説明

凸部を有する布帛および繊維製品

【課題】布帛表面に凸部を有する、ぬれ感の小さい布帛であって、優れた染色堅牢性を有する布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品を提供する。
【解決手段】特定の共重合ポリエステル繊維を用いた、布帛表面に高さ0.1mm以上の凸部1を有する布帛。ただし共重合ポリエステル繊維は、スルホイソフタル酸の金属塩を特定量含有し、かつ該共重合ポリエステルのガラス転移点温度と固有粘度が特定の範囲内にある。また前記凸部に撥水剤が付着していることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛表面に凸部を有する、ぬれ感の小さい布帛であって、優れた染色堅牢性を有する布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、布帛表面に凸部を形成することにより、また、かかる凸部に撥水加工を施すことにより肌着などとして使用した際のぬれ感を低減させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、かかる布帛は染色堅牢性の点で充分とはいえなかった。
【0003】
なお、本出願人は先に、常圧カチオン可染性繊維を用いて布帛を得た後、該布帛をカチオン染料で染色することにより、優れた発色性と染色堅牢性とを有し、布帛強度が高く、環境負荷の少ない染色布帛を得ることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−249610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、布帛表面に凸部を有する、ぬれ感の小さい布帛であって、優れた染色堅牢性を有する布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、特定の共重合ポリエステル繊維を用いて、布帛表面に凸部を有する布帛を構成することにより、染色堅牢性に優れる布帛が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「布帛表面に高さ0.1mm以上の凸部を有する布帛であって、下記要件を満足する共重合ポリエステル繊維aを含むことを特徴とする凸部を有する布帛。」が提供される。
(共重合ポリエステル繊維a)
共重合成分として、酸成分中にスルホイソフタル酸の金属塩(A)および下記式(I)で表される化合物(B)を下記数式(1)および(2)を同時に満足するよう含有し、かつ該共重合ポリエステルのガラス転移温度が70〜85℃の範囲内にあり、かつ該共重合ポリエステルの固有粘度が0.55〜1.00dL/gの範囲内にある共重合ポリエステルからなる共重合ポリエステル繊維である。
【0008】
【化1】

[上記式中、Rは水素原子又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニ
ウムイオン又は4級アンモニウムイオンを表す。]
3.0≦A+B≦5.0 (1)
0.2≦B/(A+B)≦0.7 (2)
[上記数式中、Aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とするスルホイソフタ
ル酸の金属塩(A)の共重合量(モル%)、Bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分
を基準とする上記式(I)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す。]
【0009】
その際、前記凸部に撥水剤が付着していることが好ましい。また、布帛が、メッシュ状織編物またはワッフル状編物または二重リップル編物または緯二重織物であることが好ましい。また、布帛の厚さが0.4〜5.0mmの範囲内であることが好ましい。また、カチオン染料を用いて染色していることが好ましい。
【0010】
本発明の布帛において、水平に置いた布帛の上方10mmの高さから水滴を1滴滴下した際、表裏共に300秒以内に鏡面反射を起こすことなく吸水することが好ましい。また、水平面に対し80°の角度をもたせて置いた布帛表面の上方10mmの高さから水滴を1滴滴下した際、水滴の10%以上が布帛に吸収されることなく落下することが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、前記の布帛を用いてなる、スポーツ衣料、インナー衣料、紳士衣料、婦人衣料、裏地衣料、寝装寝具、および生活資材からなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、布帛表面に凸部を有する、ぬれ感の小さい布帛であって、優れた染色堅牢性を有する布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明において、撥水剤が凸部に付着している様子を模式的に示すものである。
【図2】本発明において、水の落下性を評価した装置を示すものである。
【図3】実施例1で採用した編成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明において、共重合ポリエステル繊維aを形成する共重合ポリエステルとは、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体と、エチレングリコール成分とを重縮合反応せしめて得られるエチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とする共重合ポリエステルであり、共重合成分としてスルホイソフタル酸の金属塩(A)及び下記式(I)で表される化合物(B)を下記数式(1)及び(2)を同時に満足する状態で含有する共重合ポリエステルであり、該共重合ポリエステルのガラス転移温度が70〜85℃の範囲にあり、かつ得られる共重合ポリエステルの固有粘度が0.55〜1.00dL/gの範囲にあることを特徴とするポリエステルである。
【0015】
【化2】

[上記式中、Rは水素又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウム
塩又は4級アンモニウム塩を表す。]
3.0≦A+B≦5.0 (1)
0.2≦B/(A+B)≦0.7 (2)
[上記数式中、Aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とするスルホイソフタル酸の金属塩(A)の共重合量(モル%)、Bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とする上記式(I)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す。]
【0016】
ここでテレフタル酸のエステル形成性誘導体とは、テレフタル酸の、ジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステル、ジブチルエステル、ジヘキシルエステル、ジオクチルエステル、ジデシルエステル、若しくはジフェニルエステル又はテレフタル酸ジクロライド、テレフタル酸ジブロマイドを挙げる事ができるが、これらの中でもテレフタル酸ジメチルエステルが好ましい。
【0017】
(ポリエステルについて)
