説明

内面シールを備えた直動案内ユニット

【課題】この直動案内ユニットは,多量の異物が発生する作業環境で使用されても,スライダの内側から循環路へ異物が侵入するのを防止し,スライダを軌道レール上でスムーズに摺動させる。
【解決手段】この直動案内ユニットは,スライダ2の下面33に形成した凹溝6に内面シール7を配設する。内面シール7は,芯金21と,それに固着された固着部23に一体の基部22から構成されたシール部材20とから構成されている。固着部23は,ケーシング3の凹溝6の底面58に接触した対接面24を備え,基部22は,軌道レール1の上面57に摺接する第1リップ25,凹溝6の側面50に当接する第2リップ26,及びエンドキャップ4の下面34に当接する第3リップ27を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,工作機械,特に,粉塵,切粉,切屑等の異物を多量に発生したり,加工液,冷却液等の液体が飛散するような厳しい作業環境で作動される切削機械,研削機械,木工機械等の工作機械に組み込んで使用され,軌道レール上を相対摺動するスライダの内側部から異物が軌道路へ侵入するのを防止する内面シールを備えた直動案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,直動案内ユニットとしては,それが組み込まれる機械装置の加工エリア,設置エリアの拡大により,粉塵,切粉,切肩,切削液等の異物を多量に発生するような厳しい使用環境において使用されても,長期間にわたり使用可能なものが求められている。直動案内ユニットを厳しい使用環境において使用できるようにするには,スライダ内に異物が侵入するのを防ぐことであるが,スライダ内にたとえ異物が侵入したとしても,少なくとも転動体が転走する軌道路を含む循環路に異物が侵入するのを防止することが最も要求される。しかも,最近では,直動案内ユニットでは,上記のように異物が循環路へ浸入するのを防止すると共に,装置自体をコンパクト化し,設備装置のコストダウン等を図る観点から,軌道レールが厳しい作業環境に露出して使用される状態であるにもかかわらず,従来のテレスコカバー,ジャバラ等の防塵装置を設けない仕様になっている。
【0003】
従来,リニアガイド装置において,インナーシール付ボール保持器を備えたものが知られている。該インナーシール付ボール保持器は,長方形の長手方向の両端に軸方向に突出する係止部が形成された芯金をゴム又は合成樹脂で被覆してなり,両側縁に円弧状の凹溝からなるボール保持部と,案内レールの上面及びこれに対向するスライダの内面に接触するインナーシール部が形成され,エンドキャップの差し込み凹部に係止部を嵌合してスライダの凹所に装着される。また,ボールは,保持器を装着した後にボール転動溝に組み込むことになっている(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,本出願人による直動転がり案内ユニットとして,エンドキャップをケーシングから取り外さずに,上面シールをスライダから取り外すことができる直動転がり案内ユニットを開発し,先に特許出願した。該直動転がり案内ユニットは,スライダ内の下面に上面シールが配設されており,上面シールをエンドキャップの挿入孔が形成された凸部に簡単に取付け取外しできるものに構成され,断面高さが小さいものに形成されている。上記直動転がり案内ユニットは,上面シールが板状芯金の両側縁に固着されたリップシールを有し,組立状態においてリップシールの両端面が側面シールに当接する。側面シールのねじを緩めると,側面シールによって長手方向の移動を拘束されていた上面シールは,拘束が解かれてスライド可能になる。上面シールをスライドさせれば,舌状突起部は挿入孔から簡単に抜ける。従って,上記直動転がり案内ユニットは,エンドキャップをケーシングから取り外さなくても,側面シールのねじを緩めさえすれば,上面シールをスライダから簡単に取り外すことができる(例えば,特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平7−301232号公報
【特許文献2】特許第3307504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,上記のリニアガイド装置におけるインナーシールは,ボールを保持する保持器と兼用される構造であるため,シール機能が充分ではなく,上記のような厳しい使用環境における長期間にわたり使用するには満足できるものではなく,また,それ自体の断面高さが大きい形状に構成されることになって,コンパクトな構造にするという要望に応えることができないものであった。
