説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】触媒昇温処理、パティキュレートフィルタの再生処理、NOx触媒の硫黄被毒回復処理の実行中に、触媒が失活することを抑制する技術を提供する。
【解決手段】酸化能を有する触媒と、触媒にHCを供給する手段と、触媒にCOを供給する手段と、触媒温度を取得する手段と、触媒にHC及び/又はCOを供給することによって触媒を目標温度に制御する触媒温度制御手段と、を備え、触媒温度制御手段は、取得された触媒温度と目標温度との温度差に基づいて、HCの供給量及びCOの供給量を制御する。触媒温度を目標温度に維持する場合、温度差の大きさが基準値を越えた場合にCOを供給する。触媒温度を目標温度に向かって昇温する場合、温度差の変化速度に基づいてHCの供給量及びCOの供給量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気系に設けられた触媒を昇温する技術として、排気系への燃料添加又は副噴射の実施によって未燃燃料(炭化水素、以下HC)を触媒に供給し、HCが触媒において酸化反応する際の反応熱を利用する技術がある。ここで、HCが酸化反応することが困難なほどに触媒温度が低い場合には、触媒にHCを供給してもHCの酸化反応熱による触媒の昇温効果が得られないばかりか、未反応のHCが触媒をすり抜けて白煙などの形で大気に排出されてしまうという問題がある。これに対し、HCが酸化困難なほど触媒温度が低い場合には、触媒へのHCの供給を行わないようにする技術が提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−274907号公報
【特許文献2】特開2001−164928号公報
【特許文献3】特開2004−346877号公報
【特許文献4】特開2003−172185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この従来技術では、HCが酸化困難なほど触媒温度が低い場合には、触媒の昇温処理を行うことができない。そのため、PMを捕集するフィルタの再生処理や吸蔵還元型NOx触媒の硫黄被毒回復処理などの、事前の触媒昇温処理を必要とする制御を開始できないという問題があった。
【0004】
また、フィルタの再生処理やNOx触媒の硫黄被毒回復処理の実行中には、大量のHCを触媒に供給する必要がある。ここで、触媒に供給されたHCが反応するためには、HCが触媒の活性点に吸着し、気化する必要がある。しかしながら、触媒に大量のHCが供給されると、HCの吸着及び気化のプロセスの進行速度より新たなHCが供給される速度が上回り、触媒の活性点が未反応のHCによって被覆されてしまう場合がある。そうすると、HCが酸化可能なほど触媒温度が高い場合であっても、触媒の活性が失われ、HCの酸化反応が進まなくなり、フィルタ再生処理や硫黄被毒回復処理を適切に実行できなくなる虞があった。
【0005】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、HCが酸化困難なほど触媒温度が低い状態においても触媒の昇温を可能とする技術を提供することを目的とする。また、フィルタ再生処理や硫黄被毒回復処理の実行中に触媒の活性が失われることを抑制可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の内燃機関の排気浄化装置は、
内燃機関の排気通路に配置された酸化能を有する触媒と、
前記触媒に流入する排気中にHCを供給するHC供給手段と、
前記触媒に流入する排気中にCOを供給するCO供給手段と、
前記触媒の温度を取得する温度取得手段と、
前記HC供給手段によってHCを供給及び/又は前記CO供給手段によってCOを供給することにより前記触媒の温度を上昇させる触媒昇温制御を行う触媒昇温制御手段と、
を備え、
前記触媒昇温制御手段は、前記触媒昇温制御の実行条件が成立した場合に、
前記触媒の温度が所定の第1基準温度より低いときは、前記触媒昇温制御を実行せず、
前記触媒の温度が前記第1基準温度以上で且つ所定の第2基準温度より低いときは、前記CO供給手段によってCOを供給することにより前記触媒昇温制御を実行し、
前記触媒の温度が前記第2基準温度以上で且つ所定の第3基準温度より低いときは、前記CO供給手段によってCOを供給及び前記HC供給手段によってHCを供給することにより前記触媒昇温制御を実行し、
前記触媒の温度が前記第3基準温度以上のときは、前記HC供給手段によってHCを供給することにより前記触媒昇温制御を実行する
ことを特徴とする。
【0007】
本発明は、触媒においてCOが酸化反応可能な温度は、触媒においてHCが酸化反応可能な温度より低いことに着目して成された。COが酸化反応可能な温度及びHCが酸化反応可能な温度は、排気の空燃比や排気の流量、内燃機関の運転状態等によって変化するが、概ね、COが酸化反応可能な温度はHCが酸化反応可能な温度より50℃程低い。従って、HCが酸化反応することが困難なほど触媒温度が低い場合であっても、COの酸化反応は可能である場合がある。そのような場合には、触媒にCOを供給することによって、当該COを触媒において酸化反応させ、その反応熱によって触媒を昇温することができる。
【0008】
本発明において、第1基準温度とは、触媒におけるCOの酸化反応熱によって触媒を昇温することが可能な温度の下限値に基づいて定められる温度である。第1基準温度は、触媒におけるCOの酸化反応可能性、触媒を通過する排気による熱の持ち去り、触媒に流入する排気の空燃比、排気の流量、内燃機関の運転条件等の種々の条件に基づいて定めることができる。第1基準温度はこのような種々の条件によって異なり得るが、概ね150℃前後の温度である。
【0009】
触媒の温度がこの第1基準温度より低い場合には、COの酸化反応熱によっても、HCの酸化反応熱によっても、触媒を昇温することは困難であるので、触媒昇温制御手段による触媒昇温制御は実行しない。他の手段による触媒昇温が可能な構成を有する場合にそれを用いて触媒を昇温することは妨げないが、少なくともCO供給手段によるCOの供給又はHC供給手段によるHCの供給を行っての触媒の昇温は実施しない。
【0010】
COが反応困難なほど触媒温度が低い場合に触媒にCOが供給されると、COは気体として触媒に供給されるので、供給されたCOは触媒をすり抜けてそのまま大気に排出されてしまう。COは毒性を有するので、大気への排出はできるだけ抑制することが好ましい。本発明によれば、COの酸化反応も困難なほど触媒温度が低い場合には、COの供給もHCの供給も行われないので、有毒のCOや未燃HCの白煙が大気に排出されるのを抑制することができる。
【0011】
本発明において、第2基準温度とは、触媒においてHCが酸化反応可能な温度の下限値に基づいて定められる触媒の温度である。第2基準温度は、排気の空燃比、排気の流量、内燃機関の運転条件等の種々の条件に基づいて定められる。第2基準温度はこのような種々の条件によって異なり得るが、触媒においてCOが酸化可能な温度より50℃程度高い温度であり、概ね200℃前後の温度である。
