説明

冷延鋼板の製造条件決定方法、製造条件決定装置および製造条件決定プログラム

【課題】実験による試行錯誤をすることなく、所望の機械的特性を有する冷延鋼板の製造条件を決定することができる冷延鋼板の製造条件決定方法、製造条件決定装置および製造条件決定プログラムを提供する。
【解決手段】製造条件決定方法は、所望の機械的特性を得るための目標フェライト分率等を決定する目標組織決定工程と、製造条件入力工程と、連続焼鈍時間算出工程と、オーステナイト粒径算出工程と、フェライト分率算出工程と、マルテンサイト硬さ算出工程と、目標フェライト分率等とフェライト分率等との差が予め定めた所定の閾値を超えるか否かを判定する組織比較判定工程と、判定結果に従って製造条件入力工程で入力された加熱温度、焼入れ温度および焼戻し温度を補正する製造条件補正工程とを含み、補正が終了するまでオーステナイト粒径、フェライト分率およびマルテンサイト硬さの算出処理を繰り返し行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の機械的特性を有する複合組織冷延鋼板の製造条件を決定するための冷延鋼板の製造条件決定方法、製造条件決定装置および製造条件決定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車用鋼板として用いられる鋼板の中に、フェライトとマルテンサイトよりなる複合組織鋼(DP鋼(Dual Phase鋼))がある。DP鋼は、軟質なフェライトにより延性を確保し、硬質なマルテンサイトにより強度が確保することができるため、強度と延性の両立が可能であり、高強度かつ成形性が要求される自動車用鋼板の材料として広く用いられている(例えば特許文献1)。
【0003】
このような金属材料は様々な分野で活用されているが、それらに求められる機械的特性(変形特性、以下適宜「特性」と略す)は年々より高性能なものとなっている。例えば前記した自動車用鋼板を例に取ると、求められる代表的な特性として強度と延性とが挙げられる。近年、これらの特性について衝突安全性とCO削減とを目的とした軽量化の観点から更なる高強度化が求められるとともに、プレス成形性向上の観点から更なる高延性化が求められるようになってきている。
【0004】
このような要求された特性を満足する新材料を開発する際には、一般的には種々の成分を有する材料を溶製、圧延加工、熱処理(連続焼鈍)等を施して製造し、これらの条件を適正化することで、鋼板の最終的な組織や特性を制御する。そして、このような種々の材料を製造した後にこれらに対して実験的に組織評価および引張試験等の特性評価を実施し、鋼材の組織と特性およびその製造条件との関係を整理することで、所望の特性を満足するための最適な組織形態を抽出するとともに、当該組織形態を実現するための鋼材の製造条件を決定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55−122820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記したような実験的な手法ではコストや時間が掛かるという問題点がある。また、金属材料に要求される特性(または組織)は年々変化しており、このようにめまぐるしく変化する要求に応え、これを実現する特性(または組織)を有する材料を早急かつ継続的に提供するためには、前記した要求を達成するための適正製造条件の選定を順次行っていく必要がある。
【0007】
しかしながら、従来の手法で適正製造条件を選定するためには、テストコイルを通板して製造条件とそれにより得られた鋼板の特性(または組織)との関係を解析し、所望の特性(または組織)を達成するための製造条件を試行錯誤して決定しなければならなかった。また、このような試行錯誤を回避するために、前記したようにして得られた実験結果をデータベース化して適正条件を選定しようとしても、急速に変化していく要求特性を達成するような該当データは存在しない場合が多く、結局は新たにテストコイルを通板して適正製造条件を決定することになるのが通常であった。
【0008】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであって、前記したような実験による試行錯誤をすることなく、所望の機械的特性を有する冷延鋼板の製造条件を決定することができる冷延鋼板の製造条件決定方法、製造条件決定装置および製造条件決定プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するために本発明に係る冷延鋼板の製造条件決定方法は、フェライトと焼戻しマルテンサイトからなる複合組織冷延鋼板の連続焼鈍工程において、加熱、焼入れ温度までの緩冷、急冷による焼入れおよび再加熱による焼戻しを順次経る場合における製造条件を決定するための冷延鋼板の製造条件決定方法であって、目標組織決定手段によって、予め収集された冷延鋼板の機械的特性と、フェライト分率およびマルテンサイト硬さからなる前記冷延鋼板の組織と、の相関関係を示す情報である相関関係情報に従って、所望の機械的特性を得るために必要な目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さを決定する目標組織決定工程と、製造条件入力手段に対して、前記連続焼鈍工程における冷延鋼板の組成、前記冷延鋼板の通板速度、前記加熱時における加熱温度、前記焼入れ時における焼入れ温度および前記焼戻し時における焼戻し温度が入力される製造条件入力工程と、連続焼鈍時間算出手段によって、前記連続焼鈍工程における前記通板速度から、前記加熱時における加熱時間、前記焼入れ時における焼入れ時間および前記焼戻し時における焼戻し時間を算出する連続焼鈍時間算出工程と、 オーステナイト粒径算出手段によって、前記加熱温度と、前記加熱時間と、から冷延鋼板のオーステナイト粒径を算出するオーステナイト粒径算出工程と、フェライト分率算出手段によって、前記冷延鋼板の組成と、前記焼入れ温度と、前記焼入れ時間と、前記オーステナイト粒径と、から当該冷延鋼板のフェライト分率を算出するフェライト分率算出工程と、マルテンサイト硬さ算出手段によって、前記冷延鋼板の組成と、前記焼戻し温度と、前記焼戻し時間と、前記フェライト分率と、から前記冷延鋼板のマルテンサイト硬さを算出するマルテンサイト硬さ算出工程と、組織比較判定手段によって、前記目標フェライト分率および前記目標マルテンサイト硬さと、前記フェライト分率および前記マルテンサイト硬さと、をそれぞれ比較し、前記目標フェライト分率および前記目標マルテンサイト硬さと、前記フェライト分率および前記マルテンサイト硬さと、の差が予め定めた所定の閾値を超えるか否かを判定する組織比較判定工程と、前記組織比較判定工程において前記目標フェライト分率および前記目標マルテンサイト硬さと、前記フェライト分率および前記マルテンサイト硬さと、の差が所定の閾値を超えると判定された場合、製造条件補正手段によって、予め収集された前記オーステナイト粒径と前記加熱温度との相関関係、前記フェライト分率と前記焼入れ温度との相関関係、および、前記マルテンサイト硬さと前記焼戻し温度との相関関係に従って、前記製造条件入力工程で入力された前記加熱温度、前記焼入れ温度および前記焼戻し温度のいずれか一つ以上を補正する製造条件補正工程と、を含み、前記オーステナイト粒径算出工程、前記フェライト分率算出工程および前記マルテンサイト硬さ算出工程が、前記製造条件補正工程による補正が終了するまで、それぞれの算出処理を繰り返し行うこととした。
【0010】
このような手順からなる冷延鋼板の製造条件決定方法は、目標組織決定工程において所望の機械的特性(YP,TS,ELおよびλ)に対応した冷延鋼板の目標組織(目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さ)を決定し、製造条件入力工程、連続焼鈍時間算出工程、オーステナイト粒径算出工程、フェライト分率算出工程およびマルテンサイト硬さ算出工程を経ることで、冷延鋼板の組織(フェライト分率およびマルテンサイト硬さ)の仮定値を算出する。そして、冷延鋼板の製造条件決定方法は、組織比較判定工程において、目標組織と算出された組織との比較を行い、両者の差が所定の閾値を超える場合、すなわち算出された組織が目標組織と大きく乖離している場合は、製造条件補正工程において製造条件を補正し、両者の差が所定の閾値以内となるまで、冷延鋼板の組織(フェライト分率およびマルテンサイト硬さ)の仮定値を繰り返し算出する。これにより、冷延鋼板の製造条件決定方法は、両者の差が所定の閾値以内となった場合の冷延鋼板の製造条件を抽出することで、所望の機械的特性(YP,TS,ELおよびλ)に対応した冷延鋼板の目標組織(目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さ)に近接した組織を有する冷延鋼板の製造条件を決定することができる。
【0011】
また、本発明に係る冷延鋼板の製造条件決定方法は、前記製造条件入力工程において、前記冷延鋼板の組成として、C:0.05〜0.3%(質量%、以下同様)、Si:0.01〜3%、Mn:0.5〜3%、Al:0.01〜0.1%、が入力されてもよい。
【0012】
また、本発明に係る冷延鋼板の製造条件決定方法は、前記製造条件入力工程において、前記冷延鋼板の組成として、前記した組成に加えて、Ti,Nb,VおよびZrよりなる群から選ばれる1種または2種以上の合計:0.01〜1%、が入力されてもよい。
【0013】
また、本発明に係る冷延鋼板の製造条件決定方法は、前記製造条件入力工程において、前記冷延鋼板の組成として、前記した組成に加えて、Niおよび/またはCuの合計:1%以下(0%を含まない)、が入力されてもよい。
【0014】
