説明

分光器、及び、それを備えた光学装置

【課題】入射光の方向と射出光の基準方向を平行に維持しつつ、コンパクトな構成で高い分散角と高い光の利用効率を実現する技術を提供することを課題とする。
【解決手段】分光器11は、直視プリズム15で屈折により波長毎に光を分散させて、分散した光を反射部材(16、17)で反射して、再度、直視プリズム15で屈折させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光器の技術に関し、特にプリズムを用いた分光器に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、使用されている主要な分光器は、プリズムを使用する分光器と、グレーティング(回折格子)を使用する分光器の、2つに大別できる。
【0003】
グレーティングを使用する分光器は、回折を利用して光を波長毎に分散させるが、通常、所定次数以外の回折光は破棄されるため、光の利用効率は高くても70%程度となる。このため、グレーティングを使用する分光器では、プリズムを使用する分光器と比較して、十分な光量を得ることが難しい。
【0004】
これに対して、プリズムを使用する分光器は、屈折を利用して光を波長毎に分散させるため、高い光の利用効率を実現できるが、グレーティングを使用した分光器と比較して、一般に、分散角が小さくなる。このため、プリズムを使用する分光器では、通常、複数のプリズムを利用して、複数回の屈折により光を分散させることで、必要な分散量が確保される。
【0005】
しかしながら、大きな分散量を得るために複数のプリズムを用いて分光器を構成すると、当然に分光器が大型化してしまう。また、プリズムでは、通常、入射光の方向と射出光の基準となる方向(以降、基準方向と記す。)は平行ではない。このため、複数のプリズムを並べると入射光の方向と射出光の基準方向が大きく異なることになる。従って、複数のプリズムを分光器に与えられる限られた空間の中に効率的に配置することは難しく、空間利用効率が低下しやすい。そして、その低い空間利用効率が装置の大型化に拍車をかけることになる。
このような課題に対して有効な技術として、特許文献1では、特定波長の光が直進するように光を分散させる直視プリズムを利用する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、1つのプリズムの周りに反射ミラーを設け、プリズムから射出された光を反射ミラーで反射することにより、光を複数回同じプリズムに入射させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−1727410号公報
【特許文献2】特開2002−22535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術を用いることで、入射光の方向と射出光の基準方向を平行にすることができるため、複数のプリズムを並べても、入射光の方向と射出光の基準方向が大きく異なることはない。しかしながら、特許文献1では、大きな分散量を得ることができるコンパクトな構成については開示されていない。このため、大きな分散量を得るために、複数の直視プリズムを用いて分光器を構成した場合には、装置の大型化は避けられない。
【0009】
また、特許文献2の技術を用いることで、コンパクトな構成で必要な分散量を得ることができる。しかしながら、特許文献2で開示される構成では、プリズムから射出される射出光の基準方向は、プリズムから射出される毎に異なることになる。このため、必要な分散量に依存して射出光の基準方向が異なるため、分散量を調整する場合には、検出系の配置の変更が必要となる。
【0010】
以上のような実情を踏まえ、本発明では、入射光の方向と射出光の基準方向を大きく異ならせることなく、コンパクトな構成で大きな分散量と高い光の利用効率を実現する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、光の屈折により波長毎に光を分散させる直視プリズムと、直視プリズムで分散した光を反射する反射部材と、を含み、直視プリズムは、反射部材を反射した光を、屈折させる分光器を提供する。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の分光器において、反射部材は、直視プリズムから射出された光を反射し、直視プリズムに入射させる分光器を提供する。
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の分光器において、反射部材は、光が分散している分散平面と直交する回転軸を中心に回転する分光器を提供する。
