説明

内燃機関の制御装置

【課題】内燃機関が暖機運転の場合においては燃料の燃焼室の壁面への付着を抑制し、内燃機関が暖機運転終了後においてはノッキングの発生を抑制しつつ冷却損失の低減を図ることができる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の制御装置(100)は、燃焼室(14)に流入する混合気の流動方向を調整する気流調整弁(21)と、シリンダブロック(11)の燃焼室に面した壁面の一部分である局所壁面(22)を冷却または加熱する局所冷却加熱手段(30)と、を備える火花点火式の内燃機関(10)の制御装置であって、内燃機関が暖機運転の場合に局所壁面が加熱され、暖機運転が終了後に局所壁面が冷却されるように局所冷却加熱手段を制御し、暖機運転が終了後に燃焼室に流入した混合気が局所壁面に衝突するように気流調整弁の開度を制御する制御部(104)を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置、特に火花点火式の内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火花点火式の内燃機関の正味仕事に用いられない損失として、ポンプ損失、排気損失、冷却損失、機械損失等がある。これらの損失のうち冷却損失は大きなウエイトを占めることから、冷却損失を低減させて燃費向上を図るための技術が考案されている。例えば特許文献1は、内燃機関のピストン冠面の最外径部に断熱部材を配置することで、燃焼室とシリンダブロックとの断熱化を図り、以って冷却損失の低減を図る技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−30458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関の暖機運転が終了後において、冷却損失の低減を図るために、特許文献1の技術を応用して燃焼室とシリンダブロックとの断熱化を図った場合、燃焼室内の混合気の温度が上昇し易くなる。その結果、ノッキングが発生するおそれがある。一方、内燃機関が暖機運転の場合においては、燃焼室とシリンダブロックとの断熱化を図る技術を応用するだけでは、混合気の温度を十分に上昇させることは困難である。その結果、内燃機関が暖機運転の場合において、混合気に含まれる燃料が燃焼室に付着するおそれがある。
【0005】
本発明は、内燃機関が暖機運転の場合においては燃料の燃焼室の壁面への付着を抑制し、内燃機関が暖機運転終了後においてはノッキングの発生を抑制しつつ冷却損失の低減を図ることができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る内燃機関の制御装置は、燃焼室に流入する混合気の流動方向を調整する気流調整弁と、シリンダブロックの前記燃焼室に面した壁面の一部分である局所壁面を冷却または加熱する局所冷却加熱手段と、を備える火花点火式の内燃機関の制御装置であって、前記内燃機関が暖機運転の場合に前記局所壁面が加熱され、前記暖機運転が終了後に前記局所壁面が冷却されるように前記局所冷却加熱手段を制御し、前記暖機運転が終了後に前記燃焼室に流入した前記混合気が前記局所壁面に衝突するように前記気流調整弁の開度を制御する制御部を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、暖機運転の場合に局所壁面が加熱されることで、燃焼室における混合気を加熱して燃料の気化を促進することができる。それにより、燃料の燃焼室の壁面への付着を抑制することができる。また、暖機運転が終了後に局所壁面が冷却され且つ燃焼室に流入した混合気が局所壁面に衝突することで、混合気を冷却することができる。それにより、ノッキングの発生を抑制することができる。また、局所冷却加熱手段がシリンダブロックの燃焼室に面した壁面の一部分を冷却していることから、局所冷却加熱手段がシリンダブロックの壁面全体を冷却する場合に比較して、シリンダブロックにおける冷却損失の発生が抑制されている。以上のように本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、内燃機関が暖機運転の場合においては燃料の燃焼室の壁面への付着を抑制し、暖機運転が終了後においてはノッキングの発生を抑制しつつ内燃機関の冷却損失を低減することができる。
【0008】
