説明

内面溝付管の製造装置及び製造方法

【課題】溝付加工性等に優れる内面溝付管の製造装置及び製造方法を提供する。
【解決手段】内面溝付管の製造装置において、フローティングプラグ4と溝付プラグ5の間に、素管1aの引抜き方向に沿ってワイパー9、引抜き装置8、中間整形ダイス11を設ける。また、内面溝付管の製造方法において、素管1aの引抜き時におけるフローティングダイス2に負荷される荷重Fの最大値と最小値の差が500N以下となるようにする。さらに、フローティングダイス2に取り付けられたロードセル21により、フローティングダイス2に負荷される荷重Fを検出し、素管1aを引抜きながら前記荷重Fの経時的変化を電気信号に変換して制御部へ入力し、前記制御部は前記荷重Fの経時的変化を抑制するように引抜き装置8に信号を送信し、前記引抜き装置8が前記信号によりプーリ81の回転トルクを制御しつつプーリ81に動力を伝達するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機や空調機等の熱交換器用の伝熱管に使用される内面溝付管の製造方法
とその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内面に螺旋状の多数の溝を有する継ぎ目のない小径な内面溝付管を加工するには、例えば転造加工が採用されている。すなわち、金属製の素管内に、フローティングプラグと当該フローティングプラグへロッドを介して回転自在に連結された溝付プラグとを挿入し、前記素管を、前記フローティングプラグよりも前記溝付プラグが下流に位置する状態で管軸方向に沿って連続的に引抜き、前記フローティングプラグとフローティングダイスとにより前記素管を縮径しながら、前記溝付プラグの位置で、前記素管の周囲を高速で公転しつつ遊転して当該素管を前記溝付プラグへ押圧する複数の加工ボールにより、前記素管の内周面に管軸に対して所定のねじれ角を有する多数の溝を平行に加工するものである。
【0003】
近年、熱交換器の小型化、高効率化の要求に対応するため、内面溝付管の肉厚を薄くし、あるいは内面溝を深くし、溝のねじれ角を大きくして性能を向上させている。しかし前記の製造方法では、管の引抜き時において塑性変形抵抗及び摩擦抵抗により管が破断することがあった。
【0004】
管の引抜き時において、補助引抜き装置を配置することで塑性変形抵抗及び摩擦
抵抗を低減した例がある(例えば、特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開平11−711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、金属管の引抜き時にベルトの移動により、接触部のうち金属管と接触する数が
周期的に変化するため、補助引抜き装置が発生する引抜力は周期的に変化する。前記引抜
力が周期的に変化し、その変化量が大きくなると、内面溝付管の内面フィン寸法が長手方
向でばらついてしまい、拡管時にアルミフィンとの密着不足が発生し熱交換性能が低下し
てしまう。
【0007】
また前記特許文献1の発明の変形例において、補助引抜き装置の入り側に金属管表面の
油膜を除去する洗浄装置が設けられている。前記洗浄装置には洗浄液が入っており、この
洗浄液により金属管表面に付着している、引抜きダイスで使用する潤滑油を除去している
。これにより、ベルトと金属管の摩擦力が大きくなり、金属管の引抜き力を低減すること
ができる、とある。しかし、金属管が表面に付着した洗浄液が乾燥する前に補助引抜き装
置と接触すると、前記洗浄液によりベルトと金属管の摩擦力が低下して滑りが生じてしま
い、補助引抜き装置の役割を果たさない(滑りが発生したところでは引抜き力が変化し、内面溝付管の内面フィン寸法が変化する)という問題が発生する。また、金属管の表面に付着した異物は洗浄液では除去できないため、補助引抜き及び次工程の溝付加工において金属管表面に傷が付いてしまう。これはアルミ放熱フィンを固定する際の拡管工程において割れの原因になる。
【0008】
また、補助引抜き装置により金属管に圧力が負荷され、断面が扁平形状になるので、次
工程の溝付加工において、溝付が不均一になるという問題が生じる。
【0009】
また、補助引抜き装置を使用することにより内面溝が深く溝のねじれ角の大きい内面溝付管の加工が可能となったが、その長尺加工においては、溝付プラグの摩耗の進行により塑性変形抵抗や摩擦抵抗が増加して、加工途中で破断する場合があった。
【0010】
本発明は前記問題を解決することを目的とするものであり、金属管表面の潤滑油と異物