本発明に使用される共重合ポリエステル繊維aにおけるポリエステルとは、エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルであり、主たる繰り返し単位とはポリエステルを構成する全繰り返し単位あたり80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることを指している。他の20モル%以下の範囲内で他の成分が共重合されていても良い。好ましくは90モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることである。その他の共重合成分としては、ジカルボン酸成分としてイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸を挙げる事ができ、グリコール成分として1,2−プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘプタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ビス(トリメチレングリコール)、ビス(テトラメチレングリコール)、トリエチレングリコール、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジメタノールが挙げる事ができ、これらの1種以上のジカルボン酸と1種以上のグリコール成分を反応させて得られる成分を繰り返し単位として共重合されていても良い。
【0018】
(スルホイソフタル酸の金属塩(A)について)
本発明に使用される共重合ポリエステル繊維aで使用されるスルホイソフタル酸の金属塩(A)としては、5−スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩)が例示される。必要に応じてこれら化合物のマグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類塩を併用しても良い。また、これらのエステル形成性誘導体も好ましく例示される。エステル形成性誘導体としてはジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステル、ジブチルエステル、ジヘキシルエステル、ジオクチルエステル、ジデシルエステル、ジフェニルエステル、5−スルホイソフタル酸金属塩のジハロゲン化物を挙げる事ができるが、これらの中でもジメチルエステルが好ましい。これらの化合物群の中では、熱安定性、コストなどの面から、5−スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩が好ましく例示され、特に5−ナトリウムスルホイソフタル酸又はそのジメチルエステルである5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルが特に好ましく例示される。これらの条件を満たす化合物である場合に、繊維とした場合の充分なカチオン可染性と充分な繊維強度の両立が可能となる。
【0019】
(化合物(B)について)
また、上記式(I)で表される化合物(B)としては、5−スルホイソフタル酸又はその低級アルキルエステルの4級ホスホニウム塩又は4級アンモニウム塩である。4級ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩としては、リン原子又は窒素原子にアルキル基、ベンジル基又はフェニル基が結合した4級ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩が好ましく、特に4級ホスホニウム塩であることが好ましい。また、4つある置換基は同一であっても異なっていても良い。上記式(I)で表される化合物の具体例としては、5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸エチルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラメチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラエチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラブチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラフェニルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリメチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリメチルアンモニウム塩、あるいはこれらイソフタル酸誘導体のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロプルエステル、ジブチルエステル、ジへキシルエステル、ジオクチルエステル、ジデシルエステルが好ましく例示される。これらのイソフタル酸誘導体の中でも、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルベンジルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラメチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラエチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラブチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルベンジルトリメチルアンモニウム塩がより好ましく例示される。これらの条件を満たす化合物である場合に、ポリエステル繊維とした場合の充分なカチオン可染性と充分な繊維強度の両立が可能となる。
【0020】
(数式(1)について)
本発明において、ポリエステルに共重合させる上記のスルホイソフタル酸の金属塩(A)と上記の化合物(B)の合計は共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準として、(A)成分と(B)成分の和A+Bが3.0〜5.0モル%の範囲である必要がある。3.0モル%より少ないと、常圧下でのカチオン染色では十分な染着を得ることができない。一方、5.0モル%より多くなると、得られるポリエステル糸の強度が低下するため実用に適さない。さらに染料を過剰に消費するため、コスト面でも不利である。好ましくは3.2〜4.8モル%であり、より好ましくは3.3〜4.7モル%である。
【0021】
(数式(2)について)
また、スルホイソフタル酸の金属塩(A)と化合物(B)の成分比は上記のモル%の値にて、B/(A+B)が0.2〜0.7の範囲にある必要がある。0.2以下、つまり成分Aの割合が多い状態では、スルホイソフタル酸金属塩による増粘効果により、得られる共重合ポリエステルの重合度を上げることが困難になる。一方、0.7以上、つまり化合物(B)の割合が多い状態では、重縮合反応が遅くなり、さらに化合物(B)の比率が多くなると熱分解反応が進むため重合度を上げることが困難となる。さらに、化合物(B)の比率多くなると共重合ポリエステルの熱安定性が悪化し、溶融紡糸段階で再溶融した際の熱分解反応による分子量の低下が大きくなるため、得られるポリエステル糸の強度が低下するため、好ましくない。好ましくは0.23〜0.65であり、より好ましくは0.
