説明

冷凍システムおよびスクロール圧縮機

【課題】中間圧冷媒ガスのインジェクション量を十分に確保できる高能力および高COP(成績係数)の冷凍システムおよびスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
【解決手段】段付きスクロール圧縮機2を備え、該スクロール圧縮機2の圧縮室に冷媒回路側から抽出された中間圧の冷媒ガスをインジェクションするガスインジェクション回路10が設けられている冷凍システムにおいて、圧縮室に冷媒ガスをインジェクションするインジェクションポート35が、固定スクロール26の段部よりも渦巻き方向外周端側において圧縮室30内と連通する位置に設けられているとともに、ガスインジェクション回路10に、圧縮室30にインジェクションされる冷媒ガスを加熱する加熱手段が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦巻き方向に段部が設けられているスクロール圧縮機を備えているガスインジェクション回路付きの冷凍システムおよび当該冷凍システムに適用して好適な段付きのスクロール圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スクロール圧縮機において、固定スクロールおよび旋回スクロールの渦巻き状ラップの先端面とボトム面の渦巻き方向に沿う所定位置にそれぞれ段部が設けられ、該段部を境にラップ先端面において、外周側先端面が高く、内周側先端面が低くされ、また、ボトム面において、外周側ボトム面が低く、内周側ボトム面が高くされることにより、渦巻き状ラップの外周側におけるラップ高さが内周側のラップ高さよりも高くされるとともに、両スクロール間に形成される圧縮室の軸線方向高さが渦巻き状ラップの外周側において内周側の高さよりも高くされ、これによって渦巻き状ラップの周方向およびラップ高さ方向の双方にガスを圧縮することができる三次元圧縮可能な所謂段付きスクロール圧縮機が知られている。
【0003】
このような所謂段付きスクロール圧縮機が用いられている各種空調機および冷凍機等の冷凍システムにおいて、段付きスクロール圧縮機の圧縮室に冷媒回路から抽出された中間圧の冷媒ガスをインジェクションするガスインジェクション回路付きの冷凍システムが特許文献1によって提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−64005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかして、上記段付きスクロール圧縮機は、通常のスクロール圧縮機に比べると、一般に設計圧縮比が高く圧縮時の圧力の立ち上がりが急激である。このため、ガスインジェクション回路付きの冷凍システムに適用した場合に、インジェクションする圧縮室側の圧力が高く、中間圧冷媒ガスの圧力との関係からインジェクション量を十分に確保しにくいという面があった。
【0006】
特に、ガスインジェクション回路側では、気液分離器を設けた気液分離方式または中間熱交換器を設けた中間熱交方式のいずれの場合においても、インジェクション側冷媒ガスの加熱熱源が主冷媒回路側の冷媒とされており、インジェクション側冷媒ガスの過熱度が確保しにくく、低い圧力でのガスインジェクションになることが多かった。このため、圧縮室内の圧力との関係からインジェクション量が少なくなる傾向にあり、十分なインジェクション効果が得られていなかった。
【0007】
また、インジェクション側冷媒ガスの過熱度が十分に確保できないことから、液冷媒を含んだ冷媒ガスがインジェクションされることがあり、吐出側でのエンタルピー差が理論値よりも低くなってしまうことがあった。更には、液冷媒を含んだ冷媒ガスのインジェクションによって、スラッギング音の発生や液圧縮の発生要因となることがあった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、段付きスクロール圧縮機を用いたガスインジェクション回路付き冷凍システムにおいて、中間圧冷媒ガスのインジェクション量を十分に確保できる高能力および高COP(成績係数)の冷凍システムおよびスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の冷凍システムおよびスクロール圧縮機は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる冷凍システムは、端板上に渦巻き状ラップが立設され、互いに噛合されることにより圧縮室を形成する一対の固定スクロールおよび旋回スクロールの渦巻き方向の途中に段部が設けられ、冷媒ガスを渦巻き状ラップの周方向および軸方向の双方に圧縮可能とされているスクロール圧縮機を備え、該スクロール圧縮機の前記圧縮室に冷媒回路側から抽出された中間圧の冷媒ガスをインジェクションするガスインジェクション回路が設けられている冷凍システムにおいて、前記圧縮室に前記冷媒ガスをインジェクションするインジェクションポートが、前記固定スクロールの前記段部よりも渦巻き方向外周端側において前記圧縮室内と連通する位置に設けられているとともに、前記ガスインジェクション回路に、前記圧縮室にインジェクションされる前記冷媒ガスを加熱する加熱手段が設けられていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、渦巻き方向の途中に段部が設けられ、圧縮比が高く圧縮時の圧力の立ち上がりが急な所謂段付きスクロール圧縮機を備えているガスインジェクション回路付き冷凍システムにおいて、スクロール圧縮機の圧縮室内に中間圧冷媒ガスをインジェクションするインジェクションポートが、固定スクロールの段部よりも渦巻き方向外周端側において圧縮室内と連通する位置に設けられているとともに、かつガスインジェクション回路に圧縮室にインジェクションされる中間圧冷媒ガスを加熱する加熱手段が設けられているため、圧力が相対的に低い段部よりも渦巻き方向外周端側に形成される圧縮室内に、インジェクション回路において加熱手段により加熱され、過熱度が大きく圧力が高くされた中間圧冷媒ガスをインジェクションすることができる。従って、圧縮比が高く圧縮時の圧力の立ち上がりが急な段付きスクロール圧縮機に対しても、ガスインジェクション時に十分な量の中間圧冷媒ガスをインジェクションすることが可能となり、冷却および加熱能力の向上ならびにCOP(成績係数)の向上を図ることができる。特に、極低温時等の高圧縮比条件時での暖房能力およびCOP(成績係数)の向上を図ることができる。また、インジェクションされる中間圧冷媒ガスを加熱手段により加熱して確実に過熱ガスとすることができるため、液冷媒がインジェクションされることがなく、スラッギング音の発生や液圧縮を防止することができる。
【0011】
さらに、本発明の冷凍システムは、上記の冷凍システムにおいて、前記加熱手段は、電気ヒータにより構成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、加熱手段が、電気ヒータにより構成されているため、インジェクションされる中間圧冷媒ガスを加熱する加熱手段として最も汎用的でかつ適用が簡易な電気ヒータを用いることができる。従って、用途、形式を問わず、あらゆる冷凍システムに対して広範に適用することができる。
【0013】
さらに、本発明の冷凍システムは、上記の冷凍システムにおいて、前記加熱手段は、エンジンの排熱を利用した熱交換器により構成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、加熱手段が、エンジンの排熱を利用した熱交換器により構成されているため、エンジンが搭載されているガスヒートポンプ装置、輸送用冷凍装置、車両用空調装置等の冷凍システムにおいて、エンジンの排気ガスや冷却水等の排熱を熱交換器に導入することにより、その熱でインジェクションガスを加熱することができる。従って、加熱手段の熱源として排熱を有効利用することができ、更に性能向上を図ることができる。
【0015】
さらに、本発明の冷凍システムは、上述のいずれかの冷凍システムにおいて、前記スクロール圧縮機は、前記インジェクションポートが設けられている前記段部よりも渦巻き方向外周端側において前記渦巻き状ラップ同士が互いに非接触とされていることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、スクロール圧縮機において、インジェクションポートが設けられている段部よりも渦巻き方向外周端側において渦巻き状ラップ同士が互いに非接触とされているため、渦巻き状ラップにかかる渦巻き状ラップ同士の接触荷重を、ラップ高さが低く端板厚さが厚くなっている段部よりも内周端側のみに負荷することができる。従って、インジェクションポートが設けられることに起因する固定スクロールの端板または渦巻き状ラップの切欠きによる強度低下を防止することができる。
【0017】