上記構成において、前記制御部は、さらに前記暖機運転の場合において、前記シリンダヘッドの温度が所定温度以下の場合に前記燃焼室に流入した前記混合気が前記局所壁面に衝突するように前記気流調整弁を制御し、前記シリンダヘッドの温度が前記所定温度より高い場合に前記燃焼室に流入した前記混合気が前記燃焼室における前記局所壁面よりも前記シリンダヘッドに近い箇所に衝突するように前記気流調整弁を制御してもよい。
【0009】
この構成によれば、シリンダヘッドの温度が所定温度以下の場合には、混合気を局所壁面の熱で効率的に加熱することができる。また、シリンダヘッドの温度が所定温度より高い場合には、混合気をシリンダヘッドの熱で効率的に加熱することができる。
【0010】
上記構成において、前記内燃機関は、前記暖機運転が終了後における前記シリンダヘッドにおける冷却損失の発生が前記シリンダヘッドの断熱によって抑制可能な構造を有していてもよい。前記構造は、前記暖機運転が終了後における前記シリンダヘッドを冷却する流体の流量を、前記局所壁面を冷却する流体の流量よりも小さくする構造であってもよい。
【0011】
上記構成において、前記局所冷却加熱手段は、前記シリンダブロックにおける前記局所壁面に対応した部分に限定して形成された流路と、前記制御部に制御されることで、前記暖機運転の場合には前記局所壁面の温度よりも高い温度の流体を前記流路に流通させ、前記暖機運転が終了後には前記局所壁面の温度よりも低い温度の流体を前記流路に流通させる流体供給手段と、を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、内燃機関が暖機運転の場合においては燃料の燃焼室の壁面への付着を抑制し、内燃機関が暖機運転終了後においてはノッキングの発生を抑制しつつ冷却損失の低減を図ることができる内燃機関の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1(a)は、実施例1に係る制御装置および内燃機関を備える内燃機関システムの模式図である。図1(b)は制御装置の機能ブロック図である。
【図2】図2(a)〜図2(c)は、局所壁面および局所流路を説明するための図である。
【図3】図3は、局所冷却加熱装置および内燃機関の冷却構造を説明するための図である。
【図4】図4(a)〜図4(c)は、シリンダブロックの冷却を確保しつつシリンダヘッドにおける冷却損失の発生が抑制可能な構造による効果を説明するための図である。
【図5】図5(a)は、暖機運転終了後における内燃機関を示す模式図である。図5(b)および図5(c)は、暖機運転の場合における内燃機関を示す模式図である。
【図6】図6は、制御部が気流調整弁および局所冷却加熱装置を制御するときのフローチャートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の実施例1に係る内燃機関10の制御装置100(以下、制御装置100と略称する)について説明する。図1(a)は、本実施例に係る制御装置100および内燃機関10を備える内燃機関システム5の模式図である。なお、図1(a)の内燃機関10は、内燃機関10のクランク軸の軸線方向に垂直な方向から内燃機関10を見た模式図となっている。
【0016】
内燃機関10は、シリンダブロック11と、シリンダブロック11の上方に配置されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11内に配置されたピストン13と、を備えている。シリンダブロック11とシリンダヘッド12とピストン13とによって囲まれた領域に、燃焼室14が形成されている。なお、本実施例において上方および下方は、必ずしも重力方向における上方および下方と一致している必要はない。例えば、本実施例における上方および下方は水平方向であってもよい。
【0017】
シリンダヘッド12は、燃焼室14に吸気を導くための吸気通路15と燃焼室14から排気を排出するための排気通路16とを備えている。シリンダヘッド12には、ヘッド流路17が形成されている。ヘッド流路17は、シリンダヘッド12を冷却するための流体が流通する流路である。
【0018】
内燃機関10は、吸気通路15を開閉する吸気弁18と、排気通路16を開閉する排気弁19と、燃焼室14の混合気に火花を点火する点火プラグ20と、を備えている。すなわち、本実施例に係る内燃機関10は、火花点火式の内燃機関である。点火プラグ20は、燃焼室14の天井部における吸気通路15と排気通路16との間の部分に配置されている。但し、点火プラグ20の配置箇所は、これに限定されるものではない。
