説明

内面溝付管の製造装置及び製造方法

【課題】引張り荷重の低減と安定を図ることで、長い管でも破断せずに管全長に亘って内面形状が安定した加工を行うことができる内面溝付管の製造装置及び製造方法の提供。
【解決手段】素管11aの引抜き方向Xに沿って、縮径加工部13、中間引抜き部、溝加工部を備え、前記縮径加工部13を、縮径ダイス22と、該縮径ダイス22とともに素管11aを縮径するフローティングプラグ23とで構成し、前記素管11aの外径D(mm)、前記縮径ダイス22の径D(mm)により、R={(D−D)/D}×100(%)であらわされる素管11aの縮径率R(%)を、前記縮径加工部13においてR≦30に設定し、前記フローティングプラグ23の外径D(mm)、前記縮径ダイス22の径D(mm)を、D−D≧0.1となるよう設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、冷凍機や空調機等の熱交換器用の伝熱管に使用される内面溝付管の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアコンや給湯器の熱交換器に用いられる伝熱管は、熱交換性能の要求から、内面に溝のついた銅管が用いられることが多い。
近年は特に、熱交換器の軽量化や金属の省資源化のために、伝熱管用の内面溝付管は、より薄いものが求められている。
【0003】
このような内面溝付管を製造するための内面溝付管の製造装置及び製造方法は、特許文献1,2に開示されている。
【0004】
特許文献1の内面溝付管の製造装置は、素管を縮径するために縮径ダイスとフローティングプラグとを備えるとともに、素管の引抜き方向下流側に素管内面に多数の溝を形成する溝付プラグと押圧用工具を備えている。さらに前記縮径ダイスと前記加工ヘッドとの間には、加工途中における素管の破断を防止するため、素管の引抜き方向に沿って、ワイパー、引抜き装置(中間引抜き部)、中間整形ダイスを備えた構成である。
【0005】
特許文献2の内面溝付管の製造装置も同様に、素管を縮径するために縮径加工部と、素管の引抜き方向下流側に素管内面に多数の溝を形成する溝加工部と、加工済みの内面溝付管を巻き取る巻取りドラムを兼ねた引抜き手段を備えている。さらに、前記引抜き手段を補助する補助引抜き装置(中間引抜き部)と、前記引抜き手段や補助引抜き装置の引き抜き力を目標範囲に収まるよう制御する制御手段を備えた構成である。
【0006】
特許文献1,2に開示の内面溝付管の製造装置によれば、中間引抜き部によって加工時の引抜き荷重を低減させ、加工中における管の破断の抑制を図ることができる。
【0007】
しかし、引張り荷重全体を低減することができても、引張り荷重に変動が発生した場合、このような荷重変動に対して十分に対応した加工を行うことができなかった。
【0008】
例えば、特許文献1に開示の製造装置では、中間引抜き部に備え、素管に接触されるパッドが素管に対して滑ることを防止するためにワイパーを設けたり、パッドの溝形状を規定する対策が施されているが、それでも荷重変動は起こりうる。
【0009】
一方、特許文献2に開示の製造装置では、制御手段により引抜き手段や補助引抜き装置の引抜き力を目標範囲内に収めるように制御を行っている。しかし、制御しきれない瞬間的な荷重変動は起こりうる。
【0010】
このように加工中に荷重が変動すると、管内面に形成される溝の形状が変化したり、加工の際に素管が破断してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−36640号公報
【特許文献2】特開2008−87004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明では、引張り荷重の低減と安定を図ることで、長い管でも破断せずに管全長に亘って内面形状が安定した加工を実現し、優れた伝熱性能を有した内面溝付管を構成することができる内面溝付管の製造装置及び製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、素管の引抜き方向に沿って、素管を縮径させる縮径加工部と、素管内面に多数の溝を形成する溝加工部を備えるとともに、前記縮径加工部と前記溝加工部との間に前記縮径加工部で縮径した素管を引抜く中間引抜き部を備え、前記縮径加工部を、縮径ダイスと、素管内に配置され、前記縮径ダイスとともに素管を縮径するフローティングプラグとで構成し、前記溝加工部を、素管内において前記フローティングプラグと回動自在に連結され、外周に複数の溝が形成された溝付プラグと、素管の外側において該素管を前記溝付プラグの側へ押圧しながら管軸回りに公転自在に配置された押圧用工具とで構成した内面溝付管の製造装置であって、前記素管の外径D(mm)、前記縮径ダイスの径D(mm)により、R={(D−D)/D}×100(%)であらわされる素管の縮径率R(%)を、前記縮径加工部においてR≦30に設定し、前記フローティングプラグの外径D(mm)、前記縮径ダイスの径D(mm)を、D−D≧0.1となるよう設定したことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、素管が引抜き方向へ進む過程で、素管を縮径させる縮径加工工程と、素管内面に多数の溝を形成する溝加工工程を行い、前記縮径加工工程と前記溝加工工程とを行なう間、前記縮径加工工程で縮径した素管を引抜く中間引抜き工程を行い、前記縮径加工工程を、縮径ダイスと、素管内に配置され、前記縮径ダイスとともに素管を縮径するフローティングプラグとで行い、前記溝加工工程を、素管内において前記フローティングプラグと回動自在に連結され、外周に複数の溝が形成された溝付プラグと、素管の外側において該素管を前記溝付プラグの側へ押圧しながら管軸回りに公転自在に配置された押圧用工具とで行なう内面溝付管の製造方法であって、前記素管の外径D(mm)、前記縮径ダイスの径D(mm)により、R={(D−D)/D}×100(%)であらわされる素管の縮径率R(%)を、R≦30に設定し、前記フローティングプラグの外径D(mm)、前記縮径ダイスの径D(mm)を、D−D≧0.1となるよう設定することを特徴とする。
