説明

内燃機関の触媒劣化診断装置および診断方法

【課題】流路切換弁4を切り換えることなくバイパス触媒コンバータ18の触媒劣化診断を行えるようにする。
【解決手段】気筒1毎に上流側メイン通路2が接続され、中間メイン通路3を介して1本の下流側メイン通路7となる。下流側メイン通路7の途中にメイン触媒8が介装される。バイパス通路として、上流側メイン通路2の各々から、上流側バイパス通路11が分岐し、最終的に1本の下流側バイパス通路16となり、バイパス触媒18を備える。バイパス触媒18下流から排気還流通路20が分岐する。流路切換弁4は冷間時のみ閉じられ、排気流の切換を行う。流路切換弁4が開放されていても、排気還流を行っていれば、バイパス触媒18を排気が通流するので、上流側、下流側の空燃比センサ21,22の検出信号から触媒劣化診断が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の冷間始動直後などに排気が案内されるバイパス通路側のバイパス触媒コンバータの触媒劣化を診断する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られているように、車両の床下などの排気系の比較的下流側にメイン触媒コンバータを配置した構成では、内燃機関の冷間始動後、触媒コンバータの温度が上昇して活性化するまでの間、十分な排気浄化作用を期待することができない。また一方、触媒コンバータを排気系の上流側つまり内燃機関側に近付けるほど、触媒の熱劣化による耐久性低下が問題となる。
【0003】
そのため、特許文献1に開示されているように、メイン触媒コンバータを備えたメイン通路の上流側部分と並列にバイパス通路を設けるとともに、このバイパス通路に、別のバイパス触媒コンバータを介装し、両者を切り換える切換弁によって、冷間始動直後は、バイパス流路側に排気を案内するようにした排気装置が、従来から提案されている。この構成では、バイパス触媒コンバータは排気系の中でメイン触媒コンバータよりも相対的に上流側に位置しており、相対的に早期に活性化するので、より早い段階から排気浄化を開始することができる。
【0004】
一方、触媒コンバータにおける触媒は、上記のように熱的ならびに経時的に劣化するので、その劣化度合を監視するために、特許文献2に記載されているように、触媒コンバータ上流側および下流側の空燃比センサの検出信号を用いて触媒の劣化診断を行うことが公知である。
【特許文献1】特開平5−321644号公報
【特許文献2】特開平5−263686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようにバイパス通路側に設けられたバイパス触媒コンバータの劣化診断を行うためには、当然のことながら、バイパス触媒コンバータを排気が通流している状態である必要があり、また、このバイパス触媒コンバータが活性温度に達成していることが前提となる。
【0006】
一般に、バイパス通路側には、メイン触媒コンバータが活性化するまでの比較的短い時間にのみ排気が通流し、機関の暖機が完了した後(つまりメイン触媒コンバータの活性化後)は、切換弁が排気をメイン通路側へ案内するように切り換えられてしまうので、その間に触媒劣化診断を行う機会は、殆ど確保できない。
【0007】
従って、暖機完了後の運転中に、メイン通路側となっている切換弁を診断のためにバイパス通路側へ一時的に切り換え、バイパス通路側へ排気を案内しつつ、触媒劣化診断を行うことになる。
【0008】
しかしながら、このように診断のために流路の切換を行うのでは、切換弁の耐久性の点で望ましくないのは勿論のこと、流路切換に伴う背圧変化によるトルク段差がそのたびに発生し、好ましくない。