値は、所定の回転数領域におけるスラップ音を所定の目標レベルに軽減することができるピストン重心位置を実現するオイル量である。
【0136】
高回転数領域(3500rpm以上)における目標値は、ゼロである。
【0137】
本実施例では、オイル導入路31及びオイル排出路4が上述したような設定で構成されることにより、オイル室21内のオイル量が内燃機関の回転数に応じた目標値となるように、内燃機関の運転にともなってかかる慣性力に応じてオイル室21に対するオイル導入量及びオイル排出量が調節されるピストンを構成している。
【0138】
(実施例3)
図7は、本発明の第3の実施例に係る内燃機関のピストンの断面図である。実施例1と同等の構成要素には同じ名称及び符号を付して説明を省略する。以下、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0139】
オイル室2内にはオイル導入路5によってオイルが導入される。また、オイル室2内のオイルはオイル排出路6によってオイル室2の外に排出される。オイル室2には、オイル空気抜き通路203が接続され、オイル室2内外を連通している。
【0140】
オイル導入路5は、油路504、シリンダ部501及び油路505により構成される。油路504は内燃機関の油圧系統に接続し、油路505はオイル室2に接続し、シリンダ部501が油路504と油路505とを連通する。
【0141】
シリンダ部501内部には、ばね503及び弁体502が設けられ、入口弁50を構成している。シリンダ部501は油路504に連通しており、ばね503が弁体502を付勢する向きと逆向きの油圧が油路504内のオイルにより弁体502に作用する。弁体502はシリンダ部501の内部で摺動可能であり、油圧とばね503の付勢力との釣り合いにより弁体502の位置が定まるように構成されている。
【0142】
弁体502には油路5021が設けられ、弁体502の位置がシリンダ部501内部の所定範囲内の場合に、油路5021は油路504とシリンダ部501及び油路505を連通させる。この場合、油路504内のオイルがシリンダ部501、油路5021及び油路505を通過してオイル室2内に流入する。すなわち、この場合、入口弁50はオイル導入路5を開放している。
【0143】
弁体502の位置がシリンダ部501内部の前記所定範囲外の場合は、弁体502は油路505を閉鎖し、油路505と油路504とは連通しないので、油路504内のオイルはオイル室2内に流入しない。すなわち、この場合、入口弁50はオイル導入路5を閉鎖している。
【0144】
このように、入口弁50によって、オイル導入路5を介してオイル室2内に導入されるオイル量が調節される。
【0145】
弁体502にかかる油圧が小さい場合、ばね503の付勢力が優勢となり、弁体502の位置は図7に示す位置となる。弁体502にかかる油圧が大きくなると、ばね503の付勢力に抗して油圧により弁体502が図7の上方に押し込まれ、弁体502の位置が変化する。
【0146】
上記のように、弁体502の位置に応じてオイル導入路5は開放又は閉鎖されるので、入口弁50は、油圧に応じてオイル導入路5を開放又は閉鎖するよう構成されている。
【0147】
油路504が接続される油圧系統について図8を参照して説明する。図8はピストン1のスカート部102及びピンボス103のピストン1の中心線に垂直な面による断面を示す図である。
【0148】
図8に示すように、油路504は、ピンボス103に設けられた油路8、油路7、不図示のピストンピンに設けられる油路、不図示のコネクティングロッドに設けられる油路、不図示のクランクシャフトに設けられる油路、及び不図示のメインオイルギャラリーを介して、不図示のオイルポンプに連通する。
【0149】
これにより、オイルポンプの作動状態に応じた油圧でオイルが油路504に供給される。上述のように、油路504は、シリンダ部501、弁体502に設けられる油路5021、及び油路505を介してオイル室2と連通しており、内燃機関の油圧系統から供給されるオイルがオイル導入路5を介してオイル室2に導入されるよう構成されている。
【0150】
すなわち、本実施例では、油路7及び油路8を含む内燃機関の油圧系統が本発明における「オイル供給手段」として機能している。
【0151】
オイル排出路6は、油路604、シリンダ部601及び油路605により構成される。油路604はオイル室2に接続し、油路605はスカート部102の下面に設けられる開口部に接続し、シリンダ部601が油路604と油路605とを連通する。
【0152】
シリンダ部601の内部には、ばね603及び弁体602が設けられ、出口弁60を構成している。シリンダ部601は油路606を介して内燃機関の油圧系統に連通しており、ばね603が弁体602を付勢する向きと逆向きの油圧が油路606内のオイルにより弁体602に作用する。
【0153】
弁体602はシリンダ部601の内部で摺動可能であり、油圧とばね603の付勢力との釣り合いにより弁体602の位置が定まるように構成されている。
【0154】
シリンダ部601の内部は弁体602によって互いに連通しない2つの領域に区画されており、一方の領域が油路604と油路605とを連通し、他方の領域が油路605に連通している。従って、油路604及び油路605は油路606及び内燃機関の油圧系統とは連通しない。
【0155】
弁体602には油路6021が設けられ、弁体602の位置がシリンダ部601内部の所定範囲内の場合に、油路6021は油路604と油路605とを連通させる。この場合、オイル室2内のオイルが油路604、油路6021及び油路605を通過してオイル室2の外に流出する。すなわち、この場合、出口弁60はオイル排出路6を開放している。
【0156】
