説明

内燃機関の変位計測装置

【課題】車両に搭載された内燃機関の変位量を容易にして精度良く計測可能な内燃機関の変位計測装置を提供する。
【解決手段】変位測定手段による第1被測定体と第2被測定体の測定結果に基づいて内燃機関の変位量を算出する変位量算出手段を備え、該変位量算出手段は、第1被測定体の第1測定面上に変位測定手段による測定点を含んで形成される第1直線部分l1、l'1の延長線と第2被測定体の第2測定面上に変位測定手段による測定点を含んで形成される第2直線部分m1、m'1の延長線との交点P(X、Z)、P'(X'、Z')を求め、該交点の第1直線部分と第2直線部分とにより形成される基準平面上での変位を演算することで内燃機関の変位量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の変位計測装置に係り、車両に搭載された内燃機関の変位量を計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されたエンジン(内燃機関)が、エンジンルーム内においてどのくらいの変位量でどのように変位するのかを把握することは、例えばエンジンルーム内の部品レイアウトを設計する上で重要である。
このエンジンの変位量を計測する方法として、エンジンに固定した治具にペンを取り付け、このペン先端の軌跡を車体側に設けた感圧紙等で測り取る手法が広く知られている。
【0003】
また、最近では、エンジンに設定した観測点を直接追うことで、エンジンの変位量を直接的にデジタル処理して求める手法も開発されている。
一方、変位量を計測する方法としてレーザ変位計を用いることも知られており、例えば、エンジンマウントのマウント軸として配設されるボルトの両端の球体の変位をレーザ変位計で複数点測定し、マウント軸の3軸並進量及び2軸回転量を高精度に算出可能にする手法が公知である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−169451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のペン先端の軌跡を感圧紙等で測り取る手法は、測定に手間が掛かり、迅速な測定ができないという問題がある。
また、エンジンの変位量を直接的にデジタル処理して求める手法では、理論及び演算処理が複雑で実用的ではないという問題がある。
また、特許文献1に開示の技術では、エンジンマウントのマウント軸の姿勢を測定しており、直接エンジンの変位量の測定を行うものではない。
【0006】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、車両に搭載された内燃機関の変位量を容易にして精度良く計測可能な内燃機関の変位計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1の内燃機関の変位計測装置は、車体に対する内燃機関の変位を計測する内燃機関の変位計測装置において、前記車体側に設けられ、被測定体の変位を測定する変位測定手段と、前記内燃機関または前記内燃機関と連動する部位に設けられ、第1測定面を有する第1被測定体と、第2測定面を有し、前記第1測定面と該第2測定面とが交差するように前記内燃機関または前記内燃機関と連動する部位に設けられる第2被測定体と、前記変位測定手段による前記第1被測定体と前記第2被測定体の測定結果に基づいて前記内燃機関の変位量を算出する変位量算出手段とを備え、前記変位量算出手段は、前記第1被測定体の前記第1測定面上に前記変位測定手段による測定点を含んで形成される第1直線部分の延長線と前記第2被測定体の前記第2測定面上に前記変位測定手段による測定点を含んで形成される第2直線部分の延長線との交点を求め、該交点の前記第1直線部分と前記第2直線部分とにより形成される基準平面上での変位を演算することで前記内燃機関の変位量を算出することを特徴とする。
【0008】
請求項2の内燃機関の変位計測装置では、請求項1において、前記第1測定面と前記第2測定面とはそれぞれ平面をなし、前記変位量算出手段は、前記変位測定手段により前記第1測定面の平面上の2点を測定して前記第1直線部分を形成し、前記変位測定手段により前記第2測定面の平面上の2点を測定して前記第2直線部分を形成し、前記交点を求めることを特徴とする。
