説明

分散性の向上したセラミックス粉末の製造方法、及びセラミックス粉末の分散液の製造方法

【課題】 分散性が良好で成形体の高密度化が可能なセラミックス粉末を提供する。
【解決手段】 ラジカル種を生成可能な液体状の媒質中に、表面修飾剤によって予め修飾された原料セラミックス粉末を投入し、前記原料セラミックス粉末が投入された前記媒質を流動させた状態で、当該媒質中にて前記ラジカル種を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散性の向上したセラミックス粉末、及びセラミックス粉末の分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス成形体は、多くの場合、以下の工程によって製造される:セラミックス粉末を所定の分散媒中に分散させ、得られた分散液(スラリー)を適宜の形状に成型し、この成型体を焼成する。
【0003】
ところで、この種のセラミックス成形体を均一かつ高密度で形成するためには、分散液におけるセラミックス粉末の分散性を向上する(すなわち分散状態を均一化する)必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セラミックス粉末分散液における分散性をより向上するために、セラミックス粒子表面に対して様々な処理が行われ得る。
【0005】
具体的には、例えば、分散剤を用いた分散性の向上が試みられることがある。このとき、一般的には、低分子量の分散剤が多量に添加されたり、いわゆる高分子分散剤が添加されたりする。しかしながら、この方法では、余剰の分散剤(すなわちセラミックス粒子表面に吸着していないフリーの分散剤)が比較的多量に生じ、これにより上述の成型体や焼成後のセラミックス成形体の密度が低下してしまう懸念がある。
【0006】
本発明は、上述した課題に対処するためになされたものである。すなわち、本発明の目的は、分散性が良好で成形体の高密度化が可能なセラミックス粉末及びその分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の特徴は、以下の方法で、分散性の向上したセラミックス粉末を製造することにある:(1)ラジカル種を生成可能な液体状の媒質中に、表面修飾剤によって予め修飾された原料セラミックス粉末を投入し、(2)前記原料セラミックス粉末が投入された前記媒質を流動させた状態で、当該媒質中にて前記ラジカル種を生成する。
【0008】
また、本発明の特徴は、上述の(1)及び(2)の工程によって、所定の分散媒に分散するように前記表面修飾剤の末端基が改質された粉末を、前記分散媒に分散させることで、分散性の良好なセラミックス粉末の分散液を製造することにある。
【0009】
前記ラジカル種の生成は、例えば、前記媒質中に浸漬された一対の電極間に(交流あるいはパルス状の)電圧を印加して当該媒質中にてプラズマ(液中プラズマ)を発生させることで行われ得る。前記媒質として水溶液が用いられる場合、前記ラジカル種は、典型的には、OH・又はH・となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法においては、前記原料セラミックス粉末が投入された前記媒質を流動させた(撹拌した)状態で、当該媒質中にて前記ラジカル種が生成する。具体的には、例えば、前記媒質中に浸漬された一対の前記電極間に電圧を印加して当該媒質中にてプラズマ(液中プラズマ)を発生させると、プラズマ発生領域にて、当該媒質が高温・高圧状態(超臨界状態)になるとともに、前記ラジカル種が生成する。
【0011】
このラジカル種の作用で、前記原料セラミックス粉末の各粒子表面に付着した前記表面修飾剤の末端基が改質される。これにより、改質後のセラミックス粉末が、所定の分散媒に良好に分散し得るようになる。具体的には、例えば、前記分散媒が水系であって、前記末端基がメチル基(−CH3)等の疎水基である場合に、前記媒質としての水溶液中での前記ラジカル種(典型的にはOH・)との反応によって、当該末端基がカルボキシル基(−COOH)等の親水基に改質され得る。
【0012】
