説明

内燃機関の制御装置

【課題】本発明は、内燃機関の制御装置に関し吸気バルブ、排気バルブおよびピストンリングのうちの何れの異常であるかを特定可能な内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】吸気バルブ34が異常であると、燃焼室26内の未燃燃料が吸気通路30側に逆流する(図3(i))。そのため、逆流した未燃燃料が、次回以降のタイミングでの噴射燃料と共に燃焼室26に流入することになる。従って、実空燃比は、目標空燃比よりも燃料リッチ側にズレる。排気バルブ36が異常であると、燃焼室26内の新気が燃焼前に排気通路32に流出する(図3(ii))。そのため、実空燃比は、目標空燃比よりも燃料リーン側にズレることになる。ピストンリングが異常であると(図3(iii))、上述した様な実空燃比のズレは一定範囲内に抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に関し、より詳細には、筒内圧に基づいて各種異常診断を行う内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、筒内圧の検出値から圧縮圧力の時間変化率を算出すると共に、排気温度センサの検出値から排気温度の時間変化率を算出し、これら2つの時間変化率を利用して、吸気バルブ(INバルブ)、排気バルブ(EXバルブ)、ピストンリングの異常発生を特定する内燃機関の制御装置が開示されている。この制御装置においては、具体的に、圧縮圧力の時間変化率と閾値とを比較し、圧縮圧力の時間変化率が閾値よりも大きい場合に、吸気バルブ、排気バルブ、ピストンリングの何れかに異常があると判定する。また、吸気バルブ、排気バルブ、ピストンリングの何れかに異常があると判定した場合には更に、排気温度の時間変化率と閾値とを比較し、排気温度の時間変化率が閾値よりも大きい場合には、吸気バルブ或いは排気バルブに異常が発生した判定し、排気温度の時間変化率が閾値よりも小さい場合には、ピストンリングに異常が発生したと判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−208751号公報
【特許文献2】特開2009−144613号公報
【特許文献3】特開2007−224862号公報
【特許文献4】特開平04−148030号公報
【特許文献5】特開平08−121242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記制御装置においては、吸気バルブ或いは排気バルブに異常が発生したことが判定できるに留まり、吸気バルブと排気バルブの何れに異常が発生したかを判定することはできない。従って、正常な吸気バルブまたは排気バルブに異常が発生したと判定してしまう可能性が高かった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたものである。即ち、吸気バルブ、排気バルブおよびピストンリングのうちの何れの異常であるかを特定可能な内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関の制御装置であって、
内燃機関の筒内圧を検出する筒内圧検出手段と、
前記筒内圧の検出値が所定の異常発生判定値よりも小さい場合に、目標空燃比と実空燃比の偏差を用いて、前記内燃機関の吸気バルブ、排気バルブおよびピストンリングのうちの何れの異常であるかを特定する異常特定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、
前記偏差は、目標空燃比から実空燃比を差し引いた空燃比差であり、
前記異常特定手段は、前記空燃比差が、ゼロよりも大きい第1閾値以上の場合には前記吸気バルブの異常と判定し、ゼロよりも小さい第2閾値以下の場合には前記排気バルブの異常と判定し、前記第1閾値よりも小さく前記第2閾値よりも大きい場合には前記ピストンリングの異常と判定することを特徴とする。
【0008】
第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記筒内圧の低下率を用いて、オイル希釈率を算出するオイル希釈率算出手段と、
前記異常特定手段で前記ピストンリングの異常と特定され、かつ、前記オイル希釈率が所定のオイル異常判定値よりも大きい場合に、オイル希釈異常と判定するオイル希釈異常判定手段と、