【0009】
請求項3の内燃機関の変位計測装置では、請求項1または2において、前記変位測定手段は、前記被測定体にレーザを照射して変位を測定するレーザ変位計であって、該レーザ変位計のレーザ照射部が前記基準平面上に位置することを特徴とする。
請求項4の内燃機関の変位計測装置では、請求項1乃至3のいずれかにおいて、前記基準平面は、前記内燃機関のクランク軸に対して垂直をなすことを特徴とする。
【0010】
請求項5の内燃機関の変位計測装置では、請求項1乃至4のいずれかにおいて、前記変位量算出手段は、前記第1直線部分を前記基準平面内で平行移動させた仮想直線を形成するとともに、該仮想直線と前記第2直線部分とが交差する仮想交点を求め、前記交点と該仮想交点の各変位から前記基準平面上における前記内燃機関のロール中心点を演算することを特徴とする。
【0011】
請求項6の内燃機関の変位計測装置では、請求項5において、前記内燃機関または前記内燃機関と連動する部位に設けられ、第3測定面を有する第3被測定体と、第4測定面を有し、前記第3測定面と該第4測定面とが交差するように前記内燃機関または前記内燃機関と連動する部位に設けられる第4被測定体とを備え、前記変位量算出手段は、前記第3被測定体の前記第3測定面上に前記変位測定手段による測定点を含んで形成される第3直線部分の延長線と前記第4被測定体の前記第4測定面上に前記変位測定手段による測定点を含んで形成される第4直線部分の延長線との第2交点を求め、該第2交点の前記第3直線部分と前記第4直線部分とにより形成される前記基準平面に対し平行な第2基準平面上での変位を演算することで前記内燃機関の変位量を算出し、前記第3直線部分を前記基準平面内で平行移動させた第2仮想直線を形成するとともに、該第2仮想直線と前記第4直線部分とが交差する第2仮想交点を求め、前記第2交点と該第2仮想交点の各変位から前記第2基準平面上における前記内燃機関の第2ロール中心点を演算し、前記基準平面におけるロール中心点と前記第2基準平面における第2ロール中心点に基づいて前記内燃機関のロール軸を演算することを特徴とする。
【0012】
請求項7の内燃機関の変位計測装置では、請求項1乃至6のいずれかにおいて、前記第1直線部分の延長線と前記第2直線部分の延長線とが直角に交差するように前記第1被測定体と前記第2被測定体を配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1の内燃機関の変位計測装置によれば、変位測定手段による第1被測定体と第2被測定体の測定結果に基づいて内燃機関の変位量を算出する変位量算出手段を備え、該変位量算出手段は、第1被測定体の第1測定面上に変位測定手段による測定点を含んで形成される第1直線部分の延長線と第2被測定体の第2測定面上に変位測定手段による測定点を含んで形成される第2直線部分の延長線との交点を求め、該交点の第1直線部分と第2直線部分とにより形成される基準平面上での変位を演算することで内燃機関の変位量を算出するようにしている。
【0014】
これにより、内燃機関の1点を変位測定手段で1次元的に捉えて内燃機関の変位量を求めることは困難であるが、第1直線部分と第2直線部分の2本の線の延長線の交点を演算により求めることにより、内燃機関の変位量を2次元的にして容易且つ正確に算出することができる。
請求項2の内燃機関の変位計測装置によれば、第1測定面と第2測定面とはそれぞれ平面をなし、変位量算出手段は、変位測定手段により第1測定面の平面上の2点を測定して第1直線部分を形成し、変位測定手段により第2測定面の平面上の2点を測定して第2直線部分を形成して交点を求めるようにしている。
【0015】
これにより、内燃機関の変位により内燃機関または内燃機関と連動する部位の変位測定手段による測定点がずれてしまうが、第1測定面と第2測定面とをそれぞれ平面とし、第1測定面の平面上の2点及び第2測定面の平面上の2点を測定することにより、第1直線部分及び第2直線部分を良好に形成し、交点を求めることができる。
請求項3の内燃機関の変位計測装置によれば、変位測定手段は被測定体にレーザを照射して変位を測定するレーザ変位計であって、該レーザ変位計のレーザ照射部が基準平面上に位置するので、レーザ変位計を用いて変位を測定する場合において、基準平面内でレーザ照射を行うことで、照射するレーザが基準平面に垂直な方向へずれることによる測定誤差を少なくすることができる。