また、本発明に係る冷延鋼板の製造条件決定方法は、前記製造条件入力工程において、前記冷延鋼板の組成として、前記した組成に加えて、Cr:2%以下(0%を含まない)および/またはMo:1%以下(0%を含まない)、が入力されてもよい。
【0015】
また、本発明に係る冷延鋼板の製造条件決定方法は、前記製造条件入力工程において、前記冷延鋼板の組成として、前記した組成に加えて、B:0.0001〜0.005%、が入力されてもよい。
【0016】
また、本発明に係る冷延鋼板の製造条件決定方法は、前記製造条件入力工程において、前記冷延鋼板の組成として、前記した組成に加えて、Caおよび/またはREMを合計で0.003%以下(0%を含まない)、が入力されてもよい。
【0017】
前記した課題を解決するために本発明に係る冷延鋼板の製造条件決定装置は、フェライトと焼戻しマルテンサイトからなる複合組織冷延鋼板の連続焼鈍工程において、加熱、焼入れ温度までの緩冷、急冷による焼入れおよび再加熱による焼戻しを順次経る場合における製造条件を決定するための冷延鋼板の製造条件決定装置であって、前記冷延鋼板の機械的特性と、フェライト分率およびマルテンサイト硬さからなる前記冷延鋼板の組織と、の相関関係を示す情報である相関関係情報を予め記憶する相関関係情報記憶手段と、前記相関関係情報に従って、所望の機械的特性を得るために必要な目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さを決定する目標組織決定手段と、前記連続焼鈍工程における前記冷延鋼板の組成、前記冷延鋼板の通板速度、前記加熱時における加熱温度、前記焼入れ時における焼入れ温度および前記焼戻し時における焼戻し温度が入力される製造条件入力手段と、前記通板速度から、前記加熱時における加熱時間、前記焼入れ時における焼入れ時間および前記焼戻し時における焼戻し時間を算出する連続焼鈍時間算出手段と、前記加熱温度と、前記加熱時間と、から前記冷延鋼板のオーステナイト粒径を算出するオーステナイト粒径算出手段と、前記冷延鋼板の組成と、前記焼入れ温度と、前記焼入れ時間と、前記オーステナイト粒径と、から当該冷延鋼板のフェライト分率を算出するフェライト分率算出手段と、前記冷延鋼板の組成と、前記焼戻し温度と、前記焼戻し時間と、前記フェライト分率と、から前記冷延鋼板のマルテンサイト硬さを算出するマルテンサイト硬さ算出手段と、前記目標フェライト分率および前記目標マルテンサイト硬さと、前記フェライト分率および前記マルテンサイト硬さと、をそれぞれ比較し、前記目標フェライト分率および前記目標マルテンサイト硬さと、前記フェライト分率および前記マルテンサイト硬さと、の差が予め定めた所定の閾値を超えるか否かを判定する組織比較判定手段と、前記組織比較判定手段によって前記目標フェライト分率および前記目標マルテンサイト硬さと、前記フェライト分率および前記マルテンサイト硬さと、の差が所定の閾値を超えると判定された場合、予め収集された前記オーステナイト粒径と前記加熱温度との相関関係、前記フェライト分率と前記焼入れ温度との相関関係、および、前記マルテンサイト硬さと前記焼戻し温度との相関関係、に従って、前記製造条件入力手段に入力された前記加熱温度、前記焼入れ温度および前記焼戻し温度のいずれか一つ以上を補正する製造条件補正手段と、を備え、前記オーステナイト粒径算出手段、前記フェライト分率算出手段および前記マルテンサイト硬さ算出手段が、前記製造条件補正手段による補正が終了するまで、それぞれの算出処理を繰り返し行う構成とした。
【0018】
このような構成からなる冷延鋼板の製造条件決定装置は、目標組織決定手段によって所望の機械的特性(YP,TS,ELおよびλ)に対応した冷延鋼板の目標組織(目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さ)を決定し、製造条件入力手段、連続焼鈍時間算出手段、オーステナイト粒径算出手段、フェライト分率算出手段およびマルテンサイト硬さ算出手段によって、冷延鋼板の組織(フェライト分率およびマルテンサイト硬さ)の仮定値を算出する。そして、冷延鋼板の製造条件決定装置は、組織比較判定手段によって、目標組織と算出された組織との比較を行い、両者の差が所定の閾値を超える場合、すなわち算出された組織が目標組織と大きく乖離している場合は、製造条件補正手段によって製造条件を補正し、両者の差が所定の閾値以内となるまで、冷延鋼板の組織(フェライト分率およびマルテンサイト硬さ)の仮定値を繰り返し算出する。これにより、冷延鋼板の製造条件決定装置は、両者の差が所定の閾値以内となった場合の冷延鋼板の製造条件を抽出することで、所望の機械的特性(YP,TS,ELおよびλ)に対応した冷延鋼板の目標組織(目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さ)に近接した組織を有する冷延鋼板の製造条件を決定することができる。
【0019】
前記した課題を解決するために本発明に係る冷延鋼板の製造条件決定プログラムは、フェライトと焼戻しマルテンサイトからなる複合組織冷延鋼板の連続焼鈍工程において、加熱、焼入れ温度までの緩冷、急冷による焼入れおよび再加熱による焼戻しを順次経る場合における製造条件を決定するために、コンピュータを、予め収集された冷延鋼板の機械的特性と、フェライト分率およびマルテンサイト硬さからなる前記冷延鋼板の組織と、の相関関係を示す情報である相関関係情報に従って、所望の機械的特性を得るために必要な目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さを決定する目標組織決定手段、前記連続焼鈍工程における前記冷延鋼板の組成、前記冷延鋼板の通板速度、前記加熱時における加熱温度、前記焼入れ時における焼入れ温度および前記焼戻し時における焼戻し温度が入力される製造条件入力手段、前記通板速度から、前記加熱時における加熱時間、前記焼入れ時における焼入れ時間および前記焼戻し時における焼戻し時間を算出する連続焼鈍時間算出手段、前記加熱温度と、前記加熱時間と、から前記冷延鋼板のオーステナイト粒径を算出するオーステナイト粒径算出手段、前記冷延鋼板の組成と、前記焼入れ温度と、前記焼入れ時間と、前記オーステナイト粒径と、から当該冷延鋼板のフェライト分率を算出するフェライト分率算出手段、前記冷延鋼板の組成と、前記焼戻し温度と、前記焼戻し時間と、前記フェライト分率と、から前記冷延鋼板のマルテンサイト硬さを算出するマルテンサイト硬さ算出手段、前記目標フェライト分率および前記目標マルテンサイト硬さと、前記フェライト分率および前記マルテンサイト硬さと、をそれぞれ比較し、前記目標フェライト分率および前記目標マルテンサイト硬さと、前記フェライト分率および前記マルテンサイト硬さと、の差が予め定めた所定の閾値を超えるか否かを判定する組織比較判定手段、前記組織比較判定手段によって前記目標フェライト分率および前記目標マルテンサイト硬さと、前記フェライト分率および前記マルテンサイト硬さと、の差が所定の閾値を超えると判定された場合、予め収集された前記オーステナイト粒径と前記加熱温度との相関関係、前記フェライト分率と前記焼入れ温度との相関関係、および、前記マルテンサイト硬さと前記焼戻し温度との相関関係、に従って、前記製造条件入力手段に入力された前記加熱温度、前記焼入れ温度および前記焼戻し温度のいずれか一つ以上を補正する製造条件補正手段、として機能させるプログラムであって、前記オーステナイト粒径算出手段、前記フェライト分率算出手段および前記マルテンサイト硬さ算出手段が、前記製造条件補正手段による補正が終了するまで、それぞれの算出処理を繰り返し行うこととした。
【0020】
このような構成からなる冷延鋼板の製造条件決定プログラムは、目標組織決定手段によって所望の機械的特性(YP,TS,ELおよびλ)に対応した冷延鋼板の目標組織(目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さ)を決定し、製造条件入力手段、連続焼鈍時間算出手段、オーステナイト粒径算出手段、フェライト分率算出手段およびマルテンサイト硬さ算出手段によって、冷延鋼板の組織(フェライト分率およびマルテンサイト硬さ)の仮定値を算出する。そして、冷延鋼板の製造条件決定プログラムは、組織比較判定手段によって、目標組織と算出された組織との比較を行い、両者の差が所定の閾値を超える場合、すなわち算出された組織が目標組織と大きく乖離している場合は、製造条件補正手段によって製造条件を補正し、両者の差が所定の閾値以内となるまで、冷延鋼板の組織(フェライト分率およびマルテンサイト硬さ)の仮定値を繰り返し算出する。これにより、冷延鋼板の製造条件決定プログラムは、両者の差が所定の閾値以内となった場合の冷延鋼板の製造条件を抽出することで、所望の機械的特性(YP,TS,ELおよびλ)に対応した冷延鋼板の目標組織(目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さ)に近接した組織を有する冷延鋼板の製造条件を決定することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る冷延鋼板の製造条件決定方法、製造条件決定装置および製造条件決定プログラムによれば、テストコイルを通板することなく所望の特性を得るための冷延鋼板の製造条件を計算によって算出することができるため、実験による試行錯誤をすることなく製造条件を決定することができるとともに、コスト削減や製造時間短縮といった面で大幅な効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】冷延鋼板の組織と冷延鋼板の機械的特性との相関関係(相関関係情報)を示す概略図であって、(a)は、フェライト分率およびマルテンサイト硬さと、YP(降伏強さ[MPa])との相関関係を示す図、(b)は、フェライト分率およびマルテンサイト硬さと、TS(引張り強さ[MPa])との相関関係を示す図、(c)は、フェライト分率およびマルテンサイト硬さと、EL(伸び[%])との相関関係を示す図、(d)は、フェライト分率およびマルテンサイト硬さと、λ(穴広げ率[%])との相関関係を示す図、である。