25〜0.60である。
【0022】
スルホイソフタル酸の金属塩(A)をポリエステルに共重合することによりカチオン可染性は付与する事ができるが、スルホン酸金属塩基間のイオン結合に由来すると思われる共重合ポリエステルの溶融粘度の増粘効果のため共重合ポリエステルを高重合度化することが困難であった。そのため十分に高い重合度、高い固有粘度を有する共重合ポリエステルが得られず、その高い固有粘度でない共重合ポリエステルから得られるポリエステル繊維は、繊維強度が著しく低下する問題があった。一方その問題を解消するためにスルホイソフタル酸のテトラアルキルアンモニウム塩又はスルホイソフタル酸のテトラアルキルホスホニウム塩、即ち化合物(B)をポリエステルに共重合することが開示されているが、当該化合物は重合反応中に熱分解を起こしやすいため、共重合量を上げようとすると熱分解反応が進みやすい問題があり、繊維強度を高い値にすることが依然として困難であった。本発明の共重合ポリエステルにおいては、これらのスルホイソフタル酸の金属塩(A)と化合物(B)を併用し、双方の化合物の共重合量、共重合比率、共重合ポリエステルのガラス転移温度及び固有粘度を特定の範囲に設定することによって、充分なカチオン染料による染色性と高い繊維強度を両立させ、且つ熱セット性が良好で捲縮を固定しやすいと言った物性をも同時に有する。この熱セット性が良好で捲縮を固定しやすいという物性をも有することは驚くべき事である。
【0023】
(ガラス転移温度について)
前記共重合ポリエステルは、DSC(示差走査熱量測定)法による測定方法(昇温速度=20℃/min)でのガラス転移温度(Tg)が70〜85℃の範囲であることが肝要である。Tgが70℃以下の場合、溶融紡糸による得られたポリエステル繊維の熱セット性が悪化し、仮撚捲縮加工性が悪化し、撚りがかからない状態となるため、該共重合ポリエステルからなるポリエステル繊維から得られる布帛の風合いが悪化するおそれがある。ガラス転移温度を下げる方法としては、アジピン酸、セバシン酸、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどを共重合することで成されるが、本発明においてはこれら共重合成分が、上記のガラス転移温度の条件を満足する範囲であれば微量共重合されていても良い。Tgの好ましい値の範囲は71〜80℃である。
【0024】
通常、ポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度は70〜80℃くらいであることが知られているので、本発明において、共重合ポリエステルは、上述のように他の共重合成分が共重合されていても良いが、共重合した結果ガラス転移温度を著しく降下させる成分については共重合させることは好ましくない。ガラス転移温度を上記の値の範囲にするには、例えば上述の共重合ポリエステルの説明の項で挙げた共重合されても良い化合物の種類・共重合率を適宜調整して共重合させることを挙げる事ができる。
【0025】
(固有粘度について)
前記共重合ポリエステルの固有粘度(溶媒:オルトクロロフェノール、測定温度:35℃)は0.55〜1.00dL/gの範囲であることが肝要である。固有粘度が0.55dL/g以下である場合、得られるポリエステル繊維の強度が不足し、一方、1.00dL/g以上とする場合、溶融粘度が高くなりすぎて溶融成型が困難になるため好ましくなく、また、溶融重合法に引続いて固相重合法により共重合ポリエステルの重縮合工程での生産コストが大幅に増大するため好ましくない。共重合ポリエステルの固有粘度としては、0.60〜0.90dL/gの範囲がさらに好ましい。共重合ポリエステルの固有粘度を0.55〜1.00dL/gの範囲にするためには、溶融重合を行う際の最終の重合温度、重合時間を調整したり、溶融重合法のみでは困難な場合には固相重合を行って適宜調整することができる。本発明においては、スルホイソフタル酸の金属塩(A)及び化合物(B)を上記数式(1)及び(2)を満たすようにポリエチレンテレフタレートに対して共重合を行うことで上述のような手法により固有粘度を0.55〜1.00dL/gにすることが可能となる。
【0026】
(DEG含有量について)
前記共重合ポリエステルに含有されるジエチレングリコールは、2.5重量%以下であることが好ましい。より好ましくは2.2重量%以下、さらにより好ましくは1.85〜2.2重量%である。一般にカチオン可染性ポリエステルを製造する際には、ポリエステルの製造工程において副生するジエチレングリコール(DEG)量を抑制するために、DEG抑制剤として少量のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、水酸化テトラアルキルホスホニウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム、トリアルキルアミンなどの少なくとも1種類を、使用するカチオン可染性モノマー(本発明の場合はスルホイソフタル酸の金属塩(A)及び化合物(B)の全モル量)に対して、1〜20モル%程度を添加することが好ましい。
【0027】
(共重合ポリエステルの製造方法について)
前記共重合ポリエステルの製造は特に限定されず、スルホイソフタル酸の金属塩(A)(以下化合物Aと略称することがある。)及び化合物(B)を請求項1に記載の条件を満たすように留意する他は、通常知られているポリエステルの製造方法が用いられる。すなわち、テレフタル酸とエチレングリコールの直接エステル化反応させる、あるいはテレフタル酸ジメチルに代表されるテレフタル酸のエステル形成性誘導体とエチレングリコールとをエステル交換反応させて低重合体を製造する。次いでこの反応生成物を重縮合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることにより製造される。スルホイソフタル酸を含有する芳香族ジカルボン酸及び/又はそのエステル誘導体(スルホイソフタル酸の金属塩(A)及び化合物(B))を共重合する方法についても通常知られている製造方法を用いる事ができる。これらの化合物の反応工程への添加時期は、エステル交換反応又はエステル化反応の開始当初から重縮合反応の開始までの任意の時期に添加することができる。