本発明の第4の態様は、第1の態様に記載の分光器において、反射部材は、直視プリズムの内部に配置される分光器を提供する。
【0013】
本発明の第5の態様は、第1の態様乃至第4の態様のいずれか1つに記載の分光器において、反射部材は、直視プリズムから射出された光に対して、挿脱可能に配置される分光器を提供する。
【0014】
本発明の第6の態様は、第1の態様乃至第5の態様のいずれか1つに記載の分光器において、反射部材は、直視プリズムで分散した光のうち、所定波長を越える波長の光を反射する分光器を提供する。
【0015】
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載の分光器において、反射部材は、直視プリズムで分散した光のうち、所定波長を越える波長の光が入射する位置に配置される分光器を提供する。
本発明の第8の態様は、第7の態様に記載の分光器において、反射部材は、直視プリズムで分散した光の分散方向に移動可能に配置される分光器を提供する。
【0016】
本発明の第9の態様は、第6の態様に記載の分光器において、反射部材は、所定波長を越える波長の光が反射するショートウェーブパスフィルタである分光器を提供する。
【0017】
本発明の第10の態様は、第1の態様乃至第9の態様のいずれか1つに記載の分光器において、直視プリズムは、特定波長の光を入射光と平行な方向に射出する分光器を提供する。
【0018】
本発明の第11の態様は、第1の態様乃至第10の態様のいずれか1つに記載の分光器において、直視プリズムは、少なくとも2つのプリズムが接合された接合プリズムである分光器を提供する。
本発明の第12の態様は、第1の態様乃至第11の態様のいずれか1つに記載の分光器を含む光学装置を提供する。
本発明の第13の態様は、第12の態様に記載の光学装置において、光学装置は、走査型顕微鏡である光学装置を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、入射光の方向と射出光の基準方向を大きく異ならせることなく、コンパクトな構成で大きな分散量と高い光の利用効率を実現する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1に係る顕微鏡の構成を例示した図である。
【図2】実施例1に係る分光器の構成を例示した図である。
【図3】実施例1に係る分光器の構成の変形例の側面図である。
【図4】実施例2に係る分光器の構成を例示した図である。
【図5】実施例3に係る分光器の構成の上面図である。
【図6】実施例3に係る分光器の波長に対する分散角の特性を説明するための図である。
【図7】実施例3に係る分光器の波長に対する光の利用効率を説明するための図である。
【図8】実施例3に係る分光器の構成の変形例の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、各実施例について説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は、本実施例に係る顕微鏡の構成を例示した図である。
【0023】
図1に例示される共焦点走査型顕微鏡1は、蛍光顕微鏡であり、レーザ光を射出する光源2と、レーザ光を反射し、蛍光を透過するダイクロイックミラー3と、標本Sを走査する走査装置4と、対物レンズ7の瞳を走査装置4上にリレーするLSM光学系5と、ミラー6と、レーザ光を標本Sに照射する対物レンズ7と、ダイクロイックミラー3を透過した蛍光を集光するコンフォーカルレンズ8と、共焦点ピンホールを有する共焦点絞り9と、蛍光を平行光に変換するコリメートレンズ10と、分光器11及びレンズ12を含む分光光学系13と、分光光学系13で分散した蛍光を検出する検出器14と、を含んで構成されている。
まず、共焦点走査型顕微鏡1の作用について概説する。
【0024】
光源2から射出されたレーザ光は、ダイクロイックミラー3を反射し、走査装置4、LSM光学系5、ミラー6を介して対物レンズ7に入射して、標本S上に照射される。レーザ光が照射された標本Sでは、蛍光物質が励起され、蛍光が発生する。蛍光は、対物レンズによって集められ、レーザ光と同じ経路を反対方向に進行し、ダイクロイックミラー3に入射する。ダイクロイックミラー3に入射した蛍光は、ダイクロイックミラー3を透過して、コンフォーカルレンズ8により共焦点絞り9上に集光する。共焦点絞り9は、対物レンズ7の焦点位置と光学的に共役な位置に共焦点ピンホールを有している。このため、対物レンズ7の焦点位置から生じた蛍光のみが共焦点ピンホールを通過し、焦点位置以外から生じた蛍光は共焦点絞りにより遮断される。共焦点ピンホールを通過した蛍光は、コリメートレンズ10により平行光に変換されて分光光学系13に入射する。分光光学系13に入射した蛍光は、分光器11により波長毎に分散される。そして、分散した蛍光の各々は、レンズ12によりそれぞれ検出器14上に集光し、検出器14によりそれぞれ独立に検出される。