【図2】冷延鋼板の製造条件と冷延鋼板の機械的特性との相関関係を示す概略図であって、(a)は、従来知られていた冷延鋼板の製造条件と冷延鋼板の機械的特性との相関関係を示す図、(b)は、本発明における冷延鋼板の製造条件と冷延鋼板の機械的特性との相関関係を示す図、である。
【図3】DP鋼の連続焼鈍工程における温度パターン(熱履歴)を示す概略図である。
【図4】実施形態に係る冷延鋼板の製造条件決定装置の具体的構成を示すブロック図である。
【図5】冷延鋼板の製造条件と、冷延鋼板の組織との相関関係(相関関係情報)を示す概略図であって、(a)は、加熱温度と、オーステナイト粒径(γ粒径)との相関関係を示す図、(b)は、オーステナイト粒径と、焼入れ温度と、フェライト分率との相関関係を示す図、(c)は、フェライト分率と、焼戻し温度と、マルテンサイト硬さとの相関関係を示す図、である。
【図6】実施形態に係る冷延鋼板の製造条件決定装置の動作(製造条件決定方法)を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態に係る冷延鋼板の製造条件決定方法、製造条件決定装置および製造条件決定プログラムについて、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の説明では、まず本発明の大まかな概要について概説した後、冷延鋼板の製造条件決定装置(以下、適宜「製造条件決定装置」と略す)、冷延鋼板の製造条件決定方法(以下、適宜「製造条件決定方法」と略す)、冷延鋼板の製造条件決定プログラム(以下、適宜「製造条件決定プログラム」と略す)、の順に説明を行う。
【0024】
[本発明の概要]
本発明は、所望の機械的特性を有する冷延鋼板を製造するための製造条件を計算によって算出する技術である。本発明の特徴を大まかに分類すると、目標組織の決定、組織の予測計算、目標組織と計算組織との比較、という3つに分けることができる。
【0025】
(1)目標組織の決定
目標組織の決定とは、冷延鋼板の機械的特性(以下、適宜「特性」と略す)から冷延鋼板の組織へと目標を変換することを意味している。すなわち、冷延鋼板の組織と特性との関係を予め収集してデータベース化し、当該データベースに基づいて、所望の特性を得るための冷延鋼板の組織を決定する。鋼板の機械的特性とは、ここでは鋼板の強度に関連するYP(降伏強さ[MPa])およびTS(引張り強さ[MPa])と、鋼板の延性に関連するEL(伸び[%])およびλ(穴広げ率[%])の4つのパラメータのことを意味している。
【0026】
冷延鋼板の機械的特性に影響を与える組織因子としては、フェライトとマルテンサイトとの相分率、フェライトおよびマルテンサイトの硬さ、フェライト粒径、マルテンサイトのサイズ、固溶合金元素の種類および量、析出炭化物の種類および量等多数存在するが、その中でもとりわけ影響が大きいのがフェライトとマルテンサイトとの相分率、フェライト硬さおよびマルテンサイト硬さである。
【0027】
ここで、フェライトとマルテンサイトの相分率は互いに従属関係にあるため、どちらかを決定すれば他方は自動的に算出される。また、マルテンサイト硬さは焼戻し条件(焼戻し温度、焼戻し時間)によって大きく変化するが、フェライト硬さは成分が同一であれば焼戻し条件に依存しない。従って、フェライト硬さはほぼ一定としても冷延鋼板の特性と組織との関係は十分な精度で求めることができる。以上より、発明者らは、前記したデータベース化の際に収集する鋼板の組織が、前記した多数あるパラメータの中で2点(フェライト分率、マルテンサイト硬さ)だけで良いことを見出した。
【0028】
例えば、図1に示すように、フェライト分率−マルテンサイト硬さとの関係を示すグラフに各特性項目をプロットすれば等高線を引くことができる。ここで、図1(a)に示すグラフは、フェライト分率が低くマルテンサイト硬さが高い程、YPが高くなることを示している。また、図1(b)に示すグラフは、フェライト分率が低くマルテンサイト硬さが高い程、TSが高くなることを示している。また、図1(c)に示すグラフは、フェライト分率が高くマルテンサイト硬さが低い程、ELが高くなることを示している。図1(d)に示すグラフは、フェライト分率が低くマルテンサイト硬さが低い程、λが高くなることを示している。
【0029】
このように、図1に示すような相関関係(相関関係情報)を事前に求めておき、データベース化しておくことで、YP,TS,ELおよびλの4項目ある目標項目を実質的に2項目に半減することができる。すなわち、従来は、前記したような冷延鋼板の機械的特性と組織との関係が知られていなかったため、図2(a)に示すように、YP,TS,ELおよびλという4つの機械的特性(目標特性)を制御するために製造条件を決定する必要があった。一方、本発明は、図2(b)に示すように、フェライト分率およびマルテンサイト硬さの2つの組織(目標組織)を制御するために製造条件を決定すればよい。この2項目はいずれも机上での予測計算が可能であるため、操業設備での試行錯誤を大幅に低減することができる。なお、前記したデータベース化に用いるデータは、操業設備において製造した鋼板であっても、小規模なラボ実験で作成した試験片であっても採取することができる。
【0030】
(2)組織の予測計算
「組織の予測計算」とは、決定したい製造条件を仮設定し、当該製造条件から冷延鋼板の組織(フェライト分率およびマルテンサイト硬さ)をそれぞれ予測計算することを意味している。このように仮設定した製造条件から冷延鋼板の組織を予測するには、連続焼鈍工程の一貫工程での組織予測が行える必要がある。すなわち、従来も連続焼鈍工程中における一部の工程単体についての組織予測技術は存在していたが、単にこれらの部分的な予測を組合せただけでは整合性がなかった。また、従来の組織予測技術は、予測精度にも問題がある場合が多く、冷延鋼板の特性が決定される連続焼鈍工程終了後の組織、すなわち最終的な製品の組織を実用可能なレベルで予測する技術は確立されていなかった。一方、本発明では、連続焼鈍工程の一貫工程での組織予測が可能な組織予測技術を構築し、これを用いて適正な製造条件を決定することができる(具体的な内容は後記する)。
【0031】
(3)目標組織と計算組織との比較
「目標組織と計算組織との比較」とは、所望の機械的特性を得るために必要な冷延鋼板の目標組織(目標値)と、計算によって得られた計算組織(仮定値)とを比較し、両者の乖離が小さくなるまで、インプットデータ(連続焼鈍工程における温度)の値を変えながら(補正しながら)計算をやり直すことを意味している。このように、計算組織が目標組織になるべく近づくように予測計算を繰り返すことで、所望の機械的特性を有する冷延鋼板の製造条件を決定することができる(具体的な内容は後記する)。以下、前記したような本発明の内容を具現した製造条件決定装置について、詳細に説明する。
【0032】
[製造条件決定装置]
製造条件決定装置1は、DP鋼で構成された複合組織冷延鋼板の製造条件を決定するものである。このDP鋼は、溶鋼の状態で成分が調整され、鋳造(製鉄所であれば連続鋳造)された後に、熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍、という3つの工程を経ることで製造される。製造条件決定装置1は、前記した3つの工程のうちの最後の工程である連続焼鈍工程における条件を決定する。なお、連続焼鈍工程では、図3に示すような温度パターン(熱履歴)で、冷延鋼板の加熱、均熱、焼入れ温度までの緩冷、急冷による焼入れ、再加熱による焼戻し、という工程が実施されることになる。
【0033】
製造条件決定装置1は、ここでは図4に示すように、特性入力手段10と、相関関係情報記憶手段20と、目標組織決定手段30と、製造条件入力手段40と、焼鈍時間算出手段50と、オーステナイト粒径算出手段60と、フェライト分率算出手段70と、マルテンサイト硬さ算出手段80と、組織比較判定手段90と、製造条件補正手段100と、を備えている。以下、製造条件決定装置1が備える各構成について、詳細に説明する。
【0034】
特性入力手段10は、外部から冷延鋼板の所望の機械的特性が入力されるものである。特性入力手段10には、具体的には、ユーザが希望する冷延鋼板の機械的特性を表すパラメータ、すなわちYP,TS,ELおよびλの4つのパラメータが入力される。そして、特性入力手段10は、図4に示すように、これらを目標組織決定手段30に出力する。
【0035】
相関関係情報記憶手段20は、相関関係情報を予め記憶するものである。この相関関係情報とは、冷延鋼板の機械的特性と冷延鋼板の組織との相関関係を示す情報であり、例えば前記した図1に示すようなものである。すなわち、相関関係情報記憶手段20は、YP,TS,ELおよびλからなる冷延鋼板の機械的特性と、フェライト分率およびマルテンサイト硬さからなる冷延鋼板の組織との相関関係情報を、前記した図1に示すような相関グラフの形式で記憶する。但し、相関関係情報は、冷延鋼板の機械的特性と冷延鋼板の組織との相関関係が把握できれば形式は特に限定されず、例えばテーブル形式であってもよい。
【0036】
相関関係情報記憶手段20は、具体的には、データを記憶することができるメモリ、ハードディスク等で具現される。相関関係情報記憶手段20には、外部から相関関係情報が入力される。そして、相関関係情報記憶手段20は、図4に示すように、これを目標組織決定手段30に出力する。なお、相関関係情報記憶手段20は、図3に示すように、製造条件決定装置1の内部に設けられているが、外部に設けてもよい。