また必然的に、劣化診断の頻度を少なくせざるを得ず、診断の信頼性が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る内燃機関の触媒劣化診断装置は、内燃機関から排出された排気が流れるメイン通路と、このメイン通路の一部をバイパスするように、上流側で該メイン通路から分岐するとともに、下流側で該メイン通路に合流するバイパス通路と、このバイパス通路に介装されたバイパス触媒コンバータと、上記メイン通路の上流側の分岐点から下流側の合流点までの間に設けられ、該メイン通路を開閉する流路切換弁と、上記バイパス通路のバイパス触媒コンバータ下流側に一端が接続され、かつ吸気系へ還流排気を導く排気還流通路と、上記バイパス通路ないしはメイン通路の上記バイパス触媒コンバータよりも上流側となる位置に配置された上流側空燃比センサと、上記バイパス通路の上記バイパス触媒コンバータ下流側でかつ上記排気還流通路の分岐点より上流側の位置に配置された下流側空燃比センサと、排気還流が行われている条件下で上記上流側空燃比センサおよび下流側空燃比センサの出力に基づいて触媒の劣化を判定する劣化診断手段と、を備えていることを特徴としている。
【0010】
同様に、この発明に係る内燃機関の触媒劣化診断方法は、内燃機関から排出された排気が流れるメイン通路と、このメイン通路の一部をバイパスするように、上流側で該メイン通路から分岐するとともに、下流側で該メイン通路に合流するバイパス通路と、このバイパス通路に介装されたバイパス触媒コンバータと、上記メイン通路の上流側の分岐点から下流側の合流点までの間に設けられ、該メイン通路を開閉する流路切換弁と、を備えた内燃機関の触媒劣化診断方法であって、吸気系に還流する還流排気を上記バイパス通路のバイパス触媒コンバータ下流側から取り出すようにし、排気還流が行われている条件下で上記バイパス触媒コンバータの上流側および下流側の排気空燃比に基づく触媒劣化診断を行うことを特徴とする。
【0011】
すなわち、上記流路切換弁は、例えば、機関の始動後、機関が暖機状態となるまでの間、排気をバイパス通路側へ案内するように、閉状態に制御され、その後、暖機状態となれば、排気をメイン通路側へ案内するように、開状態に制御される。このような流路切換弁の開状態においては、バイパス通路側は特に遮断されていないが、両者の通路抵抗の差により、排気流の大部分はメイン通路を流れる。
【0012】
そして、この流路切換弁の開状態の下で排気還流を行う場合、還流排気は、メイン通路の分岐点からバイパス通路側へ流れ、バイパス触媒コンバータを通過してから、排気還流通路を介して吸気系へと流れる。従って、排気還流が行われている条件下であれば、流路切換弁の開閉状態に拘わらず、診断に必要なある程度の排気流がバイパス触媒コンバータを通流する。つまり、流路切換弁の開閉状態に拘わらず、触媒劣化診断が可能である。
【0013】
従って、例えば暖機が完了して流路切換弁が開状態に切り換わった後は、流路切換弁を開状態としたまま劣化診断を行うことが望ましい。
【0014】
なお、上流側空燃比センサと下流側空燃比センサとを用いた触媒劣化診断そのものは、公知の種々の手法を適用することが可能である。
【0015】
一方、上記の構成では、流路切換弁の開状態の下で排気還流を行うときに、具体的な配管レイアウトや運転条件によっては、メイン通路のバイパス通路との合流点からバイパス通路を逆流して排気還流通路へと流れる排気流が生じる場合がある。このように逆流した排気は、バイパス触媒コンバータを経由していない排気であるので、その成分が下流側空燃比センサ付近に混入すると、劣化診断の精度が低下する。従って、下流側空燃比センサの位置としては、このように逆流する排気の影響を受けない程度に、排気還流通路の分岐点から上流側へ離れていることが望ましい。
【0016】
また、本発明の一つの態様では、上記バイパス通路の上記バイパス触媒コンバータの下流側に第2のバイパス触媒コンバータを備えており、上記排気還流通路が、両者の間となる位置から分岐している。このような構成では、第2のバイパス触媒コンバータによって、この部分の圧力損失が増大し、上述した逆流が抑制される。
【0017】
同様に、本発明の一つの態様では、上述した逆流を抑制するために、上記バイパス通路の排気還流通路分岐点とメイン通路への合流点との間に、オリフィスが介装されている。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、排気流をバイパス通路側とメイン通路側とに切り換える流路切換弁の開閉状態に拘わらずバイパス触媒コンバータの触媒劣化診断が可能となり、例えば暖機完了後に開状態となっている流路切換弁を診断のために切り換える必要がない。従って、診断の可能な運転領域をより広く確保できるとともに、診断の頻度を多くすることが可能となり、かつ流路の切換に伴うトルク段差などの悪影響を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明を直列4気筒内燃機関の排気装置に適用した一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