【0012】
触媒の温度が第1基準温度以上第2基準温度未満の場合には、COの酸化反応熱によって触媒を昇温することは可能だが、触媒におけるHCの酸化反応は困難であるので、CO供給手段によって触媒にCOを供給することによって触媒昇温制御を実施する。これによ
り、HCの酸化反応が困難なほど触媒が低温の状態においても、COの供給によって触媒を昇温することができる。従って、フィルタの再生処理やNOx触媒の硫黄被毒回復処理などの、事前の触媒昇温が要求される処理をより広範な運転条件下で実行することが可能となる。
【0013】
本発明において、第3基準温度とは、触媒におけるHCの酸化反応熱によって触媒を昇温することが可能な温度の下限値に基づいて定められる触媒の温度である。第3基準温度は、触媒へのHCの供給量、供給速度、触媒に吸着したHCの気化速度、それらに影響を与える種々の因子、例えば排気の空燃比、排気の流量、内燃機関の運転条件等の種々の条件に基づいて定めることができる。第3基準温度はこのような種々の条件によって異なり得るが、概ね300℃〜330℃の温度である。
【0014】
触媒の温度が第2基準温度以上第3基準温度未満の場合には、触媒においてCO及びHCがともに酸化反応可能であるが、HCの供給のみによって触媒を昇温しようとすると、上述したように、HCの気化速度やHCの供給速度、HCの供給量、排気流量、排気空燃比、内燃機関の運転条件等の条件によっては、未反応HCによる触媒の被毒及び失活の可能性がある。そこで、このような温度条件の場合には、COの酸化反応熱及びHCの酸化反応熱の両方を利用して触媒を昇温する。これにより、未反応HCの大量吸着によって触媒が失活することを抑制しつつ、好適に触媒を昇温することが可能となる。
【0015】
この温度条件では、触媒に供給されるCOの量とHCの量とを一定値に固定しても良いし、触媒の温度に応じて変化させてもよい。例えば、触媒の温度が高くなるほど、HCの気化速度が速くなるので、触媒の温度が高くなるほど、HCの供給量を増加させるようにしても良い。その際、HCの供給量の増加とともにCOの供給量を減少させても良いし、第3基準温度に達するまで所定量のCOの供給を継続するようにしても良い。HCの供給量やCOの供給量の変化のさせ方は、連続的であっても良いし、段階的であっても良い。HCの気化速度には排気の流量も関係しているので、吸入空気量やエンジン回転数を考慮してCOの供給量及びHCの供給量を変化させても良い。
【0016】
触媒の温度が第3基準温度以上の場合には、HCの供給及びCOの供給のいずれによっても触媒を昇温することが可能だが、大量のCOを触媒に供給することは困難な場合がある。触媒により多くのCOを供給するためには、上述したように、吸気絞りやEGRガス導入によって不完全燃焼の割合を増加させたり、燃料噴射量を多くして空燃比を低下させたりする必要があり、要求CO供給量が増大すると、PMの発生量の増加、オイル希釈、燃費悪化などの問題が起こる可能性がある。COの供給によって触媒を昇温する場合には、触媒を昇温可能な触媒温度の下限値が、HCの供給によって触媒を昇温する場合と比較して低い、というメリットがあると同時に、大量のCOの供給にはこのような背反があるため、本発明では、触媒の温度が第3基準温度以上の場合には、HCの供給によって触媒昇温を行うようにした。これにより、PM発生量の増加、オイル希釈、燃費の悪化などの問題の発生を抑制しつつ、触媒を昇温することが可能になる。
【0017】
本発明によれば、HCの酸化反応が困難なほど触媒温度が低い時には主にCOを供給することによって触媒を昇温し、HCの酸化反応が可能なほど触媒温度が高い時にHCを供給することによって触媒を昇温するようにした触媒昇温制御によって、より広範な運転条件下において好適に触媒を昇温することが可能となる。従って、フィルタの再生処理や吸蔵還元型のNOx触媒の硫黄被毒回復処理など、フィルタやNOx触媒を高温の目標温度まで事前に昇温することが要求される処理を、より広範な運転条件下において実施することが可能となる。
【0018】
ところで、HCが触媒において酸化反応する際には、供給されたHCが触媒の活性点に
吸着した後、気化するプロセスを経るため、触媒におけるHCの反応速度はCOの反応速度と比較すると遅い。そのため、HCの酸化反応が可能なほど触媒温度が高い場合であっても、触媒に供給されるHCの酸化反応の速度を超えて大量のHCが短時間に触媒に供給されると、未反応のHCが触媒の活性点に大量に吸着し、触媒がHCによって被毒された状態となり、触媒の活性が失われる可能性がある。その場合、触媒におけるHCの酸化反応が好適に進行しなくなるため、触媒温度が低下する虞もある。
【0019】
このように、大量のHCを供給することが要求される触媒温度制御を行う場合には、HC又はCOのいずれを触媒に供給するかの選択を、触媒温度のみに応じて行うことは、触媒を目標温度まで効率的に昇温したり、昇温した触媒の温度を目標温度に好適に維持したりするうえで、十分ではない。
【0020】
そこで、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置は、
内燃機関の排気通路に配置された酸化能を有する触媒と、
前記触媒に流入する排気中にHCを供給するHC供給手段と、
前記触媒に流入する排気中にCOを供給するCO供給手段と、
前記触媒の温度を取得する温度取得手段と、
前記HC供給手段によるHCの供給及び/又は前記CO供給手段によるCOの供給により前記触媒の温度を所定の目標温度に制御する触媒温度制御を行う触媒温度制御手段と、を備え、
前記触媒温度制御手段は、前記温度取得手段により取得される前記触媒の温度と前記目標温度との差に応じて、前記HC供給手段によるHCの供給量及び前記CO供給手段によるCOの供給量を制御することを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、触媒温度制御における触媒へのHCの供給量及びCOの供給量が、実際の触媒温度と目標温度との差に応じて制御される。例えば、触媒温度をある目標温度に維持する触媒温度制御を行う場合、目標温度と触媒温度との温度差の大きさに応じてCOの供給量及びHCの供給量を制御することができる。これにより、触媒温度の目標温度からの乖離を検知し、それに基づいて触媒の活性状態を判断し、必要に応じてCOの供給による触媒の昇温や失活状態の解消を行うことができる。
【0022】
また、触媒温度をある目標温度に向けて昇温する触媒温度制御を行う場合、目標温度と触媒温度との温度差の変化傾向に応じてCOの供給量及びHCの供給量を制御することができる。触媒温度を目標温度に向けて昇温する場合、触媒が活性化していれば温度差は縮まっていくが、触媒が失活している場合、温度差の変化速度(減少速度)の大きさが小さくなったり、温度差の変化速度が正(温度差が広がる方向に変化する)になったりするので、これを検知し、必要に応じてCOの供給による触媒の昇温や失活状態の解消を行うことができる。
【0023】