備えることを特徴とする。
【0009】
第4の発明は、第1乃至第3の何れか1つの発明において、
前記内燃機関に供給される吸気を過給すると共に過給圧を変更可能な過給機と、
前記筒内圧の低下率を用いて、オイル希釈率を算出するオイル希釈率算出手段と、
前記オイル希釈率でのプレイグニッションの発生確率を算出する発生確率算出手段と、
前記異常特定手段で前記ピストンリングの異常と特定された場合に、前記発生確率が所定の限界値を超えないように前記過給圧を制御する過給圧制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、目標空燃比と実空燃比の偏差を用いて、吸気バルブ、排気バルブおよびピストンリングのうちの何れの異常であるかを特定できる。吸気バルブが異常であると、気筒内の燃料が吸気通路側に逆流し、次回以降のタイミングで噴射された燃料と共に筒内に再流入するので空燃比は燃料リッチ側にズレることになる。一方、排気バルブが異常であると、気筒内の新気が燃焼前に排気通路に流出するので空燃比は燃料リーン側にズレることになる。これらのズレが生じない場合には、吸気バルブや排気バルブの異常ではないことが分かる。従って、目標空燃比と実空燃比の偏差を用いれば、吸気バルブ、排気バルブおよびピストンリングのうちの何れの異常であるかを特定できる。
【0011】
第2の発明によれば、目標空燃比から実空燃比を差し引いた空燃比差が、ゼロよりも大きい第1閾値以上の場合には吸気バルブの異常と判定し、ゼロよりも小さい第2閾値以下の場合には排気バルブの異常と判定し、上記第1閾値よりも小さく上記第2閾値よりも大きい場合にはピストンリングの異常と判定できる。上述したように、吸気バルブが異常であると空燃比は燃料リーンとなり、排気バルブが異常であると空燃比は燃料リッチとなる。そのため、吸気バルブが異常であると、空燃比差はプラスの値として算出され、排気バルブが異常であると、空燃比差はマイナスの値として算出される。従って、空燃比差が、第1閾値以上の場合には吸気バルブの異常と判定でき、第2閾値以下の場合には排気バルブの異常と判定できる。そして、空燃比差が、第1閾値と第2閾値との間の値であれば、吸気バルブや排気バルブの異常でないことが分かるので、ピストンリングの異常と判定できる。
【0012】
第3の発明によれば、上記異常特定手段でピストンリングの異常と特定され、かつ、オイル希釈率が所定のオイル異常判定値よりも大きい場合に、オイル希釈異常と判定できる。従って、運転者に対しオイル交換を指示する等の所要の措置を促すことが可能となる。
【0013】
第4の発明によれば、過給機を備える内燃機関において、上記異常特定手段でピストンリングの異常と特定された場合に、プレイグニッションの発生確率が所定の限界値を超えないように過給圧を制御できる。従って、ドライバビリティの悪化を抑制しながら、良好な過給効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。
【図2】クランク角度θと圧縮圧Pcとの関係を示す図である。
【図3】ピストンリング異常発生箇所の特定手法を説明するための図である。
【図4】実施の形態1において、ECU50により実行される異常発生箇所特定制御を示すフローチャートである。
【図5】実施の形態2において、ECU50により実行されるオイル希釈率異常判定制御を示すフローチャートである。
【図6】圧縮圧Pcの低下率を説明するための図である。
【図7】圧縮圧Pcの低下率と、ブローバイガスの増加率との関係を示す特性線図である。
【図8】実施の形態3のシステム構成を説明するための図である。
【図9】実施の形態3において、ECU50により実行される過給圧制御を示すフローチャートである。
【図10】オイル希釈率とプレイグニッションの発生頻度との関係を示した特性線図である。
【図11】過給圧の限界値とプレイグニッションの発生頻度との関係を示した特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
[システム構成の説明]
以下、図1乃至図4を参照して、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。本実施の形態のシステムは、内燃機関としてのエンジン10を備えている。エンジン10の気筒数および気筒配置は特に限定されるものではない。