【0037】
目標組織決定手段30は、相関関係情報に従って、所望の機械的特性を得るために必要な冷延鋼板の組織を決定するものである。すなわち、目標組織決定手段30は、前記した[本発明の概要]における「(1)目標組織の決定」を行う手段である。
【0038】
目標組織決定手段30には、具体的には図4に示すように、特性入力手段10から、YP,TS,ELおよびλからなる冷延鋼板の機械的特性が入力されるとともに、相関関係情報記憶手段20から、例えば図1に示すような相関関係情報が入力される。そして、目標組織決定手段30は、入力されたYP,TS,ELおよびλを相関関係情報に照らし合わせることで、目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さからなる、目標とする冷延鋼板の組織を決定する。これにより、目標組織決定手段30は、鋼板の機械的特性(4項目)から鋼板の組織(2項目)へと目標を変換することができる。
【0039】
製造条件入力手段40は、外部から冷延鋼板の連続焼鈍工程における製造条件が入力されるものである。ここで、製造条件入力手段40に入力される製造条件は、あくまでも仮の製造条件である。すなわち、実施形態に係る製造条件決定装置1は、後記するように、仮の製造条件を用いてフェライト分率およびマルテンサイト硬さを仮計算し、これらを目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さと比較し、その差が所定の閾値を超える場合は計算をし直すという処理を行う。従って、製造条件入力手段40には、比較判定の結果によって、製造条件が複数回入力されることになる。製造条件入力手段40は、ここでは図4に示すように、組成入力部41と、通板速度入力部42と、加熱温度入力部43と、焼入れ温度入力部44と、焼戻し温度入力部45と、を備えている。
【0040】
組成入力部41は、冷延鋼板の組成が入力されるものである。組成入力部41に入力される冷延鋼板の組成は、目標組織の作りやすさ、コスト、溶接性等の前提条件によって定まる値であり、図4に示すように、一度入力されると全体の処理が終わるまで変更されない(後記する製造条件補正手段100によって補正されない)固定値である。組成入力部41は、図4に示すように、入力された冷延鋼板の組成を、フェライト分率算出手段70と、マルテンサイト硬さ算出手段80と、に出力する。なお、組成入力部41は、後記する製造条件補正手段100による補正に備えて、入力された冷延鋼板の組成を一時的に保持する図示しない記憶手段を備えてもよい。
【0041】
組成入力部41には、例えば、C:0.05〜0.3%(質量%、以下同様)、Si:0.01〜3%、Mn:0.5〜3%、Al:0.01〜0.1%、からなる組成が入力されてもよい。また、組成入力部41には、例えば、前記した組成に加えて、Ti,Nb,VおよびZrよりなる群から選ばれる1種または2種以上の合計:0.01〜1%、が入力されてもよい。また、組成入力部41には、前記した組成に加えて、Niおよび/またはCuの合計:1%以下(0%を含まない)、が入力されてもよい。また、組成入力部41には、前記した組成に加えて、Cr:2%以下(0%を含まない)および/またはMo:1%以下(0%を含まない)、が入力されてもよい。また、組成入力部41には、前記した組成に加えて、B:0.0001〜0.005%、が入力されてもよい。また、組成入力部41には、前記した組成に加えて、Caおよび/またはREMを合計で0.003%以下(0%を含まない)、が入力されてもよい。
【0042】
通板速度入力部42は、連続焼鈍ラインを流れる冷延鋼板(コイル)の通板速度が入力されるものである。通板速度入力部42に入力される冷延鋼板の通板速度は、生産性、ライン能力等の前提条件によって定まる値であり、図4に示すように、一度入力されると全体の処理が終わるまで変更されない(後記する製造条件補正手段10によって補正されない)固定値である。通板速度入力部42は、図4に示すように、入力された冷延鋼板の通板速度を、加熱時間算出部51と、焼入れ時間算出部52と、焼戻し時間算出部53と、に出力する。なお、通板速度入力部42は、製造条件補正手段100による補正に備えて、入力された冷延鋼板の通板速度を一時的に保持する図示しない記憶手段を備えてもよい。
【0043】
加熱温度入力部43は、連続焼鈍工程の加熱段階(図3参照)における冷延鋼板の加熱温度が入力されるものである。加熱温度入力部43に入力される冷延鋼板の加熱温度は、所定の制約条件によって定まる値であり、図4に示すように、全体の処理が終わるまでに変更されうる(後記する製造条件補正手段10によって補正されうる)仮定値である。
【0044】
冷延鋼板の加熱温度は、具体的には、750〜950℃の範囲で、ライン能力等を考慮して定められる。また、加熱温度を750〜950℃のどの値とするかは、冷延鋼板の組成によって定まる。加熱温度入力部43は、図4に示すように、入力された冷延鋼板の加熱温度を、オーステナイト粒径算出手段60に出力する。なお、加熱温度入力部43は、製造条件補正手段100による補正に備えて、入力された冷延鋼板の加熱温度を一時的に保持する図示しない記憶手段を備えてもよい。
【0045】
焼入れ温度入力部44は、連続焼鈍工程の焼入れ段階(図3参照)における冷延鋼板の焼入れ温度が入力されるものである。焼入れ温度入力部44に入力される冷延鋼板の焼入れ温度は、所定の制約条件によって定まる値であり、図4に示すように、全体の処理が終わるまでに変更されうる(後記する製造条件補正手段10によって補正されうる)仮定値である。
【0046】
冷延鋼板の焼入れ温度は、具体的には、400〜900℃の範囲で、ライン能力等を考慮して定められる。焼入れ温度入力部44は、図4に示すように、入力された冷延鋼板の焼入れ温度を、フェライト分率算出手段70に出力する。なお、焼入れ温度入力部44は、製造条件補正手段100による補正に備えて、入力された冷延鋼板の焼入れ温度を一時的に保持する図示しない記憶手段を備えてもよい。
【0047】
焼戻し温度入力部45は、連続焼鈍工程の戻し段階(図3参照)における冷延鋼板の戻し温度が入力されるものである。焼戻し温度入力部45に入力される冷延鋼板の焼戻し温度は、所定の制約条件によって定まる値であり、図4に示すように、全体の処理が終わるまでに変更されうる(後記する製造条件補正手段10によって補正されうる)仮定値である。
【0048】
冷延鋼板の焼戻し温度は、具体的には、200〜550℃の範囲で、ライン能力等を考慮して定められる。焼戻し温度入力部45は、図4に示すように、入力された冷延鋼板の焼戻し温度を、マルテンサイト硬さ算出手段80に出力する。なお、焼戻し温度入力部45は、製造条件補正手段100による補正に備えて、入力された冷延鋼板の焼戻し温度を一時的に保持する図示しない記憶手段を備えてもよい。
【0049】
焼鈍時間算出手段50は、連続焼鈍工程における加熱、焼入れおよび焼戻しの各段階における時間を算出するものである。焼鈍時間算出手段50は、ここでは図4に示すように、加熱時間算出部51と、焼入れ時間算出部52と、焼戻し時間算出部53と、を備えている。
【0050】
加熱時間算出部51は、連続焼鈍工程の加熱段階における加熱時間(図3参照)を算出するものである。加熱時間算出部51には、具体的には図4に示すように、通板速度入力部42から冷延鋼板(コイル)の通板速度が入力される。そして、加熱時間算出部51は、予め定められた連続焼鈍炉における加熱炉の長さを通板速度で除算することで加熱時間を算出し、図4に示すように、これをオーステナイト粒径算出手段60に出力する。
【0051】
焼入れ時間算出部52は、連続焼鈍工程の焼入れ段階における焼入れ時間(図3参照)を算出するものである。焼入れ時間算出部52には、具体的には図4に示すように、通板速度入力部42から冷延鋼板(コイル)の通板速度が入力される。そして、焼入れ時間算出部52は、予め定められた連続焼鈍炉における焼入炉の長さを通板速度で除算することで焼入れ時間を算出し、図4に示すように、これをフェライト分率算出手段70に出力する。
【0052】
焼戻し時間算出部53は、連続焼鈍工程の焼戻し段階における焼戻し時間(図3参照)を算出するものである。焼戻し時間算出部53には、具体的には図4に示すように、通板速度入力部42から冷延鋼板(コイル)の通板速度が入力される。そして、焼戻し時間算出部53は、予め定められた連続焼鈍炉における焼戻炉の長さを通板速度で除算することで焼戻し時間を算出し、図4に示すように、これをマルテンサイト硬さ算出手段80に出力する。
【0053】
オーステナイト粒径算出手段60は、冷延鋼板のオーステナイト粒径(γ粒径)を算出するものである。すなわち、オーステナイト粒径算出手段60は、前記した[本発明の概要]における「(2)組織の予測計算」の一部を行う手段である。オーステナイト粒径算出手段60は、具体的には、下記式(1)よってオーステナイト粒径を算出する。
【0054】
【数1】

【0055】
ここで、前記式(1)における各記号は、以下の事項を示している。
dγ:オーステナイト粒径
A1〜A3:予め実験的に求めたパラメータ
tss:加熱時間[s]
Tss:加熱温度[℃]
【0056】
オーステナイト粒径算出手段60には、図4に示すように、加熱温度入力部43から冷延鋼板の加熱温度が入力されるとともに、加熱時間算出部51から冷延鋼板の加熱時間が入力される。そして、オーステナイト粒径算出手段60は、前記した手法によって冷延鋼板のオーステナイト粒径を算出し、図4に示すように、これをフェライト分率算出手段70に出力する。
【0057】