【0015】
前記内面溝付管の製造装置及び製造方法のように、素管の縮径率を、前記縮径加工部において30%以下に設定することで、前記縮径加工部で縮径後に素管が微振動するいわゆるビビリ現象が抑えられ、前記中間引抜き部で引抜き荷重を補助する荷重補助を安定させることができる。
詳しくは、素管の縮径率が30%より大きくなると、素管と前記縮径ダイスの接触面積が大きくなって摩擦抵抗が大きくなるため、前記縮径ダイスでの加工荷重が大きくなり、素管の外径が前記縮径ダイスの出口の径よりも細くなる引き細りが発生する。
【0016】
さらに引き細りにより素管と前記縮径ダイスとの接触が安定せず、ビビリ現象が発生し易くなり、肉厚減少も生じる。ビビリ現象による振動は前記中間引抜き部まで伝わり、また引き細りで素管外径が細くなるので、前記中間引抜き部において素管を押さえるために備えたパッドの素管に対する押え力が不安定になり、その結果、前記中間引抜き部での荷重補助が不安定になる。
【0017】
よって、加工時にこのような不具合が生じないよう、本発明では、素管の縮径率を、前記縮径加工部において30%以下に設定している。
【0018】
さらに、前記フローティングプラグの外径D(mm)、前記縮径ダイスの径D(mm)を、D−D≧0.1となるよう設定することにより、より効果的にビビリ現象の発生を抑えることができる。
詳述すると、前記フローティングプラグと前記縮径ダイスの径の差(D−D)が0.1mm以下であると、前記フローティングプラグと前記縮径ダイスがオーバーラップする面積が小さくなる。
【0019】
このように、前記フローティングプラグと前記縮径ダイスとがオーバーラップする面積が小さくなることで、この間に素管が引き込まれる際、前記フローティングプラグの角部、詳しくは、前記フローティングプラグの外周面における上流側の非テーパ面と下流側のテーパ面との境界部分に、管内面が強く当たることで、前記フローティングプラグでの負荷が過大になるので、さらに、引き細り、ビビリ現象による振動、肉厚減少、中間引き抜き機での荷重補助不安定が発生し易くなる。
【0020】
よって、加工時にこのような不具合が生じないよう、本発明では、D−D≧0.1となるよう設定している。
【0021】
またこの発明の態様として、前記押圧用工具の公転方向を、前記溝付プラグの回転方向と逆向き(以下、「逆方向」とする。)に設定し、前記押圧用工具の加工ピッチP(mm)を、0.2≦P≦0.7の範囲になるよう設定することができる。
【0022】
前記構成により、加工精度が高い溝を有した内面溝付管を、安定して製造できるようになる。
Pを0.2mmより小さくすると、前記中間引抜き部による荷重補助を大きくしても、経験上、素管内面に溝が形成され難くなることが確認されているからである。一方、0.7mmよりも大きくすると、引張り荷重が安定せず、変動が大きくなるからである。
【0023】
なお、前記中間引抜き部による荷重補助をより安定させ、溝の加工精度を高くするには、前記押圧用工具の公転方向を、逆方向に設定し、加工ピッチPを、P≧0.2を満たす範囲で小さく設定する方がよい。
詳しくは、内面溝付管の生産性よりも溝の加工精度がより高くなる加工を優先させる場合には、加工ピッチPを、0.2≦P≦0.7の範囲の中でも、例えば、0.2≦P≦0.4に設定することがよい。
【0024】
一方、内面溝付管の生産性を高めるためには、前記押圧用工具の公転方向を、逆方向に設定し、加工ピッチPを、P≦0.7を満たす範囲で大きく設定する方がよい。
詳しくは、溝の加工精度がより高くなる加工よりも内面溝付管の生産性を優先させる場合には、加工ピッチPを、0.2≦P≦0.7の範囲の中でも、例えば、0.4≦P≦0.7に設定するのがよい。
【0025】
またこの発明の態様として、前記押圧用工具の公転方向を、前記溝付プラグの回転方向と同じ向き(以下、「正方向」とする。)に設定し、前記押圧用工具の加工ピッチP(mm)を、0.2≦P≦0.4の範囲になるよう設定することができる。
【0026】
前記構成のように、前記押圧用工具の公転方向が、正方向の場合でも、加工ピッチP(mm)を、0.2≦P≦0.4の範囲になるよう設定することで、内面フィンの裾部にエグレが生じず、溝深さが深くて加工精度が高いものを得ることができる。
【0027】
詳しくは、管内面に深い溝を有する内面溝付管を製造するためには、前記押圧用工具の公転方向が、正方向であることが望ましいが、正方向の場合、管内面において溝と溝との間に形成されるフィンの裾部にエグレとよばれる材料の未充填部分が生じ易くなる。さらに、加工ピッチPが大きくなるほどエグレが発生し易くなる。
【0028】
このため、深い溝を形成しつつ、エグレを防ぐためには、前記押圧用工具の公転方向が正方向で、且つ、0.2≦P≦0.4であるのが望ましい。
【0029】
なお、一般に、素管が薄肉になるほど、フィンを形成し難く、破断し易くなり、加工が困難になるが、本発明は、薄肉な素管も含めて素管の肉厚に関係なく適用可能であるため、素管が薄肉になるほど、本発明の製造条件がさらに有効になる。
【0030】
また、本発明によって、長い管全長に亘って内面形状も安定し、破断せずに加工できるようになるので、素管の長さに関係なく適用可能となり、歩留まりと生産性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明では、引張り荷重の低減と安定を図ることで、長い管でも破断せずに管全長に亘って内面形状が安定した加工が可能となり、優れた伝熱性能を有した内面溝付管を構成することができる内面溝付管の製造装置及び製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本実施形態の内面溝付管の製造装置を示す断面図。
【図2】本実施形態の縮径加工部を一部断面で示した縮径加工部の構成説明図。
【図3】本実施形態の縮径加工部により素管を縮径する様子を示す作用説明図。
【図4】本実施形態の加工ボールの加工ピッチを説明する説明図。
【図5】エグレが発生したフィンを有する管内面の一部を示す断面図。
