説明

内燃機関を制御する方法及び装置

【課題】圧縮自己着火エンジンにおいて、NVO期間中に所望の量の燃料を所望のタイミングで確実に噴射することを可能にする手段を提供する。
【解決手段】エンジンは、PCM30により、低回転・低負荷領域では、燃料を圧縮自己着火させるHCCIモードで動作させられ、高回転領域又は高負荷領域では、燃料を火花点火で着火させるSIモードで動作させられる。このエンジンでは、HCCIモードでは、排気圧縮上死点付近に、吸気弁11と排気弁12とがともに閉じられるNVO期間が設けられ、NVO期間中に圧縮自己着火を促進するためのNVO噴射が行われる。NVO噴射においては、エンジン負荷が低いときほど燃料噴射弁18の燃料圧を高めることにより燃料噴射量が増やされる。これにより、低負荷時には、圧縮自己着火が十分に促進され、かつスモークの発生が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼室内において燃料と空気とを予混合することにより生成された混合気を、ピストンで圧縮して昇温させることにより自己着火させることが可能な内燃機関を制御する方法と装置とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
所定の運転状態、例えば低負荷・低回転状態では、燃焼室内で予め燃料と空気とをほぼ均一に混合させ、この混合気をピストンで圧縮することにより燃料の着火温度以上に昇温させて自己着火(以下「圧縮自己着火」という。)させるようにした予混合圧縮自己着火式の内燃機関(以下「圧縮自己着火エンジン」という。)は従来知られている(例えば、特許文献1、2参照)。かかる圧縮自己着火エンジンでは、一般に、排気行程と吸気行程の間の上死点付近に、排気弁と吸気弁とがともに閉弁される期間(以下「NVO(Negative valve overlap)期間」という。)を設け、燃焼室内に高温の内部EGRを残留させることにより、圧縮自己着火時に混合気の温度を高めるようにしている。
【0003】
かかる圧縮自己着火エンジンでは、混合気を圧縮自己着火させるときには、点火プラグで混合気に点火する場合に比べて、混合気の燃焼温度を低くすることができるので、燃焼室内でのNOx(窒素酸化物)の発生量を大幅に低減することができる。このため、NOx等を処理するための排気ガス浄化装置を簡素化ないしは小型化することができるといった利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7156070号明細書
【特許文献2】特開2003−097317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、圧縮自己着火エンジンにおいて混合気を圧縮自己着火させる場合、NVO期間中に燃焼室内の高温の内部EGR中に燃料の噴射(以下「NVO噴射」という。)を行えば、該燃料が改質されることと、燃焼して燃焼熱を生成し、この後の圧縮時に混合気の温度を十分に高めることとで、混合気を確実に自己着火させることができる。しかしながら、NVO期間は非常に短いので、例えば燃料噴射量が比較的多い場合には、NVO期間中に燃料を適切なタイミングで確実に噴射することはかなり困難である。なお、特許文献1に開示された圧縮着火式エンジンでは、NVO期間中に燃料を噴射するとともに、燃焼状態が不安定なときには燃料噴射量を多くするようにしている。また、特許文献2に開示された圧縮自己着火エンジンでは、意図する圧縮自己着火が起こるように燃料圧を調整するようにしている。
【0006】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされたものであって、圧縮自己着火エンジンにおいて、NVO期間中に所望の量の燃料を所望のタイミングで確実に噴射することを可能にし、ひいては圧縮自己着火を確実に行うことを可能にする手段を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明に係る、燃焼室内の燃料を圧縮自己着火させることによりトルクを生成することが可能な内燃機関(エンジン)の制御方法は、要求トルク(又はエンジン負荷)が所定の第1トルク(又は第1エンジン負荷)以上のときに実施される高負荷自己着火工程と、要求トルクが第1トルク未満のときに実施される低負荷自己着火工程とを有している。そして、高負荷自己着火工程では、各気筒サイクル(4行程)において、排気上死点前に排気弁を閉弁させるとともにパイロット燃料(NVO燃料)を第1燃料圧でもって噴射する(NVO噴射)。そして、排気上死点後においてパイロット燃料の噴射後に吸気弁を開弁させ、該吸気弁の開弁後にメイン燃料を自己着火するように噴射する(メイン噴射)。
【0008】
他方、低負荷自己着火工程では、気筒サイクルにおいて、排気上死点前に排気弁を閉弁させるとともにパイロット燃料を第1燃料圧より高い第2燃料圧でもって噴射する(NVO噴射)。そして、排気上死点後においてパイロット燃料の噴射後に吸気弁を開弁させ、該吸気弁の開弁後にメイン燃料を自己着火するように噴射する(メイン噴射)。
【0009】
本発明に係る内燃機関の制御方法においては、低負荷自己着火工程でのパイロット燃料の噴射量を、高負荷自己着火工程でのパイロット燃料の噴射量より多くするのが好ましい。また、同一の気筒サイクルにおけるパイロット燃料の噴射圧力(燃料圧)とメイン燃料の噴射圧力(燃料圧)とをほぼ等しくし又は等しくするのが好ましい。
【0010】
