説明

冷媒圧縮機および冷凍サイクル装置

【課題】高負荷条件での使用が可能な信頼性が高い冷媒圧縮機を提供する。
【解決手段】ピストンピン137の母材の結晶粒の直径を3〜5μmとすることにより、高温度における機械的強度が上昇し、摺動部での耐摩耗性を向上するため、高信頼性の冷媒圧縮機を提供することができる。さらに、ピストンピン137の表面に硬質膜152を形成しない場合においても、引張強度並びに圧縮破壊応力特性の向上により、過負荷運転時におけるピストンピン137の変形が防止でき、このことから、コンロッドとピストンピン137間での片当り並びに隙間の不均一が防止できることで、異常摩耗の発生がなくなり、信頼性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に家庭用の電気冷凍冷蔵庫などに使用される冷媒圧縮機および冷凍サイクル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の観点から化石燃料の使用を少なくする高効率の圧縮機の開発が進められている。
【0003】
従来の圧縮機としては、摺動部を構成する摺動部材は一方が窒化処理した鉄系材料にて形成され、他方の摺動部材は陽極酸化処理したアルミニウムダイキャストにて形成されている(例えば、特許文献1参照)。また別の従来の圧縮機としては、鉄系の摺動部材においては、表面のビッカース硬度が200〜300Hvで、その1mmあたりの平均結晶粒子数が2000〜3200個としている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
以下、図面を参照しながら上記従来の冷媒圧縮機を説明する。
【0005】
図3は、特許文献1に記載された従来の冷媒圧縮機の縦断面図を示すものである。図3に示すように密閉容器1は底部に潤滑油2を貯留するとともに、固定子3、および回転子4からなる電動要素5とこれによって駆動される往復式の圧縮要素6を収容している。
【0006】
次に圧縮要素6の詳細を以下に説明する。
【0007】
クランクシャフト7は回転子4を圧入固定した主軸部8および主軸部8に対し偏心して形成された偏心軸部9からなり、給油ポンプ10を設けている。シリンダーブロック11は略円筒形のボアー12からなる圧縮室13を形成するとともに主軸部8を軸支する軸受部14を設けている。
【0008】
ボアー12に遊嵌されたピストン15は、ピストンピン16を介して偏心軸部9との間を連結手段であるコンロッド17によって連結されている。ボアー12の端面はバルブプレート18で封止されている。
【0009】
ヘッド19は高圧室を形成し、バルブプレート18の反ボアー12側に固定される。サクションチューブ20は密閉容器1に固定されるとともに冷凍サイクル装置の低圧側(図示せず?)に接続され、冷媒(図示せず)を密閉容器1内に導く。サクションマフラー21は、バルブプレート18とヘッド19に挟持される。
【0010】
クランクシャフト7の主軸部8と軸受部14、ピストン15とボアー12、ピストンピン16とコンロッド17、クランクシャフト7の偏心軸部9とコンロッド17は相互に摺動部を形成する。そして、摺動部を構成する摺動部材は一方が窒化処理した鉄系材料にて形成され、他方の摺動部材は陽極酸化処理したアルミニウムダイキャストもしくは鋳鉄にて形成されている。
【0011】
または、摺動部を構成する鉄系の摺動部材は、表面のビッカース硬度が200〜300Hvで、その1mmあたりの平均結晶粒子数が2000〜3200個である。
【0012】
以上のように構成された冷媒圧縮機について、以下その動作を説明する。
【0013】
商用電源(図示せず)から供給される電力は電動要素5に供給され、電動要素5の回転子4を回転させる。回転子4はクランクシャフト7を回転させ、偏心軸部9の偏心運動が連結手段のコンロッド17からピストンピン16を介してピストン15を駆動することでピストン15はボアー12内を往復運動し、サクションチューブ20を通して密閉容器1内に導かれた冷媒はサクションマフラー21から吸入され、圧縮室13内で連続して圧縮される。
【0014】
潤滑油2はクランクシャフト7の回転に伴い、給油ポンプ10から各摺動部に給油され、摺動部を潤滑するとともに、ピストン15とボアー12の間においてはシールする役割を果たしている。
【0015】
ここでピストンピン16とコンロッド17とは、回転運動を往復運動に変換させるために、揺動運動行っている。その為、クランクシャフト7が一回転する間に2度ピストンピン16とコンロッド17間の相対速度が0m/sとなり金属接触生じる。しかしながら摺動部に下地処理として浸炭処理を行い、浸炭層の上に窒化処理を行うことにより摺動部に硬質膜を生成することで、金属接触が生じても耐摩耗性を向上させることができる。