次に、本実施例に係る共焦点走査型顕微鏡1に含まれる分光器11について、図2を参照しながら、詳述する。
【0025】
図2は、本実施例に係る分光器の構成を例示した図である。図2(a)は、本実施例に係る分光器の上面図であり、図2(b)は、本実施例に係る分光器の側面図である。図2(a)及び図2(b)のXYZ座標系は、方向参照の便宜のために設けたものであり、例えば、鉛直方向がZ軸、水平面がXY平面である。
【0026】
なお、図2(a)及び図2(b)に例示される分光器11は、入射する蛍光(光線B)を波長毎に分散させるが、図2(a)及び図2(b)では、説明を簡素化するため、分散した光のうち、第1の波長を有する光線B1、第2の波長を有する光線B2、第3の波長を有する光線B3の光路のみを例示している。また、光線B1、光線B2、光線B3は、この順に、長い波長を有する(つまり、第1の波長>第2の波長>第3の波長)。
【0027】
図2(a)及び図2(b)に例示される分光器11は、入射する光(光線B)を屈折により分散させる直視プリズム15と、直視プリズム15で分散した光(光線B1、光線B2、光線B3)を反射する反射部材であるミラー16及びミラー17と、を含んで構成されている。ミラー16とミラー17は、平行に配置されている。
【0028】
直視プリズム15は、特定波長の光を入射光と平行な方向に射出するプリズムであり、図2(a)及び図2(b)では、第2の波長の光線B2が、入射光である光線Bと平行な方向に射出される例が示されている。また、図2(a)では、直視プリズム15は、3つのプリズムを接合した接合プリズムとして例示されているが、特にこれに限られない。直視プリズム15は、少なくとも2つのプリズムが接合された接合プリズムであればよい。
【0029】
図2(a)及び図2(b)に例示されるように、分光器11に入射した光線Bは、まず、直視プリズム15で分散される。そして、分散した光線(光線B1、光線B2、光線B3)は、ミラー17に入射する。ミラー17は、直視プリズム15から射出された光線を反射して、再度、直視プリズム15に入射させる。直視プリズム15は、ミラー17を反射した光線を屈折させる。その後、直視プリズム15で屈折した光線は、ミラー16に入射する。ミラー16も、ミラー17と同様に作用する。つまり、ミラー16は、直視プリズム15から射出された光線を反射して、直視プリズム15に入射させる。そして、直視プリズム15は、ミラー16を反射した光線を再度屈折させる。
【0030】
このように、本実施例に係る分光器11は、直視プリズム15で分散した光線を反射部材(ミラー16、ミラー17)で反射し、反射した光線を再度直視プリズム15で屈折させる。これにより、直視プリズム15でより多く屈折が生じることになり、その結果、射出される光線の分散量を向上させることができる。
【0031】
また、図2(a)及び図2(b)に例示されるように、直視プリズム15が第2の波長の光線B2を光線Bと平行な方向に射出する特性を有し、且つ、ミラー16及びミラー17が平行に配置されているため、光線B2の射出される方向は、ミラー17及びミラー16を反射した後も変化しない。従って、光線Bの方向と光線B2の方向は同じである。
【0032】
さらに、直視プリズム15は、屈折を利用して光を分散させるため、回折を利用して光を分散させるグレーティングと比べて、光量の損失が抑制することができる。
【0033】
従って、本実施例に係る分光器11及び分光器11を含む共焦点走査型顕微鏡1によれば、入射光の方向と射出光の基準方向を大きく異ならせることなく、コンパクトな構成で大きな分散量と高い光の利用効率を実現することができる。
【0034】
なお、図2(b)に例示されるように、ミラー16及びミラー17は、Z座標の異なる位置に配置されている。より具体的には、ミラー16は、分光器11への入射光には作用しない位置に配置され、ミラー17は、分光器11からの射出光には作用しない位置に配置されている。
【0035】
ここでは、ミラー16及びミラー17は、それぞれ一回ずつ光を反射しているが、特にこれに限られない。Z方向により長いミラーを用いることで、それぞれのミラーで複数回ずつ光を反射させても良い。これにより、分光器11のX方向の大きさを変えることなく、直視プリズム15のZ方向の大きさを有効に利用して、より大きな分散量を得ることができる。