の除去を容易にし、かつ、金属管断面の扁平化と加工途中における破断を防止することが
できる内面溝付管の製造装置及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の課題は以下の手段により実現される。
[1]素管の引抜き方向に沿って、フローティングダイスと、内部に前記素管の外表面を押圧する押圧用工具が前記素管の内径方向に移動するように設けられている加工ヘッドを順に設置し、内部にフローティングプラグと当該フローティングプラグへ回転自在に連結された溝付プラグとを挿入した前記素管を、前記フローティングダイスと前記加工ヘッドに通して引抜きながら、前記フローティングダイスと前記フローティングプラグとにより縮径し、前記溝付プラグの位置で、前記加工ヘッドの内へ前記素管の外周に接触するように配置され当該加工ヘッドの回転に伴い回転する複数の前記押圧用工具により前記フローティングダイスと前記フローティングプラグとにより縮径された素管を前記溝付プラグに押圧して当該素管の内面に多数の微細な溝を形成する装置であって、前記素管の引抜き方向に沿って、前記フローティングプラグの下流側に前記縮径された素管を引抜く引抜き装置を設け、前記フローティングプラグと前記引抜き装置との間にワイパーを設け、前記引抜き装置と前記溝付プラグとの間に中間整形ダイスを設けたことを特徴とする内面溝付管の製造装置。
[2][1]記載の装置を用いた内面溝付管の製造方法であって、前記素管の引抜き時における前記フローティングダイスに負荷される荷重Fの最大値と最小値の差が500N以下であることを特徴とする内面溝付管の製造方法。
[3][1]記載の装置を用いた内面溝付管の製造方法であって、前記フローティングダイスに取り付けられたロードセルにより、前記フローティングダイスに負荷される荷重Fを検出し、前記素管を引抜きながら前記荷重Fの経時的変化を電気信号に変換して制御部へ入力し、前記制御部は前記荷重Fの経時的変化を抑制するように前記引抜き装置に信号を送信し、前記引抜き装置が前記信号により当該引抜き装置のプーリの回転トルクを制御しつつ当該プーリに動力を伝達することを特徴とする内面溝付管の製造方法。
[4][1]記載の装置を用いた内面溝付管の製造方法であって、前記フローティングダイスに取り付けられたロードセルにより、前記フローティングダイスに負荷される荷重Fを検出し、前記素管を引抜きながら前記荷重Fの経時的変化を電気信号に変換して制御部へ入力し、前記制御部は前記荷重Fの経時的変化を抑制するように前記引抜き装置に信号を送信し、前記引抜き装置が前記信号により当該引抜き装置のプーリに押し付け力を伝達することを特徴とする内面溝付管の製造方法。
[5][2]乃至[4]のいずれかに記載の内面溝付管の製造方法であって、前記素管の引抜き方向に沿って前記溝付プラグの下流側に設けられた巻取り装置に負荷される荷重FLを検出し、前記素管を引抜きながら前記荷重FLの経時的変化を電気信号に変換して制御部へ入力し、前記制御部は前記荷重FLの経時的変化を抑制するように前記引抜き装置に信号を送信することにより、引抜き速度と前記引抜き装置のパッドの挟み付け荷重を制御することを特徴とする内面溝付管の製造方法。
[6]前記引抜き装置のパッドのパッド溝の曲率半径Rと、前記フローティングダイスと前記フローティングプラグとにより縮径された素管の外径Dbとの関係を、K=R/(Db/2)としたとき、Kの値は1.0以上1.05以下であり、前記パッドにより素管を締め付ける際の締め付け比Kを、パッド深さHを用いてK={2πR−4(R−H)}/(πDb)としたとき、Kの値は0.98以上1.0未満であることを特徴とする、[2]乃至[5]にいずれか記載の内面溝付管の製造方法。
[7]前記中間整形ダイスにおける外径縮径率は、前記中間整形ダイスの内径Ddを用いて、K=(Db−Dd)/Dbとしたとき、Kの値は0.001以上0.1以下であることを特徴とする、[2]乃至[6]にいずれか記載の内面溝付管の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、引抜き装置と金属管の接触部の形状を特定すること及び引抜き装置における引抜力の変化量を少なくすることで、内面溝付管の内面フィン寸法のばらつきを抑制し、引抜き装置と金属管の接触部における滑り及び金属管断面形状の扁平化を抑制できる。またワイピング装置を設置することで、引抜き装置と金属管の接触部における滑り及び異物傷を防止できる。さらに、引抜き装置の後に中間整形ダイスを設置することで、金属管断面形状を、真円に近い状態に回復させることができる。また巻取り装置に負荷される荷重すなわち整形ダイスによる整形後の内面溝付管にかかる負荷の経時変化を抑制させることによって加工中の破断がなくなる。よって産業上顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1、図2を参照しながら、本発明に係る内面溝付管の製造装置の好ましい実施形態を説明する。図1は本発明に係る内面溝付管1の製造装置の一実施形態を示す断面図、図2は図1で使用されているパッド83の一実施形態を示す断面図である。
