説明

内燃機関の軸受構造

【課題】内燃機関の回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受で支持する場合に、低温時に潤滑油の昇温を促進させ、高温時に潤滑油による冷却を促進させる。
【解決手段】軸受保持部13には、潤滑油供給路41が形成され、軸受保持部13とラジアルすべり軸受30間には、潤滑油供給路41と連通し、且つ軸受保持部13の回転軸方向両端面に開口しない軸受背面油路42が形成され、ラジアルすべり軸受30には、軸受背面油路42を通る潤滑油をラジアルすべり軸受30とクランクジャーナル18間の隙間に流入させるための潤滑油流入口44が形成されている。潤滑油供給路41に供給された潤滑油は、軸受背面油路42を通ってから潤滑油流入口44を介してラジアルすべり軸受30とクランクジャーナル18間の隙間に流入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の軸受構造に関し、特に、内燃機関の回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受で支持し、ラジアルすべり軸受を軸受保持部で保持する内燃機関の軸受構造に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受で支持する軸受構造の関連技術が下記特許文献1に開示されている。特許文献1の内燃機関の軸受構造では、コネクティングロッド大端部における軸受メタルが嵌合される大端孔の内周面に油溝が多数形成されている。油溝の両端は、軸受メタルに設けられた通孔を介してクランクピン側から油溝に導入された潤滑油を大端部の嵌合部分外へ導出すべく、大端部の軸線方向端面に開放している。これによって、コネクティングロッド大端部と軸受メタルとの間でフレッティング磨耗が発生するのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−74237号公報
【特許文献2】特開平6−74230号公報
【特許文献3】特開2009−144623号公報
【特許文献4】特開2010−127375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関の回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受で支持する場合に、低温時には、潤滑油の粘度が高いため、回転軸が回転するときの粘性摩擦損失が大きくなる。粘性摩擦損失を小さくするためには、潤滑油の温度を速やかに上昇させて潤滑油の粘度を速やかに低くする必要がある。回転軸がラジアルすべり軸受に対して回転する際には、ラジアルすべり軸受と回転軸間の隙間に供給された潤滑油がせん断力により発熱するので、潤滑油の温度を速やかに上昇させて粘性摩擦損失を小さくするためには、せん断力により発生した熱を外部へ逃がさないようにすることが望ましい。一方、潤滑油の粘度が低く、粘性摩擦損失が小さい高温時において、潤滑油による冷却を促進させるためには、潤滑油の熱を外部へ逃がしやすくすることが望ましい。
【0005】
特許文献1では、コネクティングロッド大端部と軸受メタルとの間のフレッティング磨耗を防止するために、軸受メタルが嵌合される大端孔の内周面に形成された油溝は、その両端を大端部の軸線方向端面に開放させて、潤滑油が軸線方向端面から外部へ流れ出るようにしている。そのため、低温時において、せん断力により潤滑油に発生した熱が外部へ逃げやすくなり、潤滑油の昇温により潤滑油の粘度を速やかに低くして粘性摩擦損失を小さくすることは困難である。
【0006】
本発明は、内燃機関の回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受で支持する場合に、低温時に潤滑油の昇温を促進させ、高温時に潤滑油による冷却を促進させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る内燃機関の軸受構造は、上述した目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明に係る内燃機関の軸受構造は、内燃機関の回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受で支持し、ラジアルすべり軸受を軸受保持部で保持する内燃機関の軸受構造であって、軸受保持部には、潤滑油供給路が形成され、軸受保持部とラジアルすべり軸受間には、潤滑油供給路と連通し、且つ軸受保持部の回転軸方向両端面に開口しない軸受背面油路が形成され、ラジアルすべり軸受には、軸受背面油路を通る潤滑油をラジアルすべり軸受と回転軸間の隙間に流入させるための潤滑油流入口が形成され、潤滑油供給路に供給された潤滑油が、軸受背面油路を通ってから潤滑油流入口を介してラジアルすべり軸受と回転軸間の隙間に流入することを要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、低温時においては、潤滑油の粘度が高く、ラジアルすべり軸受外周の軸受背面油路を通る潤滑油の流速が低くなり、潤滑油と軸受保持部間の熱伝達率が低くなる。