【0036】
また、ミラー16及びミラー17のZ方向の長さを変更する代わりに、ミラー16と略同じ平面上でZ座標の異なる位置に別のミラーを配置してもよく、同様に、ミラー17と略同じ平面上でZ座標の異なる位置に別のミラーを配置してもよい。この場合も、分光器11のX方向の大きさを変えることなく、直視プリズム15のZ方向の大きさを有効に利用して、より大きな分散量を得ることができる。
【0037】
また、ミラー16及びミラー17(反射部材)の各々は、直視プリズム15から射出される光に対して、挿脱可能に配置されてもよい。反射回数を調整することで、直視プリズム15での屈折回数を調整することができるため、必要に応じて分散量を調整することができる。例えば、分光器11の入射側に、Z方向に比較的長いミラー16を配置し、分光器11の射出側に、略同じ平面上のZ座標の異なる位置に複数のミラー17を並べても良い。この場合、任意のミラー17を光路上から取り外すことで、射出光の基準方向と入射光の方向とを平行に維持しつつ、必要に応じて分散量を調整することができる。
【0038】
図3は、本実施例に係る分光器の構成の変形例の上面図である。図3のXYZ座標系は、図2のXYZ座標系と同様に定義されている。図3に例示される変形例に係る分光器18は、入射する光を屈折により波長毎に分散させる直視プリズム15と、直視プリズム15で分散した光を反射する反射部材(ミラー19、ミラー20)と、を含んで構成されている点は、図2に例示される本実施例の分光器18と同様である。
【0039】
分光器11では、図2(b)に例示されるように、反射部材(ミラー16及びミラー17)がZ軸に対して平行に配置されている。このため、分光器11への光の入射がミラー16により妨げられないように、また、分光器11からの光の射出がミラー17により妨げられないように、Z軸に対して斜めの入射光を直視プリズム15へ入射させている。従って、分光器11では、入射光の方向及び射出光の基準方向は、水平面に対して平行にならない。
【0040】
一方、変形例に係る分光器18では、図3に例示されるように、反射部材(ミラー19及びミラー20)がZ軸に対して斜めに、且つ、互いに平行に、配置されている。このため、Z軸に対して直交する入射光を直視プリズム15へ入射させた場合であっても、ミラー19及びミラー20が分光器18への光の入射や分光器18からの光の射出を妨げることはない。従って、本変形例に係る分光器18によれば、入射光の方向及び射出光の基準方向を水平面に対して平行にすることができる。
【0041】
なお、図3に例示される分光器18では、反射部材がZ軸に対して斜めに配置する例、つまり、図2に例示される分光器11に対して反射部材をY軸と平行な回転軸を中心に回転させる例を示したが、反射部材の回転は、特にこれに限られない。反射部材は、光が分散している分散平面と直交する回転軸、ここでは、Z軸と平行な回転軸を中心に回転してもよい。これにより、入射光と平行な方向に射出される光の波長を変更することができる。
【0042】
以上、本実施例及び本変形例では、分光器を含む構成として共焦点走査型顕微鏡1を例示したが、特にこれに限られず、任意の光学装置に利用できる。しかし、分光器は波長の異なる光を空間的に分離するものである。このため、分光器を顕微鏡に用いる場合、波長に関する情報と観察対象の2次元情報とを同時に検出することは難しい。従って、分光器を用いる顕微鏡としては、走査型顕微鏡が好適である。
【実施例2】
【0043】
図4は、本実施例に係る分光器の構成を例示した図である。図4(a)は、本実施例に係る分光器の上面図であり、図4(b)は、本実施例に係る分光器の側面図である。図4(a)及び図4(b)のXYZ座標系は、方向参照の便宜のために設けたものであり、例えば、鉛直方向がZ軸、水平面がXY平面である。なお、本実施例に係る分光器21も、実施例1に係る分光器11と同様に、任意の光学装置に利用することができる。
【0044】
また、図4(a)及び図4(b)でも、説明を簡素化するため、本実施例に係る直視プリズム22で分散した光のうち、第1の波長を有する光線B1、第2の波長を有する光線B2、第3の波長を有する光線B3の光路のみを例示している。
【0045】
本実施例に係る分光器21は、入射する光(光線B)を屈折により分散させる直視プリズム22と、直視プリズム22で分散した光(光線B1、光線B2、光線B3)を反射する反射部材(ミラー23、ミラー24)と、を含んで構成されている点は、実施例1に係る分光器11と同様である。ただし、反射部材であるミラー23及びミラー24が、直視プリズム22の内部に配置されている点が、実施例1に係る分光器11と異なっている。