【0016】
請求項4の内燃機関の変位計測装置によれば、基準平面は内燃機関のクランク軸に対して垂直をなすので、クランク軸周りにおける内燃機関の変位をより正確に算出することができる。
請求項5の内燃機関の変位計測装置によれば、変位量算出手段は、第1直線部分を基準平面内で平行移動させた仮想直線を形成するとともに、該仮想直線と第2直線部分とが交差する仮想交点を求め、交点と該仮想交点の各変位から基準平面上における内燃機関のロール中心点を演算するようにしている。
【0017】
これにより、第1直線部分と第2直線部分、仮想直線と第2直線部分とに基づいてそれぞれ交点及び仮想交点を求め、これら交点及び仮想交点の各変位に基づいてロール中心点を容易に演算することができる。
請求項6の内燃機関の変位計測装置によれば、変位量算出手段は、第3被測定体の第3測定面上に変位測定手段による測定点を含んで形成される第3直線部分の延長線と第4被測定体の第4測定面上に変位測定手段による測定点を含んで形成される第4直線部分の延長線との第2交点を求め、該第2交点の基準平面に対し平行な第2基準平面上での変位を演算することで内燃機関の変位量を算出し、第3直線部分を基準平面内で平行移動させた第2仮想直線を形成するとともに、該第2仮想直線と第4直線部分とが交差する第2仮想交点を求め、第2交点と該第2仮想交点の各変位から第2基準平面上における内燃機関の第2ロール中心点を演算し、基準平面におけるロール中心点と第2基準平面における第2ロール中心点に基づいて内燃機関のロール軸を演算するようにしている。
【0018】
従って、基準平面のロール中心点と第2基準平面のロール中心点に基づいてロール軸を容易に求めることができ、内燃機関の最大変位量を3次元で捉えることができる。
これにより、ロール軸周りでの内燃機関の振動についてシミュレーションを行うことにより、エンジンルーム内における内燃機関の最大変位量を容易にして正確に把握することができ、例えばエンジンルーム内の部品レイアウトを、部品と内燃機関との干渉を避けながら効率よく設計することが可能である。
【0019】
請求項7の内燃機関の変位計測装置によれば、第1直線部分の延長線と第2直線部分の延長線とが直角に交差するように第1被測定体と第2被測定体を配置するので、第1直線部分と第2直線部分とを基準平面において座標で容易に捉えることができ、演算負荷を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る内燃機関の変位計測装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】変位計によるエンジンの変位の計測の様子を示す模式図である。
【図3】直線l1、直線l'1、直線m1、直線m'1、交点P(X、Z)、交点P'(X'、Z')の求め方を示す図である。
【図4】直線l2、直線l'2の求め方を示す図である。
【図5】計測点Q(U、V)及び計測点Q'(U'、V')並びにエンジンロール中心点O(a、b)及びエンジンロール角θの求め方を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明に係る内燃機関の変位計測装置の全体構成を模式的に示した図である。
図示していないが、エンジン(内燃機関)10は車両のエンジンルームに配設されており、詳しくは、エンジン10は、車体を構成する車体部材(例えば、サイドメンバ或いはサイドフレーム)にエンジンマウントを介して接続されている。エンジンマウントには防振ゴムが介装されており、これによりエンジン10は車体部材に対して変位して振動するとともに、当該エンジン10の振動がエンジンマウントによって吸収され緩和される。
【0022】
同図において、座標軸(X軸、Y軸、Z軸)は、それぞれX軸が車両の前後方向、Y軸が車幅方向であってエンジン10のクランク軸に沿う方向、Z軸が車両の高さ方向を示している。つまり、ここでは、エンジン10はクランク軸が車幅方向に延びるような、所謂横置きの状態にしてエンジンルームに配設されている。