上述のように、COは気体分子の状態で触媒に流入するので、HCのように触媒への吸着及び気化というプロセスを経る必要が無く、触媒の活性点に到着した時点ですぐに酸化反応する。そのため、応答性良く触媒の温度を上げることができる。これにより、触媒温度が目標温度から大きく乖離することを抑制することができるとともに、触媒温度が目標温度から乖離した場合でも、素早く触媒温度を目標温度に戻すことができる。また、触媒を昇温する場合に、触媒温度が好適に上昇しなくなったり触媒温度が低下し始めたりした場合でも、素早く好適に触媒温度が上昇する状態に戻すことができる。
【0024】
ここで、CO供給手段によるCOの供給量は、触媒温度と目標温度との温度差が大きいほど増大させても良い。こうすることで、触媒温度と目標温度との乖離が大きい場合でも、触媒温度を早期に目標温度に一致させることができる。この場合、COの供給量を、触
媒温度及び目標温度の温度差に対して、連続的に変化させても良いし、段階的に変化させても良い。
【0025】
また、触媒温度と目標温度との温度差が所定の第1の基準値より大きくなったことを条件に、CO供給手段によるCOの供給を開始するようにしても良い。この場合、COの供給開始とともに触媒温度と目標温度との温度差が縮まり、温度差が所定の第2の基準値より小さくなったことを条件に、CO供給手段によるCOの供給を停止するようにしても良い。例えば、CO供給手段によるCOの供給を開始してから、触媒温度が目標温度にほぼ一致したと判断可能な程度まで温度差が小さくなるまで、COの供給を継続するようにしても良い。この時、CO供給手段によるCOの供給量は、一定量としても良いし、温度差の縮小に応じてCOの供給量を減らすようにしても良い。
【0026】
また、CO供給手段によるCOの供給が開始された場合に、HC供給手段によるHCの供給量をCOの供給量に応じて調節するようにしても良い。例えば、COの供給前後でHCの供給量を同一量にしても良いし、COの供給量が多くなるほどHCの供給量を減らすようにしても良い。或いは、CO供給手段によるCOの供給を行っている時には、HC供給手段によるHCの供給を停止するようにしても良い。
【0027】
本発明によれば、HCが酸化可能なほど触媒温度が高い(例えば上述した第3基準温度よりも高い)場合であっても、触媒温度と目標温度との間に差が生じた場合にはCO供給手段によってCOが供給される。従って、大量の還元剤を供給することが要求される触媒温度制御において、大量のHCの供給によって触媒が失活した場合においても、素早く触媒の活性状態を回復させすることを抑制できる。また、触媒が失活した場合であっても、早期に活性状態を回復させ、触媒温度を目標温度に一致させることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、HCが酸化困難なほど触媒温度が低い状態においても触媒を昇温することが可能になる。また、触媒を昇温する制御や、触媒温度を目標温度に維持する制御や、フィルタ再生処理や硫黄被毒回復処理等の大量の還元剤の供給が要求される制御の実施中に、触媒が失活することを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を例示的に詳しく説明する。本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは、発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0030】
図1は、本実施例に係る内燃機関の排気浄化装置を適用する内燃機関とその吸気系及び排気系の概略構成を模式的に示す概念図である。内燃機関1は4つの気筒49を備えたディーゼルエンジンである。各気筒49には筒内に燃料を噴射供給するインジェクタ29が備えられている。各気筒49は不図示の吸気ポートを介して吸気マニホールド17に連通している。吸気マニホールド17には吸気通路42が接続されている。また、各気筒49は不図示の排気ポートを介して排気マニホールド18に連通している。排気マニホールド18には排気通路43が接続されている。排気マニホールド18には、排気中に燃料を添加する燃料添加弁19が設けられている。
【0031】
排気通路43と吸気通路42とはEGR通路15によって連通している。EGR通路15を介して内燃機関1からの排気の一部がEGRガスとして吸気通路42に流入する。EGR通路15にはEGRガス量を調節するEGR弁14が配置されている。吸気通路42には吸入空気量を調節する吸気絞り弁22及び吸入空気量を測定するエアフローメータ7
が設けられている。また、排気通路43には吸蔵還元型のNOx触媒41が設けられている。NOx触媒41は、流入する排気の空燃比がリーンの時に排気中のNOxを吸蔵し、流入する排気の空燃比がストイキ又はリッチの時にNOxを放出する。その時、NOx触媒周囲に還元剤が存在すれば、放出したNOxをNに還元浄化する。本実施例のNOx触媒41が、本発明における触媒に相当する。NOx触媒41の下流側の排気通路43には、NOx触媒41から流出する排気の温度を測定する排気温度センサ50が設けられている。
【0032】
内燃機関1には内燃機関1の動作を制御するコンピュータであるECU26が併設されている。ECU26にはエアフローメータ7、排気温度センサ50の他、クランク角度センサやアクセル開度センサ等のセンサ類が接続され、それら各センサの測定データが入力される。また、ECU26にはインジェクタ29、燃料添加弁19、吸気絞り弁22、EGR弁14その他の機器類が接続され、それら各機器の動作を制御する制御信号がECU26から出力される。
【0033】
NOx触媒41は排気中のSOxも吸蔵し、SOxの吸蔵量の増大とともにそのNOx浄化能力が低下する。そのため、NOx触媒41に吸蔵されたSOxをNOx触媒41から脱離させる硫黄被毒回復処理を定期的に実施することによって、NOx触媒41のNOx浄化能力を回復させる必要がある。
【0034】
硫黄被毒回復処理では、まずNOx触媒41の温度を所定の目標温度以上の温度まで上昇させ、その後NOx触媒41の温度を当該目標温度に維持しつつNOx触媒41に流入する排気の空燃比をリッチ化することによって、NOx触媒41に吸蔵されたSOxをNOx触媒41から脱離させる。ここで、目標温度は、NOx触媒41からSOxを脱離させることが可能な触媒温度の下限値に基づいて定められる温度(700℃前後)であり、排気温度より大幅に高い温度までNOx触媒41を昇温する必要がある。
【0035】
NOx触媒41の昇温は、NOx触媒41の上流側から還元剤としてHCを供給することによって行うことができる。NOx触媒41にHCを供給する手段として、本実施例では、燃料添加弁19による排気中への燃料添加、又は、インジェクタ29により圧縮上死点後の比較的遅い時期(例えば100°ATDC)に微少量の燃料を副噴射するポスト噴射を行う。このようにしてNOx触媒41に供給されたHCは、NOx触媒41において酸化反応し、その際に発生する反応熱によってNOx触媒41の温度が上昇する。本実施例において燃料添加弁19又はポスト噴射を行うインジェクタ29が、本発明におけるHC供給手段に相当する。