【0046】
図4(a)に例示されるように、ミラー23とミラー24の間に少なくとも1つの接合面が存在する位置に、ミラー23及びミラー24は配置されることが望ましい。すなわち、ミラー23及びミラー24は、直視プリズム22を構成する別のプリズム内に配置されることが望ましい。これにより、ミラー23及びミラー24を反射した光は、接合面で屈折するため、分光器21から射出される光線の分散量を向上させることができる。
【0047】
このように反射部材を直視プリズム22の内部に配置することで、屈折率差の大きな空気接触面を光が透過する回数が減少する。このため、空気接触面での不要な反射光が減少し、分光器11で生じる光量の損失を抑制することができる。
【0048】
以上、本実施例に係る分光器21及び分光器21を含む光学装置によれば、実施例1に係る分光器11及び分光器11を含む光学装置と同様に、入射光の方向と射出光の基準方向を大きく異ならせることなく、コンパクトな構成で大きな分散量と高い光の利用効率を実現することができる。
【0049】
なお、本実施例に係る分光器21も、実施例1に係る分光器11と同様に、種々の変形が可能である。例えば、反射部材の長さや個数を変えて、それぞれの反射部材で複数回ずつ光を反射させても良い。また、反射部材は、直視プリズム22内部に挿脱可能に配置されてもよい。また、反射部材は、直視プリズム22内部でZ軸に対して斜めに、且つ、互いに平行に配置されてもよい。
【実施例3】
【0050】
図5は、本実施例に係る分光器の構成の上面図である。図5のXYZ座標系は、方向参照の便宜のために設けたものであり、例えば、鉛直方向がZ軸、水平面がXY平面である。なお、本実施例に係る分光器25も、実施例1に係る分光器11と同様に、任意の光学装置に利用することができる。
【0051】
また、図5でも、説明を簡素化するため、本実施例に係る直視プリズム26で分散した光のうち、第1の波長を有する光線B1、第2の波長を有する光線B2、第3の波長を有する光線B3の光路のみを例示している。また、光線B1、光線B2、光線B3は、この順に長い波長を有する(つまり、第1の波長>第2の波長>第3の波長)。
【0052】
ところで、プリズムを使用する分光器の分散角は、一般に、グレーティングを使用する分光器の分散角に比べて、波長に対する線形性が低い。その結果、プリズムを使用する分光器では、射出される光の分散量についても、波長に対する線形性が低くなる。検出器の受光面に配列された受光素子が、通常、一定間隔で並べられていることを考慮すると、このような分散量の非線形性は、各受光素子に入射する光の波長域の幅のばらつきを引き起こすことになり、好ましくない。
【0053】
各受光素子に入射する光の波長域の幅のばらつきを抑制するために、受光素子の間隔を分光器の分光特性に合わせて変更する方法も考えられるが、その場合でも、光学的な分解能自体が改善されるわけではない。
本実施例に係る分光器25は、このような波長に対する分散量の線形性を、分光器自身により改善することができる。
【0054】
本実施例に係る分光器25は、入射する光を屈折により分散させる直視プリズム26と、直視プリズム26で分散した光を反射する反射部材(ミラー27、ミラー28)と、を含んで構成されている点は、実施例1に係る分光器11と同様である。ただし、反射部材が、直視プリズム26で分散した光(光線B1、光線B2、光線B3)のうち、所定波長を越える波長の光のみを反射する点が異なっている。なお、本実施例では、所定波長は、光線B2の有する第2の波長であり、550nmであるが、特にこれに限られない。
【0055】
より具体的には、ミラー28は、光線B2の有する第2の波長を越える波長の光が入射する位置に配置されることにより、第2の波長を越える波長の光(光線B1)を反射する。このため、ミラー27にも第2の波長を越える波長の光(光線B1)のみが入射し、ミラー27は光線B1を反射する。このため、本実施例に係る分光器25では、550nm以下の波長の光(光線B2、光線B3)は直視プリズム26を1回だけ通過し、550nmを越える波長の光(光線B1)は、直視プリズム26を3回通過する。
【0056】