さらに、本発明の冷凍システムは、上記の冷凍システムにおいて、前記渦巻き状ラップ同士は、前記段部よりも渦巻き方向外周端側の少なくとも前記インジェクションポートが設けられている周辺部において互いに非接触とされていることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、渦巻き状ラップ同士が段部よりも渦巻き方向外周端側の少なくともインジェクションポートが設けられている周辺部において互いに非接触とされているため、渦巻き状ラップにかかる渦巻き状ラップ同士の接触荷重を、インジェクションポートが設けられている周辺部において低くすることができる。従って、インジェクションポートが設けられることに起因する固定スクロールの端板または渦巻き状ラップの切欠きによる強度低下を抑制することができる。
【0019】
さらに、本発明にかかるスクロール圧縮機は、端板上に渦巻き状ラップが立設され、互いに噛合されることにより圧縮室を形成する一対の固定スクロールおよび旋回スクロールの渦巻き方向の途中に段部が設けられ、冷媒ガスを渦巻き状ラップの周方向および軸方向の双方に圧縮可能とされているスクロール圧縮機において、前記圧縮室に冷媒回路から抽出された中間圧の冷媒ガスをインジェクションするインジェクションポートが、前記固定スクロールの前記段部よりも渦巻き方向外周端側において前記圧縮室内と連通する位置に設けられているとともに、前記インジェクションポートが設けられている前記段部よりも渦巻き方向外周端側において前記渦巻き状ラップ同士が互いに非接触とされていることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、渦巻き方向の途中に段部が設けられ、圧縮比が高く圧縮時の圧力の立ち上がりが急激な所謂段付きスクロール圧縮機において、圧縮室に冷媒回路から抽出された中間圧の冷媒ガスをインジェクションするインジェクションポートが、固定スクロールの段部よりも渦巻き方向外周端側において圧縮室内と連通する位置に設けられ、このインジェクションポートが設けられている段部よりも渦巻き方向外周端側において渦巻き状ラップ同士が互いに非接触とされているため、圧力が相対的に低い段部よりも渦巻き方向外周端側に形成される圧縮室内に、中間圧冷媒ガスをインジェクションすることができる。従って、圧縮比が高く圧縮時の圧力の立ち上がりが急な段付きスクロール圧縮機においても、ガスインジェクション時に十分な量の中間圧冷媒ガスをインジェクションすることが可能となり、冷却および加熱能力の向上ならびにCOP(成績係数)の向上を図ることができる。また、渦巻き状ラップにかかる渦巻き状ラップ同士の接触荷重を、ラップ高さが低く端板厚さが厚くなっている段部よりも内周端側のみに負荷することができるため、インジェクションポートが設けられることに起因する固定スクロールの端板または渦巻き状ラップの切欠きによる強度低下を防止することができる。
【0021】
さらに、本発明のスクロール圧縮機は、上記のスクロール圧縮機において、前記渦巻き状ラップ同士は、前記段部よりも渦巻き方向外周端側の少なくとも前記インジェクションポートが設けられている周辺部において互いに非接触とされていることを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、渦巻き状ラップ同士が段部よりも渦巻き方向外周端側の少なくともインジェクションポートが設けられている周辺部において互いに非接触とされているため、渦巻き状ラップにかかる渦巻き状ラップ同士の接触荷重をインジェクションポートが設けられている周辺部において小さくすることができる。従って、インジェクションポートが設けられることに起因する固定スクロールの端板または渦巻き状ラップの切欠きによる強度低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の冷凍システムによると、圧力が相対的に低い段部よりも渦巻き方向外周端側に形成される圧縮室内に、インジェクション回路において加熱手段により加熱され、過熱度が大きく圧力が高くされた中間圧冷媒ガスをインジェクションすることができるため、圧縮比が高く圧縮時の圧力の立ち上がりが急激な段付きスクロール圧縮機に対しても、ガスインジェクション時に十分な量の中間圧冷媒ガスをインジェクションすることが可能となり、冷却および加熱能力の向上ならびにCOP(成績係数)の向上を図ることができる。特に、極低温時等の高圧縮比条件時での暖房能力およびCOP(成績係数の向上を図ることができる。また、インジェクションされる中間圧冷媒ガスを加熱手段により加熱して確実に過熱ガスとすることができるため、液冷媒がインジェクションされることがなく、スラッギング音の発生や液圧縮を防止することができる。
【0024】