変位計測装置は、変位測定治具20と変位計(変位測定手段)30、32から構成されている。
【0023】
同図に示すように、変位測定治具20は、垂直部材(第1被測定体、第3被測定体)22と水平部材(第2被測定体、第4被測定体)24からなる断面矩形にして挟角90°(直角)をなすL字状の一対の部材が連結して一体に構成されており、水平部材24がエンジン10の上面に沿うようブラケット26を介して締結部材により固定される。詳しくは、変位測定治具20は、上記垂直部材22と水平部材24からなるL字状の一対の部材がそれぞれX−Z面に沿い平行となるようエンジン10の上面に固定される。
【0024】
変位計30、32は、レーザ変位計であり、図示していないが、車体を構成する車体部材に固定される。詳しくは、変位計30は、上記変位測定治具20の垂直部材22と水平部材24とにそれぞれ対向する辺を有し、これら各辺に垂直部材22、水平部材24に沿う方向で離間してそれぞれ一対のレーザ照射部33、33、一対のレーザ照射部35、35を有して構成されている。同様に、変位計32は、垂直部材22と水平部材24とにそれぞれ対向する辺を有し、これら各辺に垂直部材22、水平部材24に沿う方向で離間してそれぞれ一対のレーザ照射部34、34、一対のレーザ照射部36、36を有して構成されている。なお、これら一対のレーザ照射部34、34及び一対のレーザ照射部36、36からは、それぞれ平行なレーザが被測定体である垂直部材22及び水平部材24に対して垂直に照射されるように照射方向が調整されている。
【0025】
つまり、変位計30、32は、それぞれ上記変位測定治具20の垂直部材22と水平部材24とに向けてX−Z面に沿い平行に、車両の前後方向(X軸方向)にそれぞれ2本の平行なレーザを、車両の高さ方向(Z軸方向)にそれぞれ2本の平行なレーザを、照射するように構成されている。
ここで、本発明で用いる変位計30、32、即ちレーザ変位計について説明する。レーザ変位計は、被測定体までの距離を測定できるものではなく、レーザ照射方向における被測定体の変位量を測定するものである。また、レーザは一定方向にしか照射されないため、3次元的に変位する被測定体上の同一点を追って測定することは不可能である。しかし、上記構成のように被測定体を直線状とし、2本の平行なレーザをその直線部分に垂直に照射すれば、点ではなく線の変位として被測定体の変位を捉えることができる。さらに、2つの直線部分を有する被測定体に対し、レーザの照射方向が同一平面上になるように4つのレーザ変位計を各直線部分に対して2つずつ上記のように設置すれば、2つの直線の交点の変位を算出することができる。そのため、本来1次元的な変位量しか測定できないレーザ変位計でも、2次元的な変位量の算出を行うことができる。
【0026】
本発明では、上述したように被測定体は垂直部材22と水平部材24とから構成され、断面矩形であることから、それぞれの部材に照射される垂直なレーザの変位量は、詳しくは後述する図2に示すように、単純に1次元の変位量とみなすことができる。
また、ここでは、変位計30、32から照射されるレーザの垂直部材22上の2点の照射点(測定点)を結ぶ線(後述の直線l1、直線l'1)と水平部材24上の2点の照射点(測定点)を結ぶ線(後述の直線m1、直線m'1)から形成される仮想面を想定し、図1に示すように、これらを便宜上それぞれR面(基準平面)、L面(第2基準平面)としている。
【0027】
ここに、上述の如く、変位計30、32はX−Z面に沿い平行にレーザを照射するように構成されているので、R面及びL面は共にX−Z面に平行である。換言すれば、Y軸がエンジン10のクランク軸に沿う方向に延びているので、R面及びL面は共にクランク軸に対し垂直をなしている。
そして、R面上には、一対のレーザ照射部33、33、一対のレーザ照射部35、35も位置し、L面上には、一対のレーザ照射部34、34、一対のレーザ照射部36、36も位置している。つまり、変位計30、32は、R面内、L面内でレーザを照射するように配設されている。
【0028】
電子制御ユニット40は、CPU、メモリ等からなる電子制御装置であり、電子制御ユニット40の入力側には上記変位計30、32が電気的に接続され、変位計30、32の測定結果を演算処理してモニタ等(図示せず)に出力するよう構成されている(変位量算出手段)。
