説明

分光光度計用制御装置

【課題】複数の波長の各々での測定を順次行うために、回転駆動機構で波長分散素子の向きを各波長に対応した向きに変更するときに、波長分散素子を常に正しい位置で停止させることができる分光光度計用制御装置を提供する。
【解決手段】複数の波長の各々での測定の順序を、予め設定されていた順序から波長順に変更し、変更後の順序に従って回転駆動機構を制御する。これにより、回転駆動機構は波長が次第に長くなる又は短くなる一方向のみに回転して波長分散素子の向きを順次変更する。すなわち、回転駆動機構の回転方向を一度も反転させることなく全設定波長での測定を行うことができるため、バックラッシュによる波長分散素子の停止位置のずれの発生を防ぐことができ、波長分散素子を常に正しい位置で停止させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分光光度計に関し、更に詳しくは、測定に用いる光の波長に応じて波長分散素子の向きを変えるための回転駆動機構を備えた分光光度計の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分光光度計は試料の吸光度や蛍光強度、屈折率等の測定に利用されており、単独で用いられるほか、液体クロマトグラフ等の分析装置の検出器としても用いられる。通常、分光光度計には回折格子等の波長分散素子の向きを変えるための回転駆動機構及び回転駆動機構やその他の構成要素を制御するための制御装置が設けられており、制御装置で回転駆動機構を動作させて波長分散素子の向きを調整することにより、所望の波長の光を出口スリットから出射させる(特許文献1参照)。回転駆動機構はモータと減速機を組み合わせたものが一般的であり、モータには位置決め制御が容易なステッピングモータ等が、減速機には歯車減速機や駆動ベルトを用いたものが利用される。
【0003】
従来より或る一つの試料に対してユーザが設定した複数の波長の各々で測定を行う機能を備えた分光光度計が提案されている。従来の分光光度計ではユーザが設定した順に回転駆動機構で波長分散素子を各波長に対応した方向に順次向けつつ、それぞれの向きの波長分散素子で分光された光を出口スリットから単色光として取り出す。取り出された単色光は試料に照射され、試料を透過した光や試料から発せられた蛍光等が光検出器で検出される。検出信号は回転駆動機構の動作に同期して順次取り出され、それによって生成される各波長での測定データがデータ解析装置等に出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-241948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の分光光度計の多くは回転駆動機構にステッピングモータを使い、波長分散素子の向きをステッピングモータの基準位置からのステップ数に基づいて決定する。例えばユーザがλ1=500nm、λ2=300nm、λ3=600nm、λ4=400nmの4つの波長での測定をこの順に設定すると、各波長に対応した方向に波長分散素子を向けるために必要なステップ数が基準位置からのステップ数N1、N2、N3、N4(例えばN1=1000、N2=600、N3=1200、N4=800)として算出される。測定時にはこれらのステップ数に基づいて次のように波長分散素子の向きが切り替えられる。
(1)まず、ステッピングモータが基準位置からステップ数N1(1000)だけ正回転することにより、波長分散素子が波長λ1(500nm)に対応した方向に向く。
(2)次に、ステッピングモータがステップ数N1(1000)とN2(600)の差(400)だけ逆回転することにより、波長分散素子が波長λ1よりも短い波長λ2(300nm)に対応した方向に向く。
(3)次に、ステッピングモータがステップ数N2(600)とN3(1200)の差(600)だけ正回転することにより、波長分散素子が波長λ2よりも長い波長λ3(600nm)に対応した方向に向く。
(4)次に、ステッピングモータがステップ数N3(1200)とN4(800)の差(400)だけ逆回転することにより、波長分散素子が波長λ3よりも短い波長λ4(400nm)に対応した方向に向く。
このようにステッピングモータが波長の増減に応じた方向に所定のステップ数だけ回転することにより、波長分散素子の向きが各波長に対応した向きに順次切り替えられる。
【0006】