【0019】
内燃機関10は、吸気通路15に気流調整弁21を備えている。気流調整弁21は制御装置100に制御されて、燃焼室14に流入する混合気の流動方向を調整する。気流調整弁21としては、タンブルコントロールバルブ、スワールコントロールバルブ等を用いることができる。本実施例においては、吸気行程において燃焼室14にタンブルが生成されるため、気流調整弁21としてタンブルコントロールバルブを用いる。なお、吸気行程において燃焼室14にスワールが生成させる内燃機関の場合、気流調整弁21としてスワールコントロールバルブを用いればよい。
【0020】
内燃機関10は、局所冷却加熱装置30を備えている。局所冷却加熱装置30は、シリンダブロック11の燃焼室14に面した壁面(以下、シリンダブロック11の壁面と略称する)の一部分である局所壁面22を冷却または加熱する装置である。局所冷却加熱装置30は、局所流路31を備えている。局所冷却加熱装置30は、制御装置100によって制御される。なお、図1(a)において、シリンダブロック11の局所壁面22と局所流路31とによって挟まれた領域には、水平方向に対して+側に傾斜した線と−側に傾斜した線とによってハッチングが施されている。局所壁面22および局所冷却加熱装置30の詳細は後述する。
【0021】
内燃機関10は、制御装置100の動作に必要な情報を検出するための各種センサを備えている。具体的には内燃機関10は、温度センサ40aおよび温度センサ40bを備えている。温度センサ40aは、シリンダヘッド12の温度を検出し、検出結果を制御装置100に伝える。温度センサ40bは、局所流路31を通過後の流体の温度を検出し、検出結果を制御装置100に伝える。制御装置100は、温度センサ40bの検出結果に基づいて、内燃機関10が暖機運転であるか否かを判定する。但し、制御部104が内燃機関10が暖機運転であるか否かを判定するための指標は、温度センサ40bの検出する流体の温度に限定されるものではない。例えば制御部104は、シリンダブロック11の温度に基づいて内燃機関10が暖機運転であるか否かを判定してもよい。
【0022】
制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102およびRAM(Random Access Memory)103を備える電子制御装置(Electronic Control Unit)である。
【0023】
図1(b)は制御装置100の機能ブロック図である。制御装置100の機能は、制御部104および記憶部105によって実現することができる。制御部104は、各種センサの検出結果を受けて内燃機関10の気流調整弁21および局所冷却加熱装置30を制御する機能を有している。記憶部105は、制御部104の制御に必要なデータ等を記憶する機能を有している。制御部104は、記憶部105の記憶したデータ等を適宜参照しながら、各種制御を行う。制御部104の機能はCPU101によって実行され、記憶部105の機能はROM102およびRAM103によって実行される。
【0024】
続いて局所壁面22および局所流路31について説明する。図2(a)〜図2(c)は、局所壁面22および局所流路31を説明するための図である。図2(a)は、気流調整弁21の開度がゼロの場合における内燃機関10を示し、図2(b)は気流調整弁21の開度が所定の開度の場合における内燃機関10を示している。図2(c)は、局所流路31を上方側から見た図である。なお、図2(c)において、吸気弁18および排気弁19も想像線によって図示されている。
【0025】
図2(c)に示すように、本実施例に係る吸気弁18はクランク軸線23を挟んで一方の側に2つ配置され、排気弁19はクランク軸線23を挟んで他方の側に2つ配置されている。但し、吸気弁18および排気弁19の個数は、これに限定されるものではない。
【0026】
内燃機関10において、燃焼室14に流入した混合気がシリンダブロック11の壁面に衝突する箇所は、気流調整弁21の開度に応じて変化する。気流調整弁21および局所壁面22は、気流調整弁21の開度に応じて、燃焼室14に流入した混合気が局所壁面22に衝突しない状態と、燃焼室14に流入した混合気が局所壁面22に衝突する状態と、が得られるように設定されている。具体的には、図2(a)に示すように、気流調整弁21の開度がゼロの場合、燃焼室14に流入した直後の混合気は、局所壁面22に衝突せず、燃焼室14における局所壁面22よりもシリンダヘッド12に近い箇所に衝突する。図2(b)に示すように、気流調整弁21の開度が所定の開度の場合、燃焼室14に流入した直後の混合気は、局所壁面22に衝突する。