図6は、本実施例に係る分光器の波長に対する分散角の特性を説明するための図である。縦軸は分光器から射出されたときの分散角を示し、横軸は波長を示している。線Ld1(一点鎖線)は、光が反射部材を反射せずに直視プリズム26を1回だけ通過した場合の特性を示し、線Ld3(実線)は、光が反射部材を反射して直視プリズム26を3回通過した場合の特性を示している。また、線LdC(点線)は、本実施例に係る分光器25の特性であり、550nm以下の波長の光は反射部材を反射せずに直視プリズム26を1回だけ通過し、550nmを超える波長の光は、反射部材を反射して直視プリズム26を3回通過した場合の特性を示している。
【0057】
図6の線Ld1に示されるように、プリズムは屈折を利用して光を分散させるため、一般に、高波長域では低波長域に比べて分散量(分散度)の変化は緩やかになる。しかし、本実施例に係る分光器25では、分散量の変化が緩やかな高波長域の波長を反射部材で反射して、直視プリズム26を3回通過させることにより、高波長域での分散量の変化率を向上させている。これにより、図6の線LdCに例示されるように、全波長域でおよそ線形な波長特性を実現している。なお、ここでは、高波長域と低波長域という表現は、波長の大小についての相対的な関係を示しており、特定の範囲の波長を示すものではない。
【0058】
図7は、本実施例に係る分光器の波長に対する光の利用効率を説明するための図である。縦軸は光の利用効率を示し、横軸は波長を示している。線Lt1(一点鎖線)は、光が反射部材を反射せずに直視プリズム26を1回だけ通過した場合の特性を示し、線Lt3(実線)は、光が反射部材を反射して直視プリズム26を3回通過した場合の特性を示している。また、線LtC(点線)は、本実施例に係る分光器25の特性であり、550nm以下の波長の光は反射部材を反射せずに直視プリズム26を1回だけ通過し、550nmを超える波長の光は、反射部材を反射して直視プリズム26を3回通過した場合の特性を示している。さらに、線Lr(破線)は、回折格子を用いた分光器の波長に対する光の利用効率を示している。
【0059】
図7の線Lt1及び線Lt3に示されるように、直視プリズム26を複数回通過することで、光の利用効率は全波長域で低下する。これは、主に、空気接触面で不要な反射が生じることが原因として考えられる。しかしながら、線LtCに示される本実施例に係る分光器25の光の利用効率は、線Lrに示される回折格子を用いた分光器の光の利用効率よりも、全波長域で高い。
【0060】
このように、反射部材が所定波長を越える波長の光のみを反射するように構成することで、回折格子を用いた分光器に比べて高い光の利用効率を実現しながら、分光器の分散量の波長に対する線形性を改善することができる。
【0061】
以上、本実施例に係る分光器25及び分光器25を含む光学装置によれば、実施例1に係る分光器11及び分光器11を含む光学装置と同様に、入射光の方向と射出光の基準方向を大きく異ならせることなく、コンパクトな構成で大きな分散量と高い光の利用効率を実現することができる。また、それに加えて、分散量の波長に対する線形性を改善することができる。
【0062】
なお、本実施例に係る分光器25では、直視プリズム26が入射光と平行な方向に射出する光の波長(特定波長)と、反射部材が反射する光の波長の境界(所定波長)とが、一致する例を示したが、特にこれに限られない。
【0063】
また、本実施例に係る分光器25のミラー28(反射部材)は、直視プリズム26で分散した光の分散方向に移動可能に配置されてもよい。分散方向とは、直視プリズム26により光が分散する方向であり、本実施例に係る分光器25ではY方向である。これにより、ミラー17に入射する光の波長域を変更し、分散量を向上させる波長域を変更することができるため、分散量の波長に対する線形性の改善がより容易となる。
【0064】
図8は、本実施例に係る分光器の構成の変形例の上面図である。図8のXYZ座標系は、図5のXYZ座標系と同様に定義されている。図8に例示される変形例に係る分光器29は、入射する光を屈折により分散させる直視プリズム30と、直視プリズム30で分散した光(光線B1、光線B2、光線B3)のうち、所定波長を越える波長の光を反射する反射部材(ミラー31、ショートウェーブパスフィルタ32)と、を含んで構成されている点は、図5に例示される本実施例に係る分光器25と同様である。ただし、射出側に配置された反射部材として、ミラー28の代わりに、所定波長を越える波長の光を反射する光学特性を有するショートウェーブパスフィルタ32を用いている点が異なっている。
【0065】
変形例に係る分光器29では、図8に例示されるように、所定波長以下の波長の光(光線B2、光線B3)は、ショートウェーブパスフィルタ32を透過する。このため、所定波長以下の波長の光がショートウェーブパスフィルタ32に入射しないように反射部材(ショートウェーブパスフィルタ32)を配置する必要はない。従って、変形例に係る分光器29によれば、高精度な位置決めが不要となり、製造上の負担が低減される。また、個体間でより安定した性能を実現することもできる。