本発明の方法によって得られた粉末(改質後セラミックス粉末)を、前記分散媒に分散させて、スラリーを調製した場合、きわめて良好な分散性を示す。よって、かかるスラリーを用いた成型体を焼成すると、高密度なセラミックス成形体が得られる。したがって、本発明によれば、分散性が良好で成形体の高密度化が可能な、セラミックス粉末及びその分散液を提供することが可能となる。
【0013】
また、本発明によれば、前記原料セラミックス粉末における前記表面修飾剤に対する改質が、当該粉末に含まれる各粒子に対してほぼ均一に行われる。さらに、結晶状態や粒度分布を不用意に変化させることが効果的に抑制され得る。
【0014】
なお、本発明の方法においては、前記原料セラミックス粉末の各粒子における表面と前記ラジカル種との反応は、当該粉末が投入された液体状の前記媒質を流動させながら(撹拌しながら)行われる。よって、気中プラズマ処理等を用いた乾式処理とは異なり、前記表面の改質を、粒子のほぼ全面に均一に行うことができる。また、粒子の再凝集の発生が良好に抑制され得る。
【0015】
液中プラズマによって前記ラジカル種を生成する場合、このプラズマの近傍では衝撃波が作用する。よって、かかる衝撃波によって弱い凝集体を解砕しながら改質を行うことができる。
【0016】
また、本発明の方法においては、前記原料セラミックス粉末の各粒子における表面と前記ラジカル種とが液中で反応することで、当該表面が改質される。よって、メカノケミカル処理等を用いた他の方法とは異なり、前記表面の改質が、結晶状態や粒度分布を不用意に変化させることなく行われ得る。
【0017】
なお、本発明の方法は、バッチ処理のみならず、流通式のシステムを用いた連続的な処理として行うことが可能である。また、本発明の方法は、酸化物セラミックス粉末の水系分散媒に対する分散性を向上する際に、好適に用いられ得る。特に、粒子径が小さい場合であっても、凝集の発生を効果的に抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の製造方法を実施するための装置の一例の要部構成を示す概略図である。
【図2】水/トルエンの2相分離溶液に対する、実施例及び比較例の粉末の分散性を示す写真である。
【図3】実施例及び比較例のFT−IRスペクトルである。
【図4】実施例及び比較例の粉末を水に添加した場合のpH変化を示すグラフである。
【図5】本発明の製造方法を実施するための装置の他の一例の要部構成を示す概略図である。
【図6】本発明の製造方法を実施するための装置のさらに他の一例の要部構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態及び代表的な実施例について、適宜図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態に関する記載は、法令で要求されている明細書の記載要件(記述要件・実施可能要件)を満たすために、本発明の具体化の単なる一例を、可能な範囲で具体的に記述しているものにすぎない。
【0020】
よって、後述するように、本発明が、以下に説明する実施形態の具体的構成に何ら限定されるものではないことは、全く当然である。本実施形態に対して施され得る各種の変更(modification)は、当該実施形態の説明中に挿入されると、一貫した実施形態の説明の理解が妨げられるので、末尾にまとめて記載されている。
【0021】
<実施形態の製造方法を実施するための装置構成の概要>
図1は、本発明の製造方法を実施するための装置の一例の要部構成を示す概略図である。この製造装置1は、貯留槽2と、攪拌機3と、液中プラズマ発生装置4と、を備えている。
【0022】
貯留槽2内には、導電率が調整された水溶液である媒質Sが貯留されている。攪拌機3は、貯留槽2内にて媒質Sを流動させる(撹拌する)ようになっている。
【0023】
液中プラズマ発生装置4は、一対の電極4aを備えている。一対の電極4aは、貯留槽2に貯留された媒質S中に浸漬されるように、貯留槽2内に設けられている。また、一対の電極4a間に電圧を印加して媒質S中にてプラズマ(液中プラズマ)を発生させることでラジカル種が生成するように、一対の電極4aが配置されている。
【0024】
具体的には、電極4aは、先端を露出するように、電極ホルダ4bに固定されている。一対の電極ホルダ4bは、一対の電極4aが所定のギャップを隔てて対向するように、図示しない支持手段によって支持されている。また、一対の電極4aは、電源4cと電気的に接続されている。