【0028】
またエステル交換反応時の触媒についても通常のエステル交換反応を行う際に用いられる触媒化合物を用いる事ができる。重縮合触媒についても通常用いられるアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物を用いる事ができる。またチタン化合物と芳香族多価カルボン酸又はその無水物との反応生成物、チタン化合物とリン化合物の反応生成物を用いても良い。
【0029】
(その他添加剤について)
また、前記共重合ポリエステルは、必要に応じて少量の添加剤、例えば酸化防止剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤又は艶消し剤などを含んでいても良い。特に酸化防止剤、艶消し剤などは特に好ましく添加される。
【0030】
(溶融紡糸について)
前記共重合ポリエステルの製糸方法は、特に制限は無く、従来公知の方法が採用される。すなわち、乾燥した共重合ポリエステルを270〜300℃の範囲で溶融紡糸して製造することが好ましく、溶融紡糸の引取り速度は400〜5000m/分で紡糸することが好ましい。紡糸速度がこの範囲にあると、得られるポリエステル繊維の強度も十分なものであると共に、安定して巻取りを行うこともできる。さらに、上述の方法で得られた未延伸糸もしくは部分延伸糸を、延伸工程にて1.2倍〜6.0倍程度の範囲で延伸し、熱セットすることが好ましい。この延伸は未延伸ポリエステル繊維を一旦巻き取ってから行ってもよく、一旦巻き取ることなく連続的に行ってもよい。また、紡糸時に使用する口金の形状についても特に制限はなく、円形、扁平、くびれ付扁平、三角形・四角形等の多角形、3以上の多葉形、C型断面、H型断面、X型断面、中空断面のいずれであってもよい。
【0031】
かくして得られた共重合ポリエステル繊維aにおいて、繊維強度(引張強度)が3.0cN/dtex以上(より好ましくは3.0〜5.0cN/dtex)であることが好ましい。なお、このような繊維強度を有する共重合ポリエステル繊維は、前記のように共重合ポリエステルを紡糸、延伸することにより得られる。
【0032】
前記共重合ポリエステル繊維aの繊維形態は特に限定されないが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0033】
(布帛の製造について)
前記の共重合ポリエステル繊維aを用いて布帛を製造する。その際、かかる布帛は前記の共重合ポリエステル繊維aのみで構成されていてもよいが、他の繊維が含まれていてもよい。その際、他の繊維は布帛重量に対して40重量%以下であることが好ましい。かかる他の繊維としては、ポリエステルフィラメントが好ましい。
【0034】
かかる布帛としては布帛表面に高さHが0.1mm以上(好ましくは0.1〜5.0mm)の凸部を有する布帛であれば、特に限定されないが、以下のような布帛が好ましい。布帛表面に高さ0.1mm以上の凸部を有さない場合は、布帛と肌との接触面積が大きくなりぬれ感を低減することができず好ましくない。なお、凸部の高さHは、図1に示す位置を測定するものとし、また、布帛がメッシュ状織編物の場合は、布帛の厚さを凸部の高さHとする。かかる凸部の高さHは、例えば、超高精密レーザー変位計(キーエンス社製、モデルLC−2400)を用いて測定することが可能である。
【0035】
まず第1の態様は、布帛がメッシュ状織編物である。その際、一方の面にのみ撥水剤が付着しており、他方の面には撥水剤が付着していないことが好ましい。ここで、メッシュ状織編物としては、厚み方向に貫通した空隙の空隙率が織編物表面の面積対比2〜95%(より好ましくは20〜60%)の通常のメッシュ状織編物でよい。その際、撥水剤の織編物の厚さ方向への浸透度合は、撥水剤が付与された面から厚さの1/2以下(より好ましくは1/5以下)であることが好ましい。
【0036】
次に第2の態様は、布帛がワッフル状編物であることが好ましい。その際、一方の面の凸部にのみ撥水剤が付着している編物である。ワッフル状編物とは、例えば図3の編成図に従って編成された編物であり、1方の面のみ、または両方の面に凹凸構造を有する編地である。ここで、撥水剤は、図1に模式的に示すように、一方の面の凸部にのみ付着していることが好ましい。撥水剤が凹部に付着していると、発汗した汗が該凹部から吸収されずぬれ感が残るおそれがある。なお、撥水剤の凸部の厚さ方向への浸透度合は、凸部の先端から凸部高さの1/1以下(より好ましくは1/2以下)であることが好ましい。また、両方の面に凹凸構造を有している場合、両方の面の凸部に撥水剤が付着していると、一方の面の凹部を通った汗が他方の面で吸収されにくくなるおそれがある。
【0037】
次に第3の態様は、織編物が二重リップル編物である。その際、一方の面の凸部にのみ撥水剤が付着していることが好ましい。二重リップル編物とは、例えば、特許第3420083号公報の図2に示される編成図に従って編成された編物であり、1方の面のみ、または両方の面に凹凸構造を有する編地である。ここで、撥水剤は、図1に模式的に示すように、一方の面の凸部にのみ付着していることが好ましい。撥水剤が凹部に付着していると、発汗した汗が該凹部から吸収されずぬれ感が残るおそれがある。なお、撥水剤の凸部の厚さ方向への浸透度合は、凸部の先端から凸部高さの1/1以下(より好ましくは1/2以下)であることが好ましい。また、両方の面に凹凸構造を有している場合、両方の面の凸部に撥水剤が付着していると、一方の面の凹部を通った汗が他方の面で吸収されにくくなるおそれがある。
【0038】