本発明に係る内燃機関の制御方法は、要求トルクが、第1トルク(又は第1エンジン負荷)より大きい所定の第2トルク(又は第2エンジン負荷)以上のときに、第1燃料圧より高い第3燃料圧で燃料を噴射するとともに、該燃料を火花点火させる火花点火工程をさらに有しているのが好ましい。この場合、第3燃料圧を第2燃料圧より高くするのがより好ましい。
【0011】
本発明に係る、燃焼室内の燃料を圧縮自己着火させることによりトルクを生成することが可能な内燃機関の制御装置は、高負荷自己着火制御手段と低負荷自己着火制御手段とを備えている。ここで、高負荷自己着火制御手段は、要求トルク(又はエンジン負荷)が所定の第1トルク(又は第1エンジン負荷)以上のときに、気筒サイクルにおいて、排気上死点前に排気弁を閉弁させるとともにパイロット燃料を第1燃料圧でもって噴射させる(NVO噴射)。そして、排気上死点後においてパイロット燃料の噴射後に吸気弁を開弁させ、該吸気弁の開弁後にメイン燃料を自己着火するように噴射させる(メイン噴射)。
【0012】
他方、低負荷自己着火制御手段は、要求トルクが第1トルク未満のときに、気筒サイクルにおいて、排気上死点前に排気弁を閉弁させるとともにパイロット燃料を第1燃料圧より高い第2燃料圧でもって噴射させる(NVO噴射)。そして、排気上死点後においてパイロット燃料の噴射後に吸気弁を開弁させ、該吸気弁の開弁後にメイン燃料を自己着火するように噴射させる(メイン噴射)。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る内燃機関の制御方法又は制御装置によれば、要求トルク(又はエンジン負荷)が低いときには、パイロット燃料の噴射圧力を高くするので、要求トルクが低いときには、多くのパイロット燃料を限られた噴射可能期間の中で噴射することができる。これにより、より多くの熱を発生させて圧縮上死点での自己着火温度を確保することができる。このため、圧縮自己着火が可能な運転領域を低負荷側に拡大することができる。
【0014】
また、この種の内燃機関では、低負荷領域ではNVO噴射の増量に起因してスモークが発生するといった問題がある。しかしながら、本発明に係る内燃機関の制御方法又は制御装置によれば、低負荷領域ではパイロット燃料の噴射圧力(燃料圧)が高くなるので、燃料の微粒化が促進される。このため、燃料の燃焼性が良好となり、NVO噴射の増量に起因するスモーク発生を防止又は抑制することができる。他方、NVO噴射の増量に起因するスモークの問題が生じない高負荷領域では、パイロット燃料の噴射圧力(燃料圧)が低くなるので、燃料噴射弁の開弁時間を最小にしつつ可及的に少ない噴射量でパイロット噴射を行うことができる。すなわち、トルク発生への寄与率の小さいパイロット噴射を高負荷領域では少なくして、内燃機関の運転効率を全体として向上させることができる。
【0015】
本発明に係る内燃機関の制御方法又は制御装置において、低負荷自己着火工程でのパイロット燃料の噴射量を、高負荷自己着火工程でのパイロット燃料の噴射量より多くする場合は、トルク発生への寄与率が低いパイロット噴射を高負荷領域で少なくすることができ、機関運転効率を全体として向上させることができる。
【0016】
一般に、この種の内燃機関では、パイロット噴射(NVO噴射)に比べて燃料噴射量が多いメイン噴射では、燃焼室内壁への燃料の付着量が増加するといった問題があり、この問題は燃料噴射量が多い高負荷時にはとくに顕著となる。しかし、本発明に係る内燃機関の制御方法又は制御装置において、同一の気筒サイクルにおけるパイロット燃料の燃噴射圧力(燃料圧)とメイン燃料の噴射圧力(燃料圧)とをほぼ等しくする場合は、メイン燃料の噴射圧力が従来に比べて高くなり、燃料の微粒化が促進される。このため、燃料噴射圧制御を複雑化することなく、高負荷時においてもメイン燃料の付着を防止ないしは抑制することができる。
【0017】
本発明に係る内燃機関の制御方法又は制御装置において、要求トルクが、第1トルクより大きい所定の第2トルク以上のときに、第1燃料圧ないしは第2燃料圧より高い第3燃料圧で燃料を噴射するとともに、該燃料を火花点火させる場合は、要求燃料量が多い高負荷領域で、所望の時期に所望の燃料を噴射することができ、内燃機関の出力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る制御装置を備えたエンジンの全体構成を示す模式図である。
【図2】本発明に係るエンジン制御を行うための制御マップの一例を示す図である。
【図3】本発明に係るエンジン制御を行う場合の、吸気弁及び排気弁の開閉タイミングのエンジン負荷に対する変化特性の一例を示す図である。
【図4】本発明に係るエンジン制御を行う場合の、過給圧、吸入空気量、EGR量及び空燃比のエンジン負荷に対する変化特性の一例を示す図である。
【図5】(a)はエンジンを火花点火モード(SIモード)で運転する場合の吸気弁及び排気弁のバルブリフト量のクランク角に対する変化特性を示す図であり、(b)はエンジンを均一充填圧縮着火モード(HCCIモード)で運転する場合の吸気弁及び排気弁のバルブリフト量のクランク角に対する変化特性を示す図である。
【図6】PCMにより行われる本発明に係るエンジン制御(燃料噴射制御)の制御手法を示すフローチャートである。
【図7】(a)は均一充填圧縮着火領域(HCCI領域)領域及び火花点火領域(SI領域)を、負荷及び要求NVO噴射量をパラメータとして表した図であり、(b)は均一充填圧縮着火領域(HCCI領域)及び火花点火領域(SI領域)を、負荷及び要求燃料圧をパラメータとして表した図であり、(c)は負荷に対する燃料圧の変化特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の実施形態を具体的に説明する。