また、弁体602の位置が、図7に示すようにばね603の付勢力が油圧に勝って油路606の側に押し込まれた所定範囲内の場合も、油路604と油路605がシリンダ部601の前記一方の領域によって連通されることにより、オイル室2内のオイルが油路604、シリンダ部601及び油路605を通過してオイル室2の外に流出する。すなわち、この場合も出口弁60はオイル排出路6を開放している。
【0157】
弁体602の位置が上記の各所定範囲のいずれでもない場合は、油路604と油路605とは連通せず、オイル室2内のオイルはオイル室2の外に流出しない。すなわち、この場合、出口弁60はオイル排出路6を閉鎖している。
【0158】
このように、出口弁60によって、オイル排出路6を介してオイル室2外に排出されるオイル量が調節される。
【0159】
弁体602にかかる油圧が小さい場合、ばね603の付勢力が優勢となり、弁体602の位置は図7に示す位置となる。弁体602にかかる油圧が大きくなると、ばね603の付勢力に抗して油圧により弁体602が図7の左方に押し込まれ、弁体602の位置が変化する。
【0160】
上記のように、弁体602の位置に応じてオイル排出路6は開放又は閉鎖されるので、出口弁60は、油圧に応じてオイル排出路6を開放又は閉鎖するよう構成されている。
【0161】
油路606が接続される油圧系統について図8を参照して説明する。図8に示すように、油路606は、ピンボス103に設けられた油路10、油路9、不図示のピストンピンに設けられる油路、不図示のコネクティングロッドに設けられる油路、不図示のクランクシャフトに設けられる油路、及び不図示のメインオイルギャラリーを介して、不図示のオイルポンプに連通する。
【0162】
これにより、オイルポンプの作動状態に応じた油圧が弁体602に作用するように構成される。油路606はシリンダ部601に連通しているが、オイル室2に連通している領域(ばね603が設けられている領域)へは、弁体602の存在によって阻止されているため連通していない。従って、オイル室2には連通していない。
【0163】
図9は、本実施例における入口弁50及び出口弁60の弁体の挙動と内燃機関の回転数との関係を示す図である。
【0164】
図9(A1)及び(B1)は、内燃機関の回転数が低回転数領域内にある場合(2500rpm以下の場合)の入口弁50の弁体502及び出口弁60の弁体602の挙動を示す。
【0165】
本実施例では、入口弁50の弁体502の構造及びばね503は、内燃機関の回転数が低回転数領域内にある場合の油圧が弁体502に作用した場合における、図9(A1)に示す弁体502の位置において、油路5021が油路505と油路504とを連通せず、弁体502が油路505を閉鎖するように設定されている。
【0166】
また、出口弁60の弁体602の構造及びばね603は、内燃機関の回転数が低回転数領域内にある場合の油圧が弁体602に作用した場合における、図9(B1)に示す弁体602の位置において、シリンダ部601が油路604と油路605とを連通するように設定されている。
【0167】
従って、低回転数領域では、入口弁50がオイル導入路5を閉鎖するためオイル室2にオイルは導入されず、出口弁60がオイル排出路6を開放するためオイル室2内のオイルが排出されるので、オイル室2内のオイル量は減少し、時間経過とともにオイル室2内のオイル量はゼロに近付く。
【0168】
図9(A2)及び(B2)は、内燃機関の回転数が所定の回転数領域内にある場合(2500rpm以上3500rpm以下の場合)の入口弁50の弁体502及び出口弁60の弁体602の挙動を示す。
【0169】
本実施例では、入口弁50の弁体502の構造及びばね503は、内燃機関の回転数が所定の回転数領域内にある場合の油圧が弁体502に作用した場合における、図9(A2)に示す弁体502の位置において、油路5021が油路505と油路504とを連通するように設定されている。
【0170】
また、出口弁60の弁体602の構造及びばね603は、内燃機関の回転数が所定の回転数領域内にある場合の油圧が弁体602に作用した場合における、図9(B2)に示す弁体602の位置において、弁体602が油路604を閉鎖するように設定されている。
【0171】
従って、所定の回転数領域では、入口弁50がオイル導入路5を開放するためオイル室2にオイルが導入され、出口弁60がオイル排出路6を閉鎖するためオイル室2内のオイルは排出されないので、オイル室2内のオイル量は増加し、オイル室2にオイルが溜まっ
ていく。
【0172】
図9(A3)及び(B3)は、内燃機関の回転数が高回転数領域内にある場合(3500rpm以上の場合)の入口弁50の弁体502及び出口弁60の弁体602の挙動を示す。
【0173】
本実施例では、入口弁50の弁体502の構造及びばね503は、内燃機関の回転数が高回転数領域内にある場合の油圧が弁体502に作用した場合における、図9(A3)に示す弁体502の位置において、油路5021が油路505と油路504とを連通せず、弁体502が油路505を閉鎖するように設定されている。
【0174】
また、出口弁60の弁体602の構造及びばね603は、内燃機関の回転数が高回転数領域内にある場合の油圧が弁体602に作用した場合における、図9(B3)に示す弁体602の位置において、油路6021が油路604と油路605とを連通するように設定されている。
【0175】
従って、高回転数領域では、入口弁50がオイル導入路5を閉鎖するためオイル室2にオイルは導入されず、出口弁60がオイル排出路6を開放するためオイル室2内のオイルが排出されるので、オイル室2内のオイル量は減少し、時間経過とともにオイル室2内のオイル量はゼロに近付く。
【0176】
内燃機関の回転数に応じて上記のような挙動を示すように設定された入口弁50及び出口弁60が、本発明における「オイル量調節機構」として機能している。
【0177】