【0006】
また,上記の直動転がり案内ユニットに対して,更にシールの位置決めを正確に確実に達成し,軌道レールの上面に対してスライダに設けた内面シールのシールリップの摺接を滑らかにすると共に,スライダ内の軌道レール上からケーシングとエンドキャップとを通じて軌道路へ異物が浸入するのを防止し,更なるシール性の向上を図ったものが要求されるようになった。
【0007】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,上記の本出願人に係る直動転がり案内ユニットの技術的思想を踏襲し,上記課題を解決したものであって,工作機械に多用される転動体がローラでなる形式の直動案内ユニットに好適であり,特に,粉塵,切粉,切屑等の異物を多量に発生したり,加工液,冷却液等の液体が飛散するような厳しい作業環境で作動される工作機械に組み込んで使用されたとしても,スライダに配設された内面シールによって異物が転動体の転走する循環路に侵入するのを確実に防止し,しかも内面シールのリップの軌道レールへの摺接を滑らかにし,ケーシングとエンドキャップへの別のリップの密接状態を達成し,一層のシール性を確保することができる内面シールを備えた直動案内ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は,両側面の長手方向に沿って第1軌道面が形成された軌道レール及び前記軌道レールに跨架して複数の転動体を介して相対摺動するスライダを備え,前記スライダは,前記軌道レールの前記第1軌道面に対向して第2軌道面が形成され且つ前記第1軌道面と第2軌道面との間に形成される軌道路に平行なリターン路が形成されたケーシング,前記ケーシングの両端面に取り付けられ且つ前記軌道路と前記リターン路とを連通する方向転換路が形成されたエンドキャップ,並びに前記軌道路,前記リターン路及び一対の前記方向転換路から構成される循環路を転走する前記転動体を有する直動案内ユニットにおいて,
前記軌道レールの上面に対向する前記ケーシングの下面に形成された凹溝に配設された内面シールを有し,前記内面シールは,前記ケーシングと前記エンドキャップとの下面に沿って延びる平らな板状の芯金及び前記芯金に固着されたシール部材から成り,前記芯金は両端中央部に設けられた係止舌片が前記エンドキャップの係止部に係止して前記エンドキャップに取り付けられ,前記シール部材は,前記軌道レールの前記上面の両側にそれぞれ摺接して前記軌道レールの前記上面から前記軌道路に異物が侵入するのを防止する第1リップ,及び前記芯金の両側方に形成されて前記ケーシングの前記凹溝の側面に沿って当接して前記ケーシングの前記下面から前記軌道路に異物が侵入するのを防止する第2リップを備えており,前記第2リップは,前記第1リップの延びる方向と反対側方向に延びて前記第1リップを前記軌道レールの前記上面に滑らかに摺接するように位置決めすることを特徴とする直動案内ユニットに関する。
【0009】
また,この直動案内ユニットにおいて,前記第1リップと前記第2リップとは同一線上で互いに反対方向に延び,前記第1リップは前記内面シールの内側方向に延び,前記第2リップは前記内面シールの外側方向に延びているものである。
【0010】
また,前記内面シールの前記シール部材は,前記ケーシングに形成された前記凹溝の底面に密接可能な対接面を備え且つ前記芯金の両側に沿ってそれぞれ固着された固着部,及び前記固着部と一体で且つ前記第1リップと前記第2リップとを一体に備えた基部から構成されているものである。
【0011】
また,前記固着部は,前記第1リップを前記軌道レールの前記上面への滑らかな摺接状態に位置設定すると共に,前記第2リップを前記ケーシングに形成した前記凹溝の前記側面に摺接状態に位置設定するように,前記芯金に固着されているものである。
【0012】
また,前記エンドキャップの前記係止部は前記内面シールの前記係止舌片を差し込み挿入して係止する係止穴であり,前記係止穴は前記エンドキャップの前記下面に形成された逃がし凹溝に連続して形成されているものである。
【0013】
また,前記エンドキャップの前記下面は前記ケーシングの前記下面に対して上面側に段差になって形成され,前記内面シールの前記芯金は前記エンドキャップに対して傾斜させて前記エンドキャップの前記係止穴に差し込み可能になっている。
【0014】