【図6】従来の縮径加工部により素管を縮径する様子を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
この発明の一実施形態を、以下図面を用いて説明する。
なお、図1は、本実施形態における内面溝付管の製造装置12の説明図である。
【0034】
本実施形態における内面溝付管の製造装置12は、図1に示すように、素管11aの引抜き方向Xに沿って、素管11aを縮径させる縮径加工部13と、素管11a内面に多数の溝を形成する溝加工部14を備えるとともに、前記縮径加工部13と前記溝加工部14との間に前記縮径加工部13で縮径した素管11aを引抜く中間引抜き部17を備えている。
【0035】
前記縮径加工部13は、縮径ダイス22と、素管11a内に配置され、前記縮径ダイス22とともに素管11aを縮径するフローティングプラグ23とで構成している。
【0036】
前記溝加工部14は、素管11a内において連結棒25を介して前記フローティングプラグ23と回動自在に連結され、外周に複数の溝が形成された溝付プラグ24と、素管11aの外側において該素管11aを前記溝付プラグ24の側へ押圧しながら管軸回りに公転自在に配設された複数の加工ボール26とで構成している。
【0037】
前記製造装置12、及び、該製造装置12を用いた内面溝付管11の製造方法では、図2に示すように、前記素管11aの外径D(mm)、前記縮径ダイス22の径D(mm)により、R={(D−D)/D}×100(%)であらわされる素管11aの縮径率Rを、前記縮径加工部13において30%以下に設定している。
【0038】
さらに、前記フローティングプラグ23の外径D(mm)、前記縮径ダイス22の径D(mm)を、D−D≧0.1となるよう設定している。
【0039】
さらにまた、前記加工ボール26の公転方向を、逆方向に設定し、前記加工ボール26の加工ピッチP(mm)を、0.2≦P≦0.7の範囲になるよう設定している。
【0040】
または、前記加工ボール26の公転方向を、正方向に設定した場合には、加工ピッチP(mm)を、0.2≦P≦0.4の範囲になるよう設定している。
【0041】
以下、本実施形態における内面溝付管の製造装置12について詳述する。
前記製造装置12は、引抜方向Xの上流側から下流側へ沿って、縮径加工部13、中間引抜き部17、溝加工部14、整形ダイス15、引抜き部16を構成している。
【0042】
さらに、前記製造装置12は、固定台50に対して引抜方向へ移動可能に、縮径部13、中間引抜装置17、及び、溝加工部14を支持する可動台33と、該可動台33の前記固定台50に対する移動に応じて作用する荷重Fを検出するロードセル28と、該ロードセル28により検出した前記荷重Fに基づいて、中間引抜き部17、及び、引抜き部16を制御する制御装置45とで構成している。
【0043】
前記縮径加工部13は、上述したように縮径ダイス22とフローティングプラグ23とで構成している。
前記縮径ダイス22は、引抜き方向Xへ連通した連通孔22aを有した筒状に構成し、連通孔22aは、引抜き方向Xの上流側部分(入口側)を下流側部分(出口側)に対して上流側へ向けて末広がり状に開口した形状で構成している。
【0044】
前記フローティングプラグ23は、円柱状に構成し、下流側部分の外周をテーパ状に構成している。
【0045】
なお、図2に示すように、フローティングプラグ23の外径をD(mm)、縮径ダイス22の出口側の内径をD(mm)に設定している。
【0046】
前記溝加工部14は、溝付プラグ24と複数の加工ボール26と、加工ボール26を外周側から保持する加工ヘッド27とで構成している。
【0047】
前記加工ヘッド27は、断面半円状の加工ボール保持溝27aが形成されている。
複数の加工ボール26は、前記加工ボール保持溝27aによって素管11aの表面を押圧しながら公転可自在に保持されている。複数の加工ボール26は、前記加工ボール保持溝27aによって正方向、或いは、逆方向のいずれの方向にも素管11aの表面を押圧しながら公転速度を変更可能に保持されている。
【0048】
前記整形ダイス15は、内面溝付管11が通過することにより、例えば、前記溝加工部14における加工ボール26の押圧により生じた管表面の歪み等を滑らかに整形する加工を行う。
【0049】
前記引抜き部16は、加工済みの内面溝付管11を巻き取る巻取りドラム36を兼ね備え、巻取りドラム36を駆動するモータMを備え、該モータMの回転駆動により内面溝付管11を引張りながら巻取りドラム36に巻き付けている。
【0050】
前記中間引抜き部17は、縮径部13と溝加工部14との間で、素管11aを引抜き方向Xへ引き抜くことで引抜装置16による引抜きを補助している。すなわち、前記溝加工部14による溝加工は、素管11aを引抜く際の抵抗となり、この溝加工の際の引抜きの負荷が大きくなるが、中間引抜き部17により素管11aにかかる前記引抜き負荷を分散させることができる。
【0051】
前記中間引抜き部17は、素管11aに対して上下各側、或いは、左右各側に配置された一対のベルト42a,42aを備えている。各ベルト42a,42aは、ループ状(無端状)に形成され、モータMの回転駆動により回転可能にプーリー43に張架されている。ベルト42a,42aは、外周面に、その長さ方向に沿って複数のパッド44を連設している。
【0052】
前記パッド44には、図示しないが、縮径部13により縮径後の素管11aの外面との接触部分に、複数のパッド44の連設方向に対する切断面が円弧状となるパッド溝を形成している。
【0053】
前記中間引抜き部17は、モータMの駆動によりパッド44を素管11a表面に押し付け可能に構成している。
なお、前記中間引抜き部17の上流側には、素管11aの外表面に付着した油膜や異物を除去するためのワイパー51を設け、下流側には、中間整形ダイス52を設けている。
【0054】
前記ワイパー51は、素管11aの外表面に付着した油膜や異物も除去するために設けられ、素管11aを通過させるため、該素管11aの外径よりも一回り小さい径の貫通穴が中央部に形成された例えば、ゴム製の筒状体である。