そのため、回転軸とラジアルすべり軸受の摺動摩擦により発生した熱が軸受保持部に逃げ難くなり、回転軸とラジアルすべり軸受間の隙間に供給された潤滑油の摺動摩擦熱による昇温が促進される。一方、高温時においては、潤滑油の粘度が低く、ラジアルすべり軸受外周の軸受背面油路を通る潤滑油の流速が高くなり、潤滑油と軸受保持部間の熱伝達率が高くなる。そのため、回転軸とラジアルすべり軸受の摺動摩擦により発生した熱が軸受背面油路の潤滑油に逃げやすくなるとともに、軸受背面油路の潤滑油から軸受保持部への熱伝達も盛んになり、潤滑油による冷却が促進される。
【0010】
本発明の一態様では、軸受保持部とラジアルすべり軸受間には、軸受背面油路が複数形成され、複数の軸受背面油路同士を連通させるための連通路がさらに形成されていることが好適である。
【0011】
本発明の一態様では、軸受背面油路は、軸受周方向に沿って形成されていることが好適である。
【0012】
本発明の一態様では、軸受背面油路は、軸受周方向の全周に渡って形成されていることが好適である。
【0013】
本発明の一態様では、軸受保持部におけるラジアルすべり軸受を保持する保持面が、回転軸方向において軸受背面油路を挟んで形成されていることが好適である。
【0014】
本発明の一態様では、軸受保持部におけるラジアルすべり軸受との対向面に溝が形成されていることで、軸受背面油路が形成されていることが好適である。
【0015】
本発明の一態様では、ラジアルすべり軸受における軸受保持部との対向面に溝が形成されていることで、軸受背面油路が形成されていることが好適である。
【0016】
本発明の一態様では、軸受保持部とラジアルすべり軸受間における軸受背面油路の形成された面積割合が30%以上であることが好適である。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、内燃機関の回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受で支持する場合に、低温時に潤滑油の昇温を促進させることができ、高温時に潤滑油による冷却を促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の軸受構造の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る内燃機関の軸受構造の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る内燃機関の軸受構造の概略構成を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る内燃機関の軸受構造の概略構成を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る内燃機関の軸受構造の概略構成を示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係る内燃機関の軸受構造の概略構成を示す図である。
【図7】軸受保持部とラジアルすべり軸受との間における軸受背面油路の形成された面積割合に対する潤滑油の温度及び粘度の関係を計算した結果を示す図である。
【図8】軸受保持部とラジアルすべり軸受との間における軸受背面油路の形成された面積割合に対する潤滑油の粘度低減率の関係を計算した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0020】
図1〜6は、本発明の実施形態に係る内燃機関の軸受構造の概略構成を示す図である。図1は軸受構造の回転軸方向から見た断面図を示し、図2は軸受構造の回転軸方向に垂直な方向から見た断面図を示し、図3,4はラジアルすべり軸受30及び軸受保持部13の分解斜視図を示し、図5,6は軸受保持部13の回転軸方向に垂直な方向から見た図を示す。本実施形態に係る内燃機関の軸受構造では、内燃機関の回転軸であるクランクシャフトのクランクジャーナル18が潤滑油を介してラジアルすべり軸受(ジャーナルすべり軸受とも称される)30で支持され、ラジアルすべり軸受30が軸受保持部13で保持される。
【0021】
軸受保持部13は、内燃機関のシリンダブロックの一部分により構成される軸受保持部本体20と、軸受保持部本体20に締結されるキャップ21とを含んで構成される。軸受保持部13(軸受保持部本体20及びキャップ21)には、鉄やアルミニウム等の金属材料が用いられる。軸受保持部本体20には、略半円筒形状の凹曲面である軸受装着面13Aが形成されており、キャップ21には、略半円筒形状の凹曲面である軸受装着面13Bが形成されている。締結部材であるボルト15により軸受保持部本体20にキャップ21を締結することで、クランクジャーナル18が挿通される貫通孔が軸受装着面13A,13B間に形成され、半割り構造のラジアルすべり軸受30が軸受装着面13A,13Bに装着されることで軸受保持部13に保持される。軸受保持部13(軸受保持部本体20)には潤滑油供給路41が形成されており、オイルポンプからの潤滑油が潤滑油供給路41に供給される。オイルポンプから潤滑油供給路41に潤滑油を供給するための構成自体は周知の構成で実現可能であるため、図1〜6では図示を省略している。
