説明

凹凸表面をもつ微細な合金粒子粉末およびその製造法

【課題】触媒金属に適した表面凹凸の大きな白金族合金の微粒子粒子粉末を得る。
【解決手段】式〔TX1-X〕、ただし式中、TはFe、CoまたはNiの1種または2種以上、MはPt、PdまたはRuの1種または2種以上、Xは0.1〜0.9の範囲の
数値を表す、の組成比でTとMを含有する合金の粉体であって、TEM観察により測定される平均粒径(DTEM) が50nm以下、X線結晶粒径(Dx)が10nm以下、TEM
観察により粒子の表面に複数の角が観測され且つ角と角の間に窪みが観測される、凹凸表面をもつ微細な合金粒子粉末である。この合金粒子粉末は、結晶構造が面心立方晶(fc
c構造)であり、単結晶化度(DTEM) /(Dx)が1.50以上である。また動的光散
乱法による平均粒径が50nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒用材料として特に有用な合金粒子粉末およびその製造法に関する。本発明に係る合金粒子粉末は、燃料電池用電極触媒や自動車の排ガス浄化用触媒等の触媒材料
として、或いは生体分子標識剤やドラッグデリバリーシステム(以下、DDS)などの医
療用材料として好適である。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用電極触媒や自動車排ガス浄化用触媒は、実際には多くの素材からなる触媒機器として実用に供されるが、これらの機器を構成する部材のうち、PtやPdを代表とす
る金属触媒の特性がその触媒能力を支配する。しかし、往々にしてその触媒能力の低下が
起きる。
【0003】
例えば燃料電池用電極触媒では、アノード側で水素の酸化、カソード側で酸素の還元によって発電するが、多くの場合、電極触媒としてPtが用いられているところ、このPt
が強いCO吸着による被毒を受ける。その主たる原因は、アノード側に用いられる水素ガスとして、高価な純水素ガスに代えて、炭化水素系燃料を改質した水素富化ガスを使用す
る関係上、1%程度のCOが含まれていることによる。自動車排ガス浄化用触媒でも同様
にCO吸着によるPt触媒の被毒が起きており、触媒能力の低下が起きる。
【0004】
このCO吸着による触媒被毒の対策として、Pt触媒の合金化が検討されている。合金化によってCO酸化の低電位化を図ろうとするものである。この場合、CO吸着による被
毒を受けにくく且つ白金族よりも安価なFeやNiなどとの合金化を図ると共に、微粒子化して触媒活性を高めることが有益であるとされている。代表的なものとして、Pt−F
e系やPt−Ni系等のナノ粒子粉末が候補に挙げられる。
【0005】
しかし、このような標準電極電位が大きく異なる合金の微粒子粉末を製造することは必ずしも容易ではない。PtおよびPdの標準電極電位は1.50Vおよび0.99Vで、
FeおよびNiの標準電極電位は−0.44Vおよび−0.25Vである。このように標準電極電位が大きく異なる金属イオン例えばPtイオンとFeイオンを還元剤によって湿
式で還元してFePt合金を析出させようとしても、還元され易いPtイオンが先に還元され、その結果、Pt粒子とFe粒子が個別に析出するか、或いは先に析出したPtの周
りにFeが析出するコアーシエル構造をとるので、原子レベルで均一な合金粒子の生成は
困難である。
【0006】
最近、磁性材料分野において、FePtナノ粒子が注目され、特許文献1および非特許文献1に記載の製法が提案された。これらは、鉄ペンタカルボニルの熱分解反応と, 白金
(II)アセチルアセトナートの多価アルコールによる還元作用とを同時に行わせることにより、FePt合金粒子を生成させるものである。これらの方法で得られるFePt粒子
はfcc(面心立方晶)構造であり、粒径が2〜5nm程度で、粒子の形状はほぼ真球状
である。
【0007】
別法として、非特許文献2の方法もある。これは、ポリオール法によるFePt粒子合成の際に、ポリオールとしてテトラエチレングリコール(TEG)を使用し、白金及び鉄
アセチルアセトネートを300℃で還元すると、合成されたままでfct(面心正方晶)構造を有するFePtナノ粒子が得られるというものである。得られるFePt粒子は球
状であり、凝集している。