図1は診断の対象となる排気装置の配管レイアウトを模式的に示した説明図であり、始めに、この図1に基づいて、排気装置全体の構成を説明する。
【0021】
直列に配置された♯1気筒〜♯4気筒からなる各気筒1には、気筒毎に上流側メイン通路2が接続されている。4つの気筒の中で、排気行程が連続しない♯1気筒の上流側メイン通路2と♯4気筒の上流側メイン通路2とが1本の中間メイン通路3として合流しており、同様に排気行程が連続しない♯2気筒の上流側メイン通路2と♯3気筒の上流側メイン通路2とが1本の中間メイン通路3として合流している。ここで、各2本の上流側メイン通路2が合流する合流部には、流路切換弁4が設けられている。この流路切換弁4は、冷間時に閉じられるものであって、閉時には、上流側メイン通路2と中間メイン通路3との間の上下の連通を遮断するとともに、2本の上流側メイン通路2の間を非連通状態とする構成となっている。なお、この流路切換弁4は、一対の弁要素5からなり、各弁要素5に含まれる一対の弁体(図示せず)が、2本の上流側メイン通路2の先端部をそれぞれ開閉している。この流路切換弁4(弁要素5)としては、例えば弁体がシール面に接触することにより、漏れを許容せずに流れを完全に遮断することができる形式のものが望ましい。流路切換弁4の下流に位置する2本の中間メイン通路3は、合流点6において互いに合流し、1本の下流側メイン通路7となる。この下流側メイン通路7の途中には、メイン触媒コンバータ8が介装されている。このメイン触媒コンバータ8における触媒としては、三元触媒とHCトラップ触媒とを含んでいる。なお、このメイン触媒コンバータ8は、車両の床下に配置される容量の大きなものである。以上の上流側メイン通路2と中間メイン通路3と下流側メイン通路7とメイン触媒コンバータ8とによって、通常の運転時に排気が通流するメイン通路が構成される。このメイン通路は、直列4気筒内燃機関において周知の「4−2−1」の形で集合する配管レイアウトとなっており、従って、排気動的効果を利用した充填効率向上が実現される。
【0022】
一方、バイパス通路として、上流側メイン通路2の各々から、上流側バイパス通路11が分岐している。この上流側バイパス通路11は、上流側メイン通路2よりも通路断面積が十分に小さなものであって、その上流端となる分岐点12は、上流側メイン通路2のできるだけ上流側の位置に設定されている。そして、互いに隣接した位置にある♯1気筒の上流側バイパス通路11と♯2気筒の上流側バイパス通路11とが合流点13において1本の中間バイパス通路14として互いに合流しており、同様に互いに隣接した位置にある♯3気筒の上流側バイパス通路11と♯4気筒の上流側バイパス通路11とが合流点13において1本の中間バイパス通路14として互いに合流している。なお、各通路を模式的に示した図1では、各上流側バイパス通路11が比較的長く描かれているが、実際には、可能な限り短くなっている。換言すれば、最短距離でもって中間バイパス通路14として合流している。2本の中間バイパス通路14は、合流点15において1本の下流側バイパス通路16として互いに合流している。この下流側バイパス通路16の下流端は、下流側メイン通路7のメイン触媒コンバータ8より上流側の合流点17において、下流側メイン通路7に合流している。そして、上記下流側バイパス通路16の途中には、三元触媒を用いたバイパス触媒コンバータ18が介装されている。このバイパス触媒コンバータ18は、バイパス流路の中で、可能な限り上流側に配置されている。つまり、中間バイパス通路14もできるだけ短くなっている。
【0023】
