説明

内部アルキン含有樹脂を用いたひずみセンサ

【課題】簡略化されたプロセスによるひずみセンサ材料を提供することを課題とする。
【解決手段】下記一般式(1)で表される内部アルキン含有樹脂を提供する。
【化1】


(式中、RおよびRはそれぞれ独立に置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基を示し、pは0<p<1である。nは平均重合度である。Rは樹脂化合物を構成する高分子鎖を示す。)
提供された内部アルキン含有樹脂を用いて、これを被測定物の表面に貼着し、ひずみセンサとして用いることにより、簡略化されたプロセスによるひずみセンサが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微ラマン分光法を用いて、ラマン不活性な材料からなる部品の微小領域に生じたひずみを測定可能とするひずみセンサに用いる内部アルキン含有樹脂、その製造方法、それを用いたひずみセンサ及びひずみセンサ作製用溶液、並びに微小部分のひずみ測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製品の信頼性向上、長寿命化の観点から、微小領域の応力・ひずみ測定への要求は高い。顕微ラマン分光法は、μmオーダーの高い空間分解能を有するため、微小部分の観測に適しており、特定のラマン活性材料については微小部の応力・ひずみ測定に用いられている。ラマン不活性の材料に対する顕微ラマン分光を用いたひずみ測定法およびそれに用いるひずみセンサは、非特許文献1及び非特許文献2に記載されている。
【0003】
上記文献によると、このセンサに用いる材料は、合成したジアセチレン含有ポリマー(下記式(a))のフィルムを100℃、40時間加熱することにより、ポリ(ジアセチレン)(下記式(b))へと変換することにより得ている。
【化2】

【0004】
この文献において、ひずみセンサとしての特性は、試験片の表面にポリマー(b)を成膜し、種々の力を加えてひずみを与えながらラマンスペクトルを測定し、アセチレン部分由来のピークの位置の変化を見ることにより評価されている。
【非特許文献1】Journal of Materials Science 27,5958(1992)
【非特許文献2】Macromolecules 25,684(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記手法により成膜する方法においては、プレポリマー膜の作製を行った後で、100℃で40時間という長時間加熱をしなければならないので、作業環境等に大きな制約がある。例えば、炉に入らない大型部品や取り外しのできない部品は処理できないなど、対象物に制約が生じる。また、耐熱性の低いプラスチック材料からなる部品には適用できないという制約がある。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、加熱を必要としない簡略化されたプロセスによってひずみや応力を測定することができる新規な内部アルキン含有樹脂、その製造方法、それを用いたひずみセンサ及びひずみセンサ作製用溶液、並びに微小部分のひずみ測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記一般式(1)で表される内部アルキン含有ポリマーが前記条件に合致することを見出した。
【化3】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立に置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基を示し、pは0<p<1である。nは平均重合度である。Rは樹脂化合物を構成する高分子鎖を示す。)
【0008】
前記一般式(1)において、RおよびRで表されるアルキル基としては、二価以上のアルキル基(例えば、メチレン、エタン−1,2−ジイル、エタン−1,1−ジイル、プロパン−1,1−ジイル、プロパン−1,2−ジイル、プロパン−1,3−ジイル等の直鎖、分岐の炭素数1〜20、望ましくは2〜8の二価のアルキル基)等が挙げられる。
【0009】
また、前記一般式(1)において、RおよびRで表される二価のアリール基としては、o−フェニレン、p−フェニレン、チオフェン−2,5−ジイル、チオフェン−2,3−ジイル、ピリジン−2,5−ジイル、ピリジン−2,3−ジイル、ピリジン−4,5−ジイル、ナフタレン−1,4−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、ナフタレン−1,2−ジイル、ナフタレン−1,7−ジイル、アントラセン−9,10−ジイル、アントラセン−1,4−ジイル、アントラセン−2,6−ジイル、アントラセン−1,7−ジイル、ビフェニレン−4,4’−ジイル、フルオレン−2,7−ジイル、ジフェニルメタン−4,4’−ジイルが挙げられ、これらの芳香族化合物の芳香環上が置換された化合物も含まれる。
【0010】
アリール基の芳香環上が置換された化合物としては、アルコキシベンゼン−1,4−ジイル、アルキルベンゼン−1,4−ジイル、アリールベンゼン−1,4−ジイル、アリーロキシベンゼン−1,4−ジイル、2,5−、2,3−、2,6−ジアルコキシベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5−トリアルコキシベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5,6−テトラアルコキシベンゼン−1,4−ジイル、2,5−、2,3−、2,6−ジアルキルベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5−トリアルキルベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5,6−テトラアルキルベンゼン−1,4−ジイル、2,5−、2,3−、2