しかし、一般に回転駆動機構には歯車や駆動ベルト等の機械要素にバックラッシュが存在するため、回転方向が反転するときに一時的にモータの回転駆動力が被駆動体(波長分散素子)に伝達されない期間が生じる。そのため、波長分散素子を或る波長に対応した位置へ移動させるときに、モータが正回転するときと逆回転するときではバックラッシュの分だけ波長分散素子の停止位置にずれが生じる。そしてこのずれによって、出口スリットから出射される光の波長がずれる。
【0007】
本発明は以上のような課題を解決するために成されたものであり、その目的は、複数の波長の各々での測定を順次行うために、回転駆動機構で波長分散素子の向きを各波長に対応した向きに変更するときに、波長分散素子を常に正しい位置で停止させることができる分光光度計用制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る分光光度計用制御装置は、
複数の波長の各々での測定を順次行うために、回転駆動機構を用いて波長分散素子を各波長に対応した方向に順次向けつつ、各方向での波長分散素子で分光された光、又は該光の照射により試料から発せられた光を検出し、その検出信号に基づいて測定データを生成し出力する分光光度計の制御装置であって、
a)各波長での測定の順序を、予め設定されていた順序から波長順に変更し、該変更後の順序に従って回転駆動機構を制御する駆動制御手段と、
b)前記各波長に対応して生成される測定データを前記予め設定されていた順序に並び替えて出力するデータ出力手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る分光光度計用制御装置によれば、複数の波長の各々での測定の順序が、予め設定されていた順序から波長順に変更され、変更後の順序に従って回転駆動機構が制御されるため、回転駆動機構は波長が次第に長くなる又は短くなる一方向のみに回転して波長分散素子の向きを順次変更する。すなわち、回転駆動機構の回転方向を一度も反転させることなく全設定波長での測定を行うことができるため、バックラッシュによる波長分散素子の停止位置のずれの発生を防ぐことができ、波長分散素子を常に正しい位置で停止させることができる。ここで、測定の順序を上記のように変更すると測定データが波長順に取得されるが、その測定データはデータ出力手段により予め設定されていた順序に戻されて出力されるため、その測定データを受け取る装置では何ら特別な処理を行わなくても設定どおりの順の測定データを取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1に係る分光光度計の概略構成図。
【図2】設定された波長とその順序の一例を示す図。
【図3】波長順に変更された測定順序を示す図。
【図4】出発波長が追加された、波長順測定順序を示す図。
【図5】送信データのフォーマットの一例を示す図。
【図6】本発明の実施例2に係る分光光度計の概略構成図。
【図7】設定された波長とその順序の一例を示す図。
【図8】制御装置で行われる測定順序の並び替えに関する設定処理の一例を示すフローチャート。
【図9】波長順に変更された測定順序を示す図。
【図10】振り戻し波長が追加された非優先波長の測定順序を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づき、本発明に係る制御装置を備えた分光光度計の実施例について説明する。
【実施例1】
【0012】
図1に本発明の実施例1に係る分光光度計10の概略構成を示す。分光光度計10では重水素ランプ等の光源11から出射された光が入口スリット12を通過し、回折格子やプリズム等の波長分散素子13で分光される。その分散光の中で特定の波長を有する光が出口スリット14から取り出され、測定対象の試料が収容されたキュベットや液体クロマトグラフのカラム等から送られた試料が通過するフローセル等の試料セル15に照射される。試料セル15を透過した光がフォトダイオード等の光検出器16で検出され、光検出器16から入射光の強度に応じたアナログの検出信号が出力される。検出信号はA/D変換器17でデジタルデータに変換され、測定データとして制御装置20に入力される。
【0013】
波長分散素子13はモータ181と減速機182を含む回転駆動機構18に取り付けられている。本実施例ではモータ181にはステッピングモータを用いるが、任意の位置に停止させることができる停止位置制御が可能なものであれば、他のモータでもよい。減速機182には、歯車式のものや駆動ベルト式のもの等、種々の形式のものを用いることができる。