本発明のスクロール圧縮機によると、圧力が相対的に低い段部よりも渦巻き方向外周端側に形成される圧縮室内に、中間圧冷媒ガスをインジェクションすることができるため、圧縮比が高く圧縮時の圧力の立ち上がりが急な段付きスクロール圧縮機においても、ガスインジェクション時に十分な量の中間圧冷媒ガスをインジェクションすることが可能となり、冷却および加熱能力の向上ならびにCOP(成績係数)の向上を図ることができる。また、渦巻き状ラップにかかる渦巻き状ラップ同士の接触荷重を、ラップ高さが低く端板厚さが厚くなっている段部よりも内周端側のみに負荷することができるため、インジェクションポートが設けられることに起因する固定スクロールの端板または渦巻き状ラップの切欠きによる強度低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係る冷凍システムの冷媒回路図である。
【図2】図1に示す冷凍システムに適用するスクロール圧縮機の断面図である。
【図3】図2に示すスクロール圧縮機の固定スクロールと旋回スクロールとの噛合い状態を示す平面視図である。
【図4】図3に示す固定スクロールにおける段部付近における部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図1ないし図4を用いて説明する。
冷凍システム1は、図1に示されるように、冷媒を圧縮するスクロール圧縮機2と、圧縮された冷媒を冷却して凝縮液化させるコンデンサ(凝縮器)3と、凝縮された液冷媒の圧力を中間圧まで減圧させる第1膨張弁4と、減圧された冷媒を気液分離する気液分離器5と、液冷媒をさらに減圧する第2膨張弁6と、第2膨張弁6を経て減圧された冷媒を蒸発させるエバポレータ(蒸発器)7とを冷媒配管8により接続して構成される閉サイクルの冷媒回路9を備えている。
【0027】
また、冷凍システム1は、気液分離器5で分離された中間圧の冷媒ガスをスクロール圧縮機1の後述する圧縮室30内にインジェクションするガスインジェクション回路10を備えている。ガスインジェクション回路10には、電磁弁11が設けられ、その開閉によってガスインジェクション回路10の作動、非作動が切替え可能とされている。
【0028】
さらに、ガスインジェクション回路10には、気液分離器5から抽出され、スクロール圧縮機1の圧縮室30内にインジェクションされる中間圧の冷媒ガスを加熱し、その過熱度を大きくし圧力を高くするための加熱手段12が設けられている。この加熱手段12としては、例えばPTCヒータ等の電気ヒータを用いることができる。
【0029】
スクロール圧縮機2は、図2に示されるように、密封容器であるハウジング21と、ハウジング21内の下方部に固定設置されている電動モータ22と、該電動モータ22の上方部に配置され、クランク軸23を介して電動モータ22により駆動されるスクロール圧縮機構24とから構成されている。スクロール圧縮機構24は、ハウジング21内に固定設置されている主軸受25と、該主軸受25上に固定設置されている固定スクロール26と、主軸受25のスラスト面上に支持されるとともに、クランク軸23の端部に設けられているクランクピン23Aにドライブブッシュ28を介して連結され、クランク軸23の回転により旋回駆動される旋回スクロール27と、旋回スクロール27の自転を阻止するオルダムリング等の自転阻止機構29とを備えている。
【0030】
固定スクロール26は、端板26Aと該端板26Aから立設された渦巻き状ラップ26Bとから構成され、旋回スクロール27は、端板27Aと該端板27Aから立設された渦巻き状ラップ27Bとから構成されている。この固定スクロール26および旋回スクロール27は、それぞれ渦巻き状ラップ26B,27Bの先端面とボトム面の渦巻き方向に沿う位置にそれぞれ段部26C,26Dおよび27C,27Dを備えている。段部26Cおよび27Cは、渦巻き状ラップ26B,27Bの外周端から進行角がπラジアンから2πラジアンの間に設けるのが好ましい。
【0031】
この段部26C,26Dおよび27C,27Dを境に、ラップ先端面においては、クランク軸23の軸線方向に外周側の先端面が高く、内周側の先端面が低くされ、また、ボトム面においては、軸線方向に外周側のボトム面が低く、内周側のボトム面が高くされている。これによって、渦巻き状ラップ26B,27Bは、その外周側におけるラップ高さが内周側のラップ高さよりも高くされている。
【0032】