【0016】
または、表面のビッカース硬度を200〜300Hvで、その1mmあたりの平均結晶粒子数を2000〜3200個とすることにより弾性力が増加し耐摩耗性を向上させることができる。
【特許文献1】特開平6−117371号公報
【特許文献2】特開平4−227889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献1に記載された上記従来の構成では、窒化処理した鉄系材料は冷媒圧縮機の運転時に生じる摺動部における温度変化並びに荷重変動により、耐摩耗性が低下することがあった。
【0018】
特にピストンピン16とコンロッド17間においては摺動の面圧が高くなりピストンピン16がたわみ、ピストンピン16に生成した硬質膜にクラック並びに剥離が発生することにより異常摩耗が生じる可能性があった。
【0019】
なお、この異常摩耗の対策として母材である鋼材等に含む炭素量を増加させることにより母材自身の硬度並びに剛性を上げることが考えられるが、炭素の含有量を上げることにより母材自身が脆くなり、欠け等の発生により信頼性が低下する可能性があった。
【0020】
特に冷媒圧縮機においては、クランクシャフト7が一回転する間におけるピストンピン16とコンロッド17間にかかる荷重が大きく変動するとともに、この負荷変動にともない潤滑油2に溶け込んだ冷媒が発泡することでピストンピン16とコンロッド17における金属接触が増加し、摩擦係数が上昇することで摺動部の発熱が大きくなり凝着等の異常摩耗が生じる可能性があった。ピストン15とボアー12の間においても同様の現象を起こすため、同様の課題を有していた。
【0021】
また、特許文献2に記載された上記従来の構成では、表面のビッカース硬度を200〜300Hvで、その1mmあたりの平均結晶粒子数を2000〜3200個とした鉄系材料では、結晶粒径が約17〜25μmとなり、荷重が負荷された場合での各粒子での変形量が大きくなることで、高荷重条件下に置いては摺動部のたわみが大きくなり耐摩耗性が低下することがあった。
【0022】
本発明は、上記従来の問題を解決するもので、摺動損失の低下が図れ、高信頼性の冷媒圧縮機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記従来の課題を解決するために、本発明の冷媒圧縮機は、金属材料からなる摺動部品の少なくともひとつの摺動部材の母材の結晶粒の直径を3〜5μmとするもので、これによって、高温度における機械的強度が上昇することにより耐摩耗性が向上するという作用を有する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の冷媒圧縮機は、高温度における機械的強度が上昇することにより耐摩耗性が向上するので、高信頼性の冷媒圧縮機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
請求項1に記載の発明は、密閉容器内に潤滑油を貯留するとともに、電動要素と冷媒を圧縮する圧縮要素を収容し、前記圧縮要素を構成し鉄系金属材料からなる少なくともひとつの摺動部材の母材の結晶粒の直径が3〜5μmとするもので、これによって、高温度における機械的強度が上昇し、摺動部での耐摩耗性を向上させるという作用を有することにより、高信頼性の冷媒圧縮機を提供することができる。
【0026】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、動部材の母材の表面に硬質膜のコーティングが施されたもので、これによって、硬質膜との密着性が向上することで、硬質膜が剥離することなく、硬質膜の持つ化学安定性が十分作用することにより、摺動部での耐摩耗性が向上し、信頼性の高い冷媒圧縮機を提供することができる。
【0027】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、窒化処理により硬質膜をコーティングしたもので、従来の窒化処理によるコーティングと比べ拡散層が均質に入ることより、耐摩耗性等の摺動特性が向上するため、請求項2に記載の発明の効果に加えてさらに、信頼性の高い冷媒圧縮機を提供することができる。
【0028】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明において、冷媒がR600a、R290のいずれかひとつ、またはこれらの混合物であり、潤滑油はアルキルベンゼン、鉱油、エステル、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコールのいずれかひとつ、またはこれらの混合物とするとともに、前記潤滑油はVG10未満VG2以上の粘度であるため、高温度における機械的強度が高くなることで耐摩耗性が向上し、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明の効果に加えてさらに、信頼性の高い冷媒圧縮機を提供することができる。