【0014】
ここで、内面溝付管1として加工される前の素管について、フローティングダイス2を通過する前の部分を素管1a、フローティングダイス2と引抜き装置8との間の部分を素管1b、引抜き装置8と中間整形ダイス11との間の部分を素管1c、中間整形ダイス11と加工ヘッド3との間の部分を素管1dとそれぞれ定義する。なお、フローティングダイス2、加工ヘッド3、引抜き装置8、中間整形ダイス11の詳細な説明は後述する。
【0015】
素管1aの引抜き方向に沿って、フローティングダイス2と当該フローティングダイス2に対して独立した加工ヘッド3とが、順に設置されている。加工ヘッド3よりもさらに引抜き方向下流側には、整形ダイス7が設置されている。さらにその引抜き方向下流側には巻取り装置(図示せず)が設置されており、加工された内面溝付管1が矢印(L)の方向に引き抜かれて巻き取られる。
【0016】
本実施形態において、加工ヘッド3は、図1に示すように、その内部の断面半円状のボール保持溝31内に複数のボール(押圧用工具)6を自転及び公転自在に、かつ前記ボール6が素管1dの内径方向に移動して素管の外表面を押圧するように設けたものである。
前記ボール保持溝31の断面形状は、前記半円状の他、図7(イ)に示すような左右対称の三角形状、図7(ロ)に示すような左右非対称の三角形状など、ボール6の自転及び公転を阻害せず、かつボール6を素管1dの内径方向に移動させる形状であれば任意である。
図1及び図7(イ)、(ロ)に示した加工ヘッド3は、素管1dの周囲に容易に配設できるように、引抜き方向(L方向)に2分割されている。ボール6の押込み(内径方向移動)深さは2分割体3a、3b間に挟むスペーサ32の厚みを変えることで容易に調整できる。スペーサ32の厚みが厚いほどボールの押込み深さは浅くなる。分割体3a、3bは連結部材(図示せず)により一体に保持される。
【0017】
加工ヘッド3には、図8に示すような内部に回転自在な押圧ローラー(押圧用工具)33を設けたものも適用できる。図8で34は押圧ローラー収納ケース、35は押圧ローラーの回転軸である。押圧ローラー33は収納ケース34が軸回転することで素管1dの周りを公転する。押圧ローラー33の押し込み深さはスペーサ32の厚みを変えて調節する。スペーサ32が厚いほど押し込み深さは深くなる。
【0018】
なお、図1、図7、図8に示されるスペーサ32は、例えば金属、セラミック等の硬質材料で形成されるが、これに限られず、油圧制御されるようなものであってもよい。
【0019】
素管1aには銅、その合金、アルミニウム又はその合金等の熱伝導性のよい金属管が使用され、素管1a内にはフローティングプラグ4と当該フローティングプラグ4へプラグロッド51を介して回転自在に連結された溝付プラグ5を挿入する。前記素管1aを、前記フローティングダイス2と加工ヘッド3に通して引抜きながら、加工ヘッド3を回転させる。素管1aは、引抜きに伴って前記フローティングダイス2とフローティングプラグ4とにより縮径される。次いで、溝付プラグ5の位置で前記加工ヘッド3の回転に伴って素管1dの周りを公転しつつ自転する複数のボール6により、素管1dの外周面を溝付プラグ5の表面へ押圧し、当該素管1dの内面に溝付プラグ5の周面の溝50を転写することにより、内面に多数の微細な溝10を形成する。その後下流側の整形ダイス7により整形されるとともに縮径され、内面溝付管1を製造する。
【0020】
この実施形態の製造装置において、溝付プラグ5の周面には微細な多数の溝50が平行
に形成されているので、前記のように製造される内面溝付管1の内面には溝10が形成さ
れる。
【0021】
本実施形態の製造装置では、フローティングダイス2の後の溝付加工部前部に引抜き力と引抜き速度を調整できる引抜き装置8を設けて溝付加工部前部の素管1cにかかる負荷と整形ダイス7にて整形後に内面溝付管1にかかる負荷を調整できるようにし、引抜き装置8の前部にはワイパー9を、後部には中間整形ダイス11を設けている。
【0022】
引抜き装置8は一対のベルト80により素管1bを引き抜く。前記ベルト80は上下、
