説明

円錐リング変速機

【課題】接触ゾーンへのできる限り確実なトラクション流体の供給が保証された円錐リング変速機を提供する。
【解決手段】円錐リング変速機(1)に、内部空間(3)を区画する変速機筐体(2)を設け、この内部空間(3)に、第1円錐摩擦車(4)と、第2円錐摩擦車(5)と、第1および第2円錐摩擦車(4,5)の双方に噛み合う摩擦リング(6)とを収納する。内部空間(3)をトラクション流体(16)によって完全に充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部空間を区画する変速機筐体を有し、内部空間に、第1円錐摩擦車と、第2円錐摩擦車と、これら第1および第2円錐摩擦車に噛み合う摩擦リングとが収納されている円錐リング変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に、対向する2つの円錐摩擦車が平行シャフトに取り付けられた円錐リング変速機が記載されている。この円錐リング変速機の変速比は、円錐形の外面に沿って摩擦リングを移動させることにより無段階で調節される。この場合、摩擦リングは、円錐摩擦車の一方を取り囲んでいる。
【0003】
円錐リング変速機における摩擦リングは、周囲を取り囲み外側へ向かう外部接触表面と、周囲を取り囲み放射状に内側へ向かう内部接触表面とを備えている。この場合、内部接触表面は、摩擦リングによって取り囲まれた円錐摩擦車の接触表面と共に、第1接触ゾーンを形成している。この場合、円錐摩擦車の接触表面は、円錐摩擦車の円錐状の側面である。第2接触ゾーンは、摩擦リングの外部接触表面と摩擦リングによって取り囲まれていない円錐摩擦車の接触表面との間に設けられている。摩擦リングは、対向する双方の円錐摩擦車の間に装着されるので、回転モーメントは、この摩擦リングを介して、双方の円錐摩擦車間の第1および第2の接触ゾーンへ伝送される。
【0004】
回転モーメントを円錐摩擦車間において伝送するために、適切なトラクション流体が使用され、1つの接触ゾーンにおいて互いに重なり合う接触表面が、このトラクション流体によって分離されているほうがよい。トラクション流体によるこのような分離が行われている場合、使用される回転体(円錐摩擦車、摩擦リング)間にはスリットが設けられており、このスリット中のトラクション流体の剪断応力によって、回転モーメントが伝送される。トラクション流体の剪断のみによって回転モーメントが伝送される場合、通常は金属製の接触表面の摩損を、理想的に完全に回避することができる。
【特許文献1】米国特許出願公開第6,093,131号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来知られている方法では、接触ゾーンの内側のトラクション流体の剪断による回転モーメント伝送は、円錐摩擦車および摩擦リングの跳ね掛け潤滑とそれによる浸潤とによって行われる。跳ね掛け潤滑の際に、円錐リング変速機の内部空間に、トラクション流体が充填され、同時に空気が充填される。この場合、回転体の回転の結果として、内部空間の内側において、トラクション流体と空気とが部分的に著しく混合される、すなわち、不都合な泡が生じる。このことにより、流体弾性力学の論理に基づくトラクション流体の剪断のみによる回転モーメントの伝送は決定的に損なわれる。
【0006】
特に円錐リング変速機が自動車に設けられている場合、跳ね掛け潤滑では、全ての操作条件(例えば、傾斜、温度の影響、速度)下でトラクション流体を円錐摩擦車と摩擦リングとの間の接触ゾーンに常に十分に供給する統計学的な液面を設定することは非常に困難である。さらに、トラクション流体の剪断により熱が生じるが、熱は全ての操作条件下で排除される必要がある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、接触ゾーンへのできる限り確実なトラクション流体の供給が保証された円錐リング変速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、請求項1の特徴の組み合わせにより達成される。好ましい実施例は、従属請求項に記載されている。
【0009】
請求項1に記載の円錐リング変速機は、内部空間がトラクション流体によって完全に充填されていることを特徴とする。このことは、内部空間に空気がないことを意味している。したがって、トラクション流体と空気との不都合な混合は生じ得ない。
【0010】
円錐リング変速機の内部空間がトラクション流体によって完全に充填されている場合、跳ね掛け潤滑による円錐リング変速機の摩擦損失よりも大きい摩擦損失の生じる可能性がある。しかしながら、内部空間にトラクション流体が完全に充填されていることにより起こり得る効率損失は、接触ゾーンへトラクション流体が非常に好適に供給されることを前提として、好ましくは金属製の回転体の表面を完全に分離することの利点により補償される。