【0016】
エンジン10は、内部にピストン12を有するシリンダブロック14を備えている。ピストン12は、クランク機構を介してクランク軸16と接続されている。クランク軸16は、シリンダブロック14の一部をなすクランクケース18の内部に設けられている。クランクケース18の底部には、オイル20を貯留するオイルパン22が設けられている。
【0017】
シリンダブロック14の上部にはシリンダヘッド24が組み付けられている。ピストン12上面からシリンダヘッド24までの空間は燃焼室26を形成している。また、シリンダヘッド24には、燃焼室26の圧力(筒内圧)を検出するための筒内圧センサ28が設けられている。
【0018】
また、シリンダヘッド24は、燃焼室26と連通する吸気通路30及び排気通路32を備えている。吸気通路30と燃焼室26との接続部には吸気バルブ34が設けられている。同様に、排気通路32と燃焼室26との接続部には排気バルブ36が設けられている。また、排気通路32の途中には、排気ガスを浄化する触媒38が設けられている。触媒38の上流には、排気空燃比を検出する空燃比センサ40が設けられている。
【0019】
また、本実施の形態のシステムは、ECU(Electronic Control Unit)50を備えている。ECU50の入力側には、上述した筒内圧センサ28、空燃比センサ40その他車両やエンジン10の制御に必要な各種のセンサが接続されている。一方、ECU50の出力側には、吸気バルブ34、排気バルブ36等を含む各種のアクチュエータが接続されている。ECU50は、上述した各種のセンサによりエンジン10の運転情報を検出し、その検出結果に基づいて各アクチュエータを駆動することにより、エンジン10の運転制御を行う。
【0020】
[実施の形態1の特徴]
ECU50によるエンジン10の運転制御の一つに、空燃比センサ40の出力に基づく空燃比フィードバック制御がある。空燃比フィードバック制御においては、ECU50は、空燃比センサ40から取得される空燃比(以下、「実空燃比」ともいう。)が目標空燃比となるように、燃焼室26に供給する燃料量を制御する。なお、空燃比フィードバック制御自体は公知であり、本発明の主要部ではないため、ここでは、これ以上の説明を省略する。
【0021】
ところで、エンジン10において、ピストンリングの破損や張力低下は、機関の出力性能を低下させるだけでなく、ブローバイガスの増加や、クランクケース18側から燃焼室26へ侵入するオイル20の増加に繋がる。ここで、ブローバイガスとは、ピストン12とシリンダ壁面との隙間を通って、即ち、ピストンリングの背面を通ってクランクケース18内に流れ込む未燃燃料含有ガスをいう。ブローバイガスが増加すれば、オイル20が希釈されるだけでなく、オイル20から蒸発した未燃燃料が再度燃焼室26に流入するので、空燃比ズレやドライバビリティの悪化といった不具合を招来する。また、クランクケース18側から燃焼室26にオイル20が侵入(所謂オイル上がり)すると、オイルが自着火してプレイグニッションを誘発し、ドライバビリティの悪化や機関破損といった不具合を招来する。そのため、ピストンリングの異常発生は、精度高く検出できることが望ましい。
【0022】
ピストンリングの異常発生を検出する手法の1つに、ブローバイガス量を検出する手法がある。具体的には、クランクケース18内部の圧力を測定する手法、吸気管圧力から推定する手法、空燃比センサ40から検出する手法等が挙げられる。しかしながら、これらの手法は何れも気筒を特定するものではないため、何れの気筒のピストンリングに異常が発生しているかを特定できない。この点、筒内圧センサ28は、燃焼室26毎に設置できるので、筒内圧センサ28の検出値(以下「圧縮圧Pc」ともいう。)を利用すれば、ブローバイガス量を推定できる。
【0023】
図2を参照して、圧縮圧Pcを利用したブローバイガス量の推定手法について説明する。図2は、クランク角度θと圧縮圧Pcとの関係を示す図である。ピストンリングに異常が発生している場合、ブローバイガスがクランクケース18に多く流れ込む。そのため、図2に示すように、ピストンリングの異常発生時には(破線)、ピストンリングの正常時(実線)に比して、圧縮圧Pcが低下することになる。従って、圧縮圧Pcの低下の度合いに基づいて、ブローバイガス量を推定できる。