【0025】
<実施形態の分散性の向上したセラミックス粉末の製造方法の概要>
本実施形態の、分散性の向上したセラミックス粉末の製造方法は、以下の工程を含む。
(1)ラジカル種としてのOH・又はH・を生成可能な水溶液である媒質S中に、表面修飾剤によって予め修飾された原料セラミックス粉末を投入する。
(2)上述の原料セラミックス粉末が投入された媒質Sを攪拌機3によって流動させつつ(撹拌しつつ)、一対の電極4a間に電圧を印加して媒質S中にてプラズマ(液中プラズマ)を発生させる。すると、プラズマ発生領域にて、当該媒質が高温・高圧状態(超臨界状態)になる。これにより、当該媒質Sが加熱されるとともに、当該媒質S中にてラジカル種(OH・又はH・)が生成する。
【0026】
媒質S中で生成したラジカル種と熱との作用で、原料セラミックス粉末の各粒子表面に付着した表面修飾剤の末端基が改質される。具体的には、例えば、上述の末端基がメチル基(−CH3)である場合に、ラジカル種(典型的にはOH・)との反応によって、当該末端基がカルボキシル基(−COOH)に改質され得る。これにより、改質後のセラミックス粉末が、水系の分散媒に良好に分散される。
【実施例1】
【0027】
以下、本発明の製造方法の一実施例の具体的な工程内容及び評価結果について、比較例と対照しつつ説明する。
【0028】
<実施例>
(A)イオン交換水にKClを添加することで、導電率を1mS/cmに調整したKCl水溶液である媒質を調製した。
(B)貯留槽2としての200mlビーカーに、上述の媒質100mlと、原料セラミックス粉末としての表面修飾済みZrO2粉末1gと、を投入した。
(C)媒質及び粉末投入後の貯留槽2内をマグネティックスターラーで撹拌しながら、媒質内にて液中プラズマを発生させた(5分間)。
(E)上述の液中プラズマによる処理後、吸引濾過及び洗浄を数回繰り返した後、100℃で乾燥することで、改質後セラミック粉末を得た。
【0029】
上記工程(C)における液中プラズマ発生条件は、以下の通りである:電極4aは直径1mm(先端は円筒状)のタングステン電極、電極間ギャップは5mm、電圧は0V/2kVのパルス状電圧(20kHz、パルス幅1.7μsec、電源出力200W)。
【0030】
なお、原料セラミックス粉末としての、表面修飾済みZrO2粉末は、下記のようして得られたものである。
【0031】
イオン交換水100ml中に、表面修飾前の粉末状(BET比表面積33m2/g、走査電子顕微鏡観察による粒子径約50nm)のZrO2を5g添加し、300W超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所社製:品番US−300T)で2分間、分散処理を行った。
【0032】
次に、オートクレーブ(オーエムラボテック株式会社製:品番MMJ−500)付属のハステロイ(登録商標)製の500ml圧力容器に、上述の分散処理済みの液を投入し、これに表面修飾剤(分散剤)としてのヘキサン酸を5g添加し、オートクレーブにセットした後、オートクレーブ付属の攪拌機によって撹拌しながら、400℃、25MPaにて、5分間水熱処理した。
【0033】
上述の水熱処理の後に室温まで冷却された分散液を吸引濾過して固形分を採取するとともに、この固形分を酢酸ブチルによる洗浄及び吸引濾過を数回繰り返した後、100℃で乾燥した。
【0034】
なお、BET比表面積は、BET比表面積測定装置(マイクロメリテックス株式会社製:製品名トライスター3000)を用い、以下の条件で測定したものである:セルに試料2gを投入し、200℃,60分真空引きしつつ乾燥し、液体窒素温度におけるN吸着量を、3点法にて測定した。
【0035】
<評価結果1:親水性/疎水性の確認>
上述の実施例によって得られた粉末を、水中に添加して、300W超音波ホモジナイザー(同上)で2分間、分散処理を行ったところ、良好で安定な分散性のスラリーが得られた。
【0036】
ここで、上述の実施例によって得られた粉末、及び比較例としての原料セラミックス粉末を、水/トルエンの2相分離溶液中に混合して、分散性を確認した結果を、図2に示す。
【0037】
図2に示されているように、比較例の(すなわち本実施例による処理前の)粉末はトルエン相側に分散した一方、実施例の粉末は水相側に分散した。