,6−ジアリールベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5−トリアリールベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5,6−テトラアリールベンゼン−1,4−ジイル、2,5−、2,3−、2,6−ジアリーロキシベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5−トリアリーロキシベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5,6−テトラアリーロキシベンゼン−1,4−ジイル、アルコキシチオフェン−2,5−ジイル、アルキルチオフェン−2,5−ジイル、アリールチオフェン−2,5−ジイル、アリーロキシチオフェン−2,5−ジイル、ジアルコキシチオフェン−2,5−ジイル、ジアルキルチオフェン−2,5−ジイル、ジアリールチオフェン−2,5−ジイル、ジアリーロキシチオフェン−2,5−ジイル、9,9−ジアルコキシフルオレン−2,7−ジイル、9,9−ジアリールフルオレン−2,7−ジイル、9,9−ジアリーロキシフルオレン−2,7−ジイルが挙げられる。
【0011】
で示される樹脂化合物を構成する高分子鎖は、イソシアネート化合物と化学結合するための官能基を有する高分子からなる高分子鎖であれば用いることができる。このような基材ポリマーとして、例えば、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂等、末端にカルボキシ基やアミノ基やヒドロキシ基を有するポリマーが挙げられる。これらの樹脂はそれらの末端官能基に架橋剤を結合させることができる。このような樹脂として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン−MXD 6等が挙げられる。また、基材ポリマーとして化学結合するための官能基を有する生分解性高分子を用いることもできる。このような生分解性高分子として、例えば、ポリ乳酸、澱粉、酢酸セルロース、(キトサン/セルロース/澱粉)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)、ポリ(ブチレンサクシネート/カーボネート)、ポリエチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート/テレフタレート)、ポリビニルアルコール等の合成高分子系の生分解性プラスチックや、ポリ(ヒドロキシブチレート/ヒドロキシバリレート)等が挙げられる。
【0012】
前記一般式(1)で表される樹脂化合物は、ブチンジオール、二価以上のイソシアネート、樹脂化合物を溶媒に溶かし、加熱反応を行うことにより、得ることができる。この場合の反応は式(c)で表される。
【0013】
【化4】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立に置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基を示し、pは0<p<1である。nは平均重合度である。Rは樹脂化合物を構成する高分子鎖を示す。)
【0014】
この重合においては、この種の反応において通常用いられる種々の溶媒を用いることができる。これを例示すれば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)等である。
【0015】
前記一般式(1)および式(c)において、pは内部アルキンの導入率であり、0<p<1の任意の値をとることができる。
【0016】
前記一般式(1)および式(c)において、nは平均重合度であり、1<nの任意の値を取ることができる。
【0017】
=Rとすることもできる。これであれば,内部アルキン含有樹脂を共重合の手法でより容易に製造することができる。
【0018】
本発明の内部アルキン含有樹脂を用いて、これを被測定物の表面に貼着し、ひずみセンサとして用いることができる。すなわち、本発明の微小部分のひずみ測定方法は、本発明の内部アルキン含有樹脂を被測定物の表面に貼着してひずみセンサとする第1工程と、該被測定物に応力またはひずみを付与しつつ、該被測定物に貼着されたひずみセンサの所定位置におけるラマンスペクトルを測定する第2工程とを有することを特徴とする。
【0019】
内部アルキン含有樹脂を被測定物の表面に貼着するには、本発明の内部アルキン含有樹脂を溶媒に溶解してひずみセンサ作製用溶液とし、これを被測定物表面に塗布し乾燥させることにより行うことができる。本発明の内部アルキン含有樹脂は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、トリフルオロ酢酸等の有機酸、トルエンやTHF、DMF等の通常の有機溶剤に容易に結晶化することなく溶解するから、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法等の通常の塗布法を用いて簡易に成膜化して薄膜を形成できるものであり、ひずみセンサの構成材料に用いることが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、測定対象物を加熱しなくてもひずみセンサ膜を測定対象部物に貼着することができるため、測定対象物を炉内に入れる必要が無くなり、対象物の寸法や材料の制約が取り除かれる。このため、多種多用な形状や材料の部材の微小部のひずみ測定が可能となる。さらに、ひずみセンサの成膜を現場で、かつ部材の任意箇所に対して行えるため、実部品に発生するひずみを実負荷状態で測定できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0022】
実施例1
(ポリカプロラクトンを有する内部アルキン含有樹脂の合成)