また,前記内面シールの前記シール部材は,前記芯金の両端に位置して前記エンドキャップの前記下面に密接して前記エンドキャップの前記下面から前記軌道路に異物が侵入するのを防止する第3リップを備えている。
【0015】
また,前記内面シールの前記芯金は,前記芯金の両端中央部に位置する前記係止舌片と切欠き部によって隔置して前記芯金の両端両側部で前記係止舌片よりそれぞれ長く延びる側端部を備え,前記側端部は前記エンドキャップの前記係止部を挟むように位置している。更に,前記内面シールの前記芯金は,前記ケーシングの前記両端面に固定された前記エンドキャップに取り付けた状態で前記エンドキャップの一方の前記係止部に傾斜して挿入された後に前記他方の前記係止部に挿入され,前記内面シールは,前記エンドキャップの端面にそれぞれ配設された一対のエンドシールが前記芯金の前記側端部の端面に当接して位置決め固定される。
【発明の効果】
【0016】
この直動案内ユニットは,上記のように構成されており,特に,粉塵,切粉,切屑等の異物が多量に発生したり,加工液,冷却液等の液体や異物が飛散するような切削機械,研削機械,木工機械等の工作機械に適用した場合に,上記異物が飛散して軌道レール上に付着したとしても,スライダの下面に配設した内面シールに設けたリップ等によって上記異物がローラ等の転動体が転走する循環路へ侵入するのを完全に防止することができ,スライダが軌道レール上を常に確実に滑らかに摺動することができ,しかも内面シールのスライダへの取付けも簡単に行うことができ,装置全体を簡潔にコンパクトに,しかも安価に構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下,図面を参照して,この発明による直動案内ユニットの一実施例を説明する。この直動案内ユニットは,工作機械,産業機械等の各種の機械装置に使用しても,スライダ2の凹部の下面に装着した内面シール7が異物の循環路への侵入を確実に防止することができるものである。この実施例は,工作機械に使用されて好適な転動体がローラ5でなるローラ形直動案内ユニットに実施したものになっている。
【0018】
この直動案内ユニットは,図1及び図2に示すように,両側面56の長手方向に沿ってそれぞれ一対の軌道面11(第1軌道面)が形成された長尺状の軌道レール1,及び軌道レール1に跨架してローラ5でなる転動体を介して相対摺動自在なスライダ2を備えている。スライダ2は,概して,軌道レール1の軌道面11に対向して軌道面12(第2軌道面)が形成され且つ軌道面11と軌道面12との間に形成される軌道路19に平行なリターン路10が形成されたケーシング3,ケーシング3の両端面47に取り付けられ且つ軌道路19とリターン路10とを連通する方向転換路45が形成されたエンドキャップ4,ケーシング3の長手方向に対向して延び且つ軌道路19を転走するローラ5を保持する保持板13,並びに軌道路19,リターン路10及び一対の方向転換路45で構成される循環路を転走する複数のローラ5を有している。リターン路10は,ケーシング3に形成された嵌挿孔9に挿通されたスリーブ8によって形成されている。この直動案内ユニットにおいて,軌道レール1には,ベース等に軌道レール1を固定するための取付け用孔17が形成され,ケーシング3には,他の部品等の機器を取り付けるためザグリ穴48を備えた取付け用ねじ孔18が形成されている。
【0019】
この直動案内ユニットは,軌道路19においてローラ5が大きな負荷を受けながら軌道面11と軌道面12との間を転動するので,摺動不具合,異常摩耗,損傷等が生しないように,軌道レール1とスライダ2との隙間から異物が侵入するのを防ぐため,シールを配設することが不可欠なものになっており,エンドキャップ4の外端面46には,軌道レール1とスライダ2との隙間を封止するリップ部16を備えたエンドシール15が配設され,スライダ2を構成するケーシング3とエンドキャップ4との下面33,34には下面シール14が配設され,特に,厳しい作業環境で使用できるように,スライダ2内においてスライダ2内に位置する軌道レール1の上面57から軌道路19へと異物が侵入するのを防止するため,図3〜図12を参照して後述する内面シール7が設けられていることを特徴としている。この直動案内ユニットでは,スライダ2を構成するケーシング3とエンドキャップ4との両袖部間の凹部54,55の底部,即ち,凹部54,55の下面33,34には,内面シール7が配設されている。また,図2に示すように,スライダ2を構成するケーシング3の凹部54の両側の袖部には,それぞれ一対の循環路が形成されており,一対の循環路の内,一方のローラ5は,スライダ2の下方向の負荷を受ける下側の軌道路19からケーシング3の上側のリターン路10に循環し,他方のローラ5は,スライダ2の上方向の負荷を受ける上側の軌道路19からケーシング3の下側のリターン路10に循環して構成されている。エンドキャップ4に形成された方向転換路45は,図6又は図13に示すように,エンドキャップ4の凹部55の両側の袖部にたすき掛けに交差状態にそれぞれ形成されている。