あるいは左右に配置される。ベルト80はプーリ81、82により支持され、素管1bと
接触しプーリ81、82の回転により移動されるようになっている。前記ベルト80はル
ープ状に形成されている。
ベルト80の外周面にはパッド83が取り付けられており、パッド83を素管1cに両
側から押し付けて挟み付け、ベルト80を回転させることにより素管1cを引抜いている

【0023】
フローティングダイス2にはロードセル21が取り付けられており、フローティングダ
イス2に負荷される荷重Fを検出することができる。素管1aの引抜き時には前記荷重F
は周期的に変化する。これはベルト80の移動により、素管1bと接触するパッド83の
数が周期的に変化することに起因する。素管1bと接触するパッド83が多いときは前記
荷重Fが大きくなり、逆に素管1bと接触するパッド83が少ないときは前記荷重Fが小
さくなる。
【0024】
前記荷重Fの周期的変化の変化量が大きくなると、内面溝付管1の内面フィン寸法が長
手方向でばらつくので、拡管時にアルミフィンとの密着不良が発生してしまう。前記荷重
Fの変化量は500N以下であれば、内面フィン寸法のばらつきを抑えることができ、拡
管時における割れ及びアルミフィンとの密着不足を防止できる。なお、前記荷重Fの変化
量は少なければ少ないほど良い。
【0025】
前記荷重Fの周期的変化を防止する方法としては、パッド83の形状を限定する方法と
、引抜き装置8でのプーリ81の回転トルクあるいはパッド83の押し付け力を制御する
方法がある。
【0026】
プーリ81の回転トルク制御は以下のように行う。すなわち図1において、フローティングダイス2に取り付けられたロードセル21により、フローティングダイス2に負荷される荷重Fを検出し、素管1aを引抜きながら前記荷重Fの経時的変化を電気信号に変換して図示しない制御部へ入力し、前記制御部は前記荷重Fの経時的変化を抑制するように引抜き装置8に信号を送信し、前記引抜き装置8は前記信号によりプーリ81の回転トルクを制御しつつプーリ81に動力を伝達する。
【0027】
パッド83の押し付け力制御は以下のように行う。すなわち図1において、フローティ
ングダイス2に取り付けられたロードセル21により、フローティングダイス2に負荷さ
れる荷重Fを検出し、素管1aを引抜きながら前記荷重Fの経時的変化を電気信号に変
換して図示しない制御部へ入力し、前記制御部は前記荷重Fの経時的変化を抑制するよう
に引抜き装置8に信号を送信し、前記引抜き装置8は前記信号によりプーリ81、82に
押し付け力を伝達する。
【0028】
なお、前記引抜き装置8でのプーリ81の回転トルクあるいはパッド83の押し付け力
を制御することは、それぞれ単独で行っても良いし、両方を同時に行っても良い。
【0029】
前記パッド83は、フローティングダイス2による縮径加工後の素管1bの外径に合わ
せて、素管1bと接触させる円弧状のパッド溝84を有する。前記パッド溝84は曲率半
径Rの曲面を有する。
【0030】
前記素管1bの外径Dbと、前記パッド溝84の曲率半径Rとの関係を、K=R/(Db/2)としたとき、Kの値を1.0以上1.05以下とする。これはパッド部での滑りの発生を防止し前記荷重Fを安定させることで内面溝付管1の内面フィン寸法の変化を抑制することと、素管1bの変形防止のためである。Kが1.0未満(すなわち、パッド溝の曲率半径Rが素管1bの外半径Db/2より小さい)であると、素管1bがパッド溝84に入り込まないか、仮に強く押し込んでパッド溝84に入ったとしても素管1bの表面に傷が発生し、次いで引抜き装置8を通過した素管1cをパッドから引き離すのに負荷がかかるため、荷重Fが安定せず、内面溝付管1の内面フィン寸法の変化が増大するという問題が発生する。Kが1.05を超えるとパッド部での扁平が大きくなるという問題が生じる。好ましいKの値は、1.01以上1.03である。
【0031】
前記パッド83により素管1bを締め付ける際の締め付け比Kを、K={2πR−4(R−H)}/(πDb)と定義する。すなわち、締め付け比Kは素管1bの外周と、パッド83の円弧部の2倍の長さとの比である。ここでHは図2に示されるパッド83のパッド深さである。前記締め付け比Kは0.98以上1.0未満とする。締め付け比Kを小さくするほど大きな引抜き力を得られるが、0.98未満であると素管1cの変形は大きくなり(パッドで挟み付けた箇所には凹みが残り)、溝付プラグ5によって均一に溝付けができないという問題が生じる。また、締め付け比Kが1.0を超えると必要な引抜き力が得られない。また締め付け比Kを1.0に設定したパッドを使用すると、工具の加工公差によっては安定して引抜けないことがある。好ましいKの値は、0.990以上0.999以下である。