【0038】
<評価結果2:FT−IR分析>
上述の実施例の粉末、及び比較例としての原料セラミックス粉末を、KBr粉末で希釈混和して錠剤化することで調製した試料を、FT−IR分析装置(株式会社パーキンエルマー社製:製品名spectrum2000)によって拡散反射法で分析した結果を、図3に示す。
【0039】
図3に示されているように、比較例と対比すると、実施例においては、CH3伸縮振動に対応するピーク(2960及び2870cm-1)が減少している一方、OH伸縮振動に起因する3500cm-1のピーク、及び、C=O伸縮振動に起因する1680cm-1のピークが増加した。
【0040】
<評価結果3:水中分散時の電気化学的挙動>
上述の実施例の粉末、及び比較例としての原料セラミックス粉末を、pH7.0程度のイオン交換水に添加した場合のpH変化を示すグラフを、図4に示す。
【0041】
図4に示されているように、比較例の粉末の場合、添加量の増加とともにpHが上昇し、7.5程度でpH変化が一定となった(飽和した)。一方、実施例の粉末の場合、添加量の増加とともにpHが低下し、ほぼカルボン酸のpKaに相当する4.5程度でpH変化が一定となった。
【0042】
さらに、粉末添加後の各水溶液を試料として、ゼータ電位測定装置(シスメックス株式会社製:製品名Nano−ZS)によってゼータ電位を行ったところ、比較例の場合は+15mVとなったのに対し、実施例の場合は−23mVとなった。加えて、アンモニア水を用いてpHを7に調整したところ、−45mVとなった。このサンプルは、比較例のサンプルは1日で完全に沈降したのに対し、1週間放置しても全く沈降しておらず、良好な分散性を示した。
【0043】
ところで、プラズマ発生部への粉末の接近距離は、ラジカル反応や熱エネルギー、衝撃波を有効に利用する上で、重要なパラメーターである。そこで、プラズマ発生部への粉末の接近距離について、以下検討する。
【0044】
実施例に使用した粉末は、表面が疎水化されているため、水に添加して攪拌しても、水に浮いた状態になる。また、水面と電極の距離は、実施例では10mmで行った。
【0045】
ここで、ラジカル反応が進むと、疎水化した粉末の表面改質層が親水化されていくため、浮いていた粉末が水中に分散していく。よって、処理できたかどうかは、水中に分散していったかどうかで判断ができる。
【0046】
この点、水面と電極間の距離を30mmから順に距離を縮めていくと、20mmから水中に分散していき、0.5mmより小さくなると、粉末が黒く変色した。すなわち、粉末を処理する場合、粉末の供給は、ラジカル発生部から0.5mm以上、20mm以下の位置で実施することが好ましい条件である。
【0047】
水面と電極間の距離が20mmよりも離れている場合は、ラジカルが届かない、もしくは、熱エネルギーが足りないため、反応が進まない。一方、水面と電極間の距離が0.5mmよりも短い場合は、粉末は黒く変色した。この理由は、過大な熱エネルギーの供給が原因で、粉末に熱分解や炭化が生じたことであると思われる。
【0048】
<評価結果まとめ>
以上の評価結果より、実施例の方法においては以下の現象が発生しているものと考えられる。
【0049】
原料セラミックス粉末を得るための、ヘキサン酸による表面修飾の際に、ZrO2粉末とヘキサン酸との混合物に対する水熱処理により、当該粉末における各粒子表面のZrO2とヘキサン酸のカルボキシル基とが、脱水反応的に結合する。このため、原料セラミックス粉末の表面修飾剤の末端基はメチル基(−CH3)となる。このメチル基が、実施例の液中プラズマ処理により、カルボキシル基(−COOH)に改質される。この改質は、メチル基と水溶液中で発生したラジカル種(典型的にはOH・)との反応によるものであると考えられる。
【0050】
本実施例の方法は、酸化物セラミックス粉末の水系分散媒に対する分散性を向上する際に、好適に用いられ得る(理由は下記の通りである)。特に、粒子径が小さい場合であっても、凝集の発生を効果的に抑制することが可能になる。
【0051】
水系媒質中にて、「R1−・・・−R2」という構造(R1は親水基、R2は疎水基)の表面修飾剤(分散剤)と酸化物セラミックス粉末とを混合して水熱処理すると、当該粉末における各粒子の表面に付着した表面修飾剤は、「−R2」という疎水基を末端基として有することとなる。この場合、当該粉末は疎水化されてしまう。