以下、このように構成された本発明に係る内燃機関の変位計測装置の作用、即ち電子制御ユニット40の演算処理内容について説明する。
【0029】
図2を参照すると、上記変位計測装置をY軸方向で視たときの変位計30によるR面におけるエンジン10の変位の計測の様子が模式的に示されている。同図において、左側がエンジン10の停止時の状態を示し、右側がエンジン10の作動時の状態を示す。なお、ここではR面について説明するが、L面についても全く同様であり説明を省略する。
同図に示すように、変位計30の一対のレーザ照射部33、33及び一対のレーザ照射部35、35からレーザが垂直部材22と水平部材24とに向けて照射され、垂直部材22のX軸方向の変位及び水平部材24のZ軸方向の変位がそれぞれ2箇所ずつ測定される。
【0030】
ここで、エンジン10の停止時に垂直部材22及び水平部材24のレーザが照射されている点の座標を、それぞれA点(x1、z1)、B点(x2、z2)及びC点(x3、z3)、D点(x4、z4)と規定している。
エンジン10の作動時には、時々刻々と変化する変位計30から垂直部材22、水平部材24までの変位量が測定され、エンジン10のX軸方向の変位及びZ軸方向の変位が計測される。この場合のX−Z面における垂直部材22上及び水平部材24上の各座標は、各変位量(矢印で示す)をd1、d2、d3、d4とすると、例えばA’点(x1+d1、z1)、B’点(x2+d2、z2)及びC’点(x3、z3+d3)、D’点(x4、z4+d4)となる。
【0031】
このように求めたA点、B点、C点、D点の座標とA’点、B’点、C’点、D’点の座標に基づき、図3に示すように、A点及びB点を通る直線l1(第1直線部分、第3直線部分)を求め、C点及びD点を通る直線m1(第2直線部分、第4直線部分)を求め、さらにA’点及びB’点を通る直線l'1(第1直線部分、第3直線部分)を求め、C’点及びD’点を通る直線m'1(第2直線部分、第4直線部分)を求める。そして、これら直線l1と直線m1とが交差する交点P(X、Z)(交点、第2交点)、直線l'1と直線m'1とが交差する交点P'(X'、Z')(交点、第2交点)を求める。
【0032】
ここに、垂直部材22と水平部材24とは直角をなしていることから、直線l1と直線m1、直線l'1と直線m'1も直角をなし、直線l1、直線m1、直線l'1、直線m'1、交点P(X、Z)、交点P'(X'、Z')は、それぞれ次式(1)〜(6)のように示される。
l1: z−z1=α(x−x1) …(1)
l'1: z−z1=α'{x−(x1+d1)} …(2)
m1: z−z3=β(x−x3) …(3)
m'1: z−(z3+d3)=β'(x−x3) …(4)
(X、Z)=((z3−z1+α・x1−β・x3/(α−β) 、
z1+α(X−x1)) …(5)
(X'、Z')=({z3−z1+α'(x1+d1)−β'(x3+d3)}/(α'−β') 、
z1+α'{X'−(x1+d1)})…(6)
ここに、
α=(z2−z1)/(x2−x1) 、α'=(z2−z1)/(x2+d2−(x1+d1) )
β=(z4−z3)/(x4−x3) 、β'=(z4+d4−(z3+d3) )/(x4−x3)
である。
【0033】
このように、本発明に係る内燃機関の変位計測装置では、変位計30により垂直部材22上にA点及びB点、A’点及びB’点の2個の座標点をそれぞれ求めて直線l1と直線l'1を設定し、水平部材24上にC点及びD点、C’点及びD’点の2個の座標点をそれぞれ求めて直線m1と直線m'1を設定し、直線l1と直線m1の交点P(X、Z)を求め、直線l'1 と直線m'1の交点P'(X'、Z')を求めるようにしている。このようにすれば、変位計30から照射されるレーザでは本来的に1点を1次元的に捉えてエンジン10の変位量を求めることは困難であるが、交点P(X、Z)に対する交点P'(X'、Z')の変位を検出するようにして、エンジン10の変位量を2次元的にして容易且つ正確に捉えることが可能である。
【0034】
交点P(X、Z)及び交点P'(X'、Z')が求められたら、次に、エンジン10がどのような振動、即ちどのようなロール運動をしているのかを知るべくエンジンロール中心点(ロール中心点、第2ロール中心点)さらにはエンジンロール軸(ロール軸)を求める。