【0036】
また、NOx触媒41の昇温は、NOx触媒41の上流側から還元剤としてCOを供給することによっても行うことができる。NOx触媒41にCOを供給する手段として、本実施例では、インジェクタ29により圧縮上死点後の比較的早い時期(例えば40°ATDC)に微少量の燃料を副噴射するアフター噴射、排気上死点近傍に微少量の燃料を副噴射するビゴム噴射、EGR弁14を開弁してEGRガスを大量に導入することによって実現される低温燃焼、吸気絞り弁22を絞ることによる吸入空気量の低減、燃料噴射量を増量することによる空燃比のリッチ化を行う。このようにしてNOx触媒41に供給されたCOは、NOx触媒41において酸化反応し、その際に発生する反応熱によってNOx触媒41の温度が上昇する。本実施例において、アフター噴射を行うインジェクタ29、ビゴム噴射を行うインジェクタ29、EGR弁14を開弁して低温燃焼制御を行うECU26、吸気絞り弁22を絞って吸入空気量低減制御を行うECU26、空燃比のリッチ化制御を行うECU26が、本発明におけるCO供給手段に相当する。
【0037】
そして、NOx触媒41の触媒温度が目標温度以上まで昇温されたら、NOx触媒41
の触媒温度を当該目標温度に維持しつつ、NOx触媒41に流入する排気の空燃比をリッチ化する。これにより、NOx触媒41に吸蔵されたSOxがNOx触媒41から脱離する。本実施例では、NOx触媒41の上流側から還元剤としてHC及び/又はCOを供給することによって、NOx触媒41の温度を維持するとともに、NOx触媒41に流入する排気の空燃比をリッチ化することにより、SOx脱離処理を行う。
【0038】
ここで、HCがNOx触媒41において酸化反応する場合には、まずNOx触媒41の酸化反応の活性点にHCが吸着し、吸着したHCが気化し、気化したHCが酸化反応する、というプロセスを経る。そのため、NOx触媒41におけるHCの酸化反応の速度は比較的遅く、特にHCが気化しにくい低温状態ではその傾向が顕著である。また、HCが活性点に吸着してから酸化反応してその活性点が開放されるまでに遅れがあるため、NOx触媒41へのHCの供給速度が速かったり、大量のHCが供給されたりすると、NOx触媒41の酸化反応の活性点が未反応のHCの吸着によって被覆されてしまい、NOx触媒41が失活してしまう場合がある。HCが酸化反応可能なほどNOx触媒41の温度が十分高い場合においても、HCの供給速度や供給量によっては、このようにしてNOx触媒41が失活する可能性がある。逆に、NOx触媒41の温度がHCが酸化反応可能なほど十分に高くない場合には、NOx触媒41に供給されたHCはNOx触媒41に吸着するので、未反応のHCが大量に大気に排出される虞は少ない。
【0039】
一方、COがNOx触媒41において酸化反応する場合には、COは気体の状態でNOx触媒41に供給されるので、NOx触媒41の酸化反応の活性点にCOが到着した時点ですぐに酸化反応する。そのため、NOx触媒41におけるCOの酸化反応の速度は比較的速く、HCが酸化反応困難なほどNOx触媒41が低温の状態であっても、COは酸化反応可能な場合もある。NOx触媒41においてCOが酸化反応可能な温度は、NOx触媒41においてHCが酸化反応可能な温度と比較して、概ね50℃程低い。また、HCの場合のようにNOx触媒41の酸化反応の活性点が被覆されることが無いため、大量のCOを供給してもそれによってNOx触媒41が失活してしまう可能性は少ない。逆に、NOx触媒41の温度がCOが酸化反応可能なほど十分に高くない場合には、NOx触媒41に供給されたCOはNOx触媒41で反応することなくそのままNOx触媒41をすり抜けて大気に排出される。この場合、有毒のCOのエミッションが増加することになり、好ましくない。
【0040】
本実施例の硫黄被毒回復処理では、NOx触媒41においてHC又はCOが酸化反応する際の上記のような性質の相違に着目して、NOx触媒41の昇温制御及び昇温後のNOx触媒41に流入する排気のリッチ化制御を行うようにした。以下、本実施例の硫黄被毒回復処理について説明する。図2は、本実施例の硫黄被毒回復処理におけるNOx触媒41の昇温制御ルーチンを表すフローチャートである。このルーチンは内燃機関1の運転中、ECU26によって定期的に実行される。
【0041】
ステップS101において、ECU26は、硫黄被毒回復処理の実行条件の成立の有無を判定する。本実施例では、前回の硫黄被毒回復処理の実行からの燃料噴射量の積算値が所定の基準値を超えている場合に、硫黄被毒回復処理の実行条件が成立したと判定する。ステップS101において硫黄被毒回復処理の実行条件が成立したと判定した場合(Yes)、ECU26はステップS102に進む。ステップS101において硫黄被毒回復処理の実行条件が成立していないと判定した場合(No)、ECU26は本ルーチンを一旦抜ける。
【0042】
ステップS102において、ECU26は、NOx触媒41の触媒温度Tcatを取得する。本実施例では、排気温度センサ50によって測定したNOx触媒41の出ガス温度に基づいてNOx触媒41の触媒温度を推定する。本実施例においてステップS102を
実行して触媒温度Tcatを取得するECU26が、本発明における温度取得手段に相当する。
【0043】
ステップS103〜ステップS106において、ECU26は、ステップS102で取得した触媒温度Tcatと予め定められた基準温度との比較を行い、その比較結果に基づいて、NOx触媒41の昇温制御を行う。基準温度としては、本実施例では、第1基準温度T1、第2基準温度T2及び第3基準温度T3の3つの基準温度を定めた。
【0044】
第1基準温度T1は、NOx触媒41にCOを供給することによってNOx触媒41を昇温することが可能な触媒温度の下限値に基づいて定める。第1基準温度として、単にNOx触媒41においてCOが酸化反応可能な温度を用いることもできるが、NOx触媒41においてCOの酸化反応自体は可能であっても、その反応熱によってNOx触媒41を昇温することができるか否かは、NOx触媒41を通過する排気による熱の持ち去り等も影響すると考えられる。従って、本実施例では、排気の流量、排気の空燃比、内燃機関1の運転状態に応じた可変値として第1基準温度を定めることとした。第1基準温度T1は概ね150℃前後の温度である。
【0045】
第2基準温度T2は、NOx触媒41においてHCが酸化反応可能な触媒温度の下限値に基づいて定める。NOx触媒41におけるHCの酸化反応には、上記のようにHCの吸着及び気化のプロセスが含まれるので、例えば排気の流量が多ければよりHCが気化し易くなる等、第2基準温度も第1基準温度と同様に種々の条件に応じた可変値として定めることとした。第2基準温度T2は第1基準温度T1より概ね50℃程高く、200℃前後の温度である。
【0046】