図1に示すように、ガソリン等を燃料とする多気筒エンジン(内燃機関)には、紙面に直交する方向に直列配置された複数の気筒2(例えば、4気筒、6気筒・・・)を有するシリンダブロック3と、該シリンダブロック3の上側に配置されたシリンダヘッド4とを備えたエンジン本体部1が設けられている。エンジン本体部1の各気筒2にはピストン5が嵌挿され、ピストン5の上面とシリンダヘッド4の下面との間に所定容積の燃焼室6が形成されている。ピストン5は、コネクティングロッドを介して、クランク軸7と連結されている。クランク軸7は、ピストン5の往復運動に伴ってその中心軸回りに回転する。
【0020】
シリンダヘッド4内には、それぞれ燃焼室6の天井部に開口する吸気ポート9と排気ポート10とが、気筒2毎に形成されている。吸気ポート9は、燃焼室6の天井部から斜め上方に延びてシリンダヘッド4の吸気側(図1では右側)の側壁に開口し、排気ポート10は排気側(図1では左側)の側壁に開口している。吸気ポート9及び排気ポート10の側壁の各開口部には、それぞれ、吸気通路20及び排気通路25が接続されている。
【0021】
シリンダヘッド4には、気筒2毎に、吸気弁11と排気弁12とが設けられている。そして、吸気ポート9及び排気ポート10は、それぞれ、吸気弁11及び排気弁12によって開閉される。吸気弁11及び排気弁12は、それぞれ、シリンダヘッド4に配設された一対のカムシャフト(図示せず)等を含む動弁機構13により、クランク軸7の回転に同期して開閉駆動される。
【0022】
吸気弁11及び排気弁12の各動弁機構13には、それぞれ、可変バルブリフト機構(以下「VVL(Variable Valve Lift)」という。)14と、可変バルブタイミング機構(以下「VVT(Variable Valve Timing)」という。)15とが組み込まれている。VVL14は、カムシャフト(図示せず)に取り付けられたカムの揺動軌跡をPCM30からの指令に基づいて変更することにより、吸気弁11及び排気弁12のリフト量(開弁量)をエンジンの運転状態に応じて変更する。
【0023】
VVT15は、クランク軸7に対するカムシャフト(図示せず)の回転位相をPCM30からの指令に基づいて変更することにより、吸気弁11及び排気弁12の開閉タイミング(位相角度)をエンジンの運転状態に応じて変更する。そして、VVL14及びVVT15の作動に応じて、吸気弁11及び排気弁12のリフト特性が変更され、その結果、各気筒2への吸入空気量や残留既燃ガス(内部EGR)の量が調整される。なお、VVL14及びVVT15は、一般に用いられているものであって当業者には公知であるので、その詳しい説明は省略する。
【0024】
シリンダヘッド4には、各気筒2の燃焼室6に臨むように点火プラグ16が設けられている。点火プラグ16は、その上方に設けられた点火回路17からの給電に応じて、所定のタイミングで放電(火花点火)を行う。さらに、シリンダヘッド4には、吸気側(図1では右側)の側方から燃焼室6に臨むように燃料噴射弁18が設けられている。燃料噴射弁18へは、高圧燃料ポンプ19から燃料通路を介して、燃料が供給される。なお、高圧燃料ポンプ19は、例えばスピール弁によって駆動され、燃料噴射弁18への燃料の供給圧すなわち燃料圧を低圧から高圧までの広い範囲で自在に変化させることができる。そして、燃料噴射弁18は、所定の噴射タイミング(吸気行程等)で燃焼室6に対して燃料を直接噴射し、燃焼室6内に所定の空燃比の混合気を生成する。
【0025】
エンジンの吸気側(図1では)には吸気通路20が配設されている。空気の流れ方向(矢印方向)にみて、吸気通路20の下流端は、シリンダヘッド4の吸気側の側壁に接続され、吸気ポート9と連通している。そして、エアクリーナ(図示せず)によりダスト等の異物が除去された空気が、順に吸気通路20と吸気ポート9とを通って、各気筒2の燃焼室6に供給される。
【0026】
吸気通路20の途中部にはサージタンク21が介設されている。吸気通路20は、空気の流れ方向にみてサージタンク21より上流側では、全気筒に共通な単一の通路(以下「共通吸気通路部」という。)となっている。この共通吸気通路部には、例えばバイワイヤー化した電子制御式のスロットル弁22が配設されている。他方、サージタンク21より下流側では、吸気通路20は気筒2毎に分岐した通路(以下「分岐吸気通路部」という。)となっている。ここで、スロットル弁22により流量が調整された空気は、分岐吸気通路部を通って、各気筒2の燃焼室6に導入される。
【0027】
空気の流れ方向にみて、スロットル弁22の上流側の吸気通路20(共通吸気通路部)には、吸入空気を加圧するための過給機23が設けられている。この過給機23は、バッテリ(図示せず)等から供給される電力で作動する電動モータ24により回転駆動され、モータ回転数を制御することにより過給圧を変更することができる。
【0028】
エンジンの排気側(図1では左側)には排気通路25が配設されている。排気ガスの流れ方向(矢印方向)にみて、排気通路25の上流端は、シリンダヘッド4の排気側の側壁に接続され、排気ポート10と連通している。そして、各気筒2の燃焼室6で混合気が燃焼すると、燃焼によって生成された既燃ガス(排気ガス)が排気通路25を通って外部に排出される。排気通路25の途中部には、排気ガス中の有害成分を浄化する、三元触媒を用いた触媒コンバータ27が設けられている。このエンジンでは、NOx生成量が少ないので、NOxの処理効率を高めるための特別な装置、例えばNOxトラップ触媒等は設けられていない。