エンジンロール中心点を求めるためには、交点P(X、Z)及び交点P'(X'、Z')の他に計測点が必要である。そこで、ここではエンジン10の停止時の計測点Q(U、V)及びエンジン10の作動時の計測点Q'(U'、V')を求める。
【0035】
計測点Q(U、V)及び計測点Q'(U'、V')を求めるために、図4に示すように、エンジン10の停止時、作動時のそれぞれについて上記図3の直線l1、直線l'1をX軸方向で値ε、値ε'だけ平行移動した直線l2、直線l'2(仮想直線、第2仮想直線)を設定する(一点鎖線)。つまり、直線l1、直線l'1に対し常に距離ε1をなすような直線l2、直線l'2を設定する。
【0036】
ここに、直線l2、直線l'2、値ε、値ε'は、それぞれ次式(7)〜(10)のように示される。
l2: z−z1=α'(x+ε−x1) …(7)
l'2: z−z1=α'{x+ε'−(x1+d1)} …(8)
ε=ε1/|sinτ|、ε'=ε1/|sinτ'| …(9)
なお、τ、τ'は、それぞれ直線l1、直線l'1とX軸とのなす角度であり、tanτ=α であることからτ=arctanαであり、tanτ'=α'であることからτ'=arctanα'である。
【0037】
これより式(9)は以下のように書き換えられる。
ε=ε1/|sin (arctanα)|、ε'=ε1/|sin(arctanα')| …(10)
そして、直線l2と直線m1、直線l'2と直線m'1との交点(仮想交点、第2仮想交点)としてそれぞれ計測点Q(U、V)、計測点Q'(U'、V')が次式(11)、(12)のように求められる。
(U、V)=({z3−z1+α(x1−ε)−β・x3}/(α−β) 、
β(U−x3)+z3) …(11)
(U'、V')=({z3+d3−z1+α'(x1+d1−ε)−β'・x3}/(α'−β') 、
β'(U'−x3)+z3+d3) …(12)
このように計測点Q(U、V)及び計測点Q'(U'、V')が求められたら、上記交点P(X、Z)及び交点P'(X'、Z')と計測点Q(U、V)及び計測点Q'(U'、V')とに基づき、エンジンロール中心点O(a、b)を求める。
【0038】
エンジンロール中心点O(a、b)は、図5に模式的に示すように、上記交点P(X、Z)と交点P'(X'、Z')を結ぶ線の垂直二等分線n1と計測点Q(U、V)と計測点Q'(U'、V')を結ぶ線の垂直二等分線n2の交点として次式(13)〜(15)のように求められる。なお、図5では理解し易いようにエンジン10の変位量を強調して示してある。
n1: z=s1・x+t1 …(13)
n2: z=s2・x+t2 …(14)
(a、b)=(−(t1−t2)/(s1−s2) 、s1・a+t1) …(15)
ここに、
s1=−(X'−X)/(Z'−Z) 、s2=−(U'−U)/(V'−V)
t1=(X'−X+Z'−Z)/2(Z'−Z)
t2=(U'−U+V'−V)/2(V'−V)
である。
【0039】
このようにして、R面におけるエンジンロール中心点O(a、b)が求められたら、同様にしてL面におけるエンジンロール中心点O'(a'、b')を求める。
そして、エンジンロール中心点O(a、b)とエンジンロール中心点O'(a'、b')とを直線で結ぶと、この直線がエンジンロール軸となる。
さらに、図5に示すように、R面についてのエンジンロール中心点O(a、b)と交点P(X、Z)を結ぶ直線(破線)及びエンジンロール中心点O(a、b)と交点P'(X'、Z')を結ぶ直線(破線)とのなす角度がエンジンロール角θであり、次式(16)のように示される。なお、同式から明らかなように、当該エンジンロール角θは、エンジン10の変位に応じて時々刻々と変化するものであり、P'(X'、Z')に応じて変化する。
【0040】
θ=arcsin({(X−a) (Z'−b)−(X'−a) (Z−b)}
/{(X−a)+(Z−b)})・180/π (deg) …(16)
この場合、上記R面におけるエンジンロール角をθRとし、L面についてもエンジンロール中心点O'(a'、b')に基づきエンジンロール角をθLとして求め、R面におけるエンジンロール角θRとL面におけるエンジンロール角θLとの平均値(θR+θL)/2をエンジンロール角θとするようにしてもよい。