【0052】
一方、上記の疎水基R2を親水基R3(R1と同一であり得る)に置換する方法が考えられる。この場合、水系媒質中にて、「R1−・・・−R3」という構造(R1、R3は親水基)の表面修飾剤(分散剤)を用いることとなる。しかしながら、この場合、水熱処理の結果、「P−・・・−P」(Pは酸化物セラミックス粒子)というような、隣り合う2つの酸化物セラミックス粒子Pが分散剤によって架橋された状態が生じてしまう。よって、かかる処理により、かえって凝集が発生してしまう。
【0053】
そこで、水系媒質中にて上述の「R1−・・・−R2」という構造の表面修飾剤(分散剤)と酸化物セラミックス粉末とを混合して水熱処理して、表面修飾剤(吸着分散剤)の末端基を一旦「−R2」という疎水基にし、この疎水基をラジカル反応によって親水基に改質することで、「P−・・・−R1」という水系分散媒に対して分散しやすい状態が、容易かつ確実に実現される。
【0054】
<変形例の例示列挙>
なお、上述の実施形態や実施例は、上述した通り、出願人が取り敢えず本願の出願時点において最良であると考えた本発明の代表的な具体化の一例を単に示したものにすぎない。よって、本発明はもとより上述の実施形態や実施例に何ら限定されるものではない。したがって、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、上述の実施形態や実施例に対して種々の変形が施され得ることは、当然である。
【0055】
以下、代表的な変形例について、幾つか例示する。もっとも、言うまでもなく、変形例とて、以下に列挙されたもの限定されるものではない。また、複数の変形例の全部又は一部が、技術的に矛盾しない範囲内において、適宜、互いに複合的に適用され得る。
【0056】
本発明(特に、本発明の課題を解決するための手段を構成する各構成要素における、作用的・機能的に表現されているもの)は、上述の実施形態や、下記変形例の記載に基づいて限定解釈されてはならない。このような限定解釈は、(先願主義の下で出願を急ぐ)出願人の利益を不当に害する反面、模倣者を不当に利するものであって、許されない。
【0057】
本発明は、上述の実施形態で示された具体的な装置構成に限定されない。
【0058】
例えば、電極4aの材質や形状、ギャップ幅、媒質Sの種類や導電率、等についても、プラズマが発生する条件であれば特段の限定はない。
【0059】
温度に関しては、貯留槽2を外部から冷却する等の方法で、媒質Sの温度を沸点以下に抑制しつつほぼ一定となるように制御することが好ましい。これにより、プラズマで発生する熱エネルギーを一定に保つことができるから(この熱エネルギーが少ないと反応が進みにくく、多いと気泡が発生するためラジカルを有効に利用できない。)。
【0060】
また、導電率を調整する材料については、水に溶解するものであれば、特に限定はなく、例えば、水溶性の塩(カチオンとしてH、K、Na,NH、アニオンとしてCl、NO,SO,OH)などを用いることができる。特に、媒質Sが弱アルカリ性となるような試薬が好ましい。改質された表面修飾剤の末端基がカルボン酸となるため、媒質Sを弱アルカリ性にすることで、改質と同時にゼータ電位を大きくすることができ、分散性の良いスラリーが得られるからである。そのような試薬としては、例えばアンモニア、アルコールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。また、pHが低すぎる、もしくは、高すぎる場合は、水中のイオンがラジカル反応を阻害する。よって、具体的には、pHは3以上、11以下が好ましい。
【0061】
攪拌条件について:粉末は、ラジカル発生場所の近傍に供給する必要がある。ラジカル、熱、衝撃波の3種類のエネルギーを効率良く伝えるため、ラジカル発生部から0.5mm以上、20mm以内に粉末を供給することが好ましい。0.5mm未満の場合は熱エネルギーが強すぎるため、修飾剤が熱分解してしまう。20mmより大きい場合は、反応が生じない。
【0062】