入口弁50のばね503及び出口弁60のばね603の弾性力を大きくすることによって、図9(A1)及び(B1)に示す状態(入口弁50の弁体502が油路505を閉鎖し、出口弁60のシリンダ部601が油路604と油路605を連通した状態)と、図9(A2)及び(B2)に示す状態(入口弁50の油路5021が油路505と油路504を連通し、出口弁60の弁体602が油路604を閉鎖した状態)と、の境界となる回転数を高くすることができる。すなわち、ピストン1の重心位置が中心線側からスラスト側に移動する境界となる回転数を高くすることができる。
【0178】
逆に、入口弁50のばね503及び出口弁60のばね603の弾性力を小さくすることによって、ピストン1の重心位置が中心線側からスラスト側に移動する境界となる回転数を低くすることができる。
【0179】
入口弁50のばね503及び出口弁60のばね603の弾性力を大きくすることによって、図9(A2)及び(B2)に示す状態と、図9(A3)及び(B3)に示す状態(入口弁50の弁体502が油路505を閉鎖し、出口弁60の油路6021が油路604と油路605を連通した状態)と、の境界となる回転数を高くすることができる。すなわち、ピストン1の重心位置がスラスト側から中心線側に移動する境界となる回転数を高くすることができる。
【0180】
逆に、入口弁50のばね503及び出口弁60のばね603の弾性力を小さくすることによって、ピストン1の重心位置がスラスト側から中心線側に移動する境界となる回転数を低くすることができる。
【0181】
また、入口弁50の弁体502に油路5021を設ける位置、弁体502の大きさ、出口弁60の弁体602に油路6021を設ける位置、弁体602の大きさなどの構成を変更することによっても、図9(A1)及び(B1)に示す状態と図9(A2)及び(B2
)に示す状態との境界となる回転数や、図9(A2)及び(B2)に示す状態と図9(A3)及び(B3)に示す状態との境界となる回転数を変更することができる。
【0182】
実施例1で説明したように、これらの境界となる回転数は、ピストン1の重心位置のスラスト側への移動がスラップ音の軽減に有効である回転数領域に基づいて、内燃機関毎に決められるべき定数であり、本実施例において境界となる回転数を2500rpm及び3500rpmに設定したのは説明のための一例である。
【0183】
すなわち、ピストン1の重心位置のスラスト側への移動がスラップ音の軽減に有効である回転数領域が2500rpm以上3500rpm以下であるような内燃機関及びピストンに本発明を適用した場合の例である。
【0184】
本実施例に係るピストン1は、内燃機関の回転数に応じた油圧に応じて入口弁50及び出口弁60が上述したように開閉することにより、低回転数領域及び高回転数領域ではオイル室2内にオイルが溜まらないのでピストン1の重心位置はピストン1の中心線側(ピストンピン側)の位置になる。
【0185】
一方、所定の回転数領域ではオイル室2内にオイルが溜まってピストン1の重心位置がピストン1の中心線よりスラスト側に移動する。
【0186】
本実施例のピストン1では、オイル室2はスカート部102の内部に区画されるので、信頼性や耐久性の低下を抑制しつつ、スラップ音を好適に軽減することが可能になる。
【0187】
本実施例では、内燃機関の回転数に応じて、ピストン1の重心位置がスラップ音を軽減するために最適な位置となるように、オイル室2内のオイル量の目標値が定められている。
【0188】
低回転数領域(2500rpm以下)及び高回転数領域(3500rpm以上)における目標値は、ゼロである。
【0189】
所定の回転数領域(2500rpm以上3500rpm以下)における目標値は、所定の回転数領域におけるスラップ音を所定の目標レベルに軽減することができるピストン重心位置を実現するオイル量である。
【0190】
本実施例では、オイル導入路5及びオイル排出路6が上述したような設定で構成されることにより、オイル室2内のオイル量が内燃機関の回転数に応じた目標値となるように、内燃機関の回転数に応じた油圧に応じてオイル室2に対するオイル導入量及びオイル排出量が調節されるピストンを構成している。
【0191】
(実施例4)
図10は、本発明の第4の実施例に係る内燃機関のピストンのスカート部及びピンボスの断面図である。図10はピストンの中心線に垂直な面による断面を示している。
【0192】
本実施例のピストンは、上記各実施例とは異なり、スラスト側のスカート部102及び反スラスト側のスカート部104の両方にオイル室が設けられる。図10の上側がスラスト側、下側が反スラスト側である。
【0193】
スラスト側のスカート部102には、2つのオイル量調節機構11が設けられる。オイル量調節機構11は、スラスト側のスカート部102の内部に区画される空間であるシリンダ部1101、シリンダ部1101に連通する油路1104、シリンダ部1101内に
設けられるばね1103及び弁体1102から構成される。
【0194】
油路1104は、ピンボスに形成される油路7、不図示のピストンピンに設けられる油路、不図示のコネクティングロッドに設けられる油路、不図示のクランクシャフトに設けられる油路、及び不図示のメインオイルギャラリーを介して、不図示のオイルポンプに連通する。
【0195】
弁体1102はばね1103によって油路1104の向きに付勢され、ばね1103が弁体1102を付勢する向きと逆向きの油圧が油路1104内のオイルにより弁体1102に作用する。弁体1102はシリンダ部1101の内部で摺動可能であり、油圧とばね1103の付勢力との釣り合いにより弁体1102の位置が定まるように構成されている。
【0196】
シリンダ部1101の内部は、弁体1102によって、ばね1103が設けられる側の空間と油路1104に連通する空間とに区画される。2つの空間は弁体1102によって隔離されて互いに連通しない。
【0197】