【0029】
エンジンには、その動作を統括的に制御する制御装置として、CPU、各種メモリ等で構成されるコンピュータを備えた制御装置(以下「PCM(Power Train Control Module)」という。)30が設けられている。PCM30は、本明細書の課題を解決するための手段の欄に記載された「高負荷自己着火制御手段」及び「低負荷自己着火制御手段」を含むエンジンの総合的な制御装置であって、エンジンの各部に設けられたセンサ類と電気的に接続されている。具体的には、PCM30は、クランク軸7の回転角(クランク角)を検出するクランク角センサ31、吸気通路20内を流れる空気の量を検出するエアフローセンサ32、スロットル弁22を開閉操作するアクセルペダル(図示せず)の操作量すなわちアクセル開度を検出するアクセル開度センサ33、各気筒2の燃焼室6内の圧力を検出する筒内圧センサ34、及び、該エンジンを搭載している車両の速度を検出する車速センサ35と電気的に接続されている。
【0030】
さらに、PCM30は、サージタンク21内の空気の温度すなわち各気筒2の燃焼室6に供給される空気の温度を検出する吸気温センサ36、及び、高圧燃料ポンプ19から燃料噴射弁18に供給される燃料の圧力すなわち燃料圧ないしは噴射圧力を検出する燃料圧センサ37と電気的に接続されている。つまり、上記各種センサ31〜37によって検出された各制御情報が、それぞれ電気信号としてPCM30に入力される。
【0031】
PCM30は、上記各種センサ31〜37の検出値に基づいて、エンジンの運転状態に応じて、VVL14、VVT15、点火回路17、燃料噴射弁18、高圧燃料ポンプ19等の各部の動作を統括的に制御し、エンジンの種々の制御を行う。しかしながら、一般的なエンジン制御、例えば空燃比制御、点火時期制御等の制御手法は当業者にはよく知られており、また一般的なエンジン制御は本願発明の要旨とするところでもないので、以下では、主として本願発明の要旨に関連する圧縮自己着火に関連する制御の制御手法を説明する。
【0032】
PCM30は、吸気行程中に予め生成された混合気(予混合気)を圧縮行程の終期付近で圧縮自己着火させる均一充填圧縮自己着火(以下「HCCI(Homogeneous Charge Compression Ignition)」という。)モードと、点火プラグ16を用いて火花点火により混合気を強制的に着火させる火花点火(以下「SI(Spark Ignition)」という)モードとの間で燃焼形態を自在に切り替えることができる。
【0033】
以下、PCM30の機能をより詳しく説明する。PCM30は、ハードウェアとしてみれば実質的に一体形成されたコンピュータである。なお、PCM30を構成する個々の部品ないしは装置は、必要に応じて取り付けたり取り外したりすることができるのはもちろんである。しかしながら、PCM30は、機能的にみれば、運転状態判定部、吸排気制御部、過給機制御部、燃料噴射制御部、記憶部等に分類することができる。
【0034】
PCM30において、運転状態判定部は、各種センサ31〜37からの入力値に基づいて、エンジン負荷又は要求トルク、エンジン回転数等を算出するとともに、エンジン負荷及びエンジン回転数に基づいて、エンジンの運転状態が制御マップ(図2参照)中のどの運転領域に該当するかを判定する。吸排気制御部は、VVL14及びVVT15を制御して吸気弁11及び排気弁12のリフト特性を運転状態に応じて変更することにより、エンジンの吸排気に関する動作を制御する。過給機制御部は、電動モータ24の駆動を制御することにより、過給機23の駆動/非駆動や、過給機23を駆動する場合における過給圧をエンジンの運転状態に応じて制御する。
【0035】
燃料噴射制御部は、各種センサ31〜37からの入力値に基づいて、エンジンの運転状態に応じて、燃料噴射弁18の燃料噴射量、燃料圧(燃料噴射圧力)、噴射パルス幅及び燃料噴射時期、並びに、高圧燃料ポンプ19の駆動状態及び吐出圧等を制御する(以下、この制御を「燃料噴射制御」という。)。記憶部は、エンジンの制御に必要な各種データやプログラム等を記憶する。なお、記憶部は、例えば図2に示すような、エンジンの運転状態に応じた各種制御を行うための制御マップを記憶している。
【0036】
図2は、エンジン制御を行うための制御マップの一例を示している。図2に示すように、この制御マップには、HCCI領域A(均一充填圧縮自己着火)とSI領域B(火花点火領域)とからなる2つの運転領域が設定されている。そして、エンジンの運転状態が両領域A、Bのうちのいずれに入っているかに応じて、エンジンの燃焼形態が選択される。具体的には、高回転領域又は高負荷領域に設定されたSI領域BではSIモードが選択され、低回転・低負荷領域に設定されたHCCI領域AではHCCIモードが選択される。
【0037】
さらに、HCCI領域Aは、過給機23を作動させるか否かに応じてさらに2つの領域A1と領域A2とに分けられる。すなわち、両領域A1、A2のうち、低負荷側に設定されたNAHCCI領域A1では、過給機23の駆動が停止されて自然吸気(NA)により吸気が行われる。他方、領域A1よりも高負荷側に設定された過給HCCI領域A2では、過給機23が駆動されて吸気通路20内の空気が加圧され、過給が行われる。そして、図2に示す制御マップに基づくエンジンの運転状態の判定が運転状態判定部によって行われ、この判定結果に基づいて、吸排気制御部、過給機制御部及び燃料噴射制御部が、VVL14、VVT15、過給機23、燃料噴射弁18及び高圧燃料ポンプ19の動作を制御する。
【0038】