フェライト分率算出手段70は、冷延鋼板のフェライト分率を算出するものである。すなわち、フェライト分率算出手段70は、前記した[本発明の概要]における「(2)組織の予測計算」の一部を行う手段である。フェライト分率算出手段70は、具体的には、下記式(2)によって、冷延鋼板のフェライト分率を算出する。
【0058】
【数2】

【0059】
ここで、前記式(2)におけるV(t)は、時間tにおけるフェライト分率を示している。また、前記式(2)におけるVex(t)は、下記式(3)で与えられる。
【0060】
【数3】

【0061】
ここで、前記式(3)における各記号は、以下の事項を示している。
Vf(τ,t):時間τで生成した1個のフェライト核が成長してなる1個のフェライト粒の時間tにおける体積
N(τ):時間τにおけるフェライト核の生成数
【0062】
前記式(3)におけるVf(τ,t)は、下記式(4)、(5)により与えられる。また、前記式(3)におけるN(τ)は、下記式(7)〜(12)で与えられる。
【0063】
【数4】

【0064】
【数5】

【0065】
ここで、前記式(4)〜(12)における各記号は、以下の事項を示している。
Rf:回転楕円体(生成したフェライト核の形状)の長軸/短軸比
r(τ,t):時間τで生成したフェライト核の時間tにおける半径
dr(τ,ζ)/dt:フェライト粒の成長速度
Dc:オーステナイト中の炭素の拡散係数
:鋼材の炭素濃度
Cα:フェライト粒の平衡状態の炭素濃度
Cγ:オーステナイト粒の平衡状態の炭素濃度
ζ:時間を表わすパラメータであって時間tと同義であり、τよりも後の時間
Sγ:オーステナイトの粒界面積
I(τ):フェライトの核生成速度
A(τ):オーステナイト粒界上のフェライトの占有面積
Dγ:オーステナイト粒径
dG(τ):フェライト核生成の活性化エネルギー
k:ボルツマン定数
T(τ):熱履歴の時間τにおける温度
Qc:炭素の拡散の活性化エネルギー
R:気体定数
Aex(t):オーステナイト粒界上のフェライトの拡張面積率
Af(τ,t):オーステナイト粒界上の1個のフェライトの面積
【0066】
なお、焼入れ温度入力部44からフェライト分率算出手段70に入力される冷延鋼板の焼入れ温度に対応するのは、前記式(9)におけるT(τ)である。また、焼入れ時間算出部52からフェライト分率算出手段70に入力される焼入れ時間に対応するのは、各式におけるtである。また、オーステナイト粒径算出手段60からフェライト分率算出手段70に入力されるオーステナイト粒径に対応するのは、式(8)におけるDγである。また、組成入力部41に入力された冷延鋼板の組成のデータから熱力学平衡計算を行い、C,Cα,Cγ,dG(τ)を算出して用いる。また、前記式(9)のQcは、文献値(例えば154.1kJ/mol)を用いることができる。
【0067】
なお、フェライト分率算出手段70は、ここでは前記式(2)〜(12)によってフェライト分率Vfを算出することとしたが、フェライト分率Vfの算出方法はどのようなものを用いても構わず、特に限定されない。
【0068】
フェライト分率算出手段70には、図4に示すように、組成入力部41から冷延鋼板の組成が、焼入れ温度入力部44から冷延鋼板の焼入れ温度が、焼入れ時間算出部52から焼入れ時間が、オーステナイト粒径算出手段60からオーステナイト粒径が入力される。そして、フェライト分率算出手段70は、前記した手法によってフェライト分率を算出し、図4に示すように、これをマルテンサイト硬さ算出手段80と、組織比較判定手段90と、に出力する。
【0069】
マルテンサイト硬さ算出手段80は、冷延鋼板のマルテンサイト硬さを算出するものである。すなわち、マルテンサイト硬さ算出手段80は、前記した[本発明の概要]における「(2)組織の予測計算」の一部を行う手段である。マルテンサイト硬さ算出手段80は、具体的には、下記式(13)によって、冷延鋼板のマルテンサイト硬さHVtmを算出する。
【0070】
【数6】

【0071】
ここで、前記式(13)における各記号は、以下の事項を示している。
HVtm:マルテンサイト硬さ
C1〜C5:予め実験的に求めたパラメータ
[C]:鋼板全体のC濃度[wt%]
TRHS:焼戻し温度[℃]
tRHS:焼戻し時間[s]
Vf:フェライト分率[%]
【0072】
なお、組成入力部41からマルテンサイト硬さ算出手段80に入力される冷延鋼板の組成に対応するのは、前記式(13)における[C]である。
【0073】
マルテンサイト硬さ算出手段80には、図4に示すように、組成入力部41から冷延鋼板の組成が、焼戻し温度入力部45から冷延鋼板の焼戻し温度が、焼戻し時間算出部53から焼戻し時間が、フェライト分率算出手段70からフェライト分率が入力される。そして、マルテンサイト硬さ算出手段80は、前記した手法によってマルテンサイト硬さを算出し、図4に示すように、これを組織比較判定手段90に出力する。
【0074】
組織比較判定手段90は、目標とする冷延鋼板の組織(以下、目標組織という)と算出した冷延鋼板の組織(以下、計算組織という)とを比較するものである。組織比較判定手段90は、具体的には、目標組織決定手段30によって決定された目標組織(目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さ)と、フェライト分率算出手段70およびマルテンサイト硬さ算出手段80によって算出された計算組織(計算フェライト分率および計算マルテンサイト硬さ)と、を比較し、その差が予め定めた所定の閾値を超えるか否かを判定する。
【0075】
ここで、所定の閾値は、例えば目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さの10%に設定することができる。これにより、例えば目標フェライト分率と計算フェライト分率との差が、目標フェライト分率の10%を超えるか否か、あるいは、目標マルテンサイト硬さと計算マルテンサイト硬さとの差が、目標マルテンサイト硬さの10%を超えるか否かの判定を行う。なお、所定の閾値は、図示しない閾値記憶手段に予め記憶されている。
【0076】
組織比較判定手段90には、図4に示すように、フェライト分率算出手段70から計算フェライト分率が、マルテンサイト硬さ算出手段80から計算マルテンサイト硬さが入力される。そして、組織比較判定手段90は、前記した手法によって比較判定処理を行い、図4に示すように、閾値を超えたか否かの判定結果を製造条件補正手段100に出力する。
【0077】
製造条件補正手段100は、製造条件入力手段40に入力された製造条件を補正するものである。製造条件補正手段100は、具体的には、組織比較判定手段90によって、目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さと、計算フェライト分率および計算マルテンサイト硬さと、の差が所定の閾値を超えると判定された場合に、予め収集されたオーステナイト粒径と加熱温度との相関関係、フェライト分率と焼入れ温度との相関関係、および、マルテンサイト硬さと焼戻し温度との相関関係、に従って、製造条件入力手段40に入力された加熱温度、焼入れ温度および焼戻し温度を補正する。
【0078】
ここで、オーステナイト粒径と加熱温度との相関関係とは、例えば図5(a)に示すような関係を意味している。すなわち、オーステナイト粒径(γ粒径)と加熱温度とは、図5(a)に示すように、連続焼鈍工程の加熱段階における加熱温度が高い程、冷延鋼板のオーステナイト粒径が大きくなる関係を有している。
【0079】
また、フェライト分率と焼入れ温度との相関関係とは、例えば図5(b)に示すような関係を意味している。すなわち、フェライト分率と焼入れ温度とは、図5(b)に示すように、連続焼鈍工程の焼入れ段階における焼入れ温度が高い程、冷延鋼板のフェライト分率が小さくなる関係を有している。なお、図5(b)の破線に示すように、フェライト分率の算出に必要なオーステナイト粒径を小さくすると、フェライト分率と焼入れ温度との相関関係を示すグラフは上方向に平行移動する。一方、図5(b)の一転鎖線に示すように、フェライト分率の算出に必要なオーステナイト粒径を大きくすると、フェライト分率と焼入れ温度との相関関係を示すグラフは下方向に平行移動する。
【0080】
また、マルテンサイト硬さと焼戻し温度との相関関係とは、例えば図5(c)に示すような関係を意味している。すなわち、マルテンサイト硬さと焼戻し温度とは、図5(c)に示すように、連続焼鈍工程の焼戻し段階における焼戻し温度が高い程、冷延鋼板のマルテンサイト硬さが小さくなる関係を有している。なお、図5(c)の破線に示すように、マルテンサイト硬さの算出に必要なフェライト分率を大きくすると、マルテンサイト硬さと焼戻し温度との相関関係を示すグラフは上方向に平行移動する。一方、図5(c)の一点鎖線に示すように、マルテンサイト硬さの算出に必要なフェライト分率を小さくすると、マルテンサイト硬さと焼戻し温度との相関関係を示すグラフは下方向に平行移動する。
【0081】
前記したような冷延鋼板の組織と製造条件との相関関係は、図5に示すような相関グラフの形式またはテーブル形式で、図示しない記憶手段に予め記憶されており、図4に示すように、必要に応じて製造条件補正手段100に出力される。
【0082】
製造条件補正手段100は、例えば、目標組織決定手段30によって決定された目標フェライト分率と、フェライト分率算出手段70によって算出された計算フェライト分率と、の差が目標フェライト分率の10%を超える場合、計算フェライト分率を再計算するための補正値を生成する。ここで、計算フェライト分率を再計算するための補正値とは、具体的には、製造条件入力手段40に入力される冷延鋼板の製造条件のうち、フェライト分率の算出に必要な焼入れ温度の補正値である。
【0083】