【0024】
しかしながら、圧縮圧Pcが低下するのは、ピストンリングの異常発生時のみに限られない。即ち、吸気バルブ34、排気バルブ36の異常発生時であっても、圧縮圧Pcが低下する。従って、圧縮圧Pcのみでは、吸気バルブ34、排気バルブ36、ピストンリングの何れに異常が発生しているかを区別することが困難である。そこで、本実施の形態においては、圧縮圧Pcにより異常発生を検出した際に、実空燃比を利用して、異常発生箇所を特定することとした。
【0025】
図3は、本実施の形態におけるピストンリング異常発生箇所の特定手法を説明するための図である。図3(i)に示すように、吸気バルブ34が異常であると、燃焼室26内の未燃燃料が吸気通路30側に逆流する。そのため、逆流した未燃燃料が、次回以降のタイミングでの噴射燃料と共に燃焼室26に流入することになる。従って、実空燃比は、目標空燃比よりも燃料リッチ側にズレることになる。
【0026】
また、図3(ii)に示すように、排気バルブ36が異常であると、燃焼室26内の新気が燃焼前に排気通路32に流出する。そのため、実空燃比は、目標空燃比よりも燃料リーン側にズレることになる。一方、図3(iii)に示すように、ピストンリングが異常であると、実空燃比に変化は生じない(変化が小さい)。従って、実空燃比を利用すれば、吸気バルブ34、排気バルブ36およびピストンリングの何れに異常が発生したかを特定できる。よって、圧縮圧Pcが低下した際に、ピストンリングの異常発生を正確に検出できる。
【0027】
[実施の形態1における具体的処理]
次に、図4を参照して、上述した特定手法を実現するための具体的な処理について説明する。図4は、本実施の形態において、ECU50により実行される異常発生箇所特定制御を示すフローチャートである。
【0028】
図4に示すルーチンでは、先ず、ECU50は、圧縮圧Pcを取得する(ステップ100)。なお、圧縮圧Pcは、エンジン10の圧縮行程中、例えば、図3に示したクランク角θとなるタイミングで計測されるものとする。続いて、ECU50は、ステップ100で取得した圧縮圧Pcが、閾値αよりも小さいか否かを判定する(ステップ110)。本ステップにおいて、閾値αには、本ルーチン実行時と同一の運転条件における正常時の値として予めECU50内に記憶されている値を用いる。ただし、閾値αとしては、本ルーチン実行時の他気筒における圧縮圧Pcの平均値を用いることも可能である。
【0029】
ステップ110で、圧縮圧Pc<閾値αでないと判定された場合には、吸気バルブ34、排気バルブ36およびピストンリングの何れにも異常が発生していないと判断できるので、ECU50は、本ルーチンを終了する。一方、ステップ110で、圧縮圧Pc<閾値αであると判定された場合には、ECU50は、空燃比変化量(目標空燃比から実空燃比を差し引いた値をいう。以下同じ。)が、閾値β以上か否かを判定する(ステップ120)。本ステップにおいて、空燃比変化量は、圧縮圧Pcの検出タイミングに対応させて算出されるものとする。また、閾値βは、吸気バルブ34の異常判定値であり、排気エミッションやドライバビリティの限界値に応じて設定され、予めECU50内に記憶されている値を用いる。なお、吸気バルブ34が異常であると、実空燃比は、目標空燃比よりも燃料リッチ側にズレるので、空燃比変化量としては、プラスの値をとる。そのため、閾値βはゼロよりも大きな値として設定されている。
【0030】
ステップ120で、空燃比変化量≧閾値βであると判定された場合には、ECU50は、吸気バルブ34に異常が発生していると判断する(ステップ130)。一方、空燃比変化量<閾値βであると判定された場合には、ECU50は、空燃比変化量が、閾値γ以下か否かを判定する(ステップ140)。本ステップにおいて、空燃比変化量は、ステップ120において算出した値を用いる。また、閾値γは、排気バルブ36の異常判定値であり、排気エミッションやドライバビリティの限界値に応じて設定され、予めECU50内に記憶されている値を用いる。なお、排気バルブ36が異常であると、実空燃比は、目標空燃比よりも燃料リーン側にズレるので、空燃比変化量としては、マイナスの値をとる。そのため、閾値γはゼロよりも小さな値として設定されている。
【0031】