なお、上記実施例では、バイパス流路全体の通路長(各気筒のバイパス通路の総和)を短くして、配管自体の熱容量ならびに外気に対する放熱面積を小さくするために、4本の上流側バイパス通路11を長く引き回さずに上流側で2本の中間バイパス通路14にまとめているが、このような構成は任意であり、例えば、バイパス触媒コンバータ18が気筒列の一方に偏って位置する場合などには、他方の端部気筒から直線状に延ばした上流側バイパス通路に残りの気筒の上流側バイパス通路を略直角に接続することにより、全体の通路長を短くすることができる。
【0024】
上記バイパス触媒コンバータ18は、周知のモノリス触媒担体を備えており、メイン触媒コンバータ8に比べて容量が小さな小型のものであって、望ましくは、低温活性に優れた触媒が用いられる。そして、このバイパス触媒コンバータ18の下流側の分岐点19において、下流側バイパス通路16に排気還流通路20の一端が接続されている。この排気還流通路20の他端は、図示せぬ排気還流制御弁を介して機関吸気系へと延びている。つまり、上記分岐点19が、還流排気の取り出し口となっている。
【0025】
また、上記バイパス触媒コンバータ18の入口側には、上流側空燃比センサ21が配置され、出口側には、下流側空燃比センサ22が配置されている。これらの空燃比センサ21,22としては、排気空燃比のリッチ,リーンに応じて二値的な信号を出力する所謂酸素センサ、あるいは、排気空燃比の値に対応した連続的に変化する出力が得られる所謂リニア型空燃比センサ、のいずれであってもよい。これらの空燃比センサ21,22の検出信号は、周知のように、触媒劣化診断のほか、一般的な空燃比制御(特にバイパス通路側へ排気が案内されているときの空燃比制御)に用いられるので、その精度確保ならびに部品コストの観点から、例えば、上流側空燃比センサ21にリニア型空燃比センサが用いられ、下流側空燃比センサ22に酸素センサが用いられている。これらの空燃比センサ21,22の検出信号は、劣化診断手段となるエンジンコントロールユニット23に入力される。このエンジンコントロールユニット23は、周知のように、触媒劣化診断のほか、空燃比制御や点火時期制御、流路切換弁4の開閉制御などを含む内燃機関の種々の制御を行うものである。
【0026】
なお、メイン通路側へ排気が案内されているときの空燃比制御のために、メイン触媒コンバータ8の入口側および出口側に、同様に空燃比センサ24,25を備えているが、これは本発明の触媒劣化診断には無関係であるので、その説明は省略する。
【0027】
上記のように構成された排気装置においては、冷間始動後の機関温度ないしは排気温度が低い段階では、適宜なアクチュエータを介して流路切換弁4が閉じられ、メイン通路が遮断される。そのため、各気筒1から吐出された排気は、その全量が、分岐点12から上流側バイパス通路11および中間バイパス通路14を通してバイパス触媒コンバータ18へと流れる。バイパス触媒コンバータ18は、排気系の上流側つまり気筒1に近い位置にあり、かつ小型のものであるので、速やかに活性化し、早期に排気浄化が開始される。また、このとき、流路切換弁4が閉じることで、各気筒1の上流側メイン通路2が互いに非連通状態となる。そのため、ある気筒から吐出された排気が他の気筒の上流側メイン通路2へと回り込む現象が防止され、この回り込みに伴う排気温度の低下が確実に回避される。
【0028】
一方、機関の暖機が進行して、機関温度ないしは排気温度が十分に高くなったら、流路切換弁4が開放される。これにより、各気筒1から吐出された排気は、主に、上流側メイン通路2から中間メイン通路3および下流側メイン通路7を通り、メイン触媒コンバータ8を通過する。このときバイパス通路側は特に遮断されていないが、バイパス通路側の方がメイン通路側よりも通路断面積が小さく、かつバイパス触媒コンバータ18が介在しているので、両者の通路抵抗の差により、排気流の大部分はメイン通路側を通り、バイパス通路側には殆ど流れない。従って、バイパス触媒コンバータ18の熱劣化は十分に抑制される。またバイパス通路側が完全に遮断されないことから、排気流量が大となる高速高負荷時には、排気流の一部がバイパス通路側を流れることで、背圧による充填効率低下を回避することができる。
【0029】