後者の油路1104に連通する空間には、油路1104を介してオイルの導入及び排出が可能であり、その内部にオイルを溜めることが可能な空間であり、この空間が本発明における「オイル室」として機能している。弁体1102の位置によって、オイル室内に溜まることが可能なオイル量が決まる。
【0198】
弁体1102にかかる油圧が小さい場合、ばね1103の付勢力が優勢となり、弁体1102の位置は図10に示すように油路1104側に寄った位置となる。この時、シリンダ部1101内のオイル室の容積はほぼゼロになるので、オイル室内のオイル量はほぼゼロとなる。
【0199】
弁体1102にかかる油圧が大きくなると、ばね1103の付勢力に抗して弁体1102がスラスト側に押し込まれ、シリンダ部1101内のオイル室の容積が増加し、オイル室内のオイル量が増加する。
【0200】
本実施例では、内燃機関の回転数が2500rpm以上の場合の油圧がかかると、弁体1102が図10に示す最も油路1104寄りの位置よりスラスト側に移動し、オイル室内のオイル量が増加するように、ばね1103が設定されている。
【0201】
弁体1102が図10に示す最も油路1104寄りの位置にある場合、油路1104からオイル室内へオイルは流入しないので、本発明において入口弁が閉弁されたことに相当する。2500rpm以上の回転数の場合の油圧によって弁体1102が図10に示す位置よりスラスト側に移動した場合、オイル室内へオイルが流入するので、本発明において入口弁が開弁されたことに相当する。
【0202】
オイル室内にオイルが溜まっている状態において、油圧の低下により弁体1102が反スラスト側(油路1104側)へ移動した場合、オイル室内のオイルが油路1104に流出するので、本発明において出口弁が開弁されたことに相当する。
【0203】
反スラスト側のスカート部104には、2つのオイル量調節機構12が設けられる。オイル量調節機構12は、反スラスト側のスカート部104の内部に区画される空間であるシリンダ部1201、シリンダ部1201に連通する油路1204、シリンダ部1201内に設けられるばね1203及び弁体1202を含み、上記のオイル量調節機構11と同様に構成される。
【0204】
但し、本実施例では、内燃機関の回転数が3500rpm以上の場合の油圧がかかると、弁体1202を図10に示す最も油路1104寄りの位置より反スラスト側に移動し、オイル室内のオイル量が増加するように、ばね1203が設定されている。
【0205】
オイル量調節機構11のオイル室が本発明の「第1オイル室」として機能している。また、シリンダ部1101、ばね1103及び弁体1102が「第1開閉弁」として機能している。また、油路1104が「第1油路」として機能している。オイル量調節機構12のオイル室が本発明の「第2オイル室」として機能している。また、シリンダ部1201、ばね1203及び弁体1202が「第2開閉弁」として機能している。また、油路1204が「第2油路」として機能している。
【0206】
図11は、本実施例におけるオイル量調節機構11及びオイル量調節機構12の挙動と内燃機関の回転数との関係を示す図である。
【0207】
図11(A)は、内燃機関の回転数が低回転数領域内にある場合(2500rpm以下の場合)のオイル量調節機構11及びオイル量調節機構12の挙動を示す。
【0208】
上記のように、オイル量調節機構11は、低回転数領域ではばね1103の付勢力が油圧より優勢となるように設定されているため、弁体1102の位置はシリンダ部1101内の最も油路1104寄りの位置となり、オイル室内にオイルは流入しない。
【0209】
また、オイル量調節機構12も、低回転数領域ではばね1203の付勢力が油圧より優勢となるように設定されているため、弁体1202の位置はシリンダ部1201内の最も油路1204寄りの位置となり、オイル室内にオイルは流入しない。
【0210】
従って、低回転数領域では、ピストンの重心位置はピストンの中心線の位置(ピストンピンの位置)になる。
【0211】
図11(B)は、内燃機関の回転数が所定の回転数領域内にある場合(2500rpm以上3500rpm以下の場合)のオイル量調節機構11及びオイル量調節機構12の挙動を示す。
【0212】
上記のように、オイル量調節機構11は、所定の回転数領域では油圧がばね1103の付勢力より優勢となるように設定されているため、弁体1102の位置はシリンダ部1101内のスラスト側の位置に移動し、オイル室にオイルが流入する。
【0213】
一方、オイル量調節機構12は、所定の回転数領域ではばね1203の付勢力が油圧より優勢となるように設定されているため、弁体1202の位置はシリンダ部1201内の最も油路1204寄りの位置となり、オイル室内にオイルは流入しない。
【0214】
従って、所定の回転数領域では、ピストンの重心位置はピストンの中心線よりスラスト側に移動する。
【0215】
図11(C)は、内燃機関の回転数が高回転数領域内にある場合(3500rpm以上の場合)のオイル量調節機構11及びオイル量調節機構12の挙動を示す。
【0216】
上記のように、オイル量調節機構11は、高回転数領域では油圧がばね1103の付勢力より優勢となるように設定されているため、弁体1102の位置はシリンダ部1101内のスラスト側の位置に移動し、オイル室にオイルが流入する。
【0217】
一方、オイル量調節機構12は、高回転数領域では油圧がばね1203の付勢力より優勢となるように設定されているため、弁体1202の位置はシリンダ部1201内の反スラスト側の位置に移動し、オイル室にオイルが流入する。
【0218】
従って、高回転数領域では、ピストンの重心位置はピストンの中心線側の位置に移動する。
【0219】