【0022】
ラジアルすべり軸受30は、回転軸の周方向に関して2分割された略半円筒形状の半割り軸受メタル31A,31Bにより構成される。一方の半割り軸受メタル31Aは軸受保持部本体20の軸受装着面13Aに装着されることで軸受装着面13Aと対向し、他方の半割り軸受メタル31Bはキャップ21の軸受装着面13Bに装着されることで軸受装着面13Bと対向し、2つの半割り軸受メタル31A,31Bの周方向に関する両端部同士を合わせることで、ラジアルすべり軸受30が構成される。各半割り軸受メタル31A,31Bは、裏金と、裏金の内周側に形成されたライニング層としての軸受合金層とを含んで構成される。裏金の種類としては、例えば鋼等が挙げられ、軸受合金層の種類としては、例えば銅−鉛合金やアルミニウム合金等が挙げられる。
【0023】
本実施形態では、軸受保持部本体20の軸受装着面13A(半割り軸受メタル31Aとの対向面)及びキャップ21の軸受装着面13B(半割り軸受メタル31Bとの対向面)に溝が形成されていることで、軸受背面油路42が軸受保持部13の軸受装着面13A,13Bとラジアルすべり軸受30(半割り軸受メタル31A,31B)の外周面との間に形成されている。軸受背面油路42は潤滑油供給路41と連通しており、潤滑油供給路41に供給された潤滑油が軸受背面油路42に流入する。図1〜6に示す例では、複数の軸受背面油路42(溝)が回転軸方向(クランクシャフト軸線方向)に互いに間隔をおいて形成されており、複数の軸受背面油路42(溝)同士を連通させるための連通路43(溝)が回転軸方向に沿って軸受保持部本体20の軸受装着面13Aに形成されている。各軸受背面油路42(溝)は、軸受周方向に沿って形成されており、軸受周方向の全周に渡って形成されていることで、軸受背面油路42に流入した潤滑油は軸受周方向に沿って流れる。軸受装着面13Aにおける半割り軸受メタル31Aを保持する部分(保持面)13C及び軸受装着面13Bにおける半割り軸受メタル31Bを保持する部分(保持面)13Dは、回転軸方向において軸受背面油路42を挟んで形成されている。これによって、軸受背面油路42は軸受保持部13の回転軸方向両端面には開口せず、軸受背面油路42に供給された潤滑油が軸受保持部13の回転軸方向両端面から流出するのが防止される。なお、軸受背面油路42(溝)及び連通路43(溝)の断面形状は特に限定されるものではなく、例えば半円形状であってもよいし、角断面形状であってもよい。
【0024】
ラジアルすべり軸受30には、複数の軸受背面油路42をラジアルすべり軸受30の内周面とクランクジャーナル18の外周面間の隙間と連通させることで、軸受背面油路42を通る潤滑油をラジアルすべり軸受30の内周面とクランクジャーナル18の外周面間の隙間に流入させるための潤滑油流入口44が形成されている。図1〜6に示す例では、複数の潤滑油流入口44が回転軸方向に互いに間隔をおいて半割り軸受メタル31Bに形成されており、各潤滑油流入口44が各軸受背面油路42とそれぞれ連通している。各潤滑油流入口44は、潤滑油供給路41に対して軸受周方向に関する位置をずらして(図1〜6に示す例では180°)形成されている。なお、半割り軸受メタル31A,31B同士の合わせ面(軸受周方向両端面)間にクリアランスを形成することで、潤滑油流入口44を形成することも可能である。
【0025】
オイルポンプから潤滑油供給路41に供給された潤滑油は、図1,4の矢印に示すように、各軸受背面油路42を軸受周方向に沿って流れてから、各潤滑油流入口44を介してラジアルすべり軸受30の内周面とクランクジャーナル18の外周面間の隙間に流入する。ラジアルすべり軸受30は、クランクジャーナル18を潤滑油を介して回転自在に支持することで、クランクジャーナル18の径方向に沿った荷重を潤滑油を介して受ける。クランクジャーナル18がラジアルすべり軸受30に対して回転する際には、ラジアルすべり軸受30とクランクジャーナル18間の隙間に供給された潤滑油がせん断力(摺動摩擦)により発熱する。ラジアルすべり軸受30とクランクジャーナル18間の隙間に供給された潤滑油は、ラジアルすべり軸受30の回転軸方向両端部から外部へ流出する。ここでの潤滑油は、油膜を形成することにより、回転軸と軸受が焼き付くことなく機関を運転すること、回転軸と軸受との摩擦損失や磨耗を低減することを主な役割とするが、冷却、洗浄、防錆等の役割も果たしている。
【0026】