【0066】
なお、本実施例に係る分光器25及び本変形例に係る分光器29も、実施例1に係る分光器11と同様に、種々の変形が可能である。例えば、反射部材の長さや個数を変えて、それぞれの反射部材で複数回ずつ光を反射させても良い。また、反射部材は、直視プリズム30内部に挿脱可能に配置されてもよい。また、反射部材は、直視プリズム30内部でZ軸に対して斜めに、且つ、互いに平行に配置されてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1・・・共焦点走査型顕微鏡、2・・・光源、3・・・ダイクロイックミラー、4・・・走査装置、5・・・LSM光学系、6、16、17、19、20、23、24、27、28、31・・・ミラー、7・・・対物レンズ、8・・・コンフォーカルレンズ、9・・・共焦点絞り、10・・・コリメートレンズ、11、18、21、25、29・・・分光器、12・・・レンズ、13・・・分光光学系、14・・・検出器、15、22、26、30・・・直視プリズム、32・・・ショートウェーブパスフィルタ、S・・・標本、Ld1、Ld2、LdC、Lt1、Lt2、LtC、Lr・・・線、B、B1、B2、B3・・・光線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の屈折により波長毎に光を分散させる直視プリズムと、
前記直視プリズムで分散した光を反射する反射部材と、を含み、
前記直視プリズムは、前記反射部材を反射した光を、屈折させることを特徴とする分光器。
【請求項2】
請求項1に記載の分光器において、
前記反射部材は、
前記直視プリズムから射出された光を反射し、
前記直視プリズムに入射させることを特徴とする分光器。
【請求項3】
請求項2に記載の分光器において、
前記反射部材は、光が分散する分散平面と直交する回転軸を中心に回転することを特徴とする分光器。
【請求項4】
請求項1に記載の分光器において、
前記反射部材は、前記直視プリズムの内部に配置されることを特徴とする分光器。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の分光器において、
前記反射部材は、前記直視プリズムから射出された光に対して、挿脱可能に配置されることを特徴とする分光器。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の分光器において、
前記反射部材は、前記直視プリズムで分散した光のうち、所定波長を越える波長の光を反射することを特徴とする分光器。
【請求項7】
請求項6に記載の分光器において、
前記反射部材は、前記直視プリズムで分散した光のうち、前記所定波長を越える波長の光が入射する位置に配置されることを特徴とする分光器。
【請求項8】
請求項7に記載の分光器において、
前記反射部材は、前記直視プリズムで分散した光の分散方向に移動可能に配置されることを特徴とする分光器。
【請求項9】
請求項6に記載の分光器において、
前記反射部材は、前記所定波長を越える波長の光が反射するショートウェーブパスフィルタであることを特徴とする分光器。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の分光器において、
前記直視プリズムは、特定波長の光を入射光と平行な方向に射出することを特徴とする分光器。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の分光器において、
前記直視プリズムは、少なくとも2つのプリズムが接合された接合プリズムであることを特徴とする分光器。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の分光器を含むことを特徴とする光学装置。
【請求項13】
請求項12に記載の光学装置において、
前記光学装置は、走査型顕微鏡であることを特徴とする光学装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−128108(P2011−128108A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289198(P2009−289198)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】