図3は、吸排気制御部により吸気弁11及び排気弁12の開閉タイミングがどのように制御されるかを示すタイミングチャートである。具体的には、図3は、エンジンの運転状態が、図2に示す制御マップにおいて、ラインLで示すように変化したときに、吸気弁11及び排気弁12の開閉タイミングがエンジン負荷に応じてどのように変化するかを示している。図3において、「IVC」は吸気弁11の閉弁時期であり、「IVO」は吸気弁11の開弁時期であり、「EVC」は排気弁12の閉弁時期であり、「EVO」は排気弁12の開弁時期である。また、図3では、エンジンの膨張行程、排気行程、吸気行程、圧縮行程が縦方向に順に記載されている。なお、「TDC」及び「BDC」は、それぞれ「上死点」及び「下死点」を表している。
【0039】
図3に示すように、エンジンの運転状態がHCCI領域Aに入っているときには、排気弁12の閉弁時期(EVC)は排気上死点(排気行程と吸気行程の間の上死点)よりも進角し、かつ吸気弁11の開弁時期(IVO)が排気上死点よりも遅角するように、VVL14及びVVT15が制御される。これにより、排気行程から吸気行程にかけて、吸気弁11及び排気弁12が両方とも閉弁されるNVO期間が設けられる。そして、後で詳しく説明するように、このNVO期間中に、燃料噴射弁18によりNVO噴射が行われ、少量の燃料が噴射される。
【0040】
したがって、排気行程を過ぎた後でも、所定量の排気ガスが内部EGRガスとして気筒2内に残留する。また、気筒2内では、主として吸気行程中に、燃料噴射弁18によりメイン噴射が行われる。この燃料は圧縮行程後期までの間に十分な時間をかけて混合され、ほぼ均一な混合気(予混合気)が生成される。このように生成された混合気は、ピストン5の圧縮により発生する熱と、内部EGRガスが有する熱と、NVO噴射により噴射された燃料の燃焼熱とによって、燃料ないしは混合気の着火温度ないしは燃焼温度以上に昇温され、自己着火により燃焼する。
【0041】
さらに、HCCI領域Aでは、吸気弁11の閉弁時期(IVC)は、圧縮下死点(吸気行程と圧縮行程の間の下死点)よりも比較的大きく遅角側にずらされ、予混合気の実質的な圧縮開始が相対的に遅めに設定される。このため、気筒2の有効圧縮比が小さくなり、圧縮による発生熱量が低減される。その結果、予混合気の温度が過度に上昇して異常燃焼が発生するのが防止される。
【0042】
他方、エンジン負荷が大きくなりその運転状態がSI領域Bに移行したときには、吸気弁11の開弁時期(IVO)及び排気弁12の閉弁時期(EVC)が、それぞれ排気上死点に近づけられる。これにより、SI領域Bでは、NVO期間は設けられず、内部EGRによる排気ガスの還流は行われなくなる。なお、図3に示す例では、排気上死点の前後で吸気弁11及び排気弁12がともに開弁される若干の開弁オーバーラップ期間が設けられている。そして、内部EGRが行われないSI領域Bでは、混合気が自己着火しないので、混合気の燃焼は、点火プラグ16を用いた火花点火により行われる。すなわち、SI領域Bでは、圧縮上死点(圧縮行程と膨張行程の間の上死点)付近で、点火プラグ16により火花を発生させる。かくして、火花発生部(点火源)からの火炎伝播により、混合気は強制的に燃焼させられる。
【0043】
また、SI領域Bでは、吸気弁11の閉弁時期(IVC)が圧縮下死点に近いタイミングに戻され、有効圧縮比がピストン5の全ストロークに応じた圧縮比(幾何学的圧縮比)に近づけられる。このため、混合気が十分な圧縮比で圧縮されてから点火され、この点火に伴って比較的大きな燃焼エネルギーが発生する。なお、排気弁12の開弁時期(EVO)は、HCCI領域A及びSI領域Bの全運転領域にわたって、ほぼ一定に維持される。具体的には、膨張下死点(膨張行程と排気行程の間の下死点)よりわずかに進角したタイミングでほぼ一定に維持される。
【0044】
このように、高回転側又は高負荷側に設定されたSI領域Bで混合気を火花点火により強制的に燃焼させるのは、HCCI領域Aで行われる圧縮自己着火による燃焼では、十分に高い出力を得ることができないからである。圧縮自己着火領域の高負荷側限界は空燃比のリッチ化によるNOx生成量の増大と、最大圧力上昇率の増大(燃焼ノイズ増加)により制約されるため、HCCIモードによる燃焼を行わず、火花点火により強制的に混合気を燃焼させるSIモードを選択するようにしている。なお、SIモードでの混合気の生成は、吸気行程から圧縮行程までの期間に、エンジン負荷に応じて適宜のタイミングで燃料噴射弁18から燃料を噴射することにより行われるが、SI領域Bのような高負荷域では、主として吸気行程中に燃料噴射が行われる。
【0045】
図4は、過給圧(ブースト)、吸入空気量(空気)、EGR量(EGR)及び空燃比(A/F)が、エンジン負荷に対してどのように変化するかを示している。図4に示すように、エンジン負荷が小さいNAHCCI領域A1では、過給機23が作動しないので、過給圧(ブースト)はゼロに維持される。そして、エンジン負荷が増加して過給HCCI領域A2に移行すると、過給機23の作動が開始され、エンジン負荷に応じて過給圧が上昇する。このような過給機23の作動により、気筒2内には、スロットル弁22の開度に応じた量以上の空気が吸入される。このため、過給HCCI領域A2での吸入空気量(空気)は、NAHCCI領域A1に比べて高い増加率で増加する。エンジン負荷がさらに増加して過給HCCI領域A2からSI領域Bに移行すると、過給機23は一旦停止する。しかし、全負荷に近い領域では、エンジン出力を確保するために過給機23が作動し、過給圧が高められる。
【0046】