【0029】
請求項5に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明において、冷媒がHFC系冷媒であり、潤滑油はアルキルベンゼン、鉱油、エステル、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコールのいずれかひとつ、またはこれらの混合物とするとともに、前記潤滑油はVG10未満VG2以上の粘度であるため、高温度における機械的強度が高くなることで耐摩耗性が向上し、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明の効果に加えてさらに、信頼性の高い冷媒圧縮機を提供することができる。
【0030】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の発明において、圧縮機構が往復式の圧縮機構としたもので、高温度における機械的強度が高くなることで、摺動部での異常発熱による凝着防止し摩擦係数の上昇が抑えられることで運転負荷に応じて荷重等の摺上条件が変わることによる潤滑状態の悪化に対応することができるため、請求項1から5のいずれか一項に記載の発明の効果に加えてさらに、信頼性の高い冷媒圧縮機を提供することができる。
【0031】
請求項7に記載の発明は、請求項2に記載の冷媒圧縮機を備え、凝縮器と、ドライヤーと、キャピラリーと、蒸発器を有し、冷媒にHFC冷媒またはHC冷媒を用い、前期冷媒中に含まれる二酸化硫黄の濃度を50ppm以下とする冷凍サイクル装置であり、二酸化硫黄が冷凍サイクル中に含まれる水分と反応して亜硫酸となり反応層並びに母材を腐食させることにより摩耗が促進され、その摩耗粉等による冷凍サイクルの閉塞を防止するという作用を有することにより、信頼性の高い冷凍サイクル装置を提供することができる。
【0032】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における冷媒圧縮機の縦断面図、図2は、図1におけるA部拡大図である。
【0033】
図1および図2において、密閉容器101内にはR600aからなる冷媒102を充填するとともに、底部にはVG10未満VG2以上の潤滑油103を貯留し、固定子104、および回転子105からなる電動要素106と、これによって駆動される往復式の圧縮要素107を収容している。
【0034】
次に圧縮要素107の詳細を以下に説明する。
【0035】
クランクシャフト108は回転子105を圧入固定した主軸部109および主軸部109に対し偏心して形成された偏心軸部110からなり、下端には潤滑油103に連通する給油ポンプ111を設けている。鋳鉄からなるシリンダーブロック112は略円筒形のボアー113と主軸部109を軸支する軸受部114を形成している。
【0036】
また、回転子105にはフランジ面120が形成され、軸受部114の上端面はスラスト部122になっている。フランジ面120と軸受部114のスラスト部122の間にはスラストワッシャ124が挿入されている。フランジ面120、スラスト部122及びスラストワッシャ124でスラスト軸受部126を構成している。
【0037】
ある一定量のクリアランスを保ってボアー113に遊嵌されたピストン132は鉄系の材料からなり、ボアー113と共に圧縮室134を形成し、ピストンピン137を介して連結手段であるコンロッド138によって偏心軸部110と連結されている。ボアー113の端面はバルブプレート139で封止されている。
【0038】
ヘッド140は高圧室を形成し、バルブプレート139の反ボアー113側に固定される。サクションチューブ(図示せず)は密閉容器101に固定されるとともに冷凍サイクルの低圧側(図示せず)に接続され、冷媒102を密閉容器101内に導く。サクションマフラー142は、バルブプレート139とヘッド140に挟持される。
【0039】
ピストン132とボアー113、主軸部109と軸受部114、スラスト部122とスラストワッシャ124、ピストンピン137とコンロッド138、偏心軸部110とコンロッド138は相互に摺動部を形成するとともにそれぞれの摺動部の少なくとも一方には母材150の結晶粒の直径を3〜5μmとし、窒化処理による硬質膜152を形成している。
【0040】
ここではピストンピン137とコンロッド138を例にとって詳しく述べることにする。
【0041】