【0027】
本実施例に係る局所壁面22は、気流調整弁21の開度が所定の開度のときに燃焼室14に流入した混合気が衝突するシリンダブロック11の壁面部分である。具体的には、局所壁面22とシリンダヘッド12との間には所定の距離が設けられている。またピストン13が下死点に位置した場合、ピストン13の冠面と局所壁面22との間にも所定の距離が設けられている。なお、気流調整弁21の所定の開度は、記憶部105が記憶しておく。
【0028】
図2(a)のときに混合気が衝突する箇所は、燃焼室14における局所壁面22よりもシリンダヘッド12に近い箇所であれば特に限定されるものではない。例えば、図2(a)のときに混合気が衝突する箇所は、シリンダブロック11の壁面のうち局所壁面22よりもシリンダヘッド12に近い部分でもよく、シリンダヘッド12の燃焼室14に面した壁面部分であってもよい。
【0029】
本実施例に係る局所流路31は、シリンダブロック11における局所壁面22に対応した部分に限定して形成された流路である。図2(a)および図2(b)において、局所流路31の高さと局所壁面22の高さとは等しい。図2(c)に示すように局所流路31は、シリンダブロック11のクランク軸線23よりも排気弁19側に形成されている。なお、図2(c)において局所壁面22は、シリンダブロック11の壁面のうちクランク軸線23よりも排気弁19側の部分である。
【0030】
後述するように、局所流路31には局所壁面22よりも低温の流体または高温の流体が流動する。それにより局所流路31は、局所壁面22を冷却または加熱する。局所流路31は、局所壁面22を冷却または加熱できる態様であれば、その形状は特に限定されるものではない。例えば、図2(a)および図2(b)において、局所流路31の高さは局所壁面22の高さと同じでなくてもよい。また、図2(c)において局所流路31は、シリンダブロック11の壁面のうち、クランク軸線23よりも排気弁19側の箇所のさらに一部分に限定して形成されていてもよい。なお、局所流路31の体積は小さい方が好ましい。冷却時または加熱時のエネルギー損失が少なくて済むからである。
【0031】
続いて局所冷却加熱装置30および内燃機関10の冷却構造について説明する。図3は、局所冷却加熱装置30および内燃機関10の冷却構造を説明するための図である。局所冷却加熱装置30は、前述した局所流路31の他に、ポンプ32と、冷却装置33と、加熱装置34と、3方弁35aおよび3方弁35bと、循環流路36と、を備えている。
【0032】
局所流路31とポンプ32とは、循環流路36によって連通されている。循環流路36におけるポンプ32と局所流路31の入口(IN)との間の一部は2つに分岐して、分岐流路37aおよび分岐流路37bになっている。冷却装置33は分岐流路37aに配置されている。加熱装置34は分岐流路37bに配置されている。3方弁35aは、分岐流路37aの冷却装置33よりも上流側と分岐流路37bの加熱装置34よりも上流側との合流点に配置されている。3方弁35bは、分岐流路37aの冷却装置33よりも下流側と分岐流路37bの加熱装置34よりも下流側との合流点に配置されている。
【0033】
ポンプ32は、制御部104によって制御されて流体を圧送する。流体としては特に限定されないが、例えば水、不凍液等を用いることができる。冷却装置33は、制御部104に制御されることで、局所流路31に供給される流体を局所壁面22の温度よりも低い温度に冷却する装置である。加熱装置34は、制御部104に制御されることで、局所流路31に供給される流体を局所壁面22の温度よりも高い温度に加熱する装置である。加熱装置34は、特に限定されるものではないが、一例として蓄熱装置を備えた装置を用いることができる。
【0034】
3方弁35aは、ポンプ32と冷却装置33とを連通する流路と、ポンプ32と加熱装置34とを連通する流路と、を切り替える流路切替弁である。3方弁35bは、冷却装置33と局所流路31とを連通する流路と、加熱装置34と局所流路31とを連通する流路と、を切り替える流路切替弁である。3方弁35aおよび3方弁35bは、制御部104によって制御される。
【0035】
内燃機関10が暖機運転の場合、制御部104は、加熱装置34を作動させ、冷却装置33を停止させる。また制御部104は、ポンプ32から圧送された流体が循環流路36、分岐流路37bおよび循環流路36を通過して局所流路31に流入するように、3方弁35aおよび3方弁35bを制御する。それにより、局所流路31には加熱装置34によって加熱された流体が供給される。その結果、局所壁面22が集中的に加熱される。