また、気筒2に残留する内部EGRの量は、NVO期間の増減に伴い(図3参照)、HCCI領域Aにおいて略V字状に変化する。他方、SI領域Bでは、内部EGRが行われないので、その量はゼロになる。さらに、空燃比(A/F)は、燃料噴射弁18からの燃料噴射量及び吸入空気量に応じて、HCCI領域Aではリーンに設定され、SI領域Bではそれよりもリッチ(例えば理論空燃比近傍)に設定される。
【0047】
以下、PCM30(とくに、運転状態判定部燃料噴射制御部)によって実行される、燃料噴射弁18の燃料噴射量、噴射パルス幅及び燃料噴射時期等を制御するとともに、高圧燃料ポンプ19の吐出圧等を制御する、本発明の要旨に係る「燃料噴射制御」の制御手法を説明する。まず、図5(a)、(b)を参照しつつ、燃料噴射制御の概要を説明する。
【0048】
図5(b)に示すように、この燃料噴射制御では、エンジンの運転状態がHCCIモードであるときには、排気弁12の開弁期間と吸気弁11の開弁期間とを、排気上死点付近で両弁12、11がともに閉弁されるNVO期間が存在するように設定する。そして、排気上死点前においてNVO期間中に、噴射した燃料が自己着火するように燃料噴射弁18によりNVO噴射(パイロット噴射)を行う。この後、排気上死点後においてNVO期間が終了して吸気弁11が開弁された後に、燃料噴射弁18によりメイン噴射を行う。なお、NVO噴射で噴射される燃料は、メイン噴射で噴射される燃料に比べて非常に少量である。
【0049】
かくして、吸気行程の後段及び圧縮行程の前段において、燃焼室6内にほぼ均一な混合気(予混合気)が形成される。この混合気は、圧縮上死点付近で自己着火する。その結果、混合気ないしは燃料は、火炎伝播を生じさせることなく急速に燃焼する。この場合、燃焼温度は火花点火の場合に比べて低いので、NOx発生量が大幅に低減される。
【0050】
HCCIモードでは、NVO期間を設けているので、燃焼室6内に高温の内部EGRが残留し、圧縮行程で混合気の温度を高めることができる。さらに、NVO噴射では、燃料燃焼室6内の高温の内部EGR中に燃料が噴射され、この燃料が改質されることと、燃焼して燃焼熱を発生させることとで、この後の圧縮行程で混合気の温度を十分に高めることができる。その結果、混合気を確実に自己着火させることができる。
【0051】
そして、要求トルク(又はエンジン負荷)が所定の第1トルク(又は第1エンジン負荷)以上のとき(以下「高負荷自己着火時」という。)には、第1燃料圧でもってNVO噴射を行う。これに対して、要求トルク(又はエンジン負荷)が第1トルク(又は第1エンジン負荷)未満のとき(以下「低負荷自己着火時」という。)には、第1燃料圧より高い第2燃料圧でもってNVO噴射を行う。
【0052】
ここで、低負荷自己着火時のNVO噴射の燃料噴射量は、高負荷自己着火時のNVO噴射の燃料噴射量より多くする。また、同一の気筒サイクルでは、NVO噴射の燃料圧とメイン噴射の燃料圧とをほぼ等しくしあるいは等しくする。ここで、HCCIモードでは、NVO噴射を行う際に、要求トルク又はエンジン負荷が小さいときほど燃料噴射量を多くするようにしてもよい。この場合、要求トルク又はエンジン負荷が小さいときほど燃料圧すなわち燃料噴射圧力を高くすることにより燃料噴射量を多くするのが好ましい。
【0053】
他方、図5(a)に示すように、エンジンの運転状態がSIモードであるときには、排気弁12の開弁期間と吸気弁11の開弁期間とを、排気上死点付近で両弁12、11の開弁期間がオーバーラップするように設定する。そして、排気上死点後において、吸気弁11が開弁された後に1回だけ燃料噴射を行う。この後、圧縮上死点前に、点火プラグ16により混合気に点火する。その結果、混合気ないしは燃料が火炎伝播により燃焼する。なお、SIモードにおける燃料圧は、HCCIモードの場合の第1燃料圧又は第2燃料圧よりも高く設定する。
【0054】
かくして、この燃料噴射制御では、エンジンの運転状態がHCCIモードであるときにおいて、低負荷自己着火時には、NVO噴射の燃料圧を高くするので、NVO噴射ではより多くの燃料を限られたNVO期間内に確実に噴射することができる。したがって、より多くの熱を発生させて圧縮上死点付近での自己着火温度を確保することができ、HCCI領域を低負荷側に拡大することができる。また、燃料圧が高いので燃料の微粒化が促進され、燃料の燃焼性が良好となり、NVO噴射の増量に起因するスモークの発生を防止又は抑制することができる。
【0055】
他方、エンジンの運転状態がHCCIモードであるときにおいて、高負荷自己着火時には、NVO噴射の燃料圧が低いので、燃料噴射弁18の開弁時間を最小にしつつ可及的に少ない噴射量でNVO噴射を行うことができる。すなわち、高負荷自己着火時にはトルク発生への寄与率の小さいNVO噴射を少なくして、エンジンの運転効率を全体として向上させることができる。
【0056】
なお、エンジンの運転状態がHCCIモードであるときに、同一の気筒サイクルにおけるNVO噴射の燃料圧とメイン噴射の燃料圧とを等しくすれば、メイン噴射の燃料圧が従来に比べて高くなり、燃料の微粒化が促進される。このため、燃料圧の制御機構を複雑化することなく、高負荷自己着火時におけるメイン燃料の燃焼室内壁への付着を防止又は抑制することができる。
【0057】