ステップ140で、空燃比変化量≦閾値γであると判定された場合には、ECU50は、排気バルブ36に異常が発生していると判断する(ステップ150)。一方、空燃比変化量>閾値γであると判定された場合には、吸気バルブ34や排気バルブ36に異常は発生していないと判断できるので、ECU50は、ピストンリングに異常が発生していると判断する(ステップ160)。以上、図4に示したルーチンによれば、圧縮圧Pcが、閾値αよりも小さい場合に、その原因が吸気バルブ34、排気バルブ36およびピストンリングの何れの異常に起因するものであるかを精度高く特定できる。
【0032】
ところで、上記実施の形態1においては、目標空燃比から実空燃比を差し引いた値を空燃比変化量とし、その上で、閾値βおよびγを夫々、ゼロよりも大きな値およびゼロよりも小さな値として設定したが、空燃比変化量として他の値を用いてもよいし、閾値βおよびγの符号は必ずしも本実施の形態と同一でなくてもよい。例えば、実空燃比から目標空燃比を差し引いた値を空燃比変化量とすれば、閾値βおよびγは夫々、ゼロよりも小さな値およびゼロよりも大きな値として設定できる。このように、空燃比変化量をどの様に設定するかで閾値β、γの符号は変わるので、目標空燃比と実空燃比の偏差である限りにおいて、本実施の形態の空燃比変化量に代用できる。
【0033】
なお、上記実施の形態においては、筒内圧センサ28が上記第1の発明における「筒内圧検出手段」に相当している。また、上記実施の形態1においては、ECU50が図4のステップ110〜160の一連の処理を実行することにより、上記第1の発明における「異常特定手段」が実現されている。
【0034】
実施の形態2.
[実施の形態2の特徴]
次に、図5乃至図7を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態においては、図1のシステムを用い、ピストンリングの異常発生時に、図5に示すオイル希釈率異常判定制御を実行することをその特徴とする。従って、本実施の形態では、上記実施の形態1との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を簡略化または省略する。
【0035】
[実施の形態2における具体的処理]
図5は、本実施の形態において、ECU50により実行されるオイル希釈率異常判定制御を示すフローチャートである。図5に示すルーチンでは、先ず、ECU50は、ピストンリングに異常が発生しているか否かを判定する(ステップ200)。具体的には、ECU50は、図4のステップ160の処理が実行されたか否かを判定する。ステップ200において、ピストンリングに異常が発生していないと判定した場合には、ECU50は、本ルーチンを終了する。
【0036】
一方、ステップ200において、ピストンリングに異常が発生していると判定した場合には、ECU50は、圧縮圧Pcの低下率を算出する(ステップ210)。図6は、圧縮圧Pcの低下率を説明するための図である。図6に矢印で示すように、圧縮圧Pcの低下率は、正常時の圧縮圧Pcに対する圧縮圧Pcの値として算出される。なお、本ステップにおいては、図3のステップ100で取得した圧縮圧Pcが用いられる。
【0037】
続いて、ECU50は、ステップ210で算出した圧縮圧Pcの低下率から、ブローバイガスの増加率を算出する(ステップ220)。図7は、圧縮圧Pcの低下率と、ブローバイガスの増加率との関係を示す特性線図である。本ステップ220では、図7に示す特性線図をマップデータ化したものを参照して、ブローバイガスの増加率を算出する。
【0038】
続いて、ECU50は、ステップ220で算出したブローバイガスの増加率により、オイル希釈率を算出する(ステップ230)。オイル希釈率は、具体的に、下記式(1)により求められる。
オイル希釈率=累積オイル希釈燃料量/(オイル量+累積オイル希釈燃料量)×100 ・・・(1)
上記式(1)において、オイル量はオイル20の初期値であり、累積オイル希釈量は、下記式(2)で表される1サイクル当たりのオイル希釈量を逐次積算した値である。
1サイクル当たりのオイル希釈量=オイル希釈係数×筒内空気量×ブローバイガス増加率/実空燃比 ・・・(2)
上記式(2)において、オイル希釈係数は、エンジン10によって定まる値である。また、筒内空気量は、吸入空気量とエンジン回転数NEとから算出できる。
【0039】