【0036】
内燃機関10が暖機運転終了後において、制御部104は、加熱装置34を停止させ、冷却装置33を作動させる。また制御部104は、ポンプ32から圧送された流体が循環流路36、分岐流路37aおよび循環流路36を通過して局所流路31に流入するように、3方弁35aおよび3方弁35bを制御する。それにより、局所流路31には冷却装置33によって冷却された流体が供給される。その結果、局所壁面22が集中的に冷却される。
【0037】
以上のように、本実施例に係る局所冷却加熱装置30は、局所流路31と、制御部104に制御されることで暖機運転時には局所壁面22の温度よりも高い温度の流体を局所流路31に流通させ、暖機運転が終了後には局所壁面22の温度よりも低い温度の流体を局所流路31に流通させる流体供給手段(ポンプ32、冷却装置33、加熱装置34、3方弁35aおよび3方弁35b)を備えている。
【0038】
なお、局所冷却加熱装置30の構成は図3の構成に限定されるものではない。例えば局所冷却加熱装置30は、冷却装置33を備えていなくてもよい。この場合、制御部104は、暖機運転終了後には、暖機運転時において局所流路31に流入していた流体の流量よりも多い流量の流体が局所流路31に流入するようにポンプ32を制御してもよい。この場合においても、暖機運転終了後において、局所流路31を流動する流体によって局所壁面22を冷却することができる。
【0039】
続いて内燃機関10の冷却構造について説明する。内燃機関10の冷却構造は、前述したポンプ32、局所流路31、冷却装置33および循環流路36に加えて、循環流路50と流量調整弁51とを備えている。循環流路50は、ヘッド流路17とポンプ32とを連通するための流路である。なお、図3において循環流路50の一部および循環流路36の一部は、合流しているが、これに限定されるものではない。
【0040】
流量調整弁51は、制御部104に制御されて循環流路50における流量を調整する。本実施例において流量調整弁51は、循環流路50のヘッド流路17よりも上流側に配置されている。但し、流量調整弁51の配置箇所はこれに限定されるものではない。例えば流量調整弁51は、循環流路50のヘッド流路17よりも下流側に配置されていてもよい。
【0041】
制御部104は暖機運転終了後において、例えば内燃機関10の負荷に応じて流量調整弁51を制御することで、循環流路50における流体の流量を循環流路36における流体の流量よりも小さく制御する。この場合、暖機運転終了後においてヘッド流路17における流体の流量(すなわち、シリンダヘッド12を冷却する流体の流量)は、局所流路31における流体の流量よりも小さく制御される。その結果、暖機運転終了後においてシリンダヘッド12と流体との熱伝導は、シリンダブロック11と流体との熱伝導に比較して低く制御される。それにより、本実施例に係る冷却構造は、シリンダヘッド12が流体から断熱された構造となっている。
【0042】
内燃機関10がこのような冷却構造を有することで、暖機運転終了後においてシリンダヘッド12における冷却損失をシリンダブロック11における冷却損失よりも低く抑えることができる。すなわち、本実施例に係る冷却構造は、暖機運転終了後において、シリンダブロック11の冷却を確保しつつシリンダヘッド12における冷却損失の発生がシリンダヘッド12の断熱によって抑制可能な構造となっている。
【0043】
なお内燃機関10は、上述した冷却構造に代えてまたは冷却構造とともに、断熱部材を有する構造を備えていてもよい。具体的には、内燃機関10は、シリンダヘッド12を燃焼室14から断熱する断熱部材を備えた構造を有していてもよい。この構造の一例として、シリンダヘッド12の燃焼室14に露出した部分に断熱部材を配置する構造を用いることができる。断熱部材としては、例えば、シリンダヘッド12を構成する材料である金属よりも熱伝導率の小さい部材を用いることができる。この場合、断熱部材によって燃焼室14からシリンダヘッド12への熱伝導を抑制することができる。それにより、シリンダブロック11の冷却を確保しつつシリンダヘッド12が燃焼室14から断熱された構造が得られる。この場合においても、シリンダヘッド12が燃焼室14から断熱されることで、シリンダヘッド12における冷却損失の発生が抑制されている。
【0044】