モータ181は制御装置20の指示によりモータドライバ19が出力するパルス信号によって回転し、減速機182を介して波長分散素子13の向きを変える。なお、本実施例では便宜上、出口スリット14から出射される単色光の波長が次第に長くなる方向を正回転方向とする。
【0014】
制御装置20はCPUやメモリ等を備え、図示しないインターフェースを介してパーソナルコンピュータ(PC)24とデータの送受信を行う。制御装置20は機能的に、PC24から取得した波長の設定データに基づいて回転駆動機構18を制御するための駆動制御手段21と、A/D変換器17から送出される各波長の測定データをPC24に出力するためのデータ出力手段22を含む。PC24はユーザによる設定データ等の入力処理や測定データの解析処理等を行う。なおPC24と制御装置20は一体のもの、つまりPC24が制御装置20の機能を含むものであってもよい。また、データ出力手段22から出力される測定データはD/A変換器等を介して、PC24ではなくアナログ信号入力に対応した装置(例えば、レコーダや表示装置等)に送信されてもよい。
【0015】
分光光度計10では次のように分光測定が行われる。まず、ユーザがPC24上で、測定に用いる複数の単色光の波長を設定する。この波長の順序は、分析目的元素等を考慮して、任意に定められる。例えば図2に示すように、4つの波長λ1=500nm、λ2=300nm、λ3=600nm、λ4=400nmがこの順に設定される。設定された波長とその順序を示すデータは設定データとしてPC24から制御装置20に送られる。
【0016】
制御装置20では駆動制御手段21が設定データを受け取り、各波長に対応した方向に波長分散素子を向けるために必要なモータ181のステップ数を、モータ181の基準位置からのステップ数N1、N2、N3、N4として算出する。ここでは、N1=1000、N2=600、N3=1200、N4=800とする。そして、図3に示すように測定の順序を所定の波長順(昇順)に並び替える。すなわち、波長順ではλ2=300nm、λ4=400nm、λ1=500nm、λ3=600nmとなる。
【0017】
各波長での測定は次のように行われる。まず駆動制御手段21がモータドライバ19に、モータ181を基準位置からステップ数N2(600)だけ正回転させるための制御信号を送信し、モータドライバ19がその信号に従ってモータ181を回転駆動させる。それによりモータ181が減速機182を介して波長分散素子13を波長順で1番の波長λ2に対応した方向に向ける。その状態で波長λ2での測定が行われる。
次に駆動制御手段21がモータドライバ19に、ステップ数N2(600)と2番目の波長λ4に対応するステップ数N4(800)の差(200)だけモータ181を正回転させるための制御信号を送信する。これにより上記と同様の手順でモータ181が波長分散素子13を波長λ4(400nm)に対応した方向に向ける。その状態で波長λ4での測定が行われる。
その後、波長λ1、λ3での測定も同様に、モータ181が順次正回転することにより、波長分散素子13が各波長に対応した方向に向けられ、その状態で各波長での測定が行われる。
【0018】
上記動作では、モータ181の回転方向を一度も反転させることなく全設定波長での測定を行うため、従来反転により生じていた波長分散素子13の停止位置のずれが生じない。このため、予めその回転方向でステッピングモータのステップ数と出射波長の関係を測定しておくことにより、出射波長を常に正確な値にすることができる。
また、上記のように測定順序を並び替えることでモータの動きに無駄がなくなり、測定時間に占めるモータ181の回転時間(波長分散素子13の移動時間)を短縮させることができる。これにより測定時間に占める検出信号のサンプリング時間を長く設定することができ、ノイズの少ない測定データを取得することができる。
【0019】
このような複数波長での一連の測定動作を繰り返し行う場合がある。この場合、最後の波長λ3での測定が行われた後、モータ181を逆回転させて一旦最初の波長λ2(300nm)よりも短い波長λ0(例えば295nm。これを「出発波長」と呼ぶ)に対応した方向に波長分散素子13を向けてから、モータ181を正回転させて最初の測定波長λ2に対応した方向に波長分散素子13を向けるように回転駆動機構18を制御することが望ましい(図4参照)。ここで最初の測定波長λ2とそれよりも短い出発波長λ0の差は、回転駆動機構18がその差に対応する回転動作を行うと回転駆動機構18のバックラッシュの影響を排除することができる大きさにする。これにより波長分散素子13を最後の波長λ3での測定後に最初の波長λ2に対応する方向に向けるときに、正しい位置で停止させることができる。