【0011】
接触ゾーンへのトラクション流体の供給が一定かつ均等なままであることの利点は、円錐リング変速機が例えば自動車に設けられている場合に傾斜効果が接触ゾーンへのトラクション流体の供給に影響を及ぼさない、ということを含んでいる。発進および冷間始動条件において接触ゾーンにトラクション流体を最適に供給することもできる。更なる利点は、トラクション流体が内部空間における緩衝特性を有している点であり、その結果、騒音放射を低減することができる。同様に、トラクション流体の剪断により生じる熱を、周囲のトラクション流体に直接放出することができる。このことは、特に、純粋な跳ね掛け潤滑では問題である。なぜなら、生じる回転速度(インジェクションオイル)および液体の局部的粘性により、一方で最適な熱放出を行いながら同時に十分な回転モーメントを伝送することは困難だからである。
【0012】
なお、この点で、本発明の円錐リング変速機の変速機筐体は、トラクション流体の充填された内部空間の他に、トラクション流体の充填されていない他の内部空間を定義または制限していてもよい。例えば、円錐リング変速機の軸受けの少なくとも一部分を収納する少なくとも1つの内部空間が設けられていてもよい。この内部空間に、トラクション流体とは特性の異なるオイルを供給してもよい。
【0013】
好ましい一実施例では、内部空間は、開口部を介して、貯蔵部と連通している。貯蔵部により、トラクション流体の熱膨張を補償できる。したがって、内部空間は、円錐リング変速機における温度が異なる場合も、トラクション流体によって完全に充填されており、変速機筐体の内側に不要な圧は生じない、ということが保証される。貯蔵部と内部空間との間の開口部は、トラクション流体の熱膨張または体積変化を、内部空間に空気を入れることなく補償するように設計されている。貯蔵部の内側に、トラクション流体についての液面が形成されていることが好ましい。貯蔵部に貯蔵されたトラクション流体は、例えば、漏洩、温度低下に起因する、必要に応じて内部空間を再充填する機能を果たす。この場合、トラクション流体は、開口部を通って、内部空間の方向に行く。
【0014】
液面を参照することにより、トラクション流体のレベルを簡単に制御できる。貯蔵部によりトラクション流体の補給も簡単になる。
【0015】
開口部は、円錐リング変速機の通常の操作位置における内部空間の最も高い場所に、または、少なくとも最も高い場所の付近に配置されていることが好ましい。したがって、特に内部空間にトラクション流体を充填する際に、空気は最も高い場所を経て開口部から出てゆく。
【0016】
好ましい一実施例では、内部空間が、第1円錐摩擦車を受け入れるための第1円錐形サブ内部空間と、第2円錐摩擦車を受け入れるための第2円錐形サブ内部空間と、本質的に中空シリンダ形のサブ内部空間とからなり、この中空シリンダ形のサブ内部空間には、摩擦リングが、例えば、傾斜したシリンダ軸を有する、中空シリンダ形のサブ内部空間のシリンダ軸に沿ってシフト可能なように配置されている。この場合、これらのサブ内部空間が部分的に重なり合っていてもよく、このことは、双方の円錐摩擦車の側面の間のスリットに生じていてもよい。第1円錐形サブ内部空間と第2円錐形サブ内部空間とは、第1円錐摩擦車および第2円錐摩擦車の開口角に相当する開口角を有していてもよい。第1サブ内部空間は、その内部に収納される第1円錐摩擦車よりもほんの少し大きいことが好ましい。同じく、第2サブ内部空間にも同様のことが当てはまる。こうして、トラクション流体を充填する必要のある内部空間の体積を最小値に低減するために、変速機筐体は最小の間隔で円錐摩擦車に適合される。
【0017】
好ましい一実施例では、摩擦リング用の中空シリンダ形のサブ内部空間と摩擦リングによって取り囲まれている円錐摩擦車を受け入れる円錐形サブ内部空間との間に、断面が鎌形の溝部が配置されている。この鎌形溝部によって、内部空間の体積が最小である場合に、壁厚がほぼ一定なことにより重すぎない変速機筐体が実現される。
【0018】
摩擦リング用の中空シリンダ形のサブ内部空間は、摩擦リング用の調整装置を受け入れるための空間拡張部を備えていてもよい。この調整装置によって、円錐リング変速機における摩擦リングの軸方向の位置、および、それに伴って、円錐リング変速機の変速比が調整される。空間拡張部は、内部空間の体積を不必要に増大することなく、調整装置の機能性を妨げないように寸法決定されている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、接触ゾーンへのできる限り確実なトラクション流体の供給が保証された円錐リング変速機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図に示す実施形態を参照して本発明を詳細に説明する。