あるいは内燃機関10は、上記断熱部材を有する構造に代えてまたは上記断熱部材を有する構造とともに、シリンダヘッド12をシリンダブロック11から断熱する断熱部材を備える構造を有していてもよい。この構造として、例えばシリンダヘッド12のシリンダブロック11側の界面に断熱部材を配置する構造を用いることができる。この場合、シリンダブロック11からシリンダヘッド12への熱伝導が抑制されることで、シリンダヘッド12がシリンダブロック11から断熱された構造が得られる。この場合においても、シリンダヘッド12がシリンダブロック11から断熱されることで、シリンダヘッド12における冷却損失の発生が抑制されている。
【0045】
上述したように内燃機関10が暖機運転終了後においてシリンダブロック11の冷却を確保しつつシリンダヘッド12における冷却損失の発生が抑制可能な構造を有することで、以下の効果が得られる。図4(a)〜図4(c)は、シリンダブロック11の冷却を確保しつつシリンダヘッド12における冷却損失の発生が抑制可能な構造による効果を説明するための図である。まず、図4(a)に示すように、内燃機関10の正味仕事に用いられない損失として、ポンプ損失、排気損失、冷却損失、機械損失がある。これらの損失のうち冷却損失が占めるウエイトは大きい。そのため、冷却損失の低減は内燃機関10の燃費改善に効果的である。
【0046】
図4(c)に示すように、冷却損失の低減のためには、空気を断熱することが効果的である。しかしながら、例えばシリンダブロック11の壁面に断熱部材を配置する、ピストン13の冠面とシリンダブロック11との間に断熱部材を配置する等の方法でシリンダブロック11が燃焼室14から断熱された場合、図4(b)に示すように、シリンダブロック11の温度が上昇して燃焼室14内の混合気が加熱されてしまい、ノッキングが生じる可能性が高くなる。
【0047】
これに対して本実施例のようにシリンダブロック11の冷却を確保しつつシリンダヘッド12における冷却損失の発生がシリンダヘッド12の断熱によって抑制可能な構造の場合、シリンダブロック11の冷却が確保されていることから、シリンダブロック11の温度の上昇が抑制されている。それにより、シリンダヘッド12における冷却損失の発生を抑止しつつ、燃焼室14内の混合気の加熱を抑制してノッキングの発生を抑制することができる。
【0048】
続いて、制御装置100による気流調整弁21および局所冷却加熱装置30の制御について説明する。図5(a)は、暖機運転終了後における内燃機関10を示す模式図である。制御装置100の制御部104は、内燃機関10が暖機運転終了後において、局所壁面22が冷却されるように局所冷却加熱装置30を制御するとともに、燃焼室14に流入した混合気が局所壁面22に衝突するように気流調整弁21の開度を、図2(b)において前述した記憶部105が記憶している所定の角度に制御する。
【0049】
この場合、燃焼室14に流入した混合気を局所壁面22によって冷却することができる。それにより、ノッキングの発生を抑制することができる。また、局所冷却加熱装置30がシリンダブロック11の燃焼室14に面した壁面の一部分を冷却していることから、局所冷却加熱装置30がシリンダブロック11の壁面全体を冷却する場合に比較して、シリンダブロック11における冷却損失の発生が抑制されている。このように、本実施例に係る制御装置100によれば、暖機運転が終了後においてノッキングの発生を抑制しつつ内燃機関10の冷却損失を低減することができる。
【0050】
図5(b)および図5(c)は、暖機運転の場合における内燃機関10を示す模式図である。制御部104は、内燃機関10が暖機運転の場合、局所壁面22が加熱されるように局所冷却加熱装置30を制御する。それにより、燃焼室14における混合気を加熱して燃料の気化を促進することができる。その結果、内燃機関10が暖機運転の場合において、混合気に含まれる燃料が燃焼室14の壁面に付着することが抑制されている。
【0051】
また制御部104は、さらに暖機運転の場合において、シリンダヘッド12の温度に基づいて気流調整弁21の開度を制御している。具体的には、図5(b)に示すように、シリンダヘッド12の温度が局所壁面22の温度よりも低いと考えられる場合には、制御部104は、燃焼室14に流入した混合気が局所壁面22に衝突するように気流調整弁21の開度を、記憶部105が記憶している所定の角度に制御する。この場合、混合気を局所壁面22の熱で効率的に加熱することができる。
【0052】