【特許文献1】特許第3258295号公報(特開2000-54012号公報)
【非特許文献1】SCIENCE VOL.287, 17 MARCH, 2000, p.1989-1992
【非特許文献2】Japanese Journal of Applied Physics, Vol.42, No.4A, 1 April, 2003, P.L350-352
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1や非特許文献1の方法で得られるFePt粒子は、その形状は、ほぼ真球状である。非特許文献2の方法で得られるFePt粒子も、その1次粒子の形状は球状であ
り、凝集している。このように粒子が球状であることは、触媒用途には必ずしも適しない。球状は、その体積のものが最小の表面積をもつ状態であり、体積当たりの比表面積が小
さくなって触媒反応の面積が小さくなるし、球体の場合には担体(例えばカーボンブラック)への担持にさいしても、触媒粒子と担体との間の担持力が弱くなる。担持力が弱いと
高温(例えば500℃以上)の使用環境では触媒粒子の間で焼結等の現象が起き、粒子が粗大化して触媒活性が低下することも起きる。さらに、粒子粉末が凝集していると、個々
の粒子の触媒機能が十分に発揮できないことにもなる。
【0009】
したがって本発明はこのような問題を解決し、Ptに代表される白金族の金属をFe、Co、Niなどの金属と合金化するさいに、触媒材料に適した形状の微細な合金粒子を得
ることを課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、前記の課題を解決した合金粒子粉末として、
式〔TX1-X〕、ただし式中、
TはFe、CoまたはNiの1種または2種以上、
MはPt、PdまたはRuの1種または2種以上、
Xは0.1〜0.9の範囲の数値を表す、
の組成比でTとMを含有する合金の粉体であって、
TEM観察により測定される平均粒径(DTEM) が50nm以下、
TEM観察により粒子の表面に複数の角が観測され且つ角と角の間に窪みが観測される、
凹凸表面の微細な合金粒子粉末を提供する。
【0011】
この合金粒子粉末は、結晶構造が面心立方晶(fcc構造)であり、X線結晶粒径(Dx)が10nm以下で、単結晶化度=(DTEM) /(Dx)が1.50以上であることが
でき、特に触媒用合金として好適である。この合金粒子粉末は、前記のT成分とM成分を含む金属塩を、沸点が100℃以上の多価アルコールおよび/またはこれらの誘導体から
なる液に固形分が残存しない状態にまで溶解し、その溶液を不活性ガス雰囲気下で100℃以上250℃以下の温度で、好ましくは結晶核誘発剤の存在下で、該金属塩を該多価ア
ルコールおよび/またはこれらの誘導体で還元し、この還元によって該合金の粒子粉末を
合成することによって製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の好ましい態様を、本発明で特定する事項ごとに説明する。
【0013】
〔合金の成分組成〕
本発明の合金粉末は、少なくともFe、Coおよび/またはNiと、Pt、Pdおよび/またはRuとを含有する合金からなり、面心立方晶(fcc)が主体の金属組織を有す
る。
【0014】
その合金組成は、TをFe、CoまたはNiの1種または2種以上、MをPt、PdまたはRuの1種または2種としたとき、式〔TX1-X〕におけるXが0.1〜0.9の
範囲となる組成比でTとMを含有し、TとM以外の金属元素が(T+M)に対する原子百
分比で30 at.%以下(0%を含む)で残部が製造上の不可避的不純物からなる。
【0015】
式〔TX1-X〕におけるXの値については、0.1未満では触媒金属としての白金族成分が少なくなって、触媒用合金としての有用性が低下する。他方Xの値が0.9を超え
ると触媒金属としての白金族成分を合金化する目的、例えば触媒被毒を低減し且つ低価格化を図る目的が十分に達成できないので、Xの値は0.1〜0.9、好ましくは0.2〜
0.8、さらに好ましくは0.3〜0.7の範囲であるのがよい。また、Xの値がこの範
囲であると表面凹凸の合金粒子を安定に製造することができる。
【0016】