【0021】
図1に、円錐リング変速機を示す。円錐リング変速機全体を符号1で示す。変速機筐体2(半分は切除されている)は、内部空間3を区画している、または、取り囲んでいる。内部空間3に、第1円錐摩擦車4と、第2円錐摩擦車5と、摩擦リング6とが配置されている。双方の円錐摩擦車4,5は、対向して配置されており、互いに間隔をあけた平行な回転軸7,8を有し、それぞれ同じ開口角を有している。
【0022】
摩擦リング6は、双方の円錐摩擦車4,5と噛み合い、且つ、第1円錐摩擦車4を取り囲んでいる。この場合、摩擦リング6は、内部接触表面9と外部接触表面10とを備えている。この場合、内部接触表面9は、摩擦リング6の放射状に外側へ向かう円周面に相当している。摩擦リング6の内部接触表面9は、第1円錐摩擦車4の接触表面11に接しており、接触表面11は、第1円錐摩擦車4の外側面に相当している。これに対し、摩擦リングの外部接触表面10は、第2円錐摩擦車5の接触表面12に接している。
【0023】
第1および第2円錐摩擦車4,5は、接触装置(ここには図示せず)によって、摩擦リング6を挟んで互いに噛み合わせられる。この噛み合わせにより、シャフト13の回転モーメントは、第1円錐摩擦車4と摩擦リング6とを介して、第2円錐摩擦車5へ伝送される。内部接触表面9と第1円錐摩擦車4の接触表面11との間に、第1接触ゾーン14が形成される。同様に、第2接触ゾーン15が、摩擦リング6の外部接触表面10と第2円錐摩擦車5の接触表面12との間に設けられる。
【0024】
内部空間3は、トラクション流体16によって完全に充填されている。この場合、内部空間3は、開口部17を介して、貯蔵部18と連通している。その結果、トラクション流体16は、例えば熱膨張によって、開口部17を通って貯蔵部18に達することができる。貯蔵部18に、液面19が形成されている。貯蔵部18に存在するトラクション流体は、必要に応じて、内部空間3を充填する役割を果たし、その結果、内部空間3は常に完全に充填されている。
【0025】
内部空間3と貯蔵部18との間の開口部17は,内部空間3の最も高い場所20の領域に設けられている。その結果、トラクション流体16を内部空間3に充填する際に、空気は開口部17を通って完全に出てゆく。液面19により充填レベル調整が可能である。
【0026】
円錐リング変速機1の作動時に、第1接触ゾーン14において、トラクション流体16の薄膜が形成される。その結果、第1円錐摩擦車4の接触表面11と、摩擦リング6の内部接触表面9とは、トラクション流体16により互いに分離されており、互いに直接転がり接触しない。第1接触ゾーン14におけるトラクション流体16の高圧と、それに伴う高い粘性とにより、トラクション流体16は、トラクション流体16によって受け入れ可能な剪断応力に基づいて第1円錐摩擦車4の回転モーメントを摩擦リング6へ伝送する。
【0027】
摩擦リング6の外部接触表面10と第2円錐摩擦車5の接触表面12との間の第2接触ゾーン15においても、回転モーメントは、トラクション流体16のみによって伝送されることが理想的である。このことにより、転がり接触する回転体(第1円錐摩擦車4、第2円錐摩擦車5および摩擦リング6)の摩損が著しく低減または減少される。
【0028】
内部空間3は、第1円錐摩擦車4の収納されている第1円錐形サブ内部空間21を備えている。この場合、第1円錐形サブ内部空間21は、第1円錐摩擦車4よりもほんの少し大きい。その結果、第1円錐摩擦車4と変速機筐体2との間に、非常に小さなスリット22しか形成されない。第2円錐摩擦車5は、第2円錐形サブ内部空間23に配置されている。第2円錐形サブ内部空間23のサイズは、第2円錐摩擦車5のサイズよりもほんの少し大きい。したがって、変速機筐体2と第2円錐摩擦車5との間には非常に小さなスリット24しか形成されない。その結果、第1および第2円錐形サブ内部空間21,23により、トラクション流体16によって充填できる内部空間3の体積が最小化される。内部空間3は、第1および第2円錐形サブ内部空間21,23の他に、さらに中空シリンダ形のサブ内部空間25を備えている。中空シリンダ形のサブ内部空間25の内側において、摩擦リング6は、回転軸7,8の方向にシフトされる。
【0029】
中空シリンダ形のサブ内部空間25と、第1円錐形サブ内部空間21との間に、鎌形溝部26が設けられている。この鎌形溝部26は、外側に向かって開口しており、充填可能な内部空間3の体積を最小値に低減する機能を果たしている。
【0030】