オイル量調節機構11のばね1103の弾性力を大きくすることによって、スラスト側のオイル室にオイルが流入し始める回転数を高くすることができる。すなわち、ピストン1の重心位置をスラスト側に移動させる回転数の境界を高回転数側にすることができる。
【0220】
逆に、オイル量調節機構11のばね1103の弾性力を小さくすることによって、スラスト側のオイル室にオイルが流入し始める回転数を低くすることができる。すなわち、ピストン1の重心位置をスラスト側に移動させる回転数の境界を低回転数側にすることができる。
【0221】
オイル量調節機構12のばね1203の弾性力を大きくすることによって、反スラスト側のオイル室にオイルが流入し始める回転数を高くすることができる。すなわち、ピストン1の重心位置をピストン中心線側に移動させる回転数の境界を高回転数側にすることができる。
【0222】
逆に、オイル量調節機構12のばね1203の弾性力を小さくすることによって、反スラスト側のオイル室にオイルが流入し始める回転数を低くすることができる。すなわち、ピストン1の重心位置をピストン中心線側に移動させる回転数を低回転数側にすることができる。
【0223】
実施例1で説明したように、これらの境界となる回転数は、ピストン1の重心位置のスラスト側への移動がスラップ音の軽減に有効である回転数領域に基づいて、内燃機関毎に決められるべき定数であり、本実施例において境界となる回転数を2500rpm及び3500rpmに設定したのは説明のための一例である。
【0224】
すなわち、ピストン1の重心位置のスラスト側への移動がスラップ音の軽減に有効である回転数領域が2500rpm以上3500rpm以下であるような内燃機関及びピストンに本発明を適用した場合の例である。
【0225】
本実施例にかかるピストンは、内燃機関の回転数に応じた油圧に応じてオイル量調節機構11及びオイル量調節機構12が上述したようにオイル室内のオイル量を調節することにより、低回転数領域ではスラスト側及び反スラスト側のいずれのオイル室にもオイルが溜まらないので、ピストン1の重心位置はピストン1の中心線側(ピストンピン側)の位置になる。
【0226】
また、所定の回転数領域ではスラスト側のオイル室にのみオイルが溜まり、反スラスト側のオイル室にはオイルが溜まらないので、ピストン1の重心位置はピストン1の中心線よりスラスト側に移動する。
【0227】
また、高回転数領域ではスラスト側及び反スラスト側のいずれのオイル室にもオイルが溜まるので、ピストン1の重心位置はピストン1の中心線側の位置に移動する。本実施例のピストン1では、オイル室はスカート部102の内部に区画されるので、信頼性や耐久性の低下を抑制しつつ、スラップ音を好適に軽減することが可能になる。
【0228】
本実施例では、内燃機関の回転数に応じて、ピストン1の重心位置がスラップ音を軽減するために最適な位置となるように、オイル室内のオイル量の目標値が定められている。
【0229】
低回転数領域(2500rpm以下)における目標値は、スラスト側及び反スラスト側ともにゼロである。
【0230】
所定の回転数領域(2500rpm以上3500rpm以下)における目標値は、スラスト側が所定の回転数領域におけるスラップ音を所定の目標レベルに軽減することができるピストン重心位置を実現するオイル量であり、反スラスト側がゼロである。
【0231】
高回転数領域(3500rpm以上)における目標値は、スラスト側及び反スラスト側ともにオイル室の最大量である。
【0232】
本実施例では、オイル量調節機構11及びオイル量調節機構12が上述したような設定で構成されることにより、オイル室内のオイル量が内燃機関の回転数に応じた目標値となるように、内燃機関の回転数に応じた油圧に応じてオイル室に対するオイル導入量及びオイル排出量が調節されるピストンを構成している。
【0233】
(実施例5)
図12は、本発明の第5の実施例にかかる内燃機関のピストンの断面図である。ピストン1はスカート部102及びピンボス103を有する。スラスト側のスカート部102の内部にはオイルを溜めることができる空間であるオイル室20が設けられている。
【0234】
オイル室20には、オイル導入路32によってオイルが導入される。オイル導入路32は、ピストンリング14の下方のピストン表面に設けられた開口部322と、オイル室20の上方のピストン背面部101に設けられた開口部321と、を連通する通路であり、ピストンリング14が不図示のシリンダライナから掻き落としたオイルが開口部322からオイル導入路32に流入し、開口部321から流出してオイル室20に溜まる。
【0235】
オイル導入路32には実施例1の入口弁30のような開閉機構は設けられない。すなわち、オイル導入路32は常時開放であり、内燃機関の運転中、全回転数領域においてオイル室20内にオイルが導入される。
【0236】
オイル室20は、上部に開口部323が設けられる。開口部323は、オイル導入路32より十分大きく設けられており、圧縮行程及び排気行程においてピストン1がシリンダ内を上昇する運動に伴う慣性力によって、オイル室20内のオイルが開口部323からピストン背面部101やピンボス103の方向に排出される。すなわち、開口部323は本発明における「オイル排出路」として機能している。
【0237】
オイル室20にオイルが溜まっている場合、ピストン1の重心位置はスラスト側になる。オイル室20にオイルが溜まっていない場合、ピストン1の重心位置はピストン1の中心線側(ピストンピン側)の位置になる。
【0238】
本実施例では、低回転数領域及び所定の回転数領域(3500rpm以下)の回転数で内燃機関が運転しているときの慣性力では、オイル室20内のオイルは開口部323から排出されず、高回転数領域(3500rpm以上)の回転数で内燃機関が運転しているときの慣性力によって、オイル室20内のオイルが開口部323から排出されるように、開口部323の大きさを設定している。
【0239】