次に第4の態様は、織編物が緯二重織物である。その際、一方の面の凸部にのみ撥水剤が付着していることが好ましい。緯二重織物とは、例えば、特許第3420083号公報の図1に示される織成図に従って織成された織物であり、1方の面のみ、または両方の面に凹凸構造を有する織物である。ここで、撥水剤は、図1に模式的に示すように、一方の面の凸部にのみ付着していることが好ましい。撥水剤が凹部に付着していると、発汗した汗が該凹部から吸収されずぬれ感が残るおそれがある。なお、撥水剤の凸部の厚さ方向への浸透度合は、凸部の先端から凸部高さの1/1以下(より好ましくは1/2以下)であることが好ましい。また、両方の面に凹凸構造を有している場合、両方の面の凸部に撥水剤が付着していると、一方の面の凹部を通った汗が他方の面で吸収されにくくなるおそれがある。
【0039】
本発明の布帛において、布帛の厚さTとしては0.5〜10mmの範囲が好ましい。また、ワッフル状編物、二重リップル編物、緯二重織物の場合、凸部の高さHとしては0.3〜9mmの範囲が好ましい。なお、織物については、その厚さをJIS L 1096−1998、6.5の厚さ測定法により、編物については、その厚さをJIS L 1018−1998、6.5の厚さ測定法により測定するものとする。
【0040】
また、織物の密度としては、吸水性の点で高密度のほうが好ましく、経緯とも100〜200本/2.54cmの範囲内であることが好ましい。織物の密度が該範囲よりも小さいと十分な吸水性が得られないおそれがある。逆に、織物の密度が該範囲より大きいと製編織性が困難となるおそれがある。
【0041】
また、編物の密度としては、吸水性の点で中〜高密度のほうが好ましく、経緯とも30〜150本/2.54cmの範囲内であることが好ましい。編物の密度が該範囲よりも小さいと、凸部の面積が少なすぎ撥水剤の付着量が減少するため、ぬれ感の低減が得られないおそれがある。逆に、編物の密度が該範囲より大きいと製編性が困難となるおそれがある。
【0042】
(染色加工について)
染色加工はカチオン染料を用いて行うことが好ましい。カチオン染料を用いて染色を行うと、カチオン染料がイオン結合により繊維にしっかりと吸着されるため、優れた染色堅牢性が得られる。分散染料を用いた染色では、十分な染色堅牢性が得られないおそれがある。かかるカチオン染料は市販されている通常のカチオン染料でよい。また、染色加工の条件としては、高圧で染色してもよいが、前記共重合ポリエステル繊維aは常圧(100℃以下)で染色可能であるので、常圧(100℃以下)で染色することが地球環境にやさしく、また染色コストを低減することができ好ましい。なお、染色の際に、染色助剤等を用いることは何らさしつかえない。また、染色機も液流染色機、ビーム染色機、ジッガーなど通常の染色機でよく特に限定はない。
【0043】
(撥水加工について)
次いで、該布帛に撥水加工を施すことが好ましい。かかる撥水加工としては、布帛の表裏どちらか一方表面に撥水剤が付着していることが好ましく、特に、布帛の片面にのみ付着していることが好ましい。撥水剤が布帛の片面にのみ付着していると、撥水剤が付着している面の非付着部で吸収した水分が他方の面にスムーズに移行するため、撥水剤が付着している面のぬれ感が低下し、かつ速乾効果も得られる。
その際、凹凸構造の凸部にのみ撥水剤を付着させ、凹部には撥水剤を付着させないことが好ましい。
【0044】
撥水剤としては、特に限定されず、フッ素系、シリコン系、ワックス系などの撥水剤が例示される。また、撥水剤をバインダー樹脂とともに織編物に付着させることが、撥水性の耐久性を高める上で好ましい。かかる撥水剤としては、繊維との接触角が90度以下(好ましくは70度以下、さらに好ましくは50度以下)のものが好適である。該接触角が小さい程ぬれ性がよいため、バインダー樹脂が単糸繊維表面に均一に皮膜する。その結果、撥水性の耐久性が向上するだけでなく布帛のソフトな風合いが損なわれることがない。繊維との接触角が90度以下のバインダー樹脂としては、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル系樹脂などが例示される。
【0045】
また、撥水剤とバインダー樹脂の布帛に対する付着量としては、各々樹脂固形分重量基準で、撥水剤0.01〜40g/m(より好ましくは1〜10g/m)、バインダー樹脂0.01〜40g/m(より好ましくは1〜10g/m)の範囲が適当である。
【0046】
前記の撥水剤とバインダー樹脂とは、通常両者の配合組成物として布帛に付与される。その際、かかる配合組成物は水系、溶剤系のいずれで構成してもよいが、加工工程の作業環境上水系の方が好ましい。なお、溶剤としては、トルエン、イソプロピルアルコール、ジメチルホルムアミド、メチエチルケトン、酢酸エチルなどが例示される。この配合組成物には、エポキシ系などの架橋剤を併用してもよい。さらに、布帛に対する付着性を向上させる等の目的で適当な添加剤をさらに配合してもよい。
【0047】
前記の撥水剤、または撥水剤とバインダー樹脂とを布帛に付着させる方法としては、例えばグラビアロール法、キスロール法、泡加工法、ロータリスクリーン捺染法、フラットスクリーン法、ローラー捺染法等が例示される。その際、格子状や線状など所定のパターンで塗布してもさしつかえない。また、撥水剤の塗布に際しては、撥水剤が凹部に付着しないよう、また布帛の反対面までは浸透しないように、撥水剤を含む配合組成物の粘度、スキージ等による布帛への付与圧力、捺染速度を適宜調整する必要がある。前述のように撥水剤の布帛の厚さ方向への浸透度合は、メッシュ状織編物の場合は、撥水剤が付与された面から厚さの1/2以下(より好ましくは1/5以下)、また、二重リップル編物や緯二重織物の場合は、凸部の先端から凸部高さの1/1以下(より好ましくは1/2以下)であることが好ましい。
【0048】
