説明

円すいころ軸受用保持器及び円すいころ軸受

【課題】軸受内での潤滑油の攪拌抵抗を低減することができ、軸受の回転トルクを低減することができる円すいころ軸受用保持器及び円すいころ軸受を提供する。
【解決手段】円すいころ軸受用保持器14は、大径側円環部15と、大径側円環部15と同軸配置される小径側円環部16と、大径側円環部15と小径側円環部16とを連結すべく、円周方向に略等間隔で複数配置される柱部17と、円周方向に互いに隣り合う柱部17の間に形成され、円すいころ13を転動可能に保持するポケット部18と、を有し、大径側円環部15の軸方向端面に潤滑油逃げ用の貫通穴19が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、鉄道車両、鉄鋼機械、工作機械、建設機械等の一般産業機械や、自動車のトランスミッション等の回転支持部に使用される円すいころ軸受用保持器及び円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
円すいころ軸受は、コンパクトで、大きなラジアル荷重及びアキシャル荷重を支持することができ、しかも、高速回転で使用することができるため、広く使用されている。
【0003】
従来の円すいころ軸受としては、例えば、図8に示す円すいころ軸受50が知られている。この円すいころ軸受50は、内周面に外輪軌道面51aを有する外輪51と、外周面に内輪軌道面52aを有する内輪52と、外輪軌道面51aと内輪軌道面52aとの間に転動可能に配設される複数の円すいころ53と、円すいころ53を円周方向に等間隔に保持する保持器54と、を備える。
【0004】
保持器54は、図9に示すように、大径側円環部55と、大径側円環部55と同軸配置される小径側円環部56と、大径側円環部55と小径側円環部56とを連結すべく、円周方向に略等間隔で複数配置される柱部57と、円周方向に互いに隣り合う柱部57の間に形成され、円すいころ53を転動可能に保持するポケット部58と、を有する。
【0005】
ところで、円すいころ軸受50では、回転トルクの発生要因として、円すいころ53と内輪52との間の摩擦抵抗の他に、図8の矢印に示すように、内輪52の小径側端部から流入して大径側端部から排出される潤滑油の軸受内での攪拌抵抗があり、この回転トルクが大きいと、エネルギー節約の観点から好ましくない。
【0006】
このため、軸受の回転トルクの低減を目的として、保持器54の小径側端部の内輪52側への折り曲げ部と内輪52との間隙を調整して、軸受内への潤滑油の流入量を減らし、これにより、軸受内での潤滑油の攪拌抵抗を低減する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、同様に、軸受の回転トルクの低減を目的として、保持器54の小径側端部の内輪52側への折り曲げ部と内輪52との間隙、及び保持器54の大径側端部の内輪52側への折り曲げ部と内輪52との間隙を調整して、軸受内への潤滑油の流入量を最小限に抑える技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平11−201149号公報
【特許文献2】特開平10−89353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2に記載の円すいころ軸受では、保持器54の内輪52側への折り曲げ部と内輪52との間隙の寸法調整や内輪52側の加工が必要になり、また、保持器54の基本断面形状を変更しなければならないため、製造コストが増加する可能性があった。
【0010】
本発明は、このような不都合を解消するためになされたものであり、その目的は、軸受内での潤滑油の攪拌抵抗を低減することができ、軸受の回転トルクを低減することができる円すいころ軸受用保持器及び円すいころ軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 大径側円環部と、大径側円環部と同軸配置される小径側円環部と、大径側円環部と小径側円環部とを連結すべく、円周方向に略等間隔で複数配置される柱部と、円周方向に互いに隣り合う柱部の間に形成され、円すいころを転動可能に保持するポケット部と、を有する円すいころ軸受用保持器であって、大径側円環部の軸方向端面に潤滑油逃げ用の貫通穴が設けられることを特徴とする円すいころ軸受用保持器。
(2) 内周面に外輪軌道面を有する外輪と、外周面に内輪軌道面を有する内輪と、外輪軌道面と内輪軌道面との間に転動可能に配設される複数の円すいころと、円すいころを円周方向に等間隔に保持する保持器と、を備え、保持器は、大径側円環部と、大径側円環部と同軸配置される小径側円環部と、大径側円環部と小径側円環部とを連結すべく、円周方向に略等間隔で複数配置される柱部と、円周方向に互いに隣り合う柱部の間に形成され、円すいころを転動可能に保持するポケット部と、を有する円すいころ軸受であって、保持部の大径側円環部の軸方向端面に潤滑油逃げ用の貫通穴が設けられることを特徴とする円すいころ軸受。
【発明の効果】
【0012】
本発明の円すいころ軸受用保持器及び円すいころ軸受によれば、保持部の大径側円環部の軸方向端面に潤滑油逃げ用の貫通穴が設けられるため、軸受内に流入した潤滑油を速やかに排出することができる。これにより、軸受内での潤滑油の攪拌抵抗を低減することができ、軸受の回転トルクを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る円すいころ軸受用保持器及び円すいころ軸受の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係る円すいころ軸受用保持器及び円すいころ軸受の一実施形態を説明するための要部断面図、図2は図1に示す円すいころ軸受用保持器を説明するための斜視図、図3は図2のA部拡大図、図4は円すいころ軸受用保持器の第1変形例を説明するための要部拡大斜視図、図5は円すいころ軸受用保持器の第2変形例を説明するための要部拡大断面図、図6は円すいころ軸受用保持器の第3変形例を説明するための要部拡大断面図、図7は円すいころ軸受用保持器の第4変形例を説明するための要部拡大断面図である。
【0014】
本実施形態の円すいころ軸受10は、図1に示すように、内周面に外輪軌道面11aを有する外輪11と、外周面に内輪軌道面12aを有する内輪12と、外輪軌道面11aと内輪軌道面12aとの間に転動可能に配設される複数の円すいころ13と、円すいころ13を円周方向に等間隔に保持する円すいころ軸受用保持器14と、を備える。