第3基準温度T3は、NOx触媒41にHCを供給することによってNOx触媒41を昇温することが可能な触媒温度の下限値に基づいて定める。上述のように、HCが酸化反応可能なほどNOx触媒41の温度が高くても、大量のHCが供給されたり、HCの供給速度に対してHCの吸着・気化・酸化のプロセスの速度が追いつかなかったりした場合には、NOx触媒41の活性点が未反応のHCによって被毒された状態となり、NOx触媒41が失活する可能性がある。そのような場合には、HCのみの供給によってNOx触媒41を好適に昇温することは難しい。このような事情を考慮して、本実施例では、第3基準温度を第2基準温度より高い温度に設定した。第3基準温度T3は概ね300〜330℃前後の温度である。
【0047】
ステップS103において、触媒温度Tcatが第1基準温度T1より低い場合(Tcat<T1)、ECU26は本ルーチンの実行を一旦抜ける。すなわち、この場合NOx触媒41の昇温制御は行わず、従って硫黄被毒回復処理もこの時点で一旦中止する。触媒温度が第1基準温度より低い場合には、NOx触媒41においてCOの酸化反応は好適に進行しない。上記のように、このような温度条件下でNOx触媒41にCOを供給すると、未反応のCOがNOx触媒41をすり抜けてそのまま大気に放出される可能性があり、好ましくない。従って、少なくともCOの供給又はHCの供給による触媒昇温は行わないこととした。これにより、COによる昇温もHCによる昇温も見込めない低温状態においてCOの供給が行われてエミッションが悪化する事態を回避できる。なお、本実施例では、この場合触媒昇温も硫黄被毒回復処理も行わないこととしたが、これはあくまでCOの供給又はHCの供給による触媒昇温を行わないということであり、何らかのNOx触媒41を昇温する手段を有するなら、その手段によって触媒昇温を行うことを何ら妨げない。その場合、当該昇温手段によってNOx触媒41を目標温度まで昇温し、硫黄被毒回復処理を継続しても良い。また、本ステップにおいて本ルーチンから一旦抜けた場合であっても、本ルーチンは定期的に繰り返し実行される。そして、例えば内燃機関1が高負荷運転をするなどにより触媒温度Tcatが第1基準温度以上となれば、ステップS104〜ス
テップS106の昇温制御が実行されることになる。
【0048】
ステップS103において、触媒温度Tcatが第1基準温度T1以上で且つ第2基準温度T2より低い場合(T1≦Tcat<T2)、ECU26はステップS104に進み、NOx触媒41にCOを供給することによってNOx触媒41の昇温を行う。この温度領域では、COの酸化反応熱によってNOx触媒41を昇温することは可能だが、HCの酸化反応は困難なため、COのみを供給して触媒昇温を行う。これにより、HCの酸化反応が困難なほどNOx触媒41が低温の状態においても、COの供給によって触媒を昇温することができる。ステップS104を実行後、ECU26はステップS102に戻る。
【0049】
ステップS102において、触媒温度Tcatが第2基準温度T2以上で且つ第3基準温度T3より低い場合(T2≦Tcat<T3)、ECU26はステップS105に進み、NOx触媒41にCO及びHCを供給することによってNOx触媒41の昇温を行う。この温度領域では、NOx触媒41においてCOもHCも両方とも酸化反応可能だが、HCの供給のみによって触媒を昇温しようとすると、上述したように、HCの気化速度やHCの供給速度、HCの供給量、排気流量、排気空燃比、内燃機関1の運転条件等によっては、未反応のHCによるNOx触媒41の被毒及び失活の可能性がある。HCの供給速度を遅くすれば、HCのみを供給し且つNOx触媒41が失活しないようにしてNOx触媒41を昇温することも不可能ではないが、そうすると昇温速度が遅くなる。硫黄被毒回復処理におけるNOx触媒41の昇温はできるだけ早期に完了することが好ましいので、本実施例では、この温度領域においてCOとHCとを併用してNOx触媒41を昇温するようにした。これにより、NOx触媒41の失活を抑制しつつ、急速にNOx触媒41を昇温することができる。なお、ステップS105において、NOx触媒41に供給するCOの量及びHCの量は、又は、NOx触媒41に供給すべき全還元成分量のうちのCOとHCとの比率は、ある一定値としても良いし、NOx触媒41の温度に応じた可変値としても良い。例えば、NOx触媒41の温度が高くなるほど、COの供給量を減らすとともにHCの供給量を増やしても良い。この場合のCOやHCの供給量の変化のさせ方は、NOx触媒41の温度に関して連続的なものとしても良いし、段階的なものとしても良い。また、NOx触媒41の温度上昇とともにHCの供給量を増加させつつ、COの供給量は維持するようにしても良い。ステップS105を実行後、ECU26はステップS102に戻る。
【0050】
ステップS103において、触媒温度Tcatが第3基準温度T3以上で且つ目標温度Ttrgより低い場合(T3≦Tcat<Ttrg)、ECU26はステップS106に進み、NOx触媒41にHCを供給することによってNOx触媒41の昇温を行う。この温度領域では、COの酸化反応及びHCの酸化反応のいずれによってもNOx触媒41を昇温させることが可能である。しかしながら、ディーゼルエンジンの場合、大量のCOを発生させることには背反がある。すなわち、NOx触媒41にCOを供給する場合、吸入空気量を減らしたりEGRガス量を増やしたりすることによって不完全燃焼の割合を増加させたり、燃料噴射量を増やして空燃比をリッチ化させたりする必要があるため、大量のCOを発生させようとすると、PMの発生量の増加、オイル希釈、燃費悪化等の問題が生じる可能性がある。これに対して、HCを供給する場合は、このような問題を生じることなく、比較的多くの量をNOx触媒41に供給できるというメリットがある。従って、NOx触媒41に大量のHCを供給しても未反応HCによるNOx触媒41の被毒及び失活の虞のないこの温度領域においては、HCの供給のみによってNOx触媒41の昇温を行うこととした。ステップS106を実行後、ECU26はステップS102に戻る。
【0051】
ステップS103において、触媒温度Tcatが目標温度Ttrg以上の場合(Ttrg≦Tcat)、ECU26は昇温制御が完了したと判断し、硫黄被毒回復処理における触媒昇温後の処理、すなわち図3のステップS201以降の処理に移行する。
【0052】
本実施例においてステップS104〜106を実行するECU26が、本発明における触媒昇温制御手段に相当する。
【0053】
以上説明した昇温制御を実行した時のNOx触媒41の触媒昇温Tcat、CO供給量、及び、HC供給量の時間変化の一例を図3に示す。
【0054】
図3の例では、時刻t0において硫黄被毒回復処理の実行条件が成立したと判定されたとする。この時、図3(A)に示すように、触媒温度Tcatは第1基準温度T1より低かったとする。この場合、COの供給によってもHCの供給によっても好適にNOx触媒41を昇温することができないので、図3(B)及び図3(C)に示すように、COの供給もHCの供給も行われない。従って、CO又はHCの供給によるNOx触媒41の昇温は、この時点では行われない。ここでは、その他の要因、例えば、内燃機関1が高負荷運転する等によって排気の温度が高まり、それによって触媒温度が徐々に上昇し、時刻t1において触媒温度Tcatが第1基準温度T1に達したとする。