なお、ワイパー51を設置しない場合、油膜や異物により、中間引抜き部17で滑りが生じてしまい、素管1cの引抜きが安定せず、また断面形状が安定しないため、溝の寸法がばらつくという問題が生じてしまう。
【0055】
中間整形ダイス52は、前記中間引抜き部17で扁平した素管11aの断面形状を真円に近い形状に戻すために設けられ、前記素管11aの形状に応じて、フローティングダイス22の径と同じか小さなダイス径で構成している。
なお、前記中間整形ダイス52は金属、セラミック等の金属素管11aの材質より硬質なものからなる。好ましくは超硬合金製である。
【0056】
前記可動台33は、固定台50に対して引抜方向、或いは、その逆方向に平行移動可能なように複数の車輪33aを介して固定台50に設置され、上述した縮径部13、溝加工部14、仕上げ加工部15、中間引抜装置17、ワイパー51、及び、中間整形ダイス52を、ボックス32に収容した状態で設置している。
【0057】
ロードセル28は、固定台50上であって可動台33における引抜方向の下流側端部分に、素管11aの引抜き力に応じて可動台33から受ける荷重Fを検出可能に設けている。
【0058】
前記制御部45は、ロードセル28により検出した荷重Fを電気信号化した荷重検出信号Sinが入力され、制御プログラムに従って、引抜き部16、及び、中間引抜き部17の各モータM,M,Mの駆動を制御する制御信号Soutを出力する。
【0059】
さらに、前記制御部45は、図示しないが信号の解析処理および演算処理を実行するための演算機(CPU)、必要な制御プログラムを格納するためのハードディスク、及び、前記荷重検出信号Sinを一時格納するためのメモリを備え、その他にも、制御パラメータを入力するキーボードなどの入力手段、モニタなどの表示手段を適宜、備えることができる。
【0060】
前記制御部45は、中間引抜き部17のモータMの駆動を制御することにより、中間引抜き部17のパッド44による素管11aに対する押し付け力を制御する。
パッド44を素管11aに対して適切な押し付け力で押し付けることによって、パッド44と素管11aの間のスリップを低減させ、荷重Fの変動が小さくなるようにする。
【0061】
荷重Fの変動が大きくなると、長手方向での溝形状にばらつきが生じ、長手方向での溝の深さがばらつくと、一定の伝熱性能を確保できなくなることや、熱交換器のアルミフィンへの拡管組み込み時に拡管の度合いにばらつきが生じるため、部分的に拡管不足となり、アルミフィンとの密着不足による熱交換器性能の低下を起こすからである。
【0062】
なお、荷重Fの変動を小さくするためには、中間引抜き部17でのベルト42a,42aの回転を制御してもよい。その際、前記制御部45は、プーリ43の回転トルクに限らず、回転速度や加速度など他の制御パラメータを制御する構成であってもよい。
【0063】
続いて、上述した内面溝付管の製造装置12を用いた内面溝付管11の製造方法は、素管11aが引抜き方向Xへ進む過程で、素管11aを縮径させる縮径加工工程と、素管11a内面に多数の溝を形成する溝加工工程を行い、前記縮径加工工程と前記溝加工工程とを行なう間、前記縮径加工工程で縮径した素管11aを引抜く中間引抜き工程を行う。
【0064】
前記縮径加工工程では、縮径ダイス22と、素管11a内に配置され、前記縮径ダイス22とともに素管11aを縮径するフローティングプラグ23とで行う。
前記溝加工工程では、素管11a内において連結棒25を介して前記フローティングプラグ23と回動自在に連結され、外周に複数の溝が形成された溝付プラグ24と、素管11aの外側において該素管11aを前記溝付プラグ24の側へ押圧しながら管軸回りに公転自在に配設された複数の加工ボール26とで行なう。
【0065】
前記製造装置12、及び、製造方法は、以下のような作用効果を奏することができる。
前記製造装置12、及び、前記製造方法は、上述したように、前記素管11aの外径D(mm)、前記縮径ダイス22の径D(mm)により、R={(D−D)/D}×100(%)であらわされる素管11aの縮径率Rを、前記縮径加工部13において30%以下に設定している。
【0066】
このため、前記縮径加工部13で縮径後に素管11aが微振動するいわゆるビビリ現象が抑えられ、前記中間引抜き部17で引抜き荷重を補助する荷重補助を安定させることができる。
【0067】
前記製造装置12、及び、前記製造方法は、上述したように、前記フローティングプラグ23の外径D(mm)、前記縮径ダイス22の径D(mm)を、D−D≧0.1となるよう設定している。
【0068】
このため、より効果的にビビリ現象の発生を抑えることができ、縮径加工工程の際に引き細り、肉厚減少を防ぐことができる。
【0069】
前記製造装置12、及び、前記製造方法は、上述したように、加工ボール26の公転方向を、逆方向に設定した場合、加工ピッチP(mm)を、0.2≦P≦0.7の範囲になるよう設定している。
【0070】
このため、溝の加工精度が高い溝付き管を、安定して製造することができる。
【0071】
または、前記製造装置12、及び、前記製造方法は、上述したように、加工ボール26の公転方向を、正方向に設定した場合、加工ボール26の加工ピッチP(mm)を、0.2≦P≦0.4の範囲になるよう設定している。
【0072】
これにより、内面フィンの裾部にエグレが生じず、溝深さが深くて加工精度が高いものを得ることができる。
【実施例】
【0073】
続いて、前記製造装置12、及び、前記製造方法の有効性を検証するために素管11aを内面溝付管11に加工する加工実験を行なった。
実施例1では、縮径加工部13での素管11aの縮径率R、実施例2では、フローティングプラグ23と縮径ダイス22の噛み合せ(D−D)、実施例3では、加工ボール26の加工ピッチP、実施例4では、溝付プラグ24の溝深さとねじれ角、実施例5では、加工ボール26の公転回転数、実施例6では、加工ボール26の個数を、それぞれパラメータとして変化させ、加工の出来栄えを評価した。
【0074】
以下、実施例1〜6のそれぞれについて詳述する。
【0075】
(実施例1)
実施例1では、縮径加工部13での素管11aの縮径率Rを変化させることにより加工に及ぼす影響を調べる溝付け加工実験を行なった。