【0020】
この直動案内ユニットは,特に,軌道レール1の上面57に対向するケーシング3の下面33に形成された凹溝6に配設された特徴ある構造を有する内面シール7を備えていることを特徴としている。内面シール7は,ケーシング3とエンドキャップ4との下面33,34に沿って延びる平らな板状の芯金21及び芯金21に固着されたシール部材20から構成されている。芯金21は,両端の中央部に形成された係止舌片29をエンドキャップ4の係止部30に係止してエンドキャップ4に取り付けられている。シール部材20は,ケーシング3に形成された凹溝6の底面58に密接する対接面24を備え且つ芯金21の両側に沿ってそれぞれ固着された固着部23,並びに固着部23と一体であり且つ第1リップ25,第2リップ26及び第3リップ27を一体に備えた基部22から構成されている。詳しくは,シール部材20を構成する基部22には,軌道レール1の上面57の両側にそれぞれ摺接して軌道レール1の上面57から軌道路19に異物が侵入するのを防止する第1リップ25,芯金21の両側方に形成されてケーシング3の凹溝6の側面50に沿って密接してケーシング3の下面33から軌道路19に異物が侵入するのを防止する第2リップ26,及び芯金21の両端側に形成されてエンドキャップ4の下面34に密接してエンドキャップ4の下面34から軌道路19に異物が侵入するのを防止する第3リップ27が設けられている。
【0021】
また,この直動案内ユニットにおいて,第2リップ26は,第1リップ25の延びる方向と反対側方向に延びて第1リップ25の摺接方向の剛性を高め,第1リップ25を軌道レール1の上面57に適正に滑らかに摺接するように位置決めする機能を果たすように構成されている。具体的には,第1リップ25と第2リップ26とは,同一線上で互いに反対方向に延び出しており,第1リップ25は内面シール7の内側方向に延び,また,第2リップ26は内面シール7の外側方向に延びて形成されている。更に,シール部材20を構成する固着部23は,第1リップ25を軌道レール1の上面57への滑らかな摺接状態に位置設定すると共に,第2リップ26をケーシング3に形成した凹溝6の側面50に密接状態に位置設定するように芯金21に固着されている。
【0022】
また,エンドキャップ4の係止部30には,内面シール7の係止舌片29を差し込み挿入する係止穴35が形成されている。係止穴35は,位置精度を高めるために,逃がし凹溝39を含めた大きさに形成され,即ち,エンドキャップ4の下面34に形成された逃がし凹溝39に段差無く連続した状態で係止部30に形成されている。また,エンドキャップ4の下面34は,ケーシング3の下面33に対して上面側に段差53になって形成されている。更に,内面シール7は,ケーシング3の両端面47に固定されたエンドキャップ4に取り付けた状態で,内面シール7における芯金21の一方の係止舌片29をエンドキャップ4の下面34に対して傾斜させて一方のエンドキャップ4の係止部30の係止穴35に差し込み可能であり,次いで,他方の係止舌片29は,一方の係止舌片29を係止穴35に差し込んだ後に,他方のエンドキャップ4の係止部30の係止穴35に差し込み可能になっている。内面シール7は,エンドキャップ4の端面46にそれぞれ配設された一対のエンドシール15によって内面シール7の両端の両側端部31に延びる芯金21の端面60に当接して位置決め固定されるものである。
【0023】