窒素雰囲気下、両末端がヒドロキシ基のポリカプロラクトン(分子量:500)を1.00gと、1.00gの4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2−ブチン−1,4−ジオール0.1720gを5mLのトルエンに溶かして100℃で24時間撹拌した。その後、反応溶液をメタノールに注ぐことにより析出した粉末をろ過し、減圧乾燥することにより、アセチレンを含有する樹脂1(R=ポリカプロラクトン、R=R=ジフェニルメタン−4,4’−ジイル、p=0.5)を2.08gの白色の粉末として得た。
【0023】
得られた樹脂1の数平均分子量は12600(n=23.2)、重量平均分子量は20700(n=38.1)であった。また、C≡C由来のラマンシフトのピーク波数は2246cm−1であった。
【0024】
(樹脂のセンシング特性の評価)
樹脂1をクロロホルムに溶かして金属板にキャストした。自然乾燥させて成膜した後、続いて、金属板を曲げて、膜に引張りひずみを与えながらラマンスペクトルを測定することにより、ひずみセンサとしての特性を調べた。
【0025】
その結果、金属板を曲げる前の樹脂1のラマンスペクトルのC≡C由来のピーク波数が2246cm−1であった(図1参照)のに対し、金属板を曲げた状態での樹脂1のラマンスペクトルを測定したところ、C≡C由来のピーク波数は2240cm−1となり(図2参照)、引張りひずみによるピーク波数の移動が確認できた(図3参照)。
【0026】
実施例2
(ポリプロピレングリコールを有する内部アルキン含有樹脂の合成)
窒素雰囲気下、両末端がヒドロキシ基のポリプロピレングリコール(分子量400)0.40g)と、2−ブチン−1,4−ジオール0.0215g、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート0.3129gを5mLのDMFに溶かして加えて油浴下で100℃で24時間撹拌した。その後、反応溶液を水に注ぐことにより析出した粉末をろ過し、減圧乾燥することにより、樹脂2(R=ポリプロピレングリコール、R=R=ジフェニルメタン−4,4’−ジイル,p=0.5)を0.51gの白い粉末として得た。
【0027】
得られた樹脂2のクロロホルム可溶部の数平均分子量は1300(n=2.6)、重量平均分子量は2100(n=4.3)であった。得られた樹脂2のC≡C由来のラマンシフトは2242cm−1であった。
【0028】
(樹脂のセンシング特性の評価)
樹脂2をDMFに溶かして金属板にキャストし成膜した後、実施例1の場合と同様の方法でひずみセンサとしての特性を調べた。
【0029】
金属板を曲げる前の樹脂2のラマンスペクトルのC≡C由来のピーク波数が2242cm−1であったのに対し、金属板を曲げた後の樹脂2のラマンスペクトルを測定したところ、C≡C由来のピーク波数は2237cm−1となり、引張りひずみによるピーク波数の移動が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1で合成した樹脂1のラマンスペクトルである。実線は実測値であり、点線は実測値を基にカーブフィットさせたものである。
【図2】実施例1において測定した曲げた状態での樹脂1のラマンスペクトルである。実線は実測値であり、点線は実測値を基にカーブフィットさせたものである。
【図3】図1と図2でのカーブフィットさせたスペクトルの比較である。実線は曲げる前のものであり、点線は曲げた状態でのものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)に示す内部アルキン含有樹脂。
【化1】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立に置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基を示し、pは0<p<1である。nは平均重合度である。Rは樹脂化合物を構成する高分子鎖を示す。)
【請求項2】
前記一般式(1)において、Rはポリオキシアルキレン鎖又はポリエステル鎖であることを特徴とする請求項1に記載の内部アルキン含有樹脂。
【請求項3】
前記一般式(1)において、R=Rであることを特徴とする請求項1又は2に記載の内部アルキン含有樹脂。
【請求項4】
前記一般式(1)において、R=R=4,4’−ジフェニルメチル基であることを特徴とする請求項1乃至3に記載の内部アルキン含有樹脂。
【請求項5】
ポリエーテルポリオール又は両末端がヒドロキシ基のポリカプロラクトンと、2−ブチン−1,4−ジオールと、2つ以上のイソシアネート基を有する化合物とを共重合させることを特徴とする内部アルキン含有樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に示した化合物からなり、被測定物の表面に貼着されることを特徴とするひずみセンサ。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか1項に示した化合物を溶媒に溶解させてなることを特徴とするひずみセンサ作製用溶液。
【請求項8】
請求項6のひずみセンサを被測定物に貼着させる第1工程と、該被測定物に応力を付与しつつ、該被測定物に貼着されたひずみセンサの所定位置におけるラマンスペクトルを測定する第2工程と、を有することを特徴とする微小部分のひずみ測定方法。
【請求項9】
前記第1工程は請求項7に記載のひずみセンサ作製用溶液を被測定物表面に塗布し乾燥させることにより行うことを特徴とする請求項6記載の微小部分のひずみ測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−96698(P2010−96698A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269614(P2008−269614)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【Fターム(参考)】