粉末種類について:粉末の材料種類は限定されないが、官能基が付与させやすい酸化物が好ましい。具体的には、ZrO2、TiO2、Al2O3、CeO2、SiO2、Fe2O3、Nb2O5、Y2O3、NiOに代表される酸化物セラミックスや、BaTiO3、Pb(ZrxTi1-x)O3、LiCoO2に代表される複合酸化物が挙げられる。また、粒子径については、液中で分散できる大きさ以下であればよい。
【0063】
印加電圧としては、高周波、マイクロ波、等の任意のものが利用可能である。また、正電位側のみならず負電位側にもピークを持つ波形も利用可能である。ただし、出力が大きすぎると、粉末の表面を修飾している有機成分が分解する傾向にあり、小さいとプラズマが発生しない傾向にあるため、10W〜500Wの範囲が好ましい。
【0064】
図5は、本発明の製造方法を実施するための装置の他の一例の要部構成を示す概略図である。図5に示されているように、製造装置1は、さらに、媒質循環機5を備えていてもよい。この媒質循環機5は、媒質循環路5aと、流動ポンプ5bと、湿式解砕機5cと、を備えている。
【0065】
媒質循環路5aにおける入口5a1は、貯留槽2の底部にて開口するように設けられている。また、媒質循環路5aにおける出口5a2は、貯留槽2の上部にて開口するように設けられている。すなわち、媒質循環路5aは、貯留槽2の底部から媒質Sを導出するとともに、導出された当該媒質Sを貯留槽2の上部に還流させるように設けられている。
【0066】
流動ポンプ5bは、媒質循環路5aにおける入口5a1から出口5a2に向けて媒質Sを送出するように、媒質循環路5aに介装されている。湿式解砕/粉砕機5cは、媒質循環路5aに介装されていて、媒質S中のセラミックス粉末凝集体を解砕/粉砕するようになっている。
【0067】
かかる構成の製造装置1においては、流動ポンプ5bの動作によって、貯留槽2内にて媒質Sが流動する(よって、図5に示されている構成においては、攪拌機3は省略され得る。)。このとき、湿式解砕/粉砕機5cにて、媒質S中のセラミックス粉末凝集体が解砕/粉砕される。
【0068】
本変形例の、流通式の装置構成によれば、解砕と改質とを同時かつ連続的に処理することが可能となる。
【0069】
図6は、本発明の製造方法を実施するための装置のさらに他の一例の要部構成を示す概略図である。図6に示されているように、液中プラズマ発生装置4は、媒質循環路5aに介装されていてもよい。すなわち、かかる変形例においては、液中プラズマ発生槽4dが、媒質循環路5aに介装されている。この液中プラズマ発生槽4dには、電極4aを保持した一対の電極ホルダ4bが装着されている。
【0070】
本変形例の構成においても、上述の変形例(図5参照)と同様に、解砕と改質とを同時かつ連続的に処理することが可能となる。さらに、本変形例の構成によれば、媒質循環機5の動作によって媒質循環路5aを通過する媒質S中のほとんどの粒子に対して、改質処理を均一かつ良好に施すことが可能になる。
【0071】
液中プラズマの発生条件によって、生成ラジカル種の種類や量を制御することが可能である(例えば、以下の文献参照)。
・齋藤 永宏, 稗田 純子, C. Miron, 高井 治、「ソリューションプラズマ材料プロセッシング」、表面技術、社団法人表面技術協会、第58巻(2007年)第12号、p.810−814)
・高井 治、「ソリューションプラズマ反応場の自律制御化とナノ合成・加工への応用」、[online]、独立行政法人科学技術振興機構 研究成果 「ナノ科学を基盤とした革新的製造技術の創成」 平成19年度実績報告、インターネット<URL:http://www.nmt.jst.go.jp/publications/publications.html>
【0072】
したがって、液中プラズマの発生条件を適宜制御することで、上述の実施形態(実施例)とは逆に、表面修飾剤の親水性末端基とHラジカル(H・)等との反応によって、疎水性分散媒に対する分散性が良好なセラミックス粉末が得られる。
【0073】
本発明は、予めコーティングあるいはカップリング処理された原料セラミックス粉末に対しても、好適に適用することができる。一般的な分散剤が吸着した粉末に対しても適用することはできるが、吸着力が弱いため、分散剤と溶媒との相性が良好になると分散剤が脱離することで分散性を損なうことがある。
【0074】