【0041】
以上説明したように、本発明に係る内燃機関の変位計測装置によれば、変位計30、32により、垂直部材22のX軸方向の変位をそれぞれ2点ずつ(A点及びB点、A’点及びB’点)、水平部材24のZ軸方向の変位をそれぞれ2点ずつ(C点及びD点、C’点及びD’点)測定し、A点及びB点を通る直線l1を求め、C点及びD点を通る直線m1を求め、さらにA’点及びB’点を通る直線l'1を求め、C’点及びD’点を通る直線m'1を求め、これら直線l1と直線m1との交点P(X、Z)、直線l'1と直線m'1との交点P'(X'、Z')を求めるようにしているので、交点P(X、Z)に対する交点P'(X'、Z')の変位に基づいてエンジン10の変位量を2次元で容易にして正確に捉えることができる。
【0042】
この際、エンジン10が変位すると、変位計30、32による垂直部材22上及び水平部材24上のレーザの照射点(測定点)がずれることになるが、ここでは垂直部材22及び水平部材24のそれぞれレーザが照射される面23、25を平面とし、それぞれ平面上の2点を測定するようにしているので、直線l1、直線l'1及び直線m1、直線m'1を良好に形成して交点P(X、Z)及び交点P'(X'、Z')を求めることが可能である。
【0043】
また、変位計30、32は、R面内、L面内でレーザを照射するように配設されているので、照射するレーザがR面、L面に垂直な方向へずれることによる測定誤差を少なくすることができる。
そして、直線l1、直線l'1に平行な直線l2、直線l'2を設定し、交点P(X、Z)及び交点P'(X'、Z')以外の計測点Q(U、V)及び計測点Q'(U'、V')を求めることにより、これら交点P(X、Z)及び交点P'(X'、Z')、計測点Q(U、V)及び計測点Q'(U'、V')に基づいて、容易にR面におけるエンジンロール中心点O(a、b)及びL面におけるエンジンロール中心点O'(a'、b')を求め、これらエンジンロール中心点O(a、b)及びエンジンロール中心点O'(a'、b')から容易にエンジンロール軸を求めることができる。
【0044】
従って、このように求めたエンジンロール軸に基づいて、エンジン10の最大変位量を3次元で捉えることができる。
これにより、エンジンロール軸周りでのエンジン10の変位(振動)についてシミュレーションを行うことにより、エンジンルーム内におけるエンジン10の最大変位量を容易にして正確に把握することができ、例えばエンジンルーム内の部品レイアウトを、部品とエンジン10との干渉を避けながら効率よく設計することができる。
【0045】
ところで、垂直部材22と水平部材24とは挟角90°(直角)で構成されているので、直線l1と直線m1、直線l'1と直線m'1もそれぞれ直角をなし、直線l1と直線m1、直線l'1と直線m'1をR面上、L面上においてX−Z面上(座標)で容易に捉えることができ、交点P(X、Z)や交点P'(X'、Z')、エンジンロール中心点O(a、b)やエンジンロール中心点O'(a'、b')、さらにはエンジンロール軸の演算を容易なものとし、演算負荷を低減することができる。
【0046】
以上で本発明に係る内燃機関の変位計測装置の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限られるものではない。
例えば、上記実施形態では、垂直部材22と水平部材24とを挟角90°(直角)で構成し、これにより上述の如く演算負荷を低減可能であるが、垂直部材22と水平部材24との挟角は必ずしも90°でなくてもよく、この場合であっても本発明を良好に実施可能である。
【0047】
また、上記実施形態では、変位測定治具20をエンジン10に固定するようにしているが、エンジン10と連動する部位に変位測定治具20を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10 エンジン(内燃機関)
20 変位測定治具
22 垂直部材(第1被測定体、第3被測定体)
24 水平部材(第2被測定体、第4被測定体)
30、32 変位計(変位測定手段)
33、34、35、36 レーザ照射部
40 電子制御ユニット(変位量算出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に対する内燃機関の変位を計測する内燃機関の変位計測装置において、