【0020】
各波長での測定においてA/D変換器17から制御装置20に送られる測定データはデータ出力手段22に入力される。データ出力手段22は各測定データを予め設定されていた順序に並び替えてPC24へ送信する。これにより、その送信データを受信したPC24では何ら特別な処理を行わなくても設定どおりの順の測定データを取得することができる。
図5に送信データのフォーマットの一例を示す。この例では、先頭の1バイトをその後に続く測定データの数を示すフラグに割り当て、それ以降の4バイトずつを設定順の1〜4番である波長λ1〜λ4での測定データにそれぞれ割り当てる。なお図5に示すフラグ"0x04"(16進数の"04")はその後に4つの測定データが続くことを表す。このようなフォーマットに従って制御装置20で測定データを並び替えることは容易であり、制御装置20への負担は小さい。
【0021】
複数波長での一連の測定動作が繰り返し行われる場合、PC24では、取得した測定データを波長毎にその都度加算し、各波長の累積値を示すデータを出力(例えば、グラフをモニタに表示)するようにしてもよい。このとき、複数波長での一連の測定動作を1回行う毎にデータ出力手段22が測定データをPC24へ送信すれば、PC24ではその周期でグラフ等を更新させることができる。また、一連の測定動作の周期が比較的長い(例えば1秒である)場合には、実測値を所定の数(例えば10)で割り、分割された値(実測値の1/10の値)のデータを、上記周期を同じ所定の数で割った周期(1/10秒周期)で順次PC24へ送信してもよい。これにより、PC24では、より短い周期でグラフ等を更新させることができ、グラフ等を滑らかに表示させることができる。
【実施例2】
【0022】
図6に本発明の実施例2に係る分光光度計40の概略構成を示す。分光光度計40は2つの分光器421、422を有する分光蛍光光度計である。この分光光度計40では、キセノンランプ等の光源41から発せられた光が励起光側分光器421に導入され、所定の波長(励起光波長λex)を持つ単色光が取り出され、試料が収容された試料セル45に励起光として照射される。この励起光の照射により試料から放出される蛍光が蛍光側分光器422に導入され、所定の波長(蛍光波長λem)を持つ蛍光のみが取り出され、光電子増倍管等の光検出器46に入射される。その入射光の強度に応じたアナログの検出信号が光検出器46から出力され、その信号がA/D変換器47でデジタルデータに変換され、測定データとして制御装置50に入力される。
【0023】
励起光側分光器421及び蛍光側分光器422はそれぞれ波長分散素子431、432を備え、各波長分散素子431、432にはステッピングモータと減速機を含む回転駆動機構481、482が設けられている。各モータは制御装置50の指示によりモータドライバ49が出力するパルス信号によって回転し、減速機を介して各波長分散素子の向きを変える。なお本実施例では各モータを正回転させると、各分光器から取り出される励起光又は蛍光の波長が次第に長くなるとする。
【0024】
制御装置50は所定のインターフェースを介してPC54とデータの送受信を行う。制御装置50は駆動制御手段51とデータ出力手段52と選択手段53を機能的に含み、そのうちの駆動制御手段51は測定順序変更手段511と振り戻し制御手段512を機能的に含む。各手段の詳細については後述する。
【0025】
分光光度計40では次のように蛍光測定が行われる。まず、ユーザがPC54上で、測定に用いる複数の励起光波長λexと蛍光波長λemを設定する。その一例を図7に示す。この例では励起光波長λex1=500nm、λex2=300nm、λex3=600nm、λex4=400nmと、各励起光波長に対応する蛍光波長λem1=550nm、λem2=350nm、λem3=650nm、λem4=560nmがこの順に設定されている。PC54で設定された波長とその順序を示すデータは設定データとして制御装置50に送られる。
またユーザは、測定順序を波長順に並び替える際に基準とする波長分散素子を、励起光側波長分散素子431と蛍光側波長分散素子432のいずれかから選択し、PC54に指示する。選択結果を示す選択データはPC54から制御装置50に送られる。
【0026】