またメイン流路側は、前述したように、排気干渉回避を考慮した「4−2−1」の配管レイアウトとなっているので、排気動的効果による充填効率向上効果を得ることができる。ここで、バイパス流路側は、排気干渉回避を特に考慮しない形で連通・集合しているが、上流側バイパス通路11の通路断面積を十分に小さなものとすることで、各気筒の連通による排気干渉を、実質的に無視し得るレベルにまで低減することが可能である。なお、上流側バイパス通路11の通路断面積をある上限寸法よりも大きくすると上記の排気干渉による充填効率低下が生じ、また逆にある下限寸法よりも小さくすると、切換弁4が閉状態にある間の排気流量が過度に小さく制限されてしまい、運転可能な領域が過度に狭められる。従って、上流側バイパス通路11の通路断面積の最適な値は、機関排気量等に応じた所定の上限寸法と下限寸法との範囲内となる。
【0030】
ここで、上記の流路切換弁4が開放されている条件下で、排気還流装置の図示しない排気還流制御弁が開くと、各気筒1から吐出された排気の一部が、分岐点12から上流側バイパス通路11および中間バイパス通路14を通してバイパス触媒コンバータ18へと流れ、かつ該バイパス触媒コンバータ18通過後に分岐点19から排気還流通路20へと流れる。つまり、流路切換弁4がメイン通路側に排気流を案内している状態であっても、排気還流時には、還流量の大部分がバイパス触媒コンバータ18を通過する(還流量の一部は、下流側メイン通路7の合流点17から下流側バイパス通路16を逆流して排気還流通路20へ取り込まれる)。
【0031】
従って、上流側空燃比センサ21と下流側空燃比センサ22とを用いた公知の手法による触媒劣化診断が可能である。例えば、空燃比フィードバック制御に伴う排気空燃比の周期的な変化に対する上流側および下流側の周波数変化、あるいは、診断用の空燃比のステップ的な変化に対する応答遅れの変化、などから触媒の劣化度合が判定される。
【0032】
図2は、上記の排気装置をより具体的な形態として示したものであり、シリンダブロック32とシリンダヘッド33とを有する内燃機関31が、車両のエンジンルーム内に所謂横置形式に搭載されており、そのシリンダヘッド33の車両後方となる側面に、上流側メイン通路2を主に構成する排気マニホルド34が取り付けられている。この排気マニホルド34の出口部には、一対の弁要素5を含む流路切換弁4が取り付けられ、その下流に、下流側メイン通路7となるフロントチューブ35が接続されている。このフロントチューブ35の上流側の一部は、内部で2つの通路に区画されており、つまり上記の中間メイン通路3を構成している。メイン触媒コンバータ8は、上記フロントチューブ35の途中に設けられている。そして、バイパス流路となるバイパス触媒コンバータ18等は、シリンダヘッド33から車両後方へ延びるメイン流路の下側の空間に配置されており、バイパス触媒コンバータ18の下流側から排気還流通路20が分岐している。
【0033】
図3は、内燃機関の運転条件(負荷、機関回転数)の中で、排気還流が行われる運転領域Aと、一般的に触媒の劣化診断が可能な運転領域B(これは例えば空燃比の点から定まる)と、を示している。本発明では、両者の重複範囲Cが、流路切換弁4の開閉状態に無関係に触媒劣化診断が可能な診断領域となる。なお、図示するように、領域Aと領域Bとは一般に比較的近似しており、従って、広い領域で頻繁に触媒劣化診断を実行できる。
【0034】
図4は、上記エンジンコントロールユニット23において実行される触媒劣化診断の処理の一例を示すフローチャートであり、まずステップ1で、空燃比フィードバック制御中であるか否か判定する。この例では、診断の第1ステージとして、空燃比フィードバック制御による排気空燃比の周期的な変化を利用するので、空燃比フィードバック制御中でなければ、診断は行わない。ステップ2では、運転条件が前述の診断領域C内にあり、かつ排気還流が実際にONとなっているか判定する。排気還流領域A内(ひいては診断領域C内)であっても、例えば、冷却水温が低い場合などは排気還流が禁止されるので、排気還流が行われていなければ、診断は行わない。そして、これらの条件が成立すれば、ステップ3で診断を開始し、上流側空燃比センサ21と下流側空燃比センサ22との検出信号の周波数の比などの診断パラメータを算出する。ステップ4では、この診断パラメータが許容範囲内であるか否か判定する。以上の第1ステージで「非劣化」と判断された場合には、1回の診断が終了する。この第1ステージの診断は、例えば、一定時間毎などに繰り返し実行される。