【0015】
円すいころ軸受用保持器14は、合成樹脂の射出成形で形成されており、図2に示すように、大径側円環部15と、大径側円環部15と同軸配置される小径側円環部16と、大径側円環部15と小径側円環部16とを連結すべく、円周方向に略等間隔で複数配置される柱部17と、円周方向に互いに隣り合う各柱部17の間に形成され、円すいころ13を転動可能に保持するポケット部18と、を備える。
【0016】
そして、本実施形態では、図3に示すように、円すいころ軸受用保持器14の大径側円環部15の軸方向端面に潤滑油逃げ用の貫通穴19が形成される。この貫通穴19は、大径側円環部15を略軸方向に貫通するように形成される。これにより、図1の矢印に示すように、内輪12の小径側端部と保持器14の小径側円環部16との間からから流入した潤滑油が、外輪11及び内輪12の大径側端部と保持器14の大径側円環部15との間から排出されると共に、大径側円環部15の貫通穴19からも排出される。
【0017】
また、貫通穴19は、本実施形態では円形であり、各ポケット部18に対して円周方向に互いに離間して2個ずつ配置される。また、貫通穴16の直径Dは、軸受回転時に保持器14に作用する荷重に耐える強度を確保できる範囲で、例えば、大径側円環部15の径方向の板厚Tの50%以下が好ましい。
【0018】
以上説明したように、本実施形態の円すいころ軸受用保持器14及び円すいころ軸受10によれば、保持部14の大径側円環部15の軸方向端面に潤滑油逃げ用の貫通穴19が設けられるため、軸受10内に流入した潤滑油を速やかに排出することができる。これにより、軸受10内での潤滑油の攪拌抵抗を低減することができ、軸受10の回転トルクを低減することができる。
【0019】
なお、本実施形態の円すいころ軸受用保持器14の第1変形例として、上記実施形態では、貫通穴19を柱部17から円周方向に離れた位置に形成したが、図4に示すように、貫通穴19を柱部17の近傍に形成するようにしてもよい。
【0020】
また、本実施形態の円すいころ軸受用保持器14の第2変形例として、図5に示すように、貫通穴19を四角形状としてもよい。この場合、貫通穴19の円周方向長さL1は、軸受回転時に保持器14に作用する荷重に耐える強度を確保できる範囲で、例えば、ポケット部18の円周方向長さL2の50%以下が好ましい。
【0021】
また、本実施形態の円すいころ軸受用保持器14の第3変形例として、図6に示すように、貫通穴19を三角形状としてもよい。
【0022】
また、本実施形態の円すいころ軸受用保持器14の第4変形例として、上記実施形態では、各ポケット部18に対して貫通穴19を設ける場合を例示したが、図7に示すように、貫通穴19が設けられるポケット部18と貫通穴19が設けられないポケット部18が円周方向に交互に配置されるようにしてもよい。なお、本変形例では、貫通穴19は、ポケット部18の円周方向中央部に1個配置されている。
【0023】
なお、本発明は上記実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態では、1個のポケット部18に対して貫通穴19を1個又は2個設ける場合を例示したが、これに限定されず、貫通穴19を3個以上設けるようにしてもよい。また、貫通穴19の形状も上記に限定されず任意である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る円すいころ軸受用保持器及び円すいころ軸受の一実施形態を説明するための要部断面図である。
【図2】図1に示す円すいころ軸受用保持器を説明するための斜視図である。
【図3】図2のA部拡大図である。
【図4】円すいころ軸受用保持器の第1変形例を説明するための要部拡大斜視図である。
【図5】円すいころ軸受用保持器の第2変形例を説明するための要部拡大断面図である。
【図6】円すいころ軸受用保持器の第3変形例を説明するための要部拡大断面図である。
【図7】円すいころ軸受用保持器の第4変形例を説明するための要部拡大断面図である。
【図8】従来の円すいころ軸受を説明するための要部断面図である。
【図9】従来の円すいころ軸受用保持器を説明するための斜視図である。
【符号の説明】
【0025】
10 円すいころ軸受
11 外輪
11a 外輪軌道面
12 内輪
12a 内輪軌道面
13 円すいころ
14 円すいころ軸受用保持器
15 大径側円環部
16 小径側円環部
17 柱部
18 ポケット部
19 貫通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大径側円環部と、前記大径側円環部と同軸配置される小径側円環部と、前記大径側円環部と前記小径側円環部とを連結すべく、円周方向に略等間隔で複数配置される柱部と、円周方向に互いに隣り合う前記柱部の間に形成され、円すいころを転動可能に保持するポケット部と、を有する円すいころ軸受用保持器であって、
前記大径側円環部の軸方向端面に潤滑油逃げ用の貫通穴が設けられることを特徴とする円すいころ軸受用保持器。
【請求項2】
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、外周面に内輪軌道面を有する内輪と、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動可能に配設される複数の円すいころと、前記円すいころを円周方向に等間隔に保持する保持器と、を備え、
前記保持器は、大径側円環部と、前記大径側円環部と同軸配置される小径側円環部と、前記大径側円環部と前記小径側円環部とを連結すべく、円周方向に略等間隔で複数配置される柱部と、円周方向に互いに隣り合う前記柱部の間に形成され、前記円すいころを転動可能に保持するポケット部と、を有する円すいころ軸受であって、
前記保持部の前記大径側円環部の軸方向端面に潤滑油逃げ用の貫通穴が設けられることを特徴とする円すいころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−185978(P2009−185978A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28967(P2008−28967)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】