従って、内燃機関の回転数が低回転数領域及び所定の回転数領域にある場合、オイル室20にはオイルが溜まり、ピストン1の重心位置はスラスト側になる。一方、内燃機関の回転数が高回転数領域にある場合、オイル室20にはオイルが溜まらず、ピストン1の重心位置はピストン1の中心線側(ピストンピン側)になる。
【0240】
内燃機関の回転数に応じて上記のようにオイル室20内のオイル量を調節するように設定された開口部323が、本発明における「オイル量調節機構」として機能している。
【0241】
開口部323を大きくすることによって、オイル室20内のオイルが開口部323から排出される回転数を低くすることができる。逆に、開口部323を小さくすることによって、オイル室20内のオイルが開口部323から排出される回転数を高くすることができる。
【0242】
実施例1で説明したように、この境界となる回転数は、ピストン1の重心位置のスラスト側への移動がスラップ音の軽減に有効である回転数領域に基づいて、内燃機関毎に決められるべき定数であり、本実施例において境界となる回転数を3500rpmに設定したのは説明のための一例である。
【0243】
すなわち、ピストン1の重心位置のスラスト側への移動がスラップ音の軽減に有効である回転数領域が2500rpm以上3500rpm以下であるような内燃機関及びピストンに本発明を適用した場合の例である。
【0244】
本実施例に係るピストン1は、内燃機関の回転数に応じた慣性力に応じてオイル室2からのオイルの排出量が上述したように調節されることにより、低回転数領域及び所定の回転数領域ではオイル室2内にオイルが溜まってピストン1の重心位置がピストン1の中心線よりスラスト側に移動する。
【0245】
一方、高回転数領域ではオイル室2内にオイルが溜まらないのでピストン1の重心位置はピストン1の中心線側(ピストンピン側)の位置になる。本実施例のピストン1では、スカート部102の内部にオイル室2が区画されるので、信頼性や耐久性の低下を抑制しつつ、スラップ音を好適に軽減することが可能になる。
【0246】
本実施例では、内燃機関の回転数に応じて、ピストン1の重心位置がスラップ音を軽減するために最適な位置となるように、オイル室2内のオイル量の目標値が定められている。
【0247】
低回転数領域及び所定の回転数領域(3500rpm以下)における目標値は、所定の回転数領域におけるスラップ音を所定の目標レベルに軽減することができるピストン重心位置を実現するオイル量である。
【0248】
高回転数領域(3500rpm以上)における目標値は、ゼロである。
【0249】
本実施例では、オイル導入路32及び開口部323が上述したような設定で構成されることにより、オイル室2内のオイル量が内燃機関の回転数に応じた目標値となるように、内燃機関の運転にともなってかかる慣性力に応じてオイル室2からのオイル排出量が調節されるピストンを構成している。
【0250】
なお、上記各実施例において、図13に示すように、スカート部102のピンボス103側の壁面に、板状又は棒状の弾性部材901の一端を固定し、他端におもり902を固定し、おもり902がピストン1の運動方向に振動する機構を取り付けても良い。弾性部
材901及びおもり902からなるばね質量系の振幅の周波数特性を、所定の回転数NE0(本実施例では3000rpm)に相当する周波数にピークを持つように設定することにより、所定の回転数NE0に近い回転数ではピストン1の動きに追従して弾性部材901が振動し、ピストン1に大きな慣性力が加わるので、ピストン1の重心がスラスト側に移動させた場合と同様の効果がある。一方、所定の回転数NE0より十分高い回転数では、弾性部材901の振動はピストン1の動きに追従しなくなるのでピストン1の慣性力が小さくなり、ピストン1の重心を中心線側に移動させた場合と同様の効果がある。このようなばね質量系を単独にスカート部102に設けても良い。
【0251】
上述の各実施例で説明した事項を可能な限り組み合わせて本発明を実施することができる。また、上記各実施例ではスカート部を有するピストンにおいてスカート部の内部にオイル室を設ける構成を例示したが、スカート部を有しないピストンに本発明を適用する場合は、スラスト側及び/又は反スラスト側のピストン内部にオイル室を設けることにより、可動部材を用いずにオイル室を形成することができ、上述したようなオイル量調節機構を設けることによって回転数に応じたオイル量の調節を行うことができる。
【符号の説明】
【0252】
1・・・ピストン
2、20、21・・・オイル室
3、5、31、32・・・オイル導入路
4、6・・・オイル排出路
11、12・・・オイル量調節機構
30、50・・・入口弁
40、60・・・出口弁
102、104・・・スカート部
302、402、502、602、1102、1202・・・弁体
303、403、503、603、1103、1203・・・ばね
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のピストンであって、
スラスト側及び反スラスト側の少なくとも一方のピストン内部に設けられ、オイルの導入及び排出が可能な空間であるオイル室と、
前記オイル室内のオイル量が前記内燃機関の回転数に応じた所定の目標値となるように、前記オイル室へのオイル導入量及び前記オイル室からのオイル排出量の少なくとも一方が前記内燃機関の回転数又はそれに対応するパラメータに応じて調節されるように構成されるオイル量調節機構と、
を備える内燃機関のピストン。
【請求項2】
請求項1において、
前記オイル量調節機構は、前記内燃機関の回転数が所定の回転数領域内の回転数である場合に前記ピストンの重心が前記ピストンの中心線よりスラスト側の位置になるように、前記オイル導入量及び/又は前記オイル排出量の調節が行われるよう設定されている内燃機関のピストン。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記オイル室はスラスト側のピストン内部に設けられ、