【0035】
一方、ステップ4で診断パラメータが許容範囲外であった場合には、直ちに異常と認定せずに、ステップ5の第2ステージへ進む。この第2ステージの詳細は示していないが、ここでは、理論空燃比を目標とする空燃比フィードバック制御を一時的に中断し、目標空燃比を、リーンおよびリッチに比較的大きくステップ的に変化させて、これに対する上流側空燃比センサ21と下流側空燃比センサ22の応答を対比することで、劣化診断を行う。すなわち、第1ステージでは所謂パッシブ方式の触媒劣化診断を行い、第2ステージでは所謂アクティブ方式の触媒劣化診断を行うことで、診断精度を高め、異常と誤診断することを回避している。
【0036】
次に、メイン通路側からの逆流排気による影響の排除について説明する。前述したように、流路切換弁4が開状態であっても、排気還流時には、還流量の多くはバイパス通路を順方向に流れ、バイパス触媒コンバータ18を通過するのであるが、還流量の一部は、下流側メイン通路7の合流点17から下流側バイパス通路16を逆流して排気還流通路20へ取り込まれることになる。このようにメイン通路側から逆流する排気は、バイパス触媒コンバータ18を経由していないものであるので、その成分が下流側空燃比センサ22に接触すると、下流側空燃比センサ22の検出信号に誤差が生じる。
【0037】
従って、図5に要部を拡大して示すように、下流側バイパス通路16から排気還流通路20が分岐する分岐点19と、これよりも上流側に配置される下流側空燃比センサ22との間には、下流側メイン通路7から排気還流通路20へと下流側バイパス通路16を逆流する排気の影響を受けない程度に十分な距離Lが設けられている。なお、この距離Lの具体的な値は、各部の通路断面積や通路長などの種々の条件によって異なる。
【0038】
また、図6は、上記の逆流の抑制を考慮した他の実施例を示しており、この実施例では、下流側バイパス通路16のバイパス触媒コンバータ18より下流側の位置に、さらに第2のバイパス触媒コンバータ31が介装されている。そして、排気還流通路20の一端が接続される分岐点19が、2つのバイパス触媒コンバータ18,31の間に位置している。このような構成によれば、排気還流時にメイン通路側から下流側バイパス通路16を逆流しようとした排気流は、第2のバイパス触媒コンバータ31における圧力損失によって制限され、相対的に抑制される。従って、下流側空燃比センサ22への影響が少なくなる。な、この構成では、吸気系へ流れる還流排気が必ずいずれかのバイパス触媒コンバータ18,31を通過するので、排気中の異物が確実に除去され、吸気系へ流れることがない、という副次的な利点も得られる。
【0039】
また、図7は、上記の逆流の抑制を考慮したさらに異なる実施例を示しており、この実施例では、下流側バイパス通路16のバイパス触媒コンバータ18ならびに分岐点19より下流側の位置に、通路断面積を絞るオリフィス32が介装されている。このような構成によれば、排気還流時にメイン通路側から下流側バイパス通路16を逆流しようとした排気流は、同様に、オリフィス32によって制限され、相対的に抑制される。従って、下流側空燃比センサ22への影響が少なくなる。
【0040】
以上、この発明の一実施例を説明したが、この発明の触媒劣化診断は、上記のような気筒毎にバイパス通路が分岐した排気装置に限定されるものではなく、メイン通路とバイパス通路とを備えた種々のレイアウトの排気装置に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明に係る排気装置の構成説明図
【図2】より具体的に示した排気装置の側面図。
【図3】診断可能な領域を示す特性図。
【図4】診断処理の一例を示すフローチャート。
【図5】排気還流通路の分岐点と下流側空燃比センサとの位置関係を示す説明図。
【図6】第2のバイパス触媒コンバータを設けた実施例の構成説明図。
【図7】オリフィスを設けた実施例の構成説明図。
【符号の説明】
【0042】
2…上流側メイン通路
3…中間メイン通路
4…流路切換弁
8…メイン触媒コンバータ