ピストンピン137とコンロッド138が相互に形成する摺動部のうち、合金鋼により形成されるピストンピン137は焼き戻し温度までの昇温速度を10℃/min以上にすることで結晶粒の直径を3〜5μmとし、その後、窒化処理により窒素化合物である硬質膜152を摺動部表面に形成している。なお、硬質膜152の膜厚は3〜5μmの範囲で生成している。
【0042】
そしてピストンピン137とコンロッド138は非常に狭いクリアランス、例えば直径で5〜20μm程度のクリアランスで組み込まれている。
【0043】
以上のように構成された冷媒圧縮機について、以下その動作を説明する。
【0044】
商用電源(図示せず)から供給される電力は電動要素106に供給され、電動要素106の回転子105を回転させる。回転子105はクランクシャフト108を回転させ、偏心軸部110の偏心運動が連結手段のコンロッド138からピストンピン137を介してピストン132を駆動することでピストン132はボアー113内を往復運動し、サクションチューブ(図示せず)を通して密閉容器101内に導かれた冷媒102はサクションマフラー142から吸入され、圧縮室134内で圧縮される。
【0045】
潤滑油103はクランクシャフト108の回転に伴い、給油ポンプ111から各摺動部に給油され、摺動部を潤滑するとともに、ピストン132とボアー113の間においてはシールする役割を果たしている。
【0046】
この際、ピストンピン137とコンロッド138のクリアランスが非常に狭いため、ピストンピン137とコンロッド138の形状、精度のばらつきによっては部分的に相互接触を起こす部位が生ずることがある。さらに、ピストンピン137とコンロッド138とは、回転運動を往復運動に変換させるために、揺動運動行っている。その為、クランクシャフト108が一回転する間に2度ピストンピン137とコンロッド138間の相対速度が0m/sとなり、この時は油圧が発生していないために油膜ができず、金属接触が生じる可能性が高くなる。
【0047】
また、コンロッド138とピストンピン137間には、圧縮室134内で変化するガス圧により生ずる変動荷重が絶えず作用する。この負荷変動にともない潤滑油103に溶け込んだ冷媒102が繰り返し発泡する。
【0048】
特に、ピストン132が上死点に位置したときにはコンロッド138とピストンピン137間の相対速度が0m/sとなり、理論的に油圧が発生せず油膜が形成されなくなる状態となる。
【0049】
そして、圧縮室134内でのガス圧が最大となり、コンロッド138とピストンピン137間への負荷荷重が最大となることで、金属接触の発生が多くなるとともに、ピストンピン137がたわむことにより硬質膜152にクラック並びに剥離が発生する場合がある。
【0050】
以上のような冷媒圧縮機固有の作用に対して、本実施の形態においては(表1)の引張強度並びに圧縮破壊応力特性に示すように結晶粒の直径を3〜5μmとすることにより、引張強度が1000N/mmから2000N/mmとなり更に圧縮破壊強度が約2000から約3000MPaと向上する。
【0051】
このことから、コンロッド138とピストンピン137間への負荷荷重が最大となった時でも、ピストンピン137のたわみが小さくなることで、硬質膜152に発生するクラック並びに剥離を防止でき、高信頼性の冷媒圧縮機を提供することができる。
【0052】
【表1】

【0053】
さらに、ピストンピン137の表面に硬質膜152を形成しない場合においても、上記(表1)に示す引張強度並びに圧縮破壊応力特性の向上により、過負荷運転時におけるピストンピン137の変形が防止できる。
【0054】
このことから、コンロッド138とピストンピン137間での片当り並びに隙間の不均一が防止できることで、異常摩耗の発生がなくなり、高信頼性の冷媒圧縮機を提供することができる。
【0055】
以上、本発明の実施の形態1においては、一定速度の冷媒圧縮機について述べたが、インバーター化に伴い冷媒圧縮機の低速化が進む中、特に20Hzを切るような超低速運転に於いてはさらに流体潤滑を成立させにくくなり、金属接触を起こし易くなるので、本発明の効果がより顕著になる。
【0056】
さらに、本発明の実施の形態1においては、冷媒をR600aとして説明したが、冷媒をR290またはR600aとR290の混合物でオイルがアルキルベンゼン、鉱油、エステル、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコールのいずれかひとつ、またはこれらの混合物、また、冷媒をHFC系冷媒で潤滑油がアルキルベンゼン、鉱油、エステル、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコールのいずれかひとつ、またはこれらの混合物としても同等の効果が得られる。
【0057】