【0032】
前記パッド83は金属、樹脂等金属素管1aより硬質なものからなる。好ましくは工具
鋼製である。
【0033】
ワイパー9は、素管1bの外表面に付着した油膜や異物も除去するという効果を有する。ワイパー9が無い場合、油膜や異物により、引抜き装置8で滑りが生じてしまい、素管1cの引抜きが安定せず、また断面形状が安定しないため、溝50の寸法がばらつくという問題が生じてしまう。前記ワイパー9は、素管1bの外径Dbよりも小さい径の穴が配置され、前記穴に素管1bを通過させる。前記ワイパー9は油膜及び異物の除去効果の点からゴムからなることが好ましい。
【0034】
中間整形ダイス11は引抜き装置8で扁平した素管1cの断面形状を真円に近い形状に戻す効果を有する。前記素管1cの形状に応じて、前記中間整形ダイス11の径はフローティングダイス2の径と同じか小さくする。中間整形ダイス11における外径縮径率は、中間整形ダイス11の内径Ddを用いてK=(Db−Dd)/Dbとしたとき、Kの値は0.001以上0.1以下が好ましい。Kが0.001未満であると、素管1cの扁平が大きいと形状が回復せずに扁平状のままとなり、溝50の寸法が安定しない(円周上での内面フィン寸法もばらつき、拡管後も扁平状のままでアルミフィンとの密着が不足する)という問題が生じる。逆にKが0.1を超えると、中間整形ダイス11による加工負荷が大きくなり、巻取り装置前で加工された内面溝付管1が破断する可能性が生じる。また、素管1dの内表面は微細な凹凸ができて荒れた状態になり、そのまま溝付加工を行うと加工された内面溝付管の内表面には微細なヒゲ状の割れとして多数残ってしまい、その部分の入り込んだ内面加工油の除去は難しいので管内残油量の多い内面溝付管となってしまう。管内残油量が多くなるとロウ付け不良を起こしたり、エアコンの作動油(コンプレッサー油)と反応して性能を低下させたりする恐れがあるため管内残油量は少ないほど良く、上限が決められている。中間整形ダイス11における外径縮径率Kは、好ましくは0.001以上0.05以下である。前記中間整形ダイス11は金属、セラミック等の金属素管1aの材質より硬質なものからなる。好ましくは超硬合金製である。
【0035】
本実施形態において、巻取り装置に負荷される荷重FLを検出し、素管1aを引抜きながら前記荷重FLの経時的変化を電気信号に変換して制御部へ入力し、前記制御部は前記荷重FLの経時的変化を抑制するように引抜き装置8に信号を送信することにより、引抜き速度とパッドの挟み付け荷重を制御することが好ましい。
【0036】
巻取り装置に負荷される荷重(すなわち、内面溝付管1にかかる負荷)の制御は以下のように行う。すなわち図1において、巻取り装置に負荷される荷重FLを検出し、素管1aを引抜きながら前記荷重FLの経時的変化を電気信号に変換して図示しない制御部へ入力し、前記制御部は引抜き装置8に信号を送信し、前記荷重FLの経時的変化を抑制するように引抜き速度とパッドの挟み付け荷重を調整する。
【0037】
引抜き装置8の速度比とパッド83の挟み込み荷重を設定することにより、巻取り装置にかかる荷重を所定の値に制御できる。以下に説明する。
【0038】
引抜き装置8での荷重制御について、図4のように溝付け加工部での荷重変動の影響を除外するため空引きの状態で素管1aの引抜きを行った。素管1aの外径は14.0mmで肉厚は0.40mm、フローティングダイス2の外径は10.9mmとした。引抜き装置8の負荷調整はまずパッド83の押し付け力を設定し、素管1cにかかる負荷を軽減させる場合は引抜き装置8の引抜き速度を素管1cの巻取り装置(図示せず)の引抜き速度より早めで同調させ、逆に素管1cにかかる負荷を増加させる場合は引抜き装置8の引抜き速度を素管1cの巻取り装置の引抜き速度よりも遅く設定して同調させることにより行った。
【0039】
素管1aはフローティングダイス2で縮径されワイパー9を通って引抜き装置8に入り、巻取り装置で巻き取られる。実験では巻取り装置の巻取り速度を一定として、それに対する引抜き装置8の引抜き速度比とパッドの挟み込み荷重(引抜き装置8で引抜ける荷重)を変化させ、フローティングダイス2と巻取り装置部にかかる荷重測定を行った。実験Aはパッドの挟み込み荷重(引抜き装置8で引抜ける荷重)をフローティングダイス2にかかる荷重と同じになるように設定した場合であり、実験Bではパッドの挟み込み荷重(引抜き装置8で引抜ける荷重)を実験A比で0.8、実験Cではパッドの挟み込み荷重(引抜き装置8で引抜ける荷重)を実験A比で1.2に設定した。