11…上流側バイパス通路
14…中間バイパス通路
16…下流側バイパス通路
18…バイパス触媒コンバータ
20…排気還流通路
21…上流側空燃比センサ
22…下流側空燃比センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出された排気が流れるメイン通路と、
このメイン通路の一部をバイパスするように、上流側で該メイン通路から分岐するとともに、下流側で該メイン通路に合流するバイパス通路と、
このバイパス通路に介装されたバイパス触媒コンバータと、
上記メイン通路の上流側の分岐点から下流側の合流点までの間に設けられ、該メイン通路を開閉する流路切換弁と、
上記バイパス通路のバイパス触媒コンバータ下流側に一端が接続され、かつ吸気系へ還流排気を導く排気還流通路と、
上記バイパス通路ないしはメイン通路の上記バイパス触媒コンバータよりも上流側となる位置に配置された上流側空燃比センサと、
上記バイパス通路の上記バイパス触媒コンバータ下流側でかつ上記排気還流通路の分岐点より上流側の位置に配置された下流側空燃比センサと、
排気還流が行われている条件下で上記上流側空燃比センサおよび下流側空燃比センサの出力に基づいて触媒の劣化を判定する劣化診断手段と、
を備えていることを特徴とする内燃機関の触媒劣化診断装置。
【請求項2】
上記劣化診断手段は、上記流路切換弁が開状態のまま劣化診断を行うことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の触媒劣化診断装置。
【請求項3】
上記流路切換弁が開状態にあるときにメイン通路から排気還流通路へとバイパス通路を逆流する排気の影響を受けない程度に、上記下流側空燃比センサが排気還流通路の分岐点から上流側へ離れていることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の触媒劣化診断装置。
【請求項4】
上記バイパス通路の上記バイパス触媒コンバータの下流側に第2のバイパス触媒コンバータを備え、上記排気還流通路は、両者の間となる位置から分岐していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の触媒劣化診断装置。
【請求項5】
上記バイパス通路の排気還流通路分岐点とメイン通路への合流点との間に、オリフィスが介装されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の触媒劣化診断装置。
【請求項6】
上記流路切換弁は、機関の冷間時に閉状態に、所定の暖機状態のときに開状態に、それぞれ制御されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の内燃機関の触媒劣化診断装置。
【請求項7】
内燃機関から排出された排気が流れるメイン通路と、
このメイン通路の一部をバイパスするように、上流側で該メイン通路から分岐するとともに、下流側で該メイン通路に合流するバイパス通路と、
このバイパス通路に介装されたバイパス触媒コンバータと、
上記メイン通路の上流側の分岐点から下流側の合流点までの間に設けられ、該メイン通路を開閉する流路切換弁と、
を備えた内燃機関の触媒劣化診断方法であって、
吸気系に還流する還流排気を上記バイパス通路のバイパス触媒コンバータ下流側から取り出すようにし、
排気還流が行われている条件下で上記バイパス触媒コンバータの上流側および下流側の排気空燃比に基づく触媒劣化診断を行うことを特徴とする内燃機関の触媒劣化診断方法。
【請求項8】
機関運転条件が、所定の触媒診断領域内でかつ所定の排気還流領域にあるときに、流路切換弁が開状態のまま劣化診断を行うことを特徴とする請求項7に記載の内燃機関の触媒劣化診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−154810(P2007−154810A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353194(P2005−353194)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】