なお、本発明の実施の形態1においては、ピストンピン137の結晶粒の直径を3〜5μmとしたものを例にとって詳しく述べたが、相互に摺動部を形成しているピストン132とボアー113、クランクシャフト108の主軸部109と軸受部114の摺動部においても、相当の作用効果が得られるものである。
【0058】
次に、上記冷媒圧縮機を用いた冷凍サイクル装置について、以下その動作を説明する。
【0059】
今日の大気中には、自動車の排気ガスや火山ガス等の排出が原因で二酸化硫黄(SO)が含まれている。この二酸化硫黄(SO)は水と反応して化学反応式(化1)によって亜硫酸(HSO)となる。したがって、凝縮器(図示せず)と、ドライヤー(図示せず)と、キャピラリー(図示せず)と、蒸発器(図示せず)を有する冷凍サイクルにおいて冷媒102を封入する際の真空引き等が不十分である場合、冷凍サイクル内に二酸化硫黄(SO)が残り、冷凍サイクルに含まれる水分と反応して亜硫酸(HSO)となり、この酸性物質の亜硫酸(HSO)が母材150である鉄系材料を酸化劣化させる可能性がある。
【0060】
【化1】

【0061】
しかし、硬質膜152にクラック並びに剥離が発生しないことで、母材150が亜硫酸(HSO)雰囲気下に暴露されることを防止できることが分かった。
【0062】
さらに、硬質膜152を形成しない場合においても、コンロッド138とピストンピン137間での片当りを防止できることから、局所発熱並びに一般的に鉄系の母材150の表面に意図せず形成される数nmの酸化膜の破断を防止できることから亜硫酸(HSO)雰囲気下においても酸化反応の速度が低下し、鉄系材料の劣化を防止できることが分かった。従って、冷凍サイクルに含まれる二酸化硫黄(SO)の濃度を50ppmとしても酸化劣化が防止でき高信頼性の冷凍サイクル装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上のように、本発明にかかる冷媒圧縮機は、金属材料からなる摺動部品の少なくともひとつの摺動部材の母材の結晶粒の直径を3〜5μmとするもので、これによって、高温度における機械的強度が上昇することにより耐摩耗性の向上が図れ、高信頼性の圧縮機を提供することが可能となるので、冷凍サイクルを用いた機器に幅広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態1における冷媒圧縮機の縦断面図
【図2】図1におけるA部拡大図
【図3】従来の冷媒圧縮機の縦断面図
【符号の説明】
【0065】
100 冷媒圧縮機
101 密閉容器
103 潤滑油
107 圧縮要素
137 ピストンピン(摺動部材)
138 コンロッド(摺動部材)
150 母材
152 硬質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に潤滑油を貯留するとともに、電動要素と冷媒を圧縮する圧縮要素を収容し、前記圧縮要素を構成し鉄系金属材料からなる少なくともひとつの摺動部材の母材の結晶粒径が3〜5μmであることを特徴とする冷媒圧縮機。
【請求項2】
摺動部材の母材の表面に硬質膜のコーティングが施されている請求項1に記載の冷媒圧縮機。
【請求項3】
窒化処理により硬質膜のコーティングが施されている請求項2に記載の冷媒圧縮機。
【請求項4】
冷媒はR600a、R290のいずれかひとつ、またはこれらの混合物であり、潤滑油はアルキルベンゼン、鉱油、エステル、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコールのいずれかひとつ、またはこれらの混合物とするとともに、前記潤滑油はVG10未満VG2以上の粘度とした請求項1から3のいずれか一項に記載の冷媒圧縮機。
【請求項5】
冷媒はHFC系冷媒であり、潤滑油はアルキルベンゼン、鉱油、エステル、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコールのいずれかひとつ、またはこれらの混合物とするとともに、前記潤滑油はVG10未満VG2以上の粘度とした請求項1から3のいずれか一項に記載の冷媒圧縮機。
【請求項6】
圧縮要素は往復式の圧縮機構である請求項1から5のいずれか一項に記載の冷媒圧縮機。
【請求項7】
請求項2に記載の冷媒圧縮機を備え、凝縮器と、ドライヤーと、キャピラリーと、蒸発器を有し、冷媒にHFC冷媒またはHC冷媒を用い、前記冷媒中に含まれる二酸化硫黄の濃度を50ppm以下とする冷凍サイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−77863(P2010−77863A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245829(P2008−245829)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】