TとM以外の金属元素は、例えば結晶核誘発剤を構成する金属元素や合金の結晶構造の相変化に影響を与える金属元素などがある。このようなTとM以外の金属元素は、その合
計量が(T+M)に対する原子百分比で30 at.%以下の量で含有できる。しかし、20 at.%以下の量で、さらには10 at.%以下で含有することもでき、場合によっては含有
しないこともある。
【0017】
金属組織が粒子ごとに変化すると、表面の凹凸の状態も変化しやすくなり、所望の表面状態を得るのが困難になることがある。このような場合には、金属組織を安定化させるた
めの成分(Z成分という)を添加するとよい。具体的には、本発明の合金を合成するさいに、そのZ塩を添加しておくと、金属に還元されたさいにそのZ金属が結晶粒界または粒
界に偏析して、前記の作用を示すようなものがよい。このような作用を有する金属元素としてはAg、Cu、Sb、BiおよびPbなどがある。Z成分に関しては、その塩がポリ
オールで還元されることが重要である。Z成分の含有量はTとMの合計量に対して30 at.%未満であるのがよい。Z/(T+M)の原子百分比が30 at.%以上であると、Z成
分が多くなりすぎて一定の金属組織を得るのを阻害するようになる。Z成分は必須ではなく、Z成分無添加でも一定の金属組織が得られる場合にはZ成分は含有しなくてもよい。
【0018】
また、本発明の合金を製造するさいに、適切な結晶核誘発剤を使用すると、粒子ごとの組成のバラツキが小さくなり、一定の金属組織をもつ合金粒子を安定して製造できるよう
になり、その結果、表面の凹凸の状態も各粒子間でバラツキが少なくなり、組成、組織、形状が均斉な粒子からなる合金粒子粉末が得られる。このような結晶核誘発剤は適切な金
属(N成分)の塩を使用するのがよい。N成分の含有量はTとMの合計量に対して20 a
t.%以下であるのがよい。
【0019】
ここで、N成分はT成分またはM成分と一致する場合もある(例えばPt、Pd、Ruなど)が、その場合には、還元に供する合金原料の金属塩とは異なる種類の金属塩を使用
する。その使用量は結晶核誘発剤中のTまたはMが合金原料中のT+Mに対して0.01 at.%以上20 at.%以下となる量であるのがよい。また、N成分はTとMとは異なる金
属成分例えばAu、Ag、Rh、Os、Irなどの塩であることもできる。その場合の使用量も、該誘発剤中の金属成分の原子百分比がT+Mに対して0.01 at.%以上20 a
t.%以下となる量であるのがよい。結晶核誘発剤は好ましくはAu、Ag、Ru、Rh、
Pd、Os、IrまたはPtの少なくとも1種の金属塩である。
【0020】
本発明に従う合金粒子粉末は、各粒子が50nm以下の微粒子であっても、各粒子の合金組成と組織が粒子ごとに均斉であり、このために各粒子の表面状態がほぼ同じような形
状を有する点に特徴がある。とくに本発明合金は各粒子がfcc構造を有しており、このことに起因して、各粒子はその表面に複数の角をもち、角と角との間に窪みをもつ特徴的
な形状を有している。
【0021】
〔合金の金属組織と粒子形状〕
図1は、後記の実施例で得られた本発明のfcc構造の合金粒子の形状を示すTEM像であり、図2は、図1と同じ組成の合金粒子であるがその組織がfct構造の合金粒子(
後記の比較例で得られたもの)の形状を示すTEM像である。
【0022】
図1に見られるように、fcc構造をもつ本発明の合金粒子は一見したところコンペイ糖のような外見を有しており(図1)、個々の粒子は、さらに極小の核が部分的に繋がっ
ているようにも見える。各粒子は表面に複数の角(カド)を有しており、角と角の間に窪みがある。したがって、複数の角をもつけれども角と角の間に窪みのない直方体や立方体
などの複数の平らな面をもつ多面体形状のものとは異なっている。これに対して、同じ組成でもfct構造の合金粒子(図2のもの)では、ほぼ同じ粒径ではあるが、ほぼ球形を
有しており、表面に角をもつものは少なく、角を有するものでも角と角の間に窪みは殆ん
ど見られない。
【0023】
このように、T成分とM成分からなるfcc構造の本発明の合金粒子は、図1のように表面凹凸の激しい形状を有することができ、このために、触媒材料にとって好適な表面形
状を具備することができる。
【0024】
〔粒径〕
本発明に従う合金粒子粉末は、透過電子顕微鏡(TEM)観察による1次粒子の粒径の平均値が50nm以下、好ましくは30nm以下、さらに好ましくは20nm以下である