オイル供給手段から供給されるオイルを前記オイル室内に導入するオイル導入路と、
前記オイル室内のオイルをオイル室外に排出するオイル排出路と、
を備え、
前記オイル量調節機構は、
前記オイル導入路を開閉する入口弁と、前記オイル排出路を開閉する出口弁と、を有し、
前記入口弁及び前記出口弁は、ともに弁体及び該弁体を付勢するばねを含み、弁体の振幅がそれぞれの閾値以上の場合に弁体が前記オイル導入路又は前記オイル排出路を開放する位置を通過するよう構成され、
前記入口弁は、前記所定の回転数領域内のある回転数で弁体の振幅が極大となるとともに、前記所定の回転数領域内の回転数で弁体の振幅が閾値以上となり、それより高回転数側の回転数で弁体の振幅が閾値より小さくなり、
前記出口弁は、前記所定の回転数領域内の回転数で弁体の振幅が閾値より小さくなり、それより高回転数側の回転数で弁体の振幅が閾値以上となるように、
設定されている内燃機関のピストン。
【請求項4】
請求項1又は2において、
前記オイル室はスラスト側のピストン内部に設けられ、
オイル供給手段から供給されるオイルを前記オイル室内に導入するオイル導入路と、
前記オイル室内のオイルをオイル室外に排出するオイル排出路と、
を備え、
前記オイル排出路からオイル室外に排出されるオイル量は前記オイル導入路によりオイル室内に導入されるオイル量より多く、
前記オイル量調節機構は、
前記オイル排出路を開閉する出口弁を有し、
前記出口弁は、弁体及び該弁体を付勢するばねを含み、弁体の振幅が閾値以上の場合に弁体が前記オイル排出路を開放する位置を通過するよう構成され、
前記出口弁は、前記所定の回転数領域内の回転数における前記ピストンの運動による慣性力が前記弁体にかかった場合に前記弁体の振幅が閾値より小さくなり、それより高回転数側の回転数における前記ピストンの運動による慣性力が前記弁体にかかった場合に前記弁体の振幅が閾値以上となるように、
設定されている内燃機関のピストン。
【請求項5】
請求項1又は2において、
前記オイル室はスラスト側のピストン内部に設けられ、
オイル供給手段から供給されるオイルを前記オイル室内に導入するオイル導入路と、
前記オイル室内のオイルをオイル室外に排出するオイル排出路と、
を備え、
前記オイル量調節機構は、
前記オイル導入路を開閉する入口弁と、前記オイル排出路を開閉する出口弁と、を有し、
前記入口弁及び前記出口弁は、ともに弁体及び該弁体を付勢するばねを含み、ばねの付勢力及び該付勢力と逆向きにかかる油圧との釣り合いによって定まる弁体の位置によって前記オイル導入路又は前記オイル排出路を開放又は閉鎖するよう構成され、
前記入口弁は、前記所定の回転数領域内の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記オイル導入路を開放する位置となり、それより高回転数側の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記オイル導入路を閉鎖する位置となり、
前記出口弁は、前記所定の回転数領域内の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記オイル排出路を閉鎖する位置となり、それより高回転数側の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記オイル排出路を開放する位置となるように、
設定されている内燃機関のピストン。
【請求項6】
請求項1又は2において、
前記オイル室は、スラスト側のピストン内部に設けられる第1オイル室と、反スラスト側のピストン内部に設けられる第2オイル室と、を有し、
前記内燃機関の油圧系統と前記第1オイル室とを連通する第1油路と、前記油圧系統と前記第2オイル室とを連通する第2油路と、を備え、
前記オイル量調節機構は、
前記第1油路を開閉する第1開閉弁と、前記第2油路を開閉する第2開閉弁と、を有し、
前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁は、ともに弁体及び該弁体を付勢するばねを含み、ばねの付勢力及び該付勢力と逆向きにかかる油圧との釣り合いによって定まる弁体の位置によって前記第1油路又は第2油路を開放又は閉鎖するよう構成され、
前記第1開閉弁は、前記所定の回転数領域内の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記第1油路を開放する位置となり、それより高回転数側の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記第1油路を開放する位置となり、
前記第2開閉弁は、前記所定の回転数領域内の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記第2油路を閉鎖する位置となり、それより高回転数側の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記第2油路を開放する位置となるように、
設定されている内燃機関のピストン。
【請求項1】
内燃機関のピストンであって、
スラスト側及び反スラスト側の少なくとも一方のピストン内部に設けられ、オイルの導入及び排出が可能な空間であるオイル室と、
前記オイル室内のオイル量が前記内燃機関の回転数に応じた所定の目標値となるように、前記オイル室へのオイル導入量及び前記オイル室からのオイル排出量の少なくとも一方が前記内燃機関の回転数又はそれに対応するパラメータに応じて調節されるように構成されるオイル量調節機構と、
を備える内燃機関のピストン。
【請求項2】
請求項1において、