一方、図5(c)に示すように、シリンダヘッド12の温度が局所壁面22の温度よりも高いと考えられる場合には、制御部104は、燃焼室14に流入した混合気が燃焼室14における局所壁面22よりもシリンダヘッド12に近い箇所に衝突するように気流調整弁21の開度を制御する。この場合、混合気をシリンダヘッド12の熱で効率的に加熱することができる。
【0053】
図6は、制御部104が気流調整弁21および局所冷却加熱装置30を制御するときのフローチャートの一例を示す図である。制御部104は図6のフローチャートを所定の周期で繰り返し実行する。まず制御部104は、内燃機関10が暖機運転であるか否かを判定する(ステップS10)。具体的には制御部104は、温度センサ40bの検出した流体の温度が所定温度以下の場合、内燃機関10が暖機運転であると判定し、温度センサ40bの検出した流体の温度が所定温度より高い場合、内燃機関10が暖機運転でない(つまり暖機運転終了後である)と判定する。この所定温度は、記憶部105が記憶しておく。制御部104は、温度センサ40bの検出結果に基づいて記憶部105の所定温度を参照しながら、ステップS10を実行する。
【0054】
ステップS10において内燃機関10が暖機運転であると判定された場合、制御部104は局所壁面22が加熱されるように局所冷却加熱装置30を制御する(ステップS20)。
【0055】
次いで制御部104は、温度センサ40aの検出結果に基づいて、シリンダヘッド12の温度が所定温度以下か否かを判定する(ステップS30)。所定温度としては、シリンダヘッド12の温度が所定温度以下の場合にシリンダヘッド12の温度が局所壁面22の温度以下であると判定でき、シリンダヘッド12の温度が所定温度より高い場合にシリンダヘッド12の温度が局所壁面22の温度より高いと判定できるような温度であれば、特に限定されるものではない。この所定温度は、記憶部105が記憶しておく。制御部104は、温度センサ40aの検出結果に基づいて記憶部105の所定温度を参照しながら、ステップS30を実行する。
【0056】
ステップS30においてシリンダヘッド12の温度が所定温度以下であると判定された場合、制御部104は燃焼室14に流入した混合気が局所壁面22に衝突するように気流調整弁21を制御する(ステップS40)。次いで制御部104はフローチャートの実行を終了する。
【0057】
ステップS30においてシリンダヘッド12の温度が所定温度以下であると判定されなかった場合、制御部104は燃焼室14に流入した混合気が局所壁面22よりもシリンダヘッド12に近い箇所に衝突するように気流調整弁21を制御する(ステップS50)。次いで制御部104はフローチャートの実行を終了する。
【0058】
ステップS10において内燃機関10が暖機運転であると判定されなかった場合、制御部104は局所壁面22が冷却されるように局所冷却加熱装置30を制御する(ステップS60)。
【0059】
次いで制御部104は、燃焼室14に流入した混合気が局所壁面22に衝突するように気流調整弁21を制御する(ステップS70)。次いで制御部104はフローチャートの実行を終了する。
【0060】
以上のように本実施例に係る制御装置100の制御部104は、内燃機関10が暖機運転の場合に局所壁面22が加熱され、暖機運転が終了後に局所壁面22が冷却されるように局所冷却加熱装置30を制御し、暖機運転が終了後に燃焼室14に流入した混合気が局所壁面22に衝突するように気流調整弁21の開度を制御している。制御装置100によれば、暖機運転の場合に局所壁面22が加熱されることで、燃焼室14における混合気を加熱して燃料の気化を促進することができる。それにより、燃料の燃焼室14の壁面への付着を抑制することができる。その結果、内燃機関10の燃焼を安定化させることができる。
【0061】
また、暖機運転が終了後に局所壁面22が冷却され且つ燃焼室14に流入した混合気が局所壁面22に衝突することで、混合気を冷却することができる。それにより、ノッキングの発生を抑制することができる。図3、図4等において説明したように、本実施例に係る内燃機関10は、暖機運転が終了後におけるシリンダヘッド12における冷却損失の発生がシリンダヘッド12の断熱によって抑制可能な構造を有している。この場合、シリンダヘッド12がシリンダブロック11に比較して高温になり易い。その結果、シリンダヘッド12の熱によって混合気が加熱され易くなる。しかしながら、制御装置100によれば、混合気を局所壁面22によって効率的に冷却できるので、ノッキングの発生が効率的に抑制されている。