より具体的には、製造条件補正手段100は、前記した差が目標フェライト分率の10%を超える場合であって、目標フェライト分率の値よりも計算フェライト分率の値の方が大きい場合、計算フェライト分率を目標フェライト分率に近づけるために、言い換えれば、計算フェライト分率を小さくするために、図5(b)に示す相関関係に基づいて、焼入れ温度を加算補正するための補正値を生成する。
【0084】
そして、製造条件補正手段100は、当該補正値を用いて、焼入れ温度入力部44に入力された焼入れ温度の仮定値(例えば図示しない記憶手段に一時的に保持された焼入れ温度の仮定値)を加算補正する。なお、これとは逆に、目標フェライト分率の値よりも計算フェライト分率の値の方が小さい場合、製造条件補正手段100は、焼入れ温度入力部44に入力された焼入れ温度の仮定値を減算補正することで、計算フェライト分率を目標フェライト分率に近付ける操作を行う。
【0085】
なお、フェライト分率の算出には、図4に示すように、オーステナイト粒径算出手段60によって算出されたオーステナイト粒径も必要であるため、当該オーステナイト粒径の算出の際の加熱温度を変化させるとフェライト分率も間接的に変化する(図5(b)の破線および一点鎖線参照)。
【0086】
そこで、製造条件補正手段100は、焼入れ温度の補正によってもフェライト分率を修正しきれない場合、言い換えれば、焼入れ温度を加算補正あるいは減算補正したとしても、目標フェライト分率と計算フェライト分率との差が目標フェライト分率の10%以内とならない場合、オーステナイト粒径に遡って補正を行う。つまり、製造条件補正手段100は、加熱温度入力部43に入力された加熱温度の仮定値を加算補正または減算補正することで、オーステナイト粒径を変化させ、計算フェライト分率を目標フェライト分率に近付ける操作を行う。
【0087】
製造条件補正手段100は、例えば、目標組織決定手段30によって決定された目標マルテンサイト硬さと、マルテンサイト硬さ算出手段80によって算出された計算マルテンサイト硬さと、の差がマルテンサイト硬さの10%を超える場合、計算マルテンサイト硬さを再計算するための補正値を生成する。ここで、マルテンサイト硬さを再計算するための補正値とは、具体的には、製造条件入力手段40に入力される冷延鋼板の製造条件のうち、マルテンサイト硬さの算出に必要な焼戻し温度の補正値である。
【0088】
より具体的には、製造条件補正手段100は、前記した差が目標マルテンサイト硬さの10%を超える場合であって、目標マルテンサイト硬さの値よりも計算マルテンサイト硬さの値の方が大きい場合、計算マルテンサイト硬さを目標マルテンサイト硬さに近づけるために、言い換えれば、計算マルテンサイト硬さを小さくするために、図5(c)に示す相関関係に基づいて、焼戻し温度を加算補正するための補正値を生成する。
【0089】
そして、製造条件補正手段100は、当該補正値を用いて、焼戻し温度入力部45に入力された焼戻し温度の仮定値(例えば図示しない記憶手段に一時的に保持された焼戻し温度の仮定値)を加算補正する。なお、これとは逆に、目標マルテンサイト硬さの値よりも計算マルテンサイト硬さの値の方が小さい場合、製造条件補正手段100は、焼戻し温度入力部45に入力された焼戻し温度の仮定値を減算補正することで、計算マルテンサイト硬さを目標マルテンサイト硬さに近付ける操作を行う。
【0090】
製造条件補正手段100には、図4に示すように、組織比較判定手段90から、目標フェライト分率と計算フェライト分率との差が目標フェライト分率の10%を超えるか否か、あるいは、目標マルテンサイト硬さと計算マルテンサイト硬さとの差が目標マルテンサイト硬さの10%を超えるか否か、の判定結果が入力される。そして、製造条件補正手段100は、前記した手法によって補正値を生成し、当該補正を用いて、加熱温度入力部43、焼入れ温度入力部44および焼戻し温度入力部45に入力された各仮定値を補正する。これにより、オーステナイト粒径算出手段60、フェライト分率算出手段70およびマルテンサイト硬さ算出手段80は、製造条件補正手段100による補正が終了するまで、それぞれの算出処理を繰り返し行うことになる。
【0091】
以上のような構成を備える冷延鋼板の製造条件決定装置1は、目標組織決定手段30によって所望の機械的特性(YP,TS,ELおよびλ)に対応した冷延鋼板の目標組織(目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さ)を決定し、製造条件入力手段40、焼鈍時間算出手段50、オーステナイト粒径算出手段60、フェライト分率算出手段70およびマルテンサイト硬さ算出手段80によって、冷延鋼板の組織(フェライト分率およびマルテンサイト硬さ)の仮定値を算出する。そして、冷延鋼板の製造条件決定装置1は、組織比較判定手段90によって、目標組織と算出された組織との比較を行い、両者の差が所定の閾値を超える場合、すなわち算出された組織が目標組織と大きく乖離している場合は、製造条件補正手段100によって製造条件を補正し、両者の差が所定の閾値以内となるまで、冷延鋼板の組織(フェライト分率およびマルテンサイト硬さ)の仮定値を繰り返し算出する。これにより、冷延鋼板の製造条件決定装置1は、両者の差が所定の閾値以内となった場合の冷延鋼板の製造条件を抽出することで、所望の機械的特性(YP,TS,ELおよびλ)に対応した冷延鋼板の目標組織(目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さ)に近接した組織を有する冷延鋼板の製造条件を決定することができる。
【0092】
このように、冷延鋼板の製造条件決定装置1によれば、テストコイルを通板することなく所望の特性を得るための冷延鋼板の製造条件を計算によって算出することができるため、実験による試行錯誤をすることなく製造条件を決定することができるとともに、コスト削減や製造時間短縮といった面で大幅な効率化を図ることができる。
【0093】
[製造条件決定装置の動作(製造条件決定方法)]
以下、実施形態に係る冷延鋼板の製造条件決定装置1の動作、すなわち冷延鋼板の製造条件決定方法について、図6を参照しながら(適宜図4も参照)詳細に説明する。製造条件決定方法は、目標組織決定工程と、製造条件入力工程と、連続焼鈍時間算出工程と、オーステナイト粒径算出工程と、フェライト分率算出工程と、マルテンサイト硬さ算出工程と、組織比較判定工程と、製造条件補正工程と、を含んでいる。また、目標組織決定工程の前に、特性入力工程を行ってもよい。
【0094】
特性入力工程では、特性入力手段10に対して、冷延鋼板の所望の機械的特性、すなわちYP,TS,ELおよびλの4つのパラメータが入力される(ステップS1)。次に、目標組織決定工程では、目標組織決定手段30によって、前記したYP,TS,ELおよびλを相関関係情報記憶手段20に予め記憶された相関関係情報(図1参照)に照らし合わせることで、目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さからなる冷延鋼板の目標組織を決定する(ステップS2)。これにより、冷延鋼板の機械的特性(4項目)から冷延鋼板の組織(2項目)へと目標を変換することができる。
【0095】
製造条件入力工程では、製造条件入力手段40に対して、冷延鋼板の組成、冷延鋼板の通板速度、加熱時における加熱温度、焼入れ時における焼入れ温度および焼き戻し時における焼戻し温度が入力される(ステップS3)。
【0096】
なお、製造条件入力工程では、冷延鋼板の組成として、C:0.05〜0.3%(質量%、以下同様)、Si:0.01〜3%、Mn:0.5〜3%、Al:0.01〜0.1%、からなる組成が入力されてもよい。または、前記した組成に加えて、Ti,Nb,VおよびZrよりなる群から選ばれる1種または2種以上の合計:0.01〜1%、が入力されてもよい。または、前記した組成に加えて、Niおよび/またはCuの合計:1%以下(0%を含まない)、が入力されてもよい。または、前記した組成に加えて、Cr:2%以下(0%を含まない)および/またはMo:1%以下(0%を含まない)、が入力されてもよい。または、前記した組成に加えて、B:0.0001〜0.005%、が入力されてもよい。または、前記した組成に加えて、Caおよび/またはREMを合計で0.003%以下(0%を含まない)、が入力されてもよい。
【0097】
連続焼鈍時間算出工程では、焼鈍時間算出手段50によって、予め定められた連続焼鈍炉の長さを冷延鋼板(コイル)の通板速度で除算することで、加熱時間、焼入れ時間および焼戻し時間を算出する(ステップS4)。次に、オーステナイト粒径算出工程では、オーステナイト粒径算出手段60によって、前記式(1)を用いて、オーステナイト粒径dγを算出する(ステップS5)。次に、フェライト分率算出工程では、フェライト分率算出手段70によって、前記式(2)〜(12)を用いて、フェライト分率を算出する(ステップS6)。次に、マルテンサイト硬さ算出工程では、マルテンサイト硬さ算出手段80によって、前記式(13)を用いて、マルテンサイト硬さを算出する(ステップS7)。
【0098】
組織比較判定工程では、組織比較判定手段90によって、目標値である目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さと、計算フェライト分率および計算マルテンサイト硬さと、を比較し、その差が予め定めた所定の閾値を超えるか否かを判定する(ステップS8)。なお、所定の閾値は、例えば目標フェライト分率の10%または目標マルテンサイト硬さの10%に定めることができる。
【0099】