固定スクロール26および旋回スクロール27は、その中心を旋回半径分だけ離すとともに、渦巻き状ラップ26B,27Bの位相を180度ずらして噛合され、該渦巻き状ラップ26B,27Bの先端面とボトム面との間に常温で僅かなラップ高さ方向の隙間を有するように組み付けられている。これによって、両スクロール26,27間には、端板26A,27Aと渦巻き状ラップ26B,27Bとによって限界される一対の圧縮室30がスクロール中心に対して対称に形成されるとともに、旋回スクロール27が固定スクロール26の周りをスムーズに公転旋回駆動されるように構成されている。
【0033】
圧縮室30は、軸線方向高さが渦巻き状ラップ26B,27Bの外周側において内周側の高さよりも高くされることによって、渦巻き状ラップ26B,27Bの周方向およびラップ高さ方向にガスを圧縮することができる三次元圧縮可能なスクロール圧縮機構24を構成している。なお、固定スクロール26および旋回スクロール27の渦巻き状ラップ25B,27Bの先端面には、相手方スクロールのボトム面との間に形成されるチップシール面をシールするためのチップシール(図示省略)を設けることができる。
【0034】
固定スクロール26の端板26Aの中央部位置には、圧縮された冷媒ガスを吐出する吐出ポート31が開口されている。この吐出ポート31には、図示省略の吐出弁が設けられており、該吐出弁を介して吐出ポート31は、ハウジング21内にディスチャージカバー32を介して区画されている吐出チャンバー33と連通されている。吐出チャンバー33に吐き出された高温高圧の冷媒ガスは、吐出管34を介してスクロール圧縮機2から外部へと送出されるようになっている。
【0035】
また、固定スクロール26には、ガスインジェクション回路10により導入される中間圧冷媒ガスを圧縮室30内にインジェクションするインジェクションポート35が、圧縮室30と連通する位置に開口されている。このインジェクションポート35は、図4に示されるように、固定スクロール26の渦巻き状ラップ26Bの段部26Cよりも渦巻き方向外周端側において圧縮室30と連通するように設けられている。
【0036】
更に、少なくとも固定スクロール26の渦巻き状ラップ26Bは、インジェクションポート35が設けられている段部26Cよりも渦巻き方向外周端側において、図4に示されるように、渦巻き状ラップ26Bを形成している外側曲線26Eおよび腹側曲線26Fが相手方の旋回スクロール27の渦巻き状ラップ27Bに対して非接触となるように、数十ミクロンの単位で2点鎖線から実線で示すように削られ、渦巻き状ラップ26Bの厚さが薄くされている。
【0037】
以上に説明の構成により、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
上記の冷凍システム1において、スクロール圧縮機2により圧縮された高温高圧の冷媒ガスは、凝縮器3で凝縮され、第1膨張弁で中間圧に減圧された後、気液分離器5に導かれて気液分離される。気相分の冷媒分離により冷却された液冷媒は、第2膨張弁で減圧された後、蒸発器7で蒸発され、再びスクロール圧縮機2に吸い込まれて圧縮される。以下同様の動作が繰り返される。
【0038】
また、気液分離器5で分離された中間圧の冷媒ガスは、ガスインジェクション回路10を介してスクロール圧縮機2の圧縮室30内にインジェクションされる。この中間圧冷媒ガスは、インジェクションされる際、加熱手段12によって加熱され、過熱度が大きく圧力が高くされた状態でインジェクションされるようになる。一方、スクロール圧縮機2側において、圧縮室30内に中間圧冷媒ガスをインジェクションするインジェクションポート35は、固定スクロール26の段部26Cよりも渦巻き方向外周端側において圧縮室30内と連通する位置に設けられており、中間圧冷媒ガスは、圧力が相対的に低い段部26Cよりも渦巻き方向外周端側に形成される圧縮室30内にインジェクションされるようになる。
【0039】
その結果、渦巻き方向に段部26C,27Cを備え、渦巻き状ラップ26B,27Bの周方向およびラップ高さ方向の双方にガスを圧縮する三次元圧縮が可能で、圧縮比が高く圧縮時の圧力の立ち上がりが急激な所謂段付きスクロール圧縮機2に対しても十分な量の中間圧冷媒ガスをインジェクションすることができる。
【0040】
これによって、暖房または加熱時には、凝縮器3を流れる冷媒に、ガスインジェクションされた中間圧冷媒が加わるため、冷媒循環量が増大され、その分凝縮器3からの放熱を利用して行われる暖房または加熱能力を向上することができる。また、冷房または冷却時には、蒸発器7に導入される冷媒のエンタルピー差が増加するため、蒸発器7で蒸発される冷媒の熱量が多くなり、その分冷房または冷却能力を向上することができる。
【0041】