続いて、ECU50は、ステップ230で算出したオイル希釈率が、閾値δよりも大きいか否かを判定する(ステップ240)。ここで、閾値δには、オイル希釈率の上限値として、予めECU50内に記憶されている値が用いられる。そして、オイル希釈率>閾値δと判定された場合には、ECU50は、オイル希釈異常と判定し(ステップ250)、例えば、車両のインストルメントパネルに警告ランプを点灯する。一方、オイル希釈率≦閾値δと判定された場合には、ピストンリングに異常が発生しているものの、オイル希釈率にある程度の余裕があると判断できるので、ECU50は、本ルーチンを終了する。
【0040】
以上、図5に示したルーチンによれば、ピストンリングの異常と判断した場合であって、オイル希釈率が閾値δよりも大きい場合に、警告ランプを点灯することができる。従って、運転者に対しオイル交換を指示する等の所要の措置を促すことが可能となる。
【0041】
なお、上記実施の形態2においては、ECU50が、図5のステップ230の処理を実行することにより上記第3の発明における「オイル希釈率算出手段」が、同図のステップ240の処理を実行することにより上記第3の発明における「オイル希釈異常判定手段」が、夫々実現されている。
【0042】
実施の形態3.
次に、図8乃至図11を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。本実施の形態においては、図1のシステムに過給機を追加したシステムにおいて、オイル希釈率算出時に、図9に示す過給圧制御を実行することをその特徴とする。従って、本実施の形態では、上記実施の形態1との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を簡略化または省略する。
【0043】
[システム構成の説明]
図8は、本実施の形態のシステム構成を説明するための図である。本実施形態のシステムは、ターボ過給機42を備えている。ターボ過給機42は、コンプレッサ42aとタービン42bとを有している。コンプレッサ42aは、吸気通路30の途中に配置され、タービン42bは、排気通路32の途中に配置されている。
【0044】
タービン42bは、回動可能な複数のノズルベーン(図示せず)を備えており、このノズルベーン間に形成されるタービンノズルの開度を変えることができるように構成されている。タービンノズルは、その開度を増加させるほど過給圧を上げることができ、その開度を減少させるほど過給圧を下げることができる。また、本実施形態のシステムは、排気通路32の途中に、タービン42bを迂回する迂回通路44と、この迂回通路44への排気ガス流量を調節するウェイストゲートバルブ46とを備えている。
【0045】
[実施の形態3の特徴]
上述したように、本実施形態のシステムにおいては、ターボ過給機42を備える。そのため、特に高負荷運転時、オイル自着火によるプレイグニッションの発生確率が増大する。そこで、本実施形態においては、オイル希釈率からプレイグニッションの発生確率を求め、この発生確率の許容範囲内でターボ過給機42を運転するように過給圧制御を実行することとした。これにより、プレイグニッションの発生を抑制しつつ、良好な過給効果を得ることができる。
【0046】
[実施の形態3における具体的処理]
図9は、本実施の形態において、ECU50により実行される過給圧制御を示すフローチャートである。図9に示すルーチンでは、先ず、ECU50は、オイル希釈率を算出する(ステップ300)。ステップ300の処理は、図5のステップ200〜230の一連の処理と同一の処理である。続いて、ECU50は、プレイグニッションの発生頻度を推定する(ステップ310)。図10は、オイル希釈率とプレイグニッションの発生頻度との関係を示した特性線図である。図10に示すように、オイル希釈率が低い領域においては、プレイグニッションの発生頻度が低いが、オイル希釈率が高くなるにつれて、プレイグニッションの発生頻度は急激に増大する。本ステップ310では、図10に示す特性線図をマップデータ化したものを参照して、プレイグニッションの発生頻度を算出する。
【0047】
続いて、ECU50は、ステップ310で算出したプレイグニッションの発生頻度により、過給圧の限界値を推定する(ステップ320)。図11は、過給圧の限界値とプレイグニッションの発生頻度との関係を示した特性線図である。本ステップ320では、図11に示す特性線図をマップデータ化したものを参照して、過給圧の限界値を推定する。