組織比較判定工程において、目標値である目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さと、計算フェライト分率および計算マルテンサイト硬さと、の差が予め定めた所定の閾値を超える場合(ステップS8でYes)、製造条件補正工程に進む。そして、製造条件補正工程では、製造条件補正手段100によって、予め収集されたオーステナイト粒径と加熱温度との相関関係、フェライト分率と焼入れ温度との相関関係、および、マルテンサイト硬さと焼戻し温度との相関関係(図5参照)に従って、製造条件入力手段に入力された仮定値を補正し(ステップS9)、ステップS4に戻る。一方、組織比較判定工程において、目標値である目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さと、計算フェライト分率および計算マルテンサイト硬さと、の差が予め定めた所定の閾値以内である場合(ステップS8でNo)、処理を終了する。
【0100】
製造条件決定方法では、以上のような手順を行うことで、仮定値が目標値に近似し、製造条件補正工程による補正が終了するまで、オーステナイト粒径算出工程、フェライト分率算出工程およびマルテンサイト硬さ算出工程におけるそれぞれの算出処理を繰り返し行う。
【0101】
以上のような手順を行なう冷延鋼板の製造条件決定方法は、目標組織決定工程において所望の機械的特性(YP,TS,ELおよびλ)に対応した冷延鋼板の目標組織(目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さ)を決定し、製造条件入力工程、連続焼鈍時間算出工程、オーステナイト粒径算出工程、フェライト分率算出工程およびマルテンサイト硬さ算出工程を経ることで、冷延鋼板の組織(フェライト分率およびマルテンサイト硬さ)の仮定値を算出する。そして、冷延鋼板の製造条件決定方法は、組織比較判定工程において、目標組織と算出された組織との比較を行い、両者の差が所定の閾値を超える場合、すなわち算出された組織が目標組織と大きく乖離している場合は、製造条件補正工程において製造条件を補正し、両者の差が所定の閾値以内となるまで、冷延鋼板の組織(フェライト分率およびマルテンサイト硬さ)の仮定値を繰り返し算出する。これにより、冷延鋼板の製造条件決定方法は、両者の差が所定の閾値以内となった場合の冷延鋼板の製造条件を抽出することで、所望の機械的特性(YP,TS,ELおよびλ)に対応した冷延鋼板の目標組織(目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さ)に近接した組織を有する冷延鋼板の製造条件を決定することができる。
【0102】
このように、冷延鋼板の製造条件決定方法によれば、テストコイルを通板することなく所望の特性を得るための冷延鋼板の製造条件を計算によって算出することができるため、実験による試行錯誤をすることなく製造条件を決定することができるとともに、コスト削減や製造時間短縮といった面で大幅な効率化を図ることができる。
【0103】
[製造条件決定プログラム]
ここで、前記した製造条件決定装置1は、一般的なコンピュータを、前記した各手段および各部として機能させるためのプログラムにより動作させることで実現することができる。このプログラムは、通信回線を介して配布することも可能であるし、CD−ROM等の記録媒体に書き込んで配布することも可能である。
【実施例】
【0104】
以下、本発明の効果を確認する実施例について説明する。本実施例では、予め本発明によって所望の機械的特性に対応した目標組織を得るための製造条件(加熱温度Tss、焼入れ温度Tqおよび焼戻し温度TRHS)を算出し、当該製造条件を用いて実際に連続焼鈍処理を行った冷延鋼板の組織状態を観察し、目標組織と組織観察結果の乖離度を評価した。すなわち、本実施例は、本発明による冷延鋼板の製造条件の算出精度を評価したものである。
【0105】
まず、表1に示す成分を溶解し、熱延、酸洗、冷延工程を経て板厚1.6mmの冷延鋼板を得た後、表2に示す製造条件によって当該冷延鋼板に連続焼鈍処理を施した。ここで、表2に示す製造条件のうち、試験No.1〜7,10,11は、予め本発明によって目標組織を得るための製造条件として算出したものである。また、試験No.8は、試験No.1の加熱温度Tssをわざと10℃上げたものである。また、試験No.9は、試験No.7の加熱温度Tssをわざと15℃下げたものである。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
また、フェライト分率の算出に用いる前記式(1)のパラメータA1〜A3と、マルテンサイト硬さの算出に用いる前記式(13)のパラメータC1〜C5は、以下の値を用いた。
A1=3.01×10
A2=1.5
A3=−2.01×10
C1=234
C2=644
C3=0.013
C4=16.5
C5=5.8
【0109】
そして、本発明によって予め算出した製造条件によって作成した冷延鋼板の組織観察を行い、目標組織との乖離が10%以内であったものを合格、10%を超えたものを不合格とした。なお、冷延鋼板の組織の同定は、フェライト分率については冷延鋼板から組織観察用試験片を採取し、SEMにより観察倍率1000倍における組織写真を各5視野ずつ撮影して画像処理し、5視野のフェライト分率の平均値により算出した。また、マルテンサイト硬さについては、前記した組織観察用試験片を用いてマイクロビッカース硬度測定を各10点ずつ行い、その平均値により算出した。
【0110】
表2に示すように、試験No.1〜7,10,11では、いずれの条件においても本発明で算出した製造条件で製造した冷延鋼板の組織観察結果と目標組織との乖離が10%以内に収まっており全ての条件で判定が合格となった。一方、試験No.8,9は、製造条件が適切ではないため、乖離が10%以上となり判定が不合格となった。これにより、本発明による冷延鋼板の製造条件の算出精度が優れていることが証明された。
【0111】
以上、本発明に係る冷延鋼板の製造条件決定方法、製造条件決定装置および製造条件決定プログラムについて、発明を実施するための形態および実施例により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【0112】
例えば、本発明は、基本的にはフェライトと焼戻しマルテンサイトからなる複合組織を目標組織とした製造条件を決定する方法に関するものであるが、最終組織として、例えばベイナイト、パーライト、セメンタイト等の不可避的または微少量含む組織についても本発明の適用範囲に含まれることは言うまでもない。
【0113】
また、前記した冷延鋼板の製造条件決定装置では、目標組織およびこれと比較する計算組織としてフェライト分率とマルテンサイト硬さを用いたが、フェライト分率の代わりにマルテンサイト分率を用いてもよい。
【0114】
この場合、相関関係情報記憶手段20には、YP,TS,ELおよびλからなる冷延鋼板の機械的特性と、マルテンサイト分率およびマルテンサイト硬さからなる冷延鋼板の組織との相関関係情報が予め記憶される。また、目標組織決定手段30は、入力されたYP,TS,ELおよびλを相関関係情報に照らし合わせることで、目標マルテンサイト分率および目標マルテンサイト硬さからなる、目標とする冷延鋼板の組織を決定する。
【0115】
また、マルテンサイト分率算出手段を新たに設け、当該手段において、1(100%)からフェライト分率算出手段70によって算出されたフェライト分率を減算することで、計算マルテンサイト分率を算出する。また、組織比較判定手段30によって、目標マルテンサイト分率および目標マルテンサイト硬さと、計算マルテンサイト分率および計算マルテンサイト硬さと、の差が所定の閾値を超えるか否かを判定する。そして、当該差が所定の閾値を超える場合、製造条件補正手段100によって、計算マルテンサイト分率および計算マルテンサイト硬さを再計算するための補正値を生成し、繰り返し計算を行う。
【0116】
これにより、フェライト分率を用いる場合と同様に、テストコイルを通板することなく所望の特性を得るための冷延鋼板の製造条件を計算によって算出することができるため、実験による試行錯誤をすることなく製造条件を決定することができるとともに、コスト削減や製造時間短縮といった面で大幅な効率化を図ることができる。
【符号の説明】
【0117】
1 製造条件決定装置
10 特性入力手段
20 相関関係情報記憶手段
30 目標組織決定手段
40 製造条件入力手段
41 組成入力部
42 通板速度入力部
43 加熱温度入力部
44 焼入れ温度入力部
45 焼戻し温度入力部
50 焼鈍時間算出手段
51 加熱時間算出部
52 焼入れ時間算出部
53 焼戻し時間算出部
60 オーステナイト粒径算出手段
70 フェライト分率算出手段
80 マルテンサイト硬さ算出手段
90 組織比較判定手段
100 製造条件補正手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライトと焼戻しマルテンサイトからなる複合組織冷延鋼板の連続焼鈍工程において、加熱、焼入れ温度までの緩冷、急冷による焼入れおよび再加熱による焼戻しを順次経る場合における製造条件を決定するための冷延鋼板の製造条件決定方法であって、
目標組織決定手段によって、予め収集された冷延鋼板の機械的特性と、フェライト分率およびマルテンサイト硬さからなる前記冷延鋼板の組織と、の相関関係を示す情報である相関関係情報に従って、所望の機械的特性を得るために必要な目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さを決定する目標組織決定工程と、
製造条件入力手段に対して、前記連続焼鈍工程における冷延鋼板の組成、前記冷延鋼板の通板速度、前記加熱時における加熱温度、前記焼入れ時における焼入れ温度および前記焼戻し時における焼戻し温度が入力される製造条件入力工程と、