図2に、図1の円錐リング変速機1を、他の斜視図で示す。図1に示すように、変速機筐体2の半分は切除されている。図1および図2から分かるように、中空シリンダ形のサブ内部空間25は、空間拡張部を備え、この空間拡張部は、摩擦リング6用の調整装置(ここには図示せず)を受け入れる機能を果たす。このことにより、中空シリンダ形のサブ内部空間25は、中空シリンダとは意味が少し異なっている。なお、第1円錐形サブ内部空間21、第2円錐形サブ内部空間23およびサブ内部空間25は、部分的に重なり合っている。この場合、この重なりは、対向する2つの円錐摩擦車4,5間のスリットに設けられている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】変速機筐体の一部を切り取った円錐リング変速機の斜視図である。
【図2】図1の円錐リング変速機を他の方向から見た斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1 円錐リング変速機
2 変速機筐体
3 内部空間
4 第1円錐摩擦車
5 第2円錐摩擦車
6 摩擦リング
16 トラクション流体
17 開口部
18 貯蔵部
20 最も高い場所
21 第1円錐形サブ内部空間
23 第2円錐形サブ内部空間
25 中空シリンダ形のサブ内部空間
26 溝部
27 空間拡張部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間(3)を区画する変速機筐体(2)を備え、該内部空間(3)に、第1円錐摩擦車(4)と、第2円錐摩擦車(5)と、該第1および第2円錐摩擦車(4,5)の双方に噛み合う摩擦リング(6)とが収納されており、該内部空間(3)にトラクション流体(16)が存在する円錐リング変速機(1)であって、
上記内部空間(3)が、上記トラクション流体(16)によって完全に充填されている
ことを特徴とする円錐リング変速機(1)。
【請求項2】
上記内部空間(3)は、上記トラクション流体(16)の熱膨張を補償することのできる貯蔵部(18)と開口部(17)を介して連通している
ことを特徴とする請求項1に記載の円錐リング変速機(1)。
【請求項3】
上記開口部(17)は、円錐リング変速機(1)の通常の操作位置における内部空間(3)の少なくとも最も高い場所(20)の付近に配置されている
ことを特徴とする請求項2に記載の円錐リング変速機(1)。
【請求項4】
上記内部空間(3)は、
上記第1円錐摩擦車(4)を受け入れるための第1円錐形サブ内部空間(21)と、
上記第2円錐摩擦車(5)を受け入れるための第2円錐形サブ内部空間(23)と、
上記摩擦リング(6)がシフト可能なように配置されている本質的に中空シリンダ形のサブ内部空間(25)とからなる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の円錐リング変速機(1)。
【請求項5】
上記第1円錐形サブ内部空間(21)および上記第2円錐形サブ内部空間(23)は、上記第1円錐摩擦車(4)および上記第2円錐摩擦車(5)の開口角に相当する開口角をそれぞれ有している
ことを特徴とする請求項4に記載の円錐リング変速機。
【請求項6】
上記第1円錐形サブ内部空間(21)は、その内部に収納される第1円錐摩擦車(4)よりもほんの少し大きい
ことを特徴とする請求項4または5に記載の円錐リング変速機(1)。
【請求項7】
上記第2円錐形サブ内部空間(23)は、その内部に収納される第2円錐摩擦車(5)よりもほんの少し大きい
ことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の円錐リング変速機(1)。
【請求項8】
上記中空シリンダ形のサブ内部空間(25)と上記第1円錐形サブ内部空間(21)との間に、鎌形溝部(26)が設けられている
ことを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載の円錐リング変速機(1)。
【請求項9】
上記中空シリンダ形のサブ内部空間(25)は、上記摩擦リング(6)用の調整装置を受け入れるための空間拡張部(27)を備えている
ことを特徴とする請求項4〜8のいずれか1項に記載の円錐リング変速機(1)。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−315599(P2007−315599A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134521(P2007−134521)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(506132120)ゲトラーク フォード トランスミシオーンス ゲーエムベーハー (18)
【Fターム(参考)】