潤滑油の熱伝導率(鉱物油:0.15W/m・K)は、金属(鉄:80W/m・K)と比較して約1/500小さい。本実施形態では、ラジアルすべり軸受30背面に形成された軸受背面油路42(溝)の開口面積及び深さに応じた体積を軸受保持部13(金属)に代わって潤滑油が満たすことになる。内燃機関の始動直後等、低温時においては、潤滑油の粘度が高く、オイルポンプの吐出圧に対抗して潤滑油が流れ難くなる。よって、軸受背面油路42を通る潤滑油の流量(流速)が低くなり、潤滑油と金属間の熱伝達率が低くなるため、ラジアルすべり軸受30背面が全面で軸受装着面13A,13Bに接している場合と比較して、クランクジャーナル18とラジアルすべり軸受30の摺動摩擦により発生した熱が軸受保持部本体20やキャップ21に逃げ難くなる。すなわち、ラジアルすべり軸受30は軸受背面油路42を通る潤滑油により略断熱され、ラジアルすべり軸受30とクランクジャーナル18間の隙間に供給された潤滑油の摺動摩擦熱による昇温が促進される。さらに、ラジアルすべり軸受30に発生した熱の一部は軸受背面油路42を通る潤滑油に伝わるが、ラジアルすべり軸受30から受熱した潤滑油が軸受背面油路42から潤滑油流入口44を介してラジアルすべり軸受30とクランクジャーナル18間の隙間に流入することによっても、潤滑油の昇温が促進される。これによって、潤滑油の粘度を速やかに低くすることができ、クランクジャーナル18が回転するときの粘性摩擦損失を速やかに低減することができる。
【0027】
なお、軸受背面油路42から軸受保持部13の外部へ潤滑油が流出すると、ラジアルすべり軸受30から受熱した潤滑油がラジアルすべり軸受30とクランクジャーナル18間の隙間に供給されるのを阻害することになる。これに対して本実施形態では、軸受背面油路42は、回転軸方向において、半割り軸受メタル31Aを保持する保持面13C間、及び半割り軸受メタル31Bを保持する保持面13D間に挟まれて形成されており、軸受保持部13の回転軸方向両端面には開放していない構造となっている。そのため、ラジアルすべり軸受30から受熱した軸受背面油路42の潤滑油が、軸受保持部13の回転軸方向両端面から外部へ流出することなく、ラジアルすべり軸受30とクランクジャーナル18間の隙間に供給される。
【0028】
一方、内燃機関の暖機後等、高温時においては、潤滑油の粘度が低く、潤滑油が流れやすくなる。よって、軸受背面油路42を通る潤滑油の流量(流速)が高くなり、潤滑油と金属間の熱伝達率が高くなる。そのため、ラジアルすべり軸受30に発生した熱が軸受背面油路42の潤滑油に逃げやすくなるとともに、軸受背面油路42の潤滑油から軸受保持部本体20やキャップ21への熱伝達も盛んになり、クランクジャーナル18とラジアルすべり軸受30の摺動部の冷却が順次供給される潤滑油によって促進される。
【0029】
軸受保持部13の軸受装着面13A,13Bとラジアルすべり軸受30との間における軸受背面油路42(溝)の形成された面積割合に対する潤滑油の温度及び粘度の関係を計算した結果を図7に示す。軸受装着面13A,13Bとラジアルすべり軸受30との間における軸受背面油路42(溝)の形成された面積割合は、軸受装着面13A,13Bの回転軸方向幅と軸受周方向長さとの積に対する、各軸受背面油路42(溝)の回転軸方向幅と軸受周方向長さとの積(合計値)の割合で表される。計算の際には、内燃機関の回転数を1200rpm、トルクを1.5Nm、雰囲気温度を20℃としている。図7に示すように、軸受背面油路42を形成することで、軸受背面油路42を形成しない場合(溝面積率0%)と比較して、潤滑油の温度をさらに上昇させることができ、潤滑油の粘度をさらに低下させることができる。軸受背面油路42を形成しない場合(溝面積率0%)に対する潤滑油の粘度の低減割合を図8に示す。図8に示すように、軸受背面油路42の形成された面積割合(溝面積率)が30%以上になると、潤滑油粘度の低減効果が顕著となる。そこで、本実施形態では、軸受装着面13A,13Bとラジアルすべり軸受30との間における軸受背面油路42(溝)の形成された面積割合を30%以上に設定することが好ましい。なお、軸受背面油路42の形成された面積割合は、ラジアルすべり軸受30の強度、負荷容量も考慮して決定することが好ましい。
【0030】
また、本実施形態では、軸受保持部13の軸受装着面13A,13Bとラジアルすべり軸受30との間に軸受背面油路42(溝)を形成する構造となっているため、ラジアルすべり軸受30(半割り軸受メタル31A,31B)を軸受装着面13A,13Bに装着する前においては、溝が外部に露出することになる。そのため、外部からの溝加工が容易となり、加工コストの大幅な増加を伴うことなく軸受背面油路42の形成が可能となる。例えば、軸受保持部本体20はシリンダブロックと一体構造になっているが、シリンダブロックを鋳造で製造する場合は、予め該当する溝を鋳型に形成しておけば、後で機械加工を施す必要はない。
【0031】
以上説明したように、本実施形態によれば、内燃機関の始動直後等の低温時における潤滑油の昇温促進による粘性摩擦損失低減と、内燃機関の暖機後等の高温時における潤滑油による冷却促進とを簡単な構造で且つ低コストで両立させて実現することができる。
【0032】