。1次粒子はそれ以上には分けられない最小単位の粒子を言う。
【0025】
本発明に従って合成されたfcc構造をもつ合金粒子粉末は、該合金の粒子が合成され且つ粉末として回収された段階では、多数の1次粒子からなる群(2次粒子と言う)を形
成することが多い。この2次粒子の粒径は合成反応の条件によって様々であるが、約100μm程度になる場合もある。しかし、このような2次粒子が形成されていても、全体と
して流動性を有する粉体を構成している。
【0026】
本発明者は、合成された直後の2次粒子が存在する状態は、適正な界面活性剤等の分散剤の存在下で超音波ホモジナイザー等の分散処理を施すと、1次粒子が互いに所定の間隔
をあけて分散した状態とすることができることがわかった。図1および2はこのようにして1次粒子が互いに所定の間隔をあけて二次元的(1平面状に)分散した状態を写したも
のである。したがって、1次粒子の平均粒径や粒子形状の観測に際しては、この方法によ
る分散処理を実施した上で、TEM観察での計測を行うことができる。
【0027】
本発明の合金粒子粉末を触媒金属として使用する場合、その粒子の粒径が小さいほど比表面積が大きくなり、触媒活性も高まる。本発明の合金粒子粉末はTEM観察による1次
粒子の粒径の平均値が50nm以下、好ましくは30nm以下、さらに好ましくは20nm以下であり、この点でも触媒として適する。加えて、表面の凹凸が激しいので表面活性
が高くなっており、一層触媒活性に優れる。
【0028】
〔動的光散乱法による平均粒径〕
前記のように、本発明の合金粒子粉末は適切な分散処理を施すと、分散媒中で安定な分散状態をとり得ることがわかった。分散媒中での合金粒子の分散状態は動的散乱法により
評価でき、平均粒径も算出できる。その原理は次のとおりである。粒径が約1nm〜5μmの範囲にある粒子は、液中で並進・回転等のブラウン運動により、その位置・方位を時
々刻々と変えている。したがって、これらの粒子にレーザー光を照射し、出てくる散乱光を検出すると、ブラウン運動に依存した散乱光強度の揺らぎが観測される。この散乱光強
度の時間の揺らぎを観測することで、粒子のブラウン運動の速度(拡散係数)が得られ、
さらには粒子の大きさを知ることができる。
【0029】
この原理を用いて、本発明の合金粒子粉末の分散媒中での平均粒径の測定を行い、その測定値がTEM観察で得られた平均粒径に近い場合には、液中の粒子が単分散しているこ
と(粒子同士が接合したり凝集したりしていないこと)を意味する。すなわち、分散媒中において各粒子は互いに間隔をあけて分散しており、単独で独立して動くことができる状
態にある。本発明によれば、分散媒中の合金粒子粉末に対して行った動的光散乱法による平均粒径が、TEM観察による平均粒径に対してそれほど違わないレベルの平均粒径を示
すことがわかった。すなわち、分散媒中で本発明に従う合金粒子粉末が単分散した状態が実現できることが確認された。分散媒中の動的光散乱法による平均粒径は、50nm以下
、好ましくは30nm以下、さらに好ましくは20nm以下であり、TEM観察のそれと
は大きくは異ならない。
【0030】
なお、分散媒中において粒子が完全に単分散していても測定誤差等により、TEM観察の平均粒径とは違いに生ずる場合がある。例えば測定時の溶液の濃度は測定装置の性能・
散乱光検出方式に適していることが必要であり、光の透過量が十分に確保される濃度で行わないと誤差が発生する。またナノオーダーの粒子の測定の場合には得られる信号強度が
微弱なため、ゴミや埃の影響が強く出て誤差の原因となるので、サンプルの前処理や測定環境の清浄度に気を付ける必要がある。ナノオーダーの粒子測定には、散乱光強度を稼ぐ
ためにレーザー光源は発信出力が100mW以上のものが適する。
【0031】
〔X線結晶粒径(Dx)〕
本発明の合金粒子粉末は、好ましくは結晶粒子径が10nm以下である。本発明の合金粒子粉末の結晶粒子径はX線回折結果から Scherrer の式を用いて求めることができる。
このため、結晶粒子径は本明細書ではX線結晶粒径(Dx)と呼ぶ。その求め方は、次の
とおりである。
Scherrer の式は、次の一般式で表現される。
D=K・λ/β COSθ