前記車体側に設けられ、被測定体の変位を測定する変位測定手段と、
前記内燃機関または前記内燃機関と連動する部位に設けられ、第1測定面を有する第1被測定体と、
第2測定面を有し、前記第1測定面と該第2測定面とが交差するように前記内燃機関または前記内燃機関と連動する部位に設けられる第2被測定体と、
前記変位測定手段による前記第1被測定体と前記第2被測定体の測定結果に基づいて前記内燃機関の変位量を算出する変位量算出手段とを備え、
前記変位量算出手段は、前記第1被測定体の前記第1測定面上に前記変位測定手段による測定点を含んで形成される第1直線部分の延長線と前記第2被測定体の前記第2測定面上に前記変位測定手段による測定点を含んで形成される第2直線部分の延長線との交点を求め、該交点の前記第1直線部分と前記第2直線部分とにより形成される基準平面上での変位を演算することで前記内燃機関の変位量を算出することを特徴とする内燃機関の変位計測装置。
【請求項2】
前記第1測定面と前記第2測定面とはそれぞれ平面をなし、
前記変位量算出手段は、前記変位測定手段により前記第1測定面の平面上の2点を測定して前記第1直線部分を形成し、前記変位測定手段により前記第2測定面の平面上の2点を測定して前記第2直線部分を形成し、前記交点を求めることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関の変位計測装置。
【請求項3】
前記変位測定手段は、前記被測定体にレーザを照射して変位を測定するレーザ変位計であって、該レーザ変位計のレーザ照射部が前記基準平面上に位置することを特徴とする、請求項1または2に記載の内燃機関の変位計測装置。
【請求項4】
前記基準平面は、前記内燃機関のクランク軸に対して垂直をなすことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の内燃機関の変位計測装置。
【請求項5】
前記変位量算出手段は、前記第1直線部分を前記基準平面内で平行移動させた仮想直線を形成するとともに、該仮想直線と前記第2直線部分とが交差する仮想交点を求め、前記交点と該仮想交点の各変位から前記基準平面上における前記内燃機関のロール中心点を演算することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の内燃機関の変位計測装置。
【請求項6】
前記内燃機関または前記内燃機関と連動する部位に設けられ、第3測定面を有する第3被測定体と、
第4測定面を有し、前記第3測定面と該第4測定面とが交差するように前記内燃機関または前記内燃機関と連動する部位に設けられる第4被測定体とを備え、
前記変位量算出手段は、
前記第3被測定体の前記第3測定面上に前記変位測定手段による測定点を含んで形成される第3直線部分の延長線と前記第4被測定体の前記第4測定面上に前記変位測定手段による測定点を含んで形成される第4直線部分の延長線との第2交点を求め、該第2交点の前記第3直線部分と前記第4直線部分とにより形成される前記基準平面に対し平行な第2基準平面上での変位を演算することで前記内燃機関の変位量を算出し、
前記第3直線部分を前記基準平面内で平行移動させた第2仮想直線を形成するとともに、該第2仮想直線と前記第4直線部分とが交差する第2仮想交点を求め、前記第2交点と該第2仮想交点の各変位から前記第2基準平面上における前記内燃機関の第2ロール中心点を演算し、
前記基準平面におけるロール中心点と前記第2基準平面における第2ロール中心点に基づいて前記内燃機関のロール軸を演算することを特徴とする、請求項5に記載の内燃機関の変位計測装置。
【請求項7】
前記第1直線部分の延長線と前記第2直線部分の延長線とが直角に交差するように前記第1被測定体と前記第2被測定体を配置したことを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の内燃機関の変位計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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