【0040】
図5に結果を示す。横軸に引抜き装置8の巻取り装置に対する速度比を、縦軸は巻取り装置にかかる荷重をフローティングダイス2にかかる荷重を1として比較表示したものである。実験A、実験B、実験Cいずれも引抜き装置8の速度比が速くなるほど巻取り装置にかかる荷重が低くなっていた。実験Bの引抜き速度比が大きいところで巻取り装置にかかる荷重が変化しなくなっているのは引抜き装置8で引き抜ける荷重の上限を超えたからである。また引抜き装置8の引抜き速度比が同じでもパッド83の挟み込み荷重(=引抜き装置で引抜ける荷重)が変わると巻取り装置にかかる荷重が変わっておりパッド83の挟み込み荷重が大きいほど巻取り装置にかかる荷重が大きくなっていた。これはパッド83の挟み込み荷重が大きいほど管を引き抜く方向には抵抗となる荷重がかかるからである。
【0041】
図6に荷重制御のプロセスを示す。巻取り装置では巻取り速度と巻取り装置にかかる荷
重を設定し検出する。引抜き装置8では引抜き速度とパッド83の挟み付け荷重を検出す
る。巻取り装置と引抜き装置8から検出された信号は演算装置に入り巻取り装置にかかる
荷重と設定値との差を読み、設定値に近付く引抜き装置8の引抜き速度とパッド83の挟
み込み圧力の設定値を演算する。演算された信号は制御部に送られ、制御部から新たに引
抜き速度とパッド83の挟み付け荷重の設定値の信号が引抜き装置8に送られる。引抜き
装置8での制御は引抜き速度比での制御を優先し、それでも不可能な場合(引抜き装置で
引抜くのに必要な荷重が大きい時)はパッド83の挟み付け圧力を制御して行うようにし
た。ただし巻取り装置にかかる荷重を0にしてしまうと引抜き装置8と巻取り装置の間の
管がたるんだ状態になることがあり、この状態で溝付け加工を行う場合、管内の溝付プラ
グ5に対してまっすぐに通らないことになり、素管内面に形成される内面フィンの寸法が
ばらつくので好ましくない。引抜き装置8により引抜き後において管のたるみを無くすた
め、荷重が若干かかっているようにするのが好ましい。また引抜き装置8で設定する引抜
き速度比が大きい時ほどたるみが発生した時のたるみ量が大きい傾向があるため、速度比
は1.2以下にすることが好ましい。
【0042】
本発明は前記実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範
囲に於いて、さまざまな態様で実施できる。
【実施例】
【0043】
以下に本発明の実施例とその効果を詳細に説明する。
【0044】
(実施例1)
図1に示した本発明の一実施形態である製造装置で加工した内面溝付管1の実験結果を表1に示した。実験に使用した溝付プラグ5は外径10.0mm、溝数50、溝深さ0.25mm、溝頂角15度、ねじれ角50度である。素管1aの外径は14.0mmで肉厚は0.40mm、フローティングダイス2の外径は10.9mmとした。引抜き装置8の負荷調整はまずパッド83の押し付け力を設定し、内面溝付管1の巻取り駆動装置(図示せず)の負荷を軽減させる場合は引抜き装置8の引抜き速度を内面溝付管1の巻取り駆動装置(図示せず)の引抜き速度より早めで同調させ、逆に内面溝付管1の巻取り駆動装置(図示せず)の負荷を増加させる場合は引抜き装置8の引抜き速度を内面溝付管1の巻取り駆動装置(図示せず)の引抜き速度よりも遅く設定して同調させることにより行った。前記巻取り駆動装置は整形ダイス7の後に配置される。溝付加工実験は内面溝付管の加工長さ3000mを上限として実施した。次いで拡管によりアルミフィン(放熱フィン)に密着させた。それらの加工実験における内面溝付管1の総肉厚(管の外側から内面フィンの頂点までの高さ)のばらつきと加工実験の状況を評価した。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1から明らかなように、本発明例は良好な内面溝付管が得られた。これに対し、従来例1は引抜き装置8が無いため、管が破断してしまった。従来例2はワイパー9と中間整形ダイスがないので荷重Fの変化と素管の扁平が大きくなってしまい、また荷重FLの制御が無いので徐々に負荷が増加し加工途中で破断した。比較例1はワイパー9と中間整形ダイス11がないので荷重Fの変化と素管の扁平が大きくなってしまい、総肉厚が長手方向でばらついた。比較例2はワイパー9が無いため荷重Fの変化が大きくなってしまい、総肉厚が長手方向でばらついた。比較例3は中間整形ダイス11が無いため素管は扁平状のままで総肉厚が円周上でばらついた。比較例4は荷重制御により荷重Fを意図的に大きく変化させたものであるが長手方向で総肉厚のばらつきが大きくなった。比較例1、2、3、4ではいずれもアルミフィンとの密着不良が発生した。