【0055】
触媒温度Tcatが第1基準温度T1に達すると、図3(B)に示すようにCOの供給が開始される。この温度ではまだHCがNOx触媒41において酸化反応困難であるので、図3(C)に示すように、HCの供給は行われない。これにより、HCの酸化反応熱によってNOx触媒41を昇温することが困難な低温状態においても、図3(A)に示すように、NOx触媒41を昇温することができる。
【0056】
そして、時刻t2において触媒温度Tcatが第2基準温度T2に達すると、NOx触媒41においてHCが酸化反応可能になるので、図3(B)及び図3(C)に示すように、HCの供給が開始され、触媒温度Tcatの上昇とともにHCの供給量が増加させていく。この温度では、要求される還元剤量の全てをHCによって供給しようとすると、未反応HCによるNOx触媒41の被毒及び失活の可能性があるため、COの供給も継続するが、HCの供給量の増加に応じてCOの供給量を減少させていく。
【0057】
そして、時刻t3において触媒温度Tcatが第3基準温度T3に達すると、触媒昇温のために要求される全還元剤量をHCによって供給してもNOx触媒41が失活する虞が少なくなるので、図3(B)に示すようにCOの供給を停止し、HCのみをNOx触媒41に供給することにより、目標温度Ttrgまで触媒温度を上昇させていく。
【0058】
ここで、図3では、HC及びCOの両方を供給してNOx触媒41を昇温する場合に、触媒温度Tcatに応じて徐々にHC供給量を増加させるとともに徐々にCO供給量を減少させる例を示したが、図4に示すように、触媒温度Tcatが第3基準温度に達するまでの期間、CO及びHCをそれぞれ一定量ずつ供給するようにしても良い。要は、急速な触媒昇温のために要求される全還元剤量をHCによって供給するとNOx触媒41が失活する可能性のある温度領域において、酸化反応速度が速くNOx触媒41の失活の原因となりにくいCOと、スモークや燃費の面でCOより有利なHCと、を組み合わせてNOx触媒41に供給するようにすれば、本発明の効果が得られる。
【0059】
次に、本実施例の硫黄被毒回復処理における、NOx触媒41に流入する排気の空燃比をリッチ化する制御について説明する。NOx触媒41の昇温完了後の硫黄被毒回復処理においては、NOx触媒41を目標温度Ttrgに維持しつつ、NOx触媒41に流入する排気の空燃比をSOx脱離可能なリッチ空燃比にする必要がある。このような触媒昇温後のSOx脱離処理においては、大量の還元成分をNOx触媒41に供給する必要がある。大量のHCが供給されると、上述したようにNOx触媒41の活性点が未反応のHCによって被毒されて失活してしまう可能性がある。この場合、NOx触媒41の触媒温度が
第3基準温度以上であっても、NOx触媒41においてHCの酸化反応が好適に進行しにくい状態となるため、NOx触媒41の温度が低下し、触媒温度を目標温度に維持することができなくなる虞がある。
【0060】
そこで、本実施例のSOx脱離処理においては、NOx触媒41の温度Tcatと目標温度Ttrgとの温度差ΔTに着目した。すなわち、昇温処理完了後のSOx脱離処理において温度差ΔTが所定の基準温度差を越えて拡がった場合、上記のようにNOx触媒41が失活状態となっていると判断し、SOx脱離処理においてNOx触媒41にCOの供給を行うこととした。
【0061】
上述のように、COはNOx触媒41に吸着することなく酸化反応するので、未反応のHCによってNOx触媒41の活性点の多くが被覆されている状況であっても酸化反応可能であり、その反応熱によって低下したNOx触媒41の温度を再び上昇させることができる。そして、NOx触媒41の温度上昇とともにNOx触媒41に吸着している未反応のHCの気化及び酸化反応が促進され、NOx触媒41を再び活性化させることができる。そして、NOx触媒41の温度Tcatと目標温度Ttrgとの温度差ΔTが十分小さくなったら、COの供給を停止して、再びHCのみの供給によるSOx脱離処理に復帰する。
【0062】
このように、SOx脱離処理において、NOx触媒41の温度だけでなく、NOx触媒41の温度と目標温度との温度差に基づいて、NOx触媒41に還元剤としてCOを供給することにより、SOx脱離処理においてNOx触媒41が失活することを抑制することができ、より好適に硫黄被毒回復処理を実施することが可能となる。
【0063】
図5は、本実施例の硫黄被毒回復処理におけるSOx脱離処理の制御ルーチンを表すフローチャートである。このルーチンは、図2のフローのステップS103において触媒温度Tcatが目標温度Ttrg以上であると判定された場合に実行される。
【0064】
ステップS201において、ECU26は、硫黄被毒回復処理の終了条件の成立の有無を判定する。本実施例では、NOx触媒41の昇温処理完了後のSOx脱離処理の実施時間が所定時間を経過した場合に、硫黄被毒回復処理の終了条件が成立したと判定する。この所定時間は、NOx触媒41に吸蔵されたSOxがほぼ脱離し切ったと判断可能な時間であり、予め実験により求めておく。なお、硫黄被毒回復処理の終了判定はその他の方法により行っても良い。ステップS201において硫黄被毒回復処理終了条件が成立したと判定された場合(Yes)、ECU26は本ルーチンを一旦抜ける。一方、硫黄被毒回復処理終了条件が成立していないと判定された場合(No)、ECU26はステップS202に進む。
【0065】
ステップS202において、ECU26は、NOx触媒41へHCを供給する。HCの供給量は、NOx触媒41の温度Tcatを目標温度Ttrgに維持しつつ、NOx触媒41に流入する排気の空燃比がSOx脱離可能なリッチ空燃比となるように定められる。
【0066】
ステップS203において、ECU26は、NOx触媒41の温度Tcatを取得する。
【0067】
ステップS204において、ECU26は、ステップS203で取得した触媒温度Tcatと目標温度Ttrgとの温度差ΔTを算出する。
【0068】
ステップS205において、ECU26は、ステップS204で算出した温度差ΔTが所定の基準温度差ΔTcを越えているか否かを判定する。ここで、基準温度差ΔTcは、
未反応のHCによってNOx触媒41の酸化活性が失活していると判断可能な温度差の基準値である。ステップS205で温度差ΔTが基準温度差ΔTc以下の場合(No)、ECU26はNOx触媒41は失活していないと判断し、ステップS201に戻る。一方、ステップS205で温度差ΔTが基準温度差ΔTcを越えている場合(Yes)、ECU26はNOx触媒41が未反応HCによって失活していると判断し、ステップS206に進む。
【0069】
ステップS206において、ECU26は、NOx触媒41へのHCの供給量を低減するとともにCOの供給を開始する。これにより、上述したように、反応速度の速いCOの酸化反応がNOx触媒41において進行し、その反応熱によってNOx触媒41の温度が上昇する。
【0070】