式中、K:Scherrer定数、D:結晶粒子径、λ:測定X線波長、β:X線回折で得られた
ピークの半価幅、θ:回折線のブラッグ角をそれぞれ表す。
Kは0.94の値を採用しX線の管球はCuを用いると前式は次のように書き換えられる。
D=0.94×1.5405/β COSθ
この式でDを求める合金粒子のピークについては、例えばFePt合金粒子については41°付近に観察される(111) のものを採用できる。その他の組成の合金粒子については、
近接するピークと分離可能な十分に大きなピークを採用すればよい。
【0032】
〔単結晶化度〕
本発明の合金粒子粉末は、(DTEM) /(Dx)の比(これを単結晶化度という)が好ましくは1.50以上である。単結晶化度は、1個の粒子中に存在するfcc構造の単結
晶の数にほぼ相当する。単結晶化度が大きいほど、角の数が多くなって表面凹凸が激しくなる傾向にある。本発明の合金粒子粉末は、fcc構造の単結晶が理想的には1個の粒子
中に平均して1.50以上存在することになり、このために、表面に複数の角が発生し、角と角との間に窪みを有することになると考えられる。したがって、単結晶化度が1.5
0以上の本発明の合金粒子粉末は表面活性に優れる結果、触媒活性に優れると共に、カー
ボンブラック等の担体材料に対する接合強度にも優れる。
【0033】
〔粒子個々の組成のバラツキ〕
本発明の合金粒子粉末1個1個の組成分析はTEM−EDXで実施することができる。TEM(透過電子顕微鏡)においてナノブローブ電子線を用いたエネルギー分散型X線分
光法(EDX)は測定範囲を1〜2nmに絞ることができるので、測定対象とする合金粒子粉末が個々に分散して互いに離れた位置にあれば各粒子ごとの組成分析が可能である。
本発明によると、粉末としての平均組成に対して各粒子の個々の組成がそれほど違いのない合金粒子粉末が得られる。例えば、この粉体のTEM―EDX測定において、測定視野
内に粒子が1000個以上入っている状態で任意に選んだ100個の粒子について測定された個々の組成が平均組成の±10%以内に収まっている粒子数が90以上、好ましくは
95以上であり、その100個の粒子の組成の標準偏差が20%以内に収まるものが得られる。このように、個々の粒子間に組成のバラツキがないことは、結晶構造にもバラツキ
がないことを意味し、したがって、各粒子がfcc構造を安定して有することから、その形状も図1に示したような特異な表面形状(コンペイ糖形状)を安定して有することがで
きる。
【0034】
〔製造法〕
本発明の合金粒子粉末を製造するには、前記式のT成分とM成分を含む金属塩を、Xが所望の組成比となる割合で、沸点が100℃以上の多価アルコールおよび/またはこれら
の誘導体からなる液に固形分が残存しない状態にまで溶解し、その溶液を不活性ガス雰囲気下で100℃以上250℃以下の温度で該金属塩を該多価アルコールおよび/またはこ
れらの誘導体で還元し、この還元によって該合金の粒子粉末を合成すればよい。前述したZ成分および/またはN成分を添加する場合には、T成分とM成分を溶解した液にそれら
の金属塩を溶解したあと、還元すればよい。反応温度が250℃を超えるとfct構造に
なりやくす、表面凹凸の大きな粒子は生成され難くなる。
【0035】
多価アルコールとしては、トリエチレングリコールまたはテトラエチレングリコールが好ましい。しかし、これに限らず、沸点が100℃以上の多価アルコールまたはその誘導
体であれば本発明で使用できる。また多価アルコールまたはその誘導体は、1種のみでなく2種以上を混合して使用することもできる。該多価アルコール中に溶存させるT成分と
M成分は、代表的にはそれらのアセチルアセトナートとして供給するのがよい。
【0036】
合金の合成温度に至るまでの昇温速度は0.5〜15℃/分の範囲で適性に制御するのがよい。昇温速度が0.5℃/分より遅いと生産性の観点からも好ましくない。本発明で
言う昇温速度とは厳密には50℃から150℃に至るまでの平均昇温速度(℃/分)である。実際には、最終目標とする反応温度に近づいた時点では、例えば最終目標温度より2
0℃ほど低い温度付近にまで達したら、実際の温度が目標の反応温度を超えてしまわない
ように、昇温速度を落としてゆっくりと目標温度まで昇温するのが好ましい。
【0037】