【0047】
(実施例2)
パッド83の形状に関して引抜き時の滑り出し荷重Fb及び溝付け加工性の実験を行った。実験は図3のように表2のパット溝84を有するパッド83を2枚一組で素管1bを1000N〜10000Nの挟み込み荷重Faで挟み付けた後、素管1bをチャック96で固定し矢印Fbの方向に引抜き、素管1bが滑り出す時の滑り出し荷重Fbを測定した。本発明例1の滑り出し荷重Fbを100として比較表記した。ここで滑り出し荷重Fbとは使用するパッドの限界引抜き力であり、この数値が高いほど滑りが発生せずに安定して引き抜けることになる。溝付け加工性の評価は図1の引抜き装置8に取り付けるパッド83を順次取り替えて行い、内面フィン寸法の確認を行った。問題無いものは○で示した。表2に実験結果を示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2から明らかなように、締め付け比が小さくなるほど滑り出し荷重比が大きくなり、本発明例は滑り出し荷重比が高くかつ溝付け加工性が良好であった。これに対し、比較例5は締め付け比が大きいため、滑り荷重が低く溝付け加工時には引抜き装置で僅かな引抜き力しか得られないため管が破断してしまった。比較例6は締め付け比Kが小さいため、素管1bの外面にパッドで挟んだ際の凹み跡が大きく残り中間整形ダイスでも修正はできず円周上で内面フィンの寸法がばらついてしまった。比較例7はKが小さいためパッドから素管を引き離すのに負荷かかかり、荷重が安定せず内面フィン寸法が長手方向でばらついてしまった。比較例8、9はKが大きいため締め付け比Kを小さくするにはパッドの深さHを浅くしなければならずその場合素管1bの扁平は大変大きくなる。扁平が大きい素管では中間整形ダイス部で素管が座屈してしまい溝付け加工ができなかった。
【0050】
(実施例3)
中間整形ダイス11の外径縮径率Kを変化させて、溝付加工性と管内の残油量の確認を行った。その他の条件は実施例1と同様とした。溝付加工性は良好を◎、問題無い場合を○、不良(管破断)を×と示した。管内残油量は良好を◎、不良を×と示した。表3に結果を示す。
【0051】
【表3】

【0052】
表3から明らかなように、本発明例は優れた溝付加工性を有し、また管内残油量も少なかった。これに対し、比較例10、11は中間整形ダイス11での外径縮径率Kが大きいため、管内残油量が多くなってしまった。比較例12は中間整形ダイス11での外径縮径率Kが大きいため、溝付加工性に劣り、管内残油量が多くなってしまった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る内面溝付管の製造装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1で使用されているパッドの一実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の実施例に係る荷重の測定方法の概略図である。
【図4】本発明の実施例に係る荷重の測定方法の概略図である。
【図5】本発明の実施例に係る荷重の測定結果である。
【図6】本発明の一実施形態に係る荷重の荷重制御のプロセス図である。
【図7】(イ)、(ロ)は図1に示した製造装置の加工ヘッドの他の実施形態を示す部分断面図である。
【図8】本発明に係る内面溝付管の製造装置の加工ヘッド部分の他の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 内面溝付管
1a 素管
1b 素管
1c 素管
1d 素管
10 溝
2 フローティングダイス
21 ロードセル
3 加工ヘッド
3a、3b 加工ヘッドの分割体
31 加工ヘッドのボール保持溝
32 押込み深さ調整用スペーサ
33 押圧ローラー
34 押圧ローラーの収納ケース
35 押圧ローラーの回転軸
4 フローティングプラグ
5 溝付プラグ
50 溝
51 プラグロッド
6 ボール
7 整形ダイス
8 引抜き装置
80 ベルト
81 プーリ
82 プーリ
83 パッド
84 パッド溝
9 ワイパー
95 ロードセル
96 チャック
11 中間整形ダイス
引抜き方向
回転方向
R 曲率半径
H パッド深さ
Db 素管1bの外径
Dd 中間整形ダイス11の内径
Fa 挟み込み荷重
Fb 滑り出し荷重
F フローティングダイス2に負荷される荷重