ステップS207において、ECU26は、NOx触媒41の温度Tcatを取得する。
【0071】
ステップS208において、ECU26は、ステップS207で取得した触媒温度Tcatと目標温度Ttrgとの温度差ΔTを算出する。
【0072】
ステップS209において、ECU26は、ステップS208で算出した温度差ΔTが所定の基準温度差ΔT0以下になったか否かを判定する。ここで、基準温度差ΔT0は、未反応HCの被毒によるNOx触媒41の失活状態が解消されたと判断可能な温度差の基準値である。より簡単には、ステップS209において、触媒温度Tcatが目標温度Ttrgに達したか否か(ΔT≒0)を判定するようにしても良い。ステップS209で温度差ΔTが基準温度差ΔT0より大きい場合(No)、ECU26はステップS207に戻る。一方、ステップS209で温度差ΔTが基準温度差ΔT0以下の場合(Yes)、ECU26はステップS210に進む。
【0073】
ステップS210において、ECU26は、NOx触媒41へのCOの供給を停止するとともに、還元剤としてHCのみの供給によりNOx触媒41の温度維持及びリッチ化可能な量までHCの供給量を増加させる。
【0074】
以上説明したSOx脱離処理を実行した時のNOx触媒41の触媒温度Tcat、CO供給量、及び、HC供給量の時間変化の一例を図6に示す。
【0075】
図6の例では、NOx触媒41の昇温処理完了後、SOx脱離処理の実行中の時刻t1において、NOx触媒41の温度Tcatが低下し始めたとする。この時、NOx触媒41の温度を目標温度Ttrgに保つとともに、NOx触媒41からSOxが脱離可能なリッチ雰囲気を作り出すべく、NOx触媒41にはHCが供給されている。
【0076】
触媒温度Tcatが徐々に低下し、時刻t2において触媒温度Tcatと目標温度Ttrgとの温度差ΔTが基準温度差ΔTcを越えたとする。そうすると、NOx触媒41が未反応HCによって被毒し、失活状態になっていると判断され、図6(B)及び図6(C)に示すように、COの供給が開始されるとともにHCの供給が停止される。これにより、NOx触媒41には反応速度の速いCOが供給され、図6(A)に示すように、COの酸化反応熱によりNOx触媒41の温度が上昇し始める。
【0077】
そして、時刻t3において温度差ΔTが基準温度差ΔT0に達した時点で、NOx触媒41の失活状態が解消されたと判断され、再びHCの供給が開始されるとともにCOの供給が停止される。
【0078】
ここで、図6では、温度差ΔTが基準温度差ΔTcを越えてから基準温度差ΔT0に達するまでの期間、HCの供給を停止する例を示したが、この間HCの供給を継続しても良い。また、図6では、当該期間において、COの供給量及びHCの供給量を一定値(HCの供給量は一定値0)にする例を示したが、図7(B)及び図7(C)に示すように、当該期間において、温度差ΔTの縮小に応じてCOの供給量を減少させるとともに、HCの供給量を増加させるようにしても良い。この場合、図7(B)及び図7(C)ではHC供給量及びCO供給量を連続的に変化させる例について示したが、段階的に変化させても良い。また、当該期間においてHC供給量は変化させず、CO供給量のみ温度差ΔTに応じて変化させるようにしても良い。要は、SOx脱離処理の途中に、NOx触媒41の触媒温度Tcatが十分高いにもかかわらずNOx触媒41が失活状態と判断された場合にCOを供給するようにすれば、本発明の効果を得られる。
【実施例2】
【0079】
実施例1では、硫黄被毒回復処理のSOx脱離処理において、NOx触媒41の温度を目標温度に維持する触媒温度制御を行っている時に、触媒温度と目標温度との温度差の大きさに応じてCOの供給を行う制御について説明した。詳細には、実施例1では、触媒温度Tcatが第3基準温度T3以上であっても、温度差ΔTが基準温度差ΔTcを越えてから一定期間はCOの供給を行うことによって、NOx触媒41の失活状態を解消する。
【0080】
本実施例では、硫黄被毒回復処理の触媒昇温処理において、NOx触媒41の温度を目標温度に向けて昇温する触媒温度制御を行っている時に、触媒温度と目標温度との温度差の変化速度に応じてCOの供給を行う制御について説明する。
【0081】
本実施例では、実施例1の図2のフローにおいて、ステップS103で触媒温度Tcatが第3基準温度以上目標温度Ttrg未満と判定され、HCを供給することによりNOx触媒41の昇温を行っている時に、触媒温度Tcatと目標温度Ttrgとの温度差ΔTを算出する。そして、算出された温度差ΔTと、それ以前に算出した温度差ΔTと、に基づいて、温度差ΔTの現状の変化速度(dΔT/dt)を算出する。そして、算出された変化速度が負の値で且つその大きさが所定の目標値を下回っていた場合、又は、算出された速度が正の値の場合、NOx触媒41が失活状態であると判断して、COの供給を開始する。ここで、変化速度の目標値とは、NOx触媒41が正常の活性状態にある場合に、HCの供給量や内燃機関の運転条件等から想定される変化速度である。
【0082】
算出された変化速度が負の値で且つその大きさが目標値を下回っている場合は、触媒温度Tcatは上昇はしているものの、その上昇速度が鈍化していることを意味する。また、算出された変化速度が正の値の場合、本来上昇しているべき触媒温度が低下していることを意味する。このような場合、本実施例では、NOx触媒41に供給されたHCによってNOx触媒41が被毒され失活状態にあると判断し、触媒温度Tcatが第3基準値以上の温度領域に属している場合であっても、COの供給を行う。このCOの供給は、変化速度が負の値で且つその大きさが目標値以上になるまで継続する。
【0083】
こうして、NOx触媒41にCOが供給されることにより、COが速やかに酸化反応し、その反応熱によってNOx触媒41の昇温速度が回復し、NOx触媒41の温度上昇とともに失活状態が解消される。従って、NOx触媒41の失活によって触媒昇温処理の効率が低下することを抑制できる。
【0084】
図8は、以上説明した本実施例における昇温制御を実行した時のNOx触媒41の触媒昇温Tcat、CO供給量、及び、HC供給量の時間変化の一例を示す図である。
【0085】
図8において、触媒温度Tcatが第3基準温度T3以上になったと判定されるまでは
実施例1の図3と同様であるので、説明を省略する。図8(A)に示すように、触媒温度Tcatが第3基準温度T3以上になったと判定された後の時刻taにおいて、触媒温度Tcatと目標温度Ttrgとの温度差ΔTの変化速度dΔT/dtが負の値で且つその大きさが目標値を下回り、その後正の値になったとする(すなわち、触媒温度Tcatの上昇速度が鈍化し、次いで温度低下に転じる)。
【0086】
すると、図8(B)に示すように、それまで停止されていたCOの供給が開始される。この時、図8(C)に示すように、HCの供給量は変化させなくても良いし、COの供給開始に応じてHCの供給量を減少させても良い。いずれにしても、NOx触媒41にCOが供給されることで、COの酸化反応熱によってNOx触媒41の温度低下が抑制されるとともにNOx触媒41の活性状態が回復し始める。