また、染色工程や撥水加工の前および/または後の工程において、なお、常法の精練、リラックス、プレセット、ファイナルセットなどの各種加工を施してもよい。さらには、起毛加工、撥水加工、カレンダー加工、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0049】
かくして得られた布帛において、布帛表面に凸部を有するので、凸部を有する表面が肌側に位置するように使用するとぬれ感が低減する。特に、前記のように凸部にのみ撥水剤が付着していると、凹部で汗等を吸収するのでぬれ感が特に低減する。さらにべとつき感も低減することが出来る。撥水剤が局所的にしか付着していないので織編物のソフトな風合いが損なわれることもない。
【0050】
その際、吸水性の目安として、水平に置いた布帛表面の上方10mmの高さから水滴を1滴滴下した際、300秒以内に鏡面反射を起こすことなく吸水することが好ましい。また、凸部に接触した汗が容易に落下する目安として、水平面に対し80°の角度をもたせて置いた布帛の上方10mmの高さから水滴を1滴滴下した際、10%以上が布帛に吸収されることなく落下することが好ましい。好ましくは50%〜100%が吸収されることなく落下することが好ましい。
【0051】
また、本発明の布帛において、前記共重合ポリエステル繊維aがカチオン染料により着色することにより、優れた染色堅牢性を有する。その際、下記により測定した染料移行汚染堅牢性が3級以上であることが好ましい。
【0052】
試験片(5cm×5cm)と、該試験片と同一の白布に検討布帛と添付片(5cm×5cm)とが接触するようにアルミ板2枚の間に挟み込んだ後、そのアルミ板の上に44.1N(4.5kgf)の荷重をかけ、恒温加熱処理機で120℃×80分の熱処理を行い、試験片から添付白布への染料移行状態を汚染用グレースケールで1〜5級に等級判定を行う。
また、かかる布帛は布帛強度が高い。さらには、常圧で染色できるので、環境負荷が少ない。
【0053】
次に、本発明の繊維製品は、前記の布帛を用いてなる、スポーツ衣料、インナー衣料、紳士衣料、婦人衣料、裏地衣料、寝装寝具、および生活資材からなる群より選択されるいずれかの繊維製品である。かかる繊維製品は前記の布帛を用いているので、ぬれ感が低減されるだけでなく、優れた染色堅牢度を有し、布帛強度が高く、さらには、環境負荷が少ない。
【実施例】
【0054】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0055】
(1)固有粘度:
ポリエステル試料を100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。なお、チップの固有粘度をηC、紡糸後の未延伸糸の固有粘度をηFと称する。
【0056】
(2)ジエチレングリコール(DEG)含有量:
ヒドラジンヒドラート(抱水ヒドラジン)を用いてポリエステル試料チップを分解し、この分解生成物中のジエチレングリコールの含有量をガスクロマトグラフィー(ヒューレットパッカード社製(HP6850型))を用いて測定した。
【0057】
(3)ポリマーのガラス転移温度(Tg):
示差走査熱量計(セイコーインスツルメント社製DSC:Q10型)を用いて、昇温速度=20℃/minで測定した。
【0058】
(4)ポリエステル繊維の引張強度(破断強度)、引張伸度(破断伸度)
JIS L1013:1999 8.5に記載の方法に準拠して測定を行った。引張強度(破断強度)を繊維強度とする。
【0059】
(5)全捲縮数(TC):
仮撚捲縮加工糸に0.044cN/dtexの張力をかけてカセ枠に巻取り、約3300dtexのカセを作る。得られたカセの一端に0.00177cN/dtex+0.177cN/dtexの荷重を負荷し、1分間経過後の長さ(L0)を測定する。次いで0.177cN/dtexの荷重を除去した状態で100℃の沸水中にて20分間処理する。沸水処理後、0.177cN/dtexの荷重を除去し、0.00177cN/dtexの荷重のみを負荷し24時間自由な状態で自然乾燥する。自然乾燥した試料に再び0.00177cN/dtex+0.177cN/dtexの荷重を負荷し、1分間経過後の長さ(L1)を測定する。次いで、0.177cN/dtexの荷重を除去し、1分間経過後の長さ(L2)を測定し、次式で全捲縮率TC(%)を算出する。この測定を10回実施し、その平均値で表した。
全捲縮率TC(%)=((L1−L2)/L0)×100
【0060】
(6)カチオン可染性:
CATHILON BLUE CD−FRLH)0.2g/L、CD−FBLH0.2
g/L(いずれも保土ヶ谷化学株式会社製のカチオン可染性染料)、硫酸ナトリウム3g
/L、酢酸0.3g/Lの染色液中にて100℃(常圧)で1時間、浴比1:50で染色を行い、次式により染着率を求めた。
染着率(%)=(OD−OD)/OD×100
OD:染色前の染液の576nmの吸光度
OD:染色後の染液の576nmの吸光度
染着率98%以上のものを可染性良好と判断した。
【0061】
(7)水の吸水性
JIS L1907(滴下法)に従って、水平な試料面の上方10mmの高さから水滴を1滴滴下し、鏡面反射を起こすことなく吸水するまでの時間を測定した。
【0062】
(8)水の落下性
図2に模式的に示すように、水平面に対し80°の角度をもたせて置いた試料の上方10mmの高さから水滴を1滴滴下し、吸収されることなく落下した水滴の割合(%)を測定した。
【0063】
(9)布帛の風合い
30cm四角の織編物を男女各5名ずつ計10名のパネラーが目隠しした状態で官能評価を行った。風合いが未加工品対比、変化無し(最良)、ややソフト、ややかたい、かたいの4段階で評価した。
【0064】
(10)厚みT
織物については、その厚さをJIS L 1096−1998、6.5の厚さ測定法により、編物については、その厚さをJIS L 1018−1998、6.5の厚さ測定法により測定した。
【0065】
(11)凸部の高さH