制御装置50では測定順序の並び替えに関する設定処理が行われる。図8にそのフローチャートの一例を示す。まず制御装置50の選択手段53が選択データを受け取り、ユーザにより選択された波長分散素子が励起光側波長分散素子431であるかを判断する(ステップS1)。そこでYesと判断されれば、測定順序の並び替えの際に優先して波長順にされる波長(以下、優先波長と呼ぶ)に励起光波長λexが設定される(ステップS2)。Noと判断されれば、優先波長に蛍光波長λemが設定される(ステップS3)。
【0027】
次に、測定順序変更手段511が、選択手段53により設定された優先波長について、その波長順に各測定の順序を並び替える(ステップS4)。例えば優先波長として励起光波長λexが設定されていれば、図7に示した各波長の測定順序は図9に示す順に変更される。また、図には示されていないが、実施例1と同様に各波長に対応したステップ数が適宜算出され、設定される。
【0028】
次に、優先波長について測定順の最初の波長よりも短い波長(出発波長)が設定される(ステップS5)。図9に示す例では、測定順の1番である励起光波長λex2(300nm)よりも短い励起光波長λex0(295nm)が出発波長として設定される(図10参照)。
【0029】
次に、優先されなかった波長(以下、非優先波長と呼ぶ)の配列の中に、所定の波長順に並んでいない波長があるかが判断される(ステップS6)。図9に示す例では、非優先波長である蛍光波長λemが全体として(4波長中の3波長)は昇順に並ぶものの、3番目の蛍光波長λem1のみ、直前の波長λem4に対して昇順となっていないため、ステップS6でYesと判断される。この場合、蛍光波長側の波長分散素子432を2番目の蛍光波長λem4から3番目の蛍光波長λem1に対応する向きに切り替えるときに、一旦蛍光波長λem1(550nm)よりも短い波長(蛍光波長λem10(545nm)。これを「振り戻し波長」と呼ぶ。)に対応する位置まで逆回転させた後、蛍光波長λem1に対応する位置まで正回転させる(図10参照)。これにより、波長分散素子432を蛍光波長λem1に対応する正しい位置で停止させることができる。以下、このような波長分散素子の動作を振り戻し動作と呼ぶ。
【0030】
ステップS6でYesと判断されると、昇順になっていないと判断された波長(蛍光波長λem1)での測定に時間的余裕があるかが判断される(ステップ7)。その判断は具体的には次のように行われる。例えば1秒間に4種類の波長での測定を順次行うとすると、各測定には0.25秒ずつの時間が割り当てられ、その時間内に検出信号のサンプリング処理と波長分散素子の向きを変更するための動作を行わなければならない。このとき、サンプリングに0.1秒必要とするのであれば、残りの0.15秒の間に波長分散素子の通常の回転動作に加えて、振り戻し動作も行うだけの時間的余裕があるかが判断される。なお、波長分散素子の通常の回転動作や振り戻し動作に必要な時間は、各動作に設定されるモータのステップ数とモータを1ステップ回転させるのに要する時間から算出することができる。
【0031】
ステップS7でYesと判断されると、昇順になっていないと判断された波長(蛍光波長λem1)に対応する位置へ波長分散素子を移動させる前に振り戻し動作を行うための設定が行われる(ステップS8)。具体的には、昇順になっていないと判断された波長(蛍光波長λem1)とその直前の波長(蛍光波長λem4)の間に、昇順になっていないと判断された波長よりも所定値だけ短い振り戻し波長(蛍光波長λem10)が設定される。なお、上記ステップS6〜8の処理は振り戻し制御手段512が行う。
【0032】
ステップS6、7でNoと判断された後、及びステップS8が実行された後、非優先波長(蛍光波長λem)について測定順の最初の波長よりも短い波長(出発波長)が設定される(ステップS9)。図10に示す例では、測定順の1番である蛍光波長λem2(350nm)よりも短い蛍光波長λem0(345nm)が出発波長に設定される。
【0033】
その後、上記一連の処理により設定された波長順序に基づいて、各波長分散素子の向きが切り替えられ、各測定が行われる。各波長での測定により得られたデータは制御装置50のデータ出力手段52に送られ、データ出力手段52が各測定データを予め設定されていた順序に並び替えてPC54へ送信する。