【0062】
また、暖機運転終了後において、局所冷却加熱装置30はシリンダブロック11の燃焼室14に面した壁面の一部分を冷却していることから、局所冷却加熱装置30がシリンダブロック11の壁面全体を冷却する場合に比較して、シリンダブロック11における冷却損失の発生が抑制されている。
【0063】
以上のように本実施例に係る制御装置100によれば、内燃機関10が暖機運転の場合においては燃料の燃焼室14の壁面への付着を抑制し、暖機運転終了後においてはノッキングの発生を抑制しつつ内燃機関10の冷却損失を低減することができる。
【0064】
また、制御部104は、さらに暖機運転の場合において、シリンダヘッド12の温度が所定温度以下の場合に燃焼室14に流入した混合気が局所壁面22に衝突するように気流調整弁21を制御し、シリンダヘッド12の温度が所定温度より高い場合に燃焼室14に流入した混合気が燃焼室14における局所壁面22よりもシリンダヘッド12に近い箇所に衝突するように気流調整弁21を制御している。この構成によれば、シリンダヘッド12の温度が所定温度以下の場合には、混合気を局所壁面22の熱で効率的に加熱することができる。また、シリンダヘッド12の温度が所定温度より高い場合には、混合気をシリンダヘッド12の熱で効率的に加熱することができる。この結果、燃料の燃焼室14の壁面への付着を効率的に抑制できる。
【0065】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0066】
5 内燃機関システム
10 内燃機関
11 シリンダブロック
14 燃焼室
21 気流調整弁
22 局所壁面
30 局所冷却加熱装置
31 局所流路
100 制御装置
104 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に流入する混合気の流動方向を調整する気流調整弁と、シリンダブロックの前記燃焼室に面した壁面の一部分である局所壁面を冷却または加熱する局所冷却加熱手段と、を備える火花点火式の内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関が暖機運転の場合に前記局所壁面が加熱され、前記暖機運転が終了後に前記局所壁面が冷却されるように前記局所冷却加熱手段を制御し、前記暖機運転が終了後に前記燃焼室に流入した前記混合気が前記局所壁面に衝突するように前記気流調整弁の開度を制御する制御部を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、さらに前記暖機運転の場合において、前記シリンダヘッドの温度が所定温度以下の場合に前記燃焼室に流入した前記混合気が前記局所壁面に衝突するように前記気流調整弁を制御し、前記シリンダヘッドの温度が前記所定温度より高い場合に前記燃焼室に流入した前記混合気が前記燃焼室における前記局所壁面よりも前記シリンダヘッドに近い箇所に衝突するように前記気流調整弁を制御する請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関は、前記暖機運転が終了後における前記シリンダヘッドにおける冷却損失の発生が前記シリンダヘッドの断熱によって抑制可能な構造を有している請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記構造は、前記暖機運転が終了後における前記シリンダヘッドを冷却する流体の流量を、前記局所壁面を冷却する流体の流量よりも小さくする構造である請求項3記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記局所冷却加熱手段は、前記シリンダブロックにおける前記局所壁面に対応した部分に限定して形成された流路と、前記制御部に制御されることで、前記暖機運転の場合には前記局所壁面の温度よりも高い温度の流体を前記流路に流通させ、前記暖機運転が終了後には前記局所壁面の温度よりも低い温度の流体を前記流路に流通させる流体供給手段と、を備える請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−211518(P2012−211518A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76587(P2011−76587)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】