以下、図6に示すフローチャートに従って、PCM30(とくに燃料噴射制御部)によって実行される燃料噴射制御の制御手法を具体的に説明する。図6に示すように、燃料噴射制御が開始されると(スタート)、まずステップS10で燃焼モードの判定を行う。具体的には、例えば図2に示す制御マップを用いて、エンジン負荷とエンジン回転数(すなわちエンジン回転速度)とに基づいて、エンジンの運転状態がHCCI領域Aに入っていればHCCIモードであると判定し、SI領域Bに入っていればSIモードであると判定する。ステップS10で、燃焼モードがHCCIモードであると判定したときは、順にステップS11〜S19を実行し、燃料噴射弁18によりNVO噴射とメイン噴射とを行い、点火プラグ16による点火を行うことなく、圧縮自己着火により燃料を燃焼させる。
【0058】
以下、ステップS11〜S19で実行されるHCCIモードでの具体的な制御動作を説明する。
ステップS11では、NVO噴射のための燃料噴射量(以下「NVO噴射量」という。)と、メイン噴射のための燃料噴射量(以下「メイン噴射量」という。)とを算出する。ここで、NVO噴射量は、例えば図7(a)に示す制御マップを用いて、エンジン負荷とエンジン回転数とに基づいて算出する。
【0059】
図7(a)に示すように、この制御マップでは、NVO噴射量は、エンジン負荷が小さいときほど多くなるように設定されている。このように、エンジン負荷が小さいときほどNVO噴射量を多くしてNVO燃料の燃焼による熱発生量を増加させるようにしているので、内部EGRの温度が低い低負荷領域でも、圧縮上死点付近での自己着火温度を確保することができ、HCCI領域を低負荷側に拡大することができる。他方、メイン噴射量は、所望のエンジントルクが得られるよう、エンジン負荷、エンジン回転数等に基づいて普通の手法で算出する。なお、NVO噴射量は、メイン噴射量に比べて少量である。
【0060】
ステップS12では、目標燃料圧を算出する。目標燃料圧は、例えば図7(b)に示す制御マップを用いて、エンジン負荷とエンジン回転数とに基づいて算出する。図7(b)に示すように、この制御マップでは、目標燃料圧は、エンジン負荷が小さいときほど高くなるように設定されている。なお、図7(c)に、エンジン回転数が一定である場合における、燃料圧のエンジン負荷に対する変化特性の一例を示す。図7(c)に示すように、この実施形態では、HCCI領域においてエンジン回転数が一定とすれば、燃料圧は負荷の増加に伴って直線的に低下する。なお、目標燃料圧は、NVO噴射及びメイン噴射に共通である。
【0061】
このように、エンジン負荷が小さいときほど燃料圧を高くしているので、低負荷領域ではNVO噴射量が比較的多いのにもかかわらず、噴射時間をほとんど増加させる必要はなく、燃料を非常に短いNVO期間中に確実に噴射することができる。また、燃料圧が高いので、燃料の微粒化が促進され、燃料の燃焼性が良好となり、NVO噴射の増量に起因するスモークの発生を防止又は抑制することができる。
【0062】
ステップS13では、ステップS12で算出された目標燃料圧が実現されるよう、高圧燃料ポンプ19を駆動する。ステップS14では、燃料圧センサ37によって検出される燃料圧に基づいて、燃料圧を、目標燃料圧が実現されるよう補正する。ステップS15では、NVO噴射量と燃料圧とに基づいて、NVO噴射の噴射パルス幅、すなわちNVO噴射における燃料噴射弁18の開弁時間を算出する。なお、一般に、燃料噴射量は、燃料圧と燃料噴射弁18の開弁時間(噴射パルス幅)の積に比例する。ステップS16では、ステップS15で算出された噴射パルス幅で燃料噴射弁18を開弁させ、NVO噴射を実行する。
【0063】
ステップS17では、燃料圧センサ37によって検出される燃料圧に基づいて、燃料圧を、目標燃料圧が実現されるよう再び補正する。このように、燃料圧を再び補正するのは、NVO噴射により燃料圧が若干変化するおそれがあるからである。ステップS18では、メイン噴射量と燃料圧とに基づいて、メイン噴射の噴射パルス幅、すなわちメイン噴射における燃料噴射弁18の開弁時間を算出する。ステップS19では、ステップS18で算出された噴射パルス幅で燃料噴射弁18を開弁させ、メイン噴射を実行する。この後、ステップS10に復帰する(リターン)。
【0064】
前記のステップS10で、燃焼モードがSIモードであると判定したときは、順にステップS20〜S25を実行し、燃料噴射弁18により普通の燃料噴射を行い、点火プラグ16による点火により燃料を燃焼させる。以下、ステップS20〜S25で実行されるSIモードにおける具体的な制御動作を説明する。
【0065】
ステップS20では、エンジン負荷とエンジン回転数とに基づいて、普通の手法で燃料噴射量を算出する。ステップS21では、エンジン回転数に基づいて目標燃料圧を算出する。図7(c)に示すように、この実施形態では、SI領域においてエンジン回転数を一定とすれば、燃料圧は負荷にかかわらず一定である。なお、図7(c)から明らかなとおり、SIモードにおける燃料圧は、HCCIモードにおける低負荷時の燃料圧よりも高く設定している。
【0066】
ステップS22では、ステップS21で算出された目標燃料圧が実現されるよう、高圧燃料ポンプ19を駆動する。ステップS23では、燃料圧センサ37によって検出される燃料圧に基づいて、燃料圧を、目標燃料圧が実現されるよう補正する。ステップS24では、燃料噴射量と燃料圧とに基づいて、燃料噴射の噴射パルス幅、すなわち燃料噴射弁18の開弁時間を算出する。ステップS25では、ステップS24で算出された噴射パルス幅で燃料噴射弁18を開弁させ、燃料噴射を実行する。この後、ステップS10に復帰する(リターン)。
【0067】