【0076】
本加工実験では、本発明例1〜3、比較例1,2ごとに加工条件を設定して素管11aを加工し、内面溝付管11を作成した。
【0077】
本発明例1〜3、比較例1,2では、素管11aの肉厚(T)、縮径ダイス22の径(D)、フローティングプラグ23の外径(D)、溝付プラグ24の外径、溝数、ねじれ角、溝深さ、溝頂角、加工ボール26の数、公転回転数、加工ピッチについては、表1に示すとおり共通の条件で加工を行なった。
【0078】
【表1】

さらに加工実験では、本発明例1〜3、比較例1,2のそれぞれについて表2に示すように、縮径ダイス22のダイス径Dを一定とし、素管11aの外径Dのみを変化させることで、縮径率Rを変化させた。
【0079】
表2に示すように、本発明例1〜3では、いずれも縮径率Rが30%以下になる設定の下で、比較例1,2では、縮径率Rが30%より大きくなる設定の下で加工を行なった。
【0080】
加工結果は、溝付加工後に素管11a内面に形成される溝の長手方向での溝深さのばらつきによって評価した。
また、長手方向での溝深さのばらつき具合と、縮径加工部13に設置したロードセル28により縮径加工時に検出される荷重Fの安定の度合いとは、密接に関連している。このため、荷重変動が生じると、素管11aの内面に形成される溝形状(特に溝深さ)に影響し、荷重変動の大きさは、そのまま溝の長手方向での溝深さのばらつきの大きさとなって現れる。
【0081】
このため、素管11aの内面に形成される溝の長手方向での溝深さのばらつきを評価することにより、縮径加工時に検出される荷重Fの安定の度合いについても評価することができる。
【0082】
加工結果は、荷重の安定具合を示す長手方向での溝深さのばらつきが0〜0.020mmである場合を「◎」とし、0.021〜0.050mmである場合を「○」とし、0.051mm以上である場合を「×」として評価した。
【0083】
本発明例1〜3、比較例1,2の各条件で行なった加工結果を表2に示す。
【0084】
【表2】

表2のとおり、本発明例1は「○」、本発明例2,3は「◎」となり、本発明例1〜3は、所望の内面溝付管11が得られたのに対して、比較例1、2は、いずれも「×」となり、所望の内面溝付管11が得られなかった。
【0085】
詳しくは、縮径率Rが30%より大きくなると、比較例1,2のように、溝の長手方向での溝深さのばらつきが大きくなった。
【0086】
素管11aの縮径率Rが30%より大きくなると、図6(a)に示すように、素管11aと前記縮径ダイス22Aの接触面積Aが大きくなって摩擦抵抗が大きくなる。そうすると、前記縮径ダイス22Aでの加工荷重が大きくなり、素管11aの外径Dが前記縮径ダイス22Aの出口の径Dよりも細くなる引き細りが発生してしまう(図6(a)の領域Z1の拡大図参照)。
【0087】
さらに引き細りにより素管11aと前記縮径ダイス22Aとの接触が安定せず、ビビリ現象が発生し易くなり、肉厚減少も生じる。
【0088】
このように、縮径加工部13通過後の素管11aの外径Dが縮径ダイス22Aの径Dよりも小さくなる「引き細り」や「肉厚減少」の度合いが大きくなり、中間引抜き部17での荷重補助が不安定になった。また管が微振動するビビリ現象も発生し、それに伴って、荷重の瞬時的な変動が大きくなった。
このため、比較例1,2で溝の長手方向での溝深さのばらつきが大きくなった結果に現れたものと考えられる。
【0089】
比較例1,2のように長手方向で溝深さのばらついた内面溝付管11では、伝熱性能が低下する。また、熱交換器のアルミフィンへの拡管組み込み時に拡管の度合いにばらつきが生じるため、部分的に拡管不足となり、アルミフィンとの密着不足による熱交換器性能の低下を起こす。
【0090】
さらに荷重の変動が大きい場合、加工中に破断を起こす時もあるので荷重の変動は小さい方が望ましい。
【0091】
これに対して、表2の結果のとおり、縮径加工部13での縮径率Rが30%以下であれば、本発明例1〜3のように長手方向での溝深さのばらつきが小さくなった。これにより、荷重Fの安定がよく、特に、縮径率Rが小さいほど荷重Fの安定がよくなることを実証できた。
【0092】
具体的には、本発明例1〜3では、図3に示すように、縮径率Rが30%以下、D−D≧0.1の場合、縮径加工後の素管11aの外径Dは、縮径ダイス22の径Dと略同じになり、縮径加工後の素管11aの肉厚Tは、素管11aの肉厚Tと同じか若干増えるという加工を実現できた。
【0093】
(実施例2)
実施例2では、縮径加工部13でのフローティングプラグ23と縮径ダイス22の噛み合わせ(D−D)を変化させることにより加工に及ぼす影響を調べる溝付け加工実験を行なった。
本加工実験では、本発明例4〜8、比較例3の各条件ごとに素管11aを加工し、内面溝付管11を作成した。
【0094】
本加工実験では、本発明例4〜8、比較例3の各加工条件において、表3に示すように、一定の縮径ダイス22のダイス径Dに対してフローティングプラグ23の外径Dを変化させ、フローティングプラグ23と縮径ダイス22の噛み合わせ(D−D)の度合いを変化させることで加工を行なった。
【0095】
本発明例4〜8では、いずれも(D−D)が0.1以上の設定の下で、比較例3では、(D−D)が0.1より小さくなる設定の下で加工を行なった。
【0096】
本発明例4〜8、比較例3の各加工条件で行なった加工の結果を表3に示す。
なお、本発明例4〜8、比較例3では、素管11aの外径Dを9.53mm、内径を8.93mmの共通した寸法の素管11aを用い、それ以外の条件についても、表1に示すように共通の条件で加工を行なった。また、加工結果は、実施例1と同様に、溝付け加工後に形成される溝の長手方向での溝深さのばらつき具合をもとに「◎」、「○」、「×」で評価した。
【0097】
【表3】

表3から明らかなように、本発明例4〜8は、加工結果が「◎」か「○」となり所望の内面溝付管11が得られたのに対して、比較例3では、加工結果が「×」となり所望の内面溝付管11が得られなかった。
【0098】