本発明で用いられる原料セラミックス粉末は、媒質に投入される際に、粉末状でもスラリー状でも構わない。後者の場合、セラミックス粉末が分散した状態で媒質に投入されるため、改質がより均一に行われる。この場合の分散方法としては、ビーズを用いた湿式粉砕、ジェットミルや超音波を用いたホモジナイザー、等の、一般的な湿式法を用いることができる。このスラリーを得るための分散媒は、改質時の媒質と同一であっても異なっていてもよく、使用する粉末と相性の良いものを適宜用いることができる。
【0075】
また、改質後の分散液は、そのままでもよいし、乾燥により粉末化されてもよいし、濃縮等によりペースト化されてもよい。
【0076】
その他、特段に言及されていない変形例についても、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、本発明の範囲内に含まれることは当然である。また、本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用・機能的に表現されている要素は、上述の実施形態や変形例にて開示されている具体的構造の他、当該作用・機能を実現可能ないかなる構造をも含む。さらに、本明細書にて引用した先行出願や公報の開示内容(明細書及び図面を含む)は、本明細書の一部を構成するものとして援用され得る。
【符号の説明】
【0077】
1…製造装置 2…貯留槽 3…攪拌機
4…液中プラズマ発生装置
4a…電極 4b…電極ホルダ 4c…電源
4d…液中プラズマ発生槽
5…媒質循環機
5a…媒質循環路 5a1…入口 5a2…出口
5b…流動ポンプ 5c…湿式解砕機
S…媒質
【先行技術文献】
【特許文献】
【0078】
【特許文献1】特開2001−30227号公報
【特許文献2】特開2001−106578号公報
【特許文献3】特開2001−130968号公報
【特許文献4】特開2008−13810号公報
【特許文献5】特許第3925932号公報
【非特許文献】
【0079】
【非特許文献1】齋藤 永宏, 稗田 純子, C. Miron, 高井 治、「ソリューションプラズマ材料プロセッシング」、表面技術、社団法人表面技術協会、第58巻(2007年)第12号、p.810−814
【非特許文献2】高井 治、「ソリューションプラズマ反応場の自律制御化とナノ合成・加工への応用」、[online]、独立行政法人科学技術振興機構 研究成果 「ナノ科学を基盤とした革新的製造技術の創成」 平成19年度実績報告、インターネット<URL:http://www.nmt.jst.go.jp/publications/publications.html>

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散性の向上したセラミックス粉末の製造方法であって、
ラジカル種を生成可能な液体状の媒質中に、表面修飾剤によって予め修飾された原料セラミックス粉末を投入し、
前記原料セラミックス粉末が投入された前記媒質を流動させた状態で、当該媒質中にて前記ラジカル種を生成する
ことを特徴とする、分散性の向上したセラミックス粉末の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の、分散性の向上したセラミックス粉末の製造方法であって、
前記原料セラミックス粉末をあらかじめスラリー状にしてから前記媒質中に投入することを特徴とする、
分散性の向上したセラミックス粉末の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の、分散性の向上したセラミックス粉末の製造方法であって、
前記媒質中に浸漬された一対の電極間に電圧を印加して当該媒質中にてプラズマを発生させることで、当該媒質中にて前記ラジカル種を生成させ、
原料セラミックス粉末をプラズマ発生部から0.5mm以上、20mm以内に供給することを特徴とする、
分散性の向上したセラミックス粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1項に記載の、分散性の向上したセラミックス粉末の製造方法であって、
前記媒質は水溶液であることを特徴とする、分散性の向上したセラミックス粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の、分散性の向上したセラミックス粉末の製造方法であって、