連続焼鈍時間算出手段によって、前記連続焼鈍工程における前記通板速度から、前記加熱時における加熱時間、前記焼入れ時における焼入れ時間および前記焼戻し時における焼戻し時間を算出する連続焼鈍時間算出工程と、
オーステナイト粒径算出手段によって、前記加熱温度と、前記加熱時間と、から冷延鋼板のオーステナイト粒径を算出するオーステナイト粒径算出工程と、
フェライト分率算出手段によって、前記冷延鋼板の組成と、前記焼入れ温度と、前記焼入れ時間と、前記オーステナイト粒径と、から当該冷延鋼板のフェライト分率を算出するフェライト分率算出工程と、
マルテンサイト硬さ算出手段によって、前記冷延鋼板の組成と、前記焼戻し温度と、前記焼戻し時間と、前記フェライト分率と、から前記冷延鋼板のマルテンサイト硬さを算出するマルテンサイト硬さ算出工程と、
組織比較判定手段によって、前記目標フェライト分率および前記目標マルテンサイト硬さと、前記フェライト分率および前記マルテンサイト硬さと、をそれぞれ比較し、前記目標フェライト分率および前記目標マルテンサイト硬さと、前記フェライト分率および前記マルテンサイト硬さと、の差が予め定めた所定の閾値を超えるか否かを判定する組織比較判定工程と、
前記組織比較判定工程において前記目標フェライト分率および前記目標マルテンサイト硬さと、前記フェライト分率および前記マルテンサイト硬さと、の差が所定の閾値を超えると判定された場合、製造条件補正手段によって、予め収集された前記オーステナイト粒径と前記加熱温度との相関関係、前記フェライト分率と前記焼入れ温度との相関関係、および、前記マルテンサイト硬さと前記焼戻し温度との相関関係に従って、前記製造条件入力工程で入力された前記加熱温度、前記焼入れ温度および前記焼戻し温度のいずれか一つ以上を補正する製造条件補正工程と、を含み、
前記オーステナイト粒径算出工程、前記フェライト分率算出工程および前記マルテンサイト硬さ算出工程は、前記製造条件補正工程による補正が終了するまで、それぞれの算出処理を繰り返し行うことを特徴とする冷延鋼板の製造条件決定方法。
【請求項2】
前記製造条件入力工程において、前記冷延鋼板の組成として、C:0.05〜0.3%(質量%、以下同様)、Si:0.01〜3%、Mn:0.5〜3%、Al:0.01〜0.1%、が入力されることを特徴とする請求項1に記載の冷延鋼板の製造条件決定方法。
【請求項3】
前記製造条件入力工程において、前記冷延鋼板の組成として、Ti,Nb,VおよびZrよりなる群から選ばれる1種または2種以上の合計:0.01〜1%、が入力されることを特徴とする請求項2に記載の冷延鋼板の製造条件決定方法。
【請求項4】
前記製造条件入力工程において、前記冷延鋼板の組成として、Niおよび/またはCuの合計:1%以下(0%を含まない)、が入力されることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の冷延鋼板の製造条件決定方法。
【請求項5】
前記製造条件入力工程において、前記冷延鋼板の組成として、Cr:2%以下(0%を含まない)および/またはMo:1%以下(0%を含まない)、が入力されることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の冷延鋼板の製造条件決定方法。
【請求項6】
前記製造条件入力工程において、前記冷延鋼板の組成として、B:0.0001〜0.005%、が入力されることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか一項に記載の冷延鋼板の製造条件決定方法。
【請求項7】
前記製造条件入力工程において、前記冷延鋼板の組成として、Caおよび/またはREMを合計で0.003%以下(0%を含まない)、が入力されることを特徴とする請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の冷延鋼板の製造条件決定方法。
【請求項8】
フェライトと焼戻しマルテンサイトからなる複合組織冷延鋼板の連続焼鈍工程において、加熱、焼入れ温度までの緩冷、急冷による焼入れおよび再加熱による焼戻しを順次経る場合における製造条件を決定するための冷延鋼板の製造条件決定装置であって、
前記冷延鋼板の機械的特性と、フェライト分率およびマルテンサイト硬さからなる前記冷延鋼板の組織と、の相関関係を示す情報である相関関係情報を予め記憶する相関関係情報記憶手段と、
前記相関関係情報に従って、所望の機械的特性を得るために必要な目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さを決定する目標組織決定手段と、
前記連続焼鈍工程における前記冷延鋼板の組成、前記冷延鋼板の通板速度、前記加熱時における加熱温度、前記焼入れ時における焼入れ温度および前記焼戻し時における焼戻し温度が入力される製造条件入力手段と、
前記通板速度から、前記加熱時における加熱時間、前記焼入れ時における焼入れ時間および前記焼戻し時における焼戻し時間を算出する連続焼鈍時間算出手段と、
前記加熱温度と、前記加熱時間と、から前記冷延鋼板のオーステナイト粒径を算出するオーステナイト粒径算出手段と、
前記冷延鋼板の組成と、前記焼入れ温度と、前記焼入れ時間と、前記オーステナイト粒径と、から当該冷延鋼板のフェライト分率を算出するフェライト分率算出手段と、
前記冷延鋼板の組成と、前記焼戻し温度と、前記焼戻し時間と、前記フェライト分率と、から前記冷延鋼板のマルテンサイト硬さを算出するマルテンサイト硬さ算出手段と、
前記目標フェライト分率および前記目標マルテンサイト硬さと、前記フェライト分率および前記マルテンサイト硬さと、をそれぞれ比較し、前記目標フェライト分率および前記目標マルテンサイト硬さと、前記フェライト分率および前記マルテンサイト硬さと、の差が予め定めた所定の閾値を超えるか否かを判定する組織比較判定手段と、
前記組織比較判定手段によって前記目標フェライト分率および前記目標マルテンサイト硬さと、前記フェライト分率および前記マルテンサイト硬さと、の差が所定の閾値を超えると判定された場合、予め収集された前記オーステナイト粒径と前記加熱温度との相関関係、前記フェライト分率と前記焼入れ温度との相関関係、および、前記マルテンサイト硬さと前記焼戻し温度との相関関係、に従って、前記製造条件入力手段に入力された前記加熱温度、前記焼入れ温度および前記焼戻し温度のいずれか一つ以上を補正する製造条件補正手段と、を備え、
前記オーステナイト粒径算出手段、前記フェライト分率算出手段および前記マルテンサイト硬さ算出手段は、前記製造条件補正手段による補正が終了するまで、それぞれの算出処理を繰り返し行うことを特徴とする冷延鋼板の製造条件決定装置。
【請求項9】
フェライトと焼戻しマルテンサイトからなる複合組織冷延鋼板の連続焼鈍工程において、加熱、焼入れ温度までの緩冷、急冷による焼入れおよび再加熱による焼戻しを順次経る場合における製造条件を決定するために、コンピュータを、
予め収集された冷延鋼板の機械的特性と、フェライト分率およびマルテンサイト硬さからなる前記冷延鋼板の組織と、の相関関係を示す情報である相関関係情報に従って、所望の機械的特性を得るために必要な目標フェライト分率および目標マルテンサイト硬さを決定する目標組織決定手段、
前記連続焼鈍工程における前記冷延鋼板の組成、前記冷延鋼板の通板速度、前記加熱時における加熱温度、前記焼入れ時における焼入れ温度および前記焼戻し時における焼戻し温度が入力される製造条件入力手段、
前記通板速度から、前記加熱時における加熱時間、前記焼入れ時における焼入れ時間および前記焼戻し時における焼戻し時間を算出する連続焼鈍時間算出手段、
前記加熱温度と、前記加熱時間と、から前記冷延鋼板のオーステナイト粒径を算出するオーステナイト粒径算出手段、
前記冷延鋼板の組成と、前記焼入れ温度と、前記焼入れ時間と、前記オーステナイト粒径と、から当該冷延鋼板のフェライト分率を算出するフェライト分率算出手段、
前記冷延鋼板の組成と、前記焼戻し温度と、前記焼戻し時間と、前記フェライト分率と、から前記冷延鋼板のマルテンサイト硬さを算出するマルテンサイト硬さ算出手段、
前記目標フェライト分率および前記目標マルテンサイト硬さと、前記フェライト分率および前記マルテンサイト硬さと、をそれぞれ比較し、前記目標フェライト分率および前記目標マルテンサイト硬さと、前記フェライト分率および前記マルテンサイト硬さと、の差が予め定めた所定の閾値を超えるか否かを判定する組織比較判定手段、
前記組織比較判定手段によって前記目標フェライト分率および前記目標マルテンサイト硬さと、前記フェライト分率および前記マルテンサイト硬さと、の差が所定の閾値を超えると判定された場合、予め収集された前記オーステナイト粒径と前記加熱温度との相関関係、前記フェライト分率と前記焼入れ温度との相関関係、および、前記マルテンサイト硬さと前記焼戻し温度との相関関係、に従って、前記製造条件入力手段に入力された前記加熱温度、前記焼入れ温度および前記焼戻し温度のいずれか一つ以上を補正する製造条件補正手段、として機能させるためのプログラムであって、
前記オーステナイト粒径算出手段、前記フェライト分率算出手段および前記マルテンサイト硬さ算出手段は、前記製造条件補正手段による補正が終了するまで、それぞれの算出処理を繰り返し行うことを特徴とする冷延鋼板の製造条件決定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−201956(P2012−201956A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69506(P2011−69506)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】