FePt粒子の合成反応において、その反応速度を適正に制御することも重要である。そのための方法として溶媒中の金属濃度を調整する方法がある。すなわち金属原料の濃度
を抑えることにより、生成する金属の過飽和度を低下させ、核発生および粒子成長の速度を低下させることができる。ポリオールと金属塩中に含まれる全ての金属イオンのモル比
、すなわちポリオール/全金属イオンのモル比が100以上であれば、本発明に従うFe
Pt粒子を有利に製造することができる。
【0038】
TとMの合金粒子を本発明法に従って合成するさいに、合成する粒子ごとのTとMの組成比のバラツキが大きいと結晶構造も変化してコンペイ糖状の表面形状とはならない粒子
が発生することもある。これを防止するには、適正な結晶核誘発剤の存在下で合金粒子を合成するのがよい。結晶核誘発剤は、前記したように金属成分Nの塩を使用するが、N成
分はT成分またはM成分と一致してもよいし、一致しなくてもよい。一致する場合には、その塩は異なるものを用いる。すなわち、還元に供する合金原料のT成分またはM成分の
金属塩とは種類の異なる金属塩(ただし、多価アルコールに溶解可能な塩)を結晶核誘発剤として用いる。一致しない場合には、そのN成分としては例えばAu、Ag、Rh、O
s、Ir等が挙げられ、その塩としては多価アルコール溶解可能な塩を用いる。結晶核誘発剤の使用量は、NがTまたはMと異なる場合にはN/(T+M)の原子百分比が0.0
1〜20 at.%の範囲で使用するのがよい。NがTまたはMと一致する場合には、式〔TX1-X〕におけるXが0.3以上で0.7以下となる範囲内の量で使用することになる
が、結晶核誘発剤中のTまたはMは合金原料中のT+Mに対して0.01以上、20 at.%以下であるのがよい。結晶核誘発剤の使用量がT+Mに対して0.01at% 未満では粒
子個々の組成のバラツキ低減や反応の再現性改善に効果が見られず、また20at% を超える添加では、結晶成長を阻害するなどの害の方が大きく現れるようになるので好ましくな
い。
【0039】
この合成反応において、反応溶液に分散剤を含有させておくこともできるし、反応後のスラリーに分散剤を添加することもできる。分散剤は合成された粒子表面に吸着して粒子
同士の凝集を抑制するのに有効である。また、分散剤の種類と添加量を適切にすることによって、合成されるFePt粒子の粒径を制御することも可能である。使用できる分散剤
としては、FePt粒子粉末表面に吸着しやすいN原子を有するアミン基、アミド基、およびアゾ基を有する界面活性剤か、またチオール基またはカルボキシル基のいずれかを構
造中に含有する有機化合物が好適である。これらの官能基をもつ界面活性剤は、FePt粒子等の金属表面に直接配位できるため、本発明に従うFePt粒子に用いる界面活性剤
として好適である。
【0040】
〔触媒の製造〕
このようにして、本発明によると、標準電極電位が大きく異なるT成分とM成分からなる合金の微粒子を製造することができ、しかも、各粒子ごとの組成と結晶構造のバラツキ
が少なく、fcc構造の単結晶が繋がった特殊な形状(複数の角を有し、角と角の間に窪みを有する表面形状)の粒子が得られる。この合金粒子粉末は白金族にFe、Ni、Co
等が合金化しているので、そして、微粒子で且つ表面凹凸が激しいので、特に触媒金属と
して好適である。
【0041】
触媒として利用するには、当該合金粒子粉末を適切な担体に担持させることが必要となるが、この場合、粒子が凝集していると担体に分散した状態で担持させることが困難とな
る。本発明によれば、前記のようにして適正な界面活性剤を使用することによって、各粒子が互いに間隔をあけて分散した状態(図1や図2の状態)とすることができ、とくに、
各粒子が互いに反作用を受けて粒子間の接合が抑制された状態で且つ全体として流動を示
す状態とすることができるので、触媒の製造にとって有利である。
【0042】
すなわち、触媒担体として例えばカーボンブラックやカーボンチューブ等のカーボン系の担体等に本発明の合金粒子粉末を担持させる場合、各粒子間の接合が抑制された状態で
流動を示すので、担体表面に分散した状態で絡み込ませることができる。
【0043】
合金粒子粉末の流動状態は分散媒中においても実現できる。例えば本発明の合金粒子が互いに1nm以上の間隔をあけて分散媒中に分散した状態であって、該合金粒子の分散媒