図3及び図4に示すように,内面シール7は,スライダ2のケーシング3とエンドキャップ4との両袖部間の凹部54,55になる底部,言い換えれば,ケーシング3の凹部54の下面33,及びケーシング3の両端に配設されたエンドキャップ4の凹部55の下面34にわたって延びるように配設されている。内面シール7は,主として,スライダ2の端面のエンドシール15のリップ部16を潜り抜けて,スライダ2内の軌道レール1の上面57に侵入してくる異物に対して,その異物が軌道路19に侵入するのを防止する機能を有している。軌道レール1の上面57に付着した異物は,特に,軌道レール1の中央に位置する多数の取付け用孔17とそれらに挿通した取付けボルトとのスペースに入り込んでおり,そこからスライダ2内に侵入してくるので,侵入してきた異物が軌道路19に侵入するのを防止するため,内面シール7には,軌道レール1の中央位置を挟んで長手方向に沿った両側に軌道レール1の上面57に摺接する第1リップ25が設けられている。第1リップ25は,長手方向に直交する断面で見て,スライダ2の凹部の底面の両側から軌道レール1の中央寄りに傾斜して延びて軌道レール1の上面57に摺接する先端部に形成され,中央寄り即ち内側方向に傾斜して形成されていることによって,先端部が軌道レール1と僅かなシメシロでも異物が軌道路19に侵入し難いものになっている。
【0024】
内面シール7は,両端部の中央部に形成された係止舌片29をエンドキャップ4の係止部30に形成された係止穴35に差し込み挿入してエンドキャップ4に取り付けられている。この直動案内ユニットは,ケーシング3に部材,機器等の高荷重が負荷される部品が取り付けられるものであり,ケーシング3の中央には,部品を取り付けるためのザグリ穴48を備えた取付け用ねじ孔18が形成されている。内面シール7には,図3又は図4に示すように,ケーシング3の凹部54の下面33から取付けボルトが取付け用ねじ孔18に挿入できるように,ケーシング3のザグリ穴48が見える大きさになる楕円状の逃し孔28が形成されている。即ち,逃がし孔28は,取付けねじ孔18より大きく形成されている。内面シール7の芯金21に形成された逃がし孔28は,ケーシング3の中央の取付け用ねじ孔18に対向した位置になる中央位置の両端側の2箇所に形成されている。更に,芯金21には,芯金21にシール部材20の固着部23を焼き付ける際に,芯金21を位置決めするための位置決め孔52が係止舌片29の中央部に近接して形成されている。また,図5に示すように,内面シール7は,ケーシング3の凹部54の下面33に長手方向に沿って形成された凹溝6に配設されている。凹溝6は,ケーシング3に最小のスペースで形成されることにより,ケーシング3の剛性低下の影響を小さいものにしている。凹溝6内に配設された内面シール7には,ケーシング3の凹溝6の内側になる側面50に沿って側面50に向かって延びる凸状の第2リップ26が形成されている。第2リップ26は,芯金21の両側に配設され,長手方向に直交する断面で見て,第1リップ25の反対方向に延びて形成されている。第2リップ26は,内面シール7をケーシング3の凹溝6に沿った向きに位置決めし,第2リップ26の弾力性により第1リップ25が軌道レール1の上面57に滑らかに摺接状態にする機能を有している。特に,第2リップ26は,軌道レール1の上面57から内面シール7の逃がし孔28を通じて侵入した粉塵,切粉,切屑,加工液,冷却液等の異物がケーシング3の下面33から軌道路19に侵入するのを防止している。
【0025】
また,内面シール7には,芯金21の両側に固着されたシール部材20を構成する固着部23が設けられており,固着部23は,ケーシング3の凹溝6の底面58に密接して軌道路19への異物の侵入を防止するための対接面24が形成されている。固着部23は,第1リップ25,第2リップ26, 及び第3リップ27のシールリップを芯金21に固定するための基部22と一体構造に構成されていると共に,ケーシング3の凹溝6の底面58に当接して第1リップ25の摺接状態を滑らかに位置設定している。ここで,軌道レール1の上面57への第1リップ25の滑らかな摺接とは,スライダ2の摺動抵抗が大きくならないように僅かなシメシロでリップの先端部が軌道レール1の上面57に当接している状態であり,外力等の外部状況の変化に遭遇しても柔軟に対応可能な摺接状態になっていることである。
【0026】
図6及び図7に示すように,エンドキャップ4の凹部55の下面34は,ケーシング3の凹溝6の下面33即ち底面58に対して上面側にδだけ段差53状態に形成されている。即ち,エンドキャップ4の係止部30の係止穴35は,内面シール7の芯金21の係止舌片29を斜めにして差し込み可能となるように,内面シール7の係止舌片29の厚さ,即ち芯金21の厚さより大きく形成され,且つエンドキャップ4の凹部55の下面34がケーシング3の下面33より上面方向にδだけの段差53に設定されている。言い換えれば,スライダ2におけるケーシング3とエンドキャップ4との段差53は,図11及び図12に示すように,内面シール7の一方の係止舌片29を傾斜させてエンドキャップ5の係止穴35に差し込み可能にするために設けられているものである。