従って、本実施形態によると、冷凍システム1の圧縮機に圧縮比が高く圧縮時の圧力の立ち上がりが急激な段付きスクロール圧縮機2が用いられている場合にも、ガスインジェクション時に十分な量の中間圧冷媒ガスをインジェクションすることが可能となり、冷却および加熱能力の向上ならびにCOP(成績係数)の向上を図ることができる。特に、極低温時等の高圧縮比条件時での暖房能力およびCOP(成績係数)の向上を図ることができる。更に、インジェクションされる中間圧冷媒ガスを加熱手段12により加熱して確実に過熱ガスとすることができるため、液冷媒がインジェクションされることによるスラッギング音の発生や液圧縮を防止することができる。
【0042】
また、加熱手段12が、PTCヒータ等の電気ヒータにより構成されているため、インジェクションされる中間圧冷媒ガスを加熱する加熱手段12として最も汎用的でかつ適用が簡易な電気ヒータを用いることができる。従って、用途、形式を問わず、あらゆる冷凍システム1に対して広範に適用することができる。
【0043】
さらに、上記の段付きスクロール圧縮機2において、圧縮室30に冷媒回路9から抽出された中間圧の冷媒ガスをインジェクションするインジェクションポート35が、固定スクロール26の段部26Cよりも渦巻き方向外周端側において圧縮室30内と連通する位置に設けられており、このインジェクションポート35が設けられている段部26Cよりも渦巻き方向外周端側において渦巻き状ラップ26Bの外側曲線26Eおよび腹側曲線26Fが数十ミクロン単位で削られ、渦巻き状ラップ26B,27B同士が互いに非接触とされているため、圧力が相対的に低い段部26Cよりも渦巻き方向外周端側に形成される圧縮室30内に、中間圧冷媒ガスがインジェクションされることになる。
【0044】
従って、スクロール圧縮機2の圧縮能力の向上ならびにCOP(成績係数)の向上を図ることができると同時に、渦巻き状ラップ26B,27Bにかかる渦巻き状ラップ同士の接触荷重を、ラップ高さが低く端板厚さが厚くなっている段部26C,27Cよりも内周端側のみに負荷することができるため、渦巻き方向外周端側においてインジェクションポート35が設けられていることに起因する固定スクロール26の端板26Aまたは渦巻き状ラップ26Bの切欠きによる強度低下を防止することができる。
【0045】
[他の実施形態]
次に、本発明の他の実施形態について説明する。
上記した第1実施形態に一部に代えて、以下の形態を採用することができる。
(1)第1実施形態では、スクロール圧縮機2として、電動モータ22が内蔵されている密閉型電動スクロール圧縮機2を用いた実施形態について説明したが、スクロール圧縮機2としては、駆動源が内蔵されておらず、エンジン等の外部駆動源によりクラッチ等を介して駆動される所謂開放型スクロール圧縮機を用いることができ、これによっても、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0046】
(2)第1実施形態では、気液分離器5を用いた気液分離方式のガスインジェクション回路10付き冷凍システム1が示されているが、気液分離器5に代えて、主冷媒回路から一部液冷媒を分岐し、この分岐冷媒を中間圧まで減圧した後、主冷媒回路9を流れる冷媒と熱交換させる中間熱交換器を設け、この中間熱交換器で蒸発された中間圧冷媒ガスをインジェクションするように構成した中間熱交換方式のガスインジェクション回路付き冷凍システム1としてもよい。これによっても、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0047】
(3)第1実施形態では、加熱手段12として電気ヒータを用いた例について説明したが、エンジンが搭載されているガスヒートポンプ装置、輸送用冷凍装置、車両用空調装置等に適用される冷凍システム1においては、加熱手段12としてエンジンの排気ガスや冷却水等の排熱が流通可能に構成されている熱交換器を設け、この熱交換器に排気ガスや冷却水等の排熱を導入することにより、その熱でインジェクションガスを加熱する構成としてもよい。これによると、第1実施形態と同様の作用効果に加えて、加熱手段12の熱源として排熱を有効利用することができるため、更に性能向上を図ることが可能となる。
【0048】