【0087】
これにより、図8(A)に示すように温度差ΔTの変化速度が正の値から負の値に転じ、時刻tbにおいて負の値で且つその大きさが目標値以上であるような変化速度になる。すると、NOx触媒41の失活状態が解消されたと判断され、図8(B)に示すように、COの供給が停止される。時刻tb以降においては、図8(A)に示すように、HC供給量及び内燃機関1の運転条件等から想定される目標値以上の減少速度でΔTが減少し、触媒温度Tcatが目標温度Ttrgに向かって好適に上昇していく。
【0088】
以上説明したように、触媒昇温処理においても、NOx触媒41の触媒温度のみならず、触媒温度と目標温度との温度差も考慮してHCの供給量及びCOの供給量を制御することにより、より確実にNOx触媒41を昇温させることができる。
【0089】
なお、以上述べた実施例は本発明を説明するための一例であって、本発明の本旨を逸脱しない範囲内において上記の実施例には種々の変更を加え得る。例えば、上記各実施例では、NOx触媒の酸化能によってCO及びHCを酸化反応させてNOx触媒を昇温するように構成されたシステムに本発明を適用した場合について説明したが、NOx触媒の上流側に酸化触媒を配置し、当該酸化触媒にCO及びHCを供給することによって触媒を昇温するように構成されたシステムに本発明を適用することもできる。また、NOx触媒の硫黄被毒回復処理に伴う触媒昇温やリッチ制御だけでなく、排気中の微粒子物質を捕集するフィルタの再生処理に伴う触媒昇温にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施例に係る排気浄化装置を適用する内燃機関とその吸気系及び排気系の概略構成を示す図である。
【図2】実施例1の硫黄被毒回復処理におけるNOx触媒の昇温制御ルーチンを表すフローチャートである。
【図3】実施例1の硫黄被毒回復処理におけるNOx触媒の昇温制御を実行した時のNOx触媒の触媒温度、CO供給量、及び、HC供給量の時間変化の一例を示す図である。
【図4】実施例1の硫黄被毒回復処理におけるNOx触媒の昇温制御を実行した時のNOx触媒の触媒温度、CO供給量、及び、HC供給量の時間変化の一例を示す図である。
【図5】実施例1の硫黄被毒回復処理におけるSOx脱離処理の制御ルーチンを表すフローチャートである。
【図6】実施例1の硫黄被毒回復処理におけるSOx脱離処理を実行した時のNOx触媒の触媒温度、CO供給量、及び、HC供給量の時間変化の一例を示す図である。
【図7】実施例1の硫黄被毒回復処理におけるSOx脱離処理を実行した時のNOx触媒の触媒温度、CO供給量、及び、HC供給量の時間変化の一例を示す図である。
【図8】実施例2の硫黄被毒回復処理におけるNOx触媒の昇温制御を実行した時のNOx触媒の触媒温度、CO供給量、及び、HC供給量の時間変化の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0091】
1 内燃機関
7 エアフローメータ
14 EGR弁
15 EGR通路
17 吸気マニホールド
18 排気マニホールド
19 燃料添加弁
22 吸気絞り弁
26 ECU
29 インジェクタ
41 NOx触媒
42 吸気通路
43 排気通路
49 気筒
50 排気温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置された酸化能を有する触媒と、
前記触媒に流入する排気中にHCを供給するHC供給手段と、
前記触媒に流入する排気中にCOを供給するCO供給手段と、
前記触媒の温度を取得する温度取得手段と、
前記HC供給手段によってHCを供給及び/又は前記CO供給手段によってCOを供給することにより前記触媒の温度を上昇させる触媒昇温制御を行う触媒昇温制御手段と、
を備え、
前記触媒昇温制御手段は、前記触媒昇温制御の実行条件が成立した場合に、
前記触媒の温度が所定の第1基準温度より低いときは、前記触媒昇温制御を実行せず、
前記触媒の温度が前記第1基準温度以上で且つ所定の第2基準温度より低いときは、前記CO供給手段によってCOを供給することにより前記触媒昇温制御を実行し、
前記触媒の温度が前記第2基準温度以上で且つ所定の第3基準温度より低いときは、前記CO供給手段によってCOを供給及び前記HC供給手段によってHCを供給することにより前記触媒昇温制御を実行し、
前記触媒の温度が前記第3基準温度以上のときは、前記HC供給手段によってHCを供給することにより前記触媒昇温制御を実行する
ことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記触媒昇温制御手段は、前記温度取得手段により取得される前記触媒の温度が、前記第2基準温度以上で且つ前記第3基準温度より低いときに行う触媒昇温制御において、当該触媒の温度が高いほど、前記HC供給手段によるHCの供給量を多くするとともに、前記CO供給手段によるCOの供給量を少なくする
ことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
内燃機関の排気通路に配置された酸化能を有する触媒と、
前記触媒に流入する排気中にHCを供給するHC供給手段と、
前記触媒に流入する排気中にCOを供給するCO供給手段と、
前記触媒の温度を取得する温度取得手段と、
前記HC供給手段によるHCの供給及び/又は前記CO供給手段によるCOの供給により前記触媒の温度を所定の目標温度に制御する触媒温度制御を行う触媒温度制御手段と、を備え、
前記触媒温度制御手段は、前記温度取得手段により取得される前記触媒の温度と前記目標温度との差に応じて、前記HC供給手段によるHCの供給量及び前記CO供給手段によるCOの供給量を制御することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記触媒温度制御手段は、前記温度差が大きいほど、前記CO供給手段によるCOの供給量を多くすることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記触媒温度制御手段は、前記温度差が所定の第1の基準値より大きくなったことを条件に前記CO供給手段によるCOの供給を開始し、その後前記温度差が所定の第2の基準値より小さくなったことを条件に前記CO供給手段によるCOの供給を停止することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記触媒温度制御手段は、前記CO供給手段によるCOの供給を行う時は、COの供給量に応じて、前記HC供給手段によるHCの供給を調節することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−14064(P2010−14064A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176149(P2008−176149)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】