FL 巻取り装置に負荷される荷重(内面溝付管1にかかる負荷)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素管の引抜き方向に沿って、フローティングダイスと、内部に前記素管の外表面を押圧する押圧用工具が前記素管の内径方向に移動するように設けられている加工ヘッドを順に設置し、内部にフローティングプラグと当該フローティングプラグへ回転自在に連結された溝付プラグとを挿入した前記素管を、前記フローティングダイスと前記加工ヘッドに通して引抜きながら、前記フローティングダイスと前記フローティングプラグとにより縮径し、前記溝付プラグの位置で、前記加工ヘッドの内へ前記素管の外周に接触するように配置され当該加工ヘッドの回転に伴い回転する複数の前記押圧用工具により前記フローティングダイスと前記フローティングプラグとにより縮径された素管を前記溝付プラグに押圧して当該素管の内面に多数の微細な溝を形成する装置であって、前記素管の引抜き方向に沿って、前記フローティングプラグの下流側に前記縮径された素管を引抜く引抜き装置を設け、前記フローティングプラグと前記引抜き装置との間にワイパーを設け、前記引抜き装置と前記溝付プラグとの間に中間整形ダイスを設けたことを特徴とする内面溝付管の製造装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置を用いた内面溝付管の製造方法であって、前記素管の引抜き時における前記フローティングダイスに負荷される荷重Fの最大値と最小値の差が500N以下であることを特徴とする内面溝付管の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の装置を用いた内面溝付管の製造方法であって、前記フローティングダイスに取り付けられたロードセルにより、前記フローティングダイスに負荷される荷重Fを検出し、前記素管を引抜きながら前記荷重Fの経時的変化を電気信号に変換して制御部へ入力し、前記制御部は前記荷重Fの経時的変化を抑制するように前記引抜き装置に信号を送信し、前記引抜き装置が前記信号により当該引抜き装置のプーリの回転トルクを制御しつつ当該プーリに動力を伝達することを特徴とする内面溝付管の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の装置を用いた内面溝付管の製造方法であって、前記フローティングダイスに取り付けられたロードセルにより、前記フローティングダイスに負荷される荷重Fを検出し、前記素管を引抜きながら前記荷重Fの経時的変化を電気信号に変換して制御部へ入力し、前記制御部は前記荷重Fの経時的変化を抑制するように前記引抜き装置に信号を送信し、前記引抜き装置が前記信号により当該引抜き装置のプーリに押し付け力を伝達することを特徴とする内面溝付管の製造方法。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれかに記載の内面溝付管の製造方法であって、前記素管の引抜き方向に沿って前記溝付プラグの下流側に設けられた巻取り装置に負荷される荷重FLを検出し、前記素管を引抜きながら前記荷重FLの経時的変化を電気信号に変換して制御部へ入力し、前記制御部は前記荷重FLの経時的変化を抑制するように前記引抜き装置に信号を送信することにより、引抜き速度と前記引抜き装置のパッドの挟み付け荷重を制御することを特徴とする内面溝付管の製造方法。
【請求項6】
前記引抜き装置のパッドのパッド溝の曲率半径Rと、前記フローティングダイスと前記フローティングプラグとにより縮径された素管の外径Dbとの関係を、K=R/(Db/2)としたとき、Kの値は1.0以上1.05以下であり、前記パッドにより素管を締め付ける際の締め付け比Kを、パッド深さHを用いてK={2πR−4(R−H)}/(πDb)としたとき、Kの値は0.98以上1.0未満であることを特徴とする請求項2乃至5にいずれか記載の内面溝付管の製造方法。
【請求項7】
前記中間整形ダイスにおける外径縮径率は、前記中間整形ダイスの内径Ddを用いて、K=(Db−Dd)/Dbとしたとき、Kの値は0.001以上0.1以下であることを特徴とする請求項2乃至6にいずれか記載の内面溝付管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−36640(P2008−36640A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210028(P2006−210028)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】