本実施形態では、半割り軸受メタル31Aの外周面(軸受保持部本体20の軸受装着面13Aとの対向面)及び半割り軸受メタル31Bの外周面(キャップ21の軸受装着面13Bとの対向面)に溝を形成することで、軸受背面油路42を軸受保持部13の軸受装着面13A,13Bとラジアルすべり軸受30(半割り軸受メタル31A,31B)の外周面との間に形成することも可能である。その場合は、軸受背面油路42を通る潤滑油とラジアルすべり軸受30との接触面積を増加させることができるため、低温時において、軸受背面油路42を通る潤滑油のラジアルすべり軸受30からの受熱をさらに促進させることができる。
【0033】
また、本実施形態では、軸受背面油路42を必ずしも軸受周方向の全周に渡って形成しなくてもよく、例えば軸受背面油路42を軸受保持部本体20の軸受装着面13Aと半割り軸受メタル31Aとの間だけや、キャップ21の軸受装着面13Bと半割り軸受メタル31Bとの間だけに形成する等、軸受背面油路42を軸受周方向に関して部分的に形成することも可能である。
【0034】
以上の説明では、本発明の実施形態に係る内燃機関の軸受構造として、クランクシャフトのクランクジャーナル18の軸受構造を例に挙げて説明した。ただし、本発明に係る内燃機関の軸受構造は、クランクシャフトのクランクジャーナル18の軸受構造以外に、例えば内燃機関のカムシャフトの軸受構造等、その他の内燃機関の回転軸の軸受構造にも適用することが可能である。
【0035】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
13 軸受保持部、13A,13B 軸受装着面、18 クランクジャーナル、20 軸受保持部本体、21 キャップ、30 ラジアルすべり軸受、31A,31B 半割り軸受メタル、41 潤滑油供給路、42 軸受背面油路、43 連通路、44 潤滑油流入口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受で支持し、ラジアルすべり軸受を軸受保持部で保持する内燃機関の軸受構造であって、
軸受保持部には、潤滑油供給路が形成され、
軸受保持部とラジアルすべり軸受間には、潤滑油供給路と連通し、且つ軸受保持部の回転軸方向両端面に開口しない軸受背面油路が形成され、
ラジアルすべり軸受には、軸受背面油路を通る潤滑油をラジアルすべり軸受と回転軸間の隙間に流入させるための潤滑油流入口が形成され、
潤滑油供給路に供給された潤滑油が、軸受背面油路を通ってから潤滑油流入口を介してラジアルすべり軸受と回転軸間の隙間に流入する、内燃機関の軸受構造。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の軸受構造であって、
軸受保持部とラジアルすべり軸受間には、軸受背面油路が複数形成され、複数の軸受背面油路同士を連通させるための連通路がさらに形成されている、内燃機関の軸受構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の内燃機関の軸受構造であって、
軸受背面油路は、軸受周方向に沿って形成されている、内燃機関の軸受構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1に記載の内燃機関の軸受構造であって、
軸受背面油路は、軸受周方向の全周に渡って形成されている、内燃機関の軸受構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1に記載の内燃機関の軸受構造であって、
軸受保持部におけるラジアルすべり軸受を保持する保持面が、回転軸方向において軸受背面油路を挟んで形成されている、内燃機関の軸受構造。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1に記載の内燃機関の軸受構造であって、
軸受保持部におけるラジアルすべり軸受との対向面に溝が形成されていることで、軸受背面油路が形成されている、内燃機関の軸受構造。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1に記載の内燃機関の軸受構造であって、
ラジアルすべり軸受における軸受保持部との対向面に溝が形成されていることで、軸受背面油路が形成されている、内燃機関の軸受構造。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1に記載の内燃機関の軸受構造であって、
軸受保持部とラジアルすべり軸受間における軸受背面油路の形成された面積割合が30%以上である、内燃機関の軸受構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−140914(P2012−140914A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−315(P2011−315)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】