このように(D−D)が0.1より小さい場合、比較例1のように縮径加工部13Aでの荷重が不安定になった。
【0099】
詳しくは、フローティングプラグ23Aと縮径ダイス22Aの噛み合わせ(D1−D2)が0.10mmより小さくなると、図6(b)の領域Z3の拡大図に示すように、フローティングプラグ23Aの角部C付近のみが素管11aの内面に接触することになり、引抜き方向Xにかかる荷重を角部C付近のみで受けることになる。
【0100】
通常、縮径の際には、素管11aの肉厚は減肉させず、逆に0.01mm以内で増肉することもあるのに対して、(D−D)が0.1より小さい場合、素管11aの肉厚を減肉をさせながら縮径することになり、負荷が過大にかかり過ぎて図6(b)の領域Z2の拡大図に示すように、管外径の引き細りが発生する。
【0101】
フローティングプラグ23Aと縮径ダイス22Aの噛み合わせ(D−D)が小さくなるほど荷重の瞬時的な変動が大きくなり、特に、(D−D)が0.10mmより小さくなると管が微振動するビビリ現象も発生し、それに伴って荷重の瞬時的な変動がさらに大きくなり、引き細りの程度も変動する。
これによって、縮径加工部13Aで素管11aが破断することもあった。
【0102】
この状態で中間引抜き部17を備えた場合、該中間引抜き部17でのパッド44と素管11aとの接触面積が変動して接触面積を十分確保できず、中間引抜き部17での荷重補助が不安定になる。また、中間引抜き部17を備えた場合、パッド44の接触個数が変化したり、パッド44の素管11aに対する接触と開放の繰り返しによる振動が影響し、中間引抜き部17を備えていない従来の加工方法に比べ、かえって荷重の瞬時的な変動が大きくなる。
【0103】
これに対して、(D−D)が0.1以上であれば、本発明例4〜8のように、縮径加工部13での荷重の安定性がよく、特に、本発明例4〜6の加工結果より(D−D)が大きいほど、図3に示すように安定な荷重の下での加工を行なうことができることを実証できた。
【0104】
(実施例3)
実施例3では、加工ピッチPを変化させることにより加工に及ぼす影響を調べる溝付け加工実験を行なった。
本加工実験では、表4に示す本発明例9〜32の各条件のように、加工ボール26の公転方向が正方向、逆方向それぞれの場合について加工ピッチPを変化させる加工条件で内面溝付管11の加工を行なった。
【0105】
本発明例9〜32は、いずれも縮径率Rが30%以下となる本発明の条件を満たす加工条件の下で内面溝付管11の加工を行なったものであり、表4中、太枠で囲んだ本発明例11〜18、発明例23〜25は、本発明例の中でも特に好適な加工条件で内面溝付管11の加工を行なったものである。
【0106】
詳しくは、本発明例11〜18では、加工ボール26の公転方向を逆方向に設定し、加工ピッチP(mm)が0.2mm以上、0.7mm以下の設定の下で加工を行い、本発明例23〜25では、加工ボール26の公転方向を正方向に設定し、加工ピッチP(mm)が0.2mm以上、0.4mm以下になる設定の下で加工を行なった。
【0107】
一方、本発明例9,10,19,20では、加工ボール26の公転方向を逆方向に設定し、加工ピッチP(mm)が0.2mmより小さく、或いは0.7mmより大きくなる設定の下で加工を行なった。本発明例21,22,26〜32では、いずれも加工ボール26の公転方向を正方向に設定し、加工ピッチP(mm)が0.2mmより小さく、或いは0.4mmより大きくなる設定の下で加工を行なった。
【0108】
また、本発明例9〜32では、素管11a外径を9.53mm、内径を8.93mmの共通した素管11aを用い、それ以外の条件についても、表1に示すように共通の条件で加工を行なった。
【0109】
ここで、加工ピッチP(mm)とは、素管11aの外周を、該外周に配置した加工ボール26の個数で等分配した角度分だけ加工ボール26が素管11a回りを公転する間に素管11aが引抜き方向Xへ進む距離を示す。
詳しくは、実施例3では、素管11aの外周に加工ボール26を4個配置しているため、図4に示すように、加工ボール26が素管11a外周を90度回転する間に素管11aが引抜き方向Xへ進む移動距離Pを加工ピッチPとしている。
【0110】
なお、図4は、溝加工部14付近を一部省略して模式的に示した加工ピッチPを説明する説明図である。また、図4中の仮想線で示したLa,Ld,Lbは、それぞれ素管11a外周に配置された4個の加工ボール26のうち、図4中に現される3個の加工ボール26a,26d,26bが素管11aを押圧した軌跡を示す。さらにまた、図4では、前記加工ボール26の公転方向が、逆方向(前記溝付プラグ24の回転方向と逆向き)の場合を示している。なお、加工ボール26が正方向である場合は、加工ボール26の軌跡La,Lb,Ldは、図4中、右下がりとなる。
【0111】
加工結果は、溝付け加工後に素管11a内面に形成される「溝の形成」(管肉の未充填の有無)と「溝の加工精度」(エグレの発生状況)によって評価した。
【0112】
ここで、「エグレ」とは、図5に示すように、溝加工部14において、内面フィン100の裾部においてフィン100を厚み方向に切り欠いたような形状の材料の未充填部分101を示す。
【0113】
「溝の形成」は、溝付プラグ24の溝全体に肉が充填されたもの(所定の深さの溝が形成されたもの)を「○」とし、未充填があったもの(所定の深さの溝が形成されなかったもの)を「△」、或いは「×」として評価した。「△」は、未充填があったが、実用上、使用できる範囲内のものである。さらに、「溝の加工精度」は、エグレがない、またはエグレ深さHがフィン裾幅の10%以内であるものを「◎」とし、エグレ深さHがフィン裾幅の30%以内であるものを「○」とし、30%以上であるものを「△」、或いは「×」として評価した。「△」は、エグレ深さHがフィン裾幅の30%以上であったが、実用上、使用できる範囲内のものである。
【0114】
本発明例9〜32の各条件ごとに行なった加工の結果を表4に示す。
【0115】
【表4】

表4から明らかなように、本発明例9〜32は、いずれも「◎」、「○」、「△」のいずれかとなり、「×」のものはなかった。殊に、本発明例11〜18,23〜25では、いずれも「◎」か「○」となった。