中の濃度が1.0×10-5vol.%以上40vol.%以下、該合金粒子の動的光散乱法による平均粒径が50nm以下であるような懸濁液を得ることもできる。このような懸濁液を担
体に塗布したり担体表面に機械的または化学的に接触させて、担体に合金粒子を取付け、そのあと、適正な処理によって分散媒や界面活性剤などを必要に応じて取り除く処理を行
えばよく、このような方法により、簡易に触媒素材を製造することができる。これにより表面活性な白金族の微粒子合金を担体に分散させた新規な触媒を得ることができる。また
本発明に従う合金粒子粉末は生体分子標識剤やDDSなどの医療用材料に適用することも
できる。
【実施例】
【0044】
〔実施例1〕
テトラエチレングリコール(沸点:327℃)2 00mLに、鉄(III) アセチルアセトナート=1.30m mol/Lと白金 (II) アセチルアセトナートを1.30m mol/L添
加し、鉄(III) アセチルアセトナートと白金 (II) アセチルアセトナートの固形分が存在しなくなるまで溶解した。この溶液を還流器のついた容器に移してオイルバスに載せ、容
器内に不活性ガスとして窒素ガスを400mL/minの流量で吹込みながら、該溶液を160rpmの回転速度で撹拌しつつ加熱し、200℃の温度で1時間の還流を行って、
反応を終了した。そのさい、昇温速度は1℃/min とした。
【0045】
反応終了後の液に3倍量のメタノールを添加したうえで遠心分離器にかけ、その後、上澄み液を取り除いた。上澄み液を除いたあとの残留分(粒子粉末)に再びメタノール10
0mLを添加して超音波洗浄槽に装填し、この超音波洗浄槽で該粒子粉末を分散させた。得られた分散液を遠心分離器にかけたあと上澄み液を取り除いた。得られた残留分(粒子
粉末)に対し、前記同様のメタノールを加えて超音波洗浄槽および遠心分離器で処理する洗浄操作を、さらに2回繰り返した。最後に上澄み液を分別して得られた合金粒子粉末含
有物を、X線回折(XRD)および透過電子顕微鏡(TEM)観察に供した。TEM観察にさいしては、当該粒子粉末含有物をヘキサン中に入れ、界面活性剤としてオレイン酸と
オレイルアミンを添加したうえ、超音波分散処理して得られた分散液の状態で測定に供し
た。
【0046】
X線回折の結果、fct構造に由来する超格子反射(001)と(110)に対応する回折ピークは観察されず、fcc構造に起因するピークのみであった。X線結晶粒径(D
x)は2.2nmであった。またTEM観察に供したさいのTEM像を図1に示した。図1に見られるように各粒子は互いに所定の間隔をあけて1次粒子に分散しており、各粒子
はそれぞれ複数の角を有し且つ角と角との間に窪みを有した表面凹凸の大きな形状を有している。このTEM像から計測される平均粒径DTEMは6.0nmであった。したがって
、単結晶化度は2.72であった。分散液に対して動的光散乱法による平均粒径を計測し
たところ動的光散乱法による平均粒径は13.5nmであった。
【0047】
また、得られた合金粒子粉末のTEM−EXD測定において、測定視野内に存在する1000個以上の粒子について測定した平均組成はFeとPtの原子比でFe:Pt=51
:49であった。また、そのうち任意に選んだ100個の粒子の個々の組成は、その96個が前記の平均組成±10%以内に収まっており、且つ100個の組成の標準偏差は12
%であった。
【0048】
〔比較例1〕
反応温度を300℃、その温度での保持時間(還流時間)を5時間、昇温速度15℃とした以外は、実施例1を繰り返し、得られた合金粒子粉末含有物質について実施例1と同
様の測定を行った。
【0049】
その結果、X線回折では、fct構造に由来する超格子反射(001)と(110)に対応する回折ピークが明瞭に観察され、fct構造を有することが確認された。X線結晶
粒径(Dx)は7.3nmであった。またTEM観察に供したさいのTEM像を図2に示した。図2に見られるように各粒子は互いに所定の間隔をあけて1次粒子に分散しており
、各粒子はそれぞれ滑らかな表面を有しほぼ球状の形状を有している。このTEM像から計測される平均粒径DTEMは7.3nmであった。したがって、単結晶化度は0.84で