(4)第1実施形態では、インジェクションポート35が設けられている段部26Cよりも渦巻き方向外周端側において渦巻き状ラップ26B,27B同士が互いに非接触となるようにしているが、インジェクションポート35の周辺部のみで、渦巻き状ラップ26B,27B同士が互いに非接触となるように構成してもよい。これによっても、渦巻き状ラップ26B,27Bにかかる渦巻き状ラップ同士の接触荷重をインジェクションポート35が設けられている周辺部において小さくすることができるため、インジェクションポート35が設けられていることに起因する固定スクロール26の端板26Aまたは渦巻き状ラップ26Bの切欠きによる強度低下を抑制することができる。
【0049】
なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能であることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0050】
1 冷凍システム
2 スクロール圧縮機
5 気液分離器
9 冷媒回路
10 ガスインジェクション回路
12 加熱手段
26 固定スクロール
26A 端板
26B 渦巻き状ラップ
26C,26D 段部
26E 渦巻き状ラップの外側曲線
26F 渦巻き状ラップの腹側曲線
27 旋回スクロール
27A 端板
27B 渦巻き状ラップ
27C,26D 段部
30 圧縮室
35 インジェクションポート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
端板上に渦巻き状ラップが立設され、互いに噛合されることにより圧縮室を形成する一対の固定スクロールおよび旋回スクロールの渦巻き方向の途中に段部が設けられ、冷媒ガスを渦巻き状ラップの周方向および軸方向の双方に圧縮可能とされているスクロール圧縮機を備え、該スクロール圧縮機の前記圧縮室に冷媒回路側から抽出された中間圧の冷媒ガスをインジェクションするガスインジェクション回路が設けられている冷凍システムにおいて、
前記圧縮室に前記冷媒ガスをインジェクションするインジェクションポートが、前記固定スクロールの前記段部よりも渦巻き方向外周端側において前記圧縮室内と連通する位置に設けられているとともに、前記ガスインジェクション回路に、前記圧縮室にインジェクションされる前記冷媒ガスを加熱する加熱手段が設けられていることを特徴とする冷凍システム。
【請求項2】
前記加熱手段は、電気ヒータにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載の冷凍システム。
【請求項3】
前記加熱手段は、エンジンの排熱を利用した熱交換器により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の冷凍システム。
【請求項4】
前記スクロール圧縮機は、前記インジェクションポートが設けられている前記段部よりも渦巻き方向外周端側において前記渦巻き状ラップ同士が互いに非接触とされていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の冷凍システム。
【請求項5】
前記渦巻き状ラップ同士は、前記段部よりも渦巻き方向外周端側の少なくとも前記インジェクションポートが設けられている周辺部において互いに非接触とされていることを特徴とする請求項4に記載の冷凍システム。
【請求項6】
端板上に渦巻き状ラップが立設され、互いに噛合されることにより圧縮室を形成する一対の固定スクロールおよび旋回スクロールの渦巻き方向の途中に段部が設けられ、冷媒ガスを渦巻き状ラップの周方向および軸方向の双方に圧縮可能とされているスクロール圧縮機において、
前記圧縮室に冷媒回路から抽出された中間圧の冷媒ガスをインジェクションするインジェクションポートが、前記固定スクロールの前記段部よりも渦巻き方向外周端側において前記圧縮室内と連通する位置に設けられているとともに、前記インジェクションポートが設けられている前記段部よりも渦巻き方向外周端側において前記渦巻き状ラップ同士が互いに非接触とされていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項7】
前記渦巻き状ラップ同士は、前記段部よりも渦巻き方向外周端側の少なくとも前記インジェクションポートが設けられている周辺部において互いに非接触とされていることを特徴とする請求項6に記載のスクロール圧縮機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−185350(P2010−185350A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29613(P2009−29613)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】