前記ラジカル種はOH・及び/又はH・であることを特徴とする、分散性の向上したセラミックス粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1項に記載の、分散性の向上したセラミックス粉末の製造方法であって、
前記原料セラミックス粉末は、前記表面修飾剤としての分散剤を粒子表面に付着させたものであることを特徴とする、分散性の向上したセラミックス粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のうちのいずれか1項に記載の、分散性の向上したセラミックス粉末の製造方法であって、
前記原料セラミックス粉末が投入された前記媒質を流動させた状態で、当該媒質中にて前記ラジカル種を生成することで、前記セラミックス粉末が所定の分散媒に分散するように前記表面修飾剤の末端基を改質することを特徴とする、分散性の向上したセラミックス粉末の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の、分散性の向上したセラミックス粉末の製造方法であって、
前記分散媒は水系であることを特徴とする、分散性の向上したセラミックス粉末の製造方法。
【請求項9】
セラミックス粉末の分散液の製造方法であって、
ラジカル種を生成可能な液体状の媒質中に、表面修飾剤によって予め修飾された原料セラミックス粉末を投入し、
前記原料セラミックス粉末が投入された前記媒質を流動させた状態で、当該媒質中にて前記ラジカル種を生成することで、所定の分散媒に分散するように前記表面修飾剤の末端基が改質された改質後セラミックス粉末を得て、
得られた前記改質後セラミックス粉末を前記分散媒中に分散させることを特徴とする、
セラミックス粉末の分散液の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の、セラミックス粉末の分散液の製造方法であって、
前記原料セラミックス粉末をあらかじめスラリー状にしてから前記媒質中に投入することを特徴とする、
セラミックス粉末の分散液の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の、セラミックス粉末の分散液の製造方法であって、
前記媒質中に浸漬された一対の電極間に電圧を印加して当該媒質中にてプラズマを発生させることで、当該媒質中にて前記ラジカル種を生成させ、
原料セラミックス粉末をプラズマ発生部から0.5mm以上、20mm以内に供給することを特徴とする、
セラミックス粉末の分散液の製造方法。
【請求項12】
請求項9ないし請求項11のうちのいずれか1項に記載の、セラミックス粉末の分散液の製造方法であって、
前記媒質は水溶液であることを特徴とする、セラミックス粉末の分散液の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の、セラミックス粉末の分散液の製造方法であって、
前記ラジカル種はOH・及び/又はH・であることを特徴とする、セラミックス粉末の分散液の製造方法。
【請求項14】
請求項9ないし請求項13のうちのいずれか1項に記載の、セラミックス粉末の分散液の製造方法であって、
前記原料セラミックス粉末は、前記表面修飾剤としての分散剤を粒子表面に付着させたものであることを特徴とする、セラミックス粉末の分散液の製造方法。
【請求項15】
請求項9ないし請求項14のうちのいずれか1項に記載の、セラミックス粉末の分散液の製造方法であって、
前記原料セラミックス粉末が投入された前記媒質を流動させた状態で、当該媒質中にて前記ラジカル種を生成することで、前記セラミックス粉末が所定の分散媒に分散するように前記表面修飾剤の末端基を改質することを特徴とする、セラミックス粉末の分散液の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−222191(P2010−222191A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71835(P2009−71835)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】