この燃料噴射制御において、HCCIモードでは、前のサイクルの高温の既燃ガスすなわち内部EGRが有する熱と、NVO噴射による燃料の燃焼熱とを、次のサイクルの圧縮自己着火の熱源としている。そして、低負荷時には、内部EGRの温度(排気温)が低いので、燃料ないしは混合気の圧縮自己着火を確実に行わせるには、高負荷時に比べて、圧縮自己着火の熱源の熱量を多くする必要がある。ここで、圧縮自己着火の熱源の熱量を多くする手法としては、NVO期間を長くして内部EGR量を多くするといった手法と、NVO噴射量を多くするといった手法とが考えられる。
【0068】
燃費性と制御性のバランスを考慮すると、NVO期間を長くするといった手法よりも、NVO噴射量を多くするといった手法の方が有利である。そして、NVO噴射量は、燃料噴射弁18の噴射パルス幅を広げることにより、又は燃料圧を高くすることにより増やすことができる。ここで、両者を比較すると、単純に燃料噴射弁18の噴射パルス幅を広げるよりも、燃料圧を高くする方が、燃料の微粒化が促進され、その分スモークが低減されるので有利である。そこで、この燃料噴射制御では、燃料圧を高くすることによりNVO噴射量を増やすようにしている。このように燃料圧を高くすることによりNVO噴射量を増やす場合、NVO噴射の噴射パルス幅を、最小噴射パルス幅に保ったままで所定のNVO噴射量を確保できるように燃料圧を高めるのが好ましい。
【0069】
以上、本発明の実施形態によれば、HCCIモードにおけるNVO噴射では、HCCI領域を低負荷側に拡大しつつ、非常に短いNVO期間中に所望の量の燃料を所望のタイミングで確実に噴射することができる。このため、圧縮上死点付近での自己着火温度を確保することができ、NVO噴射の増量に起因するスモークの発生を防止ないしは抑制することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 エンジン本体部、2 気筒、3 シリンダブロック、4 シリンダヘッド、5 ピストン、6 燃焼室、7 クランク軸、9 吸気ポート、10 排気ポート、11 吸気弁、12 排気弁、13 動弁機構、14 VVL、15 VVT、16 点火プラグ、17 点火回路、18 燃料噴射弁、19 高圧燃料ポンプ、20 吸気通路、21 サージタンク、22 スロットル弁、23 過給機、24 電動モータ、25 排気通路、27 触媒コンバータ、30 PCM、31 クランク角センサ、32 エアフローセンサ、33 アクセル開度センサ、34 筒内圧センサ、35 車速センサ、36 吸気温センサ、37 燃料圧センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室内の燃料を圧縮自己着火させることによりトルクを生成することが可能な内燃機関を制御する方法であって、
要求トルクが所定の第1トルク以上のときに、気筒サイクルにおいて、排気上死点前に排気弁を閉弁させるとともにパイロット燃料を第1燃料圧でもって噴射し、排気上死点後において前記パイロット燃料の噴射後に吸気弁を開弁させ、該吸気弁の開弁後にメイン燃料を自己着火するように噴射する高負荷自己着火工程と、
要求トルクが上記第1トルク未満のときに、気筒サイクルにおいて、排気上死点前に排気弁を閉弁させるとともにパイロット燃料を上記第1燃料圧より高い第2燃料圧でもって噴射し、排気上死点後において前記パイロット燃料の噴射後に吸気弁を開弁させ、該吸気弁の開弁後にメイン燃料を自己着火するように噴射する低負荷自己着火工程とを有することを特徴とする内燃機関を制御する方法。
【請求項2】
上記低負荷自己着火工程でのパイロット燃料の噴射量を、上記高負荷自己着火工程でのパイロット燃料の噴射量より多くすることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関を制御する方法。
【請求項3】
同一の気筒サイクルにおけるパイロット燃料の噴射圧力とメイン燃料の噴射圧力とをほぼ等しくすることを特徴とする、請求項1又は2に記載の内燃機関を制御する方法。
【請求項4】
要求トルクが、上記第1トルクより大きい所定の第2トルク以上のときに、上記第1燃料圧より高い第3燃料圧で燃料を噴射するとともに、該燃料を火花点火させる火花点火工程をさらに有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の内燃機関を制御する方法。
【請求項5】
上記第3燃料圧を上記第2燃料圧より高くすることを特徴とする、請求項4に記載の内燃機関を制御する方法。
【請求項6】
燃焼室内の燃料を圧縮自己着火させることによりトルクを生成することが可能な内燃機関の制御装置であって、
要求トルクが所定の第1トルク以上のときに、気筒サイクルにおいて、排気上死点前に排気弁を閉弁させるとともにパイロット燃料を第1燃料圧でもって噴射させ、排気上死点後において前記パイロット燃料の噴射後に吸気弁を開弁させ、該吸気弁の開弁後にメイン燃料を自己着火するように噴射させる高負荷自己着火制御手段と、
要求トルクが上記第1トルク未満のときに、気筒サイクルにおいて、排気上死点前に排気弁を閉弁させるとともにパイロット燃料を上記第1燃料圧より高い第2燃料圧でもって噴射させ、排気上死点後において前記パイロット燃料の噴射後に吸気弁を開弁させ、該吸気弁の開弁後にメイン燃料を自己着火するように噴射させる低負荷自己着火制御手段とを備えていることを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−236496(P2010−236496A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87586(P2009−87586)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】