前記オイル量調節機構は、前記内燃機関の回転数が所定の回転数領域内の回転数である場合に前記ピストンの重心が前記ピストンの中心線よりスラスト側の位置になるように、前記オイル導入量及び/又は前記オイル排出量の調節が行われるよう設定されている内燃機関のピストン。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記オイル室はスラスト側のピストン内部に設けられ、
オイル供給手段から供給されるオイルを前記オイル室内に導入するオイル導入路と、
前記オイル室内のオイルをオイル室外に排出するオイル排出路と、
を備え、
前記オイル量調節機構は、
前記オイル導入路を開閉する入口弁と、前記オイル排出路を開閉する出口弁と、を有し、
前記入口弁及び前記出口弁は、ともに弁体及び該弁体を付勢するばねを含み、弁体の振幅がそれぞれの閾値以上の場合に弁体が前記オイル導入路又は前記オイル排出路を開放する位置を通過するよう構成され、
前記入口弁は、前記所定の回転数領域内のある回転数で弁体の振幅が極大となるとともに、前記所定の回転数領域内の回転数で弁体の振幅が閾値以上となり、それより高回転数側の回転数で弁体の振幅が閾値より小さくなり、
前記出口弁は、前記所定の回転数領域内の回転数で弁体の振幅が閾値より小さくなり、それより高回転数側の回転数で弁体の振幅が閾値以上となるように、
設定されている内燃機関のピストン。
【請求項4】
請求項1又は2において、
前記オイル室はスラスト側のピストン内部に設けられ、
オイル供給手段から供給されるオイルを前記オイル室内に導入するオイル導入路と、
前記オイル室内のオイルをオイル室外に排出するオイル排出路と、
を備え、
前記オイル排出路からオイル室外に排出されるオイル量は前記オイル導入路によりオイル室内に導入されるオイル量より多く、
前記オイル量調節機構は、
前記オイル排出路を開閉する出口弁を有し、
前記出口弁は、弁体及び該弁体を付勢するばねを含み、弁体の振幅が閾値以上の場合に弁体が前記オイル排出路を開放する位置を通過するよう構成され、
前記出口弁は、前記所定の回転数領域内の回転数における前記ピストンの運動による慣性力が前記弁体にかかった場合に前記弁体の振幅が閾値より小さくなり、それより高回転数側の回転数における前記ピストンの運動による慣性力が前記弁体にかかった場合に前記弁体の振幅が閾値以上となるように、
設定されている内燃機関のピストン。
【請求項5】
請求項1又は2において、
前記オイル室はスラスト側のピストン内部に設けられ、
オイル供給手段から供給されるオイルを前記オイル室内に導入するオイル導入路と、
前記オイル室内のオイルをオイル室外に排出するオイル排出路と、
を備え、
前記オイル量調節機構は、
前記オイル導入路を開閉する入口弁と、前記オイル排出路を開閉する出口弁と、を有し、
前記入口弁及び前記出口弁は、ともに弁体及び該弁体を付勢するばねを含み、ばねの付勢力及び該付勢力と逆向きにかかる油圧との釣り合いによって定まる弁体の位置によって前記オイル導入路又は前記オイル排出路を開放又は閉鎖するよう構成され、
前記入口弁は、前記所定の回転数領域内の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記オイル導入路を開放する位置となり、それより高回転数側の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記オイル導入路を閉鎖する位置となり、
前記出口弁は、前記所定の回転数領域内の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記オイル排出路を閉鎖する位置となり、それより高回転数側の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記オイル排出路を開放する位置となるように、
設定されている内燃機関のピストン。
【請求項6】
請求項1又は2において、
前記オイル室は、スラスト側のピストン内部に設けられる第1オイル室と、反スラスト側のピストン内部に設けられる第2オイル室と、を有し、
前記内燃機関の油圧系統と前記第1オイル室とを連通する第1油路と、前記油圧系統と前記第2オイル室とを連通する第2油路と、を備え、
前記オイル量調節機構は、
前記第1油路を開閉する第1開閉弁と、前記第2油路を開閉する第2開閉弁と、を有し、
前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁は、ともに弁体及び該弁体を付勢するばねを含み、ばねの付勢力及び該付勢力と逆向きにかかる油圧との釣り合いによって定まる弁体の位置によって前記第1油路又は第2油路を開放又は閉鎖するよう構成され、
前記第1開閉弁は、前記所定の回転数領域内の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記第1油路を開放する位置となり、それより高回転数側の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記第1油路を開放する位置となり、
前記第2開閉弁は、前記所定の回転数領域内の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記第2油路を閉鎖する位置となり、それより高回転数側の回転数における油圧が弁体にかかった場合に弁体の位置が前記第2油路を開放する位置となるように、
設定されている内燃機関のピストン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−256812(P2011−256812A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133240(P2010−133240)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]