この直動案内ユニットでは,エンドキャップ4をケーシング3に固定した状態では,エンドキャップ4の係止穴35のレベルが同一であり,エンドキャップ4の係止穴35間の長さBKは,内面シール7を構成する芯金21の両端に設けた係止舌片29の端面間の長さLsよりも短くなっているので,エンドキャップ5の係止穴35には内面シール7の芯金21の一方の係止舌片29を傾斜させれば差し込み挿入できることになる。そこで,ケーシング3に対するエンドキャップ4の段差53の分だけの隙間に対して,エンドキャップ4の凹部55の下面34をシールするために,内面シール7の両端部には,エンドキャップ4の下面34に対向して凸状の第3リップ27が形成されている。第3リップ27は,エンドキャップ4の下面34から軌道路19へ異物が侵入するのを防止する機能を有している。
【0027】
図8〜図10に示すように,内面シール7は,長方形の平板状でなる芯金21,及び芯金21の長手方向の両側部分に焼き付けして固着された合成ゴム製のシール部材20から構成されている。シール部材20は,ケーシング3の凹溝6の底面58の密接する対接面24を備えて芯金21の側部の全長にわたり焼き付けされた固着部23と,固着部23に一体に構成された基部22とを有しており,基部22には,中央方向へ傾斜して延びて軌道レール1の上面57に滑らかに摺接する断面が舌状の第1リップ25,第1リップ25の反対方向に凸状に延びてケーシング3の凹溝6の側面50に密接する第2リップ26,及び他方の面である裏面にあって対接面24に隣接して第1リップ25と第2リップ26との中央部分で基部22の両端部分に基部22から垂直に凸状に延びてエンドキャップ4の下面34に密接する第3リップ27から構成されている。また,第1リップ25及び第2リップ26は,内面シール7の全長L1にわたり形成されている。対接面24は,中央部分である長さL2の範囲にわたって形成されている。第3リップ27は,エンドキャップ4の長さに相当する両端部である長さL3の範囲に形成されている。また,対接面24の長さL2は,ケーシング3の全長部分に相当し,また,第3リップ27の長さL3は,エンドキャップ4の厚さ分に相当している。
【0028】
また,この直動案内ユニットにおいて,内面シール7の芯金21の両端部には,両側に切欠き部32がそれぞれ形成され,切欠き部32間の中央部分に係止舌片29が形成され,また,係止舌片29と切欠き部32で隔置された外側には側端部31が形成されている。即ち,内面シール7の芯金21の両端部には,芯金21の両端中央部に位置する係止舌片29と,係止舌片29に切欠き部によって隔置された芯金21の両端両側部で係止舌片29よりそれぞれ長く延びる側端部31を備えており,側端部31は係止舌片29より長手方向に長く延びている。また,芯金21の側端部31は,エンドキャップ4の係止部30を挟むように配設されている。内面シール7は,係止舌片29がエンドキャップ4の係止部30に形成された係止穴35の挿入され,側端部31が係止部30を両側から挟む状態になって,エンドキャップ4に取り付けられている。
【0029】
この直動案内ユニットでは,内面シール7の芯金21の両端に形成されている係止舌片29の全長Lsは,内面シール7の芯金21の全長L1より短い長さになっている(Ls<L1)。係止舌片29の長さは,Lmに形成されており,芯金21の両側の側端部31の長さより短く形成されている。即ち,側端部31の長さは,〔(Ll−Ls)/2〕+Lmになっている。従って,芯金21の係止舌片29をエンドキャップ4の係止穴35に配置した状態では,芯金21の両側の側端部31がエンドキャップ4の係止部30の側面を挟持した状態になって,芯金21がエンドキャップ4に安定して固定された状態になる。また,内面シール7をスライダ2へ取り付けた取付状態における係止舌片29の係止穴35への挿入長さLmは,側端部31の長さより短くなるように設定されている。また,図13〜図15に示すように,エンドキャップ4の凹部55の底面(下面34)には,底面から凸状にして外端面46寄りの中央部に係止部30が形成されている。
【0030】