あった。また、動的光散乱法による平均粒径は17.7nmであった。
【0050】
また、得られた合金粒子粉末のTEM−EXD測定において、測定視野内に存在する1000個以上の粒子について測定した平均組成はFeとPtの原子比でFe:Pt=51
:49であった。また、そのうち任意に選んだ100個の粒子の個々の組成は、その96個が前記の平均組成±10%以内に収まっており、且つ100個の組成の標準偏差は13
%であった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明のfcc構造の合金粒子粉末の形状例を示すTEM像である。
【図2】図1と組成は同じであるがfct構造の合金粒子粉末の形状例を示すTEM像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式〔TX1-X〕、ただし式中、
TはFe、CoまたはNiの1種または2種以上、
MはPt、PdまたはRuの1種または2種以上、
Xは0.1〜0.9の範囲の数値を表す、
の組成比でTとMを含有する合金の粉体であって、
TEM観察により測定される平均粒径(DTEM) が50nm以下、
TEM観察により粒子の表面に複数の角が観測され且つ角と角の間に窪みが観測される、
凹凸表面をもつ微細な合金粒子粉末。
【請求項2】
結晶構造が面心立方晶(fcc構造)である請求項1に記載の凹凸表面をもつ微細な合
金粒子粉末。
【請求項3】
X線結晶粒径(Dx)が10nm以下で、単結晶化度=(DTEM) /(Dx)が1.5
0以上である請求項1に記載の凹凸表面をもつ微細な合金粒子粉末。
【請求項4】
TとM以外の金属成分がT+Mに対する原子百分率で30 at.%以下である請求項1ま
たは2に記載の凹凸表面をもつ微細な合金粒子粉末。
【請求項5】
触媒用合金である請求項1ないし4のいずれかに記載の凹凸表面をもつ微細な合金粒子
粉末。
【請求項6】
各粒子が互いに間隔をあけて分散した状態にある請求項1ないし5のいずれかに記載の
凹凸表面をもつ微細な合金粒子粉末。
【請求項7】
各粒子は互いに反作用を受けて粒子間の接合が抑制された状態にあり、且つ全体として
流動を示す状態にある請求項1ないし6に記載の凹凸表面をもつ微細な合金粒子粉末。
【請求項8】
各粒子の表面に界面活性剤が被着している請求項1ないし7のいずれかに記載の凹凸表
面をもつ微細な合金粒子粉末。
【請求項9】
合金粒子は分散媒中に分散しており、該合金粒子の動的光散乱法による平均粒径が50nm以下である、請求項1ないし8のいずれかに記載の凹凸表面をもつ微細な合金粒子粉
末。
【請求項10】
式〔TX1-X〕、ただし式中、
TはFe、CoまたはNiの1種または2種以上、
MはPt、PdまたはRuの1種または2種以上、
Xは0.1〜0.9の範囲の数値を表す、
の組成比でTとMを含有する合金の製造法において、T成分とM成分を含む金属塩を、沸点が100℃以上の多価アルコールおよび/またはこれらの誘導体からなる液に固形分が
残存しない状態にまで溶解し、その溶液を不活性ガス雰囲気下で100℃以上250℃以下の温度で該金属塩を該多価アルコールおよび/またはこれらの誘導体で還元し、この還
元により、EM観察で粒子の表面に複数の角が観測され且つ角と角の間に窪みが観測される該合金の粒子粉末を合成することを特徴とする表面凹凸をもつ微細な合金粒子粉末の製
造法。
【請求項11】
結晶核誘発剤の存在下で該金属塩を該多価アルコールおよび/またはこれらの誘導体で
還元する請求項10に記載の表面凹凸をもつ微細な合金粒子粉末の製造法。
【請求項12】
請求項1ないし8のいずれかに記載の合金粒子がカーボン系の担体物質に担持されてい
る触媒。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−45614(P2006−45614A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227733(P2004−227733)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000224798)同和鉱業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】