【0116】
詳しくは、表4に示すとおり、「溝の形成」について、本発明例9,10,21,22では「△」であるのに対して、本発明例11〜20,23〜32では「○」となった。この結果より、加工ボール26の公転方向に関らず、加工ピッチPを0.20mm以上にすると、内面の溝を所定の深さまで形成することができることが実証された。
【0117】
また、「溝の加工精度」について、本発明例20では、「△」であるのに対して、本発明例9〜18では「◎」或いは「○」となった。この結果より、加工ボール26の公転方向が逆方向の場合において加工ピッチPが0.70mm以下であれば、内面フィンの裾部に特にエグレが生じ難いことが実証された。
【0118】
さらにまた、「溝の加工精度」について、本発明例26〜32では、「△」であるのに対して、本発明例21〜25では「○」、或いは「◎」となり、この結果より、加工ボール26の公転方向が正方向の場合において加工ピッチPが0.40mm以下であれば、内面フィンの裾部に特にエグレが生じ難いことが実証された。
【0119】
このようにエグレの深さがフィン裾幅の30%以内であれば、後加工で行なう熱交換器のアルミフィンへの拡管組み込み時に内面フィンの倒れが発生するおそれがなく、好ましい。
【0120】
以上より、本発明例11〜18、発明例23〜25は、「溝の形成」、「溝の加工精度」の観点で、本発明例の中でも特に好適な加工条件で内面溝付管11の加工が可能であることを実証することができた。
【0121】
詳しくは、加工ボール26の公転方向を、逆方向に設定し、加工ピッチP(mm)を、0.2≦P≦0.7の範囲になるよう設定した場合、或いは、加工ボール26の公転方向を、正方向に設定し、加工ピッチP(mm)を、0.2≦P≦0.4の範囲になるよう設定することを特徴とする本発明の有効性を実証できた。
【0122】
(実施例4)
実施例4では、溝加工工程において溝付プラグ24の溝深さとねじれ角を変えたときの加工に及ぼす影響を調べる溝付け加工実験を行なった。
本加工実験では、加工ボール26の公転方向が、正方向、逆方向のそれぞれの場合について、加工ボール26の加工ピッチPを、0.20mm、0.40mm、0.60mmのそれぞれの場合に変更させて行なった。
また、本加工実験で行う加工では、素管11aの外径Dがφ9.53mmである共通の寸法の素管11aを用い、縮径ダイス径D、フローティングプラグ外径D、溝付プラグ24の外径、溝数、溝頂角、加工ボール26の数、公転速度については、実施例1と同様に表1に示す共通の条件で行なった。
【0123】
加工結果は、表5〜7に示すとおりである。
なお、表6,7は、それぞれ加工ボール26の公転方向が正方向、逆方向の場合における溝付プラグ24の溝深さとねじれ角、加工ボール26の加工ピッチPを変化させて行った実験結果を示す。
【0124】
さらに、表5は、表6、7における加工条件、及び、その加工結果の一部を抽出した実験結果を示す。
【0125】
なお、加工結果は、実施例3と同様に、「溝の形成」、「溝の加工精度」について検証し、これら全ての要素が「○」または「◎」のものを「○」、いずれかが「×」となったものを「×」、いずれかに「×」を含まずに、「△」を含むものを「△」として総合的に評価した。
【0126】
なお、表5〜表7に示すように、実施例4での加工実験においても、いずれも縮径率Rが30%以下となる本発明の条件を満たす加工条件の下で内面溝付管11の加工を行なったものであるため、「×」のものはなかった。
【0127】
【表5】

【0128】
【表6】

【0129】
【表7】

一般に、溝が深く、ねじれ角が大きい加工が困難とされる加工条件の場合、例えば、溝深さが0.20mmよりも大きく、且つねじれ角が55度よりも大きな加工条件の場合、加工時に大きな引抜き力を要する。
【0130】
表5に示すように、溝付プラグ24の溝深さが0.22mmという0.20mmよりも深く、且つ、ねじれ角が60度という55度よりも大きな場合でも、加工ボール26の公転方向が正方向で、且つ、加工ピッチが0.20mm〜0.40mmの範囲内であれば、加工結果は「○」となり、加工可能であった(表5中の※1の欄参照)。
【0131】
この結果より、溝付プラグ24の溝が深く、ねじれ角が大きい加工が困難な場合でも、加工ボール26の公転方向が正方向であり、且つ、加工ピッチPが大きくなりすぎない0.2mm〜0.4mmであれば、加工可能であることを実証できた。
【0132】
一方、表5に示すように、溝付プラグ24の溝深さが0.18mmや0.15mmという0.20mmがよりも小さく、且つ、ねじれ角が50度という55度よりも小さい場合でも、加工ボール26の公転方向が逆方向であれば、加工ピッチPの設定に関らず加工結果は全て「○」となり、加工可能であった(表5中の※2の欄参照)。
【0133】
この結果より、溝付プラグ24の溝深さが小さく、ねじれ角が小さい場合には、同じ加工ピッチPでは、加工ボール26の公転方向が逆方向の方が、正方向の場合と比較すると、フィン内面にエグレは発生し難く、発生しても小さいので、加工ピッチPを例えば0.6mmという大きく設定することができることを実証することができた。
【0134】
一般に加工ピッチPが大きいほど加工速度が速くなり、生産性が向上するので、加工ボール26の公転方向が逆方向で加工可能な場合は、加工ボール26の公転方向を逆方向で加工するのが好ましい。
【0135】
(実施例5)
実施例5では、加工ボール26の公転回転数R(rpm)が加工に及ぼす影響を調べる溝付け加工実験を行なった。
ここで、一般に、内面溝付管11の加工時の引抜き速度をV(m/min)、加工ボール26の公転回転数をR(rpm)、加工ボール26の加工ピッチをP(mm)、加工ボール26の配置数をC(個)とした場合、引抜き速度をV(m/min)は、V=R×P×C/1000…式(1)であらわすことができる。この式(1)より、公転速度をR(rpm)を変えても、それに応じて引抜き速度をV(m/min)を変えることで加工ピッチP(mm)を一定に保つことができることがわかる。
【0136】