超高精密レーザー変位計(キーエンス社製、モデルLC−2400)を用いて凸部の高さHを測定した。
【0066】
(12)接触角
接触角測定装置(エルマ販売(株)製)により、バインダー樹脂と通常のポリエチレンテレフタレート繊維との接触角を測定した。
【0067】
(13)ぬれ感
実施例および比較例の布帛を用いて、撥水剤が付着した面が肌側となるよう半そでTシャツを縫製し、温度28℃、湿度50%RHに調節された室内にて、被験者3人がランニング15分(10km/h)を行った際の着用快適性をぬれ感大、ぬれ感中、ぬれ感小(着用快適性に優れる)の3段階に評価した。
【0068】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100重量部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル4.1重量部とエチレングリコール60重量部の混合物に、酢酸マンガン0.03重量部、酢酸ナトリウム三水和物0.12重量部を添加し、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながらエステル交換反応を行った。その後、正リン酸0.03重量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
その後、反応生成物に三酸化アンチモン0.05重量部と5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホネート2.8重量部と水酸化テトラエチルアンモニウム0.3重量部とトリエチルアミン0.003重量部を添加して重縮合槽に移し、285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空にて重縮合反応を行い、重縮合槽の攪拌機電力の値が所定電力に到達した段階若しくは所定時間を経過した段階で反応を終了させ、常法に従いチップ化した。
【0069】
このようにして得られたポリエステルチップを140℃、5時間乾燥後、紡糸温度285℃、巻取り速度400m/minで原糸を作り、次いで延伸同時仮撚加工により4.0倍に延伸して総繊度84dtex/24filの仮撚捲縮加工糸を得て、さらに常法に従い弛緩熱処理を実施し、共重合ポリエステル繊維aとした。次いで、CATHILON BLUE CD−FRLH)0.2g/L、CD−FBLH0.2g/L(いずれも保土ヶ谷化学株式会社製のカチオン可染性染料)、硫酸ナトリウム3g/L、酢酸0.3g/Lの染色液中にて100℃(常圧)で1時間、浴比1:50で染色を行った。共重合ポリエステルの製造条件と評価結果の詳細を表1に示した。
【0070】
【表1】

【0071】
また、前記と同様にして総繊度56dtex/36filの仮撚捲縮加工糸を得た。
次いで、24Gの丸編機を使用して、A:前記の総繊度84dtex/24filの仮撚捲縮加工糸と、B:前記の総繊度56dtex/36filの仮撚捲縮加工糸とを用い、図3に示されたワッフル状編物(生機の密度30コース/2.54cm、30ウエール/2.54cm)を編成した後、120℃30分間、カチオン染料を用いた染色加工を施し、親水剤(高松油脂(株)製SR−1000)を5%owf用いて120℃30分間親水化処理を行い、乾燥、セットを行った。
次いで、該編物の片面に、下記の処方からなる処理液を約20g/mの塗布量となるよう、凸部にのみグラビア転写方式にて塗布し、その後、135℃で乾燥した後、160℃で45秒の乾熱処理を行い、編物を得た。
【0072】
[処理液の組成]
・水 91.6重量%
・ フッ素系撥水剤 8重量%
(旭硝子(株)製「アサヒガードAG710」)
・ メラミン系バインダー樹脂 0.3重量%
(住友化学(株)製「スミテックス レジンM−3」 接触角67.5度)
・ 触媒 0.1重量%
(スミテックス アクセレーター ACX)
【0073】
得られた編物において、編物密度(32コース/2.54cm、33ウエール/2.54cm)、厚み0.8mm、凸部の高さ0.3mm、吸水性1秒未満、落下性90%、風合い変化無しであった。また、染料がイオン結合されている為、染料がバインダー相にブリードされにくく、染料移行堅牢度が5級と良好であった。
次いで、該織物を用いて、撥水剤が付着している表面が肌側になるようスポーツ衣料を縫製して着用したところ、染色堅牢性に優れ、また、ぬれ感の点も良好であった。
【0074】
[実施例2]
実施例1と同様にして、総繊度84dtex/36filの仮撚捲縮加工糸を得た。次いで、28G2barのトリコット編機を使用して、前記の総繊度84dtex/36filの仮撚捲縮加工糸のみを用いて、空隙率30%のメッシュ状編物(バック組織:10/23/45/67/54/32 糸通し6in2out、フロント組織:67/54/32/10/23/45 糸通し2in2out4in)を編成したのち、120℃30分間、カチオン染料を用いた染色加工を施し、親水剤(高松油脂(株)製SR−1000)を5%owf用いて120℃30分間親水化処理を行い、乾燥、セットを行った。
次いで、該編物の片面に、下記の処方からなる処理液を約25g/mの塗布量となるよう、グラビア転写方式にて塗布し、その後、135℃で乾燥した後、160℃で45秒の乾熱処理を行い、編物を得た。
【0075】
[処理液の組成]
・水 91.6重量%
・ フッ素系撥水剤 8重量%
(旭硝子(株)製「アサヒガードAG710」)
・ メラミン系バインダー樹脂 0.3重量%
(住友化学(株)製「スミテックス レジンM−3」 接触角67.5度)
・ 触媒 0.1重量%
(スミテックス アクセレーター ACX)
【0076】
得られた編物において、厚み0.6mm、吸水性0秒、落下性80%、風合い変化無しであった。また、染料がイオン結合されている為、染料がバインダー相にブリードされにくく、染料移行堅牢度が5級と良好であった。