図11及び図12に示すように,ケーシング3の両端面47にエンドキャップ4を固着してローラ5が組み込みされた状態にあって,内面シール7の係止舌片29を,エンドキャップ4の係止部30の係止穴35に組み入れる状態を示したものになっている。内面シール7の装着は,内面シール7をエンドキャップ4の下面34に対して斜めにして,内面シール7の一方の係止舌片29を対向する一方のエンドキャップ4の係止部30にある係止穴35に差し込んで押し込み,次いで,他方の係止舌片29が他方のエンドキャップ4の係止部30をくぐるように内面シール7の傾斜状態を戻し,内面シール7をケーシング3の下面33に当接させて,他方の係止舌片29を他方のエンドキャップ4の係止部30にある係止穴35に差し入れる方向に移動させ,内面シール7の芯金21の端面60がエンドキャップ4の外端面46に一致する位置になったところで,内面シール7の両端が係着されて装着が完了する。この状態では,エンドキャップ4の係止穴35内に3個設けられた支持凸部51が,芯金21の係止舌片29を安定して支持するようになる。その後,両エンドキャップ4の端面46にエンドシール15をそれぞれ配設すれば,スライダ2の組立が完了することになる。また,この直動案内ユニットでは,内面シール7は,上記のように,ケーシング3の両端面47に固定されたエンドキャップ4に取り付けた状態で,一対のエンドシール15によって内面シール7の両端の両側端部31に延びる芯金21の端面60に当接して位置決め固定されているので,一方のエンドシール15のねじを緩めると,板状芯金21は緩めた側のエンドシール15の方へスライドさせることができ,それによって,他方のエンドシール15が取り付けられたエンドキャップ4の係止穴35から内面シール7の係止舌片29が抜け,内面シール7をスライダ2から取り外すことができるように設定されている。
【産業上の利用可能性】
【0031】
この発明による内面シールを備えた直動案内ユニットは,例えば,切削機械,研削機械,木工機械等の工作機械,産業機械等の各種の機械装置に適用され,粉塵,切粉,切屑等の異物が多量に発生したり,加工液,冷却液等の液体が飛散するような厳しい作業環境で使用して好ましく,該異物が軌道レール上を摺動するスライダの内側部から軌道路へ侵入するのを防止することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明による直動案内ユニットを断面部分を含んだ状態で示す斜視図である。
【図2】図1の直動案内ユニットをA−A平面で断面した状態を示す横断面図である。
【図3】図2の直動案内ユニットにおけるスライダに装着された内面シール付近のスライダの部分を示す下面図である。
【図4】図3のスライダにおけるD−D断面を示す断面図である。
【図5】図2の直動案内ユニットにおけるC部分を拡大して示す詳細図である。
【図6】図3のスライダにおけるE−E矢視で,軌道レールとエンドキャップとの関連を示す説明図である。
【図7】図6のF部分におけるエンドキャップ,内面シール及び軌道レールを拡大して示す詳細図である。
【図8】図1の直動案内ユニットにおける内面シールを示す平面図である。
【図9】図8の内面シールを示す側面図である。
【図10】図8の内面シールにおけるG−G断面を示す断面図である。
【図11】図1の内面シールのエンドキャップへの装着工程を示す説明図である。
【図12】図11のB部分における装着工程を拡大して示す断面図である。
【図13】図1の直動案内ユニットにおけるエンドキャップを示す背面図である。
【図14】図13のエンドキャップを示す側面図である。
【図15】図13のエンドキャップを示す底面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 軌道レール
2 スライダ
3 ケーシング
4 エンドキャップ
5 ローラ(転動体)
6 凹溝(
7 内面シール
10 リターン路
11 軌道面(第1軌道面)
12 軌道面(第2軌道面)
15 エンドシール
19 軌道路
20 シール部材
21 芯金
22 基部
23 固着部
24 対接面
25 第1リップ
26 第2リップ
27 第3リップ
28 逃がし孔
29 係止舌片
30 係止部
31 側端部
32 切欠き部
33,34 下面
35 係止穴
39 逃がし凹溝
45 方向転換路
46,47 端面
50 側面
53 段差
56 側面
57 上面
58 底面
60 端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側面の長手方向に沿って第1軌道面が形成された軌道レール及び前記軌道レールに跨架して複数の転動体を介して相対摺動するスライダを備え,前記スライダは,前記軌道レールの前記第1軌道面に対向して第2軌道面が形成され且つ前記第1軌道面と第2軌道面との間に形成される軌道路に平行なリターン路が形成されたケーシング,前記ケーシングの両端面に取り付けられ且つ前記軌道路と前記リターン路とを連通する方向転換路が形成されたエンドキャップ,並びに前記軌道路,前記リターン路及び一対の前記方向転換路から構成される循環路を転走する前記転動体を有する直動案内ユニットにおいて,