そこで本加工実験では、式(1)に基づき、加工ボール26の公転回転数を10000rpm、30000rpm、40000rpmの各場合について、加工ボール26の加工ピッチが一定になるよう引抜き速度をVを設定して実施例3および実施例4と同様の加工実験を行った。
【0137】
この結果、加工ボール26の公転回転数を変えても、加工ピッチPが同じであれば、実施例3および実施例4と同じ結果であった。
【0138】
結局、加工ピッチPが所定範囲に保てれば、加工ボール26の公転回転数の違いに関らず、同様の評価結果を得ることができることが実証できる。加工ボール26の公転回転数は、加工ボール26等の加工工具の寿命等を考慮し適宜選択すればよい。
【0139】
(実施例6)
実施例6では、加工ボール26の配置数C(個)の影響を調べる溝付け加工実験を行なった。
ここで、式(1)の関係より、加工ボール26の配置数C(個)を変えても、それに応じて引抜き速度をV(m/min)や公転回転数R(rpm)を変えることで加工ピッチP(mm)を一定に保つことができる。
【0140】
そこで実施例6では、加工ボール26の配置数Cが3個と5個の各場合について、式(1)の関係に基づき、加工ピッチP(mm)を一定に保つように、引抜き速度をV(m/min)や公転速度をR(rpm)をそれぞれ設定して実施例3、実施例4および実施例5と同様の加工実験を行った。
【0141】
この結果、加工ボール26の公転回転数を変えても、加工ピッチPが同じであれば、実施例3、実施例4および実施例5と同じ結果であった。
【0142】
結局、加工ピッチPが所定範囲に保てれば、加工ボール26の配置数C(個)の違いに関らず、同様の評価結果を得ることができることを実証できた。加工ボール26の配置数は加工する内面溝付管11により適宜選択すればよい。
【0143】
上述した実施形態と、この発明の構成との対応において、
加工ボール26は、押圧用工具に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【0144】
例えば、押圧用工具は、加工ボール26に限らず、ローラーなど、素管11aを押圧できれば、他の工具を用いてもよい。
さらにまた、素管11aは、銅、アルミニウム、又は、それらの合金等など熱伝導性に優れた材料で形成することができる。
【符号の説明】
【0145】
11…内面溝付管
11a…素管
12…内面溝付管の製造装置
13…縮径加工部
14…溝加工部
17…中間引抜き部
22…縮径ダイス
23…フローティングプラグ
24…溝付プラグ
26…加工ボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素管の引抜き方向に沿って、素管を縮径させる縮径加工部と、素管内面に多数の溝を形成する溝加工部を備えるとともに、前記縮径加工部と前記溝加工部との間に前記縮径加工部で縮径した素管を引抜く中間引抜き部を備え、
前記縮径加工部を、縮径ダイスと、素管内に配置され、前記縮径ダイスとともに素管を縮径するフローティングプラグとで構成し、
前記溝加工部を、素管内において前記フローティングプラグと回動自在に連結され、外周に複数の溝が形成された溝付プラグと、素管の外側において該素管を前記溝付プラグの側へ押圧しながら管軸回りに公転自在に配置された押圧用工具とで構成した内面溝付管の製造装置であって、
前記素管の外径D(mm)、前記縮径ダイスの径D(mm)により、
={(D−D)/D}×100(%)
であらわされる素管の縮径率R(%)を、前記縮径加工部において
≦30
に設定し、
前記フローティングプラグの外径D(mm)、前記縮径ダイスの径D(mm)を、
−D≧0.1
となるよう設定した
内面溝付管の製造装置。
【請求項2】
前記押圧用工具の公転方向を、前記溝付プラグの回転方向と逆向きに設定し、
前記押圧用工具の加工ピッチP(mm)を、
0.2≦P≦0.7
の範囲になるよう設定した
請求項1に記載の内面溝付管の製造装置。
【請求項3】
前記押圧用工具の公転方向を、前記溝付プラグの回転方向と同じ向きに設定し、
前記押圧用工具の加工ピッチP(mm)を、
0.2≦P≦0.4
の範囲になるよう設定した
請求項1に記載の内面溝付管の製造装置。
【請求項4】
素管が引抜き方向へ進む過程で、素管を縮径させる縮径加工工程と、素管内面に多数の溝を形成する溝加工工程を行い、前記縮径加工工程と前記溝加工工程とを行なう間、前記縮径加工工程で縮径した素管を引抜く中間引抜き工程を行い、
前記縮径加工工程を、縮径ダイスと、素管内に配置され、前記縮径ダイスとともに素管を縮径するフローティングプラグとで行い、
前記溝加工工程を、素管内において前記フローティングプラグと回動自在に連結され、外周に複数の溝が形成された溝付プラグと、素管の外側において該素管を前記溝付プラグの側へ押圧しながら管軸回りに公転自在に配置された押圧用工具とで行なう内面溝付管の製造方法であって、
前記素管の外径D(mm)、前記縮径ダイスの径D(mm)により、
={(D−D)/D}×100(%)
であらわされる素管の縮径率R(%)を、
≦30に設定し、
前記フローティングプラグの外径D(mm)、前記縮径ダイスの径D(mm)を、
−D≧0.1
となるよう設定する
内面溝付管の製造方法。
【請求項5】
前記押圧用工具の公転方向を、前記溝付プラグの回転方向と逆向きに設定し、
前記押圧用工具の加工ピッチP(mm)を、
0.2≦P≦0.7
の範囲になるよう設定する
請求項4に記載の内面溝付管の製造方法。
【請求項6】
前記押圧用工具の公転方向を、前記溝付プラグの回転方向と同じ向きに設定し、
前記押圧用工具の加工ピッチP(mm)を、
0.2≦P≦0.4
の範囲になるよう設定する
請求項4に記載の内面溝付管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−188356(P2010−188356A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32645(P2009−32645)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】