次いで、該織物を用いて、撥水剤が付着している表面が肌側になるようスポーツ衣料を縫製して着用したところ、染色堅牢性に優れ、また、ぬれ感の点も良好であった。
【0077】
[比較例1]
24Gの丸編機を使用して、A:総繊度84dtex/24filの、ポリエチレンテレフタレートからなる仮撚捲縮加工糸と、B:総繊度56dtex/36filの、ポリエチレンテレフタレートからなる仮撚捲縮加工糸とを用い、図3に示されたワッフル状編物(生機の密度30コース/2.54cm、30ウエール/2.54cm)を編成した後、130℃30分間、分散染料を用いた染色加工を施し、親水剤(高松油脂(株)製SR−1000)を5%owf用いて130℃30分間親水化処理を行い、乾燥、セットを行った。次いで、グラビア転写方式の条件を適宜変更して、凸部だけでなく凹部にも撥水剤を付着させること以外は実施例1と同様にした。
【0078】
得られた編物において、吸水性300秒以上、落下性100%、風合いややかたいであった。また、染料移行堅牢度は2−3級となった。
次いで、該編物を用いて、撥水剤が付着した面が肌側となるよう半そでTシャツを縫製しぬれ感を測定したところ、ぬれ感小であったが、汗を吸わなかったため、非常に不快感をおぼえた。
【0079】
[比較例2]
28G2barのトリコット編機を使用して、総繊度84dtex/36filの、、ポリエチレンテレフタレートからなる仮撚捲縮加工糸のみを用いて、空隙率30%のメッシュ状編物(バック組織:10/23/45/67/54/32 糸通し6in2out、フロント組織:67/54/32/10/23/45 糸通し2in2out4in)を編成したのち、130℃30分間、分散染料を用いた染色加工を施し、親水剤(高松油脂(株)製SR−1000)を5%owf用いて130℃30分間親水化処理を行い、乾燥、セットを行った。次いで、グラビア転写方式の条件を適宜変更して両面に撥水剤を付着させること以外は実施例2と同様にした。
【0080】
得られた編物において、吸水性300秒以上、落下性100%、風合いかたいであった。また、染料移行堅牢度は2−3級となった。
次いで、該編物を用いて、撥水剤が付着した面が肌側となるよう半そでTシャツを縫製しぬれ感を測定したところ、ぬれ感小であったが、汗を吸わなかったため、非常に不快感をおぼえた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、布帛表面に凸部を有する、ぬれ感の小さい布帛であって、優れた染色堅牢性を有する布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【符号の説明】
【0082】
1 凸部
2 凹部
3 凸部に付着した撥水剤
4 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛表面に高さ0.1mm以上の凸部を有する布帛であって、下記要件を満足する共重合ポリエステル繊維aを含むことを特徴とする凸部を有する布帛。
(共重合ポリエステル繊維a)
共重合成分として、酸成分中にスルホイソフタル酸の金属塩(A)および下記式(I)で表される化合物(B)を下記数式(1)および(2)を同時に満足するよう含有し、かつ該共重合ポリエステルのガラス転移温度が70〜85℃の範囲内にあり、かつ該共重合ポリエステルの固有粘度が0.55〜1.00dL/gの範囲内にある共重合ポリエステルからなる共重合ポリエステル繊維である。
【化1】

[上記式中、Rは水素原子又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニ
ウムイオン又は4級アンモニウムイオンを表す。]
3.0≦A+B≦5.0 (1)
0.2≦B/(A+B)≦0.7 (2)
[上記数式中、Aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とするスルホイソフタ
ル酸の金属塩(A)の共重合量(モル%)、Bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分
を基準とする上記式(I)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す。]
【請求項2】
前記凸部に撥水剤が付着している、請求項1に記載の凸部を有する布帛。
【請求項3】
布帛が、メッシュ状織編物またはワッフル状編物または二重リップル編物または緯二重織物である、請求項1または請求項2に記載の凸部を有する布帛。
【請求項4】
布帛の厚さが0.4〜5.0mmの範囲内である、請求項1〜3のいずれかに記載の凸部を有する布帛。
【請求項5】
カチオン染料を用いて染色してなる、請求項1〜4のいずれかに記載の凸部を有する布帛。
【請求項6】
水平に置いた布帛の上方10mmの高さから水滴を1滴滴下した際、表裏共に300秒以内に鏡面反射を起こすことなく吸水する、請求項1〜5のいずれかに記載の凸部を有する布帛。
【請求項7】
水平面に対し80°の角度をもたせて置いた布帛表面の上方10mmの高さから水滴を1滴滴下した際、水滴の10%以上が布帛に吸収されることなく落下する、請求項1〜6のいずれかに記載の凸部を有する布帛。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の布帛を用いてなる、スポーツ衣料、インナー衣料、紳士衣料、婦人衣料、裏地衣料、寝装寝具、および生活資材からなる群より選択されるいずれかの繊維製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−275666(P2010−275666A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130475(P2009−130475)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】