前記軌道レールの上面に対向する前記ケーシングの下面に形成された凹溝に配設された内面シールを有し,前記内面シールは,前記ケーシングと前記エンドキャップとの下面に沿って延びる平らな板状の芯金及び前記芯金に固着されたシール部材から成り,前記芯金は両端中央部に設けられた係止舌片が前記エンドキャップの係止部に係止して前記エンドキャップに取り付けられ,
前記シール部材は,前記軌道レールの前記上面の両側にそれぞれ摺接して前記軌道レールの前記上面から前記軌道路に異物が侵入するのを防止する第1リップ,及び前記芯金の両側方に形成されて前記ケーシングの前記凹溝の側面に沿って当接して前記ケーシングの前記下面から前記軌道路に異物が侵入するのを防止する第2リップを備えており,
前記第2リップは,前記第1リップの延びる方向と反対側方向に延びて前記第1リップを前記軌道レールの前記上面に滑らかに摺接するように位置決めすることを特徴とする直動案内ユニット。
【請求項2】
前記第1リップと前記第2リップとは同一線上で互いに反対方向に延び,前記第1リップは前記内面シールの内側方向に延び,前記第2リップは前記内面シールの外側方向に延びていることを特徴とする請求項1に記載の直動案内ユニット。
【請求項3】
前記内面シールの前記シール部材は,前記ケーシングに形成された前記凹溝の底面に密接可能な対接面を備え且つ前記芯金の両側に沿ってそれぞれ固着された固着部,及び前記固着部と一体で且つ前記第1リップと前記第2リップとを一体に備えた基部から構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の直動案内ユニット。
【請求項4】
前記固着部は,前記第1リップを前記軌道レールの前記上面への滑らかな摺接状態に位置設定すると共に,前記第2リップを前記ケーシングに形成した前記凹溝の前記側面に摺接状態に位置設定するように,前記芯金に固着されていることを特徴とする請求項3に記載の直動案内ユニット。
【請求項5】
前記エンドキャップの前記係止部は前記内面シールの前記係止舌片を差し込み挿入して係止する係止穴であり,前記係止穴は前記エンドキャップの前記下面に形成された逃がし凹溝に連続して形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項6】
前記エンドキャップの前記下面は前記ケーシングの前記下面に対して上面側に段差になって形成され,前記内面シールの前記芯金は前記エンドキャップに対して傾斜させて前記エンドキャップの前記係止穴に差し込み可能になっていることを特徴とする請求項5に記載の直動案内ユニット。
【請求項7】
前記内面シールの前記シール部材は,前記芯金の両端に位置して前記エンドキャップの前記下面に密接して前記エンドキャップの前記下面から前記軌道路に異物が侵入するのを防止する第3リップを備えていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項8】
前記内面シールの前記芯金は,前記芯金の両端中央部に位置する前記係止舌片と切欠き部によって隔置して前記芯金の両端両側部で前記係止舌片よりそれぞれ長く延びる側端部を備え,前記側端部は前記エンドキャップの前記係止部を挟むように位置していることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項9】
前記内面シールの前記芯金は,前記ケーシングの前記両端面に固定された前記エンドキャップに取り付けた状態で前記エンドキャップの一方の前記係止部に傾斜して挿入された後に前記他方の前記係止部に挿入され,前記内面シールは,前記エンドキャップの端面にそれぞれ配設された一対のエンドシールが前記芯金の前記側端部の端面に当接して位置決め固定されることを特徴とする請求項8に記載の直動案内ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−281091(P2008−281091A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125194(P2007−125194)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】