【0048】
続いて、ECU50は、実際の過給圧が、ステップ320で推定した過給圧の限界値よりも高いか否かを判定する(ステップ330)。本ステップにおいて、実際の過給圧は、例えばコンプレッサ42aの下流側の吸気通路30内の圧力を圧力センサで検出することで取得できる。そして、実際の過給圧が限界値よりも大きい場合には、過給圧を下げるようにタービンノズルの開度を増加させ(ステップ340)、実際の過給圧が限界値よりも小さい場合には、過給圧を上げるようにタービンノズルの開度を減少させる(ステップ350)。
【0049】
以上、図9に示したルーチンによれば、プレイグニッションの発生頻度から過給圧の限界値を推定し、この限界値を下回る過給圧となるように実際の過給圧を制御できる。従って、プレイグニッションの発生を抑制しつつ、良好な過給効果を得ることができる。
【0050】
ところで、本実施の形態においては、タービンノズルの開度の制御によって過給圧を増減させたが、ウェイストゲートバルブ46の開閉によって過給圧を増減させてもよい。つまり、実際の過給圧が限界値を下回るようにシステム内の各種アクチュエータを制御する限りにおいて、本実施の形態の変形として適用が可能である。
【0051】
なお、上記実施の形態3においては、ECU50が、図9のステップ300の処理を実行することにより上記第4の発明における「オイル希釈率算出手段」が、同図のステップ310の処理を実行することにより上記第4の発明における「発生確率算出手段」が、同図のステップ330〜350の一連の処理を実行することにより上記第4の発明における「過給圧制御手段」が、夫々実現されている。
【符号の説明】
【0052】
10 エンジン
12 ピストン
28 筒内圧センサ
34 吸気バルブ
36 排気バルブ
40 空燃比センサ
50 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の筒内圧を検出する筒内圧検出手段と、
前記筒内圧の検出値が所定の異常発生判定値よりも小さい場合に、目標空燃比と実空燃比の偏差を用いて、前記内燃機関の吸気バルブ、排気バルブおよびピストンリングのうちの何れの異常であるかを特定する異常特定手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記偏差は、目標空燃比から実空燃比を差し引いた空燃比差であり、
前記異常特定手段は、前記空燃比差が、ゼロよりも大きい第1閾値以上の場合には前記吸気バルブの異常と判定し、ゼロよりも小さい第2閾値以下の場合には前記排気バルブの異常と判定し、前記第1閾値よりも小さく前記第2閾値よりも大きい場合には前記ピストンリングの異常と判定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記筒内圧の低下率を用いて、オイル希釈率を算出するオイル希釈率算出手段と、
前記異常特定手段で前記ピストンリングの異常と特定され、かつ、前記オイル希釈率が所定のオイル異常判定値よりも大きい場合に、オイル希釈異常と判定するオイル希釈異常判定手段と、
を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関に供給される吸気を過給すると共に過給圧を変更可能な過給機と、
前記筒内圧の低下率を用いて、オイル希釈率を算出するオイル希釈率算出手段と、
前記オイル希釈率でのプレイグニッションの発生確率を算出する発生確率算出手段と、
前記異常特定手段で前記ピストンリングの異常と特定された場合に、前記発生確率が所定の限界値を超えないように前記過給圧を制御する過給圧制御手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至3何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−145041(P2012−145041A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4089(P2011−4089)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】