なお、本実施例2のように励起側と蛍光側の2つの波長分散素子を用いる場合、一般的には励起波長λex<蛍光波長λemの関係があるため、優先波長側で昇順に並べ替えたときに、多くは非優先波長側でも全体としては同様に昇順になる。しかし、場合によっては非優先波長側で全体として降順になる(すなわち、降順に並ぶ波長の数の方が多い)こともあるが、そのような場合には、図8のステップS4の前に、非優先波長側の波長が全体として昇順であるか降順であるかを判断するステップを設けてもよい。
【0034】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で適宜変更が許容される。例えば分光光度計は波長分散素子の向きを変えるための回転駆動機構を備えたものであればよく、紫外可視分光光度計、フーリエ変換赤外分光光度計、ラマン分光光度計、原子吸光分光光度計等であってもよい。また、上記実施例では所定の波長順を昇順としたが、降順であっても同様の分光光度計を構成することができる。
【符号の説明】
【0035】
10、40…分光光度計
11、41…光源
12…入口スリット
13、431、432…波長分散素子
14…出口スリット
15、45…試料セル
16、46…光検出器
17、47…A/D変換器
18、481、482…回転駆動機構
181…モータ
182…減速機
19、49…モータドライバ
20、50…制御装置
21、51…駆動制御手段
22、52…データ出力手段
24、54…パーソナルコンピュータ
421…励起光側分光器
422…蛍光側分光器
511…測定順序変更手段
512…振り戻し制御手段
53…選択手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の波長の各々での測定を順次行うために、回転駆動機構を用いて波長分散素子を各波長に対応した方向に順次向けつつ、各方向での波長分散素子で分光された光、又は該光の照射により試料から発せられた光を検出し、その検出信号に基づいて測定データを生成し出力する分光光度計の制御装置であって、
a)各波長での測定の順序を、予め設定されていた順序から波長順に変更し、該変更後の順序に従って回転駆動機構を制御する駆動制御手段と、
b)前記各波長に対応して生成される測定データを前記予め設定されていた順序に並び替えて出力するデータ出力手段と、
を備えることを特徴とする分光光度計用制御装置。
【請求項2】
前記分光光度計が各波長での測定を順次行う動作を繰り返すものであり、
前記駆動制御手段が、波長順に変更された測定順序の最後の波長での測定が行われた後、該波長順が昇順であれば該測定順序の最初の波長よりも短い所定の波長に、該波長順が降順であれば該最初の波長よりも長い所定の波長にそれぞれ対応した方向に波長分散素子を向けてから、該最初の波長に対応した方向に該波長分散素子を向けるように回転駆動機構を制御するものであることを特徴とする請求項1に記載の分光光度計用制御装置。
【請求項3】
前記分光光度計が複数の波長分散素子を同時に用いる測定を順次行うものであり、
前記駆動制御手段が、
a)各測定を行う順序を前記複数の波長分散素子のうちの一つに設定された波長の順に変更する測定順序変更手段と、
b)前記測定順序変更手段により変更された順序に従って前記複数の波長分散素子のうちの他の波長分散素子の向きを変えると、該他の波長分散素子を或る波長に対応した方向に向けるときの回転方向が所定の回転方向とは逆方向である場合、該他の波長分散素子を一旦該波長に対応する位置よりも更に逆方向に回転させた所定の位置まで回転させた後、前記所定の回転方向で該波長に対応する位置まで回転させるように回転駆動機構を制御する振り戻し制御手段と、
を有するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の分光光度計用制御装置。
【請求項4】
前記分光光度計が複数の波長分散素子を同時に用いる測定を順次行うものであり、
前記駆動制御手段にて各測定を行う順序を前記複数の波長分散素子のうちの一つに設定された波長の順に変更するときの該波長分散素子をユーザが該複数の波長分散素子のうちから選択するための選択手段を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の分光光度計用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−261885(P2010−261885A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114384(P2009−114384)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】